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特許7422631食品用乳化剤、食品、および食品の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】食品用乳化剤、食品、および食品の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/10 20160101AFI20240119BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20240119BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20240119BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20240119BHJP
   A23L 27/60 20160101ALN20240119BHJP
【FI】
A23L29/10
A23L29/244
A23L29/238
C09K23/52
A23L27/60 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020148089
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042623
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】506009453
【氏名又は名称】オルガノフードテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長崎 洋
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110946172(CN,A)
【文献】特表2016-537018(JP,A)
【文献】国際公開第2011/047787(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110679915(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108902356(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 21/00-21/25
A23L 27/00-27/40
A23L 27/60
A23L 29/20-29/30
A23L 33/00-33/29
C09K 23/00-23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマシードガムとグルコマンナンとからなり、
前記グルコマンナンの含有量は、前記アマシードガム100質量%に対して、1質量%~10000質量%の範囲であることを特徴とする食品用乳化剤。
【請求項2】
アマシードガムとグルコマンナンとからなる食品用乳化剤を含み、
前記グルコマンナンの含有量は、前記アマシードガム100質量%に対して、1質量%~10000質量%の範囲であることを特徴とする食品。
【請求項3】
アマシードガムとグルコマンナンとからなる食品用乳化剤を用い、
前記グルコマンナンの含有量は、前記アマシードガム100質量%に対して、1質量%~10000質量%の範囲であることを特徴とする食品の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用乳化剤、その食品用乳化剤を含む食品、および食品の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に油を分散させたり、気泡を加えることがよく行われている。ドレッシングのように乳化させた油を分散させたり、ケーキやアイスクリームのように食感を変化させるために油や気泡を加える。油や気泡は、水中に一定以上馴染まないことが一般的であり、食品工業では乳化効果があるタンパク質、加工澱粉、乳化剤等を用いることが多い(特許文献1,2参照)。
【0003】
タンパク質は、アレルギー表示の必要性等があって使用の制限がある場合がある。加工澱粉は、食品に添加するとボディー感があり、好ましい場合もあるが、この食感が求められない場合もある。乳化剤は、消費者から敬遠される場合がある。乳化剤の中にはアラビアガムやペクチンのように乳化効果を持つものが存在するが、食品に添加しても粘度が低く、乳化したものを経時的に安定させるために他の乳化剤等の安定剤を併用する必要がある。また、アラビアガムは、原料供給が逼迫することがあり、ペクチンも、シトラス、オレンジ、リンゴ等の果実由来のため、収量が環境の影響を受けることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-222561号公報
【文献】特許第3504785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好な乳化効果を有し、経時的に安定な乳化物を得ることができる食品用乳化剤、その食品用乳化剤を含む食品、および食品の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アマシードガムとグルコマンナンとからなり、前記グルコマンナンの含有量は、前記アマシードガム100質量%に対して、1質量%~10000質量%の範囲である、食品用乳化剤である。
【0008】
本発明は、アマシードガムとグルコマンナンとからなる食品用乳化剤を含み、前記グルコマンナンの含有量は、前記アマシードガム100質量%に対して、1質量%~10000質量%の範囲である、食品である。
【0010】
本発明は、アマシードガムとグルコマンナンとからなる食品用乳化剤を用い、
前記グルコマンナンの含有量は、前記アマシードガム100質量%に対して、1質量%~10000質量%の範囲である、食品の作製方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、良好な乳化効果を有し、経時的に安定な乳化物を得ることができる食品用乳化剤、その食品用乳化剤を含む食品、および食品の作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<食品用乳化剤>
本実施形態に係る食品用乳化剤は、アマシードガムを含有する食品用乳化剤である。また、本実施形態に係る食品用乳化剤は、アマシードガムと、グルコマンナンおよびローカストビーンガムのうち少なくとも1つと、を含有する食品用乳化剤である。
【0015】
本発明者らは、陸生植物由来であるアマシードガムを用いて検討した結果、アマシードガムは単独でも油分を食品に略均質に分散させる乳化効果が高いことを見出した。また、アマシードガムと、グルコマンナンおよびローカストビーンガムのうち少なくとも1つとを併用することによって、さらに経時的に安定な乳化物を得ることができることを見出した。本実施形態に係る食品用乳化剤は、良好な乳化効果を有し、本実施形態に係る食品用乳化剤を用いることによって経時的に安定な乳化物を得ることができる。また、本実施形態に係る食品用乳化剤を用いることによって、加工澱粉を用いる場合に比べて好ましい食感の食品が得られる。アマシードガムは、アラビアガムやペクチンと供給源が異なるため、アラビアガムやペクチンが不作等であっても影響を受けないことがある。また、アマシードガム、グルコマンナン、ローカストビーンガムは、アレルギー表示の必要性もない。
【0016】
アマシードガムは、アマ科アマ(Linum usitatissimum LINNE)の種子から得られたものであり、多糖類を主成分とするものである。アマシードガムとしては、一般に入手可能なものを制限なく使用することができる。
【0017】
グルコマンナンは、コンニャクイモの塊茎に存在する多糖類である。例えば、コンニャクイモを水洗後、スライスして乾燥して粉砕し、さらに澱粉質等の不純物を分離したものがコンニャク精粉と呼ばれる。このコンニャク精粉にはグルコマンナンが約75~85質量%程度含まれている。グルコマンナンは、グルコース(単糖の一種)とマンノース(単糖の一種)が、およそ2:3の割合で多数結合した食物繊維である。グルコマンナンとしては、一般に入手可能なものを制限なく使用することができる。
【0018】
ローカストビーンガムは、マンノースとガラクトースとを4:1のモル比で含有するガラクトマンナンであり、カロブビーンガムとも称される。ローカストビーンガムは、例えば、マメ科イナゴマメ(Ceratonia siliqua L.)の種子の胚乳部分を分離および精製することにより得られる。ローカストビーンガムとしては、一般に入手可能なものを制限なく使用することができる。
【0019】
本実施形態に係る食品用乳化剤において、グルコマンナンおよびローカストビーンガムのうち少なくとも1つを含む場合、グルコマンナンおよびローカストビーンガムのうち少なくとも1つの含有量は、例えば、アマシードガム100質量%に対して、1質量%~10000質量%の範囲であり、好ましくは10質量%~2000質量%の範囲である。グルコマンナンおよびローカストビーンガムのうち少なくとも1つの含有量がアマシードガム100質量%に対して1質量%未満であると、アマシードガム単品と顕著な乳化力の差が見られない場合があり、10000質量%を超えると、乳化安定化力が低下する場合がある。グルコマンナンおよびローカストビーンガムを併用する場合は、配合比は質量でグルコマンナン1に対してローカストビーンガムが0.01~100の範囲であり、好ましくは0.1~10の範囲である。
【0020】
本実施形態に係る食品用乳化剤は、アマシードガム、グルコマンナン、ローカストビーンガムの他に、澱粉、加工澱粉、寒天、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、タラガム、グァーガム、こんにゃく粉(芋)、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸塩類、アルギン酸エステル、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カラヤガム、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、大豆水溶性多糖類、メチルセルロ-ス、ウェランガム、カシアガム、アグロバクテリウムスクシノグリカン、グァーガム酵素分解物、ファーセレラン、および発酵セルロース等の他の成分を含んでもよい。
【0021】
他の成分の含有量は、例えば、アマシードガム100質量%に対して1質量%~2000質量%の範囲であり、好ましくは10質量%~500質量%の範囲である。
【0022】
本実施形態に係る食品用乳化剤は、粉末の形態であってもよいし、粒状に造粒した顆粒の形態であってもよい。
【0023】
<食品>
本実施形態に係る食品は、上記食品用乳化剤を含む食品であり、アマシードガムを含有する食品用乳化剤を含む食品である。また、本実施形態に係る食品は、アマシードガムと、グルコマンナンおよびローカストビーンガムのうち少なくとも1つと、を含有する食品用乳化剤を含む食品である。
【0024】
食品としては、例えば、ドレッシング、タレ、冷菓、菓子、スープ、惣菜、調味料、クリーム類、乳製品、高齢者食等に好適に適用することができる。本実施形態に係る食品用乳化剤を食品に添加することにより、経時的に安定な乳化物を得ることができる。
【0025】
本実施形態に係る食品用乳化剤の食品中の添加量は、食品全体の質量に対して、例えば、0.1質量%~10質量%の範囲であり、好ましくは0.2質量%~2質量%の範囲である。食品用乳化剤の食品中の添加量が、食品全体の質量に対して0.1質量%未満であると、経時的に安定な乳化物を得ることができない場合があり、10質量%を超えると、粘度が高く乳化させることができない場合がある。
【0026】
本実施形態に係る食品は、上記食品用乳化剤の他に、一般的に食品に用いられる食品素材、食品添加物等を含んでもよい。
【0027】
<食品の作製方法>
本実施形態に係る食品の作製方法は、アマシードガムを含有する食品用乳化剤を用いる方法である。また、本実施形態に係る食品の作製方法は、アマシードガムと、グルコマンナンおよびローカストビーンガムのうち少なくとも1つと、を含有する食品用乳化剤を用いる方法である。
【0028】
ドレッシングは、例えば、上記食品用乳化剤を用いて、一般的に食品工業で用いられるミキサー等の撹拌機や乳化機等、または家庭での調理に用いられるミキサー等の撹拌機にて水と油を乳化する方法により作製すればよい。また、クリームは、例えば、上記食品用乳化剤を用いて、一般的に食品工業で用いられるミキサー、ホイッパー等の撹拌機等、または家庭での調理に用いられるホイッパー等で空気を混ぜ込む方法により作製すればよい。
【0029】
本実施形態に係る食品用乳化剤を食品に添加することにより、経時的に安定な乳化物を得ることができる。
【0030】
本実施形態に係る食品用乳化剤を用いることによって、乳化後に40℃で2週間経過した後の乳化層の割合を、例えば、70%以上に、好ましくは50%以上にすることができる。
【実施例
【0031】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
<実施例3参考例1,2、比較例1~3>
[油10%含有組成]
表1に示す配合比(質量%)で、室温(27±3℃)で食品用乳化剤と砂糖を混合して水に加えた。混合物を湯煎で80℃まで加熱した。80℃に到達後、ミキサーで撹拌しながらサラダ油を徐々に加えた。11000rpmで1分間撹拌した後、流水で30℃まで冷却した。これを外径60mm高さ115mmのトールビーカーに加えラップ密封した後、40℃で2週間保存し、2週間経過後の乳化層の割合を定規で高さを測定して体積比率を算出した。また、2週間経過後の乳化物の性状を目視により確認した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例3では、比較例1~3に比べて2週間経過後の乳化層の割合が高く、経時的に安定な乳化物を得ることができた。また、実施例3では、アマシードガムとグルコマンナンとを併用することによって、2週間経過後もゲル状であり、経時的により安定な乳化物を得ることができた。
【0035】
<実施例5,、参考例4,6
[油50%含有組成]
表2に示す配合比(質量%)で、室温(27±3℃)で食品用乳化剤と砂糖を混合して水に加えた。混合物を湯煎で80℃まで加熱した。80℃に到達後、ミキサーで撹拌しながらサラダ油を徐々に加えた。11000rpmで1分間撹拌した後、流水で30℃まで冷却した。40℃で2週間保存し、2週間経過後の乳化層の割合を測定した。また、2週間経過後の乳化物の性状を目視により確認した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
実施例5,7では、経時的に安定な乳化物を得ることができた。また、実施例7では、2週間経過後もゲル状であり、実施例5、参考例4に比べて経時的により安定な乳化物を得ることができた。
【0038】
<実施例9、参考例8
[ドレッシング組成(油50%、酸性、食塩含有)]
表3に示す配合比(質量%)で、室温(27±3℃)で食品用乳化剤と食塩を混合して水に加えた。混合物を湯煎で80℃まで加熱した。80℃に到達後、食酢を加え、ミキサーで撹拌しながらサラダ油を徐々に加えた。11000rpmで1分間撹拌した後、流水で30℃まで冷却した。40℃で2週間保存し、2週間経過後の乳化層の割合を測定した。また、2週間経過後の乳化物の性状を目視により確認した。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
実施例9では、経時的に安定な乳化物を得ることができた。
【0041】
以上のように、実施例の食品用乳化剤は、良好な乳化効果を有し、実施例の食品用乳化剤を用いることによって、経時的に安定な乳化物を得ることができた。