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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20240119BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240119BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240119BHJP
【FI】
C09J133/06
C09J11/06
C09J7/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020176264
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067522
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆佑
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-132752(JP,A)
【文献】特開2014-136753(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095878(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163287(WO,A1)
【文献】特開2018-177902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系共重合体と、
前記(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対する含有量が0.1~1質量部である金属キレート架橋剤と、
を含み、
前記(メタ)アクリル系共重合体は、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを由来とする構造単位を50~98.4質量%、
カルボキシ基含有モノマーを由来とする構造単位を1~6質量%、
水酸基含有モノマーを由来とする構造単位を0.1~5質量%、
および、窒素含有モノマーを由来とする構造単位0.5~7質量%を含む共重合体である、粘着剤組成物。
【請求項2】
前記窒素含有モノマーがアミン系モノマーである請求項1に記載された粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、粘着付与剤を1~40質量部含む、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、アルコール系溶媒を1~50質量部含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載された粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶剤型のアクリル系粘着剤として、主剤に架橋剤を別途添加する2液型のアクリル系粘着剤が知られている。この架橋剤として、イソシアネート系、エポキシ系等の反応性の高い化合物が用いられる。塗工直前に任意の量の架橋剤を主剤に添加、混合することで、塗液として調製される。また、架橋剤は主剤に添加された時点から主剤中のポリマーの官能基と架橋反応が進行することから、塗液の調製には、短時間で均一に混合するような技術が求められる。さらに、特にイソシアネート系の架橋剤においては、空気中の水分とも反応し、本来の架橋反応を阻害するため、高温多湿な環境での使用は、物性への悪影響が生じる。このようなことから、インド、東南アジア諸国のような、高温多湿な地域や、塗液調製技術が十分でない場合において、精密な塗液調製技術を要さない1液型の粘着剤が多く使用されている。
【0003】
1液型の粘着剤は、多くの場合、架橋剤として金属キレート化合物が予め配合されている。この金属キレート化合物は配位子により安定化されていることから、主剤と混合してもポリマーとの架橋反応は進みにくくなっている。塗膜形成時、塗液の溶剤を乾燥させる工程で金属キレート化合物の配位子も共に揮発されることで、主剤中のポリマーが有するカルボン酸と配位結合を生じ、架橋構造が形成される。しかし、ポリマーが有するカルボン酸と金属キレート化合物との架橋は、2液型の粘着剤に比べると耐熱性が十分ではない。
【0004】
ここで、従来、耐熱性を付与するために、ポリマーの組成においてアクリル酸のようなガラス転移点(Tg)が比較的高いカルボキシ基含有モノマーをより多く共重合させる方法が採用されている。
【0005】
特許文献1には、高温環境下での曲面密着性、定荷重剥離性等の粘着物性に優れ、長期ポットライフを有する1液硬化型として使用できる粘着剤組成物およびそれを用いてなる粘着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-104804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の1液型の粘着剤では、ポリマー自体のTgが上がること、さらには当該モノマーのカルボン酸が架橋点となり架橋密度が過剰に高くなることで粘着剤層の柔軟性が失われ、タック(初期粘着力)が著しく低下し、汎用的な使用に向かないものとなっていた。
【0008】
本発明は上述のような課題を鑑みたものであり、粘着力、タックが良好であり、かつ、耐熱性に優れた粘着剤組成物および粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、粘着剤組成物である。当該粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系共重合体と、前記(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対する含有量が0.1~1質量部である金属キレート架橋剤と、を含み、前記(メタ)アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを由来とする構造単位を50~98.4質量%、カルボキシ基含有モノマーを由来とする構造単位を1~6質量%、水酸基含有モノマーを由来とする構造単位を0.1~5質量%、および、窒素含有モノマーを由来とする構造単位0.5~7質量%を含む共重合体である。
【0010】
本発明の他の態様は、粘着シートである。当該粘着シートは、上述の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粘着力、タックが良好であり、かつ、耐熱性に優れた粘着剤層および粘着シートに関する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。また、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロはアクリロ又はメタクリロを意味する。
【0013】
(粘着剤組成物)
実施形態に係る粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系共重合体と、金属キレート架橋剤とを含む。以下、実施形態に係る粘着剤組成物の組成について詳細に説明する。
【0014】
<(メタ)アクリル系共重合体>
実施形態に係る粘着剤組成物に用いられる(メタ)アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを由来とする構造単位、カルボキシ基含有モノマーを由来とする構造単位を、水酸基含有モノマーを由来とする構造単位、および、窒素含有モノマーを由来とする構造単位を含む共重合体である。
【0015】
(メタ)アクリル系共重合体)は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満であることが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体のTgは、たとえば、Foxの式により求めることができる。
【0016】
(メタ)アクリル系共重合体のTgは、0℃未満が好ましく、より好ましくは-80~-10℃、さらに好ましくは-70~-30℃である。Tgが前記範囲内にあると、粘着剤層の被着体に対する密着性の観点から好ましい。また、Tgが前記下限値以上であると、粘着剤層の凝集力が優れ、耐久性向上の観点から好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル系共重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量(Mw)が、ポリスチレン換算値で、好ましくは20万~100万、より好ましくは25万~80万、さらに好ましくは30万~70万である。Mwが前記範囲内にあると、粘着剤組成物より得られる粘着剤層に十分な凝集力が付与されるため、高温条件下や高温かつ高湿条件下における耐久性向上の観点から好
ましい。
【0018】
また、(メタ)アクリル系共重合体(A)は、GPC法により測定される分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは2.0~15.0、より好ましくは3.0~13.0、さらに好ましくは4.0~11.0である。Mw/Mnが前記範囲内にあると、耐久性に優れた粘着剤層が得られる点で好ましい。
【0019】
<<(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー>>
(メタ)アクリル系共重合体の形成に用いられる(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。ただし、ここでいう(メタ)アクリル酸エステルモノマーから、水酸基含有(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートおよび窒素含有(メタ)アクリレートが除かれる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーは1種単独で、または2種以上を使用することができる。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを由来とする構造単位の含有割合は、(メタ)アクリル系共重合体全体に対して50~98.4質量%であり、70~95質量%が好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを由来とする構造単位の含有割合を上記範囲とすることにより、粘着力、タックおよび耐熱性間のバランスを取ることができる。
【0021】
<<カルボキシ基含有モノマー>>
(メタ)アクリル系共重合体の形成に用いられるカルボキシ基含有モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸5-カルボキシペンチル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸が挙げられる。酸無水物基含有モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、側鎖にリン酸基を有する(メタ)アクリル系モノマーが挙げられ、硫酸基含有モノマーとしては、側鎖に硫酸基を有する(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
【0022】
カルボキシ基含有モノマーを由来とする構造単位の含有割合は、(メタ)アクリル系共重合体全体に対して1~6質量%であり、2~4質量%が好ましい。カルボキシ基含有モノマーを由来とする構造単位の含有割合を上記範囲とすることにより、粘着力、タックおよび耐熱性間のバランスを取ることができる。
【0023】
<<水酸基含有モノマー>>
(メタ)アクリル系共重合体の形成に用いられる水酸基含有モノマーとしては、たとえば、水酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロシキブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートでのアルキル基の炭素数は、通常2~8、好ましくは2~6である。
【0024】
水酸基含有モノマーを由来とする構造単位の含有割合は、(メタ)アクリル系共重合体全体に対して0.1~5質量%であり、0.5~2質量%が好ましい。水酸基含有モノマーを由来とする構造単位の含有割合を上記範囲とすることにより、粘着力、タックおよび耐熱性間のバランスを取ることができる。
【0025】
<<窒素含有モノマー>>
(メタ)アクリル系共重合体の形成に用いられる窒素含有モノマーとしては、アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどのアミド系モノマー、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミン系モノマーが挙げられ、アミン系モノマーが好ましく用いられる。
【0026】
窒素含有モノマーを由来とする構造単位の含有割合は、(メタ)アクリル系共重合体全体に対して0.5~7質量%であり、1~5質量%が好ましい。窒素含有モノマーを由来とする構造単位の含有割合を上記範囲とすることにより、カルボン酸同士による高凝集化を緩和させ、塗膜に柔軟性を与え、低極性被着体への粘着力とタックを得ることができる。
【0027】
<<他のモノマー>>
(メタ)アクリル系共重合体は、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシ基含有モノマー、水酸基含有モノマーおよび窒素含有モノマー以外の他のモノマーに由来する構造単位を有してもよい。他のモノマーとしては、たとえば、脂環式炭化水素基または芳香族炭化水素基含有(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー、酢酸ビニルが挙げられる。
脂環式炭化水素基または芳香族炭化水素基含有(メタ)アクリレートとしては、たとえば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、たとえば、メトキシメチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-エトキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、たとえば、メトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
スチレン系モノマーとしては、たとえば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレン、オクチルスチレン等のアルキルスチレン;フロロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン等のハロゲン化スチレン;ニトロスチレン、アセチルスチレン、メトキシスチレン等の官能基化スチレンが挙げられる。
【0028】
他のモノマーを由来とする構造単位の含有割合は(メタ)アクリル系共重合体全体に対して、48.4質量%以下であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0029】
<(メタ)アクリル系共重合体の製造方法>
(メタ)アクリル系共重合体は、公知の方法により製造することができるが、溶液重合により製造することが好ましい。具体的には反応容器内にモノマー成分および重合溶媒を仕込み、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で、重合開始剤を添加し、反応温度50~90℃程度に加熱し、4~20時間反応させる。また、重合反応中に、重合開始剤、連鎖移動剤、モノマー成分、重合溶媒を適宜追加添加してもよい。
【0030】
重合開始剤としては、たとえば、通常の有機系重合開始剤が挙げられ、具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。これらの中でも、過酸化物が好ましい。
【0031】
過酸化物としては、たとえば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、カプロイルパーオキシド、ジ-i-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシビバレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-アミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-α-クミルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルパーオキシシクロヘキシル)ブタンが挙げられる。
【0032】
アゾ化合物としては、たとえば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド〕、2,2’-アゾビス(イソブチルアミド)ジヒドレート、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス(2-シアノプロパノール)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]が挙げられる。重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0033】
重合開始剤の使用量は、モノマー成分100質量部に対して、通常は0.01~5質量部である。このような態様であると、(メタ)アクリル系共重合体のMwを適切な範囲内に調整することができる。
【0034】
溶液重合において、重合溶媒として、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、フェニルエチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル;クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシドが挙げられる。重合溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0035】
<金属キレート架橋剤>
実施形態に係る粘着剤組成物に用いられる金属キレート架橋剤として、たとえば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属に、アルコキシド、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル等が配位した化合物が挙げられる。具体的には、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネートが挙げられる。
【0036】
実施形態に係る粘着剤組成物における金属キレート架橋剤の含有量は、上述の(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して0.1~1質量部であり、0.2~0.5質量部が好ましい。金属キレート架橋剤の含有量を上記範囲とすることにより、粘着力、タックおよび耐熱性間のバランスを取ることができる。
【0037】
<アルコール系溶媒>
実施形態に係る粘着剤組成物は、さらにアルコール系溶媒を含んでもよい。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられる。
【0038】
粘着剤組成物におけるアルコール系溶媒の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。アルコール系溶媒の含有量を上記範囲とすることにより、金属キレートが安定化し、貯蔵安定性が良化する。
【0039】
<粘着付与剤>
実施形態に係る粘着剤組成物は、さらに粘着付与剤を含んでもよい。粘着剤組成物に粘着付与剤を含ませることにより、たとえば、一般にアクリル系粘着剤にとっての難接着被着体である、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系被着体に対しても良好な接着性(粘着性)を発揮することができる。
【0040】
粘着付与樹脂としては、ロジンエステル樹脂を用いることが好ましく、特に重合ロジンエステル樹脂を併用してもよい。粘着付与樹脂として、たとえば、テルペン系粘着付与樹脂又は炭化水素系石油樹脂を用いてもよい。粘着付与樹脂は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
粘着剤組成物における粘着付与剤の合計含有量は、粘着力付与の観点から、(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対して、1~40質量部が好ましく、5~30質量部がより好ましい。
【0042】
<その他の成分>
実施形態に係る粘着剤組成物は、その他の成分として、金属キレート架橋剤以外の架橋剤、シランカップリング剤、重合禁止剤、帯電防止剤、アルコール系溶媒以外の有機溶媒、酸化防止剤、光安定剤、金属腐蝕防止剤、可塑剤、架橋促進剤、ナノ粒子などをさらに含有していてもよい。
【0043】
実施形態に係る粘着剤組成物は、カルボキシ基含有モノマーに由来する構造単位、水酸基含有モノマーに由来する構造単位、および窒素含有モノマーに由来する構造単位を所定量含むアクリル系共重合体を用いることで、粘着力、タック、および耐熱性に優れた1液型の粘着剤を得ることができる。具体的には、アクリル系共重合体の組成にヒドロキシ基含有モノマーに由来する構造単位が所定量含まれることで、ポリマー鎖間でアルキルエステルのエステル交換反応が生じ、金属キレート化合物による架橋とは別の架橋構造が形成され、耐熱性の向上に寄与する。通常、このエステル交換反応による架橋構造の形成は進行しにくいが、カルボキシ基含有モノマーに由来する構造単位が所定量存在することで当該反応が促進されると考えられる。また、窒素含有モノマーに由来する構造単位を所定量含むことで、粘着剤層の柔軟性を維持し、粘着力、タックの低下が抑制される。
【0044】
(粘着シート)
実施形態に係る粘着シートは、上述した粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する。具体的には、実施形態に係る粘着シートは、剥離処理されたカバーフィルム(以下で、セパレータ、とも称する)上に形成された粘着剤層のみを有する両面粘着シート、基材と、基材の両面に形成された上記粘着剤層とを有する両面粘着シート(この場合、基材を芯材とも称する)、基材と、基材の一方の面に形成された上記粘着剤層を有する片面粘着シート、及びそれら粘着シートの粘着剤層の基材と接していない面に剥離処理されたカバーフィルムが貼付された粘着シートを含む。
【0045】
基材としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルム、織布及び不織布が挙げられる。また、プラスチックフィルム、織布及び不織布として、各種添加剤を配合したものや複数の層が積層されたものなどを用いることができる。
【0046】
カバーフィルムとしては、たとえば、任意で表面に剥離処理がされたポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルフィルム、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルムが挙げられる。また、プラスチックフィルムとして、各種添加剤を配合したものや複数の層が積層されたものなどを用いることができる。
【0047】
粘着剤組成物の塗布方法としては、公知の方法、たとえばスピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法により、所定の厚さになるように塗布・乾燥する方法を用いることができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
((メタ)アクリル系共重合体の合成)
撹拌機、還流冷却器、温度計および窒素導入管を備えた反応装置に、表1および表2に示す配合割合にて各モノマー成分及び重合溶媒を仕込み、窒素ガスを導入しながら80℃に昇温した。次いで、tert-ブチルパーオキシピバレート0.1部を加え、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間重合反応を行った。反応終了後、酢酸エチル又はイソプロピルアルコールにて希釈し固形分濃度50質量%のポリマー溶液を調製した。
【0051】
[Tg測定]
得られた(メタ)アクリル系共重合体のTgを、Foxの式により求めた。
【0052】
[分子量測定]
得られた(メタ)アクリル系共重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、下記条件で、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を求めた。
・測定装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
・GPCカラム構成:以下の5連カラム(すべて東ソー株式会社製)
(1)TSKgel HxL-H(ガードカラム)
(2)TSKgel G7000HxL
(3)TSKgel GMHxL
(4)TSKgel GMHxL
(5)TSKgel G2500HxL
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・サンプル濃度:1.5%(w/v)(テトラヒドロフランで希釈)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・標準ポリスチレン換算
【0053】
(メタ)アクリル系共重合体の上記特性の測定結果を表1、2に示す。
【0054】
(粘着シートの作製)
表1に示す成分および配合量にて、実施例1~21および比較例1~6の粘着剤組成物をそれぞれ作製した。具体的には、剥離処理されたPETフィルム上に得られた粘着剤組成物を所定量塗布し、90℃で3分間乾燥させ、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。その後、厚さ25μmのPETフィルム基材に貼り合わせ、40℃で3日間熟成させて実施例1~21および比較例1~6の粘着シートを作製した。
【0055】
(保持力試験)
作製した粘着シートを20mm幅に裁断し、貼付面積20mm×20mmとなるようにステンレス板に貼着して、所定の環境下(40℃または80℃)環境下で20分静置した後、同一環境下で粘着シートの貼付面の剪断方向に1kgの荷重をかけ、荷重付加開始から1時間後の試験片のずれた距離または粘着シートが落下するまでの時間を測定した。粘着シートとして汎用的に使用する上で、ずれた距離は2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましい。
【0056】
(粘着力試験)
作製した粘着シートを25mm幅に裁断し、所定の被着体に貼着して、23℃、50%RH環境下で20分静置した後、剥離角度180°、引張速度300mm/分で剥離した際の粘着力を測定した。粘着シートとして汎用的に使用する上で、ステンレス板(SUS)に対する粘着力は8.0N/25mm以上が好ましく、9.0N/25mm以上がより好ましく、10.0N/25mm以上がさらに好ましい。加えて、プロピレン板(PP)に対する粘着力は5.0N/25mm以上が好ましく、5.5N/25mm以上がより好ましく、6.0N/25mm以上がさらに好ましい。SUSおよびPPに対する粘着力が上記範囲にあることで、粘着テープとして十分な接着力を発揮でき、多様な被着体に対して汎用的な使用が可能となる。
【0057】
(ボールタック(初期粘着力))
作製した粘着シートの初期粘着力をJ.Dow法により測定した。具体的には、作製した粘着シートから剥離処理されたPETフィルムを剥がし、粘着剤層が露出するように傾斜角度30°の傾斜面に取り付けた。次に、23℃、50%RH環境下でスチールボールを傾斜面の上部から助走させた後に、粘着面(粘着剤層表面)上を滑走させた。この際の助走距離は10cm、滑走距離は10cmとした。スチールボールの径を変えて滑走テストを行い、粘着面で滑走を停止したスチールボールの最大径を求めた。なお、使用したスチールボールの径はX/32インチ(但し、Xは1~32の整数)であり、表1中に示す数値はXの値を示している。粘着シートとして汎用的に使用する上で、5以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
【0058】
【表1】
【表2】
表1および表2における略語は以下のとおりである。
BA:n-ブチルアクリレート
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
AA:アクリル酸
2-HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
NIPAM:N-イソプロピルアクリルアミド
DMAA:ジメチルアクリルアミド
DEAA:ジエチルアクリルアミド
DAAM:ジアセトンアクリルアミド
DM:ジメチルアミノエチルメタクリレート
EtAc:酢酸エチル
IPA:イソプロピルアルコール
M-5ADT:綜研化学社製、アルミニウムトリスアセチルアセトン
スーパーエステルA-100:荒川化学社製、ロジンエステル樹脂(軟化点100℃)
ペンセルD-135:荒川化学社製、ロジンエステル樹脂(軟化点135℃)
SUS:ステンレス板
PP:ポリプロピレン板
【0059】
表1および表2に示すように、比較例1の粘着シートでは、ポリプロピレンに対する粘着力が不十分(5.0N/25mm未満)であった。また、比較例2および比較例5の粘着シートでは、80℃での保持力が不十分(1時間経過前に落下)であり、比較例3の粘着シートでは、40℃、80℃での保持力がいずれも不十分(1時間経過前に落下)であった。また、比較例4の粘着シートでは、ボールタックが不十分(5未満)であり、比較例6の粘着シートでは、SUS、ポリプロピレンに対する粘着力がともに不十分(それぞれ、8.0N/25mm未満、5.0N/25mm未満)であった。これに対して、実施例1~21の粘着シートでは、いずれの評価結果も良好であり、高い耐熱性とタックを両立しつつ、各種被着体への粘着力に優れていることが確認された。