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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】電源システム、及び管理装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240119BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20240119BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240119BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240119BHJP
【FI】
H02J7/00 B
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
H02J7/10 L
H02J7/00 X
H01M10/48 P
H01M10/48 301
B60L3/00 S
H02J7/00 S
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020548063
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029350
(87)【国際公開番号】W WO2020066260
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018181657
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】迎 秀嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉長 正幸
(72)【発明者】
【氏名】崎山 善貴
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/027389(WO,A1)
【文献】特開2018-137058(JP,A)
【文献】特開2010-200574(JP,A)
【文献】特開2011-041422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/10
H01M 10/48
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両に搭載される電源システムであって、
複数のセルが接続された蓄電部と、
前記複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する、ゼロに設定可能であり、ゼロの場合は異常信号としても作用する電流制限値を決定し、決定した電流制限値を前記電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、
を備えることを特徴とする電源システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、及び前記電流測定部により測定される電流をもとに各セルのSOC(State Of Charge)を推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定することを特徴とする請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記複数のセルの内、ある測定単位の前記電圧測定部に異常が発生したとき、当該測定単位に含まれるセルの電圧を、他の正常な測定単位の前記電圧測定部により測定された電圧で置換することを特徴とする請求項2に記載の電源システム。
【請求項4】
電動車両に搭載される電源システムであって、
複数のセルが接続された蓄電部と、
前記複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を決定し、決定した電流制限値を前記電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、及び前記電流測定部により測定される電流をもとに各セルのSOC(State Of Charge)を推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定し、
前記複数のセルの内、ある測定単位の前記電圧測定部に異常が発生したとき、当該測定単位に含まれるセルの電圧を、他の正常な測定単位の前記電圧測定部により測定された電圧で置換し、
前記電圧測定部に異常が発生したとき、前記電流測定部により測定された電流の絶対値に正のオフセット値を加えることを特徴とする電源システム。
【請求項5】
電動車両に搭載される電源システムであって、
複数のセルが接続された蓄電部と、
前記複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を決定し、決定した電流制限値を前記電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、及び前記電流測定部により測定される電流をもとに各セルのSOC(State Of Charge)を推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定し、
前記複数のセルの内、ある測定単位の前記電圧測定部に異常が発生したとき、当該測定単位に含まれるセルの電圧を、他の正常な測定単位の前記電圧測定部により測定された電圧で置換し、
前記蓄電部の放電時に前記電圧測定部に異常が発生したとき、前記推定したSOCに1未満の正の係数を掛け、前記蓄電部の充電時に前記電圧測定部に異常が発生したとき、前記推定したSOCに1を超える正の係数を掛けることを特徴とする電源システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記電流測定部に異常が発生したとき、前記電圧測定部により測定された各セルの電圧をもとに各セルのSOCを推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定することを特徴とする請求項1に記載の電源システム。
【請求項7】
電動車両に搭載される電源システムであって、
複数のセルが接続された蓄電部と、
前記複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を決定し、決定した電流制限値を前記電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電流測定部に異常が発生したとき、前記電圧測定部により測定された各セルの電圧をもとに各セルのSOCを推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定し、
前記蓄電部の放電時に前記電流測定部に異常が発生したとき、前記電圧測定部により測定された電圧に負のオフセット値を加え、前記蓄電部の充電時に前記電流測定部に異常が発生したとき、前記電圧測定部により測定された電圧に正のオフセット値を加えることを特徴とする電源システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記複数のセルのSOCの使用範囲を狭めることを特徴とする請求項3から7のいずれか1項に記載の電源システム。
【請求項9】
車両用電源システムに含まれる管理装置であって、
前記車両用電源システムに含まれる蓄電部に含まれる複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する、ゼロに設定可能であり、ゼロの場合は異常信号としても作用する電流制限値を算出し、算出した電流制限値を、電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、
を備えることを特徴とする管理装置。
【請求項10】
車両用電源システムに含まれる管理装置であって、
前記車両用電源システムに含まれる蓄電部に含まれる複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を算出し、算出した電流制限値を、電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、及び前記電流測定部により測定される電流をもとに各セルのSOC(State Of Charge)を推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定し、
前記複数のセルの内、ある測定単位の前記電圧測定部に異常が発生したとき、当該測定単位に含まれるセルの電圧を、他の正常な測定単位の前記電圧測定部により測定された電圧で置換し、
前記電圧測定部に異常が発生したとき、前記電流測定部により測定された電流の絶対値に正のオフセット値を加えることを特徴とする管理装置。
【請求項11】
車両用電源システムに含まれる管理装置であって、
前記車両用電源システムに含まれる蓄電部に含まれる複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を算出し、算出した電流制限値を、電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、及び前記電流測定部により測定される電流をもとに各セルのSOC(State Of Charge)を推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定し、
前記複数のセルの内、ある測定単位の前記電圧測定部に異常が発生したとき、当該測定単位に含まれるセルの電圧を、他の正常な測定単位の前記電圧測定部により測定された電圧で置換し、
前記蓄電部の放電時に前記電圧測定部に異常が発生したとき、前記推定したSOCに1未満の正の係数を掛け、前記蓄電部の充電時に前記電圧測定部に異常が発生したとき、前記推定したSOCに1を超える正の係数を掛けることを特徴とする管理装置。
【請求項12】
車両用電源システムに含まれる管理装置であって、
前記車両用電源システムに含まれる蓄電部に含まれる複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、
前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、
前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を算出し、算出した電流制限値を、電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記電流測定部に異常が発生したとき、前記電圧測定部により測定された各セルの電圧をもとに各セルのSOCを推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定し、
前記蓄電部の放電時に前記電流測定部に異常が発生したとき、前記電圧測定部により測定された電圧に負のオフセット値を加え、前記蓄電部の充電時に前記電流測定部に異常が発生したとき、前記電圧測定部により測定された電圧に正のオフセット値を加えることを特徴とする管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に搭載される電源システム、及び管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)が普及してきている。これらの電動車両にはキーデバイスとして、二次電池を備える電源システムが搭載される。
【0003】
電源システムにおいて、過充電、過放電または過昇温が発生すると、電源システムと、走行用モータを駆動するインバータ間に設置されたコンタクタリレーをオープンする保護機能(以下、リレーカットという)が動作する。また過充電、過放電または過昇温を検出するための測定回路(例えば、電圧測定回路、電流測定回路または温度測定回路)に異常が発生した場合も、リレーカットが発動していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/132178号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド車(HV)またはプラグインハイブリッド車(PHV)では、リレーカットが発動してもエンジンによる走行が可能であるが、エンジンを搭載しない純粋な電気自動車(EV)では、リレーカットが発動すると走行が不可能になる。上記の保護機能が搭載された電気自動車(EV)では、電池自体に異常が発生していなくても、測定回路に異常が発生していれば、走行が不可能になり、自走でカーディーラや修理工場に車両を移動させることができなくなる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、電動車両の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電源システムは、電動車両に搭載される電源システムであって、複数のセルが接続された蓄電部と、前記複数のセルの各電圧を測定する電圧測定部と、前記複数のセルに流れる電流を測定する電流測定部と、前記複数のセルの温度を測定する温度測定部と、前記電圧測定部により測定される各セルの電圧、前記電流測定部により測定される電流、及び前記温度測定部により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を決定し、決定した電流制限値を前記電動車両内の上位の制御部に通知する制御部と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動車両の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る電源システムを搭載した電動車両を説明するための図である。
図2】比較例と実施例における、電源システムの異常発生時の代替ストラテジとフェールセーフアクションをまとめた図である。
図3】比較例に係る電源システムの保護機能を説明するためのフローチャートである。
図4】実施例に係る電源システムの保護機能を説明するためのフローチャートである。
図5図1に示した電源システム、車載ネットワーク及び車両ECUの冗長化構成の具体例を示すブロック図である。
図6】実施例における、電源システムの異常発生時の代替ストラテジとフェールセーフアクションをまとめた図である。
図7】電圧測定機能全体に異常が発生した場合に起因する代替ストラテジに移行後の、電源システムの保護機能を説明するためのフローチャートである。
図8】温度測定回路の異常時における代替ストラテジ2の具体例1を説明するための図である。
図9】温度測定回路の異常時における代替ストラテジ2の具体例2を説明するための図である。
図10】電流測定機能全体に異常が発生した場合に起因する代替ストラテジに移行後の、電源システムの保護機能を説明するためのフローチャートである。
図11図11(a)、(b)は、第1電流測定回路に異常が発生した場合の代替ストラテジを説明するための図である。
図12図12(a)、(b)は、第2電流測定回路に異常が発生した場合の代替ストラテジを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る電源システム10を搭載した電動車両1を説明するための図である。電動車両1は、外部に設置された充電器3から充電が可能なEVを想定する。
【0012】
電源システム10は、第1リレーRY1及びインバータ40を介してモータ50に接続される。インバータ40は力行時、電源システム10から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ50に供給する。回生時、モータ50から供給される交流電力を直流電力に変換して電源システム10に供給する。モータ50は三相交流モータであり、力行時、インバータ40から供給される交流電力に応じて回転する。回生時、減速による回転エネルギーを交流電力に変換してインバータ40に供給する。
【0013】
第1リレーRY1は、電源システム10とインバータ40を繋ぐ配線間に挿入されるコンタクタである。車両ECU(Electronic Control Unit)30は、走行時、第1リレーRY1をオン状態(閉状態)に制御し、電源システム10と電動車両1の動力系を電気的に接続する。車両ECU30は非走行時、原則として第1リレーRY1をオフ状態(開状態)に制御し、電源システム10と電動車両1の動力系を電気的に遮断する。なおリレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを用いてもよい。
【0014】
電源システム10は、電動車両1の外に設置された充電器3と充電ケーブル4で接続することにより商用電力系統2から充電することができる。充電器3は、家庭、カーディーラ、サービスエリア、商業施設、公共施設などに設置される。充電器3は商用電力系統2に接続され、充電ケーブル4を介して電動車両1内の電源システム10を充電する。電動車両1において、電源システム10と充電器3を繋ぐ配線間に第2リレーRY2が挿入される。なおリレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを用いてもよい。車両ECU30は充電開始前に、第2リレーRY2をオン状態(閉状態)に制御し、充電終了後にオフ状態(開状態)に制御する。
【0015】
一般的に、普通充電の場合は交流で、急速充電の場合は直流で充電される。交流で充電される場合、第2リレーRY2と電源システム10との間に挿入されるAC/DCコンバータ(不図示)により、交流電力が直流電力に変換される。
【0016】
電源システム10は、蓄電部11と管理部12を備え、蓄電部11は、直列接続された複数のセルE1-Enを含む。より具体的には蓄電部11は、1つ又は複数の蓄電モジュールを含む。複数の蓄電モジュールは直列/直並列接続されて構成される。各蓄電モジュールは、直列/直並列接続された複数のセルを含む。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル、電気二重層キャパシタセル、リチウムイオンキャパシタセル等を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。セルE1-Enの直列数は、モータ50の駆動電圧に応じて決定される。
【0017】
複数のセルE1-Enと直列にシャント抵抗Rsが接続される。シャント抵抗Rsは電流検出素子として機能する。なおシャント抵抗Rsの代わりにホール素子を用いてもよい。また蓄電部11内に、複数のセルE1-Enの温度を検出するための複数の温度センサT1、T2が設置される。温度センサは各蓄電モジュールに1つ設置されてもよいし、複数のセルごとに1つ設置されてもよい。温度センサT1、T2には例えば、サーミスタを使用することができる。
【0018】
管理部12は、電圧測定部13、温度測定部14、電流測定部15及び制御部16を備える。直列接続された複数のセルE1-Enの各ノードと、電圧測定部13との間は複数の電圧線で接続される。電圧測定部13は、隣接する2本の電圧線間の電圧をそれぞれ測定することにより、各セルE1-Enの電圧を測定する。電圧測定部13は、測定した各セルE1-Enの電圧を制御部16に送信する。
【0019】
電圧測定部13は制御部16に対して高圧であるため、電圧測定部13と制御部16間は絶縁された状態で、通信線で接続される。電圧測定部13は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)または汎用のアナログフロントエンドICで構成することができる。電圧測定部13はマルチプレクサ及びA/D変換器を含む。マルチプレクサは、隣接する2本の電圧線間の電圧を上から順番にA/D変換器に出力する。A/D変換器は、マルチプレクサから入力されるアナログ電圧をデジタル値に変換する。
【0020】
温度測定部14は分圧抵抗およびA/D変換器を含む。A/D変換器は、複数の温度センサT1、T2と複数の分圧抵抗によりそれぞれ分圧された複数のアナログ電圧を順次、デジタル値に変換して制御部16に出力する。制御部16は当該デジタル値をもとに複数のセルE1-Enの温度を推定する。例えば制御部16は、各セルE1-Enの温度を、各セルE1-Enに最も隣接する温度センサで測定された値をもとに推定する。
【0021】
電流測定部15は差動アンプ及びA/D変換器を含む。差動アンプはシャント抵抗Rsの両端電圧を増幅してA/D変換器に出力する。A/D変換器は、差動アンプから入力される電圧をデジタル値に変換して制御部16に出力する。制御部16は当該デジタル値をもとに複数のセルE1-Enに流れる電流を推定する。
【0022】
なお制御部16内にA/D変換器が搭載されており、制御部16にアナログ入力ポートが設置されている場合、温度測定部14及び電流測定部15はアナログ電圧を制御部16に出力し、制御部16内のA/D変換器でデジタル値に変換してもよい。
【0023】
制御部16は、電圧測定部13、温度測定部14及び電流測定部15により測定された複数のセルE1-Enの電圧、温度、及び電流をもとに複数のセルE1-Enの状態を管理する。制御部16と車両ECU30間は、車載ネットワーク20により接続される。車載ネットワーク20は、CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)、FlexRay(登録商標)、Ethernet(登録商標)等の規格の少なくとも1つを使用して構築される。以下、本実施の形態では車載ネットワーク20にCANを使用する例を想定する。
【0024】
制御部16はマイクロコンピュータ及び不揮発メモリ(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)により構成することができる。不揮発メモリ内に、SOC(State Of Charge)-OCV(Open Circuit Voltage)マップ16a及びSOC・温度マップ16bが保持される。SOC-OCVマップ16aには、複数のセルE1-EnのSOC-OCVカーブの特性データが記述されている。
【0025】
SOC・温度マップ16bは、セルのSOC及び温度と、電流制限値との関係を規定したマップである。電流制限値は、セルの劣化を抑制するために推奨される電流の上限値を規定した値である。電池メーカは、事前に数値シミュレーションや実験をもとに、セルのSOC及び温度の種々の組み合わせごとに、推奨される電流制限値を決定し、それらの関係をマップ化する。推奨される電流制限値は例えば、平均的なセルの寿命曲線より劣化の進行が早くなることを回避するための電流値に設定される。推奨される電流制限値は、充電電流と放電電流のそれぞれについて別々に設けられる。電池メーカにより生成されたSOC・温度マップ16bは、制御部16内の不揮発メモリに登録される。
【0026】
なお、セルのSOC及び温度と、推奨される電流制限値との関係は関数化されて定義されてもよい。その場合も、導出された関数が制御部16内の不揮発メモリに登録される。また、推奨される電流制限値の代わりに、推奨される電力制限値を用いてもよい。
【0027】
制御部16は、複数のセルE1-EnのそれぞれのSOC及びSOH(State Of Health)を推定する。制御部16は、OCV法と電流積算法を組み合わせて、SOCを推定する。OCV法は、電圧測定部13により測定される各セルE1-EnのOCVと、SOC-OCVマップ16aに記述されるSOC-OCVカーブの特性データをもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、各セルE1-Enの充放電開始時のOCVと、電流測定部15により測定される電流の積算値をもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、充放電時間が長くなるにつれて、電流測定部15の測定誤差が累積していく。従って、OCV法により推定されたSOCを用いて、電流積算法により推定されたSOCを補正する必要がある。
【0028】
SOHは、初期の満充電容量に対する現在の満充電容量の比率で規定され、数値が低いほど(0%に近いほど)劣化が進行していることを示す。SOHは、完全充放電による容量測定により求めてもよいし、保存劣化とサイクル劣化を合算することにより求めてもよい。保存劣化はSOC、温度、及び保存劣化速度をもとに推定することができる。サイクル劣化は、使用するSOC範囲、温度、電流レート、及びサイクル劣化速度をもとに推定することができる。保存劣化速度およびサイクル劣化速度は、予め実験やシミュレーションにより導出することができる。SOC、温度、SOC範囲、及び電流レートは測定により求めることができる。
【0029】
またSOHは、セルの内部抵抗との相関関係をもとに推定することもできる。内部抵抗は、セルに所定の電流を所定時間流した際に発生する電圧降下を、当該電流値で割ることにより推定することができる。内部抵抗は温度が上がるほど低下する関係にあり、SOHが低下するほど増加する関係にある。
【0030】
制御部16は、複数のセルE1-Enの状態を、車載ネットワーク20を介して車両ECU30に通知する。例えば制御部16は、複数のセルE1-Enの各SOCを合算して蓄電部11全体のSOCを算出し、算出した蓄電部11全体のSOCを車両ECU30に通知する。また制御部16は、蓄電部11に印加されている電圧、及び蓄電部11に流れている電流をリアルタイムに車両ECU30に通知する。また車両ECU30は、上述の電流制限値を車両ECU30に通知する。
【0031】
車両ECU30は電動車両1全体を制御する。車両ECU30は例えば、統合型のVCM(Vehicle control module)で構成されていてもよい。電動車両1内において計器盤60は、運転席に対向して配置される。計器盤60は、タコメータ、スピードメータ、各種のテルテールランプを含む。テルテールランプには、電動車両1内の機器の異常を示すコーションランプが含まれる。例えば、電源システム10の異常を示すコーションランプや車載ネットワーク20の異常を示すコーションランプが含まれる。
【0032】
車両ECU30は、電動車両1内のいずれかの機器に異常が発生したことを車載ネットワーク20を介して受信すると、計器盤60の対応するコーションランプを点灯させる。運転者は、機器の修理が必要なコーションランプが点灯すると、走行が可能な場合は、カーディーラや修理工場まで自走で移動する。走行が不可能な場合はロードサービスを利用する。
【0033】
図2は、比較例と実施例における、電源システム10の異常発生時の代替ストラテジとフェールセーフアクションをまとめた図である。後述の通り、比較例のフェールセーフアクションは、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)の制御として好適であり、実施例のフェールセーフアクションは、エンジンを搭載しない純粋な電気自動車(EV)の制御として好適である。比較例では、電源システム10に対する車両側からの外部制御により、セルに過充電、過放電、過昇温のいずれかが検出されると制御部16は、リレーカット要求を車載ネットワーク20を介して車両ECU30に送信する。車両ECU30は当該リレーカット要求を受信すると、第1リレーR1をターンオフする。
【0034】
制御部16は、電圧測定部13により測定された各セルの電圧と、オーバーボルテージ
(OV)を検出するためのOV閾値とを比較し、当該OV閾値より電圧が高いセルを過充電と判定する。また制御部16は、電圧測定部13により測定された各セルの電圧と、アンダーボルテージ(UV)を検出するためのUV閾値とを比較し、当該UV閾値より電圧が低いセルを過放電と判定する。通常、OV閾値は、セルの上側の使用限界電圧より保護マージン分、低い値に設定される。UV閾値は、セルの下側の使用限界電圧より保護マージン分、高い値に設定される。また制御部16は、温度測定部14により測定された各セルの温度と、オーバーテンパチャー(OT)を検出するためのOT閾値とを比較し、当該OT閾値より温度が高いセルを過昇温と判定する。
【0035】
比較例では、セルの保護機能を実現する回路(具体的には、電圧測定部13、温度測定部14、電流測定部15)に異常が発生した場合も、制御部16は、リレーカット要求を車両ECU30に送信する。以上の通り、比較例のフェールセーフアクションは、いずれかの測定部が故障した際には、リレーカットを行うことで、不確実な状態での電池システム10の使用を防止することができる。特に、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)では、エンジンによる走行が可能であるため、回路に異常が発生した場合に、フェールセーフアクションとしてリレーカットをしても、不都合が少ない。したがって、比較例のフェールセーフアクションは、この種の車両に搭載される電池システムの制御として好適である。
【0036】
しかしながら、エンジンを搭載しない純粋な電気自動車(EV)では、電源システム10が突然停止すると、安全な場所に停止できない可能性がある。また安全な場所に停止できても、その後に自走できないため、ユーザの利便性が低下する。従って、純粋な電気自動車(EV)では、車両の安全性の確立と、基本性能(走る・曲がる・止まる)の継続を両立させることが求められる。
【0037】
実施例では、セルの異常検出は、SOC・温度マップ16bを用いた電流制限(以下適宜、パワーリミットともいう)により実行する。
【0038】
SOC・温度マップを用いたパワーリミットは、セルの劣化を抑制するという観点で許容される電流値を示す値である。なお、従来の電源システムや電動車両では、SOC・温度マップを用いたパワーリミットは、あくまでセルの劣化を抑制するための推奨値を示すものであるため、制御部から車両ECUに送信される電流制限値に従い、車両ECUがパワーリミットを実行するか否かは、車両メーカの設計思想に委ねられていた。典型的な従来の電動車両の車両ECUでは、電池寿命を重視する経済モードが選択されているときはパワーリミットを実行し、走行制限がかからないノーマルモードが選択されているときはパワーリミットを実行しないように充放電が制御されていた。
【0039】
これに対して、実施例では、電源システムから伝送されるパワーリミット信号を、異常信号として取り扱うように構成されている。具体的には、電流制限値がゼロとなる値を示すパワーリミット信号を受け取った車両ECUは、車両ECUが取得するその他のデータから安全が確認できた段階でリレーカットを実行するように構成される。これにより、実施例では、SOC・温度マップ16bを用いたパワーリミットによりセルの異常検出を実行することで、OVやUV、OTなどの異常状態になる前の段階で、セルの異常と判定することができるようになっている。特に重要なことは、パワーリミットを異常信号として取り扱うことで、SOCと温度の両方に関係する境界が特定されることになるため、従来、OV/UVや、OTといった個別に判断していた複数の異常を統合して評価できるようになる点にある。
【0040】
具体的には、上述の通り、SOCは、OCV法と電流積算法を組み合わせて推定されるようになっており、OCV法および電流積算法のいずれか一方のみでSOCを推定することもできる。加えて、OCV法に関しては、OCVを計測する電圧測定部13が冗長化構成となっており、電流積算法に関しては、電流積算値を計測する電流測定部15が冗長化構成となっている。そのため、図5に示す代替ストラテジを実行した場合であっても、パワーリミットを演算するための測定値を計測する回路は、冗長化構成が維持されることになる。例えば、電圧測定部13に関して、回路異常が生じた場合であっても、冗長化構成を取っている電流測定部15の測定値に基づいてパワーリミットを演算することができる。
【0041】
なお、比較例の構成の場合は、OV/UVの判定と、OTの判定との間には相関がないため、仮に、電圧測定部13に関して、回路異常が生じた場合を想定した際、実施例のような代替ストラテジを採用すると、冗長化構成が維持されていない状態での動作を許容することになってしまう。そのため、比較例の構成では、このような構成を取ることは信頼性の観点で許容できない。
【0042】
パワーリミットを実行する場合、車両ECU30は、電源システム10の制御部16から受信した電流制限値をインバータ40に設定する。なおインバータ40と第1リレーRY1との間にDC/DCコンバータ(不図示)が設置され、当該DC/DCコンバータにより電流が制御されている場合は、車両ECU30は受信した電流制限値を当該DC/DCコンバータに設定する。インバータ40又は当該DC/DCコンバータは、設定された電流制限値の範囲内で出力電流(蓄電部11からの放電電流)を制御する。
【0043】
なお充電器3から電源システム10への充電時、車両ECU30は、電源システム10の制御部16から受信した電流制限値を、通信線(不図示)を介して充電器3に設定する。なお充電器3と第2リレーRY2の間にAC/DCコンバータ又はDC/DCコンバータが設置され、当該AC/DCコンバータ又は当該DC/DCコンバータにより充電電流が制御されている場合は、車両ECU30は受信した電流制限値を、当該AC/DCコンバータ又は当該DC/DCコンバータに設定する。
【0044】
実施例では、SOC・温度マップ16bを用いたパワーリミットを、セルの劣化抑制に加え、電動車両1の安全性確保にも使用する。実施例では、電流制限値がゼロになることもある。電流制限値がゼロになるのは、セルの状態が、過充電、過放電、過昇温のいずれかが発生した状態と同等の状態と推定されるときである。なお、より安全性を確保するために、過充電、過放電、過昇温のいずれかが発生した状態より手前の状態で、電流制限値がゼロになるSOC・温度マップ16bが生成されていてもよい。この場合、車両ECU30は、電源システム10の制御部16から受信した電流制限値がゼロのとき、第1リレーRY1をターンオフする。
【0045】
実施例では、セルの保護機能を実現する回路(具体的には、電圧測定部13、温度測定部14、電流測定部15)に異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジを実行するとともに、車両ECU30に縮退モードへの移行要求を通知する。
【0046】
車載用途では一般的に、電圧測定部13に冗長化構成が採用されることが多い。また電流測定部15も冗長化構成が採用されることが多い。代替ストラテジとして、冗長化構成の主機能に異常が発生した場合、冗長機能により動作を継続する。また冗長化構成の冗長機能に異常が発生した場合、主機能のみにより動作を継続する。また冗長化構成の主機能と冗長機能の両方に異常が発生した場合、他の測定回路で測定された値をもとに代替値を生成して動作を継続する。いずれの場合も測定回路が完全な状態ではないため、電動車両1を縮退モードに移行させて安全性を向上させることにより、測定回路の信頼性が低下した分を補う。なお、代替ストラテジ及び縮退モードの具体例は後述する。
【0047】
図3は、比較例に係る電源システム10の保護機能を説明するためのフローチャートである。電動車両1の電源がオン(エンジン車両のイグニッションオンに相当する)されると、制御部16は、電圧測定部13、温度測定部14及び電流測定部15により測定された複数のセルE1-Enの電圧、温度、及び電流を取得する(S11)。測定回路に異常が発生している場合(S12のY)、制御部16はリレーカット要求信号を車両ECU30に通知する(S15)。測定回路に異常が発生していない場合(S12のN)、制御部16は、取得した電圧、電流をもとに複数のセルE1-EnのSOCを推定する(S13)。
【0048】
制御部16は、取得した電圧とOV閾値、取得した電圧とUV閾値、取得した温度とOT閾値をそれぞれ比較する(S14)。過充電、過放電または過昇温が検出された場合(S14のY)、制御部16はリレーカット要求信号を車両ECU30に通知する(S15)。過充電、過放電または過昇温が検出されない場合(S14のN)、ステップS11に遷移し、ステップS11以降の処理を繰り返す。
【0049】
車両ECU30は、電源システム10の制御部16からリレーカット要求信号を受信すると、第1リレーRY1をターンオフしてリレーカットを実行する(S16)。
【0050】
図4は、実施例に係る電源システム10の保護機能を説明するためのフローチャートである。電動車両1の電源がオンされると、制御部16は、電圧測定部13、温度測定部14及び電流測定部15により測定された複数のセルE1-Enの電圧、温度、及び電流を取得する(S21)。測定回路に異常が発生している場合(S22のY)、制御部16は代替ストラテジを実行する(S26)。制御部16は代替ストラテジを終了すると、リレーカット要求信号を車両ECU30に通知する(S27)。
【0051】
ステップS22において、測定回路に異常が発生していない場合(S22のN)、制御部16は、取得した電圧、電流をもとに複数のセルE1-EnのSOCを推定する(S23)。制御部16は、推定した各セルのSOCと、各セルの温度をもとにSOC・温度マップ16bを参照して、各セルの電流制限値を決定する(S24)。
【0052】
制御部16は、決定した各セルの電流制限値のうち、最も小さい電流制限値を選択し、選択した電流制限値を車両ECU30に通知する(S25)。ステップS21に遷移し、ステップS21以降の処理を繰り返す。
【0053】
図5は、図1に示した電源システム10、車載ネットワーク20及び車両ECU30の冗長化構成の具体例を示すブロック図である。図5に示す例では、電圧測定部13は、計測系の主電圧測定回路13aと、監視系の副電圧測定回路13bで構成される。
【0054】
本実施例では、主電圧測定回路13a及び副電圧測定回路13bの両方がプロセッサを用いたソフトウェア制御が可能な回路構成を採用する。例えば、主電圧測定回路13aと副電圧測定回路13bに同じASICを採用する。なお、主電圧測定回路13aに相対的に高スペックのASICを採用し、副電圧測定回路13bに相対的に低スペックのASICを採用してもよい。
【0055】
なお、一般的には、図2の比較例に示すように、回路異常が発生した場合、すなわち、主電圧測定回路13a及び副電圧測定回路13bのいずれか一方が異常となった場合、リレーカットを行うため、主電圧測定回路はプロセッサを用いたソフトウェア制御が可能な回路構成、副電圧測定回路はプロセッサを用いないハードウェア制御のみが可能な回路構成で設計されることが多い。しかしながら、本実施例においては、代替ストラテジで動作を継続する構成となるため、主電圧測定回路13a及び副電圧測定回路13bを、プロセッサを用いないハードウェア制御のみが可能な回路で構成することはない。本実施例において、パワーリミットによる異常検知は、上述の通り、SOC・温度マップ16bを用いて判定されるため、電圧の測定値の信頼性が低下しても、パワーリミットによる異常検知を継続することができる。そのため、本実施例は、パワーリミットによる異常検知と併用することで、縮退モードでの使用を許容することができるように構成されている。
【0056】
温度測定部14は、温度測定回路14aで構成される。電流測定部15は、ハイレンジの第1電流測定回路15aと、ローレンジの第2電流測定回路15bで構成される。ハイレンジの第1電流測定回路15aは、ローレンジの第2電流測定回路15bより、相対的に電圧入力範囲が広い差動アンプ及びA/D変換器を使用する。一般的に、差動アンプ及びA/D変換器では、レンジが広いものほどオフセット誤差が大きくなるため、ローレンジの第2電流測定回路15bの方が検出精度は高くなる。車載ネットワーク20は、メインネットワーク20aとサブネットワーク20bで構成される。
【0057】
なお、上記電流測定部15の構成は一例であり、必ずしもハイレンジの電流測定回路とローレンジの電流測定回路で構成する必要はない。例えば、第1電流測定回路15aと第2電流測定回路15bを、同じ電流センサで構成したり、ホール素子を用いた電流測定回路とシャント抵抗を用いた電流測定回路を組み合わせて構成したりしてもよい。
【0058】
図6は、実施例における、電源システム10の異常発生時の代替ストラテジとフェールセーフアクションをまとめた図である。主電圧測定回路13aと副電圧測定回路13bの両方(電圧測定機能全体)の異常には、例えばASICの電源異常、SPI(Serial Peripheral Interface)通信異常が挙げられる。電圧測定機能全体に異常が発生した場合、電源システム10を構成する一部のセルの電圧情報が得られない状態になる。そのため、制御部16は代替ストラテジとして、異常が発生したASICのデータを他の正常なASICのデータで置き換え、上述のパワーリミットを計算する。パワーリミットは、電圧値のみで計算するわけではないので、一部のデータの信頼性が低下しても、他のパラメータから電源システム10の異常状態を検出することができる。電動車両1に搭載される電池システム10は数百ボルトになるため、多数のセルが直列接続されて構成されている。1つのASICが電圧を測定するセルの数(測定単位)は一般的に10~20である。従って、1つの電源システム10には複数のASICが設けられることになる。いずれかの測定単位のASIC(主電圧測定回路13aと副電圧測定回路13bの両方)に異常が発生した場合でも、当該ASICの測定値を使用できなくなるだけであり、他の測定単位の正常なASICの測定値は使用することができる。
【0059】
その上で、制御部16は、信頼性の低下を補うように、フェールセーフアクションとして縮退モードへの移行を実行する。縮退モードとして、例えばセルのSOC使用範囲を制限する。例えば、ノーマルモードのSOC使用範囲が20~80%の場合、縮退モードのSOC範囲を40~60%に制限する。また縮退モードとして、例えば電流測定部15により測定された電流値に所定のオフセット値を加える。充電の場合は正のオフセット値を加え、放電の場合は負のオフセット値を加える。オフセット値には、電池メーカにより事前に数値シミュレーションや実験をもとに決定された値が使用される。オフセット値は、固定値であってもよいし、測定された電流値に応じた変動値であってもよい。例えば、測定された電流値に定率を掛けた値をオフセット値としてもよい。
【0060】
これにより、実際に流れている電流より、絶対値が大きい電流値をもとに制御部16がSOCを推定することになる。従って、制御部16により推定されるSOCが、実際のSOCより、放電時は小さく、充電時は大きくなる。従って、SOCの上限値/下限値に到達しやすくなる。
【0061】
また縮退モードとして、制御部16は推定したSOCに所定の係数を掛ける。充電の場合は1を超える係数を掛け、放電の場合は1未満の係数を掛ける。なお、充電の場合は1未満の係数を掛け、放電の場合は1を超える係数を掛ける構成であってもよい。充電時と放電時の係数には、電池メーカにより事前に数値シミュレーションや実験をもとに決定された値が使用される。SOCに所定の係数を掛けることにより、制御部16により推定されるSOCが、実際のSOCより、放電時は小さく、充電時は大きくなる。従って、SOCの上限値/下限値に到達しやすくなる。なお、推定されたSOCに所定の係数を掛ける代わりに、充電のときは正のオフセットを加え、放電のときは負のオフセットを加える処理でもよい。
【0062】
縮退モードは電源システム10と車両ECU30の両方で実行される。例えば車両ECU30は、上述したセルのSOC使用範囲を制限する処理を実行する。また例えば車両ECU30は、制御部16から送信されてくる電流制限値にもとづくパワーリミット制御を必須制御として実行する。また例えば電源システム10は、上述した測定された電流値に所定のオフセット値を加える処理、及び/又は上述した推定されたSOCに所定の係数を掛ける処理を実行する。なお縮退モードにおいて、電源システム10の制御部16から車両ECU30に送信される電流値/SOCは、オリジナルの測定値/推定値であってもよいし、上記加工が加えられた測定値/推定値であってもよい。
【0063】
図7は、電圧測定機能全体に異常が発生した場合に起因する代替ストラテジに移行後の、電源システム10の保護機能を説明するためのフローチャートである。制御部16は、電圧測定部13、温度測定部14及び電流測定部15により測定された複数のセルE1-Enの電圧、温度、及び電流を取得する(S261)。代替ストラテジが実行された後、さらに別の測定回路に異常が発生していない間は(S262のN)、制御部16は、故障した測定単位の主電圧測定回路13a及び副電圧測定回路13bの電圧値を、他の正常な測定単位の電圧測定部13で測定された電圧値で置換する(S263)。制御部16は、フェールセーフアクションとして、セルのSOC使用範囲を制限する(S264)。
【0064】
制御部16は、取得または置換した電圧、及び取得した電流をもとに複数のセルE1-EnのSOCを推定する(S265)。制御部16は、推定した各セルのSOCと、各セルの温度をもとにSOC・温度マップ16bを参照して、各セルの電流制限値を決定する
(S266)。制御部16は、決定した各セルの電流制限値のうち、最も小さい電流制限値を選択し、選択した電流制限値を車両ECU30に通知する(S267)。ステップS261に遷移し、ステップS261以降の処理を繰り返す。ステップS262において、別の測定回路に異常が発生した場合(S262のY)、当該代替ストラテジを終了する。
【0065】
このように、ある測定単位の電圧測定機能全体に異常が発生した場合でも、代替ストラテジとして他の正常な測定単位の電圧測定部13で測定された電圧値に置換することにより、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。縮退モードに移行することにより、より安全性が高く要求される基準で電動車両1が運用されることになるため、電圧測定機能の異常による信頼性の低下を補うことができる。これにより、電圧測定機能全体に異常が発生した場合における、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。これに対して比較例では、電圧測定機能全体に異常が発生するとリレーカットになり、電動車両1が走行できなくなり、ユーザの利便性が損なわれる。
【0066】
図6に戻る。主電圧測定回路13aの異常には、例えばA/D変換器の出力が張り付くことが挙げられる。主電圧測定回路13aに異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジとして、副電圧測定回路13bにより測定されたデータを使用する。
【0067】
主電圧測定回路13aに異常が発生した場合、主電圧測定回路13aにより測定されたデータと副電圧測定回路13bにより測定されたデータを比較することができなくなるため、データの信頼性が低下する。
【0068】
制御部16は、フェールセーフアクションとして縮退モードへの移行を実行する。縮退モードとして、例えば車両ECU30は、上述したセルのSOC使用範囲を制限する処理を実行する。また例えば、車両ECU30は、制御部16から送信されてくる電流制限値にもとづくパワーリミット制御を必須制御として実行する。
【0069】
このように主電圧測定回路13aに異常が発生した場合でも、代替ストラテジとして副電圧測定回路13bにより測定されたデータを使用することにより、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。これにより、主電圧測定回路13aに異常が発生した場合における、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。
【0070】
これに対して比較例では、副電圧測定回路13bがプロセッサを用いないハードウェア制御のみが可能な回路構成が採用されることが多かった。この場合、主電圧測定回路13aに異常が発生すると、縮退モードに移行することができなかった。この点、本実施例では副電圧測定回路13bに、プロセッサを用いたソフトウェア制御が可能な回路構成を採用しているため、副電圧測定回路13bが主電圧測定回路13aの機能を代替することができる。従って、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。
【0071】
副電圧測定回路13bの異常には、例えばA/D変換器の出力が張り付くことが挙げられる。副電圧測定回路13bに異常が発生した場合、制御部16は、副電圧測定回路13bにより測定されたデータが取得できない状態で、主電圧測定回路13aにより測定されたデータの使用を継続する。
【0072】
副電圧測定回路13bに異常が発生した場合も、主電圧測定回路13aにより測定されたデータと副電圧測定回路13bにより測定されたデータを比較することができなくなるため、データの信頼性が低下する。
【0073】
制御部16は、フェールセーフアクションとして縮退モードへの移行を実行する。縮退モードとして、例えば車両ECU30は、上述したセルのSOC使用範囲を制限する処理を実行する。また例えば車両ECU30は、制御部16から送信されてくる電流制限値にもとづくパワーリミット制御を必須制御として実行する。
【0074】
このように副電圧測定回路13bに異常が発生した場合でも、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。これにより、副電圧測定回路13bに異常が発生した場合における、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。
【0075】
温度測定回路14aの異常には、例えばサーミスタの出力張り付き、出力ドリフト異常が挙げられる。温度測定回路14aに異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジ1として、異常なサーミスタ出力により推定される温度を、正常なサーミスタ出力により推定される温度に置換する。また、制御部16は代替ストラテジ2として、異常なサーミスタの測定値にオフセット値を加算して使用する。また、制御部16は代替ストラテジ3として、異常なサーミスタのうち、正常なサーミスタと同じ挙動をするものがあった場合は、その異常なサーミスタの測定値を、挙動が同じ正常なサーミスタの測定値に置換する。
【0076】
複数のサーミスタの1つに異常が発生した場合において、残りのサーミスタの測定値から推定される温度分布に変化がない場合、制御部16は代替ストラテジ1を実行する。複数のサーミスタの1つに異常が発生した場合において、残りのサーミスタの測定値から推定される温度分布に変化がある場合、制御部16は代替ストラテジ2を実行する。
【0077】
図8は、温度測定回路14aの異常時における代替ストラテジ2の具体例1を説明するための図である。複数のサーミスタの1つに異常が発生した場合において、制御部16は、複数のサーミスタの測定値のそれぞれに、所定のオフセット値を加える。オフセット値には、電池メーカにより事前に数値シミュレーションや実験をもとに決定された値が使用される。具体例1では、全てのサーミスタの測定値に、同じ値のオフセットを一律に加える。
【0078】
図9は、温度測定回路14aの異常時における代替ストラテジ2の具体例2を説明するための図である。複数のサーミスタの1つに異常が発生した場合において、制御部16は、複数のサーミスタの測定値の中央値を算出する。なお中央値の代わりに平均値を算出してもよい。制御部16は、当該中央値を中心にした所定レンジから外れた測定値を特定する。制御部16は、特定した測定値のみにオフセット値を加える。当該オフセット値には、事前に決定された固定値を使用してもよいし、変動値を使用してもよい。変動値として、例えば、中央値と各測定値との偏差の平均値を使用してもよい。
【0079】
これにより、実際に測定された温度より高い温度をもとに、制御部16は、SOC・温度マップ16bを参照して電流制限値を決定することになる。SOC・温度マップ16bでは、温度が高いほど電流制限値の絶対値が小さな値に設定されているため、実際に測定された温度より高い温度をもとに電流制限値が決定されると、より抑制的な電流制限値が選択されることになる。
【0080】
制御部16は、フェールセーフアクションとして縮退モードへの移行を実行する。縮退モードとして、例えば車両ECU30は、上述したセルのSOC使用範囲を制限する処理を実行する。また例えば車両ECU30は、制御部16から送信されてくる電流制限値にもとづくパワーリミット制御を必須制御として実行する。
【0081】
このように温度測定回路14aに異常が発生した場合でも、上記代替ストラテジ1~3のいずれかを実行することにより、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。これにより、温度測定回路14aに異常が発生した場合における、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。これに対して比較例では、複数のサーミスタの1つに異常が発生すると、リレーカットになり、電動車両1が走行できなくなっていた。この点、本実施例では縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。
【0082】
図6に戻る。第1電流測定回路15aと第2電流測定回路15bの両方(電流測定機能全体)の異常には、例えば電流センサ(例えば、ホール素子、差動アンプ、A/D変換器)の電源異常が挙げられる。電流測定機能全体に異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジとして、OCV法により推定されるSOCを使用する。
【0083】
制御部16は、フェールセーフアクションとして縮退モードへの移行を実行する。縮退モードとして、例えばセルのSOC使用範囲を制限する。また縮退モードとして、例えば電圧測定部13により測定された電圧値に所定のオフセット値を加える。充電の場合は正のオフセット値を加え、放電の場合は負のオフセット値を加える。オフセット値には、電池メーカにより事前に数値シミュレーションや実験をもとに決定された値が使用される。オフセット値は、固定値であってもよいし、測定された電圧値に応じた変動値であってもよい。例えば、測定された電圧値に定率を掛けた値をオフセット値としてもよい。これにより制御部16で使用されるセル電圧が、実際のセル電圧より、放電時は低く、充電時は高くなる。従って、UV閾値/OV閾値に到達しやすくなる。
【0084】
縮退モードは電源システム10と車両ECU30の両方で実行される。例えば車両ECU30は、上述したセルのSOC使用範囲を制限する処理を実行する。また例えば車両ECU30は、制御部16から送信されてくる電流制限値にもとづくパワーリミット制御を必須制御として実行する。また例えば電源システム10は、上述した測定された電圧値に所定のオフセット値を加える処理を実行する。なお縮退モードにおいて、電源システム10の制御部16から車両ECU30に送信される電圧値は、オリジナルの測定値であってもよいし、上記加工が加えられた測定値であってもよい。
【0085】
図10は、電流測定機能全体に異常が発生した場合に起因する代替ストラテジに移行後の、電源システム10の保護機能を説明するためのフローチャートである。制御部16は、電圧測定部13及び温度測定部14により測定された複数のセルE1-Enの電圧及び温度を取得する(S261a)。代替ストラテジが実行された後、さらに別の測定回路に異常が発生していない間は(S262のN)、制御部16は、フェールセーフアクションとして、セルのSOC使用範囲を制限する(S264)。
【0086】
制御部16は、取得した電圧値をもとに複数のセルE1-EnのSOCを推定する(S265a)。例えば、OCV法によりSOCを推定することができる。制御部16は、推定した各セルのSOCと、各セルの温度をもとにSOC・温度マップ16bを参照して、各セルの電流制限値を決定する(S266)。制御部16は、決定した各セルの電流制限値のうち、最も小さい電流制限値を選択し、選択した電流制限値を車両ECU30に通知する(S267)。ステップS261に遷移し、ステップS261以降の処理を繰り返す。ステップS262において、別の測定回路に異常が発生した場合(S262のY)、当該代替ストラテジを終了する。
【0087】
このように電流測定機能全体に異常が発生した場合でも、代替ストラテジとして、電圧値をもとにSOCを推定し、SOCと温度をもとに電流制限値を決定することにより、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。これにより、電流測定機能全体に異常が発生した場合における、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。
【0088】
図6に戻る。ハイレンジの第1電流測定回路15aの異常には、例えば電流センサの出力張り付き、電流センサのオフセット異常が挙げられる。ハイレンジの第1電流測定回路15aに異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジとして、ローレンジの第2電流測定回路15bにより測定されたデータを使用するとともに、蓄電部11の入出力電流の範囲をローレンジの第2電流測定回路15bの入力レンジに制限する。具体例には制御部16は、蓄電部11の入出力電流の範囲をローレンジの第2電流測定回路15bの入力レンジに制限するよう車両ECU30に通知する。車両ECU30は、電源システム10の制御部16から受信した入力レンジに対応する上限電流値と下限電流値をインバータ40に設定する。
【0089】
図11(a)、(b)は、第1電流測定回路15aに異常が発生した場合の代替ストラテジを説明するための図である。図11(a)は、第1電流測定回路15aに異常発生前の入出力電流を示し、図11(b)は、第1電流測定回路15aに異常発生後の入出力電流を示す。図11(a)、(b)に示すように、ハイレンジの第1電流測定回路15aに異常が発生すると、第1電流測定回路15aにより測定可能なハイレンジのうち、第2電流測定回路15bにより測定可能なローレンジを除く範囲の電流は測定できなくなる。従って、蓄電部11の入出力電流を第2電流測定回路15bにより測定可能なローレンジに制限する必要がある。
【0090】
またハイレンジの第1電流測定回路15aに異常が発生すると、ハイレンジの第1電流測定回路15aにより測定されたデータと、ローレンジの第2電流測定回路15bにより測定されたデータを比較することができなくなるため、データの信頼性が低下する。
【0091】
制御部16はフェールセーフアクションとして縮退モードへの移行を実行する。縮退モードとして、例えば車両ECU30は、上述したセルのSOC使用範囲を制限する処理を実行する。また例えば、車両ECU30は、制御部16から送信されてくる電流制限値にもとづくパワーリミット制御を必須制御として実行する。
【0092】
このように第1電流測定回路15aに異常が発生した場合でも、代替ストラテジとして、蓄電部11の入出力電流を第2電流測定回路15bにより測定可能なローレンジに制限しつつ、第2電流測定回路15bにより測定されたデータを使用することにより、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。これにより、第1電流測定回路15aに異常が発生した場合における、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。
【0093】
図6に戻る。ローレンジの第2電流測定回路15bの異常には、例えば電流センサの出力張り付き、電流センサのオフセット異常が挙げられる。ローレンジの第2電流測定回路15bに異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジとして、ハイレンジの第1電流測定回路15aにより測定されたデータのみを使用する。
【0094】
図12(a)、(b)は、第2電流測定回路15bに異常が発生した場合の代替ストラテジを説明するための図である。図12(a)は、第2電流測定回路15bに異常発生前のSOC推定を示し、図12(b)は、第2電流測定回路15bに異常発生後のSOC推定を示す。図12(a)、(b)に示すように、ローレンジの第2電流測定回路15bに異常が発生すると、ハイレンジの第1電流測定回路15aにより測定された電流値をもとにSOCを推定する。なお、第2電流測定回路15bが正常で、電流値が第2電流測定回路15bの入力レンジの範囲内である場合は、第2電流測定回路15bにより測定された電流値を使用したほうがSOCの推定精度が高くなる。
【0095】
またハイレンジの第1電流測定回路15aに異常が発生すると、ハイレンジの第1電流測定回路15aにより測定されたデータと、ローレンジの第2電流測定回路15bにより測定されたデータを比較することができなくなるため、データの信頼性が低下する。
【0096】
制御部16はフェールセーフアクションとして縮退モードへの移行を実行する。縮退モードとして、例えば車両ECU30は、上述したセルのSOC使用範囲を制限する処理を実行する。また例えば、車両ECU30は、制御部16から送信されてくる電流制限値にもとづくパワーリミット制御を必須制御として実行する。
【0097】
このように第2電流測定回路15bに異常が発生した場合でも、代替ストラテジとして、第1電流測定回路15aにより測定された電流値をもとにSOCを推定することにより、縮退モードの範囲内で電動車両1の走行を継続することができる。これにより、第2電流測定回路15bに異常が発生した場合における、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。
【0098】
図6に戻る。制御部16の異常には、例えばCPU異常が挙げられる。CPUの異常には、ALUの異常、ROMの異常、RAMの異常が含まれる。制御部16に異常が発生した場合、ハードウェア制御によるリレーカットが実行される。車両ECU30は、電源システム10の管理部12からハードウェア停止信号を受信すると、第1リレーRY1をターンオフしてリレーカットを実行する。制御部16に異常が発生した場合、制御部16でセルの異常を検出できなくなり、制御部16と車両ECU30間でCAN通信することもできなくなる。従って制御部16の異常の場合は、比較例と同様にリレーカットで対応する。
【0099】
メインネットワーク20aの異常には、例えばCANバスの切断、通信タイムアウトが挙げられる。メインネットワーク20aに異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジとして、サブネットワーク20bのみにより、車両ECU30に各種データを通知する。車両ECU30は、サブネットワーク20bを介して受信したデータをもとに、電動車両1を制御する。車両ECU30は、計器盤60内の車載ネットワーク20の異常を示すコーションランプを点灯させる。なおメインネットワーク20aの異常の場合には、車両ECU30は縮退モードに移行してもよいし、移行しなくてもよい。電源システム10から車両ECU30には正規のデータが送信されているため、コーションランプの点灯にとどめてもよい。
【0100】
サブネットワーク20bの異常には、例えばCANバスの切断、通信タイムアウトが挙げられる。サブネットワーク20bに異常が発生した場合、制御部16は代替ストラテジとして、メインネットワーク20aのみにより、車両ECU30に各種データを通知する。車両ECU30は、メインネットワーク20aを介して受信したデータをもとに、電動車両1を制御する。車両ECU30は、計器盤60内の車載ネットワーク20の異常を示すコーションランプを点灯させる。なおサブネットワーク20bの異常の場合には、車両ECU30は縮退モードに移行してもよいし、移行しなくてもよい。電源システム10から車両ECU30には正規のデータが送信されているため、コーションランプの点灯にとどめてもよい。
【0101】
なお本実施例では、副電圧測定回路13bに、プロセッサを用いたソフトウェア制御が可能な回路構成を採用しているため、副電圧測定回路13bがメインネットワーク20a又はサブネットワーク20bに直接、ハードウェア停止をかける制御は発生しない。
【0102】
以上説明したように本実施の形態によれば、測定回路に異常が発生した場合に、リレーカットにせずに、代替ストラテジを実行するとともに縮退モードへ移行する。これにより、電動車両1の安全性の確保と、ユーザの利便性の確保を両立させることができる。特に、エンジンを搭載しない純粋な電気自動車(EV)において有効である。
【0103】
また電圧と温度の閾値判定に相当する安全制御をパワーリミット制御に取り込むことにより、電圧と温度の閾値判定による安全制御とパワーリミット制御を併存させる場合より、制御を一本化することができ、制御を単純化することができる。またリレーカットに至る前段階において、段階的な電流制限による安全性の確保も可能になる。
【0104】
従来のパワーリミット制御は、セルの劣化抑制のみを目的とするものであり、安全性の確保は、OV/UV判定、OT判定に委ねられていた。これに対し、本実施の形態に係るパワーリミット制御は、セルの劣化抑制、安全性確保、及び縮退走行時間の確保を実現することができる。OV/UV/OTの検出により突然、リレーカットが発動されることを防止でき、リレーカットに至る前段階において安全性を確保しつつ、縮退走行時間を確保することができる。
【0105】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0106】
上述の実施の形態では、SOC・温度マップ16bをもとに電流制限値を決定する例を説明した。この点、SOC・温度マップ16bをもとに導出した電流制限値を、SOH及び/又は内部抵抗をもとに補正してもよい。この補正アルゴリズムも電池メーカにより、電池の種類ごとに作成される。また、SOC・温度マップ16bをもとに電流制限値を決定するアルゴリズム内に、セル電圧がOV閾値を上回ったとき又はセル電圧がUV閾値を下回ったときに電流制限値をゼロに設定する処理を組み込んでおいてもよい。なお、当該OV閾値は、比較例に係る制御で使用されるOV閾値より低い値であってもよい。また当該UV閾値は、比較例に係る制御で使用されるUV閾値より高い値であってもよい。
【0107】
また上述の実施の形態では、車両ECU30で実行する縮退モードとして、主にセルのSOC使用範囲の制限を挙げた。この点、縮退モードは車両メーカにより様々な制御が可能である。例えば、電動車両1の走行に所定の上限速度を設けてもよい。
【0108】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0109】
[項目1]
電動車両(1)に搭載される電源システム(10)であって、
複数のセル(E1-En)が接続された蓄電部(11)と、
前記複数のセル(E1-En)の各電圧を測定する電圧測定部(13)と、
前記複数のセル(E1-En)に流れる電流を測定する電流測定部(15)と、
前記複数のセル(E1-En)の温度を測定する温度測定部(14)と、
前記電圧測定部(13)により測定される各セルの電圧、前記電流測定部(15)により測定される電流、及び前記温度測定部(14)により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を決定し、決定した電流制限値を前記電動車両(1)内の上位の制御部(30)に通知する制御部(16)と、
を備えることを特徴とする電源システム(10)。
これによれば、電流制限値により、セル劣化の抑制と安全性の確保を両方、実現することができる。
[項目2]
前記制御部(16)は、前記電圧測定部(13)により測定される各セルの電圧、及び前記電流測定部(15)により測定される電流をもとに各セルのSOC(State Of Charge)を推定し、推定したSOCと前記温度測定部(14)により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定することを特徴とする項目1に記載の電源システム(10)。
これによれば、SOCと温度をもとに電流制限値を決定することができる。
[項目3]
前記制御部(16)は、前記複数のセル(E1-En)の内、ある測定単位の前記電圧測定部(13)に異常が発生したとき、当該測定単位に含まれるセルの電圧を、他の正常な測定単位の前記電圧測定部(13)により測定された電圧で置換することを特徴とする項目2に記載の電源システム(10)。
これによれば、ある測定単位の電圧測定部(13)に異常が発生しても、他の正常な測定単位の電圧測定部(13)の値で代替することにより、電流制限値を求めることができる。
[項目4]
前記制御部(16)は、前記電圧測定部(13)に異常が発生したとき、前記電流測定部(15)により測定された電流の絶対値に正のオフセット値を加えることを特徴とする項目3に記載の電源システム(10)。
これによれば、電圧測定部(13)に異常が発生したとき、測定された電流の絶対値に正のオフセット値を加えることにより、安全性の要求基準を上げることができる。
[項目5]
前記制御部(16)は、前記蓄電部(11)の放電時に前記電圧測定部(13)に異常が発生したとき、前記推定したSOCに1未満の正の係数を掛け、前記蓄電部(11)の充電時に前記電圧測定部(13)に異常が発生したとき、前記推定したSOCに1を超える正の係数を掛けることを特徴とする項目3に記載の電源システム(10)。
これによれば、電圧測定部(13)に異常が発生したとき、推定したSOCに係数を掛けることにより、安全性の要求基準を上げることができる。
[項目6]
前記制御部(16)は、前記電流測定部(15)に異常が発生したとき、前記電圧測定部(13)により測定された各セルの電圧をもとに各セルのSOCを推定し、推定したSOCと前記温度測定部により測定される温度をもとに、前記電流制限値を決定することを特徴とする項目1に記載の電源システム(10)。
これによれば、電流測定部(15)に異常が発生したとき、セルの異常検出方法を変更することにより、縮退モードの範囲内で電動車両(1)の走行を継続することができる。
[項目7]
前記制御部(16)は、前記蓄電部(11)の放電時に前記電流測定部(15)に異常が発生したとき、前記電圧測定部(13)により測定された電圧に負のオフセット値を加え、前記蓄電部(11)の充電時に前記電流測定部(15)に異常が発生したとき、前記電圧測定部(13)により測定された電圧に正のオフセット値を加えることを特徴とする項目6に記載の電源システム(10)。
これによれば、電流測定部(15)に異常が発生したとき、測定された電圧にオフセット値を加えることにより、安全性の要求基準を上げることができる。
[項目8]
前記制御部(16)は、前記複数のセル(E1-En)のSOCの使用範囲を狭めることを特徴とする項目3から7のいずれか1項に記載の電源システム(10)。
これによれば、電源システム(10)の安全性を向上させることができ、測定機能の信頼性の低下を補うことができる。
[項目9]
車両用電源システム(10)に含まれる管理装置(12)であって、
前記車両用電源システムに含まれる蓄電部(11)に含まれる複数のセル(E1-En)の各電圧を測定する電圧測定部(13)と、
前記複数のセル(E1-En)に流れる電流を測定する電流測定部(15)と、
前記複数のセル(E1-En)の温度を測定する温度測定部(14)と、
前記電圧測定部(13)により測定される各セルの電圧、前記電流測定部(15)により測定される電流、及び前記温度測定部(14)により測定される温度をもとに、セル劣化の抑制および安全性確保のための電流の上限を規定する電流制限値を算出し、算出した電流制限値を、電動車両(1)内の上位の制御部(30)に通知する制御部(16)と、
を備えることを特徴とする管理装置(12)。
これによれば、電流制限値により、セル劣化の抑制と安全性の確保を両方、実現することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 電動車両、 2 商用電力系統、 3 充電器、 4 充電ケーブル、 10 電源システム、 11 蓄電部、 12 管理部、 13 電圧測定部、 13a 主電圧測定回路、 13b 副電圧測定回路、 14 温度測定部、 14a 温度測定回路、 15 電流測定部、 15a 第1電流測定回路、 15b 第2電流測定回路、 16 制御部、 16a SOC-OCVマップ、 16b SOC・温度マップ、 E1-En セル、 Rs シャント抵抗、 T1,T2 温度センサ、 20 車載ネットワーク、 20a メインネットワーク、 20b サブネットワーク、 30 車両ECU、 40 インバータ、 50 モータ、 60 計器盤、 RY1 第1リレー、 RY2 第2リレー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12