(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】マイクロホン装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/40 20060101AFI20240119BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
H04R1/40 320B
H04R3/00 320
(21)【出願番号】P 2020566044
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001246
(87)【国際公開番号】W WO2020148859
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-06-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000223182
【氏名又は名称】TOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163979
【氏名又は名称】濱名 哲也
(72)【発明者】
【氏名】末次 利充
(72)【発明者】
【氏名】久保田 裕司
【合議体】
【審判長】五十嵐 努
【審判官】木方 庸輔
【審判官】高橋 宣博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/048813(WO,A1)
【文献】特開平4-181897(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069184(WO,A1)
【文献】特開2013-78118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/40,
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1マイクロホンと、
指向方向において前記第1マイクロホンよりも後方に配置される第2マイクロホンと、
前記第2マイクロホンの第2出力の強度に対する前記第1マイクロホンの第1出力の強度との比である出力比を演算する出力比演算装置と、
前記第1マイクロホンの第1出力を調整して第3出力を形成する調整装置と、
前記出力比に基づいて前記調整装置の前記第3出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記調整装置は、前記出力比が、閾値以上の値として設定される参照値以上の値であるとき、前記出力比が大きいほど第1出力からの下げ幅が大きく、前記出力比に対して調整後の第3出力の強度が一定の値になるように、かつ、調整後の第3出力の強度が所定値以上となるように、前記第1出力を調整することによって、前記第3出力を形成し、
前記出力制御装置は、
前記出力比が、前記閾値以上の値であるとき、前記調整装置から出力される前記第3出力の強度を変化させずに第4出力として出力し、
前記出力比が、前記閾値よりも小さいとき、前記調整装置から出力される前記第3出力の強度を低下させて第4出力として出力する
マイクロホン装置。
【請求項2】
第1マイクロホンと、
指向方向において前記第1マイクロホンよりも後方に配置される第2マイクロホンと、
前記第2マイクロホンの第2出力の強度に対する前記第1マイクロホンの第1出力の強度との比である出力比を演算する出力比演算装置と、
前記第1マイクロホンの第1出力を調整して第3出力を形成する調整装置と、
前記出力比に基づいて前記調整装置の前記第3出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記調整装置は、前記出力比が、閾値以上の値として設定される参照値以上の値であるとき、前記出力比が大きいほど第1出力からの下げ幅が大きく、前記出力比が大きいほど調整後の第3出力の強度が大きく、かつ、調整後の第3出力の強度が所定値以上となるように、前記第1出力を調整することによって、前記第3出力を形成し、
前記出力制御装置は、
前記出力比が、前記閾値以上の値であるとき、前記調整装置から出力される前記第3出力の強度を変化させずに第4出力として出力し、
前記出力比が、前記閾値よりも小さいとき、前記調整装置から出力される前記第3出力の強度を低下させて第4出力として出力する
マイクロホン装置。
【請求項3】
前記調整装置は、前記出力比が前記参照値以上であるとき、高周波数から低周波数に向かって下げ幅が大きくなるように、前記第1出力を調整することによって第3出力を形成する
請求項1または2に記載のマイクロホン装置。
【請求項4】
前記出力制御装置は、前記出力比が前記閾値よりも小さくなるとき、前記出力比が前記閾値よりも小さくなる時点から所定のホールド時間にわたって前記第3出力の大きさを変化させずに前記第4出力として出力し、前記ホールド時間の経過後、所定速度よりも小さい減衰速度で前記調整装置から出力される前記第3出力を減衰させる
請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロホン装置。
【請求項5】
前記第2マイクロホンは、指向方向において前記第1マイクロホンよりも後方に配置される複数の第2マイクロホンのうちの1つであり、
前記出力比演算装置は、前記第1マイクロホンと複数の前記第2マイクロホンそれぞれの各ペアについて、前記第2マイクロホンの第2出力の強度に対する前記第1マイクロホンの第1出力の強度との比である出力比を参考出力比として算出し、複数の前記参考出力比の少なくとも1つに基づいて、複数の前記参考出力比のうちの1つを前記出力比として選択する
請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロホン装置。
【請求項6】
第1マイクロホンと、
指向方向において前記第1マイクロホンよりも後方に配置される第2マイクロホンと、
前記第2マイクロホンの第2出力の強度に対する前記第1マイクロホンの第1出力の強度との比である出力比を演算する出力比演算装置と、
前記第1マイクロホンの第1出力を調整して第3出力を形成する調整装置と、
前記出力比に基づいて前記調整装置の前記第3出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記出力制御装置は、前記出力比が閾値よりも小さくなるとき、前記出力比が前記閾値よりも小さくなる時点から所定のホールド時間にわたって前記第3出力の大きさを変化させず
に第4出力として出力し、前記ホールド時間の経過後、所定速度よりも小さい減衰速度で前記調整装置から出力される前記第3出力を減衰させて第4出力として出力する
マイクロホン装置。
【請求項7】
第1マイクロホンと、
指向方向において前記第1マイクロホンよりも後方に一列に配置される複数の第2マイクロホンと、
前記第2マイクロホンの第2出力の強度に対する前記第1マイクロホンの第1出力の強度との比である出力比を演算する出力比演算装置と、
前記第1マイクロホンの第1出力を調整して第3出力を形成する調整装置と、
前記出力比に基づいて前記調整装置の前記第3出力を制御する出力制御装置とを備え、
前記出力比演算装置は、前記第1マイクロホンと複数の前記第2マイクロホンそれぞれの各ペアについて、前記第2マイクロホンの第2出力の強度に対する前記第1マイクロホンの第1出力の強度との比である出力比を参考出力比として算出し、複数の前記参考出力比の少なくとも1つに基づいて、複数の前記参考出力比のうちの1つを前記出力比として選択し、
前記出力制御装置は、前記出力比が閾値よりも小さいとき、前記調整装置から出力される前記第3出力の強度を低下させて第4出力として出力する
マイクロホン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力を調整するマイクロホン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のマイクロホン装置は、複数のマイクロホンを有する。マイクロホン装置は、複数のマイクロホンの信号のレベル比を演算し、レベル比に基づいて、マイクロホンの出力を調整する。これにより、マイクロホンに音源が近づいたときに生じる近接効果が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、マイクロホン装置において電源がオンの状態であれば、話者が話をしていないときでも周辺音がマイクロホンに収音されて目的とする音以外の音が拡声されてしまう。このようなことを抑制するため、専任の音響スタッフが話者のマイクロホン装置の使用態様を確認しながらマイクロホン装置をオンオフすることがある。しかし、この場合、マイクロホン装置を使用する会場等において専用の音響スタッフが付けなければならず、話者のマイクロホン装置の使用態様を確認しながらマイクロホン装置の使用のたびに各マイクロホン装置の電源のオンオフの操作をしなければならないといった、手間を要する。
【0005】
本発明の目的は、電源のオンオフを行わなくとも、使用者のマイクロホン装置の使用態様にあわせてマイクロホン装置の出力を変化させることができる、マイクロホン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一側面に従うマイクロホン装置は、第1マイクロホンと、指向方向において前記第1マイクロホンよりも後方に配置される第2マイクロホンと、前記第1マイクロホンの第1出力の強度と前記第2マイクロホンの第2出力の強度との比である出力比を演算する出力比演算装置と、前記第1マイクロホンの第1出力を調整して第3出力を形成する調整装置と、前記出力比に基づいて前記調整装置の第3出力を制御する出力制御装置とを備え、前記出力制御装置は、前記出力比が閾値よりも小さいとき、前記調整装置から出力される第3出力の強度を低下させて第4出力として出力する。
【0007】
第1マイクロホンと第2マイクロホンとの出力比は、音源と第1マイクロホンとの間の音源距離の大きさの目安になる。音源距離が大きいとき、出力比は小さくなる。上記構成によれば、出力比が閾値よりも小さいとき調整装置の第3出力を低下させる。これによって、音響スタッフ等が電源のオンオフ操作を行わなくとも、使用者のマイクロホン装置の使用にあわせてマイクロホン装置の出力を変化させることができる。
【0008】
(2)上記マイクロホン装置において、前記調整装置は、前記出力比が、参照値以上の値であるとき、前記出力比が大きいほど第1出力からの下げ幅が大きく、出力比に対して調整後の第3出力の強度が一定の値になるように、かつ、調整後の第3出力の強度が所定値以上となるように、前記第1出力を調整することによって、前記第3出力を形成し、前記出力制御装置は、前記出力比が、前記閾値以上の値であるとき、前記調整装置から出力される第3出力の強度を変化させずに第4出力として出力する。
【0009】
音源距離が小さいほど第1出力の強度が過大になり、耳障りな音になる。この点、上記構成によれば、第3出力の強度が所定値よりも小さくならないように、音源距離が小さいほど第1出力からの下げ幅が大きくされ、かつ、音源距離に対して第3出力が一定となるように、第3出力が形成される。これによって、第3出力の強度を、音源距離の変化に対して一定となるようにすることができる。
【0010】
(3)上記マイクロホン装置において、前記調整装置は、前記出力比が、参照値以上の値であるとき、前記出力比が大きいほど第1出力からの下げ幅が大きく、前記出力比が大きいほど調整後の第3出力の強度が大きく、かつ、調整後の第3出力の強度が所定値以上となるように、前記第1出力を調整することによって、前記第3出力を形成し、前記出力制御装置は、前記出力比が、前記閾値以上の値であるとき、前記調整装置から出力される第3出力の強度を変化させずに第4出力として出力する。
【0011】
音源距離が小さいほど第1出力の強度が過大になり、耳障りな音になる。この点、上記構成によれば、第3出力の強度が所定値よりも小さくならないように、音源距離が小さいほど第1出力からの下げ幅が大きくされ、かつ、音源距離が小さいほど第3出力が大きくなるように、第3出力が形成される。これによって、第3出力を、音源距離に応じた適度な強度の出力にすることができる。
【0012】
(4)上記マイクロホン装置において、前記調整装置は、前記出力比が前記参照値以上であるとき、高周波数から低周波数に向かって下げ幅が大きくなるように、前記第1出力を調整することによって第3出力を形成する。この構成によれば、音源距離が小さいほど低周波領域の音が強調される近接効果を抑制できる。
【0013】
(5)上記マイクロホン装置において、前記出力制御装置は、前記出力比が前記閾値よりも小さくなるとき、前記出力比が前記閾値よりも小さくなる時点から所定のホールド時間にわたって前記第3出力の大きさを変化させずに前記第4出力として出力し、前記ホールド時間の経過後、所定速度よりも小さい減衰速度で前記調整装置から出力される第3出力を減衰させる。
【0014】
上記構成によれば、出力比が閾値よりも小さくなった途端に第3出力を急減させるのではなく、ホールド時間にわたって第3出力の大きさを変化させずに第4出力として出力し、その後、所定速度よりも小さい減衰速度で第3出力を減衰させる。これによって、言葉と言葉とが滑らかに繋がるようになり、話者の話(スピーチ等)は、言葉と言葉との間で途切れない聴き取り易いものとなる。
【0015】
(6)上記マイクロホン装置において、前記第2マイクロホンは、指向方向において前記第1マイクロホンよりも後方に配置される複数の第2マイクロホンのうちの1つであり、前記出力比演算装置は、前記第1マイクロホンと複数の前記第2マイクロホンそれぞれの各ペアについて、前記第1マイクロホンの第1出力の強度と前記第2マイクロホンの第2出力の強度との比である出力比を参考出力比として算出し、複数の前記参考出力比の少なくとも1つに基づいて、複数の前記参考出力比のうちの1つを前記出力比として選択することが好ましい。
【0016】
音源距離の推定精度は、出力比の算出元の2つのマイクロホンの間の間隔距離に応じて変わる。上記構成では、第1マイクロホンの第1出力の強度と複数の第2マイクロホンの第2出力の強度とに基づいて複数の参考出力比を算出する。そして、参考出力比の少なくとも1つに基づいて、複数の参考出力比の1つを出力比として選択する。これによって、音源距離の推定精度が向上する。
【発明の効果】
【0017】
マイクロホン装置によれば、使用者のマイクロホン装置の使用態様にあわせてマイクロホン装置の出力を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】
図3(a)は、出力比と音源距離との関係を示し、
図3(b)は、調整装置のゲインと音源距離との関係を示し、
図3(c)は、出力制御装置の状態と音源距離との関係を示すチャート。
【
図6】音源距離に対する第1出力の強度および第3出力の強度を示すグラフ。
【
図7】
図7(a)は、出力比の時刻変化を示すチャート、
図7(b)は、出力制御装置の状態の時刻変化を示すチャート。
【
図9】マイクロホン装置の変形例について、
図9(a)は、第1参考出力比および第2参考出力比と音源距離との関係を示すチャート、
図9(b)は、第1選択状態のときの調整装置のゲインと音源距離との関係を示すチャート、
図9(c)は、第2選択状態のときの調整装置のゲインと音源距離との関係を示すチャート、
図9(d)は、第1選択状態のときの出力制御装置の状態と音源距離との関係を示すチャート、
図9(e)は、第2選択状態のときの出力制御装置の状態と音源距離との関係を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1~
図7を参照してマイクロホン装置について説明する。
図1に示されるように、マイクロホン装置1は、本体部2と、本体部2に設けられるヘッド部3とを有する。ヘッド部3は、音声を収音する。本体部2は、ヘッド部3を支持する。
図1には、携帯タイプのマイクロホン装置1が示されている。マイクロホン装置1は、テーブルまたは床に置かれるスタンドタイプであってもよい。
【0020】
図2に示されるように、マイクロホン装置1は、第1マイクロホン11と、第2マイクロホン12と、出力比演算装置13と、調整装置14と、出力制御装置15とを備える。マイクロホン装置1は、電源装置を備えてもよい。マイクロホン装置1は電力配線を備えてもよい。
【0021】
第1マイクロホン11は、単一指向性を有する。第1マイクロホン11は、ヘッド部3の先端部に設けられる。第2マイクロホン12は、単一指向性を有する。第2マイクロホン12は、第1マイクロホン11と同じ構造であってもよく、第1マイクロホン11と異なる構造であってもよい。第2マイクロホン12は、ヘッド部3に設けられる。第2マイクロホン12は、マイクロホン装置1の指向方向DAにおいて第1マイクロホン11よりも後方DRに配置される。本実施形態では、指向方向DAは、本体部2からヘッド部3に向く方向と一致する。第1マイクロホン11の指向方向および第2マイクロホン12の指向方向はともに、マイクロホン装置1の指向方向DAに一致する。後方DRは、指向方向DAと反対の方向を示す。
【0022】
出力比演算装置13は、出力比SRを演算する。出力比SRは、第1マイクロホン11の第1出力S1の強度と第2マイクロホン12の第2出力S2の強度との比を示す。第1マイクロホン11の第1出力S1の強度と第2マイクロホン12の第2出力S2の強度との比は、第2マイクロホン12の第2出力S2の強度Bに対する第1マイクロホン11の第1出力S1の強度Aの比(A/B)、または、比(A/B)の対数値(logA/B)を示す。第1出力S1および第2出力S2は、音響信号である。一例では、出力比SRは、比(A/B)の対数として、算出される。出力比SRは、第1マイクロホン11の第1出力S1の強度Aの対数値から第2マイクロホン12の第2出力S2の強度Bの対数値を引いた差分(logA-logB=logA/B)として計算されてもよい。
【0023】
音源距離LSは、第1マイクロホン11と第2マイクロホン12とを通る線上において、第1マイクロホン11と音源との間の距離として定義される。音源の一例は、使用者の口である。本実施形態では、音源距離LSは、使用者の口元と第1マイクロホン11との間の距離を示す。音源距離LSが大きくなるほど、第1マイクロホン11および第2マイクロホン12に入力される音声強度が小さくなる。第1マイクロホン11は、第2マイクロホン12よりも使用者の口元に近い位置にあるため、第1マイクロホン11に入力される音声強度は、第2マイクロホン12に入力される音声強度よりも大きい。第1マイクロホン11に入力される音声強度と第2マイクロホン12に入力される音声強度との比である出力比SR(logA/B)は、音源距離LSの増大にともなって小さくなる(
図3(a)参照)。このように、出力比SRは、音源距離LSと所定の関係を有する。出力比SRは、人による声の大小に関係なく、音源距離LSによって変化する。このため、出力比SRは、音源距離LSの目安として用いることができる。
【0024】
図3(a)は、音源距離LSと出力比SRとの関係の一例を示すチャートである。
図3(a)に示される出力比SRに対する音源距離LSの関係によれば、出力比SRが第1閾値A1であるとき、音源距離LSは、距離L1と推定される。出力比SRが参照値R1であるとき、音源距離LSは、距離L2と推定される。
図3(b)は、調整装置14で使用される、音源距離LSに対するゲインの一例である。
図3(c)は、出力制御装置15で使用される、音源距離LSに対して出力制御装置15の状態の一例である。なお、
図3(b)のゲインおよび
図3(c)の出力制御装置15の状態は、音源距離LSと関係づけられているが、ゲインおよび出力制御装置15の状態は、音源距離LSを導出する元のデータである出力比SRに関連づけられてもよい。いずれの場合においても、ゲインおよび出力制御装置15の状態は、出力比SRの大きさに対応付けられる。ゲインおよび出力制御装置15の状態は、出力比SRの大きさに基づいて決められる。
【0025】
調整装置14は、第1マイクロホン11の第1出力S1を調整することによって第1出力S1に基づく第3出力S3を形成する。
調整装置14は、信号処理装置によって構成される。信号処理装置は、第1出力S1をプログラムに基づいて加工し、加工された信号を第3出力S3として出力する。プログラムは、信号処理装置に格納される。プログラムは、信号に各種のエフェクトを加える。エフェクトの例として、周波数特性の調整および強度の調整が挙げられる。
【0026】
調整装置14は第1調整を行う。好ましくは、調整装置14は、さらに第2調整を行う。第1調整および第2調整は、別々に行われてもよいし、2つの調整内容を含む1つの調整として同時に行われてもよい。
【0027】
第1調整では、調整装置14は、出力比SRが参照値R1以上であるとき、出力比SRが大きいほど第1出力S1からの下げ幅LAが大きくなるように、出力比SRに対して調整後の第3出力S3が一定の値となるように、かつ、調整後の第3出力S3の強度が所定値CA以上となるように、第1出力S1を調整し、調整後の出力を第3出力S3として出力する(
図6実線参照)。参照値R1は、第1閾値A1と等しい値であっても、第1閾値A1と異なる値であってもよい。参照値R1が第1閾値A1と異なる値であるとき、参照値R1は、第1閾値A1よりも大きい値に設定される。下げ幅LAは、調整装置14に入力される第1出力S1の強度に対する強度の下げ幅を示す。具体的には、調整装置14は、
図3(b)に示されるゲインに基づいて第1出力S1の大きさを調整する。出力比SRとゲインとの関係は、予め設定されている。
【0028】
第1調整は、次のように構成されてもよい。第1調整では、調整装置14は、出力比SRが参照値R1以上であるとき、出力比SRが大きいほど第1出力S1からの下げ幅LBが大きくなるように、出力比SRが大きいほど調整後の第3出力S3が大きい値となるように、かつ、調整後の第3出力S3の強度が所定値CA以上となるように、第1出力S1を調整し、調整後の出力を第3出力S3として出力する(
図6一点鎖線参照)。
【0029】
音源距離LSが小さいほど第1出力S1の強度が過大になり、耳障りな音になる。これに対して、第1調整によれば、音源距離LSが小さくなるほど、調整装置14に入力される第1出力S1に対する下げ幅LA(LB)が大きくなるため、第1出力S1の強度が過大になることが抑制される。また、第1調整によれば、音源距離LSが距離L2以下のとき音源距離LSの変化に対して調整後の第3出力S3の強度が変わらない。他の例では、第1調整によれば、音源距離LSが距離L2以下のとき、音源距離LSが小さくなるほど、調整後の第3出力S3の強度が大きい。これによって、マイクロホン装置1と口元との間の距離が短いほど、出力が大きくなる。また、第1調整によれば、調整後の第3出力S3が所定値CA以上になる。このことから、調整後の第3出力S3が、第3出力S3の値が小さくなり過ぎることはない。
【0030】
第2調整では、調整装置14は、出力比SRが参照値R1以上であるとき、高周波数から低周波数に向かって下げ幅が大きくなるように、第1出力S1の周波数特性を調整する。第2調整によれば、近接効果が抑制される。
【0031】
図4には、第1調整および第2調整が行われる前の第1出力S1の周波数特性が示されている。より具体的に言えば、
図4には、音源距離LSが異なる複数の位置から発生された音声に対応して、複数の第1出力S1の波形が示されている。この例では、音源距離LSは、1cm、2cm、4cm、8cm、16cm、および32cmである。音源距離LSが小さいほど、第1出力S1の強度は大きい。
【0032】
図5には、第1調整および第2調整が行われることによって形成された第3出力S3の周波数特性が示されている。1cm、2cm、4cm、8cm、16cm、および32cmに対応する第3出力S3の強度のそれぞれは、元の第1出力S1の強度よりも小さい。また、音源距離LSが小さいほど、第3出力S3の強度は大きい。
図4において、比較のため、音源距離LSが32cmである位置から発生された音声に対応する第1出力S1の強度を「0」として、他の第1出力S1の強度が正規化されている。同様に、
図5において、比較のため、音源距離LSが32cmである位置から発生された音声に対応する第3出力S3の強度を「0」として、他の第3出力S3の強度が正規化されている。
【0033】
図4と
図5とを比較すると分かるように、調整装置14の調整によれば、周波数50Hz~20kHzの範囲で、第3出力S3の強度は第1出力S1の強度よりも低下している。また、音源距離LSが小さい第1出力S1ほど、強度の下げ幅LA(LB)が大きい。これは、第1調整が反映されていることを示す。これによって、口元がマイクロホン装置1に近づくときの音声の過大強調が抑制される。また、音源距離LSが小さい第1出力S1ほど、調整後の第3出力S3の強度は大きい(
図5参照)。これは、第1調整が反映されていることを示す。第1調整によれば、使用者がスピーチの最中にマイクロホン装置1を口元に近づけると、第3出力S3が大きくなる。これによって、使用者とマイクロホン装置1との間の距離と音量との関係を、マイクロホン装置に近づくほど音量が増大するという経験からくる使用者の感覚と合致させることができる。
【0034】
図4と
図5とを比較すると分かるように、調整装置14の調整によれば、周波数50Hz~20kHzの範囲において、低い周波数ほど、第1出力S1の強度の下げ幅が大きい。これは、近接効果を抑制するための第2調整が反映されていることを示す。これによって、口元がマイクロホン装置1に近づくときの音声の質の変化(こもり)が抑制される。
【0035】
出力制御装置15は、出力比演算装置13によって演算された出力比SRに基づいて、調整装置14の第3出力S3を制御する。出力制御装置15は、入力される第3出力S3に対して、第3出力S3の強度を変化させずにそのまま出力するオープン状態と、第3出力S3の強度をミュート強度まで低下させるクローズ状態とをとる。例えば、出力制御装置15は、クローズ状態において、第3出力S3の強度を所定の下げ幅LCだけ低下させる。出力制御装置15は、出力比SRの値に基づいて、オープン状態とクローズ状態とを切り替える。ミュート強度は、スピーカーの再生によって聞き取れない程度の信号の強度を示す。
【0036】
出力制御装置15は、クローズ状態において、出力比SRが第2閾値A2よりも大きくなるとき、速やかにオープン状態となって、調整装置14の第3出力S3の強度を変化させずに、そのまま第4出力S4として出力する。第2閾値A2は、第1閾値A1よりも大きい。
【0037】
出力制御装置15は、オープン状態において、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなるとき、クローズ状態となって、調整装置14の第3出力S3の強度を低下させて第4出力S4として出力する(以下、「出力低下動作」)。具体的には、出力低下動作において、出力制御装置15は、クローズ状態において、第3出力S3の強度を所定の下げ幅LCだけ下げることによって、第3出力S3の強度をミュート強度まで低下させる。本実施形態では、「出力比SRが第1閾値A1よりも小さいとき」とは、音源距離LSが距離L1よりも大きいときを示す。
【0038】
好ましくは、出力制御装置15は、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなるとき、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなる時点から所定のホールド時間THにわたって第3出力S3の大きさを変化させずに第4出力S4として出力し、ホールド時間THの経過後、所定速度よりも小さい減衰速度で第3出力S3を減衰させる。
【0039】
図6を参照して、音源距離LSに対する第3出力S3の一例を説明する。
図6のグラフは、第1マイクロホン11から出力される第1出力S1の強度と、第1出力S1の調整によって形成される第3出力S3の強度との関係を示す。
図6には、第1出力S1の強度および第3出力S3の強度が、音源距離LSおよび出力比SRに対してプロットされて形成されたチャートが示されている。
図6から分かるように、第1出力S1は、音源距離LSが大きいほど小さくなる。第3出力S3の強度は、音源距離LSが距離L1よりも大きいとき、出力制御装置15によって、第1出力S1の強度から所定の下げ幅LCだけ下げられた値(ミュート強度)となる。
図6から分かるように、第3出力S3は、音源距離LSが距離L2以下であるとき、調整装置14によって、音源距離LSが小さくなるほど第1出力S1の強度から下げ幅LAが大きくなりかつ所定値CA以上の値になっている。一例では、第3出力S3は、音源距離LSが距離L2以下であるとき(出力比SRが参照値R1以上のとき)、音源距離LSに対して一定である(
図6の実線参照)。他の例では、第3出力S3は、音源距離LSが距離L2以下であるとき(出力比SRが参照値R1以上のとき)、音源距離LSが小さくなるほど大きくなる(
図6の一点鎖線参照)。
【0040】
図7に、出力制御装置15の動作の一例を示す。
図7(a)に示されるチャートは、時刻に対する出力比SRの変化を示す。出力比SRは、時刻t1において初期値から立ち上がり、時刻t2において一定になり、時刻t3において下り、時刻t4において、初期値に戻る。このようなパターンは、スピーチにおいて現れる。具体的には、話者が、言葉と言葉との間に「間」(発音しない時間帯)を作るとき、このようなパターンになる。時刻t1から時刻t4の期間が言葉を発している時間帯であり、時刻t4以降が言葉の「間」に対応する時間帯である。このようなパターンに対して、出力制御装置15の動作は、
図7(b)に示されるチャートのように動作する。出力制御装置15は、クローズ状態において、出力比SRが第2閾値A2よりも大きくなる時刻t21で、オープン状態になる。すなわち、話者が話を始めると、出力制御装置15はオープン状態になり、第3出力S3が第4出力S4として出力されるようになる。その後、出力制御装置15は、オープン状態において、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなる時刻t22からホールド時間THの経過したとき、当該時刻t23から、出力制御装置15は、所定の減衰速度でクローズ状態に向う。すなわち、話者が言葉を発し終えた後、少なくともホールド時間THにわたって、出力制御装置15はオープン状態にある。これによって、話者が言葉を発し終えた後、少しの間をおいて引き続き言葉を発し始めるとき、出力制御装置15は、これらの言葉に対応する音声を、途切れのない一続きの信号として、出力する。この結果、マイクロホン装置1から出された出力に基づいてスピーカーによって再生される音声は、途切れがない自然な聞きやすい音声になる。
【0041】
本実施形態の作用を説明する。
本実施形態のマイクロホン装置1によれば、出力比SRが第1閾値A1よりも小さいとき、第3出力S3の強度が低下されて、第4出力S4として出力される。具体的には、出力制御装置15は、第3出力S3の強度を、スピーカーの再生では聞き取れない程度の強度(「ミュート強度」)まで低下して、第4出力S4として出力する。
【0042】
例えば、使用者の動作によってマイクロホン装置1から使用者の口元が遠くに離れてマイクロホン装置1に音声が入らないようになって、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなると、出力制御装置15がクローズ状態になり、第3出力S3の強度がミュート強度に低下される。また、マイクロホン装置1から遠いところでBGM等の音声が流れたとしても、出力比SRが第1閾値A1よりも小さい場合、出力制御装置15はクローズ状態のままである。このとき、出力制御装置15は、第3出力S3の強度を、スピーカーの再生では聞き取れない程度の強度(「ミュート強度」)まで低下して、第4出力S4として出力する。このように、マイクロホン装置1から遠い音がマイクロホン装置1に入力されたとしても、当該音の信号の強度が低減されるため、遠い音がマイクロホン装置1を介して拡声されるようなことは抑制される。
【0043】
図6に示されるように、使用者の動作によって使用者の口元がマイクロホン装置1に近づき、出力比SRが参照値R1以上になると、調整装置14によって音源距離LSが近づくほど調整後の第3出力S3の強度が小さくなるように、第1出力S1が調整される。さらに、
図5に示されるように、出力比SRが参照値R1以上であるとき、調整後の第3出力S3の周波数特性が高周波数から低周波数にわたって強度が略一定となるように第1出力S1の周波数特性が調整される。これによって、近接効果が抑制される。
【0044】
図7に示されるように、スピーチ等において言葉と言葉との間に「間」が形成されるような場合にも、出力比SRは、第1閾値A1よりも小さい値になる。すなわち、出力比SRが第1閾値A1よりも小さい値をとるような状況は、音源距離LSが距離L1となる場合、および、入力される音声の強度が微小である場合の2つの場合において生じる。出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなった瞬間に、出力制御装置15がクローズ状態になると、話者のスピーチが途切れた状態になる。この点、
図7を参照して説明したように、出力制御装置15は、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなったときから少なくともホールド時間THにわたってオープン状態を維持し、第3出力S3を変化させずに第4出力S4として出力する。これによって、話者のスピーチを、途切れない聞き易い音声に拡声できる。
【0045】
本実施形態の効果を説明する。
(1)マイクロホン装置1において、出力制御装置15は、出力比SRが第1閾値A1(閾値)よりも小さいとき、調整装置14の第3出力S3の強度を低下させて第4出力S4として出力する。
【0046】
第1マイクロホン11と第2マイクロホン12との出力比SRは、音源と第1マイクロホン11との間の距離である音源距離LSの大きさの目安になる。音源距離LSが大きいとき、出力比SRは小さくなる。上記構成によれば、出力比SRが第1閾値A1(閾値)よりも小さいとき調整装置14の第3出力S3の強度を低下させる。これによって、音響スタッフ等がマイクロホン装置1の電源のオンオフ操作を行わなくとも、使用者のマイクロホン装置1の使用にあわせてマイクロホン装置1の出力を変化させることができる。
【0047】
(2)調整装置14は、出力比SRが、参照値R1以上の値であるとき、出力比SRが大きいほど第1出力S1からの下げ幅LAが大きく、出力比SRに対して調整後の第3出力S3の強度が一定の値になるように、かつ、調整後の第3出力S3の強度が所定値CA以上となるように、第1出力S1を調整することによって、第3出力S3を形成する。出力制御装置15は、出力比SRが、第1閾値A1以上の値であるとき、調整装置14から出力される第3出力S3の強度を変化させずに第4出力S4として出力する。
【0048】
音源距離LSが小さいほど第1出力S1の強度が過大になり、耳障りな音になる。この点、上記構成によれば、第3出力S3の強度が所定値CAよりも小さくならないように、音源距離LSが小さいほど第1出力S1からの下げ幅LAが大きくされ、かつ、音源距離LSに対して第3出力S3が一定の値となるように、第3出力S3が形成される。これによって、第3出力S3の強度を、音源距離LSの変化に対して一定となるようにすることができる。
【0049】
(3)調整装置14は、次のように、第3出力S3を調整してもよい。調整装置14は、出力比SRが、参照値R1以上の値であるとき、出力比SRが大きいほど第1出力S1からの下げ幅LBが大きく、出力比SRが大きいほど調整後の第3出力S3の強度が大きくなるように、かつ、調整後の第3出力S3の強度が所定値CA以上となるように、第1出力S1を調整することによって、第3出力S3を形成する。出力制御装置15は、出力比SRが、第1閾値A1以上の値であるとき、調整装置14から出力される第3出力S3の強度を変化させずに第4出力S4として出力する。
【0050】
音源距離LSが小さいほど第1出力S1の強度が過大になり、耳障りな音になる。この点、上記構成によれば、第3出力S3の強度が所定値CAよりも小さくならないように、音源距離LSが小さいほど第1出力S1からの下げ幅LBが大きくされ、かつ、音源距離LSが小さいほど第3出力S3が大きくなるように、第3出力S3が形成される。これによって、第3出力S3を、音源距離LSに応じた適度な強度の出力にすることができる。
【0051】
(4)調整装置14は、出力比SRが参照値R1以上であるとき、高周波数から低周波数に向かって下げ幅が大きくなるように、第1出力S1を調整することによって第3出力S3を形成する。この構成によれば、音源距離LSが小さいほど低周波領域の音が強調されるという近接効果を抑制できる。
【0052】
(5)出力制御装置15は、出力比SRが第1閾値A1(閾値)よりも小さくなるとき、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなる時点から所定のホールド時間THにわたって第3出力S3の大きさを変化させずに第4出力S4として出力し、ホールド時間THの経過後、所定速度よりも小さい減衰速度で調整装置14から出力される第3出力S3を減衰させる。
【0053】
出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなった途端に第3出力S3を急減させると、マイクロホン装置1を介して拡声される音声が途切れ状態になる虞がある。例えば、話者の言葉と言葉の間における声が出ていない短い期間でも、第3出力S3の強度が低下されて第4出力として出力されるため、言葉と言葉の間の暗騒音が消されて、話者の話は、言葉と言葉の間が途切れた不自然で聴きづらいものとなる。
【0054】
この点、上記構成では、出力比SRが第1閾値A1よりも小さくなった途端に第3出力を急減させるのではなく、ホールド時間THにわたって第3出力S3の大きさを変化させずに第4出力S4として出力し、その後、所定速度よりも小さい減衰速度で第3出力S3を減衰させる。これによって、言葉と言葉の間の期間がホールド時間THよりも短いとき、言葉と言葉とが滑らかに繋がるようになり、話者の話(スピーチ等)は、言葉と言葉との間で途切れない聴き取り易いものとなる。
【0055】
<その他の実施形態>
実施形態に関する説明は、マイクロホン装置1の例示である。マイクロホン装置1は、以下に示される変形例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。以下の変形例において、実施形態と共通する部分については、実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
・
図8を参照して、複数の第2マイクロホンを備えるマイクロホン装置1xの例を説明する。
音源距離LSが大きくなると、出力比SRが小さくなる。出力比SRが小さくなると、音源距離LSの変化に対する出力比SRの変化が小さくなることから、出力比SRに基づいて推定される音源距離LSの推定誤差が大きくなる。一方、第1マイクロホン11と第2マイクロホン12との間の間隔距離が大きくなると、出力比SRも大きくなる。しかし、第1マイクロホン11と第2マイクロホン12との間の間隔距離が大き過ぎると、第2マイクロホン12の第2出力S2の強度が小さくなり、出力比SRのノイズが大きくなる。このようなことから、間隔距離が相違する複数組のマイクロホンから複数の出力比SRが算出され、音源距離LSの大きさに応じて、複数の出力比SRのうちから適切なものが選択されることが好ましい。以下に、具体例を説明する。
【0057】
図8に示されるように、マイクロホン装置1xは、第1マイクロホン11と、2つの第2マイクロホン12,17とを備える。2つの第2マイクロホン12,17は、指向方向DAにおいて第1マイクロホン11よりも後方DRに配置される。2つの第2マイクロホン12,17は、指向方向DAに沿って一列に配置される。
【0058】
出力比演算装置13は、第1マイクロホン11と2つの第2マイクロホン12,17それぞれの各ペアについて、第1マイクロホン11の第1出力S1の強度と第2マイクロホン12,17の第2出力S21,S22の強度との比を、第1参考出力比SRX1および第2参考出力比SRX2として算出する。第1参考出力比SRX1は、前側の第2マイクロホン12の第2出力S21の強度B1に対する第1マイクロホン11の第1出力S1の強度Aの比(A/B1)の対数として、算出される。第2参考出力比SRX2は、後側の第2マイクロホン12の第2出力S22の強度B2に対する第1マイクロホン11の第1出力S1の強度Aの比(A/B2)の対数として、算出される。
【0059】
出力比演算装置13は、音源距離LSの大きさに応じて、2つの参考出力比SRXのうちの1つを「出力比SR」として選択する。音源距離LSの大きさは、2つの参考出力比SRXの少なくとも1つに基づいて、推定される。この変形例において「出力比SR」は、実施形態のマイクロホン装置1における「出力比SR」と同じ働きを有する。
【0060】
一例では、出力比演算装置13は、第1参考出力比SRX1の大きさに基づいて、第1参考出力比SRX1および第2参考出力比SRX2の一方を出力比SRとして選択する。例えば、出力比演算装置13は、第1参考出力比SRX1が判定値以上の値になるとき、第1参考出力比SRX1を、出力比SRとして選択する。出力比演算装置13は、第1参考出力比SRX1が判定値未満の値になるとき、第2参考出力比SRX2を、出力比SRとして選択する。判定値は、実施形態に示される第1閾値A1とは、独立に設定される値である。
【0061】
第1参考出力比SRX1と第2参考出力比SRX2とは異なる値をとる。出力比SRとして選択される参考出力比SRXの切り替え時において、連続性が維持されることが好ましい。
【0062】
このように、出力比SRは、音源距離LSに応じて、第1参考出力比SRX1または第2参考出力比SRX2の値をとる。これによって、出力比SRは、実際の音源距離LSに対して誤差に少ない音源距離LSの目安値となる。このような出力比SRが調整装置14に使われることによって、音源距離LSに応じて行われる調整が、一層、音源距離LSに適合したものとなる。
【0063】
以下、この変形例の作用を説明する。音源距離LSの推定精度は、出力比SRの算出元の2つのマイクロホンの間の間隔距離に応じて変わる。この変形例によれば、出力比演算装置13は、第1マイクロホン11の第1出力S1の強度と2つの第2マイクロホン12,17の第2出力S21,S22の強度とに基づいて2つの参考出力比SRXを算出する。そして、参考出力比SRXの少なくとも1つに基づいて、2つの参考出力比SRXのうちの1つを出力比SRとして選択する。これによって、音源距離LSの推定精度が向上する。
【0064】
・
図8および
図9を参照して、複数の第2マイクロホン12,17を備えるマイクロホン装置1yの他の例を説明する。マイクロホン装置1yについて、複数の第2マイクロホン12,17の配置関係は、マイクロホン装置1xにおける配置関係に準ずる。
【0065】
マイクロホン装置1yは、第1閾値A1に代えて、第3閾値A3と第4閾値A4とを有する。マイクロホン装置1yが、2つの第3閾値A3と第4閾値A4とを有することによって、出力低下動作を実行させる音源距離LSを変更できる。出力低下動作は、第3出力S3の強度をミュート強度まで低減する機能である。一例では、第3閾値A3および第4閾値A4の選択は、例えば、マイクロホン装置1yに取り付けられるスイッチ(図示省略)の切替操作によって行われる。以下では、第3閾値A3が選択されることを「第1選択状態」といい、第4閾値A4が選択されることを「第2選択状態」という。
【0066】
本変形例では、第4閾値A4は、第3閾値A3よりも小さい。第3閾値A3から第4閾値A4に切り替えられることによって、出力制御装置15がクローズ状態となる音源距離LSが、口元から遠くなる。
【0067】
出力比演算装置13は、出力比SRとして、音源距離LSに応じて、第1参考出力比SRX1および第2参考出力比SRX2のいずれか一方の値をとる。具体的には、出力比演算装置13は、第1参考出力比SRX1が判定値以上の値になるとき、第1参考出力比SRX1を、出力比SRとして選択する。出力比演算装置13は、第1参考出力比SRX1が判定値未満の値になるとき、第2参考出力比SRX2を、出力比SRとして選択する。調整装置14および出力制御装置15は、第2参考出力比SRX2が出力比SRとして選択される時点において、第2参考出力比SRX2に補正係数が掛け合わされた値を出力比SRとして使用する。補正係数は、音源距離LSに対する第2参考出力比SRX2のグラフと、音源距離LSに対する第1参考出力比SRX1のグラフとの連続性を維持するための、第2参考出力比SRX2に対する補正係数である。調整装置14および出力制御装置15は、出力比SRに基づいて、音源距離LSを算出する。調整装置14および出力制御装置15は、出力比SRと第3閾値A3または第4閾値A4とを比較し、出力比SRが第3閾値A3以上であるか否かまたは第4閾値A4以上であるか否かを判定する。
【0068】
図9を参照して、第3閾値A3が選択されるときの調整装置14のゲインの例および出力制御装置15の状態の一例、および、第4閾値A4が選択されるときの調整装置14のゲインの例および出力制御装置15の状態の一例を説明する。
【0069】
図9(a)において、曲線C1は、音源距離LSに対する第1参考出力比SRX1を示す。曲線C1で示される第1参考出力比SRX1に対する音源距離LSの関係によれば、第1参考出力比SRX1が第3閾値A3であるとき、音源距離LSは、距離L1と推定される。
【0070】
図9(a)において、曲線C2は、音源距離LSに対する第2参考出力比SRX2を示す。曲線C2で示される第2参考出力比SRX2に対する音源距離LSの関係によれば、第2参考出力比SRX2が第4閾値A4であるとき、音源距離LSは、距離L3と推定される。距離L3は、距離L1よりも大きい。
【0071】
図9(b)は、第1選択状態において調整装置14で使用される、音源距離LSに対するゲインの一例である。
図9(c)は、第2選択状態において調整装置14で使用される、音源距離LSに対するゲインの一例である。
図9(d)は、第1選択状態において出力制御装置15で使用される、音源距離LSに対する出力制御装置15のオープンクローズ状態の一例である。
図9(e)は、第2選択状態において出力制御装置15で使用される、音源距離LSに対する出力制御装置15のオープンクローズ状態の一例である。
【0072】
この変形例の効果を説明する。変形例のマイクロホン装置1yは、第1閾値A1に代えて、第3閾値A3と第4閾値A4とを有する。第3閾値A3と第4閾値A4とは、スイッチの切替操作によって切り替えられる。この構成によれば、出力低下動作を実行させる音源距離LSを変更できる。
【符号の説明】
【0073】
DA…指向方向、DR…後方、LS…音源距離、S1…第1出力、S2…第2出力、SR…出力比、1…マイクロホン装置、2…本体部、3…ヘッド部、11…第1マイクロホン、12,17…第2マイクロホン、13…出力比演算装置、14…調整装置、15…出力制御装置。