IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイムラー トラック エージーの特許一覧

<>
  • 特許-運転支援装置 図1
  • 特許-運転支援装置 図2
  • 特許-運転支援装置 図3
  • 特許-運転支援装置 図4
  • 特許-運転支援装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240119BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240119BHJP
   B62D 109/00 20060101ALN20240119BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240119BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D109:00
B62D113:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021007741
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112093
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】木下 正昭
(72)【発明者】
【氏名】游 尚霖
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-56173(JP,A)
【文献】特開2020-131972(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0031194(US,A1)
【文献】特開2016-193678(JP,A)
【文献】特開2018-34540(JP,A)
【文献】特開2020-147220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00,30/00-60/00
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後退時に前進時の軌跡を遡って辿るように自動操舵する運転支援装置であって、
前記車両の前進時における車速と操舵角とに基づき前記軌跡を推定する軌跡推定部と、
前記自動操舵の指示を受けて、前記車速と前記操舵角とから推定される前記車両の現在位置に相当する基準点と前記軌跡上で前記基準点からの距離が所定値になる目標点との位置関係に基づき目標操舵角を算出する目標操舵角算出部と、
前記車両の後退時における操舵角が前記目標操舵角になるようにステアリングを自動操舵する自動操舵部と、を備えるとともに、
操舵輪の回転速度に基づいて前記車速を算出する車速算出部をさらに備える
ことを特徴とする、運転支援装置。
【請求項2】
前記目標操舵角算出部が、前記車両の後退時に前記車速算出部で算出される前記車速に応じて前記所定値を変更する
ことを特徴とする、請求項1記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記目標操舵角算出部が、前記車両の後退時に前記車速算出部で算出される前記車速が高いほど前記所定値を大きく、前記車速が低いほど前記所定値を小さく変更する
ことを特徴とする、請求項2記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記車速は、すべての操舵輪の回転速度の平均値に基づいて算出される
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記基準点は、前記車両の上面視ですべての操舵輪の中央の位置とみなし、
前記軌跡は、前記基準点が移動した経路とする
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の後退時に前進時の軌跡を遡って辿るように自動操舵する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の後退時(バック走行時)に周囲の状況に関する情報を乗員に提供し、必要に応じて操作に介入することで運転を支援する運転支援装置が開発されている。例えば、車載カメラの撮影画像やGPS(Global Positioning System)の測位情報を用いて車両の前進時の走行軌跡を記録しておき、その走行軌跡と同じように車両を後退移動させる制御を実施するものが提案されている。このような制御により、例えば細い山道や狭隘道路,入り組んだ駐車場などでの後退が容易となり、ドライバーの負担が軽減される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007―237930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走行軌跡の記録に際し、自車両の位置は車載カメラの撮影画像に含まれる物体や建物などの位置を基準として特定することが可能である。一方、車長が長いトラックやバスなどの商用車においては、車載カメラで周囲の全体的な状況を把握しにくく、自車両の位置を精度よく求めることが難しい。また、GPSを用いて自車両の位置を高精度に測定するためには、大型で高価なGPSセンサやモジュールが必要となり、コストが嵩んでしまうほか、装置構成が複雑になってしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で自動操舵の精度を向上させることができるようにした運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
(1)本適用例の運転支援装置は、車両の後退時に前進時の軌跡を遡って辿るように自動操舵する運転支援装置である。この運転支援装置は、前記車両の前進時における車速と操舵角とに基づき、前記軌跡を推定する軌跡推定部と、前記自動操舵の指示を受けて、前記車速と前記操舵角とから推定される前記車両の現在位置に相当する基準点と前記軌跡上で前記基準点からの距離が所定値になる目標点との位置関係に基づき、目標操舵角を算出する目標操舵角算出部と、前記車両の後退時における操舵角が前記目標操舵角になるようにステアリングを自動操舵する自動操舵部と、を備える。また、操舵輪の回転速度に基づいて前記車速を算出する車速算出部をさらに備える。
【0007】
上記の運転支援装置によれば、操舵輪、すなわちステアリング操作によってその車輪方向が変更され、車両の進行方向を変更する車輪の回転速度から算出される車速の情報が用いられる。すなわち、ステアリングによって操舵される車輪の回転速度に基づいて車速を算出することが特徴の一つである。この車速と操舵角との情報に基づいて、軌跡推定部が軌跡を推定するため、車両の軌跡が精度よく特定される。また、この車速と操舵角との情報に基づいて車両の位置に相当する基準点位置を推定し、目標操舵角算出部は目標操舵角を算出することから、車両の後退時において軌跡を追従するための操舵角が適正化される。これにより、軌跡を精度よく辿ることが可能となり、簡素な構成で自動操舵の精度が向上する。
【0008】
特に、トラックなどの商用車ではホイールベースが長いため、ステアリングによって操作される操舵輪(通常は前輪)に基づいて車速を算出し、この車速と操舵角とに基づいて軌跡を求めることでより正確な車両の軌跡が特定される。また、後退時において、この車速と操舵角とに基づいて車両位置、すなわち基準点位置が精度よく推定される。したがって、軌跡を辿るための目標操舵角の算出がより正確になるため、軌跡を正しく辿ることが可能となる。
【0009】
(2)上記の(1)において、前記目標操舵角算出部が、前記車両の後退時に前記車速算出部で算出される前記車速に応じて前記所定値を変更してもよい。
車速に応じて所定値を変更することで、より精度高く軌跡に沿った車両の後退移動が可能となり、簡素な構成で自動操舵の精度が向上する。
【0010】
(3)上記の(2)において、前記目標操舵角算出部が、前記車両の後退時に前記車速算出部で算出される前記車速が高いほど前記所定値を大きく、前記車速が低いほど前記所定値を小さく変更してもよい。
車両を素早く後退させたときに、より遠方に目標点が設定され、逆に車両をゆっくり後退させたときに、より近くに目標点が設定されることとなり、自動操舵による軌跡への追従精度が向上する。
【0011】
(4)上記の(1)~(3)のいずれかにおいて、前記車速は、すべての操舵輪の回転速度の平均値に基づいて算出されてもよい。
すべての操舵輪の回転速度の平均値に基づいて車速を算出することで、車両の動きや軌跡の推定精度が向上し、簡素な構成で自動操舵の精度が向上する。
【0012】
(5)上記の(1)~(4)のいずれかにおいて、前記基準点は、前記車両の上面視ですべての操舵輪の中央の位置とみなし、前記軌跡は、前記基準点が移動した経路としてもよい。
上面視におけるすべての操舵輪の中央の位置を基準点にすることで、現実の車両の動きや軌跡の推定精度が向上し、簡素な構成で自動操舵の精度が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本適用例に係る運転支援装置によれば、既存のセンサ類のみを用いる簡素な構成で、自動操舵の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本適用例に係る運転支援装置が適用される車両の構成を示すブロック図。
図2図1に示す運転支援装置の構成を示すブロック図。
図3】(A)は前進時に推定される軌跡を示す模式図、(B)は後退時に設定される目標点を示す模式図。
図4図1に示す運転支援装置で実施される制御の手順を示すフローチャート。
図5】変形例に係る運転支援装置が適用される車両の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.装置構成]
図1図5は、本適用例及び変形例に係る運転支援装置10を説明するための図である。運転支援装置10は、図1に示す車両1に適用される電子制御装置(ECU,Electronic Control Unit)である。この運転支援装置10は、車両1の後退時に、前進時の軌跡を遡って辿るように自動操舵する運転支援制御を実施する。車両1は、例えばトラックやバス等の商用車である。図1に示す車両1は二軸車であるが、三軸車や四軸車に運転支援装置10を適用することも可能である。図1の車両1においては、操舵輪、すなわちステアリング操作によってその車輪の方向が変更され、車両の進行方向を変更する車輪が前輪2であり、駆動輪、すなわち動力が伝えられて車両を駆動する車輪が後輪3である。
【0016】
前輪2には、操舵装置6(自動操舵機能付きの操舵装置)が付設される。操舵装置6には、ステアリング5の操舵角に応じて実舵角を変更するステアリングギヤ機構と、ドライバーの操舵操作に依存することなく自動的にステアリングギヤ機構を駆動する駆動装置(例えば電動モータ,油圧駆動装置など)とが内蔵される。また、後輪3には、プロペラシャフトを介して駆動源4が接続される。駆動源4の種類は不問であり、電動モータであってもよいしエンジンでもよく、これらが併用されたハイブリッド型パワートレインでもよい。
【0017】
前輪2には、各々の操舵輪の回転速度を検出する車輪速センサ21が設けられる。車輪速センサ21は、操舵輪の車輪速に対応する角速度信号を出力する。また、駆動輪3に駆動力を伝達するプロペラシャフトには、駆動輪の回転速度を検出する駆動軸速度センサ22が設けられる。駆動軸速度センサ22は、駆動輪の回転速度に対応する角速度信号を出力する。これらのセンサ21,22で検出された角速度信号の情報は、運転支援装置10に伝達される。
【0018】
ステアリング5には、操舵角を検出する操舵角センサ23が設けられる。ここで検出された操舵角の情報は、運転支援装置10に伝達される。自動操舵の運転支援制御が実施されていないときには、前輪2の実舵角が操舵角に応じた角度になるように、操舵装置6が制御される。また、自動操舵の運転支援制御が実施されているときには、ドライバーがステアリング5を操作しなくても自動的に操舵装置6が制御される。
【0019】
車両1のドライバー(運転手)が搭乗するキャブ内には、ドライバーによって操作される運転支援スイッチ24が設けられる。運転支援スイッチ24は、自動操舵の運転支援制御の実施や停止を指示するためのスイッチである。運転支援スイッチ24がオン位置に操作されると、その操作位置の情報が運転支援装置10に伝達され、自動操舵の運転支援制御が実施される。また、運転支援スイッチ24がオフ位置に操作されると、自動操舵の運転支援制御が停止する。
【0020】
アクセルペダルには、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)に対応する信号を出力するアクセル開度センサ25が設けられ、ブレーキペダルには、ブレーキペダルの踏み込み量に対応する信号を出力するブレーキペダルセンサ26が設けられる。これらのセンサ25,26で検出された情報は、運転支援装置10に伝達される。
【0021】
図2に示すように、運転支援装置10の入力側には、車輪速センサ21,駆動軸速度センサ22,操舵角センサ23,運転支援スイッチ24,アクセル開度センサ25,ブレーキペダルセンサ26等が接続される。これらの各々で検出された情報は、通信経路(例えばハードワイヤやCAN経路)を介して運転支援装置10に伝達される。また、運転支援装置10の出力側には、操舵装置6が接続される。運転支援装置10は、入力された情報に応じて操舵装置6の作動状態を制御する。
【0022】
運転支援装置10には、少なくともプロセッサとメモリとが搭載される。プロセッサには、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサが含まれ、メモリには、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory)等が含まれる。運転支援装置10で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存されている。
【0023】
プログラムの実行時には、プログラムの内容がメモリ空間内に展開され、プロセッサに読み込まれて実行される。また、図2に示すように、運転支援装置10には、記憶装置やインタフェース装置が搭載されうる。記憶装置は、長期的に保存されるデータやプログラムを記憶するものであり、例えばフラッシュメモリ,不揮発メモリ等がこれに含まれる。インタフェース装置は、運転支援装置10と外部装置との間の入出力(Input/Output;I/O)を司る装置である。
【0024】
[2.制御構成]
図1に示すように、運転支援装置10には、車速算出部11,軌跡推定部12,目標操舵角算出部13,自動操舵部14が設けられる。これらの要素は、運転支援装置10の機能を便宜的に分類して示したものであり、例えばプログラムやサブルーチンの形で運転支援装置10内のメモリに記録,保存されている。なお、個々の要素を独立したプログラム,サブルーチンとして記述してもよいし、複数の機能を兼ね備えた複合プログラムとして記述してもよい。
【0025】
車速算出部11は、二種類の走行速度を算出するものである。一つは、車輪速センサ21で検出された操舵輪の回転速度に基づいて算出される車両1の走行速度であり、自動操舵の運転支援制御で用いられる速度である。以下、この速度を車速と呼ぶ。車速は、すべての操舵輪(左右の前輪2)についての回転速度の平均値に基づいて(例えば、その平均値に操舵輪の周長を乗算することで)求められる。なお、状況に応じて、操舵輪の一方である左あるいは右の前輪の回転速度に基づいて車速を求めてもよい。
【0026】
もう一つの速度は、駆動軸速度センサ22で検出された信号に基づいて算出される車両1の走行速度であり、駆動源4の出力制御で用いられる速度である。以下、この速度を駆動輪速と呼ぶ。駆動輪速は、例えば後輪3の回転速度に後輪3の周長を乗算することで求められる。なお、本適用例の車速は、路面に対する操舵輪の移動速度であり、駆動輪の移動速度に相当する一般的な車速とは区別される。このような意味で、本適用例の車速のことを操舵輪車速と呼称しても差し支えない。
【0027】
軌跡推定部12は、車両1の前進時における車速と操舵角とに基づき、車両1の軌跡Hを推定して記録するものである。つまり、ステアリングによって操作される操舵輪の回転速度に基づいて算出した車速を使用する。ここでは、図3(A)に示すように、車両1の前進時の軌跡Hが推定されるとともに、そのデータが保存される。保存されるデータは、例えば直近の数十~数百メートル分の軌跡Hに相当するデータであり、車両1が前進するにつれて古いデータが新しいデータに上書きされる。
【0028】
車両1の上面視で前輪2の中央の位置を基準点Rとして、その基準点Rが移動した経路が軌跡Hとして推定される。図1に示す例では、前輪2の左右輪の中央(左右輪の実舵角が直進状態であるときの回転軸上の中央)が、基準点Rの位置になっている。軌跡推定部12は、車輪速センサ21で得られた情報に由来する車速と操舵角センサ23で検出された操舵角とに基づき、自転車モデル(bicycle model)を用いて軌跡Hを推定する。なお、操舵輪の一方である左あるいは右の前輪の回転速度に基づいて車速を求める場合は、車両の位置、すなわち基準点の位置を車速を求めるのに使用した一方の操舵輪の位置としてもよい。
【0029】
自転車モデルとは、前輪の舵角が可変であって、後輪の舵角が固定された自転車の動きを推定するための数理モデルである。自転車モデルにおいては、例えば前輪及び後輪のサイズや太さ,ホイールベース,タイヤの摩擦係数,舵角,速度,走行軌跡等の関係が数学的に規定される。なお、軌跡Hの推定に際し、車速及び操舵角だけでなくタイヤの横滑りや路面勾配等を考慮して推定精度を向上させてもよい。
【0030】
目標操舵角算出部13は、自動操舵の指示を受けて実施される運転支援制御の目標操舵角を算出するものである。目標操舵角は、図3(B)に示すように、車両1の現在位置に相当する基準点Rと目標点Tとの位置関係に基づいて算出される。車両1の現在位置は、車両1の後退時における車速と実際の操舵角とに基づいて推定される。また、目標点Tは、軌跡H〔図3(B)中の破線〕上で基準点Rからの距離が所定値Dになる点である。
【0031】
所定値Dの値は、固定値であってもよいし、可変値であってもよい。本適用例では、車速に応じて所定値Dが変更される。例えば、車速が高いほど所定値Dが大きく設定される。これにより、例えば車両1を素早く後退させたときに、より遠方の後方地点に目標点Tが設定されることになる。逆に車速が低いほど所定値Dは小さく設定され、車両1をゆっくり後退させたときに、より近い地点に目標点Tが設定されることになる。これにより、自動操舵による軌跡Hへの追従精度が向上する。
【0032】
自動操舵部14は、運転支援制御において、実際の操舵角が目標操舵角算出部13で算出された目標操舵角になるように操舵装置6を制御して、ステアリング5及び前輪2の舵角を自動操舵するものである。この制御により、車両1の現在位置が適切に制御され、車両1が軌跡Hに沿って後退移動することになる。このとき、車両1の移動速度(駆動源4の出力)は、アクセル開度,ブレーキ圧,駆動輪速等に応じて制御される。なお、実際の操舵角が目標操舵角により近づくように、車両1の現在位置に基づく操舵角のフィードバック制御を付加してもよい。
【0033】
[3.フローチャート]
図4は、運転支援装置10で実施される制御の手順を説明するためのフローチャートである。ステップA1では、車両1が前進中であるか否かが判定される。車両1が前進中であればステップA2に進み、車速算出部11において、車輪速センサ21で検出された操舵輪の回転速度に基づいて車速が算出される。車速は、図1中に示す基準点Rの移動速度に相当するものとみなされる。続くステップA3では、軌跡推定部12において、車速と実際の操舵角とに基づいて軌跡Hが推定されるとともに、そのデータが記録される。運転支援スイッチ24の位置に関わらず、車両1が前進している限り、このような軌跡Hの推定,記録が継続される。
【0034】
ステップA1において車両1が前進中でない場合(例えば、車両1が後退中である場合)にはステップA4に進み、運転支援スイッチ24がオン位置に操作されているか否かが判定される。この条件が成立するとき(運転支援スイッチ24がオン位置に操作されているとき)には、ステップA5に進む。一方、この条件が成立しないときにはステップA5~A9がスキップされ、この演算周期での制御が終了する。
【0035】
ステップA5では、車速算出部11において、車輪速センサ21で検出された操舵輪の回転速度に基づいて車速が算出される。続くステップA6では、車速と実際の操舵角とに基づいて基準点Rの位置が算出される。また、ステップA7では、基準点Rからの距離が所定値Dになる軌跡H上の目標点Tの位置が算出される。所定値Dは、例えば車速に応じた大きさに設定される。
【0036】
ステップA8では、目標操舵角算出部13において、基準点Rと目標点Tとの位置関係に基づいて目標操舵角が算出される。そしてステップA9では、自動操舵部14において、実際の操舵角が目標操舵角になるように操舵装置6が制御される。これにより、ステアリング5の舵角が自動操舵される。運転支援スイッチ24がオン位置に操作されている状態で車両1が後退していれば、このような自動操舵の運転支援制御が継続される。
【0037】
[4.作用・効果]
(1)上記の運転支援装置10では、車速算出部11が車輪速センサ21で検出された操舵輪の回転速度に基づいて車速を算出する。この車速の情報は、軌跡推定部12で推定される軌跡Hに反映されるため、正しい軌跡Hが精度よく特定される。また、車速の情報は、目標操舵角算出部13で算出される目標操舵角にも反映されることから、車両1の後退時における操舵角が適正化される。
【0038】
特に、トラックなどの商用車ではホイールベースが長いため、操舵角を決めるステアリングによって操作される操舵輪に基づいて車速を算出し、この車速と操舵角とに基づいて軌跡を求めることでより正確な車両の軌跡が特定される。また、後退時において、この車速と操舵角とに基づいて車両位置、すなわち基準点位置が精度よく推定される。したがって、軌跡を辿るための目標操舵角の算出がより正確になるため、軌跡を正しく辿ることが可能となる。これにより、簡素な構成で車両1を軌跡Hに沿って後退させることができ、自動操舵の精度を向上させることができる。
【0039】
また、例えば車載カメラやGPSを搭載していない車両1においても、適切に自動操舵の運転支援制御を実現することができる。つまり、大型で高価なGPSセンサやモジュールが不要であることから、コストを削減することができ、装置構成を簡素化することができる。したがって、既存のセンサ類のみを用いる簡素な構成で、自動操舵の精度を向上させることができる。
【0040】
(2)上記の運転支援装置10では、目標操舵角算出部13が、車両1の後退時に車速算出部11で算出される車速に応じて所定値Dを変更している。これにより、自動操舵による軌跡Hへの追従精度が向上する。したがって、簡素な構成で自動操舵の精度を向上させることができ、より精度高く車両を目標点に到達させることができる。
(3)上記の運転支援装置10では、目標操舵角算出部13が、車両1の後退時に車速算出部11で算出される車速が高いほど所定値Dを大きく、車速が低いほど所定値Dを小さく変更する。これにより、車両1を素早く後退させたときに、より遠方の地点に目標点Tが設定され、逆に車両1をゆっくり後退させたときに、より近い地点に目標点Tが設定されることとなり、自動操舵による軌跡Hへの追従精度が向上する。
【0041】
(4)上記の運転支援装置10では、車速がすべての操舵輪の回転速度の平均値に基づいて算出される。例えば、左右の前輪2の各々についての回転速度の平均値が算出され、その平均値に前輪2の周長を乗算することで車速が算出される。このような制御構成により、基準点Rの移動速度を高精度に求めることができ、車両1の動きや軌跡Hの推定精度を向上させることができる。したがって、簡素な構成で自動操舵の精度を向上させることができる。
【0042】
(5)上記の運転支援装置10では、車両1の上面視において、すべての操舵輪の中央の位置が基準点Rとしてみなされる。この基準点Rが移動した経路を軌跡Hとすることで、現実の車両1の動きや軌跡Hの推定精度を向上させることができる。したがって、簡素な構成で自動操舵の精度を向上させることができる。
【0043】
[5.その他]
上記の適用例(実施形態)はあくまでも例示に過ぎず、上記の適用例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。上記の適用例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて複数の要素の一部分を取捨選択することができ、あるいは他の公知技術と組み合わせることができる。
【0044】
上記の適用例では、車両1の後退時における操舵角が制御対象となっている自動操舵の運転支援制御を例示したが、操舵角に相当する他のパラメータを制御対象とすることも可能である。例えば、操舵輪の実舵角を制御対象としてもよいし、あるいは操舵装置6に内蔵される駆動装置の作動量を制御対象としてもよい。同様に、車両1の前進時の軌跡や現在位置を操舵角に基づいて求めているが、操舵角に相当する実舵角を用いて求めてもかまわない。これらの操舵角相当値を制御対象とした場合であっても、上記の適用例と同様の作用効果を得ることができる。
【0045】
また、上記の適用例では、二軸車の車両1を例示したが、三軸車や四軸車の車両1に運転支援装置10を適用してもよい。図5は前二軸車の車両1を例示する模式図である。この車両1の操舵輪は、左右の前前輪27及び左右の前後輪28の四輪である。この場合、車両1の基準点Rは、上面視で四つの駆動輪の中央の位置となる。また、車速は、四つの操舵輪の回転速度の平均値に基づいて算出される。このような前二軸車において、基準点Rが移動した経路を軌跡Hとして推定することで、車両1を軌跡Hに沿って精度よく後退させることができ、自動操舵の精度を向上させることができる。したがって、上記の適用例と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 前輪(操舵輪,非駆動輪)
3 後輪(駆動輪)
4 駆動源
5 ステアリング
6 操舵装置
10 運転支援装置
11 車速算出部
12 軌跡推定部
13 目標操舵角算出部
14 自動操舵部
21 車輪速センサ
22 駆動軸速度センサ
23 操舵角センサ
24 運転支援スイッチ
25 アクセル開度センサ
26 ブレーキペダルセンサ
27 前前輪
28 前後輪
H 軌跡
R 基準点
T 目標点
D 所定値
図1
図2
図3
図4
図5