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特許7422728非水素化脂肪組成物、使用、およびプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】非水素化脂肪組成物、使用、およびプロセス
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240119BHJP
   A23L 9/20 20160101ALN20240119BHJP
   A21D 13/16 20170101ALN20240119BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A23D9/00 518
A23L9/20
A21D13/16
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021501083
(86)(22)【出願日】2019-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019057082
(87)【国際公開番号】W WO2019185444
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】18164428.7
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520372869
【氏名又は名称】ブンゲ・ローデルス・クロックラーン・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・マ
(72)【発明者】
【氏名】ラウル-フラヴュー・ペトルート
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-511699(JP,A)
【文献】国際公開第2016/162529(WO,A1)
【文献】特表2020-521480(JP,A)
【文献】特表2007-524375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/117-9/20;29/212-29/225
A23D 7/00-9/06
A21D 2/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水素化脂肪組成物であって、
3.2重量%~10重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、
13重量%~32重量%のラウリン酸(C12:0)、ならびに
20重量%~45重量%のステアリン酸(C18:0)と、
(前記酸類の百分率は、前記脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合した酸類を指し、かつC8~C24脂肪酸の総重量に基づいている)、
前記組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、
7重量%~15重量%のCN46トリグリセリド、
4重量%~30重量%のCN54トリグリセリド、ならびに
15重量%~28重量%の総CN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリドと、を含む、非水素化脂肪組成物であって、
前記組成物は、30:70~70:30の重量比のシアステアリンとココナッツ油とのエステル交換された脂肪ブレンドを含む、非水素化脂肪組成物
【請求項2】
前記シアステアリンとココナッツ油とのエステル交換された脂肪ブレンドは、45:55~65:35の重量比である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、12重量%未満のパルミチン酸(C16:0)を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、10重量%未満のパルミチン酸(C16:0)を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、5:2~9:1のステアリン酸(C18:0)とパルミチン酸(C16:0)との重量比を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、3:1~8:1のステアリン酸(C18:0)とパルミチン酸(C16:0)との重量比を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、3.1:1~7:1のステアリン酸(C18:0)とパルミチン酸(C16:0)との重量比を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、1:3.5~2:1のラウリン酸(C12:0)とステアリン酸(C18:0)との重量比を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、1:3.3~3:2のラウリン酸(C12:0)とステアリン酸(C18:0)との重量比を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、1:3~1:1のラウリン酸(C12:0)とステアリン酸(C18:0)との重量比を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、
3.5重量%~8重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、ならびに/または
14重量%~30重量%のラウリン酸(C12:0)、ならびに/または
23重量%~43重量%のステアリン酸(C18:0)を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、
3.5重量%~6重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、ならびに/または
15重量%~28重量%のラウリン酸(C12:0)、ならびに/または
25重量%~41重量%のステアリン酸(C18:0)を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、
8重量%~12重量%のCN46トリグリセリド、ならびに/または
8重量%~25重量%のCN54トリグリセリド、ならびに/または
18重量%~27重量%の総CN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリドを含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、
8重量%~10重量%のCN46トリグリセリド、ならびに/または
10重量%~22重量%のCN54トリグリセリド、ならびに/または
19重量%~26重量%の総CN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリドを含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記脂肪組成物が、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪で測定して、10未満の固形脂肪含量(SFC)N40を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記脂肪組成物が、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪で測定して、1~9の固形脂肪含量(SFC)N40を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記脂肪組成物が、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪で測定して、2~8の固形脂肪含量(SFC)N40を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記脂肪組成物が、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪で測定した際に、35~58の固形脂肪含有量(SFC)N20、および/または10~32のN30を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記脂肪組成物が、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪で測定した際に、37~57の固形脂肪含有量(SFC)N20、および/または13~31のN30を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記脂肪組成物が、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪で測定した際に、40~56の固形脂肪含有量(SFC)N20、および/または15~30のN30を有する、請求項1~1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
パーム油、パーム核油、およびそれらの誘導体の含有量が1重量%未満である、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
パーム油、パーム核油、およびそれらの誘導体の含有量が0.5重量%未満である、請求項1~2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
パーム油、パーム核油、およびそれらの誘導体の含有量が0.1重量%未満である、請求項1~2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
パーム油、パーム核油、およびそれらの誘導体を含まない、請求項1~2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
ベーカリー用途および/または菓子用途のための、請求項1~2のいずれか一項に記載の脂肪組成物の使用。
【請求項26】
前記ベーカリー用途が、ショートニングまたはパイ生地脂肪としてである、請求項2に記載の使用。
【請求項27】
前記菓子用途が、ホイップクリームにおいてである、請求項2に記載の使用。
【請求項28】
請求項1~2のいずれか一項に記載の脂肪組成物を作製するためのプロセスであって、シアステアリンと、ココナッツ油と、のブレンドのエステル交換を含み、
前記シアステアリンおよび前記ココナッツ油が、30:70~70:30の重量比でエステル交換される、プロセス。
む、プロセス。
【請求項29】
前記シアステアリンと前記ココナッツ油が、45:55~65:35の重量比でエステル交換される、請求項28に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水素化脂肪組成物、その使用、およびそのような脂肪組成物の生成プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ココナッツ油などのラウリン油は、主に短鎖および中鎖脂肪酸(カプリル酸(C8:0)、カプリン酸(C10:0)、ラウリン酸(C12:0)、およびミリスチン酸(C14:0))を含む植物油である。ラウリン油は、食品産業で広く使用されており、その用途は、フィリングクリーム、アイスクリーム、非乳製品ホイップクリーム、コーヒーホワイトナー、カカオバター代用品、および中鎖トリグリセリド(MCT)である。
【0003】
シアバターは、シアの木(シアーバターノキ)のナッツから得られる脂肪である。シアバターは、ステアリン酸(C18:0)およびオレイン酸(C18:1)が比較的豊富である。シアバターは、しばしば分画されて、シアステアリンおよびシアオレインを形成する。シア製品は、化粧品および食品産業の両方で使用される。シアステアリンは、StOSt(1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリド)が豊富で、カカオバター相当物としてよく使用される。
【0004】
油脂は、食品の重要な成分である。油脂は、グリセリド、主にトリグリセリドを含有する。油脂は、時々、グリセリド分子中の脂肪酸アシル残基をランダムに再配分するエステル交換プロセスに供される。このプロセスは、融点などの油脂の物理的特性を変えることができる。
【0005】
WO2012/052471は、15~80%のトリグリセリド、20~85%の充填剤、および多くとも15%の水を含有する食用製品に使用されるラウリン油と非ラウリン油とのいくつかのエステル交換されたブレンドを記載している。
【0006】
WO2016/162529は、2~45重量パーセントの揚げ油または脂肪を含む揚げ物製品に使用される高オレイン酸ひまわり油とラウリン油およびシア構成成分のエステル交換された脂肪とのブレンドを記載している。
【0007】
WO2014/020114は、完全水素化油、ラウリン油、液体油、およびシア構成成分を含有し得る他の脂肪の様々なエステル交換されたブレンドを記載している。脂肪組成物は、ヒトのコレステロールレベルを低下させるファットスプレッド組成物の調製を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ベーカリーおよび/または菓子などの食品用途に適した食品成分としての脂肪組成物の性能の改善が依然として必要とされている。感覚性能を改善するために、食品成分として脂肪組成物を使用することによる食品のテクスチャーの改善も依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、3.2重量%~10重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、13重量%~32重量%のラウリン酸(C12:0)、ならびに20重量%~45重量%のステアリン酸(C18:0)脂肪酸残基(酸類の百分率が、脂肪組成物中のグリセリドのアシル基として結合した酸を指し、かつC8~C24脂肪酸の総重量に基づいている)と、7重量%~15重量%のCN46トリグリセリド、4重量%~30重量%のCN54トリグリセリド、ならびに15重量%~28重量%の総CN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリド(トリグリセリドの百分率が、組成物中に存在する総トリグリセリドを指す)と、を含む非水素化脂肪組成物が提供される。
【0010】
本発明の脂肪組成物は、ベーカリーおよび/または菓子用途のための成分として特に有用であることが見出された。本発明による脂肪組成物は、特に好ましい感覚特性を提供する。本組成物は、菓子および/またはベーカリー用途において望ましいテクスチャー特性を提供することができる。特に、脂肪組成物は、望ましいテクスチャーおよび感覚性能を得るために、良好な物理的特性を提供して、ホイップクリーム中でのより多くの空気の取り込みを可能にする。
【0011】
本発明の脂肪組成物は、本明細書で定義される脂肪酸およびトリグリセリド組成物の要件を満たす、天然もしくは合成脂肪、天然もしくは合成脂肪の画分、またはそれらの混合物から作製され得る。好ましくは、脂肪組成物は、天然脂肪のブレンドに由来する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語「脂肪」は、脂肪酸アシル基を含有するグリセリド油脂を指し、いずれの特定の融点も意味しない。用語「油」は、「脂肪」と同義語として使用される。
【0013】
用語「非水素化」は、組成物が、水素化に供されて不飽和脂肪アシル基を飽和脂肪アシル基に変換された脂肪から調製されないことを意味する。脂肪が水素化されていないという要件は、組成物中のトランス脂肪酸残基の含有量が、典型的には、存在する総C8~C24脂肪酸に基づいて1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満であることを意味する。
【0014】
本明細書で使用される、用語「脂肪酸」は、8~24個の炭素原子を有する直鎖の飽和または不飽和(モノ-不飽和およびポリ-不飽和を含む)カルボン酸を指す。x個の炭素原子およびy個の二重結合を有する脂肪酸は、Cx:yと表されてもよい。例えば、パルミチン酸はC16:0と表されてもよく、オレイン酸はC18:1と表されてもよい。本明細書で言及される組成物中の脂肪酸の百分率は、グリセリド中に存在するトリグリセリド、ジグリセリド、およびモノグリセリドのアシル基を含み、C8~C24脂肪酸の総重量に基づく。脂肪酸プロファイル(すなわち、組成)は、例えば、ISO 12966-2およびISO 12966-4に従ってガスクロマトグラフィーを使用する脂肪酸メチルエステル分析(FAME)によって決定され得る。
【0015】
トリグリセリド含有量は、例えば、GC(AOCS Ce 5-86)による分子量差(炭素数(CN))に基づいて決定され得る。表記トリグリセリドCNxxは、脂肪アシル基にxx個の炭素原子を有するトリグリセリドを表し、例えば、CN54は、トリステアリンを含む。当技術分野における通例の専門用語であるように、各炭素数(CN)で指定されたトリグリセリドの量は、脂肪組成物中に存在するCN26~CN62の総トリグリセリドに基づく重量百分率である。
【0016】
本発明の脂肪組成物は、C8~C24脂肪酸の総重量に基づいて、3.2~10重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)を含有する。脂肪組成物は、好ましくは、3.5重量%~8重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、より好ましくは3.5重量%~6重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)を含有する。
【0017】
本発明の脂肪組成物のラウリン酸(C12:0)含有量は、C8~C24脂肪酸の総重量に基づいて、13重量%~32重量%、好ましくは14重量%~30重量%、より好ましくは15%重量%~28重量%である。
【0018】
本発明の脂肪組成物のステアリン酸(C18:0)含有量は、C8~C24脂肪酸の総重量に基づいて、20重量%~45重量%、好ましくは23重量%~43重量%、より好ましくは25重量%~41重量%である。
【0019】
本発明の脂肪組成物のパルミチン酸(C16:0)含有量は、C8~C24脂肪酸の総重量に基づいて、好ましくは12重量%未満、より好ましくは1重量%~9重量%などの10重量%未満である。
【0020】
脂肪組成物中のステアリン酸(C18:0)とパルミチン酸(C16:0)との重量比は、好ましくは5:2~9:1、より好ましくは3:1~8:1、より好ましくは3.1:1~7:1の範囲である。
【0021】
脂肪組成物中のラウリン酸(C12:0)とステアリン酸(C18:0)との重量比は、好ましくは1:3.5~2:1、好ましくは1:3.3~3:2、より好ましくは1:3~1:1の範囲である。
【0022】
その結果、本発明の好ましい脂肪組成物は、C8~C24脂肪酸の総重量に基づいて、3.5重量%~8重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、14重量%~30重量%のラウリン酸(C12:0)、ならびに23重量%~43重量%のステアリン酸(C18:0)を含み、ステアリン酸(C18:0)とパルミチン酸(C16:0)との重量比は、3:1~8:1であり、ラウリン酸(C12:0)とステアリン酸(C18:0)との重量比は、1:3.3~3:2であり、前記酸類の百分率および比率は、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合した酸を指し、かつ前記百分率は、C8~C24の脂肪酸の総重量に基づく。
【0023】
本発明の脂肪組成物は、組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、7重量%~15重量%のCN46トリグリセリド、4重量%~30重量%のCN54トリグリセリド、ならびに15重量%~28重量%の総CN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリドを含む。そのような組成物は、ベーカリーおよび菓子用途で使用可能な有利な構造特性を提供することができる。
【0024】
好ましくは、脂肪組成物は、組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、8重量%~12重量%、より好ましくは8重量%~10重量%のCN46トリグリセリドを含む。
好ましくは、脂肪組成物は、組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、8重量%~25重量%、より好ましくは10重量%~22重量%のCN54トリグリセリドを含む。
脂肪組成物中のCN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリドの合計は、組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、好ましくは18%~27%、より好ましくは19%~26%の範囲である。
【0025】
したがって、本発明の脂肪組成物に対して好ましいトリグリセリド組成物は、組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、8重量%~12重量%のCN46トリグリセリド、8重量%~25重量%のCN54トリグリセリド、ならびに18重量%~27重量%の総CN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリドを含む。
【0026】
本発明の最も好ましい実施形態では、脂肪組成物は、3.5重量%~6重量%の総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、15重量%~28重量%のラウリン酸(C12:0)、ならびに25重量%~41重量%のステアリン酸(C18:0)、であって、ステアリン酸(C18:0)とパルミチン酸(C16:0)との重量比が、3.1:1~7:1であり、ラウリン酸(C12:0)とステアリン酸(C18:0)との重量比が、1:3~1:1であり、前記酸類の百分率および比率が、脂肪組成物中のグリセリド中のアシル基として結合した酸を指し、かつ前記百分率が、C8~C24の脂肪酸の総重量に基づいている、総カプリル酸(C8:0)およびカプリン酸(C10:0)、ラウリン酸(C12:0)、ならびにステアリン酸(C18:0)と、組成物中に存在する総トリグリセリドに基づいて、8重量%~10重量%のCN46トリグリセリド、10重量%~22重量%のCN54トリグリセリド、ならびに19重量%~26重量%の総CN42トリグリセリドおよびCN44トリグリセリドと、を含む。
【0027】
本発明の脂肪組成物は、好ましくは、非安定化脂肪中のN40が10未満、好ましくは1~9、より好ましくは2~8の固形脂肪含量(SFC)を有する。N40は、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪のNMRを使用して測定された際の40℃でのSFCである。40℃でのより高い固形脂肪含有量は、脂肪組成物が使用されるとき、食品に望ましくないワックス状の口当たりを伝えることが見出された。
【0028】
本発明の脂肪組成物は、N20が好ましくは35~58、好ましくは37~57、より好ましくは40~56の固形脂肪含量(SFC)を有する。N20は、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪のNMRを使用して測定された際の20℃でのSFCである。そのような組成物は、食品用途において望ましい加工性および堅固な構造を有する。
【0029】
脂肪組成物中のN30は、好ましくは10~32、好ましくは13~31、より好ましくは15~30である。N30は、ISO 8292-1に従って非安定化脂肪のNMRを使用して測定された際の30℃でのSFCである。
【0030】
ホイップクリームまたはショートニングなどの食品は、好ましい範囲内のN20および/またはN30で脂肪組成物を含むとき、望ましい構造、溶融挙動、およびフレーバー放出を有すると考えられる。
【0031】
好ましい実施形態では、本発明の脂肪組成物は、エステル交換後に任意選択で分画された、シアバター、シアステアリン、シアオレイン、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの脂肪と、ココナッツ油、ココナッツ油ステアリン、ココナッツ油オレイン、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つの油と、を含むエステル交換された脂肪ブレンドを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。
【0032】
より好ましい実施形態では、本発明の脂肪組成物は、シアシアリンと、ココナッツ油と、のエステル交換された脂肪ブレンドを含む。好ましくは、シアステアリンとココナッツ油との比率は、重量で30:70~70:30、より好ましくは重量で45:55~65:35である。
【0033】
本発明の脂肪組成物は、好ましくは、パーム油、パーム核油、およびそれらの画分を含まないかまたは本質的に含まない。本質的に含まないとは、パーム油、パーム核油、およびそれらの画分の含有量が、1重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満などの0.5重量%未満であることを意味する。
【0034】
本発明はまた、例えば、パイ生地用の積層された生地などのベーカリー用途のための本発明による脂肪組成物の使用にも関する。
【0035】
本発明の脂肪組成物は、典型的には、ベーカリー製品での使用に適しており、ベーカリー脂肪として使用され得る。好ましい実施形態では、脂肪組成物は、ショートニングの形態でのベーカリー脂肪として使用され得る。ショートニングは、可塑化された形態での脂肪組成物からなるか、またはそれを含む製品である。脂肪は、パイ生地、ケーキ、クッキー、パイ、またはクロワッサンなどの様々なベーカリー用途での使用のために、かき取り表面熱交換器(通常、ボテータと呼ばれる)を用いてプラスチックにすることができる。
【0036】
別の好ましい実施形態では、ベーカリー製品は、積層された構造を有する。例えば、ショートニングの形態での本発明の脂肪組成物は、パイ生地用途のための積層脂肪として使用され得る(または使用に適し得る)。本発明のベーカリー製品は、生地であるか、または生地から作製される。本発明に従って調製されたベーカリー製品は、本発明の脂肪組成物を含む。任意選択で、ショートニングとしての本発明の脂肪組成物による脂肪は、生地調製に使用され得るのに対して、本発明による別の類似または同一の脂肪組成物は、同じベーカリー製品での積層脂肪として使用される。
【0037】
ベーカリー製品は、好ましくは、本発明の脂肪組成物、小麦粉、および水を含む。好ましくは、ベーカリー製品は、積層され得る生地の形態であり、30~70重量%の小麦粉、10~40重量%の水、および20~40重量%の本発明の脂肪組成物を含む。
【0038】
本発明はさらに、菓子用途のための本発明による脂肪組成物の使用に関する。本発明の脂肪組成物を含む菓子組成物は、典型的には、少なくとも砂糖も含む。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明の脂肪組成物は、ホイップクリーム用途のために使用される(または使用に適し得る)。本発明の脂肪組成物を使用して生成されたホイップクリームは、通気ステップ中の空気の取り込みを増加させることにより、滑らかで軽い構造および望ましい感覚性能を有することが見出された。ホイップクリームは、典型的には、空気などの浮遊ガスを取り込む水中油型エマルジョンである。ホイップクリームは、本発明の脂肪組成物、水、ならびに任意選択で、砂糖、脱脂粉乳、および乳化剤のうちの1つ以上を含み得る。典型的には、ホイップクリームは、10~50重量%の砂糖、20~50重量%の脂肪、10~40重量%の水、ならびに任意選択で最大10重量%の脱脂粉乳、および任意選択で最大5重量%の乳化剤を含む。
【0040】
本発明はまた、ホイップクリームの形成中の空気の取り込みを増加させるための本発明の脂肪組成物の使用を企図する。ホイップクリームのテクスチャー特性、安定性、および感覚性能を改善するための本発明の脂肪組成物の使用も企図される。
【0041】
本発明はまた、30:70~70:30、好ましくは45:55~65:35の重量比での、ココナッツ油シアバター、シアステアリン、シアオレイン、およびそれらの混合物、好ましくはシアステアリンから選択される少なくとも1つの脂肪と、ココナッツ油、ココナッツ油ステアリン、ココナッツ油オレイン、およびそれらの混合物、好ましくはココナッツ油から選択される少なくとも1つの油と、のブレンドのエステル交換を含む脂肪組成物を作製するためのプロセスにも関する。エステル交換は、化学的または酵素的に行われてもよく、好ましくは、例えば、ナトリウムメトキシドを触媒として使用して化学的に行われる。
【0042】
代替の実施形態では、本発明の脂肪組成物は、上記のエステル交換されたブレンドの分画によって得ることができ、好ましくはエステル交換されたブレンドは、シアオレインおよびココナッツ油オレイン、例えば、45:55~65:35の重量比でのシアオレインと、ココナッツ油オレインと、のエステル交換されたブレンドである。本発明の脂肪組成物は、好ましくは、分画後に得られるステアリン(高融点)画分である。
【0043】
本発明のプロセスは、好ましくは、典型的にはエステル交換および任意の任意選択の分画後に漂白および/または脱臭のステップを含む。
【0044】
本明細書で明らかに先に公表された文献のリストまたは議論は、その文献が最新技術の一部であるか、または共通の一般知識であることを認めるものと必ずしも解釈されるべきではない。
【0045】
本発明の所与の態様、実施形態、特徴、またはパラメータについての優先度および選択肢は、別段文脈が示さない限り、本発明の全ての他の態様、実施形態、特徴、およびパラメータについてのあらゆる全ての優先度および選択肢と組み合わせて開示されているものとみなされるべきである。
【0046】
以下の非限定的な実施例は本発明を説明するものであり、その範囲を決して限定するものではない。実施例において、および本明細書を通して、他に示されない限り、全ての百分率、割合、および比率は重量による。
【実施例
【0047】
実施例1
50重量%のシアステアリンと、50重量%のココナッツ油と、の2185gのブレンドを、ナトリウムメトキシドを触媒として使用して化学的にエステル交換し、その後、漂白および脱臭した。この脂肪は、脂肪Aと呼ばれる。
【0048】
75重量%のシアステアリンと、25重量%のココナッツ油と、の2500gのブレンドを、ナトリウムメトキシドを触媒として使用して化学的にエステル交換し、その後、漂白および脱臭した。この脂肪は、比較脂肪Cと呼ばれる。
【0049】
50重量%のパームステアリン(ヨウ素価約35)と、50重量%のココナッツ油と、の2574gのブレンドを、ナトリウムメトキシドを触媒として使用して化学的にエステル交換し、その後、漂白および脱臭した。この脂肪は、比較脂肪Dと呼ばれる。
【0050】
脂肪A、比較脂肪C、および比較脂肪Dの分析結果を表1に示す。
【表1】
【0051】
上の表中、
Cx:yは、x個の炭素原子およびy個の二重結合を有する脂肪酸を指し、レベルは、GC-FAMEによって決定した(ISO 12966-2およびISO 12966-4)
SAFAは、飽和脂肪酸を指す。
トランスは、トランス脂肪酸を指す。
CNxxは、xx個の炭素原子を有するトリグリセリドを指し、レベルは、最終的にジグリセリドを除去する前処理を伴うGCによって決定した(AOCS Ce 5-86)。
US-Nxは、x℃で20℃の非安定化脂肪のNMRによって決定された固形脂肪含有量を指す(ISO 8292-1)。
脂肪組成物Aは、ベーカリーおよび菓子用途のための成分として特に有用であることが見出された。
【0052】
実施例2
実施例1で得られた脂肪A、比較脂肪C、および比較脂肪Dを使用して、以下のようにホイップクリームを作製した。
【表2】
【0053】
脂肪A、比較脂肪C、および比較脂肪Dを70℃のウォーターバスを使用することによって溶融した。乳化剤(Dimodan(登録商標)MO 90/D(Danisco/DuPont))を液体脂肪に添加し、溶融するまで水浴上にさらに保った。乾燥成分を計量し、混合した。乾燥成分混合物に水を添加し、次いで、70℃のウォーターバスを使用することによって穏やかに混合した。水相を脂肪相に添加し、手で10~15秒間穏やかに混合した。次いで、混合物をT45 Ultra-Turrax(IKA)を用いて10000rpmで2分間ホモジナイズした。エマルジョンを1Lジェリカンに移し、冷凍庫(-18℃)で2時間保存した。2時間後、エマルジョンを冷蔵庫(4~6℃)に44時間移した。冷却したエマルジョンをホバート金属ボウルに移し、速度3で2分間泡立てた。
【0054】
曝気前後で同量の試料を計量することにより、曝気直後にフィリングのオーバーランを測定した。
表3曝気前後の試料の重量
【表3】
【0055】
同量の試料に対する上記の結果に基づいて、オーバーランは、以下のように計算した:
オーバーラン[%]=[(曝気前の重量(g))-(曝気後の重量(g))]/(曝気後の重量(g))*100
【0056】
オーバーランが高いほど、泡立て中に取り込まれた空気の量が多くなる。
【表4】
【0057】
脂肪Aを使用することによって作製されたホイップクリームは、比較脂肪Cまたは比較脂肪Dを使用することによって作製されたホイップクリームよりもオーバーランが高く、空気の取り込みがより良い。また、脂肪Aを含む組成物は、より良いテクスチャー特性、良好な安定性、および感覚性能を有していた。
【0058】
実施例3
65重量%のシアステアリンと、35重量%のココナッツ油と、の3630gのブレンドを、ナトリウムメトキシドを触媒として使用して化学的にエステル交換し、その後、漂白および脱臭した。この脂肪は、脂肪Bと呼ばれる。
【0059】
60重量%のシアオレインと、40重量%のココナッツ油オレインと、の1335gのブレンドを、ナトリウムメトキシドを触媒として使用して化学的にエステル交換し、その後、漂白および脱臭した。次いで、得られたエステル交換された生成物を、実験室規模の晶析装置を使用して、20℃~22℃で乾式分画した。生成物を最初に70℃に加熱してから、3~6時間で25~28℃に冷却し、25~28℃で3~6時間保持し、さらに5~10時間で20~22℃に冷却し、この温度で5~10時間保持した。形成された結晶を、フィルタープレスにより分離した。スラリーを、以下のプログラムを使用して圧縮した:60分で0~20バールに圧力を上げ、30分間20バールで圧搾する。このようにして、約19%のステアリン収率を得た。ステアリン画分は、脂肪Eと呼ばれる。
【0060】
脂肪Bおよび脂肪Eの分析結果を表3に示す。
【表6】
【0061】
上の表中、
Cx:yは、x個の炭素原子およびy個の二重結合を有する脂肪酸を指し、レベルは、GC-FAMEによって決定した(ISO 12966-2およびISO 12966-4)
SAFAは、飽和脂肪酸を指す。
トランスは、トランス脂肪酸を指す。
CNxxは、xx個の炭素原子を有するトリグリセリドを指し、レベルは、最終的にジグリセリドを除去する前処理を伴うGCによって決定した(AOCS Ce 5-86)。
US-Nxは、x℃で20℃の非安定化脂肪のNMRによって決定された固形脂肪含有量を指す(ISO 8292-1)。
【0062】
本発明による脂肪BおよびEは、プラスチックショートニングの生成およびベーカリー用途での使用に特に適していることが見出された。
【0063】
実施例4
実施例3で生成された脂肪Bを使用して、100%のスループットを有するAユニット-Aユニット-Cユニット-Bユニット構成を有するマイクロボテーション装置を用いてパイロット規模でショートニングを作製した。この設定では、Aユニットは、かき取り表面熱交換器を表し、Bユニットは、調整可能な長さの静止管を表し、Cユニットは、当技術分野で知られているようなピンロータマシンを表す。ブレードスターラを装備したプレミックスタンクで脂肪を溶融した。第1のAユニットおよび第2のAユニットは、1200rpmに設定し、Cユニットは、140rpmに設定した。ショートニングは、周囲条件下で充填し、使用前に16℃で3日間保存した。
【0064】
プラスチックショートニングは、素晴らしい構造で得られ、積層脂肪として使用するのに適していた。得られたショートニングを以下のようにパイ生地の調製に使用した:
【表7】
【0065】
生地を調製し、スパイラル生地混練機を用いて8分間ゆっくり混練した。その後、生地を周囲温度(20℃)で10分間静置した。積層は、第1のステップで1/2French(3つ折り)および1/2Dutch(4つ折り)の2つのステップで実施した。生地を4℃で30分間静置し、その後第1の積層ステップを繰り返し、生地をさらに30分間静置した。最終的な積層された生地の厚さは、10mmを測定した。この生地から、角張ったパイ生地を93x93mmのステンレス鋼の生地カッターを用いて切断した。従来のベーキングオーブンにおいて190℃で20分間パイ生地をベークした。脂肪Bを用いて生成されたショートニングは、積層中に良好な可塑性および取り扱いを示した。脂肪Bを使用したパイ生地は、ベーキング中に適切なリフト(パフ)を示し、平均高さが60mmの良好な製品が得られた。製品は、心地よいテクスチャーおよび豊かな味わいを有した。