(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】電源装置と電動車両
(51)【国際特許分類】
H01M 50/293 20210101AFI20240119BHJP
H01M 50/264 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/209 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/262 20210101ALI20240119BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20240119BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20240119BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240119BHJP
H01M 50/249 20210101ALI20240119BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240119BHJP
H01M 50/242 20210101ALI20240119BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240119BHJP
【FI】
H01M50/293
H01M50/264
H01M50/209
H01M50/262 E
H01M10/658
H01M10/647
H01M10/625
H01M50/249
H01M10/613
H01M50/242
H01M50/262 M
H01M50/204 401H
(21)【出願番号】P 2021508756
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050066
(87)【国際公開番号】W WO2020194939
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019060106
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古上 奈央
(72)【発明者】
【氏名】原塚 和博
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第205657108(CN,U)
【文献】国際公開第2018/061894(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159527(WO,A1)
【文献】特開2016-121804(JP,A)
【文献】特開2015-090750(JP,A)
【文献】特表2016-534518(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108336452(CN,A)
【文献】特開2017-215014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-298
H01M 10/60-667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルをセパレータを挟んで厚さ方向に積層してなる電池ブロックと、
前記電池ブロックの両端面に配置してなる一対のエンドプレートと、
前記一対のエンドプレートに連結されて、前記エンドプレートを介して電池ブロックを加圧状態に固定してなるバインドバーとを備える電源装置であって、
前記セパレータが、
繊維シートとシリカエアロゲルからなる断熱シートと、
前記断熱シートの表面に積層してなるゴム状弾性シートとを
備え、
前記ゴム状弾性シートは合成ゴムシートで、その硬度が10度以上であって80度以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載する電源装置であって、
前記セパレータが、
前記断熱シートの両面に前記ゴム状弾性シートを積層してなることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載する電源装置であって、
前記セパレータが、
前記断熱シートの片面のみに前記ゴム状弾性シートを積層してなることを特徴とする電源装置。
【請求項4】
請求項
1ないし3のいずれかに記載する電源装置であって、
前記ゴム状弾性シートの合成ゴムが、
イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプロンゴム、ニトリルゴム、ホリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性オレフィンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ポリエーテルゴムの何れかであることを特徴とする電源装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載する電源装置であって、
前記合成ゴムシートは、発泡ウレタンゴムであり、
前記発泡ウレタンゴムは、密度が150~750kg/m
3
、厚みが0.5~6.0mm、圧縮永久ひずみが20%以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載する電源装置であって、
前記ゴム状弾性シートの厚さが、
0.2mm以上であって2mm以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項7】
請求項6に記載する電源装置であって、
前記断熱シートが、
前記ゴム状弾性シートよりも厚いことを特徴とする電源装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載する電源装置であって、
前記断熱シートが0.5mm以上であって2mm以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載する電源装置であって、
前記電池セルの間に積層されてなる全ての前記セパレータが、
断熱シートの表面にゴム状弾性シートを積層してなることを特徴とする電源装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載する電源装置を備える電動車両であって、
前記電源装置と、
該電源装置から電力供給される走行用のモータと、
前記電源装置及び前記モータを搭載してなる車両本体と、
前記モータで駆動されて前記車両本体を走行させる車輪と
を備えることを特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の電池セルを積層している電源装置と、この電源装置を搭載する電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の電池セルを積層している電源装置は、電動車両に搭載されて車両を走行させるモータに電力を供給する電源、太陽電池等の自然エネルギーや深夜電力で充電される電源、停電のバックアップ電源に適している。この構造の電源装置は、積層している電池セルの間にセパレータを挟着している。セパレータは、電池セル間の熱伝導を断熱して、電池セルの熱暴走の誘発を抑制する。電池セルの熱暴走は、正極と負極が内部で短絡して発生する内部ショートや誤った取り扱い等で発生する。電池セルが熱暴走すると大量の熱を発生するので、セパレータの断熱性が充分でないと、隣接する電池セルに熱暴走を誘発する。電池セルの熱暴走が誘発すると、電源装置全体は極めて大きな熱エネルギーを放出して装置としての安全性を阻害する。この弊害を防止するために、シリカエアロゲルを使用する断熱特性のセパレータが開発されている。このセパレータは、熱伝導率が0.02W/m・Kと極めて低いシリカエアロゲルを繊維シートの隙間に充填したもので、優れた断熱特性を実現するが、外部からの圧力でシリカエアロゲルが破壊されると断熱特性が低下する欠点がある。
【0003】
電池セルを積層している電源装置は、充放電される状態で電池セルが膨張してセパレータが強い圧力で押圧されるが、この状態は、シリカエアロゲルを破壊して断熱特性を低下させる原因となる。多数の電池セルをセパレータを挟んで積層している電源装置は、電池セルの膨張での位置ずれを阻止するために、積層した電池セルを加圧状態に固定している。このことを実現するために、電源装置は、多数の電池セルを積層している電池ブロックの両端面には一対のエンドプレートを配置して、一対のエンドプレートをバインドバーで連結している。バインドバーとエンドプレートは、電池セルを相当に強い圧力で加圧状態に保持して、電池セルの相対移動や振動による誤動作を防止している。このため、たとえば、積層面の面積を約100平方センチとする電池セルを積層する電源装置においては、エンドプレートを数トンもの強い力で押圧してバインドバーで固定している。加圧状態の電池セルに挟まれて、断熱特性の低下を抑制する構造のセパレータが開発されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のセパレータは、繊維シートとシリカエアロゲルを含む複合層を有し、繊維シートを折り返して積層して多層構造として、加圧されてシリカエアロゲルの破壊を防止している。この構造のセパレータは、折り返して、積層しているので、全体が厚くなる欠点があり、さらに、繊維シートの折り返し部と積層部とで内部構造が不均一となって、電池セルとの押圧面での圧力差を均一化するのが難しい欠点がある。セパレータが厚くなると、電池セルを積層している電池ブロックが長く大きくなり、電池セルの押圧面を均等に加圧して支持できないセパレータは電池セルの電極に悪影響を与える。さらに、繊維シートとシリカエアロゲルの複合層からなるセパレータは電池セルの膨張を吸収できないので、電池セルが膨張すると電池セルの圧力が急激に高くなって、エンドプレートやバインドバーに極めて強い力が作用する。このためエンドプレートとバインドバーは、極めて強靭な材質と構造が要求されて、電源装置が重く、大きく、材料コストが高くなる。
【0006】
本発明は、以上の欠点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の目的の一は、電池セルの膨張をセパレータで吸収することで、電池セルの膨張によるセパレータの断熱特性の低下を抑制し、電池セルの押圧面の圧力を均等化し、さらに電池セルが膨張してエンドプレートやバインドバーに過大な力が作用するのを抑制できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係る電源装置は、複数の電池セル1をセパレータ2を挟んで厚さ方向に積層してなる電池ブロック10と、電池ブロック10の両端面に配置してなる一対のエンドプレート3と、一対のエンドプレート3に連結されて、エンドプレート3を介して電池ブロック10を加圧状態に固定してなるバインドバー4とを備えている。セパレータ2は、繊維シートとシリカエアロゲルからなる断熱シート5と、断熱シート5の表面に積層してなるゴム状弾性シート6とを備えている。
【0008】
本発明のある態様に係る電動車両は、上記電源装置100と、電源装置100から電力供給される走行用のモータ93と、電源装置100及びモータ93を搭載してなる車両本体91と、モータ93で駆動されて車両本体91を走行させる車輪97とを備えている。
【発明の効果】
【0009】
以上の電源装置は、電池セルの膨張をセパレータで吸収して、電池セルの膨張によるセパレータの断熱特性の低下を抑制すると共に電池セルの押圧面を圧力を均等化でき、さらに電池セルが膨張してエンドプレートとバインドバーに過大な応力が作用するのを抑制できる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電源装置の斜視図である。
【
図5】セパレータの他の一例を示す一部拡大断面図である。
【
図6】エンジンとモータで走行するハイブリッド車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
【
図7】モータのみで走行する電気自動車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0012】
本発明の第1の実施形態の電源装置は、複数の電池セルをセパレータを挟んで厚さ方向に積層してなる電池ブロックと、電池ブロックの両端面に配置している一対のエンドプレートと、一対のエンドプレートに連結されて、エンドプレートを介して電池ブロックを加圧状態に固定しているバインドバーとを備える。セパレータは、繊維シートとシリカエアロゲルからなる断熱シートの表面にゴム状弾性シートを積層している。
【0013】
以上の電源装置は、電池セルの間のセパレータに、電池セルの膨張で変形するゴム状弾性シートを設けているので、電池セルが膨張するとゴム状弾性シートが加圧されて薄くなる。このため、電池セルが膨張して電池セルとセパレータとの面圧が高くなるのを抑制できる。繊維シートとシリカエアロゲルからなる断熱シートは、極めて優れた断熱特性を示すが、シリカエアロゲルが強い圧縮応力で破壊されると断熱特性が低下する。ゴム状弾性シートが面圧で薄くなって、セパレータの面圧上昇を抑制できる構造は、電池セルが膨張によるシリカエアロゲルの破壊を防止して、セパレータの優れた断熱特性を維持する。優れた断熱特性を維持するセパレータは、長期間にわたって電池セルの熱暴走が隣に誘発されるのを防止して、電源装置の安全性を長期間にわたって保障する。
【0014】
さらに、以上の電源装置は、断熱シートの表面に、加圧されると薄く弾性変形するゴム状弾性シートを積層して、面圧の上昇を抑制する。このことは、断熱シートを複雑な構造として、面圧の上昇を抑制するする特殊な構造とする必要がなく、しかもゴム状弾性シートが圧力が強くなると薄く変形して面圧の局部的なアンバランスを解消して、電池セルとセパレータとの面圧が局部的にアンバランスとなるのを抑制する。面圧のアンバランスを少なくできることは、正極と負極と絶縁層を多数層に積層している電池の内部ショートを防止して安全性を向上できる効果がある。
【0015】
さらにまた、以上の電源装置は、セパレータのゴム状弾性シートで、電池セルの膨張による面圧の上昇を抑制するので、電池セルが膨張して、エンドプレートやバインドバーに過大な応力が作用するのを防止できる。最大応力を減少できるエンドプレートとバインドバーは、薄くして軽量化できる。また、電池セルの間のセパレータで電池セルの膨張を吸収する電源装置は、電池セルが膨張して相対位置がずれるのも抑制できる。このことは、電池セルの電気接続部の弊害も防止できる。積層された電池セルは、金属板のバスバーを電極端子に固定して電気接続しているが、電池セルが相対的に位置ずれすると、バスバーと電極端子に無理な応力が作用して故障の原因となるからである。
【0016】
本発明の第2の実施形態の電源装置は、セパレータを、断熱シートの両面にゴム状弾性シートを積層する構造としている。この電源装置は、セパレータの両面で電池セルの膨張を吸収できるので、断熱シートの表面に薄いゴム状弾性シートを積層しながら、電池セル両面の膨張を均等に吸収できる特徴がある。
【0017】
本発明の第3の実施形態の電源装置は、セパレータを、断熱シートの片面のみにゴム状弾性シートを積層する構造としている。この電源装置は、セパレータを薄くして、製造コストを低減しながら、セパレータの両面に積層される電池セルの膨張を、断熱シートの片面に積層したゴム状弾性シートで吸収できる。
【0018】
本発明の第4の実施形態の電源装置は、ゴム状弾性シートを合成ゴムシートとしている。さらに、本発明の第5の実施形態の電源装置は、ゴム状弾性シートの合成ゴムを、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプロンゴム、ニトリルゴム、ホリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性オレフィンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ポリエーテルゴムの何れかとしている。
ゴム状弾性シートのエチレン酢酸ビニル共重合体ゴムは耐熱温度を200℃に、アクリルゴムは耐熱温度を180℃に、フッ素ゴムは耐熱温度を300℃に、シリコーンゴムは耐熱温度を280℃と高くできる。
【0019】
本発明の第6の実施形態の電源装置は、ゴム状弾性シートの厚さを、0.2mm以上であって2mm以下としている。
【0020】
本発明の第7の実施形態の電源装置は、断熱シートをゴム状弾性シートよりも厚くして、セパレータの断熱特性を向上して、電池セルの熱暴走の誘発を効果的に抑制している。
【0021】
本発明の第8の実施形態の電源装置は、断熱シートを0.5mm以上であって2mm以下としている。
【0022】
本発明の第9の実施形態の電源装置は、電池セルの間に積層している全てのセパレータを、断熱シートの表面にゴム状弾性シートを積層する構造としている。この電源装置は、全てのセパレータが断熱シートの表面にゴム状弾性シートを積層しているので、全ての電池セルの膨張を均等にゴム状弾性シートで吸収して、電池セルとセパレータの面圧上昇を効果的に抑制できる特徴がある。
【0023】
(実施の形態1)
図1の斜視図と
図2の垂直断面図と
図3の水平断面図に示す電源装置100は、複数の電池セル1をセパレータ2を挟んで厚さ方向に積層している電池ブロック10と、電池ブロック10の両端面に配置している一対のエンドプレート3と、一対のエンドプレート3を連結してエンドプレート3を介して電池ブロック10を加圧状態に固定しているバインドバー4とを備える。
【0024】
(電池ブロック10)
電池ブロック10の電池セル1は、外形を四角形とする角形電池セルで、上面の両端部に正負一対の電極端子12を上方向に突出して設けている。電極端子12間には安全弁(図示せず)を設けている。安全弁は、電池セル1の内圧が所定値以上に上昇した際に開弁して、内部のガスを放出する。安全弁は、電池セル1の内圧上昇を防止する。
【0025】
(電池セル1)
電池セル1は、リチウムイオン二次電池である。電池セル1をリチウムイオン二次電池とする電源装置100は、容量と重量に対する充電容量を大きくできる特長がある。ただし、電池セル1は、リチウムイオン二次電池以外の非水系電解液二次電池等、他の充電できる全ての電池とすることができる。
【0026】
(エンドプレート3、バインドバー4)
エンドプレート3は、電池ブロック10に押圧されて変形しない、電池セル1の外形にほぼ等しい外形の金属板で、両側縁にバインドバー4を連結している。バインドバー4は、エンドプレート3が積層している電池セル1を加圧状態で連結して、電池ブロック10を所定の圧力で加圧状態に固定している。
【0027】
(セパレータ2)
セパレータ2は、積層している電池セル1の間に挟まれて、隣接する電池セル1を絶縁し、さらに電池間における熱伝導を遮断し、さらに、電池セル1の膨張を吸収する。電池ブロック10は、隣接する電池セル1の電極端子12にバスバー(図示せず)を固定して、電池セル1を直列又は並列に接続している。直列に接続される電池セル1は、電池ケースに電位差が発生するので、セパレータ2で絶縁して積層する。並列に接続される電池セル1は、電池ケースに電位差は発生しないが、熱暴走の誘発を防止するために、セパレータ2で断熱して積層する。
【0028】
セパレータ2は、
図4の拡大断面図に示すように、断熱シート5の表面にゴム状弾性シート6を積層している。断熱シート5は、繊維シートと極めて小さいシリカエアロゲルからなる。ゴム状弾性シート6は加圧されて薄く弾性変形するシートである。ゴム状弾性シート6は、加圧力で厚さが弾性的に変化して、電池セル1の膨張と収縮を吸収して、断熱シート5の劣化を防止する。シリカエアロゲルの断熱シート5は、脆弱なシリカエアロゲルが圧縮されて破壊されると断熱特性が低下する。ゴム状弾性シート6は、電池セル1の膨張時におけるシリカエアロゲルの圧縮応力を低下して破壊を防止して、断熱シート5を長期間にわたって優れた断熱特性を維持し、電池セル1間の熱暴走の誘発を防止する。
【0029】
(断熱シート5)
断熱シート5は、繊維シートとシリカエアロゲルからなり、この断熱シート5は、繊維シートの繊維隙間に、ナノサイズの多孔質構造を有するシリカエアロゲルを充填している。断熱シート5は、シリカエアロゲルのゲル原料を、繊維に含浸して製造される。シリカエアロゲルを繊維シートに含浸した後、繊維を積層し、ゲル原料を反応させて湿潤ゲルを形成し、さらに湿潤ゲル表面を疎水化、熱風乾燥して製造される。繊維シートの繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。ただ、繊維シートの繊維は、難燃処理を施した酸化アクリル繊維やグラスウールなどの無機繊維も使用できる。
【0030】
断熱シート5の繊維シートは、好ましくは繊維径を0.1~30μmとする。繊維シートの繊維径を30μmより細くし、繊維による熱伝導を小さくして、断熱シート5の断熱特性を向上できる。シリカエアロゲルは、二酸化ケイ素(SiO2)の骨格と、90%~98%の空気で構成された微粒子で、2nm~20nmの球状体が結合したクラスタ構造で、クラスタで形成される骨格間には100nm以下の微細孔があって、三次元的な微細な多孔性構造をしている。
【0031】
繊維シートにシリカエアロゲルからなる断熱シート5は、薄くて優れた断熱特性を示す。この断熱シート5は、電池セル1が熱暴走して発熱するエネルギーを考慮して、電池セル1の熱暴走の誘発を阻止できる厚さに設定する。電池セル1が熱暴走して発熱するエネルギーは、電池セル1の充電容量が大きくなると大きくなる。したがって、断熱シート5の厚さは、電池セル1の充電容量を考慮して最適値に設定される。たとえば、充電容量を5Ah~20Ahとするリチウムイオン二次電池を電池セル1とする電源装置は、断熱シート5の厚さを0.5mm~2mm、最適には約1mm~1.5mmとする。ただし、本実施形態の電源装置は、断熱シート5の厚さを以上の範囲に特定するものでなく、断熱シート5の厚さは、繊維シートとシリカエアロゲルからなる熱暴走の断熱特性と、電池セル1の熱暴走の誘発を防止するために要求される断熱特性を考慮して最適値に設定される。
【0032】
(ゴム状弾性シート6)
セパレータ2は、
図4に示すように、断熱シート5の両面にゴム状弾性シート6を積層している。ゴム状弾性シート6は、硬度を調整して電池セル1の加圧による変形量を最適値に設定できる。ゴム状弾性シート6の硬度は、電池セル1の圧力を考慮して最適値に設定されるが、好ましくは10度以上であって80度以下、さらに好ましくは10度以上であって70度以下とする。ゴム状弾性シート6の硬度が低すぎると、電池セル1でセパレータ2が薄く押し潰されてしまう。したがって、ゴム状弾性シート6の硬度は、電池セル1がセパレータ2を加圧する圧力を考慮して最適値に設定される。
【0033】
ゴム状弾性シート6は、加圧する圧力で変形する弾性を有するシートで、厚さを弾性的に変形させて、電池セル1の膨張を均等に吸収する。ゴム状弾性シート6は、たとえばシリコンゴムやウレタンゴム等の合成ゴムシートとすることができる。さらに、ゴム状弾性シート6の合成ゴムは、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプロンゴム、ニトリルゴム、ホリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性オレフィンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ポリエーテルゴムの何れかとすることができる。また、ウレタンゴムでゴム状弾性シート6を構成する場合は、特に、熱可塑性ポリウレタンゴム、発泡ポリウレタンゴムを用いることが好ましい。ゴム状弾性シート6を発泡ウレタンゴムで構成する場合、発泡ウレタンゴムの物性は、密度が150~750kg/m3、厚みが0.5~6.0mm、圧縮永久ひずみが20%以下であることが好ましい。なお、ここでいう圧縮永久ひずみは、以下の方法によって求めることができる。測定対象の発泡ウレタンゴムを環境温度100℃で、50%圧縮させる。圧縮させた状態を22時間維持する。その後、圧縮状態を開放して、発泡ウレタンゴムの厚さを測定する。試験前後の厚さを比較することで、圧縮永久ひずみを求める。
【0034】
セパレータ2は、各々の電池セル1の間に積層されるので、厚いセパレータ2は電池ブロック10を大きくする。電池ブロック10を小形化することから、セパレータ2はできる限り薄くすることが要求される。電源装置において、容積に対する充電容量は極めて大切な特性である。電源装置100は、電池ブロック10を小形化して充電容量を大きくするために、セパレータ2には、ゴム状弾性シート6と断熱シート5を薄くして、電池セル1の熱暴走の誘発を阻止する特性が要求される。ゴム状弾性シート6は、たとえば0.2mm以上であって2mm以下、さらに好ましくは0.3mm~1mm以下として、電池セル1の膨張による圧縮応力の増加を抑制する。さらに、ゴム状弾性シート6は、好ましくは断熱シート5よりも薄くして、電池セル1膨張時のシリカエアロゲルの圧縮応力を低下させる。
【0035】
以上の電源装置100は、好ましくは全てのセパレータ2を、断熱シート5の両面にゴム状弾性シート6を積層する構造とするが、必ずしも全てのセパレータ2を、断熱シート5の両面にゴム状弾性シート6を積層する構造とする必要はない。セパレータ2は、
図5に示すように、断熱シート5の片面にゴム状弾性シート6を積層することができる。また、電源装置は、全てのセパレータを断熱シートとゴム状弾性シートの積層構造とする必要はなく、断熱シートのみのセパレータと、断熱シートとゴム状弾性シートの積層構造のセパレータとを混在して設けることもできる。
【0036】
ゴム状弾性シート6と断熱シート5は、接着層や粘着層を介して接合して定位置に積層される。なお、ゴム状弾性シート6と断熱シート5は、二色成型などの工法により、一体成型される構成であってもよく、必ずしも、接着層や粘着層を介して接合される必要はない。セパレータ2と電池セル1も接着剤や粘着層を介して接合されて定位置に配置される。ただ、セパレータ2は、電池セル1を嵌合構造で定位置に配置する電池ホルダー(図示せず)の定位置に配置することもできる。
【0037】
以上の電源装置100は、電池セル1を、充電容量を6Ah~10Ahとする角形電池セルとし、セパレータ2の断熱シート5を、繊維シートとシリカエアロゲルからなる厚さが1mmである「パナソニック製のNASBIS(登録商標)」とし、断熱シート5の両面に積層しているゴム状弾性シート6を厚さが0.5mmのウレタンゴムシートとして、特定の電池セル1を強制的に熱暴走させて、隣接する電池セル1への熱暴走の誘発を防止できる。
【0038】
以上の電源装置は、電動車両を走行させるモータに電力を供給する車両用の電源として利用できる。電源装置を搭載する電動車両としては、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車やプラグインハイブリッド自動車、あるいはモータのみで走行する電気自動車等の電動車両が利用でき、これらの車両の電源として使用される。なお、車両を駆動する電力を得るために、上述した電源装置を直列や並列に多数接続して、さらに必要な制御回路を付加した大容量、高出力の電源装置100を構築した例として説明する。
【0039】
(ハイブリッド車用電源装置)
図6は、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車に電源装置を搭載する例を示す。この図に示す電源装置を搭載した車両HVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させるエンジン96及び走行用のモータ93と、これらのエンジン96及び走行用のモータ93で駆動される車輪97と、モータ93に電力を供給する電源装置100と、電源装置100の電池を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。車両HVは、電源装置100の電池を充放電しながらモータ93とエンジン96の両方で走行する。モータ93は、エンジン効率の悪い領域、例えば加速時や低速走行時に駆動されて車両を走行させる。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、エンジン96で駆動され、あるいは車両にブレーキをかけるときの回生制動で駆動されて、電源装置100の電池を充電する。なお、車両HVは、
図6に示すように、電源装置100を充電するための充電プラグ98を備えてもよい。この充電プラグ98を外部電源と接続することで、電源装置100を充電できる。
【0040】
(電気自動車用電源装置)
また、
図7は、モータのみで走行する電気自動車に電源装置を搭載する例を示す。この図に示す電源装置を搭載した車両EVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させる走行用のモータ93と、このモータ93で駆動される車輪97と、このモータ93に電力を供給する電源装置100と、この電源装置100の電池を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、車両EVを回生制動する時のエネルギーで駆動されて、電源装置100の電池を充電する。また車両EVは充電プラグ98を備えており、この充電プラグ98を外部電源と接続して電源装置100を充電できる。
【0041】
さらに、本発明は、電源装置の用途を、車両を走行させるモータの電源には特定しない。実施形態に係る電源装置は、太陽光発電や風力発電等で発電された電力で電池を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。
【0042】
さらに、電源装置は、夜間の深夜電力を利用して電池を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。深夜電力で充電される電源装置は、発電所の余剰電力である深夜電力で充電して、電力負荷の大きくなる昼間に電力を出力して、昼間のピーク電力を小さく制限することができる。さらに、電源装置は、太陽電池の出力と深夜電力の両方で充電する電源としても使用できる。この電源装置は、太陽電池で発電される電力と深夜電力の両方を有効に利用して、天候や消費電力を考慮しながら効率よく蓄電できる。
【0043】
以上のような蓄電装置は、コンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用または工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機や道路用の交通表示器などのバックアップ電源用などの用途に好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る電源装置は、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車、電動オートバイ等の電動車両を駆動するモータの電源用等に使用される大電流用の電源として好適に利用できる。例えばEV走行モードとHEV走行モードとを切り替え可能なプラグイン式ハイブリッド電気自動車やハイブリッド式電気自動車、電気自動車等の電源装置が挙げられる。またコンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用、工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機等のバックアップ電源用等の用途にも適宜利用できる。
【符号の説明】
【0045】
100…電源装置、1…電池セル、2…セパレータ、3…エンドプレート、4…バインドバー、5…断熱シート、6…ゴム状弾性シート、10…電池ブロック、12…電極端子、91…車両本体、93…モータ、94…発電機、95…DC/ACインバータ、96…エンジン、97…車輪、98…充電プラグ、HV、EV…車両。