(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】粒子を含むエマルジョン
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20240119BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240119BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240119BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240119BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240119BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240119BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20240119BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K47/24
A61K47/32
A61K47/34
A61P35/00
A61L31/04 110
A61K49/00
A61K31/704
(21)【出願番号】P 2022007118
(22)【出願日】2022-01-20
(62)【分割の表示】P 2018546676の分割
【原出願日】2017-03-10
【審査請求日】2022-02-16
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303039785
【氏名又は名称】バイオコンパティブルズ ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ドレハー,マシュー,アール
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,アンドリュー,レナード
(72)【発明者】
【氏名】ウィリス,ショーン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,シュイ ティン
(72)【発明者】
【氏名】ケイン,マーカス ゴードン
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/152488(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続相、不連続相および複数の粒子を含み、前記不連続相は水性であり、前記連続相は油を含むエマルジョン組成物であって、前記粒子は、ヨウ素
化芳香族基が環状アセタールを介してポリビニルアルコール主鎖に結合しているポリビニルアルコールと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーを含
み、油相の体積が水相の体積を超えている、エマルジョン組成物。
【請求項2】
ヨウ素が少なくとも30mgI/mlの充填体積のレベルで前記粒子中に存在する、請求項
1に記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
前記ヨウ素は少なくとも60mgI/mlの充填体積のレベルで前記粒子中に存在する、請求項
2に記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
前記粒子が親水性ヒドロゲルポリマーを含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項5】
前記
コポリマーが、6~8のpHで全電荷を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項6】
前記
コポリマーが、6~8のpHでアニオン電荷を有する、請求項5に記載のエマルジョン組成物。
【請求項7】
前記油相対前記水相の比が1.1:1v/vより大きい、請求項
1に記載のエマルジョン組成物。
【請求項8】
18~22℃で少なくとも10分間安定である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項9】
前記水相が造影剤を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項10】
前記粒子が医薬活性成分を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項11】
前記油が、ケシ油の脂肪酸のヨウ素化エチルエステル組成物である、請求項1~
10のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項12】
前記粒子が油相に存在し、不連続相と連続相の界面に蓄積する、請求項1~
11のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物を製造する方法であって、
a.油を含む連続相を提供することと、
b.水相を提供することと、
c.ヨウ素
化芳香族基が環状アセタールを介してポリビニルアルコール主鎖に結合しているポリビニルアルコールと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーを含む複数の粒子を提供することと、
それらを組み合わせてエマルジョンを提供することとを含む、方法。
【請求項14】
請求項1~
12のいずれか一項に記載のエマルジョン組成物を製造するためのキットであって、油と、複数の粒子とを含み、前記粒子は、ヨウ素
化芳香族基が環状アセタールを介してポリビニルアルコール主鎖に結合しているポリビニルアルコールと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療的塞栓術の分野に関し、特に、肝動脈化学塞栓術(TACE)を行うための材料および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療的塞栓術は、組織に供給される血管を遮断することによって組織への血流を制限し、局所的壊死をもたらす最小侵襲性の技術である。これには液体および固体塞栓剤の両方が使用されてきた。1つのアプローチでは、この効果は、追加的に抗悪性腫瘍薬を含み得る油性エマルジョンの経カテーテル送達によって達成される。油成分は、典型的には、ケシ油脂肪酸のヨウ素化エチルエステル組成物(リピオドール(登録商標)UltraFluide-ゲルベS.A.、フランス)である。水性成分は、典型的には、薬物送達の視覚化を改善するためのヨウ素化造影剤を含む。このアプローチは、例えば、肝細胞癌(HCC)の治療に有用であり、conventional TACE(cTACE)として知られている。
【0003】
エマルジョンは、癌に養分供給する肝動脈枝に導入され、典型的には、腫瘍に養分供給する2つの系の間の胆管周囲血管叢を横断するまたは類洞を渡ることによって、腫瘍に養分供給する肝動脈だけでなく門脈静脈も塞栓することができる。しかしながら、エマルジョンは弱い塞栓剤であり、急速にウォッシュアウトされ、細胞傷害性薬物を体循環に放出する。送達後の粒状「プラグ」の使用(例えば、タンパク質フォーム粒子、または永続的なマイクロスフェア塞栓術-例えば、Geschwindら、Cardiovasc.Intervent.Radial.(2003)26:111-117を参照)は、塞栓効果を延長するのに有用であるが、最終的にはエマルジョンの分散を妨げない。さらに、cTACE後、油と薬物は共存しない(GabaR.ら、J.V.I.R.2012;23(2);265-273)。
【0004】
エマルジョンは、簡便な調製および送達のために十分に安定でなければならない。それは、処置に必要な小さなカテーテルを通しての送達中も安定したままでなければならず、血管内を移動する際にも凝集性を保つべきである。さらに、再乳化が必要である場合には、再調製された乳濁液は元の乳濁液と同様の特性を有するべきである。しかしながら、調製および材料の変化が、安定性などの特性を広く変化させる可能性がある。
【0005】
様々な材料の塞栓粒子が利用可能である。典型的には、40~1200μMの範囲の直径を有するポリマーマイクロスフェアがそのような材料の1つである。それらはいくつかの場合において、数時間または数日間にわたって放出される化学療法剤を組み込むことによって、TACEに適合させることができる。このアプローチはHCCの治療にも使用されているが、一般的に塞栓粒子はその大きさのために肝静脈に流入せず、そのため腫瘍循環の一部にアクセスできない。国際公開第2004/071495号は、ポリビニルアルコールコポリマーから調製されたそのような薬剤の1つを開示している。
【0006】
それらの欠点にもかかわらず、cTACEのエマルジョン調製物は依然として一般的である。しかしながら、予測される薬物動態を提供し、全身曝露を低減し、良好な程度の塞栓形成を提供し、長期間にわたり薬剤を組織に送達し、使用する時点でのシンプルかつ迅速な調製が可能であり、必要な成分が最小限であり、門脈塞栓の可能性を提供し、放射線フィードバックを提供し、送達前と送達中に十分な時間にわたって確実に安定している、cTACEに使用するのための調製物が、依然として必要とされている。
【0007】
国際公開第2015/036626号は、親水性粒子およびリピオドール(登録商標)を含むエマルジョン製剤を提供する。しかし、これらは安定性の問題、および再乳化が徐々に安定時間を短くするという問題を抱えている。
【0008】
本発明者らは、塞栓粒子を組成物に組み込むことにより、TACEに使用するのための改善された特性を有するエマルジョン製剤を、送達前に容易に調製できることを確認した。特に、本発明者らは、ヨウ素化ポリマーを含む粒子を組み込むことによって、エマルジョンの特性を変更して、安定性および有用性を高めることができることを確認した。この調製は、使用の時点で容易に行うことができ、追加の特別な製造装置を必要とせず、既に開示されたエマルジョン製剤よりも改善された安定性を有する。製剤は、腫瘍へ養分供給する動脈および門静脈の両方の塞栓を提供し、組み込まれた薬物の体循環への曝露を低減し、より予測可能な薬物動態および改善された局所送達を提供する可能性を有する。粒子の疎水性は、疎水性部分をポリマーに組み込むことによって増加し、疎水性、特に表面の疎水性を増加させるだけでなく、粒子に固有の放射線不透過性を付与するヨウ素化芳香族種が特に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2004/071495号
【文献】国際公開第2015/036626号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Geschwindら、Cardiovasc.Intervent.Radial.(2003)26:111-117
【文献】GabaR.ら、J.V.I.R.2012;23(2);265-273
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明は、連続相、不連続相および複数の粒子を含み、不連続相が水性であり、連続相が油を含むエマルジョン組成物を提供する。粒子は、粒子に共有結合したヨウ素を含む。
【0012】
粒子特性
形状
本発明では、不規則な形状の粒子状物質を使用することができるが、その球状形態は、より遠位へ配分するための良好な流動特性および取り扱いの容易さをもたらすために、球状の粒子が一般に好ましい。マイクロ粒子、または好ましくはマイクロスフェアとして当該分野で公知の粒子タイプが特に好ましい。
【0013】
サイズ
塞栓療法に適した粒子またはマイクロスフェアを任意のサイズで使用することができるが、それらは一般に直径2000μmを超えない。粒子が腫瘍を超えて静脈系へと毛細血管床を通過しないことが好ましいため、粒子は少なくとも15μmが好ましい。粒子は一般に、ある範囲の大きさで提供され、例えば15~1200ミクロンの粒子を使用することができ、典型的には計画された処置に適合するような副範囲のサイズの粒子を調製により提供し、例えば100~300、300~500、500~700または700~900μmである。より小さい粒子は、血管床のより深くを通過する傾向があり、したがっていくつかの目的のためには、例えば15~35、30~60、40~90または70~150ミクロンなどの範囲の粒子が好ましい。粒子が大きさの範囲で言及される場合、これは特に明記しない限り、その範囲が調製物中の粒子の少なくとも80%、好ましくは90%を包含することを意味する。サイズは、生理食塩水(1mMリン酸ナトリウム、pH7.2~7.4、0.9%NaCl)中の完全に水和した粒子を指す。
【0014】
多孔性
気孔や空隙のような内部空間を有する粒子もまた考えられる。気孔は、相互に連結されていても、またはいなくてもよいが、粒子の外部に開いている。空隙は、外部に接続されていない内部空間である。
【0015】
乾燥
粒子は、乾燥形態または水和形態で提供することができる。乾燥した粒子は、典型的には凍結乾燥され、真空下(すなわち、0.01バール未満の圧力)で保存されて提供される。本明細書において水和粒子が言及される場合、これは特に明記しない限り、生理食塩水(1mMリン酸ナトリウム、pH7.2~7.4、0.9%NaCl)中で完全に水和された粒子を指す。特に明記しない限り、すべての測定値は実験室温度下(18~22℃)である。好ましい一実施形態において、粒子は、1つ以上の凍結保護剤の存在下で乾燥される。これは、乾燥した際に粒子の構造を保つために役立つ。好適な凍結保護剤としては、ポリアルコールおよびモノ、ジおよびポリサッカライドのような薬学的に許容される水溶性ポリヒドロキシ化合物が挙げられる。例えば、スクロース、グルコース、デキストロースおよびトレハロースを使用することができ、マンニトールは良好な結果をもたらした。凍結防止剤は、例えば粒子がヒドロゲルから調製された場合など、構造水の除去が粒子の構造を損なう可能性がある場合に、特に有用である。このように処理された粒子は、薬物負荷特性が改善されている。
【0016】
ポリマー
本発明の粒子はポリマーを含む。多くのタイプのポリマーが粒子の調製に使用されてもよく、それらは生分解性であっても生分解性でなくてもよい。好ましい実施形態では、ポリマーは親水性であり、水膨潤性であるが水溶性ではないポリマーが好ましい。架橋ポリマーが特に好ましい。ポリマーには、多糖類(例えば、キトサンまたはアルギン酸塩)またはタンパク質(アルブミンまたはゼラチンなど)などの天然ポリマーまたは合成ポリマーが含まれる。
【0017】
合成ポリマーとしては、ポリラクチド、ポリグリコリドおよびそれらのコポリマーのようなポリエステル、例えばポリラクチド-co-グリコリドおよびポリ(D,L-ラクチド-co-PEG)、ポリオルトエステルおよびポリ(エステルアミド);メタアクリレートなどのアクリレート、メタアクリルアミドなどのアクリルアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリビニルハライドポリビニリデンハライド、ポリビニルエーテル、ポリビニル芳香族化合物、ポリビニルエステル、ポリアクリロニトリル、アルキド樹脂、ポリシロキサン、エポキシ樹脂、ビニルアルコールポリマー、ポリホスファゼン、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルポリヒドロキシアルカノエート、ポリ酸無水物、ポリアミノ酸、ポリオキシメチレン、およびポリイミド;ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ無水物、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド(アシルポリエチレンオキシドおよびそれらのコポリマーを含む)、ピロリドンおよびビニルピロリドン、ならびにアクリル酸、アクリルアミドおよびアクリレートに基づくモノマーなどの上記コポリマーが挙げられる。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明の粒子(マイクロスフェア)は、共有結合したヨウ素を含む。すなわち、粒子はヨウ素が共有結合したポリマー(上記のような)を含む。
電荷
粒子のポリマーは、好ましくは、荷電した薬物の結合を助ける6~8の範囲のpHで全電荷を保持する。粒子は、例えば、遊離の第四級アンモニウム基を有することでカチオン荷電してよく、または例えば遊離のカルボキシレート基またはスルホネート基を有することでアニオン荷電してもよい。好ましくは、これらは、6~8のpHでアニオン荷電する。好都合には、電荷は、荷電コモノマーを組み込むことによってポリマーに導入することができる。
【0019】
ヒドロゲル
ヒドロゲルポリマーは、充填された薬物が粒子のポリマーの全ての部分に容易に通過することを可能にするため好ましい。水膨潤性であるが水溶性ではないポリマーが好ましい。ヒドロゲルは、共有結合したヨウ素を含み、および30%を超える水(w/w)を含むことが好ましい。少なくとも40%の水を含むそのようなヒドロゲルは、良好な結果をもたらした。ヒドロゲルは、最大99%の水(w/w)を有することができるが、典型的には最大80または90%の水(w/w)を有する。この範囲内では、54~82%、50~85%、54~82%、50~75%および60~55%などの副範囲が好ましい。
【0020】
好ましいポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)のポリマーおよびコポリマーであり、特に、ポリマーは架橋されており、物理的架橋または共有結合的架橋のいずれも好ましい。アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリレートまたはメタクリレートとのコポリマーが特に好ましい。そのようなポリマーの例としては、PVAco-ナトリウムアクリレート(例えば、国際公開第2006/119968号の実施例1)、またはPVAマクロマーを形成するためにN-アクリロイルアミノアセトアルデヒドジメチルアセタール(NAAADA)で変性され、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)と架橋する、国際公開第04071495号の実施例1に記載されているようなPVAが挙げられる(PVA-AMPS)。
【0021】
ポリエチレングリコールのポリマーおよびコポリマー、特にPEGマクロマー、例えばPEG-アクリルアミド(例えばPEG-ジアクリルアミド)、またはPEG-メタクリレートなどのポリマーが好ましい。これらには、3-スルホプロピルアクリレートまたは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの荷電モノマーと架橋したポリエチレングリコールのポリマー、およびコポリマーが含まれる(例えば、国際公開第2015/070094号参照)。
【0022】
ポリメタクリル酸のような、アクリレートおよびメタクリレートのなどのアクリルポリマーも好ましい(例えば、Thanooら、J.Appl.Sci.、1990(38)、1153-1161およびUS4,622,367参照)。このようなポリマーは、アクリル酸メチル(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、ヘキサメチルメタクリレート(HMMA)またはヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)などの未加水分解前駆体から調製し、その後加水分解してもよい。適切な架橋剤としては、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)または、特にトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)などのグリコール系物質が挙げられる。TEGDMAで架橋されたメタクリル酸を含む粒子が特に好ましく、ポリ(トリフルオロエトキシ)ホスファジンなどのポリホスファジンコーティングでコーティングされてよい(国際公開第2006/046155号に記載)。
【0023】
ヨウ素化
本明細書に記載される粒子中のヨウ素成分の単位は、ヨウ素ミリグラム/ビーズミリリットル(mgI/ml)である。これは、生理食塩水中で十分に水和させた、ビーズ中のヨウ素含有量を充填されたビーズ体積として示す。すなわち、シリンダを測定することによって測定された体積である。
【0024】
好ましい実施形態では、本発明の粒子(マイクロスフェア)は、共有結合したヨウ素を含み、すなわち、粒子はヨウ素が共有結合したポリマー(上記のような)を含む。ヨウ素化部分のポリマーへのカップリングは、ポリマーの疎水性を増大させるため、例えば、ある実施形態では粒子のポリマーは親水性であり、水膨潤性であるが水溶性ではなくてもよく、ポリマーの性質は、ポリマーの疎水性を高めるためにヨウ素またはヨウ素化された部分のカップリングによって変更される。好ましくは、ヨウ素は実質的に粒子全体に結合している。
【0025】
好ましくは、ポリマーは少なくとも20mgI/mlのビーズを含む。好ましくは少なくとも30mgI/ml、より好ましくは少なくとも60mg、少なくとも100mg、少なくとも130mgまたは少なくとも150mgI/mlである。より高レベルのヨウ素は、典型的には、X線下でビーズを視覚化する能力、および薬物の結合および放出のための粒子の能力に対する影響、ビーズの密度などの他の要因によって左右され、要件に従う熟練者によって設定される。6769HUの放射線不透過性を有するヨウ素含有量155mgI/mlの粒子は、良好なレベルの放射線不透過性を提供し、フルオログラフィによって適切に視認され、エマルジョンの良好な安定性を提供し、ドキソルビシンなどの薬物を良好に負荷および放出すると考えられる。それにもかかわらず、ヨウ素含有量の上限は、200または250mgI/mlまでであり得る。30~200mgI/mlの範囲、例えば30~175、30~160、50~200、60~200、100~175、100~200および125~160mgI/mlが有用であると考えられる。実施例は、33~155mgI/mlのヨウ素含有量を有する粒子を説明する。
【0026】
ヨウ素は、好ましくはポリマーに共有結合しているフェニル基などの芳香族基を介してポリマーに結合していることが好ましい。したがって、1,2,3または4個のヨウ素は、このような基を介して、例えばモノ、ジ、トリまたはテトラヨードフェニル基としてポリマーに結合してよい。これにより、高密度のヨウ素を簡便に付着させることができる。
【0027】
このような基をポリマーにカップリングするためのいくつかのアプローチが知られている。例えば、ヨウ素は、ポリマーの合成中に、例えばポリマーをヨウ素化モノマーまたはコモノマーから形成することによって導入することができる。アクリレート、メタクリレート、およびアクリルアミドなどのヨウ素化モノマーが使用されている。他のエチレン系不飽和モノマーと結合してよい2-(2’-ヨードベンゾイル)エチルメタクリレートまたは2-(2’,3’,5’-トリヨードベンゾイル)エチルメタクリレートが、Benzinaらによって記載されている(Biomat.15(14)、1122-1128(1994)およびJ.Biomed.Mater.Res.32(3)、459-466(1996))。
【0028】
このアプローチはまた、(アクリルアミド-3-プロピオンアミド)-3-トリヨード-2,4,6-安息香酸を組み込むことによって、ヨウ素化架橋トリスヒドロキシメチルメチルアクリルアミドを調製するためにも使用される(米国特許第5648100号)。
【0029】
別の方法は、ヨウ素化基を、マイクロスフェア(好適には芳香族基、例えばヨウ素化フェニル基)のような予め形成された粒子にカップリングさせることを含む。これは、例えば、ヨウ素化基上の酸塩化物などの反応基を、ポリマー上の適切な官能基(例えば、2-ヒドロキシアクリレートのヒドロキシル基(例えば、HEMA粒子中の2-ヒドロキシエチルメタクリレート基、米国特許第4622367号参照)とカップリングさせることで達成できる。あるいは、カルボジイミドまたはカルボジイミダゾールカップリングを用いて、アルコール(例えば、トリヨードベンジルアルコール)酸(例えば、トリヨード安息香酸)、アミン(例えば、ヨードベンジルアミン)またはヨウ素化芳香族基の他の適切な誘導体をポリマーにカップリングさせてもよい(例えば国際公開第2014/152488号参照)。
【0030】
好ましい実施形態では、1,2または1,3ジオールを含むポリマー主鎖を有するポリマー粒子(例えば、PVA)は、(PVA)主鎖が国際公開第2015/033092に記載されているような環状アセタールを介して共有結合したヨウ素化芳香族基(トリヨードフェニル基など)を含むように、2,3,5トリヨードベンズアルデヒドなどのヨウ素化芳香族アルデヒドとカップリングされる(式I):
【0031】
【0032】
したがって、好ましい実施形態では、粒子はPVAのポリマーまたはコポリマーを含む。ポリマーは、好ましくは物理的にまたは共有結合的に架橋され、少なくとも20mgI/ml、好ましくは250mgI/mlまでを含み、ヨウ素はポリマーに、好ましくは芳香族基を介して共有結合し、芳香族基はそれ自身ポリマーに共有結合しており、1,2,3または4個のヨウ素を有する。このアプローチは、PVAポリマーがPVA-co-アクリル酸ナトリウムまたはPVA-AMPSポリマー(国際公開第04071495号)である場合に特に好ましい。
【0033】
油
油は、非鉱物(すなわち有機)油、特に植物由来の油であり、好ましくは注射経路によって薬学的に許容されるべきである。
【0034】
本発明は、(ヨウ素が組み込まれているために放射線不透過性のような)特定の利点を提供するリピオドール(登録商標)の使用に関して記載されているが、他の油を使用してもよい。油は、水不溶性脂質を含み、特にモノ、ジまたはトリグリセリド、またはそれらの遊離脂肪酸、これらのまたはエステルの水素化生成物(例えば、メチル、エチルおよびプロピル、好ましくはエチルエステル)、および/またはそれらのハロゲン化(例えば、ヨウ素化または臭素化)生成物が、これらが容易に代謝される可能性があるために好ましい。例えば、ポピー種子油、ヒマシ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、ペパーミント油、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油およびそれらの遊離脂肪酸(例えばリノール酸、オレイン酸、パルミチン酸およびステアリン酸)、これらのまたはエステルの水素化生成物(例えば、メチル、エチルおよびプロピル、好ましくはエチルエステル)および/またはこれらのハロゲン化(例えばヨウ素化または臭素化)生成物である。油はステアリン酸エチルエステルを含み、特にこれらのヨウ素化生成物が好ましく、例えばモノヨードステアリン酸エチルおよびステアリン酸エチルジヨードなどが好ましい。
【0035】
組成物
油:水性比
好ましいエマルジョンは、油中水型である。この構造では、油中の水相は、カテーテルを出るときに血液から保護される。これは、水滴が血液中に直ちに分散されることを防止し、エマルジョン中に存在する任意の薬物を循環中に分散させる。エマルジョン中の油相(リピオドール)対水相の比は、1:1 vol/volのリピオドール:水相を超えなければならず、すなわちエマルジョン中のリピオドールの割合は水相の割合を超えなければならない。好ましくは、比は少なくとも1.1:1、または少なくとも1.5:1、例えば1.1:1~10:1または5:1である。特に、1.5:1~10:1または1.5:1~6:1または5:1の範囲である。
【0036】
粒子:リピオドール比
一般に、調製に使用される粒子の量は、必要な塞栓形成の程度および血流停止に達するために必要な粒子の量に依存する。任意のエマルジョン調製物の最小量は、エマルジョンを安定化させる量であり、エマルジョンの成分に依存して変化し得る。典型的には、組成物中の粒子のリピオドールに対する比は、1:100および1:1、好ましくは1:20または1:40~1:1v/v、およびより好ましくは1:10または1:5~1:1である。
【0037】
体積は、粒子が乾燥する前に、生理食塩水(1mMリン酸ナトリウム、pH7.2~7.4、0.9%NaCl)中の完全に水和した粒子の充填量(例えば測定シリンダを用いて測定してもよい)を意味する(実施例1参照)。
【0038】
安定性
本発明のエマルジョンは、改善された安定性を示し、典型的には少なくとも10分間、好ましくは少なくとも30分間、より好ましくは少なくとも60分間、より好ましくは少なくとも80分間または90分間安定である。実施例3aに従って安定性を測定し、安定性は、エマルジョン体積の10%が分離するのに要する時間として定義される。
【0039】
本発明のエマルジョンはまた、流れの中で凝集性を維持する。エマルジョンは、実施例3cに記載の静的流動試験において安定な油滴を形成し、実施例3dの連続流動試験において分岐点で安定したままである傾向がある。
【0040】
水相
水相は、例えば、水または生理食塩水(例えば、1mMリン酸ナトリウム、pH7.2~7.4、0.9%NaCl)であってもよく、薬物または造影剤のようなさらなる成分を含んでもよい。
【0041】
造影剤
造影剤は、造影様式(例えば、X線、磁気共鳴、超音波、陽電子放出造影剤など)による水相(したがって、エマルジョン)の検出を可能にする任意の成分であり得る。そのような薬剤は、X線透視法または投影X線撮影などのX線ベースのシステムのためのヨウ素含有造影媒体、ガドリニウム、鉄、白金またはマンガン含有のMRI用造影媒体、超音波のためのガス含有マイクロバルーンなどの気泡調製物、または電子放射様式のための18F含有化合物、または64Cuまたは68Gaを含む。典型的には、造影剤は、ヨウ素含有化合物のようなX線造影剤である。特に、イオパミドール、イオヘキソール、イオジキサノールまたはイオプロミドのような非イオン性ヨウ素含有造影剤である。
【0042】
薬物
本発明の組成物は、粒子、油および/または水相中に存在し得る1つまたは複数の医薬活性物質を含む場合に特に有利である。油、水および粒子相の存在は、それぞれに異なるタイプの薬物を組み込む機会を提供する。例えば、本発明は、油相が疎水性薬物(固体形態または油中に溶解してもよい)を含み、一方で水相が親水性薬物(固体形態または水相に溶解していてもよい)を含むエマルジョンの提供を意図する。本発明はまた、粒子および水相中に異なる親水性薬物を提供することも意図している。
【0043】
好ましくは、粒子は、好ましくはイオン相互作用によって粒子に放出可能に結合している、医薬活性物質を含む。
抗腫瘍薬が好ましい。特にカンプトテシン(イリノテカンおよびトポテカンなど)、アントラサイクリン(ドキソルビシンなど)、プラチナ含有薬物(スピロプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、ミラプラチンまたはカルボプラチンなど)、代謝拮抗物質(例えば5-FUなどのチミジン酸シンターゼ阻害剤)、キナーゼ阻害剤(例えばスニチニブ、ソラフェニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、およびバンデタニブなどのVEGFRおよびEGFR阻害剤など)、細胞分裂毒(タキサン、例えばパクリタキセルまたはドセタキセル;またはビンカアルカロイド、例えばビンブラスチンおよびビンクリスチンおよびビノレルビンのような合成バージョンなど)、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾールなど)、17α-ヒドロキシラーゼ/C17,20-リアーゼ阻害剤(CYP17Al)(例えば、アビラテロンおよびそのアセテート)、抗葉酸剤(メトトレキサートなど)、ホルモン受容体拮抗薬(タモキシフェンおよびデガレリクスなど)または拮抗薬(ブセレリンなど)、アルキル化剤(クロラムブシル、ブスルファン、ストレプトゾトシン、ロムスチンおよびシクロホスファミドなど)、レチノイド活性化剤(例えば、ベキサロテン)である。
【0044】
粒子が荷電している場合、薬物の負荷を促進するために、活性担体が同じ条件下で反対の電荷を有することが好ましい。活性物質が帯電していない場合、活性物質を塩の形態で提供することによってこれを達成することができる。好ましい組み合わせにおいて、粒子は上記のようにpH6~8でアニオン荷電したポリマーを含み、放出可能な形態のカチオン荷電薬剤にポリマーと結合する。特に好ましいのは、TACEにおける使用に適した薬剤である。
【0045】
検討される薬物としては、
アクチノマイシンD、アビラテロンまたはそのアセテート、アルデスロイキン、アリトレチノイン、アロプリノール、アルトレタミン、アミホスチン、アミノグルテチミド、アムホテリシンB、アムサクリン、アナストロゾール、アンサミトシン、アラビノシルアデニン、ベンダムスチン、ベンズアミド、ベキサロテン、ブレオマイシン、3-ブロモピルビン酸、ブセレリン、ブスルファン、カルステロン、カペシタビン、カルボプラチン、クロラムブシル、カルボプラチン、シスプラチン、ミリプラチン、スピロプラチン、カルゼレシン、カルムスチン、セレコキシブ、クロラムブシル、クラドリビン、シクロホスファミド、シタラビン、フルダラビン、ダカルバジン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、デニロイキンジフチトクス、デキサメタゾン、ドロモスタノロン、デガレリックス、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチムおよびペグ化誘導体、5-FU、流動クスウリジン、フルタミド、フルベストラント、デムシタビン、ゲムシタビン、酢酸ゴセレリン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イホスファミド、インターフェロン、イリノテカン、トポテカン、ランレオチド、レナリドミド、レトロゾール、ロイコボリン、ロイプロリド、リュープロレリン、ロムスチン、メクロレタミン、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メルカプトポリリジン、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、メトキサレン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトーテン、ミトザントロン、ナンドロロンフェンプロピオナート、オクトレオチド、オプレルベキン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロン酸ナトリウム、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ポルフィマーナトリウム、プロカルバジン、キナクリン、ラルチトレキセド、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トレミフェン、トレオスルファン、トレチノイン、トリロスタン、トリプトレリン、バルルビシン、バンデタニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ゾレドロン酸が挙げられる。
【0046】
ドキソルビシン、イダルビシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イリノテカン、トポテカン、スニチニブ、バンデタニブ、ミリプラチンおよびソラフェニブが特に好ましい。
【0047】
エマルジョン
本発明のエマルジョンは、水相に凝集する傾向がある粒子を含む。水相中の粒子は、カテーテルを出る際にエマルジョン内で保護される。したがって、大部分の粒子は水相と会合することが好ましい。
【0048】
疎水性
いずれの理論にも拘束されることを望まないが、本発明者らは、粒子のヨウ素化によってポリマーの親水性が変化し、ポリマーの疎水性を高めることを確認した。
【0049】
したがって、本発明のさらなる態様は、連続相、不連続相および複数の粒子を含み、不連続相が水性であり、連続相が油を含むエマルジョン組成物を提供する。粒子は十分に疎水性であり、エマルジョンは本明細書の実施例2に従って、2:1のリピオドール:水相比を用いて調製され、ここで水相は造影剤を含有せず、少なくとも10、好ましくは少なくとも30、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも90分間、18~22℃で安定である。
【0050】
力-距離-振幅プロトコルおよびシリコンプローブ先端を用いた接触原子力分光法(CAFS)を使用して、粒子の相対的な親水性/疎水性の近似を得ることができる。これは、空気中で乾燥粉末として分析される粒子の表面とシリコン先端の相互作用の程度を提供する。
【0051】
本発明者らは、実施例4aに記載のプロトコルに従って測定した場合、非ヨウ素化粒子のものよりも小さいカンチレバーのたわみ(ボルトで測定)を有する粒子が、エマルジョンの安定化に有効であることを確認した。
【0052】
特に、凍結乾燥してシリコンプローブで測定した場合に、DCビーズ(70~150μm)よりも小さいカンチレバーのたわみ(CD)を有する粒子が有効であった。0.2V以下のCDを有する粒子、特に0.15または0.1V以下のCDを有する粒子が好ましい。
【0053】
あるいは、DCビーズのものよりも少なくとも0.5、好ましくは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.7V小さいCDを有する粒子が好ましい。
あるいは、DCビーズのCDの0.25倍以下、好ましくはDCビーズのCDの0.2以下、およびより好ましくは0.15または0.125倍以下のCDを有するこれらの粒子が好ましい。
【0054】
発明の声明
したがって、本発明のさらなる態様は、連続相、不連続相、および複数の粒子を含み、不連続相が水性であり、連続相が油を含むエマルジョン組成物を提供する。実施例4aに記載のプロトコルに従って測定した場合の粒子は、DCビーズのものよりも小さいカンチレバーのたわみ(ボルトで測定)を有する。
【0055】
プロセス
本発明のさらなる態様は、上記のエマルジョンを調製する方法であって、
a.本明細書に記載の油を含む連続相を提供すること;
b.本明細書に記載の水相を提供すること
c.本明細書に記載のヨウ素が共有結合したポリマーを含む複数の粒子を提供すること;および
それらを組み合わせてエマルジョンを提供することを含む、方法を提供する。
【0056】
組成物の好ましい特徴およびその成分は、上記に記載されている。好ましくは、粒子は凍結乾燥されて提供される。水相を添加する前に、粒子を油相と混合することが好ましい。好ましくは、水相は、本明細書に記載の造影剤または本明細書に記載の医薬活性物質のいずれか、またはその両方を含む。エマルジョンの形成の間に、薬物は迅速に粒子に取り込まれ、特にポリマーが荷電している場合は上記のように、薬物は反対の電荷を有する。このローディングプロセスは、乾燥した粒子を使用すると加速されるので、薬物が使用される場合、粒子は好ましくは凍結乾燥される。好ましくは、粒子が凍結乾燥されて提供される場合、水相または油相は、それらが依然として真空下にある間に粒子と組み合わされる。好都合には、エマルジョンは、2つのシリンジの間に成分を通すことによって形成される。
【0057】
エマルジョンを形成するのに十分な乱流を提供するオリフィスを前後に通過させることによって成分を混合することが好ましく、これは、停止コックのようなコネクタを介して2つのシリンジの間で成分を前後に通過させることによって都合よく達成される。得られるエマルジョンは、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも30分間、より好ましくは少なくとも60分間、より好ましくは少なくとも80分間または90分間安定である。実施例3aに従って安定性が測定され、安定性は、エマルジョン体積の10%が分離するのに要する時間として定義される。
【0058】
本発明のさらなる態様は、上記のような方法によって調製可能な(または調製された)本発明のいずれかの態様によるエマルジョン組成物である。
治療法
本発明のさらなる態様は、そのような塞栓療法を必要とする腫瘍を有する患者において塞栓療法の方法を提供し、本明細書に記載の塞栓性エマルジョン組成物を提供し、この組成物を腫瘍の血管に送達することを含む。送達は、典型的には腫瘍への血流を減少させる。
【0059】
腫瘍は、典型的には肝細胞癌などの多血性腫瘍である。この組成物は、好ましくは塞栓された血管内の腫瘍への血流を減少させるために、特に血流停止またはほぼ停止するのに十分な量で送達される。組成物は、典型的には血流が組成物を腫瘍内に運ぶように、腫瘍に養分供給する血管にカテーテルによって送達される。カテーテルを離れても、少なくとも粒子はエマルジョン相と会合したままであり、好ましくは油エマルジョン中の水滴内にとどまる。
【0060】
2番目の医療用途
本発明のさらなる態様は、塞栓術による腫瘍の治療に使用するための医薬活性物質(本明細書に記載)を提供し、医薬活性物質は本明細書に記載するように本発明のエマルジョン組成物中に送達される。
【0061】
医薬活性物質は好ましくは抗腫瘍薬であり、好ましくはドキソルビシン、イダルビシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イリノテカン、トポテカン、スニチニブ、バンデタニブ、ミラプラチンおよびソラフェニブから選択される。
【0062】
1つの特に好ましい実施形態では、エマルジョン組成物は、連続相、不連続相および複数の粒子を含み、不連続相は水性であり、連続相は油を含み;、
一方:
a)粒子は、ヨウ素が共有結合したポリマーを含み、
b)粒子は十分に疎水性であり、エマルジョンは本明細書の実施例2に従って、2:1のリピオドール:水相比を用いて調製され、ここで水相は造影剤を含有せず、少なくとも10、好ましくは少なくとも30、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも90分間、18~22℃で安定であり;または
c)実施例4aに記載のプロトコルに従って測定した場合、粒子は、DCビーズのものよりも小さいカンチレバーのたわみ(ボルトで測定)を有する。
【0063】
本発明の好ましい特徴は上記の通りである。
キット
本発明はまた、本発明のエマルジョンを調製するためのキットを提供し、したがって、本発明のさらなる態様は、油および複数の粒子を含むエマルジョンを調製するためのキットを提供し、粒子は、粒子に共有結合したヨウ素を含む。キットは、好ましくは凍結乾燥されて提供される、本明細書に記載の複数の粒子および本明細書に記載の油を含む。キットは水相もまた提供してよく、好ましくは注射または生理食塩水のための水であり、さらに薬物を含んでよく、本明細書に記載の任意の薬物であってよいが、好ましくは、ドキソルビシン、イダルビシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、エピルビシン、ダウノルビシン、イリノテカン、トポテカン、スニチニブ、バンデタニブ、ミリプラチン、およびソラフェニブから選択される。
【0064】
本発明を、以下の非限定的な実施例および図面を用いて更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】
図1は、様々なヨウ素含有量のビーズについてのビーズ密度および含水量を示す。
【
図2】
図2は、油対水が2:1のエマルジョンを使用してヨウ素含有量が変化するビーズを用いて調製されたエマルジョン安定性およびビーズ沈降を示す。
【
図3】
図3は、非ヨウ素化ビーズを用いて調製されたエマルジョンと、ヨウ素含有量が155mgI/mlのビーズを用いて調製されたものとの比較顕微鏡写真である。この図はまた、33mg/mlのヨウ素における粒子の描写でもある。
【
図4】
図4は、代表的エマルジョン調製物の生理食塩水水滴試験の結果を示す。低ヨウ素粒子は33mg/mlのヨウ素含有量を有し、高ヨウ素粒子は155mg/mlのヨウ素含有量を有した。
【
図5】
図5は、実施例で使用された血管流動モデルの図式表示である。
【
図6】
図6は、流動条件下でのエマルジョンの挙動に対する採点システムを示す。
【
図7】
図7は、流動モデルにおいて高ヨウ素(155mgI/ml)および低ヨウ素(33mgI/ml)マイクロスフェアを使用する例示的な高含水量および低含水量エマルジョンを示す。
【
図8】
図8は、エマルジョンの部分的な分離の後、非ヨウ素化および高ヨウ素(147mgI/ml)マイクロスフェアを用いて製造されたエマルジョンの再乳化効果を示す。
【
図9】
図9は、制限された流動条件下における本発明のエマルジョンからのドキソルビシンの溶出プロフィールを示し、インビボでの塞栓組成物からの薬物の放出をモデル化する。
【
図10-1】
図10は、マイクロスフェア上の原子間力顕微鏡検査の結果を示す。
図10aは、シリコン先端とマイクロスフェア表面との間のプルオフ(粘着)力を計算する原理を示し、カンチレバーのたわみを伴う力-距離曲線を示す。
図10bは、未修飾マイクロスフェアを用いて得られた結果を示し、
図10cは、33mg/mlヨウ素を有するマイクロスフェアを用いて得られた結果を示し、
図10dは、155mg/mlヨウ素を有するマイクロスフェアを用いて得られた結果を示す。
【
図10-2】
図10は、マイクロスフェア上の原子間力顕微鏡検査の結果を示す。
図10aは、シリコン先端とマイクロスフェア表面との間のプルオフ(粘着)力を計算する原理を示し、カンチレバーのたわみを伴う力-距離曲線を示す。
図10bは、未修飾マイクロスフェアを用いて得られた結果を示し、
図10cは、33mg/mlヨウ素を有するマイクロスフェアを用いて得られた結果を示し、
図10dは、155mg/mlヨウ素を有するマイクロスフェアを用いて得られた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
実施例
実施例1ヨウ素化ヒドロゲルマイクロスフェアの調製
予め形成されたPVA-AMPSヒドロゲルマイクロスフェア(DCビーズ(登録商標)BiocompatiblesUKLtd、英国ファーンハム)に2,3,5-トリヨードベンズアルデヒドをカップリングさせることにより、一連のヨウ素化マイクロスフェアを調製した。マイクロスフェアは、国際公開第04071495号の実施例1に従って、残留溶媒を除去するための真空乾燥工程までの高AMPSバージョンに従って調製した。国際公開第2015/033092号の実施例5および6に従ってカップリングを行い、環状アセタールを介してPVA主鎖に結合したトリヨードベンジル基を含むミクロスフェアを提供した。充填ビーズ体積が33~155mg/mlの間のヨウ素含有量および1020~6769HU(国際公開第2015/033092号の実施例12に従って測定)の放射線不透過性を有するサンプルを調製した。対照である非ヨウ素化ビーズを、国際公開第04071495号の高AMPSバージョンの実施例1に従って調製し、このプロセスを染色工程の終了まで続けた。マイクロスフェアを篩い分けして、70~150μmのサイズ範囲を提供した。
【0067】
このヨウ素凝集は、放射性ヨウ素原子の存在によるビーズの放射線不透過性を増加させる効果を有するばかりでなく、疎水性部分を構造中に導入して水分を減少させ、その表面特性を変化させる。
【0068】
表1は、この一連のヨウ素修飾ビーズのいくつかの物理化学的特性を示す。
図1は、様々なヨウ素含有量のビーズについてのビーズ密度および含水量を示す。
【0069】
【0070】
*ヨウ素含有量は、生理食塩水中の完全に水和したマイクロスフェアのml当たり、充填量で決定される。凍結乾燥されると、ヨウ素化されたマイクロスフェアは、完全に再水和しても全く同じ体積には戻らないため、本明細書で言及するマイクロスフェアの体積の全ての測定は、それらが凍結乾燥される前の完全に水和したマイクロスフェアのml当たりのヨウ素含有量を指す。
【0071】
実施例2:粒子-油エマルジョンの調製
一連のエマルジョン調製物を、非ヨウ素化マイクロスフェアまたはヨウ素化マイクロスフェア(155mg/mlヨウ素)のいずれかを用いて調製した。実施例1に従って調製した2mlの完全に水和したマイクロスフェア(充填体積-メスシリンダーで測定)を含有する個々のバイアルを凍結乾燥し、使用するまで真空下で乾燥させて保存した。リピオドール(登録商標)Ultrafluide(10mL)を、真空を破ることなく注射針を介してバイアルシールを通して乾燥マイクロスフェアのバイアルに添加し、5分間よく混合して、マイクロスフェアへの油の取込みを確実にした。次いで、マイクロスフェアを20mLのポリプロピレンシリンジ(BectonDickson)に移した。2mLのドキソルビシン水溶液(25mg/mL)を10mLのポリプロピレンシリンジ(BectonDickson)に吸引した。必要に応じて注射用追加水またはOmnipaque(登録商標)350造影剤(GEHealthcare)をドキソルビシン溶液に添加し、マイクロスフェアと共に混合するときに必要な油と水相の比を得た。
【0072】
ドキソルビシン混合物を含むシリンジを、ポリアミド3方向停止コック(Discofix(登録商標)B.Braun)を用いて、マイクロスフェアおよびリピオドールを含有する20mLシリンジに取り付けた。2つのシリンジ内容物の初期混合は、水性薬物溶液をリピオドールおよびマイクロスフェアにゆっくりと加え、混合して、油相中に水性薬物の液滴を生成し、均質な混合物を形成することによって行った。
【0073】
次いで、内容物をシリンジ間で迅速に混合した(20回)。これを5分毎に30分間繰り返して、エマルジョン中のマイクロスフェアへの薬物の分配および懸濁を確実にした。
使用したエマルジョン配合物を表3に示す。
【0074】
実施例3:粒子-オイルエマルジョンの評価
3a.安定性:
調製した粒子-油エマルジョンを10mLのポリプロピレンシリンジ(BectonDickson)に移し、直立した方向、すなわちシリンジの長さを垂直位置にした。油と水相の分離、および乳濁液中のマイクロスフェアの沈降を目視でモニターした。エマルジョン安定性時間は、油相および水相の分離が初期エマルジョン体積の10%に達するのに要する時間として決定した。マイクロスフェアの沈下を示す処方物において、マイクロスフェアの沈降が初期エマルジョン体積の約10%に達するのに要した時間もまた記録された。
【0075】
様々な比率の油と水を有するエマルジョンを、最も疎水性のマイクロスフェア(155mg/mLヨウ素)および親水性のマイクロスフェア(ヨウ素を含まない)を用いて安定性について評価した。表3は、表2に掲げられた基準に従って評価されたエマルジョンの比較安定性を報告する。
【0076】
【0077】
親水性マイクロスフェア(すなわち、ヨウ素を含まない)を有するエマルジョンは典型的には2~3分間だけ安定であることが観察され、1:1~5:1の範囲の油/水比の疎水性マイクロスフェアを含むエマルジョンの比較安定性はそれよりもはるかに良好であった。
【0078】
2:1の油対水比(リピオドール66.7%、水33.3%のうち20%が造影剤であった)を有する代表的なエマルジョンのビーズヨード含有量に関するエマルジョン安定性およびビーズ沈降を
図2に示す。
【0079】
【0080】
3b.外観:
非ヨウ素化マイクロスフェアまたはヨウ素化マイクロスフェア(155または33mg/mlヨウ素)のいずれかを含有するエマルジョンの液滴をペトリ皿に置き、直ちにガラスカバースリップで覆った。光学顕微鏡写真(x4またはx10倍率)は、BX50顕微鏡、ColorviewIIIカメラおよびストリームエッセンシャルイメージングソフトウェア(オリンパス)を用いて得た。油相と水相とを区別するために、反応性青色4染料の水溶液(50mg/mL)をペトリ皿上のエマルジョンに滴下した。エマルジョンの水相は、青色染料溶液を顕微鏡下でそれに向かって移動させることによって同定することができた。油相または水相に関連するエマルジョンのタイプ(水中油型または油中水型)およびマイクロスフェアの位置が記録された。
【0081】
図3は、粒子-油エマルジョンを示す。ヨウ素化されたマイクロスフェアは、比較的高い含水量にもかかわらず油相に存在することが好ましく、液滴界面に蓄積し、したがって合体から液滴を安定させる。エマルジョンの連続相が水であるように見える油対水の1:1の比でさえ、ヨウ素化されたマイクロスフェアは依然として主に油滴の周囲に配置され、水と油との間の界面に存在する。非ヨウ素化マイクロスフェアは、比較においてより親水性であり、高い油組成(すなわち、2:1および3:1の油-水比)を有するエマルジョンにおいてさえ、水相に存在することが観察される。
【0082】
3c.静的流動条件におけるエマルジョン安定性(凝集性)(生理食塩水滴試験)
18ゲージのブラントフィルニードル(BectonDickson)を介して0.9%生理食塩水溶液の表面より下でエマルジョンのサンプルを室温で送達した。エマルジョンの外観および挙動を表4に規定された特性に従って観察し、評価した。断片化または崩壊することなくマイクロスフェアを含有する球形液滴として現れるエマルジョンは、より良好な流動挙動およびエマルジョン安定性を有すると考えられた。
【0083】
【0084】
表4は、約1.5:1~5:1の範囲の油対水比を有する代表的な粒子-油エマルジョンで観察される流動特性を示す。ヨウ素を含有するより疎水性のマイクロスフェアは、ヨウ素を含有しない比較的親水性のマイクロスフェアよりも球形であり、より良好な流動特性を有する液滴を生じた。粒子-油エマルジョン中の含水量の増加は、より球状でない液滴をもたらした。これは、ヨウ素を含まないマイクロスフェアでより明白であった。表5に結果を示す。
【0085】
【0086】
*33mgI/mlおよび155mgI/mlを有するマイクロスフェアは同じ挙動を示す。
油/水の比が少なくとも2:1である組成物において、33mg/mLおよび155mg/mLの両方のレベルでヨウ素化マイクロスフェアを含有するエマルジョンは、マイクロスフェアを含む安定な油滴を形成した。より低い油-水比では、エマルジョンは依然として粒子を含有する安定な油滴を形成することができた。
【0087】
比較すると、ヨウ素を含まないマイクロスフェアが示した流動挙動は、ヨウ素化されたサンプルと比較して劣っていた。2:1~3:1の範囲の油-水比および様々な造影剤組成物を用いて、これらのマイクロスフェアを有する追加の配合物を試験した。これらは、疎水的に改質されたマイクロスフェアで観察される挙動に匹敵するようには、エマルジョン流動挙動を改善しなかった。
【0088】
3d.連続流動下での挙動
連続流動条件下でのエマルジョンの物理的安定性をプロファイルするために、インビトロ血管流動シミュレータ(
図5)を用いた。静的流動条件下(上記「c.」)で試験した粒子-油エマルジョンを、非制限的連続流動条件下で試験した。
【0089】
エマルジョンを、開ループシステムとしてセットアップされたシリコン血管流シミュレータモデル(Elastrat Sarl、スイス)に投与するために、マイクロカテーテル(Progreat 2.4Fr、Terumo)に取り付けた3mLのポリプロピレンシリンジ(Becton Dickson)に移した。
【0090】
マイクロカテーテルの遠位端を血管チャネルの近位に配置し、周囲温度での0.9%生理食塩水を、蠕動ポンプによって60mL/分のパルス速度で流動モデルを通してポンプ注入した。粒子-油エマルジョンを約0.5mL/分の注入速度でマイクロカテーテルを通して手動で投与した。マイクロカテーテルから血管流モデルおよび送達チャネルに送達されたエマルジョンの外観を、その流れ特性(表5)について観察し、独立した油滴を形成し、インビトロ血管ネットワークを通るその流れの間の液滴の完全性を維持する能力について評価した。マイクロスフェアを含む独立した球状油滴として現れるエマルジョンは、最良の流動挙動および安定性、すなわち高いスコアリングを有すると考えられ、ストリーミングビーズ(油滴内にない)は、安定性が低く、スコアリングが低いと定義された。
【0091】
許容される安定性の最小要件は、エマルジョンが(+++)の評価を有すること、すなわち油およびビーズの流れとして、または油/水界面で有意に安定な液滴またはビーズを含有した油の流れとしてとして現れることである。
【0092】
【0093】
図7は、流動条件下におけるエマルジョンの例を示しており、連続流動下で、ヨウ素を含有するマイクロスフェアを用いて調製されたエマルジョンは、マイクロスフェアが存在する安定した液滴を一貫して生成し、液滴が血管モデルの分岐部を通過する際は完全に保持される。
【0094】
粒子-油エマルジョン中の含水量の増加は、高い含油量を含む場合であっても、マイクロスフェアを含有する安定な油滴を形成することができない非ヨウ素マイクロスフェアのそれらの流動特性に直接的な影響を有する。これと比較して、親水性マイクロスフェアは、ビーズを含む強固な液滴を形成しなかった。高い含油量を有するエマルジョン組成物では、油滴が形成されたが、マイクロスフェアは油の界面に存在する傾向があり、連続流動の下で転位して脱落する傾向があった。
【0095】
表7は、表5による流動特性の評価を報告する。
【0096】
【0097】
これらの所見は、健康なブタでの蛍光透視ガイド送達および流動特性の評価の後、インビボで支持される。インビトロの結論に従って、ヨウ素化マイクロスフェア(XXmgI/ml-70-150um)はエマルジョンの独立したパケットとして流入したが、未修飾マイクロスフェアを用いて調製されたcTACEリピオドールエマルジョンおよびエマルジョンは、流れの安定性が悪いことを示す緩やかな「ウィスピー」流動特性を示した。
【0098】
3e.粒子-油エマルジョンに対する水相密度の影響
水相が水(造影剤の比重よりはるかに低い比重を有する)である場合の粒子-油エマルジョンの挙動は、水相が造影剤を含むエマルジョンに匹敵する。
図8は、水または造影剤のいずれかを用いて調製された粒子-油エマルジョンで観察された、2:1の油-水比での流動特性の代表的な画像を示す(表8)。
【0099】
【0100】
静的流動試験(生理食塩水滴)におけるエマルジョン液滴の均質性は、水のみで調製したエマルジョンではわずかに少なかったが、連続流動下では造影剤で調製したエマルジョンに匹敵した。
【0101】
3f.再混合時のエマルジョン特性
粒子-油エマルジョンを、初期調製後、相分離およびその後の再混合後のそれらの流動特性およびそれらの外観について評価した。結合したヨウ素を有さない、より親水性のマイクロスフェアを含有する粒子-油エマルジョンは、流動下またはシリンジ内で安定かつ強固なエマルジョンを形成しない。相分離が生じた後(3分)、エマルジョンの再混合は分離を悪化させ、シリンジ全体の安定性はさらに1分に低下した。
【0102】
対照的に、ヨウ素含有マイクロスフェアは、60分を超えて安定であったエマルジョンを形成し、一度再混合されてもシリンジでは安定であり、連続流動下で安定な液滴を形成することができた。油および水性液滴の相分離および合体において、疎水性マイクロスフェアは、再混合後にエマルジョンを安定化させることができ、それらの元の特性を示す事ができる(
図8参照)。
【0103】
3g.制限された流動の血管流動シミュレータにおけるエマルジョンのインビトロ薬物溶出挙動
粒子-油エマルジョンからの薬物放出を、サンプル送達時に部分的に制限された流速を有する連続流動条件下でプロファイリングした。粒子-油エマルジョンおよびインビトロ系をセクション3dと同様に調製したが、下記のように半閉ループ系としてインビトロ系をセットアップした。
【0104】
エマルジョンが投与された後、マイクロチャネル内の流れの閉じ込め効果をシミュレートするために、出口ポートに27μmの微孔質メッシュ(織りポリアミド)を用いて、単一のサンプル送達チャネルを制限した。サンプル送達に使用されなかったシリコン血管ファントム上の他の出口は、流出媒体(0.9%生理食塩水溶液)を生理食塩水リザーバ(37℃に加熱)に戻してそれらの出口を再循環させたまま、無制限とした。マイクロカテーテルを単一のサンプル送達チャネルの遠位に配置し、生理食塩水を制限されたサンプル送達チャネルを通して約80mL/分の流速でポンプ注入した。
【0105】
上記のようにして調製した粒子-油エマルジョンを、0.5mL/分の注入速度でシリンジ自己注射器(PHD Ultra;Harvard Apparatus)を使用してマイクロカテーテルを通して投与した。エマルジョンは、送達チャネルの出口ポートにおける流速が顕著に低下するのが観察されるまで送達された。エマルジョンの送達中、サンプル送達チャネルからの生理食塩水を捕捉し、483nmの波長でUV/Vis分光光度法(Cary 50 Bio、Varian)によって分析し、溶出されたドキソルビシンの量を決定した。20分間にわたって溶出された累積薬物は、投与された理論用量の百分率としてそれを決定することによって正規化された。表9は、
図9にデータを示すエマルジョンの詳細を示す。
【0106】
【0107】
4a.マイクロスフェアの表面特性の測定
マイクロスフェア表面の相対的親水性/疎水性は、力-距離-振幅プロトコルを用いた接触原子力分光法の使用によって測定した。
【0108】
最初の定性的評価は、Dimension3000原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments)で行い、データはNanoScopeIIIAソフトウェア(Digital Instruments)を用いて収集した。力の距離曲線は、プローブが1Hzの一定の走査速度で、表面上の約750-1800nmから表面に近づくにつれてカンチレバーからの偏向信号(電圧)を測定することによって得られた。カンチレバーのたわみは、先端がマイクロスフェアの表面から後退しているときおよび先端が表面から離れているときの信号電圧の差として観察された(
図10)。シリコンAFMプローブ(PointProbe NCH-W; Nanosensors)を用いて、より親水性の表面特性を有するマイクロスフェアでは、粘着力およびカンチレバーのたわみが最も高くなることが予想された。
【0109】
ヨウ素を含まないマイクロスフェアは0.8Vの最大カンチレバー偏向信号を有し、最も高いヨウ素量を有するマイクロスフェアでは0.1Vの最低信号が観察された(表10)。このことは、マイクロスフェア中のヨウ素の増加に伴って、比較疎水性が増加することを示す。
【0110】
【0111】
4b.代替AFM測定
粘着力のさらなる検証は、Asylum Research Cypher AFM機器(Oxford Instruments)およびCONTSCR-10カンチレバー(シリコンプローブ)(Nanoworld)を用いて行った。力マップは、4μm×4μmの全走査サイズ領域内の各マイクロスフェアについて生成された。力マップは、互いに(すなわち、16×16の測定の規則的な配列で)250μm離れた、合計256個の個別の力の距離曲線(走査領域内)を含んでいた。
【0112】
力-距離曲線は、マイクロスフェア表面に接近して後退するにつれてAFMカンチレバー(非コーティングシリコンプローブを保持する)のたわみを測定することによって得られた。各曲線は1Hzの一定の走査速度で採取され、接近および後退サイクルの間に2000ポイントで構成された。プローブの先端はマイクロスフェアより300nm上で開始し、後退する前にマイクロスフェア表面に20nm押し付けられた。マイクロスフェア表面の曲率に依存して、走査された領域にわたるz高さ(マイクロスフェアの表面上のAFMプローブ先端の距離)は約300~800nmであった。カンチレバーのたわみを信号電圧として測定し、カンチレバーのバネ定数を用いて粘着力を与えるように計算した。
【0113】
疎水性マイクロスフェア上の粘着力を決定するためのこれらの評価(表11)は、より低いヨウ素濃度を有する疎水性マイクロスフェアが最大のプルオフ力を有し、したがってシリコンAFMプローブとのより大きな粘着性を有することを示している。プローブは親水性であると考えられるので、より低いヨウ素サンプルは、より高いヨウ素サンプルよりも疎水性が低いと決定される。
【0114】
【表11】
付記1
連続相、不連続相および複数の粒子を含んだエマルジョン組成物であって、前記不連続相は水相であり、前記連続相は油を含んだ油相であり、前記油相の体積は前記水相の体積を超えており、前記粒子はヨウ素が共有結合したポリマーを含み、前記ポリマーはポリビニルアルコールのポリマーまたはコポリマーであり、前記ヨウ素は芳香族基に結合しており、前記芳香族基は前記ポリビニルアルコールのポリマーまたはコポリマーに共有結合しており、前記粒子は前記油相に存在して前記不連続相と前記連続相の間の界面に蓄積し、前記エマルジョン組成物は18~22℃の間で少なくとも10分間安定である、エマルジョン組成物。
付記2
前記ヨウ素は少なくとも30mgI/mlの充填体積のレベルで粒子中に存在し、好ましくは60mgI/mlの充填体積である、付記1に記載のエマルジョン組成物。
付記3
前記粒子がヒドロゲルポリマーを含む、付記1又は2に記載のエマルジョン組成物。
付記4
前記ポリマーが、6~8のpHで全電荷を有する、付記1~3のいずれか一つに記載のエマルジョン組成物。
付記5
前記ポリマーが、6~8のpHでアニオン電荷を有する、付記4に記載のエマルジョン組成物。
付記6
前記水相が造影剤を含む、付記1~5のいずれか一つに記載のエマルジョン組成物。
付記7
前記粒子が医薬活性成分を含む、付記1~6のいずれか一つに記載のエマルジョン組成物。
付記8
前記油が、ケシ油の脂肪酸のヨウ素化エチルエステル組成物である、付記1~7のいずれか一つに記載のエマルジョン組成物。
付記9
付記1~8のいずれか一つに記載のエマルジョン組成物の製造方法であって:a.油を含む連続相を提供すること;b.水相を提供することc.複数の粒子を提供することであって、粒子は前記粒子に共有結合したヨウ素を含み;およびそれらを組み合わせてエマルジョンを提供することを含む、方法。
付記10
塞栓術による腫瘍の治療に使用するための医薬組成物であって、付記1~8のいずれか一つに記載のエマルジョン組成物を含む、医薬組成物。
付記11
付記1に記載のエマルジョンを製造するためのキットであって、前記キットは、付記1に記載の前記油および付記1に記載の前記複数の粒子を含む、キット。
付記12
連続相、不連続相および複数の粒子を含んだエマルジョン組成物であって、前記不連続相は水相であり、前記連続相は油を含んだ油相であり、前記油相の体積は前記水相の体積を超えており、前記粒子は水和した粒子であり、前記粒子は、ヨウ素が共有結合したポリビニルアルコールのポリマーまたはコポリマーを含み、前記ヨウ素は芳香族基に結合しており、前記芳香族基が前記ポリビニルアルコールのポリマーまたはコポリマーに共有結合しており、前記粒子は前記油相に存在して前記不連続相と前記連続相の間の界面に蓄積し、前記組成物は18~22℃の間で少なくとも10分間安定である、エマルジョン組成物。
付記13
前記粒子のサイズが70~150μmの範囲である、付記12に記載のエマルジョン組成物。
付記14
連続相、不連続相および複数の粒子を含んだエマルジョン組成物であって、前記不連続相は水相であり、前記連続相は油を含んだ油相であり、前記油相の体積は前記水相の体積を超えており、前記粒子は水和した粒子であり、前記粒子は、ヨウ素が共有結合したポリビニルアルコールのポリマーまたはコポリマーを含み、前記ヨウ素は芳香族基に結合しており、前記芳香族基が前記ポリビニルアルコールのポリマーまたはコポリマーに共有結合しており、前記粒子は前記油相に存在して前記不連続相と前記連続相の間の界面に蓄積し、前記ヨウ素は少なくとも130mgI/mlの充填体積のレベルで粒子中に存在し、前記ポリマーは6~8のpHでアニオン電荷を有し、前記組成物は18~22℃の間で少なくとも10分間安定である、エマルジョン組成物。
付記15
前記油相と前記水相の比は1.1:1v/v~10:1v/vの範囲である、付記14に記載のエマルジョン組成物。
付記16
前記油相と前記水相の比は2:1v/v~5:1v/vの範囲である、付記14に記載のエマルジョン組成物。
付記17
前記組成物は18~22℃の間で少なくとも90分間安定である、付記16に記載のエマルジョン組成物。
付記18
前記粒子のサイズが70~150μmの範囲である、付記17に記載のエマルジョン組成物。