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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】散気攪拌槽
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/90 20220101AFI20240119BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20240119BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20240119BHJP
   B01F 27/112 20220101ALI20240119BHJP
   B01F 27/09 20220101ALI20240119BHJP
   B01F 23/231 20220101ALI20240119BHJP
   B01J 19/18 20060101ALI20240119BHJP
   B01F 35/53 20220101ALI20240119BHJP
   B01F 27/86 20220101ALI20240119BHJP
【FI】
B01F27/90
C12M1/02 A
C12N1/12 A
B01F27/112
B01F27/09
B01F23/231
B01J19/18
B01F35/53
B01F27/86
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022060616
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023151161
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2023-07-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 知帆
(72)【発明者】
【氏名】山上 典之
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-292558(JP,A)
【文献】実開平04-129798(JP,U)
【文献】特開平04-341188(JP,A)
【文献】特開昭61-074574(JP,A)
【文献】特開2021-098151(JP,A)
【文献】特開2013-081932(JP,A)
【文献】特開2017-042131(JP,A)
【文献】特開2014-113565(JP,A)
【文献】特開2019-188317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/02 - 1/06
C12N 1/00 - 1/38
B01J 19/18
B01F 23/231
B01F 27/00 - 27/96
B01F 35/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内液が収容される槽本体と、
前記槽内液を攪拌する攪拌装置と、
前記槽内液に散気する散気体とを備え、
前記攪拌装置が、上下方向に延びる軸心周りに回転して前記槽本体の下部で前記槽内液を攪拌するワイドパドル翼を有し、
前記ワイドパドル翼は、翼面が鉛直面となるように備えられ、径方向の寸法(D2)が前記槽本体の直径(D1)の0.4倍以上(D2≧0.4・D1)で、最下端から上縁までの寸法(L1)が槽本体の直径(D1)の0.3倍以上(L1≧0.3・D1)であり、
前記散気体が、前記散気のための気泡を発生する気泡発生部を有し、
前記ワイドパドル翼が、径方向外向きに延びる下縁と、該下縁の外端部より上方に延びる側縁とを有し、
該ワイドパドル翼の径方向での前記気泡発生部の位置が前記軸心から前記側縁までの中間点よりも前記側縁寄りであり、
前記ワイドパドル翼の下端側の一部が前記気泡発生部を通る水平面よりも下側に位置し、
前記ワイドパドル翼の前記下縁には前記気泡発生部よりも径方向内側において該気泡発生部よりも下方に位置する第1の部位が設けられている散気攪拌槽。
【請求項2】
前記下縁は、前記気泡発生部の上方となる部位に、径方向外側に向けて先上りした形状を有している請求項記載の散気攪拌槽。
【請求項3】
槽内液が収容される槽本体と、
前記槽内液を攪拌する攪拌装置と、
前記槽内液に散気する散気体とを備え、
前記攪拌装置が、上下方向に延びる軸心周りに回転して前記槽本体の下部で前記槽内液を攪拌するワイドパドル翼を有し、
前記ワイドパドル翼は、翼面が鉛直面となるように備えられ、径方向の寸法(D2)が前記槽本体の直径(D1)の0.4倍以上(D2≧0.4・D1)で、最下端から上縁までの寸法(L1)が槽本体の直径(D1)の0.3倍以上(L1≧0.3・D1)であり、
前記散気体が、前記散気のための気泡を発生する気泡発生部を有し、
該気泡発生部が、前記ワイドパドル翼の回転時に該ワイドパドル翼が通過する領域よりも径方向外側に設けられ、
前記ワイドパドル翼の外側の下角部が切欠き形状になっており、
前記気泡発生部は、前記ワイドパドル翼の切欠かれている箇所で前記気泡を発生させるように配されてい散気攪拌槽。
【請求項4】
槽内液が収容される槽本体と、
前記槽内液を攪拌する攪拌装置と、
前記槽内液に散気する散気体とを備え、
前記攪拌装置が、上下方向に延びる軸心周りに回転して前記槽本体の下部で前記槽内液を攪拌するワイドパドル翼を有し、
前記ワイドパドル翼は、翼面が鉛直面となるように備えられ、径方向の寸法(D2)が前記槽本体の直径(D1)の0.4倍以上(D2≧0.4・D1)で、最下端から上縁までの寸法(L1)が槽本体の直径(D1)の0.3倍以上(L1≧0.3・D1)であり、
前記散気体が、前記散気のための気泡を発生する気泡発生部を有し、
前記気泡発生部は、
前記ワイドパドル翼の下端部を包囲するように該ワイドパドル翼の回転方向に沿って環状に配されており、
下方向に気泡を発生するように配されている散気攪拌槽。
【請求項5】
前記ワイドパドル翼が、径方向外向きに延びる下縁と、該下縁の外端部より上方に延びる側縁とを有し、
前記ワイドパドル翼の径方向での前記気泡発生部の位置が前記側縁よりも径方向外側である請求項記載の散気攪拌槽。
【請求項6】
前記槽本体には、前記槽内液を収容する空間を画定する底壁と、底壁の外縁より筒状に立ち上る周側壁とが設けられ、該周側壁よりも内側において上下方向に延びるバッフルが更に設けられており、
前記バッフルの下端が前記気泡発生部よりも下方に位置し、
前記気泡発生部が該バッフルよりも内側に位置している請求項1乃至5の何れか1項に記載の散気攪拌槽。
【請求項7】
前記バッフルは、上端部が前記ワイドパドル翼を超える高さとなるように上下方向に延びている請求項6記載の散気攪拌槽。
【請求項8】
前記気泡発生部は、前記ワイドパドル翼の回転方向に沿って環状に配されている請求項1乃至の何れか1項に記載の散気攪拌槽。
【請求項9】
前記槽内液が微生物を含み、該槽内液に酸素を含む気体が散気されるバイオリアクターである請求項1乃至8の何れか1項に記載の散気攪拌槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は散気攪拌槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学反応や生物学的反応を行うためにスラリーや溶液などを槽に収容し、この槽内液を攪拌装置で攪拌することが食品工場や化学工場などで広く行われている。槽内液に対して有機ガスを吸収させて化学反応を行ったり、微生物を含む槽内液に酸素を含む気体を散気して生物学的反応が行われたりするような用途では槽内液の攪拌とともに槽内液への散気ができるように構成された散気攪拌槽が用いられている。
【0003】
この種の攪拌では、低粘度液での操作が多く比較的小型のプロペラ型やディスクタービン型の攪拌翼を高速回転させて槽全体を循環するような流れを槽内に形成する方法がとられている場合がある。また、液粘度が高い場合や、低せん断が要求される場合の槽内液の攪拌方法としては、下記特許文献1に示すようにワイドパドル翼のような大型の攪拌翼を比較的低速で回転させて槽内液を全体的に流動させることも行われている。
【0004】
上記のようなワイドパドル翼は、回転速度も比較的遅く、槽内液がその回転に追随するように槽内をゆっくりと流れるため攪拌翼によるせん断が槽内液に対して加わり難い。そのため、ワイドパドル翼は、せん断によって破壊されるおそれのある物質等が槽内液中に存在するような場合に適しているといえる。例えば、微生物の増殖や微生物による生物化学的反応を行うためのバイオリアクターでは槽内液中の微生物にダメージを与えるおそれの低いワイドパドル翼が採用されたりしている。また、ワイドパドル翼での攪拌は、槽内液を全体的に攪拌して槽内液の均質化を図るのにも有効であるため、例えば、ポリマーの溶液重合などにおいても行われている(下記特許文献2)。
【0005】
ところで、バイオリアクターでは、通常、槽内の広範囲に気泡を均一に行きわたらせることが望まれている。そのようなことからバイオリアクターで散気を行なう散気体は、通常、気泡が発生する部位が攪拌翼の下方に位置するように設けられている(下記特許文献3の図2など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5947654号公報
【文献】特許第6664566号公報
【文献】特許第6554364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワイドパドル翼を備えたバイオリアクターでは、従来の槽底部中心付近に設置した散気装置では、散気効果や混合効果が低下することがある。しかしながら、そのような問題が生じることについてはこれまで気付かれていない。そのため、そのような問題に対する解決手段もこれまでには提供されていない。また、そのような問題は、バイオリアクターのみならずワイドパドル翼による攪拌と散気とが実施される散気攪拌槽に共通する問題である。そこで本発明は、散気による効果が槽内液全体に行きわたり易い散気攪拌槽の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ワイドパドル翼を備えた攪拌翼では軸心に沿った方向での下降流が形成され易く、このワイドパドル翼の下方で散気を行なうと気泡の浮上力による槽内液の流動が下降流と対向することになって内容液の流動混合が悪くなり気泡の拡散が不十分になる場合があることを見出した。また、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ワイドパドル翼の回転時に当該ワイドパドル翼の通過する領域よりも外側において気泡を発生させることで、槽内の流動、混合もよくせん断が加わり易いワイドパドル翼の外縁部で槽内液に多くの気泡が含まれることになり、当該気泡が微細化され易くなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、
槽内液が収容される槽本体と、
前記槽内液を攪拌する攪拌装置と、
前記槽内液に散気する散気体とを備え、
前記攪拌装置が、上下方向に延びる軸心周りに回転して前記槽本体の下部で前記槽内液を攪拌するワイドパドル翼を有し、
前記散気体が、前記散気のための気泡を発生する気泡発生部を有し、
該気泡発生部が、前記ワイドパドル翼の回転時に該ワイドパドル翼が通過する領域よりも径方向外側に設けられている散気攪拌槽、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、散気による効果が槽内液全体に行きわたり易い散気攪拌槽が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】散気攪拌槽の一例である培養槽の構造を示した概略正面図。
図2】培養槽の2つのワイドパドル翼の形状を示した概略平面図(図1でのII-II線矢視断面図)。
図3】下翼(第1のワイドパドル翼)の回転時の軌跡を示した概略図。
図4A】下翼(第1のワイドパドル翼)と槽本体の底部との位置関係を示した概略図。
図4B】気泡発生部の配置を示した概略図。
図4C】下翼の外側下角部(図4Bの破線CN部)の近傍に設けた気泡発生部での気泡発生方向を示した概略図。
図4D】気泡発生部での気泡発生方向を示した概略図。
図5A】下翼(第1のワイドパドル翼)と散気体の気泡発生部との位置関係を示した概略図。
図5B】下翼(第1のワイドパドル翼)と散気体の気泡発生部との位置関係を示した概略図。
図5C】切欠を設けた下翼(第1のワイドパドル翼)と散気体の気泡発生部との位置関係を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施の形態について散気攪拌槽の具体例としてバイオリアクターを例に説明する。また、以下においてはバイオリアクターの具体例として微生物の増殖が行われる培養槽を例に図を参照しつつ説明する。本実施形態の散気攪拌槽では、藻類などの微生物を含んだ培養液が槽内液として収容され、該培養液に対する散気と攪拌とが行われる。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の培養槽100は、培養液Aを収容するための槽本体10と、該槽本体10に収容された培養液Aに散気をする散気体20と、前記槽本体10に収容された培養液Aを攪拌する攪拌装置30とを備えている。尚、以下においては図1での正面視における左右の方向を「横方向X」などと称する。また、図1での奥行方向のことを以下においては「前後方向Y」などと称する。さらに、図1の正面視における上下方向や「高さ方向Z」、「垂直方向」などと称する。
【0014】
本実施形態の槽本体10は、底部10aと、該底部10aの外周縁より筒状に立ち上る側壁部10bと、前記底部10aと垂直方向において対向し、且つ、該側壁部10bの上部開口を塞ぐように設けられた天井部10cとを備えている。
【0015】
槽本体10の側壁部10bは、図1図2に示されているように横方向Xや前後方向Yよりも高さ方向Zにおける寸法が大きな縦型円筒状で、水平面による断面形状が所定の内径(D1)を有する円形である。前記底部10a及び前記天井部10cは円板状となっている。前記底部10aは、中央部が外周縁よりも僅かに低く下方に向けて僅かに凹入し上面が曲面となっている。前記天井部10cは、前記底部10aとは逆にドーム状となって僅かに上方に向けて膨出した状態になっている。
【0016】
槽本体10には、前記培養液Aを内部に導入可能にする流入口11を上部(天井部10c)に備えるとともに培養終了後の培養液Aを排出するための排出口12を底部10aに備えている。該槽本体10は、流入口11を閉塞させるための第1の蓋体11aと前記排出口12を閉塞させるための第2の蓋体12aとを備え、これらの蓋体によって内部を実質的な密閉状態とし得るように構成されている。なお、厳密には、前記槽本体10は、外部との流通経路を備え、該槽本体10には前記散気体20によって散気する気体を槽外から導入するための給気経路Bと前記散気体20によって槽内において散気される気体の量に対応する排ガスを排出するための排気経路Cとを備えている。
【0017】
前記槽本体10は、前記流入口11が形成されている上端部分を除いて中央部から底部にかけて外壁部13と内壁部14との二重壁を有し、該外壁部13と内壁部14との間に温熱媒や冷熱媒を流通させて槽内を加温したり減温したりして温度調節できるようになっている。即ち、前記槽本体10は、熱媒を流通可能なジャケット部10dを有している。前記内壁部14は、底壁141と、該底壁141の外周縁より筒状に立ち上る周側壁142とを備えている。該内壁部14は、底壁141と周側壁142とで培養液Aの収容空間を画定しており、表面14aが培養液Aに接するように配されている。該槽本体10では、前記培養液Aに接する前記底壁141や前記周側壁142の内面(内壁部14の表面14a)が前記培養液Aに温熱や冷熱を伝える伝熱面となっている。
【0018】
前記槽本体10は、前記周側壁142の内面(内壁部14の表面14a)より内方に突出した静止翼であるバッフル15を更に備えている。該バッフル15は、長板状であり長手方向が上下方向となり短手方向が前記周側壁142の径方向Rとなるように配されている。即ち、前記バッフル15は、前記周側壁142の内面から短手方向を前記周側壁142の中心部に向けて突出している。本実施形態の前記バッフル15は、前記周側壁142の下端から該周側壁142の半分の高さを超える位置まで延在している。また、本実施形態では、複数のバッフル15が備えられており、該複数のバッフル15が、周側壁142の周方向に略等間隔となるように配されている。本実施形態では長板状のバッフル15を例示しているが、該バッフル15の形状は長板状でなくてもよい。バッフル15は、円柱状などであってもよい。バッフル15は、中実体であっても中空体であってもよい。
【0019】
本実施形態においては槽本体10の底壁141よりも上方に円環状の前記散気体20が配されている。円環状の前記散気体20は、培養液A中に気泡を発生させる気泡発生部を有し、気体を下方向に気泡を発生させ得るようになっている。該散気体20では、径方向が水平方向となる円周に沿って気泡発生部が設けられている。該気泡発生部を通るように描かれる円の内、最も径が小さくなるように描かれる円は、後段において詳述するように前記攪拌装置30の攪拌翼の下端部を内側に収容可能な直径を有する。
【0020】
前記気泡発生部は、例えば、単孔(ノズル)、多孔質焼結体、メンブレンなどにより構成される。前記散気体20は、全体がチューブ状となるように構成されたものを採用することができる。実施形態の散気体20では、空気や空気よりも酸素濃度が高い気体(例えば、空気と酸素ガスとの混合ガス)が散気される。尚、散気体の具体的な構成や気体の種類はバイオリアクターの具体的な用途に応じて適宜変更でき上記例示に特に限定されない。本実施形態では、気泡発生部が下向きに気泡を発生させるように構成されているために、攪拌による培養液Aの流れと気泡の放出方向とが対向した状態になることを回避できるとともに槽内での気泡の滞留時間を長くできる。また、ノズルなどを下向きに開口させるようにすると培養液A中の固形物が堆積して目詰まりすることも抑制することができる。
【0021】
本実施形態の培養槽100は、この散気体20の気泡発生部から発生する気泡を拡散させるなどして培養液Aをできるだけ均一な状態になるように攪拌する前記攪拌装置30を備えている。該攪拌装置30は、培養液Aを攪拌するための動力源となるモーター31と、該モーター31によって軸周りに回転されるシャフト32と、該シャフト32の先端部(下端部)に装着された第1のワイドパドル翼と該ワイドパドル翼よりも基端側(上側)に設けられた第2のワイドパドル翼との2つのワイドパドル翼を備えている。
【0022】
前記モーター31は、槽本体10の頂部よりも上方に配されている。より詳しくは、前記モーター31は、鉛直方向に沿って延びる槽本体10の仮想中心軸CXを槽本体10よりも上方に延設した線上に配されており、その回転軸の軸方向が当該延長線と一致するように配されている。該モーター31は、回転軸を下方に向けて配されており、該回転軸の下端において前記シャフト32と連結されている。
【0023】
該シャフト32は、縦型円筒状の前記槽本体10の仮想中心軸CXに沿って配され、槽本体10の天井部を貫通する形で槽本体10の内外に亘って延在している。該シャフト32は、その上端において前記モーター31の回転軸に連結され、2つのワイドパドル翼の内、第1のワイドパドル翼が下端部に固定され、該ワイドパドル翼(以下、「下翼33」ともいう)の上方に第2のワイドパドル翼(以下、「上翼34」ともいう)が固定されている。即ち、本実施形態の培養槽100は、下翼33及び上翼34が、前記モーター31の回転によって鉛直軸である軸心周りに回転するように構成されている。尚、以下においては水平方向に前記中心軸から離れる方向のことを「径方向R」などと称する。
【0024】
本実施形態での前記攪拌装置30は、槽本体10の下部において前記下翼33で培養液Aを攪拌するとともに槽本体10の高さ方向Zの中央部において前記上翼34で培養液Aを攪拌するように構成されている。
【0025】
本実施形態の前記上翼34、及び、前記下翼33は、翼面が鉛直面となるように配されている。従って、本実施形態の前記上翼34、及び、前記下翼33の上面視における形状は、図2に示すように何れも線状である。
【0026】
前記上翼34、及び、前記下翼33の上面視における形状は、前記シャフト32の一つの箇所から径方向R外向きに線状に延びているとともに前記一つの箇所とは180度離れた他の箇所からも径方向R外向きに線状に延びており、該シャフト32を180度回転させた際に一つの箇所から延びる線と他の箇所から延びる線とが互いに重なり合う形状を有している。即ち、前記上翼34、及び、前記下翼33は、軸心周りに回転させた際に上面視において回転対称性を示す形状を有しており、2回対称となる形状を有している。
【0027】
上面視における前記上翼34の形状は、シャフト32から先端に至るまで径方向Rに一直線となって延びている。前記下翼33は、シャフト32から延びる方向での基端側で径方向R外向きに直線的に延びているが、その先では径方向Rに対して傾斜して外向きに延びている。具体的には、上面視における前記下翼33の形状は、先端部が回転方向RDとは逆側に折れ曲がった折れ線状になっている。そして、前記下翼33は、シャフト32から径方向R外向きに延びる第1板状部331と、該第1板状部331の先端より径方向に対して傾斜して外向きに延びる第2板状部332とを備えている。
【0028】
前記下翼33の第1板状部と前記上翼34とは、上面視において一つの直線となるようには配されておらず、所定の角度θで交差するように前記シャフト32に固定されている。
【0029】
本実施形態では下翼33の回転により、槽底から内壁部14の表面14aに沿って旋回しつつ上昇するような培養液Aの流れが槽底部に発生する。前記上翼34は、この下翼33の上方で回転し、このような培養液Aの流れが槽底部に形成されることを補助する。本実施形態では上翼34の方が下翼33よりも径方向Rでの寸法が小さい。また、上翼34は、下翼33とは周方向に位置ずれして回転している。
【0030】
培養液Aの攪拌には上翼と下翼とが一体とが一つになって一枚板になったような大きなワイドパドル翼を採用することも可能であるが、その場合は、翼の上端から下端までの途中で境界が生じ、該境界よりも上側と下側とで培養液Aの状態を異ならせ易くなる。そのため気泡を槽内に均一拡散させるという意味では本実施形態のように上翼34と下翼33との2つの翼を有する方が好ましい。尚、翼は、上、中、下の3枚構成であてもよく、4枚以上であってもよいが、装置構成を複雑化させないためには3枚以下が好ましく、2枚であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態の攪拌装置は、複数の攪拌翼の内の最も下方に配されている前記下翼のみをワイドパドル翼とし、当該下翼の上方にワイドパドル翼とは異なるその他の攪拌翼を備えてもよい。ワイドパドル翼とその他の攪拌翼とは、別体になっていてもよく一体になっていてもよい。
【0032】
前記下翼の上方に設けられてもよいその他の攪拌翼としては、例えば、格子状の攪拌翼が挙げられる。該格子状の攪拌翼(以下、「格子翼」ともいう)は、前記下翼と面一となるように設けることができる。格子翼と下翼とは一体になって一枚翼となっていてもよい。この場合、格子翼と下翼とでは径方向への吐出力に差が生じるため一枚翼であっても境界が生じ難く、培養液Aを槽全体で比較的均質な状態にすることができる。
【0033】
前記格子翼としては、例えば、上下方向に延びる縦桟部が前記シャフトの左右それぞれに複数ずつ配され、且つ、複数の縦桟部が径方向に所定の間隔を保って配されており、該縦桟部が前記下翼の上縁より上方に延び、径方向に隣り合う縦桟部の間に上下方向に長く延びた空隙が設けられており、一端部が前記シャフトに固定され、該シャフトから径方向に延びて該径方向に間隔を設けて並んだ複数の前記縦桟部の上端部どうしを接続する横桟部をさらに有するようなものであってもよい。
【0034】
本実施形態での前記下翼33は、正面視における形状が概ね矩形である。下翼33は、径方向外向きに延びている。下翼33の下縁33aは、下翼33の回転軸心となる位置に設けた前記シャフト32から径方向外向きに延びている。下翼33は、下縁33aと、該下縁33aの外端部より上方に延びる側縁33bと、該側縁33bの上端部より内向きに延びる上縁33cとを有している。但し、下翼33の下縁33aは、直線状にはなっておらず、底壁141の上面形状に対応するように僅かにカーブしており、シャフト32から径方向R外側に向かうに従って緩やかに先上りするようにカーブしている。言い換えると下翼33の下縁33aは、上下方向に延びる側縁33bの下端部より先下がりするように内向きに延びている。一方で、下翼33の側縁33bは、直線状であり内壁部14の周側壁142と並行するように垂直方向に延びている。また、下翼33の上縁33cも直線状であり前記シャフト32から径方向外向きに向けて水平に延びている。
【0035】
上記のような形状を有する前記下翼33は、軸心周り(仮想中心軸CX周り)に1回転させた際に、その軌跡が図3に示すような仮想立体B33を描く。該仮想立体B33は、垂直方向に沿った中心軸を有する円柱状である。但し、前記下縁33aの軌跡が描く該仮想立体B33の下面は、丸みをもって僅かに下方に向けて突出している。
【0036】
前記下翼33は、板面が広い方が培養液Aを攪拌する上で有利となる。例えば、径方向での長さをバッフル15の先端近くにまで到達する長さとすれば培養液Aを大きく流動させるのに有利となる。しかし、そのようにするとモーターの負荷が過大になるとともにバッフル15との間で培養液Aが強くせん断されることになり、微生物を傷付けてしまうことにもなり得る。下翼33の径方向での長さ(図2でのD2)は、水平面で前記槽本体10を切断した際の該槽本体10での収容空間の直径(内壁部14の表面14aが描く円の直径、図2でのD1。以下、単に「直径D1」、「槽本体の直径D1」などともいう。)に対して0.4倍以上(D2≧0.4・D1)であることが好ましく、0.5倍以上(D2≧0.5・D1)であることがより好ましい。下翼33の径方向での長さは、槽本体10の直径の0.7倍以下(D2≦0.7・D1)であることが好ましく、0.6倍以下(D2≦0.6・D1)であることがより好ましい。
【0037】
前記バッフル15は、前記下翼33による培養液Aの流れを適度に乱して培養液Aの攪拌を幇助する。バッフル15は、突出高さが高い方が培養液Aの流れを乱す効果が高くなるが、過度に高いとむしろバッフル15で培養液Aの滞留が生じかねない。また、過度に高いバッフル15は、前記下翼33の回転径(D2)に制約を生じさせることにもなり得る。バッフル15の突出高さが過度に高いと、下翼33を回転させた際の通過領域である前記仮想立体B33の体積を減少させてしまうことになり、攪拌効果を減少させることにつながる。
【0038】
前記バッフル15の突出高さ(径方向での寸法、図2でのHc)は、槽本体10の直径に対して0.01倍以上(Hc≧0.01・D1)であることが好ましく、0.03倍以上(Hc≧0.03・D1)であることがより好ましい。バッフル15の高さは、槽本体10の直径の0.12倍以下(Hc≦0.12・D1)であることが好ましく、0.1倍以下(Hc≦0.1・D1)であることがより好ましい。
【0039】
本実施形態では、下翼33による攪拌効果をより顕著に発揮させる上において、前記バッフル15は、その上端部が前記下翼33の上縁33cを超える高さとなるように上下方向に延在している。前記バッフル15は、下端が散気体20の気泡発生部よりも下方に位置するように上下方向に延在している。
【0040】
前記下翼33の回転時に該下翼33がバッフル15に接近することによってこれらの間の培養液Aに生じる水圧を逃がすことができるように前記バッフル15と前記内壁部14との間に隙間を設けるようにしてもよい。例えば、長板状の部材を前記内壁部14から少し離して支持するようにしてバッフルを構成し、内壁部14との間に上下方向に長いスリット状の隙間を設けるようにしてもよい。このような隙間を設けることは、内容物がバッフル部分で滞留することを防止しうる。
【0041】
本実施形態での前記バッフル15は、前記内壁部14の表面よりも内向きに突出した固定金具に対してボルト止めするなどして着脱自在に設けられてもよい。本実施形態では、前記固定金具や前記バッフル15ボルトを通す貫通孔を設け、該貫通孔を槽中央部が長手方向となる長孔とするなどしてバッフル15の突出高さを調節自在としてもよい。
【0042】
上記のような好ましい態様のバッフル15は、複数のバッフル15の内の一部であってもよいが全部であることが好ましい。複数のバッフル15は、突出高さなどが共通していても共通していなくてもよい。
【0043】
本実施形態においては、周側壁142だけでなく底壁141にもバッフルを設けてもよいが、底壁141から立ち上がるようにバッフルを設けると槽底での旋回流の形成を邪魔してしまうことになり、バッフルの裏側に微生物などが沈殿物として溜まり易くなる。また、散気体20より発生した気泡もバッフルの裏側に行きわたり難くなる。そのため、本実施形態では、底壁にはバッフルを設けないことが好ましく、バッフルを周側壁のみに設けることが好ましい。
【0044】
周側壁142に設けられるバッフル15はその下端が槽底に達していてもよく、槽底からある程度の高さを保っていてもよい。後者の場合、槽本体10の底面(底壁141の上面)からバッフル15の下端までの高さ(図4Aに示す「Hf」)は、槽本体10の直径の0.2倍以上(Hf≧0.2・D1)であってもよく、0.25倍以上(Hf≧0.25・D1)であってもよく、0.3倍以上(Hf≧0.3・D1)であってもよい。バッフル15の下端の高さ(Hf)は、例えば、槽本体10の直径の0.5倍以下(Hf≦0.5・D1)とすることができ、0.4倍以下(Hf≦0.4・D1)であってもよい。
【0045】
本実施形態では、前記散気体20が前記仮想立体B33と前記バッフル15との間を通る円環状となっている。本実施形態では、散気体20の内径(直径、図2でのD3)が前記仮想立体B33の下端部の径よりも大きい。即ち本実施形態での前記下翼33は、下端部を前記散気体20の内側に上方から挿入するような形で配されている。言い換えると本実施形態では、散気体20の気泡発生部21が、前記下翼33の回転時に該下翼33が通過する領域(仮想立体B33)よりも径方向外側に設けられている。
【0046】
散気体20の内径は、下翼33の下端部での左右の側縁33b間の距離よりも広いことが好ましい。本実施形態での散気体20は、必ずしも下翼33の側縁33bよりも外側に配される必要はなく、径方向中央部で下翼33の下縁33aが側縁33bに近い部位よりも下方に突出している部分のみを外側から包囲するように配されてもよい。即ち、本実施形態では、図5Aに示すように、下翼33の下端側の少なくとも一部が散気体20の気泡発生部21を通る水平面HPよりも下側に位置し、且つ、該水平面HPと下翼33とが交わる交点XPよりも外側に気泡発生部21が設けられていればよい。
【0047】
散気体20の内径(D3)は、下翼33の長さ(D2)の0.8倍以上(D3≧0.8・D2)であることが好ましく、下翼33の長さ(D2)を超えている(D3>D2)ことがより好ましく、下翼33の長さ(D2)の1.1倍以上(D3≧1.1・D2)であることがさらに好ましい。
【0048】
散気体20と下翼33とが過度に離れてしまうのは望ましいことではない。散気体20(気泡発生部)から下翼33までの最短距離(t)は、近い方が好ましく、槽本体10の直径に対して例えば0.15倍以下(t≦0.15・D1)程度とされ得る。散気体20(気泡発生部)から下翼33までの最短距離(t)は、槽本体10の直径に対して例えば0.1倍以下(t≦0.1・D1)であってもよい。また、前記距離(t)は、200mm以内としてもよい。
【0049】
前記培養液Aは、槽底に近いほど微生物濃度が高くなり、槽底に近いほど粘度が高くなる場合がある。本実施形態では、図4Aに示すように、前記散気体20が従来の培養槽などに比べて外側に位置しているため、下翼33の下縁33aを底壁141に接近させることができ、槽底での微生物の蓄積を防ぐことができる。
【0050】
槽が最も深くなる径方向中央部での底壁141から下翼33の下縁33aまでの距離(図4AでのHb)は、例えば、槽本体10の直径の0.2倍以下(Hb≦0.2・D1)とすることができる。該距離Hbは、0.15倍以下(Hb≦0.15・D1)であってもよい。尚、過度に槽底に接近させると下縁33aによるせん断力が微生物に悪影響してしまうことになり得る。そのため、前記距離は、槽本体10の直径の0.02倍以上(Hb≧0.02・D1)であることが好ましい。
【0051】
下翼33の下縁33aの内、側縁33bに近い部分では、径方向中央部に比べて周速が早くなるため中央部よりも底壁141から下縁33aまでの距離を大きく確保した方が好ましい。下縁33aの内の最も外側の地点(側縁33bとの角部)での底壁141から下翼33の下縁33aまでの距離(図4AでのHe)は、例えば、中央部での距離の1.5倍以上4倍以下(4.0・Hb≧He≧1.5・Hb)とすることができる。下縁33aの最も外側の地点の底壁141からの距離(He)は、例えば、槽本体10の直径の0.05倍超(He>0.05・D1)とすることができる。該距離は、槽本体10の直径の0.4倍未満(He<0.4・D1)とすることができる。
【0052】
下翼33による培養液Aの攪拌では、下翼33の側縁33bが下翼33での最も移動速度が速い部位になる。従って、側縁33bに近い部分では培養液Aにせん断が加わり易い。本実施形態では、上記のように気泡発生部が仮想立体B33の外に位置するため、このせん断が加わり易い箇所に盛んに気泡が供給される。しかも、気泡発生部から発生される気泡の浮上力が培養液Aの循環も促進する。
【0053】
前記散気体20での気泡発生部21は、従来は底壁141に近い方が好ましいと考えられていたが本実施形態では、下翼33の下縁33aと側縁33bとが交わる下翼33の外側の下角33dよりも上方であってもよい。気泡発生部21は、図4B図4Cに示されているように、下角33dから上縁33cに至る区間の何れかの高さに設けられることが好ましい。気泡発生部21の位置は、下角33dから上縁33cに至る区間の中間点よりも下方であることが好ましく、1/4よりも下方であることがより好ましく、1/8よりも下方であることがさらに好ましい。
【0054】
高さ方向Zでの前記下翼33の最下端から上縁33cまでの寸法を下翼33の高さ(L1)とした際に、該下翼33の高さは、槽本体10の直径の0.3倍以上(L1≧0.3・D1)であってもよく、0.4倍以上(L1≧0.4・D1)であってもよい。該下翼33の最下端からの気泡発生部21の高さ(Hz2)は、槽本体10の直径の0.01倍以上(Hz2≧0.01・D1)とすることができ、0.02倍以上(Hz2≧0.02・D1)であってもよく、0.03倍以上(Hz12≧0.03・D1)であってもよい。気泡発生部21の高さ方向Zでの位置は、槽本体10の直径の0.6倍以下(Hz2≦0.6・D1)とすることができ、0.5倍以下(Hz2≦0.5・D1)であってもよい。
【0055】
下翼33でのせん断による微細化効果を考えると、散気体20から気泡を径方向中心部に向けて放出することが好ましいもののその場合はノズルなどを内向きに開口させることになり、目詰まりを生じさせ易くなる。そのため、本実施形態においては、下向きに気泡を放出させるようにしている。尚、下向きとは、水平方向よりも下側に向いていることを意味し、真下に向いていることだけを意味するものではなく斜め下向きをも意味する。
【0056】
下翼33の径方向外側の下角部を表した図4Cに示すように、散気体20の配される位置では、径方向外向きへの培養液Aの流れFLが生じている。そのため気泡発生部21から内側に向けて水平方向に気体を吹き出すと吹出方向ABが培養液Aの流れFLと対向してしまうことになる。本実施形態では、吹出方向ABを下向きとしているので流れFLと交差する方向に気泡が放出される。そのため、本実施形態では気泡が培養液Aの流れFLにより微細化され易くなる。
【0057】
吹出方向ABは、水平方向外向きであってもよい。即ち、吹出方向ABの水平面に対する角度(θhp)は、図4Cに示すように径方向内向きを0°とし、該径方向内向きから下方に傾く方向に向きを回転させるに従って角度を増大させて、真下となった時を90°、さらに回転させて径方向外向きとなった場合を180°、真上となった場合を270°とする場合、180°(径方向外向き)であってもよい。吹出方向ABの角度(θhp)は、30°以上240°以下の範囲の何れかであることが好ましい。この角度(θhp)は、225°以下であってもよく、180°以下であってもよい。この角度(θhp)は、135°以下であってもよく、120°以下であってもよい。前記角度(θhp)は、45°以上であってもよく、60°以上であってもよい。気泡は、1方向に吹き出される必要はなく、例えば、第1の方向と、第1の方向とは異なる第2の方向とを含む複数方向であってもよい。例えば、第1の方向を60°以上90°未満の範囲の何れかの方向とし、第2の方向を90°以上120°以下の範囲の何れかの方向とすることができる。
【0058】
気泡発生部21での気体の吹出方向ABは、図4Dに示すように、垂直面に対して傾斜していてもよい。吹出方向ABは、垂直面とのなす角度θvpが、5°以上であってもよく、10°以上であってもよく、20°以上であってもよい。該角度θvpは、180°未満であってもよく、90°以下であってもよく、80°以下であってもよい。気体の吹出方向ABは、水平面と垂直面との両方に対して傾斜していてもよく、一方のみに傾斜していてもよい。
【0059】
本実施形態での前記気泡発生部は、前記下翼33の下端部を包囲するように下翼33の回転方向に沿って環状に配されているため気泡を槽内液全体に拡散させる効果に優れるものの気泡発生部は必ずしも環状配置にされなくてもよい。また、下翼33による攪拌効果をより顕著に発揮させる上において、前記バッフル15は、上端部が前記下翼33を超える高さとなるように上下方向に延在させているが、バッフル15の高さは特に限定されない。本実施形態では、バッフル15の内側(バッフル15と下翼33との間)で気泡を発生させるようにしているがバッフル15が設けられている位置から外れた箇所で気泡を発生させるようにしてもよい。例えば、周方向において隣り合うバッフル15の中間地点のみで気泡を発生させてもよい
【0060】
気泡発生個所と下翼33との接近を図る意味では、下翼33に切欠部を設けて当該切欠部で気泡を発生させるようにしてもよい。この点について、図5A図5B図5Cを参照しつつ説明する。これらの図に示されている実施態様では、下翼33の外側の下角部CNの近傍となる位置に気泡発生部21が設けられている。
【0061】
本実施形態の下翼33では、下縁33aが側縁33bに達する手前において径方向外向きに向けて先上りしている。そのため、本実施形態の下翼33では、側縁33bだけでなく下縁33aが外向きに先上りしている箇所も当該下翼33における径方向外側の端縁(以下「外縁」ともいう)を構成している。本実施形態の下翼33では、気泡の微細化に主にこの外縁でのせん断作用が利用される。この外縁の内、前述の下角部CNは、下翼33の中でも槽底に近い部位であり、且つ、周速の早い部位である。そのため、下角部CNの近傍は、気泡の発生箇所として特に好適であると言える。即ち、側縁33bに到達する手前での下縁33aの下方や下縁33aの端部からの側縁33bの立上り起点となる部位の外方などといった下縁33aの外側端部から側縁33bの下端部にかけての下翼33の輪郭線と槽本体10との間となる位置(円柱状の仮想立体B33の下角部CNと槽本体10との間となる位置)に気泡発生部21を配置することは微細な気泡を槽の広範囲に拡散する上で特に有利となり得る。
【0062】
図5Bや前述の図5Aは、切欠部の設けられていない下翼33と散気体20の気泡発生部20aとの位置関係を示した図である。一方で図5Cは切欠部の設けられた下翼33と散気体20の気泡発生部20aとの位置関係を示した図である。
【0063】
図5Aに示す下翼33は、前記下縁33aの下方に前記気泡発生部21が設けられ、該下翼33の前記下縁33aは、前記気泡発生部21よりも径方向R内側に前記気泡発生部21よりも下方に位置する第1の部位(前記)を有し、前記気泡発生部21よりも径方向R外側に該気泡発生部21よりも上方に位置する第2の部位を有し、しかも、前記第1の部位から前記第2の部位にかけて径方向外側に向けて先上りした形状を有している。
【0064】
図5Aに示す態様では、第1の部位から第2の部位の間の部位である第3の部位と前記第2の部位との境界となる位置の下方に前記気泡発生部21が設けられている。径方向外側に向けて先上りした形状は、第1の部位、第3の部位、第2の部位と連続して一つの滑らかな曲線を形成している。即ち、図5Aに示す態様では、前記気泡発生部21の上方となる部位での前記下縁33aの形状は径方向外側に向けて先上りする形状となっている。
【0065】
図5Aに示す下翼33の下縁33aは、径方向外側に向かうほど登り勾配が大きくなるような形状を有しているが、前記気泡発生部21の上方を径方向外側に向けて先上り形状とする上では下縁の形状は直線的に先上りしていてもよく、下翼は正面視における形状がホームベース形状であってもよい。
【0066】
図5Aに示す前記気泡発生部21は、前記軸心から前記下翼33の前記側縁33bまでの中間点よりも前記側縁寄りに位置している。図5Aに示す気泡発生部21で発生した気泡は浮力により上方に移動するとともに下翼33の回転により径方向外向きに移動する。即ち、図5Aに示す態様では気泡は外向き斜め上方向に移動し易くなっている。そして、この図に示された態様ではこの気泡の移動方向に沿って下翼33の下縁33aが延在するので気泡がより確実に微細化され易い。
【0067】
一方で図5Bに示す下翼33は、径方向R外向きに延びる下縁33aと、該下縁33aの外端部より上方に延びる側縁33bとを有し、前記側縁33bよりも径方向R外側に前記気泡発生部21が設けられている。この図に示された態様では下翼33において周速が最大となる箇所において気泡が発生されることになる。
【0068】
図5Cの下翼33は、外側の下角部が切欠き形状になっており、前記気泡発生部21が前記下翼33の切欠かれている箇所で前記気泡を発生させるように配されている。図5Cの下翼33は、下縁33aと側縁33bとのそれぞれに段差が設けられている。該下翼33は、下縁33aの外端部が上方に一段高くなっているとともに側縁33bの下端部が内側に一段寄っていることで前記切欠き形状が形成されている。図5Cに示した態様では、下縁33aが一段高くなっている部分の下方、且つ、側縁33bが一段内寄りに設けられている部分の外方となる位置に前記気泡発生部21が設けられている。図5Cに示されているような態様では、図5Aに示す態様について説明した作用と図5Bに示す態様について説明した作用との両方が適度に発揮され得る。このことにより気泡発生部21から発生する気泡をより確実に微細化することができる。
【0069】
本実施形態の培養槽100は、前記下翼33や前記上翼34を、例えば、5rpm~200rpm、更には100rpm以下の回転速度で回転させつつ微生物の培養を行なうことができる。前記培養槽100での微生物の培養は、培養開始時における前記培養液Aの液深を翼高さ(底壁から上翼の上縁までの高さ)の0.9倍~1.2倍程度となるようにして行うことができる。本実施形態の培養槽100は、例えば、攪拌する液体の単位体積あたりに加わる動力(Pv値)が0.2~10kW/mとなるように運転される。培養槽100は、攪拌する液体の単位体積あたりに加わる動力(Pv値)が0.5~5kW/mとなるように運転されてもよい。
【0070】
前記培養槽100での微生物の培養は、適宜、栄養源(例えば炭素源及び微量金属成分)を培養液に添加して行うことができる。本実施形態では、添加した栄養源も培養液全体に均一に行きわたり易くなり、効率良く微生物の増殖が行われ得る。
【0071】
上記の通り、バイオリアクターである前記培養槽100は、微生物を含む槽内液である培養液Aが収容される槽本体10と、前記槽内液を攪拌する攪拌装置30と、前記槽内液に散気する散気体20とを備え、前記攪拌装置が30、上下方向に延びる軸心周りに回転して前記槽本体10の下部で前記槽内液を攪拌するワイドパドル翼である下翼33を有し、前記散気体20が、前記散気のための気泡を発生する気泡発生部21を有し、該気泡発生部21が、前記下翼33の回転時に該下翼33が通過する領域よりも径方向外側に設けられている。そのため、本実施形態のバイオリアクターでは、散気による効果が槽内液全体に行きわたり易い。
【0072】
本実施形態の一つの態様における培養槽100では、前記下翼33が、径方向R外向きに延びる下縁33aと、該下縁33aの外端部より上方に延びる側縁33bとを有し、前記下縁33aの下方に前記気泡発生部21が設けられている。本実施形態の一つの態様における培養槽100での前記ワイドパドル翼の径方向での前記気泡発生部の位置は、前記軸心から前記側縁までの中間点よりも前記側縁寄りとなっている。そして、前記ワイドパドル翼の前記下縁には、前記気泡発生部よりも径方向内側に前記気泡発生部よりも下方に位置する部位が設けられている。そのような態様においては下翼33の周速が早いため、気泡がより微細化され易くなる。
【0073】
上記の態様における培養槽100での前記下翼33の前記下縁は、前記気泡発生部の上方となる部位に、径方向外側に向けて先上りした形状を有している。そのため本実施形態では、例えば、径方向内外に大きく広がった状態で気泡が気泡発生部21から発生するような場合であっても下翼33の下縁33aで多くの気泡を微細化し得る。
【0074】
本実施形態での他の態様においては、前記下翼33が、径方向R外向きに延びる下縁33aと、該下縁33aの外端部より上方に延びる側縁33bとを有し、前記ワイドパドル翼の径方向での前記気泡発生部の位置が前記側縁33bよりも径方向R外側である。このような態様においては下翼33において最も周速が早い箇所で気泡が発生されるため、該気泡がより微細化され易い。また、そのような培養槽100では、培養液A自体にはせん断力が加わり難くなるので微生物がダメージを受けるおそれを抑制できる。
【0075】
本実施形態では前記ワイドパドル翼の外側の下角部が切欠き形状になっており、前記気泡発生部は、前記ワイドパドル翼の切欠かれている箇所で前記気泡を発生させるように配されていてもよい。このような好ましい態様によれば気泡の微細化効果がより顕著に発揮され得る。
【0076】
本実施形態の培養槽100では、前記槽本体10に前記槽内液を収容する空間を画定する、底壁141と、底壁141の外縁より筒状に立ち上る周側壁142とが設けられ、該周側壁142よりも内側において上下方向に延びるバッフル15が更に設けられており、前記バッフルの下端が前記気泡発生部よりも下方に位置し、前記気泡発生部21が該バッフル15よりも内側である。そのため、本実施形態のバイオリアクターは、槽内液の攪拌性に優れるとともに気泡を微細化する効果も期待でき、効率的な散気を期待することができる。
【0077】
本実施形態の前記バッフルは、上端部が前記ワイドパドル翼を超える高さとなるように上下方向に延びている。そのため、本実施形態のバイオリアクターは、槽内液の攪拌性により優れるとともに気泡の微細化効果もより顕著に発揮され得る。
【0078】
本実施形態の前記気泡発生部は、前記ワイドパドル翼の回転方向に沿って環状に配されている。そのため、本実施形態では、散気により生じた気泡を槽全域に行きわたらせ易い。
【0079】
尚、本実施形態では、バイオリアクターとして上記のような培養槽を例示しているが、発酵槽などの他のバイオリアクターも本発明の意図する範囲である。また、本発明は、バイオリアクターに限らず各種の散気攪拌槽であってもよい。例えば、エチレンガスなどの不飽和モノマーを溶液中に散気しつつ溶液重合が行われる重合槽や塩素ガスなどの吸収に用いられるガス吸収槽も本発明の散気攪拌槽として意図する範囲である。そして、培養槽以外の用途においてはそれぞれの用途に応じて上記例示の技術事項に対して種々の変更を加え得る。即ち、本発明は、上記例示に何等限定されるものではない。
【符号の説明】
【0080】
10:槽本体、10a:底部、10b:側壁部、10c:天井部、10d:ジャケット部、
15:バッフル、
20:散気体、21:気泡発生部
30:攪拌装置、
33:下翼(第1のワイドパドル翼)、
34:上翼(第2のワイドパドル翼)、
100:培養槽、
141:底壁、142:周側壁、
A:培養液(槽内液)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C