(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】連続的なラインの冷却セクションを移動する鋼ストリップの冷却方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/573 20060101AFI20240119BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20240119BHJP
B21B 45/02 20060101ALI20240119BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
C21D9/573 101Z
C21D1/00 D
B21B45/02 320Z
C23C2/02
(21)【出願番号】P 2022122552
(22)【出願日】2022-08-01
(62)【分割の表示】P 2019551699の分割
【原出願日】2018-03-22
【審査請求日】2022-08-30
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512128232
【氏名又は名称】フィブ スタン
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】マガドゥ エリック
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-011155(JP,A)
【文献】特開昭55-062185(JP,A)
【文献】特開昭56-105427(JP,A)
【文献】特開2016-079436(JP,A)
【文献】特開2006-316345(JP,A)
【文献】特開平02-170925(JP,A)
【文献】特開昭63-192820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52- 9/66
C21D 1/00- 1/84
C21D 7/00- 8/10
C21D 9/46- 9/48
C23C 2/00- 2/40
C23G 1/00- 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的なラインの冷却セクション(2)を通って進む鋼ストリップ(1)の冷却方法であって、前記鋼ストリップへの水性噴射溶液の噴射を含み、前記水性
噴射溶液は、液体溶液又は液体溶液とガスの混合物であり、前記液体溶液は、0.1質量%~6質量%のギ酸濃度を有し、
前記
水性噴射溶液は、噴霧によって前記鋼ストリップに噴射され、
さらに前記冷却方法は、噴射ユニット(13)に収容され、また、噴射される前記
水性噴射溶液の連続的又は周期的なチェックも含み、
該チェックは、前記
水性噴射溶液の少なくとも1つの物理化学的データを、pH、密度及びギ酸濃度、又は、これらの物理化学的データの組み合わせを含む群から測定することを含み、この測定が所定の許容範囲に入らない場合、所定の量の前記噴射される溶液を前記噴射ユニット(13)から取り除き、同じ所定の量のギ酸溶液を前記噴射ユニット(13)に注入し、前記所定の量のギ酸溶液は、注入後の、噴射される前記液体溶液が、0.1質量%~6質量%のギ酸濃度であるようにギ酸の濃度を有する、冷却方法。
【請求項2】
前記液体溶液は、0.5質量%~2質量%のギ酸濃度を有する、請求項1に記載の冷却方法。
【請求項3】
前記注入後の、噴射される前記液体溶液は、0.5質量%~2質量%のギ酸濃度を有する、請求項1又は2に記載の冷却方法。
【請求項4】
取り除かれる前記溶液は、過酸化水素水を用いて酸化による処理を受け、次に、鉄(III)及び他の合金元素の水酸化物を抽出するようにろ過され、注入される前記溶液は、前記ろ過された溶液の再循環又は新たな溶液に由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却方法。
【請求項5】
噴射ユニット(13)から取り除かれる前記溶液は、噴射される前に脱酸素処理を受ける、請求項1~4のいずれか1項に記載の冷却方法。
【請求項6】
前記鋼ストリップに噴射される前記溶液の噴射から生じる蒸気を収集すること、該収集された蒸気を液体に凝縮させること、及び、該凝縮された液体を、前記噴射ユニット(13)に送るために、前記噴射される溶液が取り出される流体循環路に注入することも含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の冷却方法。
【請求項7】
連続的なラインの冷却セクション(2)を通って進む鋼ストリップ(1)を冷却するように構成されている冷却装置であって、請求項1~6のいずれか1項に記載の冷却方法を、前記鋼ストリップへの水性噴射溶液の噴射により行うように構成されている要素を備え、
前記水性溶液は、液体溶液又は液体溶液とガスの混合物であり、前記液体溶液は、0.1質量%~6質量%のギ酸濃度を有し、
前記溶液は、噴霧によって前記鋼ストリップに噴射され、
さらに前記冷却装置は前記液体溶液を脱酸素化するように構成されているメンブレン(4)のシステムを含む、冷却装置。
【請求項8】
該メンブレンは、一方の側は窒素で掃引され、他方の側は真空抽出で掃引される、請求項7に記載の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼ストリップの連続的な焼鈍ライン又は亜鉛めっきラインの湿式冷却セクションに関する。以下において、亜鉛めっきには、コーティングが、亜鉛、アルミニウム、亜鉛及びアルミニウムの合金、又は他のいかなる種類のコーティングであれ、全ての浸漬コーティングを含むことを意図している。鋼ストリップは典型的には、500℃~1000℃の温度、例えば800℃で該冷却セクションに入り、周囲に近い温度又は中間温度で出ていく。
【背景技術】
【0002】
従来技術においては、連続的なラインの適用において鋼ストリップの冷却技術には2つのタイプがあり、すなわちガス冷却と湿式冷却である。
【0003】
ガス冷却は、典型的には、鋼ストリップに高速で、N2H2の高水素含量混合物を吹き付けることを含み、1mm厚のストリップに対し、200℃/sに達するまでの冷却速度を達成することができる。この処理は還元ガスを使用するので、鋼ストリップはこのタイプの技術を使用する冷却セクションを通過した後に酸化されない。その後、該ストリップは中間の化学的ステップ、例えば酸洗いを必要とすることなく、亜鉛めっきすることができる。しかし、冷却速度は200℃/sに制限されているので、ガス冷却では、それより高い冷却速度を必要とする高度の機械的及び冶金的性質をもった鋼を生産することができない。
【0004】
湿式冷却は、水又は水とガスの混合物を鋼ストリップに噴射することにより、1mm厚のストリップに対し、約1000℃/sの冷却速度を達成することができる。この冷却速度は高度の機械的及び冶金的性質をもった鋼を生産することができる。しかし、水が冷却剤として使用されると、ストリップは酸化され、中間の酸洗い段階なしでは、亜鉛めっきラインでこのタイプの冷却を使用することは不可能である。
【0005】
本出願人の国際出願WO2015/083047号明細書では、冷却処理において鉄及び鋼合金元素との関係で酸洗い特性又は非酸化性特性をもつ溶液、例えばpH5未満のギ酸溶液の使用を提案しており、これによりストリップを酸化することなく、約1mm厚のストリップに対し、約1000℃/sの冷却速度を達成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、従来技術の方法の性能を改善した鋼ストリップの冷却方法を提案することである。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、従来技術の方法よりも効率的な冷却方法を提案することである。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、従来技術の方法よりも負担の少ない冷却方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の少なくとも1つの目的は、問題になっている鋼ストリップに噴射溶液を用いて噴射する、連続的なラインの冷却セクションを通過する鋼ストリップの冷却方法によって達成される。前記溶液は、液体又は液体とガスの混合物であり、該混合物中の液体の体積での割合は、例えば1%~5%である。
【0010】
前記噴射溶液が液体であるときは、該溶液のギ酸の濃度は0.1質量%~6質量%である。液体とガスの混合物が噴射されるときは、該混合物内の液体はまた、0.1質量%~6質量%のギ酸濃度を有する。該噴射混合物内のガスは有利には不活性ガス、例えば窒素又は水素添加された窒素である。
【0011】
異なるタイプの鋼、標準鋼、及びマンガンやケイ素のような古典的な合金元素を有する合金鋼について、ギ酸の理想的な濃度を決定する目的で、本出願人はテストを行った。これらのテストは、2つのコネクタの間に100mm×40mm×1mmのサンプルを配置し、5%H2のN2H2で-60℃の露点の雰囲気で、サンプルに電流を流すことにより、急速に800℃の温度にすることを含む。次いで、ギ酸溶液は、設定時間の間、サンプルに噴射され、その結果それは50℃の温度に達する。酸溶液の噴霧を完了すると、サンプルは、-60℃の露点で5%H2のN2H2を吹き付けられながら、80℃の温度に再加熱される。これらのテストは、溶液のギ酸濃度が0.1質量%~6質量%である溶液は、中間の化学的処理を必要とせずに、亜鉛めっきすることができる鋼ストリップを得るのに十分であると結論付ける。液体溶液中のギ酸濃度は、鋼の高い酸化還元電位をもつ合金元素、例えばアルミニウム、マンガン、又はケイ素の含量に応じて調節される。この含量が高いほど、溶液中のギ酸濃度は高くなる。
【0012】
有利には、溶液のギ酸濃度は、0.1質量%~5.5質量%、有利には0.1質量%~5質量%、有利には0.1質量%~4.5質量%、有利には0.1質量%~4質量%、有利には0.1質量%~3.5質量%、有利には0.1質量%~3質量%、有利には0.1質量%~2.5質量%、有利には0.15質量%~2.5質量%、有利には0.2質量%~2.5質量%、有利には0.3質量%~2質量%、有利には0.35質量%~2.5質量%、有利には0.4質量%~2.5質量%、有利には0.45質量%~2.5質量%である。より有利には、溶液のギ酸濃度が、0.46質量%~2.4質量%、有利には0.47質量%~2.3質量%、有利には0.48質量%~2.2質量%、有利には0.49質量%~2.1質量%である。さらに有利には、溶液のギ酸濃度は、0.5質量%~2質量%である。
【0013】
有利には、0.5質量%~2質量%の濃度を有するギ酸溶液は、低い酸化感受性、例えば低含量のマンガン、アルミニウム、又はケイ素を含むグレードの鋼を処理するために使用することができる。
【0014】
有利には、噴射される溶液は、1.5~3のpHをもつ。
【0015】
ストリップを急速に例えば1から3秒で冷却するのに使用されるギ酸溶液は、
ストリップの他の化学的処理はそれが冷却された後は必要ないということを意味する。またそれは、急速冷却後にストリップを水で洗うことを必要としない。1回の乾燥処理だけを行いうる。それゆえ、亜鉛めっきラインに特に有利である。なぜなら、簡単な乾燥処理が続く湿式冷却の後すぐに、ストリップを亜鉛浴に浸すことができるからである。
【0016】
ギ酸は最も簡単なカルボン酸である。その非常に簡単な化学的組成を考慮すると、鋼ストリップ又は機器の壁の表面に複雑なカーボン付着を形成するリスクが非常に限定される。該付着は、さらなる中間処理なしで亜鉛めっき段階を実行することを妨げる可能性がある。クエン酸のようなより複雑な酸は、適切な亜鉛めっきを妨げうる重大なカーボン付着を残す可能性がある。
【0017】
熱い鋼ストリップが溶液で冷却されると、2つの独立した化学反応が起こる。すなわち、
- 溶液の熱分解
- ストリップと溶液の間で、及びストリップと熱分解の生成物の間での化学反応
【0018】
メタン酸としても知られるギ酸 - 化学式HCOOH又はCH2O2及びその分解生成物は、高い還元特性をもち、本発明の適用に理想的である。
【0019】
実際、低い温度では、ギ酸は脱カルボキシル化によって次式に示すように水と一酸化炭素に分解する。
HCOOH→H2O+CO
【0020】
約150℃より高い温度では、ギ酸は脱水により、次式に示すように二水素と二酸化炭素に分解する。
HCOOH→H2+CO2
【0021】
いったん噴射されると、噴射溶液はミスト、又は水ナイフとなることができ、あるいは他の形態をとりうる。
【0022】
液体であると、ギ酸の分解はほとんど脱カルボキシル化を通じて起こり、一方、ギ酸がガスの形態であると、ギ酸の分解はほとんど脱水を通じて起こる。
【0023】
特定の適用においては、前記溶液は、噴霧することにより鋼ストリップに噴射される。
【0024】
両方のケースでは、ギ酸の分解により還元ガス、一方ではCO又はCO2、他方ではH2が生じる。
【0025】
噴射される溶液は好ましくは水性である。水性溶液の1つの利点は、他の溶液と比べて、環境への影響がより小さいことである。なぜなら、使用する場合に毒性又は有害な廃棄物を生じないからである。また水性溶液は他の溶液と比べて、負担が少ない。
【0026】
好ましくは、噴射される水性溶液には主としてミネラル除去した水が含まれる。こうして、鋼ストリップ上の付着物がさらに制限される。この溶液は鋼生産国の環境標準に抗する廃棄物を生じないし、生産される鋼の1トン当たりの過剰な追加料金を生じさせない。
【0027】
有利には、噴射された溶液と鋼ストリップの熱化学反応によって生じた溶液の一部は再循環ユニット、好ましくは再循環タンクで回収される。そして、噴射される溶液は、再循環ユニットに連結された、噴射ユニット好ましくは噴射タンクから取り出される。こうして、噴射された溶液は再使用することができ、そのため作業コストは最小化される。
【0028】
例えば、標準鋼の生産のためには、ストリップを冷却するために使用する溶液の流速は200~1000m3/h、より一般的には約500m3/hである。
噴射された溶液のごく小さな割合が、その鋼ストリップとの熱化学反応及び熱分解によって変化する。ひどく高い消費や生産コストを発生させないように、この溶液の主要部分を再使用、それどころか再生利用することが重要である。有利には、該溶液の少なくとも50%が再生利用される。さらに有利には、前記溶液の少なくとも60%、有利には少なくとも70%、有利には少なくとも80%、有利には少なくとも90%が再生利用される。より有利な構成では、前記溶液の少なくとも91%、有利には少なくとも92%、有利には少なくとも93%、有利には少なくとも94%、有利には少なくとも95%、有利には少なくとも96%、有利には少なくとも97%、有利には少なくとも98%、有利には少なくとも99%が再生利用される。さらに有利な構成では、前記溶液の100%が再生利用される。
【0029】
液体又はガスフェーズのギ酸溶液、及びその液体又はガスフェーズの分解産物と鋼ストリップとの相互作用は、その高速性と異常な温度レベルのために、簡単には理解できない反応を開始する。存在する元素間の相互作用の動力学も、ストリップと接触する溶液の蒸発及びその結果生じるライデンフロスト効果により、複雑になる。前記酸溶液とストリップにより形成される、ガスフェーズと液体フェーズ間の化学反応の、ストリップ表面に観察される効果に対する寄与は、実験アプローチを使用して定量化することは困難である。
【0030】
有利には、本発明の方法は、再循環ユニットの溶液の連続的又は周期的な、例えば1時間ごとの、チェックを含むことができ、該チェックは前記溶液の少なくとも1つの物理化学的データを、pH、密度及びギ酸濃度、又は、これらの物理化学的データの組み合わせを含む群から測定することを含み、この測定が所定の許容範囲に入らない場合、再循環ユニットの所定の量の前記噴射される溶液を取り除き、同じ所定の量のギ酸溶液を前記噴射ユニット(13)に注入し、前記所定の量の噴射されたギ酸溶液は、注入後の、噴射される前記液体溶液が、0.1%~6%のギ酸濃度であるようにギ酸の濃度を有する。有利には、注入後の、噴射される前記液体溶液は、ギ酸濃度が、0.1質量%~5.5質量%、有利には0.1質量%~5質量%、有利には0.1質量%~4.5質量%、有利には0.1質量%~4質量%、有利には0.1質量%~3.5質量%、有利には0.1質量%~3質量%、有利には0.1質量%~2.5質量%、有利には0.15質量%~2.5質量%、有利には0.2質量%~2.5質量%、有利には0.3質量%~2質量%、有利には0.35質量%~2.5質量%、有利には0.4質量%~2.5質量%、有利には0.45質量%~2.5質量%である。より有利には、注入後の、噴射される前記溶液は、ギ酸濃度が、0.46質量%~2.4質量%、有利には0.47質量%~2.3質量%、有利には0.48質量%~2.2質量%、有利には0.49質量%~2.1質量%である。さらに有利には、注入後の、噴射される前記溶液は、ギ酸濃度が、0.5質量%~2質量%である。再循環ユニットから取り除かれる前記溶液の所定の量は、噴射された溶液が再び所望する濃度になるように、測定された値、所定の許容範囲の最小値、及び注入された溶液のギ酸濃度の間のギ酸濃度の差異に応じて決定される。
【0031】
こうして、ギ酸溶液の性能に関する連続的な測定は、それが所定の許容範囲内にあることを確実なものとする。許容範囲は、設定値が例えばギ酸濃度値、密度又はpH値であれ、例えば設定値の+/-10%である。
【0032】
ギ酸濃度及び許容範囲は、ストリップを構成する鋼の合金元素、特に酸化に対するそれらの感受性に応じて調節することができる。
【0033】
ギ酸濃度及び許容範囲は、ラインの構造、その作動モード、ストリップの表面に酸化物を大なり小なり形成する傾向に関する、処理される鋼の性質に基づき調節することができる。
【0034】
ギ酸濃度及び許容範囲は、例えばラインにおいて起こる典型的な熱サイクルを受けるサンプルに対して行うテストにより決定することができる。
【0035】
再循環システムによりギ酸の消費を減らすことが可能になる。しかし、取り除かれる溶液は失われる。このことが、本発明が特定のアセンブリを使用して取り除かれる溶液を再生利用することを提案する理由である。
【0036】
鋼と水分子により形成される酸化物との接触で、ギ酸は下記のように反応する。
2CH2O2+FeO→(CHO2)2Fe+H2O
【0037】
取り除かれた溶液はその後、過酸化水素(本明細書では酸素飽和水とも呼ぶ)(CHO2)2Feの酸化を通じて、以下の反応を生じるよう処理されうる。
2(CHO2)2Fe+H2O2+2CH2O2→2(CHO2)3Fe+2H2O
【0038】
三ギ酸鉄(III)の形成後、第2の反応が起こり、ギ酸を再生し、水酸化鉄(III)を生じる。
(CHO2)3Fe+3H2O→3CH2O2+Fe(OH)3
【0039】
ここに提示した反応は酸化鉄に対するものであるが、同様の反応が合金元素の酸化物に対して起こる。
【0040】
本発明の特定の態様では、取り除かれる前記溶液は、過酸化水素水を用いて酸化を通じて処理され、次に、鉄(III)及び他の合金元素の水酸化物を抽出するようにろ過され、注入される前記溶液は、前記ろ過された溶液の再循環又は新たな溶液に由来する。新たな溶液は、本明細書では0.1質量%~6質量%のギ酸濃度を有する溶液を意図している。有利には、該新たな溶液は、ギ酸濃度が、0.1質量%~5.5質量%、有利には0.1質量%~5質量%、有利には0.1質量%~4.5質量%、有利には0.1質量%~4質量%、有利には0.1質量%~3.5質量%、有利には0.1質量%~3質量%、有利には0.1質量%~2.5質量%、有利には0.15質量%~2.5質量%、有利には0.2質量%~2.5質量%、有利には0.3質量%~2質量%、有利には0.35質量%~2.5質量%、有利には0.4質量%~2.5質量%、有利には0.45質量%~2.5質量%である。より有利には、該新たな溶液は、ギ酸濃度が、0.46質量%~2.4質量%、有利には0.47質量%~2.3質量%、有利には0.48質量%~2.2質量%、有利には0.49質量%~2.1質量%である。さらに有利には、該新たな溶液は、ギ酸濃度が、0.5質量%~2質量%である。
【0041】
このように、取り除かれる溶液は酸素飽和水と処理されて、ギ酸と水酸化鉄(III)の混合物を生じる。次いでこの混合物をろ過してギ酸と水酸化鉄(III)を分離することができる。
【0042】
前記処理及びろ過されたギ酸は再利用し、循環路に注入することができる。本方法の利点は、溶液中の水酸化鉄(III)の量と反応するのに必要な酸素飽和水の正確な量を使用できることである。このことは、全ての酸素飽和水が消費されるように化学反応の制御を可能にするだけでなく、とりわけ、ほぼ即時反応を得ることを可能にする。
【0043】
それゆえ、前記システムは、主として酸素飽和水を消費し、唯一の廃棄産物は、ガス放出は除き、鉄(III)の水酸化物と鋼ストリップの他の合金元素の水酸化物である。
【0044】
ギ酸溶液は完全に又は一部を再循環することができる。
【0045】
酸素飽和水を用いた酸化は、ギ酸の所望する濃度を再確立するために使用することができる。ろ過は、例えばフィルタープレスを使用して、金属酸化物の抽出を可能にする。そのため、廃棄産物は、水酸化鉄(III)と他の金属合金元素の水酸化物だけである。
【0046】
この溶液の効率、それ故にストリップの亜鉛めっきされることに対する適性は、前記溶液から溶存酸素を除去することにより改善することができる。実際、前記溶液に存在する溶存酸素はストリップの酸化の源である。この酸化の源を除去することにより、ストリップの表面状態を改善することができる。
【0047】
本発明を使用する方法の有利な特徴は、再循環ユニットから取り除かれる溶液は、噴射される前に脱酸素処理することができることである。
【0048】
有利には、噴射溶液に残る溶存酸素量は1ppm未満である。
【0049】
溶存酸素は、一方の側は窒素で掃引(being swept)され、他方の側は真空抽出で掃引されるメンブレンのシステムを使用して前記溶液から除去することができる。代替的には、溶存酸素は、窒素又は他の不活性ガスをバブリングし、それを通じて自然の脱酸素化を増幅することにより前記溶液から除去することができる。
【0050】
有利な形態では、前記方法はまた、前記溶液の前記鋼ストリップへの噴射で生じる蒸気を収集すること、該収集された蒸気を凝縮させること、及び、該凝縮された蒸気を、前記噴射される溶液が取り出される流体循環路に注入することも含む。
【0051】
蒸気の収集は、噴射される溶液の噴射ユニットの上方に配置される蒸気コレクタを使用して達成することができる。
【0052】
蒸気の凝縮に由来するガスは煙突に案内することができる。
【0053】
収集された蒸気はスクラブ塔を使用して凝縮することができる。
【0054】
本発明の第2の態様は、連続的なラインの冷却セクションを通って進む鋼ストリップを冷却するように構成されている冷却装置であって、前記の冷却方法を行うように構成された要素を備える、冷却装置である。
【0055】
本発明の前記装置の要素は、液体又はガスと液体の混合物を鋼ストリップに噴射するように構成された、噴射する溶液のための噴射ユニット、好ましくはノズルを有するチャンバを含むことができる。
【0056】
前記装置の要素は、前記ノズルの上流に、噴射する溶液から溶存酸素を抽出するように構成されたメンブレンのシステムを含むことができる。
【0057】
前記装置の要素は、ストリップの移動方向で前記チャンバの出口において、ストリップから大部分の流出液体を除去するための液体ナイフのセットを含むことができる。
【0058】
前記装置の要素は、前記液体ナイフの下流に、ストリップから液体の残りを除去するためのガスナイフのセットを含むことができる。
【0059】
前記装置の要素は、前記チャンバの下流に、必要に応じて前記液体ナイフのセット、必要に応じて全部又は一部の前記ガスナイフのセット、ノズルによって噴射される冷却液を収集するように構成された回収タンクを含むことができる。ストリップは前記チャンバから出ていくため、該回収タンクは、ストリップの通路の下に配置することができる。
【0060】
前記回収タンクは、ストリップから液体の残りを除去するように構成されたガスナイフの第2のセットを含むことができる。
【0061】
前記装置の要素は、再循環タンク及び回収タンクから再循環タンクへ液体を移動させる手段を含むことができる。
【0062】
液体を移動させる手段は、前記溶液中に存在する金属粒子を除去するように構成されたフィルタを含むことができる。
【0063】
前記装置の要素は、ポンプ及び噴射ユニットに供給するための交換器を含む供給循環路を含むことができる。
【0064】
前記供給循環路は、ポンプにより再循環タンク内に送り込まれる液体の一部を他のタンクに送ることを可能にする分流循環路を含むことができる。
【0065】
前記装置の要素は、分流循環路を作動させるための手段を含むことができる。該手段は、冷却セクションの液体を新たにして、所定の作動範囲内のその性能を維持する必要があるときに作動する。
【0066】
前記装置の要素は、前記溶液を脱酸素化するように構成されているメンブレンのシステムを含むことができる。該メンブレンは、一方の側は窒素で掃引され、他方の側は真空抽出で掃引される。
【0067】
該メンブレンのシステムは、噴射ユニットのすぐ近くの上流に配置することができる。前記ポンプは該メンブレンのシステムの上流に配置することができる。その場合、ギ酸溶液の管理循環路は、酸素源から分離される必要はない。
【0068】
前記ポンプはまた前記メンブレンのシステムと噴射システムの間に配置することができ、これにより該メンブレンの圧力を低下させることができる。
【0069】
前記メンブレンのシステムは、噴射タンクの上の再循環ループに配置するか、又は噴射タンクと再循環タンクの間に配置することができる。
【0070】
前記メンブレンのシステムがミネラル除去した水の注入とともに配置されるときは、溶液の管理循環路の残りは好ましくは酸素に対して封鎖される。
【0071】
全ての前記タンクは気密性であり、不活性雰囲気、好ましくは窒素で掃引されることができる。
【0072】
前記装置の要素は、取り除かれる溶液を酸素飽和水で処理する処理システムを含むことができる。
【0073】
前記処理システムは、フィルタ、例えばフィルタプレスを含むことができ、そこから廃棄産物はコンベアにより除去されうる。
【0074】
前記処理システムは、フィルタを出る溶液を噴射タンクに注入する手段を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
本発明は、上述した構成に加えて、添付図面に関連して述べられる組み立て体の例を参照して、以下により明確に説明されるいくつかの他の構成からなるが、これらは本発明を限定するものではない。
【0076】
【
図1】本発明の冷却セクションの組立方法の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0077】
図1は、本発明の冷却セクションの組立方法の概略図である。この組立方法は決して限定するものではなく、特徴の選択が従来技術から本発明に技術的有利性を与え又は従来技術を区別するのに十分であるならば、以下に記載する特徴、記載された又は一般的な特徴、記載された他の特徴から分離した特徴の選択を含む本発明の改変を特に含みうる。
【0078】
図1は、本発明における、鋼ストリップ1が上側から下側に垂直に移動し、液体噴射で冷却される最初の部分2を含む連続的な亜鉛めっきラインの冷却セクション2を示している。ストリップの両側に配置されたノズル3は、ストリップに冷却液を噴射する。液体循環路において、これらノズルの上流には、メンブレンのシステム4が溶液中の溶存酸素を抽出する。代替的に、窒素又は他の不活性ガスを使用するバブリングシステム31は噴射タンク13に配置され、自然な脱酸素化を増幅する。溶液中の溶存酸素量は、センサ35を使用して噴射タンク13で測定される。エリア2の出口では、ストリップの移動方向において、ストリップから大部分の流出液体を除去するための液体ナイフのセット5が置かれている。
ストリップの移動方向において、液体ナイフのセット5の後には、ストリップから残りの液体を除去するためのガスナイフのセット6が置かれている。その後、ストリップは、ノズル3と液体ナイフのセット5により噴射される冷却液を収集する回収タンク7を通過する。このタンクでは、ガスナイフの第2のセット8は、ストリップからあらゆる残りの液体を除去するように設計されている。次いで、ストリップは、ストリップ上の全ての液体の跡を加熱チューブ10が除去するエリア9を通過する。このエリア9を通過すると、ストリップは、湿式エリア2、7、9とストリップの移動方向において下流にあるエリア12との間にある雰囲気シーリング装置11を通過する。この雰囲気シーリング装置では、ガス注入及び/又は吸引は、該シーリング装置の上流及び下流のセクションの間の雰囲気分離を向上させることを可能にする。
【0079】
ノズル3と液体ナイフのセット5によりストリップに噴射される液体は回収タンク7で収集され、噴射タンク13に送られる。この目的のため、該液体は回収タンク7から再循環タンク27に送られる。このタンクにはカスケードコンパートメント32が装備されており、第1のコンパートメントで可能な限り粒子が保持される。タンク27の下に配置される電磁石33は、引出しのシステム34とともに、前記タンクから排出させることなく、金属粒子を収集し、除去することができる。次いで、前記液体は外部フィルタのセット28を通過して、ポンプ30の手段により噴射タンク13に送られる前に残りの金属粒子が除去される。外部フィルタのセット28とポンプ30は2列横に整列(ダブルアップ)されており、その結果、これらの要素は設備を停止することなく維持されることができる。
【0080】
ポンプ15と熱交換器16を含む供給循環路14は、エリア2のノズルの列3に、噴射タンク13に収容された冷却液を使用して、所望する圧力及び温度で冷却液を供給することができる。供給循環路14は、タンク13にポンプで送られた液体の一部を別のタンク18に送ることを可能にする分流循環路17を含む。代替的には、分流循環路17は再循環タンク27から供給される。分流循環路17は、冷却セクションの液体の一部を新たにして、その性能を所望する作動範囲内に維持することを必要とするときに作動される。
【0081】
蒸気コレクタ19はエリア2内にノズルの列3の上に配置される。収集される蒸気は湿式スクラバー20に送られ、そこで凝縮されてタンク18に送られる。該スクラバーを出ると、除去された蒸気を含むガスは煙突21に送られる。
【0082】
タンク18で収集された液体は処理アセンブリ22に送られ、そこでは使用されたギ酸溶液は酸素飽和水と処理されて、ギ酸と水酸化鉄(III)と鋼の合金元素の水酸化物の混合物が得られる。この混合物は、次いでフィルタプレス(図示せず)でろ過され、ギ酸と水酸化鉄(III)を分離し、後者はコンベア23で除去される。再生されたギ酸は再利用され、循環路24を使用して新たな溶液として、タンク25内に再注入される。新たなギ酸はまた、循環路26を使用してタンク25に導入される。
【0083】
タンク25に収集された液体は、その後、タンク25に配置されたポンプ(番号付さず)を用いて循環路29を使用して噴射タンク13に送ることができる。
【0084】
当然のことながら、本発明は記載された実施例だけに限定されるものではなく、本発明の範囲から逸脱することなく数多くの改変をこれらの実施例に行うことができる。特に、本発明の各種の特徴、形式、改変及び実施形態は、互いに又は相互に排他的でない限り、各種組み合わせにて、互いに組み合わせることができる。