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特許7422880旋動式破砕機並びにその制御システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】旋動式破砕機並びにその制御システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   B02C 2/06 20060101AFI20240119BHJP
   B02C 25/00 20060101ALI20240119BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240119BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
B02C2/06
B02C25/00 B
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022538031
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027232
(87)【国際公開番号】W WO2022019316
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2020123709
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503245465
【氏名又は名称】株式会社アーステクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木島 崇
(72)【発明者】
【氏名】小林 純
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寿恭
(72)【発明者】
【氏名】増田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】木本 健介
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-519325(JP,A)
【文献】特開平06-182240(JP,A)
【文献】特開平04-354547(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045042(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/225557(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 2/06
B02C 25/00
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構とを備える旋動式破砕機の制御システムであって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの状態情報に基づいて算出された故障発生の指標となる故障予兆レベルを取得し、前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、前記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増大、及び、前記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転が行われるように前記旋動式破砕機を制御する制御装置を、備え、
前記制御装置は、
nはゼロから前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超える度に1ずつ増える数であって、前記故障予兆レベルがn回目に前記第1閾値を超えるとn次延命運転を行い、
前記n次延命運転では、前記被破砕物の供給量、前記出口セットの大きさ、及び、前記偏心スリーブの回転数のうち前記延命措置と対応するものの制御目標値を変化させることによって前記故障予兆レベルを前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値まで低下させ、前記故障予兆レベルが前記第2閾値より小さくなったときの前記制御目標値を前記n次延命運転の前記制御目標値とし、前記n次延命運転において前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超えるとnと所定の最大次数Nとを比較し、nが最大次数N未満であれば(n+1)を新たなnとして新たなn次延命運転を行い、nが最大次数Nであれば前記旋動式破砕機の運転を停止するように構成されている、
旋動式破砕機の制御システム。
【請求項2】
前記状態情報を取得し、前記状態情報に基づいて前記故障予兆レベルを算出する故障予兆診断装置を、更に備える、
請求項1に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項3】
前記状態情報を検出する検出装置を、更に備える、
請求項2に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項4】
前記故障予兆診断装置は、前記複数の診断要素のうち2つ以上の前記状態情報を取得し、前記2つ以上の状態情報の各々について故障発生の指標となる故障予兆ポイントを求め、当該故障予兆ポイントを合算することにより前記故障予兆レベルを算出する、
請求項2又は3に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項5】
前記故障予兆診断装置は、前記複数の診断要素の各々と故障との関連度合及び/又は故障重度に応じて重み付けされた前記故障予兆ポイントを合算することにより前記故障予兆レベルを算出する、
請求項4記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項6】
前記旋動式破砕機は前記主軸の上部を上部軸受を介して支持するフレームを備えており、
前記複数の診断要素が、前記上部軸受の摩耗を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項7】
前記第1閾値及び前記第2閾値のうち少なくとも一方の任意の値を前記制御装置へ設定する設定装置を更に備える、
請求項1~6のいずれか一項に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項8】
複数のモードの中から選択された1つを前記制御装置へ設定する設定装置を更に備え、
前記制御装置は、前記複数のモードの各々に対応付けられた前記第2閾値が記憶されており、複数の前記第2閾値の中から設定されたモードに対応した前記第2閾値を読み出して用いる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項9】
前記複数のモードの各々について前記故障予兆レベルの時間変化を予想した予想変動曲線を表示する表示装置を、更に備える、
請求項8に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項10】
前記延命運転を行うか否かを前記制御装置へ設定する設定装置を、更に備え、
前記制御装置は、前記延命運転を行うと設定された場合にのみ前記延命運転を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項11】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構とを備える旋動式破砕機の制御システムであって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの状態情報に基づいて算出された故障発生の指標となる故障予兆レベルを取得し、前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、少なくともその直後において前記故障予兆レベルが前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値を下回るまで、前記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増大、及び、前記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転が行われるように前記旋動式破砕機を制御する制御装置と、
前記状態情報を取得し、前記状態情報に基づいて前記故障予兆レベルを算出する故障予兆診断装置とを、備え、
前記故障予兆診断装置は、前記複数の診断要素のうち2つ以上の前記状態情報を取得し、前記2つ以上の状態情報の各々について故障発生の指標となる故障予兆ポイントを求め、当該故障予兆ポイントを合算することにより前記故障予兆レベルを算出する、
旋動式破砕機の制御システム。
【請求項12】
前記故障予兆診断装置は、前記複数の診断要素の各々と故障との関連度合及び/又は故障重度に応じて重み付けされた前記故障予兆ポイントを合算することにより前記故障予兆レベルを算出する、
請求項11に記載の旋動式破砕機の制御システム。
【請求項13】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構とを備える旋動式破砕機の制御システムであって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの状態情報に基づいて算出された故障発生の指標となる故障予兆レベルを取得し、前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、少なくともその直後において前記故障予兆レベルが前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値を下回るまで、前記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増大、及び、前記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転が行われるように前記旋動式破砕機を制御する制御装置と、
前記状態情報を検出する検出装置と、
前記検出装置から前記状態情報を取得し、前記状態情報に基づいて前記故障予兆レベルを算出する故障予兆診断装置と、を備え、
前記下部軸受の摺動面の摩擦係数又は当該摩擦係数と相関する指標を第1指標とし、
=μv/F(但し、μは前記摺動面に介在する潤滑剤の粘度、vは前記摺動面の摺動速度、Fは前記摺動面の押付荷重)で示される物理量S又は当該物理量Sと相関する指標を第2指標とし、
前記検出装置は、前記第1指標を測定する少なくとも1つの第1指標測定器と、前記第2指標を測定する少なくとも1つの第2指標測定器と、前記第1指標及び前記第2指標を取得し、前記第1指標の時間変化率の正負と前記第2指標の時間変化率の正負との相関に基づいて、前記下部軸受の潤滑状態を推定する潤滑状態推定器と含む、
旋動式破砕機の制御システム。
【請求項14】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構とを備える旋動式破砕機の制御方法であって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの診断要素の状態情報を取得すること、
前記状態情報に基づいて故障発生の指標となる故障予兆レベルを算出すること、及び、
前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、前記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増大、及び、前記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転を行うこと、を含み、
前記延命運転を行うことが、
nはゼロから前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超える度に1ずつ増える数であって、前記故障予兆レベルがn回目に前記第1閾値を超えるとn次延命運転を行い、
前記n次延命運転では、前記被破砕物の供給量、前記出口セットの大きさ、及び、前記偏心スリーブの回転数のうち前記延命措置と対応するものの制御目標値を変化させることによって前記故障予兆レベルを前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値まで低下させ、前記故障予兆レベルが前記第2閾値より小さくなったときの前記制御目標値を前記n次延命運転の前記制御目標値とし、前記n次延命運転において前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超えるとnと所定の最大次数Nとを比較し、nが最大次数N未満であれば(n+1)を新たなnとして新たなn次延命運転を行い、nが最大次数Nであれば前記旋動式破砕機の運転を停止することを含む、
旋動式破砕機の制御方法。
【請求項15】
前記旋動式破砕機が前記主軸の上部を上部軸受を介して支持するフレームを更に備えており、前記複数の診断要素が前記上部軸受の摩耗を含む、
請求項14に記載の旋動式破砕機の制御方法。
【請求項16】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構とを備える旋動式破砕機の制御方法であって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち2つ以上の診断要素の態情報を検出し、
前記2つ以上の状態情報の各々について故障発生の指標となる故障予兆ポイントを求め、当該故障予兆ポイントを合算することにより故障発生の指標となる故障予兆レベルを算出し、
前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、少なくともその直後において前記故障予兆レベルが前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値を下回るまで、前記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増大、及び、前記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転を行う、
旋動式破砕機の制御方法。
【請求項17】
前記複数の診断要素の各々と故障との関連度合及び/又は故障重度に応じて重み付けされた前記故障予兆ポイントを合算することにより前記故障予兆レベルを算出する、
請求項16に記載の旋動式破砕機の制御方法。
【請求項18】
主軸と、前記主軸に固定されたマントルと、前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構とを備える旋動式破砕機の制御方法であって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの診断要素の状態情報を取得し、
前記状態情報に基づいて故障発生の指標となる故障予兆レベルを算出し、
前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、少なくともその直後において前記故障予兆レベルが前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値を下回るまで、前記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増減、及び、前記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転を行うことを含み、
前記下部軸受の潤滑状態の状態情報を検出することが、
前記下部軸受の摺動面の摩擦係数又は当該摩擦係数と相関する指標を第1指標とし、
=μv/F(但し、μは前記摺動面に介在する潤滑剤の粘度、vは前記摺動面の摺動速度、Fは前記摺動面の押付荷重)で示される物理量S又は当該物理量Sと相関する指標を第2指標とし、
前記第1指標及び前記第2指標を測定すること、及び、
前記第1指標の時間変化率の正負と前記第2指標の時間変化率の正負との相関に基づいて、前記摺動面の潤滑状態を推定することを含む、
旋動式破砕機の制御方法。
【請求項19】
主軸と、
前記主軸に固定されたマントルと、
前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、
前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、
前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、
前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、
前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構と、
請求項1~13のいずれか一項に記載の旋動式破砕機の制御システムとを備える、
旋動式破砕機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、旋動式破砕機、旋動式破砕機の制御システム、及び、旋動式破砕機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、破砕室を形成するコンケーブと主軸に固定されたマントルとを備え、主軸を上部懸垂部を支点として偏心旋回運動させて、コンケーブとマントルとの間で被破砕物を噛み込んで圧砕する旋動式破砕機が知られている。このような旋動式破砕機は、鉱山において岩石や鉱石などの破砕に利用されることがある。鉱山では、習熟労働者不足に対応するため、遠隔地での集中監視による省人化操業の検討がなされている。そのため、オートメーション化され且つメンテナンス性の高い旋動式破砕機が求められている。なお、旋動式破砕機における高いメンテナンス性とは、メンテナンスの頻度が低いこと、ダウンタイムが短いことなどが挙げられる。
【0003】
特許文献1では、破砕機の遠隔監視システムが開示されている。このシステムでは、自動運転制御盤と遠隔地にある中央監視盤とが有線又は無線で接続され、中央監視盤が自動運転制御盤の情報をモニタするとともに自動運転制御盤を遠隔操作する。ここで、破砕機の破砕力は、破砕ライナ(コンケーブとマントル)の出口間隙の大小及び投入原料の多少により変化し、この変化は破砕圧力やモータ負荷の変化となって現れる。そこで自動運転制御盤は、出口間隙検出信号と負荷検出信号とに基づいて出口間隙の変化とモータ負荷の変化を検知する。自動運転制御盤は、モータ過負荷やパッキングが生じたときには、アラームを発生し、機械本体の損傷がないよう出口間隙を自動的に拡げることにより、モータ負荷を安定させる。中央監視盤では、リアルタイムでの破砕機の運転状態を表す監視画面が表示される。監視画面には、運転データとして現在の出口セット値やモータ負荷率が表示されるとともに、運転状況に異常がある場合、異常状況の各項目に異常が消えるまで赤ランプが点灯する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-070752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旋動式破砕機では、従来からインターロック回路と称される安全装置が設けられている。この安全装置は、主に補器類(例えば、潤滑油圧装置や電気盤)から作動油の油温、油量、電流量、オイルレベル等のプロセスデータを取得し、これらのプロセスデータが設定された範囲内にある場合にのみ破砕機の運転を許容する。また、安全装置は、これらのプロセスデータが設定された範囲外にある場合には異常警報を発する。
【0006】
上記の特許文献1の中央監視盤や上記の安全装置は、破砕機に異常が発生している状態をオペレータに知らせるものである。オペレータは、異常が発生したことを受けて、直ちに運転を停止させてメンテナンスを開始し、必要に応じて部品交換を行う。しかし、破砕機の交換部品の多くは専用品であって、万一、その部品の在庫が無い場合、発注してから入手するまでに時間を要し、ダウンタイムが長期化して生産性が著しく低下するおそれがある。
【0007】
以上のような事情から、本開示はダウンタイムの短縮を達成するために、破砕機から取得したプロセスデータを分析することにより故障の予兆を評価し、故障の予兆が見られた場合は、直ちに故障に至らないように破砕機を継続して運転させる破砕機及びその制御方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る旋動式破砕機は、
主軸と、
前記主軸に固定されたマントルと、
前記マントルと対峙するように配置され、前記マントルとの間に破砕室を形成するコンケーブと、
前記破砕室へ被破砕物を供給する供給装置と、
前記主軸の下部を下部軸受を介して支持する偏心スリーブと、
前記偏心スリーブを回転駆動する駆動モータと、
前記駆動モータの出力を前記偏心スリーブへ伝達する動力伝達機構と、
制御システムとを備える。
【0009】
本開示の一態様に係る旋動式破砕機の制御システムは、上記構成の旋動式破砕機の制御システムであって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの状態情報基づいて算出された故障発生の指標となる故障予兆レベルを取得し、前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増大、及び、記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転が行われるように前記旋動式破砕機を制御する制御装置を、備える。
そして、前記制御装置は、
nはゼロから前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超える度に1ずつ増える数であって、前記故障予兆レベルがn回目に前記第1閾値を超えるとn次延命運転を行い、
前記n次延命運転では、前記被破砕物の供給量、前記出口セットの大きさ、及び、前記偏心スリーブの回転数のうち前記延命措置と対応するものの制御目標値を変化させることによって前記故障予兆レベルを前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値まで低下させ、前記故障予兆レベルが前記第2閾値より小さくなったときの前記制御目標値を前記n次延命運転の前記制御目標値とし、前記n次延命運転において前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超えるとnと所定の最大次数Nとを比較し、nが最大次数N未満であれば(n+1)を新たなnとして新たなn次延命運転を行い、nが最大次数Nであれば前記旋動式破砕機の運転を停止するように構成されているものである。
【0010】
また、本開示の一態様に係る旋動式破砕機の制御方法は、上記構成の旋動式破砕機の制御方法であって、
前記下部軸受の潤滑状態、前記動力伝達機構に含まれる噛合部の振動、及び、前記動力伝達機構に含まれる軸の軸受の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの診断要素の状態情報を取得すること
前記状態情報に基づいて故障発生の指標となる故障予兆レベルを算出すること、及び、
前記故障予兆レベルが所定の第1閾値を超えると、少なくともその直後において前記故障予兆レベルが前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値を下回るまで、前記被破砕物の供給量の減少、前記マントルと前記コンケーブとの間の出口セットの増大、及び、前記偏心スリーブの回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転を行うことを、含む
そして、前記延命運転を行うことが、
nはゼロから前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超える度に1ずつ増える数であって、前記故障予兆レベルがn回目に前記第1閾値を超えるとn次延命運転を行い、
前記n次延命運転では、前記被破砕物の供給量、前記出口セットの大きさ、及び、前記偏心スリーブの回転数のうち前記延命措置と対応するものの制御目標値を変化させることによって前記故障予兆レベルを前記第1閾値よりも小さい所定の第2閾値まで低下させ、前記故障予兆レベルが前記第2閾値より小さくなったときの前記制御目標値を前記n次延命運転の前記制御目標値とし、前記n次延命運転において前記故障予兆レベルが前記第1閾値を超えるとnと所定の最大次数Nとを比較し、nが最大次数N未満であれば(n+1)を新たなnとして新たなn次延命運転を行い、nが最大次数Nであれば前記旋動式破砕機の運転を停止することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、破砕機の故障の予兆が見られた場合に、直ちに故障に至らないように破砕機を継続して運転させる破砕機及びその制御方法を提案することができる。これにより、破砕機が故障してから回復するまでのダウンタイムの短縮に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る旋動式破砕機の概略構成を示す図である。
図2図2は、故障予兆診断に関する構成を示すブロック図である。
図3図3は、軸受間隙と故障予兆ポイントとの関係の一例を表す図表である。
図4図4は、破砕機の制御系統の構成を示すブロック図である。
図5図5は、軸受シリンダの油圧系統の構成を示す図である。
図6図6は、制御装置による破砕機の制御の流れを示す図である。
図7図7は、故障予兆レベルの変動曲線を示した図である。
図8図8は、延命運転を行った場合の故障予兆レベルの変動曲線である。
図9図9は、第1閾値及び第2閾値を変更した場合における故障予兆レベルの変動曲線を示した図である。
図10図10は、第1~3の各モードにおける故障予兆レベルの時間変化を予想した予想変動曲線を示した図である。
図11図11は、連続制御を行った場合における、故障予兆レベルの変動曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。図1は本開示の一実施形態に係る旋動式破砕機100及びその制御システム101の概略構成を示す図である。図1に示す旋動式破砕機100は、ジャイレトリクラッシャ又はコーンクラッシャであって、この旋動式破砕機101は、故障予兆診断装置40及び制御装置50を含む制御システム101によって制御される。
【0014】
旋動式破砕機100は、上部フレーム31とそれに連結された下部フレーム32から成るフレーム30を備える。フレーム30の内部空間の中央部には、鉛直方向に延びる機体中心軸線Aが規定されている。フレーム30の上部にはホッパ3が連設されている。ホッパ3へは、供給装置9であるコンベヤから被破砕物が供給される。
【0015】
フレーム30の略中央部には主軸5が配置されている。主軸5の中心軸線は、機体中心軸線Aに対して傾いている。主軸5の上端は、上部軸受17を介して上部フレーム31に支持されている。上部軸受17は、上部フレーム31の上端部から内方へ向けて突出したスパイダ18に設けられている。主軸5の下端は、主軸スラスト軸受2を介して軸受シリンダ6のラム61に支持されている。軸受シリンダ6は、シリンダチューブ62と、シリンダチューブ62内を摺動するラム61とからなる油圧シリンダである。
【0016】
主軸5の下部は、偏心スリーブ4に回転自在に挿入されている。偏心スリーブ4は、下部フレーム32に形成されたボス7に回転自在に挿入されている。偏心スリーブ4の下部は、スラスト滑り軸受23を介して下部フレーム32に支持されている。
【0017】
主軸5の上部には、マントルコア12が固定されている。マントルコア12の外表面は、截頭円錐面となっている。マントルコア12の外表面には、マントル13が取り付けられている。マントル13の外表面は、截頭円錐面となっている。マントル13の外表面は、上部フレーム31の内面に設けられたコンケーブ14の内表面と対峙している。コンケーブ14の内表面とマントル13の外表面とにより、鉛直断面が楔状をなす破砕室16が形成されている。ホッパ3へ供給された被破砕物は、自重で破砕室16へ流れ込む。
【0018】
ボス7の上方には円筒形状の仕切板24が設けられている。この仕切板24によって、偏心スリーブ4及びボス7の上方且つマントルコア12の下方に、油圧室27が形成されている。この油圧室27から、主軸5の外周面と偏心スリーブ4の内周面との間、及び、偏心スリーブ4の外周面とボス7の内周面との間に、潤滑剤が供給される。主軸5の外周面と偏心スリーブ4の内周面との間に形成されたジャーナル滑り軸受を「主軸軸受10」と称し、偏心スリーブ4の外周面とボス7の内周面との間に形成されたジャーナル滑り軸受を「スリーブ軸受11」と称する。そして、主軸軸受10及びスリーブ軸受11により形成された多重軸受を「下部軸受15」と称する。
【0019】
フレーム30の外部には、駆動モータ8が設けられている。駆動モータ8の出力軸8aから偏心スリーブ4へ動力伝達機構20を介して動力が伝達される。動力伝達機構20は、出力軸8aに設けられたプーリ22a、横軸21、横軸21に設けられたプーリ22b、プーリ22a,22bに巻き掛けられた動力伝達ベルト22c、横軸21に設けられたベベルピニオン19a、及び、偏心スリーブ4に設けられたベベルギヤ19bを含む。横軸21は下部フレーム32に横軸軸受25を介して支持されている。偏心スリーブ4が回転すると、主軸5が機体中心軸線Aに対して偏心した旋回運動、いわゆる歳差運動を行う。これにより、マントル13の外表面とコンケーブ14の内表面との距離が主軸5の旋回位置に応じて変化する。破砕室16内に落下してきた被破砕物は、コンケーブ14とマントル13との間で破砕されて、下部フレーム32の下方から破砕品として回収される。
【0020】
上記構成の破砕機100は、故障予兆診断装置40及び制御装置50を備える。故障予兆診断装置40は、運転中又は運転前の破砕機100で得られたプロセスデータに基づいて、破砕機100の故障の予兆の有無を診断する。制御装置50は、故障予兆診断装置40で故障の予兆が有ると診断された場合に、直ちに故障に至らないように破砕機100の運転を制御する。
【0021】
〔故障予兆診断装置40〕
故障予兆診断装置40は、故障予兆レベルLを算出する。故障予兆レベルLは、破砕機100の故障発生の指標となる値である。故障予兆レベルLがある値を超えると、破砕機100が故障に至る可能性が高くなる。
【0022】
故障予兆レベルLは、(1)上部軸受17の摩耗、(2)下部軸受15の潤滑状態、(3)ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの振動、及び、(4)横軸軸受25の振動の、複数の診断要素のうち少なくとも1つの故障予兆診断結果に基づいて算出される。本実施形態では、故障予兆診断装置40は、上記(1)~(4)の診断要素の各々について故障予兆ポイントα1~α4を算出し、算出した故障予兆ポイントα1~α4の合算値に基づいて故障予兆レベルLを算出する。但し、故障予兆診断装置40は、上記(1)~(4)の複数の診断要素のうち1つについて求めた故障予兆ポイントα1~α4に基づいて故障予兆レベルLを算出してもよいし、上記(1)~(4)の複数の診断要素のうち2つ以上の組み合わせについて求めた故障予兆ポイントα1~α4の合算値に基づいて故障予兆レベルLを算出してもよい。
【0023】
図2に示すように、故障予兆診断装置40には、上部軸受17の摩耗、下部軸受15の潤滑状態、動力伝達機構20に含まれる噛合部(ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19b)の振動、及び、動力伝達機構20に含まれる横軸21の横軸軸受25の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの状態情報を検出する検出装置49が接続されている。故障予兆診断装置40は、検出装置49で検出された状態情報を取得して故障予兆の診断に用いることができる。検出装置49は、複数の診断要素のうち故障予兆レベルLの算出に関与するものに応じて、上部軸受17に設けられた摩耗検出器41、下部軸受15の潤滑状態を検出する潤滑状態検出器42、ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの振動を検出する第1振動検出器43、及び、横軸軸受25の振動を検出する第2振動検出器44の少なくとも1つを含む。
【0024】
(1)上部軸受17の摩耗に関する故障予兆ポイントα1
上部軸受17が摩耗すると、軸受間隙が大きくなる。上部軸受17の摩耗が進行すると、主軸5が偏心スリーブ4に片当たりして、偏心スリーブ4に焼き付きが生じる。そこで、故障予兆診断装置40は、摩耗検出器41で検出された上部軸受17と主軸5との軸受間隙の大きさに基づいて、故障予兆ポイントα1を算出する。図3は、軸受間隙と故障予兆ポイントα1との関係の一例を表す図表である。軸受間隙(即ち、上部軸受17の摩耗量)が大きくなるに従って、故障予兆ポイントα1も大きくなる。故障予兆診断装置40は、予め記憶された軸受間隙と故障予兆ポイントα1との関係を利用して、検出された軸受間隙に基づいて故障予兆ポイントα1を算出する。
【0025】
(2)下部軸受15の潤滑状態に関する故障予兆ポイントα2
下部軸受15の潤滑状態は摺動面の摩擦係数fや潤滑膜の粘度μに基づいて評価することができる。しかし、破砕機100の下部軸受15では、運転中に摺動面の摩擦係数fや潤滑膜の粘度μなどを精密に計測することは困難である。そこで、下部軸受15における摺動面の摩擦係数fと相関する第1指標を{軸動力/シリンダ圧力}とし、下部軸受15における物理量Sと相関する第2指標を{シリンダ圧力}とし、第1指標と第2指標との正負の相関に基づいて、下部軸受15の潤滑状態の変化を推定する。ここで、物理量Sは、相対運動をする2つの物体の摺動面において、摩擦係数fと、潤滑膜の粘度μ、摺動面の摺動速度v及び摺動面の押付荷重Fの3要素を組み合わせた物理量である。物理量Sは、S=μv/F(但し、μは摺動面に介在する潤滑剤の粘度、vは摺動面の摺動速度、Fは摺動面の押付荷重)で求めることができる。第1指標は、推定対象の滑り軸受の摩擦係数fと相関する物理量であれば、仕事や、軸受損失、その他損失などを含む計測値であってもよい。第2指標は、推定対象の物理量S*と相関する指標であれば、仕事や、軸受損失、その他損失などを含む計測値であってもよい。
【0026】
本実施形態では、潤滑状態検出器42として、軸受シリンダ6のシリンダ圧力を検出する油圧検出器55と、駆動モータ8のモータ負荷を検出する負荷検出器56と、潤滑状態推定器57とを備える。負荷検出器56は、モータ電流をモータ負荷の指標とし、駆動モータ8へ供給される電流値(モータ電流)を検出する。モータ負荷の増加/減少は、軸動力の増加/減少と相関することから、第1指標の軸動力としてモータ負荷を用いることができる。油圧検出器55で検出されたシリンダ圧力と負荷検出器56で検出されたモータ負荷とに基づいて第1指標及び第2指標が得られる。第1指標と第2指標の相関は、流体潤滑下では負の相関を示すが、時間が経過するとやがて或るタイミングで正の相関に変化する。潤滑状態推定器57は、第1指標と第2指標の相関が負の相関から正の相関に変化したタイミングで、潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑へ遷移したことを推定する。潤滑状態が混合潤滑となった状態で運転を継続すると、やがて潤滑状態は境界潤滑へ遷移する。混合潤滑では、潤滑膜が流体潤滑よりも薄くなって、摺動面の凸部同士の接触が局所的に生じている。境界潤滑では、潤滑膜が混合潤滑よりも薄くなり、摺動面の凸部同士に分子レベルの潤滑膜を介した接触が生じている。
【0027】
故障予兆診断装置40は、潤滑状態検出器42で得られた下部軸受15の潤滑状態に基づいて故障予兆ポイントα2を算出する。下部軸受15の潤滑状態が、流体潤滑であるときの故障予兆ポイントα2は0であり、混合潤滑であるときの故障予兆ポイントα2は1である。但し、故障予兆ポイントα2は流体潤滑よりも混合潤滑が大きければよく、ポイント数の割り当ては本実施形態に限定されない。
【0028】
(3)ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの振動に関する故障予兆ポイントα3
ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19bの振動加速度を計測し、それを時系列に並べると振動加速度波形が得られる。破砕中に得られた振動加速度波形には、ギヤ自身の振動に加えて破砕に起因する振動が含まれるので、振動加速度波形から故障の予兆となる特徴周波数成分を抽出することが難しい。そこで、故障予兆診断装置40は、非破砕時(即ち、破砕室16に被破砕物が供給されてないとき)に、第1振動検出器43で検出されたベベルピニオン19a及びベベルギヤ19b少なくとも一方の振動加速度から振動加速度波形を生成し、これを分析して、故障の予兆の有無に基づいて故障予兆ポイントα3を算出する。例えば、故障の予兆が見つからないときの故障予兆ポイントα3は0であり、故障の予兆が見つかったときの故障予兆ポイントα3は1である。但し、故障予兆ポイントα3は故障の予兆が無いときよりも有るときのほうが大きければよく、ポイント数の割り当ては本実施形態に限定されない。
【0029】
(4)横軸軸受25の振動に関する故障予兆ポイントα4
横軸軸受25の振動加速度を計測し、それを時系列に並べると振動加速度波形が得られる。故障予兆診断装置40は、破砕機100の運転時に第2振動検出器44で検出された横軸軸受25の振動加速度から振動加速度波形を生成し、これを分析して、故障の予兆の有無に基づいて故障予兆ポイントα4を算出する。例えば、故障の予兆が見つからないときの故障予兆ポイントは0であり、故障の予兆が見つかったときの故障予兆ポイントα4は1である。但し、故障予兆ポイントα4は故障の予兆が無いときよりも有るときのほうが大きければよく、ポイント数の割り当ては本実施形態に限定されない。
【0030】
なお、上記(3)及び(4)の診断要素について故障予兆ポイントα3,α4を算出する際の振動加速度波形の分析方法は特に限定されないが、次のように例示される。例えば、故障予兆診断装置40は、振動加速度波形に対してFFT処理を行い、得られた分析周波数帯全体のスペクトルの合算値(オーバーオール値)を求め、合算値が所定の閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が所定の閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断する。また、例えば、故障予兆診断装置40は、振動加速度波形に対してFFT処理を行い、或る特定の周波数帯のスペクトルの合算値(部分オーバーオール値)を求め、合算値が所定の閾値を超える場合に故障の予兆が見つかったと判断し、合算値が所定の閾値以下である場合に故障の予兆が見つからなかったと判断する。
【0031】
故障予兆診断装置40は、算出した故障予兆ポイントα1~α4を合算して故障予兆レベルLを算出する。
L=κ1・α1+κ2・α2+κ3・α3+κ4・α4 (式1)
【0032】
複数の診断要素について算出した故障予兆ポイントα1~α4を合算する際に、個々の診断要素の故障との関連度合又は故障重度に応じて、個々の診断要素の状態情報から得られた故障予兆ポイントに重み付けをしてもよい。上記の式1では、故障予兆ポイントα1~α4のそれぞれに対応して重みκ1~κ4が付けられている。例えば、上部軸受17の摩耗が進行すると、上部軸受17のみならず破砕機100の他の構成要素の故障も引き起こすことから、上部軸受17の摩耗は故障重度が大きい。そこで、上部軸受17の摩耗について求めた故障予兆ポイントα1の重みκ1を、余の重みκ2~κ4より大きい数としてよい。例えば、重みκ1を3とし、重みκ2~κ4を1としてよい。但し、重みκ1~κ4は全て1であってもよい。
【0033】
〔制御装置50〕
図4は、破砕機100の制御系統の構成を示すブロック図である。図4に示すように、制御装置50には、表示装置58、設定装置59、故障予兆診断装置40、各種の計器52,55,56、及び、制御対象8,9a,90が接続されている。本明細書で開示する故障予兆診断装置40及び制御装置50の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせ、を含む回路又は処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見做される。本開示において、回路、ユニット、又は手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、或いは、列挙された機能を実行するようにプログラム又は構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、又はユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【0034】
制御装置50は、供給装置9による被破砕物の供給量を制御する。制御装置50は、供給装置9の駆動モータ9aと無線又は有線で接続されている。制御装置50は、供給装置9の駆動モータ9aに対し目標供給量と対応する指令信号を送信する。駆動モータ9aが、制御装置50からの指令信号に応答して動作することにより、供給装置9からホッパ3へ目標供給量の被破砕物が供給される。
【0035】
制御装置50は、コンケーブ14とマントル13の二つの破砕面の間隙の最も狭い位置における出口セット(クローズドセット)を制御する。本実施形態に係る破砕機100では、軸受シリンダ6がセット調整装置として機能する。ラム61と共に主軸スラスト軸受2が昇降すると、マントル13がコンケーブ14に対して昇降移動して出口セットの寸法が変化する。出口セットの寸法によって、粉砕物の粒度が定まる。制御装置50は、出口セットを検出するセットセンサ52と無線又は有線で接続されている。
【0036】
図5は、軸受シリンダ6の油圧系統の構成を示す図である。図5に示すように、軸受シリンダ6のシリンダチューブ62内には、ラム61の変位によって容量の変化する油圧室63が形成されており、この油圧室63に油圧回路90が接続されている。油タンク71の作動油が油圧回路90を通じて油圧室63へ給油されることにより、ラム61が上昇する。また、油圧室63の作動油が油圧回路90を通じて油タンク71へ排油されることにより、ラム61が降下する。
【0037】
油圧回路90の構成は限定されないが、以下のように例示される。油圧回路90は、油圧室63の下部と連通された連通管91、連通管91に設けられたアキュムレータ92(又は、バランスシリンダ)、連通管91と接続された給油管93、及び、給油管93と接続された排油管94を含む。連通管91には、油圧室63の作動油の圧力を検出する油圧検出器55が設けられている。給油管93には、油タンク71の作動油を油圧室63へ圧送するギヤポンプ76が設けられている。ギヤポンプ76はポンプモータ77によって駆動される。給油管93には、ノーマルクローズの開閉弁98が設けられている。排油管94には、ノーマルクローズの開閉弁99が設けられている。
【0038】
制御装置50は、セットセンサ52で検出された情報を取得し、セットセンサ52で検出される出口セットが目標出口セット値となるように、ラム61を昇降させる。制御装置50は、ラム61を昇降させるために、ポンプモータ77、開閉弁98、及び開閉弁99を動作させて、所望のラム61の位置が得られるようにシリンダ油圧を発生させる。
【0039】
制御装置50は、偏心スリーブ4の回転数を制御する。偏心スリーブ4の回転数は、駆動モータ8によって回転駆動される横軸21の回転数や主軸5の回転数と対応関係にある。図4に示すように、制御装置50は、駆動モータ8と無線又は有線で接続されている。制御装置50は、駆動モータ8に対し目標回転数と対応する指令信号を送信する。駆動モータ8が、制御装置50からの指令信号に応答して動作することにより、偏心スリーブ4の回転数が目標回転数となる。
【0040】
〔破砕機100の制御方法〕
制御装置50は、破砕機100の運転を司る。故障予兆レベルLが所定の第1閾値T1以下では、要求された砕石粒度を維持しつつ最大の生産量が得られるように、破砕機100は定常運転される。故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えると、破砕機100は延命運転される。延命運転中の破砕機100では、実際に故障が生じるまでの時間を稼ぐために、破砕負荷が軽減される。ここで「破砕負荷」とは、破砕に伴って駆動モータ8に掛かる負荷を意味する。駆動モータ8は、所定以上の過負荷が発生すると、過負荷保護回路の作動によって出力軸8aの回転がロックされ非常停止する。破砕負荷の指標として、負荷検出器56で検出されるモータ負荷が用いられてよい。
【0041】
図6は、制御装置50による破砕機100の制御の流れを示す図である。図6に示すように、制御装置50は、nをゼロにリセットし(ステップS1)、定常運転を行う(ステップS2)。制御装置50は、故障予兆診断装置40から故障予兆レベルLを取得する(ステップS3)。
【0042】
図7は、故障予兆レベルLの変動曲線を示した図である。破砕機100に故障のおそれがない場合、故障予兆レベルLは変動しつつも一定の範囲に収まっている。一方、破砕機100に何らかの異常が発生して故障に至るおそれがある場合、故障予兆レベルLは加速度的に増加して故障に至る。
【0043】
制御装置50は、取得した故障予兆レベルLと第1閾値T1とを比較する(ステップS4)。故障予兆レベルLの第1閾値T1は、経験により又はシミュレーションにより個々の機体に応じた値が設定される。制御装置50は、故障予兆レベルLが第1閾値T1以下であれば(ステップS4でNO)、破砕機100に故障の予兆が見られないとして、引き続き定常運転を継続しながら故障予兆レベルLの監視を継続する(ステップS3,S4)。
【0044】
制御装置50は、故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えたとき(ステップS4でYES)、故障の予兆があると判断する。なお、制御装置50は、故障予兆レベルLが一瞬でも第1閾値T1を超えたときに故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えたと判定してもよく、ノイズの影響を考慮して故障予兆レベルLが一定時間連続して第1閾値T1を超えたときに故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えたと判定してもよい。制御装置50は、故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えたとき(ステップS4でYES)、nが所定の最大次数Nであれば(ステップS5でYES)、破砕機100の運転を強制的に停止させ(ステップS11)、処理を終了する。nが最大次数N未満であれば(ステップS5でNO)、nを1つ増やしてn=n+1として(ステップS6)、n次延命運転を開始する(ステップS7)。ここでn=1であるとき、つまり、1次延命運転が開始される際に、オペレータに対して故障の予兆が報知される。故障の予兆を報知は、例えば、表示装置58を通じて行われる。
【0045】
オペレータは、故障の予兆の報知を受けて、メンテナンスの準備を開始する。メンテナンスの準備では、予備品や関係資材の確保、及び、メンテナンス体制の構築が行われる。メンテナンス体制の構築には、操業計画の見直し、部品交換スケジュールの立案、作業員確保などが含まれる。メンテナンスの準備の期間中、破砕機100は延命運転で操業が継続される。つまり、破砕機100の操業を停止することなく、メンテナンスの準備のための時間を稼ぐことができる。このように、故障が発覚してからメンテナンスの準備を開始する場合と比較して、ダウンタイムを削減することができる。
【0046】
延命運転では、制御装置50は定常運転時と比較して破砕負荷を軽減するために、被破砕物の供給量の減少、出口セットの増大、及び、偏心スリーブ4の回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つの措置をとる。但し、破砕負荷が軽減すると、破砕物の生産量が低減する。なお、出口セットが増大すると、砕石粒度が大きくなって再破砕が必要となるため、結果的に生産量が低減する。そこで、制御装置50は、破砕物の生産量の低下と機器の延命とをバランスしながら、破砕機100を延命運転させる。
【0047】
制御装置50は、延命運転を開始すると、新たな制御目標値を設定する(ステップS8)。具体的には、故障予兆レベルLが低下するように新たな制御目標値を設定する。新たな制御目標値は、被破砕物の供給量、シリンダ圧力(出口セット)、偏心スリーブ4の回転数のうち少なくとも1つの新たな制御目標値であってよい。換言すれば、被破砕物の供給量、シリンダ圧力(出口セット)、偏心スリーブ4の回転数のうち1つ以上においてそれまでの制御目標値が維持されてよい。
【0048】
例えば、制御装置50は、被破砕物の供給量が所定の調整量だけ減少するように、被破砕物の供給量の新たな制御目標値を設定する。そして、制御装置50は、被破砕物の供給量が新たな制御目標値となるように、供給装置9の駆動モータ9aを動作させる。
【0049】
例えば、制御装置50は、出口セットの寸法が所定の調整量だけ増加するように、シリンダ圧力の新たな制御目標値を設定する。そして、制御装置50は、軸受シリンダ6のシリンダ圧力が新たな制御目標値となるように油圧回路90を動作させる。
【0050】
例えば、制御装置50は、偏心スリーブ4の回転数が所定の調整量だけ増加するように、偏心スリーブ4の回転数の新たな制御目標値を設定する。そして、制御装置50は、偏心スリーブ4の回転数が新たな制御目標値となるように、駆動モータ8を動作させる。
【0051】
破砕機100で延命運転が行われると、故障予兆レベルLは一時的に減少する。制御装置50は、破砕機100の延命運転中も故障予兆レベルLの監視を継続する。制御装置50は、故障予兆診断装置40から故障予兆レベルLを取得し(ステップS9)、故障予兆レベルLと第2閾値T2とを比較する(ステップS10)。第2閾値T2は、故障予兆レベルLの初期値より大きく且つ第1閾値T1より小さな任意の値である。故障予兆レベルLの第2閾値T2は、経験により又はシミュレーションにより個々の機体に応じた値が設定される。制御装置50は、故障予兆レベルLが第2閾値T2以上であれば(ステップS10でNO)、ステップSに戻って、制御目標値の再設定を含むステップS8~10が繰り返される。
【0052】
制御装置50は、故障予兆レベルLが第2閾値T2よりも小さくなったとき(ステップS10でYES)、破砕機100が故障するリスクは低下したとして、現在の制御目標値を維持して1次延命運転を継続する。つまり、制御装置50は、故障予兆レベルLが第1閾値T1を上回ってから、故障予兆レベルLが小さくなるように制御目標値を設定することを繰り返す。そして、制御装置50は、故障予兆レベルLが第2閾値T2よりも小さくなれば、その時の制御目標値をn次延命運転の制御目標値として、ステップS3に戻って破砕機100の運転を継続する。
【0053】
図8は、上述の運転制御を行った場合の故障予兆レベルの変動曲線である。なお、図8~11では、故障予兆レベルLは滑らかな曲線で近似的に示されている。なお、各図に示す故障予兆レベルの変動曲線はあくまでも一例である。
【0054】
図8の破線で示すように、定常運転中に故障予兆レベルLが第1閾値T1を上回ったとき、即ち、破砕機100に故障の予兆が発生したときに何ら対策をとらなければ、故障予兆レベルLが加速度的に大きくなり、破砕機100は短期間のうちに故障に至る。これに対し、故障予兆レベルLが第1閾値T1を上回ったことをトリガとして定常運転から1次延命運転に切り替わることにより、故障予兆レベルLは第2閾値T2よりも一旦小さくなる。しかしながら、1次延命運転が継続されるうちに、故障予兆レベルLが再び第1閾値T1を超える場合がある(ステップS4)。この場合には、2次延命運転を開始し(ステップS5~S7)、故障予兆レベルLが第2閾値T2よりも小さくなるまで制御目標値の再設定を繰り返し(ステップS8~S10)、故障予兆レベルLは第2閾値T2よりも一旦小さくなった制御目標値で2次延命運転を継続する。なお、通常は、制御目標値を更新する回数が増えるに従って、破砕物の生産量は減少する。例えば、故障予兆レベルLが初めて第1閾値T1を超えてから2回目に超えるまでの1次延命運転時よりも、2回目に閾値を超えてから3回目に超えるまでの2次延命運転時の方が破砕物の生産量が小さくなる。そこで、延命運転の最大次数Nを1以上の適切な自然数に設定することで、生産量が過度に減少した状態で運転が継続されることが防止される。また、最大次数Nが1以上であることで、少なくとも1サイクルの延命運転が行われるので、延命運転を行わずに定常運転を継続する場合と比較して故障までの時間稼ぎをすることができる。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態に係る破砕機100は、
主軸5と、
主軸5に固定されたマントル13と、
マントル13と対峙するように配置され、マントル13との間に破砕室16を形成するコンケーブ14と、
破砕室16へ被破砕物を供給する供給装置9と、
主軸5の下部を下部軸受15を介して支持する偏心スリーブ4と、
偏心スリーブ4を回転駆動する駆動モータ8と、
駆動モータ8の出力を偏心スリーブ4へ伝達する動力伝達機構20と、
下部軸受15の潤滑状態、動力伝達機構20に含まれる噛合部(ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19b)の振動、及び、動力伝達機構20に含まれる軸(横軸21)の軸受(横軸軸受25)の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの状態情報を検出する検出装置49(摩耗検出器41、潤滑状態検出器42、第1振動検出器43、第2振動検出器44)と、
状態情報を取得し、取得した状態情報に基づいて故障発生の指標となる故障予兆レベルLを算出する故障予兆診断装置40と、
故障予兆レベルLを取得し、故障予兆レベルLが所定の第1閾値T1を超えると、少なくともその直後において故障予兆レベルLが第1閾値T1よりも小さい所定の第2閾値T2を下回るまで、供給装置9による被破砕物の供給量の減少、及び、駆動モータ8による偏心スリーブ4の回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転が行われるように供給装置9、及び駆動モータ8を制御する制御装置50とを、備えることを特徴としている。
【0056】
本実施形態に係る破砕機100は油圧式の旋動式破砕機であって、当該破砕機100は主軸5の上部を上部軸受17を介して支持するフレーム30を更に備える。そこで、上記の複数の診断要素は上部軸受17の摩耗を更に含んでいる。
【0057】
また、本実施形態に係る破砕機100は油圧式の旋動式破砕機であって、当該破砕機100はマントル13とコンケーブ14との間の出口セットを調整するセット調整装置(軸受シリンダ6)を更に備え、制御装置50はセット調整装置(軸受シリンダ6)を制御可能に構成されている。そこで、上記の複数の延命措置はセット調整装置(軸受シリンダ6)による出口セットの増大を更に含んでいる。
【0058】
同様に、本実施形態に係る破砕機100の制御方法は、
主軸5と、主軸5に固定されたマントル13と、マントル13と対峙するように配置され、マントル13との間に破砕室16を形成するコンケーブ14と、破砕室16へ被破砕物を供給する供給装置9と、主軸5の下部を下部軸受15を介して支持する偏心スリーブ4と、偏心スリーブ4を回転駆動する駆動モータ8と、駆動モータ8の出力を偏心スリーブ4へ伝達する動力伝達機構20とを備える破砕機100の制御方法であって、
上部軸受17の摩耗、下部軸受15の潤滑状態、動力伝達機構20に含まれる噛合部(ベベルピニオン19a及びベベルギヤ19b)の振動、及び、動力伝達機構に含まれる軸の軸受(横軸軸受25)の振動を含む複数の診断要素のうち少なくとも1つの状態情報を検出し、
状態情報に基づいて故障発生の指標となる故障予兆レベルLを算出し、
故障予兆レベルLが所定の第1閾値T1を超えると、少なくともその直後において故障予兆レベルLが第1閾値T1よりも小さい所定の第2閾値T2を下回るまで、供給装置9による被破砕物の供給量の減少、及び、駆動モータ8による偏心スリーブ4の回転数の増減を含む複数の延命措置のうち少なくとも1つを伴う延命運転を行うことを特徴としている。
【0059】
本実施形態に係る破砕機100は油圧式の旋動式破砕機であって、上記の複数の診断要素は上部軸受17の摩耗を更に含んでいる。
【0060】
また、本実施形態に係る破砕機100は油圧式の旋動式破砕機であって、上記の複数の延命措置はセット調整装置(軸受シリンダ6)による出口セットの増大を更に含んでいる。
【0061】
上記構成の破砕機100及びその制御方法よれば、故障予兆レベルLは第1閾値T1を超えると加速度的に大きくなって故障に至るところ、故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えたときには、少なくともその直後において第2閾値T2よりも故障予兆レベルLが小さくなるまで複数の延命措置のうち少なくとも1つが行われる。これにより、破砕機100の故障の予兆が検知された後、直ちに故障に至ることを回避し、運転を継続しながら故障に至るまでの時間を稼ぐことができる。よって、メンテナンスの準備期間も破砕機100の運転を継続することができるので、破砕機100のダウンタイムを短縮することができる。
【0062】
また、本実施形態に係る破砕機100において、検出装置49は、複数の診断要素のうち2つ以上の状態情報を検出し、故障予兆診断装置40は、2つ以上の状態情報の各々について故障発生の指標となる故障予兆ポイントを求め、当該故障予兆ポイントを合算することにより故障予兆レベルLを算出するように構成されていてよい。同様に、本実施形態に係る破砕機100の制御方法において、複数の診断要素のうち2つ以上の状態情報を検出し、2つ以上の状態情報の各々について故障発生の指標となる故障予兆ポイントを求め、当該故障予兆ポイントを合算することにより前記故障予兆レベルLを算出してよい。
【0063】
このように複数の異なる種類の診断要素の診断結果を組み合わせることにより、より正確な故障予兆レベルを算出することができる。また、診断要素の特定の組み合わせによれば、故障の予兆が見られる箇所を特定することも可能である。
【0064】
更に、上記の破砕機100において、故障予兆診断装置40は、複数の診断要素の各々と故障との関連度合及び/又は故障重度に応じて重み付けされた故障予兆ポイントを合算することにより故障予兆レベルLを算出するように構成されていてよい。同様に、上記の破砕機100の制御方法において、複数の記診断要素の各々と故障との関連度合及び/又は故障重度に応じて重み付けされた故障予兆ポイントを合算することにより故障予兆レベルLを算出してよい。
【0065】
このように、診断要素の故障予兆ポイントに重み付けがなされることにより、実際の運転状況や機体個体差に応じた故障予兆レベルの計算が可能となる。
【0066】
また、本実施形態に係る破砕機100は、下部軸受15の潤滑状態を検出する検出装置49としての潤滑状態検出器42を備える。潤滑状態検出器42は、前記下部軸受の摺動面の摩擦係数又は当該摩擦係数と相関する指標を第1指標とし、S=μv/Fで示される物理量S又は当該物理量Sと相関する指標を第2指標とし、第1指標を測定する少なくとも1つの第1指標測定器と、第2指標を測定する少なくとも1つの第2指標測定器と、下部軸受15の潤滑状態を推定する潤滑状態推定器57を含む。潤滑状態推定器57は、第1指標及び第2指標を取得し、第1指標の時間変化率の正負と第2指標の時間変化率の正負との相関に基づいて、下部軸受15の潤滑状態を推定する。上記実施形態において、第1指標として{軸動力/シリンダ圧力}を採用し、駆動モータ8のモータ負荷を検出する負荷検出器56及びシリンダ圧力を検出する油圧検出器55を第1指標測定器としている。また、上記実施形態において、第2指標とし{シリンダ圧力}を採用し、油圧検出器55を第2指標測定器としている。
【0067】
このように、本実施例に係る破砕機100では、運転中に測定が容易なプロセスデータを利用して第1指標、及び第2指標が得られる。よって、運転中に下部軸受15の潤滑状態を推定することができ、これを用いて故障予兆レベルを求めることができる。
【0068】
<第1変形例>
次に、破砕機100の第1変形例について説明する。第1変形例に係る破砕機100は、オペレータが設定装置59を用いて第1閾値T1及び第2閾値T2のうち少なくとも一方の任意の値を制御装置50へ設定することができる。
【0069】
図9は、第1閾値T1及び第2閾値T2を変更した場合における故障予兆レベルの変動曲線を示した図である。例えば、延命運転を行うと通常は破砕物の生産量が低下することから、オペレータは破砕負荷の多少の増加が許容されると判断した場合には、生産量の維持のために、図9に示すように1次延命運転時において定常運転時よりも第1閾値T1及び
第2閾値T2を大きくすることが考えられる。
【0070】
1次延命運転時において第1閾値T1を大きくすれば、2次延命運転への移行時期を遅
らせることができるため、2次延命運転よりも生産量の多い1次延命運転時の制御目標値が維持される期間を長くすることができる。また、1次延命運転時に第2閾値T2を大き
くすれば、2次延命運転時に入ったときに、1次延命運転のときよりも生産量の多い制御目標値に設定される。
【0071】
このように、第1変形例に係る破砕機100は、第1閾値T1及び第2閾値T2のうち少なくとも一方の任意の値を制御装置50へ設定する設定装置59を更に備える。これにより、実施形態に係る破砕機100の作用効果に加えて、実際の破砕機100の状況に応じて第1閾値T1及び第2閾値T2を適切に設定することができるという利点がある。
【0072】
<第2変形例>
次に、破砕機100の第2変形例について説明する。第2変形例では、オペレータが設定装置59を用いて複数のモードのなかから選択された一つが制御装置50に設定される。制御装置50は、モードごとの第2閾値T2が記憶されており、選択されたモードに対応した第2閾値T2を設定する。
【0073】
図10は、第1~3の各モードにおける故障予兆レベルLの時間変化を予想した予想変動曲線を示した図である。第1モードには第1モード第2閾値T2が対応付けられ、第2モードには第2モード第2閾値T2が対応付けられ、第モードには第3モード第2閾値T2が対応付けられて、各第2閾値T2が制御装置50に記憶されている。第1モード第2閾値T2、第2モード第2閾値T2、及び第3モード第2閾値T2はそれぞれ異なる値である。具体的には、第1モード、第2モード、及び、第3モードの順に第2閾値T2の値が大きい。但し、複数のモードの数は本実施例に限定されない。
【0074】
本変形例では、オペレータは、予め、或いは、故障の予兆が見られたときに、設定装置59を用いて複数のモードのなかから選択した1つのモードを制御装置50へ設定する。制御装置50は、故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えたとき、設定されたモードに対応した第2閾値T2を読み出して利用する。
【0075】
モードを選択する際には、制御装置50は、表示装置58に、図10で図示されるような、故障予兆レベルLの予想変動曲線をモードごとに表示させる。つまり、表示装置58に全てのモードの予想変動曲線を表示する。この構成によれば、オペレータは予想変動曲線を参考にしてモードを選択することができるため、適切なモードを容易に選択することができる。なお、各変動曲線は、モードを選択する際に故障予兆レベルの変動をイメージできる程度であればよく、故障予兆レベルの予想変動曲線を厳密に算出して表示しなくてもよい。また、表示装置58は、故障予兆レベルの予想変動曲線を表示する際に、その時点に至るまでの故障予兆レベルの変動曲線又はこれに対応する図を併せて表示してもよい。更に、制御装置50は、設定されたモードを表示装置58に表示させてもよい。
【0076】
以上の通り、第2変形例に係る破砕機100は、複数のモードの中から選択された1つを制御装置50へ設定する設定装置59を備える。そして、制御装置50は、複数のモードの各々に対応付けられた第2閾値T2が記憶されており、複数の第2閾値T2の中から設定されたモードに対応した第2閾値T2を読み出して用いる。第2変形例に係る破砕機100は、複数のモードの各々について故障予兆レベルLの時間変化を予想した予想変動曲線を表示する表示装置58を、備えていてよい。
【0077】
これにより、本変形例に係る破砕機100では、上記実施形態に係る破砕機100の作用効果に加えて、オペレータが実際の運転状況に応じて、所望の故障予兆レベルLの予想変動曲線が得られるようなモードを選択することができるという利点がある。
【0078】
<第3変形例>
次に、破砕機100の第3変形例について説明する。第3変形例では、制御装置50は、故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えた後、故障予兆レベルLが常に第2閾値T2よりも小さくなるように、被破砕物の供給量、出口セット、及び、偏心スリーブ4の回転数の少なくとも1つの制御目標値を刻々と変化させる連続制御を行う。連続制御には、いわゆるフィードバック制御の他、フィードフォワード制御も含まれる。
【0079】
このように第3変形例に係る破砕機100では、制御装置50は、延命運転において故障予兆レベルLが第2閾値T2よりも小さくなった後、故障予兆レベルLが第2閾値T2よりも小さい状態が維持されるように被破砕物の供給量、出口セット、及び、偏心スリーブ4の回転数の少なくとも1つの制御目標値を刻々と変化させる連続制御を行う。
【0080】
図11は、上記の連続制御を行った場合における、故障予兆レベルLの変動曲線を示した図である。図11に示すように、本変形例によれば、故障予兆レベルLが第1閾値T1を超えた後、第2閾値T2よりも小さい状態を維持することができるため、破砕機100の故障発生をより確実に遅延させることができる。
【0081】
以上に本開示の好適な実施の形態(及び変形例)を説明したが、本開示の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本開示に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0082】
上述した変形例は組み合わせることができる。例えば、閾値、基準値、連続制御の有無のいずれも任意に設定又は選択できるようにしてもよい。
【0083】
また、上述した延命運転を行うか否かをオペレータが任意に選択できるようにしてもよい。延命運転を行うか否かは設定装置59を用いて制御装置50へ設定することができる。この構成によれば、実際の破砕機100の運転状況やメンテナンスの準備の進行度合いに応じて延命運転を行うか否かを選択できるため、より柔軟な運用が可能となる。
【0084】
本開示の旋動式破砕機100の制御システム101の構成要素は一箇所に集約して配置されている必要はない。例えば、制御システム101のうち制御装置50及び検出装置49は旋動式破砕機100に付帯して設けられ、故障予兆診断装置40は旋動式破砕機100から遠隔地に設けられていてもよい。この場合、検出装置49で検出された状態情報が通信ネットワークを通じて故障予兆診断装置40へ伝達され、故障予兆診断装置40は算出した故障予兆レベルを通信ネットワークを通じて制御装置50へ伝達する。また、故障予兆診断装置40がクラウドサービスにより提供されてもよい。この場合、特定のコンピュータからアクセスを受けたクラウドサーバが所定のプログラムを実行することによって故障予兆診断装置40として機能し、提供された状態情報に基づいて算出した故障予兆診断結果をコンピュータへ返してもよい。また、算出された故障予兆診断結果はクラウドサーバに特定のコンピュータからアクセス可能に格納されてもよい。
【0085】
また、上記の破砕機100は、軸受シリンダ6のシリンダ圧によって出口セットが調整される油圧式の破砕機100であるが、破砕機100は機械式の破砕機100であってもよい。機械式の旋動式破砕機100では、マントル13に対してコンケーブ14を昇降させる昇降装置(例えば、油圧シリンダ)を備える。この機械式の旋動式破砕機では、昇降装置出口セットを調整するセット調整装置として機能する。
【符号の説明】
【0086】
4 :偏心スリーブ
5 :主軸
6 :軸受シリンダ(セット調整装置の一例)
8 :駆動モータ
9 :供給装置
9a :駆動モータ
10 :主軸軸受
11 :スリーブ軸受
12 :マントルコア
13 :マントル
14 :コンケーブ
15 :下部軸受
16 :破砕室
17 :上部軸受
18 :スパイダ
19a :ベベルピニオン(動力伝達機構に含まれる噛合部の一例)
19b :ベベルギヤ(動力伝達機構に含まれる噛合部の一例)
20 :動力伝達機構
25 :横軸軸受(動力伝達機構に含まれる軸を受ける軸受の一例)
30 :フレーム
31 :上部フレーム
32 :下部フレーム
40 :故障予兆診断装置
41 :摩耗検出器(検出装置の一例)
42 :潤滑状態検出器(検出装置の一例)
43 :第1振動検出器(検出装置の一例)
44 :第2振動検出器(検出装置の一例)
49 :検出装置
50 :制御装置
55 :油圧検出器(検出装置の一例)
56 :負荷検出器(検出装置の一例)
57 :潤滑状態推定器(検出装置の一例)
58 :表示装置
59 :設定装置
100 :旋動式破砕機
101 :制御システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11