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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240119BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 129/26 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 129/28 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 129/48 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 133/44 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 129/50 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20240119BHJP
   C10M 105/42 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240119BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240119BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M107/34
C10M105/32
C10M135/10
C10M129/26
C10M129/28
C10M129/48
C10M129/54
C10M137/04
C10M133/12
C10M129/10
C10M137/02
C10M135/18
C10M133/44
C10M135/36
C10M129/50
C10M105/38
C10M105/42
C10N10:02
C10N10:04
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:00 G
C10N40:32
C10N30:00 Z
C10N30:06
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022545833
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2021060353
(87)【国際公開番号】W WO2021219456
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】102020111403.6
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509350664
【氏名又は名称】クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen SE & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Geisenhausenerstrasse 7, D-81379 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゼーマイアー
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ヴィットマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン エアハート
(72)【発明者】
【氏名】マリア フロッコヴィアク
(72)【発明者】
【氏名】バラスブラマニアム ヴェングドゥサミー
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04302343(US,A)
【文献】中国特許出願公開第103756764(CN,A)
【文献】特表2017-527664(JP,A)
【文献】特開平06-330062(JP,A)
【文献】特開平07-305079(JP,A)
【文献】特開昭62-201995(JP,A)
【文献】特表2017-528556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤組成物であって、
ポリイソブチレンオキシド-ポリイソプロピレンオキシドコポリマー、ポリイソブチレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマーおよびポリイソブチレンオキシド-ポリイソプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマー、ならびにそれらの組合せから選択される、油溶性ポリアルキレングリコール、
- 天然エステルおよび合成エステル、ならびにそれらの組合せの群から選択される、エステル化合物、および
- 酸化防止剤と腐食防止剤とを含む、添加剤混合物
を含有し、
前記腐食防止剤が、スルホン酸、カルボン酸、ナフトエ酸、ナフテン酸、安息香酸およびリン酸の中性のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、ならびにそれらの誘導体およびそれらの組合せから選択されている、前記潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記の中性のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が、Na塩、Ca塩、K塩およびMg塩である、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記腐食防止剤が、中性のカルシウムスルホネートおよびそれらの誘導体から選択されている、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ホスフィットおよび硫黄含有化合物、ならびにそれらの組合せから選択されている、請求項1から3までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、チオカルバメートおよびジチオカルバメート、ならびにそれらの組合せから選択されている、請求項1から4までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記酸化防止剤が、アミン系酸化防止剤から選択されている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記添加剤混合物がさらに、トリアゾール、メルカプトチアジアゾールおよびサリチレート、およびそれらの組合せから選択されている、非鉄重金属不活性化剤を含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記非鉄重金属不活性化剤が、トリアゾールから選択されている、請求項7に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
前記エステル化合物が、
ノマー型、オリゴマー型および/または重合型の、天然グリセリドエステルから、および
ポリオールエステル、ポリオール複合エステル、ダイマー酸からの複合エステル、ダイマー酸エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、リン酸エステルおよびトリメリト酸エステルおよびピロメリト酸エステルおよびエストリドの群からの合成エステル、ならびに
それらの組合せ
から選択されている、請求項1から8までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
前記エステル化合物が、ポリオールエステルおよびポリオール複合エステル、ならびにそれらの組合せから選択されている、請求項1から9までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
前記エステル化合物が、
鎖長C4~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でエステル化されている、ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、およびペンタエリトリトールエステル、および
任意の混合物での、鎖長C4~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸で、および鎖長C4~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のジカルボン酸で全エステル化または部分エステル化されている、ネオペンチルグリコール複合エステル、トリメチロールプロパン複合エステル、およびペンタエリトリトール複合エステル、ならびに
それらの組合せ
から選択されている、請求項1から10までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
前記ネオペンチルグリコールエステル、前記トリメチロールプロパンエステルおよび前記ペンタエリトリトールエステルが、それぞれ、鎖長C18~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でエステル化されており、かつ
前記ネオペンチルグリコール複合エステル、前記トリメチロールプロパン複合エステルおよび前記ペンタエリトリトール複合エステルが、それぞれ、任意の混合物での、鎖長C18~C36の飽和および/またはモノ不飽和またはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸で、および鎖長C4~C36の飽和および/またはモノ不飽和もしくはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のジカルボン酸で全エステル化または部分エステル化されている、請求項11に記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
前記油溶性ポリアルキレングリコールコポリマーが、アルコール開始コポリマーである、請求項1から12までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
前記油溶性ポリアルキレングリコールが、500g/mol以上~1400g/mol以下の分子量Mを有する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
前記エステル化合物が、前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~85質量%の量で含まれている、請求項1から14までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
前記添加剤混合物が、前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~20質量%の量で含まれている、請求項1から15までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項17】
前記添加剤混合物がさらに、摩耗防止剤、摩擦減少剤、極圧添加剤、イオン錯化剤、固体潤滑剤、分散剤、流動点改善剤および粘度向上剤、UV安定剤、乳化剤、呈色指示薬、すべり向上剤および消泡剤から選択される、1種以上の添加剤を含む、請求項1から16までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項18】
海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるギヤ油、転がり軸受油、作動油またはすべり軸受油としてならびに水および/または水性媒体と接触する陸上の機械および機械要素における、請求項1から17までのいずれか1項に記載の潤滑剤組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性潤滑剤組成物、ならびに海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素における、ギヤ油、転がり軸受油、作動油およびすべり軸受油としてのそれらの使用に関する。
【0002】
海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるギヤ油、転がり軸受油、作動油およびすべり軸受油としての潤滑剤もしくは潤滑剤組成物の使用、すなわち、前記潤滑剤もしくは潤滑剤組成物が通常、油の水に対する交線における水線を下回って使用される使用の場合に、海もしくは水域の環境が、例えば漏れにより引き起こされる、前記潤滑剤の流出により汚染されるというリスクがある。これらの使用の際に水側を可能な限り良好に封止することが試みられるにもかかわらず、潤滑剤損失は日常的である。陸上の機械および機械要素において、殊に鉱業において、風力発電装置でならびに農業機械で使用される潤滑剤も、例えば雨により水と接触する可能性がある。そのうえ、ここでもしばしば漏れが生じるので、環境の汚染および化学物質による土壌の負荷となる可能性がある。
【0003】
近年、環境の保護、殊に海の保護の重要性もますます増している。これらの根拠となるのは、海洋気候に懸念のない潤滑剤の使用を要求する、海環境の汚染から保護するための多様な新しい立法である。こうして、水線を下回って使用される潤滑剤には、例えば、米国環境保護庁のVessel General Permit (VGP)は、生分解性および水生毒性に関する高い要件を満たさなければならない、いわゆる環境対応型潤滑油(EAL)の使用を要求する。
【0004】
そのため、基油構成成分ならびに潤滑剤用の添加剤の選択と、使用できる量とが、制限されている。そのため、慣用のEALは、従来のような鉱油ベースの代わりに、天然および合成エステルベースで製造される。しかしながら、鉱油をベースとする潤滑剤と比較して、EALの使用の際に、しばしばシール材の損傷となる。
【0005】
海洋分野においておよび陸水の分野において、ならびに陸上の機械および機械要素において、通例、ラジアルシャフトシールリングが使用され、これらは通常、エラストマー材料、例えばFKM(フッ素ゴム)、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、HNBR(水素化ニトリルブタジエンゴム)、ACM/AEM(アクリレートエラストマー/エチレン-アクリル酸エラストマー)およびポリウレタンから製造されており、すべり軸受、例えば船尾管、ギヤ、例えばアジポッド(Azipod)およびリニアガイドを、例えば方向舵安定器で、封止する。最終的に漏れが生じる、封止材の損傷は、殊に、潤滑剤およびシール材の不適合性により引き起こされる。したがって、前記潤滑剤についての(1種以上の)基油構成成分の選択ならびに慎重に調整される添加剤選択は、良好な生体適合性に加えて、前記潤滑剤の材料適合性も保証するため、ひいてはシール材の損傷を防止するために本質的である。
【0006】
国際公開第2012/173878号(WO 2012/173878 A1)には、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドをベースとする水溶性ポリアルキレングリコールを含有する、エステルベースの潤滑剤組成物が記載されている。
【0007】
国際公開第2015/139209号(WO 2015/139209 A1)には、アルコール開始プロピレンオキシドホモポリマーと、油溶性ポリアルキレングリコールとを含有し、かつエステルをベースとする基油を必要としない、潤滑剤が記載されている。
【0008】
欧州特許出願公開第2837674号明細書(EP 2 837 674 A1)には、ポリグリコールベースの合成油とエステルベースの合成油との基油混合物を含有していてよく、そのうえ、非対称なアミンをベースとする酸化防止剤を含有する、潤滑油組成物が記載されている。
【0009】
しかしながら、化学物質による海、陸水および土壌の負荷を低下させ、かつシール材、殊にエラストマー材料に対する高い適合性を有し、かつ、例えばすべり軸受、ギヤ、リニアガイド、空気圧要素、装備品、転がり軸受、チェーン、ケーブル、ばねならびにねじ等の潤滑への通常の要件をそのうえ満たす、生態学的に懸念のない潤滑剤への需要が依然としてある。
【0010】
したがって、本発明の課題は、シール材、殊にエラストマーに対する改善された適合性を示し、良好な潤滑特性および良好なすべり性能を有し、生体適合性、すなわち良好な生物学的分解性および最小限の水生毒性であり、かつ海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油、作動油、およびすべり軸受油としての使用に適している、潤滑剤もしくは潤滑剤組成物を提供することであった。
【0011】
本発明の意味で、潤滑剤組成物、潤滑剤、潤滑油および配合物の用語は同義で使用される。
【0012】
前記の課題のうち1つ以上が、油溶性ポリアルキレングリコールと、天然エステルおよび合成エステルならびにそれらの組合せの群から選択されるエステル化合物と、酸化防止剤および腐食防止剤を含む添加剤混合物とを含有する、潤滑剤組成物によって解決することができ、ここで、前記腐食防止剤は、スルホン酸、カルボン酸、ナフトエ酸、ナフテン酸、安息香酸およびリン酸の中性のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、ならびにそれらの誘導体およびそれらの組合せから選択されている。
【0013】
驚くべきことに、以下に定義されるように構成成分として油溶性ポリアルキレングリコールと、エステル化合物と、添加剤混合物とを含有し、ここで、前記添加剤混合物が、酸化防止剤および中性の腐食防止剤を含む、本発明による潤滑剤組成物の場合に、前記構成成分が相乗的に相互作用することが見出された。そのため、本発明による潤滑剤組成物は、驚くべきことに、シール材、殊にエラストマー材料、例えばFKM、NBR、HNBR、ACM/AEM、またはポリウレタンに対する改善された適合性の利点を示す。そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、良好な潤滑特性を有し、そのうえ一般に良好な生分解性および/または水生毒性に優れているので、この潤滑剤組成物は、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油、作動油またはすべり軸受油としての使用に際立って適している。
【0014】
本発明によれば、前記潤滑剤組成物は、基油構成成分として、油溶性ポリアルキレングリコール(oil soluble polyalkylene glycol, OSP)を含有し、ここで、本発明の範囲内で、2種以上の異なる油溶性ポリアルキレングリコールからなる混合物も併せて含まれている。
【0015】
本発明の範囲内で、ポリアルキレングリコールは、ポリアルファオレフィン6(例えばSynfluid(登録商標)PAO 6 cStまたはDurasyn(登録商標)166 ポリアルファオレフィンとして購入により入手可能)と、それぞれ10:90、50:50ならびに90:10の質量比で混合し、引き続き前記混合物を室温で24時間放置した後に、前記の3つの混合物のうち少なくとも2つで相分離が生じない場合に、「油溶性」である。
【0016】
本発明の好ましい実施態様において、前記油溶性ポリアルキレングリコールは、ポリブチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドコポリマー、ポリブチレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマー、およびポリブチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマー、ならびにそれらの組合せから選択されているコポリマーであり、ここで、ポリブチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドコポリマーが特に好ましい。さらに、前記コポリマーがアルコール開始されている場合、すなわち、以下により詳細に記載されているように、その製造の際にアルコールが重合反応の開始剤として使用された場合が好ましい。
【0017】
特に好ましくは、前記油溶性ポリアルキレングリコールは、ポリイソブチレンオキシド-ポリイソプロピレンオキシドコポリマー、ポリイソブチレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマーおよびポリイソブチレンオキシド-ポリイソプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマー、ならびにそれらの組合せから選択されているコポリマーであり、ここで、ポリイソブチレンオキシド-ポリイソプロピレンオキシドコポリマーが極めて特に好ましい。
【0018】
この際に、前記のコポリマー中で、ブチレンオキシドもしくはイソブチレンオキシドに由来する(重合された)モノマー単位(すなわち、ポリブチレンオキシド(BO)単位もしくはポリイソブチレンオキシド(iBO)単位)の割合が、前記コポリマー中の全てのモノマー単位の全質量を基準として、40質量パーセント(質量%)以上、より好ましくは50質量%以上、例えば60質量%以上、または65質量%以上、および好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である場合が殊に好ましい。極めて特に好ましいのは、前記コポリマー中のBO(もしくはiBO)およびPO(もしくはiPO)単位の全質量を基準として、ブチレンオキシドもしくはイソブチレンオキシドに由来する(重合された)モノマー単位(すなわち、BO単位もしくはiBO単位)50質量%およびプロピレンオキシドに由来する(重合された)モノマー単位(すなわち、ポリプロピレンオキシド(PO)単位もしくはポリイソプロピレンオキシド(iPO)単位)50質量%を有するポリアルキレングリコールコポリマーである。これは、BO(もしくはiBO)およびPO(もしくはiPO)単位は、極めて特に好ましくは50:50の質量比で共重合されていることを意味する。
【0019】
前記油溶性ポリアルキレングリコールコポリマーは、本発明によれば、統計コポリマー、勾配コポリマー、交互コポリマー、グラフトコポリマーまたはブロックコポリマーであってよく、ここで、統計コポリマーおよびブロックコポリマー、および殊に統計コポリマーが好ましい。
【0020】
さらに、前記油溶性ポリアルキレングリコールが、アルコール開始ポリアルキレングリコールである場合が好ましい。すなわち、本発明により使用される油溶性ポリアルキレングリコールは、好ましくは、重合反応の開始剤としてアルコールを使用して製造されるポリアルキレングリコールであり、ここで、前記アルコールが好ましくは炭素原子10~20個、特に好ましくは炭素原子12~20個を含むので、前記ポリアルキレングリコールが、この少なくとも一方の末端部に、前記アルコールとアルキレンオキシドとの出発反応から生じるC10~C20-アルキル基(好ましい)またはC12~C20-アルキル基(特に好ましい)を結合して有する。さらに好ましくは、前記アルコール開始剤は、線状アルコール、および殊に線状の第一級アルコールである。そのうえ、前記アルコール開始剤は、モノアルコール、ジアルコールまたはトリアルコールであってよく、ここで、モノアルコールが好ましい。
【0021】
前記の重合開始剤として使用されるアルコールが炭素原子10~20個を含む場合、もしくは前記アルコール開始ポリアルキレングリコールが、少なくとも一方の末端部にC10~C20-アルキル基を結合して有する場合に、前記の添加剤として添加される化合物、殊に酸化防止剤および腐食防止剤(下記参照)は、その中により良好に溶解することができる。これに関して極めて特に好ましいアルコール開始剤は、n-ドデカノールである。
【0022】
したがって、本発明によれば、前記油溶性ポリアルキレングリコールが、ドデカノール開始ポリアルキレングリコールコポリマーである場合が殊に好ましく、ここで、ドデカノール開始ポリブチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドコポリマーが特に好ましく、かつポリイソブチレンオキシド-ポリイソプロピレンオキシドコポリマーが極めて特に好ましい。
【0023】
さらに、前記油溶性ポリアルキレングリコールが、500g/mol(1モルあたりのグラム)以上、特に好ましくは750g/mol以上、例えば1000g/mol以上、または1250g/mol以上の数平均分子量(M)を有することが好ましい。さらに、前記油溶性ポリアルキレングリコールの分子量が1400g/mol以下であり、かつ特に好ましくは、Mは1400g/mol未満であることが好ましい。
【0024】
他に明示的に記載されていない場合には、本発明の範囲内での「分子量」は「数平均分子量(M)」に基づいている。
【0025】
前記分子量の測定は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によってポリスチレン標準に対して行われる。
【0026】
500g/mol以上~1400g/mol以下の分子量Mを有する油溶性ポリアルキレングリコールは、それらの生分解性に関して有利である。そのうえ、この種の油溶性ポリアルキレングリコールコポリマーの使用が、エラストマー材料に対する前記潤滑剤組成物の適合性に有利に作用することが見出された。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施態様において、前記油溶性ポリアルキレングリコールは、規格OECD 301 A - FまたはOECD 306による生物学的分解性であるので、本発明による潤滑剤組成物の改善された生分解性およびエコ適合性を達成する。
【0028】
さらに、前記油溶性ポリアルキレングリコールは、好ましくは、15mm/s以上、より好ましくは18mm/s以上、特に好ましくは32mm/s以上、例えば68mm/s(cSt)以上、および130mm/s以下、より好ましくは100mm/s以下の40℃での動粘度を有する。前記粘度の測定は、ASTM D 7042に従って行われる。
【0029】
本発明によれば適した油溶性ポリアルキレングリコールは、例えば、ブランド名UCON(商標) OSP-18、UCON(商標) OSP-32、UCON(商標) OSP-68およびUCON(商標) OSP-680で、商業的に入手可能である。
【0030】
前記潤滑剤組成物中の前記油溶性ポリアルキレングリコールの量は、通例、前記組成物中に含まれるさらなる成分/構成成分の量に基づいて決定され、すなわち、前記潤滑剤組成物は、前記油溶性ポリアルキレングリコールで補って100質量%になる。しかしながら、好ましくは、前記油溶性ポリアルキレングリコールの量は、前記潤滑剤組成物の全質量を基準として、0.1~70質量%、特に好ましくは5~70質量%、および極めて特に好ましくは10~70質量%である。
【0031】
そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、さらなる基油構成成分として、天然エステルおよび合成エステル、ならびにそれらの組合せの群から選択されている、エステル化合物を含有し、ここで、2種以上の異なる天然エステルからなる混合物もしくは2種以上の異なる合成エステルからなる混合物も、本発明によれば併せて含まれている。
【0032】
本発明の好ましい実施態様において、前記エステル化合物は、
それぞれ、モノマー型、オリゴマー型および/または重合型で存在していてよい、天然グリセリドエステルから、殊にひまわり油、なたね油またはアブラナ油、亜麻油、とうもろこし油、サフラワー油、大豆油、あまに油、落花生油、「レスクエラ」油、パーム油、オリーブ油の群から、および
ポリオールエステル、ポリオール複合エステル、ダイマー酸からの複合エステル、ダイマー酸エステル、脂肪族カルボン酸エステルおよびジカルボン酸エステル、リン酸エステルおよびトリメリト酸エステルおよびピロメリト酸エステルからの合成エステル、ならびに
それらの組合せの群から
選択されている。
【0033】
特に好ましくは、前記エステル化合物は、ポリオールエステル、殊に、多価アルコール(すなわち、ポリオールもしくは1個を上回るヒドロキシ基を有するアルコール)とモノカルボン酸(すなわち、1価カルボン酸)との反応により得られるもの、およびポリオール複合エステル、殊に、多価アルコールと任意の混合物でのモノカルボン酸およびジカルボン酸(すなわち、2価カルボン酸)との反応により得られるもの、ならびにこれらの組合せから選択されている。
【0034】
特に好ましくは、本発明により使用されるポリオールエステルは、ネオペンチルグリコール(NPG)、トリメチロールプロパン(TMP)およびペンタエリトリトール(PE)、またはこれらの二量体または三量体から選択される1種以上の多価アルコールと、飽和および/またはモノまたはポリ不飽和であってよく、かつ好ましくは飽和である、鎖長C4~C36(すなわち、炭素原子4~36個)、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の1種以上の線状および/または分岐状のモノカルボン酸との反応/エステル化により製造される。
【0035】
同様に特に好ましくは、本発明により使用されるポリオール複合エステルは、ネオペンチルグリコール(NPG)、トリメチロールプロパン(TMP)およびペンタエリトリトール(PE)、またはこれらの二量体または三量体から選択される1種以上の多価アルコールと、任意の混合物での、飽和および/またはモノまたはポリ不飽和であってよく、かつ好ましくは飽和である、鎖長C4~C36、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の1種以上の線状および/または分岐状のモノカルボン酸、および飽和および/またはモノまたはポリ不飽和であってよく、かつ好ましくは飽和である、鎖長C4~C36、好ましくはC4~C18、特に好ましくはC4~C12の1種以上の線状および/または分岐状のジカルボン酸との反応/エステル化により製造される。
【0036】
この際に得られるポリオール複合エステルは、全エステル化または部分エステル化されて(すなわち、依然として遊離の、エステル化されていないヒドロキシル基が存在する)存在していてよい。
【0037】
したがって、本発明の極めて特に好ましい実施態様において、前記エステル化合物は、
殊に鎖長C4~C36、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でエステル化されている、ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、およびペンタエリトリトールエステル、および
殊に、任意の混合物で、鎖長C4~C36、好ましくはC10~36、特に好ましくはC14~C36、および極めて特に好ましくはC18~C36の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のモノカルボン酸でおよび鎖長C4~C36、好ましくはC4~C18、特に好ましくはC4~C12の飽和および/またはモノまたはポリ不飽和の、線状および/または分岐状のジカルボン酸で全エステル化または部分エステル化されている、ネオペンチルグリコール複合エステル、トリメチロールプロパン複合エステル、およびペンタエリトリトール複合エステル、ならびに
それらの組合せ
から選択されている。
【0038】
特に好ましいエステル化合物の例は、ペンタエリトリトール-テトライソステアレート、ペンタエリトリトール-テトラオレエート、ペンタエリトリトール-イソステアレート-セバケート複合エステル、トリメチロールプロパン-トリイソステアレート、トリメチロールプロパン-トリオレエート、トリメチロールプロパン-トリカプリレート、トリメチロールプロパン-イソステアレート-ステアレート-セバケート複合エステル、ネオペンチルグリコール-ジイソステアレートであるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
適したエステル化合物は、例えば、ブランド名Priolube 3987、Radialube 7257、Synative ES 1200、Priolube 1973、Synative ES TMP 05/140、Palub 8433、Nycobase 8397、Estilube P 688、Ruemanox 804で商業的に入手可能でもある。
【0040】
この種のエステル化合物、および殊に鎖長C18~C36のモノカルボン酸の基を含有するものの存在/添加が、エラストマー材料に対する適合性に有利に作用することが分かった。そのうえ、前記で定義されたエステル化合物は、一般的に良好な生分解性の点で優れている。
【0041】
本発明のさらに好ましい実施態様において、規格OECD 301 A - FまたはOECD 306による生物学的分解性であるエステル化合物が使用され、本発明による潤滑剤組成物の改善された生分解性およびエコ適合性を達成する。
【0042】
前記エステル化合物は、本発明による潤滑剤組成物中に、前記潤滑剤組成物全体を基準として、好ましくは0.1~85質量%、より好ましくは5~85質量%、特に好ましくは10~85質量%、および極めて特に好ましくは15~85質量%の量で、含まれている。
【0043】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、前記油溶性ポリアルキレングリコールおよび前記エステル化合物は、前記潤滑剤組成物中の唯一の基油構成成分であり、すなわち、本発明による潤滑剤組成物は、基油構成成分として、油溶性ポリアルキレングリコール(単一化合物または多様なOSPの混合物)およびエステル化合物(単一化合物または異なるエステル化合物の混合物)のみを含有するが、しかし別の基油構成成分、殊に鉱油を含有していない。
【0044】
前記潤滑剤組成物中のこれら双方の構成成分の全質量を基準とした「油溶性ポリアルキレングリコール」の「エステル化合物」に対する質量比は、好ましくは5:95~95:5、より好ましくは10:90~80:20、および特に好ましくは15:85~70:30の範囲内である。
【0045】
本発明による潤滑剤組成物は、さらに、酸化防止剤と、腐食防止剤とを含む、添加剤混合物を含有する。前記酸化防止剤および前記腐食防止剤は、それぞれ、単一物質としてまたは異なる酸化防止剤もしくは腐食防止剤の混合物として、前記潤滑剤組成物中に存在していてよい。同じことは、前記潤滑剤組成物中に場合により含まれる他の各添加剤にも当てはまる。
【0046】
添加剤の意図する添加により、前記潤滑剤の特定の特性が改善されることおよび/または前記潤滑剤に特定の特性が付与されることを達成することができる。
【0047】
腐食防止剤の添加により、前記潤滑剤組成物に腐食防止作用およびさび止め作用が付与される。
【0048】
前記腐食防止剤は、本発明によれば、スルホン酸、カルボン酸、ナフテン酸、ナフトエ酸、安息香酸およびリン酸の中性のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、ならびにそれらの組合せから選択されている。これは、本発明の範囲内で、前記の酸/酸塩の誘導体も併せて含み、これらはこれらの酸/酸塩の線状および分岐状の脂肪族および芳香族の誘導体を含み、さらにそれに加えて線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい。これらの酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の中では、そのNa塩、Ca塩、K塩およびMg塩が好ましく、かつCa塩が、殊に環境適合性の理由から、特に好ましい。
【0049】
「中性の」酸塩とは、本発明の意味で、30mgKOH/g以下の酸価(TAN)を有する酸塩であると理解される。
【0050】
そのため、前記腐食防止剤、もしくは使用される中性のスルホン酸塩、カルボン酸塩、ナフテン酸塩、ナフトエ酸塩、安息香酸塩またはリン酸塩、またはこれらの混合物が、30mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下、特に好ましくは15mgKOH/g以下、および極めて特に好ましくは10mgKOH/g以下のTANを有することが、本発明の範囲内で好ましい。
【0051】
特に好ましい実施態様において、前記腐食防止剤は、中性のカルシウムスルホネートから選択されている。これらは、エラストマー材料に対する前記潤滑剤組成物の適合性に関して特に有利であることが明らかになった。本発明によれば特に適した腐食防止剤の一例は、中性のアルキルナフタレンスルホン酸カルシウム塩であるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
適した中性の腐食防止剤は、例えば、ブランド名NA-SUL(登録商標)CA-770 FGまたはNA SUL(登録商標)CA 1089で、商業的に入手可能である。
【0053】
前記のように定義された中性の酸塩の、前記潤滑剤組成物への意図した添加により、前記の腐食防止作用およびさび止め作用に加えて、シール材、殊にエラストマー材料に対する前記潤滑剤組成物の適合性の改善が達成されることが驚くべきことに見出され、この適合性は殊に、前記潤滑剤組成物の残りの構成成分との相乗的な相互作用から明らかになる。
【0054】
酸化防止剤の添加により、前記潤滑剤組成物の酸化安定性を高めることができる。
【0055】
本発明の好ましい実施態様において、前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤(フェノール化合物)、アミン系酸化防止剤(アミン化合物)、ホスフィットおよび硫黄含有化合物、殊にアルキルスルフィドおよびアリールスルフィド、硫黄含有フェノール化合物および硫黄含有カルボン酸、ホスホチオネート、チオカルバメートおよびジチオカルバメート、チオホスフェートおよびチオプロピオネート、ならびにそれらの組合せから選択されており、ここで、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、チオカルバメートおよびジチオカルバメートが特に好ましい。極めて特に好ましくは、前記酸化防止剤は、アミン系酸化防止剤から、および殊に線状または分岐状の脂肪族アミン化合物および芳香族アミン化合物ならびにそれらの塩から選択されていてよく、ここで、前記の脂肪族および芳香族アミン化合物が、線状および/または分岐状のアルキル基およびアリール基から選択される1個以上の基で置換されていてよい。
【0056】
好ましくは酸化防止剤は、芳香族ジアミンおよび第二級芳香族アミン、フェノール樹脂、チオフェノール樹脂、亜鉛チオカルバメート、亜鉛チオホスフェート、有機チオカルバメートおよびジチオカルバメート、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、ジフェニルアミンおよびジフェニルアミン誘導体、殊にオクチル化ジフェニルアミン、ブチル化ジフェニルアミンおよびスチレン化ジフェニルアミン、キノリンおよびキノリン誘導体、ナフチルアミンおよびナフチルアミン誘導体、ジ-α-トコフェロール、ジ-tert-ブチル-フェニルプロパン酸およびそれらのエステル、ならびにこれらの混合物から選択されており、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明によれば特に好ましい酸化防止剤の例は、ベンゼンアミン-,N-フェニル,2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル)アミン、N-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル]ナフタレン-1-アミン、4,4′-メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)であるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
適した酸化防止剤は、例えば、ブランド名Vanlube(登録商標)81、Irganox(登録商標)L 57、Vanlube(登録商標)1202またはIrganox(登録商標)L 107 ADDITIN RC 6340で、商業的に入手可能である。
【0059】
前記酸化防止剤の意図した選択、殊に酸化防止剤としてのアミン化合物、フェノール化合物および/またはチオカルバメートおよびジチオカルバメートの意図した使用により、前記酸化安定性を高めることに加えて、シール材、殊にエラストマー材料に対する前記潤滑剤組成物の適合性の改善を達成することができることが驚くべきことに見出され、この適合性は殊に、前記潤滑剤組成物の残りの構成成分との相乗的な相互作用から明らかになる。
【0060】
前記潤滑剤組成物中の全ての添加剤の全量を意味する、前記潤滑剤組成物中の前記添加剤混合物の量は、前記潤滑剤組成物全体を基準として、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.1~10質量%、および特に好ましくは0.1~5質量%である。その際に、それぞれ前記潤滑剤組成物全体を基準として、前記酸化防止剤の量は、好ましくは0.05~3.5質量%の範囲内にあり、かつ前記腐食防止剤の量は、好ましくは0.05~3.5質量%の範囲内にあり、ここで、全ての添加剤の前記で定義された全量は超えない。
【0061】
そのため、好ましい実施態様において、本発明は、潤滑剤組成物に関するものであって、
- 油溶性ポリアルキレングリコール、
- 前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~85質量%の量の、天然エステルおよび合成エステル、ならびにそれらの組合せの群から選択される、エステル化合物、および
- 前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~20質量%の量の、酸化防止剤と腐食防止剤とを含む、添加剤混合物
を含有し、ここで、前記腐食防止剤が、スルホン酸、カルボン酸、ナフテン酸、ナフトエ酸、安息香酸およびリン酸、およびそれらの誘導体およびそれらの組合せの中性のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選択されており、かつ前記の含まれる構成成分は、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記のように定義されている。
【0062】
本発明のさらに好ましい実施態様において、前記添加剤混合物は、(1種以上の)酸化防止剤および(1種以上の)腐食防止剤に加えて、非鉄重金属不活性化剤を含み、ここで、本発明の範囲内で、単一化合物ならびに2種以上の異なる非鉄重金属不活性化剤からの混合物が併せて含まれている。
【0063】
非鉄重金属不活性化剤の添加により、非鉄金属、例えばカドミウム(Cd)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、スズ(Sn)、および亜鉛(Zn)、これらはいわゆる非鉄重金属に含まれる、ならびにそれらの合金を、活性硫黄による腐食から保護することができる。
【0064】
前記非鉄重金属不活性化剤は、トリアゾール、メルカプトチアジアゾールおよびサリチレート、ならびにそれらの組合せから好ましくは選択されており、ここで、トリアゾールおよび殊にベンゾトリアゾールが特に好ましい。本発明の範囲内で、用語「トリアゾール」および「ベンゾトリアゾール」は、トリアゾール誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体ならびにこれらが単一化合物としてまたは多数が含まれている反応混合物および反応塊も含む。
【0065】
本発明によれば特に適した非鉄重金属不活性化剤の例は、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールならびにこれらの誘導体と、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-ar-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミンと、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-6-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-4-メチル-2H-ベンゾトリアゾール-2-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-5-メチル-2H-ベンゾトリアゾール-2-メタンアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチルアミンおよびN,N-ビス(2-エチルヘキシル)-5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-メチルアミンからの反応塊とであるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
適した非鉄重金属不活性化剤は、例えば、ブランド名Irgamet(登録商標)39またはIrgamet(登録商標)BTZで、商業的に入手可能である。
【0067】
前記非鉄重金属不活性化剤の意図した選択、殊にトリアゾールもしくはベンゾトリアゾールの意図した使用により、活性硫黄による腐食からの保護に加えて、シール材、殊にエラストマー材料に対する前記潤滑剤組成物の適合性のさらなる改善を達成することができ、この適合性は殊に、前記潤滑剤組成物の残りの構成成分との相乗的な相互作用から生じる。
【0068】
そのため、さらに好ましい実施態様において、本発明は、潤滑剤組成物に関するものであって、
- 油溶性ポリアルキレングリコール、
- 前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~85質量%の量の、天然エステルおよび合成エステル、ならびにそれらの組合せの群から選択される、エステル化合物、および
- 前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~20質量%の量の、酸化防止剤と、腐食防止剤と、非鉄重金属不活性化剤とを含む、添加剤混合物
を含有し、ここで、前記腐食防止剤が、スルホン酸、カルボン酸、ナフテン酸、ナフトエ酸、安息香酸およびリン酸の中性のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、およびそれらの組合せから選択されており、かつ前記の含まれる構成成分は、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記のように定義されている。
【0069】
本発明による潤滑剤組成物、もしくは使用される添加剤混合物は、(1種以上の)酸化防止剤、(1種以上の)腐食防止剤および任意の(1種以上の)非鉄重金属不活性化剤に加えて、殊に摩耗防止剤、摩擦減少剤、極圧添加剤、イオン錯化剤、固体潤滑剤、分散剤、流動点改善剤および粘度向上剤、UV安定剤、乳化剤、呈色指示薬、すべり向上剤および消泡剤から選択されている、1種以上の別の添加剤を含んでいてよいが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本発明によれば適した摩耗防止剤、摩擦減少剤および極圧添加剤は、アミン、アミンホスフェート、分岐状および/または線状のアルキル化されたホスフェート、ホスフィット、チオホスフェート、およびホスホチオネート、アリールホスフェート、アリールチオホスフェート、アルキル化ポリスルフィド、硫化アミン化合物、硫化脂肪酸メチルエステル、ナフテン酸、Al、SiO、TiO、ZrO、WO、Ta、V、CeO、アルミニウムチタネート、BN、MoSi、SiC、Si、TiC、TiN、ZrB、粘土鉱物およびそれらの混合物から選択されるナノ粒子、スルホン酸塩、および熱安定なカーボネートおよびスルフェート、ならびにこれらの2種以上の混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。商業的に入手可能な適した添加剤は、例えば以下に記載される製品である:IRGALUBE(登録商標)TPPT、IRGALUBE(登録商標)232、IRGALUBE(登録商標)349、IRGALUBE(登録商標)353、IRGALUBE(登録商標)211およびADDITIN(登録商標)RC3760 Liq 3960、FIRC-SHUN(登録商標)FG 1505およびFG 1506、NA-LUBE(登録商標)KR-015FG、LUBEBOND(登録商標)、FLUORO(登録商標)FG、SYNALOX(登録商標)40-D、ACHESON(登録商標)FGA 1820およびACHESON(登録商標)FGA 1810。
【0071】
適した粘度向上剤は、線状および分岐状のアルキル化され、アクリル化され、かつ脂肪族のポリマーおよびコポリマーならびに重合脂肪酸エステル、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されている。適した粘度向上剤の例は、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレンコポリマー、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、水素化スチレン-イソプレンコポリマーであるが、これらに限定されるものではない。適した粘度向上剤は、購入により入手することができる。
【0072】
適したUV安定剤は、窒素複素環式化合物および置換された窒素複素環式化合物、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適したUV安定剤は、購入により入手することができる。
【0073】
適した固体潤滑剤は、PTFE、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ピロリン酸塩、チオスルフェート、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化スズ、グラファイト、グラフェン、ナノチューブ、SiO変態、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適した固体潤滑剤は、購入により入手することができる。
【0074】
適した乳化剤は、分岐状および/または線状のエトキシル化および/またはプロポキシル化されたアルコールおよびそれらの塩、殊に炭素原子14~18個の鎖長を有するアルコール、エトキシル化および/またはプロポキシル化されたアルキルエーテル、脂肪酸エステル、およびイオン界面活性剤、例えばアルキルスルホン酸のナトリウム塩、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適した乳化剤は、購入により入手することができる。
【0075】
消泡剤の添加により、泡立ちが阻止される。適した消泡剤は、炭素原子10~18個の鎖長を有するエトキシル化および/またはプロポキシル化されたアルコール、食用脂のモノグリセリドおよびジグリセリド、アクリレート、プロポキシル化および/またはエトキシル化されたアルキルエーテル、ジオールを含めたポリオール、およびポリシロキサン、例えばシリコーン油またはポリジメチルシロキサン、ならびにこれらの2種以上からなる混合物から好ましくは選択されているが、これらに限定されるものではない。適した消泡剤は、購入により入手することができる。
【0076】
適した呈色指示薬の一例は、2,5-チオフェンジイルビス(5-tert-ブチル-1,3-ベンゾオキサゾール)であるが、これらに限定されるものではない。適した呈色指示薬は、購入により入手することができる。
【0077】
本発明の意味でのすべり向上剤は、極性部分ならびに無極性部分を含む、有機化合物である。用語「有機化合物」は、単一化合物(すなわち、分子)および単一化合物の混合物ならびにホモポリマー、コポリマーおよびポリマーブレンドを含めたオリゴマーおよびポリマー、ならびにこれらの混合物を含む。
【0078】
前記すべり向上剤の、前記潤滑剤組成物への添加により、前記潤滑剤組成物のすべり特性の改善を、殊に低いギヤ速度および軸受速度および高い負荷でも、達成することができる。
【0079】
本発明による潤滑剤組成物におけるすべり向上剤として有利に使用することができる有機化合物の好ましい例は、以下の化合物であるが、これらに限定されるものではない:
マレイン酸-オレフィンコポリマー(例えばKetjenlube(登録商標)135、Ketjenlube(登録商標)2700、Ketjenlube(登録商標)23000として商業的に入手可能)、
変性ポリエステル(例えばPerfad(商標) 3000、Perfad(商標) 3050として商業的に入手可能)、
ポリメチルメタクリレート(PMMA)、線状ポリマーならびにスターポリマー(例えばLubrizol 87725として商業的に入手可能)、
オレイン酸、殊にC16~C18-脂肪酸およびC18-不飽和脂肪酸の混合物(例えばHerwemag OAとして商業的に入手可能)、
グリセリンモノオレエート(GMO)、殊に最小40%のモノ含量、最大6%の遊離グリセリンを有するもの(例えばIlco Lube 2316として商業的に入手可能)、
ポリメタクリレート(PMA)、線状ポリマーならびにくし型ポリマー(例えばViscoplex(登録商標)3-200として商業的に入手可能)、
1-デセンおよび9-ドデシル酸メチルエステルのくし型ポリマー(例えばElevance Aria(登録商標)WTP 40として商業的に入手可能)、
ペンタエリトリトール-テトライソステアレート(例えばPriolube(商標) 3987-LQとして商業的に入手可能)。
【0080】
前記添加剤は、前記潤滑剤の特定の特性を改善することおよび/またはこの潤滑剤に特定の特性を付与することに利用されるので、これらの添加剤は、前記潤滑剤への需要もしくは要件に応じて、この潤滑剤に単一物質としてまたは2種以上の添加剤の混合物として添加することができ、ここで、添加剤混合物中の前記添加剤の量は、前記潤滑剤組成物全体を基準として、全ての添加剤の前記で定義された全量を超えないもしくは下回らない限りは、制限されていない。
【0081】
本発明のさらに好ましい実施態様において、前記潤滑剤組成物全体の酸価は、30mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下、特に好ましくは15mgKOH/g以下、および極めて特に好ましくは10mgKOH/g以下である。
【0082】
さらに好ましい実施態様において、前記潤滑剤組成物は、20mm/s~680mm/s、特に好ましくは30mm/s~480mm/sおよび極めて特に好ましくは60mm/s~150mm/sの40℃での動粘度を有する。粘度測定は、ASTM D 7042に従って行われる。
【0083】
さらに好ましい実施態様において、前記潤滑剤組成物は、規格OECD 301 A - FまたはOECD 306によれば生物学的分解性であり、および/または規格OECD 201、202、203または236によれば低い水生毒性を有する。
【0084】
前記で定義されたように、構成成分として油溶性ポリアルキレングリコール、エステル化合物および酸化防止剤と中性の腐食防止剤とを含む添加剤混合物を含有する、本明細書に記載された本発明による潤滑剤組成物が、シール材、殊にエラストマーに対する改善された適合性の利点を示すことが驚くべきことに見出され、この適合性は殊に、前記構成成分の相乗的な相互作用から明らかになる。そのうえ、本発明による潤滑剤組成物は、良好な潤滑特性もしくはすべり特性および良好な生物学的分解性もしくはエコ適合性を有する。
【0085】
そのため、本発明による潤滑剤組成物は、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油、作動油またはすべり軸受油としての使用に際立って適している。
【0086】
そのため、本発明のさらなる対象は、海洋分野におけるおよび陸水の分野における、ならびに水および/または水性媒体と接触する可能性がある陸上の機械および機械要素におけるギヤ油、転がり軸受油、作動油およびすべり軸受油としての、本明細書に記載された本発明による潤滑剤組成物の使用に関する。
【0087】
海洋分野におけるおよび陸水の分野における使用分野は、殊に、海洋分野において塩水と、例えばオフショアプラント、もしくは陸水において(淡)水および/または水性媒体と、接触する機械、機械部品およびプラントにおけるギヤ、液圧装置、軸受、例えばすべり軸受、転がり軸受または船尾管軸受、プロペララダー、プロペラシャフト、空気圧要素、リニアガイド、チェーンおよびケーブルの潤滑を併せて含むが、これらに限定されるものではない。
【0088】
海洋分野において、ギヤは例えば、スラスタおよびアジポッド(Azipod)において使用される。この使用は、駆動部とプロペラとの間で行われる動力伝達および動力変換に利用される。ここでは、内部への水の流入ならびに海環境への潤滑剤の流出を計算に入れなければならない。
【0089】
海洋分野におけるさらなる使用は、プラットホーム、風車用設置船または掘削基地を持ち上げるジャッキアップシステムである。この運動は、開放ギヤにより行われる。
【0090】
海洋分野における液圧装置は、調整可能なプロペララダーの駆動に、ならびにフィンスタビライザーおよびラダーベアリングにおいて利用される。後者において、同じ潤滑剤でたいてい潤滑されるリニアガイドも使用される。ここでも、前記潤滑は水線を下回って行われる。それに応じて、この場合にも、前記機械部品への水流入ならびに前記潤滑剤の海環境への流出を計算に入れるべきである。
【0091】
海洋分野におけるすべり軸受使用は、まず第一に、船尾管にあるプロペラシャフト軸受、いわゆる船尾管軸受である。前記プロペラシャフトの主な仕事は、その駆動運動をその船体部を経てスクリューに伝達することである。その際に、前記軸受は、摩擦の少ない運動に配慮する。
【0092】
さらに、オフショア風力発電装置、石油およびガス採掘プラットホームにおける、港湾施設、造船所等における、海水、水および水性媒体と接触する機械および機械部品が潤滑される。
【0093】
これらには、例えば水門において使用されるチェーン、ケーブル、例えば船索または網に使用されるケーブル、ならびに固体流、液体流および気体流を制御するための装備品も含まれる。同じように、多種多様な装置および機械におけるねじ、ばね、弁が潤滑されなければならない。
【0094】
そのため、好ましい実施態様において、本発明は、海洋分野におけるおよび陸水の分野におけるギヤ油、転がり軸受油、作動油およびすべり軸受油として、殊に、水(塩水および/または淡水)と接触する機械、機械部品およびプラントにおいて、ならびに水および/または水性媒体と接触する陸上の機械および機械要素において、ギヤ、液圧装置、プロペララダー、プロペラシャフト、リニアガイド、空気圧要素、装備品、軸受、例えばすべり軸受、転がり軸受または船尾管軸受、チェーン、ケーブル、ばね、弁およびねじを潤滑するための、本明細書に記載された本発明による潤滑剤組成物の使用に関するものであり、ここで、前記潤滑剤組成物が好ましくは、
- 油溶性ポリアルキレングリコール、
- 前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~85質量%の量の、天然エステルおよび合成エステル、ならびにそれらの組合せの群から選択される、エステル化合物、および
- 前記潤滑剤組成物全体を基準として、0.1~20質量%の量の、酸化防止剤と、腐食防止剤と、任意に非鉄重金属不活性化剤とを含む、添加剤混合物
を含有し、ここで、前記腐食防止剤が、スルホン酸、カルボン酸、ナフテン酸、ナフトエ酸、安息香酸およびリン酸の中性のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、ならびに誘導体およびそれらの組合せから選択されており、かつ前記の含まれる構成成分は、合わせて全部で100質量%になり、かつ前記のように定義されている。
【0095】
前記潤滑剤組成物の製造は、当業者に公知の手順により、前記基油構成成分((1種以上の)油溶性ポリアルキレングリコール、(1種以上の)エステル化合物)および前記添加剤を、適した容器、例えば混合釜中で、適した撹拌機を使用しながら混合することによって行われる。固体の添加剤もしくは構成成分は、温度上昇により溶液になり、かつ混ざり合う。前記製造は、連続法によって行うこともできる。
【0096】
本発明は、以下の例により詳細に記載されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0097】
使用される一般的な試験方法:
前記潤滑剤組成物ならびにその中に含まれる構成成分の特性は、製造者側から公知ではない場合には、以下の方法を用いて測定される:
- 粘度の測定:粘度測定は、ASTM D 7042に従ってスタビンガー粘度計SVM 3000(Anton Paar)を用いて行われる。
- 酸価の測定(TAN、全酸価[mgKOH/g]):
前記酸価の測定のために、試料を溶剤混合物中に溶解させ、引き続き、ASTM D664-18E02に従ってアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。前記滴定は、Metrohm 905 Titrando滴定ユニットのSolvotrodeを用いて電位差測定により実施される。
- 分子量(M)の測定:
前記分子量の測定は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によってポリスチレン標準に対してDIN 55672-1:2016-03 “Gelpermeationschromatographie (GPC) - Teil 1: Tetrahydrofuran (THF) als Elutionsmittel”に従ってSECcure GPCシステムを使用して行われる。
【0098】
潤滑剤組成物の製造:
前記潤滑剤組成物の製造は、当業者に公知の手順により、前記基油構成成分((1種以上の)油溶性ポリアルキレングリコール、(1種以上の)エステル化合物)および前記添加剤を、適した容器、例えば混合釜中で、適した撹拌機を使用しながら混合することによって行われる。固体の添加剤もしくは構成成分は、温度上昇により溶液になり、かつ混ざり合う。前記製造は、連続法によって行うこともできる。
【0099】
本発明による(例1~5)および本発明によらない(比較例1~11)、以下の配合物を、前記のように製造する:
例1
【表1】
【0100】
例2
【表2】
【0101】
例3
【表3】
【0102】
例4
【表4】
【0103】
例5
【表5】
【0104】
比較例1
【表6】
【0105】
比較例2
【表7】
【0106】
比較例3
【表8】
【0107】
比較例4
【表9】
【0108】
比較例5
【表10】
【0109】
比較例6
【表11】
【0110】
比較例7
【表12】
【0111】
比較例8
【表13】
【0112】
比較例9
【表14】
【0113】
比較例10
【表15】
【0114】
比較例11
【表16】
【0115】
中性のアルキルナフタレンスルホン酸カルシウム塩(NA-SUL(登録商標)CA-770 FG)、
オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(CAS番号2082-79-3)、
ベンゼンアミン,N-フェニル-,2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(CAS番号68411-46-1)、
ビス(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル)アミン(CAS番号15721-78-5)、
アミン,C11-14-分岐状アルキル-,モノヘキシルおよびジヘキシルホスフェート(CAS番号80939-62-4)、
N-オレオイルサルコシン、
2-(テトラプロペニル)コハク酸,プロパン-1,2-ジオールとのモノエステル(CAS番号52305-09-6)、
(テトラプロペニル)コハク酸(CAS番号27859-58-1)、
ジヒドロ-3-(テトラプロペニル)フラン-2,5-ジオンとプロパン-1,2-ジオールとの反応生成物(EC番号947-696-0)、
104,4′-メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)(CAS番号10254-57-6)
11ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル,n-ブタノール開始(Synalox(商標) 100-40B DOW, M 1100g/mol)、
12鉱油中バリウムビス(ジノニルナフタレンスルホネート)(CAS番号25619-56-1、King Industries Na-Sul(登録商標) BSN, pH 10)。
【0116】
例6 - エラストマー適合性の測定:
適したエラストマー材料の選択の際に、その温度使用範囲に加えて、しばしば、前記エラストマーの化学的および物理的な耐久性の考慮も決定的である。前記エラストマーは、老化もしくは摩耗の影響を受け、これらは前記使用における寿命に決定的である。
【0117】
潤滑剤に対する前記エラストマー適合性を求めるためには、エラストマー試験体(NBR-ならびにFKM-試験体)を例1~5ならびに比較例1~7の配合物中に貯蔵し、かつ前記エラストマー材料へのそれぞれの配合物の作用が調べられる。前記エラストマー適合性の尺度として、前記材料特性、例えば、前記潤滑剤中の貯蔵後の硬さ、質量、体積、引張強さまたは破断伸びの、引渡し状態と比較した変化が決定される。
【0118】
貯蔵実験は、純粋な潤滑油中ならびに油-水エマルション中で、市販の装置を使用して、実施される。
【0119】
純粋な潤滑油中の貯蔵実験は、規格DIN ISO 1817(DIN ISO 1817:2016-11)に従って実施される。以下のエラストマー試験体を、以下の測定条件で純粋な潤滑油にさらす:
FKM:80 FKM 10061:168h/150℃、
85 FKM 245601:168h/150℃
NBR:ISO 6072 NBR 1:1000h/100℃。
【0120】
油-水エマルション中の貯蔵実験は、DIN ISO 1817(DIN ISO 1817:2016-11)に準拠して実施される。試験油を、適した試験容器(例えば平面すり合わせタイプふたDN 120を有する溝付平面すり合わせタイプビーカー2000ml DN 120)中で、蒸留水5%と混合し(油1600mlの場合:水85ml、油1800mlの場合:95ml)、かつ均質な状態に達するまで撹拌した。前記試験体を、完全に前記試験油中に浸漬し、かつ間隔が、前記試験容器の側壁に対して少なくとも5mm、前記容器の底部および前記試験油の表面に対して少なくとも10mmであるように配置する。接触温度計および還流冷却器の取り付け後に、前記試験容器を、水損失を防止するために密閉し、かつ前記媒体を、絶えず撹拌しながら加熱する。以下のエラストマー試験体を、以下の測定条件で油-水エマルションにさらす:
FKM: 80 FKM 10061:336h/80℃。
【0121】
前記の純粋な潤滑油もしくは前記油-水エマルション中での作用時間の経過後に、前記試験体を冷却させ、かつ清浄化する。引き続き、それぞれ有効な規格に従って、前記潤滑剤中での貯蔵後の前記エラストマーの硬さ、質量、体積、引張強さおよび/または破断伸びの、引渡し状態と比較した変化が決定される:
- 体積変化、質量変化:測定を、それぞれ、DIN ISO 1817 (DIN ISO 1817:2016-11) エラストマー―液体に対する挙動の測定に従って行う
前記試験体の体積もしくは質量の変化からは、原因として前記材料内部への前記試験液体のマイグレーションまたは前記材料の溶出もしくは場合により溶解も得られる。
- ショアA硬さの変化:測定を、DIN ISO 7619-1 (DIN ISO 7619-1:2012-02) エラストマーまたは熱可塑性エラストマー―押込み硬さの測定―第1部:デュロメーター法(ショア硬さ)に従って行う
硬さとは、一般的に、より硬い試験体を押し込む際の前記材料の機械抵抗をいう。
- 引張強さならびに破断伸びの変化:測定を、それぞれ、DIN 53504 (DIN 53504:2017-03)―ゴムおよびエラストマーの試験―引張強さ、破断伸びおよび引張試験における応力値の測定に従って行う
【0122】
純粋な潤滑油中の静的エラストマー貯蔵の測定結果は、以下の第1~3表に記載されている:
第1a表(80 FKM 10061/150℃/168h):
【表17】
【0123】
第1b表(85 FKM 245601/150℃/168h):
【表18】
【0124】
第1a表および第1b表から読み取ることができるように、それぞれOSPと、酸化防止剤と、中性の腐食防止剤とを含有する、例1、2および3の本発明による潤滑剤組成物中での貯蔵後の試験体は、体積、質量、ショアA硬さ、引張強さおよび破断伸びの少ない変化のみを示し、このことは、前記潤滑剤組成物の良好なエラストマー適合性を意味する。それに対して、確かにOSPと中性の腐食防止剤とを含有するが、しかし酸化防止剤を含有しない、比較例1による潤滑剤組成物は、測定できる結果をもたらさない。なぜなら、前記潤滑剤組成物が、選択された条件下で、すでに実験終了前に分解し始めたからである。前記結果は、本発明による潤滑剤の構成成分間の相乗効果を示す。
【0125】
第2表(80 FKM 10061/150℃/168h):
【表19】
【0126】
第2表から読み取ることができるように、OSPと、酸化防止剤と、中性の腐食防止剤とを含有する(TAN <10mgKOH/g)、例1からの本発明による潤滑剤組成物中での貯蔵後の前記試験体は、OSPおよび酸化防止剤に加えて、酸性の腐食防止剤を含有する(TAN >100mgKOH/g)、比較例の前記潤滑剤組成物中での貯蔵と比較して、引張強さおよび破断伸びの明らかにより少ない変化を示す。前記結果は、本発明による潤滑剤の構成成分間の相乗効果を、適した腐食防止剤の選択の場合に、前記エラストマー適合性を改善することができるという趣意で示す。
【0127】
第3表(ISO 6072 NBR 1/100℃/1000h):
【表20】
【0128】
第3表から読み取ることができるように、例1および4からの本発明による潤滑剤組成物中での貯蔵後の試験体は、質量、体積およびショアA硬さに関して匹敵する変化を示し、それに反して、例4からの前記潤滑剤組成物中での貯蔵は、試験体の引張強さおよび破断伸びのより少ない変化をもたらす。前記結果は、例4による前記潤滑剤組成物中のOSPの割合の増大が、NBRに対する前記潤滑剤組成物の適合性のさらなる増加をもたらすことを示す。
【0129】
油-水エマルション中の静的エラストマー貯蔵の測定結果は、以下の第4表に記載されている:
第4表(80 FKM 10061/油+5%水、80℃、336h)
【表21】
【0130】
第4表から読み取ることができるように、エステルならびにOSPを基油構成成分として含有する、例1、3および5の本発明による潤滑剤組成物の場合に、比較例7~11とは異なり、前記試験体の質量ならびに体積の少ない変化のみが観察され、このことは、高められたエラストマー適合性を意味する。殊に、エステルのみを基油構成成分として含有する、比較例7、8および9からの配合物との前記測定結果の比較は、それ以外は同じ添加剤(殊に例1/比較例8、例3/比較例9、例5/比較例7参照)の場合に、OSPの不在が、前記試験体の質量変化および殊に体積変化に関してより劣悪な値をまねき、ひいては低下されたエラストマー適合性をまねくことを示す。比較例10および11の配合物は、塩基性腐食防止剤を含有する。