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特許7422895還元剤生成装置の制御方法、排ガス浄化処理方法、還元剤生成システム及び排ガス浄化処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】還元剤生成装置の制御方法、排ガス浄化処理方法、還元剤生成システム及び排ガス浄化処理システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/24 20060101AFI20240119BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240119BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240119BHJP
   F01N 9/00 20060101ALI20240119BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240119BHJP
   B01J 38/00 20060101ALI20240119BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240119BHJP
   B01J 35/50 20240101ALI20240119BHJP
【FI】
F01N3/24 L
F01N3/08 B ZAB
F01N3/28 301P
F01N9/00 Z
B01D53/94 400
B01J38/00 Z
B01J35/04 301G
B01J35/02 G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022560637
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021269
(87)【国際公開番号】W WO2022097321
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2020186740
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋木 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 行成
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/148506(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0018207(US,A1)
【文献】特開2017-180299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
F01N 3/08
F01N 3/28
F01N 9/00
B01D 53/94
B01J 38/00
B01J 35/04
B01J 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤前駆体を噴霧可能な噴霧器と、
前記噴霧器の下流側に配置され且つ前記還元剤前駆体を加熱して還元剤を生成可能な、セラミックス基材を含む加熱ヒータと
を備える還元剤生成装置の制御方法であって、
前記加熱ヒータの非加熱時に、前記噴霧器から前記還元剤前駆体を噴霧し、前記セラミックス基材に前記還元剤前駆体を浸透させる浸透工程と、
前記浸透工程の後に、前記加熱ヒータで前記還元剤前駆体を加熱し、前記噴霧器から前記還元剤前駆体を噴霧しつつ前記還元剤を生成する加熱工程Aと、
を含む制御方法。
【請求項2】
前記浸透工程における、前記セラミックス基材における前記還元剤前駆体の浸透率が、前記セラミックス基材の全気孔容積に対して5~75%である、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記制御方法は、前記加熱ヒータで前記還元剤前駆体を加熱し、前記噴霧器から前記還元剤前駆体を噴霧しつつ前記還元剤を生成する加熱工程Bを更に含み、
前記加熱工程B、前記浸透工程及び前記加熱工程Aは、この順に行われる、請求項1又は2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記還元剤前駆体が尿素水溶液であり、前記還元剤がアンモニアである、請求項1~3のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項5】
前記加熱ヒータは、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状セラミックスハニカム基材と、前記柱状セラミックスハニカム基材の側面に配設された一対の電極部とを含み、
柱状セラミックスハニカム基材が通電により発熱する、請求項1~4のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項6】
前記加熱ヒータは筒状部材内に収容されており、前記加熱ヒータと前記筒状部材との間が絶縁保持部によって固定されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の制御方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の制御方法によって生成した前記還元剤を、NOxを含有する排ガスと接触させることを含む排ガス浄化処理方法。
【請求項8】
還元剤前駆体を噴霧可能な噴霧器と、前記噴霧器の下流側に配置され且つ前記還元剤前駆体を加熱して還元剤を生成可能な、セラミックス基材を含む加熱ヒータとを備える還元剤生成装置、及び
前記噴霧器からの前記還元剤前駆体の噴霧を制御する還元剤前駆体噴霧制御部と、前記加熱ヒータでの前記還元剤前駆体の加熱を制御するヒータ制御部とを備える制御装置
を含み、
前記還元剤前駆体噴霧制御部は、前記加熱ヒータの非加熱時に、前記噴霧器から前記還元剤前駆体を噴霧する制御信号を生成し、前記セラミックス基材に前記還元剤前駆体を浸透可能に制御する、還元剤生成システム。
【請求項9】
前記還元剤前駆体噴霧制御部は、前記セラミックス基材における前記還元剤前駆体の浸透率が、前記セラミックス基材の全気孔容積の5~75%となるように前記還元剤前駆体の噴霧量を制御する、請求項8に記載の還元剤生成システム。
【請求項10】
前記加熱ヒータは、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状セラミックスハニカム基材と、前記柱状セラミックスハニカム基材の側面に配設された一対の電極部とを含み、
柱状セラミックスハニカム基材が通電により発熱する、請求項8又は9に記載の還元剤生成システム。
【請求項11】
前記加熱ヒータは筒状部材内に収容されており、前記加熱ヒータと前記筒状部材との間が絶縁保持部によって固定されている、請求項8~10のいずれか一項に記載の還元剤生成システム。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一項に記載の還元剤生成システムを含む排ガス浄化処理システムであって、
前記還元剤生成装置が、NOxを含有する排ガスが流通可能な排気管又は前記排気管に接続された分岐管に設けられている排ガス浄化処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤生成装置の制御方法、排ガス浄化処理方法、還元剤生成システム及び排ガス浄化処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
還元剤は、酸化還元反応において他の化合物などを還元させることが可能であり、各種用途で用いられている。例えば、排ガス浄化技術の一つとして知られる尿素SCRシステムでは、尿素を排ガスの熱で分解させて生成したアンモニア(還元剤)をNOxと反応させることにより、窒素及び水に還元することが行われている。
【0003】
従来の尿素SCRシステムでは、尿素からアンモニアを生成するために200℃以上の排ガスの温度が必要とされており、排ガスの温度が低い場合には尿素からアンモニアを十分に生成できず、排ガスの温度が低いときにはNOxの処理に必要なアンモニアの量が不足することがあった。
そこで、ハニカム構造部、及びその側面に配設された一対の電極部を有するハニカム構造体(以下、「ハニカムヒータ」という)と、尿素水溶液を霧状に噴霧する尿素噴霧装置とを備える還元剤噴射装置において、通電加熱されたハニカムヒータ内に尿素水溶液を噴霧することにより、排ガスの温度が低い場合であってもアンモニアを十分に生成可能な技術が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6487990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の還元剤噴射装置では、尿素水溶液の噴霧直後に尿素の分解反応に若干の時間が必要となり、アンモニア(還元剤)の生成に遅れが生じる。その一方で、排ガス中のNOxの量はエンジンの始動直後に多くなるため、このアンモニアの生成の遅れが、排ガスの浄化処理性能を低下させる原因となる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、還元剤を迅速に生成することが可能な還元剤生成装置の制御方法及び還元剤生成システムを提供することを目的とする。
また、本発明は、エンジンの始動直後に迅速に還元剤を生成して排ガス浄化処理を行うことが可能な排ガス浄化処理方法及び排ガス浄化処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下のように特定される。
【0008】
すなわち、本発明は、還元剤前駆体を噴霧可能な噴霧器と、前記噴霧器の下流側に配置され且つ前記還元剤前駆体を加熱して還元剤を生成可能な、セラミックス基材を含む加熱ヒータとを備える還元剤生成装置の制御方法であって、
前記加熱ヒータの非加熱時に、前記噴霧器から前記還元剤前駆体を噴霧し、前記セラミックス基材に前記還元剤前駆体を浸透させる浸透工程と、
前記浸透工程の後に、前記加熱ヒータで前記還元剤前駆体を加熱し、前記噴霧器から前記還元剤前駆体を噴霧しつつ前記還元剤を生成する加熱工程Aと、
を含む制御方法である。
【0009】
また、本発明は、前記制御方法によって生成した前記還元剤を、NOxを含有する排ガスと接触させることを含む排ガス浄化処理方法である。
【0010】
また、本発明は、還元剤前駆体を噴霧可能な噴霧器と、前記噴霧器の下流側に配置され且つ前記還元剤前駆体を加熱して還元剤を生成可能な、セラミックス基材を含む加熱ヒータとを備える還元剤生成装置、及び
前記噴霧器からの前記還元剤前駆体の噴霧を制御する還元剤前駆体噴霧制御部と、前記加熱ヒータでの前記還元剤前駆体の加熱を制御するヒータ制御部とを備える制御装置
を含み、
前記還元剤前駆体噴霧制御部は、前記加熱ヒータの非加熱時に、前記噴霧器から前記還元剤前駆体を噴霧する制御信号を生成し、前記セラミックス基材に前記還元剤前駆体を浸透可能に制御する、還元剤生成システムである。
【0011】
さらに、本発明は、前記還元剤生成システムを含む排ガス浄化処理システムであって、
前記還元剤生成装置が、NOxを含有する排ガスが流通可能な排気管又は前記排気管に接続された分岐管に設けられている排ガス浄化処理システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、還元剤を迅速に生成することが可能な還元剤生成装置の制御方法及び還元剤生成システムを提供することができる。
また、本発明によれば、エンジンの始動直後に迅速に還元剤を生成して排ガス浄化処理を行うことが可能な排ガス浄化処理方法及び排ガス浄化処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る還元剤生成装置の制御方法及び還元剤生成システムに用いられる還元剤生成装置を示す模式断面図である。
図2】還元剤生成装置の従来の制御方法を説明するためのフロー図である。
図3】本発明の実施形態に係る還元剤生成装置の制御方法を説明するためのフロー図である。
図4】本発明の実施形態に係る還元剤生成装置の制御方法を説明するためのフロー図である。
図5】本発明の実施形態に係る還元剤生成装置の制御方法及び従来の還元剤生成装置の制御方法における時間とアンモニア(還元剤)の発生量との関係を表すグラフである。
図6】実施例における還元剤生成試験を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る還元剤生成装置の制御方法及び還元剤生成システムに用いられる還元剤生成装置を示す模式断面図である。
図1に示されるように、還元剤生成装置100は、還元剤前駆体50を噴霧可能な噴霧器10と、噴霧器10の下流側に配置され且つ還元剤前駆体50を加熱して還元剤60を生成可能な、セラミックス基材21を含む加熱ヒータ20とを備える。
このような構造を有する還元剤生成装置100の好ましい態様について、構成部材ごとに詳細に説明する。
【0016】
(1-1)噴霧器10
噴霧器10の種類は、還元剤前駆体50を噴霧可能であれば特に限定されないが、ソレノイド式、超音波式、圧電アクチュエータ式又はアトマイザー式であることが好ましい。これらを用いることにより、還元剤前駆体50を容易に霧状に噴霧することができる。また、これらの中でも、ソレノイド式、超音波式又は圧電アクチュエータ式を用いると、空気を使用せずに還元剤前駆体50を霧状に噴霧することができる。そのため、還元剤前駆体50の噴霧に用いる空気を加熱する必要がなくなり、加熱するエネルギー量を低減することができる。噴霧器10から噴霧される還元剤前駆体50の液滴の大きさ(直径)は、0.3mm以下であることが好ましい。還元剤前駆体50の液滴の大きさが0.3mmより大きいと、セラミックス基材21で加熱された際に、気化し難くなることがある。
【0017】
ここで、ソレノイド式の噴霧器10は、ソレノイドの振動又はソレノイドを用いた電界によるピストンの前後動作により、還元剤前駆体50を霧状に噴霧する装置である。また、超音波式の噴霧器10は、超音波振動により、還元剤前駆体50を霧状に噴霧する装置である。また、圧電アクチュエータ式の噴霧器10は、圧電素子の振動により、還元剤前駆体50を霧状に噴霧する装置である。また、アトマイザー式の噴霧器10は、例えば、管で還元剤前駆体50を吸い上げながら、当該管の先端の開口部から還元剤前駆体50を空気で霧状に吹き飛ばして噴霧する装置である。なお、アトマイザー式の噴霧器10は、ノズルの先端に小さな開口部を複数個形成し、当該開口部より還元剤前駆体50を霧状に噴霧する装置であってもよい。
【0018】
噴霧器10は、例えば、図1に示されるように、セラミックス基材21が柱状セラミックスハニカム基材22である場合、柱状セラミックスハニカム基材22の第1端面26a側に還元剤前駆体50を噴霧し易くするために、還元剤前駆体50の噴霧方向(液滴が飛び出す方向)が、柱状セラミックスハニカム基材22の第1端面26a側を向いていることが好ましい。
【0019】
(1-2)加熱ヒータ20
加熱ヒータ20としては、特に限定されないが、図1に示されるように、外周壁23と、外周壁23の内側に配設され、第1端面26aから第2端面26bまで流路を形成する複数のセル27を区画形成する隔壁24とを有する柱状セラミックスハニカム基材22と、柱状セラミックスハニカム基材22の側面に配設された一対の電極部25とを含むことが好ましい。このような構造の加熱ヒータ20とすることにより、一対の電極部25に電圧を印加した場合に、柱状セラミックスハニカム基材22を通電により発熱させることが可能である。また、このような構造の加熱ヒータ20は、表面積を大きくすることができるため、少ないエネルギーで還元剤前駆体50を加熱して還元剤60を生成することが可能である。
【0020】
(1-2-1)柱状セラミックスハニカム基材22
柱状セラミックスハニカム基材22を構成する外周壁23及び隔壁24の材質は、セラミックスであれば特に限定されないが、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分としていることが好ましく、珪素-炭化珪素複合材を主成分としていることがより好ましい。このような材質を用いることにより、柱状セラミックスハニカム基材22の電気抵抗率を、炭化珪素と珪素との比率を変更することで任意の値に調整し易くなる。
ここで、本明細書において「珪素-炭化珪素複合材」とは、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての金属珪素を含有するものを意味する。珪素-炭化珪素複合材は、複数の炭化珪素粒子が、金属珪素によって結合されていることが好ましい。また、本明細書において「炭化珪素」とは、炭化珪素粒子同士が焼結して形成されたものを意味する。また、本明細書において「主成分」とは、90質量%以上含有される成分のことを意味する。
【0021】
柱状セラミックスハニカム基材22の電気抵抗率は、特に限定されないが、0.01~500Ωcmであることが好ましく、0.1~200Ωcmであることがより好ましい。このような電気抵抗率に制御することにより、一対の電極部25に電圧を印加することにより、柱状セラミックスハニカム基材22を効果的に発熱させることができる。特に、電圧12~200Vの電源を用いて、柱状セラミックスハニカム基材22を160~600℃に発熱させるためには、電気抵抗率を上記の範囲とすることが好ましい。
なお、柱状セラミックスハニカム基材22の電気抵抗率は、25℃における値である。また、柱状セラミックスハニカム基材22の電気抵抗率は、四端子法により測定した値である。
【0022】
柱状セラミックスハニカム基材22の単位体積当たりの表面積は、特に限定されないが、5cm2/cm3以上であることが好ましく、8~45cm2/cm3であることがより好ましく、20~40cm2/cm3であることが特に好ましい。この表面積が5cm2/cm3以上であると、還元剤前駆体50との接触面積が十分に確保され、還元剤前駆体50の処理速度、すなわち還元剤60の発生量(発生速度)が適切に制御される。
なお、柱状セラミックスハニカム基材22の表面積は、柱状セラミックスハニカム基材22の隔壁24の表面の面積である。
後述の浸透工程において、柱状セラミックスハニカム基材22に還元剤前駆体50を浸透させる観点から、柱状セラミックスハニカム基材22の総気孔容積は、0.3cc~100ccであることが好ましい。なお、還元剤生成装置100が用いられるエンジンなどの内燃機関の大きさにより、要求される還元剤量が大きく異なることから、柱状セラミックスハニカム基材22の総容積も変化する。柱状セラミックスハニカム基材22の総容積に応じて、上記の総気孔容積が大きくなる。
【0023】
柱状セラミックスハニカム基材22の隔壁24の厚さは、0.06~1.5mmが好ましく、0.10~0.80mmがより好ましい。隔壁24の厚さが1.5mm以下であると、圧力損失が低減され、還元剤前駆体50の処理速度、すなわち還元剤60の発生量(発生速度)が適切に制御される。隔壁24の厚さが0.06mm以上であると、通電加熱による熱衝撃で柱状セラミックスハニカム基材22が破壊されることが抑制される。
なお、セル27の形状(セル27の延びる方向に直交する断面の形状)が、円形の場合、隔壁24の厚さとは、「セル27同士の間の距離が最も短くなっている部分(隔壁24の厚さが小さい部分)」における隔壁24の厚さを意味する。
セル27の密度は、7~140セル/cm2が好ましく、15~120セル/cm2が更に好ましい。セル27の密度が7セル/cm2以上であると、還元剤前駆体50との接触面積が十分に確保され、還元剤前駆体50の処理速度、すなわち還元剤60の発生量(発生速度)が適切に制御される。セル27の密度が140セル/cm2以下であると、圧力損失が低減され、還元剤前駆体50の処理速度、すなわち還元剤60の発生量(発生速度)が適切に制御される。
【0024】
柱状セラミックスハニカム基材22は、一部のセル27に対し、第1端面26a側の端部に目封止部を設けてもよい。目封止部の材質は、隔壁24の材質と同じであることが好ましいが、他の材質であってもよい。
【0025】
第1端面26a及び第2端面26bの形状は、特に限定されないが、正方形、長方形、その他の多角形、円形、楕円形などの各種形状であってもよい。また、第1端面26aの形状は、第2端面26bの形状と同じであり、セル27の延びる方向に直交する断面の形状と同じであることが好ましい。
【0026】
柱状セラミックスハニカム基材22の大きさは、第1端面26a及び第2端面26bの面積がそれぞれ50~10000mm2であることが好ましく、100~8000mm2であることがより好ましい。
【0027】
セル27の延びる方向に直交する断面におけるセル27の形状は、特に限定されず、円形、楕円形、四角形、六角形、八角形又はこれらの組み合わせであることが好ましい。このような形状にすることにより、柱状セラミックスハニカム基材22に排ガスを流したときの圧力損失が小さくなり、還元剤前駆体50を効率的に分解することが可能となる。
【0028】
柱状セラミックスハニカム基材22には、還元剤前駆体50を加水分解する触媒(例えば、尿素加水分解触媒)が備えられていてもよい。このような触媒を用いることにより、還元剤前駆体50から還元剤60を効率的に生成させることができる。このような触媒の例としては、酸化チタンなどを挙げることができる。
【0029】
(1-2-2)電極部25
一対の電極部25は、柱状セラミックスハニカム基材22のセル27が延びる方向に直交する断面において、一方の電極部25に対して、他方の電極部25が柱状セラミックスハニカム基材22の中心軸を挟んで反対側に配設される。また、一対の電極部25は、セル27が延びる方向に沿って帯状に形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、一対の電極部25の間に電圧を印加した時に、柱状セラミックスハニカム基材22を流れる電流の偏りを抑制することができるため、柱状セラミックスハニカム基材22の発熱の偏りを抑制することが可能になる。
なお、電極部25は一対であってよいが、柱状セラミックスハニカム基材22の発熱効率を高める観点から、複数対としてもよい。
【0030】
また、一対の電極部25に対する電圧の印加は、第1端面26aにおける温度が900℃以下となるように柱状セラミックスハニカム基材22を発熱させることが好ましい。第1端面26aにおける温度は、柱状セラミックスハニカム基材22に温度測定手段を直接設けることにより測定することができる。あるいは、排ガス温度、排ガス流量及び還元剤前駆体50の噴霧量から第1端面26aにおける温度を推定することも可能である。また、エンジンの運転条件をマッピングすれば、排ガス温度及び排ガス流量の測定に代えることもできる。
【0031】
電極部25の材質は、特に限定されないが、柱状セラミックスハニカム基材22の隔壁24の主成分と同じであることが好ましい。
電極部25の電気抵抗率は、0.0001~100Ωcmであることが好ましく、0.001~50Ωcmであることがより好ましい。電極部25の電気抵抗率をこのような範囲にすることにより、一対の電極部25が、高温の排ガスが流れる排気筒内において、電極の役割を効果的に果たす。電極部25の電気抵抗率は、柱状セラミックスハニカム基材22の電気抵抗率より低いものであることが好ましい。
なお、電極部25の電気抵抗率は、25℃における値である。また、電極部25の電気抵抗率は、四端子法により測定した値である。
【0032】
(1-3)筒状部材30及び絶縁保持部40
還元剤生成装置100は、図1に示されるように、筒状部材30及び絶縁保持部40を更に備えることができる。この場合、加熱ヒータ20は、筒状部材30内に収容されており、加熱ヒータ20と筒状部材30との間が絶縁保持部40によって固定されていることが好ましい。このような構成とすることにより、一対の電極部25が配設された柱状セラミックスハニカム基材22と筒状部材30との間の絶縁が確保される。
【0033】
筒状部材30の材質は、特に限定されないが、ステンレス鋼などが好ましい。
筒状部材30の形状は、柱状セラミックスハニカム基材22と嵌合させるため、セル27の延びる方向に直交する断面において、柱状セラミックスハニカム基材22の形状と同種であることが好ましい。ここで、本明細書において「同種の形状」とは、筒状部材30の形状が正方形であるときには、柱状セラミックスハニカム基材22の形状も正方形であり、筒状部材30の形状が長方形であるときには、柱状セラミックスハニカム基材22の形状も長方形であることを意味する。なお、例えば、筒状部材30の形状及び柱状セラミックスハニカム基材22の形状が、同種の形状であり、その形状が長方形である場合、縦と横との長さの比までが同じである必要はない。
【0034】
筒状部材30の外側表面には、外部からの電気配線28を電極部25に繋ぐためのコネクタ29が配設されていてもよい。
【0035】
絶縁保持部40は、一対の電極部25が配設された柱状セラミックスハニカム基材22と筒状部材30との間に配置される。絶縁保持部40は、一対の電極部25が配設された柱状セラミックスハニカム基材22と筒状部材30との間を保持可能であれば、当該間に絶縁保持部40が配設されていない部分(空間)があってもよいが、当該間の全体に絶縁保持部40が配設されていてもよい。
絶縁保持部40の材質は、絶縁性に優れたものであれば特に限定されないが、アルミナであることが好ましい。
【0036】
上述のような構造を有する還元剤生成装置100は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。具体的には、以下のようにして還元剤生成装置100を製造することができる。
まず、噴霧器10、加熱ヒータ20、外側表面にコネクタ29が配設された筒状部材30、絶縁保持部40、電気配線28を準備する。次に、筒状部材30内に加熱ヒータ20を挿入し、絶縁保持部40を介して加熱ヒータ20を固定するとともに、筒状部材30の一端に噴霧器10を配置する。そして、筒状部材30のコネクタ29と加熱ヒータ20の一対の電極部25との間を電気配線28によって接続すればよい。
【0037】
次に、加熱ヒータ20の典型的な製造方法を説明する。
まず、成形原料を押出成形して、柱状セラミックスハニカム基材22と同じ構造を有するハニカム成形体を作製する。成形原料は、セラミックス原料及び有機バインダを含むことが好ましい。成形原料には、セラミックス原料及び有機バインダ以外に、界面活性剤、焼結助剤、造孔材、水などを更に配合してもよい。成形原料は、これらの原料を混合することによって得ることができる。
【0038】
成形原料中のセラミックス原料は、「セラミックス」又は「焼成によりセラミックスとなる原料」である。セラミックス原料は、いずれの場合も、焼成後にセラミックスとなる。成形原料中のセラミックス原料は、金属珪素及び炭化珪素粒子(炭化珪素粉末)を主成分とするか、又は炭化珪素粒子(炭化珪素粉末)を主成分とすることが好ましい。これにより、得られる柱状セラミックスハニカム基材22が導電性になる。金属珪素も金属珪素粒子(金属珪素粉末)であることが好ましい。なお、「金属珪素及び炭化珪素粒子を主成分とする」とは、金属珪素及び炭化珪素粒子の合計質量が、全体(セラミックス原料)の90質量%以上であることを意味する。また、セラミックス原料に含まれる、主成分以外の成分としては、SiO2、SrCO3、Al23、MgCO3、コージェライトなどを挙げることができる。
【0039】
セラミックス原料の主成分として炭化珪素を用いた場合には、焼成によって炭化珪素が焼結される。また、セラミックス原料の主成分として金属珪素及び炭化珪素粒子を用いた場合には、焼成により、金属珪素を結合材として、骨材である炭化珪素同士が結合される。
【0040】
セラミックス原料として、炭化珪素粒子(炭化珪素粉末)及び金属珪素粒子(金属珪素粉末)を用いた場合、炭化珪素粒子の質量と金属珪素粒子の質量との合計に対して、金属珪素粒子の質量が10~40質量%であることが好ましい。
【0041】
有機バインダとしては、メチルセルロース、グリセリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを挙げることができる。有機バインダとしては、1種類の有機バインダを用いてもよいし、複数種類の有機バインダを用いてもよい。有機バインダの配合量は、セラミックス原料の合計質量を100質量部としたときに、5~10質量部であることが好ましい。
【0042】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリンなどを用いることができる。界面活性剤としては、1種類の界面活性剤を用いてもよいし、複数種類の界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤の配合量は、セラミックス原料の合計質量を100質量部としたときに、0.1~2.0質量部であることが好ましい。
【0043】
焼結助剤としては、SiO2、SrCO3、Al23、MgCO3、コージェライトなどを用いることができる。焼結助剤としては、1種類の焼結助剤を用いてもよいし、複数種類の焼結助剤を用いてもよい。焼結助剤の配合量は、セラミックス原料の合計質量を100質量部としたときに、0.1~3質量部であることが好ましい。
【0044】
造孔材としては、焼成後に気孔を形成するものであれば特に限定されず、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲルなどを挙げることができる。造孔材としては、1種類の造孔材を用いてもよいし、複数種類の造孔材を用いてもよい。造孔材の配合量は、セラミックス原料の合計質量を100質量部としたときに、0.5~10質量部であることが好ましい。
【0045】
水の配合量は、セラミックス原料の合計質量を100質量部としたときに、20~60質量部であることが好ましい。
【0046】
成形原料を押出成形する際には、まず、成形原料を混練して坏土を作製する。次に、坏土を押出成形してハニカム成形体を得る。ハニカム成形体は、外周壁23と、外周壁23の内側に配設され、第1端面26aから第2端面26bまで延びる複数のセル27を区画形成する多孔質の隔壁24とを有する。ハニカム成形体の隔壁24は、未乾燥、未焼成の隔壁24である。
【0047】
次に、得られたハニカム成形体を乾燥させてハニカム乾燥体を作製する。乾燥条件は、特に限定されず、公知の条件を用いることができる。例えば、80~120℃で、0.5~5時間乾燥させることが好ましい。
【0048】
次に、ハニカム乾燥体の側面に、セラミックス原料と水とを含有する電極形成用スラリーを塗布した後、電極形成用スラリーを乾燥させて一対の未焼成電極部を形成して、未焼成電極部付きハニカム体を作製する。
【0049】
未焼成電極部付きハニカム体は、ハニカム乾燥体に、セル27の延びる方向に帯状に延びると共に周方向にも広がる、幅広の長方形の未焼成電極部が形成されていることが好ましい。周方向とは、セル27の延びる方向に直交する断面において、ハニカム乾燥体の側面に沿った方向のことである。
【0050】
未焼成電極部付きハニカム体作製工程で用いられる電極形成用スラリーは、セラミックス原料と水とを含有する。電極形成用スラリーには、界面活性剤、造孔材、水などを配合してもよい。
電極形成用スラリーに用いられるセラミックス原料としては、ハニカム成形体を作製する際に用いられるセラミックス原料を用いることが好ましい。例えば、ハニカム成形体を作製する際に用いられるセラミックス原料の主成分を炭化珪素粒子及び金属珪素とした場合には、電極形成用スラリーのセラミックス原料としても炭化珪素粒子及び金属珪素を用いればよい。
【0051】
ハニカム乾燥体の側面に、電極形成用スラリーを塗布する方法は特に限定されない。電極形成用スラリーは、例えば、刷毛を用いて塗布したり、印刷の手法を用いて塗布したりすることができる。
【0052】
ハニカム乾燥体に電極形成用スラリーを塗布した後に、電極形成用スラリーを乾燥させて、未焼成電極部(未焼成電極部付きハニカム体)を得ることができる。乾燥温度は、80~120℃であることが好ましい。また、乾燥時間は、0.1~5時間であることが好ましい。
【0053】
次に、未焼成電極部付きハニカム体を焼成してハニカム構造体(柱状セラミックスハニカム基材22)を作製する。
焼成条件は、ハニカム成形体の製造に用いられたセラミックス原料、及び電極形成用スラリーに用いられたセラミックス原料の種類に応じて適宜決定すればよい。
また、未焼成電極部付きハニカム成形体を乾燥させた後、焼成前に、バインダなどを除去するため、仮焼成を行うことが好ましい。仮焼成は、大気雰囲気下、400~500℃で0.5~20時間行うことが好ましい。
【0054】
<還元剤生成装置の制御方法>
本発明の実施形態に係る還元剤生成装置の制御方法は、上述したような構造を有する還元剤生成装置100の制御方法であり、加熱ヒータ20の非加熱時に、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧し、セラミックス基材21に還元剤前駆体50を浸透させる浸透工程と、浸透工程の後に、加熱ヒータ20で還元剤前駆体50を加熱し、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧しつつ還元剤60を生成する加熱工程Aとを含む。
【0055】
ここで、まず、還元剤生成装置100の従来の制御方法について図2のフロー図を用いて説明する。
図2に示されるように、従来の制御方法では、還元剤生成装置100を起動する場合、加熱ヒータ20を所定の温度に加熱した後に、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧する。また、還元剤生成装置100を停止する場合、還元剤前駆体50の噴霧を停止した後に、加熱ヒータ20の加熱を停止する。このような起動停止プロセスが、還元剤生成装置100を使用する度に繰り返し行われる。
【0056】
前回の起動停止プロセスにおいて、還元剤生成装置100を停止する場合、加熱ヒータ20のセラミックス基材21に残存した還元剤前駆体50(例えば、尿素)がデポジット化することを抑制するために、還元剤前駆体50の噴霧を停止した後に、加熱ヒータ20の加熱を停止する。そのため、還元剤生成装置100の停止時には、加熱ヒータ20のセラミックス基材21に還元剤前駆体50が残存していないのが一般的である。
したがって、今回の起動停止プロセスにおいて、還元剤生成装置100を起動する場合、加熱ヒータ20を所定の温度に加熱した後に噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧すると、噴霧された還元剤前駆体50がまずセラミックス基材21に浸透するため、加熱ヒータ20の温度が一旦低下する。その後、加熱ヒータ20が所定の温度まで再び加熱されると、還元剤前駆体50が熱分解して還元剤60が生成される。このように、還元剤生成装置100の従来の制御方法では、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧した後、還元剤前駆体50が熱分解して還元剤60が生成されるまでに時間がかかり、還元剤60を迅速に生成することが難しいという問題があった。
【0057】
これに対して本発明の実施形態に係る還元剤生成装置100の制御方法は、加熱ヒータ20の非加熱時に、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧し、セラミックス基材21に還元剤前駆体50を浸透させた後に、加熱ヒータ20で還元剤前駆体50を加熱しているため、従来の制御方法に比べて還元剤60を迅速に生成することができる。また、その後、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧しているため、還元剤60を継続的に生成することができる。
【0058】
ここで、本発明の実施形態に係る還元剤生成装置100の制御方法の典型例を図3及び4のフロー図を用いて説明する。
図3は、浸透工程後に加熱工程Aを含む還元剤生成装置100の制御方法である。
浸透工程は、還元剤前駆体50の予備噴霧ステップを含む。具体的には、浸透工程は、加熱ヒータ20の非加熱時に、噴霧器10から還元剤前駆体50を予め噴霧し、セラミックス基材21に還元剤前駆体50を浸透させる工程である。
加熱工程Aは、加熱ヒータ20の加熱開始ステップ及び還元剤前駆体50の噴霧開始ステップを含む。具体的には、加熱工程Aは、加熱ヒータ20で還元剤前駆体50を加熱し、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧しつつ還元剤60を生成する工程である。また、加熱工程Aは、還元剤生成装置100を停止するために、還元剤前駆体50の噴霧停止ステップ及び加熱ヒータ20の加熱停止ステップを更に含むことができる。なお、図3では、還元剤前駆体50の噴霧停止ステップの後に加熱ヒータ20の加熱停止ステップを行う例を示しているが、加熱ヒータ20の加熱停止ステップの後に還元剤前駆体50の噴霧停止ステップを行ってもよい。また、還元剤前駆体50の噴霧開始ステップと加熱ヒータ20の加熱開始ステップは、ほぼ同時に行ってもよい。このような浸透工程及び加熱工程Aが還元剤生成装置100を使用する度に繰り返し行われる。
【0059】
図4は、浸透工程の前に加熱工程Bを更に含む還元剤生成装置100の制御方法である。すなわち、この制御方法は、加熱工程B、浸透工程及び加熱工程Aが、この順に行われる。
加熱工程Bは、加熱ヒータ20の加熱開始ステップ及び還元剤前駆体50の噴霧開始ステップを含む。具体的には、加熱工程Bは、加熱ヒータ20で還元剤前駆体50を加熱し、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧しつつ還元剤60を生成する工程である。また、加熱工程Bは、還元剤生成装置100を停止するために、還元剤前駆体50の噴霧停止ステップ及び加熱ヒータ20の加熱停止ステップを更に含むことができる。なお、図4では、還元剤前駆体50の噴霧停止ステップの後に加熱ヒータ20の加熱停止ステップを行う例を示しているが、加熱ヒータ20の加熱停止ステップの後に還元剤前駆体50の噴霧停止ステップを行ってもよい。また、加熱工程Bにおいて、加熱ヒータ20の加熱開始ステップと還元剤前駆体50の噴霧開始ステップは、ほぼ同時に行ってもよい。
【0060】
ここで、図3のフロー図に従う本発明の実施形態に係る還元剤生成装置100の制御方法、及び図2のフロー図に従う従来の還元剤生成装置100の制御方法における時間とアンモニア(還元剤60)の発生量との関係を表すグラフを図5に示す。図5に示されるように、本発明の実施形態に係る還元剤生成装置100の制御方法は、従来の還元剤生成装置100の制御方法に比べて迅速にアンモニアを生成することができる。
【0061】
浸透工程では、セラミックス基材21における還元剤前駆体50の浸透率が、セラミックス基材21の全気孔容積に対して5~75%であることが好ましい。還元剤前駆体50の浸透率を5%以上とすることにより、還元剤60の迅速な生成を安定して確保し易くなる。また、還元剤前駆体50の浸透率を75%以下とすることにより、セラミックス基材21に浸透した還元剤前駆体50のデポジット化を抑制することができる。また、還元剤前駆体50の一部が熱分解されずにそのまま放出されることを抑制することもできる。
【0062】
ここで、還元剤前駆体50の浸透率は、以下の式(1)によって求めることができる。
還元剤前駆体50の浸透率[%]=セラミックス基材21に浸透した還元剤前駆体50の質量[g]/(セラミックス基材21の総気孔容積[cc]×還元剤前駆体50の密度[g/cc]) ・・・(1)
例えば、還元剤前駆体50としてAdBlue(32.5質量%の尿素水溶液、ドイツ自動車工業会(VDA)の登録商標)を用いる場合、尿素水溶液の密度は、以下の式(2)によって求めることができる。
尿素水溶液の密度[g/cc]=尿素の密度×0.325+水の密度×0.675 ・・・(2)
なお、総気孔容積は、水銀圧入方法によって測定された値である。水銀ポロシメータとしては、Micromeritics社製、商品名:Autopore 9500を挙げることができる。
【0063】
上記の還元剤生成装置100の制御方法に用いられる還元剤前駆体50としては、特に限定されず、生成させる還元剤60の種類に応じて適宜選択すればよい。
例えば、還元剤60がアンモニアである場合、還元剤前駆体50として尿素水溶液を選択することができる。
【0064】
上記の還元剤生成装置100の制御方法によって得られる還元剤60は、還元剤60が要求される各種用途で用いることができる。
例えば、還元剤60がアンモニアである場合、NOx(窒素酸化物)を含有する排ガスの処理に用いることができる。
【0065】
還元剤前駆体50として尿素水溶液を用いる場合、加熱工程では、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧して加熱ヒータ20で還元剤前駆体50を加熱する。具体的には、噴霧器10から柱状セラミックスハニカム基材22の第1端面26aに還元剤前駆体50を噴霧すると、還元剤前駆体50が柱状セラミックスハニカム基材22のセル27内に供給される。セル27内に供給された尿素水溶液中の尿素は、加熱された柱状セラミックスハニカム基材22の温度により分解されてアンモニア(還元剤60)が生成し、柱状セラミックスハニカム基材22の第2端面26bから排出される。
【0066】
生成したアンモニアを、NOxを含有する排ガスの処理に用いる場合、加熱工程における尿素水溶液の供給量は、排ガスに含有されるNOx量に対して、当量比で1.0~2.0であることが好ましい。当量比が1.0未満の場合、浄化されずに排出されるNOx量が増加することがある。ただし、SCR触媒にNOx吸蔵機能を付与すれば、当量比が1.0未満の期間があってもよい。当量比が2.0を超えると、排ガス中にアンモニアが混入した状態で排ガスが排出される可能性が高くなる恐れがある。
【0067】
尿素水溶液としては、特に限定されないが、10~40質量%の尿素を含む水溶液であることが好ましい。尿素含有量が10質量%未満であると、NOx還元のために多量の尿素水溶液を噴霧する必要があり、柱状セラミックスハニカム基材22の通電加熱に要求される電力量が多くなることがある。尿素含有量が40質量%を超えると、寒冷地で尿素水溶液が凝固する懸念がある。尿素水溶液の好適な例としては、上述したAdBlue(32.5質量%の尿素水溶液、ドイツ自動車工業会(VDA)の登録商標)が挙げられる。
【0068】
柱状セラミックスハニカム基材22の加熱温度は、特に限定されないが、160℃以上とすることが好ましく、160~600℃とすることがより好ましく、250~400℃とすることが更に好ましい。加熱温度が160℃以上であると、尿素が効率良く分解され易くなる。加熱温度が600℃以下であると、アンモニアが燃焼され、アンモニアの供給が不足することを抑制できる。
【0069】
柱状セラミックスハニカム基材22に印加する最大電圧は、12~200Vとすることが好ましく、12~100Vとすることがより好ましく、12~48Vとすることがさらに好ましい。最大電圧が12V以上であると、柱状セラミックスハニカム基材22を昇温し易くなる。最大電圧が200V以下であると、電圧を昇圧させる装置が高価になることが抑制される。
【0070】
<還元剤生成システム>
本発明の実施形態に係る還元剤生成システムは、上述したような構造を有する還元剤生成装置100、及び噴霧器10からの還元剤前駆体50の噴霧を制御する還元剤前駆体噴霧制御部と、加熱ヒータ20での還元剤前駆体50の加熱を制御するヒータ制御部とを備える制御装置を含む。そして、還元剤前駆体噴霧制御部は、加熱ヒータ20の非加熱時に、噴霧器10から還元剤前駆体50を噴霧する制御信号を生成し、セラミックス基材21に還元剤前駆体50を浸透可能に制御する。このような制御を行うことにより、還元剤60を迅速に生成することができる。
なお、浸透工程については、還元剤生成装置100の制御方法で説明した内容と同じであるため、説明を省略する。
【0071】
制御装置としては、特に限定されないが、コンピュータである。例えば、この還元剤生成システムを排ガス浄化処理システムに用いる場合、制御装置はECU(エンジンコントロールユニット)とすることができる。ECUは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、及び出力ポートなどを含むように構成される。ECUの後述する各機能は、例えば、CPUがROM、RAMなどに記憶された制御プログラムや各種データを参照することによって実現される。但し、当該機能は、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア回路によっても実現できる。ECUは、噴霧器10や加熱ヒータ20などと通信することで、これらを制御したり、これらの状態情報を取得したりすることができる。
【0072】
還元剤前駆体噴霧制御部は、噴霧器10から噴霧する尿素水溶液(還元剤前駆体50)の量、噴霧の有無(タイミングなど)、噴霧時間などを制御するための制御信号を生成する。還元剤前駆体噴霧制御部は、セラミックス基材21における尿素水溶液の浸透率が、セラミックス基材の全気孔容積に対して5~75%となるように前記還元剤前駆体の噴霧量を制御することができる。
ヒータ制御部は、加熱ヒータ20の加熱温度、加熱の有無(タイミングなど)、加熱時間などを制御するため、加熱ヒータ20へ印加する電力を制御する制御信号を生成する。
【0073】
<排ガス浄化処理方法>
本発明の実施形態に係る排ガス浄化処理方法は、上述した還元剤生成装置100の制御方法によって生成した還元剤60を、NOxを含有する排ガスと接触させることを含む。
上述した還元剤生成装置100の制御方法は、還元剤60を迅速に生成することが可能であるため、この排ガス浄化処理方法によれば、エンジンの始動直後に迅速に還元剤60を生成して排ガス浄化処理を行うことができる。
本発明の実施形態に係る排ガス浄化処理方法は、還元剤60を排ガスと接触させた後、SCR触媒で還元処理してもよい。これにより、排ガス中のNOxを効率的に除去することができる。
【0074】
<排ガス浄化処理システム>
本発明の実施形態に係る排ガス浄化処理システムは、上述した還元剤生成システムを含む。また、還元剤生成システムの還元剤生成装置100は、NOxを含有する排ガスが流通可能な排気管又は前記排気管に接続された分岐管に設けられている。
上述した還元剤生成システムは、アンモニア(還元剤60)を迅速に生成することが可能であるため、この排ガス浄化処理システムによれば、エンジンの始動直後に迅速にアンモニアを生成して排ガス浄化処理を行うことができる。
【0075】
還元剤生成装置100から排気管に放出されるアンモニアの量は、特に限定されないが、排ガスに含有されるNOx量に対して、当量比で1.0~2.0であることが好ましい。当量比が1.0未満の場合は、浄化されずに排出されるNOx量が増加することがある。当量比が2.0を超えると、排ガス中にアンモニアが混入した状態で排ガスが排出される可能性が高くなる恐れがある。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
<還元剤生成装置の作製>
図1に示されるような還元剤生成装置を作製した。具体的な作製方法は以下の通りである。
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを70:30の質量割合で混合し、セラミックス原料を調製した。そして、セラミックス原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加するとともに、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機によって混練し、坏土を得た。バインダの含有量はセラミックス原料を100質量部としたときに7質量部であった。造孔材の含有量はセラミックス原料を100質量部としたときに3質量部であった。水の含有量はセラミックス原料を100質量部としたときに42質量部であった。炭化珪素粉末の平均粒子径は20μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。また、造孔材の平均粒子径は、20μmであった。炭化珪素、金属珪素及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。
【0078】
次に、得られた坏土を押出成形機を用いて成形し、円柱状(セルの延びる方向に直交する断面が円形)のハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥して両端面を所定量切断し、ハニカム乾燥体を得た。
【0079】
次に、炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを60:40の質量割合で混合し、電極用セラミックス原料を作製した。そして、電極用セラミックス原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、保湿剤としてグリセリン、分散剤として界面活性剤を添加するとともに水を添加して混合した。混合物を混練して電極形成用スラリーとした。バインダの含有量は電極用セラミックス原料を100質量部としたときに0.5質量部であった。グリセリンの含有量は電極用セラミックス原料を100質量部としたときに10質量部であった。界面活性剤の含有量は電極用セラミックス原料を100質量部としたときに0.3質量部であった。水の含有量は電極用セラミックス原料を100質量部としたときに42質量部であった。炭化珪素粉末の平均粒子径は52μmであり、金属珪素粉末の平均粒子径は6μmであった。炭化珪素及び金属珪素の平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。混練は、縦型の撹拌機で行った。
【0080】
次に、ハニカム乾燥体の側面に電極形成用スラリーを帯状且つ一対となるように塗布した後、電極形成用スラリーを乾燥させて一対の未焼成電極部を形成し、未焼成電極部付きハニカム体を得た。電極形成用スラリーの乾燥温度は、70℃とした。
【0081】
次に、未焼成電極部付きハニカム体を脱脂した後、焼成し、更に酸化処理して加熱ヒータを得た。脱脂の条件は、550℃で3時間とした。焼成の条件は、アルゴン雰囲気下、1450℃で2時間とした。酸化処理の条件は、1300℃で1時間とした。
【0082】
得られた加熱ヒータにおいて、柱状セラミックスハニカム基材の隔壁の厚さは0.152mmであり、セルピッチは1.11mmであった。また、柱状セラミックスハニカム基材の単位体積当たりの表面積は、31.1cm2/cm3であった。また、柱状セラミックスハニカム基材の形状は、両端面が一辺30mmの正方形、セルの延びる方向における長さが25mmの角柱状であった。また、電極部の電気抵抗率は、0.1Ωcmであり、柱状セラミックスハニカム基材の電気抵抗率は、1.4Ωcmであった。
【0083】
次に、筒状部材をステンレス鋼により作製し、その外側表面にコネクタを2個装着した。この筒状部材に加熱ヒータを挿入し、アルミナ製の絶縁保持部を介して加熱ヒータを固定すると共に、筒状部材の一端にソレノイド式の噴霧器を配置した。また、筒状部材のコネクタと加熱ヒータの一対の電極部との間を電気配線によって接続した。
【0084】
<還元剤生成試験>
上記で得られた還元剤生成装置を排気管に装着し、還元剤生成試験を行った。この試験では、還元剤前駆体としてAdBlue(32.5質量%の尿素水溶液、ドイツ自動車工業会(VDA)の登録商標)を用い、所定量のアンモニア(還元剤)が生成するまでの時間を測定することによって評価した。また、尿素水溶液(還元剤前駆体)の抜け(還元剤生成装置から尿素水溶液がそのまま排出されること)についても評価した。具体的な試験方法は、以下の通りである。
まず、図6に示されるように、還元剤生成装置100を排気管200に設置した。還元剤生成装置100は、排気管200に対して45°の角度θで分岐して接続した分岐管に設置した。また、還元剤生成装置100を設置した分岐部の中点Aと還元剤生成装置100との距離L1を10mmとした。
次に、還元剤生成装置100において、加熱ヒータの加熱前に噴霧器から尿素水溶液を表1の浸透率となるように予め噴霧して柱状セラミックスハニカム基材に浸透させた(浸透工程)。ただし、試験No.1については、この浸透工程を実施しなかった。
尿素水溶液の浸透率は、上述した式(1)に従って算出した。なお、柱状セラミックスハニカム基材に浸透した尿素水溶液の質量(浸透量)は、尿素水溶液の噴霧後の柱状セラミックスハニカム基材の質量から尿素水溶液の噴霧前の柱状セラミックス基材の質量を引くことによって算出した。この尿素水溶液の浸透量は、還元剤生成装置100から柱状セラミックスハニカム基材を取り外して行った。また、尿素水溶液の密度は、上述した式(2)に従って算出した。
【0085】
次に、噴霧器から尿素水溶液を1.0g/分の量で噴霧し、柱状セラミックスハニカム基材に約39Vの電圧を印加して加熱ヒータを加熱することにより、アンモニアを生成させた(加熱工程)。なお、電源から柱状セラミックスハニカム基材に印加可能な最大電圧は、48Vに設定した。そして、排気管200には、650mL/分の空気を流通させ、20ppm及び100ppmのアンモニアが検出されるまでの時間を測定した。この測定は、還元剤生成装置100を設置した分岐部の中点Aに対応する排気管200の中心部からの距離L2が600mmとなる排気管200内の測定点Bで行った。
また、尿素水溶液の抜けについては、排気管200を目視観察し、排気管200内に尿素の析出がなければ、尿素水溶液の抜けがない(A)と評価した。逆に、排気管200内に尿素の析出があれば、尿素水溶液の抜けがある(B)と評価した。
上記の評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、浸透工程を行った試験No.2~5の制御方法(本発明例)は、浸透工程を行わなかった試験No.1の制御方法(比較例)に比べて、20ppm及び100ppmのアンモニアが検出される時間が短く、アンモニアを迅速に生成し得ることが確認された。
【0088】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、還元剤を迅速に生成することが可能な還元剤生成装置の制御方法及び還元剤生成システムを提供することができる。また、本発明によれば、エンジンの始動直後に迅速に還元剤を生成して排ガス浄化処理を行うことが可能な排ガス浄化処理方法及び排ガス浄化処理システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 噴霧器
20 加熱ヒータ
21 セラミックス基材
22 柱状セラミックスハニカム基材
23 外周壁
24 隔壁
25 電極部
26a 第1端面
26b 第2端面
27 セル
28 電気配線
29 コネクタ
30 筒状部材
40 絶縁保持部
50 還元剤前駆体
60 還元剤
100 還元剤生成装置
200 排気管
図1
図2
図3
図4
図5
図6