(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】組成物、その製造法、およびそれから作られた物品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240119BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240119BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240119BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240119BHJP
C08K 5/51 20060101ALI20240119BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20240119BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240119BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240119BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20240119BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/34
C08K5/09
C08K5/3492
C08K5/51
C08K7/14
C08L27/18
C08L53/02
C08L71/12
(21)【出願番号】P 2022574198
(86)(22)【出願日】2021-05-05
(86)【国際出願番号】 IB2021053812
(87)【国際公開番号】W WO2021245478
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-12-01
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521198963
【氏名又は名称】エスエイチピーピー グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー ジュン ア
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/005544(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109897347(CN,A)
【文献】特開2010-027346(JP,A)
【文献】特開2013-007058(JP,A)
【文献】特開2015-120891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
前記組成物が、
5から25質量%のポリ(フェニレンエーテル)と、
20から40質量%のポリ(アルキレンテレフタラート)と、
5から15質量%の、アルケニル芳香族モノマと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、
0.01から2質量%の相溶化剤(compatibilizing agent)と、
5から25質量%の、窒素含有化合物、リン含有化合物、またはこれらの組み合わせを含むアーク抑制剤と、
5から25質量%のガラス繊維と、
5から20質量%の前記ガラス繊維以外の無機充填剤と、
0.1から5質量%のポリ(テトラフルオロエチレン)と
を含み、
それぞれの成分の質量%が、前記組成物の総質量に対してであり、
ジ(C
1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩の含有量が4質量%未満であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記組成物から成形したサーキットブレーカハウジングが、UL 489 Zシーケンス試験に合格することを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物であって、前記組成物が、ジ(C
1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩又は金属ホウ酸塩を含まないことを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリ(アルキレンテレフタラート)が、ポリ((C
1~8アルキレン)テレフタラート)を含むことを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の組成物であって、前記ポリ(フェニレンエーテル)が、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含むことを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の組成物であって、前記水素化ブロック共重合体が、スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体を含むことを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の組成物であって、
前記相溶化剤が、
フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クエン酸、またはこれらの組み合わせ、
多官能ポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤、
または、その両方
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の組成物であって、前記組成物が、酸化防止剤、潤滑剤、熱安定剤、紫外光吸収剤、可塑剤、アンチドリップ剤、離型剤、静電気防止剤、染料、顔料、レーザマーキング剤(laser marking additive)、放射線安定剤、またはこれらの組み合わせを含む、添加剤組成物を更に含むことを特徴とする組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の組成物であって、前記組成物が、0から25質量%のポリアミドを含むことを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の組成物であって、前記アーク抑制剤が、ポリリン酸メラミン、シアヌル酸メラミン、またはこれらの組み合わせを含むことを特徴とする組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物であって、
前記組成物が、
5から15質量%の、前記ポリ(フェニレンエーテル)と、
25から35質量%の、前記ポリ(アルキレンテレフタラート)と、
5から15質量%の、前記スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体と、
0.1から1.5質量%の、前記相溶化剤と、
4から9質量%のポリリン酸メラミンと、
4から9質量%のシアヌル酸メラミンと、
5から20質量%のガラス繊維と、
5から15質量%のタルクと、
7から25質量%のポリアミドと、
1から3質量%のポリテトラフルオロエチレンと
を含み、
前記組成物が、ジ(C
1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含まないことを特徴とする組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物であって、
前記ポリ(フェニレンエーテル)が、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、0.25から0.35dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含み、
前記ポリ(アルキレンテレフタラート)がポリ(ブチレンテレフタラート)を含み、
前記スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体が、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体の質量に対して、20から35質量%のポリスチレン含量を持ち、
前記相溶化剤が、クエン酸と、スチレンおよび(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導した繰り返し単位を含む共重合体とを含み、
前記ポリアミドがポリアミド-6を含む
ことを特徴とする組成物。
【請求項13】
請求項
1から12のいずれかに記載の組成物を製造する方法であって、前記製造法が、前記組成物の成分を溶融混合する工程を含むことを特徴とする製造法。
【請求項14】
請求項1から12のいずれかに記載の組成物を含むことを特徴とする物品。
【請求項15】
請求項14に記載の物品であって、前記物品が、成形したサーキットブレーカまたは成形したサーキットブレーカハウジングであることを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリ(フェニレンエーテル)組成物は、他に類のない特性の組み合わせ、例えば、耐熱性、寸法安定性、加水分解安定性、低密度、難燃性、誘電特性などを備えているため、商業的に魅力ある素材である。ポリ(フェニレンエーテル)とポリ(アルキレンテレフタラート)とを含む組成物は、自動車部品から電子装置に至る幅広い用途の物品および構成材の製造に有用である。ポリ(フェニレンエーテル)とポリエステルとの既存の混合物は、多くの用途において商業的に魅力あるものとなるには、一般に特性のバランスが十分ではない。このため、前述の特性の問題点の少なくとも1つを解決するよう、ポリエステル-ポリ(フェニレンエーテル)組成物を改善する必要があることは明らかである。更に、その用途が広いことから、特に、ミニチュアサーキットブレーカにおいては、効果的な消弧特性と高い耐トラッキング特性を示し、更に、UL 489の設定した基準を満たす組成物の提示が望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
従って、本技術分野において、特に、サーキットブレーカで使用するための、機械的特性と電気的特性の好ましい組み合わせを示すポリ(アルキレンテレフタラート)-ポリ(フェニレンエーテル)組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0003】
組成物であって、本組成物は、5から25質量%のポリ(フェニレンエーテル)と、20から40質量%のポリ(アルキレンテレフタラート)と、5から15質量%の、アルケニル芳香族モノマと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、0.01から2質量%の相溶化剤(compatibilizing agent)と、5超(greater than 5)から20質量%の、窒素含有化合物、リン含有化合物、またはこれらの組み合わせを含むアーク抑制剤と、5から25質量%のガラス繊維と、5から20質量%の無機充填剤、望ましくはタルクと、0.1から5質量%のポリ(テトラフルオロエチレン)とを含み、それぞれの成分の質量%は、本組成物の総質量に対してであり、本組成物は、4質量%未満のジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含む。
【0004】
本組成物を製造する方法は、本組成物の成分を溶融混合する工程を含む。
【0005】
本組成物を含む物品も開示する。
【0006】
上記およびその他の特徴について、以下の詳細な記述で例を挙げて説明する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の発明者は、特定の量の、ポリ(フェニレンエーテル)と、ポリ(アルキレンテレフタラート)と、アルケニル芳香族モノマと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、相溶化剤と、アーク抑制剤と、ガラス繊維と、無機充填剤と、ポリ(テトラフルオロエチレン)とを含む組成物が、好ましい特性の組み合わせを示すことを思いがけず発見した。好ましい特性を得るため、文中で更に詳しく述べるように、本組成物は、ジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含まない、または最少量とする。
【0008】
従って、本願に開示の組成物は、ポリ(フェニレンエーテル)を含む。ポリ(フェニレンエーテル)として、次の構造式で示される繰り返し構造単位を含むものが挙げられる。
【化1】
式中、Z
1は出現毎に、独立して、ハロゲン、非置換または置換C
1~12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~12ヒドロカルビルチオ、C
1~12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)であり、Z
2は出現毎に、独立して、水素、ハロゲン、非置換または置換C
1~12ヒドロカルビル(但し、ヒドロカルビル基は第三級ヒドロカルビルではない)、C
1~12ヒドロカルビルチオ、C
1~12ヒドロカルビルオキシ、またはC
2~12ハロヒドロカルビルオキシ(ハロゲンおよび酸素原子は少なくとも2つの炭素原子で隔てられている)である。一例として、Z
1は、酸化重合触媒のジ-n-ブチルアミン成分と、末端3,5-ジメチル-1,4-フェニル基との反応から生成した、ジ-n-ブチルアミノメチル基とすることができる。
【0009】
ポリ(フェニレンエーテル)は、一般にヒドロキシ基に対してオルトの位置にアミノアルキル含有末端基を持つ分子を含むことができる。更に、しばしば存在するものは、一般に、2,6-ジメチルフェノールを含む反応混合物(その中にテトラメチルジフェノキノン副生成物が存在する)から得られる、テトラメチルジフェノキノン(TMDQ)末端基である。ポリ(フェニレンエーテル)は、ホモポリマ、共重合体、グラフト共重合体、イオノマ、またはブロック共重合体の形、更にこれらの組み合わせとすることができる。
【0010】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)は、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、0.1から1デシリットル/グラム(dL/g)の固有粘度を持つ。この範囲内で、ポリ(フェニレンエーテル)の固有粘度は、0.1から0.8dL/g、0.2から0.8dL/g、0.1から0.6dL/g、0.25から0.65dL/g、0.25から0.5dL/g、または0.25から0.4dL/gとすることができる。
【0011】
ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)は、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、およびこれらの組み合わせから成る群より選ばれるモノマのホモポリマまたは共重合体を含む。ある態様において、ポリ(フェニレンエーテル)は、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、0.25から0.4dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含む。代表的なポリ(フェニレンエーテル)ホモポリマは、例えば、SABICより、PPO(商標)630、640、および 646 として、また、旭化成ケミカルズ(株)より、XYRON(商標)S201A およびS202A として市販されている。
【0012】
本組成物は、本組成物の総質量に対して5から25質量%、5から20質量%、5から15質量%、5から12質量%、または8から12質量%の量のポリ(フェニレンエーテル)を含む。
【0013】
ポリ(フェニレンエーテル)に加え、本組成物は、ポリ(アルキレンテレフタラート)を含む。ポリ(アルキレンテレフタラート)は、ポリ(C2~18アルキレンテレフタラート)またはポリ(C1~8アルキレンテレフタラート)とすることができる。例えば、適当なアルキレン基として、3-プロピレン、1,4-ブチレン、1,5-ペンチレン、1,6-ヘキシレン、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキサンジメチレン、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。ある態様において、アルキレン基は、エチレン、1,4-ブチレン、またはこれらの組み合わせ、望ましくは、1,4-ブチレンである。従って、代表的なポリ(アルキレンテレフタラート)として、ポリ(エチレンテレフタラート)(PET)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)(PBT)、およびポリ(n-プロピレンテレフタラート)(PPT)を挙げることができる。ある態様において、ポリ(アルキレンテレフタラート)はポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)(PBT)である。前述のポリエステルの少なくとも1つを含む組み合わせも使用できる。
【0014】
ポリ(アルキレンテレフタラート)は、テレフタル酸(または、テレフタル酸と、10モルパーセント(モル%)までのイソフタル酸との組み合わせ)と、線状C2~6脂肪族ジオール(エチレングリコール、1,4-ブチレングリコールなど)およびC6~12環状脂肪族ジオール(1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジメタノールデカリン、ジメタノールビシクロオクタン、1,10-デカンジオール、またはこれらの組み合わせなど)を含む混合物と、から誘導することができる。ポリマ鎖中には、2種類以上のジオールを含むエステル単位が、ランダムな個別の単位として、または、同種の単位のブロックとして存在することができる。
【0015】
ポリ(アルキレンテレフタラート)は、アルキレンジオールおよびテレフタル酸以外のモノマの残基を、10質量%まで、望ましくは5質量%まで含むことができる。例えば、ポリ(アルキレンテレフタラート)は、イソフタル酸の残基、または、脂肪酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、またはこれらの組み合わせなど)から誘導した単位を含むことができる。
【0016】
ある態様において、ポリ(アルキレンテレフタラート)は、少なくとも70モル%、望ましくは少なくとも80モル%のテトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)を含むグリコール成分と、少なくとも70モル%、望ましくは少なくとも80モル%のテレフタル酸またはそのポリエステル生成誘導体を含む酸成分とを重合させて得られた、ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)(PBT)とすることができる。市販されているPBTの例として、SABICから入手可能な、VALOX(商標)315 および VALOX(商標)195 樹脂が挙げられる。
【0017】
ポリ(アルキレンテレフタラート)は、一部を、例えば、使用済みソフトドリンクボトルをリサイクルしたポリ(エチレンテレフタラート)(PET)から誘導した、変性ポリ(ブチレンテレフタラート)を含むことができる。PETから誘導されるPBTポリエステル(“変性PBT”)は、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリ(エチレンテレフタラート)共重合体、またはこれらの組み合わせなどの、ポリ(エチレンテレフタラート)成分から誘導することができる。変性PBTは更に、バイオマス由来の1,4-ブタンジオール、例えば、トウモロコシ由来の1,4-ブタンジオールや、セルロース材料由来の1,4-ブタンジオールから誘導することができる。バージンPBT(1,4-ブタンジオールおよびテレフタル酸モノマから誘導したPBT)を含む従来の成形用組成物と異なり、変性PBTは、エチレングリコールおよびイソフタル酸から誘導した単位を含む。変性PBTを使用することで、利用されていなかった廃PET(使用済みの、または、産業的流通経路から外れた後の)をPBT成形用組成物で有効利用する、価値ある道が開け、これにより非再生資源を節約し、温室効果ガス、例えば、二酸化炭素の発生を低減することができる。
【0018】
市販されている変性PBT樹脂の例としては、SABICより、商標名 VALOX iQ樹脂として入手できるものが挙げられる。変性PBTは、ポリ(エチレンテレフタラート)成分を解重合し、解重合したポリ(エチレンテレフタラート)成分と1,4-ブタンジオールとを重合させて変性PBTを生成することによって、ポリ(エチレンテレフタラート)成分から誘導することができる。
【0019】
本組成物は、必要に応じて、バージンポリ(アルキレンテレフタラート)と変性ポリ(アルキレンテレフタラート)との組み合わせ(バージンポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)と変性ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)との組み合わせで、後者をリサイクルPETから得たものなど)を含むことができる。
【0020】
ポリ(アルキレンテレフタラート)の存在量は、本組成物の総質量に対して20から40質量%とすることができる。この範囲内で、ポリ(アルキレンテレフタラート)の存在量は、25から35質量%または27から32質量%とすることができる。
【0021】
ポリ(フェニレンエーテル)およびポリ(アルキレンテレフタラート)に加えて、本組成物は、アルケニル芳香族モノマと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体を含む。この成分を、略して“水素化ブロック共重合体”と呼ぶ。水素化ブロック共重合体は、水素化ブロック共重合体の質量に対して、10から90質量%のポリ(アルケニル芳香族化合物)含量と、90から10質量%の水素化ポリ(共役ジエン)含量とを含むことができる。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量の低い水素化ブロック共重合体であって、そのポリ(アルケニル芳香族化合物)含量は、低ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量水素化ブロック共重合体の質量に対して10から40質量%未満、20から35質量%、25から35質量%、または30から35質量%である。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量の高い水素化ブロック共重合体であって、そのポリ(アルケニル芳香族化合物)含量は、高ポリ(アルケニル芳香族化合物)含量水素化ブロック共重合体の質量に対して40から90質量%、50から80質量%、または60から70質量%である。
【0022】
ある態様において、水素化ブロック共重合体の質量平均分子量は、40,000から400,000g/モルである。数平均分子量と質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレン標準との比較から求めることができる。ある態様において、水素化ブロック共重合体の質量平均分子量は、200,000から400,000g/モルまたは220,000から350,000g/モルである。ある態様において、水素化ブロック共重合体の質量平均分子量は、40,000から200,000g/モル、40,000から180,000g/モル、または40,000から150,000g/モルである。
【0023】
水素化ブロック共重合体の調製に使用するアルケニル芳香族モノマは、次の構造式で示される構造を持つことができる。
【化2】
式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子、C
1~8アルキル基、またはC
2~8アルケニル基を示し、R
3およびR
7はそれぞれ独立して、水素原子、C
1~8アルキル基、塩素原子、または臭素原子を示し、R
4、R
5、およびR
6はそれぞれ独立して、水素原子、C
1~8アルキル基、またはC
2~8アルケニル基を示し、あるいは、R
4とR
5が中央の芳香環と共にナフチル基を形成し、または、R
5とR
6が中央の芳香環と共にナフチル基を形成している。具体的なアルケニル芳香族モノマとしては、例えば、スチレン、クロロスチレン(p-クロロスチレンなど)、メチルスチレン(α-メチルスチレン、p-メチルスチレンなど)、t-ブチルスチレン(3-t-ブチルスチレン、4-t-ブチルスチレンなど)が挙げられる。ある態様において、アルケニル芳香族モノマはスチレンである。
【0024】
水素化ブロック共重合体の調製に使用する共役ジエンは、C4~20共役ジエンとすることができる。適当な共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなど、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ある態様において、共役ジエンは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、またはこれらの組み合わせである。ある態様において、共役ジエンは1,3-ブタジエンである。
【0025】
水素化ブロック共重合体は、(A)アルケニル芳香族化合物から誘導した少なくとも1つのブロックと、(B)共役ジエンから誘導した少なくとも1つのブロックとを含む共重合体であって、ブロック(B)中の脂肪族不飽和基含量は、水素化によって、少なくとも部分的に少なくなっている。ある態様において、(B)ブロック中の脂肪族不飽和度(unsaturation)は、少なくとも50%、または少なくとも70%まで小さくなっている。ブロック(A)および(B)の配列には、直鎖状構造、グラフト構造、および分枝鎖のある、または無い、放射状テレブロック(radial teleblock)構造が含まれる。直鎖状ブロック共重合体には、テーパード(tapered)直鎖状構造およびノンテーパード(non-tapered)直鎖状構造が含まれる。ある態様において、水素化ブロック共重合体はテーパード直鎖状構造である。ある態様において、水素化ブロック共重合体はノンテーパード直鎖状構造である。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、アルケニル芳香族モノマがランダムに組み込まれた(B)ブロックを含む。直鎖状ブロック共重合体構造には、ジブロック(A-Bブロック)、トリブロック(A-B-AブロックまたはB-A-Bブロック)、テトラブロック(A-B-A-Bブロック)、およびペンタブロック(A-B-A-B-AブロックまたはB-A-B-A-Bブロック)構造、更には、(A)と(B)を合わせて6個以上のブロックを含む直鎖状構造が含まれ、このとき、それぞれの(A)ブロックの分子量は、他の(A)ブロックと同じでも異なっていても良く、それぞれの(B)ブロックの分子量は、他の(B)ブロックと同じでも異なっていても良い。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、またはこれらの組み合わせである。
【0026】
ある態様において、水素化ブロック共重合体は、アルケニル芳香族化合物および共役ジエン以外のモノマの残基を含まない。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、アルケニル芳香族化合物および共役ジエンから誘導したブロックから成る。これは、これらや他のモノマから生成したグラフトを含まない。また、炭素および水素原子から成り、このためヘテロ原子を含まない。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、1つ以上の酸官能化試剤(無水マレイン酸など)の残基を含む。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む。
【0027】
ある態様において、水素化ブロック共重合体は、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体の質量に対して、10から50質量%、20から40質量%、20から35質量%、または25から35質量%のポリスチレン含量を持つ、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体である。このような態様において、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体は、必要に応じて、サイズ排除クロマトグラフィによる、ポリスチレン標準を用いた測定で、200,000から400,000g/モルまたは250,000から350,000g/モルの質量平均分子量を持つことができる。
【0028】
水素化ブロック共重合体の製造法は当該技術において公知であり、多くの水素化ブロック共重合体が市販されている。代表的な市販の水素化ブロック共重合体としては、Kraton Performance Polymers Inc.より、KRATON(商標)G1701(37質量%のポリスチレンを含む)およびG1702(28質量%のポリスチレンを含む)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)ジブロック共重合体;Kraton Performance Polymers Inc.より、KRATON(商標)G1641(33質量%のポリスチレンを含む)、G1650(30質量%のポリスチレンを含む)、G1651(33質量%のポリスチレンを含む)、およびG1654(31質量%のポリスチレンを含む)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体;および、クラレ(株)より、SEPTON(商標)S4044、S4055、S4077、およびS4099として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体が挙げられる。その他の市販の水素化ブロック共重合体としては、Dynasolより、CALPRENE(商標)H6140(31質量%のポリスチレンを含む)、H6170(33質量%のポリスチレンを含む)、H6171(33質量%のポリスチレンを含む)、およびH6174(33質量%のポリスチレンを含む)として、また、クラレ(株)より、SEPTON(商標)8006(33質量%のポリスチレンを含む)および8007(30質量%のポリスチレンを含む)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS)トリブロック共重合体;クラレ(株)より、SEPTON(商標)2006(35質量%のポリスチレンを含む)および2007(30質量%のポリスチレンを含む)として入手可能なポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)共重合体;および、Kraton Performance Polymers Inc.より、KRATON(商標)G4609(45%の鉱油と、SEBS(33質量%のポリスチレンを含む)を含む)およびG4610(31%の鉱油と、SEBS(33質量%のポリスチレンを含む)を含む)として、また、旭化成(株)より、TUFTEC(商標)H1272(36%の油と、SEBS(35質量%のポリスチレンを含む)を含む)として入手可能な、これらの水素化ブロック共重合体の油展化合物が挙げられる。2つ以上の水素化ブロック共重合体の混合物も使用できる。ある態様において、水素化ブロック共重合体は、少なくとも100,000g/モル、または200,000から400,000g/モルの質量平均分子量を持つ、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む。
【0029】
本組成物は、本組成物の総質量に対して5から15質量%の量の水素化ブロック共重合体を含む。この範囲内で、水素化ブロック共重合体の量は、5から12質量%または5から10質量%とすることができる。
【0030】
ポリ(フェニレンエーテル)、ポリ(アルキレンテレフタラート)、および水素化ブロック共重合体に加え、本組成物は、相溶化剤を含む。文中で使用する用語“相溶化剤”は、(少なくとも)ポリ(フェニレンエーテル)およびポリ(アルキレンテレフタラート)と相互作用する多官能化合物を指す。この相互作用は、化学的なもの(例えば、グラフト化)または物理的なもの(例えば、分散相の表面特性に対する影響)とすることができる。いずれの場合も、生成するポリ(アルキレンテレフタラート)とポリ(フェニレンエーテル)との混合物は、改善された相溶性、特に、例えば、衝撃強さ、成形ニットライン強さ(mold knit line strength)、または引張伸びの増強で示されるような、改善された相溶性を示すことができる。
【0031】
使用可能な相溶化剤の例としては、液状ジエンポリマ、エポキシ化合物、酸化ポリオレフィンワックス、キノン類、有機シラン化合物、多官能化合物、官能化ポリ(フェニレンエーテル)、またはこれらの組み合わせ(但し、これらに限定しない)が挙げられる。相溶化剤については更に、Gallucciによる、米国特許第5,132,365号、および、Koevoetsほかによる、米国特許第6,593,411号および米国特許第7,226,963号にも述べられている。
【0032】
ある態様において、相溶化剤は多官能化合物を含む。ある態様において、使用可能な多官能化合物は、分子内に、(a)炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合と、(b)少なくとも1つのカルボン酸、酸無水物、アミド、エステル、イミド、アミノ、エポキシ、オルトエステル、またはヒドロキシ基の、両方を含むものである。このような多官能化合物の例としては、マレイン酸;無水マレイン酸;フマル酸;アクリル酸グリシジル、イタコン酸;アコニット酸;マレイミド;マレイン酸ヒドラジド;ジアミンと、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸などとから得られる反応生成物;ジクロロ無水マレイン酸;マレイン酸アミド;不飽和カルボン酸(unsaturated dicarboxylic acids)(例えば、アクリル酸、ブテン酸、メタクリル酸、エタクリル酸、ペンテン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、リノール酸など);前述の不飽和カルボン酸のエステル、酸アミド、または無水物;不飽和アルコール(例えば、アルカノール、クロチルアルコール、メチルビニルカルビノール、4-ペンテン-1-オール、1,4-ヘキサジエン-3-オール、3-ブテン-1,4-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキセン-2,5-ジオール、および、化学式 CnH2n-5OH、CnH2n-7OH、および CnH2n-9OH (式中、nは、10~30の正の整数)で示されるアルコール);上記の不飽和アルコールの-OH基を-NH2基に置き換えた不飽和アミン;および、前述のものの1つ以上を含む組み合わせが挙げられる。ある態様において、相溶化剤は、無水マレイン酸、フマル酸、クエン酸、またはこれらの組み合わせを含む。
【0033】
多官能相溶化剤はまた、(a)化学式 (OR) (式中、Rは、水素、あるいは、アルキル、アリール、アシル、またはカルボニルジオキシ基)で示される基と、(b)少なくとも2つの基(カルボン酸、酸ハロゲン化物、酸無水物、酸ハロゲン化無水物、エステル、オルトエステル、アミド、イミド、アミノ、およびこれらの様々な塩とすることのできる、同じ、または異なる基)の、両方を持つことができる。このようなグループに含まれる典型的な相溶化剤は、脂肪族ポリカルボン酸、酸エステル、および、次の化学式で示される酸アミドである。
【化3】
式中、R’は、2~20または2~10個の炭素原子を含む、分枝または直鎖、飽和脂肪族炭化水素であり、R
Iは、水素、あるいは、1~10、1~6、または1~4個の炭素原子を含むアルキル、アリール、アシル、またはカルボニルジオキシ基であり、R
IIはそれぞれ独立して、水素、あるいは、1~20または1~10個の炭素原子を含むアルキルまたはアリール基であり、R
III およびR
IV はそれぞれ独立して、水素、あるいは、1~10、1~6、または1~4個の炭素原子を含むアルキルまたはアリール基であり、mは1に等しく、(n+s)は2以上、あるいは、2または3に等しく、nおよびsはそれぞれ0以上であり、(OR
I)は、カルボニル基に対してαまたはβにあって、少なくとも2つのカルボニル基は2~6個の炭素原子で隔てられている。R
I、R
II、R
III、およびR
IVは、それぞれの置換基に含まれる炭素原子が6未満である場合、アリールとなることはできない。
【0034】
具体的なポリカルボン酸として、例えば、クエン酸、リンゴ酸、およびアガリシン酸(その様々な市販物、例えば、酸無水物および水和した酸など)、および前述のものの1つ以上を含む組み合わせが挙げられる。ある態様において、相溶化剤はクエン酸を含む。本願において有用な代表的なエステルとして、例えば、クエン酸アセチル、クエン酸モノステアリルまたはジステアリルなどが挙げられる。具体的なアミドとして、例えば、N,N’-ジエチルクエン酸アミド、N-フェニルクエン酸アミド、N-ドデシルクエン酸アミド、N,N’-ジドデシルクエン酸アミド、およびN-ドデシルリンゴ酸が挙げられる。誘導体にはそれらの塩(アミンとの塩や、アルカリおよびアルカリ性(alkali and alkaline)金属塩など)が含まれる。具体的な塩としては、リンゴ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カリウム、およびクエン酸カリウムが挙げられる。
【0035】
多官能相溶化剤はまた、分子内に、(a)酸ハロゲン化物基と、(b)少なくとも1つの、カルボン酸、酸無水物、エステル、エポキシ、オルトエステル、またはアミド基、望ましくは、カルボン酸または無水物基の、両方を持つことができる。このようなグループに含まれる相溶化剤の例として、トリメリト酸無水物酸塩化物、クロロホルミル無水コハク酸、クロロホルミルコハク酸、クロロホルミルグルタル酸無水物、クロロホルミルグルタル酸、クロロアセチル無水コハク酸、クロロアセチルコハク酸、トリメリト酸塩化物、およびクロロアセチルグルタル酸が挙げられる。一部の態様において、相溶化剤はトリメリト酸無水物酸塩化物を含む。
【0036】
ある態様において、相溶化剤は、多官能ポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤を含むことができる。ある態様において、相溶化剤は、少なくとも2つのエポキシ基を含む、エポキシ含有ポリマ状相溶化剤を含むことができる。複数のエポキシ基を持つ材料の例は、側鎖として組み入れたグリシジル基を含む、スチレン-アクリル酸共重合体およびオリゴマである。このような材料のいくつかの例は、Johnson Polymer, LLC による、国際公開第WO2003/066704号に見ることができ、その内容は全て本件に引用して援用する。これらの材料は、側鎖として組み入れた所望のグリシジル基を持つ、スチレンおよび(メタ)アクリル酸繰り返し単位を含むポリマまたはオリゴマをベースとしている。ポリマまたはオリゴマ鎖当たりのエポキシ基の数が多い、例えば、ポリマまたはオリゴマ鎖当たり少なくとも10、少なくとも15、または少なくとも20のエポキシ基を含むことが特に望ましいと考えられる。これらの相溶化剤は、3,000g/モル以上、4,000g/モル以上、または6,000g/モル以上の分子量を持つことができる。このようなポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤は、例えば、Johnson Polymer, LLC より、JONCRYL(商標)、例えば、JONCRYL(商標)4368 の商標名で入手することができる。
【0037】
前述の相溶化剤は、溶融混合物に直接加えても良く、あるいは、ポリ(フェニレンエーテル)およびポリ(アルキレンテレフタラート)の一方または両方と予め反応させておいても良い。
【0038】
ある態様において、相溶化剤は、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クエン酸、またはこれらの組み合わせを含む。ある態様において、相溶化剤は、多官能ポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤、望ましくは、エポキシ含有ポリマ状相溶化剤、より望ましくは、スチレンおよび(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導した繰り返し単位を含む共重合体を含む。ある態様において、相溶化剤は、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、およびクエン酸のいずれか1つ以上と、多官能ポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤との組み合わせを含むことができる。具体的な態様において、相溶化剤は、クエン酸と、スチレンおよび(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導した繰り返し単位を含む共重合体である多官能ポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤とを含む。
【0039】
相溶化剤の使用量は、本組成物の総質量に対して0.01から2質量%である。この範囲内で、相溶化剤の量は、0.01から1.5質量%、0.01から1質量%、0.1から2質量%、0.1から1.5質量%、0.1から1質量%、または0.1から0.75質量%とすることができる。
【0040】
本願に開示されている組成物は更に、アーク抑制剤を含む。本願の開示内容において有用なアーク抑制剤として、難燃性を示すことが知られている化合物を挙げることができる。つまり、本願に開示されているアーク抑制添加剤は、本組成物に消弧効果と共に難燃性を与えることができる。アーク抑制剤は、窒素含有化合物(例えば、窒素含有難燃剤)、リン含有化合物(例えば、リン含有難燃剤)、またはこれらの組み合わせを含むことができる。ある態様において、アーク抑制剤は窒素含有化合物である。窒素含有化合物として、窒素を含む複素環である塩基と、リン酸またはピロリン酸またはポリリン酸である酸とを含むものが挙げられる。ある態様において、窒素含有化合物は、次の構造式で示される。
【化4】
式中、gは1から10,000であり、fとgの比は、0.5:1から1.7:1、0.7:1から1.3:1、または0.9:1から1.1:1である。この構造式に、1つ以上のプロトンがリン酸基からメラミン基へ移動する種が含まれることは理解されよう。gが1の場合、窒素含有化合物はリン酸メラミン(CAS登録番号 2020-89-51)である。gが2の場合、窒素含有化合物はピロリン酸メラミン(CAS登録番号 15541-60-3)である。gが、平均して2より大きい場合、窒素含有化合物はポリリン酸メラミン(CAS登録番号 56386-64-2)である。ある態様において、窒素含有化合物は、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、またはこれらの混合物である。窒素含有化合物がポリリン酸メラミンである態様において、gの平均値は、2超(greater than 2)から10,000、5から1,000、または10から500である。窒素含有化合物がポリリン酸メラミンである態様において、gの平均値は、2超から500である。リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、およびポリリン酸メラミンの製造法は当該技術において公知であり、全て市販されている。例えば、ポリリン酸メラミンは、例えば、Kasowskiほかによる、米国特許第6,025,419号に記載のように、ポリリン酸とメラミンとを反応させて、または、Jacobsonほかによる、米国特許第6,015,510号に記載のように、ピロリン酸メラミンを、窒素気流下290℃で恒量となるまで加熱することにより、調製することができる。ある態様において、窒素含有化合物はシアヌル酸メラミンを含む。
【0041】
窒素含有化合物は、低い揮発度を持つことができる。例えば、ある態様において、窒素含有化合物は、熱重量分析で、25から280℃、25から300℃、または25から320℃まで、20℃/分の昇温速度で加熱した場合、1%未満の重量損失を示す。
【0042】
ある態様において、アーク抑制剤は、ポリリン酸メラミン、シアヌル酸メラミン、またはこれらの組み合わせを含む。ある態様において、アーク抑制剤は、ポリリン酸メラミンおよびシアヌル酸メラミンを含む。
【0043】
ある態様において、アーク抑制剤は、有機リン含有化合物(例えば、有機リン含有難燃剤)とすることができる。有機リン含有化合物の例として、有機リン酸エステル、ビス(フェノキシ)ホスファゼンなど、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0044】
有機リン酸エステル化合物の例として、フェニル基、置換フェニル基、またはフェニル基と置換フェニル基との組み合わせを含むリン酸エステル、レゾルシノールを原料とするビスアリールリン酸エステル(例えば、レゾルシノールビス(リン酸ジフェニル)など)、また、ビスフェノールを原料とするもの(例えば、ビスフェノールAビス(リン酸ジフェニル)など)が挙げられる。ある態様において、有機リン酸エステルは、リン酸トリス(アルキルフェニル)(例えば、CAS登録番号 89492-23-9 または CAS登録番号 78-33-1)、レゾルシノールビス(リン酸ジフェニル)(CAS登録番号 57583-54-7)、ビスフェノールAビス(リン酸ジフェニル)(CAS登録番号 181028-79-5)、リン酸トリフェニル(CAS登録番号 115-86-6)、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(例えば、CAS登録番号 68937-41-7)、リン酸t-ブチルフェニルジフェニル(CAS登録番号 56803-37-3)、リン酸ビス(t-ブチルフェニル)フェニル(CAS登録番号 65652-41-7)、リン酸トリス(t-ブチルフェニル)(CAS登録番号 78-33-1)、およびこれらの組み合わせより選ばれる。
【0045】
ある態様において、有機リン酸エステルは、次の構造式で示されるビスアリールリン酸エステルを含む。
【化5】
式中、Rは独立して、出現毎に、C
1~12アルキレン基であり、R
5およびR
6は独立して、出現毎に、C
1~5アルキル基であり、R
1、R
2、およびR
4は独立して、C
1~12ヒドロカルビル基であり、R
3は独立して、出現毎に、C
1~12ヒドロカルビル基であり、nは1から25であり、s1およびs2は独立して、0、1、または2に等しい整数である。ある態様において、OR
1、OR
2、OR
3、およびOR
4は独立して、フェノール、モノアルキルフェノール、ジアルキルフェノール、またはトリアルキルフェノールから誘導される。
【0046】
当業者には容易に理解できるように、ビスアリールリン酸エステルはビスフェノールから誘導される。ビスフェノールの例として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メタン、および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。ある態様において、ビスフェノールはビスフェノールAを含む。
【0047】
ビス(フェノキシ)ホスファゼンの例は、オリゴマ状またはポリマ状であって良く、また、環状または直線状であっても良い。ある態様において、ビス(フェノキシ)ホスファゼンは環状であって、次の構造式で示される構造を持つ。
【化6】
式中、mは3から25の整数であり、xおよびyはそれぞれ独立して、0、1、2、3、4、または5であり、R
4およびR
5は出現毎に、ハロゲン、C
1~12アルキル、またはC
1~12アルコキシである。
【0048】
ある態様において、ビス(フェノキシ)ホスファゼンは直線状であって、次の構造式で示される構造を持つ。
【化7】
式中、nは3から10,000の整数であり、X
1は、-N=P(OPh)
3基、または -N=P(O)(OPh)基 (式中、Phはフェニル基を示す)を示し、Y
1は、-P(OPh)
4基、または -P(O)(OPh)
2基を示し、xおよびyはそれぞれ独立して、0、1、2、3、4、または5であり、R
4およびR
5は出現毎に、ハロゲン、C
1~12アルキル、またはC
1~12アルコキシである。
【0049】
本組成物中におけるアーク抑制剤の存在量は、本組成物の総質量に対して5から25質量%である。この範囲内で、アーク抑制剤の存在量は、5超から25質量%、5超から20質量%、7から20質量%、8から20質量%、10から20質量%、または12から20質量%とすることができる。
【0050】
先に示したように、本組成物において有用なアーク抑制剤は難燃剤としても機能することができる。本組成物は、必要に応じて、本明細書中に具体的に示されたもの以外の難燃剤を除外することができる。例えば、本組成物は、無機難燃剤(例えば、金属水酸化物、金属酸化物、ポリリン酸塩、ホウ素塩(金属ホウ酸塩など)、無機アンチモン、スズ、亜鉛、モリブデン化合物、赤リン)、モノマ状芳香族リン酸エステル(例えば、化学式 (GO)3P=O (式中、少なくとも1つのGが芳香基であるという条件で、それぞれのGは独立して、30個までの炭素原子を含む、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリーレン、またはアリールアルキレン基である)で示されるもの)、およびホスファゼンなどの難燃剤を含まない、または存在量を最少とすることができる。
【0051】
本発明の発明者は、本組成物からジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を除く、または最少量とすることが特に有益となり得ることを発見した。即ち、本願に開示されている組成物は、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、または1質量%未満のジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含む。例えば、本組成物は、0.1から4質量%未満、0.1から3.5質量%、0.1から3質量%、0.1から2.5質量%、0.1から2質量%、0.1から1.5質量%、または0.1から1質量%のジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含むことができる。ある態様において、本組成物はジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含まない(即ち、本組成物にジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を加えない)。
【0052】
本組成物は更に、ガラス繊維を含む。ガラス繊維の例としては、E、A、C、ECR、R、S、D、およびNEガラスや、石英を材料とするものが挙げられる。ある態様において、ガラス繊維は、2~30マイクロメートル(μm)、5~25μm、または10~15μmの直径を持つことができる。ある態様において、混練前のガラス繊維の長さは、2~7ミリメートル(mm)または3~5mmとすることができる。組成物との相溶性を改善するため、ガラス繊維に、必要に応じて、いわゆる接着促進剤を加えても良い。接着促進剤としては、例えば、クロム錯体、シラン類、チタン酸塩、ジルコアルミン酸塩、プロピレン-無水マレイン酸共重合体、反応性セルロースエステルなどが挙げられる。代表的なガラス繊維は、例えば、Owens Corning、日本電気硝子(株)、PPG、およびJohns Manvilleなどの供給者から市販されている。
【0053】
本組成物中におけるガラス繊維の存在量は5から25質量%である。この範囲内で、ガラス繊維の存在量は、本組成物の総質量に対して5から20質量%、5から15質量%、5から10質量%、10から25質量%、10から20質量%、10から15質量%、15から25質量%、15から20質量%、または20から25質量%とすることができる。
【0054】
本願に開示されている組成物は更に、無機充填剤を含む。適当な無機充填剤として、雲母、粘土(カオリン)、タルク、珪灰石、炭酸カルシウム(チョーク、石灰石、大理石、合成沈殿炭酸カルシウムなど)、バリウムフェライト、重晶石などの材料(但し、これらに限定しない)を挙げることができる。補強用無機充填剤の組み合わせを使用しても良い。無機充填剤の形状は、例えば、20~200のアスペクト比(厚さの平均に対する、平らな面の表面積に等しい円の平均直径)を持つ板状またはフレーク状、あるいは、例えば、5~500のアスペクト比(平均直径に対する平均長さ)を持つ針状または繊維状とすることができる。それぞれの粒子の最大直径(例えば、平板状の粒子の直径)は、0.1~10μmまたは0.5~5μmとすることができる。無機充填剤は、0.1~5μmまたは0.01~3μmの球相当直径(equivalent spherical diameter)(体積ベース)を持つことができる。ある態様において、無機充填剤は、望ましくはタルクである。
【0055】
本組成物中における無機充填剤の存在量は、本組成物の総質量に対して5から20質量%、5から15質量%、または5から10質量%とすることができる。
【0056】
ある態様において、無機充填剤(例えば、タルク)はマスターバッチの一部であっても良い。例示的な態様において、マスターバッチはタルクとポリアミドとを含む。マスターバッチを使用する場合、マスターバッチは、マスターバッチの総質量に対して10から60質量%、20から60質量%、30から50質量%、または40から50質量%の量の無機充填剤成分を含むことができる。
【0057】
本組成物は更に、ポリ(テトラフルオロエチレン)を含む。本組成物中におけるポリ(テトラフルオロエチレン)の存在量は、本組成物の総質量に対して0.1から5質量%、0.1から4質量%、0.5から5質量%、0.5から4質量%、0.5から3質量%、0.5から2.5質量%、または1から3質量%である。
【0058】
ある態様において、本組成物は、必要に応じて、更に、ポリアミドを含むことができる。例えば、無機充填剤を、ポリアミドを用いたマスターバッチの形で供給することで、生成する組成物にポリアミドを加えることができる。ポリアミド(ナイロンとしても知られる)の特徴は複数のアミド(-C(O)NH-)基が存在することであり、これについては、Gallucciによる、米国特許第4,970,272号に述べられている。ポリアミドの例として、ポリアミド-6、ポリアミド-6,6、ポリアミド-4,6、ポリアミド-11、ポリアミド-12、ポリアミド-6,10、ポリアミド-6,12、ポリアミド-6/6,6、ポリアミド-6/6,12、ポリアミドMXD,6(MXDはm-キシリレンジアミンである)、ポリアミド-6,T、ポリアミド-6,I、ポリアミド-6/6,T、ポリアミド-6/6,I、ポリアミド-6,6/6,T、ポリアミド-6,6/6,I、ポリアミド-6/6,T/6,I、ポリアミド-6,6/6,T/6,I、ポリアミド-6/12/6,T、ポリアミド-6,6/12/6,T、ポリアミド-6/12/6,I、ポリアミド-6,6/12/6,I、またはこれらの組み合わせが挙げられる。ある態様において、ポリアミドは、ポリアミド-6を含む。ある態様において、ポリアミドは、例えば、示差走査熱量測定法(DSC)を用いた測定で、171℃以上の融点(Tm)を持つことができる。
【0059】
ISO 307による、96質量%硫酸中、0.5質量%溶液での測定で、400ミリリットル/グラム(mL/g)までの固有粘度を持つ、または、90~350mL/gの粘度を持つ、あるいは、110~240mL/gの粘度を持つ、ポリアミドが使用可能である。ポリアミドは、6までの相対粘度、1.89~5.43の相対粘度、または2.16~3.93の相対粘度を持つことができる。相対粘度は、ISO 307に従い、96質量%硫酸中、1質量%溶液として求める。
【0060】
ポリアミドは、HClを用いた滴定による測定で、ポリアミド1グラム当たりのアミン末端基が35マイクロ当量(μ当量)以上である、アミン末端基濃度を持つことができる。アミン末端基濃度は、40μ当量/g以上または45μ当量/g以上とすることができる。アミン末端基の含量は、ポリアミドを溶媒に、必要に応じて熱を加えながら溶解させて測定することができる。このポリアミド溶液を、指示法を用いながら0.01規定の塩酸(HCl溶液)で滴定する。アミン末端基の量は、試料に加えたHCl溶液の量、ブランクで使用したHClの量、HCl溶液のモル濃度、およびポリアミド試料の質量から算出する。
【0061】
ポリアミドが存在する場合、本組成物中におけるその含有量は0から25質量%とすることができる。この範囲内で、ポリアミドの存在量は、本組成物の総質量に対して0超(greater than 0)から25質量%、0超から20質量%、0超から15質量%、1から15質量%、5から15質量%、7から15質量%、または10から15質量%とすることができる。
【0062】
本組成物は、必要に応じて、添加剤組成物を更に含むことができる。添加剤組成物は、1つ以上の添加剤を含む。添加剤は、例えば、安定剤、離型剤、潤滑剤、加工助剤、ドリップ遅延剤、造核剤、UVブロッカ、染料、顔料、酸化防止剤、静電気防止剤、発泡剤、鉱油、金属不活性化剤、ブロッキング防止剤、またはこれらの組み合わせとすることができる。ある態様において、添加剤組成物は、酸化防止剤、潤滑剤、熱安定剤、紫外光吸収剤、可塑剤、アンチドリップ剤、離型剤、静電気防止剤、染料、顔料、レーザマーキング剤(laser marking additive)、放射線安定剤、またはこれらの組み合わせを含むことができる。これらの添加剤が存在する場合、その使用量の合計は、通常、本組成物の総質量に対して5質量%以下、3質量%以下、または2質量%以下である。
【0063】
ある態様において、本組成物は、文中に具体的に示されていない他のポリマを含まない、または最少量とすることができる。例えば、本組成物に含まれる、ポリ(フェニレンエーテル)またはポリ(アルキレンテレフタラート)、水素化ブロック共重合体、文中に述べられているようなポリマ状相溶化剤、ポリ(テトラフルオロエチレン)、およびポリアミド(存在する場合)以外の熱可塑性ポリマは、2質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、または0.1質量%未満とすることができる。ある態様において、本組成物は、本組成物の前述のポリマ以外の熱可塑性ポリマを除外することができる。
【0064】
ある態様において、本組成物は、5から15質量%のポリ(フェニレンエーテル)と、25から35質量%のポリ(ブチレンテレフタラート)と、5から15質量%のスチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体と、0.1から1.5質量%の相溶化剤と、4から10質量%のポリリン酸メラミンと、4から10質量%のシアヌル酸メラミンと、5から20質量%のガラス繊維と、5から20質量%のタルクと、7から25質量%のポリアミドと、1から3質量%のポリテトラフルオロエチレンとを含むことができ、本組成物は、ジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含まない。ポリ(フェニレンエーテル)は、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、0.25から0.35dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含むことができる。ポリ(アルキレンテレフタラート)は、ポリ(ブチレンテレフタラート)を含むことができる。スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体は、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体の質量に対して、20から35質量%のポリスチレン含量を持つことができる。相溶化剤は、クエン酸と、スチレンおよび(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導した繰り返し単位を含む共重合体とを含むことができる。ポリアミドはポリアミド-6を含むことができる。
【0065】
本願に開示されている組成物は、5から25質量%のポリ(フェニレンエーテル)と、20から40質量%のポリ(アルキレンテレフタラート)と、5から15質量%の、アルケニル芳香族モノマと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、0.01から2質量%の相溶化剤と、5超から20質量%の、窒素含有化合物、リン含有化合物、またはこれらの組み合わせを含むアーク抑制剤と、5から25質量%のガラス繊維と、5から20質量%の無機充填剤、望ましくはタルクと、0.1から5質量%のポリ(テトラフルオロエチレン)とを含み、それぞれの成分の質量%は、本組成物の総質量に対してであり、本組成物は、4質量%未満のジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含む。本組成物は、ジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含まないことがある。ポリ(アルキレンテレフタラート)は、ポリ((C1~8アルキレン)テレフタラート)、望ましくは、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、またはこれらの組み合わせ、より望ましくは、ポリ(ブチレンテレフタラート)を含むことができる。ポリ(フェニレンエーテル)は、望ましくは、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、0.1から0.6dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含むことができる。水素化ブロック共重合体は、望ましくは、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体の質量に対して、20から35質量%のポリスチレン含量を持つ、スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体を含むことができる。相溶化剤は、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クエン酸、またはこれらの組み合わせ、望ましくはクエン酸;多官能ポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤、望ましくは、エポキシ含有ポリマ状相溶化剤、より望ましくは、スチレンおよび(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導した繰り返し単位を含む共重合体;またはその両方を含むことができる。本組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、潤滑剤、熱安定剤、紫外光吸収剤、可塑剤、アンチドリップ剤、離型剤、静電気防止剤、染料、顔料、レーザマーキング剤、放射線安定剤、またはこれらの組み合わせを含む、添加剤組成物を更に含むことができる。本組成物は、0から25質量%のポリアミドを含むことができる。アーク抑制剤は、ポリリン酸メラミンとシアヌル酸メラミンとの組み合わせを含むことができる。
【0066】
各成分の相対量は、望ましい特性の組み合わせが得られるよう調節することができる。当業者には理解されているように、各成分の量は合計が100質量%となるよう選択する。
【0067】
本願に開示されている組成物は、好ましい物理的特性の組み合わせを示すことができる。有益なことに、本組成物は、UL 489 Zシーケンス試験(Z-sequence test)、特に、後の実施例で更に詳しく述べるような、UL 489誘電試験に合格することができる。ある態様において、本組成物から成形したサーキットブレーカハウジングは、UL 489 Zシーケンス試験、特に、後の実施例で更に詳しく述べるような、UL 489誘電試験に合格することができる。本組成物または本組成物の成形試料は、UL 746Aによる測定で、250~399ボルト(PLC=2)、望ましくは、400~599ボルト(PLC=1)、より望ましくは600ボルト以上(PLC=0)のCTIを持つことができる。本組成物または本組成物の成形試料は、ASTM D495による測定で、180~239秒(PLC=4)または120~179秒(PLC=5)の耐アーク性(HVAR)平均時間を持つことができる。本組成物または本組成物の成形試料は、ISO 178による測定で、600MPaより大きい、640MPaより大きい、または650MPaより大きい曲げ弾性率(flexural modulus)を持つことができる。本組成物または本組成物の成形試料は、ISO 527による測定で、50MPaより大きい、55MPaより大きい、または60MPaより大きい破断引張応力(tensile stress at break)を持つことができる。本組成物または本組成物の成形試料は、ASTM D792-10による測定で、1.48未満、1.45未満、1.44未満、または1.35から1.45未満の比重を持つことができる。
【0068】
本願に開示されている組成物は、例えば、本組成物の成分を溶融混合して作ることができる。本組成物の成分は、リボンブレンダ、HENSCHEL(商標)ミキサ、BANBURY(商標)ミキサ、ドラムタンブラなど、一般的な装置を用いて混合または混和することができ、続いて、混合した組成物を溶融混合または溶融混練することができる。溶融混合または溶融混練は、単軸押出機、双軸押出機、多軸押出機、コニーダなど、一般的な装置を用いて行うことができる。例えば、本組成物は、双軸押出機中、270から310℃または280から300℃の温度で、成分を溶融混合して調製することができる。押出物は、水浴中で急冷し、ペレット化することができる。このようにして調製したペレットを、希望どおり、4分の1インチ(約6mm)以下の長さにすることができる。このようなペレットを用いて、その後の鋳造(molding)、造形(shaping)、または成形(forming)を行うことができる。
【0069】
本組成物を含む造形品、成形品、または鋳造品は、本開示内容のもうひとつの態様を示している。本組成物は、射出成形、押し出し、回転成形、ブロー成形、熱成形など、様々な方法で、有用な形の物品に成形することができる。物品のいくつかの例として、コンピュータおよび事務機器のハウジング(モニタのハウジングなど)、携帯用電子機器のハウジング(携帯電話のハウジングなど)、電気コネクタ、および、照明器具、装飾品、家庭用電化製品、屋根、温室、サンルーム、スイミングプール囲壁などの構成要素が挙げられる。ある態様において、本物品は、押出成形品、鋳造成形品、引抜成形品、熱成形品、発泡製品、多層から成る物品の層、被覆した物品の基材、または、金属化した物品の基材である。ある態様において、本組成物は、成形したサーキットブレーカまたは成形したサーキットブレーカハウジングなどの電気部品において特に有用と考えられる。ある態様において、本組成物は、成形したミニチュアサーキットブレーカまたは成形したミニチュアサーキットブレーカハウジングに使用することができる。
【0070】
文中に示したように、本発明の発明者は、特定の量の、ポリ(フェニレンエーテル)と、ポリ(アルキレンテレフタラート)と、水素化ブロック共重合体と、相溶化剤と、アーク抑制剤と、ガラス繊維と、無機充填剤と、ポリ(テトラフルオロエチレン)とを含む組成物が、ある有益な特性を示すことを予想外に発見した。詳細には、本組成物からジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を除く、または含有量を最少とすると、望ましい特性の組み合わせが得られる。その結果、特に、成形したサーキットブレーカ(成形したミニチュアサーキットブレーカなど)およびそのハウジングについて、本開示内容によって著しい改善が得られる。
【0071】
本願の開示内容を次の実施例で更に詳しく説明するが、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0072】
以下の実施例で使用する材料を表1に示す。
【表1】
【0073】
各実施例の組成物は、PBT、ガラス繊維、およびタルクを除く、全ての成分を混ぜ合わせて調製した。この混合物を、Werner-Pfleiderer 30mm双軸押出機で混練し、PBT、ガラス繊維、およびタルクを下流側で個別に加えた。押出機温度の設定(上流から下流へ向かって)は、240-290-290-270-270-270-270-270-280℃であった。スクリュー回転速度は280回転/分(rpm)であった。
【0074】
85 バン・ドーン射出成形機を用い、温度設定を、265-265-265-265℃(供給口からノズルへ向かって)、金型温度を80℃として、部品を成形した。ペレットを110℃で2~4時間予備乾燥した後、成形を行った。
【0075】
成形部品の特性は、以下の標準規格に従って試験した。曲げ弾性率および曲げ強さは、ISO 178に従い、多目的ISO 3167タイプA試験片を使用して求めた。荷重たわみ温度(heat distortion temperature:HDT)は、ISO 75規格に従い、厚さ4mmのISO棒状試験片の平坦面、1.8MPa(A/f)の荷重を使用して求めた。引張弾性率(tensile modulus)は、ISO 527に従い、多目的ISO 3167タイプA試験片を使用して求めた。破断引張応力および破断引張ひずみは、ISO 527に従い、多目的ISO 3167タイプA試験片を使用して、5mm/分の試験速度で求めた。比重は、ASTM D792-10に従って求めた。メルトボリュームフローレート(melt volume flow rate:MVR)は、ISO 1133に従い、250℃および280℃で、5kgの荷重を使用して求めた。
【0076】
高電圧耐アーク性(high voltage arc resistance:HVAR)は、ASTM D495に従って求め、性能水準カテゴリー(performance level categories:PLC)の値で示す。ASTM D495に従って、ある物質が、断続的に発生する高電圧低電流のアークに曝された場合の、表面に導電性径路のできにくさの性能を秒数で表す。公称3mmの厚さの試験結果を、この材料の任意の厚さでの(in any thickness)性能を表していると見なす。420秒以上の耐アーク平均時間をPLC=0とし、360~419秒の耐アーク平均時間をPLC=1とし、300~359秒の耐アーク平均時間をPLC=2とし、240~299秒の耐アーク平均時間をPLC=3とし、180~239秒の耐アーク平均時間をPLC=4とし、120~179秒の耐アーク平均時間をPLC=5とし、60~119秒の耐アーク平均時間をPLC=6とし、60秒未満の耐アーク平均時間をPLC=7とする。特に有用な配合物は、5以下のPLCを持つことができる。
【0077】
比較トラッキング指数(comparative tracking index:CTI)は、UL 746Aに従って求め、PLCの値で示す。性能は、50滴の0.1%塩化アンモニウム溶液を材料上に滴下後、トラッキングが起こる電圧として表示する。公称3mmの厚さの試験結果を、この材料の任意の厚さでの性能を表していると見なす。600ボルト以上のCTIをPLC=0とし、400~599ボルトのCTIをPLC=1とし、250~399ボルトのCTIをPLC=2とし、174~249ボルトのCTIをPLC=3とし、100~174ボルトのCTIをPLC=4とし、100ボルト未満のCTIをPLC=5とする。特に有用な配合物は、2以下のPLCを持つことができる。
【0078】
誘電完全性(dielectric integrity)および遮断能力は、Underwriters Laboratory (UL) 489規格に従い、本組成物から成形したサーキットブレーカハウジングを用いて試験した。遮断能力試験において、サーキットブレーカは、短絡操作を3回行った後、200%、最小値5,000アンペア、0.4~0.5の力率で作動しなければならない。遮断能力試験の後、同じサーキットブレーカについて、誘電耐圧試験(dielectric withstand test)を行った。誘電試験に合格するには、サーキットブレーカは、1,000V+ブレーカの定格の2倍の電圧に、1分間耐えなければならない(one minute of a voltage of 1,000 V plus two times the rating of the breaker for one minute)。UL 489規格では、サーキットブレーカが、1)サーキットブレーカを、開、トリップ、およびオフ位置とした場合での、ライン端子と負荷端子(line and load terminals)との間、2)サーキットブレーカを閉とした場合での、異極性の端子の間、3)サーキットブレーカを開および閉とした場合での、帯電部と封入容器全体との間で、1000ボルト+ブレーカの定格の2倍の電圧レベルで1分間の、誘電試験に耐える必要がある。遮断能力および誘電耐圧試験に合格した組成物は、合格(acceptable)の“A”で示し、一方、遮断能力および誘電耐圧試験に合格しなかった組成物は、不合格(unacceptable)の“U”で示す。
【0079】
組成物の例を表2に示す。各成分の量は、組成物の総質量に対する質量%で示す。曲げ弾性率および曲げ強さの単位はMPaである。HDTは℃で示す。引張弾性率および引張応力はMPaで示す。破断引張ひずみはパーセント(%)で示す。MVRは、cm
3/10分で示す。HVARおよびCTIは、前述のPLC等級で示す。UL 489 Zシーケンス試験の結果は、先に述べたように“合格(acceptable:A)”または“不合格(unacceptable:U)”で示す。
【表2】
【0080】
表2のデータは、PPE/PBT強化組成物が、ジアルキルホスフィン酸金属塩難燃剤(例えば、“DEPAL”)を組成物に加えない、または最少量(即ち、存在量を4質量%未満)とした場合、好ましい物理的特性の組み合わせを示し、更に、UL 489誘電試験の試験要件を満たせることを示している。表2はまた、PTFE成分を組成物に加えた場合、UL 489誘電試験要件を満たすことを示している。
【0081】
本願の開示内容は更に、以下の態様も包含する。
【0082】
態様1:組成物であって、この組成物は、5から25質量%のポリ(フェニレンエーテル)と、20から40質量%のポリ(アルキレンテレフタラート)と、5から15質量%の、アルケニル芳香族モノマと共役ジエンとの水素化ブロック共重合体と、0.01から2質量%の相溶化剤と、5から25質量%の、窒素含有化合物、リン含有化合物、またはこれらの組み合わせを含むアーク抑制剤と、5から25質量%のガラス繊維と、5から20質量%の無機充填剤、望ましくはタルクと、0.1から5質量%のポリ(テトラフルオロエチレン)とを含み、それぞれの成分の質量%は、この組成物の総質量に対してであり、この組成物は、4質量%未満のジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含む。
【0083】
態様2:態様1の組成物であって、この組成物から成形したサーキットブレーカハウジングは、UL 489 Zシーケンス試験に合格する。
【0084】
態様3:態様1または2の組成物であって、この組成物は、ジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含まない。
【0085】
態様4:態様1から3のいずれかの組成物であって、ポリ(アルキレンテレフタラート)は、ポリ((C1~8アルキレン)テレフタラート)、望ましくは、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、またはこれらの組み合わせ、より望ましくは、ポリ(ブチレンテレフタラート)を含む。
【0086】
態様5:態様1から4のいずれかの組成物であって、ポリ(フェニレンエーテル)は、望ましくは、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、0.1から0.6dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含む。
【0087】
態様6:態様1から5のいずれかの組成物であって、水素化ブロック共重合体は、望ましくは、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体の質量に対して、20から35質量%のポリスチレン含量を持つ、スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体を含む。
【0088】
態様7:態様1から6のいずれかの組成物であって、相溶化剤は、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クエン酸、またはこれらの組み合わせ、望ましくはクエン酸;多官能ポリマ状またはオリゴマ状相溶化剤、望ましくは、エポキシ含有ポリマ状相溶化剤、より望ましくは、スチレンおよび(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導した繰り返し単位を含む共重合体;または、その両方を含む。
【0089】
態様8:態様1から7のいずれかの組成物であって、この組成物は、酸化防止剤、潤滑剤、熱安定剤、紫外光吸収剤、可塑剤、アンチドリップ剤、離型剤、静電気防止剤、染料、顔料、レーザマーキング剤、放射線安定剤、またはこれらの組み合わせを含む、添加剤組成物を更に含む。
【0090】
態様9:態様1から8のいずれかの組成物であって、この組成物は、0から25質量%のポリアミドを含む。
【0091】
態様10:態様1から9のいずれかの組成物であって、アーク抑制剤は、ポリリン酸メラミン、シアヌル酸メラミン、またはこれらの組み合わせ、望ましくは、ポリリン酸メラミンおよびシアヌル酸メラミンを含む。
【0092】
態様11:態様1の組成物であって、この組成物は、5から15質量%のポリ(フェニレンエーテル)と、25から35質量%のポリ(アルキレンテレフタラート)と、5から15質量%のスチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体と、0.1から1.5質量%の相溶化剤と、4から10質量%のポリリン酸メラミンと、4から10質量%のシアヌル酸メラミンと、5から20質量%のガラス繊維と、5から20質量%のタルクと、7から25質量%のポリアミドと、1から3質量%のポリテトラフルオロエチレンとを含み、この組成物は、ジ(C1~6アルキル)ホスフィン酸金属塩を含まない。
【0093】
態様12:態様11の組成物であって、ポリ(フェニレンエーテル)は、ウベローデ粘度計による、クロロホルム中25℃での測定で、0.25から0.35dL/gの固有粘度を持つ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)を含み、ポリ(アルキレンテレフタラート)はポリ(ブチレンテレフタラート)を含み、スチレン-(エチレン-ブチレン)-スチレントリブロック共重合体は、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体の質量に対して、20から35質量%のポリスチレン含量を持ち、相溶化剤は、クエン酸と、スチレンおよび(メタ)アクリル酸グリシジルから誘導した繰り返し単位を含む共重合体とを含み、ポリアミドはポリアミド-6を含む。
【0094】
態様13:前記態様のいずれかの組成物を製造する方法であって、この製造法は、組成物の成分を溶融混合する工程を含む。
【0095】
態様14:態様1から12のいずれかの組成物を含む物品である。
【0096】
態様15:態様14の物品であって、この物品は、成形したサーキットブレーカまたは成形したサーキットブレーカハウジングである。
【0097】
本組成物、方法、および物品は、選択的に、文中に開示されている任意の適当な材料、ステップ、または構成要素を含む(comprise)、から成る(consist of)、または本質的に~から成る(consist essentially of)ことができる。本組成物、方法、および物品は、付加的に、または選択的に、本組成物、方法、および物品の機能または目的の達成に必ずしも必要ではない任意の材料(または種)、ステップ、または構成要素を除いて、または実質的に含まないように構成することができる。
【0098】
文中に開示されている範囲は全て終点を含んでおり、終点は独立して互いに組み合わせ可能である。“組み合わせ(combinations)”は、混合物(blends、mixtures)、合金、反応生成物などを含む。用語“第1(first)”、“第2(second)”などは、順番、数量、または重要度を何ら示すものではなく、ある要素と別の要素とを区別するために使用する。用語“a”、“an”、および“the”は、数量の限定を示すものではなく、別途指示のない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、単数形と複数形の両方を含むと解釈すべきである。“または(or)”は、別に明示されない限り、“および/または(and/or)”を意味する。明細書中における“一部の(some)態様”、“ある(an)態様”などでの言及は、その実施形態に関連して述べられているある特定の要素が、文中に記載されている少なくとも1つの態様に含まれているが、他の態様中には存在してもしていなくても良いことを意味する。文中で使用する用語“これらの組み合わせ(combination thereof)”は、挙げられている要素を1つ以上含み、非限定(open)であって、挙げられていない類似の要素が1つ以上存在していても良い。更に、記載されている要素は、様々な態様において、任意の適当な方法で組み合わせても良いことは当然である。
【0099】
文中にそうでないことが明記されていない限り、全ての試験基準は、本願の出願日、あるいは、優先権が主張されている場合、その試験基準が記載されている最も早い優先権出願の出願日時点で有効な、最も新しい基準である。
【0100】
別途定義のない限り、文中で使用する技術および科学用語は、本願の属する技術分野の当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。引用されている全ての特許、特許出願、その他の参考文献は、その内容を全て本件に引用して援用する。しかし、本願中の用語が援用する参考文献の用語と矛盾する、または一致しない場合は、援用する参考文献からの矛盾する用語よりも本願の用語を優先する。
【0101】
化合物は標準命名法を用いて記述する。例えば、指示された何らかの基で置換されていない位置は、指示された結合で、または水素原子で満たされたその価数を持つものとする。2つの文字または記号に挟まれていないダッシュ(“-”)は、置換基の結合に使われる位置を示すために使用する。例えば、-CHOは、カルボニル基の炭素で結合している。
【0102】
文中で使用する用語“ヒドロカルビル”は、単独で、あるいは、接頭辞、接尾辞、または他の用語の一部として使用される場合であっても、炭素と水素だけを含む残基を指す。この残基は、脂肪族または芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝、飽和、または不飽和とすることができる。また、脂肪族、芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝、飽和、および不飽和炭化水素基の組み合わせも含むことができる。しかし、ヒドロカルビル残基が置換されていると述べられている場合、必要に応じて、置換基残基を構成する炭素および水素の他に、ヘテロ原子を含んでいても良い。つまり、詳しく述べるならば、置換されている場合、ヒドロカルビル残基は、1つ以上のカルボニル基、アミノ基、ヒドロキシル基なども含むことができ、あるいは、ヒドロカルビル残基の骨格内にヘテロ原子を含むことができる。用語“アルキル”は、分枝または直鎖、飽和脂肪族炭化水素基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、s-ペンチル、n-およびs-ヘキシルを意味する。“アルケニル”は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む、分枝または直鎖、一価炭化水素基(例えば、エテニル(-HC=CH2))を意味する。“アルコキシ”は、酸素を経て結合しているアルキル基(即ち、アルキル-O-)、例えば、メトキシ、エトキシ、sec-ブチルオキシ基を意味する。“アルキレン”は、分枝または直鎖、飽和二価脂肪族炭化水素基(例えば、メチレン(-CH2-)、プロピレン(-(CH2)3-))を意味する。“シクロアルキレン”は、二価の環式アルキレン基 -CnH2n-x (式中、xは、環化によって置き換わった水素の数)を意味する。“シクロアルケニル”は、1つ以上の環と、環内に1つ以上の炭素-炭素二重結合とを含み、全ての環員が炭素である一価基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル)を意味する。“アリール”は、指定した数の炭素原子を含む芳香族炭化水素基(例えば、フェニル、トロポン、インダニル、ナフチル)を意味する。“アリーレン”は、二価のアリール基を意味する。“アルキルアリーレン”は、アルキル基で置換されたアリーレン基を意味する。“アリールアルキレン”は、アリール基で置換されたアルキレン基(例えば、ベンジル)を意味する。接頭辞“ハロ”は、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨード置換基の1つ以上を含む基または化合物を意味する。異なるハロ基の組み合わせ(例えば、ブロモとフルオロ)、またはクロロ基のみが存在していても良い。接頭辞“複素(ヘテロ:hetero)”は、ヘテロ原子である少なくとも1つの環員(例えば、1、2、または3個のヘテロ原子)を含む化合物または基を意味し、このときヘテロ原子は、それぞれ独立して、N、O、S、Si、またはPである。“置換された”は、化合物または基が、置換されている原子の通常の価数を超えないという条件で、水素の代わりに、少なくとも1つ(例えば、1、2、3、または4個)の置換基(それぞれ独立して、C1~9アルコキシ、C1~9ハロアルコキシ、ニトロ(-NO2)、シアノ(-CN)、C1~6アルキルスルホニル(-S(=O)2-アルキル)、C6~12アリールスルホニル(-S(=O)2-アリール)、チオール(-SH)、チオシアノ(-SCN)、トシル(CH3C6H4SO2-)、C3~12シクロアルキル、C2~12アルケニル、C5~12シクロアルケニル、C6~12アリール、C7~13アリールアルキレン、C4~12ヘテロシクロアルキル、およびC3~12ヘテロアリールとすることができる)で置換されていることを意味する。ある基について示されている炭素原子の数は置換基を含んでいない。例えば、-CH2CH2CN は、ニトリルで置換されたC2アルキル基である。
【0103】
特定の態様について述べてきたが、現時点で予想されていない、または予想されていないと考えられる、代替(alternatives)、変更(modifications)、変化(variations)、改善(improvements)、および実質的同等物が、出願者や他の当業者によって考案されることがある。従って、出願時の、および修正の可能性のある添付請求項は、これらの代替、変更、変化、改善、および実質的同等物を全て包含するものとする。