IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ユニバンスの特許一覧

<>
  • 特許-変速機 図1
  • 特許-変速機 図2
  • 特許-変速機 図3
  • 特許-変速機 図4
  • 特許-変速機 図5
  • 特許-変速機 図6
  • 特許-変速機 図7
  • 特許-変速機 図8
  • 特許-変速機 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/083 20060101AFI20240119BHJP
   F16H 63/32 20060101ALI20240119BHJP
   F16D 11/00 20060101ALI20240119BHJP
   F16H 3/091 20060101ALI20240119BHJP
   F16H 63/18 20060101ALN20240119BHJP
【FI】
F16H3/083
F16H63/32
F16D11/00 A
F16H3/091
F16H63/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023503573
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2021007982
(87)【国際公開番号】W WO2022185415
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 義弘
(72)【発明者】
【氏名】中條 泰雅
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/250535(WO,A1)
【文献】特開2015-140893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/083
F16H 63/32
F16D 11/00
F16H 3/091
F16H 63/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1歯が設けられ軸に配置されたギヤを前記軸に選択的に結合する変速機であって、
前記第1歯にかみ合う第2歯が設けられた移動部材を備え、
前記第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備え、
前記第2歯は、前記移動部材が軸方向に移動して前記第1歯と前記第2歯とがかみ合うときに前記第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、前記移動部材が軸方向に移動して前記第1歯と前記第2歯とがかみ合うときに前記第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備え、
前記第1面および前記第3面は、前記第1面と前記第3面とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部を含み、
前記第1面および前記第3面の少なくとも一方は、前記第1部の歯元側に隣接する第2部を含み、
前記第2面および前記第4面は、第3部と、前記第3部の歯先側に隣接する第4部と、前記第4部の歯先側に隣接する第5部と、を含み、
前記第2部は、前記第1面と前記第3面とを押し付ける方向のトルクに応じて前記ギヤと前記移動部材とを軸方向に離す推力を発生し、
前記第3部および前記第5部は、前記第2面と前記第4面とを押し付ける方向のトルクに応じて前記ギヤと前記移動部材とを軸方向に離す推力を発生し、
前記軸を含む平面と前記第3部とのなす角θ1、及び、前記平面と前記第5部とのなす角θ2は、前記平面と前記第4部とのなす角θ3よりも小さい変速機。
【請求項2】
前記平面と前記第2部とのなす角θ4は、前記角θ1及び前記角θ2よりも大きい請求項1記載の変速機。
【請求項3】
前記角θ1及び前記角θ2は20°以下である請求項1又は2に記載の変速機。
【請求項4】
前記角θ3は70°以上90°以下である請求項1から3のいずれかに記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸に配置されたギヤを選択的に軸に結合する変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機において、第1歯が設けられたギヤと第2歯が設けられた移動部材とを軸に配置し、移動部材を軸方向に移動させ第1歯と第2歯とをかみ合わせて移動部材を介して軸にギヤを選択的に結合する先行技術は知られている(特許文献1)。先行技術では(図9参照)、第2歯のドライブトルクが作用する面の歯元に、かみ合いを解除する方向のスラスト力を発生する傾斜を設ける。第2歯のコースティングトルクが作用する面に、かみ合い面と、かみ合い面の歯先側に隣接するガイド面と、を設ける。コースティングトルクが作用すると、かみ合い面およびガイド面は、かみ合いを解除する方向のスラスト力を発生する。軸を含む平面とガイド面とのなす角は、軸を含む平面とかみ合い面とのなす角よりも大きい。
【0003】
先行技術では、シフトアップのときに変速上段の第2歯と第1歯との間にドライブトルクが働き、且つ、変速下段の第2歯のガイド面と第1歯との間にコースティングトルクが働くと、変速下段の第1歯に第2歯のガイド面が加えるスラスト力によってかみ合いが外れ、シフトアップが完了する。シフトダウンのときにアクチュエータを駆動して移動部材を軸方向に移動させ、変速下段の第1歯に第2歯のガイド面が当たりながらかみ合い、変速上段のかみ合いが外れるとシフトダウンが完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-133827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術は、シフトアップのときに変速下段のガイド面が当たりながら第1歯と第2歯とのかみ合いが外れるので、軸を含む平面とガイド面とのなす角が小さいと、かみ合いが外れるときの移動部材の運動エネルギーがほとんど低減しない。従って、移動部材から係合部までの部材が必要とする機械的強度が大きくなるという問題点、かみ合いが外れた移動部材を静止させるための機構が要する機械的強度が大きくなるという問題点、移動部材が静止するときに異音が発生するという問題点がある。シフトダウンのときは変速下段のガイド面が当たりながら第1歯と第2歯とがかみ合うので、軸を含む平面とガイド面とのなす角が大きいと、高出力のアクチュエータでないと変速下段のガイド面に加えるスラスト力に抗して移動部材を移動できない。従ってアクチュエータが大型化するという問題点がある。
【0006】
本発明はこれらの問題点を解決するためになされたものであり、必要とする機械的強度および異音の低減、移動部材を移動させるアクチュエータの小型化ができる変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明の変速機は、第1歯が設けられ軸に配置されたギヤを軸に選択的に結合するものであり、第1歯にかみ合う第2歯が設けられた移動部材を備える。第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備える。第2歯は、移動部材が軸方向に移動して第1歯と第2歯とがかみ合うときに第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、移動部材が軸方向に移動して第1歯と第2歯とがかみ合うときに第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備える。第1面および第3面は、第1面と第3面とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部を含み、第1面および第3面の少なくとも一方は、第1部の歯元側に隣接する第2部を含む。第2面および第4面は、第3部と、第3部の歯先側に隣接する第4部と、第4部の歯先側に隣接する第5部と、を含む。第2部は、第1面と第3面とを押し付ける方向のトルクに応じてギヤと移動部材とを軸方向に離す推力を発生し、第3部および第5部は、第2面と第4面とを押し付ける方向のトルクに応じてギヤと移動部材とを軸方向に離す推力を発生する。軸を含む平面と第3部とのなす角θ1、及び、軸を含む平面と第5部とのなす角θ2は、軸を含む平面と第4部とのなす角θ3よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
第1の態様によれば、シフトダウンのときは変速下段の第5部が当たりながら第1歯と第2歯とがかみ合う。軸を含む平面と第5部とのなす角θ2は、軸を含む平面と第4部とのなす角θ3よりも小さいので、第4部が当たりながら第1歯と第2歯とがかみ合う場合に比べ、第2面と第4面とを押し付けるコースティングトルクに応じてギヤと移動部材とを軸方向に離す推力を低減できる。よってシフトダウンのときに移動部材を移動させるアクチュエータの小型化を達成できる。
【0009】
第2面および第4面に第3部と第5部とをつなぐ第4部があるので、シフトアップの変速下段においてドライブトルクによってかみ合う第1歯と第2歯とのかみ合いが外れるときに、第2面に第4面が当たり難くなる。かみ合いが外れた移動部材の軸方向の速度が速くならないようにできるので、移動部材を静止させるための機構が要する機械的強度を低減でき、移動部材が静止するときに生じる異音を低減できる。
【0010】
第2の態様によれば、軸を含む平面と第2部とのなす角θ4は角θ1及び角θ2よりも大きい。これにより第2面と第4面とを押し付けるコースティングトルクが負荷されているときに、第3部や第5部による、第2面と第4面とを軸方向に離す推力を低減できるので、シフト以外でのコースティングトルクを伝え易くできる。シフトアップのときの変速下段においては、小さなドライブトルクで第2部により第1面と第3面とを軸方向に離す推力が得られるので、変速下段の第1歯と第2歯とのかみ合いが外れ易くなる。
【0011】
第3の態様によれば、角θ1及び角θ2は20°以下である。これにより第1又は第2の態様の効果に加え、第2面と第4面とを押し付けるコースティングトルクに応じてギヤと移動部材とが軸方向に離れる推力をさらに低減できる。
【0012】
第4の態様によれば、角θ3は70°以上90°以下だから、シフトアップのときの変速下段においてかみ合いが外れるときに第4部に歯が当たると、移動部材の運動エネルギーを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施の形態における変速機のスケルトン図である。
図2】遊転ギヤ及び移動部材の模式図である。
図3】(a)はコースティングトルクを伝える変速機の模式図であり、(b)はドライブトルクを伝える変速機の模式図である。
図4】コースティングトルクを伝える変速機の模式図である。
図5】シフトアップ途中の変速機の模式図である。
図6】シフトアップ終了時の変速機の模式図である。
図7】シフトダウン途中の変速機の模式図である。
図8】第2実施の形態における変速機のシフトダウン開始時の模式図である。
図9】シフトダウン途中の変速機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して本発明の変速機10の概略構成を説明する。図1は第1実施の形態における変速機10のスケルトン図である。変速機10は、動力が入力される駆動軸11と、駆動軸11と平行に配置される被動軸12とを備え、被動軸12に出力ギヤ13が配置されている。駆動軸11及び被動軸12は、複数段の変速ギヤとしての1速ギヤ14、2速ギヤ17、3速ギヤ20、4速ギヤ23、5速ギヤ26及び6速ギヤ29を支持する。本実施形態では変速機10は自動車(図示せず)に搭載されている。
【0015】
1速ギヤ14は、駆動軸11に相対回転不能に固定された固定ギヤ15と、固定ギヤ15とかみ合いつつ被動軸12に相対回転可能に固定された遊転ギヤ16と、を備えている。2速ギヤ17は、駆動軸11に相対回転可能に固定された遊転ギヤ18と、遊転ギヤ18とかみ合いつつ被動軸12に相対回転不能に固定された固定ギヤ19と、を備えている。3速ギヤ20は、駆動軸11に相対回転不能に固定された固定ギヤ21と、固定ギヤ21とかみ合いつつ被動軸12に相対回転可能に固定された遊転ギヤ22と、を備えている。
【0016】
4速ギヤ23は、駆動軸11に相対回転可能に固定された遊転ギヤ24と、遊転ギヤ24とかみ合いつつ被動軸12に相対回転不能に固定された固定ギヤ25と、を備えている。5速ギヤ26は、駆動軸11に相対回転可能に固定された遊転ギヤ27と、遊転ギヤ27とかみ合いつつ被動軸12に相対回転不能に固定された固定ギヤ28と、を備えている。6速ギヤ29は、駆動軸11に相対回転可能に固定された遊転ギヤ30と、遊転ギヤ30とかみ合いつつ被動軸12に相対回転不能に固定された固定ギヤ31と、を備えている。
【0017】
遊転ギヤ16,18,22,24,27,30の端面には、それぞれ軸方向に突出する第1歯32が設けられている。第1歯32と軸方向に隣り合う位置に設けられたハブ33は、駆動軸11や被動軸12に結合している。ハブ33の外周には、ハブ33に対して回転不能、且つ、軸方向へ移動可能に移動部材34が配置されている。移動部材34の端面には、第1歯32と周方向にかみ合う第2歯35が設けられている。移動部材34が軸方向に移動し、遊転ギヤ16,18,22,24,27,30に設けられた第1歯32と移動部材34に設けられた第2歯35とがかみ合うと、移動部材34及びハブ33を介して駆動軸11や被動軸12に遊転ギヤ16,18,22,24,27,30のいずれかが選択的に結合する。
【0018】
シフト装置36は移動部材34の軸方向の位置を設定する。シフト装置36は、移動部材34にそれぞれ係合するシフトフォーク37,38,39と、シフトフォーク37,38,39にそれぞれ結合するシフトアーム40,41,42と、円柱状のシフトドラム43と、を備えている。シフトフォーク37は、遊転ギヤ18と遊転ギヤ27との間に配置された移動部材34に係合する。シフトフォーク38は、遊転ギヤ24と遊転ギヤ30との間に配置された移動部材34に係合する。シフトフォーク39は、遊転ギヤ16と遊転ギヤ22との間に配置された移動部材34に係合する。
【0019】
シフトドラム43はケースCに固定されており、モータ等のアクチュエータ(図示せず)により軸回りに回転する。シフトドラム43の外周にはカム溝44,45,46が設けられている。シフトアーム40に結合する係合部47はカム溝44に係合する。シフトアーム41に結合する係合部48はカム溝45に係合する。シフトアーム42に結合する係合部49はカム溝46に係合する。
【0020】
シフトドラム43は、シフトレバー(図示せず)の操作信号に基づき、或いはアクセルペダル(図示せず)の操作によるアクセル開度および車速信号等に基づき回転する。シフトドラム43(円筒カム)が回転すると、カム溝44,45,46に係合部47,48,49がそれぞれガイドされたシフトアーム40,41,42を介して、シフトフォーク37,38,39は軸方向に移動する。シフトフォーク37,38,39の移動に伴い移動部材34は軸方向に移動する。
【0021】
シフト装置36は、ばね機構50を備えている。本実施形態では、ばね機構50は、シフトアーム40,41,42の外周にそれぞれ設けられた複数の凹み51と、凹み51に係合するボール52と、ボール52を弾性力によって凹み51に押し付けるばね53と、を備えている。凹み51は、軸方向に互いに向かい合う一対の傾斜面を有する。
【0022】
移動部材34が中立位置にあるとき、及び、移動部材34に設けられた第2歯35と第1歯32とのかみ合いが最も深いときに、ボール52は凹み51の底に位置する。凹み51の傾斜面をボール52が乗り上げたり乗り越えたりするときに、ばね53はシフトアーム40,41,42に軸方向の力を加える。ばね機構50は、ばね53の弾性力によって、移動部材34の軸方向の位置決めの補助や第1歯32と第2歯35とのかみ合い外れの補助をする。
【0023】
ばね機構50は、シフトドラム43の外周に設けられた複数の凹み51aと、凹み51aに係合するボール52aと、ボール52aを弾性力によって凹み51aに押し付けるばね53aと、を備えている。凹み51aは、シフトドラム43の回転方向に互いに向かい合う一対の傾斜面を有する。
【0024】
移動部材34に設けられた第2歯35と第1歯32とのかみ合いが最も深いときに、ボール52aは凹み51aの底に位置する。凹み51aの傾斜面をボール52aが乗り上げたり乗り越えたりするときに、ばね53aはシフトドラム43に回転方向の力を加える。ばね機構50は、ばね53aの弾性力によって、シフトドラム43の回転方向の位置決めの補助をする。
【0025】
図2を参照して遊転ギヤ24及び移動部材34について説明する。図2は駆動軸11に配置された遊転ギヤ24及び移動部材34の模式図である。図2には、遊転ギヤ24及び移動部材34を軸直角方向から見たときの第1歯32及び第2歯35が模式的に図示されている。遊転ギヤ16,18,22,24,27,30は、遊転ギヤ24と同様に第1歯32が設けられているので、遊転ギヤ24を説明して、他の遊転ギヤ16,18,22,27,30の説明は省略する。
【0026】
遊転ギヤ24の外周には、固定ギヤ25にかみ合う歯(図示せず)が設けられている。遊転ギヤ24の片方の端面には、軸方向に突出する第1歯32が設けられている。第1歯32は、遊転ギヤ24の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。第1歯32は、周方向の一方を向く第1面54と、周方向の他方を向く第2面57と、を備える。
【0027】
移動部材34の両方の端面には、軸方向に突出する第2歯35が設けられている。第2歯35は、移動部材34の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。第2歯35は、周方向の一方を向く第4面64と、周方向の他方を向く第3面61と、を備える。第3面61は、移動部材34が軸方向に移動して第1歯32と第2歯35とがかみ合うときに第1面54の少なくとも一部に対面する。第4面64は、移動部材34が軸方向に移動して第1歯32と第2歯35とがかみ合うときに第2面57の少なくとも一部に対面する。
【0028】
第1面54は、第1面54と第3面61とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部55と、第1部55の歯元側に隣接する第2部56と、を含む。第2部56は、第1面54と第3面61とを押し付ける方向のトルクに応じて遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力を発生する。第1部55は、歯元へ向かうにつれて第2面57へ近づくように傾斜している。第2部56は、歯元へ向かうにつれて第2面57から離れるように傾斜している。
【0029】
第3面61は、第1面54と第3面61とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部62と、第1部62の歯元側に隣接する第2部63と、を含む。第2部63は、第1面54と第3面61とを押し付ける方向のトルクに応じて遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力を発生する。第1部62は、歯元へ向かうにつれて第4面64へ近づくように傾斜している。第2部63は、歯元へ向かうにつれて第4面64から離れるように傾斜している。第1部55,62は、第1面54と第3面61とを押し付ける方向のトルク(ドライブトルク)を伝える。
【0030】
第2面57は、第3部58と、第3部58の歯先側に隣接する第4部59と、第4部59の歯先側に隣接する第5部60と、を含む。第3部58及び第5部60は、歯先へ向かうにつれて第1面54へ近づくように傾斜している。第4部59は、第3部58と第5部60とを接続している。
【0031】
第4面64は、第3部65と、第3部65の歯先側に隣接する第4部66と、第4部66の歯先側に隣接する第5部67と、を含む。第3部65及び第5部67は、歯先へ向かうにつれて第3面61へ近づくように傾斜している。第4部66は、第3部65と第5部67とを接続している。第3部58,65及び第5部60,67は、第2面57と第4面64とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力を発生する。
【0032】
第1歯32において、駆動軸11(遊転ギヤ24の中心軸)を含む平面Pと第3部58とのなす角θ1、及び平面Pと第5部60とのなす角θ2は、平面Pと第4部59とのなす角θ3よりも小さい。平面Pと第2部56とのなす角θ4は、平面Pと第4部59とのなす角θ3よりも小さい。本実施形態では、平面Pと第1部55とのなす角θ5はθ5>0°である。第2部56,63の軸方向の長さは、第3部58の軸方向の長さと等しい、又は、第3部58の軸方向の長さよりも短い。
【0033】
第2歯35において、駆動軸11(移動部材34の中心軸)を含む平面Pと第3部65とのなす角θ1、及び平面Pと第5部67とのなす角θ2は、平面Pと第4部66とのなす角θ3よりも小さい。平面Pと第2部63とのなす角θ4は、平面Pと第4部66とのなす角θ3よりも小さい。本実施形態では平面Pと第1部62とのなす角θ5はθ5>0°である。
【0034】
第1歯32及び第2歯35において、角θ1及び角θ2は、摩擦力によってロックしない角度より大きく20°以下が好適である。θ1<θ3≦90°である。平面Pと第4部59とのなす角θ3は、平面Pと第4部66とのなす角θ3と同じであっても良いし異なっていても良い。θ4>θ1、且つ、θ4>θ2が好適であり、70°≦θ3≦90°が好適である。
【0035】
図3から図7を参照して変速機10の動作を説明する。図3(a)は4速ギヤ23においてコースティングトルクを伝える変速機10の模式図である。図3(b)は4速ギヤ23においてドライブトルクを伝える変速機10の模式図である。図において移動部材34及び遊転ギヤ24の回転方向は、紙面に沿って下向き(矢印R1方向)である(図4から図9においても同じ)。
【0036】
図3(a)に示すように、シフトドラム43(図1参照)のカム溝45に係合部48が係合している。シフトドラム43が回転すると、カム溝45の内側に設けられた第1カム68及び第2カム76によって、係合部48及びシフトアーム41の軸方向の位置が設定される。第1カム68は第2カム76と軸方向に対面する。第1カム68は、第1歯32と第2歯35とがかみ合うように係合部48を第1の軸方向に移動させる。第2カム76は、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるように係合部48を第2の軸方向に移動させる。第1カム68の圧力角(係合部48の運動方向に一致するシフトドラム43の軸線とカムの法線とのなす角)及び第2カム76の圧力角は、対面する相手の圧力角に束縛されない独立した値をとる。
【0037】
第1カム68は、順に第1平面69、第1斜面70、第2斜面71、第3斜面72、第2平面73、第4斜面74、第5斜面75、第1平面69とつながる。第1斜面70、第2斜面71、第3斜面72、第2平面73、第4斜面74及び第5斜面75は、第1平面69に対して軸方向に突き出ている。第1斜面70は、第2斜面71、第3斜面72、第4斜面74及び第5斜面75の回転方向の反対側を向いている。
【0038】
第1平面69及び第2平面73の圧力角は、例えば摩擦角(カムと係合部48との間の静止摩擦係数の正接に等しい)以上である。第1平面69及び第2平面73の圧力角は、第1斜面70、第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも小さい。第1斜面70の圧力角は、第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも大きい。第5斜面75の圧力角は、第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも大きい。第2斜面71の圧力角は、第2斜面71に作用する係合部48の摩擦力によって係合部48がロックしない角度より大きく、コースティングトルクが作用するときに第2斜面71に係合部48が静止する角度以下である。第2斜面71の圧力角は例えば8°-20°である。
【0039】
第2カム76は、順に第3平面77、第6斜面78、第4平面79、第7斜面80、第5平面81、第8斜面82、第3平面77とつながる。第6斜面78、第4平面79、第7斜面80、第5平面81及び第8斜面82は、第3平面77に対して軸方向に落ち込んでいる。第6斜面78は、第7斜面80及び第8斜面82の回転方向の反対側を向いている。第3平面77、第4平面79及び第5平面81の圧力角は、例えば摩擦角以上である。第3平面77、第4平面79及び第5平面81の圧力角は、第6斜面78、第7斜面80及び第8斜面82の圧力角よりも小さい。第6斜面78及び第8斜面82の圧力角は、第7斜面80の圧力角よりも大きい。第6斜面78及び第8斜面82の圧力角は、第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも大きい。
【0040】
第1平面69及び第3平面77は、第1歯32と第2歯35とがかみ合わない中立位置に、係合部48の位置を設定する。第3平面77及び第6斜面78は第1平面69の軸方向に位置する。第4平面79は第1斜面70の軸方向に位置する。第7斜面80は第2斜面71の軸方向に位置する。第5平面81は第3斜面72、第2平面73及び第4斜面74の軸方向に位置する。第8斜面82は第5斜面75及び第1平面69の軸方向に位置する。
【0041】
図3(a)に示すように第1歯32と第2歯35とがかみ合い、第1歯32の第3部58に第2歯35の第5部67を押し付けて遊転ギヤ24から移動部材34にコースティングトルクを伝えるときは、係合部48は第2斜面71に接する。コースティングトルクによって押し付けられた第1歯32の第3部58及び第2歯35の第5部67は、遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力を発生する。コースティングトルクによって第3部58及び第5部67が生じる軸方向の推力は、通常は、ばね機構50によりシフトアーム41に作用する軸方向の力よりも小さい。よってシフトアーム41は軸方向に移動することなく、シフトアーム41に結合した係合部48が第2斜面71に接した状態で、第1歯32と第2歯35とのかみ合いを維持する。
【0042】
ばね機構50によりシフトアーム41に作用する軸方向の力とは、遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力に抗するようにシフトアーム41に働くばね53の力、及び、係合部48を介して第1カム68の斜面に生じるシフトドラム43を回転する力に抗するようにシフトアーム41に働くばね53aの力をいう。
【0043】
θ4>θ1、且つ、θ4>θ2であると、第2面57と第4面64とを押し付けるコースティングトルクが負荷されているときに、第3部58,65や第5部60,67による、第2面57と第4面64とを軸方向に離す推力を低減できる。よってシフト以外のときにコースティングトルクを伝え易くできる。
【0044】
図3(b)に示すように、第1歯32の第1面54(図2参照)に第2歯35の第3面61を押し付けて移動部材34から遊転ギヤ24にドライブトルクが伝わる。第1歯32の第2部56に第2歯35が接する、又は、第2歯35の第2部63に第1歯32が接すると、遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力が生じる。ドライブトルクによって第2部56,63に生じる軸方向の推力が、ばね機構50がシフトアーム41に加える軸方向の力Eよりも大きいと、移動部材34及びシフトアーム41は軸方向に移動する。
【0045】
θ4>θ1、且つ、θ4>θ2であると、小さなドライブトルクで第2部56,63により第1面54と第3面61とを軸方向に離す推力が得られる。よってシフトアップの変速下段においては、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れ易くなる。
【0046】
第1歯32の第1部55と第2歯35の第1部62とが接すると、遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力が生じなくなる。移動部材34には、ばね機構50によって、第1歯32と第2歯35とのかみ合いを維持する軸方向の力Eが作用する。第1歯32と第2歯35とのかみ合いは、第1部55と第1部62との間の摩擦やばね機構50による軸方向の力E等によって維持される。
【0047】
遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力による移動部材34及びシフトアーム41の軸方向の移動に伴い、シフトアーム41に結合する係合部48は第1カム68の第2斜面71に力を加える。第2斜面71の圧力角によってシフトドラム43(図1参照)に回転方向の力が作用する。第2斜面71の圧力角は、この力によって係合部48が静止しない角度に設定されているので、第2斜面71に係合部48が接した状態でシフトドラム43は回転して、ばね機構50がシフトドラム43に加える回転方向の力と釣り合う位置でシフトドラム43は静止する。
【0048】
第1歯32と第2歯35との間にコースティングトルクが伝わるときも第1歯32と第2歯35との間にドライブトルクが伝わるときも、変速動作中を除き、ばね機構50によってシフトアーム41に働く軸方向の力により係合部48は第1カム68に接している。従ってコースティングトルクが伝わるときとドライブトルクが伝わるときの切替わり時に第1カム68や第2カム76に係合部48が当たって生じる衝撃を低減できる。
【0049】
第1歯32と第2歯35との間にコースティングトルクが伝わるときにシフトドラム43は静止しているので、第3部58,67のかみ合いが維持される。θ1<θ3であると第3部58,67による軸方向の推力を低減できる。
【0050】
図4はコースティングトルクを伝える変速機10の模式図である。第1歯32の第3部58に第2歯35の第5部67を押し付けて遊転ギヤ24から移動部材34にコースティングトルクを伝えているときに(図3(a)参照)、過大なコースティングトルクが加わると、第3部58と第5部67とによって生じる遊転ギヤ24と移動部材34とを軸方向に離す推力によって、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるおそれがある。第1カム68には、第1歯32の第5部60と第2歯35の第5部67とがかみ合うときの軸方向位置に係合部48の位置を設定する第2平面73が設けられている。第2平面73は、第1平面69に向かって軸方向に下降傾斜する第3斜面72と第4斜面74との間に存在する。
【0051】
第2平面73の圧力角がほぼ0°のときは、シフトアーム41に結合する係合部48が第2平面73に軸方向の力を加えても、シフトドラム43(図1参照)に回転方向の力はほとんど作用しない。第1歯32の第3部58と第2歯35の第5部67とのかみ合いが外れても、第1カム68の第2平面73によって、第1歯32の第5部60と第2歯35の第5部67とのかみ合いを維持できるので、過大なコースティングトルクを伝達できる。
【0052】
第2平面73の圧力角が摩擦角以上のときは、係合部48が第2平面73に軸方向の力を加えるとシフトドラム43に回転方向の力が生じる。しかし、遊転ギヤ24と移動部材34との間の軸方向の距離が長くなる分、ばね機構50によりシフトアーム41に作用する軸方向の力が大きくなるので、第1歯32と第2歯35とのかみ合いを維持できる。よってコースティングトルクを伝達できる。
【0053】
図5及び図6を参照して変速機10のシフトアップの動作を説明する。一例として4速ギヤ23から5速ギヤ26へのシフトアップの動作を説明する。他の段の変速動作もこれと同様なので、他の段のシフトアップの動作は説明を省略する。
【0054】
図5は4速ギヤ23から5速ギヤ26へシフトアップ途中の変速機10の模式図である。図6は5速ギヤ26へシフトアップ終了時の変速機10の模式図である。図5の矢印R2は、シフトドラム43(図1参照)の回転方向を示す(図6から図9においても同じ)。5速ギヤ26では、シフトドラム43が回転すると、カム溝44に係合部47がガイドされたシフトアーム40を介して移動部材34は軸方向に移動する。カム溝44は、カム溝45と同様に、第1カム68及び第2カム76が設けられている。
【0055】
図5に示すように4速ギヤ23では、シフトドラム43が回転すると、第7斜面80から第5平面81に係合部48が移動し、ばね機構50による軸方向の力Eに抗して、遊転ギヤ24から軸方向に移動部材34が離される。これにより第1歯32の第1部55と第2歯35の第1部62とが接し、ドライブトルクが伝わる。移動部材34には、ばね機構50によって、第1歯32と第2歯35とのかみ合いを維持する軸方向の力Eが作用する。
【0056】
5速ギヤ26では、遊転ギヤ27の第1歯32と移動部材34の第2歯35とがかみ合わない中立位置からシフトドラム43が回転すると、第1平面69に接していた係合部47は、第1斜面70に押されて軸方向に移動する。係合部47の移動に伴い、移動部材34は遊転ギヤ27に近づく。第1斜面70の圧力角は、第1カム68の第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも大きいので、シフトドラム43の回転に伴い、第1歯32と第2歯35とを速くかみ合わせることができる。
【0057】
4速ギヤ23の第1歯32と第2歯35とがかみ合った状態で、5速ギヤ26の第1歯32と第2歯35とがかみ合うと、各ギヤ比により4速ギヤ23はコースト状態、5速ギヤ26はドライブ状態となる。5速ギヤ26では第1歯32の第1部55と第2歯35の第1部62とが接するので、遊転ギヤ27と移動部材34とが軸方向へ離れる推力が生じない。よってシフトドラム43がさらに回転すると、第1カム68の第1斜面70に係合部47が押されて移動部材34が遊転ギヤ27へより近づき、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが速く深くなる。
【0058】
4速ギヤ23の第1歯32と第2歯35との間のトルクの向きがドライブトルクからコースティングトルクに変わると、第1歯32の第1部55と第2歯35の第1部62とのかみ合いから、第1歯32の第4部59と第2歯35とのかみ合いに変わり、遊転ギヤ24と移動部材34とが軸方向に離れる推力が生じる。θ3>θ1なので、第2部56により、軸方向に移動する移動部材34から係合部48までの部材の運動エネルギーを低減できる。よってシフト装置36に生じる衝撃や異音を低減できる。
【0059】
4速ギヤ23では、シフトドラム43が回転すると、第2カム76の第8斜面82に係合部48が押され、遊転ギヤ24から移動部材34が軸方向に離れ、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れる。第8斜面82の圧力角は、第1カム68の第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも大きいので、シフトドラム43の回転に伴い、第1歯32から第2歯35を速く離すことができる。
【0060】
図6に示すようにシフトアップ終了時において、4速ギヤ23の係合部48は第1カム68の第1平面69に接し、5速ギヤ26の係合部47は第2斜面71と第7斜面80との間に位置する。
【0061】
4速ギヤ23において、第1歯32の第1部55と第2歯35の第1部62とが接する状態では(図5参照)、第1歯の第3部58と第2歯35の第5部67との間に周方向の隙間ができる。第1歯32の第1部55と第2歯35の第1部62とが接した状態から第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れる。第1歯32の第2面57に第2歯35の第4面64が当たるよりも速く、第2カム76の運動によって移動部材34が移動するように、第8斜面82の圧力角、及び、隣り合う第1歯32の第1部55と第5部60との間の周方向の距離S(図2参照)が設定されている。第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるときに、第1歯32に第2歯35の歯先が当たらないようにできるので、第1歯32の第2面57の摩耗や第2歯35の歯先の摩耗を低減できる。
【0062】
さらに第2面57に生じるスラスト力を利用して第2歯35のかみ合いを外す場合に比べ、第2面57によって移動部材34の軸方向の速度が速くならないようにできる。移動部材34から係合部48までの部材の運動エネルギーを低減できるので、移動部材34から係合部48までの部材が必要とする機械的強度、及び、移動部材34を静止させるための機構が必要とする機械的強度を低減できる。これに伴い、移動部材34が静止するときに生じる異音を低減できる。
【0063】
4速ギヤ23では、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるときに、第1歯32の第4部59及び第5部60に第2歯35が触れずに、第1歯32から第2歯35が離れる。これは第2歯35を第1歯32から軸方向に離す第2カム76の圧力角やシフトドラム43の回転速度、第1歯32の回転数、第1歯32から第2歯35を軸方向に離すために移動部材34に作用するばねの弾性力等を考慮して、第4部59,66の周方向の長さ、歯元から歯先までの第1歯32の軸方向の高さ、及び、第1部62から第5部67までの第2歯35の周方向の長さを決めることにより実現できる。第1歯32及び第2歯35に第4部59,66があるので、距離Sを確保し、これを実現できる。
【0064】
なお、シフトアップのときの変速下段(4速ギヤ23)において第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるときに第4部59,66に歯が当たるときは、角θ3は70°以上90°以下が好適である。移動部材34の運動エネルギーを低減できるので、かみ合いが外れるときの移動部材34の軸方向の速度が速くならないようにできるからである。
【0065】
4速ギヤ23では、第2歯35と第1歯32との間に働くトルクの向きが変わるときに係合部48は第1カム68に接しているので(図3(a)及び図3(b)参照)、先行技術のように第1カム68と第2カム76との間に係合部48が軸方向に移動できる隙間がある場合に比べ、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるときの移動部材34の初速を制御できる。これにより移動部材34から係合部48までの部材の運動エネルギーを制御できるので、移動部材34から係合部48までの部材が必要とする機械的強度や、かみ合いが外れた移動部材34を静止させるための機構が要する機械的強度を低減できる。
【0066】
図6及び図7を参照して変速機10のシフトダウンの動作を説明する。一例として5速ギヤ26から4速ギヤ23へのシフトダウンの動作について説明する。他の段の変速動作もこれと同様なので、他の段のシフトダウンの動作は説明を省略する。図7は5速ギヤ26から4速ギヤ23へシフトダウン途中の変速機10の模式図である。
【0067】
図6に示すように5速ギヤ26では、第1歯32と第2歯35とがかみ合い、ドライブトルクによって第1歯32の第1部55と第2歯35の第1部62とが押し付けられている。図7に示すように、4速ギヤ23へのシフトダウンのためにシフトドラム43が回転すると、中立位置において第1平面69に接していた4速ギヤ23の係合部48は、第5斜面75、第4斜面74の順に押されて軸方向に移動する。係合部48の軸方向の移動に伴い、移動部材34は遊転ギヤ24に近づく。第4斜面74の圧力角よりも圧力角が大きい第5斜面75によって、シフトドラム43の回転に伴い、第1歯32と第2歯35とを速く近づけることができる。
【0068】
第4斜面74に係合部48が押されて移動部材34が遊転ギヤ24に近づくと、4速ギヤ23では第1歯32の第5部60に第2歯35の第5部67が当たりながら第1歯32と第2歯35とがかみ合い始める。平面P(図2参照)と第5部60,67とのなす角θ2は、平面Pと第4部59,66とのなす角θ3よりも小さいので、第4部59,66同士が当たりながら第1歯32と第2歯35とがかみ合い始める場合に比べ、移動部材34の接近を妨げるスラスト力を小さくできる。シフトドラム43を回転するアクチュエータ(図示せず)の出力が小さくても、かみ合いを妨げるスラスト力に抗して係合部48を軸方向に移動させることができるので、アクチュエータを小型化できる。
【0069】
第5斜面75の圧力角よりも圧力角が小さい第1カム68の第4斜面74によって、シフトドラム43の回転に伴い係合部48を軸方向に移動させ4速ギヤ23の第1歯32と第2歯35とをかみ合わせるので、第5斜面75によって係合部48を軸方向に移動させる場合に比べ、第1カム68が係合部48に加える軸方向の力を大きくできる。これにより第1歯32と第2歯35とのかみ合いを妨げるスラスト力に抗して、第1歯32と第2歯35とのかみ合いを深くできる。
【0070】
5速ギヤ26では、シフトドラム43の回転によって第2カム76の第6斜面78に係合部47が押され、シフトアーム40及び移動部材34が軸方向に移動する。これにより第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れる。第6斜面78の圧力角は、第4斜面74の圧力角よりも大きいので、シフトドラム43の回転に伴い、第1歯32と第2歯35とのかみ合いを速く外すことができる。
【0071】
第1カム68及び第2カム76は、シフトドラム43の回転に伴い、5速ギヤ26(変速上段)の第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れたときに、4速ギヤ23(変速下段)の第1歯32と第2歯35とがかみ合うように設けられている。よって切れ目のないシフトダウンができる。
【0072】
第1カム68の第2平面73の圧力角は、第1カム68の第3斜面72や第4斜面74の圧力角より小さいので、シフトドラム43がさらに回転して、4速ギヤ23において角θ3が大きな第4部59,66同士が接するときに、伝達トルクをゼロにしなくても、第1歯32と第2歯35とのかみ合いを深くできる。よって変速下段のトルク切れを防止できる。
【0073】
4速ギヤ23では、シフトドラム43がさらに回転すると第3斜面72に係合部48が押され、第2歯35の歯先が、第1歯32の第4部59の軸方向位置に到達する。シフトドラム43がさらに回転すると第2斜面71に係合部48が押され、第2歯35の歯先が、第1歯32の第3部58の軸方向位置に到達する。これにより第1歯32と第2歯35とのかみ合いがさらに深くなる。
【0074】
図8及び図9を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、シフトドラム43の回転に伴い、5速ギヤ26の第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れたときに、4速ギヤ23の第1歯32と第2歯35とがかみ合うように第1カム68及び第2カム76が設けられる場合について説明した。これに対し第2実施形態では、4速ギヤ23の第1歯32と第2歯35とがかみ合うと、5速ギヤ26の第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるように第1カム90及び第2カム94が設けられている場合について説明する。第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0075】
図8は第2実施の形態における変速機10のシフトダウン開始時の模式図である。図9はシフトダウン途中の変速機10の模式図である。第1カム90及び第2カム94は、シフトドラム43(図1参照)のカム溝44,45にそれぞれ設けられている。
【0076】
図8に示すように、カム溝44,45に係合部47,48がそれぞれ係合している。シフトドラム43が回転すると、カム溝44,45の内側に設けられた第1カム90及び第2カム94によって、係合部47,48及びシフトアーム40,41の軸方向の位置がそれぞれ設定される。第1カム90は第2カム94と軸方向に対面する。第1カム90は、第1歯32と第2歯35とがかみ合うように係合部47,48を軸方向に移動させる。第2カム94は、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れるように係合部47,48を軸方向に移動させる。
【0077】
第1カム90は、順に第1平面69、第9斜面91、第6平面92、第10斜面93、第2斜面71、第3斜面72、第2平面73、第4斜面74、第5斜面75、第1平面69とつながる。第9斜面91、第6平面92、第10斜面93、第2斜面71、第3斜面72、第2平面73、第4斜面74及び第5斜面75は、第1平面69に対して軸方向に突き出ている。第9斜面91及び第10斜面93は、第2斜面71、第3斜面72、第4斜面74及び第5斜面75の回転方向の反対側を向いている。第6平面92の圧力角はほぼ0°である。第6平面92は、第2斜面71のうち第1平面69に最も近い部分の軸方向の位置と同じ位置に設けられている。第9斜面91の圧力角は、第10斜面93の圧力角よりも大きい。第10斜面93の圧力角は、第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも大きい。
【0078】
第2カム94は、順に第3平面77、第11斜面95、第4平面79、第7斜面80、第5平面81、第8斜面82、第3平面77とつながる。第11斜面95、第4平面79、第7斜面80、第5平面81及び第8斜面82は、第3平面77に対して軸方向に落ち込んでいる。第11斜面95は、第7斜面80及び第8斜面82の回転方向の反対側を向いている。第11斜面95及び第8斜面82の圧力角は、第7斜面80の圧力角よりも大きい。第11斜面95及び第8斜面82の圧力角は、第2斜面71、第3斜面72及び第4斜面74の圧力角よりも大きい。第9斜面91、第6平面92及び第10斜面93の軸方向に第4平面79が位置する。第11斜面95の軸方向に第1平面69が位置する。
【0079】
図8に示すようにシフトドラム43が回転すると、第1カム90の第2斜面71と第2カム94の第7斜面80との間にあった5速ギヤ26の係合部47は、第1カム90の第6平面92に接するまで移動する。4速ギヤ23の係合部48は第1カム90の第1平面69に接している。5速ギヤ26の遊転ギヤ27から移動部材34にコースティングトルクが伝わると、第1歯32の第2面57に第2歯35の第4面64が押し付けられて生じるスラスト力により遊転ギヤ27から軸方向に移動部材34が離れ、第1歯32の第5部60に第2歯35の第5部67が接する。第1カム90の第6平面92に係合部47が接するために移動部材34の軸方向の移動が制限されるので、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが維持され、コースティングトルクが伝達される。
【0080】
図9に示すようにシフトドラム43がさらに回転すると、第4ギヤ23の係合部48は第1カム90に押されて軸方向に移動する。5速ギヤ26の係合部47は第6平面92から外れる。第4ギヤ23では、係合部48の軸方向の移動に伴い、第1歯32に第2歯35がかみ合う。5速ギヤ26は4速ギヤ23より速く回転するので、4速ギヤ23の第1歯32と第2歯35とがかみ合うと、5速ギヤ26の第1歯32の第5部60と第2歯35の第5部67とが押し付け合って生じるスラスト力により、第1歯32と第2歯35とのかみ合いが外れる。これにより切れ目のないシフトダウンができる。
【0081】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、変速機1の変速段の数、シフトドラム43に設けられたカム溝44,45の形状、第1歯32及び第2歯35の形状などは適宜設定できる。
【0082】
実施形態では、変速機10を自動車に搭載する場合について説明したが、これに限られるものではなく、建設機械、産業車両、農業機械等に変速機10を搭載することは当然可能である。この場合も変速機10により変速のときのトルク切れを解消できる。その結果、コーナリング中のシフトダウン等において操縦安定性を確保できると共に、駆動軸11の空回りをなくし燃費を改善できる。
【0083】
実施形態では、第1歯32の第1面54に第2部56が設けられ、且つ、第2歯35の第3面61に第2部63が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2部56,63の片方を省略することは当然可能である。
【0084】
実施形態では、ばね機構50が、シフトアーム40,41,42の外周に設けられた凹み51に係合するボール52をばね53で押し付け、シフトアーム40,41,42に軸方向の力を加えるもの(以下「第1機構」と称す)、及び、シフトドラム43の外周に設けられた凹み51aに係合するボール52aをばね53aで押し付け、シフトドラム43に回転方向の力を加えるもの(以下「第2機構」と称す)を備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば第1機構、第2機構の片方を省略することは当然可能である。
【0085】
第1機構に代えて、又は、第1機構に加えて、シフトアーム40とシフトフォーク37との間、シフトアーム41とシフトフォーク38との間、及び、シフトアーム42とシフトフォーク39との間に、シフトフォークに軸方向の弾性力を加えるばねを配置することは当然可能である。この場合、シフトアーム40,41,42の軸方向の移動に伴い、ばねが、シフトフォーク37,38,39を介して第1歯32と第2歯35とのかみ合いを外す方向の弾性力を加える。
【0086】
第2機構に代えて、又は、第2機構に加えて、シフトドラム43を回転駆動するアクチュエータにばね式のブレーキモータを採用することは当然可能である。この場合もアクチュエータのばねによってシフトドラム43に回転方向の力が加わる。
【0087】
実施形態では、第1歯32の第1部55が、歯元へ向かうにつれて第2面57へ近づくように傾斜しており、第2歯35の第1部62が、歯元へ向かうにつれて第4面64へ近づくように傾斜している場合について説明した(θ5>0°)。しかし、これに限られるものではない。当然θ5=0°でも良い。第1部55,62同士が接触してトルクを伝達しているときに、そのトルクによる力の軸方向の成分と、第1部55,62の間に生じる摩擦力のうちの軸方向の成分と、の合力が、移動部材34を遊転ギヤ24,27から離隔させる方向に作用しなければ良い。この関係を満たせば、第1部55,62は逆向きに傾斜していても良い。
【符号の説明】
【0088】
10 変速機
11 駆動軸(軸)
24,27 遊転ギヤ(ギヤ)
32 第1歯
34 移動部材
35 第2歯
54 第1面
55 第1部
56 第2部
57 第2面
58 第3部
59 第4部
60 第5部
61 第3面
62 第1部
63 第2部
64 第4面
65 第3部
66 第4部
67 第5部
P 平面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9