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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/36 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
H01T13/36
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023506569
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2022033594
(87)【国際公開番号】W WO2023042729
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2021151130
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】大河内 隆邦
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 佑典
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/010102(WO,A1)
【文献】特開2001-176638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に沿って延びる筒状の形状をなし、先端向き面が外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の前記外周に配置される筒状の主体金具と、を備え、
前記主体金具は、前記先端向き面に直接または他部材を介して接する後端向き面が内周に設けられ、外周におねじが設けられた筒状の胴部と、
前記胴部の後端に隣接する座面を含み、前記おねじの外側に張り出す鍔部と、
前記絶縁体を先端側に向かって押圧する加締め部と、を備えるスパークプラグであって、
前記後端向き面と前記座面との間の前記軸線方向の距離をX(mm)、前記おねじの有効径から前記座面の位置における前記胴部の内径を減じた厚さをY(mm)としたとき、
Y≦0.1X+1.48、17.2≦X≦28.2、かつ、Y≧2.6を満たすスパークプラグ。
【請求項2】
さらにY≧0.1X+0.48を満たす請求項1記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記先端向き面と前記後端向き面との間に介在する前記他部材は、前記先端向き面に後端面が接する環状のパッキンであり、
前記軸線を中心とする全周の一部は、前記軸線を含む断面における前記後端面の長さに対する前記後端面と前記先端向き面とが接する長さの割合(%)が、前記軸線の両側で異なり、
前記軸線の両側の前記割合の差は46%以下である請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
さらに23.9≦X≦28.2を満たす請求項3記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記おねじは、呼び径が12mmである請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
外周に先端向き面が設けられた筒状の絶縁体と、絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、を備えるスパークプラグにおいて、主体金具が、絶縁体の先端向き面に直接または他部材を介して接する後端向き面と、絶縁体を先端側に向かって押圧する加締め部と、を備える先行技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2011-118087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術において、加締め部が絶縁体を先端側に押圧する力が大きくなるにつれて、絶縁体の先端向き面と主体金具の後端向き面との間からのガスの漏洩は低減するが、絶縁体の先端向き面の付け根に割れが発生し易くなる。一方、加締め部が絶縁体を先端側に押圧する力が小さくなるにつれて、絶縁体の先端向き面の付け根に割れは発生し難くなるが、絶縁体の先端向き面と主体金具の後端向き面との間からガスが漏洩し易くなる。
【0005】
本発明はこの相反する問題点を解決するためになされたものであり、絶縁体の割れの発生とガスの漏洩とを低減できるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、軸線方向に沿って延びる筒状の形状をなし、先端向き面が外周に設けられた絶縁体と、絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、を備え、主体金具は、先端向き面に直接または他部材を介して接する後端向き面が内周に設けられ、外周におねじが設けられた筒状の胴部と、胴部の後端に隣接する座面を含み、おねじの外側に張り出す鍔部と、絶縁体を先端側に向かって押圧する加締め部と、を備え、後端向き面と座面との間の軸線方向の距離をX(mm)、おねじの有効径から座面の位置における胴部の内径を減じた厚さをY(mm)としたとき、Y≦0.1X+1.48、17.2≦X≦28.2、かつ、Y≧2.6を満たす。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、主体金具の後端向き面と座面との間の軸線方向の距離をX(mm)、主体金具の胴部に設けられたおねじの有効径から座面の位置における胴部の内径を減じた厚さをY(mm)としたとき、Y≦0.1X+1.48、17.2≦X≦28.2、かつ、Y≧2.6を満たす。絶縁体の先端向き面に主体金具が加える軸線方向の力を適度な大きさにできるので、絶縁体の先端向き面の付け根に生じる割れを低減し、さらに絶縁体の先端向き面と主体金具の後端向き面との間からのガスの漏洩を低減できる。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様において、さらにY≧0.1X+0.48を満たす。絶縁体の先端向き面に主体金具が加える軸線方向の力を確保できるので、絶縁体の先端向き面と主体金具の後端向き面との間からのガスの漏洩をさらに低減できる。
【0009】
第3の態様によれば、第1又は第2の態様において、絶縁体の先端向き面と主体金具の後端向き面との間に環状のパッキンが介在し、絶縁体の先端向き面にパッキンの後端面が接する。軸線を中心とする全周の一部において、軸線を含む断面におけるパッキンの後端面の長さに対するパッキンの後端面と絶縁体の先端向き面とが接する長さの割合(%)が、軸線の両側で異なる。軸線の両側で割合が等しい場合に比べ、パッキンの圧力を大きくできるので、絶縁体とパッキンとの間からのガスの漏洩を低減できる。軸線の両側の割合の差は46%以下なので、主体金具の内周に絶縁体が押し付けられて生じる絶縁体の割れを低減できる。
【0010】
第4の態様によれば、第3の態様において、23.9≦X≦28.2を満たす。軸線の両側で割合が異なり易くなるので、絶縁体とパッキンとの間からのガスの漏洩をさらに低減できる。
【0011】
第5の態様によれば、第1から第4の態様のいずれかにおいて、おねじは、呼び径が12mmである。これにより絶縁体の割れの発生とガスの漏洩とを低減する効果が上がり易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
図2】スパークプラグの一部を拡大した部分断面図である。
図3】スパークプラグの一部を拡大した部分断面図である。
図4】(a)は試験1-3において評価が良かった範囲を示す図であり、(b)は試験1,2,4において評価が良かった範囲を示す図であり、(c)は軸線の両側の割合の差が生じ易い範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という(図2及び図3においても同じ)。図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11及び主体金具20を備えている。
【0014】
絶縁体11は、高温下の絶縁性や機械的特性に優れるアルミナ等により形成された略円筒状の部材である。絶縁体11には、軸線Oに沿って延びる軸孔12が形成されている。絶縁体11は、軸線方向の中央において径方向の外側に張り出す張出部13と、張出部13の先端側に隣接する第1部14と、張出部13の後端側に隣接する第2部16と、を備えている。張出部13は絶縁体11の全周に亘って連続している。
【0015】
第1部14の外周に先端向き面15が設けられている。本実施形態では、先端向き面15は第1部14の全周に亘って連続する円錐面である。先端向き面15は、第1部14の全周に亘って連続する、軸線Oに垂直な面であっても良い。
【0016】
絶縁体11の軸孔12の先端側に、中心電極17が配置されている。中心電極17は、絶縁体11に保持される棒状の電極である。中心電極17は、熱伝導性に優れる芯材が母材に埋設されている。母材は、Niを主体とする合金またはNiからなる金属材料で形成されている。芯材は銅または銅を主成分とする合金で形成されている。芯材は省略できる。
【0017】
中心電極17は、絶縁体11の軸孔12の中で端子金具18と電気的に接続されている。端子金具18は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。
【0018】
主体金具20は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具20は、先端側から後端側へ順に、胴部21、鍔部24、湾曲部26、工具係合部27及び加締め部28が連なっている。
【0019】
胴部21は、内周に後端向き面22が設けられ、外周におねじ23が設けられている。胴部21の後端向き面22は、絶縁体11の先端向き面15の先端側に配置されている。本実施形態では、後端向き面22は胴部21の全周に亘って連続する円錐面である。後端向き面22は、胴部21の全周に亘って連続する、軸線Oに垂直な面であっても良い。スパークプラグ10は、おねじ23によってエンジン(図示せず)のプラグホールに取り付けられる。おねじ23の呼び径は、例えば14mm以下である。
【0020】
胴部21の後端に隣接する鍔部24は、座面25を含む。鍔部24の外径は、おねじ23の外径よりも大きい。座面25は先端側を向く円環状の面である。おねじ23がプラグホールのねじに締め付けられたときに、座面25によっておねじ23に軸力が発生する。本実施形態では、座面25は軸線Oに垂直な面である。座面25は、プラグホールの形状に応じ、先端側に向かうにつれて縮径する円錐面であっても良い(いわゆるテーパシートタイプ)。
【0021】
湾曲部26は鍔部24と工具係合部27とをつなぐ。湾曲部26は、曲げ変形の弾性力によって、鍔部24と工具係合部27とを軸線方向に離す方向の力を発生する。工具係合部27は、プラグホールのねじにおねじ23をねじ込むときに、レンチ等の工具が係合する部位である。加締め部28は、径方向の内側へ向けて屈曲する円環状の部位である。加締め部28は、絶縁体11の張出部13よりも後端側に位置する。絶縁体11の張出部13と加締め部28との間に、タルク等の粉末が充填されたシール部29が、絶縁体11の第2部16の全周に亘って設けられている。
【0022】
接地電極30は、主体金具20の胴部21に接続された棒状の金属製(例えばニッケル基合金製)の部材である。接地電極30は中心電極17との間に火花ギャップを形成する。
【0023】
図2はスパークプラグ10の一部を拡大した軸線Oを含む部分断面図である。絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間にパッキン31が介在する。パッキン31は円環状の板材である。パッキン31の材料は、主体金具20を構成する金属材料よりも軟質の鉄や鋼などの金属である。パッキン31の後端面32は絶縁体11の先端向き面15に接し、パッキン31の先端面33は主体金具20の後端向き面22に接している。
【0024】
スパークプラグ10は、例えば以下のような方法によって製造される。まず、中心電極17を絶縁体11の軸孔12に挿入し、中心電極17の先端が絶縁体11から外部に露出するように配置する。次いで、絶縁体11の軸孔12に端子金具18を挿入し、端子金具18と中心電極17とを電気的に接続する。次に、主体金具20の後端向き面22にパッキン31を配置した後、主体金具20に絶縁体11を挿入し、絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間でパッキン31を挟む。
【0025】
次いで、絶縁体11の第2部16と主体金具20との間にシール部29を設けた後、加締め部28及び湾曲部26を形成する。これにより主体金具20の後端向き面22から加締め部28までの部分は、絶縁体11の先端向き面15から張出部13までの部分に、パッキン31及びシール部29を介して軸線方向の圧縮荷重を加える。これにより絶縁体11は主体金具20に保持される。次に接地電極30を曲げ加工してスパークプラグ10を得る。
【0026】
スパークプラグ10は、主体金具20の後端向き面22と座面25との間の軸線方向の距離をX(mm)、おねじ23の有効径から座面25の位置における胴部21の内径Dを減じた厚さをY(mm)としたとき、Y≦0.1X+1.48、17.2≦X≦28.2、かつ、Y≧2.6を満たす。おねじ23の有効径は、おねじ23のねじ溝の幅がねじ山の幅に等しくなる部分をつないでできる仮想的な円筒の直径である。
【0027】
主体金具20の後端向き面22が円錐面であり、座面25が軸線Oに垂直な面である場合、距離Xは、主体金具20の後端向き面22の後端と座面25との間の軸線方向の距離である。主体金具20の後端向き面22及び座面25がどちらも円錐面の場合、距離Xは、主体金具20の後端向き面22の後端と座面25の先端との間の軸線方向の距離である。座面25が円錐面のときの座面25の先端の位置は、胴部21の後端の位置に等しい。座面25が円錐面の場合、厚さYは、おねじ23の有効径から座面25の先端の位置における胴部21の内径Dを減じた厚さである。厚さYは、主体金具20を座面25の位置において円周方向に3等分した位置における厚さ(n=3)の平均値である。
【0028】
主体金具20の後端向き面22と座面25との間の軸線方向の距離Xの範囲を軸線方向に3等分した位置における主体金具20の厚さを、座面25に近い方から順にY1、Y2、Y3とすると、厚さY1、Y2及びY3は、厚さYの90%以上110%以下であることが望ましい。スパークプラグ10を特定する不等式の精度を高めるためである。厚さY1、Y2及びY3は、主体金具20の距離Xの範囲を軸線方向に3等分した位置において、それぞれ円周方向に3等分した位置における厚さ(n=3)の平均値である。
【0029】
軸線Oを含む断面において、スパークプラグ10は、パッキン31の後端面32の長さL1に対する後端面32と先端向き面15とが接する長さL2の割合(%)が、軸線Oの両側で異なる部分がある。図2においてL2/L1は90%である。
【0030】
図3はスパークプラグ10の一部を拡大した軸線Oを含む部分断面図である。パッキン31は軸線Oを中心として全周に亘って連続しているので、軸線Oを含む断面において、軸線Oの両側にパッキン31が図示される。図3の軸線Oの左側には、図2に示すパッキン31が図示されている。図3において、第1部14の位置は胴部21に対して右に片寄っており、パッキン31の位置は後端向き面22に対して左に片寄っている。その結果、軸線Oの右側のパッキン31の後端面32は、先端向き面15に全体が接している。よって軸線Oの右側のパッキン31の長さL1に対する長さL2の割合は100%である。
【0031】
本実施形態では軸線Oの左側の割合は90%、軸線Oの右側の割合は100%なので、軸線Oの両側の割合の差は10%である。スパークプラグ10は、軸線Oを中心とする全周の一部において、軸線Oの両側で割合が異なる部分があるので、軸線Oの両側の割合の差がない場合(例えば軸線Oの両側とも割合が100%の場合)に比べ、絶縁体11の先端向き面15がパッキン31に接する面積が小さくなり、先端向き面15と後端向き面22との間に挟まれたパッキン31の圧力が大きくなる。よって先端向き面15とパッキン31との間からの燃焼ガスの漏洩を低減できる。
【0032】
軸線Oの両側の割合を求めるには、始めにX線透視装置を使って、軸線Oを中心とする全周において、絶縁体11の先端向き面15に対するパッキン31の位置ずれが最も大きな箇所を特定する。次いで、X線透視装置によるスパークプラグ10の非破壊検査またはスパークプラグ10を実際に切断して、特定した箇所と軸線Oとを含む断面におけるパッキン31と先端向き面15とが接する長さを測定し、軸線Oの両側の割合を求める。
【0033】
軸線Oの両側で割合が異なる部分があるスパークプラグ10は、例えば絶縁体11が曲がっている場合に生じ易い。絶縁体11が曲がっていると、軸線Oを境にした胴部21の片側に絶縁体11の第1部14が近づくので、軸線Oの両側の割合に差が生じ易くなる。絶縁体11の曲がりが大きいと、軸線Oの両側の割合の差が大きくなり、胴部21の内周に第1部14の外周が押し付けられ易くなる。軸線Oの両側の割合の差が46%より大きいと、胴部21の内周に第1部14の外周が押し付けられる力によって、第1部14の外周に割れが発生し易くなる。軸線Oの両側の割合の差が46%以下であると、胴部21に第1部14が押し付けられて生じる絶縁体11(第1部14)の割れを低減できる。
【0034】
スパークプラグ10は、23.9≦X≦28.2(mm)を満たすものが好適である。主体金具20の内側に配置される絶縁体11の先端向き面15から張出部13までを適度な長さにできるので、絶縁体11の曲がりを適度な大きさにできる。軸線Oの両側の割合に差が生じ易くなるので、先端向き面15と後端向き面22との間に挟まれたパッキン31の圧力が大きくなる。よって先端向き面15とパッキン31との間からの燃焼ガスの漏洩をさらに低減できる。
【実施例
【0035】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(サンプルの作製)
試験者は、実施形態におけるスパークプラグ10のサンプルを作製して、主体金具20の距離Xと厚さYとの関係を調べる試験を行った。試験者は、距離Xが16.2mmから29.2mmまで1.0mm刻みで異なり(14種)、厚さYが2.0mmから4.5mmまで0.1mm刻みで異なる(24種)、336通りの主体金具20を準備した。主体金具20は、距離X、厚さY以外の寸法は一定であった。主体金具20の材料の低炭素鋼は、JIS G3507-2:2005で規定されている材料であり、引張強さ420-470N/mm、伸び36%以上、ロックウェル硬さ70-80HRB、絞り70%以上であった。主体金具20のおねじ23の呼び径は12mmであった。試験者は、互いに同じ大きさの絶縁体11をサンプルの数だけ準備した。
【0037】
主体金具20の後端向き面22にパッキン31を乗せ、主体金具20に絶縁体11を挿入し、絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間にパッキン31を介在させた。絶縁体11の第2部16と主体金具20との間にシール部29を設けた後、加締め部28によってシール部29を介して絶縁体11の張出部13に軸線方向の一定の力を加えた。これにより336種類のサンプルを得た。
【0038】
(試験1)
サンプルから主体金具20を取り外した後、絶縁体11の第1部14に浸透探傷液を塗布し、余剰の探傷液を除去した後、現像することにより絶縁体11の第1部14の表面の割れの有無を判定した。第1部14の表面に割れが無かったものをA、第1部14の表面に割れがあったものをBと評価した。
【0039】
(試験2)
JIS B8031:2006のねじ破断強度試験に準拠し、鉄製の試験ジグにサンプルをおねじ23が破断するまでトルクレンチで締め付け、そのときのトルク(破断トルク)を測定した。破断トルクが35N・mより大きいサンプルはC、破断トルクが35N・m以下のサンプルはDと判定した。
【0040】
(試験3)
試験3では、主体金具20の厚さ方向に貫通する穴を鍔部24に設けたサンプルを使って試験を行った。試験2で使った試験ジグにサンプルのおねじ23を取り付け、その状態で主体金具20の先端側から主体金具20と絶縁体11との間に1.0MPaの空気圧を加えながらサンプルを加熱した。サンプルの温度と鍔部24の穴からの空気の漏れ量とを測定し、空気の漏れ量が毎分10mLになったときのサンプルの温度が120℃以上のものをE、空気の漏れ量が毎分10mLになったときのサンプルの温度が120℃未満のものをFと評価した。
【0041】
(試験4)
試験4も、主体金具20の厚さ方向に貫通する穴を鍔部24に設けたサンプルを使って試験を行った。試験2で使った試験ジグにサンプルのおねじ23を取り付け、その状態で主体金具20の先端側から主体金具20と絶縁体11との間に1.5MPaの空気圧を加えながらサンプルを加熱した。サンプルの温度と鍔部24の穴からの空気の漏れ量とを測定し、空気の漏れ量が毎分10mLになったときのサンプルの温度が200℃以上のものをG、空気の漏れ量が毎分10mLになったときのサンプルの温度が200℃未満のものをHと評価した。
【0042】
図4(a)は試験1の評価がA、試験2の評価がC、試験3の評価がEの範囲を示す図である。加締め部28が張出部13に加える力が一定の場合、主体金具20の距離X及び厚さYによって、絶縁体11の先端向き面15に加わる軸線方向の力の大きさが変わる。
【0043】
距離Xが長く、かつ、厚さYが薄いほど、先端向き面15に加わる軸線方向の力は小さくなるので、絶縁体11の先端向き面15の付け根の付近に生じる割れに対して有利だが、絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間からのガスの漏洩に対して不利である。反対に、距離Xが短く、かつ、厚さYが厚いほど、先端向き面15に加わる軸線方向の力は大きくなり、ガスの漏洩に対して有利だが、絶縁体11の先端向き面15の付け根の付近に生じる割れに対して不利である。
【0044】
試験1の結果から、Y=0.1X+1.48(mm)は、絶縁体11の先端向き面15の付け根の付近に生じる割れの臨界であることがわかった。Y≦0.1X+1.48(mm)の範囲は、絶縁体11の先端向き面15の付け根の付近の割れを低減できることがわかった。
【0045】
試験1の結果から、X=17.2(mm)は、絶縁体11の先端向き面15の付け根の付近に生じる割れの臨界であることがわかった。X≧17.2(mm)の範囲は、絶縁体11の先端向き面15の付け根の付近の割れを低減できることがわかった。
【0046】
試験1の結果から、Y=4.3(mm)は、絶縁体11の第1部14の表面に生じる割れの臨界であることがわかった。おねじ23の呼び径は一定なので、Y>4.3mmのときは絶縁体11の第1部14の外周が胴部21の内周に当たり易くなり、第1部14の外周に割れが生じると推察される。Y≦4.3(mm)の範囲は、絶縁体11の第1部14の表面の割れを低減できることがわかった。
【0047】
試験2の結果から、Y=2.6(mm)は、おねじ23の破断の臨界であることがわかった。Y≧2.6(mm)の範囲は、胴部21の厚さを確保できるので、おねじ23の破断トルクを十分な大きさにできることがわかった。
【0048】
試験3の結果から、X=28.2(mm)は、絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間からのガスの漏洩の臨界であることがわかった。X≦28.2(mm)の範囲は、絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間からのガスの漏洩を低減できることがわかった。
【0049】
図4(b)は試験1の評価がA、試験2の評価がC、試験4の評価がGの範囲を示す図である。試験4の結果から、Y=0.1X+0.48(mm)は、絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間からのガスの漏洩の臨界であることがわかった。Y≧0.1X+0.48(mm)の範囲は、絶縁体11の先端向き面15と主体金具20の後端向き面22との間からのガスの漏洩をさらに低減できることがわかった。
【0050】
図4(c)は、試験1の評価がA、試験2の評価がC、試験3の評価がEの範囲において、軸線Oを含む断面におけるパッキン31の後端面32の長さL1に対する後端面32と先端向き面15とが接する長さL2の割合(%)の、軸線Oの両側の差が生じ易い範囲を示す図である。
【0051】
図4(c)に示す23.9≦X≦28.2(mm)を満たす範囲は、絶縁体11の曲がりを適度な大きさにできる。軸線Oの両側の割合(%)に差が生じ易くなるので、軸線Oの両側の割合(%)が等しい場合に比べ、先端向き面15と後端向き面22との間に挟まれたパッキン31の圧力が大きくなる。よって先端向き面15とパッキン31との間からのガスの漏洩をさらに低減できる。
【0052】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0053】
実施形態では、主体金具20の加締め部28が、シール部29を介して絶縁体11の張出部13に軸線方向の力を加える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。シール部29を省略して、絶縁体11の張出部13に主体金具20の加締め部28が軸線方向の力を加える場合も、本実施形態と同様の作用効果を実現できる。
【0054】
実施形態では、アーク放電を利用するスパークプラグ10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他のスパークプラグに本発明を適用することは当然可能である。他のスパークプラグとしては、例えばコロナ放電や誘電体バリア放電を利用するスパークプラグが挙げられる。
【0055】
実施形態では、パッキン31を介して絶縁体11の先端向き面15に主体金具20の後端向き面22が接する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。パッキン31を省略して、絶縁体11の先端向き面15に直接、主体金具20の後端向き面22が接するようにすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 スパークプラグ
11 絶縁体
15 先端向き面
20 主体金具
21 胴部
22 後端向き面
23 おねじ
24 鍔部
25 座面
28 加締め部
31 パッキン(他部材)
32 パッキンの後端面
O 軸線
図1
図2
図3
図4