(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 3/12 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
F16H3/12
(21)【出願番号】P 2023507512
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031168
(87)【国際公開番号】W WO2023026400
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 義弘
(72)【発明者】
【氏名】中條 泰雅
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-332991(JP,A)
【文献】特開2010-19386(JP,A)
【文献】特開2014-211219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転が入力される入力軸と、
前記入力軸と異なる軸上に配置された出力軸と、
互いに異なる軸上に前記出力軸と平行に配置された複数の中間軸と、
前記複数の中間軸のそれぞれと前記出力軸との間を連係する常時かみあい式のギヤを介して前記入力軸の回転を互いに異なる変速比で前記出力軸へ伝達する複数の動力伝達経路と、
摩擦力によって駆動側の回転速度と被動側の回転速度との差を小さくする同期機構と、を備え、
前記複数の動力伝達経路は、隣接する変速段用の第1経路および第2経路を含み、
前記同期機構は前記第1経路に配置され、前記同期機構を作動して前記第1経路がトルクを伝達する状態と前記第2経路がトルクを伝達する状態とを切替える変速機。
【請求項2】
前記駆動側と前記被動側との間に相対回転のある状態で前記同期機構に摩擦力が作用しているときに、シフトアップにより前記第2経路がトルクを伝達する状態にする請求項1記載の変速機。
【請求項3】
前記複数の動力伝達経路の少なくとも一つに配置された、軸に沿って移動するスリーブと、
前記スリーブに設けられた第1歯と、
前記第1歯とかみあい、前記駆動側と前記被動側との間にトルクを伝達する第2歯と、を備え、
前記第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備え、
前記第2歯は、前記第1歯と前記第2歯とがかみあうときに前記第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、前記第1歯と前記第2歯とがかみあうときに前記第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備え、
前記第1面および前記第3面は、前記第1面と前記第3面とを押し付ける方向のトルクを伝え、
前記第2面および前記第4面は、前記第2面と前記第4面とを押し付ける方向のトルクに応じて前記第1歯と前記第2歯とのかみあいを外す推力を発生する請求項1又は2に記載の変速機。
【請求項4】
1速段用の前記動力伝達経路に配置された、前記動力伝達経路を断接するかみあいクラッチを備え、
前記かみあいクラッチは、軸に沿って移動するスリーブと、
前記スリーブに設けられた第1歯と、
前記第1歯とかみあい、前記駆動側と前記被動側との間にトルクを伝達する第2歯と、を備え、
前記第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備え、
前記第2歯は、前記第1歯と前記第2歯とがかみあうときに前記第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、前記第1歯と前記第2歯とがかみあうときに前記第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備え、
前記第1面および前記第3面は、前記第1面と前記第2面とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部を含み、
前記第2面および前記第4面は、前記第2面と前記第4面とを押し付ける方向のトルクを伝える第2部を含み、
前記第1歯と前記第2歯とがかみあう軸方向に前記スリーブを運動するシフト装置をさらに備え、
前記シフト装置は、前記スリーブを、前記第1部においてトルクを伝える軸方向の第1位置と、前記第2部においてトルクを伝える、前記第1位置と異なる軸方向の第2位置と、に運動する請求項1から3のいずれかに記載の変速機。
【請求項5】
前記複数の動力伝達経路のうち少なくとも一つを断接する、前記動力伝達経路に配置されたかみあいクラッチを備え、
前記かみあいクラッチは、軸に沿って移動するスリーブと、
前記スリーブに設けられた第1歯と、
前記第1歯とかみ合い、前記駆動側と前記被動側との間にトルクを伝達する第2歯と、を備え、
前記第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備え、
前記第2歯は、前記第1歯と前記第2歯とがかみあうときに前記第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、前記第1歯と前記第2歯とがかみあうときに前記第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備え、
前記第1面および前記第3面は、前記第1面と前記第3面とを押し付ける方向のトルクを伝え、
前記第2面および前記第4面は、前記第2面と前記第4面とを押し付ける方向のトルクに応じて前記第1歯と前記第2歯とのかみあいを外す推力を発生し、
前記第1歯と前記第2歯とがかみあう第1の軸方向に前記スリーブを運動し、前記第1歯と前記第2歯とのかみあいを外す第2の軸方向に前記スリーブを運動するシフト装置をさらに備え、
前記シフト装置は、低速段から高速段へのシフトアップにおいて、低速段用の前記かみあいクラッチの前記第1歯と前記第2歯とのかみあいが外れたときに高速段用の前記第1歯と前記第2歯とをかみあわせる請求項1から4のいずれかに記載の変速機。
【請求項6】
前記第1歯は、前記スリーブの軸方向の片方の端面に設けられている請求項3から5のいずれかに記載の変速機。
【請求項7】
前記同期機構は摩擦クラッチである請求項1から6のいずれかに記載の変速機。
【請求項8】
アクチュエータと、
前記アクチュエータの出力を前記摩擦クラッチへ伝達する動力伝達装置と、を備え、
前記動力伝達装置の、前記摩擦クラッチから前記アクチュエータへの動力伝達効率は負である請求項7記載の変速機。
【請求項9】
前記同期機構はシンクロメッシュであり、
前記シンクロメッシュは、軸に沿って移動するスリーブに設けられた第1歯と、
前記第1歯とかみあう第2歯と、を同期する請求項1から6のいずれかに記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機に関し、特にモータの動力を伝達する変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの動力を伝達する変速機として、特許文献1に開示された先行技術は、同軸上に配置された入力軸および出力軸と、入力軸の回転を出力軸に伝達する奇数段用と偶数段用の2つの動力伝達系統と、2つの動力伝達系統間に配置された、動力伝達系統の切替えを行うクラッチと、を備えている。低速段から高速段へのシフトアップのときに奇数段と偶数段とを交互に切替えると、変速動作時の出力軸のトルク低下を低減した変速、いわゆるシームレスシフトを実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の慣性モーメントは大きいので、変速動作時に被動側の回転速度はほとんど変化しないが、駆動側の回転速度は短時間のうちに変化する。先行技術は、駆動側の運動エネルギーの急激な変化によって過大トルクのピークが発生し、衝撃や異音が発生するという問題点がある。さらに、先行技術は入力軸と出力軸とが同軸上に配置されているので、軸方向に変速機が長くなるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、変速動作時の出力軸のトルク低下と衝撃とを低減し、さらに軸方向の寸法を低減できる変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の変速機は、モータの回転が入力される入力軸と、入力軸と異なる軸上に配置された出力軸と、互いに異なる軸上に出力軸と平行に配置された複数の中間軸と、複数の中間軸のそれぞれと出力軸との間を連係する常時かみあい式のギヤを介して入力軸の回転を互いに異なる変速比で出力軸へ伝達する複数の動力伝達経路と、摩擦力によって駆動側の回転速度と被動側の回転速度との差を小さくする同期機構と、を備え、複数の動力伝達経路は、隣接する変速段用の第1経路および第2経路を含み、同期機構は第1経路に配置され、同期機構を作動して第1経路がトルクを伝達する状態と第2経路がトルクを伝達する状態とを切替える。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、モータの回転が入力される入力軸と異なる軸上に配置された出力軸に、複数の動力伝達経路を経て、互いに異なる変速比で入力軸の回転が伝達される。入力軸と出力軸とが異なる軸上に配置されるので、変速機の軸方向の寸法を低減できる。
【0008】
複数の動力伝達経路は、隣接する変速段用の第1経路および第2経路を含み、摩擦力によって駆動側の回転速度と被動側の回転速度との差を小さくする同期機構が第1経路に配置されている。同期機構を作動して第1経路がトルクを伝達する状態と第2経路がトルクを伝達する状態とを切替えるので、トルクの伝達経路が第2経路から第1経路へ変化するときの出力軸のトルク低下を低減できる。さらに同期機構によって変速動作時の駆動側の回転速度の変化を小さくできるので、変速動作時の衝撃を低減できる。
【0009】
第2の態様によれば、第1の態様において、駆動側と被動側との間に相対回転のある状態で同期機構に摩擦力が作用しているときに、シフトアップにより第2経路がトルクを伝達する状態にする。第2経路がトルクを伝達する状態になるときの衝撃を低減できる。
【0010】
第3の態様によれば、第1又は第2の態様において、第1歯が設けられたスリーブが軸に沿って移動し、駆動側と被動側との間にトルクを伝達する第2歯が第1歯とかみあう。第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備え、第2歯は、第1歯と第2歯とがかみあうときに第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、第1歯と第2歯とがかみあうときに第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備える。第1面および第3面は、第1面と第3面とを押し付ける方向のトルクを伝える。第2面および第4面は、第2面と第4面とを押し付ける方向のトルクに応じて第1歯と第2歯とのかみあいを外す推力を発生する。これにより第2歯と第1歯との間にコースティングトルクが働き、第2面と第4面とが押し付けられると、第1歯と第2歯とのかみあいを外すことができる。
【0011】
第4の態様によれば、第1から第3の態様のいずれかにおいて、1速段用の動力伝達経路に配置されたかみあいクラッチは動力伝達経路を断接する。かみあいクラッチの第1歯が設けられたスリーブが軸に沿って移動し、第2歯が第1歯とかみあい、駆動側と被動側との間にトルクを伝達する。第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備え、第2歯は、第1歯と第2歯とがかみあうときに第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、第1歯と第2歯とがかみあうときに第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備える。第1面および第3面は、第1面と第3面とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部を含む。第2面および第4面は、第2面と第4面とを押し付ける方向のトルクを伝える第2部を含む。第1歯と第2歯とがかみあう軸方向にスリーブを運動するシフト装置は、スリーブを、第1部においてトルクを伝える軸方向の第1位置と、第1位置と異なる軸方向の第2位置と、に運動する。第2位置では第2部がトルクを伝える。これによりドライブトルクもコースティングトルクも伝達できる。さらに第1歯と第2歯とのかみあいをスムーズに外すことができる。また、出力軸をある方向に回転するときのモータの回転と反対にモータを回転すると、出力軸を反対方向に回転できる。
【0012】
第5の態様によれば、第1から第4の態様のいずれかにおいて、動力伝達経路に配置されたかみあいクラッチの第1歯が設けられたスリーブが軸に沿って移動し、第2歯が第1歯とかみあい、駆動側と被動側との間にトルクを伝達する。第1歯は、周方向の一方を向く第1面と、周方向の他方を向く第2面と、を備え、第2歯は、第1歯と第2歯とがかみあうときに第1面の少なくとも一部に対面する第3面と、第1歯と第2歯とがかみあうときに第2面の少なくとも一部に対面する第4面と、を備える。第1面および第3面は、第1面と第3面とを押し付ける方向のトルクを伝え、第2面および第4面は、第2面と第4面とを押し付ける方向のトルクに応じて第1歯と第2歯とのかみあいを解除する推力を発生する。シフト装置は、第1歯と第2歯とがかみあう第1の軸方向にスリーブを運動し、第1歯と第2歯とのかみあいを外す第2の軸方向にスリーブを運動する。シフト装置は、低速段から高速段へのシフトアップにおいて、低速段用のかみあいクラッチの第1歯と第2歯とのかみあいが外れたときに高速段用の第1歯と第2歯とをかみあわせるので、二重かみあいを防止できる。
【0013】
第6の態様によれば、第3から第5の態様のいずれかにおいて、第1歯はスリーブの軸方向の片方の端面に設けられている。スリーブの軸方向の両方の端面に第1歯が設けられている場合に比べ、変速機の軸方向の寸法を短くできる。
【0014】
第7の態様によれば、第1から第6の態様において同期機構は摩擦クラッチなので、伝達トルクを任意に調整できる。
【0015】
第8の態様によれば、第7の態様において、動力伝達装置はアクチュエータの出力を摩擦クラッチへ伝達する。動力伝達装置の、摩擦クラッチからアクチュエータへの動力伝達効率は負なので、アクチュエータが出力し続けなくても摩擦クラッチは連結状態を維持できる。
【0016】
第9の態様によれば、第1から第6の態様のいずれかにおいて同期機構はシンクロメッシュなので、駆動側の回転速度と被動側の回転速度との差を変速動作の中で同調できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は第1実施の形態における変速機のスケルトン図であり、(b)は模式的に示した変速機の側面図である。
【
図3】(a)は前進1速のときのシフト装置の模式図であり、(b)は前進のドライブトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(c)は前進のコースティングトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(d)は後進のときのシフト装置の模式図であり、(e)は後進のドライブトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(f)は後進のコースティングトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図である。
【
図4】(a)はドライブトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図であり、(b)はコースティングトルクを伝達するかみあいクラッチの模式図である。
【
図5】(a)は第2実施の形態における変速機のスケルトン図であり、(b)は模式的に示した変速機の側面図である。
【
図6】(a)は第3実施の形態における変速機のスケルトン図であり、(b)は模式的に示した変速機の側面図である。
【
図7】(a)はシンクロメッシュが同期する第1歯と第2歯の模式図であり、(b)はかみあいクラッチの模式図である。
【
図8】(a)はシフト装置の模式図であり、(b)はシフト装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1(a)から
図4(b)を参照して第1実施の形態における変速機10を説明する。
図1(a)は第1実施の形態における変速機10のスケルトン図である。
図1(b)は模式的に示した変速機10の側面図である。変速機10は車両に搭載される。
【0019】
変速機10は、モータ11の動力が入力される入力軸12と、入力軸12と異なる軸上に配置された出力軸15と、入力軸12の回転を互いに異なる変速比で出力軸15へ伝達する複数の動力伝達経路と、を備えている。モータ11は、例えば発電機としても機能する電動機である。出力軸15は入力軸12と平行に配置されており、出力軸15と平行に配置された第1中間軸13及び第2中間軸14が、互いに異なる軸上に配置されている。モータ11の回転軸と入力軸12とを一体化しても良いし、モータ11の回転軸と入力軸12との間に歯車対やチェーンなどの伝達要素が介在しても良い。
【0020】
入力軸12には第1ギヤ16、摩擦クラッチ17及び第2ギヤ21が配置されている。第1ギヤ16は入力軸12に結合している。摩擦クラッチ17は、摩擦力によって駆動側の回転速度と被動側の回転速度との差を小さくする同期機構である。本実施形態では摩擦クラッチ17は湿式または乾式の多板クラッチである。
【0021】
摩擦クラッチ17は、入力軸12に相対回転可能に配置されたドラム18と、ドラム18と入力軸12との間でトルクを伝達するクラッチ板19と、クラッチ板19の相対運動面を押し付ける押付部材20と、クラッチ板19による動力の伝達を遮断する方向の力を押付部材20に加える戻しばね(図示せず)と、を備えている。第2ギヤ21はドラム18に結合している。
【0022】
摩擦クラッチ17を切ると、第2ギヤ21は入力軸12を空転する。摩擦クラッチ17が作動してクラッチ板19に発生する摩擦力が大きくなると、入力軸12の回転速度と第2ギヤ21(ドラム18)の回転速度との差が小さくなる。クラッチ板19に発生する摩擦力の大きさによって、入力軸12と第2ギヤ21との間に相対回転のある状態で第2ギヤ21が回転したり、入力軸12と同期して入力軸12と一体に第2ギヤ21が回転したりする。摩擦クラッチ17をつなぐと、第2ギヤ21は入力軸12と一体に回転する。
【0023】
摩擦クラッチ17はアクチュエータ22によって作動する。本実施形態では、アクチュエータ22はモータ(電動機)である。動力伝達装置23はアクチュエータ22の出力を摩擦クラッチ17へ伝達する。動力伝達装置23は、駆動ギヤ24、第1要素25及び第2要素26を備えている。
【0024】
アクチュエータ22の回転軸に駆動ギヤ24が取り付けられている。駆動ギヤ24は、互いに歯数が僅かに異なる2つのギヤからなる。駆動ギヤ24のトルクは、駆動ギヤ24にかみあう第1要素25及び第2要素26に伝達される。第1要素25及び第2要素26は、入力軸12に相対回転可能に支持されている。駆動ギヤ24と第1要素25とのギヤ比は、駆動ギヤ24と第2要素26とのギヤ比と僅かに異なる。第1要素25及び第2要素26に駆動ギヤ24がトルクを伝えると、第1要素25及び第2要素26は僅かに相対回転する。第1要素25は入力軸12に対する軸方向(スラスト方向)の位置が固定されている。
【0025】
第1要素25に設けたカム面と第2要素26に設けたカム面との間に転動体27が少なくとも一つ配置されている。転動体27はボールやローラが例示される。転動体27は摩擦によって2つのカム面の間を斜面に沿って転がる。摩擦クラッチ17の戻しばね(図示せず)は、押付部材20を介して第2要素26を転動体27に押し付ける。
【0026】
アクチュエータ22を作動して駆動ギヤ24を正方向に回転し、第1要素25と第2要素26とを相対回転すると、転動体27がカム面を転がり、押付部材20に第2要素26を押し付けるスラスト力が発生する。第2要素26が摩擦クラッチ17の戻しばねを押し返し、押付部材20がクラッチ板19を押し付けると、クラッチ板19に発生する摩擦力が大きくなる。アクチュエータ22を作動して駆動ギヤ24を反対方向に回転すると、クラッチ板19に発生する摩擦力は小さくなる。
【0027】
動力伝達装置23の、アクチュエータ22から摩擦クラッチ17への第1の動力伝達効率と、摩擦クラッチ17からアクチュエータ22への第2の動力伝達効率は、任意に設定できる。なお、第2の動力伝達効率が第1の動力伝達効率より低いと、第1要素25及び第2要素26から駆動ギヤ24へ伝わるトルクによる駆動ギヤ24の回転を低減できるので好ましい。動力伝達装置23がスラスト力を発生した後、その力を維持するためにアクチュエータ22が発生する出力を小さくできるので、アクチュエータ22の消費電力を低減できるからである。
【0028】
第2の動力伝達効率が負のときはより好ましい。動力伝達装置23がスラスト力を発生した後、アクチュエータ22に電流を流さなくても駆動ギヤ24が回転しないようにできるからである。第1の動力伝達効率と第2の動力伝達効率との差は、例えば駆動ギヤ24、第1要素25及び第2要素26のギヤの諸元や歯面の表面粗さにより設定できる。
【0029】
第1中間軸13には第3ギヤ28、第4ギヤ29及びかみあいクラッチ30が配置されている。第3ギヤ28は第1中間軸13に結合している。第3ギヤ28は第1ギヤ16と常時かみあう。第4ギヤ29は第1中間軸13に相対回転可能に配置されている。
【0030】
かみあいクラッチ30は、第1中間軸13と一体に回転するスリーブ31を備えている。スリーブ31にはシフトフォーク(図示せず)が配置されている。第1中間軸13に沿ってシフトフォークが移動すると、スリーブ31は第1中間軸13をスライドする。スリーブ31の軸方向の片方の端面に第1歯32(
図2参照)が設けられている。スリーブ31の軸方向の両方の端面に歯を設ける場合に比べ、第1中間軸13の長さを短くできる。
【0031】
第4ギヤ29の軸方向の端面に設けられた第2歯33にスリーブ31の第1歯32がかみあうと、第4ギヤ29は第1中間軸13と一体に回転する。第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れると、第4ギヤ29は第1中間軸13を空転する。
【0032】
第2中間軸14には第5ギヤ34、第6ギヤ35及びかみあいクラッチ36が配置されている。第5ギヤ34は第2中間軸14に結合している。第5ギヤ34は第1ギヤ16と常時かみあう。第6ギヤ35は第2中間軸14に相対回転可能に配置されている。第6ギヤ35は第2ギヤ21と常時かみあう。
【0033】
かみあいクラッチ36は、第2中間軸14と一体に回転するスリーブ37を備えている。スリーブ37にはシフトフォーク(図示せず)が配置されている。第2中間軸14に沿ってシフトフォークが移動すると、スリーブ37は第2中間軸14をスライドする。スリーブ37の軸方向の片方の端面に第1歯38(
図4(a)参照)が設けられている。スリーブ37の軸方向の両方の端面に歯を設ける場合に比べ、第2中間軸14の長さを短くできる。
【0034】
第6ギヤ35の軸方向の端面に設けられた第2歯39にスリーブ37の第1歯38がかみあうと、第6ギヤ35は第2中間軸14と一体に回転する。第1歯38と第2歯39とのかみあいが外れると、第6ギヤ35は第2中間軸14を空転する。
【0035】
出力軸15には第7ギヤ40が配置されている。第7ギヤ40は出力軸15に結合している。第7ギヤ40は第4ギヤ29及び第6ギヤ35と常時かみあう。出力軸15を車輪の取り付け軸にしたり、出力軸15にさらに出力ギヤを配置したりすることができる。出力軸15を車輪の取り付け軸にする場合には、出力軸15に差動装置を配置し、差動装置に第7ギヤ40を結合する。
【0036】
変速機10は、入力軸12の回転を互いに異なる変速比で出力軸15へ伝達する。変速比は、1速段、2速段、3速段の順に小さい。1速のときは、変速機10はかみあいクラッチ30をつなぎ、摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ36を切る。変速機10は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。後進のときは、変速機10は1速段のときの回転の向きと反対向きの回転を、第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に伝達する。
【0037】
2速のときは、変速機10はかみあいクラッチ36をつなぎ、摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30を切る。変速機10は第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。
【0038】
3速のときは、変速機10は摩擦クラッチ17をつなぎ、かみあいクラッチ30,36を切る。変速機10は摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。3速段における、摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第1経路といい、2速段における、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36,第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第2経路という。
【0039】
図2はかみあいクラッチ30の模式図である。
図2ではスリーブ31及び第4ギヤ29を軸直角方向から見たときの、スリーブ31に設けられた第1歯32、第4ギヤ29に設けられた第2歯33及びシフト装置41が模式的に図示されている。
図2の矢印Fは、車両が前進するときにスリーブ31が回転する方向を示し、矢印Rは、車両が後進するときにスリーブ31が回転する方向を示す。シフト装置41はスリーブ31,37の軸方向の位置を設定する。以下、シフト装置41のうちスリーブ31の位置を設定する部分を説明する。
【0040】
シフト装置41は、スリーブ31に取り付けられたシフトフォーク(図示せず)と、シフトフォークに結合するシフトロッド31aと、シフトドラム42と、を備えている。シフトドラム42はモータ等のアクチュエータ(図示せず)により中心軸Oの周りを回転する。シフトドラム42の外周にはカム溝43が設けられている。シフトロッド31aに設けられた突起44はカム溝43の中に入っている。
【0041】
シフトドラム42は、シフトレバー(図示せず)の操作信号に基づき、或いはアクセルペダル(図示せず)の操作によるアクセル開度および車速信号等に基づき回転する。シフトドラム42(円筒カム)が回転すると、カム溝43に突起44がガイドされたシフトロッド31aを介して、スリーブ31は軸方向に移動する。
【0042】
シフト装置41は、ばね機構41aを備えている。本実施形態では、ばね機構41aは、シフトロッド31aの外周に設けられた複数の凹み41bと、凹み41bに係合するボール41cと、ボール41cを弾性力によって凹み41bに押し付けるばね41dと、を備えている。凹み41bは、軸方向に互いに向かい合う傾斜面を有する。
【0043】
スリーブ31がニュートラルの位置にあるとき、及び、スリーブ31に設けられた第1歯32と第2歯33とのかみ合いが最も深いときに、ボール41cは凹み41bの底に位置する。凹み41bの傾斜面をボール41cが乗り上げたり乗り越えたりするときに、ばね41dはシフトロッド31aに軸方向の力を加える。ばね機構41aは、ばね41dの弾性力によって、スリーブ31の軸方向の位置決めの補助や第1歯32と第2歯33とのかみあい外れの補助をする。
【0044】
第1歯32は、スリーブ31の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第1歯32は、周方向の一方を向く第1面45と、周方向の他方を向く第2面49と、を備える。第2歯33は、第4ギヤ29の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第2歯33は、周方向の一方を向く第4面55と、周方向の他方を向く第3面53と、を備える。第3面53は、スリーブ31が軸方向に移動して第1歯32と第2歯33とがかみあうときに、第1面45の少なくとも一部に対面する。第4面55は、スリーブ31が軸方向に移動して第1歯32と第2歯33とがかみあうときに、第2面49の少なくとも一部に対面する。
【0045】
第1面45は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部46と、第1部46の歯元側に隣接する第5部47と、を含む。第1部46は、歯元へ向かうにつれて第2面49へ近づくように傾斜している。第1部46は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクを伝える。第5部47は、歯元へ向かうにつれて第2面49から離れるように傾斜している。第5部47は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクに応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。
【0046】
第3面53は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクを伝える第1部54を含む。第1部54は、歯元へ向かうにつれて第4面55へ近づくように傾斜している。第1部46,54は、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルク(前進のドライブトルク)を伝える。
【0047】
第2面49は、第2部50と、第2部50の歯先側に位置する第3部52と、第2部50と第3部52との間に位置する第4部51と、を含む。第2部50は、歯先へ向かうにつれて第1面45から離れるように傾斜している。第3部52は、歯先へ向かうにつれて第1面45へ近づくように傾斜している。第4部51は、第2部50と第3部52とを接続している。
【0048】
第4面55は、第2部56と、第2部56の歯元側に位置する第3部58と、第2部56と第3部58との間に位置する第4部57と、を含む。第2部56は、歯元へ向かうにつれて第3面53へ近づくように傾斜している。第3部58は、歯元へ向かうにつれて第3面53から離れるように傾斜している。第4部57は、第2部56と第3部58とを接続している。第2部50,56は、第2面49と第4面55とを押し付ける方向のトルク(後進のドライブトルク)を伝える。第3部52,58は、第2面49と第4面55とを押し付ける方向のトルク(前進のコースティングトルク)に応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。
【0049】
図3(a)から
図3(f)を参照して、前進1速、後進および前進1速のトルクを伝える第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れるときの変速機10の動作を説明する。
図3(a)から
図3(c)は前進1速および後進の状態を示し、
図3(d)から
図3(f)は第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れるときの状態を示す。
【0050】
シフトドラム42は、シフトドラム42の中心軸Oが、シフトロッド31a(
図2参照)、入力軸12(
図1参照)、第1中間軸13、第2中間軸14及び出力軸15と平行に配置されている。
図3(a)及び
図3(d)に示す「N」はニュートラル、「1」は1速段、「R」は後進段を表す。
図3(b)、
図3(c)、
図3(e)及び
図3(f)の矢印Fは前進のときにスリーブ31が回転する方向を示し、矢印Rは後進のときにスリーブ31が回転する方向を示す。
【0051】
中心軸Oの周りにシフトドラム42が回転すると、カム溝43に沿って突起44が移動し、それに伴いシフトロッド31a及びスリーブ31が軸方向に移動する。カム溝43の「N」の部分に突起44が位置すると、第1歯32は第2歯33にかみあわない。カム溝43の「1」又は「R」の部分に突起44が位置すると、第1歯32は第2歯33とかみあう(
図3(a))。
【0052】
図3(b)に示すように、第1歯32から第2歯33へ前進のドライブトルクが伝わるときは、第5部47が、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクに応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生し、第2歯33の第1部54に第1歯32の第1部46が接する位置にスリーブ31が位置する。この位置を第1位置という。第5部47による第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力によって、ばね機構41a(
図2参照)は、第4ギヤ29にスリーブ31を近づける弾性エネルギーを蓄える。第1歯32及び第2歯33は、第1部46,54を押し付けて前進のドライブトルクを伝える。
【0053】
図3(c)に示すように、第1歯32及び第2歯33に前進のコースティングトルクが作用すると、第1歯32の第2面49と第2歯33の第4面55との間の周方向の隙間の分だけ第1歯32と第2歯33とが相対回転する間に、ばね機構41aが蓄えた弾性エネルギーの解放による軸方向の弾性力によってシフトロッド31aが移動し、「1」の部分のカム溝43と突起44との間の隙間の分だけスリーブ31が第4ギヤ29に近づく。これにより第2歯33の第2部56に第1歯32の第2部50が接する位置にスリーブ31が位置する。この位置を第2位置という。第1歯32及び第2歯33は、第2部50,56を押し付けて前進のコースティングトルクを伝える。これにより前進のコースティングトルクが伝わるときのモータ11による回生エネルギーを確保できる。
【0054】
図3(d)に示すように、前進1速から前進2速へシフトアップをするときは、シフト装置41はシフトドラム42を回転して(矢印方向)、カム溝43の「1」の部分にある突起44を「N」の部分に近づけ、さらに摩擦クラッチ17(
図1参照)を回転係合し、入力軸12のトルクの一部を第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。第6ギヤ35の回転が第7ギヤ40に伝わると第4ギヤ29が回転し、変速比の違いによって、第4ギヤ29の回転速度がスリーブ31の回転速度より大きくなる。これにより第1歯32及び第2歯33に前進のコースティングトルクが作用する。
【0055】
カム溝43の傾斜に沿って突起44及びシフトロッド31aが軸方向に移動し、第2歯33の第3部52に第1歯32の第3部58が接する位置にスリーブ31が位置すると、第3部52,58が接し、第2面49と第4面55とを押し付ける方向のトルクに応じて第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。シフトドラム42の回転に伴い、第1歯32と第2歯33とのかみあいがスムーズに外れる(
図3(f))。
【0056】
後進のときはシフトドラム42が回転してカム溝43の「R」の部分に突起44が位置する。これにより第2歯33の第2部56に第1歯32の第2部50が接する第2位置にスリーブ31が位置する。後進のときは、モータ11は前進のときの回転と反対方向に回転する。第1歯32及び第2歯33は、第2部50,56を押し付けて後進のドライブトルクを伝える(
図3(c))。
【0057】
第1歯32及び第2歯33に後進のコースティングトルクが作用すると、第1歯32の第1面45に第2歯33の第3面53が接する(
図3(b))。第1面45の第5部47に第3面53が接すると、第1面45と第3面53とを押し付ける方向のトルクに応じて、第1面45の第5部47が、第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力を発生する。「R」の部分のカム溝43と突起44との間の隙間の分だけ、突起44及びシフトロッド31aが軸方向に移動し、スリーブ31を第1位置に設定する。ばね機構41aの復元力は、第1歯32と第2歯33とのかみあいの維持に寄与する。第1歯32及び第2歯33は、第1部46,54を押し付けて後進のコースティングトルクを伝える。よってモータ11による回生エネルギーを確保できる。スリーブ31を第4ギヤ29から離す推力に、ばね機構41aの復元力を利用しても良い。
【0058】
変速機10によれば、第1歯32と第2歯33とがかみあう第1位置または第2位置にスリーブ31の位置をシフト装置41が設定し、第1歯32と第2歯33とがかみあう位置を変えることにより、ドライブトルクもコースティングトルクも伝達できる。さらに第1歯32と第2歯33とのかみあいをスムーズに外すことができる。また、モータ11の1速段(前進)用の回転と反対方向にモータ11を回転すると後進ができる。よって後進用のギヤ等の機構を省略できる。
【0059】
図4(a)及び
図4(b)はかみあいクラッチ36の模式図である。
図4(a)及び
図4(b)ではスリーブ37及び第6ギヤ35を軸直角方向から見たときの、スリーブ37に設けられた第1歯38、及び、第6ギヤ35に設けられた第2歯39が模式的に図示されている。
図4(a)及び
図4(b)の矢印Fは、スリーブ37が回転する方向を示す。
【0060】
第1歯38は、スリーブ37の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第1歯38は、周方向の一方を向く第1面59と、周方向の他方を向く第2面60と、を備える。第2歯39は、第6ギヤ35の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第2歯39は、周方向の一方を向く第4面65と、周方向の他方を向く第3面64と、を備える。第3面64は、スリーブ37が軸方向に移動して第1歯38と第2歯39とがかみあうときに、第1面59の少なくとも一部に対面する。第4面65は、スリーブ37が軸方向に移動して第1歯38と第2歯39とがかみあうときに、第2面60の少なくとも一部に対面する。
【0061】
第1面59は、歯元へ向かうにつれて第2面60へ近づくように傾斜している。第3面64は、歯元へ向かうにつれて第4面65へ近づくように傾斜している。第1面59及び第3面64は、第1面59と第3面64とを押し付ける方向のトルク(ドライブトルク)を伝える。
【0062】
第2面60は、第7部61と、第7部61の歯先側に位置する第3部63と、第7部61と第3部63との間に位置する第4部62と、を含む。第7部61及び第3部63は、歯先へ向かうにつれて第1面59へ近づくように傾斜している。第4部62は、第7部61と第3部63とを接続している。
【0063】
第4面65は、第7部66と、第7部66の歯元側に位置する第3部68と、第7部66と第3部68との間に位置する第4部67と、を含む。第7部66及び第3部68は、歯元へ向かうにつれて第3面64から離れるように傾斜している。第4部67は、第7部66と第3部68とを接続している。第7部61,66は、第2面60と第4面65とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて第6ギヤ35とスリーブ37とを軸方向に離す推力を発生する。
【0064】
図1(a)に戻って、変速機10の変速動作を説明する。1速のときは、変速機10は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。第1ギヤ16の回転に伴い、第1ギヤ16にかみあう第5ギヤ34及び第2中間軸14も回転する。第7ギヤ40にかみあう第6ギヤ35は、第2中間軸14の周りを相対回転し、第6ギヤ35にかみあう第2ギヤ21は、入力軸12の周りを相対回転する。
【0065】
1速から2速への変速動作は、まず摩擦クラッチ17をすべらしながら作動し、駆動側と被動側との間に相対回転のある状態で、入力軸12のトルクの一部を第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。第6ギヤ35の回転が第7ギヤ40に伝わると第4ギヤ29が回転し、変速比の違いによって、第4ギヤ29の回転速度がスリーブ31の回転速度より大きくなる。第1歯32の第1部46と第2歯33の第1部54とが離れ、第1歯32の第3部52に第2歯33の第3部58が押し付けられると(
図3(e))、第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力が発生し、第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れる(
図3(f))。
【0066】
かみあいクラッチ36のスリーブ37の回転速度と第6ギヤ35の回転速度との差が小さくなったときにスリーブ37を軸方向に移動し、第1歯38と第2歯39とをかみあわせる。かみあいクラッチ36をつなぐと同時に摩擦クラッチ17を切ると、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する2速が成立する。入力軸12のトルクの一部が、摩擦クラッチ17によって出力軸15へ伝達されるので、変速動作時の出力軸15のトルク低下を低減し、シームレスシフトを実現できる。
【0067】
2速から3速への変速動作は、摩擦クラッチ17を連結し、入力軸12のトルクを第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。変速比の違いによって、第6ギヤ35の回転速度がスリーブ37の回転速度より大きくなると、第1歯38の第1面59と第2歯39の第3面64とが離れる。第1歯38の第7部61に第2歯39の第7部66が押し付けられると(
図4(b))、第6ギヤ35とスリーブ37とを軸方向に離す推力が発生し、第1歯38と第2歯39とのかみあいが外れる。これにより摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する3速が成立する。
【0068】
2速から3速の変速動作時に、摩擦クラッチ17によってトルクが出力軸15へ伝達されるので、出力軸15のトルク低下を低減し、シームレスシフトを実現できる。摩擦クラッチ17をつないで2速から3速へ切替えられるので、変速動作時の衝撃を低減できる。
【0069】
摩擦クラッチ17をつないだときに変速比が最も小さい変速段(本実施形態では3速)が成立する第1経路に摩擦クラッチ17が配置されているので、摩擦クラッチ17によって第1経路の駆動側と被動側との相対速度を同調できる。よってシフトアップのときの第2経路(本実施形態では2速の動力伝達経路)から第1経路の切替えを簡易にできる。
【0070】
モータ11が接続された入力軸12に摩擦クラッチ17が配置されているので、摩擦クラッチ17を切ることにより変速機10とモータ11とを切り離すことができる。モータ11を切り離すことで変速機10の慣性モーメントを低減し、変速動作時の衝撃を低減できる。
【0071】
変速機10は、入力軸12、第1中間軸13及び第2中間軸14にそれぞれ1つずつクラッチ(摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30,36)が配置されている。よって各軸にクラッチを2つ以上並べて配置する場合に比べ、変速機10の軸方向の長さを短くできる。
【0072】
1速のときは、第1ギヤ16、第3ギヤ28、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達し、2速のときは、第1ギヤ16、第5ギヤ34、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達し、3速のときは、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。変速機10は2枚または3枚のギヤを介して第7ギヤ40に回転を伝達するので、小型化できる。
【0073】
図5(a)及び
図5(b)を参照して第2実施の形態における変速機70を説明する。第1実施形態では、3速段における動力伝達経路に摩擦クラッチ17が配置される場合について説明した。これに対し第2実施形態では、2速段における動力伝達経路に摩擦クラッチ17が配置される場合について説明する。第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図5(a)は第2実施の形態における変速機70のスケルトン図である。
図5(b)は模式的に示した変速機70の側面図である。
【0074】
変速機70は、入力軸12の回転を互いに異なる変速比で出力軸15へ伝達する。1速のときは、変速機70はかみあいクラッチ30をつなぎ、摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ36を切る。変速機70は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。後進のときは、変速機70は1速段のときの回転の向きと反対向きの回転を、第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に伝達する。
【0075】
2速のときは、変速機70は摩擦クラッチ17をつなぎ、かみあいクラッチ30,36を切る。変速機70は摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。
【0076】
3速のときは、変速機70はかみあいクラッチ36をつなぎ、摩擦クラッチ17及びかみあいクラッチ30を切る。変速機70は第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。
【0077】
2速段における、摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第1経路といい、3速段における、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36,第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第2経路という。変速比は、1速段、2速段、3速段の順に小さい。
【0078】
1速のときは、変速機70は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。第1ギヤ16の回転に伴い、第1ギヤ16にかみあう第5ギヤ34及び第2中間軸14も回転する。第7ギヤ40にかみあう第6ギヤ35は、第2中間軸14の周りを相対回転し、第6ギヤ35にかみあう第2ギヤ21は、入力軸12の周りを相対回転する。
【0079】
1速から2速への変速動作は、摩擦クラッチ17をつなぎ、入力軸12のトルクを第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝える。第6ギヤ35の回転が第7ギヤ40に伝わると第4ギヤ29が回転し、変速比の違いによって、第4ギヤ29の回転速度がスリーブ31の回転速度より大きくなる。第1歯32の第1部46と第2歯33の第1部54とが離れ、第1歯32の第3部52に第2歯33の第3部58が押し付けられると(
図3(e))、第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力が発生し、第1歯32と第2歯33とのかみあいが外れる(
図3(f))。これにより摩擦クラッチ17、第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する2速が成立する。
【0080】
2速から3速への変速動作は、摩擦クラッチ17を切りながら(摩擦力を小さくしながら)、かみあいクラッチ36のスリーブ37の回転速度と第6ギヤ35の回転速度との差が小さくなったときにスリーブ37を軸方向に移動し、第1歯38と第2歯39とをかみあわせる。かみあいクラッチ36をつなぐと同時に摩擦クラッチ17を切ると、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ36、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する3速が成立する。変速機70においても第1実施形態と同様にシームレスシフトを実現できる。
【0081】
図6(a)から
図8(b)を参照して第3実施の形態における変速機71を説明する。第1実施形態および第2実施形態では摩擦クラッチ17が配置される場合について説明した。これに対し第3実施形態ではシンクロメッシュが配置される場合について説明する。第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図6(a)は第3実施の形態における変速機71のスケルトン図である。
図6(b)は模式的に示した変速機71の側面図である。
【0082】
変速機71の入力軸12には第1ギヤ16、第2ギヤ21及びシンクロメッシュ72が配置されている。シンクロメッシュ72は、摩擦力によって、入力軸12と一体に回転するスリーブ73の回転速度と第2ギヤ21の回転速度との差を小さくする同期機構である。シンクロメッシュ72の機構はコンスタントロード式、イナーシャロック式が例示されるが、機構に制限はない。シンクロメッシュ72は、シンクロメッシュ72を作動させていないときに生じる摩擦トルク(ドラグトルク)が小さいので、ドラグトルクによるエネルギー損失を低減できる。
【0083】
スリーブ73にはシフトフォーク(図示せず)が配置されている。入力軸12に沿ってシフトフォークが移動すると、スリーブ73は入力軸12をスライドする。スリーブ73の内周には第1歯74(
図7(a)参照)が設けられている。第2ギヤ21は、入力軸12に相対回転可能に配置されている。第2ギヤ21の外周には、第1歯74にかみあう第2歯75(
図7(a)参照)が設けられている。
【0084】
第2中間軸14に配置されたかみあいクラッチ76は、第2中間軸14と第6ギヤ35との間の動力の伝達・遮断を行う機能をもつ。かみあいクラッチ76は、第2中間軸14と一体に回転するスリーブ37を備えている。スリーブ37にはシフトフォーク(図示せず)が配置されている。スリーブ37の軸方向の片方の端面に第1歯38(
図7(b)参照)が設けられている。
【0085】
図7(a)はシンクロメッシュ72が同期する第1歯74と第2歯75の模式図である。
図7(a)ではスリーブ73及び第2ギヤ21を軸直角方向から見たときの、スリーブ73に設けられた第1歯74及び第2ギヤ21に設けられた第2歯75が模式的に図示されている。矢印Fは、車両が前進するときにスリーブ73が回転する方向を示す。
【0086】
第1歯74は、スリーブ73の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第1歯74は、周方向の一方を向く第1面77と、周方向の他方を向く第2面78と、を備える。第2歯75は、第2ギヤ21の中心軸の周りに、周方向に互いに間隔をあけて複数配置されている。第2歯75は、周方向の一方を向く第4面80と、周方向の他方を向く第3面79と、を備える。第3面79は、スリーブ73が軸方向に移動して第1歯74と第2歯75とがかみあうときに、第1面77の少なくとも一部に対面する。第4面80は、スリーブ73が軸方向に移動して第1歯74と第2歯75とがかみあうときに、第2面78の少なくとも一部に対面する。
【0087】
第1面77及び第2面78は、スリーブ73の中心軸に対して傾斜している。第3面79及び第4面80は、第2ギヤ21の中心軸に対して傾斜している。第1歯74の第1面77及び第2歯75の第3面79は、第1面77と第3面79とを押し付ける方向のトルク(ドライブトルク)を伝える。第1歯74の第2面78及び第2歯75の第4面80は、第2面78と第4面80とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて第2ギヤ21とスリーブ73とを軸方向に離す推力を発生する。
【0088】
図7(b)はかみあいクラッチ76の模式図である。
図7(b)ではスリーブ37及び第6ギヤ35を軸直角方向から見たときの、スリーブ37に設けられた第1歯38、及び、第6ギヤ35に設けられた第2歯39が模式的に図示されている。
図7(b)の矢印Fはスリーブ37が回転する方向を示す。
【0089】
第1歯38は、第1歯38は、周方向の一方を向く第1面81と、周方向の他方を向く第2面60と、を備える。第1面81は、第1部82と、第1部82の歯元側に隣接する第8部83と、を含む。第1部82は、歯元へ向かうにつれて第2面60へ近づくように傾斜している。第1部82及び第3面64は、第1面81と第3面64とを押し付ける方向のトルク(ドライブトルク)を伝える。第8部83は、歯元へ向かうにつれて第2面60から離れるように傾斜している。第8部83及び第3面64は、第1面81と第3面64とを押し付ける方向のトルクに応じて第6ギヤ35とスリーブ37とを軸方向に離す推力を発生する。
【0090】
変速機71は、入力軸12の回転を互いに異なる変速比で出力軸15へ伝達する。変速比は、1速段、2速段、3速段の順に小さい。1速のときは、変速機71はかみあいクラッチ30をつなぎ、かみあいクラッチ76を切り、第1歯74と第2歯75とのかみあいを外す。変速機71は第1ギヤ16、第3ギヤ28、かみあいクラッチ30、第4ギヤ29を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。
【0091】
2速のときは、変速機71はかみあいクラッチ76をつなぎ、かみあいクラッチ30を切り、第1歯74と第2歯75とのかみあいを外す。変速機71は第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ76、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。
【0092】
3速のときは、変速機71は第1歯74と第2歯75とをかみあわせ、かみあいクラッチ30,76を切る。変速機71は第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する。3速段における、第2ギヤ21、第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第1経路といい、2速段における、第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ76,第6ギヤ35及び第7ギヤ40の動力伝達経路を第2経路という。
【0093】
図8(a)を参照してシフトアップのときの変速機71の動作を説明し、
図8(b)を参照してシフトダウンのときの変速機71の動作を説明する。
図8(a)及び
図8(b)はシフト装置41(シフトドラム42)の模式図である。
【0094】
シフトドラム42は外周にカム溝84,85が設けられている。スリーブ73(シンクロメッシュ72)に配置されたシフトフォーク(図示せず)に結合する突起86が、カム溝84の中に入っている。スリーブ37(かみあいクラッチ76)に配置されたシフトフォーク(図示せず)に結合する突起87が、カム溝85の中に入っている。
図8(a)に示す「S」はシンクロメッシュ72による同期、「3」は3速段、「2」は2速段、矢印はシフトアップのときのシフトドラム42の回転方向を示す。
【0095】
図8(a)に示すように、シフトドラム42の第1領域88に突起44,86,87があるときは、かみあいクラッチ30がつながり、かみあいクラッチ76が切れ、第1歯74と第2歯75とのかみあいが外れる(1速)。第1領域88と第2領域89との間の境界では、カム溝43の中を移動する突起44によって、スリーブ31(かみあいクラッチ30)が僅かに第4ギヤ29から離れ、第2歯33(
図2参照)の第1部54の先端が、第1歯32の第1部46に位置する。第1歯32と第2歯33とのかみあいをスムーズに外すためである。
【0096】
第2領域89にある突起44,86,87が第3領域90に向かって移動すると、カム溝84によってシンクロメッシュ72が作動し、シンクロメッシュ72の摩擦力によって入力軸12のトルクの一部が第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝わる。第6ギヤ35の回転が第7ギヤ40に伝わると第4ギヤ29が回転し、変速比の差によって、第4ギヤ29の回転速度がスリーブ31の回転速度より大きくなる。第1歯32の第1部46と第2歯33の第1部54とが離れ、第1歯32の第3部52に第2歯33の第3部58が押し付けられると(
図3(e))、第4ギヤ29とスリーブ31とを軸方向に離す推力が発生する。カム溝43の中の突起44の移動に伴い、かみあいクラッチ30が切れる。
【0097】
第3領域90にある突起44,86,87が第4領域91に向かって移動すると、カム溝85の中の突起87の移動に伴い、かみあいクラッチ76のスリーブ37が軸方向に移動する。このときのスリーブ37の回転速度と第6ギヤ35の回転速度との差は小さいので、かみあいクラッチ76はスムーズにつながる。同時にカム溝84の中の突起86の移動に伴いシンクロメッシュ72の作動が止まると、変速機71は第1ギヤ16、第5ギヤ34、かみあいクラッチ76、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転を伝達する(2速)。変速動作時に入力軸12のトルクの一部が、シンクロメッシュ72によって出力軸15へ伝達されるので、変速動作時の出力軸15のトルク低下を低減し、シームレスシフトを実現できる。
【0098】
第4領域91にある突起44,86,87が第5領域92に向かって移動すると、カム溝84の中の突起86の移動に伴いシンクロメッシュ72が作動するので、相対速度がない状態でスリーブ73の第1歯74と第2ギヤ21の第2歯75とがかみあう。同時にシンクロメッシュ72の摩擦力によって、入力軸12のトルクが第2ギヤ21から第6ギヤ35へ伝わる。
【0099】
変速比の差によって、第6ギヤ35の回転速度がスリーブ37の回転速度より大きくなると、第1歯38の第1面59と第2歯39の第3面64とが離れる。第1歯38の第7部61に第2歯39の第7部66が押し付けられると(
図4(b))、第6ギヤ35とスリーブ37とを軸方向に離す推力が発生する。第4領域91と第5領域92との間の境界では、カム溝85の中を移動する突起87によって、スリーブ37(かみあいクラッチ76)が僅かに第6ギヤ35から離れ、第2歯39(
図7(b)参照)の第3面64の先端が、第1歯38の第8部83と第1部82との間の境界に位置する。第1歯38と第2歯39とのかみあいをスムーズに外すためである。
【0100】
第5領域92にある突起44,86,87が第4領域91から離れる方向に移動すると、カム溝85の中の突起87の移動に伴い、かみあいクラッチ76が切れる。これにより第2ギヤ21、第6ギヤ35を介して第7ギヤ40に回転が伝達される(3速)。2速から3速の変速動作時に、シンクロメッシュ72によってトルクが出力軸15へ伝達されるので、変速動作時の出力軸15のトルク低下を低減し、シームレスシフトを実現できる。シンクロメッシュ72の摩擦力によって駆動側と被動側との間の相対速度が小さくなるので、変速動作時の衝撃を低減できる。
【0101】
シフトドラム42のカム溝43,84,85の形状は、低速段から高速段へのシフトアップにおいて、低速段用のかみあいクラッチ76の第1歯38と第2歯39とのかみあいが外れたときに、高速段用の第1歯74と第2歯75とがかみあうように設定されている。よって二重かみあいを防止できる。
【0102】
図8(b)の矢印はシフトダウンのときのシフトドラム42の回転方向を示す。シフトドラム42の第6領域93に突起44,86,87があるときは3速が成立する。第8領域95に突起44,86,87があるときは2速が成立する。第10領域97にある突起44,86,87があるときは1速が成立する。第7領域94にある突起44,86,87が第8領域95に向かって移動すると、3速から2速のシフトダウンが行われる。3速から2速のシフトダウンのときに切り離される第1歯74及び第2歯75は(
図7(a)参照)、第2面78及び第4面80が、第2面78と第4面80とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて第2ギヤ21とスリーブ73とを軸方向に離す推力を発生する。これにより切れ目のないシフトダウンができる。
【0103】
第9領域96にある突起44,86,87が第10領域97に向かって移動すると、2速から1速のシフトダウンが行われる。2速から1速のシフトダウンのときに切り離される第1歯38及び第2歯39は(
図7(b)参照)、第3部63,68が、第2面60と第4面65とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて第6ギヤ35とスリーブ37とを軸方向に離す推力を発生する。これにより切れ目のないシフトダウンができる。
【0104】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0105】
実施形態では、第1ギヤ16、第2ギヤ21、第3ギヤ28、第4ギヤ29、第5ギヤ34、第6ギヤ35によって入力軸12のトルクが第1中間軸13及び第2中間軸14に伝達される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。変速機10,70,71にギヤ以外の伝達要素を採用することは当然可能である。ギヤ以外の伝達要素は、チェーンとスプロケット、ベルトとプーリーが例示される。
【0106】
実施形態では、前進3段と後進1段の機構をもつ変速機を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。前進2段や前進4段以上の機構をもつ変速機に、実施形態における技術を適用することは当然可能である。入力軸12と出力軸15との間に配置する中間軸の数は、変速段の数に応じて適宜設定できる。
【0107】
実施形態では、多板クラッチを例示して摩擦クラッチ17を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の摩擦クラッチを採用することは当然可能である。他の摩擦クラッチは、単板クラッチ、円すいクラッチが例示される。
【0108】
実施形態では、第1要素25に設けたギヤ及び第2要素26に設けたギヤに、アクチュエータ22のトルクが伝わる駆動ギヤ24をかみあわせたものを例示して、負の動力伝達係数をもつ動力伝達装置23を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。負の動力伝達係数をもつ他の動力伝達装置を採用することは当然可能である。他の動力伝達装置は、第1要素25と第2要素26との間に摩擦が大きいねじを設けたもの、ウォームギヤが例示される。
【0109】
実施形態では、第1歯32の第1面45に第5部47を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2歯33の第3面53の歯元に、歯元に向かうにつれて第4面55から離れる方向に傾斜する第5部を設けることは当然可能である。この場合も実施形態と同様に、第2歯33の第3面53の第5部に第1歯32の第1面45が押し付けられると、スリーブ31と第4ギヤ29とを軸方向に離す推力が発生する。
【0110】
実施形態では、互いにかみあう第1歯32,38,74の第2面49,60,78及び第2歯33,39,75の第4面55,65,80が、第2面49,60と第4面55,65とを押し付ける方向のトルク(コースティングトルク)に応じて第1歯32,38,74と第2歯33,39,75とを軸方向に離す推力を発生する面である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2面49,60,78及び第4面55,65,80が推力を発生しない面であっても、かみあいを外すときに、スリーブ31,37,73に外力を加えて第1歯32,38,74と第2歯33,39,75とを引き離せば良い。
【0111】
実施形態では、シフトドラム42のカム溝43,84,85の形状によって、低速段用のかみあいクラッチ76の第1歯38と第2歯39とのかみあいが外れたときに高速段用の第1歯74と第2歯75とをかみあわせる場合を説明したが、これに限られるものではない。かみあいクラッチ76の第1歯38と第2歯39とのかみあいを検出するセンサ(例えばスリーブ37の位置センサ)を配置し、センサの検出信号に基づいて高速段用の第1歯74と第2歯75とをかみあわせるようにしても良い。
【符号の説明】
【0112】
10,70,71 変速機
11 モータ
12 入力軸
13 第1中間軸
14 第2中間軸
15 出力軸
17 摩擦クラッチ(同期機構)
22 アクチュエータ
23 動力伝達装置
29 第4ギヤ(常時かみあい式のギヤ)
30,36,76 かみあいクラッチ
31,37 スリーブ
32,38 第1歯
33,39 第2歯
35 第6ギヤ(常時かみあい式のギヤ)
40 第7ギヤ(常時かみあい式のギヤ)
41 シフト装置
45,59,81 第1面
46 第1部
49,60 第2面
50 第2部
53,64 第3面
54 第1部
55,65 第4面
56 第2部
72 シンクロメッシュ(同期機構)
73 スリーブ
74 第1歯
75 第2歯
77 第1面
78 第2面
79 第3面
80 第4面