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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20240119BHJP
【FI】
F16H13/08 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023507515
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2021032861
(87)【国際公開番号】W WO2023037412
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-63026(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有するサンローラーと、
前記サンローラーの径方向の外側に前記サンローラーと間隔をあけて前記中心軸と同軸に配置されるリングローラーと、
前記サンローラーの外周面と前記リングローラーの内周面とに接する複数の中間ローラーと、
前記複数の中間ローラーの各々の自転軸の、前記中心軸に対する角度を可変に支持するキャリヤと、
前記サンローラー、前記リングローラー、前記中間ローラーの各ローラー間に作用するトルクに応じ、前記中心軸に対する前記自転軸の角度を変える変換装置と、を備える変速機。
【請求項2】
前記トルクが大きくなるにつれて、前記中心軸と前記自転軸とのなす角は小さくなり、
前記中心軸と前記自転軸とのなす角が小さくなるにつれて、前記外周面と前記中間ローラーとの隙間、及び、前記内周面と前記中間ローラーとの隙間は小さくなる請求項1記載の変速機。
【請求項3】
前記外周面および前記内周面に接する前記中間ローラーの接触面は、前記自転軸に垂直な対称面をもつ球帯であり、
前記外周面および前記内周面は、前記中心軸を含む断面に円弧として現出する曲面であり、
前記外周面のうち前記中心軸と前記外周面との間の距離が最も長くなる第1部、及び、前記内周面のうち前記中心軸と前記内周面との間の距離が最も短くなる第2部は、前記対称面をはさんで両側に位置し、
前記第1部と前記第2部との間の距離は、前記中間ローラーの直径よりも大きい請求項1又は2に記載の変速機。
【請求項4】
前記キャリヤは、前記中間ローラーをはさんで両側に配置され、前記キャリヤの縁に設けられた径方向へ延びる凹みを含み、
前記自転軸は、前記凹みの中にそれぞれ配置されている請求項1から3のいずれかに記載の変速機。
【請求項5】
トルク伝達経路は前記キャリヤ及び前記変換装置を含み、
前記サンローラー又は前記リングローラーは回転が固定され、
前記変換装置は、前記キャリヤを介して前記中間ローラーに、前記トルクを変換したスラスト力を加える請求項1から4のいずれかに記載の変速機。
【請求項6】
トルク伝達経路は前記サンローラー、前記リングローラー、前記キャリヤ及び前記変換装置を含み、
前記キャリヤは前記サンローラー又は前記リングローラーに結合し、
前記変換装置は、前記サンローラー及び前記リングローラーを介して前記中間ローラーに、前記トルクを変換したスラスト力を加える請求項1から4のいずれかに記載の変速機。
【請求項7】
前記中心軸および前記自転軸を含む断面において、
前記内周面に前記中間ローラーの接触面が接する接触部から前記自転軸へ下した垂線と前記中心軸に垂直な直線とのなす角は、前記接触面と前記内周面との間の動摩擦係数の正接以上である請求項1から6のいずれかに記載の変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦ローラー式の変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
中心軸を有するサンローラーと、サンローラーの径方向の外側に配置されるリングローラーと、サンローラーとリングローラーとに接する複数の中間ローラーと、中間ローラーの自転軸を支持するキャリヤと、を備える摩擦ローラー式の変速機は知られている。特許文献1に開示された先行技術では、キャリヤは、自転軸を支持する軸受部と、軸受部を回転自在に支持する支持部と、を備え、軸受部は、自転軸の中心から偏心した位置に揺動中心が設けられている。先行技術は、中心軸および自転軸を含む平面内で中間ローラーが傾斜しないようにするため、中間ローラーに作用するトルク反力の作用線上に揺動中心が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6669166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術では、中間ローラーの自転軸を支持するキャリヤの構造が複雑化するという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、キャリヤの構造を簡易にできる変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の変速機は、中心軸を有するサンローラーと、サンローラーの径方向の外側にサンローラーと間隔をあけて中心軸と同軸に配置されるリングローラーと、サンローラーの外周面とリングローラーの内周面とに接する複数の中間ローラーと、複数の中間ローラーの各々の自転軸の、中心軸に対する角度を可変に支持するキャリヤと、サンローラー、リングローラー、中間ローラーの各ローラー間に作用するトルクに応じ、中心軸に対する自転軸の角度を変える変換装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、キャリヤは、中間ローラーの各々の自転軸の、サンローラーの中心軸に対する角度を可変に支持する。変換装置によりサンローラー、リングローラー、中間ローラーの各ローラー間に作用するトルクに応じ、中心軸に対する自転軸の角度が変わる。よってキャリヤの構造を簡易にできる。
【0008】
第2の態様によれば、第1の態様において、トルクが大きくなるにつれて中心軸と自転軸とのなす角は小さくなる。中心軸と自転軸とのなす角が小さくなるにつれて、サンローラーの外周面と中間ローラーとの隙間、及び、リングローラーの内周面と中間ローラーとの隙間は小さくなる。トルクに応じた各ローラー間の面圧を確保し、動力伝達効率を確保できる。
【0009】
第3の態様によれば、第1又は第2の態様において、サンローラーの外周面およびリングローラーの内周面に接する中間ローラーの接触面は、自転軸に垂直な対称面をもつ球帯である。サンローラーの外周面およびリングローラーの内周面は、中心軸を含む断面に円弧として現出する曲面である。サンローラーの外周面のうち中心軸とサンローラーの外周面との間の距離が最も長くなる第1部、及び、リングローラーの内周面のうち中心軸とリングローラーの内周面との間の距離が最も短くなる第2部は、対称面をはさんで両側に位置する。第1部と第2部との間の距離は、中間ローラーの直径よりも大きいので、変速機を組み立てるときに、サンローラーの第1部およびリングローラーの第2部からサンローラーとリングローラーとの間へ、自転軸を傾けた状態で中間ローラーを入れることができる。よって変速機の組み立てを容易にできる。
【0010】
第4の態様によれば、第1から第3の態様のいずれかにおいて、キャリヤは中間ローラーをはさんで両側に配置される。キャリヤの縁に、径方向へ延びる凹みが設けられている。中間ローラーの自転軸は凹みの中にそれぞれ配置されている。よって自転軸をキャリヤが支持する構造を簡易にできる。
【0011】
第5の態様によれば、第1から第4のいずれかの態様において、トルク伝達経路はキャリヤ及び変換装置を含む。サンローラー又はリングローラーは回転が固定され、変換装置は、トルクを変換したスラスト力を、キャリヤを介して中間ローラーに加える。このスラスト力により中心軸と自転軸とのなす角が小さくなり、これによりサンローラー又はリングローラーと中間ローラーとの間でトルクを伝達できる。
【0012】
第6の態様によれば、第1から第4のいずれかの態様において、トルク伝達経路はサンローラー、リングローラー、キャリヤ及び変換装置を含む。キャリヤはサンローラー又はリングローラーに結合する。変換装置は、トルクを変換したスラスト力を、サンローラー及びリングローラーを介して中間ローラーに加える。これにより変換装置が中間ローラーにスラスト力を加える機構を簡易にできる。
【0013】
第7の態様によれば、第1から第6のいずれかの態様において、中心軸および自転軸を含む断面において、リングローラーの内周面に中間ローラーの接触面が接する接触部から自転軸へ下した垂線と中心軸に垂直な直線とのなす角は、中間ローラーの接触面とリングローラーの内周面との間の動摩擦係数の正接以上である。これにより中心軸に対して自転軸の角度が変わる中間ローラーが摩擦力によってセルフロックしないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施の形態における変速機のスケルトン図である。
図2】(a)は軸方向から見たキャリヤの正面図であり、(b)は軸方向から見たキャリヤの背面図である。
図3】(a)(b)はリングローラーと中間ローラーとが接する接触部の付近を拡大した変速機の断面図である。
図4】第2実施の形態における変速機のスケルトン図である。
図5】第3実施の形態における変速機のスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1から図3を参照して第1実施の形態の変速機10を説明する。図1は第1実施の形態における変速機10のスケルトン図である。
【0016】
摩擦ローラー式の変速機10は、中心軸Oを有するサンローラー12と、サンローラー12の径方向の外側にサンローラー12と間隔をあけて配置されたリングローラー15と、リングローラー15とサンローラー12との間に配置された複数の中間ローラー18と、中間ローラー18の自転軸19を支持するキャリヤ24,25と、ローラー間に作用するトルクをスラスト力に変換する変換装置26,29と、を備える。サンローラー12は第1軸11に結合している。
【0017】
サンローラー12は、中心軸Oを含む断面に凹の円弧として現出する外周面13をもつ。外周面13は、中心軸Oに垂直な平面に関して非対称な曲面である。外周面13のうち中心軸Oと外周面13との間の距離が最も長くなる第1部14が、外周面13の軸方向の一方(図1右)の端に位置する。
【0018】
リングローラー15は、サンローラー12の中心軸Oと同軸に配置されている。リングローラー15は、中心軸Oを含む断面に凹の円弧として現出する内周面16をもつ。内周面16は、中心軸Oに垂直な平面に関して非対称な曲面である。内周面16のうち中心軸Oと内周面16との間の距離が最も短くなる第2部17が、内周面16の軸方向の他方(図1左)の端に位置する。リングローラー15は回転が固定されている。
【0019】
中間ローラー18は、サンローラー12の外周面13とリングローラー15の内周面16との間の環状の空間に複数(本実施形態では3つ)配置されている。中間ローラー18は自転軸19を中心に回転する。中間ローラー18の軸方向の両側に側面部22が配置されている。自転軸19と中間ローラー18との間に軸受20が配置されており、中間ローラー18と側面部22との間にスラスト軸受が配置されている。中間ローラー18は自転軸19及び側面部22に対して回転する。
【0020】
側面部22の直径よりも直径が大きい中間ローラー18は、サンローラー12及びリングローラー15に接する。中間ローラー18の径方向の外側の面は、サンローラー12の外周面13とリングローラー15の内周面16とに接する接触面21である。接触面21は、自転軸19に垂直な対称面23をもつ球帯である。サンローラー12の外周面13とリングローラー15の内周面16とに接触面21が接触した状態で、中間ローラー18の自転軸19は中心軸Oに対して傾いている。外周面13の第1部14及び内周面16の第2部17は、対称面23をはさんで軸方向の両側に位置する。側面部22は、軸方向の外側の面の少なくとも一部が球面である。
【0021】
キャリヤ24,25は、中間ローラー18をはさんで軸方向の両側に配置されている。キャリヤ24,25は中間ローラー18の自転軸19を支持する。キャリヤ24,25は、複数の自転軸19の公転運動を取り出す回転要素である。キャリヤ24は、リングローラー15の内周面16の第2部17の近くに配置されている。キャリヤ25は、サンローラー12の外周面13の第1部14の近くに配置されている。
【0022】
キャリヤ24,25の軸方向の内側を向く面は、中間ローラー18に配置された側面部22の球面にそれぞれ接している。キャリヤ24は、側面部22の球面のうち自転軸19が突き出た部分より径方向の外側の部分に接している。キャリヤ25は、側面部22の球面のうち自転軸19が突き出た部分より径方向の内側の部分に接している。側面部22は回転しないので、キャリヤ24,25と側面部22との間の摩擦を低減できる。
【0023】
図2(a)は軸方向から見たキャリヤ24の正面図である。キャリヤ24の外側の縁25aには、径方向の内側へ向かって延びる凹み24bが複数設けられている。中間ローラー18の自転軸19は、凹み24bの中にそれぞれ配置されている。キャリヤ24は、周方向に隣り合う凹み24bの間にカム24cが設けられている。カム24cには、周方向の両端から中央へ向かうにつれて次第に深くなる斜面が設けられている。
【0024】
図2(b)は軸方向から見たキャリヤ25の背面図である。キャリヤ25の外側の縁25aには、径方向の内側へ向かって延びる凹み25bが複数設けられている。凹み25bの径方向の長さは、キャリヤ24の凹み24bの径方向の長さよりも短い。中間ローラー18の自転軸19は、凹み25bの中にそれぞれ配置されている。キャリヤ25は、周方向に隣り合う凹み25bの間にカム25cが設けられている。カム25cには、周方向の両端から中央へ向かうにつれて次第に深くなる斜面が設けられている。
【0025】
凹み24b,25bはキャリヤ24,25の径方向に延びているので、自転軸19を含む平面内の自転軸19の揺動をキャリヤ24,25は許容し、凹み24b,25bの中を自転軸19が移動する。キャリヤ24,25は凹み24b,25bによって自転軸19の周方向の移動を制限するので、自転軸19の公転運動をキャリヤ24,25から取り出すことができる。
【0026】
図1に戻って説明する。変換装置26,29は、サンローラー12の外周面13と中間ローラー18の接触面21との間の押圧力、及び、リングローラー15の内周面16と中間ローラー18の接触面21との間の押圧力を伝達トルクに比例して増減する。変換装置26は、カム(図示せず)が設けられた入力要素27と、キャリヤ24のカム24cと入力要素27のカムとの間にはさまれた転動体28と、を備えている。転動体28はボールやローラーが例示される。2つのカムは第1軸11の軸方向に対向している。転動体28はキャリヤ24と入力要素27との間の相対回転によって、カム24cの斜面に沿って転がる。
【0027】
変換装置29は、カム(図示せず)が設けられた入力要素30と、キャリヤ25のカム25cと入力要素30のカムとの間にはさまれた転動体31と、を備えている。転動体31はボールやローラーが例示される。2つのカムは第1軸11の軸方向に対向している。転動体31はキャリヤ25と入力要素30との間の相対回転によって、カム25cの斜面に沿って転がる。
【0028】
2つの入力要素27,30は、入力要素27,30間の軸方向の距離が変わらないように互いに結合されている。入力要素27には、第1軸11と同軸上に配置された第2軸32が結合している。第1軸11と第2軸32との間にトルクが伝達されていない状態では、転動体28,31はカム24c,25cの最も深い部分に位置する。
【0029】
サンローラー12の外周面13は、第1部14の反対側の端13aと中心軸Oとの間の距離が、第1部14と中心軸Oとの間の距離よりも短く、リングローラー15の内周面16は、第2部17の反対側の端16aと中心軸Oとの間の距離が、第2部17と中心軸Oとの間の距離よりも長い。サンローラー12の第1部14とリングローラー15の第2部17との間の距離(中心軸Oを含む断面における第1部14と第2部17との間の距離)は、中間ローラー18の直径(自転軸19に垂直な平面で中間ローラー18を切断したときの中間ローラー18の最大径)より大きい。変速機10を組み立てるときに、サンローラー12の第1部14及びリングローラー15の第2部17から、サンローラー12とリングローラー15との間の空間に、自転軸19を傾けた状態で中間ローラー18を入れることができる。よって変速機10を組み立てるときの、中間ローラー18を配置する作業を簡易にできる。
【0030】
サンローラー12とリングローラー15との間に配置された中間ローラー18は、キャリヤ24,25の縁24a,25aから径方向へ延びる凹み24b,25bの中に自転軸19がそれぞれ配置されるので、自転軸19を支持するキャリヤ24,25の構造を簡易にできる。さらに変速機10を組み立てるときの、キャリヤ24,25に中間ローラー18の自転軸19を配置する作業を簡易にできる。
【0031】
変速機10は第1軸11と第2軸32との間にトルクを伝達するときに、サンローラー12が回転し、サンローラー12と中間ローラー18との間の摩擦によって中間ローラー18が公転する。これに伴いキャリヤ24,25が回転し、キャリヤ24と入力要素27との間の相対回転、及び、キャリヤ25と入力要素30との間の相対回転によって、転動体28,31はカム24c,25cの浅い部分にそれぞれ移動する。これにより変換装置26,29は、キャリヤ24,25をそれぞれ軸方向の内側へ向けて押圧するスラスト力を発生する。
【0032】
キャリヤ24,25によって側面部22が軸方向の内側へ向けて押されると、中間ローラー18に偶力が働き、モーメントによって中心軸Oに対する中間ローラー18の自転軸19の角度が変わる。トルクが大きくなるにつれて、中心軸Oと自転軸19とのなす角は次第に小さくなる。これに伴い、サンローラー12の外周面13に中間ローラー18の接触面21が接する接触部33は、外周面13の第1部14から離れる方向に移動し、リングローラー15の内周面16に中間ローラー18の接触面21が接する接触部34は、内周面16の第2部17から離れる方向に移動する。
【0033】
図3(a)はリングローラー15と中間ローラー18とが接する接触部34の付近を拡大した変速機10の中心軸O及び自転軸19を含む断面図である。図3(b)は、図3(a)の状態よりもトルクが大きいときの、リングローラー15と中間ローラー18とが接する接触部34の付近を拡大した変速機10の断面図である。
【0034】
図3(a)及び図3(b)に示すように、トルクが大きくなるにつれて、リングローラー15の内周面16と中間ローラー18の接触面21とが接する接触部34から自転軸19(図1参照)へ下した垂線35と、中心軸O(図1参照)に垂直な直線36と、のなす角θは小さくなる。角θが小さくなるにつれて、中間ローラー18に押されてリングローラー15はΔRだけ径方向の外側へ弾性変形し、内周面16と接触面21との間の隙間37は小さくなり、接触部34における面圧が上昇する。すなわち変速機10は、第1軸11と第2軸32との間に伝達されるトルクが大きくなるほど、角θが小さくなり、接触部33,34における面圧が上昇する。よってトルクに応じた面圧を確保し、動力伝達効率を確保できる。
【0035】
角θは、中間ローラー18の接触面21とリングローラー15の内周面16との間の動摩擦係数の正接(tanμ)以上である。従って自転軸19が揺動して角θが小さくなったときに、接触部34における摩擦力によって、中間ローラー18がセルフロックして角θが大きくなる方向へ揺動できなくならないようにできる。
【0036】
変速機10は、第1軸11を入力軸とし、第2軸32を出力軸とすることで、サンローラー12、キャリヤ24,25及び変換装置26,29をトルク伝達経路として、第1軸11の回転を減速できる。一方、第2軸32を入力軸とし、第1軸11を出力軸とすることで第2軸32の回転を増速できる。変速機10は、キャリヤ24,25が、中間ローラー18の各々の自転軸19の中心軸Oに対する角度を可変に支持し、変換装置26,29により各ローラー間に作用するトルクに応じ、中心軸Oに対する自転軸19の角度を変えるので、キャリヤ24,25の構造を簡易にできる。
【0037】
本実施形態では、リングローラー15の回転を固定して、サンローラー12(第1軸11)とキャリヤ24,25(第2軸32)との間にトルクを伝達する場合について説明したが、これに限られるものではない。サンローラー12の回転を固定して、リングローラー15とキャリヤ24,25との間にトルクを伝達することは当然可能である。
【0038】
図4を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、変換装置26,29が、中間ローラー18の軸方向の両側に配置される場合について説明した。これに対し第2実施形態では、中間ローラー18の軸方向の片側に変換装置26が配置される変速機40について説明する。第1実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図4は第2実施の形態における変速機40のスケルトン図である。
【0039】
変速機40は、サンローラー12と、リングローラー15と、リングローラー15とサンローラー12との間に配置された複数の中間ローラー41と、中間ローラー41の自転軸42を支持するキャリヤ24,46と、ローラー間に作用するトルクをスラスト力に変換する変換装置26と、を備える。リングローラー15は回転が固定されている。
【0040】
中間ローラー41は自転軸42を中心に回転する。中間ローラー41と自転軸42との間に軸受43が配置されている。中間ローラー41の接触面44は、サンローラー12の外周面13とリングローラー15の内周面16とに接する。接触面44は、自転軸42に垂直な対称面をもつ球帯である。側面部45は、中間ローラー41の軸方向の両側に自転軸42と一体に配置されている。中間ローラー41は自転軸42及び側面部45に対して回転する。側面部45の軸方向の外側の面の少なくとも一部は球面である。自転軸42は、中心軸Oに対して傾いている。
【0041】
キャリヤ46は、カム25c(図2(b)参照)が省略されている以外、キャリヤ25と同一である。キャリヤ46は、軸方向の位置が固定されている。キャリヤ24,46の軸方向の内側を向く面は、側面部45の球面に接している。キャリヤ24は、側面部45の球面のうち自転軸42より径方向の外側の部分に接している。キャリヤ46は、側面部45の球面のうち自転軸42より径方向の内側の部分に接している。
【0042】
変速機40は第1軸11と第2軸32との間にトルクを伝達すると、サンローラー12が回転し、サンローラー12と中間ローラー41との間の摩擦によって中間ローラー48が自転する。これに伴いキャリヤ24,46が回転し、キャリヤ24と入力要素27との間の相対回転によって、転動体28はカム24cの浅い部分に移動する。これにより変換装置26は、キャリヤ24を軸方向の内側へ向けて押圧するスラスト力を発生する。
【0043】
キャリヤ24によって軸方向の内側へ向けて側面部45が押されると、キャリヤ46によって側面部45に反力が作用し、中間ローラー41に偶力が働き、モーメントによって中心軸Oに対する中間ローラー41の自転軸42の角度が変わる。トルクが大きくなるにつれて、中心軸Oと自転軸42とのなす角は次第に小さくなり、中間ローラー41に押されてリングローラー15は径方向の外側へ弾性変形し、ローラー間の面圧が上昇する。よってトルクに応じた面圧を確保し、動力伝達効率を確保できる。
【0044】
変速機40は、第1軸11を入力軸とし、第2軸32を出力軸とすることで、サンローラー12、キャリヤ24及び変換装置26をトルク伝達経路として、第1軸11の回転を減速できる。一方、第2軸32を入力軸とし、第1軸11を出力軸とすることで第2軸32の回転を増速できる。変速機40は、キャリヤ24,46が、中間ローラー41の各々の自転軸42の中心軸Oに対する角度を可変に支持し、変換装置26により各ローラー間に作用するトルクに応じ、中心軸Oに対する自転軸42の角度を変えるので、キャリヤ24,46の構造を簡易にできる。
【0045】
本実施形態では、リングローラー15の回転を固定して、サンローラー12(第1軸11)とキャリヤ24(第2軸32)との間にトルクを伝達する場合について説明したが、これに限られるものではない。サンローラー12の回転を固定して、リングローラー15とキャリヤ24との間にトルクを伝達することは当然可能である。
【0046】
図5を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施形態および第2実施形態では、リングローラー15に対してキャリヤ24が回転する場合について説明した。これに対し第3実施形態では、リングローラー15にキャリヤ24が結合している変速機50を説明する。第1実施形態または第2実施形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図5は第3実施の形態における変速機50のスケルトン図である。
【0047】
変速機50は、サンローラー12と、リングローラー15と、複数の中間ローラー41と、中間ローラー41の自転軸42を支持するキャリヤ24,46と、ローラー間に作用するトルクをスラスト力に変換する変換装置26と、を備える。キャリヤ24はリングローラー15に結合している。リングローラー15は軸方向に移動できる。
【0048】
変速機50は第1軸11と第2軸32との間にトルクを伝達すると、サンローラー12が回転し、サンローラー12と中間ローラー41との間の摩擦によってキャリヤ24,46とリングローラー15とが一体に回転する。キャリヤ24と入力要素27との間の相対回転によって、転動体28はカム24cの浅い部分に移動する。これにより変換装置26は、キャリヤ24を軸方向の内側へ向けて押圧するスラスト力を発生する。
【0049】
キャリヤ24が軸方向の内側へ向けて押されると、キャリヤ24と一体にリングローラー15が軸方向に押される。中間ローラー41の接触面44はリングローラー15の内周面16に軸方向の内側へ向かって押され、中間ローラー41の接触面44にサンローラー12の外周面13の反力が働く。サンローラー12及びリングローラー15によって中間ローラー41に偶力が働き、モーメントによって中心軸Oに対する中間ローラー41の自転軸42の角度が変わる。トルクが大きくなるにつれて、中心軸Oと自転軸42とのなす角は次第に小さくなり、中間ローラー41に押されてリングローラー15は径方向の外側へ弾性変形し、ローラー間の面圧が上昇する。よってトルクに応じた面圧を確保し、動力伝達効率を確保できる。
【0050】
変速機50は、第1軸11を入力軸とし、第2軸32を出力軸とすることで、サンローラー12、リングローラー15、キャリヤ24及び変換装置26をトルク伝達経路として、第1軸11の回転を減速できる。一方、第2軸32を入力軸とし、第1軸11を出力軸とすることで第2軸32の回転を増速できる。変速機50は、キャリヤ24,46が、中間ローラー41の各々の自転軸42の中心軸Oに対する角度を可変に支持し、変換装置26により各ローラー間に作用するトルクに応じ、中心軸Oに対する自転軸42の角度を変えるので、キャリヤ24,46の構造を簡易にできる。
【0051】
本実施形態では、キャリヤ24をリングローラー15に結合して、サンローラー12(第1軸11)とリングローラー15(第2軸32)との間にトルクを伝達する場合について説明したが、これに限られるものではない。キャリヤ24をサンローラー12に結合して、サンローラー12とリングローラー15との間にトルクを伝達することは当然可能である。
【0052】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこの実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、中間ローラー18,41の数は適宜設定できる。
【0053】
実施形態では、中間ローラー18,41の自転軸19,42と中間ローラー18,41との間に軸受20,43を配置し、自転軸19,42に対して中間ローラー18,41が回転する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、中間ローラー18,41と自転軸19,42とをそれぞれ結合し、自転軸19,42とキャリヤ24,25,46との間に軸受を配置することは当然可能である。
【0054】
実施形態では、キャリヤ24,25の外側の縁24a,25aに凹み24b,25bを設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えばキャリヤ24,25の内側の縁に凹みを設け、凹みの中に中間ローラー18,41の自転軸19,42を配置することは当然可能である。
【符号の説明】
【0055】
10,40,50 変速機
12 サンローラー
13 外周面
14 第1部
15 リングローラー
16 内周面
17 第2部
18,41 中間ローラー
19,42 自転軸
21,44 接触面
23 対称面
24,25,46 キャリヤ
24a,25a 縁
24b,25b 凹み
26,29 変換装置
34 接触部
35 垂線
36 直線
37 隙間
O 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5