IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図1
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図2
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図3
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図4
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図5
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図6
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図7
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図8
  • 特許-絶縁診断装置及び絶縁診断方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】絶縁診断装置及び絶縁診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20240119BHJP
   G01R 31/12 20200101ALI20240119BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20240119BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01R31/12 Z
G01R31/52
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023509685
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2022027278
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 和平
(72)【発明者】
【氏名】秦 康博
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 将来
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130440(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202651(WO,A1)
【文献】特開2019-180112(JP,A)
【文献】米国特許第6141196(US,A)
【文献】米国特許第5270640(US,A)
【文献】特開2017-15444(JP,A)
【文献】岩永英樹,電動機の零相電流分析による絶縁劣化兆候検出手法の研究,早稲田大学審査学位論文(博士)[オンライン],早稲田大学大学院情報生産システム研究科,2013年,p.87-p.97,インターネット:<URL: https://core.ac.uk/download/pdf/144449519.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/34
G01R 31/12
G01R 31/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電動機に供給されるU相電流、V相電流及びW相電流に基づいて、前記三相交流電動機の絶縁診断を行う絶縁診断装置において、
前記U相電流、前記V相電流及び前記W相電流に基づいて、零相電流ベクトルあるいは逆相電流ベクトルのうち少なくともいずれか一方を算出する電流ベクトル算出部と、
予め基準電流ベクトルを記憶する基準電流ベクトル記憶部と、
前記電流ベクトル算出部において算出された電流ベクトルと前記基準電流ベクトルとの差である電流差ベクトルを算出する電流差ベクトル算出部と、
前記電流差ベクトルに基づいて、前記三相交流電動機の絶縁状態を判定する判定部と、
を備えた絶縁診断装置。
【請求項2】
前記電流ベクトル算出部は、前記U相電流、前記V相電流及び前記W相電流に基づいて、零相電流ベクトルを算出する零相電流ベクトル算出部と、前記U相電流、前記V相電流及び前記W相電流に基づいて、逆相電流ベクトルを算出する逆相電流ベクトル算出部と、を備え、
前記基準電流ベクトル記憶部は、前記基準電流ベクトルとして、予め基準零相電流ベクトル及び基準逆相電流ベクトルを記憶しており、
前記電流差ベクトル算出部は、算出された前記零相電流ベクトルと前記基準零相電流ベクトルとの差である零相電流差ベクトル及び算出された前記逆相電流ベクトルと前記基準逆相電流ベクトルとの差である逆相電流差ベクトルを算出し、
前記判定部は、前記零相電流差ベクトル及び前記逆相電流差ベクトルに基づいて、前記三相交流電動機の絶縁状態を判定する、
請求項1記載の絶縁診断装置。
【請求項3】
前記零相電流ベクトル算出部は、一次周波数及び高次周波数に対応する複数の零相電流ベクトルを算出し、
前記逆相電流ベクトル算出部は、一次周波数及び高次周波数に対応する複数の逆相電流ベクトルを算出し、
前記基準電流ベクトル記憶部は、予め一次周波数及び高次周波数に対応する基準零相電流ベクトル及び一次周波数及び高次周波数に対応する基準逆相電流ベクトルを記憶しており、
前記電流差ベクトル算出部は、一次周波数及び高次周波数のそれぞれに対応する複数の零相電流差ベクトル及び一次周波数及び高次周波数のそれぞれに対応する複数の逆相電流差ベクトルを算出し、
さらに、前記複数の零相電流差ベクトルの二乗和及び前記複数の逆相電流差ベクトルの二乗和を算出する二乗和算出部を備え、
前記判定部は、前記複数の零相電流差ベクトルの二乗和及び前記複数の逆相電流差ベクトルの二乗和に基づいて、前記三相交流電動機の絶縁状態を判定する、
請求項2記載の絶縁診断装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記複数の零相電流差ベクトルの二乗和あるいは前記複数の逆相電流差ベクトルの二乗和を所定の第1閾値と比較し、前記第1閾値を超えている場合に、前記三相交流電動機が絶縁劣化状態に至る兆候が現れている絶縁劣化兆候状態であると判定し、
前記複数の零相電流差ベクトルの二乗和あるいは前記複数の逆相電流差ベクトルの二乗和を前記第1閾値より大きい所定の第2閾値と比較し、前記第2閾値を超えている場合に、前記三相交流電動機が絶縁劣化状態である故障状態であると判定する、
請求項3記載の絶縁診断装置。
【請求項5】
三相交流電動機に供給されるU相電流、V相電流及びW相電流に基づいて、前記三相交流電動機の絶縁診断を行う絶縁診断方法において、
前記U相電流、前記V相電流及び前記W相電流に基づいて、零相電流ベクトルあるいは逆相電流ベクトルのうち少なくともいずれか一方を算出するステップと、
前記算出された電流ベクトルと所定の基準電流ベクトルとの差である電流差ベクトルを算出するステップと、
前記電流差ベクトルに基づいて、前記三相交流電動機の絶縁状態を判定するステップと、
を備えた絶縁診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁診断装置及び絶縁診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三相交流電動機の耐圧試験、インパルス得試験等の絶縁診断手法は、電動機の固定子を給電経路から取り外した非稼働状態(オフライン状態)で行われるものであった。
また、絶縁診断は、初期値と劣化進展後の値との絶対値判定であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-015444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の絶縁診断装置において実行される絶縁診断方法は、絶対値判定であったため、地絡あるいはレアショート等に至る劣化の進行、すなわち、劣化兆候監視を行うことはできなかった。
また、従来の絶縁診断方法は、電動機を非稼働状態(オフライン状態)で行われるものであるため、稼働状態でリアルタイムに劣化兆候監視あるいは、劣化判定を行うこともできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、三相交流電動機の稼働状態において、地絡あるいはレアショート等に至る劣化の進行を稼働状態でリアルタイムに行えるとともに、地絡あるいはレアショート等に至った場合にも直ちに判定することが可能な絶縁診断装置及び絶縁診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の絶縁診断装置は、三相交流電動機に供給されるU相電流、V相電流及びW相電流に基づいて、三相交流電動機の絶縁診断を行う絶縁診断装置において、U相電流、V相電流及びW相電流に基づいて、零相電流ベクトルあるいは逆相電流ベクトルのうち少なくともいずれか一方を算出する電流ベクトル算出部と、予め基準電流ベクトルを記憶する基準電流ベクトル記憶部と、電流ベクトル算出部において算出された電流ベクトルと基準電流ベクトルとの差である電流差ベクトルを算出する電流差ベクトル算出部と、電流差ベクトルに基づいて、三相交流電動機の絶縁状態を判定する判定部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る絶縁診断装置の説明図である。
図2図2は、診断装置の機能ブロック図である。
図3図3は、1次零相電流ベクトル及び1次基準零相電流ベクトルの説明図である。
図4図4は、1次零相電流差ベクトルの算出説明図である。
図5図5は、3次零相電流ベクトル及び3次基準零相電流ベクトルの説明図である。
図6図6は、5次零相電流ベクトル及び5次基準零相電流ベクトルの説明図である。
図7図7は、7次零相電流ベクトル及び7次基準零相電流ベクトルの説明図である。
図8図8は、実施形態の動作処理フローチャートである。
図9図9は、二乗和、第1閾値及び第2閾値の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本明細書において、実施形態に係る構成要素及び当該要素の説明が、複数の表現で記載されることがある。構成要素及びその説明は、一例であり、本明細書の表現によって限定されない。構成要素は、本明細書におけるものとは異なる名称でも特定され得る。また、構成要素は、本明細書の表現とは異なる表現によっても説明され得る。
【0009】
図1は、実施形態に係る絶縁診断装置の説明図である。
絶縁診断装置10は、三相交流電動機Mに供給されるU相電流Iuを検出する第1電流センサ(CT:Current Transformer)11Uと、三相交流電動機Mに供給されるV相電流Ivを検出する第2電流センサ(CT)11Vと、三相交流電動機Mに供給されるW相電流Iwを検出する第3電流センサ(CT)11Wと、検出されたU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwに基づいて、絶縁診断を行う診断装置12と、を備えている。
【0010】
図2は、診断装置の機能ブロック図である。
診断装置12は、位相/振幅検出部21と、基本電流ベクトル算出部22と、零相電流ベクトル算出部23と、逆相電流ベクトル算出部24と、基準電流ベクトル記憶部25と、電流差ベクトル算出部26と、二乗和算出部27と、判定部28と、を備えている。
上記構成において、基本電流ベクトル算出部22、零相電流ベクトル算出部23及び逆相電流ベクトル算出部24は、電流ベクトル算出部として機能している。
【0011】
位相/振幅検出部21は、検出されたU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwに基づいて、U相電流Iuの位相、V相電流Ivの位相、W相電流Iwの位相、U相電流Iuの振幅、V相電流Ivの振幅及びW相電流Iwの振幅を検出する。
【0012】
以下の説明においては、例えば、Iuがベクトルであることを明確に示すため、ベクトルVIuと標記するとともに、文章中の記載と式中における記載との対応関係を明確にするため、便宜上、矢印の下にVIuと標記するものとする。
基本電流ベクトル算出部22は、U相電流Iuの位相及びU相電流Iuの振幅に基づいてU相電流ベクトルVIuを算出し、V相電流Ivの位相及びV相電流Ivの振幅に基づいてV相電流ベクトルVIvを算出し、W相電流Iwの位相及びW相電流Iwの振幅に基づいて、W相電流ベクトルVIwを算出する。
【0013】
零相電流ベクトル算出部23は、算出されたU相電流ベクトルVIu、V相電流ベクトルVIv及びW相電流ベクトルVIwに基づいて、次式により零相電流ベクトルVI0を算出する。
【数1】
【0014】
逆相電流ベクトル算出部24は、算出されたU相電流ベクトルVIu、V相電流ベクトルVIv及びW相電流ベクトルVIwに基づいて、次式により逆相電流ベクトルVI2を算出する。
【数2】
ここで、aは、ベクトルオペレータであり、
【数3】
である。
【0015】
基準電流ベクトル記憶部25は、出荷時、検査時等の地絡、レアショート等が発生していない状態において算出した零相電流ベクトルVI0及び逆相電流ベクトルVI2を基準零相電流ベクトルVI0r及び基準逆相電流ベクトルVI2rとして記憶している。
【0016】
基準電流ベクトル記憶部25は、実際には、基準零相電流ベクトルVI0rの1次周波数成分である1次基準零相電流ベクトルVI0r_1、基準零相電流ベクトルVI0rの3次周波数成分である3次基準零相電流ベクトルVI0r_3、基準零相電流ベクトルVI0rの5次周波数成分である5次基準零相電流ベクトルVI0r_5及び基準零相電流ベクトルVI0rの7次周波数成分である7次基準零相電流ベクトルVI0r_7をそれぞれ記憶している。
【0017】
さらに基準電流ベクトル記憶部25は、基準逆相電流ベクトルVI2rの1次周波数成分である1次基準逆相電流ベクトルVI2r_1、基準逆相電流ベクトルVI2rの3次周波数成分である3次基準逆相電流ベクトルVI2r_3、基準逆相電流ベクトルVI2rの5次周波数成分である5次基準逆相電流ベクトルVI2r_5及び基準逆相電流ベクトルVI2の7次周波数成分である7次基準逆相電流ベクトルVI2r_7をそれぞれ記憶している。
【0018】
電流差ベクトル算出部26は、零相電流ベクトル算出部23により算出された零相電流ベクトルVI0と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準零相電流ベクトルVI0rとの差を差零相電流ベクトルDVI0として算出している。
【0019】
また電流差ベクトル算出部26は、逆相電流ベクトル算出部24により算出された逆相電流ベクトルVI2と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準逆相電流ベクトルVI2rとの差を逆相電流差ベクトルDVI2として算出している。
【0020】
図3は、1次零相電流ベクトル及び1次基準零相電流ベクトルの説明図である。
図4は、1次零相電流差ベクトルの算出説明図である。
電流差ベクトル算出部26は、図4に示すように、1次基準零相電流ベクトルVI0r_1から1次零相電流ベクトルVI0_1を差し引くことにより、1次零相電流差ベクトルDVI0_1を算出する。
【0021】
すなわち、電流差ベクトル算出部26は、以下の通りの処理を行う。
【数4】
【0022】
図5は、3次零相電流ベクトル及び3次基準零相電流ベクトルの説明図である。
図6は、5次零相電流ベクトル及び5次基準零相電流ベクトルの説明図である。
図7は、7次零相電流ベクトル及び7次基準零相電流ベクトルの説明図である。
【0023】
同様に、電流差ベクトル算出部26は、1次零相電流差ベクトルDVI0_1、3次零相電流差ベクトルDVI0_3、5次零相電流差ベクトルDVI0_5及び7次零相電流差ベクトルDVI0_7、並びに、1次逆相電流差ベクトルDVI2_1、3次逆相電流差ベクトルDVI2_3、5次逆相電流差ベクトルDVI2_5及び7次逆相電流差ベクトルDVI2_7を算出する。
【0024】
二乗和算出部27は、零相電流ベクトル算出部23により算出された1次零相電流差ベクトルDVI0_1~7次零相電流差ベクトルDVI0_7の二乗和を算出する。
【0025】
同様に、二乗和算出部27は、零相電流ベクトル算出部23により算出された1次逆相電流差ベクトルDVI2_1~7次逆相電流差ベクトルDVI2_7の二乗和を算出する。
【0026】
判定部28は、1次零相電流差ベクトルDVI0_1~7次零相電流差ベクトルDVI0_7の二乗和SS0及び1次逆相電流差ベクトルDVI2_1~7次逆相電流差ベクトルDVI2_7の二乗和SS2をそれぞれに対応する第1閾値Vth1(=警報値に相当)、第2閾値Vth2(=故障値に相当)と比較して、判定結果として出力する。
【0027】
次に実施形態の動作を説明する。
図8は、実施形態の動作処理フローチャートである。
【0028】
まず、診断装置12は、地絡あるいはレアショート等の故障の検出タイミングであるか否かを判断する(ステップS11)。
ステップS11の判断において、未だ検出タイミングではない場合には(ステップS11;No)、待機状態となる。
【0029】
ステップS11の判断において、検出タイミングである場合には(ステップS11;Yes)、第1電流センサ11U、第2電流センサ11V及び第3電流センサによりU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを検出する(ステップS12)。
【0030】
次に、診断装置12は、位相/振幅検出部21として機能し、検出されたU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwに基づいて、U相電流Iuの位相、V相電流Ivの位相、U相電流Iuの振幅、V相電流Ivの振幅及びW相電流Iwの振幅を検出する(ステップS13)。
【0031】
つづいて、診断装置12は、基本電流ベクトル算出部22として機能し、U相電流Iuの位相及びU相電流Iuの振幅に基づいてU相電流ベクトルVIuを算出し、V相電流Ivの位相及びV相電流Ivの振幅に基づいてV相電流ベクトルVIvを算出し、W相電流Iwの位相及びW相電流Iwの振幅に基づいて、W相電流ベクトルVIwを算出する(ステップS14)。
【0032】
次に診断装置12は、零相電流ベクトル算出部23として機能し、零相電流ベクトルVI0の1次周波数成分である1次零相電流ベクトルVI0_1、零相電流ベクトルVI0の3次周波数成分である3次零相電流ベクトルVI0_3、零相電流ベクトルVI0の5次周波数成分である5次零相電流ベクトルVI0_5及び零相電流ベクトルVI0の7次周波数成分である7次零相電流ベクトルVI0_7をそれぞれ算出する(ステップS15)。
【0033】
つづいて、診断装置12は、逆相電流ベクトル算出部24として機能し、算出されたU相電流ベクトルVIu、V相電流ベクトルVIv及びW相電流ベクトルVIwに基づいて、次式により逆相電流ベクトルVI2を算出する(ステップS16)。
【数5】
ここで、aは、ベクトルオペレータであり、
【数6】
である。
【0034】
より詳細には、診断装置12は、逆相電流ベクトル算出部24として、逆相電流ベクトルVI2の1次周波数成分である1次逆相電流ベクトルVI2_1、逆相電流ベクトルVI2の3次周波数成分である3次逆相電流ベクトルVI2_3、逆相電流ベクトルVI2の5次周波数成分である5次逆相電流ベクトルVI2_5及び逆相電流ベクトルVI2の7次周波数成分である7次逆相電流ベクトルVI2_7をそれぞれ算出する。
【0035】
次に診断装置12は、基準電流ベクトル記憶部25が記憶している基準零相電流ベクトルVI0r及び基準逆相電流ベクトルVI2rを読み出す(ステップS17)。
【0036】
これにより、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26とし機能し、零相電流ベクトル算出部23により算出された零相電流ベクトルVI0と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準零相電流ベクトルVI0rとの差を差零相電流ベクトルDVI0として算出し、逆相電流ベクトル算出部24により算出された逆相電流ベクトルVI2と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準逆相電流ベクトルVI2rとの差を逆相電流差ベクトルDVI2として算出する(ステップS18)。
【0037】
より詳細には、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、零相電流ベクトルに対し、電流差ベクトル算出部26は、零相電流ベクトル算出部23により算出された零相電流ベクトルVI0の1次周波数成分である1次零相電流ベクトルVI0_1と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準零相電流ベクトルVI0rの1次周波数成分である1次基準零相電流ベクトルVI0r_1との差を1次零相電流差ベクトルDVI0_1として算出する。
【0038】
同様に、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、零相電流ベクトル算出部23により算出された零相電流ベクトルVI0の3次周波数成分である3次零相電流ベクトルVI0_3と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準零相電流ベクトルVI0rの3次周波数成分である3次基準零相電流ベクトルVI0r_3の差を3次零相電流差ベクトルDVI0_3として算出する。
【0039】
また、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、零相電流ベクトル算出部23により算出された零相電流ベクトルVI0の5次周波数成分である3次零相電流ベクトルVI0_5と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準零相電流ベクトルVI0rの5次周波数成分である5次基準零相電流ベクトルVI0r_5の差を5次零相電流差ベクトルDVI0_5として算出する。
【0040】
また、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、零相電流ベクトル算出部23により算出された零相電流ベクトルVI0の7次周波数成分である3次零相電流ベクトルVI0_7と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準零相電流ベクトルVI0rの7次周波数成分である7次基準零相電流ベクトルVI0r_7の差を7次零相電流差ベクトルDVI0_7として算出する。
【0041】
また、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、逆相電流ベクトルに対し、逆相電流ベクトル算出部24により算出された逆相電流ベクトルVI2の1次周波数成分である1次逆相電流ベクトルVI2_1と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準逆相電流ベクトルVI2rの1次周波数成分である1次基準逆相電流ベクトルVI2r_1との差を1次逆相電流差ベクトルDVI2_1として算出する。
【0042】
同様に、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、逆相電流ベクトル算出部24により算出された逆相電流ベクトルVI2の3次周波数成分である3次逆相電流ベクトルVI2_3と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準逆相電流ベクトルVI2rの3次周波数成分である3次基準逆相電流ベクトルVI2r_3の差を3次逆相電流差ベクトルDVI2_3として算出する。
【0043】
また、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、逆相電流ベクトル算出部24により算出された逆相電流ベクトルVI2の5次周波数成分である3次逆相電流ベクトルVI2_5と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準逆相電流ベクトルVI2rの5次周波数成分である5次基準逆相電流ベクトルVI2r_5の差を5次逆相電流差ベクトルDVI2_5として算出する。
【0044】
また、診断装置12は、電流差ベクトル算出部26として、逆相電流ベクトル算出部24により算出された逆相電流ベクトルVI2の7次周波数成分である3次逆相電流ベクトルVI2_7と基準電流ベクトル記憶部25から読み出した基準逆相電流ベクトルVI2rの7次周波数成分である7次基準逆相電流ベクトルVI2r_7の差を7次逆相電流差ベクトルDVI2_7として算出する。
【0045】
これらの結果、診断装置12は、二乗和算出部27として機能し、零相電流ベクトル算出部23により算出された1次零相電流差ベクトルDVI0_1~7次零相電流差ベクトルDVI0_7の二乗和を算出し、判定部28に出力し、逆相電流ベクトル算出部24により算出された1次逆相電流差ベクトルDVI2_1~7次逆相電流差ベクトルDVI2_7の二乗和を算出する(ステップS19)。
【0046】
これにより、診断装置12は、判定部28は、1次零相電流差ベクトルDVI0_1~7次零相電流差ベクトルDVI0_7の二乗和SS0及び1次逆相電流差ベクトルDVI2_1~7次逆相電流差ベクトルDVI2_7の二乗和SS2をそれぞれに対応する第1閾値Vth1(=警報値に相当)、第2閾値Vth2(=故障値に相当)と比較して、判定結果として正常信号NM、警報信号WNあるいは故障信号ALを出力する(ステップS20)。
ここで、二乗和SS0及び二乗和SS2は、以下の式で表される。
SS0=√([DV10_1]+[DV10_3]
+[DV10_5]+[DV10_7]
SS2=√([DV12_1]+[DV12_3]
+[DV12_5]+[DV12_7]
【0047】
図9は、二乗和、第1閾値及び第2閾値の一例の説明図である。
図9は、所定の検出タイミング(図9の例の場合、時刻t1~t7)における二乗和SS(二乗和SS0又は二乗和SS2)の時間的な変化を表している。
【0048】
図9に示すように、時刻t1~時刻t3においては、二乗和SSはほとんど変化がないととともに、第1閾値Vth1未満であるので、判定部28は、正常である旨の結果に対応する正常信号NMを出力する。
【0049】
その後、時刻t4、t5においては、時刻t1~時刻t3の場合よりも二乗和SSは増加しているものの、未だ第1閾値Vth1未満であるので、判定部28は、正常である旨の結果に対応する正常信号NMを出力する。
【0050】
これらに対し、時刻t6においては、二乗和SSが増加し、第1閾値Vth1を超え、かつ、第2閾値Vth2未満であるので、判定部28は、地絡あるいはレアショートに至る可能性が高い状態であるとして、警報信号WNを出力する。
【0051】
さらに時刻t7においては、二乗和SSがさらに増加し、第2閾値Vth2を超えるので、判定部28は、地絡あるいはレアショートが発生した故障状態であるとして、故障信号ALを出力する。
【0052】
以上の説明のように、本実施形態によれば、零相電流ベクトルVI0の1次~7次成分である1次零相電流ベクトルVI0_1~7次零相電流ベクトルVI0_7、逆相電流ベクトルVI2の1次~7次成分である1次逆相電流ベクトルVI2_1~7次逆相電流ベクトルVI2_7における初期状態(正常状態)における値である、1次基準零相電流ベクトルVI0r_1~7次基準零相電流ベクトルVI0r_7、1次基準逆相電流ベクトルVI2r_1~7次基準逆相電流ベクトル~VI2r_7を把握する。
【0053】
そして、三相交流電動機Mの稼働状態において検出される、1次零相電流ベクトルVI0_1~7次零相電流ベクトルVI0_7及び1次逆相電流ベクトルVI2_1~7次逆相電流ベクトルVI2_7に基づいて、1次零相電流差ベクトルDVI0_1~7次零相電流差ベクトルDVI0_7及び1次逆相電流差ベクトルDVI2_1~7次逆相電流差ベクトルDVI2_7を算出する。
【0054】
さらに算出した1次零相電流差ベクトルDVI0_1~7次零相電流差ベクトルDVI0_7及び1次逆相電流差ベクトルDVI2_1~7次逆相電流差ベクトルDVI2_7に基づいて地絡、レアショート等に至る可能性が高い劣化兆候状態をリアルタイムで検出し、あるいは地絡、レアショート等の故障状態をリアルタイムで検出できる。
【0055】
上述の本発明の実施形態は、発明の範囲を限定するものではなく、発明の範囲に含まれる一例に過ぎない。本発明のある実施形態は、上述の実施形態に対して、例えば、具体的な用途、構造、形状、作用、及び効果の少なくとも一部について、発明の要旨を逸脱しない範囲において変更、省略、及び追加がされたものであってもよい。
【0056】
例えば、以上の説明においては、零相電流ベクトル及び逆相電流ベクトルについて、それぞれ零相電流差ベクトル及び逆相電流差ベクトルを求めていたが、いずれか一方だけで絶縁診断を行うように構成することも可能である。
【0057】
また、以上の説明では、1次周波数と、高次周波数としての3次周波数、5次周波数及び7次周波数の電流ベクトルについて処理を行っていたが、1次周波数と少なくとも一つの高次周波数の電流ベクトルについて処理を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…絶縁診断装置、11U…第1電流センサ、11V…第2電流センサ、12…診断装置、21…振幅検出部、22…電流ベクトル算出部、23…零相電流ベクトル算出部、24…逆相電流ベクトル算出部、25…基準電流ベクトル記憶部、26…電流差ベクトル算出部、27…二乗和算出部、28…判定部、AL…故障信号、DVI0_1~DVI0_7…1次零相電流差ベクトル~7次零相電流差ベクトル、DVI2_1~DVI2_7…1次逆相電流差ベクトル~7次逆相電流差ベクトル、Iu…U相電流、Iv…V相電流、Iw…W相電流、M…三相交流電動機、NM…正常信号、SS、SS0、SS2…二乗和、VIu…U相電流ベクトル、VIv…V相電流ベクトル、VIw…W相電流ベクトル、VI0…零相電流ベクトル、VI0_1~VI0_7…1次零相電流ベクトル~7次零相電流ベクトル、VI0r…基準零相電流ベクトル、VI0r_1~VI0r_7…1次基準零相電流ベクトル~7次基準零相電流ベクトル、VI2…逆相電流ベクトル、VI2_1~VI2_7…1次逆相電流ベクトル~7次逆相電流ベクトル、VI2r…基準逆相電流ベクトル、VI2r_1~VI2r_7…1次基準逆相電流ベクトル~7次基準逆相電流ベクトル、Vth1…第1閾値、Vth2…第2閾値、WN…警報信号。
【要約】
実施形態の絶縁診断装置は、三相交流電動機に供給されるU相電流、V相電流及びW相電流に基づいて、三相交流電動機の絶縁診断を行う絶縁診断装置において、U相電流、V相電流及び前記W相電流に基づいて、零相電流ベクトルあるいは逆相電流ベクトルのうち少なくともいずれか一方を算出する電流ベクトル算出部(23,24)と、予め基準電流ベクトルを記憶する基準電流ベクトル記憶部(25)と、電流ベクトル算出部(23,24)において算出された電流ベクトルと基準電流ベクトルとの差である電流差ベクトルを算出する電流差ベクトル算出部(26)と、電流差ベクトルに基づいて、三相交流電動機の絶縁状態を判定する判定部(28)と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9