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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-18
(45)【発行日】2024-01-26
(54)【発明の名称】基材の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20240119BHJP
   C08J 11/06 20060101ALI20240119BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20240119BHJP
   B29K 85/00 20060101ALN20240119BHJP
【FI】
B29B17/02
C08J11/06 ZAB
B32B7/06
B29K85:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023513546
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2022034849
(87)【国際公開番号】W WO2023048102
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021155692
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022056867
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深谷 知巳
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-289224(JP,A)
【文献】特開平07-149931(JP,A)
【文献】特表2009-537686(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066652(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/059516(WO,A1)
【文献】特開2021-160351(JP,A)
【文献】特開2021-115862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 17/00
C08J 11/00
B32B
B09B
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、親水性かつ非水溶性である中間層と、該中間層の前記基材とは反対側に、更に、剥離剤層を有し、前記中間層の前記基材側表面の水の接触角が55度以下であり、かつ、前記剥離剤層表面の水の接触角と、前記中間層の前記基材側表面の水の接触角との差が30度以上である剥離シートにおいて、前記中間層と水とを接触させること(ただし、アルカリ性化剤を含む水溶液、亜硫酸塩含有溶液、及びフッ化水素化合物と過酸化水素とを含有する水溶液を用いることを除く。)によって、前記剥離シートから前記基材を分離することを特徴とする、基材の分離方法。
【請求項2】
前記中間層と水との接触は、前記剥離シートを水中に浸漬することによって行う、請求項1に記載の基材の分離方法。
【請求項3】
前記基材と前記中間層とが、直接積層している、請求項1に記載の基材の分離方法。
【請求項4】
前記中間層が、シロキサン結合を有する層である、請求項1に記載の基材の分離方法。
【請求項5】
前記シロキサン結合を有する層が、加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物から形成された層である、請求項4に記載の基材の分離方法。
【請求項6】
前記シラン系化合物が、下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物及びそのオリゴマーから選ばれる少なくとも1種を主成分として含む、請求項5に記載の基材の分離方法。
Si(OR)(X)4-p (a)
〔一般式(a)中、Rはアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0~4の整数を表す。〕
【請求項7】
前記4官能シラン系化合物が、下記一般式(a1)で表されるテトラアルコキシシランである、請求項6に記載の基材の分離方法。
Si(OR) (a1)
〔一般式(a1)中、Rはアルキル基を表す。Rが複数存在する場合、複数のRは、互いに同一でも、異なっていてもよい。〕
【請求項8】
前記基材が、樹脂フィルムである、請求項1~7のいずれか1項に記載の基材の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも基材と中間層とを有する積層体において、前記積層体から前記基材を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、剥離シート等の機能性シートは、基材上に当該機能性シートの機能を奏するための機能層を設けた積層構造を有するものであり、前記基材としては、紙基材や各種のプラスチック基材が用いられている。
近年、地球資源保護や環境保護等の観点から、各種分野で、廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用等の取組みを通じて、循環型社会の構築を目指す動きが活発化している。
前述の機能性シート分野も同様であり、例えば、使用済みの機能性シートから樹脂の含有率が大きい基材等を分離し、樹脂を回収して再利用するための各種方法が検討されている。
例えば、特許文献1には、基材フィルムの少なくとも片面に易溶解性樹脂層を介して離型層が形成されてなる離型フィルムで、かつ、使用後の離型フィルムを、易溶解性樹脂が溶解可能な溶媒中に浸漬して、易溶解性樹脂を溶媒中に溶解させることにより、フィルム表面の離型層を分離除去し、基材フィルムのみを回収することを特徴とする離型フィルムの回収方法が開示されている。
また、特許文献2には、基材フィルムの少なくとも片面に易溶解性樹脂層と表面機能層とをこの順に積層してなる積層フィルムを使用後に、易溶解性樹脂層を構成する樹脂は溶解可能であり基材フィルムを構成する樹脂は溶解しない溶媒で洗浄することにより、積層フィルムから基材フィルムまたはその粉砕物を分離回収し、この分離回収したものを再溶融して、基材フィルムを構成していた樹脂組成物を再生することを特徴とする積層フィルムのリサイクル方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-265665号公報
【文献】特開2004-169005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の各方法においては、いずれも、基材を分離するために、易溶解性樹脂を溶媒中に溶解させる方法が用いられている。
しかしながら、基材を分離するために使用された溶媒中には、易溶解性樹脂が溶解しており、溶解した樹脂分が、分離した基材上に再付着する虞もある。
また、環境保護の観点から、例えば、上記溶媒として水を用いた場合にも、易溶解性樹脂が溶解した溶液となることから、COD(Chemical Oxygen Demand)の値を低減させる必要がある等、各種の廃液処理が必要となる。また、廃液処理工程においても、廃液処理の負荷の程度に応じて、CO排出量の増加等に繋がる。
したがって、より環境負荷の低減に有効な方法が求められている。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、積層体から基材を分離する方法において、水の使用により基材を容易に分離でき、かつ、基材の分離に使用した水の汚染を抑制できる、基材の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、親水性かつ非水溶性である中間層とを有する積層体において、前記中間層と水とを接触させることによって、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]~[10]を提供する。
[1] 基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、親水性かつ非水溶性である中間層とを有する積層体において、前記中間層と水とを接触させることによって、前記積層体から前記基材を分離することを特徴とする、基材の分離方法。
[2] 前記中間層と水との接触は、前記積層体を水中に浸漬することによって行う、前記[1]に記載の基材の分離方法。
[3] 前記基材と前記中間層とが、直接積層している、前記[1]又は[2]に記載の基材の分離方法。
[4] 前記中間層が、シロキサン結合を有する層である、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の基材の分離方法。
[5] 前記シロキサン結合を有する層が、加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物から形成された層である、前記[4]に記載の基材の分離方法。
[6] 前記シラン系化合物が、下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物及びそのオリゴマーから選ばれる少なくとも1種を主成分として含む、前記[5]に記載の基材の分離方法。
Si(OR)(X)4-p (a)
〔一般式(a)中、Rはアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0~4の整数を表す。〕
[7] 前記4官能シラン系化合物が、下記一般式(a1)で表されるテトラアルコキシシランである、前記[6]に記載の基材の分離方法。
Si(OR) (a1)
〔一般式(a1)中、Rはアルキル基を表す。Rが複数存在する場合、複数のRは、互いに同一でも、異なっていてもよい。〕
[8] 前記基材が、樹脂フィルムである、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の基材の分離方法。
[9] 前記中間層の前記基材とは反対側に、更に、機能層を有する、前記[1]~[8]のいずれか1つに記載の基材の分離方法。
[10] 前記機能層が、剥離剤層、印刷層、ハードコート層、易接着層又は粘着剤層である、前記[9]に記載の基材の分離方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、積層体から基材を分離する方法において、水の使用により基材を容易に分離でき、かつ、基材の分離に使用した水の汚染を抑制できる、基材の分離方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態を用いて詳細に説明する。
本明細書において、「固形分」とは、対象となる組成物に含まれる成分のうち、水や有機溶媒等の希釈溶媒を除いた成分を指す。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。同様に、同一事項に対する「好ましくは10以上、より好ましくは30以上」の記載と「好ましくは90以下、より好ましくは60以下」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10以上60以下」とすることもできる。
また、本明細書中の記載において、例えば、「エネルギー線」とは、公知のγ線、電子線、紫外線、可視光等のエネルギー線を意味する用語である。
【0009】
[基材の分離方法]
本発明の基材の分離方法は、基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、親水性かつ非水溶性である中間層とを有する積層体において、前記中間層と水とを接触させることによって、前記積層体から前記基材を分離することを特徴とする。
前記分離方法では、親水性かつ非水溶性である中間層を用いることにより、上記の優れた効果が奏され、その理由は、次のとおりと考えられる。
すなわち、積層体から基材を分離する前、中間層は、主に、水素結合とアンカー効果とによって、基材又は基材側の他の層と密着している。特に、中間層が親水性であることで、前記中間層と水とを接触させた際、前記基材と中間層との界面又は前記基材側に存在する他の層と中間層との界面に水が浸入し易い。そして、界面に侵入した水が、前記水素結合を阻害することで、前記界面での剥離が生じる結果、前記積層体から基材を容易に分離することが可能になると考えられる。
また、前記中間層は、親水性であると同時に、非水溶性であることから、前記積層体から基材を分離する際に使用される上記の水(以下、「洗浄水」ともいう。)と接触した際に、洗浄水中に溶出することがない。したがって、洗浄水の汚染を防止することができる。
【0010】
本明細書において、中間層が「親水性」であるか否かは、中間層の前記基材側表面の水の接触角が55度以下である場合、当該中間層は親水性であると判断する。また、基材の分離性の促進の観点から、当該接触角は、好ましくは50度以下、より好ましくは45度以下である。また、前記中間層の前記基材側表面の水の接触角の下限値は特に制限はないが、例えば、0度である。換言すれば、本発明の一態様において、前記中間層の前記基材側表面の水の接触角は、好ましくは0~55度であり、より好ましくは0~50度、更に好ましくは0~45度である。前記接触角は、後述する実施例に記載の方法を用いて測定される値である。
本明細書において、中間層が「非水溶性」であるか否かは、後述する実施例に記載の方法を用いて測定される剥離剤層表面の水の接触角と、前記中間層の前記基材側表面の水の接触角との差が30度以上である場合、当該中間層は非水溶性であると判断する。当該接触角の差は、好ましくは40度以上、より好ましくは50度以上である。この差の値が小さい場合は、中間層を構成する成分が水に溶出して、部分的に表出した剥離剤層を測定したことを意味する。また、前記接触角の差の上限値は、特に制限はないが、好ましくは150度、より好ましくは140度、更に好ましくは130度である。前述のとおり、これら段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、本発明の一態様において、前記接触角の差は、好ましくは30~150度、より好ましくは40~140度、更に好ましくは50~130度である。
また、剥離剤層表面の水の接触角は特に制限はないが、通常80度以上を示し、好ましくは85度以上、より好ましくは90度以上である。また、剥離剤層表面の水の接触角の上限値は通常150度であり、好ましくは140度であり、より好ましくは130度である。前述のとおり、これら段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、本発明の一態様において、前記剥離剤層表面の水の接触角は、好ましくは80~150度、より好ましくは85~140度、更に好ましくは90~130度である。当該剥離剤層表面の水の接触角も、後述する実施例に記載の方法を用いて測定される値である。
【0011】
前記中間層と水とを接触させる方法は、特に制限はないが、前記積層体を水中に浸漬することによって行うことが好ましい。
例えば、積層体が巻回されたロール形態であれば、ロール形態のまま、水槽内に浸漬してもよい。この場合、積層体のロールを水槽内に静置してもよく、水槽を攪拌してもよい。
または、繰出ロールから積層体のシートを繰り出して、巻取ロールで巻き取るまでの間で連続して加工(Roll to Rollによる加工)を行う過程の途中で、ロール形態の積層体から繰り出したシートを水槽内に通過させる、又は、当該シートにブラシ等で水を擦り付ける等の処理を行ってもよい。
または、積層体を裁断処理した後、裁断した積層体を、水槽に浸漬してもよい。この場合、裁断した積層体を水槽中に静置してもよく、水槽を攪拌してもよい。または、裁断した積層体にブラシ等で水を擦り付ける等の処理を行ってもよい。
【0012】
前記中間層と接触させる水は、室温でもよいが、加温した温水が好ましい。例えば、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。また、100℃未満が好ましく、98℃以下がより好ましい。前述のとおり、これら段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、本発明の一態様において、前記中間層と接触させる水の温度は、好ましくは40℃以上100℃未満、より好ましくは60℃以上98℃以下である。
本明細書において、前記水が「室温」であるとは、室内環境の温度と同様の温度であり、当該室温環境下で、熱源等により加温していない状態の水の温度を言う。当該室温の一例としては、特に制限はないが、例えば、23℃であってもよい。
【0013】
<積層体>
前記積層体は、基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、親水性かつ非水溶性である中間層とを有するものであれば、特に限定されないが、分離した基材から基材を構成する樹脂等を回収し、再利用し易くする観点からは、前記基材と前記中間層とが、直接積層している構成であることが好ましい。ここで、「直接積層」とは、例えば、基材と、中間層との間に、他の層を有さずに、各層が互いに直接接触している構成を指す。
また、前記積層体は、前記中間層の前記基材とは反対側に、更に、機能層を有することが好ましい。
以下、前記積層体を構成する各層についてより詳細に説明する。
【0014】
(基材)
前記基材としては、例えば、紙基材、樹脂フィルム等を用いることができ、分離がより容易となる観点から、樹脂フィルムが好ましい。また、樹脂フィルムを分離した場合には、回収される成分は樹脂である。一方、紙基材を分離した場合は、回収される成分はパルプ繊維となる。
前記樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステルフィルム;ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリアミドフィルム;ポリカーボネートフィルム;ポリアセテートフィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム;エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム;エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム;シクロオレフィンポリマーフィルム;ポリウレタンフィルム;ポリフェニレンスルフィドフィルム;セロハン;等を用いることができる。これらの中でも、耐熱性、強度の観点から、ポリエステルフィルムが好ましい。ポリエステルフィルムとしては、樹脂の回収、再生がし易い観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とするポリエステルフィルムが好ましい。ここで、「主たる構成成分」とは、当該フィルムを構成する成分中、最も含有量が多い成分を指す。前記ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムが更に好ましい。
【0015】
また、基材は、前述の樹脂を1種のみ含有する樹脂フィルムであってもよいし、2種以上含有するものであってもよい。例えば、前記基材は1つの樹脂フィルムからなる単層フィルムでもよく、複数の樹脂フィルムが積層した複層フィルムであってもよい。樹脂の回収がし易くなる観点からは、前記基材は1つの樹脂フィルムからなる単層フィルム又は1つの樹脂フィルムを積層した複層フィルムであることが好ましい。
また、樹脂フィルムは、公知のフィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒等を含有してもよい。また、樹脂フィルムは、透明なものであっても、所望により着色等されていてもよい。また、基材の少なくとも1つの表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、酸化等のエッチング処理等の表面処理を必要に応じて施してもよい。
また、洗浄水の汚染性をより低減する観点から、基材も非水溶性であることが好ましく、疎水性(非親水性)かつ非水溶性であることがより好ましい。
【0016】
基材の厚さは、特に制限はないが、強度、剛性等の観点から、好ましくは10~500μm、より好ましくは15~300μm、更に好ましくは20~200μmである。
ここで、「基材の厚さ」とは、基材全体の厚さを意味し、例えば、前述した2層以上積層した複層フィルムを用いる場合、基材の厚さとは、基材を構成するすべての層の合計の厚さを意味する。
【0017】
(中間層)
前記中間層としては、本発明の効果がより奏され易くする観点から、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を有する層であることが好ましい。
シロキサン結合を有する層としては、例えば、加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物から形成された層であることが好ましい。前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物は、加水分解された化合物が重縮合可能な化合物である。例えば、前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物は、加水分解による重縮合性を示すアルコキシシランであってもよい。
【0018】
前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物としては、下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物及びそのオリゴマーから選ばれる少なくとも1種を主成分として含むことが好ましい。
Si(OR)(X)4-p (a)
〔一般式(a)中、Rはアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0~4の整数を表す。〕
【0019】
Rとして選択し得るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ネオペンチル基、メチルペンチル基等が挙げられる。これらの中でも、シラン系化合物の反応性をより向上させる観点から、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。Rとして選択し得るアルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよいが、直鎖であることが好ましい。
Xとして選択し得るハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
なお、前記一般式(a)で表されるシラン系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、前記一般式(a)で表されるシラン系化合物としては、前記一般式(a)中のpが4であるシラン系化合物を含むことが好ましい。
すなわち、前記4官能シラン系化合物は、下記一般式(a1)で表されるテトラアルコキシシランであることが好ましい。
Si(OR) (a1)
〔一般式(a1)中、Rはアルキル基を表す。Rが複数存在する場合、複数のRは、互いに同一でも、異なっていてもよい。〕
【0021】
一般式(a1)中、Rとして選択し得るアルキル基としては、前述した一般式(a)中のRと同様のものが例示され、その好適な態様も同様である。
前記テトラアルコキシシランのより好ましい具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易性及び加水分解反応の反応性の観点から、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランの少なくとも一方、又は、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランの混合物であることが好ましい。
【0022】
ここで、前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物中における「主成分」とは、前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物の全量100質量%中、最も多く含まれるシラン系化合物のことを指す。
前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物中、主成分として含まれる前記一般式(a)で表されるシラン系化合物及びそのオリゴマーの含有量は、その他のシラン系化合物の含有量よりも多ければ特に制限はないが、例えば、前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物の全量100質量%中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下である。換言すれば、本発明の一態様において、前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物中、主成分として含まれる前記一般式(a)で表されるシラン系化合物及びそのオリゴマーの含有量は、加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物の全量100質量%中、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%である。
【0023】
また、前記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物のオリゴマー、又は、前記一般式(a1)で表されるテトラアルコキシシランのオリゴマーの平均重合度は、それぞれ、特に限定されないが、それぞれ独立に、例えば、2~20であってもよく、2~15であってもよい。すなわち、前記各シラン系化合物の平均2~20量体であってもよく、前記各シラン系化合物の平均2~15量体であってもよい。
また、前記「一般式(a)で表される4官能シラン系化合物のオリゴマー」及び「前記一般式(a1)で表されるテトラアルコキシシランのオリゴマー」は、いずれも、単に、前記各シラン系化合物の単量体を出発原料として得られたものに限定されず、他の化合物を出発原料とする合成の結果、得られる化合物の構造が、前記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物、又は、前記一般式(a1)で表されるテトラアルコキシシランが2つ以上縮合した構造を有する化合物も含む。後述する「1~3官能のシラン系化合物のオリゴマー」についても同様である。
【0024】
前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物としては市販品を用いることもでき、当該市販品の好適例としては、「コルコート(登録商標)N-103X」、「コルコート(登録商標)PX」、テトラメトキシシランの平均4量体オリゴマーである「メチルシリケート51」、テトラメトキシシランの平均7量体オリゴマーである「メチルシリケート53A」、テトラエトキシシランの平均5量体オリゴマーである「エチルシリケート40」、テトラエトキシシランの平均10量体オリゴマーである「エチルシリケート48」、テトラメトキシシランの平均10量体オリゴマーと、テトラエトキシシランの平均10量体オリゴマーとの混合物である「EMS-485」(いずれも、コルコート株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
前記シラン系化合物が含んでもよいその他のシラン系化合物としては、1~3官能のシラン系化合物が挙げられる。ただし、中間層の親水性を向上させる観点からは、前述のとおり、4官能シラン系化合物を主成分として含むことが好ましい。
また、前記加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物の加水分解反応又は縮合反応を促進する観点から、例えば、酸触媒、金属触媒等の触媒を用いてもよい。
【0026】
前記中間層の厚さは、中間層が水と接した際に、水が浸潤し易くなる観点から、好ましくは0.01~1μm、より好ましくは0.03~0.5μm、更に好ましくは0.05~0.3μmである。
【0027】
(機能層)
前記積層体は、前記中間層の前記基材とは反対側に、更に、機能層を有することが好ましい。すなわち、前記積層体は、基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、前記中間層と、機能層とをこの順で有することが好ましい。
また、前記積層体の一態様としては、前記基材と、前記中間層と、機能層とがこの順で直接積層していてもよく、少なくとも、前記基材と前記中間層とがこの順で直接積層していることがより好ましい。
ここで、前述の「直接積層」とは、例えば、基材と、中間層と、機能層との間に、他の層を有さずに、各層が互いに直接接触している構成を指す。
前記機能層は、積層体の用途により、適宜、選択することが可能であるが、例えば、剥離剤層、印刷層、ハードコート層、易接着層又は粘着剤層等が挙げられる。
特に前記機能層が剥離剤層であれば、剥離剤層表面の水の接触角が大きくなり、さらに剥離剤層表面の水の接触角と、前記中間層の前記基材側表面の水の接触角との差が大きくなることにより、基材の分離がより容易となる。
【0028】
また、前記機能層を有する積層体としては、その用途及び使用量の観点等から、剥離剤層を有する積層体であることが好ましく、剥離シートであることがより好ましい。
剥離シートは、一般に、特定の用途に用いられる他の機能性シートや各種部品の製造、運搬、保管時等に、これらシートや部品の表面を保護する目的等で用いられる。実際にこれらの部品等の保護の役目を果たした後は、表面から剥離され、廃棄されることも多い。そのため、前記基材の分離方法を、剥離シートから基材を分離する方法に用いることは、資源保護、環境保護の観点からも、貢献度の高い用途である。
したがって、本発明の一態様として、前記積層体が有する機能層としては、剥離剤層であることが好ましく、前記積層体の好適な一態様としては、剥離シートが挙げられる。すなわち、前記基材の分離方法の好適な一態様としては、基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、非水溶性かつ親水性である中間層と、該中間層の前記基材とは反対側に、更に剥離剤層を有する剥離シートにおいて、前記中間層と水とを接触させて、前記中間層を前記基材表面から剥離させることによって、前記剥離シートから前記基材を分離することを特徴とする、基材の分離方法;が例示される。
【0029】
〔剥離剤層〕
前記剥離剤層は、剥離剤組成物から形成された層であることが好ましい。
前記剥離剤層の形成に用いられる剥離剤組成物としては、剥離性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、シリコーン系化合物;フッ素化合物;長鎖アルキル基含有化合物;オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂などの熱可塑性樹脂材料;などを主成分とする剥離剤組成物を用いることができる。また、エネルギー線硬化型又は熱硬化型樹脂を主成分とする剥離剤組成物を使用することが好ましい。これらの剥離剤組成物は、1種を単独で用いてもよく、又は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、前記剥離剤組成物中における「主成分」とは、前記剥離剤組成物の固形分全量100質量%中、最も多く含まれる成分のことを指す。
【0030】
また、前記剥離剤層には、前述の主成分以外に、その他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、老化防止剤、光安定剤、難燃剤、導電剤、帯電防止剤、可塑剤等が挙げられる。
【0031】
また、洗浄水の汚染性をより低減する観点から、機能層も非水溶性であることが好ましく、疎水性(非親水性)かつ非水溶性であることがより好ましい。
機能層の厚さは、積層体の用途により、適宜、選択することが可能であり、特に制限はないが、例えば、好ましくは0.02~200μmである。また、前記機能層の一態様として、例えば、機能層が剥離剤層である場合、好ましくは0.02~5μm、より好ましくは0.03~2μm、更に好ましくは0.05~1.5μmである。
【0032】
<積層体の製造方法>
本発明で用いることができる前記積層体の製造方法としては、基材、及び、該基材の少なくとも一方の表面側に、中間層を有する積層体を製造することができる限り、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、基材の一方の面に、中間層形成用組成物又はその溶液を塗布し、その後加熱し乾燥すること又はエネルギー線照射により硬化すること等の方法により中間層を形成して作製することができる。
また、前記積層体が、前記中間層の前記基材とは反対側に、更に、機能層を有する場合、当該機能層の形成方法も、当該機能層の種類により、適宜、選択することが可能であり、機能層を有する積層体を製造することができる限り、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、前述した方法等で基材上に形成された中間層上に、機能層形成用組成物又はその溶液を塗布し、その後加熱し乾燥すること又はエネルギー線照射により硬化すること等の方法により機能層を形成して作製することができる。或いは、別の剥離材の剥離処理面に、機能層形成用組成物又はその溶液を塗布し、その後加熱し乾燥すること又はエネルギー線照射により硬化すること等の方法を用いて、剥離材上に機能層を形成し、この機能層を中間層の基材とは反対側の面上に貼り合わせて、機能層を形成してもよい。なお、剥離材は、中間層の上に機能層を積層する前に剥離してもよく、積層後、機能層を形成した積層体の使用前までに剥離してもよい。また、前者の方法で機能層を形成する場合、形成された機能層の表面上に、剥離材を更に貼り合わせてもよい。
【0033】
中間層形成用組成物、機能層形成用組成物、又はこれらの溶液を塗布する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
また、中間層又は機能層を乾燥する場合の乾燥方法や乾燥温度も特に制限はなく、中間層又は機能層を形成する材料の特性等によって、適宜、選択することができる。同様に、エネルギー線照射により中間層又は機能層を形成する場合も、中間層又は機能層を形成する材料の特性等によって、エネルギー線の種類、照度、光量といった照射条件は、適宜、選択することができる。
【0034】
<基材の分離方法に関する用途等>
前述のとおり、前記基材の分離方法を用いることで、積層体から基材を容易に分離することができる。また、前述のとおり、基材の分離に寄与する積層体中の中間層は、基材を分離する際に用いる洗浄水の汚染を低減でき、更には、洗浄水の汚染が抑制されることから、分離した基材から回収される樹脂等も汚染されにくい。また、洗浄水の汚染が抑制されることで、洗浄水の再利用や廃棄処理の簡略化にも繋がる。
したがって、基材から回収した樹脂をそのまま再使用する場合、又は、樹脂を構成する原材料であるモノマー等まで分解してリサイクルする場合にも好適に用いることができる。
また、前記積層体を用いて基材を分離する場合、前記洗浄水をろ過するだけでも洗浄水と分離された基材とを容易に分けることが可能である等、樹脂の回収やリサイクルを行うプロセス全体の簡略化にも繋がる。
したがって、本発明の一態様としては、例えば、少なくとも、前記基材の分離方法を用いて、基材と、該基材の少なくとも一方の表面側に、前記中間層とを有する積層体から、前記中間層と水とを接触させて、前記中間層を前記基材の表面又は基材側の層の表面から剥離させることによって、前記積層体から前記基材を分離する工程;及び、基材から樹脂を回収する工程;とを含む、樹脂のリサイクル方法が挙げられる。前記基材から樹脂を回収する工程は、特に制限はなく、各樹脂の種類及び樹脂の原料に応じて、適宜、公知の回収方法を用いることができる。
【実施例
【0035】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0036】
[基材、中間層、剥離剤層の厚さ]
各実施例及び各比較例で用いた剥離シートにおける基材の厚さは、株式会社テクロック製の定圧厚さ測定器(型番:「PG-02J」、標準規格:JIS K6783:1994、JIS Z1702:1994、JIS Z1709:1995に準拠)を用いて測定した。
実施例1~4並びに比較例2の中間層の厚さは、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製、製品名「M-2000」)を用いて測定した。
各実施例及び各比較例の剥離剤層の厚さは、反射式膜厚計(フィルメトリクス株式会社製、製品名「F20」)を用いて測定した。
【0037】
[中間層の非水溶性評価]
以下の方法を用いて、中間層が非水溶性であるかを確認した。
(1)剥離剤層表面の水の接触角の測定
実施例1~4、並びに、比較例2で得られた剥離シートの剥離剤層表面の水の接触角を測定した。接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社製、製品名「DM-701」)を使用し、静滴法によってJIS R3257:1999に準じて測定した。液滴については、蒸留水を使用した。
測定結果を「接触角(1)」として下記表1に示す。
(2)中間層の基材側表面の水の接触角の測定
以下の方法で、基材から中間層を分離し中間層の基材側表面の水の接触角を測定して、中間層の親水性を評価した。
実施例1~4、並びに、比較例2で得られた剥離シートの剥離剤層表面に、幅50mmの粘着テープ(日東電工株式会社製、製品名「ポリエステル粘着テープNo.31B」)を貼付し、その後、50mm×50mmのサイズに裁断して試験片を作製した。
次いで、容量500mLのガラス製ビーカーに300mLの温水を充填し、試験片全体を90℃の温水中に浸漬して3時間放置した。その後、試験片が、剥離剤層と中間層が一体となって粘着テープに担持された積層体と、基材とに分離されていることを確認し、剥離剤層と中間層を担持した粘着テープを温水中から取り出し、室温(23℃)の環境下で24時間乾燥させた。その後、粘着テープ上に担持されている中間層の表面(基材表面に接触していた中間層の表面)について接触角を測定した。接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社製、製品名「DM-701」)を使用し、静滴法によってJIS R3257:1999に準じて測定した。液滴については、蒸留水を使用した。
測定結果を「接触角(2)」として下記表1に示す。
(3)中間層が非水溶性であるか否かの判断方法
上記(1)で測定された剥離シートの剥離剤層表面の水の接触角の値と、上記(2)で測定された中間層の基材側表面の水の接触角の値との差が30度以上の場合、当該剥離シート中の中間層が非水溶性であると判断した。評価結果を下記表1に示す。
この接触角の差の値が小さい場合、上記(2)の操作において、中間層を構成する成分が水に溶出して、部分的に又は全体的に表出した剥離剤層の接触角を測定していることを意味する。
【0038】
[中間層の親水性評価]
上記「(2)中間層の基材側表面の水の接触角の測定」の結果により、実施例1~4、並びに、比較例2で得られた剥離シートの親水性を評価した。
上記「(2)中間層の基材側表面の水の接触角の測定」により、中間層の基材側表面の水の接触角の値が55度以下である場合、中間層が親水性であると判断した。結果を下記表1に示す。
なお、下記表1中、比較例2でポリビニルアルコールから形成された中間層の接触角(2)の値が高くなっているが、これは、前述のとおり、上記「(2)中間層の基材側表面の水の接触角の測定」において、比較例2の中間層が温水中に溶出し、部分的に表出してしまった剥離剤層の影響を受けたためである。
したがって、下記表1中、中間層の親水性評価は、中間層が非水溶性である場合についてのみ表記した。
参考として、比較例2において、剥離剤層を形成せず、基材上に中間層のみを形成した積層体サンプルを準備し、当該中間層の表面を、上記「(1)剥離剤層表面の水の接触角の測定」を準用して測定した場合の接触角は、35.2度であった。この点からも、上記「(2)中間層の基材側表面の水の接触角の測定」における処理により、比較例2の中間層が温水中に溶出していたことが確認できた。
【0039】
[剥離シートの製造]
以下に示す方法によって剥離シートを製造した。
【0040】
[実施例1]
基材として二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ31μm)を用意した。次に、中間層形成用組成物として、加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物(コルコート株式会社製、製品名「コルコート(登録商標)N-103X」)を用意し、イソプロピルアルコールと混合して、固形分濃度を1.5質量%に調整した。
次に、得られた中間層形成用組成物を、バーコーターで乾燥後の中間層の厚みが0.1μmとなるように基材の片面に均一に塗布して塗布層を形成し、130℃で1分間加熱することにより塗布層を硬化させ、中間層を形成した。
次に、熱硬化性付加反応型シリコーン(信越化学工業株式会社製、「KS-847H」)100質量部をトルエンで希釈し、これに白金触媒(信越化学工業株式会社製、「CAT-PL-50T」)2質量部を添加し、固形分濃度が2.0質量%の溶液とし、剥離剤組成物の塗工液を得た。調製した塗工液を、バーコーターで、前記基材上に形成された中間層の上に塗布して塗布層を形成し、120℃で1分間加熱することにより塗布層を硬化させ、厚さ0.1μmの剥離剤層を形成して、基材/中間層/剥離剤層がこの順で積層された構成である剥離シートを作製した。
得られた剥離シートを用いて、後述する基材の分離性評価を行った。
【0041】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で基材の片面に中間層を設けた。
次に、メチル化メラミン樹脂(日本カーバイド工業株式会社製、製品名「MW-30」)100質量部(固形分換算値、以下同じ)と、ポリオルガノシロキサンの両末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、製品名「KF-6000」)4質量部とを、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンとの混合溶媒(混合比(質量比)は、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:シクロヘキサノン=40:20:20)で希釈した。得られた希釈液に対して、酸触媒のp-トルエンスルホン酸(信越化学工業株式会社製、製品名「PS-80」)4.6質量部を添加し、均一に混合することで固形分濃度2.0質量%の溶液とし、熱硬化型樹脂を主成分とする剥離剤組成物の塗工液を得た。
調製した塗工液を、バーコーターで、基材上に形成された中間層の上に塗布して塗布層を形成し、120℃で1分間加熱することにより塗布層を硬化させ、厚さ0.1μmの剥離剤層を形成して、基材/中間層/剥離剤層がこの順で積層された構成である剥離シートを作製した。
得られた剥離シートを用いて、後述する基材の分離性評価を行った。
【0042】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で基材の片面に中間層を設けた。
次に、多官能アクリレートであるジペンタエリスリトールペンタアクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(東亞合成株式会社製、製品名「アロニックス(登録商標)M-400」、固形分100質量%)94質量部と、アクリル変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業株式会社製、商品名「X-22-164A」、固形分100質量%)1質量部と、光重合開始剤(IGM Resins B.V.社製、商品名「Omnirad(登録商標)907」(2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、固形分100質量%))5質量部を、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンとの混合溶剤(混合比(質量比)は、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン=3:1)で希釈して、固形分濃度20質量%の溶液とし、エネルギー線硬化型樹脂を主成分とする剥離剤組成物の塗工液を得た。
調製した塗工液をバーコーターで、基材上に形成された中間層の上に塗布し、80℃で1分間乾燥させて塗布層を得た。次いで、塗布層に、紫外線を照射(積算光量:250mJ/cm)して剥離剤層(厚さ1μm)を形成して、基材/中間層/剥離剤層がこの順で積層された構成である剥離シートを作製した。
得られた剥離シートを用いて、後述する基材の分離性評価を行った。
【0043】
[実施例4]
実施例1において、中間層形成用組成物を次のように変更し中間層を形成した以外は、実施例1と同様にして、基材/中間層/剥離剤層がこの順で積層された構成である剥離シートを作製した。
中間層形成用組成物として、加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物(コルコート株式会社製、製品名「メチルシリケート53A」)を固形分換算で100質量部と蒸留水35質量部、酸触媒としてp-トルエンスルホン酸(信越化学工業株式会社製、製品名「PS-80」)を固形分換算で2.0質量部を混合し、イソプロピルアルコールにて、固形分濃度40質量%に調整した後、20分間撹拌した。次いでイソプロピルアルコールで固形分濃度を1.5質量%に調整して中間層形成用組成物を得た。
次に、得られた中間層形成用組成物を、バーコーターで乾燥後の中間層の厚みが0.1μmとなるように基材の片面に均一に塗布して塗布層を形成し、120℃で1分間加熱することにより塗布層を硬化させ、中間層を形成した。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、中間層を設けないこと以外は、実施例1と同様にして、基材/剥離剤層がこの順で積層された構成である剥離シートを作製した。得られた剥離シートを用いて、後述する基材の分離性評価を行った。
【0045】
[比較例2]
基材として二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み31μm)を用意した。
次に、部分ケン化型ポリビニルアルコール樹脂(三菱ケミカル株式会社製、「ゴーセノール(登録商標)GL-05」)の2質量%水溶液を、乾燥後の厚みが0.1μmとなるように基材の片面に均一に塗布し、120℃で1分間加熱することにより中間層を形成した。その他は実施例1と同様にして、剥離剤層を形成し、基材/中間層/剥離剤層がこの順で積層された構成である剥離シートを作製した。
得られた剥離シートを用いて、後述する基材の分離性評価を行った。
【0046】
[基材の分離性]
実施例と比較例に記載の方法で得られた剥離シートを50mm×50mmのサイズに裁断し試験片を得た。次いで、容量500mLのガラス製ビーカーに300mLの90℃の温水を充填し、一片の試験片の全体が温水中に浸るようにして90℃で保温しながら1時間静置した。その後、温水中から取り出した試験片を、室温(23℃)の蒸留水に浸漬して洗浄し、分離性評価用の試料とした。
当該試料について、剥離剤層が設けられていた側の基材表面に対し、X線光電子分光分析法(XPS)で測定される剥離剤層の化学組成に由来する特定元素である窒素(N)、ケイ素(Si)検出量に基づき、基材の分離性を評価した。下記の式により各元素比率を算出し、剥離剤層の化学組成に由来する特定元素が0.05Atom%未満である場合、剥離剤層が基材表面から分離除去できていると判断した。結果を下記表2に示す。なお、表2中、0.05Atom%未満となる場合を未検出(N.D.)と表記した。
下記の各計算式中、Nは窒素元素量、Siはケイ素元素量、Cは炭素元素量、Oは酸素元素量を表す。
・窒素(N)元素比率(Atom%)=[N/(C+O+N+Si)]×100
・ケイ素(Si)元素比率(Atom%)=[Si/(C+O+N+Si)]×100
【0047】
[洗浄水の汚染性評価]
(i)COD値の測定
実施例1~4、並びに、比較例2に記載の方法で得られた剥離シートを50mm×50mmのサイズに裁断し試験片を得た。次いで、容量200mLのガラス製ビーカーに洗浄水として蒸留水100mLを充填して90℃まで加熱し、試験片10枚の全体が洗浄水中に浸るようにして浸漬して、90℃に保温しながら1時間静置した。その後、ビーカーから試験片を全て取り出し、保温を止めて室温(23℃)環境下で洗浄水を室温(23℃)まで冷却した。冷却完了後、洗浄水をポリエチレン製メッシュ(#380)にて濾過し、水温を25℃に調節して水質検査器(株式会社共立理化学研究所製、製品名「パックテスト(登録商標) COD」、型式:WAK-COD-2)を用いて洗浄水のCOD値を測定し、以下の基準にて評価した。結果を下記表2に示す。
・A(洗浄水の汚染なし):COD値が10mg/L未満
・F(洗浄水の汚染あり):COD値が10mg/L以上
【0048】
(ii)溶出分の乾燥重量の測定
また、上記(i)とは異なる方法として、洗浄水中への溶出分の乾燥重量を以下の方法で測定することからも洗浄水の汚染性を評価した。
実施例1及び比較例2で得られた剥離シートを100mm×100mmのサイズに裁断して試験片を作製した。次に、容量2,000mLのガラス製ビーカーに蒸留水1,500mLを充填し、10枚分の試験片を全体が水中に浸かるように浸漬して、90℃で3時間放置した。その後、試験片から分離した基材を水中から取り出し、更に水面に浮遊した中間層付き剥離剤層をろ過して溶出に供した水分を得た。これを加熱乾燥および真空乾燥を繰り返して、剥離シートから水に溶出した成分を得、その重量を測定した。結果を下記表2に溶出量として示す。
なお、実施例1及び比較例2で得られた剥離シートを構成する基材及び剥離剤層は非水溶性であることから、当該方法によって、溶出する成分は中間層の成分である。したがって、当該方法は、剥離シート中の中間層が非水溶性であるか否かを判断するための評価方法として用いることも可能である。また、下記表2中の溶出量の値は、(溶出分の乾燥重量)/(浸漬した剥離シートの面積)の値(単位:μg/m)を示したものである。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すとおり、実施例1~4の剥離シートを用いた基材の分離性評価結果から、基材と、該基材上に加水分解による重縮合性を示すシラン系化合物から形成された中間層を設けた積層体を有する剥離シートにおいて、前記中間層と水とを接触させて、前記中間層を前記基材表面から剥離させることによって、前記剥離シートから前記基材を分離することが可能であることが確認された。更に、実施例1~4の剥離シートを用い、当該剥離シートから基材を分離する方法の場合、中間層が非水溶性であることから、基材を分離する際に用いた洗浄水中のCOD値が低く、環境負荷の少ない基材の分離方法として優れていることが確認された。
一方、比較例1の剥離シートを用いた場合、基材の分離性評価の実施後も、基材の剥離剤層側にSi元素が検出されており、剥離剤層が基材上から除去されておらず、基材の分離方法として不適であることが確認された。
また、比較例2の剥離シートを用いた場合、中間層と水とを接触させることで、基材層が分離されている。しかし、中間層が水溶性であることから、基材を分離する際に用いた洗浄水中のCOD値が上昇していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
前述のとおり、本発明の基材の分離方法は、使用した洗浄水中に中間層が不溶であることから、従来品と比べて洗浄水の汚染を抑制することができる。そのため、例えば、基材を分離する過程で、ろ過処理等の簡易な方法により使用済みの洗浄水を処理することが可能になる等、廃液処理の負担を低減することが可能となる。また、当該洗浄水の再利用も容易になるといった利点も得られる。
したがって、洗浄水の廃液処理工程の簡略化又は省略が可能となる観点、洗浄水の再利用が可能となる観点等から、本発明の基材の分離方法は、従来よりも環境負荷の低減に有効な基材の分離方法である。更に、廃液処理工程の簡略化等により、基材の分離におけるコスト低減にも繋がる観点からも、産業上、非常に有効な方法である。