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特許7422995歯科加工用ミルブランクの製造方法及び歯科用補綴物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】歯科加工用ミルブランクの製造方法及び歯科用補綴物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/838 20200101AFI20240122BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20240122BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20240122BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20240122BHJP
   C04B 35/185 20060101ALI20240122BHJP
   C04B 35/443 20060101ALI20240122BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
A61K6/838
A61C5/70
A61C13/083
C04B35/111
C04B35/185
C04B35/443
C04B35/486
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019223177
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021091633
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明香里
(72)【発明者】
【氏名】中島 慶
(72)【発明者】
【氏名】風間 秀樹
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519042(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101219894(CN,A)
【文献】特開2009-023850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/838
A61C 5/70
A61C 13/083
C04B 35/111
C04B 35/185
C04B 35/443
C04B 35/486
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物と、(B)金属カチオン成分がアルミニウムカチオン及び/又はランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩と、を含むセラミックからなる被切削加工部を有する歯科加工用ミルブランクを製造する方法であって、
(a)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物粉末:100質量部、(b1)分子内に金属原子を含まない有機リン酸化合物:リン酸基の総量が10ミリモル以上、100ミリモル以下となる量、及び(b2)前記リン酸金属塩(B)以外の金属塩であって、金属カチオンとしてアルミニウムカチオン及び又はランタノイド金属カチオンを含む金属塩:前記(b1)有機リン酸化合物に含まれるリン酸基の当量(モル×イオン価数)に対して金属塩の当量(モル×イオン価数)が0.9倍当量以上、1.1倍当量以下となる量、を含んでなる原料紛体組成物を調製する原料紛体調製工程;
前記原料紛体組成物を用いて所定形状の圧縮成形体又はグリーン体を得る成形工程;及び
前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結する焼結工程;
を含んでなることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記焼結工程では、前記圧縮成形体又グリーン体を、100℃以上、1100℃以下であって且つ前記焼結温度よりも低い温度で脱脂及び/又は仮焼処理してから前記焼結を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(A)の金属酸化物の粒子の焼結体からなるマトリックス中に、前記(B)のリン酸金属塩からなる微細相が分散した複合セラミックであって、前記微細相は、非晶質及び/又は結晶質の前記リン酸金属塩からなり、走査型電子顕微鏡による観察で決定される前記リン酸金属塩の結晶子径が600nm未満である、複合セラミックからなる被切削加工部を有する歯科加工用ミルブランクを製造する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
歯科用補綴物を製造する方法であって、
前記焼結工程における前記焼結温度を600℃以上、1100℃以下の温度とした請求項1乃至3のいずれかの方法により、歯科加工用ミルブランクを製造する工程;
前記工程で得られた歯科加工用ミルブランクの被切削加工部をCAD/CAMにより切削加工して歯科用補綴物半製品を製造する工程;及び
前記歯科用補綴物半製品を、1100℃を越え、1800℃以下の温度で焼結して歯科用補綴物を得る工程;
を含んでなることを特徴とする、前記方法。
【請求項5】
歯科用補綴物を製造する方法であって、
請求項1乃至3のいずれかの方法により、歯科加工用ミルブランクを製造する工程;及び
前記工程で得られた歯科加工用ミルブランクの被切削加工部をCAD/CAMにより切削加工して歯科用補綴物を製造する工程;
を含んでなることを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工後に大きな体積収縮を伴うような焼結を特に行う必要がない焼結体からなり、切削加工が容易で且つ審美性に優れる歯科加工用ミルブランクを製造する方法、及びこのような製法で製造された歯科加工用ミルブランクを用いて歯科用補綴物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ICTの発展により歯科分野において、コンピュータ支援設計(CAD)やコンピュータ支援製造(CAM)の導入が進んでいる。たとえば、歯冠補綴物の作製に関しては、これらの材料をコンピュータにて設計されたデータに基づき切削装置にて切削する方法(CAD/CAM)が主流となっている。一方、金属アレルギーへの対応や高審美性に対する要求の高まりなどから、歯冠補綴物に金属以外の材料を使用することが増えており、強度や靭性に優れたジルコニア系セラミックス材が使用されている。
【0003】
CAD/CAM技術を利用してセラミック材料からなる歯冠補綴物を製造する場合には、ミルブランク(或いは歯科用ミルブランク)と呼ばれる、切削加工機に取り付け可能で且つ円盤状や直方体状の形に成形されたソリッドブロックを被加工物として用いるのが一般的である。なお、歯科用ミルブランクには、これを切削加工機に固定するための保持ピンが接合されることも多く、このような形態においては保持ピンと一体化したものを歯科用ミルブランクと呼ぶこともある。本発明では、このような保持ピンと一体化した形態を含めて歯科用ミルブランクと称する。そして、被切削体本体(歯科用ミルブランク本体)を被切削加工部と称する。このような歯科用ミルブランクの使用例として、たとえば、特許文献1には、歯冠補綴物についての3次元データを作成するデータ作成装置と、被加工物を保持する保持部と、前記被加工物を切削するための切削機構と、前記保持部および前記切削機構の駆動を制御する制御部と、を備えた切削装置と、を備える特定の歯冠補綴物作製システムを用いて、ジルコニア系セラミック材料からなる円盤状のミルブランクを切削加工することで所期の形状の歯冠補綴物を造形する技術が開示されている。
【0004】
被切削加工部がセラミック材料からなる歯科用ミルブランクとしては、一般に、CAD/CAMによる切削加工の容易性を重視して、加工が容易な仮焼結状態のセラミック材料を被切削加工部とするものが用いられることが多い。しかし、このような歯科用ミルブランクを用いた場合には被切削加工部を切削・研削加工した後に焼結状態のセラミック材料を完全焼結させて高強度のセラミックとする必要がある。完全焼結する際には、収縮の発生が避けされないため、前記歯科用ミルブランクの切削・研削加工は、この収縮量を想定して行うものの、収縮量の変動により高精度で目的とする形状の歯冠補綴物を得るのは困難であった。
【0005】
このような問題のない歯科用ミルブランクとして、切削加工性が改良された完全焼結体を被切削加工部とするミルブロックが提案されている。すなわち、特許文献2には、「ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物100質量部と、リン酸ランタンおよび/またはリン酸アルミニウム1質量部以上23質量部以下とを含むことを特徴とする歯科加工用ブロック」が記載されている。そして、特許文献2によれば、上記歯科加工用ブロックの中でも、前記リン酸ランタン及び/又はリン酸アルミニウムが、平均粒径が0.01μm以上1μm以下である結晶体として含まれるものは、切削・研削加工がさらに容易となり、かつ粗大になったリン酸ランタンおよび/またはリン酸アルミニウムの結晶体が破壊の起点となり難くなり、強度が向上する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-42895号公報
【文献】特許第4870038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献2に記載された歯科加工用ブロック(歯科用ミルブランク)は、上記したような優れた特長を有するものである。ところが、本発明者等の検討によると、より緻密な焼結体を得るために焼結温度を、引用文献2に具体的に示される1250℃よりも高くした場合には、リン酸ランタンおよび/またはリン酸アルミニウムの結晶体の粒子径が大きくなり、焼結後に目視で確認できる斑模様が発現したり、上記結晶体が破壊起点となってしまうことにより強度が低下したりすることがあることが判明した。
【0008】
そこで本発明は、高温で焼結した場合であっても、良好な切削・加工性を保ったまま、審美性や強度の低下を起こすことのないセラミックを被切削加工部とするミルブランクを製造できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記技術手段により上記課題を解決するものである。
すなわち、本発明の第一の形態は、(A)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物と、(B)金属カチオン成分がアルミニウムカチオン及び/又はランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩と、を含むセラミックからなる被切削部を有する歯科加工用ミルブランクを製造する方法であって、
(a)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物粉末:100質量部、(b1)分子内に金属原子を含まない有機リン酸化合物:リン酸基の総量が10ミリモル以上、100ミリモル以下となる量、及び(b2)前記リン酸金属塩(B)以外の金属塩であって、金属カチオンとしてアルミニウムカチオン及び又はランタノイド金属カチオンを含む金属塩:前記(b1)有機リン酸化合物に含まれるリン酸基の当量(モル×イオン価数)に対して金属塩の当量(モル×イオン価数)が0.9倍当量以上、1.1倍当量以下となる量、を含んでなる原料紛体組成物を調製する原料紛体調製工程;前記原料紛体組成物を用いて所定形状の圧縮成形体又はグリーン体を得る成形工程;及び前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結する焼結工程;を含んでなることを特徴とする前記方法である。
【0010】
前記焼結工程で脱脂及び/又は仮焼処理を行う場合には、前記圧縮成形体又はグリーン体を、100℃以上、1100℃以下であって且つ前記焼結温度よりも低い温度で脱脂及び/又は仮焼処理してから前記焼結を行うことが好ましい。
【0011】
また、前記本発明の第一の形態の方法は、前記(A)の金属酸化物の粒子の焼結体からなるマトリックス中に、前記(B)のリン酸金属塩からなる微細相が分散した複合セラミックであって、前記微細相は、非晶質及び/又は結晶質の前記リン酸金属塩からなり、走査型電子顕微鏡による観察で決定される前記リン酸金属塩の結晶子径が600nm未満である、複合セラミックからなる被切削加工部を有する歯科加工用ミルブランクを製造する方法であることが好ましい。
【0012】
本発明の第二の形態は、前記(A)の金属酸化物の粒子の焼結体からなるマトリックス中に、前記(B)のリン酸金属塩からなる微細相が分散した、1250℃を越え1800℃以下の温度で焼結された複合セラミックであって、前記微細相は、非晶質及び/又は結晶質の前記リン酸金属塩からなり、走査型電子顕微鏡による観察で決定される前記リン酸金属塩の結晶子径が600nm未満である、複合セラミックからなる被切削加工部を有する歯科加工用ミルブランクである。
【0013】
本発明の第三の形態は、歯科用補綴物を製造する方法であって、前記焼結工程における前記焼結温度を600℃以上、1100℃以下の温度とした、前記本発明の第一の形態の方法により、歯科加工用ミルブランクを製造する工程;前記工程で得られた歯科加工用ミルブランクの被切削加工部をCAD/CAMにより切削加工して歯科用補綴物半製品を製造する工程;及び前記歯科用補綴物半製品を、1100℃を越え、1800℃以下の温度で焼結して歯科用補綴物を得る工程;を含んでなることを特徴とする、前記方法である。
【0014】
本発明の第四の形態は、歯科用補綴物を製造する方法であって、前記本発明の第一の形態の方法により、歯科加工用ミルブランクを製造する工程;及び前記工程で得られた歯科加工用ミルブランクの被切削加工部をCAD/CAMにより切削加工して歯科用補綴物を製造する工程;を含んでなることを特徴とする、前記方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の歯科加工用ミルブランクの製造方法における前記焼結工程で得られるセラミックは、仮焼結状態のセラミックスではなく、完全に焼結されたセラミックスであるにもかかわらず、切削・研削加工が容易である。したがって、上記セラミックスを被切削部とした歯科加工用ミルブランクは、CAD/CAMにより切削加工した後に、再度焼結することなく歯科用補綴物とすることができる。このため、切削加工後に(収縮を伴う)高温焼結する必要がある所謂仮焼結状態のミルブランクと比べて、高精度で効率的に歯科用補綴物を製造することができる。しかも、1250℃よりも高い温度で焼結して高強度化を図った場合においても焼結体の外観に斑模様が発生することがない。このように、本発明の歯科加工用ミルブランクの製造方法よれば、高強度で審美性に優れた歯科用補綴物を高精度で効率よく製造することが可能な歯科用加工用ミルブランクを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の歯科加工用ミルブランクの製造方法は、(A)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物(以下、単に「マトリックス金属酸化物」ともいう。)と、(B)金属カチオン成分がアルミニウムカチオン及び/又はランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩(以下、単に「アルミニウム・ランタノイドリン酸塩」ともいう。)を含むセラミックからなる歯科加工用ミルブランクを製造する方法であり、特定の原料紛体組成物、すなわち、前記(A)成分であるマトリックス金属酸化物の原料となる(a)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物粉末(以下、単に「マトリックス金属酸化物粉末」ともいう。)と、前記(B)成分であるアルミニウム・ランタノイドリン酸塩の原料となる(b1)分子内に金属原子を含まない有機リン酸化合物(以下、単に「有機リン酸」ともいう。)及び(b2)前記(B)のアルミニウム・ランタノイドリン酸塩以外の金属塩であって、金属カチオンとしてアルミニウムカチオン及び又はランタノイド金属カチオンを含む金属塩(以下、単に「アルミニウム・ランタノイド塩」ともいう。)と、を特定の配合割合で含む原料紛体組成物を調製する原料紛体調製工程、前記原料紛体組成物を用いて所定形状の圧縮成形体又はグリーン体を得る成形工程;及び前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を特定の温度で焼結する焼結工程を、含んでなることを特徴とする。
【0017】
上記本発明の方法では、(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶粉末を含む原料紛体を用いた特許文献2に開示される方法とは異なり、その原料となる前記(b1)及び(b2)の粉末を含む原料紛体を用い、混合工程及び焼結工程でこれらを反応及び分解させて(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩を生成させるため、1250℃を超えるような高温で焼結しても、その結晶子径が小さく保つことが可能なため、焼結体の外観に斑模様が発現せず、審美性が向上したものと考えられる。また、破壊の起点となり易い粗大な(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶体が存在しないので、強度の低下も起こり難くなる。なお、焼結時に生成する(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶成長が抑制されてその結晶子径が小さくなるのは、焼結時に原料粉体中に均一に微分散した(b1)及び(b2)が、その有機成分が分解されながら拡散して会合して反応するため、結晶子が大きく成長できず小さく保たれるものと推定している。
以下、本発明の歯科加工用ミルブランクの製造方法における各工程について、詳しく説明する。
【0018】
<原料紛体調製工程>
原料紛体調製工程では、
(a)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物粉末(マトリックス金属酸化物粉末):100質量部、
(b1)分子内に金属原子を含まない有機リン酸化合物(有機リン酸):リン酸基の総量が10ミリモル以上、100ミリモル以下となる量(以下、「A以上、B以下」を単に「A~B」と表記することも有る。)、及び
(b2)前記リン酸金属塩(B)以外の金属塩であって、金属カチオンとしてアルミニウムカチオン及び又はランタノイド金属カチオンを含む金属塩(アルミニウム・ランタノイド塩):前記(b1)有機リン酸化合物に含まれるリン酸基の当量(モル×イオン価数)に対して金属塩の当量(モル×イオン価数)が0.9倍当量~1.1倍当量となる量、
を含んでなる原料紛体組成物を調製する。
【0019】
以下に原料紛体調製工程で使用する原料紛体の各種原材料について説明する。
【0020】
1.(a)マトリックス金属酸化物粉末
マトリックス金属酸化物粉末としては、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物粉末を使用する。
【0021】
ジルコニア粉末は、単斜晶、正方晶、立方晶またはこれらの一以上の混晶の内いずれの結晶相をもつものでも良いが、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、酸化エルビウム等の安定化剤を含んでおり、焼結後に正方晶が主成分となる部分安定化ジルコニアが使用に適している。アルミナ粉末は、γ、δ、κ、θ、η、α型等のいずれの結晶構造を有するものであっても良いが、容易に入手可能なγ-アルミナあるいはα-アルミナの粉末が好ましい。ムライト粉末は、コランダム結晶あるいはガラス質を含むものでも良いが、ほぼ100%のムライト結晶からなるものが好ましい。スピネル粉末は、アルミナあるいはマグネシアを含んだものでも良いが、これらを含まないものが好ましい。これらの中でも、色調が白色で歯科用補綴物に適しているばかりでなく、低温で劣化し難く高い強度と靭性を持っているという観点から、部分安定化ジルコニア粉末を用いることが好ましい。
【0022】
マトリックス金属酸化物粉末としては、取り扱いが容易でかつ酸化物結晶の相変態が生じにくいという理由及び焼結により粒成長が進みすぎないという理由から、平均結晶子径が0.001μm~50μmのものが好適に用いられる。平均結晶子径0.003μm~20μmの粉末を用いることがより好ましい。
【0023】
マトリックス金属酸化物は、顔料を含んでいてもよい。顔料は特に限定されず、公知のものを自由に組み合わせて用いることができ、例えば、酸化エルビウム、酸化コバルト、酸化鉄等が使用できる。また、焼結前は白色であっても、焼結後に着色し顔料として使用可能であるものも使用できる。
【0024】
2.(b1)有機リン酸
(b1)有機リン酸としては、分子内に金属原子を有しない有機リン酸化合物が特に限定されず使用できる。ここで、有機リン酸化合物とは、分子内に、広義のリン酸基、すなわち、リン酸から誘導される酸性基であるホスフィン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸水素モノエステル基、リン酸二水素モノエステル基などのリン酸基を有する有機化合物を意味する。
【0025】
好適に使用できる(b1)有機リン酸を具体的に例示すると、2-アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、10-アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2-アクリロキシエチル)アシッドホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、ピロリン酸ビス〔2-アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-アクリロイルオキシブチル〕およびこれらのアクリレートに対応するメタクリレートやビニルリン酸、フィチン酸などが挙げることができる。これらの中でも焼結時にリン酸基以外の部位が分解、除去されるものが好適に用いられる。さらに好適には、立体障害等によりリン酸基同士が接近しすぎない点から、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェートがより好ましい。
【0026】
原料紛体における(b1)有機リン酸の含有量は、(a)マトリックス金属酸化物粉末100質量部に対し、リン酸基の総量が10ミリモル~100ミリモルとなる量である必要がある。ここで、リン酸基とは、前記したとおりの、リン酸から誘導される酸性基であるホスフィン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸水素モノエステル基、リン酸二水素モノエステル基などの広義のリン酸基を意味する。リン酸基量が10ミリモルより少ない含有量の場合には、十分な切削加工性が得られにくい。また、リン酸基量が100ミリモルより多い含有量の場合には、焼結後も細孔が残り十分な強度が得られない可能性がある。(a)マトリックス金属酸化物粉末100質量部に対するリン酸基の総量は、15ミリモル~75ミリモルであることが好ましい。
【0027】
3.(b2)アルミニウム・ランタノイド塩
本発明では、(b2)金属塩として、前記リン酸金属塩(B)以外の金属塩であって、金属カチオンとしてアルミニウムカチオン及び又はランタノイド金属カチオンを含む金属塩(アルミニウム・ランタノイド塩)を使用する。当該(b2)金属塩は接触時もしくは高温時に前記(b1)有機リン酸と反応し、高温にて(b1)有機リン酸の有機物部分が除去され、(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩を生成する。
【0028】
該金属塩としては、アルミニウム・ランタノイドリン酸塩以外の塩であって、金属カチオンとしてアルミニウムカチオン及び/又はランタノイド金属カチオンを含み、且つ接触時もしくは高温時に(b1)有機リン酸と反応して(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩を生成する金属塩であれば特に限定されず、無機アニオン塩、有機アニオン塩の何れであってもよい。無機アニオン塩を具体的に例示すると、硝酸塩、塩化物塩、臭化物塩、臭素酸塩、塩素酸塩、ヨウ化物塩、過酸化物塩、炭酸塩などを挙げることができ、有機アニオン塩を具体的に例示すると、酢酸塩、イソプロポキシド塩、エトキシ塩、クロラニル塩、アセチルアセトナト塩などを挙げることができる。これらの中でも溶解性の観点から無機アニオン塩が好ましく、さらに焼結時にアニオン部が分解、除去され易い点から硝酸塩が特に好適に用いられる。好適に使用できる(b2)金属塩を例示すれば硝酸ランタン六水和物、硝酸アルミニウム九水和物等を挙げることができる。
【0029】
(b2)アルミニウム・ランタノイド塩の含有量は、(b1)有機リン酸に含まれるリン酸基の総当量(総モル×イオン価数)に対し、金属塩の総当量(総モル×イオン価数)が0.9倍当量~1.1倍当量となる量である必要がある。0.9倍当量未満の場合には、有機リン酸が過剰となり、過剰分の有機リン酸を焼結することでリン酸化物やリンが生成する可能性があり、色調等に影響する可能性がある。また、1.1倍当量を越える場合には、焼結後に金属酸化物が生成し、色調等に影響する可能性がある。(b2)金属塩の含有量は、上記倍当量で表して、0.95倍当量~1.05倍等量であることが好ましい。
【0030】
4.バインダー等
原料紛体には、(a)マトリックス金属酸化物粉末、(b1)有機リン酸及び(b2)アルミニウム・ランタノイド塩以外の成分として、バインダー成分を添加してもよい。バインダー成分の添加の有無は、焼結体の成形方法等に応じて適宜選択することができる。バインダー成分を添加する場合、例えばアクリル系バインダーやオレフィン系バインダー、ワックス等を使用することができる。
【0031】
さらに、原料紛体には、流動性向上等を目的として、強度や外観の審美性に影響を及ぼさない範囲で混合粉体の粒径と比較し十分に小さい粒径のフィラーを配合することが可能であり、例えばシリカなどを配合することができる。
【0032】
5.調製方法
原料紛体は、各成分を秤量し、これらを混合することにより容易に調製できる。混合方法は、乾式方法、湿式方法のどちらでもよいが、より均一に混合できるという観点から湿式方法を採用することが好ましい。湿式方法で用いる溶媒としては、例えば、水、エタノール等のアルコール類、アセトン等公知のものが使用可能であるが、安全性及び溶媒除去の容易性の観点から水もしくはアルコール類を使用することが好ましい。
【0033】
湿式方法にて混合した場合には、溶媒の乾燥時にオーブン等で溶媒を除去するだけでなく、原料紛体調製工程において造粒を行ってもよい。たとえば、スプレードライヤー等を用いて造粒工程を行いながら乾燥してもよい。
【0034】
<成型工程>
成型工程では、前記原料紛体組成物を用いて所定形状の圧縮成形体又はグリーン体を得る。このとき成形方法は、原料として前記原料紛体組成物を用いる以外は、従来の紛体原料を用いて焼結或いは仮焼前のミルブランク用成型体を得る従来の方法と特に変わる点は無く、プレス成形、押出成形、射出成形、鋳込成形、テープ成形、積層造形による成形、粉末造形による成形、光造形による成形等、紛体成形法或いはグリーン体成型法として知られている方法が特に制限なく使用できる。また、多段階的な成形を施してもよい。例えば、本発明の焼結用原料粉体組成物を一軸プレス成形した後に、さらにCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を施したものでもよい。また、成形工程において、複数種の混合粉末を積層し成形してもよい。
【0035】
成型工程で得られる圧縮成形体又はグリーン体の形状は、目的とするミルブランクの形状に応じて適宜決定すればよいが、通常は円盤状のもの(ディスクタイプ)、或いは直方体又は略直方体形状のもの(ブロックタイプ)などが一般的である。
【0036】
<焼結工程>
焼結工程では、前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃~1800℃の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に、600℃~1800℃の焼結温度で焼結する。
1.脱脂及び/又は仮焼処理
本発明の方法では、焼結工程における焼結を行う前に脱脂及び/又は仮焼処理を行うこともできる。ここで、脱脂処理とは、前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体に含まれる水分、溶媒、バインダーなどを揮発除去或いは分解除去する処理を意味し、仮焼処理とは加工しやすい強度まで向上させる処理を意味する。これら処理は、通常、100℃以上、1100℃以下であって且つ焼結温度よりも低い温度で行われる。
【0037】
脱脂及び/又は仮焼処理の方法としては、従来から知られている方法が特に制限されず使用でき、連続的に行っても、多段階的に行ってもよい。また、有機物を効率的に除去するため、酸素を含む空気雰囲気下で行うことが好ましい。なお、脱脂及び/又は仮焼処理は、その前工程である成形工程及び/又はその後に行われる焼結と同一の装置を用いた方法、例えばSPS(放電プラズマ焼結:Spark Plasma Sintering)法やHP(ホットプレス)法等により、連続的に行うこともできる。
【0038】
2.焼結
焼結工程では、前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃~1800℃の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に、600℃~1800℃の焼結温度で焼結する。ここで、焼結(焼成或いは焼き締めとも呼ばれる。)とは、その温度(或いは温度範囲)で一定時間保持して、圧縮成形体又はグリーン体をマトリックス金属酸化物の融点以下の温度に加熱して、粉末粒子を互いに表面拡散(凝着、融着)させて多結晶体に変化させることを意味し、焼結温度とは、その温度(或いは一定の温度範囲内)に一定時間保持して、所望の程度に焼結を進行させる温度(或いは温度範囲)をいう。焼結温度が600℃未満の場合には、緻密化が不十分で焼結体の密度は低くなり、強度も低くなり、切削加工に適さないものとなってしまう。また、1800℃より高い場合には、粒成長が進みすぎることにより強度が低下する可能性がある。
【0039】
当該焼結も、前記原料紛体組成物を用いた成型体を上記焼結温度で焼結する以外、従来から知られているマトリックス金属酸化物粉末の焼結と特に変わる点はないが、(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩を効率的に生成させると共にその結晶成長が進み過ぎないようにするために、空気中で、焼結温度を1250℃~1600℃とし、この温度で30分~4時間保持するようにして行うことが好ましい。
【0040】
<歯科加工用ミルブランク及び歯科用補綴物の製造方法>
1.一段階法(再焼結不要なミルブランクを用いた製造方法)
本発明の方法によれば、焼結工程における焼結温度を、たとえば1100℃を越え1800℃以下と、高い温度とすることにより、前記特許文献2に開示されるような、CAD/CAMによる切削加工が容易で、且つ当該切削加工後に更なる焼結処理が特に必要のないミルブロックである、マトリックス金属酸化物の粒子の焼結体からなるマトリックス中に、前記(B)のアルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶が分散した複合セラミックからなる歯科加工用ミルブランクを効率よく製造することができる。しかも、当該歯科加工用ミルブランクを用いたCAD/CAMシステムで製造した歯科用補綴物は、外観に斑模様がなく審美性に優れたものとなる。
【0041】
このような歯科加工用ミルブランクは、前記マトリックス中に(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩からなる微細相、具体的には、非晶質及び/又は結晶質の前記(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩からなり、走査型電子顕微鏡による観察で決定される前記(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶子径が600nm未満である微細相が分散した複合セラミックからなるものであり、1250℃を越え1800℃以下の温度で焼結されたものとしては、これまで知られていないものである。なお、上記歯科加工用ミルブランクは、焼結温度が上記範囲であることに起因して、より低温で焼結されたものと比較して、緻密化が進み、密度及び強度が高くなっている。
【0042】
なお、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で決定される前記(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶子径とは、次のようにして決定された値である。すなわち、SEMにより観察される前記(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の粒子が球状又は略球状である場合には、SEM観察画面において無作為に抽出した100個の結晶体粒子の最大径である一次結晶子径(Xi)を測定し、測定値に基づき下記式1により平均結晶子径を算出することにより決定された値を意味する。また、SEMにより観察される前記(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の粒子が不定形の場合には、最大径を一次結晶子径(Xi)とみなし、球状の場合と同様に下記式1により平均結晶子径を算出することにより決定された値を意味する。なお、歯科加工用ミルブランクのSEM観察画面において、リン酸ランタノイドおよびリン酸アルミニウムの各結晶体の確認は、反射電子像における組成表示を用いることによって行われる。
【0043】
【数1】
【0044】
一段階法で歯科用補綴物を製造する場合に、歯科加工用ミルブランクとしては、本発明の製造方法で製造するに際し、焼結工程における焼結温度を、1100℃を越え1800℃以下としたものを用いることが好ましく、高密度化による強度の向上および透明性向上の観点から1300℃~1550℃で焼結したもの用いることが特に好ましい。また、CAD/CAMシステムを用いた切削加工は、再焼結による収縮を考慮しなくてよい点を除いて、従来の方法と特に変わる点は無い。
【0045】
2.二段階法(再焼結が必要なミルブランクを用いた製造方法)
本発明の方法によれば、焼結工程における焼結温度を、たとえば600℃~1100℃と、比較的低くすることにより、CAD/CAMによる切削加工に再焼結処理は必要なものの、CAD/CAMによる切削加工が更に容易で再焼結処理時における収縮も比較的小さな歯科加工用ミルブランクを効率よく製造することができる。しかも、当該歯科加工用ミルブランクをCAD/CAMによる切削加工して得られた歯科用補綴物半製品を更なる高強度化を目的として1250℃を越えるような温度で再焼結した場合であっても、最終的に得られる歯科用補綴物は、前記マトリックス中に(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩からなる微細相、具体的には、非晶質及び/又は結晶質の前記(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩からなり、走査型電子顕微鏡による観察で決定される前記(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶子径が600nm未満である微細相が分散した複合セラミックからなるものであり、外観に斑模様がなく審美性に優れたものとなる。
【0046】
二段階法で歯科用補綴物を製造する場合に、歯科加工用ミルブランクとしては、本発明の製造方法で製造するに際し、焼結工程における焼結温度を、600℃~1100℃としたものを用いることが好ましく、900℃~1100℃としたものを用いることがより好ましい。また、CAD/CAMシステムを用いた切削加工は、従来の方法と特に変わる点は無い。さらに、歯科用補綴物半製品を完全焼結して歯科用補綴物を得るときの完全焼結温度は1100℃~1800℃、特に1300℃~1550℃とすることが好ましい。
【実施例
【0047】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。以下に、各実施例および比較例のサンプルの作製に用いた物質の略称・略号およびその構造式または物質名と、各種サンプルの調整方法と、各種の評価方法とについて説明する。
【0048】
<歯科加工用ミルブランクの原材料>
1.(a)マトリックス金属酸化物粉末
・Zpex4:東ソー株式会社製ジルコニア、平均一次粒径90nm、イットリア含有量3.9mol%
・TZ-6Y:東ソー株式会社製ジルコニア、平均一次粒径40nm、イットリア含有量6mol%
・AHP200:日本軽金属株式会社製アルミナ、平均一次粒子径400nm
・KM101:共立マテリアル株式会社製ムライト、平均一次粒子径1.9μm
・SN-1:タテホ化学工業株式会社製スピネル、平均一次粒子径360nm。
【0049】
2.(b1)有機リン酸
・MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート):ミヨシ油脂株式会社製、分子量=322、1分子当たりのリン酸基数1
・PM2(ビス(2-メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート):共栄社化学株式会社製、分子量=322、1分子当たりのリン酸基数1
・ビニルリン酸:シグマアルドリッチ社製、分子量=108、1分子当たりのリン酸基数1
・フィチン酸:東京化成工業株式会社製、分子量=660、50%水溶液、1分子当たりのリン酸基数6

【0050】
3.(b1)以外の無機リン酸及び有機酸化合物
・オルトリン酸:富士フィルム和光純薬株式会社製、分子量=98、重量パーセント75%、1分子当たりのリン酸基数1
・CB-1(2-メタクリロイロキシエチルフタル酸):新中村化学工業株式会社製、分子量=278、有機酸基数1。
【0051】
4.(b2)アルミニウム・ランタノイド塩
・硝酸ランタン6水和物:La(NO・6HO、富士フィルム和光純薬株式会社製、分子量=433、1molあたりの金属イオン1mol。
【0052】
5.(b2)以外の金属塩
・炭酸ナトリウム:NaCO、富士フィルム和光純薬株式会社製、分子量=106、1molあたりの金属イオン2mol。
【0053】
6.溶媒等
・エタノール:富士フィルム和光純薬株式会社製
・蒸留水:富士フィルム和光純薬株式会社製。
【0054】
<焼結体の評価方法>
(1)焼結体外観目視評価
厚さ1mmの焼結体の外観に斑模様が見えるかを目視にて確認した。判断基準を以下に示す。
○:蛍光灯越しに観察した際に斑模様が見えない。
×:蛍光灯越しに観察した際に斑模様が見える。
【0055】
(2)焼結後のアルミニウム・ランタノイドリン酸塩の平均結晶子径評価
走査型電子顕微鏡(SEM)「S-3400N」(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、焼結後のアルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶体の平均結晶子径を算出した。平均結晶子径は、SEM観察画面において無作為に抽出した100個の結晶体粒子の平均径を算出した。なお、歯科加工ミルブランクのSEM観察画面において、アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の各結晶体の確認は、反射電子像における組成表示を用いることによって行った。
【0056】
(3)切削性評価
ダイヤモンドポイントHP 形態25(株式会社松風製)を用い、焼結体の側面に対し垂直に水冷下10000rpm(ユーティリオ(株式会社モリタ製))で切削を行い、5秒後の切削の深さを測定した。
【0057】
実施例1
原料紛体組成物の製造: 硝酸ランタン6水和物9.9gとエタノール100gを秤量、混合し硝酸ランタン溶液を得た。MDP13.6gとエタノール40gを秤量、混合しMDP溶液を得た。Zpex4 100gをエタノール900gに分散させた分散液に、硝酸ランタン溶液およびMDP溶液を加え、2時間混合した。その後、エバポレーターにて溶媒除去後、真空乾燥機にて50℃15時間乾燥することで原料紛体組成物の製造を行った。
焼結体の製造: 得られた原料紛体組成物1gを直径16mmのプレス用金型を用いて、最大荷重1tで一軸プレスすることにより円盤状の成形体を得た。その後、成形体を株式会社モトヤマ製の電気炉「スーパーバーン」を用いて、1450℃、2時間の条件で焼結させ、焼結体を得た。得られた焼結体の評価結果を表3に示す。
【0058】
実施例2~14
原料紛体組成物の原料及び量を表1に示すように変える他は実施例1と同様にして原料紛体組成物を製造し、得られた原料紛体組成物を用い、焼結条件を表1に示すように変える他は実施例1と同様にして焼結体を製造し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0059】
比較例1
硝酸ランタン6水和物27.8gとエタノール300gを秤量、混合し硝酸ランタン溶液を得た。また、オルトリン酸7.8gとエタノール300gを秤量、混合しリン酸溶液を得た。硝酸ランタン溶液に、リン酸溶液を攪拌下混合した。混合直後に水溶液は白濁し、リン酸ランタン溶液を得た。得られた混合物を、遠心分離機を用いて固液分離した。沈降物にエタノール900gを加え、1時間混合し、遠心分離により固液分離を行った。同様の操作を2回行った後、沈降物を50℃、24時間の条件で乾燥させ、リン酸ランタン粉末を得た。得られた粉末10.0gとZpex4 100gおよびエタノール300gを秤量、2時間混合し、遠心分離により固液分離を行い、沈降物を50℃、24時間の条件で乾燥させて原料紛体組成物を調製した。
得られた原料紛体組成物を用い、実施例1と同様にして焼結体を製造し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0060】
比較例2~10
原料紛体組成物の原料及び量を表2に示すように変える他は実施例1と同様にして原料紛体組成物を製造し、得られた原料紛体組成物を用い、焼結条件を表2に示すように変える他は実施例1と同様にして焼結体を製造し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0061】
比較例11
炭酸ナトリウム6.7gと蒸留水100gを秤量、混合し炭酸ナトリウム水溶液を得た、MDP13.6gとエタノール40gを秤量、混合しMDP溶液を得た。Zpex4 100gをエタノール900gに分散させた分散液に、炭酸ナトリウム水溶液およびMDP溶液を加え、2時間混合した。その後、エバポレーターにて溶媒除去後、真空乾燥機にて50℃15時間乾燥することで原料紛体組成物を調製した。
得られた原料紛体組成物を用い、焼結条件を表2に示すように変える他は実施例1と同様にして焼結体を製造し、その評価を行った。結果を表3に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
実施例1~14の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満たしていると、焼結体の外観に斑模様が見られず審美性に優れ且つ切削性にも優れる歯科加工用ミルブランクが得られることが分かる。
【0066】
比較例1および2の結果から理解されるように、一度単離したリン酸ランタン粉体の添加およびリン酸と硝酸ランタンの添加では、焼結後に切削性は得られるものの、リン酸ランタンの凝集体が生成し焼結時に粒成長するため、焼結後の結晶子径が大きくなり外観に斑模様が発現する。
【0067】
比較例3および11の結果から理解されるように、原料紛体組成物が(b2)アルミニウム・ランタノイド塩を含まない場合には、焼結体の外観に斑模様は発現しないものの、焼結体中に(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩が含まれないため切削性が乏しい。
【0068】
比較例4の結果から理解されるように、原料紛体組成物中の(b1)有機リン酸の含有量が本発明で規定する条件よりも少ない場合には、焼結体中の(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の量が少ないために切削性が乏しい。
【0069】
比較例5の結果から理解されるように、原料紛体組成物中の(b1)有機リン酸の含有量が本発明で規定する条件よりも多い場合には、焼結体中の(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の量が多くなり過ぎ、粒成長も進むために斑模様が発現する。
【0070】
比較例6の結果から理解されるように、原料紛体組成物中の(b2)アルミニウム・ランタノイド塩の含有量が本発明で規定する条件よりも少ない場合には、焼結体中にリン酸化物等が生成し、斑模様が発現する。一方、比較例7の結果から理解されるように、原料紛体組成物中の(b2)アルミニウム・ランタノイド塩の含有量が本発明で規定する条件よりも多い場合には、焼結体中に酸化ランタンが生成し、斑模様が発現する。
【0071】
比較例8の結果から理解されるように、焼結温度が高すぎる場合には、粒成長が進むために外観に斑模様が発現する。一方、比較例9の結果から理解されるように、焼結温度が低すぎる場合には、焼結体が十分な強度を有さず、切削時に崩れる。
【0072】
また、比較例10の結果から理解されるように、原料紛体組成物が(b1)有機リン酸を含まない場合には、焼結体の外観に斑模様は発現しないものの焼結体中に(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩が含まれないため切削性が乏しい。