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特許7422997粉液型義歯床用裏装材及び義歯床用裏装材調製用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】粉液型義歯床用裏装材及び義歯床用裏装材調製用キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/30 20200101AFI20240122BHJP
【FI】
A61K6/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020019641
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2020164504
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2019062511
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】本田 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】人見 美希
(72)【発明者】
【氏名】品川 裕作
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達矢
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174461(JP,A)
【文献】特開2009-179612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
A61C 1/00-19/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非架橋樹脂紛体、ラジカル重合性単量体、及びラジカル重合開始剤が、前記非架橋樹脂紛体を含む粉末状の粉材と、前記ラジカル重合性単量体を含む液状の液材と、に分包された粉液型義歯床用裏装材において、
前記粉材に含まれる前記非架橋樹脂紛体は、150μm以上の粒子を含まず、d10が1.8μm以上、50μm以下であり、d90が30μm以上、140μm以下で且つd10よりも20μm以上大きい、粒度分布を有し、
前記非架橋樹脂紛体がポリエチルメタクリレート紛体、ポリメチルメタクリレート紛体、及びメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体の紛体を含む混合紛体であり、当該混合紛体に占める前記エチルメタクリレート紛体の割合が55質量%以上、100質量%以下である、
ことを特徴とする前記粉液型義歯床用裏装材。
【請求項2】
前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物とアミン化合物との組み合わせ及び/又はα-ジケトンと還元剤との組み合わせからなり、前記有機過酸化物及び/又はα-ジケトンが前記粉材に含まれ、前記アミン化合物及び/又は還元剤が前記液剤に含まれる、請求項1に記載の粉液型義歯床用裏装材。
【請求項3】
前記粉材に含まれる前記ラジカル重合性単量体の分子量が150以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉液型義歯床用裏装材。
【請求項4】
請求項1乃至の何れかに記載の粉液型義歯床用裏装材を用いて義歯床用裏装材を調製するための義歯床用裏装材調製用キットであって、
前記粉材と、前記液材と、シーラント材からなる内層と外装材からなる外層とを少なくとも含むヒートシール性積層フィルムで構成される、矩形又は略矩形の表裏一対の主面を有する袋体と、を含み、
前記袋体は、前記表裏一対の主面の全ての周縁辺部がヒートシールされて気密且つ液密に封止されると共に、一対の互いに対向する周縁辺部間に設けられた弱化シール部により、その内部が2室に分割されており、
前記粉材は前記2室の内の一方の室内に気密に封入され、前記液材は他方の室内に気密且つ液密に封入されており、
前記キットの使用時において、前記袋体に押圧力を付加することにより前記弱化シール部を破断して、前記粉材と前記液材を混合可能とした、
ことを特徴とする前記義歯床用裏装材調製用キット。
【請求項5】
前記弱化シール部のシール強度が3(N/15mm)以上、20(N/15mm)以下であることを特徴とする請求項に記載の義歯床用裏装材調製用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混和性、操作性が良好であり、且つ硬化後の表面性状が良好な粉液型義歯床用裏装材、及び当該粉液型義歯床用裏装材を用いた義歯床用裏装材調製用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
義歯床用裏装材は、長期間の使用により患者の口腔粘膜に適合しなくなった義歯を補修し、再度使用できる状態に修正するための材料である。一般的に、粉液型の義歯床用裏装材は、ラジカル重合性単量体を主成分とした液状の液材と、非架橋樹脂粒子を主成分とした粉末状の粉材から構成され、両者を混合させた後、ラジカル重合開始剤が作用して硬化させる機構となっている。ラジカル重合開始剤としては、一般に化学重合開始剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等が使用され、使用するラジカル重合開始剤の種類によって化学重合タイプ、光重合タイプ、熱重合タイプ、更にはこれらを複数組み合わせたデュアルキュアタイプに分類される。これらラジカル重合開始剤は、前記液材及び前記粉材が夫々独立して安定に保管できるようにするために基本的には前記粉材に配合されるが、多成分系のラジカル重合開始剤を使用する場合には、一部成分を液材に配合することもある。
【0003】
前記粉液型の義歯床用裏装材は、粉材と液材を混ぜペーストを得(ペースト調製)、得られたペーストを義歯上に盛り付け、口腔粘膜との適合を図った後に最終硬化させて使用されるものであり、混合開始から最終硬化までの粘度の経時変化が裏装操作に適している点が大きな利点となっている。
【0004】
すなわち、裏装操作は、義歯床に、上記ペーストを盛り付けて(築盛工程)から患者の口腔内に挿入して前記ペーストを賦形し(賦形工程)、その後、口腔外に取り出してから必要に応じて(たとえばアンダーカットがある等、そのまま硬化させると取り外せなくなる恐れがある時には)形状の調整(形状調整工程)を行ってから最終的に硬化させる(硬化工程)という手順で行われる。粉液型の義歯床用裏装材を用いた場合には、粉材中の非架橋樹脂粒子は、液材に可溶であるため、粉材と液材を混合すると粉材と液材が馴染んで、先ず「高流動なペースト」となり、その後、粉材中の非架橋樹脂粒子が液材中のラジカル重合性単量体で膨潤しながら該ラジカル重合性単量体中に徐々に溶解して、上記築盛工程に適した「塑性変形するモチ状の状態」になり、上記賦形操作中に更に上記膨潤・溶解が進行して「塑性変形しない硬さを有する状態」となる。このため、塑性変形により患者口腔内の形状に適合させる賦形が容易で、且つ賦形後の形状を良好に保つことができるばかりでなく、更に、必要に応じて行われる調整も容易に行うことができる。
【0005】
ところで、一般的な粉液型義歯床用裏装材では、粉材と液材を混合する操作は、歯科医師等の術者が粉材と液材を所定量取り分け、それらを混和カップに入れ、術者がヘラや撹拌棒等を手にとって混練することにより行われている(特許文献1参照)。
【0006】
一方、計量(秤量)の手間を省き、また混練時の気泡や埃などの混入を抑制するために、粉液型義歯床用裏装材をキット化する技術も知られている。すなわち、特許文献2には、「袋本体を複数に区画して密閉された複数の収容室を形成し、各収容室同士間には各収容室を仕切る弱化部を形成し、該弱化部を前記袋本体へ付加する押圧力によって破断可能に形成し、前記弱化部の破断後は各収容室を連通させて、これらの収容室内に収容された内容物を、1つの収容室内に集めて混合可能にした調剤収容袋おいて、前記複数の収容室には、有機高分子を含む粉材と、該粉材を溶解させるとともに該粉材と協働してペースト状に変化する液材とからなる歯科粉液材料を、粉材と液材とで各収容室に別々に収容し、前記歯科粉液材料は、粉材が低級アルキル(メタ)アクリレート系重合体の粉体を含み、液材がモノマーを含み、さらに、これら粉材と液材の少なくとも一方には重合開始剤を含み、少なくともいずれか1つの収容室に空気が混入され、常温における空気の容積が、各収容室内に収容された内容物を集めて混合するための収容室の容積に対して15~40%の範囲であり、前記弱化部の破断後にペースト状に変化する粉材と液材とを、前記袋本体の表面を介して押圧可能になるよう前記袋本体を形成し、前記ペースト状に変化する粉材と液材の最終形態が硬化体となることを特徴とする歯科粉液材料入り調剤収容袋」が記載されている。
【0007】
そして、特許文献2によると、上記調剤収容袋を用いることにより「外部空気との接触が制限されることによる気泡混入の低減・巻き込み空気量の減少による内部重合率の向上を図ることができ、さらには、粒子間隙に保持された空気も、混合時の袋本体表面を介しての押圧力により、ペースト状に変位する原料から押し出すことができる。この空気抜きをすることによって、調剤された内容物の品質の向上を図ることができる」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2018/016602号パンフレット
【文献】特許第6297791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献2に記載された調剤収容袋は、粉液型義歯床用裏装材を用いて義歯床用裏装材を調製するためのキットであるといえ、秤量の手間を省き、また混練時の気泡や埃などの混入を抑制するものとして優れたものである。 しかし、粉材と液材の混和は、袋体の内部で、当該袋体の外側を指で押し込むようにして行うため、義歯床に築盛可能なペーストとするために1分~5分程度の混合時間が必要となる。そして、混合に時間を要することで、混和の不均一化が起こり、粉材と液材の一部が馴染み混合され、一部は混合されていないままという不均一な状態になることがあった。そして、このような不均一化したペーストにおいては、混合が不十分な部分を混合している間にも粘度上昇が起こり、前記築盛工程~形状調整工程に使用可能な時間が短くなってしまうことがあるという問題があることが明らかとなった。
【0010】
また、前記特許文献2では、前記弱化部に関しては、袋本体の周縁部の熱溶着よりも低い溶着力で熱溶着することにより形成される旨の説明があるものの、具体的な強度は不明であった。本発明者等が前記弱化部(熱溶着により形成される弱化部を、以下、「弱化シール部」という。)の溶着力(シール強度)について検討を行ったところ、使用上特に問題ないと思われるシール強度とした場合であっても、輸送時や保管時の取り扱いにおいて、長時間の振動や落下等の衝撃により前記弱化部が破断することがあることが判明した。すなわち、調剤収容袋の弱化シール部のシール強度については、輸送時の破断を防止できる強度と、使用時に容易に破断できる強度のバランスをとることが必要になる。
【0011】
そこで、本発明は、前記特許文献2に記載されたようなキット(調剤収容袋)として使用した場合であっても、短時間で均一なペーストを得ることができる粉液型義歯床用裏装材を提供すること、このような粉液型義歯床用裏装材を用いた義歯床用裏装材調製用キットを提供すること、を第一の目的とし、当該目的を達成する義歯床用裏装材調製用キットの弱化シール部のシール強度を、上記バランスが取れたものとすることを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、非架橋樹脂紛体、ラジカル重合性単量体、及びラジカル重合開始剤が、前記非架橋樹脂紛体を含む粉末状の粉材と、前記ラジカル重合性単量体を含む液状の液材と、に分包された粉液型義歯床用裏装材において、前記粉材に含まれる前記非架橋樹脂紛体は、150μm以上の粒子を含まず、d10が1.8μm以上、50μm以下であり、d90が30μm以上、140μm以下で且つd10よりも20μm以上大きい、粒度分布を有し、前記非架橋樹脂紛体がポリエチルメタクリレート紛体、ポリメチルメタクリレート紛体、及びメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体の紛体を含む混合紛体であり、当該混合紛体に占める前記エチルメタクリレート紛体の割合が55質量%以上、100質量%以下である、ことを特徴とする前記粉液型義歯床用裏装材である。

【0013】
上記粉液型義歯床用裏装材においては、前記ラジカル重合開始剤が有機過酸化物とアミン化合物との組み合わせ及び/又はα-ジケトンと還元剤との組み合わせからなり、前記有機過酸化物及び/又はα-ジケトンが前記粉材に含まれ、前記アミン化合物及び/又は還元剤が前記液剤に含まれる、ことが好ましい。に、前記粉材に含まれる前記ラジカル重合性単量体の分子量が150以上であることが好ましい。

【0014】
本発明の第二の形態は、前記本発明の第一の形態である粉液型義歯床用裏装材を用いて義歯床用裏装材を調製するための義歯床用裏装材調製用キットであって、前記粉材と、前記液材と、シーラント材からなる内層と、外装材からなる外層とを少なくとも含むヒートシール性積層フィルムで構成される、矩形又は略矩形の表裏一対の主面を有する袋体と、を含み、前記袋体は、前記表裏一対の主面の全ての周縁辺部がヒートシールされて気密且つ液密に封止されると共に、一対の互いに対向する周縁辺部間に設けられた弱化シール部により、その内部が2室に分割されており、前記粉材は前記2室の内の一方の室内に気密に封入され、前記液材は他方の室内に気密且つ液密に封入されており、前記キットの使用時において、前記袋体に押圧力を付加することにより前記弱化シール部を破断して、前記粉材と前記液材を混合可能としたことを特徴とする前記義歯床用裏装材調製用キットである。
【0015】
上記義歯床用裏装材調製用キットにおいては、前記弱化シール部のシール強度が3(N/15mm)以上、20(N/15mm)以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粉液型義歯床用裏装材は、混和後の粘度上昇の経時変化が義歯床裏装操作に適しているという従来の粉液型義歯床用裏装材の特長を保持したまま、粉材と液材との馴染み易さが改善され、短時間の混和で均一なペーストが得られるという特長を有する。しかも、硬化後の表面性状は、良好であり、特に高度な研磨を行うことなく義歯床の裏装を行うことが可能となる。
【0017】
また、本発明の義歯床用裏装材調製用キットは、前記特許文献2に記載されたキット(調剤収容袋)と同様に、計量(秤量)の手間を省き、また混練時の気泡や埃などの混入を抑制することができるばかりでなく、本発明の粉液型義歯床用裏装材を使用することにより、混和条件に前記したような制限があるにもかかわらず、混和時間を短縮でき、しかも、ペーストの不均一化やそれに伴う増粘速度アップによる操作時間の短縮といった問題の発生を回避することができる。さらに、弱化シール部の強度を3(N/15mm)以上、20(N/15mm)以下とすることで、輸送時等には破断せず、使用時は容易に破断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態における義歯床用裏装材調製用キットの平面図である。
図2】本発明の実施形態における義歯床用裏装材調製用キットの斜視図である。
図3】本発明の実施形態における義歯床用裏装材調製用キットの使用手順を示し、液材収容室を押圧して弱化部を破断している状態の平面図である。
図4】本発明の実施形態における義歯床用裏装材調製用キットの使用手順を示し、手により、袋体の表面を押圧している状態の斜視図である。
図5】本発明の実施形態における義歯床用裏装材調製用キットの使用手順を示し、混和用器具により、袋体の表面を押圧している状態の斜視図である。
図6】本発明の実施形態における義歯床用裏装材調製用キットの使用手順を示し、ペースト状になった義歯床用裏装材を袋体から取出している状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、本発明者等の検討により得られた次のような知見に基づき成されたものである。すなわち、本発明者等は、前記した不均一化の問題を解決すべく検討を行ったところ、粉材の粒子径を大きくすることで、粉材と液材の馴染みが向上し、不均一化を防止することができるようになるが、この場合には、硬化体表面にざらつきを生じるという新たな問題があることが判明した。硬化体表面のざらつきは、患者の義歯装着感を悪化させ、汚れ付着の原因ともなるため、好ましくないものであり、これを除くためには硬化後の仕上げの研磨をより高度に行う必要がある。そこで、粉材の成分及び粒度分布に着目し、更に検討を行った結果、硬化体表面のざらつきの発生を防止しながら混和性の向上を図ることに成功し、本発明の粉液型義歯床用裏装材を得ると共に、これを特定の袋体に収容してキット化することにより本発明の義歯床用裏装材調製用キットを得るに至ったものである。
【0020】
以下、本発明の粉液型義歯床用裏装材及び、本発明の義歯床用裏装材調製用キットについて詳しく説明する。
なお、以下、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」並びに「(メタ)アクリレート」との用語は、夫々、「アクリル系」及び「メタクリル系」、並びに「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味する。
【0021】
1.本発明の粉液型義歯床用裏装材
本発明の粉液型義歯床用裏装材は、非架橋樹脂紛体、ラジカル重合性単量体、及びラジカル重合開始剤が、前記非架橋樹脂紛体を含む粉末状の粉材と、前記ラジカル重合性単量体を含む液状の液材と、に分包された粉液型義歯床用裏装材において、前記粉材に含まれる前記非架橋樹脂紛体は、150μm以上の粒子を含まず、d10が1.8~50μmであり、d90が30~140μmで且つd10よりも20μm以上大きい、粒度分布を有することを特徴とする。
【0022】
ここで、d10及びd90とは、夫々10%粒子径及び90%粒子径とも呼ばれ、レーザー回折法、具体的にはMie散乱理論に基づくレーザー回折・散乱式粒子径分布装置を用いて測定される測定される粒度分布における体積基準での10パーセンタイル値及び90パーセンタイル値(積算%の分布曲線が、夫々10%及び90%の横軸と交差するポイントの粒子径)を意味する。
【0023】
本発明の粉液型義歯床用裏装材は、前記非架橋樹脂紛体を含む粉末状の粉材と、前記ラジカル重合性単量体を含む液状の液材と、に分包される点、及び使用時においてこれら粉材及び液材を混合して、非架橋樹脂紛体、ラジカル重合性単量体、及びラジカル重合開始剤を含む義歯床用裏装材を調製する点は、従来の粉液型義歯床用裏装材(たとえば特許文献1や特許文献2に記載された粉液型義歯床用裏装材)と同様である。たとえば、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性単量体のみならず、非架橋樹脂紛体を構成する非架橋樹脂自体は、これら特許文献に開示されているようなものが特に制限なく使用できる。これらを含めて、本発明で使用する各材及びその成分(原材料)について、以下に説明する。
【0024】
<粉材及び液材>
本発明の粉液型義歯床用裏装材を構成する2つの材の一方である粉材は、非架橋樹脂紛体を含む。
【0025】
粉材を構成する主成分は(A)非架橋樹脂粒子である。ここで主成分とは、粉材全体における(A)非架橋樹脂粒子の含有量が80質量%以上、好ましくは90質量%以上であることを意味する。
【0026】
もう一方の材である液材は、ラジカル重合性単量体を主成分とする。ここで主成分とは、液材全体に占めるラジカル重合性単量体の含有量が80質量%以上、好ましくは90質量%以上であることを意味する。
【0027】
粉材と液材とを混合(又は混和)するときの比率である混合比は、通常、〔粉材(g)/液材(ml)〕で表される。当該混合比も従来の粉液型義歯床用裏装材と特に変わる点は無く、一般的な値、すなわち、粉材(g)/液材(ml)=0.3/1~4.5/1が採用される。好ましい混合比は、粉材(g)/液材(ml)=0.8/1~3.5/1であり、より好ましい混合比は、粉材(g)/液材(ml)=1.3/1~3/1である。
【0028】
以下、各材で使用される各成分について説明する。
【0029】
<非架橋樹脂紛体>
非架橋樹脂紛体は、粉材の主成分であり、後述する液材の主成分であるラジカル重合性単量体に可溶な非架橋樹脂からなる紛体をいう。具体的には、液材のラジカル重合性単量体に対する溶解性は、23℃のラジカル重合性単量体100質量部に非架橋樹脂紛体200質量部を混合して攪拌した際に、10質量部以上の当該非架橋樹脂紛体が溶解する紛体を意味する。粉材と液材を混合した際に、斯様な非架橋樹脂紛体を構成する粒子の少なくとも一部が、液材に溶解し、且つ溶解残滓の粒子は膨潤することにより混合物は増粘し、ラジカル重合性単量体の重合性が促進される。併せて、この成分の溶解残滓の粒子は、義歯床用裏装材の硬化体の靱性を高める作用も有する。
【0030】
非架橋樹脂として、好適に使用できるものを例示すれば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体等の(メタ)アクリレート類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリスチレン類等を例示できる。このうち、硬化体が高靱性である観点から、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体等の、低級(アルキル鎖の炭素数が4以下)アルキル(メタ)アクリレート系重合性単量体の重合体がより好ましく、これらは単独で使用してもよく2種類以上を併用してもよい。
【0031】
非架橋樹脂紛体を構成するこれら非架橋樹脂のGPC(Gel Permeation Chromatography)法による重量平均分子量は得られる硬化体の機械的強度やラジカル重合性単量体成分への溶解性や膨潤等を勘案すると、3~200万の範囲であることが好ましく、5~150万の範囲であることが特に好ましい。尚、非架橋樹脂粒子の形状は特に限定されず、球状、異形若しくは不定形でもよい。
【0032】
本発明においては、液の主成分であるラジカル重合性単量体との溶解性が良好で粘度上昇の発現が適度であると言う理由から、非架橋樹脂紛体としては、ポリエチルメタクリレート紛体、ポリメチルメタクリレート紛体、及びメチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体の紛体を含む混合紛体を使用し、当該混合紛体に占める前記エチルメタクリレート紛体の割合55質量%~100質量%、好ましくは75質量%~100質量%とする。

【0033】
本発明においては、非架橋樹脂紛体として、150μm以上の粒子を含まず、d10が1.8μm~50μmであり、d90が30μm~140μmで且つd10よりも20μm以上大きい、粒度分布を有する紛体を使用する必要がある。ここで、粒子を含まないというのは、上記レーザー解析・散乱式粒子径分布装置による測定で、上述した各粒子径以上の領域に体積頻度が1以下であることをいう。
【0034】
150μm以上の粒子を有すると、硬化後の表面性状にざらつきを生じ、仕上げの研磨作業に時間を要する、若しくは患者の義歯装着感が悪化する、該ざらつきにより汚れが付着し易くなる等の問題が生じる。また、d10が1.8μm未満の場合、及び/又はd90が30μm未満の場合には、粉材と液材の馴染みが悪く混合に要する時間が大きくなる。また、ラジカル重合性単量体成分への溶解が早くなりすぎ、粘度上昇が早くなりすぎてしまう。更に、d10が50μmを超える場合、及び/又はd90が140μmを超える場合には、粉材と液材の馴染みは早いものの、非架橋樹脂のラジカル重合性単量体への溶解があまり進行しないため、粘度上昇が遅くなり、患者の口腔内に挿入するまで(賦形工程に移るまで)に時間がかかりすぎてしまう。また、d90とd10との差(d90-d10)が20μm未満のものは、混和性が低く、また、混和後に所望の粘度挙動(経時変化)を得るのが困難となる。
【0035】
効果の観点からは、125μm以上の粒子、特に100μm以上の粒子を含まず、d10=2.5~30μm、d90=40~95μm、d90-d10≧25μmの粒度分布を有するものを使用することが好ましい。
【0036】
このような粒度分布は、混合紛体について分級処理を行う、或いは(必要に応じて分級を行うとことによって)所定の粒度分布を有する各原料紛体を適宜混合すること等により、得ることができる。
【0037】
本発明の粉液型義歯床用裏装材における前記非架橋樹脂紛体の配合量は、液材のラジカル重合性単量体100質量部当り、通常、30~450質量部であるが、80~350質量部とすることが好ましく、130~300質量部とすることがより好ましい。
【0038】
<ラジカル重合開始剤>
前記したように、前記液材及び前記粉材が夫々独立して安定に保管できるようにするために基本的には前記粉材に配合されるが、多成分系のラジカル重合開始剤を使用する場合には、一部成分を液材に配合することもある。
【0039】
本発明の粉液型義歯床用裏装材の粉材に配合されるラジカル重合開始剤としては、液材のラジカル重合性単量体を重合、硬化させることができるものであれば特に制限なく使用可能である。例えば、歯科分野で用いられるラジカル重合開始剤としては、化学重合開始剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等があるが、口腔内で硬化させることを考慮すると、化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤が好ましい。
【0040】
化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。このような化学重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物、又は有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩からなるレドックス型の化学重合開始剤;酸と反応して重合を開始する有機金属型の化学重合開始剤;及びピリミジントリオン誘導体/有機金属化合物/ハロゲン化合物からなる化学重合開始剤等が挙げられる。その中でも有機過酸化物/アミン化合物系のものが代表的であり、アミン化合物は重合助触媒として作用し、両者が混合されたときにラジカル重合開始剤として機能する。したがって、両者が同時に液材に配合されることは無く、通常は、有機過酸化物は粉材に、アミン化合物は液材に、分けて配合される。
【0041】
上記有機過酸化物と第3級アミン化合物の組合せのうち、好適なものを具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド/N,N-ジエチル-p-トルイジン、ベンゾイルパーオキサイド/N,N-ジプロピル-p-トルイジン、BPO/p-トリルジエタノールアミン、ベンゾイルパーオキサイド/p-トリルジプロパノールアミン等の組合せが挙げられる。中でも、第3級アミン化合物をラジカル重合性単量体と混合した状態で長期保存が必要となる場合には、保存安定性の観点からベンゾイルパーオキサイド/N, N-ジエチル-p-トルイジン、ベンゾイルパーオキサイド/N,N-ジプロピル-p-トルイジンの組合せが最も好ましい。
【0042】
なお、有機過酸化物の好適な使用量は、通常、液材のラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.1~10質量部であり、0.35~7質量部、特に0.5~5質量部であることが好ましい。また、第3級アミン化合物の使用量は前記ラジカル系重合性単量体100質量部に対して、通常、0.05~5質量部であり、好ましくは0.1~3質量部の範囲である。
【0043】
光重合開始剤としてはα-ジケトン-還元剤、ケタール-還元剤、チオキサントン-還元剤などの開始剤系が好ましく用いられる。α-ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジル、2,3-ペンタジオン、3,4-ヘプタジオンなどを挙げることができる。ケタールとしてはベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2-メトキシエチルケタール)などを挙げることができる。チオキサントンとしてはチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントンなどを挙げることができる。光重合開始剤の一成分としての還元剤は、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などを挙げることができる。
【0044】
これら光重合開始剤は、ラジカル重合性単量体100質量部に対して、通常、0.05~5質量部、好ましくは0.1~3質量部の範囲で配合される。
【0045】
なお、口腔外で重合硬化させる場合等には、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物、又は2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等からなる熱重合開始剤も使用可能である。
【0046】
本発明の粉液型義歯床用裏装材をデュアルキュア型にする場合には、上述した化学重合開始剤、光重合開始剤、熱重合開始剤を組み合わせばよい。その中でも、上記化学重合開始剤とカンファーキノン等のα-ジケトン類及びジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等のアミンの組み合わせからなる、又はビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド誘導体からなる光重合開始剤の併用が、操作性、及び機械的強度の観点から好適である。
【0047】
<ラジカル重合性単量体>
本発明の粉液型義歯床用裏装材の液材で使用するラジカル重合性単量体としては、歯科用として使用可能なラジカル重合性単量体が特に制限なく使用することができるが、重合性のよさ等から、(メタ)アクリレート系重合性単量体が好適に使用される。
【0048】
(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、歯科用に一般的に使用される公知の化合物が特に制限されず使用され、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート等の低分子量の(メタ)アクリレート系重合性単量体を使用することもできるが、高い機械的強度と低刺激材料である観点から、分子量が150以上、より好適には180以上のラジカル重合性単量体を含有させるのが好ましい。
【0049】
単官能のものとして、分子量が150以上の好ましい(メタ)アクリレート系重合性単量体を具体的に例示すると、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
このうち、分子量が180以上のより好適な(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
また、ラジカル重合性単量体は、上記単官能のものを単独で使用してもよく、多官能重合体単量体と組み併せてもよい。多官能重合性単量体としては、2官能、3官能、4官能の重合性単量体が挙げられる。
【0052】
2官能のものとして、分子量が180以上の(メタ)アクリレート系重合性単量体を具体的に例示すると、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
3官能のものとして、分子量が180以上の(メタ)アクリレート系重合性単量体を具体的に例示すると、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
4官能のものとして、分子量が180以上の(メタ)アクリレート系重合性単量体を具体的に例示すると、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
<その他成分>
本発明の粉液型の義歯床用裏装材には、前記成分の他にも必要に応じて、後述する各成分を配合してもよい。
【0056】
粉材の流動性を改良したり、得られる硬化体の諸物性及び操作性をコントロールしたりするために、無機フィラーおよび有機フィラー(架橋樹脂粒子);義歯の色調や質感を再現するために、色素、顔料、繊維等を配合することができる。これらは通常粉材に配合され、その合計の配合量は、ラジカル重合性単量体100質量部に対して10質量部以下に抑えるのが好ましく、6質量部以下に抑えるのが特に好ましい。
【0057】
また、液材には得られる硬化体の硬さや諸物性をコントロールするために、エタノール、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のアルコール又は可塑剤;ラジカル重合性単量体の保存安定性の向上や硬化時間の調整、発熱温度の抑制、変色の抑制のために、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤;2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、テルペノイド系化合物等の重合調整剤;4-メトキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-(2-ベンゾトリアゾール)-p-クレゾール等の紫外線吸収剤;臭気の抑制やマスキングのために香料等を配合することができる。これらは通常液材に配合され、液材全体の20質量%以下、好ましくは10質量%以下に抑えることが特に好ましい。
【0058】
<各材の調製方法、保管方法及び混合方法>
粉材及び液材は、各々所定量の配合成分を計り取り、揺動ミキサー等の混練器又は混合器を用いて均一の性状になるまで混合することにより調製される。製造した粉材及び液材は各々容器に保存しておけばよい。保存に際しては、各材をボトルなどの比較的内容量の大きな容器内に保存し、使用時にこれら容器から夫々1回分の使用量に相当する量を計り取り、混合するようにしても良いし、1回分の使用量毎に小分けして保管し、使用時に当該小分けされた各材を容器から取り出して混合するようにしても良い。
【0059】
この際の混合(混錬)は、使用直前に、ラバーカップ等に所望の量の液材及び粉材を量りとり、練和棒或いはヘラ等を用いて均一なペーストになるまで練和することが一般的であるが、計量(秤量)の手間を省き、また混練時の気泡や埃などの混入を抑制するために、1回分の使用量毎に小分けして保管と共に、これら小分けされたものをキット化することが好ましく、本発明の義歯床用裏装材調製用キットとすることが特に好ましい。
【0060】
2.本発明の義歯床用裏装材調製用キット
本発明の義歯床用裏装材調製用キットは、本発明の粉液型義歯床用裏装材を用いて義歯床用裏装材を調製するためのキットであり、前記粉材と、前記液材と、シーラント材からなる内層と外装材からなる外層とを少なくとも含むヒートシール性積層フィルムで構成される、矩形又は略矩形の表裏一対の主面を有する袋体と、を含み、前記袋体は、前記表裏一対の主面の全ての周縁辺部がヒートシールされて気密且つ液密に封止されると共に、一対の互いに対向する周縁辺部間に設けられた弱化シール部により、その内部が2室に分割されており、前記粉材は前記2室の内の一方の室内に気密に封入され、前記液材は他方の室内に気密且つ液密に封入されており、前記キットの使用時において、前記袋体に押圧力を付加することにより前記弱化シール部を破断して、前記粉材と前記液材を混合可能としたことを特徴とする。
【0061】
なお、本発明のキットにおいては、輸送時や保管時の取り扱いにおいて、長時間の振動や落下等の衝撃により前記弱化シール部が破断し難く、使用時は容易に破断することができると言う観点から、前記弱化シール部のシール強度が3~20(N/15mm)、特に5~10(N/15mm)であることが好ましい。ここで、シール強度とは、JISZ1707に基づき、一端をヒートシールした試料から幅15mmの試験片を切り取ることにより得られた試験片について測定されるシール強度(単位:N/15mm、又はN/15mm幅)を意味する。
【0062】
以下、図面を参照しながら本発明のキットについて説明する。
【0063】
図1及び図2は、本発明の実施形態による義歯床用裏装材調製用キット1を示す。
【0064】
義歯床用裏装材調製用キット1は袋体2から形成され、当該袋体2は、シーラント材からなる内層と外装材からなる外層とを少なくとも含むヒートシール性積層フィルムで構成される、矩形又は略矩形の表裏一対の主面を有する。本実施形態では上記主面の形状は長方形状である。ヒートシール性積層フィルムの内層は、シーラント材となる加熱融着性の高い(ヒートシール性を有する)樹脂、例えばエチレン、メタクリル酸アクリル酸エステルの共重合物のアイオノマーを主成分とするポリマーアロイとポリエチレンの混合物で構成される。また、外層は、加熱融着性の低い(ヒートシール性を有しない)樹脂、無機材料又は両者の複合体からなり、内部に収容される材に応じて、その保存安定性を高める等の目的で、酸素ガス遮蔽性(酸素ガス不透過性)、紫外線遮蔽性などの機能を付与する素材や、内容物の存在が確認できるような透明性や、外側表面への印刷性を高める素材などが適宜選択される。また、より機能性を高めるために内側層と外側層の間に中間層を設けることもできる。ヒートシール性積層フィルムの厚さは、好ましくは40~200μmである。
【0065】
袋体2における前記表裏一対の主面の各周縁部5は、所定の幅でヒートシール(熱溶着)されて気密且つ液密に封止されている。この周縁部5(すなわち、長方形の4辺:5a~5dに対応する)のヒートシール部については、その押圧力に抗して破断されない強度を有する。また、上記周縁部5(長方形の4辺)のうちの一対の互いに対向する周縁辺部(図では5b及び5c)間に設けられた弱化シール部7(以下、「仕切壁7」ともいう。)により、その内部が2室に分割されており、前記粉材8は前記2室の内の一方の室である粉材収容室3の内部に気密に封入され、前記液材9は他方の室である液材収容室4の内部に気密且つ液密に封入されている。そして、上記弱化シール部7は、例えば、その幅を狭くする等して、袋体2に押圧力を付加すると、破断される強度となるように形成される。こうすることにより前記キット1の使用時において、前記袋体2に押圧力を付加することにより前記弱化シール部7を破断して、前記粉材と前記液材を混合可能としている。なお、前記弱化シール部7のシール強度は、前記した理由により、3~20(N/15mm)、特に5~10(N/15mm)とすることが好ましい。また、前記収容室3、4は四角形が好ましいが、混合に支障がない範囲で他の形状を用いることも可能である。また混合効率向上のため隅角部分を丸く加工することも可能である。
【0066】
義歯床用裏装材調製用キット1の形成手順を例示すれば以下のとおりである。2枚のフィルムを重ね合わせ、若しくは1枚のシートを折り畳んで2層のフィルムとする。フィルムが連続シートであるならば、1つの袋体2に対応する大きさにカットし、左右側辺5b,5cと下辺5d及び仕切壁7を熱溶着する。そして、この時点で開口されている袋体2の上辺5aから粉材収容室3に所望量の粉材8を収容し、同じく上辺5aから液材収容室4に所望量の液材9を収容する。本実施形態では、粉材収容室3及び(又は)液材収容室4に所定量の空気を混入させてから、袋体2の上辺5aを熱溶着する。したがって、袋体2の周囲全体が密閉され、さらに仕切壁7も密閉性を維持するので、各収容室3及び4が互いに密閉状態で形成される。
【0067】
図3に示すように、歯科医師等は義歯床用裏装材調製用キット1を手にとって、液材9を収容している側の収容室4を両手の親指と人指し指との間に挟み込むようにして把持する。そして、収容室4の液材9が収容室3側に押し込むようにして押圧する。すると、収容室4の押し込みによる液材9の液圧と含まれている空気の空圧で、弱化部である仕切壁7の全体又は一部が破断される。仕切壁7が破断されると液材9は、粉材8に吸収されるようにして浸透する。
【0068】
そして、図4に示すように歯科医師等は手を用いて、袋体2の表面(表面、裏面、表裏両面を含む)を押圧し、混和を行うか、図5に示すように混和用器具により、袋体2の表面(表面、裏面、表裏両面を含む)を押圧し、混和を行う。
【0069】
粉材8と液材9とが混和されて調製されたペースト状の本発明の義歯床用裏装材10は、溶解作用等により、流動性の高いスラリー状となり、更なる溶解の進行、化学重合タイプの場合は、化学反応の進行等により徐々に粘度が上昇しペースト状になる。
【0070】
この押圧作業による混和は、従来行われている混練や撹拌と異なり、ペースト状義歯床用裏装材に空気を巻き込むことがなく、反対にペースト状義歯床用裏装材に含まれている空気の気泡を外部へ押出す効果も発揮される。
【0071】
図6に示すように、歯科医師等は、混和が終了したところで、袋体2のいずれかの部分を切断し、袋体2からペースト状の本発明の義歯床用裏装材10を押出すようにして取出す。袋体2から取出されたペースト状の本発明の義歯床用裏装材10は、所望の形状に形成され、最終的に患部で硬化するか、または可塑剤の作用により弾性体になる。
【0072】
そして、本発明の義歯床裏装材は、非架橋樹脂紛体の持つ粒度分布特性により、粉材と液材の馴染みが良く、該調剤袋に収容された場合の混和性が向上する。
【実施例
【0073】
次に、本発明に関する実施例、比較例について説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0074】
1.原材料について
実施例及び比較例で使用した原材料の略号、称号を以下に示す。
【0075】
(A)非架橋樹脂紛体
・PEMA1:球状ポリエチルメタクリレート粒子からなる紛体(体積平均粒子径35μm、重量平均分子量50万)
・PEMA2:球状ポリエチルメタクリレート粒子からなる紛体(体積平均粒子径10μm、重合平均分子量50万)
・PEMA3:球状ポリエチルメタクリレート粒子からなる紛体(体積平均粒子径70μm、重合平均分子量100万)
・PMMA-EMA1:球状(メチルメタクリレート-エチルメタクリレート)(体積平均粒子径40μm、重合平均分子量100万、共重合体組成50/50)粒子からなる紛体
・PMMA-EMA2:球状(メチルメタクリレート-エチルメタクリレート)(体積平均粒子径95μm、重合平均分子量100万、共重合体組成50/50)粒子からなる紛体。
【0076】
(B)ラジカル重合開始剤
有機過酸化物
・BPO:ベンゾイルパーオキサイド
・CQ:カンファーキノン
第3級アミン(芳香族アミン化合物)
・DMPT:N,N-ジメチル-p-トルイジン
・DEPT:p-トリルジエタノールアミン
・DMBE:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル。
【0077】
(C)ラジカル重合性単量体
・AAEM:アセトアセトキシエチルメタクリレート(分子量214)
・HPR:2-(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート(分子量186)
・ND:1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート(分子量296)
・MMA:メチルメタクリレート(分子量100)。
【0078】
2.実施例及び比較例中で使用した粉材及び液材の調製方法について以下に説明する。
【0079】
[粉材の調製]
(A)非架橋樹脂紛体及び(B)ラジカル重合開始剤の有機過酸化物、α-ジケトンを表1及び表3(これら表中、各原料の欄の数値は、質量部を表す。)に示す量(質量部)を量りとり、揺動ミキサーにて3時間混合して粉材を調製した。参考までに、粉材として使用した(A)非架橋樹脂紛体全体の質量部に占めるポリエチルメタクリレートの質量部の割合(質量%)を表1及び表3中の「EMA率」の欄に示す。
【0080】
粉材として使用した(A)非架橋樹脂紛体の粒度分布は、使用する非架橋樹脂紛体の種類と組成(配合割合)によって変化する。また、篩により分級によっても制御することができる。実施例10及び11は、篩分級により粒度分布を行った例であり、表1の分級欄に示す数値の目開き径を有する篩を用いて分級処理を行っている。各実施例及び比較例で粉材として使用した(A)非架橋樹脂紛体について、次に示すような方法で粒度分布を測定した結果を表2及び表4の「粒度分布情報」の欄に示す。
【0081】
粒度分布に関しては、各実施例及び比較例で粉材として使用した(A)非架橋樹脂紛体の粉末をMie散乱理論に基づく、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置(LS230、ベックマンコールター社製)により測定することにより確認した。具体的には水:エタノールを70:30の体積比で混合した溶媒を分散媒として使用し、LS230の操作手順に従い、粒子径(d10、d90)ならびに粒度分布を測定した。得られたデータは体積基準で取扱った。なお、パラメーターとして使用する粒子の屈折率は、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体のいずれも1.49であった。
【0082】
評価項目である、d10及びd90は、測定により得られた積算%の分布曲線において横軸がそれぞれ10%及び90%のときの粒子径である10%径(d10)及び90%径(d90)を意味する。また、100μm以上の粗大粒子の含有状況を評価(確認)するために、体積基準で粒度分布データから105.9μm、127.6μm、及び153.8μmにおける体積頻度の割合を読み取った。100μm以上の粒子については、粒度分布は、粒径が増大するに従い体積頻度の割合は単調(常に)に減少していたので、該当粒子径の欄の数値が0%であれば当該欄の粒子径より大きい粒子径は存在しないことになる。
【0083】
[液材の調製]
(C)ラジカル重合性単量体及び(B)ラジカル重合開始剤の第3級アミンを、表1及び表3(これら表中、各原料の欄の数値は、質量部を表す。)示す量(質量部)を量りとり、3時間攪拌混合して液材を調製した。
【0084】
本実施例、比較例中の義歯床用裏装材調製用キットの製造方法について示す。
【0085】
実施例1~14及び比較例1~4
上記した方法で調製された粉材及び液材を、以下に示す方法で調剤収容袋に収容することで義歯床用裏装材調製用キットを得た。
すなわち、最内層にポリエチレンのイージーピール層を有する積層フィルム(厚み120μm)を100mm×70mmに2枚切り出した。その後、周縁部5b、5c、5dを5mm幅のヒートシーラーを用いて、150℃で2秒間の熱融着を行った。次いで、粉材収容室3と液材収容室4の大きさが3.5:1の割合になるように、弱化シール部7を所定の温度(実施例1~15及び比較例1~5は100℃、後述の表5及び表6に示す温度)で2秒間の熱融着を行った。次いで、粉材収容室3に上記粉材を3.6g、液材収容室4に上記液を2.1g充填した。最後に、粉材収容室3及び液材収容室4に表2、表4に示す空隙率となる量の空気を混入させてから、周縁部5aを150℃で2秒間の熱融着を行い、図1に示す義歯床用裏装材調製用キットを得た。
【0086】
ここで、空隙率とは、液材を送り込んで粉材と混和する粉材収容室3の内容積(cc)に対する空隙量(cc)の割合を意味し、下記式で決定される値である。
空隙率(%)=空隙量/粉材収容室3の内容積×100
上記式における空隙量(cc)は、下記式に示されるように、予め測定しておいた粉材収容室3の内容積(cc)から混入される粉材及び液材の体積の合計を差し引いた体積(cc)で決定した。なお、粉材体積は粉材の重量を嵩密度で割った(粉材重量/嵩密度)値であり、液材体積は液材の重量を液比重で割った(液材重量/液比重)値である。
空隙量=収容室3の内容積-(粉材体積+液材体積) 。
【0087】
このようにして得られた義歯床用裏装材調製用キットを用いて粉材と液材を混和した(当該キットを用いた混和方法を、混和方法:Xとする。)。具体的には、液材を収容した液材収容室を両手の親指と人指し指との間に挟み込むようにして把持した後、液材収容室の液材を、粉材を収容した収容室側に押し込むようにして押圧して調剤収容袋の弱化シール部を破断した。その後、親指と人差し指によって、調剤袋本体表面を押すようにして、押圧力を加え、混和を行った。なお、混和直前の左右の掌の指部分の手の温度を放射温度計(株式会社カスタム社製IR-302)を用いて各1回ずつ測定し、その平均値が29℃未満であることを確認した。
【0088】
このときの「混和性」、得られたペーストの「垂れ性」、硬化体表面における「ざらつき」及び「気泡混入状況」を以下に示す方法で評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0089】
[混和性の評価方法]
義歯床用裏装材調製用キットの調剤収容袋(袋体)における弱化シール部を破断してから、二成分系歯科材料の二成分が全て均一に混ざるまでの時間を求め、これを混和時間とし、混和性を評価した。
【0090】
手混和における混和時間を以下の4つの基準にわけ評価を行った。
【0091】
1:15秒以内に混和が完了した
2:20秒以内に混和が完了した
3:30秒以内に混和が完了した
4:31秒以上混和に時間を要した。若しくは二成分系歯科材料が完全に混ざらなかった。
【0092】
混和時間は短い程、粉材と液材の馴染みが良く、良好な混和性であることを示す。そのため上記数値が小さいほど良好な混和性であることを示す。
【0093】
手混和における混和時間は30秒以内であることが好ましく、20秒以内であることがより好ましく、15秒以内で混和できることが最も好ましい。
【0094】
[垂れ性の評価方法]
混和後のペースト粘度上昇の指標となるペーストの流動性を「垂れ」として、次のように評価した。すなわち、混和終了後、混和物を0.5mL採取し、ガラス板上に貼り付けたプラスチックシート上に0.5mL吐出し、混和開始から1分後にガラス板を垂直に立て、5分間静置させた。その後、混和物が広がり、得られたペーストの長さを測り、3回測定の平均値を求め、垂れとした。
【0095】
混和が終了した後の粘度が低くペースト流動性が高いと垂れは大きくなり、その後に続く粘度上昇も遅くなる。反対に混和終了した後の粘度が高くペースト流動性が低いとと垂れは小さくなり、その後に続く粘度上昇は早くなる。
【0096】
上記垂れは、30~100mmであることが好ましく、40~80mmであることが最も好ましい。垂れが30mm未満だと粘度上昇が早すぎ次操作を行う時間が十分に確保できない。一方100mmより大きいと粘度上昇が遅すぎ、次操作を行うまで長い時間待たなければならない等の不具合を生じる。
【0097】
[硬化体表面のざらつきの評価方法]
硬化体の表面性状の指標となる「硬化体表面のざらつき」を次のように評価した。すなわち、混和終了後、混和物をプラスチックフィルム上に吐出した。その後、混和開始から3分30秒後に、ヘラを用いて混和物を引き延ばした後、硬化させた。尚、硬化の仕方は使用するラジカル重合開始剤により異なり、化学重合触媒では37℃インキュベーターで30分放置することで、光重合触媒では歯科技工用光重合装置αライトV(MORITA社製)を用いて465~475nmの活性光(光出力密度100mW/cm)を5分間照射することで硬化を行った。得られた硬化体の性状を以下の4つの基準により、評価を行った。なお、数値が小さい方が、評価が高い。
【0098】
1:目視で表面性状が滑らかである。
2:目視でざらつきが確認できるが、その頻度は低い(硬化体面積の半分未満)。
3:目視でざらつきが確認でき、その頻度も高い(硬化体面積の半分以上)。
4:目視でざらつきが全体的に確認され、触ると凹凸が明らかにわかる。
【0099】
[硬化体表面における気泡混入状況の評価]
6mmφ×1mmの硬化体の表面に確認される気泡、及び微小の気泡の存在によって生じる空隙、または白化領域を拡大鏡にて観察し、全体に占める面積の割合を求めた。なお、該硬化体を作製する際にはいずれの混ぜ方においても、粉に対して液がいきわたったのを確認後、さらに5秒間混和して上記の大きさの穴を有するモールド等に適量を流し入れた。圧接しない状態で静置、硬化後、耐水研磨紙(800番)で表面を平面にした。気泡の混入具合を下記4段階の基準を用いて「気泡混入」を評価した。なお、気泡の少ない方が、評価が高い。
【0100】
A:気泡が10%未満
B:気泡が10%以上~20%未満
C:気泡が20%以上~30%未満
D:気泡が30%以上。
【0101】
実施例15
組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により粉材及び液材を調製した。次いで、混和カップ内へ粉材3.6gと液材2.1gを計量し、ヘラを用いて開放状態で混和を行った(当該混和方法を、混和方法:Yとする)。




【0102】
【表1】





【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
実施例1~15は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合されたものであるが、いずれの場合においても、混和時間が短いことから混和性が良好であり、垂れが好適な値を示すことから粘度上昇といった操作性にも優れる。且つ硬化後のざらつきも良好な表面性状となった。
【0107】
また、実施例5、6は本発明の最適な配合で得た粉液型の義歯床用裏装材であり、評価した全ての項目で高い評価結果を得た。
これに対し、比較例1は、非架橋樹脂粒子のd10、d90値が小さく本発明に満たない。そのため、混和性が不良であり、垂れの値も小さい。
比較例2は、(A)非架橋樹脂紛体の粒度分布にて、150μm以上の領域に粒子が存在している。そのため、硬化後の表面のざらつきが不良である。
比較例3は、(A)非架橋樹脂紛体のd10、d90値が大さく本発明に満たない。また、粒度分布にて、150μm以上の領域に粒子が存在している。そのため、混和性は良好であるものの垂れが大きく、粘度上昇が遅い。また、硬化後の表面のざらつきが不良である。
比較例4は、(B)ラジカル重合開始剤が未配合であり本発明に満たない。そのため、重合が進行せず、未硬化のままである。
【0108】
実施例16~20
表1に示した実施例6と同じ組成で粉材、液材を調製した。その後、弱化シール部を形成時のヒートシール条件を表5に示す条件に変更して熱融着する以外は同様にして義歯床用裏装材調製用キットを得、次のようにして、「弱化シール部の強度」の評価、「落下試験」及び「官能試験」を行った。評価結果を表5に示す。なお、実施例20は、弱化シール部のシール強度が好適な範囲から外れる実施例である。
【0109】
[弱化シール部の強度評価方法]
製造された義歯床用裏装材調製用キットを23℃環境下で24時間保管した後に周辺部5aをハサミで切り取り、粉材収容袋粉と液材収容袋から上記粉材と液材を抜き取り、弱化シール部7からJISZ1707に準拠するように幅15mmの試験片を切り出した。なお、試験片の数は、調剤収容袋のサイズ(5b、5c=70mm)の都合上、切り出すことが可能な3つとした。試験片に付着した粉材および液材は溶剤を使用せずに拭き取り、試験片の準備を完了した。次に上記試験片を、島津小型卓上試験機(EZ-TEST CE、(株)島津製作所)を用いて、引っ張り速度300mm/min、23℃の環境下で、フィルム同士のヒートシール面に対して180℃の方向に引っ張り、試験片のフィルム間を剥離させ、剥離強度の最大値を測定した。そして、上記3つの試験片の剥離強度の最大値の平均値を弱化シール部7の強度(単位:N/15mm)とした。
【0110】
[落下試験方法]
箱詰めされた義歯床用裏装材調製用キットにおける調剤収容袋の弱化シール部が、輸送時の衝撃で破断するか、耐衝撃性について評価を行った。すなわち、義歯床用裏装材調製用キットを製造後、23℃環境下で24時間保管した後に高さ1m位置から床置きした段ボール箱に連続10回落下させて、調剤収容袋の弱化シール部が破断しているか確認を行った。試験は10個の調剤収容袋に対して実施し、破断した数を評価した。
【0111】
[官能試験方法]
義歯床用裏装材調製用キット使用時における調剤収容袋の弱化シール部の破断の容易さについて評価を行った。製造後23℃環境下で24時間保管した義歯床用裏装材調製用キットについて、異なる3人の試験者が前記混和方法Xと同様に操作した際の、弱化シール部の破断の容易さについて以下の判定基準に従い評価を行った。
【0112】
1:容易に弱化シール部を破断できる
2:弱化シール部を破断することができる
3:弱化シール部が硬く、破断ができない
破断の容易さは、使用時の操作の容易さを示す。そのため値が小さいほど容易に破断ができることを示す。
【0113】
【表5】
【0114】
実施例16~19は、何れの項目についても良好な評価結果となっている。これに対し、弱化シール部のシール強度が好適な範囲の下限を下回る実施例20については、落下試験結果が6/10となっており、乱暴な取り扱いがなされない限り実用上問題となるレベルではないもの、若干低めの評価となっている。
【符号の説明】
【0115】
1 調剤収容袋
2 袋本体
4 液材収容室
5 周縁部
7 弱化シール部(仕切壁)
8 粉材
9 液材
図1
図2
図3
図4
図5
図6