(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】レーザー記録用樹脂組成物、レーザー記録用インキ組成物、成形物、積層体、及び印刷体
(51)【国際特許分類】
B41M 5/26 20060101AFI20240122BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20240122BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B41M5/26
C09D11/037
B32B27/30 B
(21)【出願番号】P 2020120700
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000167842
【氏名又は名称】広陵化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】中西 勝
(72)【発明者】
【氏名】井奥 祐輔
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-522631(JP,A)
【文献】特開2019-010822(JP,A)
【文献】特開2005-162913(JP,A)
【文献】特開2019-026841(JP,A)
【文献】特表2007-500090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/26
C09D 11/037
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐衝撃性ポリスチレン樹脂及びモリブデン酸アンモニウムを含有す
るレーザー記録用樹脂組成物
の成形物に黒色印字がなされた印刷体を含む、生物学的検体の検査キット。
【請求項2】
前記成形物が傾斜面を有する請求項
1に記載の
生物学的検体の検査キット。
【請求項3】
耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材と、前記基材上に位置するレーザー印字層とを含む積層体であって、前記レーザー印字層が、モリブデン酸アンモニウムを含有す
るレーザー記録用インキ組成物
の固化物であることを特徴とする積層体。
【請求項4】
積層体が傾斜面を有し、前記傾斜面にレーザー印字層を備えることを特徴とする請求項
3に記載の積層体。
【請求項5】
請求項
3又は4に記載の積層体のレーザー印字層に黒色印字がなされた印刷体。
【請求項6】
耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材の表面に、
前記レーザー記録用インキ組成物を塗布した後に固化することにより、レーザー印字層を形成する工程、及び前記レーザー印字層にレーザー光を照射することで黒色印字を行う工程、
を含む
、請求項5に記載の印刷体の製造方法。
【請求項7】
請求項
5に記載の印刷体を含む、生物学的検体の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー記録用樹脂組成物、レーザー記録用インキ組成物、成形物、積層体、及び印刷体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙やプラスチック成形物、金属成形物等の被印刷体に印刷する方法として、パット印刷が採用されていた。パット印刷とは、パターンがエッチングされた版(平板)にインキを充填した後、版にパットを押し付けることによりインキをパットに転移させ、さらに、被印刷体にパットを押し付ける(印圧を加える)ことで印刷する方法である。パットには、例えばシリコーンゴムのような、インキに対して反親和性のものが使用され、溶剤が媒体となってパットにインキが付着する。そして、被印刷体への印圧の間に溶剤が揮発することによってパットからパターンが剥がれ、パターンが被印刷体に転写されることで印刷が完了する。
【0003】
パット印刷を行う場合、(1)「欠け」、すなわち、得られる印刷パターンの一部にインキが転移しない部分が発生するという問題、(2)「にじみ」、すなわち、所望の印刷パターンより線が太くなる状態や、輪郭がはっきりしない状態が発生するという問題、(3)「ひげ」、すなわち、印刷パターン周辺にインキが糸状に散乱している状態が発生するという問題、(4)「ピンホール」、すなわち、インキに小さな気泡が生じ、これにより印刷パターンに穴が生じるという問題が生じることがある。
【0004】
上記のようなパット印刷の問題は、使用するインキや溶剤の種類、又は印圧の条件を変更することで解決が可能な場合もあるが、被印刷体の大きさや形状、又は材質が原因となって問題が生じる場合は、パット印刷以外の手法を採用せざるを得ない。例えば、被印刷体が小さく、その形状が複雑である場合は、印刷すべき部分にパットが十分に触れることができないため、欠けやにじみ等の問題が生じ易くなる。
【0005】
パット印刷以外の印刷方法として、レーザー印刷が知られている。レーザー印刷は被印刷体にレーザー光を照射し、その表面に酸化や変色を施すことにより印字する方法である。例えば、発色剤を含む組成物(以下、「レーザー記録用インキ組成物」と称する)を被印刷体の表面に塗布した後、レーザー光を照射することにより印刷を行うという方法が知られている(特許文献1を参照)。また、発色剤と樹脂とを含む組成物(以下、「レーザー記録用樹脂組成物」と称する)を、射出成形等により固化した後、レーザー光を照射することにより印刷を行うという方法も知られている。レーザー印刷はパット印刷と比較すると、被印刷体が小さく、その形状が複雑である場合、例えば、被印刷体が傾斜面を有する凹凸形状を有している場合であっても、精密な印字が可能である傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レーザー印刷であっても、被印刷体の材質が原因となって、印刷が不十分となることがある。例えば、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)からなる基材に対して印刷を行う際は、その理由は明らかでないものの、従来のレーザー記録用インキ組成物を使用すると所望する色彩を得ることができないことがあった。具体的には、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材上に、従来の発色剤を含むレーザー記録用インキ組成物を塗布し、固化した後、レーザー照射にて黒色印字を試みても、はっきりとした黒色が現れず、くすんだ灰色となることや、印字の輪郭に「にじみ」が生じるという問題があった。また、レーザー記録用樹脂組成物に従来の発色剤を配合し、成形することで得られた成形物に対し、レーザー照射にて黒色印字を試みた場合であっても同様の問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、成形した後に、その表面にレーザー照射を行うことにより、「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることが可能なレーザー記録用樹脂組成物を提供することにある。また、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)からなる基材に対して適用した場合であっても、その表面に「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることが可能なレーザー記録用インキ組成物を提供することにある。さらに、本発明の目的は、その表面に「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字をなすことが可能な成形物及び積層体、並びに黒色印字がなされた印刷体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、モリブデン酸アンモニウムを発色剤として使用することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明では、耐衝撃性ポリスチレン樹脂及びモリブデン酸アンモニウムを含有することを特徴とするレーザー記録用樹脂組成物を提供する。
【0011】
また、本発明では、レーザー記録用樹脂組成物の成形物についても提供する。
【0012】
上記成形物は、傾斜面を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明では、上記成形物の傾斜面に黒色印字がなされた印刷体についても提供する。
【0014】
また、本発明では、レーザー記録用樹脂組成物を成形して成形物を作製する工程、及び
得られた成形物にレーザー光を照射することで黒色印字を行う工程、
を含む印刷体の製造方法についても提供する。
【0015】
上記印刷体の製造方法においては、成形物が傾斜面を有し、前記傾斜面にレーザー光を照射することで黒色印字を行うことが好ましい。
【0016】
また、本発明では、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材への塗布に用いられる、モリブデン酸アンモニウムを含有することを特徴とするレーザー記録用インキ組成物についても提供する。
【0017】
また、本発明では、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材と、基材上に位置するレーザー印字層とを含む積層体であって、レーザー印字層が上記レーザー記録用インキ組成物の固化物である積層体についても提供する。
【0018】
上記積層体は、傾斜面を有し、上記傾斜面にレーザー印字層を備えることが好ましい。
【0019】
また、本発明では、上記積層体のレーザー印字層に黒色印字がなされた印刷体についても提供する。
【0020】
また、本発明では、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材の表面に、上記レーザー記録用インキ組成物を塗布した後に固化することにより、レーザー印字層を形成する工程、及び
上記レーザー印字層にレーザー光を照射することで黒色印字を行う工程、
を含む印刷体の製造方法についても提供する。
【0021】
また、本発明では、上記印刷体を含む生物学的検体の検査キットについても提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のレーザー記録用樹脂組成物は、その成形物にレーザー照射を行うことにより、「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることが可能である。また、本発明の成形物は、その表面に「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字がなされている。また、本発明のレーザー記録用インキ組成物は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材に適用した場合であっても、レーザー光を照射することにより、その表面に「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の成形物(印刷体)である。1は凹形状を示し、2はその内側に傾斜する傾斜面を示す。
【
図2】(a)は凹形状の拡大図である。(b)は凹形状の短方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一態様であるレーザー記録用樹脂組成物は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂及びモリブデン酸アンモニウムを含むことを特徴とする。また、本発明の他の態様である成形物は、上記レーザー記録用樹脂組成物の成形物であることを特徴とする。本発明の他の態様であるレーザー記録用インキ組成物は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材に塗布し、必要に応じて固化することにより用いられるものであって、モリブデン酸アンモニウムを含有することを特徴とする。また、本発明の他の態様である積層体は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材と、基材上に位置するレーザー印字層とを含む積層体であって、上記レーザー印字層が上記レーザー記録用インキ組成物の固化物であることを特徴とする。また、本発明の一態様である印刷体は、上記成形物又は積層体に黒色印字がなされていることを特徴とする。また、本発明の他の態様である生物学的検体の検査キットは、上記の印刷体を含むことを特徴とする。
【0025】
[レーザー記録用樹脂組成物]
本発明のレーザー記録用樹脂組成物は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂及びモリブデン酸アンモニウムを含有することを特徴とする。
【0026】
(耐衝撃性ポリスチレン樹脂)
耐衝撃性ポリスチレン樹脂は、芳香族ビニル重合体のマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散された樹脂である。耐衝撃性ポリスチレン樹脂は、例えば、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解し、攪拌して塊状重合、懸濁重合、又は溶液重合等を行うことにより得ることができる。また、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解して得られた樹脂に、芳香族ビニル重合体を混合した混合物であってもよい。
【0027】
芳香族ビニル単量体は特に限定されないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。また、これらの単量体から2種以上を併用することもできる。
【0028】
ゴム状重合体は特に限定されないが、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体が挙げられる。ポリブタジエンは、例えば、シス結合の含有量が高いハイシスポリブタジエン、シス結合の含有量が低いローシスポリブタジエンが挙げられる。用いられるゴム状重合体については特に制限はないが、中でも使用されるゴム状重合体として、シス-1,4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムをゴム状重合体100質量%中70質量%以上含有するポリブタジエンが好ましく使用される。具体的には、ハイシスポリブタジエンゴムを単独使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂でも、ハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを混合使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂でも、又はハイシスポリブタジエンゴムを使用して得られたゴム変性スチレン系樹脂とローシスポリブタジエンゴムを使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂の混合物においても、これらいずれのゴム変性スチレン系樹脂中に存在するゴム状重合体100質量%中にシス-1,4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムに依存するゴム状重合体を70質量%以上含有することが好ましい。なお、ハイシスポリブタジエンゴムとは、シス-1,4結合を90モル%以上の比率で含有するポリブタジエンゴムを意味する。また、ローシスポリブタジエンゴムとは、1,4-シス結合含量が10~40モル%であるポリブタジエンゴムを意味するものである。
【0029】
耐衝撃性ポリスチレン樹脂中のゴム状重合体の含有率は特に限定されないが、例えば、耐衝撃性ポリスチレン樹脂全量に対して5~15質量%である。ゴム状重合体の含有率が上記範囲内にあることにより、得られる基材の耐衝撃性がより高くなる傾向がある。
【0030】
耐衝撃性ポリスチレン樹脂としては、例えば、商品名「トーヨースチロール H350」(東洋スチレン株式会社)、商品名「PSJ-ポリスチレンSX100/300」(PSジャパン株式会社)等の市販品を使用することができる。
【0031】
(モリブデン酸アンモニウム)
上記モリブデン酸アンモニウムは、遷移金属であるモリブデンに酸素が結合したモリブデン酸がアンモニウム塩となったものである。モリブデン酸アンモニウムは粉末状(粒子状)であることが好ましい。
【0032】
上記モリブデン酸アンモニウムの平均粒子径は特に限定されないが、40μm以下(例えば、0.1~40μm)であることが好ましい。平均粒子径が上記範囲であることにより、発色剤としての効果が維持できるとともに、組成物中において、経時でモリブデン酸アンモニウムが沈降し難い傾向がある。上記平均粒子径は、レーザー回折法により測定された粒度分布測定データにおける小粒子側からの粒子数の累積量50質量%の粒径値である。平均粒子径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920((株)堀場製作所製)やMICROTRAC 9320-X100(Honeywell社製)により測定することができる。
【0033】
レーザー記録用樹脂組成物におけるモリブデン酸アンモニウムの含有量は特に限定されないが、レーザー記録用樹脂組成物全量に対して、例えば、0.5~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~8質量%である。モリブデン酸アンモニウムの含有量が上記範囲内にあることにより、「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることができる傾向がある。また、0.5質量%未満である場合は印字が薄くなる傾向があり、15質量%よりも多い場合は成形が困難となることや、成形物の表面にモリブデン酸アンモニウム由来の黒点が現れる傾向がある。
【0034】
モリブデン酸アンモニウムとしては、例えば、商品名「PRIME 120」(株式会社サトー)等の市販品を使用することができる。
【0035】
レーザー記録用樹脂組成物は、さらに耐衝撃性ポリスチレン樹脂以外の熱可塑性樹脂や各種添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
ポリスチレン樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、アイオノマー樹脂、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合樹脂、シリコーン系複合ゴム-アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリアミド/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン/アクリロニトリル・スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン、酢酸繊維素樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタン、アクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエーテルブロックアミド共重合樹脂、コポリエステル・エーテルエラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン/エチレン-プロピレン-ジエン樹脂、塩化ビニル・ニトリル系エラストマー、液晶樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート/ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート/ポリエステル樹脂、ポリカーボネート/ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート/メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート/ポリメチルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート・スチレン共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート/アクリロニトリル・スチレン・アクリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、生分解性樹脂、バイオマス樹脂、植物由来ポリアミド樹脂、ポリ乳酸/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、エチレン・ブチルアクリレート共重合樹脂、エチレン・アクリルサンエステル・グリシジルアクリレート共重合樹脂、エチレン・アクリル酸エステル・無水マレイン酸共重合樹脂、ポリオレフィン・無水マレイン酸グラフト重合樹脂、コポリエステル樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、シロキサン変性ポリエーテルイミド樹脂、エチレン・メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合樹脂、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、シクロオレフィン系樹脂、シクロオレフィンコポリマー、エチレン・(メタ)アクリル酸メチルコポリマー、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂、ポリアリルエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
添加剤は、例えば、顔料(特に酸化チタン)、酸化防止剤、金属不活性剤、造核剤、離型剤、滑剤(例えば、流動パラフィン)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機フィラー、上記ゴム状重合体以外の耐衝撃性改質剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記レーザー記録用樹脂組成物が顔料として酸化チタンを含む場合、成形物が白色となることで黒色印字とのコントラストが明瞭になるため、好ましい。
【0039】
上記レーザー記録用樹脂組成物に無機フィラーを配合する場合は、樹脂の成形収縮率を低減する観点から、異方性の少ない粒子状、球状、板状のものが好ましく、剛性を向上する観点から繊維状、板状のものが好ましい。このような無機フィラーを用いることで、より良好な表面外観と機械特性を得ることが可能となる。無機フィラーは、例えば、タルク、マイカ、黒鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられ、タルク、マイカ、炭酸カルシウムが好ましく、タルク、マイカがさらに好ましい。
【0040】
上記レーザー記録用樹脂組成物は、溶融張力向上等の効果を有する加工助剤を含んでいてもよい。加工助剤を用いることで、射出成形のゲート周辺の外観が改善する場合があり、また機械特性が向上する場合がある。このような加工助剤としては、PTFE系加工助剤、アクリル系加工助剤等が挙げられる。
【0041】
離型剤は、例えば、脂肪酸ワックス、脂肪酸エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、フッ素系滑剤等が挙げられる。
【0042】
上記レーザー記録用樹脂組成物は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、モリブデン酸アンモニウム、及び必要に応じて上記添加剤を押出機で混練する方法により製造することができる。
【0043】
[成形物]
本発明の成形物は、レーザー記録用樹脂組成物からなることを特徴とする。成形物は傾斜面を有していてもよく、また凹形状の内側に傾斜する傾斜面を有していてもよい(
図1及び2参照)。成形物が傾斜面を有している場合、パット印刷では印字の際に欠けや「にじみ」等の問題が生じることがあるが、本発明の成形物はレーザー光を照射することによりその表面に「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることができる。
【0044】
上記傾斜面の形状は特に限定されないが、例えば、略四角形が挙げられる。傾斜面の形状が略四角形である場合、その長方向の長さは、例えば、4~15mmであり、その短方向の長さは、例えば、2~10mmである。上記凹形状の傾斜面と底面とのなす角度は、例えば、20~70°である。また、上記凹形状の高さは、例えば、2~10mmである。
【0045】
本発明の成形物は、上記レーザー記録用樹脂組成物を成形することにより製造することができる。すなわち、成形物の製造方法は、レーザー記録用樹脂組成物を成形して成形物を作製する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の成形物は、安定した品質を得る観点から、本発明のレーザー記録用樹脂組成物を射出成形により成形することが好ましい。すなわち、成形物の製造方法は、レーザー記録用樹脂組成物を製造する工程(組成物製造工程)と、製造されたレーザー記録用樹脂組成物を射出成形する工程(射出成形工程)を含むことが好ましい。
【0046】
前記組成物製造工程は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂とモリブデン酸アンモニウムとを混錬する工程である。また、上記成分に加え、耐衝撃性ポリスチレン樹脂以外の熱可塑性樹脂や添加剤を混錬する工程であってもよい。混練は、単軸押出機や、多軸押出機(例えば二軸押出機)を用いることができ、ロータセグメントを組み合わせて用いることが好ましい。混練は、組成物の成分や、耐衝撃性ポリスチレン樹脂を含む熱可塑性樹脂の種類によって、溶融温度、スクリューの回転速度、組成物の押出機内での滞留時間等を適宜調整して行うことができる。溶融温度は特に限定されないが、例えば、100~250℃が好ましく、より好ましくは150~240℃、さらに好ましくは200~230℃である。溶融温度が高温(例えば、250℃を超える温度)である場合、モリブデン酸アンモニウムの化学的反応が生じるためか、混錬物(レーザー記録用樹脂組成物)が黒色化する傾向があるが、溶融温度が上記範囲内であることにより、黒色化が抑えられつつ、モリブデン酸アンモニウムが熱可塑性樹脂(耐衝撃性ポリスチレン樹脂)中に均一に分散する傾向がある。
【0047】
組成物製造工程は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂とモリブデン酸アンモニウムとの混錬物を押出機によりダイスをとおして目的の形状(例えばペレット)に成形する工程(押出工程)を含んでいてもよい。ダイスには、押出される溶融樹脂を賦形する金型、例えば、フラットダイ(Tダイ)やサーキュラーダイを用いることができる。また、ダイス手前には、スクリーンを設置し混錬物中に混入した異物等を除去してもよい。
【0048】
前記押出工程を含む場合、レーザー記録用樹脂組成物として混練状態が良好な樹脂が選択されることから、射出成形を容易に行うことができる。このため、品質に優れた成形物を得ることが可能となる。
【0049】
射出成形工程は、レーザー記録用樹脂組成物を射出成形する工程である。本工程においては、例えばペレット状のレーザー記録用樹脂組成物をホッパー内に投入した後、回転するスクリューによって加熱筒の中を移動させながら溶融させる。そして、加熱溶融された前記組成物を所望の成形物に応じた金型内に射出注入した後、冷却・固化させることによって成形物を得る。射出成形装置は、特に限定されるものでなはく、公知慣用の射出成形装置を用いることができる。
【0050】
射出成形工程では、さらに耐衝撃性ポリスチレン樹脂や耐衝撃性ポリスチレン樹脂以外の熱可塑性樹脂、添加剤(以下、「熱可塑性樹脂等」と称する)を投入する工程を含んでもよい。すなわち、射出成形工程において、組成物製造工程を経て得られたレーザー記録用樹脂組成物に、さらに上記熱可塑性樹脂等を加えた後に溶融を行ってもよい。前記熱可塑性樹脂等はペレット状であってもよい。すなわち、本工程は、組成物製造工程と同様の操作を行うことによりペレット状の熱可塑性樹脂等を作製し、これをレーザー記録用樹脂組成物と溶融・混錬する工程を含んでいてもよい。前記工程を有する場合、前記熱可塑性樹脂等は本発明のレーザー記録用樹脂組成物に含まれるものとして、本明細書では説明する。すなわち、組成物製造工程を経て得られたレーザー記録用樹脂組成物に、前記熱可塑性樹脂等を加えたものが本発明のレーザー記録用樹脂組成物に相当する。
【0051】
[レーザー記録用インキ組成物]
本発明のレーザー記録用インキ組成物は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材への塗布に用いられるものであって、モリブデン酸アンモニウムを含有することを特徴とする。上記レーザー記録用インキ組成物は、モリブデン酸アンモニウム以外の成分として、さらに熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性化合物と溶媒とを含有することが好ましい。上記レーザー記録用インキ組成物は、モリブデン酸アンモニウム、熱可塑性樹脂、熱硬化性化合物、及び溶媒以外にも、各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0052】
(モリブデン酸アンモニウム)
モリブデン酸アンモニウムは上記レーザー記録用樹脂組成物の項において説明したものと同様のものを使用することができる。モリブデン酸アンモニウムの含有量は特に限定されないが、レーザー記録用インキ組成物全量に対して、例えば、0.1~15質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましい。モリブデン酸アンモニウムの含有量が上記範囲内にあることにより、発色が十分である傾向がある。
【0053】
熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、セラック類、ロジン類、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、硝化綿、酢酸セルロース、セルロースアセチルプロピオネート、セルロースアセチルブチレート、塩化ゴム、環化ゴム、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ケトン樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化エチレンビニルアセテート樹脂、エチレンビニルアセテート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、カゼイン、アルキッド樹脂、アクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリ乳酸等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記熱可塑性樹脂の含有量は特に限定されないが、レーザー記録用インキ組成物全量に対して、例えば、固形分で0.1~70質量%であることが好ましく、1~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内にあることにより、レーザー記録用インキ組成物が良好な流動性を備える傾向がある。
【0055】
熱硬化性化合物は特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリウレタン、マレイミド化合物、シクロカーボネート化合物、エポキシ化合物、多官能オキセタン化合物マレイミド化合物等が挙げられる。これらの熱硬化性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
上記熱硬化性化合物の含有量は特に限定されないが、レーザー記録用インキ組成物全量に対して、例えば、固形分で0.1~70質量%であることが好ましく、1~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましい。熱硬化性化合物の含有量が上記範囲内にあることにより、レーザー記録用インキ組成物の固化が良好である傾向がある。
【0057】
溶媒は、モリブデン酸アンモニウムを分散させることが可能であれば特に限定されないが、例えば、水、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸tert-ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤及びこれらのエステル化物が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
上記溶媒の含有量は特に限定されないが、レーザー記録用インキ組成物全量に対して、例えば、30~98質量%であることが好ましく、35~90質量%であることがより好ましい。溶媒の含有量が上記範囲内にあることにより、塗布性や印刷適性が良好である傾向がある。
【0059】
添加剤としては、例えば、インキ安定性、印刷適性の向上を目的とした、色材、無機充填剤、有機充填剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、ワックス、顔料分散剤、帯電防止剤、スリップ剤、可塑剤、粘着付与剤等が挙げられる。
【0060】
(基材)
上記レーザー記録用インキ組成物を塗布する基材は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材であり、耐衝撃性ポリスチレン樹脂を含む樹脂組成物を成形することにより得ることができる。耐衝撃性ポリスチレン樹脂としては、上記レーザー記録用樹脂組成物の項において説明したものと同様のものを使用することができる。
【0061】
上記耐衝撃性ポリスチレン樹脂を含む樹脂組成物は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂以外の樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)や各種添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、造核剤、離型剤、滑剤(例えば、流動パラフィン)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
上記基材は、例えば、上記樹脂組成物を射出成形により成形することができる。射出成形は、射出圧縮成形を含んでいてもよい。
【0063】
[積層体]
本発明の積層体は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材と、基材上に位置するレーザー印字層とを含み、レーザー印字層が上記レーザー記録用インキ組成物の固化物であることを特徴とする。上記レーザー印字層は、必ずしも全面に設ける必要はなく、印字したい部分だけに設けてもよい。したがって、後述の傾斜面のみに設けてもよい。
【0064】
積層体は傾斜面を有していてもよく、また凹形状の内側に傾斜する傾斜面を有していてもよい。積層体が傾斜面を有している場合、パット印刷では印字の際に欠けや「にじみ」等の問題が生じることがあるが、上記レーザー記録用インキ組成物によりレーザー印字層を設けてレーザー光を照射することにより、レーザー印字層の表面に「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることができる。
【0065】
上記傾斜面の形状は特に限定されないが、例えば、略円形及び四角形が挙げられる。傾斜面の形状が略円形である場合、その半径(楕円形の場合は長軸及び短軸の長さ)は、例えば、3~15mmである。傾斜面の形状が略四角形である場合、その長方向の長さは、例えば、4~15mmであり、その短方向の長さは、例えば、2~10mmである。上記傾斜面と水平面とのなす角度は、例えば、20~70°である。
【0066】
上記レーザー印字層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1~5mmであることが好ましい。レーザー印字層の厚みが上記範囲内にあることにより、レーザー印字層の表面に「にじみ」が少なく、且つはっきりとした黒色印字を得ることができる傾向がある。
【0067】
積層体は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材の表面に、上記レーザー記録用インキ組成物を塗布して固化し、レーザー印字層を形成することにより製造することができる。すなわち、積層体の製造方法は、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材の表面に、上記レーザー記録用インキ組成物を塗布した後に固化することにより、レーザー印字層を形成する工程を含むことを特徴とする。基材への塗布方法及び固化方法は特に限定されず、公知慣用の方法を用いることができる。なお、ここでの「固化」とは、例えば、レーザー記録用インキ組成物に含まれる溶媒を揮発させること、さらに、溶媒を揮発させた後の不揮発分(例えば、上記のモリブデン酸アンモニウム、熱可塑性樹脂、熱硬化性化合物)を冷却、加熱、光照射等により硬化することを含む概念である。
【0068】
[印刷体]
本発明の成形物及び積層体はレーザー光を照射することで黒色印字を行うことにより、印刷体とすることができる。すなわち、本発明の印刷体は、傾斜面を有してもよい成形物であって、その表面に黒色印字がなされたものである。また、本発明の印刷体は、傾斜面を有してもよい積層体のレーザー印字層に黒色印字がなされたものであってもよい。その中でも、本発明の印刷体は、傾斜面を有する成形物であって、その傾斜面に黒色印字がなされたものであることが好ましい。また、本発明の印刷体は、傾斜面を有する積層体の、前記傾斜面に設けられたレーザー印字層に黒色印字がなされたものであってもよい。
【0069】
上記印刷体は、例えば、上記レーザー記録用樹脂組成物を成形して成形物を作製する工程、及び得られた成形物にレーザー光を照射することで黒色印字を行う工程、を含む製造方法により得られる。なお、黒色印字は、上記成形物が傾斜面を有し、前記傾斜面にレーザー光を照射することで行われることが好ましい。また、上記印刷体は、例えば、耐衝撃性ポリスチレン樹脂からなる基材の表面に、上記レーザー記録用インキ組成物を塗布した後に固化することによりレーザー印字層を形成する工程、及び上記レーザー印字層にレーザー光を照射することで黒色印字を行う工程、を含む製造方法により得られる。
【0070】
なお、上記積層体において、基材がレーザー光の透過を阻害しない透明もしくはレーザー光の透過を阻害せず、且つ視認性を有するものである範囲で不透明なものである場合、レーザー印字層側あるいは基材側のどちらからでもレーザー光の照射を行ってもよい。
【0071】
レーザー光の波長は特に限定されないが、例えば、200~700nmが好ましく、より好ましくは250~600nm、より好ましくは300~500nmである。波長が上記範囲内にあることにより、「にじみ」が少なく、且つはっきりとした(印字濃度が高い)黒色印字が可能であり、印字後に濃度低下が起こり難い、高い保存性を有する印刷体が得られる傾向がある。その中でも特にUVレーザー(300~380nm)であることがはっきりとした黒色印字が得られる観点から好ましい。
【0072】
また、その照射時間は特に限定されないが、例えば、0.01~20秒が好ましく、より好ましくは0.1~10秒、さらに好ましくは0.5~5秒、特に好ましくは1.0~4秒、最も好ましくは1.2~3秒である。照射時間が上記範囲内にあることにより、「にじみ」が少なく、且つはっきりとした(印字濃度が高い)黒色印字が可能であり、印字後に濃度低下が起こり難い、高い保存性を有する印刷体が得られる傾向がある。
【0073】
本発明の印刷体は特に限定されないが、例えば、生物学的検体の検査キットとして使用される。すなわち、本発明の生物学的検体の検査キットは、上記印刷体を含む。生物学的検体とは、例えば、鼻腔や咽頭に付着した粘液、唾液、血清、便、便懸濁液、尿、又はこれらの培養液が挙げられる。これらの生物学的検体は、例えば、イムノクロマトグラフィー等の免疫測定法の原理を用いたインフルエンザウイルス等の感染症検査や妊娠検査等に用いられる。これらの検査キットは、生物学的検体を迅速且つ大量に検査する必要があるため、その形状はコンパクトである傾向があり、これに伴って生物学的検体を検査試薬に導入するための部位に傾斜面を有する等の複雑な形状を有している傾向がある。したがって、被印刷体が傾斜面を有する凹凸形状を有している場合であっても精密な印字が可能である、本発明の印刷体が有効に機能する。
【実施例】
【0074】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0075】
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)(東洋スチレン(株)製)に、PRIME 120(モリブデン酸アンモニウム、株式会社サトー製)を(100:5)の質量比で溶融混合して射出成形したペレット1と、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)に、酸化チタン(石原産業株式会社 製)を(6:1)の質量比で溶融混合して射出成形したペレット2とを用意した。前記のペレット1とペレット2を(6:1)の質量比で混合し粉砕した。この粉砕物を射出成形用原料とし、80℃で2時間熱風乾燥した後、小型電動射出成形機(住友重機株式会社)を用いて射出成形を行い、
図1に示される様な凹形状を有する成形物を成形した。
【0076】
得られた成形物の傾斜面に対し、3-AxisUVレーザーマーカMD-U(株式会社キーエンス製)によるレーザー光の照射を行い、レーザー光照射後の記録体の視認性を評価した。その結果、「にじみ」の無い、はっきりした黒色印字がなされた印刷体が得られた。なお、レーザー光の照射条件は、以下の通りとした。
出力:15W
照射時間:1.7sec/1word
【符号の説明】
【0077】
1、凹形状
2、傾斜面