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  • 特許-工具主軸構造 図1
  • 特許-工具主軸構造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】工具主軸構造
(51)【国際特許分類】
   B23B 19/02 20060101AFI20240122BHJP
   B23B 31/117 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B23B19/02 A
B23B31/117 601A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019096496
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020189383
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】多田 宏行
(72)【発明者】
【氏名】上河原 敦
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/120770(WO,A1)
【文献】特開2008-121745(JP,A)
【文献】特開平02-292103(JP,A)
【文献】特開昭63-002638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 19/02
B23B 31/117
B23Q 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に前方側の軸受と後方側の軸受にて支持し回転制御された工具主軸と、前記工具主軸の軸心に挿通したクランプロッドとを備え、
前記工具主軸は先端側の筒状の端部とその内側に前記クランプロッドの引き込みにより工具をクランプ装着する工具装着部を有し、
前記工具主軸の後端側に前記クランプロッドを押し出す方向に推力を加えるアンクランプ手段を有し、
前記アンクランプ手段のアンクランプ方向の推力による前記工具主軸の変位量を所定内に抑えるストッパー部材を有し、
前記ストッパー部材は前記ハウジング側に固定してあり、
前記ストッパー部材と前記工具主軸の端部との間に所定のクリアランス(δ)を設けてあり、
前記前方側の軸受はアンギュラ軸受であり、外輪は前記ハウジング側に固定してあり、内輪は工具主軸側に固定してあり、前記外輪と内輪との間に転動体を有し、前記クリアランス(δ)は前記アンギュラ軸受が受けるアキシャル荷重が許容範囲内に納まるように設定されていることを特徴とする工具主軸構造。
【請求項2】
前記ストッパー部材はハウジング側に固定したリング状のストッパー部材であり、
前記リング状のストッパー部材と前記工具主軸の端部との間に前記クリアランス(δ)を設けてあることを特徴とする請求項1記載の工具主軸構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル,フライス,エンドミル等の回転工具を用いて、機械加工が行われるこの回転工具を装着する工具主軸構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転工具でワークを機械加工する際に、ドリル,フライス,エンドミル等の各種工具が使用される。
このような工具を交換可能に装着する工具主軸構造が公知である。
例えば、従来は図2に示すようにハウジング12の内側にビルトインモーターにより、回転制御された工具主軸11が内装されている。
工具主軸11は、軸心側が貫通孔になっていて、クランプロッド(プルロッド等とも称されている。)13が挿通されている。
工具主軸11の先端側に工具のシャンクを装着する装着孔13bを有し、装着されたシャンクをクランプロッド先端側の係止具13aにて引き込むことで、この工具が装着クランプされる。
従ってクランプロッド11は、クランプバネ14により引き込み方向の付勢力が働いている。
工具をアンクランプする際には、クランプロッド11を後端側からピストン等のアンクランプロッド17にて押し出すことで、実行される。
従来は、このアンクランプロッド17の押し出し方向の推力を工具主軸11と、ハウジング12との間の軸受(アンギュラ軸受)15のみにて受ける構造になっていた。
これでは、クランプロッド13のアンクランプ方向の推力をアンギュラ軸受に許容されるアキシャル荷重以下にしなければならず、設計上の大きな制限条件になっていた。
【0003】
特許文献1には、下向き状態の主軸がベアリングを介して回転自在に支承され、この主軸が抜け落ちないように抜止体を取り付けた工具主軸構造を開示する。
しかし、同公報に開示する工具主軸構造は、ドローバーの押下げによりクランパーが左右に開き、工具の係止が解除される構造になっており、ベアリングにはドローバーの押下げよりアキシャル方向に力が加わるものになっていない。
よって、同公報に開示する抜止体は、単に主軸(工具主軸)の自由落下を防止したものに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-52947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、工具主軸における工具のアンクランプ機構の設計自由度が高い工具主軸構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る工具主軸構造は、ハウジングと、前記ハウジング内に軸受にて支持し回転制御された工具主軸と、前記工具主軸の軸心に挿通したクランプロッドとを備え、前記工具主軸の先端側に前記クランプロッドの引き込みにより工具をクランプ装着する工具装着部を有し、前記工具主軸の後端側に前記クランプロッドを押し出す方向に推力を加えるアンクランプ手段を有し、前記アンクランプ方向の推力による前記工具主軸の変位量を所定内に抑えるストッパー部材を有することを特徴とする。
ここで工具装着部は、回転工具のシャンクを嵌合装着する部位をいう。
【0007】
本発明において、ストッパー部材は前記ハウジング側に固定してあり、前記ストッパー部材と前記工具主軸との間に所定のクリアランス(δ)を設けてあるのが好ましく、さらには軸受はアンギュラ軸受であり、前記クリアランス(δ)は前記アンギュラ軸受が受けるアキシャル荷重が許容範囲内に納まるように設定されているのが望ましい。
【0008】
工具主軸は、ワークを機械加工する際には回転制御されているので、この主軸が回転している状態ではストッパー部材と摺接さてもよいが、ストッパー部材と工具主軸との間に所定のクリアランス(隙間)(δ)を設けることで、工具主軸に回転方向の抵抗が加わるのを防止することができる。
工具のアンクランプ時には、工具主軸は静止した状態になっているので、クランプロッドに押し出し方向の推力が加わると、工具主軸側に設けた接触面がストッパー部材に当接し、それ以上変位するのを抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る工具主軸構造にあっては、工具のアンクランプ時におけるクランプロッドの押し出し方向の推力を軸受でも分担するが、軸受に所定以上の変位が加わるとそれ以上変位しないように、そのアンクランプ推力をストッパー部材で受けることになる。
アンギュラ軸受は、転動体が転がる内周面に所定の接触角を有し、受ける荷重はラジアル荷重とアキシャル荷重に分散されるが、アキシャル荷重が大きくなるとそれに伴い、アキシャル変位が大きくなるが、いわゆるバネ定数に似た荷重-変位量曲線を描く。
よって、本発明に係るストッパー部材を設けた構造にあっては、工具のアンクランプ時にクランプロッドに加わるアンクランプ方向の推力が大きくてもアンギュラ軸受に所定以上の変位が加わると、それ以上変位しないようにその推力をストッパー部材にて受けることになり、アンギュラ軸受を採用する選択技やクランプバネ、アンクランプのシリンダー仕様等の設計自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る工具主軸構造を模式的に示す。
図2】従来の工具主軸構造を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る工具主軸構造の例を以下図に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、図1は本発明係る構造例であるが、従来の構造例図2との相違点が分かりやすいように、それぞれ模式化して表現してある。
【0012】
工具主軸11は、ハウジング12の内側にビルトインモーターにより、回転自在(回転制御)に内装されている。
図1に示した構造例では、モーターを内装したハウジング12の前側に軸受ハウジング12aを固定し、後側にシリンダーハウジング12bを固定した分割構造になっているが、ハウジング構造に制限はない。
【0013】
工具主軸11は、前方側の軸受15と後方側の軸受115にて、回転自在に支承されている。
前方側の軸受15は、アンギュラ軸受になっていて、軸受ハウジング12a側に固定した外輪15aと、工具主軸11側に固定した内輪15bと、外輪15aと内輪15bとの間に設けた転動体15cからなる。
モーター部は、工具主軸11側の回転子19aとハウジング12側の固定子19bとからなる。
【0014】
工具主軸11は、軸心側が貫通孔になっていて、クランプロッド13が挿通されている。
クランプロッド13は、板バネ等のクランプバネ14により引き込み方向(クランプ方向)に付勢されている。
工具主軸11の前方側は、工具のシャンクの装着孔13bを有し、係止具13aの引き込み方向の力で工具をクランプ保持する。
工具を交換する際には、工具主軸11の回転が止まり静止した状態になり、クランプロッド13の後端部をアンクランプロッド17にて押圧し、クランプロッド13が押し出される方向のアンクランプ推力が働くようになっている。
本実施例は、シリンダー機構によるアンクランプ手段になっていて、シリンダー部18に設けたアンクランプロッド(ピストン)17の両側の流体室18a,18bの油圧操作により、アンクランプロッド17が前進及び後退制御されている。
工具主軸11が回転している状態では、アンクランプロッド17が接触しないように、所定の隙間を有するように後退位置にある。
【0015】
工具をアンクランプ操作する際には、工具主軸11の回転を止め、静止状態でアンクランプロッド17を前進させ、クランプロッド13が前方に押し出されるようにアンクランプ推力を作用させる。
これにより、係止具13aが前進し、工具がアンクランプ状態になる。
この際に、アンクランプ推力が軸受15にも伝わり、それにより工具主軸11が前方に向けて変位する。
工具主軸が回転している状態では、図1(b)に拡大図を示すように工具主軸の端部11aの端面と軸受ハウジング12a側に固定したリング状のストッパー部材16との間に当所のクリアランス(δ)からなる隙間を有している。
アンクランプ時には軸受にアキシャル荷動が加わり、このクリアランス(δ)の分だけ変位すると、図1(c)に示すように工具主軸11の端部11a側の端面がこのストッパー部材16に当接し、それ以上変位するのを抑える。
なお、ストッパー部材16及び軸受ハウジング12aの前面側は、カバー12cにて覆ってある例となっている。
【符号の説明】
【0016】
11 工具主軸
12 ハウジング
12a 軸受ハウジング
12b シリンダーハウジング
12c カバー
13 クランプロッド
13a 係止具
13b 装着孔
14 クランプバネ
15 軸受
15a 外輪
15b 内輪
15c 転動体
16 ストッパー部材
17 アンクランプロッド
18 シリンダー部
18a 流体室
18b 流体室
19a 回転子
19b 固定子
(δ) クリアランス
図1
図2