(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】コンプレッサ
(51)【国際特許分類】
H03G 7/02 20060101AFI20240122BHJP
G10H 1/16 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
H03G7/02
G10H1/16
(21)【出願番号】P 2019231749
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】三尾 彰寛
(72)【発明者】
【氏名】遠山 雅利
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】実公昭43-018698(JP,Y1)
【文献】特開2018-113594(JP,A)
【文献】特開2007-178675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H1/00-G10H7/12
H03G5/00-H03G99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電子を放出するフィラメントと、増幅対象の信号を入力するグリッドと、アノードを有する真空管と、
入力信号のエンベロープの電位が高くなると、前記アノードに抵抗を介して印加する供給電圧を一定に、もしくは、低く設定するコントロール電圧生成部と、
直流電源である電源部と、
を備え、
前記コントロール電圧生成部は、
入力信号のエンベロープを生成するエンベロープ生成部と、
ユーザが圧縮の程度を設定するためのコンプレッション設定部と、
前記供給電圧を設定する電圧制御部と
を有し、
前記電圧制御部は、
前記電源部と前記供給電圧を供給するポートとの間に配置される抵抗と、
接地と前記供給電圧を供給するポートの間に配置されるコンデンサと、
前記コンデンサの電荷を、前記エンベロープと設定された圧縮の程度に基づいて制御する制御回路
を有する
ことを特徴とするコンプレッサ。
【請求項2】
請求項1記載のコンプレッサであって、
前記制御回路は、前記エンベロープの電位が、前記コンプレッション設定部が定めた電位を超えると、電位が高いほど前記供給電圧を下げる
ことを特徴とするコンプレッサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンプレッサであって、
差動増幅部も備え、
前記真空管は、2組のグリッドとアノードを有し、それぞれのグリッドには互いに逆相の増幅対象の信号が入力され、それぞれのアノードに抵抗を介して印可する供給電圧は互いに同じであり、
前記差動増幅部は、前記2
組のグリッドとアノードの
それぞれのアノードからの出力の差に応じた信号を出力する
ことを特徴とするコンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空管を用いたコンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
真空管を用い楽音に歪みを与える技術として特許文献1に記載された技術などが知られている。特許文献1では、真空管の前段に配置された歪み量を制御するための第1の電子ボリュームと、真空管の後段に配置された出力される楽音のレベルを制御する第2の電子ボリュームを用いている。また、アンプ用の真空管として、特許文献2、非特許文献1などに示された技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-321566号公報
【文献】特開2016-134299号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】KORG、“Nutube”,[令和1年12月9日検索]、インターネット<https://korgnutube.com/jp/>.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術は楽音のレベルを変えないで歪みを変化させるときに、第1の電子ボリュームと第2の電子ボリュームの両方を制御する必要があるという課題がある。
【0006】
本発明は、圧縮の程度の調整を真空管に対する1つの制御で行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコンプレッサは、真空管増幅部とコントロール電圧生成部とを備える。真空管増幅部は、熱電子を放出するフィラメントと、増幅対象の信号を入力するグリッドと、アノードを有する真空管を備えている。コントロール電圧生成部は、入力信号のエンベロープの電位が高くなると、アノードに抵抗を介して印加する供給電圧を一定もしくは低く設定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンプレッサによれば、真空管固有の特性を持ったコンプレッサにおいて、圧縮の程度の調整をアノードへの供給電圧の制御だけで行えるので、真空管に対する1つの制御で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のコンプレッサの機能構成例を示す図。
【
図5】実施例2のコンプレッサの機能構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0011】
図1に実施例1のコンプレッサの機能構成例を示す。また、
図2に実施例1の真空管増幅部の構成例を示す。コンプレッサ100は、少なくとも真空管増幅部120とコントロール電圧生成部130とを備える。電源部140、バッファ110,150はコンプレッサ100の内部に配置してもよいし、外部に配置してもよい。電源部140は、例えば30V,15Vなどの直流電源とすればよい。コンプレッサ100の圧縮の程度を幅広く設定できるようにするためには、電源部140の電圧は高いほうがよい。バッファ110は、入力インピーダンスを大きくする必要がある場合に備えればよい。バッファ150は、出力能力を向上させたい場合に備えればよい。
【0012】
真空管増幅部120は、真空管121を備えている。真空管121は、熱電子を放出するフィラメント122と、増幅対象の信号sを入力するグリッド123と、アノード124を有する。フィラメント122は、ポート120
Fとポート120
Gの間に配置され、ポート120
Fには電圧V
Fが印可され、ポート120
Gは接地される。フィラメント122は例えば650度程度まで加熱され、熱電子を放出する。グリッド123は、増幅対象の信号sが入力されるポート120
inに接続される。抵抗125は、ポート120
Vとアノード124の間に配置されている。よって、アノード124には、抵抗125を介してコントロール電圧生成部130から供給電圧CVが印可される。また、アノード124は、信号を出力するポート120
OUTに接続される。真空管121には特許文献2、非特許文献1に示された真空管を用いればよい。非特許文献1に示された真空管の場合、供給電圧CVを変えると真空管増幅部120のゲインを変更できる。例えば、供給電圧とゲインの関係を
図3に示す。
【0013】
コントロール電圧生成部130は、入力信号(増幅対象の信号s)のエンベロープの電位が高くなると、アノード124にあらかじめ定めた抵抗を介して印加する供給電圧を一定もしくは低く設定する。エンベロープの電位がE
Aのときの供給電圧をV
A、エンベロープの電位がE
Bのときの供給電圧をV
Bとする。「入力信号のエンベロープの電位が高くなると、供給電圧を一定もしくは低く設定する」とは、E
A<E
Bの関係がある場合に、V
A≧V
Bが成り立つことを意味している。例えば、E
AとE
Bが低いときはV
A=V
Bとし、E
Bがあらかじめ定めた電位よりも高いときにV
A>V
Bが成り立つようにすればよい。真空管121の供給電圧とゲインの関係は
図3の関係なので、エンベロープの電位が高いときに供給電圧を低くすれば、信号を圧縮できる。
【0014】
コントロール電圧生成部130は、エンベロープ生成部131、コンプレッション設定部132、電圧制御部133を有する。エンベロープ生成部131は、入力信号のエンベロープを生成し、電圧制御部133に出力する。エンベロープ生成部131は、例えば整流回路と平滑回路(ローパスフィルタ)で構成してもよいし、他の構成でも構わない。コンプレッション設定部132は、ユーザの操作に応じて圧縮の程度を設定する。コンプレッション設定部132には、例えば可変抵抗などを用い、ユーザが可変抵抗のつまみを操作することで圧縮の程度を調整できるようにすればよい。
【0015】
電圧制御部133は、エンベロープと設定された圧縮の程度に基づいて供給電圧を設定する。
図4に電圧制御部133の構成例を示す。電圧制御部133は、例えばコンデンサ134、抵抗135、制御回路136で構成される。抵抗135は、電源電圧V
CCが印可されるポート133
VCCと真空管増幅部120に印可する供給電源CVを出力するポート133
CVの間に配置される。コンデンサ134は、接地とポート133
CVの間に配置される。エンベロープ生成部131の出力は、ポート133
Eから制御回路136に入力される。コンプレッション設定部132の設定は、ポート133
Cを介して制御回路136での処理に影響を与えるようにすればよい。ポート133
Cは複数あってもよい。制御回路136は、エンベロープ生成部131の出力とコンプレッション設定部132の設定に基づいて、コンデンサ134の電荷を制御することで、供給電圧CVを制御する。例えば、制御回路136は、入力信号(増幅対象の信号s)のエンベロープの電位が、コンプレッション設定部132が定めた電位を超えると、電位が高いほど供給電圧を下げればよい。あるいは、制御回路136は、入力信号(増幅対象の信号s)のエンベロープの電位があらかじめ定めた電位を超えると、コンプレッション設定部132の設定に従った割合で、電位が高いほど供給電圧を下げればよい。また、コンプレッション設定部132で、圧縮の対象となるエンベロープの電位と圧縮の割合の両方を設定できるようにしてもよい。つまり、「圧縮の程度を設定する」とは、圧縮する電圧の範囲と圧縮の割合の一方を設定する場合もあるし、両方を設定する場合もある。
【0016】
コンプレッサ100によれば、真空管固有の特性を持ったコンプレッサにおいて、真空管への供給電圧を制御するだけで圧縮の程度を制御できる。つまり、圧縮の程度の調整を真空管に対する1つの制御で行うことができる。
【実施例2】
【0017】
図5に実施例2のコンプレッサの機能構成例を示す。また、
図6に実施例2の真空管増幅部の構成例を示す。コンプレッサ101は、真空管増幅部120-1,120-2とコントロール電圧生成部130と差動増幅部170を備える。電源部140、バッファ110-1はコンプレッサ101の内部に配置してもよいし、外部に配置してもよい。コントロール電圧生成部130と電源部140は、実施例1と同じである。バッファ110-1は、実施例1のバッファ110と同じである。コンプレッサ101は、互いに逆位相の第1入力信号s
+と第2入力信号s
-を入力としてもよい。この場合は、バッファ110-2も備えればよい。あるいは、コンプレッサ101は位相反転部160も備え、第1入力信号s
+のみを入力とし、位相反転部160が第2入力信号s
-を生成してもよい。
【0018】
真空管増幅部120-1,120-2は、2組のグリッドとアノードを有する真空管121を用いればよい。具体的には、特許文献2、非特許文献1に示された真空管を用いればよい。この真空管は、1つの真空管の中に2組のフィラメント122-1,122-2と、2組のグリッド123-1,123-2と、2組のアノード124-1,124-2を有する。フィラメント122-1はポート120F-1とポート120Gの間、フィラメント122-2はポート120F-2とポート120Gの間に配置され、ポート120F-1とポート120F-2には電圧VFが印可され、ポート120Gは接地される。フィラメント122は例えば650度程度まで加熱され、熱電子を放出する。なお、1つのフィラメントを2組のグリッドとアノードで共用する構造でもよい。
【0019】
グリッド123-1は、増幅対象の信号s
+が入力されるポート120
in-1に接続される。グリッド123-2は、増幅対象の信号s
-が入力されるポート120
in-2に接続される。抵抗125-1はポート120
V-1とアノード124-1の間、抵抗125-2はポート120
V-2とアノード124-2の間に配置されている。よって、アノード124-1,124-2には、抵抗125-1または125-2を介してコントロール電圧生成部130から供給電圧CVが印可される。つまり、2組のアノード124-1,124-2には、抵抗を介して同じ供給電圧が印可される。また、アノード124-1は信号を出力するポート120
OUT-1に、アノード124-2は信号を出力するポート120
OUT-2に接続される。実施例1の場合と同様に、非特許文献1に示された真空管の場合、供給電圧CVを変えると真空管増幅部120のゲインを変更できる。供給電圧とゲインの関係は
図3と同じである。
【0020】
差動増幅部170は、アノード124-1からの出力S+とアノード124-2からの出力S-との差に応じた信号Sを出力する。コンプレッサ101は、同じ筐体内に配置された真空管を用い、アノードからの出力の差に応じた信号を出力にするので、同相の雑音(2つの真空管に同じように加わる雑音)を除去できるなどの長所がある。また、コンプレッサ101によれば、実施例1と同様に、真空管固有の特性を持ったコンプレッサにおいて、真空管への供給電圧を制御するだけで圧縮の程度を制御できる。つまり、圧縮の程度の調整を真空管に対する1つの制御で行うことができる。
【符号の説明】
【0021】
100,101 コンプレッサ 110,150 バッファ
120 真空管増幅部 121 真空管
122 フィラメント 123 グリッド
124 アノード 125 抵抗
130 コントロール電圧生成部 131 エンベロープ生成部
132 コンプレッション設定部 133 電圧制御部
134 コンデンサ 135 抵抗
136 制御回路 140 電源部
160 位相反転部 170 差動増幅部