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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】砥粒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20240122BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240122BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240122BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20240122BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B24D3/00 340
B24D3/00 320B
B24D3/00 330D
C09K3/14 550F
C09K3/14 550D
C23C18/31 A
C23C18/52 A
C23C18/52 B
C23C28/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020021928
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021126722
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 金沢工業大学発行の「平成30年度プロジェクトデザインIII公開発表審査会予稿集」、平成31年2月13日(発行日)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月14日金沢工業大学において開催された平成30年度プロジェクトデザインIII公開発表審査会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】諏訪部 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃哉
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-139487(JP,A)
【文献】特表2018-526531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00 - 99/00
C09K 3/14
C23C 18/00 - 18/54
C23C 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超砥粒の表面に無電解メッキで金属層をコーティングするメッキ工程と、コーティングした砥粒を前記金属層の一部が加水分解する温度で処理する加水分解工程とを有し、前記加水分解工程における温度は前記メッキ工程における温度より高いことを特徴とする砥粒の製造方法。
【請求項2】
前記加水分解工程は、前記メッキ工程の後に行われることを特徴とする請求項1に記載の砥粒の製造方法。
【請求項3】
前記コーティングした砥粒を腐食する腐食工程をさらに有し、前記加水分解工程は、前記腐食工程の後に行われることを特徴とする請求項1に記載の砥粒の製造方法。
【請求項4】
前記コーティングした砥粒を腐食する腐食工程をさらに有し、前記加水分解工程は、前記メッキ工程の後、及び、前記腐食工程の後に行われることを特徴とする請求項1に記載の砥粒の製造方法。
【請求項5】
前記加水分解工程における温度は、90~99℃の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の砥粒の製造方法。
【請求項6】
前記超砥粒は、ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の砥粒の製造方法。
【請求項7】
前記コーティングされた金属層は、ニッケル、銅、チタンのいずれかを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の砥粒の製造方法。
【請求項8】
無電解メッキでコーティングする際に用いるメッキ液にカーボンナノチューブが含有されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の砥粒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス等に代表される硬脆材料の加工は、ダイヤモンド砥粒や立方晶窒化ホウ素(cBN)砥粒などの超砥粒を固着した工具による切削加工が中心となっている。また、超砥粒を工具に保持する方法として、樹脂に砥粒を混合させ固めたレジンボンド砥石が知られている。また、工具に用いる超砥粒には、銅、ニッケル、チタン、銀等の金属を表面にコーティングした砥粒が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-171520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、砥粒の表面にこれまでにない形状を持たせるための新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の砥粒の製造方法は、超砥粒の表面にメッキでコーティングされた金属層の一部が加水分解する温度で処理する加水分解工程を有する。
【0006】
この態様によると、超砥粒の表面にこれまでにない形状を持たせることができる。
【0007】
加水分解工程は、超砥粒の表面に無電解メッキでコーティングする際に行われる。これにより、コーティングされた砥粒の表面に細かな凹凸を形成できる。
【0008】
加水分解工程は、超砥粒の表面に無電解メッキでコーティングしてから腐食する腐食工程の後に行われる。これにより、コーティングされた砥粒の表面に多くの凹凸が形成される。
【0009】
加水分解工程は、超砥粒の表面に無電解メッキでコーティングする際、及び、超砥粒の表面に無電解メッキでコーティングしてから腐食する腐食工程の後に行われる。
【0010】
加水分解工程における温度は、90~99℃の範囲であってもよい。
【0011】
超砥粒は、ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素であってもよい。これにより、硬脆材や鉄系などの加工により適したものが得られる。
【0012】
コーティングされた金属層は、ニッケル、銅、チタンのいずれかを含んでもよい。
【0013】
無電解メッキでコーティングする際に用いるメッキ液にカーボンナノチューブが含有されていてもよい。これにより、カーボンナノチューブのアンカー効果によりコーティングと超砥粒との結合力が増す。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、砥粒の表面にこれまでにない形状を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ニッケルコーティング砥粒作製工程を示す図である。
図2】ニッケルコーティング砥粒作製装置の加熱槽の概略断面図である。
図3図3(a)は、メッキ前のダイヤモンド砥粒の表面の写真を示す図、図3(b)は、メッキ開始から10分後のコーティングされたダイヤモンド砥粒の表面の写真を示す図である。
図4図4(a)は、メッキ前の砥粒のSEM写真を示す図、図4(b)は、メッキ開始から10分後のコーティングされた砥粒のSEM写真を示す図である。
図5図5(a)は、メッキ開始から30分後のコーティングされた砥粒のSEM写真を示す図、図5(b)、メッキ開始から60分後のコーティングされた砥粒のSEM写真を示す図である。
図6図6(a)は、メッキを30分行った後に腐食した砥粒のSEM写真を示す図、図6(b)は、メッキを60分行った後に腐食した砥粒のSEM写真を示す図である。
図7】メッキして腐食した砥粒を加水分解した場合のSEM写真を示す図である。
図8】加水分解後の砥粒表面のSEM写真を示す図である。
図9図9(a)は、加水分解時間3分でコーティングした砥粒のSEM写真を示す図、図9(b)は、加水分解時間15分でコーティングした砥粒のSEM写真を示す図である。
図10図10(a)は、メッキ液追加直後のコーティングした砥粒のSEM写真を示す図、図10(b)は、メッキ液追加後10分のコーティングした砥粒のSEM写真を示す図である。
図11図11(a)は、加水分解後に腐食した砥粒のSEM写真を示す図、図11(b)は、腐食後再び加水分解した砥粒のSEM写真を示す図である。
図12】コーティングした砥粒の被膜強度試験を模式的に示した図である。
図13図13(a)は、60分メッキした砥粒の試験前の写真を示す図、図13(b)は、試験後の砥粒の写真を示す図である。
図14図14(a)は、メッキ後に腐食して加水分解した砥粒の試験前の写真を示す図、図14(b)は、試験後の砥粒の写真を示す図である。
図15図15(a)は、加水分解後に腐食して加水分解した砥粒の試験前の写真を示す図、図15(b)は、試験後の砥粒の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0018】
現在の私たちの生活でよく使用されている自動車やパソコン、携帯電話などは、高度な機械加工によって生産されている。機械加工の一つに研削加工が挙げられる。研削加工は微小な砥粒を用いて工作物をわずかずつ切り取っていく加工法であるため、高い寸法精度を得ることができる。研削加工には、砥粒を結合剤で付着させた研削砥石が用いられる。研削砥石は、通常砥粒、結合剤、気孔の3要素から構成されるものと、アルミ二ウム性の台金および超砥粒から構成されるものがある。
【0019】
例えば、硬脆材や鉄系などの加工にはダイヤモンド砥粒やcBN砥粒などの超砥粒が用いられる。超砥粒は、高硬度で高靭性であることから、硬脆材や鉄系などの加工により適しており、砥粒として極めて優れている。また、超砥粒を工具に保持する方法として、メタルボンドやレジンボンド、電着といった方法が挙げられ、それぞれの結合剤を使用した工具をメタルボンド工具、レジンボンド工具、電着工具と呼ぶ。
【0020】
レジンボンド工具は切れ味が良く、汎用性があるが、チップポケットがないため目詰まりを起こしやすく、砥粒は脱落しやすい。メタルボンド工具は金属粉末を砥粒と混合して焼結しているため、砥粒の保持力が強い。しかしながら、砥粒が脱落しにくいため、目つぶれが起きやすい。また、レジンボンド工具とメタルボンド工具は砥粒層が多層となっているため、砥粒の突き出しが小さくなる。
【0021】
本願発明者らは、以上の背景を参考に鋭意検討し、レジンボンド工具に着目した。レジンボンド工具は母材と砥粒を樹脂によって結合したものである。レジンボンド工具は、砥粒を樹脂に混ぜ込み、それを工具母材金属に塗布するため、砥粒を単層や多層とすることができる。また、砥粒を結合している樹脂の弾性により、加工面の仕上げは他の工具に比べて良好となる。一方で、砥粒の保持力が弱く、工具寿命が短い。
【0022】
そこで、レジンボンド工具に使用する砥粒の結合力を大きくするために、砥粒の表面をメッキすることで、砥粒と樹脂の密着性を向上させる試みが行われており、これによってレジンボンド工具の工具寿命を長くできる。
【0023】
また、超砥粒の一つであるダイヤモンド砥粒は、セラミックスやガラスなどの硬くて脆い難削材の加工に利用される。また、ダイヤモンド砥粒は、常温で硬く、熱伝導性が良いため、発生した熱を工作物側に流出しないメリットがある。このことから、以下の実施の形態では、ダイヤモンド砥粒にメッキする場合について説明する。
【0024】
ダイヤモンド砥粒に金属層(ニッケル、銅、チタン等)を皮膜する方法には、ニッケルメッキや銅メッキ、チタンメッキなどが挙げられる。その中でも、ニッケルメッキはダイヤモンド砥粒を均一にメッキすることができ、接着力が強いことから好ましい。また、熱処理を行うことでニッケルの被膜が硬化するため、メッキ後も高硬度にすることができる。そのため、以下の実施の形態では、ダイヤモンド砥粒の表面をニッケルメッキでコーティングする場合について説明する。
【0025】
(ダイヤモンド砥粒のメッキ方法の種類)
前述のダイヤモンド砥粒表面にニッケルをメッキする方法には、電気を用いてメッキする電解メッキと、電気を使用せずに材料をメッキ液に漬けることによりメッキする無電解メッキとがある。電解メッキの場合、加工物が導体である必要があるため、ダイヤモンド砥粒などの絶縁体をメッキする際には、無電解メッキが用いられる。
【0026】
無電解メッキは被メッキ物に電気を流すことなく電子を供給し、金属イオンと結合させることで被膜を形成する。無電解メッキには、被メッキ物による置換反応によってメッキする置換型と、メッキ液内の還元剤による酸化還元反応を利用してメッキする化学還元型がある。置換型は形状による制限を受けずにメッキを行えるが、多孔質になることが多く密着性が悪い。また、被メッキ物は、メッキ液内の金属に比べてイオン化傾向が高い材料に限定される。一方で、化学還元型は自己触媒型とも呼ばれ、メッキ液内に金属イオンが存在する限り、均一にメッキすることができる。また、ピンホールが少なく、メッキの密着性が良いため、ダイヤモンド砥粒をメッキする際に好適である。
【0027】
本実施の形態では、電着工具に用いるダイヤモンド砥粒の無電解ニッケルメッキに注目した。しかしながら、ダイヤモンド砥粒に無電解のニッケルメッキを施すと、コーティングした砥粒の形状は丸くなる傾向にある。そのため、工具との固着力が弱くなり、加工時に砥粒が脱落すると考えられる。そこで、ダイヤモンド砥粒の表面にこれまでにない凹凸形状を持たせ、例えば、砥粒表面を尖った状態でメッキする技術を考案した。そこで、メッキ後、加水分解後、腐食後の砥粒を観察し、各条件によるコーティングした砥粒の形状や表面の違いについて検討した。
【0028】
(無電解のニッケルコーティング砥粒の作製方法)
図1は、ニッケルコーティング砥粒作製工程を示す図である。ニッケルコーティング砥粒の作製工程は、洗浄工程(S10)、前処理工程(S12)、メッキ工程(S14)、腐食工程(S18)、加水分解工程(S16、S20)の5つの工程から構成されている。なお、腐食工程(S18)の後の加水分解工程(S20)の代わりに、無電解メッキを行う工程であってもよい。
【0029】
洗浄工程は、砥粒表面の油脂や不純物を取り除き、後工程に適した状態に整える工程である。前処理工程は、メッキの成長を早めるための触媒を砥粒表面に付着させ(S12a)、また、その触媒を活性化させる工程(S12b)を含む。メッキ工程は、砥粒にニッケルコーティングを施す工程である。加水分解工程は、砥粒にニッケルコーティングを施す際に温度を上げて加水分解する工程である。腐食工程は、メッキ工程(S14)及び加水分解工程(S16)後のコーティングした砥粒を腐食する工程である。
【0030】
(洗浄工程)
最初に砥粒表面の油脂や不純物を落とすために前処理工程を行う。はじめに、洗浄液を作製する。次に、ポリプロピレン(PP)製の容器にイオン交換水をメスシリンダーで120ml入れ、続いて洗浄用薬品をピペットで10ml入れ撹拌する。そして、液量が200mlになるまでイオン交換水を足して洗浄液を作製する。
【0031】
その後、作製した洗浄液(最適洗浄液濃度50ml/l)を50℃(管理範囲40~55℃)になるまでメッキ液加熱装置を用いて湯煎し温め、50℃に達したら砥粒を洗浄液に入れ、5分間(管理範囲3~7分)撹拌を行う。次に、砥粒表面の洗浄液を落とすために、PP製の容器に300ml程度イオン交換水を入れ、水洗を行う。そして、砥粒をイオン交換水に入れ、1分程度撹拌し水洗する。
【0032】
(前処理工程)
最初にニッケルメッキの成長を早める触媒を砥粒表面に付着させる工程を説明する。まず、PP製の容器に、イオン交換水をメスシリンダーで160ml入れ、粉末の薬品を54g計量し投入し完全に溶解させ、水溶液を作製する。そして、イオン交換水を200mlになるまで入れて撹拌し、均一な水溶液とする。
【0033】
水溶液を作製した後、30℃になるまで湯煎を行い、30℃に達したら容器に砥粒を入れ、2分間撹拌を行う。その後、砥粒に付着した過剰な薬品を落とすため、PP製の容器にイオン交換水を300ml入れ、そこに砥粒を入れ1分程度撹拌し水洗を行う。
【0034】
その後、PP製の容器にイオン交換水をメスシリンダーで160ml入れ、粉末の薬品を54g計量し投入し完全に溶解させる。そして、イオン交換水を194mlになるまで入れたら、撹拌しながら液体の薬品をピペットで6ml入れ均一な水溶液とする。
【0035】
水溶液を作製したら30℃になるまで湯煎を行い、30℃に達したら容器に砥粒を入れ、8分間撹拌を行う。その後、砥粒に付着した過剰な薬品を落とすため、PP製の容器にイオン交換水を300ml入れ、そこに砥粒を入れ1分程度撹拌し水洗を行う。
【0036】
次に砥粒とニッケルメッキとの密着を強固にさせるために、先に付着させた触媒の活性化を行う。まず、PP製の容器に、イオン交換水をメスシリンダーで160ml入れ、続いてピペットを用いて薬品を20ml入れる。そして、イオン交換水を液量が200mlになるまで入れて撹拌し、均一な水溶液とする。
【0037】
水溶液を作製した後、25℃になるまで湯煎を行い、25℃に達したら容器に砥粒を入れ、3分程度撹拌を行う。その後、砥粒に付着した過剰な薬品を落とすため、PP製の容器にイオン交換水を300ml入れ、そこに砥粒を入れ1分程度撹拌し水洗を行う。
【0038】
(無電解メッキ工程及び加水分解工程)
次にメッキ工程及び加水分解工程を行った。最初に、メッキ液を作製する。作製するメッキ液量に応じて、次亜リン酸ナトリウム水溶液と硫酸ニッケル水溶液とを秤量する。例えば、作製するメッキ液量が200mlの場合、次亜リン酸ナトリウムを30ml、硫酸ニッケルを10.8ml含む水溶液となる。同様に、作製するメッキ液量が300mlの場合、次亜リン酸ナトリウムを45ml、硫酸ニッケルを16.2ml含む水溶液となる。作製するメッキ液量が400mlの場合、次亜リン酸ナトリウムを60ml、硫酸ニッケルを21.6ml含む水溶液となる。作製するメッキ液量が500mlの場合、次亜リン酸ナトリウムを75ml、硫酸ニッケルを27ml含む水溶液となる。
【0039】
具体的なメッキ液の作製方法は、まず、ガラス製ビーカーに作製したいメッキ液量の半分のイオン交換水をメスシリンダーを用いて入れる。次にピペットを用いて作製条件に従い次亜リン酸ナトリウムを入れ、充分に撹拌する。そして、ピペットを用いて作製条件に従って硫酸ニッケルを入れ、充分に撹拌する。最後に所定の液量までイオン交換水を入れる。
【0040】
次にメッキ液を加熱する。目標とする温度までメッキ液を撹拌しながら湯煎し温める。目標とする温度に達したら砥粒をメッキ液に入れ、メッキ液を常に撹拌させて砥粒表面にニッケルコーティングを施していく。メッキ終了後、撹拌を止め、砥粒を回収し、砥粒表面に付いているメッキ液を洗い流すために水洗を行う。PP製のビーカーに300mlのイオン交換水を入れ、そこに砥粒を入れ1分間撹拌させ水洗を行う。
【0041】
(腐食工程)
その後、腐食工程を行った。ビーカーの中に腐食液を入れた後、砥粒を腐食液に入れ、ガラス棒で腐食液を常に撹拌させてコーティングした砥粒の腐食を行う。なお、砥粒を投入した時間を腐食開始時間とする。腐食終了後、撹拌を止め、砥粒を回収し、砥粒表面に付いている腐食液を洗い流すために水洗を行う。PP製のビーカーに800mlのイオン交換水を入れ、そこに砥粒を入れ1分間撹拌させ水洗を行う。
【0042】
(加熱槽)
図2は、ニッケルコーティング砥粒作製装置の加熱槽10の概略断面図である。図2に示すように、メッキ液Lを入れたガラスのビーカー12を台14に設置し、加熱槽10に水Wを供給する。次に、加熱槽10の設定温度を調整し、メッキ温度になるまでメッキ液Lの温度を上昇させる。その際、ビーカー12内のプロペラ16をモータ18で駆動し、ビーカー12内のメッキ液Lを撹拌する。メッキ液Lが目標となる温度に達した段階で、砥粒20をメッキ液Lに入れ、無電解メッキによるコーティングを行う。なお、メッキ液Lの温度が目標となる温度に達した時間をメッキ開始時間とする。
【0043】
[参考例]
(ダイヤモンド砥粒の無電解メッキ)
参考例の試料では、ダイヤモンド砥粒の表面に凹凸を付け、砥粒表面を尖った状態でメッキするための前段階として、加水分解せずにメッキしたときのメッキ時間における砥粒表面の変化を観察した。実験条件は、砥粒径90~120μmのダイヤモンド砥粒を、液量400ml、メッキ温度86~88℃のニッケルメッキ液に所定時間(10~60分)浸漬した。
【0044】
図3(a)は、メッキ前のダイヤモンド砥粒の表面の写真を示す図、図3(b)は、メッキ開始から10分後のコーティングされたダイヤモンド砥粒の表面の写真を示す図である。なお、撮影はデジタルマイクロスコープを用いた。図3(a)に示す砥粒は光沢がないのに対し、図3(b)に示す砥粒表面は光沢があることがわかる。
【0045】
次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてメッキ時間の違いによるコーティングした砥粒表面の変化を観察した。図4(a)は、メッキ前の砥粒のSEM写真を示す図、図4(b)は、メッキ開始から10分後のコーティングされた砥粒のSEM写真を示す図である。図5(a)は、メッキ開始から30分後のコーティングされた砥粒のSEM写真を示す図、図5(b)、メッキ開始から60分後のコーティングされた砥粒のSEM写真を示す図である。
【0046】
図4(a)、図4(b)に示すように、メッキ時間が10分のコーティングされた砥粒の形状は尖っているが、表面は滑らかになっていることがわかる。これは、メッキすることで砥粒の表面に被膜ができたためだと考えられる。また、図5(a)、図5(b)に示すように、メッキ時間が長くなるにつれてコーティングした砥粒の形状が丸くなり、径が大きくなることがわかる。これは、メッキ時間が長くなるにつれて多くのニッケルが析出し、砥粒の表面がニッケルで覆われたためだと考えられる。以上のことから、ダイヤモンド砥粒を無電解メッキすることができ、メッキ時間が長くなるほど、メッキは進行することが明らかとなった。
【0047】
[実施例1]
(無電解メッキした砥粒を腐食して加水分解した場合)
実施例1の試料では、メッキ後の砥粒を腐食した。そして、腐食した砥粒表面にメッキ時間が与える影響について検討した。腐食条件は、腐食成分の濃度が35~37%の液量50mlの腐食液に所定時間砥粒を浸漬した。
【0048】
図6(a)は、メッキを30分行った後に腐食した砥粒のSEM写真を示す図、図6(b)は、メッキを60分行った後に腐食した砥粒のSEM写真を示す図である。図6(a)、図6(b)に示すように、メッキ後のコーティングした砥粒を腐食することで砥粒径が小さくなり、砥粒表面に凹凸が形成されることがわかる。また、メッキ時間が長くなるにつれて、腐食後の砥粒表面に多くの凹凸が形成されていることがわかる。
【0049】
その後、腐食した砥粒を再びメッキ液に投入し、加水分解した。加水分解の条件は、メッキ液の温度が90~99℃(好ましくは95~98℃)、メッキ液に浸漬する時間が45分である。図7は、メッキして腐食した砥粒を加水分解した場合のSEM写真を示す図である。なお、腐食した砥粒は、図6(b)に示す砥粒を用いた。図7に示すように、腐食した砥粒を加水分解させることでコーティングした砥粒表面に多くの凹凸が形成され、表面が滑らかになっていることがわかる。また、加水分解後のメッキ液が濁っているため、ニッケルが急激に析出したことがわかる。また、泡が発生することで砥粒がまばらにコーティングされ、砥粒表面に凹凸が形成されたと考えられる。
【0050】
以上のことから、超砥粒の表面にメッキでコーティングされた金属層の一部が加水分解する温度で処理することで、コーティングした砥粒の表面にこれまでにない凹凸形状を持たせることができる。また、加水分解は、超砥粒の表面に無電解メッキでコーティングしてから腐食する腐食工程の後に行われる。これにより、コーティングれた砥粒の表面に多くの凹凸が形成され、また、表面が滑らかになる。
【0051】
[実施例2]
(無電解メッキ液を加水分解した場合)
実施例2の試料では、砥粒を尖らせるために、前処理後の砥粒をメッキ液に投入し、加水分解した際の、砥粒表面に与える影響について検討した。図8は、加水分解後の砥粒表面のSEM写真を示す図である。図8に示すように、加水分解するとコーティングした砥粒表面に細かい凹凸が形成されることがわかる。これは、加水分解によってニッケルが急激に析出し、細かなニッケルが砥粒表面に付着したためだと考えられる。
【0052】
次に、加水分解後もメッキし続け、加水分解時間を変化させた際の砥粒表面を観察した。図9(a)は、加水分解時間3分でコーティングした砥粒のSEM写真を示す図、図9(b)は、加水分解時間15分でコーティングした砥粒のSEM写真を示す図である。なお、加水分解直後を加水分解時間0分とし、加水分解時間15分で反応が止まった。図9(a)に示すように、加水分解時間が長くなるにつれてコーティングされた砥粒の表面に満遍なく細かな凹凸が形成されることがわかる。しかしながら、図9(b)に示すように、加水分解の時間が長くなりすぎると、コーティングした砥粒の形状は丸みを帯びる。
【0053】
以上のことから、砥粒をメッキ液の中で加水分解することで砥粒表面が急激にメッキされ、加水分解後も一定時間メッキし続けることで満遍なく凹凸を形成できることが明らかとなった。このように、超砥粒の表面に無電解メッキでコーティングする際に加水分解を行うことで、コーティングされた砥粒の表面に細かな凹凸を形成できる。
【0054】
[実施例3]
実施例3の試料では、加水分解直後に新たに常温のメッキ液20mlを追加し、メッキ液の温度を90度まで下げた。その後、メッキ液の温度が90度を維持するように温度管理を行いながら、メッキを行った。
【0055】
図10(a)は、メッキ液追加直後のコーティングした砥粒のSEM写真を示す図、図10(b)は、メッキ液追加後10分のコーティングした砥粒のSEM写真を示す図である。なお、加水分解はメッキ液投入から10分後に反応が止まった。図10(a)に示すように、加水分解後にメッキ液を追加することでコーティングした砥粒表面に細かい凹凸が多く形成されていることがわかる。また、図10(a)と図8を比較すると、メッキ液を追加した直後のコーティングした砥粒のコーティング部が更に尖っていることがわかる。これは、加水分解中にメッキ液を追加したことでメッキ液の温度が下がり、加水分解によるニッケルの析出が一部で弱まる。そのため、砥粒表面がまばらにコーティングされたと考えられる。
【0056】
しかしながら、図10(b)に示すように、メッキ時間が長くなるにつれてコーティングした砥粒形状は丸くなり、表面は滑らかになっていることがわかる。これは、メッキ液の温度が下がることにより、徐々に加水分解の反応が弱くなったためだと考えられる。以上のことから、加水分解直後にメッキ液を追加し、メッキ液の温度を90度にすることでコーティングした砥粒は更に尖った形状になることが明らかとなった。したがって、コーティングした砥粒の固着力が強化され、電着工具に使用する際、砥粒が脱落しにくくなると考えられる。
【0057】
[実施例4]
(加水分解してコーティングした砥粒を腐食して再び加水分解した場合)
実施例1の試料では、メッキ後に腐食した砥粒を再びメッキ液に投入し、加水分解させることで、コーティングした砥粒表面に凹凸が形成されることが明らかとなった。そこで、実施例4の試料は、図10(a)に示す加水分解時間3分の砥粒を腐食して凹凸を形成したものである。そして、腐食した砥粒を再びメッキ液に投入し、加水分解した。
【0058】
図11(a)は、加水分解後に腐食した砥粒のSEM写真を示す図、図11(b)は、腐食後再び加水分解した砥粒のSEM写真を示す図である。図11(a)に示すように、加水分解後のコーティングした砥粒を腐食することで砥粒径が小さくなり、砥粒表面に凹凸が形成される。これは、加水分解によって形成された砥粒表面の凹部に、腐食液が入り込むことでメッキ部が溶解し、凹部が広がったためだと考えられる。また、図11(b)に示すように、コーティングした砥粒表面に細かい凹凸が全周に形成されていることがわかる。これは、腐食の影響で広がった砥粒表面の凹部に、加水分解によって細かなニッケルが付着したためだと考えられる。また、図11(b)と図7を比較すると、腐食してから加水分解させることで、コーティングした砥粒表面の細かな凹凸が増えていることがわかる。このことから、ダイヤモンド砥粒の表面に凹凸を付け、砥粒表面を尖った状態でメッキする方法が明らかとなった。
【0059】
[実施例5]
実施例5の試料は、上述の各実施例における無電解メッキでコーティングする際に用いるメッキ液にカーボンナノチューブが含有されたものを用いた。これにより、カーボンナノチューブのアンカー効果によりコーティングと超砥粒との結合力が増す。
【0060】
(無電解メッキを行った砥粒の被膜試験)
ダイヤモンド砥粒にニッケルが充分に被膜されているか試験、評価を行った。図12は、コーティングした砥粒の被膜強度試験を模式的に示した図である。図12に示すように、ガラス22の上にコーティングした砥粒24を置き、砥粒24の上からガラス26を押し付け矢印のように楕円を描きながらガラスを50回回転させ、ニッケル被膜が砥粒から剥離しないか評価を行った。
【0061】
図13(a)は、60分メッキした砥粒の試験前の写真を示す図、図13(b)は、試験後の砥粒の写真を示す図である。図13(a)、図13(b)に示すように、試験前後を比較するとコーティングした砥粒の形状が変化していないことがわかる。
【0062】
次に、メッキ後に腐食して加水分解させた砥粒の試験を行った。図14(a)は、メッキ後に腐食して加水分解した砥粒の試験前の写真を示す図、図14(b)は、試験後の砥粒の写真を示す図である。図14(a)、図14(b)に示すように、試験によってコーティングした砥粒表面の凹凸の形状が変化せず、光沢があることがわかる。
【0063】
次に、加水分解後に腐食して加水分解した砥粒の試験を行った。図15(a)は、加水分解後に腐食して加水分解した砥粒の試験前の写真を示す図、図15(b)は、試験後の砥粒の写真を示す図である。図15(a)、図15(b)に示すように、表面の細かい凹凸が維持され、加水分解の有無に関わらず、ニッケルが剥離していないことがわかる。以上のことから、加水分解した場合でも、砥粒にコーティングされたニッケルの強度は保たれることが明らかとなった。そのため、各メッキ条件でコーティングした砥粒を電着工具に用いても、ニッケルが剥離することなく、加工することができると考えられる。
【0064】
以上の実験や観察結果を基に明らかになったことを以下に列挙する。
(1)無電解メッキによってダイヤモンド砥粒をコーティングすることができ、メッキ時間が長くなるにつれて、コーティングした砥粒径は丸くなる。
(2)メッキした砥粒を腐食することで、コーティングした砥粒表面に凹凸が形成される。また、腐食した砥粒を加水分解させることで、更に多くの凹凸が形成され、表面が滑らかになる。
(3)メッキ液を加水分解させることで砥粒表面が急激にメッキされ、加水分解後も一定時間メッキし続けることで、コーティングした砥粒表面に満遍なく凹凸を形成できる。
(4)加水分解直後に常温のメッキ液を追加し、メッキ液の温度を下げることで、コーティングした砥粒は尖った形状になる。
(5)加水分解後の砥粒を腐食し、再びメッキ液に入れてから、加水分解することでコーティングした砥粒の表面に凹凸が形成され、尖った状態の砥粒を作製できる。
(6)加水分解の有無に関わらず、被膜強度試験後も被膜が剥離しないことから、砥粒にコーティングされたニッケルの強度は保たれる。
【0065】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態や各実施例に限定されるものではなく、実施の形態や各実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態や各実施例における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態や各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0066】
10 加熱槽、 12 ビーカー、 14 台、 16 プロペラ、 18 モータ、 20 砥粒、 22 ガラス、 24 砥粒、 26 ガラス。
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図10
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