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  • 特許-木造建築物の耐火構造及びその施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】木造建築物の耐火構造及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240122BHJP
   E04C 3/14 20060101ALI20240122BHJP
   E04C 3/36 20060101ALI20240122BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240122BHJP
   B32B 21/10 20060101ALI20240122BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240122BHJP
【FI】
E04B1/94 R
E04C3/14
E04C3/36
B32B5/18
B32B21/10
B32B7/027
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020061847
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161653
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 絵美
(72)【発明者】
【氏名】勝野 聖世
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179889(JP,A)
【文献】特開2006-083598(JP,A)
【文献】特開2007-046286(JP,A)
【文献】特開2013-142246(JP,A)
【文献】特開2015-129431(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0361894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04C 3/14
E04C 3/36
B32B 5/18
B32B 21/10
B32B 7/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)木造建築物の荷重を支持する荷重支持木材と、(2)該荷重支持木材の外側に設けられたシート状無機繊維層と、(3)該シート状無機繊維層の外側に設けられた輻射熱を反射する輻射熱反射層と、(4)該輻射熱反射層の外側に設けられた200℃以上で発泡して断熱性を発現する加熱発泡層と、(5)該加熱発泡層の外側に設けられた化粧材とを備え、前記シート状無機繊維層と輻射熱反射層とが繰り返し積層されていることを特徴とする木造建築物の耐火構造。
【請求項2】
前記シート状無機繊維層がシート状ロックウールであり、前記輻射熱反射層がアルミニウムはくであることを特徴とする請求項に記載の木造建築物の耐火構造。
【請求項3】
前記加熱発泡層が酢酸ビニル共重合樹脂とポリリン酸アンモニウムとを含有するシート状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木造建築物の耐火構造。
【請求項4】
前記シート状無機繊維層と輻射熱反射層とをあらかじめ貼り合わせた輻射熱反射性断熱部材として施工することを特徴とする請求項1~請求項に記載の木造建築物の耐火構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の耐火構造及びそれに用いる木質構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木造建築物の耐火構造としては例えば、荷重を支持する集成材からなる芯材と、芯材の外側に設けられ、吸熱性および断熱性を有する無機質材料からなる第2燃え止まり層と、第2燃え止まり層の外側に設けられ、加熱により増厚して断熱性を発現するシート状の第1燃え止まり層と、第1燃え止まり層の外側に設けられる仕上げ材とを備えるようにする構造(特許文献1参照。)や、荷重を支持する木質材料からなると、芯材の外側に設けられる空気層と、空気層の外側に設けられる吸熱性および断熱性を有する無機質材料と、無機質材料の外側に設けられる耐火被覆材と、耐火被覆材の外側に設けられる仕上げ材とを備えるようにする構造(特許文献2参照。)がある。
【0003】
しかし、これらの構造は、柱、梁、壁等の荷重支持部材を火災時の燃焼熱から保護するために厚い被覆をする必要があり、結果的に構造の断面積が大きくなって建築物の重量が増し、建物内の有効面積が低減してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-129431号公報
【文献】特開2017-179889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、断面積の小さな木造建築物の耐火構造を提供する点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の木造建築物の耐火構造は、(1)木造建築物の荷重を支持する荷重支持木材と、(2)該荷重支持木材の外側に設けられたシート状無機繊維層と、(3)該シート状無機繊維層の外側に設けられた輻射熱を反射する輻射熱反射層と、(4)該輻射熱反射層の外側に設けられた200℃以上で発泡して断熱性を発現する加熱発泡層と、(5)該加熱発泡層の外側に設けられた化粧材とを備えることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の木造建築物の耐火構造によれば、断面積の小さな耐火構造(柱、梁、壁等)を得られるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の耐火構造(柱)の例を示した断面図である。
図2】本発明の耐火構造(壁)の例を示した断面図である。
図3】本発明の耐火構造(梁)の例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の木造建築物の耐火構造1は、例えば以下のようなものである。
図1に示すように木造建築物の荷重を支持する(1)荷重支持木材2としての断面寸法300mm×300mmのスギ集成材(柱)と、(2)該スギ集成材の外側に設けられたシート状無機繊維層3としての厚さ1.5mmのシート状ロックウールと、(3)該シート状ロックウールの外側に設けられた輻射熱を反射する輻射熱反射層4としての厚さ20μmのアルミニウムはくと、(4)該アルミニウムはくの外側に設けられた200℃以上で発泡して断熱性を発現する加熱発泡層としての厚さ5mmのポリリン酸アンモニウムと酢酸ビニル共重合樹脂とを含有するシートと、(5)該発泡形耐火被覆シートの外側に設けられた化粧材5としての厚さ19mmのヒノキ製材とが備えられている。
【0010】
前記荷重支持木材2としては、柱以外にも梁、壁、床等が挙げられる。
前記荷重支持木材2としては、スギに限らず任意の樹種を設定することができる。例えば、スギ、カラマツ、ヒノキ、イチイ等の針葉樹、サクラ、ケヤキ、ブナ、クヌギ、ナラ等の広葉樹が挙げられる。
【0011】
前記荷重支持木材2としては、集成材に限らず任意に設定することができる。例えば、製材、単板積層板(LVL)、直交集成板(CLT)、合板等が挙げられる。
【0012】
前記荷重支持木材2には、リン酸、ホウ酸等の難燃薬剤を浸透させて難燃性を付与しても良い。
【0013】
前記荷重支持木材2の断面寸法は建築物に必要とされる荷重を指示するために必要な断面寸法を任意に設定することができる。
【0014】
前記シート状無機繊維層3は荷重指示木材の外側に設けられることが必要である。
【0015】
前記シート状無機繊維層3は対流による伝熱を遅らせるために設けられ、シート状ロックウールに限らず、対流による伝熱を遅らせる効果のある材料であれば任意に設定することができる。例えば、セラミックファイバー、グラスウール等が挙げられる。前記無機繊維は紙すきの要領で抄造してシート状に成形して用いても良い。これらのうち、シート状ロックウールまたはセラミックファイバーを用いることが好ましい。前記セラミックファイバーはセラミックファイバーのバルクをシート状にしたものを用いることが好ましく、例えば、ニチアス株式会社のファインフレックスBIOペーパー、イソライト工業株式会社の1260ペーパーS、1600ペーパーイソウール、1260エースペーパー、イソウール1500エースペーパー等が挙げられる。シート状無機繊維を用いることにより、石こうボード、ケイ酸カルシウム板、難燃剤を浸透させた木材等を用いる場合に比べて耐火構造1の断面積を低減することができる。
【0016】
前記シート状無機繊維層3の1層あたりの厚さは0.3~5.0mmであることが好ましく、0.5~3.0mmであることがより好ましく、0.7~2.0mmであることが最も好ましい。
【0017】
前記シート状無機繊維層3の荷重支持木材2への固定方法は任意に設定することができる。例えば、接着剤、両面テープ、建築用ステープル、釘、ビス(以下、「タッカー」という。)等で固定しても良い。接着剤としてはシート状無機繊維層3を荷重支持木材2に接着するものであれば任意に設定することができる。例えば、エチレン酢酸ビニル樹脂接着剤、酢酸ビニル樹脂接着剤、アクリル樹脂接着剤、ポリビニルアルコール接着剤、ウレタン樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤等が挙げられる。
【0018】
前記シート状ロックウールはロックウール繊維を抄造又は加圧等することによりシート状に成形したもので、結合材としてのポリビニルアルコール、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の合成樹脂を含有させても良い。また、ガラス繊維等の他の無機繊維や水酸化アルミニウム等の結晶水を含有する無機材料を含有させても良い。
【0019】
前記輻射熱反射層4はシート状無機繊維層3の外側に設けられることが必要である。
前記輻射熱反射層4はアルミニウムはくに限らず、輻射熱を反射する材料であれば任意に設定することができる。例えば、金、銀、銅等の金属、酸化チタン、酸化マグネシウム等の白色酸化物が挙げられる。これらのうち、金属は金属箔の状態で用いることが好ましい。また、酸化チタン等の白色酸化物は塗料等の形態で用いることが好ましい。
【0020】
前記輻射熱反射層4の厚さは好ましくは5~50μmであり、より好ましくは10~35μmであり、最も好ましくは15~30μmである。
【0021】
前記輻射熱反射層4のシート状無機繊維層3への固定方法は任意に設定することができる。例えば、接着剤、両面テープ、建築用ステープル、釘、ビス(以下、「タッカー」という。)等で固定しても良い。接着剤としてはシート状無機繊維層3を荷重支持木材2に接着するものであれば任意に設定することができる。例えば、エチレン酢酸ビニル樹脂接着剤、酢酸ビニル樹脂接着剤、アクリル樹脂接着剤、ポリビニルアルコール接着剤、ウレタン樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤等が挙げられる。
【0022】
前記輻射熱反射層4とシート状無機繊維層3とはあらかじめ積層させて用いることが好ましい。このように構成することにより、輻射熱反射層4を金属箔とした場合の施工性に優れる。
【0023】
前記輻射熱反射層4とシート状無機繊維層3とは繰り返し積層しても良い。例えば、シート状無機繊維層/輻射熱反射層/シート状無機繊維層/輻射熱反射層、シート状無機繊維層/輻射熱反射層/シート状無機繊維層/輻射熱反射層/シート状無機繊維層/輻射熱反射層、シート状無機繊維層/輻射熱反射層/シート状無機繊維層/輻射熱反射層/シート状無機繊維層/輻射熱反射層/シート状無機繊維層/輻射熱反射層、シート状無機繊維層/輻射熱反射層/シート状無機繊維層、輻射熱反射層/シート状無機繊維層/輻射熱反射層等の構成が挙げられる。
【0024】
前記加熱発泡層は輻射熱反射層4の外側に設けられることが必要である。
【0025】
前記加熱発泡層は火災時の燃焼熱により200℃以上で発泡してシート状無機繊維層3を形成するものであれば任意に設定することができる。例えば、ポリリン酸アンモニウムと合成樹脂とを含有するもの、膨張性黒鉛と合成樹脂とを含有するもの等が挙げられる。
【0026】
前記加熱発泡層の形態は任意に設定することができる。例えば、シート状、塗料状等が挙げられる。これらのうち、シート状で用いると施工性に優れる。
【0027】
前記加熱発泡層の厚さは必要とされる耐火時間に応じて任意に設定することができる。
【0028】
前記加熱発泡層に用いる合成樹脂は任意に設定することができる。例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム等が挙げられる。これらのうち酢酸ビニル樹脂又は酢酸ビニル樹脂と他の合成樹脂とを共重合させた酢酸ビニル共重合樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
前記ポリリン酸アンモニウムと酢酸ビニル共重合樹脂とを含有するシートには、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、酸化チタン、メラミン等を含有することが好ましい。
【0030】
前記化粧材5は加熱発泡層の外側に設けられることが必要である。
【0031】
前記化粧材5は柱・梁・壁等の耐火構造1に意匠性を付与するために備えられる。化粧材5は木材に限らず意匠性を付与するものであれば任意に設定することができる。例えば、壁紙、塗料等でも良い。
【0032】
前記化粧材5に木材を用いる場合には樹種はヒノキに限らず任意に設定することができる。例えば、スギ、カラマツ、ヒノキ、イチイ等の針葉樹、サクラ、ケヤキ、ブナ、クヌギ、ナラ等の広葉樹が挙げられる。
【0033】
前記化粧材5に木材を用いる場合には材種は製材に限らず任意に設定することができる。例えば、突板、単板積層板(LVL)等が挙げられる。また、木材の表面に塗装をしても良い。
【0034】
以上のように構成された木造建築物の耐火構造1は、火災時に以下のような機構で構造を保持する。
【0035】
本発明の耐火構造1が火災時の燃焼熱を受けると、最表面の化粧材5が燃焼する。続いて表面温度が200℃以上に達すると加熱発泡層が発泡してシート状無機繊維層3を形成することで熱の伝達を遅らせる。加熱発泡層の厚さが5mm前後であれば、ISO834の標準加熱曲線に従って耐火炉内で加熱を行った場合、約1時間程度は荷重支持木材2に着火せずに耐えることができる。加熱発泡層の発泡温度は200℃以上であるので、荷重支持木材2に直接加熱発泡層が接している状態で加熱終了後に耐火炉内に放置していると徐々に炉内の残熱が荷重支持木材2に伝わり、最終的には木材の着火温度である260℃前後に到達してしまう。しかし、本発明の耐火構造1では、荷重支持木材2と加熱発泡層との間にシート状ロックウールとアルミニウムはくとが積層されているために、炉内の残熱が荷重支持木材2に伝わる前に炉内が冷えてゆき、荷重支持木材2には着火しない。
【0036】
以下、本発明を実施例と比較例により説明する。木造建築物の耐火構造であって1時間耐火の性能を得るために必要な構成例である。なお、被覆材は荷重支持木材2に近い側を上段に、遠い側を下段になるように記載した。加熱発泡層はポリリン酸アンモニウムと酢酸ビニル共重合樹脂とを含有するシートを使用した場合である。本発明の耐火構造は最も断面積が小さい。
【0037】
【表1】
【符号の説明】
【0038】
1 耐火構造
2 荷重支持木材
3 シート状無機繊維層
4 輻射熱反射層
5 化粧材

図1
図2
図3