(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】リッツ線ケーブル編組用のケーブル繰り出し装置と、リッツ線ケーブルの編組方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20240122BHJP
B65H 49/20 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
H01B13/00 E
B65H49/20
(21)【出願番号】P 2021027054
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕二
(72)【発明者】
【氏名】會澤 賢二
(72)【発明者】
【氏名】杉村 智
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-102637(JP,U)
【文献】特公昭49-9406(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
B65H 49/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられた回転盤と、
上記回転盤において当該回転盤の回転円の円周に沿って互いに180°ずれた位置に形成され、複数のリッツ線ケーブルを1本のケーブル束として上記回転盤の一方の側面側から他方の側面側へ引き出すための一対の貫通孔と、
上記回転盤の一方の側面側に、上記各貫通孔に対応して配置されるとともに、上記回転盤に対して回転自在に取り付けられ、上記複数のリッツ線ケーブルがそれぞれ巻かれた複数のボビンを装着可能にした一対のボビンホルダと
を備え、
上記ボビンが装着された状態の上記ボビンホルダの重心を当該ボビンホルダの回転軸線から偏心させ、上記重心が上記回転軸線より下方に位置することによって当該ボビンホルダの姿勢が保たれ、上記リッツ線ケーブルの姿勢が保たれる構成にした
リッツ線ケーブル編組用のケーブル繰り出し装置。
【請求項2】
上記貫通孔が、上記回転盤を貫通し、当該回転盤に対して回転自在にされた筒部材で構成された請求項1に記載のリッツ線ケーブル編組用のケーブル繰り出し装置。
【請求項3】
上記貫通孔内、上記貫通孔の上記リッツ線ケーブルが挿入される入口側近傍、または上記リッツ線ケーブルが引き出される上記貫通孔の出口側近傍のうち少なくともいずれか1か所に、当該貫通孔に対応する上記ボビンホルダに装着された複数の上記ボビンから引き出された複数のリッツ線ケーブルからなるケーブル束の姿勢を整えるためのガイドを備えた請求項1または2に記載のリッツ線ケーブル編組用のケーブル繰り出し装置。
【請求項4】
上記貫通孔の上記リッツ線ケーブルが挿入される入口と上記ボビンホルダとの間に、当該ボビンホルダに装着された各ボビンから引き出されたリッツ線ケーブルをそれぞれ分離しつつ、各リッツ線ケーブル及び上記ケーブル束の姿勢を整えるガイドを備えた
請求項1~3のいずれか1項に記載のリッツ線ケーブル編組用のケーブル繰り出し装置。
【請求項5】
上記請求項1~4に記載のリッツ線ケーブル編組用のケーブル繰り出し装置の上記回転盤を回転させながら上記一対の貫通孔からそれぞれケーブル束を引き出すとともに、
上記引き出された一対の上記ケーブル束を、各ケーブル束の姿勢を保ったまま、上記回転盤の回転軸線の近傍であって上記回転盤から所定の間隔を保った位置で別々に保持し、
上記回転盤の回転に応じて回転する一対の上記ケーブル束に一定の張力を作用させながら、一対の上記ケーブル束を互いに交差させてケーブル束を編んでいく
リッツ線ケーブルの編組方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リッツ線ケーブル編組用のケーブル繰り出し装置と、リッツ線ケーブルの編組方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、放電処理装置の電源として用いられる、出力が5[kHz]~100[kHz]、ピーク電流値が200[A]の高周波電源の出力用として、交流抵抗を低減するため、単線ではなく、複数の被膜線を縄状に撚ったリッツ線が用いられている。
また、リッツ線に流れる高周波電流による電磁誘導の影響、例えば発熱やノイズ発生を低減するため、電源からの電流の往復用に2つのリッツ線を束ねて用いることも行なわれている。2つのリッツ線の間の距離が小さければ、互いに逆方向に流れる電流によって外部に誘導される磁場が打ち消されるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リッツ線は、高周波電源の出力用として一般に用いられているが、用途や電源の大きさに応じて、太さの異なるリッツ線が必要になる。特に、200[A]というような大電流を流すためには太いリッツ線ケーブルが必要である。例えば、直径が30[mm]以上のケーブルが必要で、特注品が必要になることもあった。
また、様々な用途に適用するために、様々な太さのリッツ線ケーブルを用意することも、コストがかかってしまうという問題の要因になっていた。
【0005】
そこで、大電流用として最低限必要な、直径10[mm]くらいのリッツ線ケーブルを、用途に応じて複数本組み合わせてケーブル束とし、それを1本の太いリッツ線の代わりに用いることが考えられる。この場合、高周波電源の一対の出力端子には、それぞれに上記ケーブル束が接続されることになり、各ケーブル束は、電流の往復用のリッツ線ケーブルとして機能する。したがって、上記一対のケーブル束を撚ったり編んだりして一体化することが必要である。
【0006】
しかし、大電流用のある程度の太さをもったリッツ線ケーブルは、1本でも剛性が高いのに、それが複数本で構成されたケーブル束同士を撚り合わせる作業は容易ではない。
図6は、3本のリッツ線ケーブル1a,1b,1c、2a,2b,2cからなる2つのケーブル束1,2を束ねて巻くように撚り合わせたものを示しているが、単にケーブル束1,2を合わせて撚ったのでは、各リッツ線ケーブル1a,1b,1c、2a,2b,2cの剛性によって撚りが戻ってバラバラになってしまう。撚りが戻らないようにするためには、各リッツ線ケーブル1a,1b,1c、2a,2b,2cに撚り癖がつくまで、撚った状態を治具などで保持しなければならない。
【0007】
そこで、
図7に示すように、各リッツ線ケーブルに捻じれ力を発生させない状態で、第1のケーブル束1と第2のケーブル束2とを、交互に曲げて編むようにすることが考えられる。このように編まれた編組では、蛇行した各ケーブル束1、2が直線に戻ろうとする力が発生したとしても、その力はケーブル束1,2を締め付ける方向の力f、fとして作用するため、編まれた状態がほどけるようなことはない。ただし、
図7のようなリッツ線ケーブルの編組を作るためには、ケーブル束1,2を編む工程で各ケーブル束1,2に捻じれ力が発生しないようにしなければならない。
【0008】
現状では、
図7に示すようなリッツ線ケーブルの編組を編むために、以下のようにしている。まず、ボビンから繰り出されたリッツ線ケーブルを捻じらないように床面に並べてケーブル束1,2を作る。さらに、床面に置かれたケーブル束1,2を捻じらないように、左右交互に移動させて
図7のように編む。ケーブル束1,2を編む際には、床面に載置された各ケーブル束の全長分を捻じれないように支えながら移動させる必要がある。そのため、ケーブル束の全長分を載置するための長い床面と、ケーブル束の全長分を支える複数の作業員が必要で、作業効率が悪かった。
【0009】
この発明の目的は、一対のケーブル束の編組用に、各リッツ線ケーブルに捻じれ力が発生しないようにリッツ線ケーブルを繰り出すことができるケーブル繰り出し装置と、リッツ線ケーブルの編組方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は回転可能に設けられた回転盤と、上記回転盤において当該回転盤の回転円の円周に沿って互いに180°ずれた位置に形成され、複数のリッツ線ケーブルを1本のケーブル束として上記回転盤の一方の側面側から他方の側面側へ引き出すための一対の貫通孔と、上記回転盤の一方の側面側に、上記各貫通孔に対応して配置されるとともに、上記回転盤に対して回転自在に取り付けられ、上記複数のリッツ線ケーブルがそれぞれ巻かれた複数のボビンを装着可能にした一対のボビンホルダとを備え、上記ボビンが装着された状態の上記ボビンホルダの重心を当該ボビンホルダの回転軸線から偏心させ、上記重心が上記回転軸線より下方に位置することによって当該ボビンホルダの姿勢が保たれ、上記リッツ線ケーブルの姿勢が保たれる構成にした。
【0011】
第2の発明は、上記貫通孔が、上記回転盤を貫通し、当該回転盤に対して回転自在にされた筒部材で構成されている。
【0012】
第3の発明は、上記貫通孔内、上記貫通孔の上記リッツ線ケーブルが挿入される入口側近傍、または上記リッツ線ケーブルが引き出される上記貫通孔の出口側近傍のうち少なくともいずれか1か所に、当該貫通孔に対応する上記ボビンホルダに装着された複数の上記ボビンから引き出された複数のリッツ線ケーブルからなるケーブル束の姿勢を整えるためのガイドを備えている。
【0013】
第4の発明は、上記貫通孔の上記リッツ線ケーブルが挿入される入口と上記ボビンホルダとの間に、当該ボビンホルダに装着された各ボビンから引き出されたリッツ線ケーブルをそれぞれ分離しつつ、各リッツ線ケーブル及び上記ケーブル束の姿勢を整えるガイドを備えている。
【0014】
第5の発明は、上記ケーブル繰り出し装置の上記回転盤を回転させながら上記一対の貫通孔からそれぞれケーブル束を引き出すとともに、上記引き出された一対の上記ケーブル束を、各ケーブル束の姿勢を保ったまま、上記回転盤の回転軸線の近傍であって上記回転盤から所定の間隔を保った位置で別々に保持し、上記回転盤の回転に応じて回転する一対の上記ケーブル束に一定の張力を作用させながら、一対の上記ケーブル束を互いに交差させてケーブル束を編んでいくリッツ線ケーブルの編組方法である。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、複数のボビンに巻かれたリッツ線ケーブルからなるケーブル束はねじれが発生しない姿勢が保たれた状態で、各ボビンから繰り出される。したがって、個々のリッツ線ケーブルやケーブル束に捻じれ力を発生させずに、ケーブル束を編むことが容易にできるようになる。
また、リッツ線ケーブルを繰り出しながら編組ができるので、回転盤に対向する作業員が、一人でケーブル束を引きながら編むことができる。従来のように、繰り出された長いケーブル束の全体を支持して移動させるための複数の人手や、繰り出された長いリッツ線ケーブルを載置しておくためのスペースも不要である。
【0016】
第2の発明によれば、回転盤の回転時に、貫通孔を構成する筒部材が、当該筒部材に接触したリッツ線ケーブルと一体的に回転可能になるため、リッツ線ケーブルと貫通孔との摺動抵抗が小さくなり、リッツ線ケーブルをよりスムーズに繰り出すことができる。
【0017】
第3の発明によれば、貫通孔を通過するケーブル束の姿勢を、より整えやすく、ケーブル束を編みやすくなる。
【0018】
第4の発明によれば、複数のボビンから繰り出されて引き出されたリッツ線ケーブルの姿勢をここに整えることができる。結果として、姿勢が整った複数のリッツ線ケーブルからなるケーブル束の姿勢も保たれやすくなる。
【0019】
第5の発明によれば、複数のリッツ線ケーブルからなる一対のケーブル束を、効率よく編むことができる。この方法で編まれた一対のケーブル束は、高周波電源の往復用のケーブルとして用いたとき、外部に電磁誘導の影響を与えにくい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態のケーブル繰り出し装置の正面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の一方のケーブル束の姿勢を示した拡大図である。
【
図5】
図5は、実施形態の他方のケーブル束の姿勢を示した拡大図である。
【
図6】
図6は、一般的なリッツ線ケーブルの撚り線の外観図である。
【
図7】
図7は、姿勢を保って編まれたリッツ線ケーブルの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
以下に、
図1~
図4、
図7を用いてこの発明の実施形態を説明する。
図1は、この実施形態のケーブル繰り出し装置の正面図、
図2は実施形態の平面図の一部、
図3は側面図の一部、
図4は貫通孔の拡大図、
図7は姿勢を保って編まれたリッツ線ケーブルの外観図である。
この実施形態のケーブル繰り出し装置は、
図7に示すようにリッツ線ケーブルを捻じらずに編むための繰り出し装置である。
【0022】
この実施形態の装置は、正面に、
図1に示す回転盤3を備えている。この回転盤3は、直径が約1000[mm]の金属製で、その中心に回転軸4の一端が固定され、図示しない駆動機構によって回転可能にされている。
なお、上記回転軸4の他端側には、回転盤3と同様の形状を有する回転盤5が回転盤3と平行に取り付けられている(
図2,3参照)。そして、回転盤3において回転盤5と対向する側の面が一方の側面3aであり、反対側の面が他方の側面3bである。
【0023】
回転盤3には、回転盤3の回転円に沿った円周c上において回転角度が180°ずれた位置に一対の貫通孔6,7が形成されている。ケーブル繰り出し装置では、これら貫通孔6,7に対応する位置には、回転盤3,5間にかけ渡されるようにボビンホルダ8,8´が設けられている。
【0024】
なお、上記ボビンホルダ8,8´は、それぞれリッツ線ケーブル1a,1b,1c、2a,2b,2cが巻かれた3つのボビンA,B,Cを保持するものである。
また、ボビンA,B,Cから繰り出されるリッツ線ケーブル1a,1b,1c、2a,2b,2cは、上記回転盤3に形成された貫通孔6,7から、引き出される。
図2,
図3に示した矢印xの方向がケーブルの繰り出し方向である。
【0025】
上記一対のボビンホルダ8,8´は同じ構成をしているので、貫通孔6に対応する一方のボビンホルダ8について詳しく説明する。
ボビンホルダ8は、フレーム9と、このフレーム9を回転盤3,5に対して回転自在に支持するための一対の支持筒10,11とを備えている。
フレーム9は金属製で、回転盤3,5に平行に配置される一対の側板12,13と,上記側板12,13と直交し当該側板12,13と一体とされて配置された一対の側板14,15とで長方形の枠形状に形成されている。
【0026】
上記支持筒10,11は、やや長尺の金属製の円筒で、それぞれの一端に設けられたフランジ10a,11aによってフレーム9の側板12,13に固定され、他端側は回転盤3,5に回転自在に取り付けられている。具体的には、支持筒10,11の他端側は、軸受部材16,17を介して回転盤3,5に支持され、その先端を軸受部材16,17から外方(回転盤3,5の上記他方の側面側)へ突出させている。そして、支持筒10,11の軸芯がボビンホルダ8の回転軸線L1(一点鎖線)となり、この回転軸線L1と上記貫通孔6の中心とを一致させている。
【0027】
上記支持筒10,11は、回転軸線L1が、
図2に示すようにフレーム9の幅dの中間位置を通り、
図3に示すようにフレーム9の高さhの中間位置になる中心線L2の上方を通るように配置されている。言い換えると、フレーム9は、その中心線L2が高さ方向で回転軸線L1に対して下方にオフセットして配置されている。このように、回転軸線L1が、フレーム9の高さhの中心線L2の上方を通り、ボビンホルダ8の重心が回転軸線L1の下方に位置するようにしている。このように構成することで、ボビンホルダ8が、自重によって自身の上下位置が
図3に示すように一定に保たれるようにしている。
【0028】
また、
図3に示すように、側板14には、支持軸18を保持するための保持凹部14aと、支持軸19を保持するための保持凹部14bとが、ボビンA,B,Cの最大直径以上の間隔を保って形成されている。ボビンA,B,Cの最大直径以上の間隔を保って形成されていることで、ボビンAと、ボビンB,Cとが接触しないようにフレーム9に保持されている。各保持凹部14a,14bの下端は円弧状に形成されるとともに、これら保持凹部14a,14bは、そこに保持された支持軸18,19が回転軸線L1より下方に位置するように形成されている。
さらに、側板14には、上記保持凹部14aよりケーブルの繰り出し方向下流側において、当該側板14から下方に突出した支持片14cが設けられている。
【0029】
また、上記側板14と対向する側板15には、側板14と同様に、保持凹部14a,14bに対向する位置に、保持凹部15a,15bが形成されている。そして、保持凹部14a,15a間には、ボビンAを回転自在に支持する支持軸18がかけ渡され、保持凹部14b,15b間にはボビンB及びCを回転自在に支持する支持軸19がかけ渡される。
上記のように、保持凹部14a,15a、14b,15bで保持される支持軸18,19が上記回転軸線L1より下方に位置するように構成されているので、ボビンA,B,Cを保持したボビンホルダ8の重心は当然回転軸線L1より下方に位置することになる。
【0030】
また、側板15において支持片14cと対向する位置には支持片15cが設けられ、支持片14cと15cとの間に、第1ガイドローラ20がかけ渡されている。
さらに、上記第1ガイドローラ20と側板12との間には、当該側板12の近くに、第2ガイドローラ21が、側板14と側板15との間にかけ渡されて設けられている。また、第2ガイドローラ21の上方であって、上記側板12の近くに、第3ガイドローラ22が、側板14と側板15との間にかけ渡されて設けられている。これら第2ガイドローラ21と第3ガイドローラ22とは、回転軸線L1を挟んだ上下で、当該回転軸線L1に対してほぼ対称となる位置に設けられている。
【0031】
なお、回転盤3と対向する側板12には、支持筒10に対応する位置に貫通孔12aが形成されている。この貫通孔12aによって、フレーム9の内側と支持筒10内とが連通し、ボビンA,B,Cから繰り出されたリッツ線ケーブル1a,1b,1cを、回転盤3の他方の側面3b側へ引きだすことができるようにしている。この実施形態では、支持筒10が貫通孔6と相まって、リッツ線ケーブル1a,1b,1cを回転盤3の一方の側面3a側から他方の側面3b側へ引き出すための貫通孔を構成するとともに、回転盤3に対して回転自在にされた筒部材である。また、支持筒10は、その内径の大きさや内側面の形状が適当に設定されることで、貫通孔を通過するリッツ線ケーブル1a,1b,1c及びケーブル束1の姿勢を整えるガイドとしても機能する。
【0032】
また、上記回転盤3の他方の側面3bから突出している支持筒10の先端には、摺動抵抗が小さいフッ素系樹脂製のガイド筒23が固定されている。
上記ガイド筒23は、内径を3本のリッツ線ケーブル1a,1b,1cからなるケーブル束1の外接円の直径と同等にして、
図4に示すように支持筒10から引き出されたケーブル束1の姿勢を保つ機能を発揮する。
【0033】
ガイド筒23において上記支持筒10と反対側の開口部には、外方に向かって拡径するテーパー面23aを形成して、ガイド筒23から引き出されて回転盤3の中心方向に向かうケーブル束1をガイドするようにしている(
図3参照)。
ガイド筒23が、貫通孔6のリッツ線ケーブル1a,1b,1cが引き出される出口近傍に設けられ、ケーブル束の姿勢を整えるためのガイドである。
【0034】
なお、
図2、
図3中の符号24,25は、フレーム9の保持凹部14a,15aおよび、保持凹部14b,15bにはめ込まれたボビンA,B,Cの支持軸18,19が保持凹部14a,15a、14b,15b内でガタつかないようにするための押さえ片である。支持軸18,19を保持凹部14a,15a、14b,15bに挿入した後、各支持軸18,19の両端側で、押さえ片24,24、25,25を側板14,15にビス止めする。
【0035】
また、
図2中の符号26は、支持軸18においてボビンAの両側にはめる筒状のスペーサで、支持軸18上のボビンAの位置を当該支持軸18の中間位置に保持するための部材である。
符号27は、支持軸18においてボビンB,Cの両側にはめる筒状のスペーサで、支持軸19上のボビンB,Cの位置を当該ボビンB,Cが側板14,15に接触しないように保持するための部材である。
【0036】
上記したようなボビンホルダ8と同様のボビンホルダ8´が、回転盤3に形成されたもう一方の貫通孔7に対応する位置にも設けられている。そして、両ボビンホルダ8,8´は同様に機能する。
ただし、貫通孔7側のボビンホルダ8´では、繰り出し方向下流側に2個のボビンB,Cを保持させ、上流側にボビンAを保持させる。
【0037】
<作用・効果等>
上記繰り出し装置を用いて、
図7に示すようにリッツ線ケーブルを編み上げる手順を説明する。
まず、ボビンホルダ8にボビンA,B,Cをセットする。
ボビンA及びスペーサ26,26をセットした支持軸18を保持凹部14a,15aに保持させ、ボビンB,C及びスペーサ27,27をセットした支持軸19を保持凹部14b,15bに保持させる。
【0038】
このとき、繰り出し方向下流側のボビンAのリッツ線ケーブル1aはフレーム9の上方から、上流側のボビンB,Cのリッツ線ケーブル1b,1cはフレーム9の下方から、引き出しやすいように、ケーブルの巻き方向を選択する。
【0039】
ボビンホルダ8にボビンA,B,Cをセットしたら、ボビンAのリッツ線ケーブル1a,を第3ガイドローラ22の上を通し,ボビンB,Cのリッツ線ケーブル1b,1cを第1ガイドローラ20、第2ガイドローラ21の下を通してから、3本をまとめて側板12の貫通孔12aから支持筒10(回転盤3の貫通孔6側に取り付けられている支持筒10)に挿入し、ガイド筒23から回転盤3の他方の側面3b側へ引き出す。
【0040】
貫通孔6側のボビンホルダ8のボビンAから繰り出されたリッツ線ケーブル1aは、第1ガイドローラ20及び第2ガイドローラ21の上方に位置されている第3ガイドローラ22を経由し、ボビンB,Cから繰り出されたリッツ線ケーブル1b,1cは、第1及び第2ガイドローラ20,21を経由しているので、ケーブル束1としてガイド筒23から引き出されるときには、
図4に示すように、2本のリッツ線ケーブル1b,1cの上にリッツ線ケーブル1aが乗った正三角形になる。
【0041】
一方、貫通孔7側のボビンホルダ8´では、ボビンA及びスペーサ26,26をセットした支持軸18を、保持凹部14b,15bに保持させ、ボビンB,C及びスペーサ27,27をセットした支持軸19を保持凹部14a,15aに保持させる。
このとき、繰り出し方向上流側のボビンAのリッツ線ケーブル1aはフレーム9の下方から、下流側のボビンB,Cのリッツ線ケーブル1b,1cはフレーム9の上方から、引き出しやすいように、ケーブルの巻き方向を選択する。
【0042】
ボビンホルダ8´では、ボビンB,Cのリッツ線ケーブル2b,2cを第3ガイドローラ22の上を通し、ボビンAのリッツ線ケーブル2aを第1ガイドローラ20及び第2ガイドローラ21の下を通してから、3本をまとめて側板12の貫通孔12aから支持筒10(回転盤3の貫通孔7側に取り付けられている支持筒10)に挿入し、ガイド筒23から回転盤3の他方の側面3b側へ引き出す。
【0043】
ボビンホルダ8´においても、ボビンAから繰り出されたリッツ線ケーブル2aと、ボビンB,Cから繰り出されたリッツ線ケーブル2b,2cとは、上下に離れたガイドローラを経由しているので、ケーブル束2としてガイド筒23から引き出されるときには、
図5に示すように、1本のリッツ線ケーブル2aの上に2本のリッツ線ケーブル2b,2cが乗った逆正三角形になる。
【0044】
なお、上記第1,2,3ガイドローラ20,21,22は、それぞれ、回転盤3に形成された貫通孔6,7及び支持筒10の入り口と、ボビンホルダ8,8´との間に形成されたガイドである。これらガイドは、各ボビンA,B,Cから引き出されたリッツ線ケーブル1a,1b,1c、2a,2b,2cを、それぞれ分離しつつ、
図4及び
図5に示すように各リッツ線ケーブル及びケーブル束1,2の姿勢を整える機能を発揮する。
【0045】
上記ガイド筒23,23から、ケーブル束1,2を引き出したら、作業員は、回転盤3の回転軸線(回転軸4)の近傍であって、回転盤3から所定の間隔を保った位置で、上記のように正三角形状を保ったケーブル束1と逆正三角形を保ったケーブル束2とを別々に持ち、両ケーブル束1,2を手前に適度に引っ張り当該ケーブル束1,2に一定の張力を作用させながら、図示しない駆動機構によって回転盤3を回転させる。これによって、ボビンホルダ8,8´及び支持筒10,11によって回転盤3に連結されている回転盤5も一緒に回転する。
【0046】
回転盤3,5が回転すれば、一対のボビンホルダ8,8´が回転盤3,5の回転軸4を中心とする円周c(
図1参照)に沿って回転する。
ここで、各ボビンホルダ8,8´は、支持筒10,11によって回転盤3,5に対して回転自在に支持されているものの、上記したように各ボビンホルダ8,8´の重心は、回転軸線L1から偏心している。そのため、ボビンホルダ8,8´は、円周cに沿って回転し、多少揺動したとしても自身は回転軸線L1に対して回転することなく自重によって
図3の姿勢を維持する。したがって、各ボビンホルダ8,8´から繰り出されたケーブル束1,2は、回転盤3,5が回転しても捻じれることがなく、
図4,
図5に示したような正三角形及び逆正三角形を維持する。
【0047】
回転盤3,5が回転すれば、各ケーブル束1,2はその姿勢を維持したまま、回転盤3,5の回転に従って円周cの直径に相当する距離を左右に往復する。そこで、ケーブル束1,2を別々に持った作業者は、ケーブル束1,2を手前に適度に引っ張りケーブル束1,2の張力を維持したまま、ケーブル束1,2を持ち替えるようにして互いに交差させ、ケーブル束1,2を編む。このとき、作業者は、自身の腕が捻じれないように、すなわち、ケーブル束1,2を当該ケーブル束1,2の軸心方向に回転させることなく姿勢を維持して当該ケーブル束1,2を編む。このような編組方法で編まれたケーブルは、各ケーブル束1,2に捻じれ力が作用しないため、撚りを戻すような力が発生せず、
図7に示す状態が維持される。
【0048】
また、作業者が、ケーブル束1,2に作用させる張力を一定に保てば、ケーブル束1,2の間隔や屈曲部のピッチを一定にして、ケーブル束1,2の一体性を上げることができる。ケーブル束1,2の一体性が上がれば、高周波電源の出力ケーブルとして用いたとき、誘導磁場の影響をより小さくすることができる。
このように、上記ケーブル繰り出し装置を用いて、リッツ線ケーブルを簡単に編むことができる。
【0049】
なお、上記では、3本のリッツ線ケーブルによって1本のケーブル束を構成する例を説明したが、ケーブル束を構成するリッツ線ケーブルの本数は3本に限らない。ただし、ケーブル束を構成するリッツ線ケーブルの本数に応じて、ひとつのボビンホルダで保持すべきボビンの数が決まる。保持すべきボビンの数が多くなった場合には、それに応じでボビンホルダの大きさや形状を変更する必要がある。
【0050】
ボビンを保持した状態でのボビンホルダの重心が、ボビンホルダの回転軸線L1から偏心し、自重によってボビンホルダの姿勢が維持される構成であれば、ボビンホルダにおけるボビンの配置やボビンの保持方法等は、上記実施形態に限定されない。例えば、ボビンホルダ8の重心は回転軸線L1に一致する位置になるようにしつつ、支持軸18,19が回転軸線L1より下方で保持されるようにしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、貫通孔6,7の出口側近傍にケーブル束の姿勢を整えるためのガイド筒23を設けているが、貫通孔6,7の入口側近傍にケーブル束の姿勢を整えるガイドを設けてもよい。
さらに、ガイドの開口形状を、ケーブル束を構成するリッツ線ケーブルの本数や配置に合わせて変更するようにしてもよい。例えば、上記のように、3本のリッツ線ケーブルで構成されたケーブル束の姿勢を整えるためのガイドには正三角形の開口を形成したり、4本のリッツ線ケーブルの束を整えるガイドに正方形の開口を形成したりすれば、ケーブル束の姿勢をより整えやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
この発明の繰り出し装置を用いて編まれたリッツ線ケーブルは、高周波電源用ケーブルとして特に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1,2 ケーブル束
1a,1b,1c,2a,2b,2c リッツ線ケーブル
3 回転盤
3a 一方の側面
3b 他方の側面
6,7 貫通孔
8,8´ ボビンホルダ
20,21,22 第1~第3ガイドローラ
23 ガイド筒
A,B,C ボビン
L (ボビンホルダの)回転軸線