(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】消臭剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 9/014 20060101AFI20240122BHJP
B01J 20/08 20060101ALI20240122BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240122BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20240122BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20240122BHJP
C01F 7/42 20220101ALI20240122BHJP
【FI】
A61L9/014
B01J20/08 A
B01J20/30
B09B3/00 ZAB
B09B3/70
C01F7/42
(21)【出願番号】P 2021102468
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501362021
【氏名又は名称】株式会社エコ・プロジェクト
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 瑛
(72)【発明者】
【氏名】岡林 誠治
(72)【発明者】
【氏名】時田 孝至
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-089795(JP,A)
【文献】特開2020-142190(JP,A)
【文献】特開昭54-013482(JP,A)
【文献】特開2015-097995(JP,A)
【文献】米国特許第05264023(US,A)
【文献】特許第3030320(JP,B2)
【文献】特開2002-045824(JP,A)
【文献】特開2003-071840(JP,A)
【文献】特開2017-006911(JP,A)
【文献】特開平08-012323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
B01D 53/34-53/73
B01D 53/74-53/85
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
C01F 1/00-17/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムが添加されたアルミニウムドロスを水中で撹拌後、固形分を分離して
400℃にて2時間焼成することを特徴とする消臭剤の製造方法。
【請求項2】
アルミニウムドロスを水中で撹拌する際に、水中にオゾンを供給することを特徴とする請求項1に記載の消臭剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムドロスを原料に用いた消臭剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製品の製造工程においてアルミニウムを溶解すると、溶解したアルミニウムが空気と反応して酸化物や窒化物などが生成する。この酸化物などが含まれる副産物は、アルミニウムドロスと呼ばれ、鉄鋼製造用の副資材として有効利用されてきた。しかし、近頃、鉄鋼スラグからのフッ素等の溶出による水質汚染、土壌汚染が引き金となり、アルミニウムドロスの利用を取りやめる企業が出始めている。
【0003】
こうした背景において、鉄鋼製造用の副資材として有効利用されないアルミニウムドロスが増加し、その大半は、産業廃棄物として埋め立て処分されている。しかし、アルミニウムドロスを埋め立て処分した場合は、アルミニウムと水の反応による水素の発生、窒化アルミニウムと水の反応によるアンモニアの発生、塩化物による塩害、フッ化物による環境汚染などのおそれがあった。
【0004】
このため、アルミニウムドロスの新たな用途の開拓が望まれていた。
【0005】
なお、アルミニウムドロスには、ハロゲンが含まれるため、有効利用する場合には、ハロゲンを除去することが望まれる。ハロゲンの除去方法としては、アルミニウムドロスを湿式処理する方法が知られており、さらに、特許文献1には、湿式処理中に発生するアンモニアをオゾンで酸化する方法が開示されている。また、特許文献1には、処理済みのアルミニウムドロスの用途として、鉄鋼プロセス以外の他の用途、例えば、建材などの各種セラミック製品の原料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、アルミニウムドロスの新たな用途を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルミニウムドロスの新たな用途を見出すために鋭意検討したところ、アルミニウムドロスを水中で撹拌後、固形分を分離して焼成することにより、消臭性能に優れた消臭剤が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の消臭剤の製造方法は、アルミニウムドロスを水中で撹拌後、固形分を分離して焼成することを特徴とする。
【0010】
また、アルミニウムドロスを水中で撹拌する際に、水中にオゾンを供給する。
【0011】
また、炭酸カルシウムが添加されたアルミニウムドロスを水中で撹拌する。
【0012】
本発明の消臭剤は、本発明の消臭剤の製造方法により得られたことを特徴とする。
【0013】
また、比表面積が60m2/g以上であることを特徴する。
【0014】
また、JIS M 8853に基づく定量分析法による強熱減量が20%以上であることを特徴とする。
【0015】
また、吸着開始後24時間における硫化水素静的吸着容量が20g-H2S/100g試料以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の消臭剤及びその製造方法によれば、アルミニウムドロスを原料に用いて、消臭性能に優れた消臭剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例における処理前のアルミニウムドロスのX線回折のグラフである。
【
図2】本発明の一実施例におけるオゾン水処理後のアルミニウムドロスのX線回折のグラフである。
【
図3】本発明の一実施例における炭酸カルシウムのX線回折のグラフである
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の消臭剤の製造方法は、アルミニウムドロスを水中で撹拌後、固形分を分離して焼成するものである。
【0019】
アルミニウムドロスは、アルミニウム製品の製造工程においてアルミニウムを溶解したときに生成する副産物であり、酸化アルミニウムなどの酸化物、窒化アルミニウムなどの窒化物のほか、金属アルミニウム、ハロゲンなどが含まれる。
【0020】
本発明において用いられるアルミニウムドロスの組成は、特定の組成に限定されるものではなく、本発明においては種々の組成のアルミニウムドロスを使用することができ、アルミニウムドロス中の任意の成分を調整したものであってもよい。また、本発明において用いられるアルミニウムドロスの形態は、特定の形態に限定されるものではないが、水との反応性の高さの点から粉末であることが好ましい。
【0021】
また、金属アルミニウムの粉末を含有するアルミニウムドロスは、発火のおそれがある。このため、安全管理のために、不燃性粉体として炭酸カルシウムをアルミニウムドロスに添加する場合がある。本発明においては、このような炭酸カルシウムが添加されたアルミニウムドロスも用いることができる。
【0022】
アルミニウムドロスを水中で撹拌すると、アルミニウムドロスに含まれる金属アルミニウムが水と反応して水酸化アルミニウムと酸素が生成し、アルミニウムの窒化物が水と反応して、水酸化アルミニウムとアンモニアを生成する。この撹拌工程での水和反応処理におけるアルミニウムドロスと水の混合比、温度、撹拌時間等の条件については、特定の条件に限定されるものではないが、アルミニウムドロスに含まれるアルミニウムの窒化物と水の反応が効率的に進みむように設定するのが好ましい。また、撹拌工程は、アンモニアの発生が実質的に停止するまで行うのが好ましい。
【0023】
また、撹拌の方法については、特定の方法に限定されるものではないが、水中に空気をバブリングすることによって撹拌を行えば、撹拌と空気の供給を同時に行うことができるため、水中の酸化反応を促進させることができる。なお、空気をバブリングする場合は、酸化反応をより促進させるために気泡が細かい方が好ましい。
【0024】
また、アルミニウムドロスを水中で撹拌する際に、水中にオゾンを供給すると、発生するアンモニアとオゾンが反応して、硝酸、水、酸素が生成し、アンモニアの大気への放出が防止される。したがって、製造工程中の悪臭の発生を防止するために、撹拌工程において水中にオゾンを供給してもよい。このオゾン水による水和反応処理におけるオゾンの供給方法や供給量等の条件については、特定の条件に限定されるものではないが、アンモニアの大気への放出が防止されるように設定するのが好ましい。また、撹拌にバブリングを用いる場合は、水中にバブリングする空気とともにオゾンを供給するようにしてもよい。
【0025】
撹拌工程の終了後、固形分を分離する。この分離工程は、ろ過などの公知の方法を用いて行うことができる。得られた固形分は、水和反応処理によって原料のアルミニウムドロスから金属アルミニウム、窒化アルミニウム、ハロゲンが除去され、主成分として水酸化アルミニウムを含むものであり、化学的に安定した組成になっている。
【0026】
分離工程の終了後、固形分を焼成する。分離工程後の水酸化アルミニウムは、付着水や結晶水が残存しているため比表面積が小さく、このままでは消臭剤として機能しない。そこで、この焼成工程において、適度の熱処理を行うことで付着水や結晶水をなくして、比表面積を大きくする。この焼成工程の熱処理における温度、時間等の条件については、特定の条件に限定されるものではないが、熱処理後の比表面積が大きくなるように設定するのが好ましい。好ましくは、300~400℃の温度で固形分を焼成する。なお、焼成工程の前に、固形分を乾燥させてもよい。なお、熱処理の温度が300℃未満であると、水酸化アルミニウムから付着水や結晶水が完全になくならず、熱処理後の水酸化アルミニウムの比表面積を大きくすることができないおそれがある。また、熱処理の温度が400℃を超えると、水酸化アルミニウムから水が取れて酸化アルミニウムに変換される。完全に酸化アルミニウムに変換されてしまうと、比表面積が低下するため、消臭剤として機能の低下があり、好ましくない。
【0027】
本発明の消臭剤の製造方法により得られた消臭剤は、比表面積が大きく、60m2/g以上である。比表面積が大きいほど、消臭剤としての高い吸着性能が期待できる。
【0028】
また、本発明の消臭剤の製造方法により得られた消臭剤は、JIS M 8853に基づく定量分析法による強熱減量が20%以上である。 JIS M 8853に基づく定量分析法による強熱減量が多いことは、消臭剤における水酸基の数が多いことを示し、水酸基の数が多いほど、消臭剤としての高い吸着性能が期待できる。
【0029】
また、本発明の消臭剤の製造方法により得られた消臭剤は、硫化水素の吸着性能が極めて高く、吸着開始後24時間における硫化水素静的吸着容量が20g-H2S/100g試料以上である。
【0030】
以上のように、本発明の消臭剤の製造方法によって得られた消臭剤は、極めて優れた消臭性能を有する。したがって、本発明の消臭剤及びその製造方法によれば、アルミニウムドロスを原料に用いて、消臭性能に優れた消臭剤を提供することができる。
【0031】
以下、本発明の消臭剤及びその製造方法の実施形態について、具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態によって限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例】
【0032】
[試料の調整]
(1)水和反応処理を行った試料の調整
アルミニウムメーカーより入手したアルミニウムドロスの粉末45gを450mlの純水中に分散させ、50℃にて48時間、空気のバブリングにより撹拌した。その後、濾過により固形分を分離し、110℃で乾燥させた。こうして得られた粉末を400℃にて2時間焼成することより、硫化水素静的吸着試験用の試料を得た。
【0033】
(2)オゾン水による水和反応処理を行った試料の調整
アルミニウムメーカーより入手したアルミニウムドロスの粉末45gを450mlの純水中に分散させ、50℃にて48時間、空気のバブリングにより撹拌した。このとき、バブリングする空気を経由して、オゾンを2g/時の速度で水中に供給しながら撹拌した。その後、濾過により固形分を分離し、110℃にて乾燥させた。こうして得られた粉末を400℃にて2時間焼成することより、硫化水素静的吸着試験用の試料を得た。
【0034】
(3)炭酸カルシウム添加後の水和反応処理を行った試料の調整
アルミニウムメーカーより入手したアルミニウムドロスの粉末45gを450mlの純水中に分散させ、これにアルミニウムドロス100部に対して市販の炭酸カルシウム20部を添加し、50℃にて48時間撹拌した。その後、濾過により固形分を分離し、110℃で乾燥させた。こうして得られた粉末を400℃にて2時間焼成することより、硫化水素静的吸着試験用の試料を得た。
【0035】
(4)炭酸カルシウム添加後のオゾン水による水和反応処理を行った試料の調整
アルミニウムメーカーより入手したアルミニウムドロスの粉末45gを450mlの純水中に分散させ、これにアルミニウムドロス100部に対して市販の炭酸カルシウム20部を添加し、50℃にて48時間、空気のバブリングにより撹拌した。このとき、バブリングする空気を経由して、オゾンを2g/時の速度で水中に供給しながら撹拌した。その後、濾過により固形分を分離し、110℃にて乾燥させた。こうして得られた粉末を400℃にて2時間焼成することより、硫化水素静的吸着試験用の試料を得た。
【0036】
[試験と分析]
(1)比表面積の測定
マイクロメリテック社製TriStar II 3020を使用して、110℃にて脱気乾燥した試料0.3gについて、通常のBET法により比表面積を算出した。
【0037】
(2)定量分析及び定性分析
セラミックス用アルミノケイ酸塩質原料の化学分析法として規定されたJIS M8853:1998に基づき、定量分析を行った。また、理学電機工業株式会社製蛍光X線分析装置ZSX Primus IIを使用して定性分析を行った。
【0038】
(3)硫化水素静的吸着試験
粉末試料0.25~0.5gを容量10Lのテドラバッグに投入し、このテドラバッグに濃度1体積%の硫化水素10Lを注入し、試験を開始した。試験開始後6時間、24時間、48時間、72時間の時点でそれぞれテドラバッグから100mLの気体を採取し、株式会社ガステック製の硫化水素検知管を使用して硫化水素の残存濃度を測定した。そして、初期濃度と残存濃度から硫化水素静的吸着容量を算出した。
【0039】
(4)X線回折測定
株式会社リガク製X線回折装置RINT-Ultima IIIを使用して測定を行った。
【0040】
[結果]
調製した試料について、試験と分析の結果を以下の表1~5、
図1、2に示す。なお、実施例1~5、比較例1、2の試料は、以下の処理を行ったものである。
実施例1:オゾン水による水和反応処理
実施例1-2:実施例1と同じ(試験での使用量のみ異なる)
実施例2:水和反応処理
実施例3:オゾン水による水和反応処理(実施例1、2とは異なるロットのアルミニウムドロスを使用)
実施例4:炭酸カルシウム添加後の水和反応処理
実施例5:炭酸カルシウム添加後のオゾン水にとる水和反応処理
比較例1:未処理
比較例2:炭酸カルシウムとの混合のみ
また、使用した炭酸カルシウムについて、定性分析結果を表6に、X線回折測定結果を
図3に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
[まとめ]
表1の比表面積測定結果より、水和反応処理またはオゾン水による水和反応処理のいずれかの処理を行った場合に、極めて比表面積が大きくなった。特に、炭酸カルシウム添加後に処理を行った場合に、比表面積が大きくなった。
【0048】
また、表2の強熱減量の数値から明らかなように、水和反応処理またはオゾン水による水和反応処理のいずれかの処理を行った場合に、強熱減量の数値が大きくなった。
【0049】
また、表5の硫化水素静的吸着容量の数値から明らかなように、水和反応処理またはオゾン水による水和反応処理のいずれかの処理を行った場合に、極めて高い硫化水素吸着性能を有することが分かった。そして、炭酸カルシウムを添加して処理した場合は、さらに高い吸着性能が確認された。炭酸カルシウムは、単体では吸着性能を示さないため、炭酸カルシウムを添加して処理した場合に吸着性能が向上したのは予想外であった。
【0050】
また、
図1、2より、オゾン水による水和反応処理後において、金属アルミニウム、窒化アルミニウムのピークがほぼ消滅し、主成分として水酸化アルミニウムが生成したことが確認された。