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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】二酸化炭素の永久貯蔵
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20240122BHJP
【FI】
C01F11/18 B
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2021510539
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019061254
(87)【国際公開番号】W WO2019211381
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】18170406.5
(32)【優先日】2018-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520425523
【氏名又は名称】クライメイト・ソリューションズ・アンパルツセルスケープ
【氏名又は名称原語表記】CLIMATE SOLUTIONS APS
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】エリック・トランペ
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】BISCHOFF, L, James et al.,Ikaite precipitation by mixing of shoreline springs and lake water, Mono Lake, California, USA,Geochimica et Cosmochimica Acta,1993年08月,Vol.57/Issue 16,pp. 3855-3865
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
C01B 32/50
B01D 53/14,53/62
B01J 14/00,19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸及び重炭酸イオンを含むアルカリ性水溶液を15℃を超えない温度でCa2+を含む水溶液と接触させる工程であって、該アルカリ性水溶液と該水溶液との間の接触は、透過性の又は多孔性の表面で行われ、イカ石結晶の形成を促進するために制御されている流速で前記表面を介して前記アルカリ性水溶液が前記水溶液に供給されるか又は前記表面を介して前記水溶液が前記アルカリ性水溶液に供給され、前記アルカリ性水溶液は気体のCOを炭酸塩溶液に供給することにより調製されたものである工程、
を含む、イカ石(CaCO・6HO)の調製のための方法。
【請求項2】
前記アルカリ性水溶液は、8-12の範囲のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pHは、8.5-11.5の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記pHは、9-11の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記pHは、9-10の範囲にある、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アルカリ性水溶液の炭酸及び重炭酸イオンは、主に炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムの形態にある、請求項1-5のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルカリ性水溶液への塩基の付加により又は前記アルカリ性水溶液のpHを安定化させることができる更なる緩衝システムの使用により、pHの低下が弱められる、請求項1-6のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ性水溶液は、炭酸イオンに対し、過剰の重炭酸イオンを含む、請求項1-7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液は、7.0より大きいpHを有する、請求項1-8のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記pHは、10未満の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記pHは、9未満の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記pHは、7.5-8.5の範囲にある、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記水溶液は、前記アルカリ性水溶液中の炭酸塩及び重炭酸塩に対し、過剰のCa2+を含む、請求項1-12のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記水溶液は、自然海水である、請求項1-13のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記イカ石は、前記透過性の又は多孔性の表面上で結晶化する、請求項1-14のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
14°Cを超えない温度で実行される、請求項1-15のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
8°Cを超えない温度で実行される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記流速は、イカ石結晶の核生成が達成されるまで、所定の速度を超えないものである、請求項1-17のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記流速は、イカ石結晶が核となった後、増加されるものである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記炭酸塩溶液は、炭酸ナトリウム又はカリウム溶液である、請求項1-19のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
周囲温度が15℃又は請求項16若しくは17に規定された温度を超えない深さで海で実行される、請求項1-20のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記イカ石は、次にカルサイト又は他の炭酸塩形態に変換されるものである、請求項1-21のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記イカ石が形成された温度を上回る温度にイカ石を加熱する工程及び/又はイカ石を乾燥することによる工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記イカ石及び/又は造り出された炭酸塩形態の次なる貯蔵を含む、請求項1-23のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~8のうちのいずれか一項に規定されたアルカリ性水溶液の調製、次に請求項1~21のうちのいずれか一項の方法によるイカ石の形成、又は請求項22又は23による、イカ石からカルサイト又は他の炭酸塩形態への変換及び次に該イカ石及び/又はカルサイト又は他の炭酸塩形態の保存、を含む、二酸化炭素の貯蔵/削減のための方法。
【請求項26】
-炭酸塩及び重炭酸塩を含むアルカリ性水溶液を保持するための少なくとも1つの小部屋、
-Ca2+を含む水溶液を保持するための少なくとも1つの小部屋、
-前記アルカリ性水溶液と前記水溶液とを隔離するための少なくとも1つの透過性の又は多孔性の構造であって、該透過性の又は多孔性の構造は、該構造の少なくとも1つの表面を介して、1)の前記アルカリ性水溶液を前記水溶液に供給させるか又は2)の前記水溶液を前記アルカリ性水溶液に供給させる構造、
-前記構造の少なくとも1つの表面を介して、前記アルカリ性水溶液又は前記水溶液のいずれか一方の供給を引き起こすための機構、及び
-前記アルカリ性水溶液に気体の二酸化炭素を供給するための装置
を含む、イカ石の調製のためのシステム。
【請求項27】
前記多孔性のマトリクス及び/又は水溶液からイカ石の回収を促進するために更に適合された、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
乾燥することにより又は>6°Cの温度に加熱することによる、イカ石のカルサイト又は他の炭酸塩形態への変換のための小部屋を更に含む、請求項26~27のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項29】
前記炭酸塩及び重炭酸塩を含むアルカリ性水溶液を保持するための少なくとも1つの小部屋が、前記アルカリ性水溶液に供給される気体放出を含む二酸化炭素の出口と統合された又は結合された、請求項26~28のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項30】
前記水溶液は自然海水であり、及び前記システムは沖合に置かれるものである、請求項26~28のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項31】
前記水溶液は自然海水であり、及び前記システムは陸上に置かれるものである、請求項26~28のうちの一項に記載のシステム。
【請求項32】
前記水溶液は自然海水であり、前記透過性の又は多孔性の構造は地質学的形成である、請求項26~28のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーン技術の分野に関する。特に、本発明は、環境保護に関するCO削減、CO捕捉、及び安定な固体物中におけるCOの貯蔵の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
地球規模の気候変動が起きているという世界中の同意が存在し、これに対する主な原因は大気への温室効果ガスの人為的放出であることが、証拠により示されている。
【0003】
二酸化炭素(CO)は、大気中で太陽放射由来の熱を吸収する温室効果ガスである。増加するレベルのCO及び他の温室効果ガスが、大気中に放出されており、上昇する地球規模の温度並びに海の酸性化を引き起こしている。COは、主に人間の活動、例えば化石燃料の燃焼、産業活動、及び森林破壊、並びに自然の寄与、例えば火山の噴火及び生物学的呼吸を通じて放出されている。大気のCOレベルの増え続ける増加は、より暖かな地球規模での温度、地球規模の気候変動を引き起こしている。増加するCOレベルのために温度が上昇するにつれ、地球規模の天候パターンが変化しており、熱帯地方におけるますます深刻な嵐、すきま風、大量の降雨、及び氷冠の融解が生じ、結果のいくつかを述べるにまで海抜の上昇を生み出している。
【0004】
さらに、海による大気のCOの増加したレベルの取り込みは、多くの重要な海洋生態系にとって有害であるレベルにまで海水のpHを低下させている。海の酸性化は、例えば熱帯地方一帯にわたるサンゴの葉に影響を及ぼし、その葉は、数百万人の人々のための食料、並びに漁業及び観光事業に及び10億ドル産業であることの源を構成しているため、社会並びに自然の生態系は、非常に増加するCOレベルの影響に脆弱である。
【0005】
すでに観測されている地球規模の気候変動の結果並びに予測されているものは、非常に深刻であり、今や巨大な科学的、公的及び政治的な関心を高めており、CO放出を低下させること、気候変動を停止又は戻しさえすることを目的とする、気候変動と闘う地球規模の努力という結果になっている。国際的な政治的合意は、今持続的な低炭素未来のために必要とされる活動及び投資を加速し、強めることを模索している。
【0006】
大気に放出されているCOの量を制限することに加え、COを捕捉する及び貯蔵するための大規模な調査及び多くの努力がなされている。いくつかの会社は、大気からの直接の炭素捕捉を実行するシステムを開発している。しかしながら、大抵の場合、COは圧縮された気体として貯蔵されおり、最終的に大気への再放出という結果になる産業において、再利用される。他の試みは、地質学的形成における仮差押さえによる捕捉されたCOに対してなされるものであり、その欠点は高エネルギー要求であること、大気へ漏れ出て戻るガスのリスクである。
【0007】
イカ石(CaCO・6HO)、カルサイトの水和形態、は、南西グリーンランドのイッカフィヨルドの独特なトゥファ柱に存在する鉱物である。イカ石の合成は、以前に研究室スケールで達成されているが、長時間をかけて少量のみであり、かつ、20-100μmのサイズオーダーの非常に小さい結晶が得られるのみである。合成は、主にイカ石が生じるところの自然のシステムの特性を調査するために行われており、迅速に直接溶液を混合したり、又は継続的に撹拌した溶液に滴下することにより、様々な方法で行われてきた。これらの混合物を数週間又は数か月の間、そのままにして結晶化を起こさせるものもあるが、すべてに共通するのは、低収率の非常に小さい結晶の形態のイカ石であるということである。しかしながら、今まで、現実的な何らかの目的のためにイカ石の実用的用途とするであろう速度又は条件でイカ石を製造することは可能ではなかった。イカ石の調製のこれらの以前の検討のついては、例えば、Hu Y-Bら(2014)、Marine Chemistry 162: 10-18及びStockmann Gら(2018)、Applied Geochemistry 89: 11-22.を参照されたい。
【0008】
米国特許出願公開第20160121298号は、2価カチオン源(例えば液体を含むCa2+)が、液体を含む流れる重炭酸塩又は炭酸塩水溶液に導入されている、炭酸塩物質を仮差押えする、COを生産するための方法を開示している。米国特許出願公開第2016/0121298号は、他の炭酸塩種とは対照的に、イカ石の調製のための具体的な方法又はパラメータについては、何ら言及していない。
【0009】
放出由来の二酸化炭素における又は大気の二酸化炭素における削減を促進するために、イカ石及びカルサイトの調製のための方法及び手段を提供することが、本発明の実施形態の目的である。
【発明の概要】
【0010】
本願発明者により、簡便かつ経済的に魅力的な方法により、これまで前例のない速度で大量のイカ石を調製することが可能であることが発見された。さらに、炭酸塩及び重炭酸塩由来の相当量の二酸化炭素が溶解している水溶液から、イカ石を調製することができることが発見された。本明細書に示されている技術は、したがって、以前にみられているものよりも顕著に大きなイカ石結晶を与え、それにより、気体の二酸化炭素の捕捉の簡便な手段が提供される。したがって、非常に一般的な態様において、本発明は、二酸化炭素の貯蔵/削減の手段としてのイカ石の使用に関する。この目的のために、本発明は、迅速かつ信頼できるイカ石の製造のための方法に対する、多くの実用的な溶液を提供する。
【0011】
本発明は、下記に説明される、イカ石を製造するために開発された方法が以前になされたものとは異なるアプローチをとっているため、及び永久炭素捕捉及びCO除去のためのイカ石、カルサイト又はCaCOの他の形態のいずれかである最終生成物におけるCOの貯蔵という目標により、イカ石を合成するための他の方法から際立つものである。中間体の形態であるイカ石でCOを貯蔵することの利点は、起こるイカ石の結晶化並びに以降のカルサイトへの変形のために要求される低ネルギーであり、それにより、永久CO貯蔵を達成するために非常に経済的な方法であることである。
【0012】
本発明は、一層は例えば実施例の式1-5に与えられるような溶液であり、他方はASW(人口海水)又は同様の水溶液である、二層間の化学的勾配の創出に依存する。したがって、本発明は、重炭酸塩/炭酸塩溶液がASWと混合され、合成イカ石結晶が20-40μmの範囲であった、以前の任意の実施例におけるものよりもかなり大きい結晶を与える、一定のミクロ環境を創り出すことを目的とする。;本発明の方法は、種々のサイズ、いくつかは>2mm、多くのものは<1-1.5mm、及びいくつかのものは非常に小さい、<100μm、の大きいイカ石結晶を与える。この化学層を創り出す制御された混合により、結晶のより効率的な沈殿を可能とさせる、最適な接触界面がまた保証され、したがって、使用される溶液のより良好な利用が保証される。
【0013】
結晶の量及びサイズは、本発明を使用することにより達成される沈殿の速度とともに、以前に達成されたものをはるかに凌ぐものである。この方法は、したがって、本発明を、すでに大気からCOを取り入れているCO捕捉植物、燃料ガス、又は他の手段により、に組み入れるのに十分な理由を与えるものである。
【0014】
イカ石の調製のための本発明の方法は、したがって、アルカリ性水溶液及び(生理食塩水)水溶液(下記詳細を参照)間に安定な界面を構築することで実行することができる。瞬時に2つの溶液を混合するのではなく、イカ石結晶の形成を促進する環境を提供する安定な界面の存在が示されている。しかし、界面において遭遇する2つの溶液は十分に相溶性であるから、本願発明者によりなされた発見に従って、2つの溶液を隔離する表面を介して、緩慢な速度で、溶液のうちの1つを他方へ供給することは、大きな利点である。というのは、これは、前記界面を維持することとなり、及び結晶の種がまかれることができ、続いて成長することができる表面をまた提供することとなるためである。しかしながら、前記表面は単にイカ石結晶を調製するためには必須でないことが、理解されるであろう-必須の特徴は、安定な界面の維持にみえる。
【0015】
したがって、第1の態様において、本発明は、炭酸及び重炭酸イオンを含むアルカリ性水溶液を15°Cを超えない温度でCa2+を含む水溶液と接触させる工程であって、前記アルカリ性水溶液と前記水溶液との間の接触は透過性の又は多孔性の表面で行われ、該表面を介してイカ石結晶の形成を促進する速度で前記前記アルカリ性水溶液が前記水溶液に供給されるか又は前記表面を介して前記水溶液は前記アルカリ性水溶液に供給される工程、を含む、イカ石の調製のための方法に関する。図6は、透過性の表面が膜の形態にある、本発明のセットアップの実施形態を概略形態で示す。
【0016】
第2の態様において、本発明は、二酸化炭素のアルカリ水性媒体への添加による、前記本発明の第1の態様において定義された、アルカリ性水溶液の調製、次に本発明の第1の態様の方法によるイカ石の調製又は前記イカ石から調製されるカルサイト又は他の炭酸塩形態の調製、及び次に造られたイカ石及び/又は炭酸塩形態の貯蔵を含む、二酸化炭素の貯蔵/削減のための方法に関する。
【0017】
第3の態様において、本発明は、
-炭酸塩及び重炭酸塩を含むアルカリ性水溶液を保持するための少なくとも1つの小部屋、
-Ca2+を含む水溶液を保持するための少なくとも1つの小部屋、
-前記アルカリ性水溶液と前記水溶液とを隔離するための少なくとも1つの透過性の又は多孔性の構造であって、前記透過性の又は多孔性の構造は、該構造の少なくとも1つの表面を介して、1)の前記アルカリ性水溶液を前記水溶液に又は2)の前記水溶液を前記アルカリ性水溶液に供給させる構造、
-前記構造の少なくとも1つの表面を介して、前記アルカリ性水溶液又は前記水溶液のいずれか一方の供給を引き起こすための機構、
を含む、イカ石の調製のためシステムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、合成イカ石の顕微鏡写真を示す。パネルAは、イカ石結晶で覆われた流入(flow-through)表面の表面を示す。パネルBは、イカ石結晶の接写を示す。スケールバーは、1mmを表す。実施例1参照。
図2図2は、合成イカ石の顕微鏡写真を示す。パネルAは、イカ石結晶で覆われた流入膜の表面を示す。パネルBは、イカ石結晶の接写を示す。スケールバーは、1mmを表す。実施例2参照。
図3図3は、合成イカ石の顕微鏡写真を示す。パネルAは、イカ石結晶で覆われた流入膜の表面を示す。パネルBは、イカ石結晶の接写を示す。スケールバーは、1mmを表す。実施例3参照。
図4図4は、合成イカ石の顕微鏡写真を示す。パネルAは、イカ石結晶で覆われた流入膜の表面を示す。パネルBは、イカ石結晶の接写を示す。スケールバーは、1mmを表す。
図5図5は、合成イカ石の画像を示す。パネルAは、新規合成イカ石結晶で覆われたホースを示し、スケールバーは5mmを表す。パネルBは、イカ石結晶の接写を示す。スケールバーは、500μmを表す。パネルCは、イカ石結晶の接写を示す。スケールバーは、500μmを表す。パネルDは、イカ石結晶の接写を示す。スケールバーは、100μmを表す。
図6図6は、本発明の第3の態様のシステムの実施形態の概略描写を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
【0020】
「水溶液」は、本文脈において、少し又は中程度に塩基性pHの水溶液であり、典型的にはカルシウムイオンを含むこととなる;しばしば前記水溶液は、塩水、すなわち主な塩種としてNaClを含む水溶液、であろう。(塩水)溶液の例は、自然海水である。塩分濃度は、pH及びカルシウムイオンの含有量ほどは重要でない。したがって、NaClの存在は、例えば自然海水に容易にアクセスできるために好ましい場合であっても、水溶液中においては義務的でない。本発明において使用される水溶液のイオン強度は、必要に応じて制御されてよいが、自然海水についての典型的な値(I≒0.7M)が好ましいことは、注意すべきである。
【0021】
本明細書で使用する「アルカリ性水溶液」は、塩基性pHを有し、炭酸塩/重炭酸塩緩衝システムを含まなければならない水溶液を意味する。
【0022】
「透過性の又は多孔性の表面」は、本文脈において、その表面を介してアルカリ性水溶液又は水溶液が周囲に又は隣接する溶液に供給されることができる表面である。透過性の又は多孔性の表面の正確な形態及び組成物は、重要でない。それは、例えば多孔性の材料、例えば多孔性の岩、多孔性の石、多孔性のセラミック材料、金属、ゴム又は多数の穿孔を含むプラスチック表面、膜材料及び任意の他の材料、すなわちその構造を介して溶液を導入することができ、次に第2の溶液との界面を形成した際、去ることができる構造、からなる構造の1つ以上の面からなることができる。というのは、前記表面を含む構造は、十分に高い透水係数を有し、液体を前記表面を介して、前記構造を経由して供給し、もう一方の溶液へ接触させるためである。
【0023】
本発明の具体的な実施形態
【0024】
本発明の第1の態様の方法
【0025】
上記のように、第1の態様は、炭酸及び重炭酸イオンを含むアルカリ性水溶液を15°Cを超えない温度でCa2+を含む水溶液と接触させる工程であって、前記アルカリ性水溶液と前記水溶液との間の接触は透過性の又は多孔性の表面で行われ、該表面を介してイカ石結晶の形成を促進する流速で前記アルカリ性水溶液が前記水溶液に供給されるか又は前記水溶液が前記アルカリ水溶液に供給される工程、を含む、イカ石(すなわち:CaCO・6HO)の調製のための方法に関する。
【0026】
多孔性の表面を介して、いずれかの溶液を他方の溶液に供給して接触させることにより、2つの溶液間に安定な又は順安定な界面領域を創り出すことができ、それにより典型的には多孔性の表面上の界面領域において、しかし、また2つの溶液間に勾配が存在する界面において、イカ石形成を促進することが達成される。本文脈において、重要な特徴は、長期間にわたり界面領域を維持するために、他方へ供給される溶液の流速が注意深く制御されている(例えば排水システムを利用することにより又重力の使用により)ということである。実際、多孔性の表面を介して、溶液の供給を制御することにより、イカ石の最大形成が液体界面においてまた起こることを保証することにより、反応物の浪費を回避することができる。
【0027】
異なる密度を有する溶液の層(layers)(層(strata))を確立することにより、2つの溶液間に必要な界面領域を創り出すことが、実際にまた可能である-この原理は、例えば異なる配座を行うスクロース、の勾配を確立する際、知られている。かかるセットアップにおいて、イカ石結晶の形成は、イカ石形成が行われるために最適である反応物濃度の層間の界面において起こることとなる。しかしながら、多孔性の表面を介しての溶液の供給が好ましい。というのも、この技術により、異なる密度の永久層(strata)/層(layers)の確立は、反応物の一定の付加という点において制御することがより困難であるが、単純な方法で時間をかけて、制御された量の溶液が他の溶液へ接触することを促進するためである。また、例えば溶液の平行な層流を有するシステムを使用する場合、最適な反応条件が溶液間の接触領域の全長にわたって存在しているということは期待することができない。
【0028】
8-12の範囲のpHを有するアルカリ性水溶液が最良の結果を与え、pHは特に8。5-11。5の範囲に、例えば9-11の範囲に、及び好ましくは9-10の範囲に有利にあることができることが、発見されている。強く緩衝された炭酸塩/重炭酸塩溶液の確立により、これらの条件が満たされることが保証されることとなるが、二酸化炭素を溶液に導入(例えば二酸化炭素豊富なガスでの前記溶液の飽和を経由して)することが望まれる場合には、-例えば塩基の付加により又はアルカリ性水溶液のpHを安定化させることができる更なる緩衝システムの使用により、pHの低下が弱められることが保証されるよう注意すべきである。
【0029】
本発明の方法は、アルカリ性水溶液中の炭酸塩/重炭酸塩の濃度に特に依存していない-所望のpHを与える比の2つの種を含む飽和溶液でさえ、前記水溶液が化学量論的に十分な量のカルシウムイオンを少なくとも含む限り、効果的であろう。重炭酸塩の水への溶解度は、1barの圧力で、0℃で69g/l、20℃で96g/lであり、したがって周囲圧力で機能する場合、重炭酸塩の最大濃度は、およそ90g/lを超えないこととなる。しかしながら、高圧で方法を実行することは、本発明の範囲内にあり、したがって、アルカリ水溶液中における高濃度の重炭酸塩及び炭酸塩を可能とする。これは、例えば、ある深さで自然海水中において、本発明の第1の態様の方法を実行する場合と関連する-海水へ10m潜水するごとに、圧力は約1bar増加することとなる、したがって、炭酸塩、重炭酸塩の溶解性を増加させる。
【0030】
典型的には、前記アルカリ性水溶液の炭酸及び重炭酸イオンは、主に炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウム塩の形態であろうが、任意の炭酸塩又は重炭酸塩の正確な性質は、本発明の第1の態様の方法とはそれほど関連しないことが理解されるであろう。いずれにせよ、前記アルカリ性水溶液の塩基性pHの結果、前記水溶液中には炭酸イオンに対し、過剰の重炭酸イオンが存在する。
【0031】
前記水溶液に関し、水溶液は、典型的にはpH>7.0を有するが、多くの場合において、この水溶液は、少しだけ塩基性である:本文脈において、自然海水のpHは、本発明の方法の実行において、効果的であることが判明している。したがって、前記水溶液は、好ましくは10未満、例えば9未満、及び好ましくは7.5-8.5の範囲であるpHを有する。
【0032】
上で述べたように、イカ石形成には、重炭酸塩及び炭酸塩が供給される限り、カルシウムイオンが存在するということが、あらかじめ必要である。したがって、前記水溶液は、必要量の、好ましくはアルカリ性水溶液中における炭酸塩及び重炭酸塩に対して過剰のCa2+を含むべきである。
【0033】
本発明の第1の態様の1つの重要な実施形態において、前記(塩)水溶液は、自然海水である-経済的観点から、これは、多くの実際のセットアップにおいて、好ましく、魅力的であるが、「人口海水」、すなわち所望のpH及び必要なCa2+含有量を有する水溶液を調製することは、いかなる方法においても、排除されない-本目的のために最適化された水溶液を調製することさえ可能であり得る。
【0034】
2つの溶液間の相互作用の速度を選択する際、-すなわち一の溶液の他のものへの供給の制御により-結晶の形成が促進される。典型的には、結晶は、透過性の又は多孔性の表面上に種がまかれ、次に成長することとなる。したがって、一方の溶液の他方への供給速度は、2つの溶液間の界面で結晶形成が行われ続けであろうことを保証することと関連する。
【0035】
しかしながら、イカ石結晶の核生成が達成されるまでは、流速は比較的低速(所定の速度より下)に維持されるべきであることは注意する-核生成が達成された後は、流速は上昇させることができる。というのは、結晶はすぐに成長することとなるためである。代わりとして、多孔性の又は透過性の表面には、それゆえ、すでに形成された(例えば本発明の前の工程において)イカ石結晶を供給する/まくことができる。-このようにして、結晶形成の比較的ゆっくりな導入工程を回避することができ、方法はより高速で継続的に実行することができる。
【0036】
温度に関しては、Stockmann Gら(2018)、Applied Geochemistry 89:11-22、に、イカ石は、約15℃までの温度で結晶化することができるが、より低温が好ましいとされることが報告されている:典型的には、本発明の方法は、したがって、14°Cを超えない方法で、例えば13°C、12°C、11°C、10°C、9°C、又は8°Cを超えない温度で実行され得る。しかしながら、イカ石合成のための最適温度は、種々の物理化学的条件、例えばASW成分の組成及び濃度、実施例に定義された溶液1-3の濃度、溶液のpH、及び分圧とともに変化する。
【0037】
前記アルカリ性水溶液の調製は、典型的には気体のCOを炭酸塩溶液に、好ましくは炭酸ナトリウム又はカリウム溶液に供給することを含むであろう。本文脈において、得られる溶液のpHが低すぎるpHを維持しないことを保証することが必要であるにすぎない。-別個の塩基の添加又は強い第2の緩衝の使用によりこれを保証することができる。
【0038】
ある実際の実施形態において、本発明の方法は、海で実行することができる(したがって、前記水溶液として周りにある海水を使用して)-海水中の温度は、地球を横切り変化するが、ある深さでは一貫して低いため、かかる場合においては、該方法は、周囲温度が15℃又は前記詳細に説明した、より低い最大温度を超えないある深さで実行される。
【0039】
有利な実施形態において、イカ石は、次にカルサイト又は他の炭酸塩形態に変換される-イカ石は比較的不安定な物質であるため、カルサイト及びカルシウム炭酸塩に関する他の形態が、例えば後の貯蔵のためには、好ましい。カルサイト又は炭酸塩の他の形態への変換は、比較的単純な事柄であり、基本的にイカ石の脱水にある:これは、イカ石をイカ石が形成された温度より高い温度まで加熱することにより及び/又はイカ石を乾燥することにより、達成することができる。
【0040】
最後に、本発明の第1の態様の方法は、典型的には造られたイカ石及び/又は炭酸塩形態の貯蔵という、更なる工程を含むこととなる。
【0041】
イカ石又はカルサイトの合成は、したがって、イカ石溶液の滞留ASWへの又はASWのフローを可能とする設計における、制御された混合のいずれかで行うことができる。イカ石溶液及びASWの流速は、最適な結晶化及び効率性のための具体的な反応器設計に調節することができる。
【0042】
本発明の第2の態様の実施形態
【0043】
前記からわかるように、本発明の重要な態様は、二酸化炭素の貯蔵/削減のための方法に関する。基本的に、この方法は、任意のソース由来の気体の二酸化炭素を、前記アルカリ性水溶液へ導入し、その後、前記本発明の第1の態様の方法により、イカ石又はカルサイト又は他の炭酸塩を調製する;次に造られたイカ石及び/又は炭酸塩型を、例えば地下に貯蔵する。
【0044】
本発明の第2の態様の方法は、種々の設定において、実行することができる:それは、二酸化炭素放出プラント、工場、装置又はコンストラクションと直接接続して使用してもよいし、大気から二酸化炭素を直接抽出するのに使用してもよい。大量の気体物質を液体媒体に導入するシステムはよく知られており、本発明に使用されるアルカリ性水溶液を構成する炭酸塩/重炭酸塩緩衝システムを調達するために使用してもよい。
【0045】
本発明の第3の態様に係る実施形態.
【0046】
本態様は、
-炭酸塩及び重炭酸塩を含むアルカリ性水溶液を保持するための少なくとも1つの小部屋、
-Ca2+を含む水溶液を保持するための少なくとも1つの小部屋、
-前記アルカリ性水溶液と前記水溶液とを隔離するための少なくとも1つの透過性の又は多孔性の構造であって、前記透過性の又は多孔性の構造は、前記構造の少なくとも1つの表面を介して、1)の前記アルカリ性水溶液を前記水溶液に又は2)の前記水溶液を前記アルカリ性水溶液へ供給させる構造、
-前記構造の少なくとも1つの表面を介して、前記アルカリ性水溶液又は前記水溶液のいずれか一方の供給を引き起こすための機構、
を含む、イカ石の調製のためのシステムに関する。
【0047】
本発明のかかるシステム(又はプラント)の1つの実施形態の概略描写を図6に示す。第1の小部屋「A」は、ASWを有する第2の小部屋Bの底に連続的に供給される炭酸塩/重炭酸塩溶液を有する。穿孔された又はそうでなければ透過性の表面を介して、イカ石結晶が形成されることができる安定な界面を創り出すために、炭酸塩/重炭酸塩溶液が、ASWに入る(拡大されたパネルCに示すように)。炭酸塩/重炭酸塩溶液はASWよりも密度が低いので(特にイカ石形成後)、それは上方移動を示し、したがって、新たな炭酸塩/重炭酸塩の一定の添加を可能とさせる。
【0048】
好ましくは本発明のシステムは、二酸化炭素をアルカリ性水溶液に供給するための装置を更に含むこととなる。図6を参照して、かかる装置は、小部屋Aに又は前混合チャンバーに存在することができ、-二酸化炭素を前記溶液へ供給するための1つの単純な手段は、溶液を介して二酸化炭素豊富なガス/空気をバブリングすることである。
【0049】
本発明のシステムを、多孔性のマトリクス及び/又は水溶液からのイカ石の回収を促進するために適合させることは、有利である。この目的のために種々の溶液が存在する。一例としては、イカ石が形成される表面を水平面に対して傾けることである;というのは、イカ石はかなり脆く、引力が、ある点でイカ石を裂けさせ、傾いた表面のふもとに堆積させるためである。代わりに、単純にこすり落とし、要すればイカ石を集める機械的な機構をシステムに導入することができる。
【0050】
本発明の第1の態様に関連して上で説明したように、製造されるイカ石は、簡便にカルサイト又は他の安定な炭酸塩形態へ変換し、長期貯蔵させることができる;結果、本発明のシステムは、乾燥することにより又は>8°Cの温度に加熱することにより、イカ石をカルサイト又は他の炭酸塩形態へ変換するための小部屋を更に含んでもよい。しかしながら、イカ石は、この方法が行われる離れたところでまた単純に堆積してもよい。
【0051】
本発明のシステムは、気体放出を含む二酸化炭素の出口に統合又は結合することができる; これらの放出は、典型的には好ましくは上で説明した二酸化炭素をアルカリ性水溶液に導入するための装置を使用することにより、アルカリ性水溶液に供給することができる。
【0052】
前記水溶液は、特にシステムが豊富な量の自然の塩水への容易なアクセスが利用可能である地理的領域にセットアップされる際は、簡便に自然の塩水、例えば海水であることができる。かかる場合に、前記システムは、沖合の位置に置くことができる(それにより、イカ石形成を促進するために、海のある深さで存在する低温を利用する)が、前記システムは、また陸上に置くことができ、自然の塩水を利用することができる。
【0053】
また上で説明したように、透過性の又は多孔性の構造の正確な形態及び組成は、重要でない-それは、それを介して溶液を導入することができ、次に構造が十分な透水係数を有しているため、第2の溶液で界面を形成した際、去ることができる、多孔性の石又は岩、膜材料及び任意の他の材料からなることができる。したがって、本発明の有利な実施形態において、2つの溶液(透過性の構造から他方へ供給されるもの)間に安定な界面を創り出すことを可能とさせる、好適な透水係数を有する、自然の地質学的形成を利用することが可能である。
【0054】
実際には、異なる密度を有する溶液の層(layers)(層(strata))を構築することにより、2つの溶液間に必要な界面領域を創り出すことがまた可能である-この原理は、例えば異なる配座を実行する際、スクロース、の勾配を構築する際に知られている。かかるセットアップにおいて、行われるイカ石形成のための反応物濃度が最適である、2つの溶液の層において、イカ石結晶の形成が行われることとなる。しかしながら、多孔性の表面を介しての溶液の供給が好ましい。というのは、この技術は、単純な方法で時間をかけて、制御された量の溶液を他の溶液へ接触させることを促進する一方、異なる密度の永久層(strata)/層(layers)の構築は、反応物の添加の観点から制御するのがより難しいためである。また、溶液の平行の層流を有するシステムを使用する場合、溶液間の接触領域の全長にわたって最適な反応条件が存在することは、期待することができない。
【0055】
本発明の第3の態様のシステムに関し、本発明の第1の-及び適用可能であれば、第2の-態様に関し、本明細書に示されているすべての開示は、第3の態様のシステムに準用される。したがって、第1の及び第2の態様において有用な薬剤及び条件に関するすべての開示は、第3の態様のシステムを実行する際、直接組み入れることができる。
【0056】
実施例の前置き
【0057】
物質及び方法
【0058】
沈殿手順
【0059】
炭酸塩の背景濃度:
【0060】
炭酸塩又は重炭酸塩が水に溶解する場合、次の式に従って再平衡が起きる:
【0061】
【化1】
【0062】
ナトリウムイオンは、粒子物に引っ付かず、水相に残る。水中において、炭酸イオンは、平衡が確立されるまで再平衡となる。
【0063】
少量の溶解したCOのみが、HCOの形態で存在し、主な部分は、実際に溶解したCOとして存在する。水中のCOの量は、周囲大気におけるCOの分圧と平衡にある。CO/HCO /CO 2-平衡は、世界中の淡水及び海水のpHの主要な緩衝を構成する。
【0064】
前記方程式に基づき、COは6.35より小さいpHでは主たる種であるが、6.35-10.33の範囲にあるpHではHCO が主たる種であり、10.33より高いpHではCO 2-が主たる種である。
【0065】
人口海水(ASW)
【0066】
ASWは、塩水溶液の拡張により造ることができる、例えば下記レシピを参照されたい。本発明において、総合的な沈殿収率は、人口海水並びに自然海水で達成されている;前記溶液は、ある程度の塩分濃度であることが必要であり、少しアルカリ性のpH値を示すことが発見されている。他の無機溶質、例えばリン酸塩、硝酸塩などは、沈殿プロセスに影響を与えるようにはみえない。本発明は、特定の溶液の使用に限定されない。
【0067】
ASWは、CaCl溶液、又は起こる沈殿プロセスのための溶液中の他のカルシウムイオン源によりまた置換することができる。溶液中の十分利用可能なカルシウム及び炭酸イオンは、最も重要なパラメータにみえる。
【0068】
ASWを含む統一式;人口の又は自然の海水の複雑性は、反応をよりずっと複雑にする、多くの他の成分を含むことができる。
【0069】
溶液:
1.NaCO(aq)、水に溶解した炭酸ナトリウム(平衡方程式については上記参照)
2.NaHCO(aq)、すなわち水に溶解した重炭酸ナトリウム(平衡方程式については上記参照)
3.NaCO(aq)+NaHCO(aq)、すなわち水に溶解した炭酸ナトリウム+重炭酸ナトリウム
4.NaCO(aq)+CO(g)=溶液3
(COバブリングにより、平衡中、HCO 及びCO 2-の割合が高くなり、後者は高いpHで支配的である;しかしながら、COはイカ石形成を支持しないより酸性のpHに向かう平衡に影響を与えることとなるため、COバブリングは、pH増加対策、すなわちより強い緩衝システムの使用又はアルカリ性物質の添加により、有利に補うことができる)
5.ASW
【0070】
反応:
【化2】
【0071】
したがって、反応4及び5からCaHCO 及びCaCOは存在し、HCO 、Ca2+及びCO 2-を含む炭酸カルシウム溶液をまた創り出す。これら、特にHCO /CO 2-、間の比、及びpHは、イカ石の沈殿プロセスを制御しそうであり、したがって、HOに溶解したNaCO中におけるCOのバブリングは、溶液におけるHCO 及びCO 2-の割合を増加させ、高pHで高イカ石沈殿という結果を与える、下記を参照されたい。
【0072】
実施例に使用したASWレシピ(純水に溶解した塩):
【0073】
次のASWのレシピを本明細書に示される実施例に使用した、しかしながら、異なる成分の他の濃度も使用することができ、本発明は、したがって、本明細書に説明されているものに限定されない。例えば、Denmarkの水道水に溶解した塩を使用する類似の実施例は、本明細書の実施例と同様の結果を示す。しかしながら、水道水の正確な鉱物含有量は、知られていない。
【0074】
塩化物(Cl)-19,000-19,500mg/l
ナトリウム(Na)-9,720-11,880mg/l
マグネシウム(Mg2+)-1,300-1,360mg/l
硫酸塩(SO 2-)-810-990mg/l
カルシウム(Ca2+)-410-430mg/l
カリウム(K)-360-380mg/l
フッ化物(F)-1.2-1.3mg/l
臭化物(Br)-4.05-5.0mg/l
ストロンチウム(Sr2+)-7.2-8.8mg/l
【0075】
自然海水に最も共通する塩は、以降にそれらの濃度範囲とともに示されている:
【0076】
塩化物(Cl)-18.980mg/l
ナトリウム(Na)-10.556mg/l
硫酸塩(SO 2-)-2.649mg/l
マグネシウム(Mg2+)-1.262mg/l
カルシウム(Ca2+)-400mg/l
カリウム(K)-380mg/l
重炭酸塩(HCO )-140mg/l
ストロンチウム(Sr2+)-13mg/l
臭化物(Br)-65mg/l
ホウ酸塩(BO 3-)-26mg/l
フッ化物(F)-1mg/l
ケイ酸塩(SiO 2-)-1mg/l
ヨウ化物(I)-<1mg/l
全溶解固体-34.483mg/l
【0077】
以降の実施例における実験は、5°C±0.25°Cで行った。
【0078】
以降の実施例における実験のASWは、市販の塩/鉱物混合物を淡水(いつもの水道水)にリーフアクアリウムのために溶解させることによりなされる。。ガラス容器中で1000gの塩混合物を40lの淡水に溶解性させることにより、ASWを25‰塩分濃度まで混合した。最終塩分濃度は、屈折計で確認した。
【0079】
2点較正(pH7及び10)により実験温度で較正したpH計を使用してpHをモニターした。ASWのpHは、~8.17であった。
【0080】
[実施例1]
純水に溶解したNaCO+NaHCOからのASW中でのイカ石の合成。
【0081】
NaCO:NaHCOが4:1の重量比である~1%のNaCO(s)+NaHCO(s)の溶液を純水に混合し、体積で100%まで増加させ、pH10.21の「溶液3」(上記参照)を作製した。
【0082】
溶液3を、ASWで満たされた40lのガラス容器の底に置かれた孔径~50-150μmの78cmの平坦な多孔性の砂岩を介して、ゆっくりとASWと混合した。溶液は、重力によりシリコーンチューブを介して供給し、流速を~1mlpr.分にチューブクランプにより調整した。数分以内に、砂岩の表面に目に見えるイカ石結晶が明らかとなり、より小さい塩分濃度のために溶液3はより軽いため、自然の浮力をもつこととなり、より重いASWに入る際、上方ドリフトを創り出す。
【0083】
結晶の濃い層が、1時間後を砂岩を覆った。イカ石結晶の同定及びサイズは、USB顕微鏡を使用して行うと、長さ~1.5-2mmまでの単斜晶系のイカ石結晶を示した。図1を参照されたい。
【0084】
[実施例2]
水道水に溶解したNaCO+NaHCOからのASW中でのイカ石の合成
【0085】
NaCO:NaHCOが4:1の重量比の~1%のNaCO(s)+NaHCO(s)の溶液を体積100%まで加えながら水道水と混合して、pH10.03の「溶液3」を作製した。
【0086】
溶液3を、ASWで満たされた40lのガラス容器の底に置かれた孔径~50-150μmの78cmの平坦な多孔性の砂岩を介して、ゆっくりとASWと混合した。溶液は、重力によりシリコーンチューブを介して供給し、流速を~1mlpr.分にチューブクランプにより調整した。数分以内に砂岩の表面に目に見えるイカ石結晶が明らかとなり、より低い塩分濃度のために「溶液3」はより軽いため、より重いASWへ入る際、自然の上方漂流を有することとなる。
【0087】
結晶の濃い層が、1時間後砂岩を覆った。イカ石結晶の同定及びサイズをUSB顕微鏡を使用して行うと、長さ~1.5-2mmまでの単斜晶系のイカ石結晶を示した。図2を参照されたい。
【0088】
[実施例3]
NaCOの溶液を介してCOバブリングすることによるNaHCOの作製からの溶液3(純水中)の作製
【0089】
1Lの溶液1を1分間COでバブリングし、溶液2を作製した、すなわち炭酸ナトリウムが二酸化炭素及び水と反応するとき、重炭酸ナトリウムが主に作られる(また前記式2を参照されたい)。
【0090】
NaCO(aq,s)+CO(g)+HO→2NaHCO(aq)
【0091】
20mlの溶液2を9.9l純水が加えられた80mlの溶液1と混合し、pH9.29の、NaCO:NaHCOが4:1(v/v)の比の、1%の10lの溶液3を作製した。
【0092】
溶液3を、ASWで満たされた40lのガラス容器の底に置かれた孔径~50-150μmの78cmの平坦な多孔性の砂岩を介して、ゆっくりとASWと混合した。溶液を重力によりシリコーンチューブを介して供給し、流速を~1mlpr.分にチューブクランプにより調整した。数分以内に砂岩の表面に目に見えるイカ石結晶が明らかとなり、より低い塩分濃度のために溶液3はより軽いため、より重いASWに入る際、自然の上方ドリフトを有することとなる。
【0093】
結晶の濃い層が、1時間後砂岩を覆った。イカ石結晶の同定及びサイズは、USB顕微鏡を使用して行い、長さ~1.5-2mmまでの単斜晶系のイカ石結晶を示した。図3を参照されたい。
【0094】
[実施例4]
溶解したNaCOの溶液を介してCOをバブリングすることによるNaHCOの作製からの溶液3(水道水中)の作製
【0095】
1Lの溶液1を1分間COでバブリングし、溶液2を作製した、すなわち炭酸ナトリウムが二酸化炭素及び水と反応するとき、重炭酸ナトリウムが作られる。
【0096】
NaCO(aq,s)+CO(g)+HO→2NaHCO(aq)
【0097】
20mlの溶液2を9.9lの水道水が加えられた80mlの溶液1と混合し、pH9.20の、NaCO:NaHCOが4:1の比の1%の10lの溶液3を作製した。
【0098】
溶液3を、ASWで満たされた40lのガラス容器の底に置かれた孔径~50-150μmの78cmの平坦な多孔性の砂岩を介して、ASWとゆっくり混合した。溶液を重力によりシリコーンチューブを介して供給し、流速を1分当たり~1mlにチューブクランプにより調整した。数分以内に、砂岩の表面に目に見えるイカ石結晶が明らかとなり、より低い塩分濃度のために溶液3はより軽いため、より重いASWに入る際、自然の上方ドリフトを有することとなる。
【0099】
結晶の濃い層が、1時間後砂岩を覆った。イカ石結晶の同定及びサイズをUSB顕微鏡を使用して行うと、長さ~1.5-2mmまでの単斜晶系のイカ石結晶を示した。図4を参照されたい。
【0100】
[実施例5]
中規模スケールのイカ石合成
【0101】
以降の実験は、温度が5°Cに設定された、冷却室内で行った。
【0102】
ヨーロッパのサマータイムの間、420lの海水、PSU24、pH8.3、を、デンマークのツェラン島の沿岸のグレートベルトの中塩で、深さ1mに沈められた排出ポンプで集めた。集めた海水は、初めにおよそ1mmのフィルターメッシュで大きい粒子をろ過し、200μmのフィルターソックを介してフローを継続し、より小さい粒子を取り出した。ろ過した水を初めに冷却室の冷たい鋼鉄のフロアを走る20m長のホースによりさらなる250l容器と接続された1つの250l容器に排出し、これにより冷却効率を増加させた。初期の水温は21℃であり、2つの250l容器間の24時間の水の連続循環の後は、温度は実験を開始したところで8℃であった。次の12時間で、水温は5℃まで減少し、5℃で安定した。
【0103】
)集めた水の初期の水温はかなり高く、より永久的な及び/又は大スケールでの促進が構築されることとなる場合、これはもちろん考慮すべきである。塩分濃度がよく高く、温度がより低い、より深部の水から水を集めるのには、非常に有利であろう。
【0104】
60Lの「溶液3」の調製
【0105】
1Lの溶液1を1分間COでバブリングし、溶液2を作製した、すなわち炭酸ナトリウムが二酸化炭素及び水と反応するとき、重炭酸ナトリウムが作られる。
【0106】
NaCO(aq,s)+CO(g)+HO→2NaHCO(aq)
【0107】
150mlの溶液2を450mlの溶液1と混合し、混合物にそれから59.4lの水道水を加え、NaCO:NaHCOが4:1(v/v)の比、pH10.24の1%の60lの溶液3を作製した。
【0108】
溶液3を、3m長の多孔性の浸水ホースであって、該ホースは海水を有する250l容器のうちの1つ内にスパイラル方式で置かれたホース、を介して、海水とゆっくり混合した。ホースの孔により、海水と接触している比較的大きな表面積上でゆっくりとした平坦なフローが可能となる。溶液を、調節可能なフローを有する水中循環ポンプによりホースを介して供給し、流速を調節してホースを去るゆっくりとしたフローが表面に向かって上昇する、低密度の水の小さい「煙」として検出できることを保証した;より低い塩分濃度のために溶液3は密度がより小さいため、より重い海水に入る際、自然の上方ドリフトを有することとなる。フローが始まるとすぐに、ホース一帯にわたり大きい白色結晶がみられるようになり、2時間後、ホースは完全に結晶に覆われた、図5参照。イカ石結晶の同定及びサイズをUSB顕微鏡を使用して行うと、長さ~1.5-2.5mmまでの単斜晶系のイカ石結晶を示した。図5を参照されたい。
【0109】
更なるステップ
【0110】
前記実施例で説明したイカ石合成の後、イカ石は、温度を数度、例えばイカ石の調製がかかる温度で調製された6-8℃を上回る温度、上昇させることにより、容易にカルサイトに変換することができ、又はイカ石は無水のままにしておくことができる。一般的に、イカ石は、6°Cを下回る温度で準安定に留まるにすぎず、自然とカルサイトに分解するが、この過程を促進するためには、昇温/乾燥を適用すべきである。かわって、カルサイトは、種々の製品、例えば、建材、ペイントにおいて、土壌再仲介剤及び/又は安定化剤として、及びコンクリートの補修のための材料として、有用である。
【0111】
本発明は、具体的な前記溶液の使用に限定されない、というのは、イカ石合成は、他の手段、例えば他の薬剤、例えばCaCl、KCO及びKOHの低温での混合によりなし得るためである。しかしながら、他の手段は、しばしば他の型の結晶の形成を回避するために、ある阻害因子の存在を必要とするであろう。本明細書に含まれる処方は、本発明の方法において使用される際、大きく、きれいなイカ石結晶を迅速に製造するため、選択されており、それらは、首尾よいイカ石の合成及び後の捕捉したCO由来の炭素を保持するカルサイトのために、少量のエネルギーを必要とする。式1-5に強調表示された溶液は、また安価、無毒性であり、豊富な化学物質により構成されており、したがって、非常に好ましいであろう一方、また最も費用効率の高いアプローチである。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6