(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】細胞培養マイクロチャンバーを含む小型MR装置及びこのような装置を製造する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20240122BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20240122BHJP
G01R 33/30 20060101ALI20240122BHJP
G01R 33/34 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G01N24/00 510Z
G01N24/00 570Z
G01N24/00 560B
G01N24/08 510P
G01R33/30
G01R33/34
(21)【出願番号】P 2021516394
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 IB2019057980
(87)【国際公開番号】W WO2020065478
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/057348
(32)【優先日】2018-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】512022631
【氏名又は名称】エコール・ポリテクニーク・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ (ウ・ペ・エフ・エル)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリジ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ボエーロ,ジョバンニ
(72)【発明者】
【氏名】ブルッガー,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】コンリー,グーラスンダー マーク
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-058142(JP,A)
【文献】特表2009-506345(JP,A)
【文献】特開2004-069309(JP,A)
【文献】特開2008-058315(JP,A)
【文献】特開2008-107352(JP,A)
【文献】国際公開第2008/091364(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0102344(US,A1)
【文献】Tian Fook KONG et al.,“Adhesive-based liquid metal radio-frequency microcoil for magnetic resonance relaxometry measurement”,Lab Chip,2012年,Vol. 12, No. 2,p.287-294,DOI: 10.1039/C1LC20853E
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-24/14
G01R 33/20-33/64
C12M 1/00-3/10
G01N 37/00
JMEDPlus(JDreamIII)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型化された磁気共鳴システム(101)を含む装置(100)であって、
磁気共鳴システム(101)は、
a)感知領域及び/又は励起領域が設けられた少なくとも1つの感知素子(300)と、
b)励起信号を前記少なくとも1つの感知素子(300)へ送信し、及び/又は前記少なくとも1つの感知素子(300)から入力信号を受信するように構成される、電子機器を含む能動素子(200)と、
筐体容積を規定し、液体を保持する筐体(700)と、
0.1nL~1μLを含む容積を有する細胞培養チャンバー(502)を備えるホスティング微細構造(500)を含み、
前記細胞培養チャンバー(502)は、前記筐体(700)内に備えられ、前記筐体(700)内の前記液体と接触し、
前記装置は、前記システム(101)及び前記チャンバー(502)の少なくとも一部分を覆い、電気構成部品と液体媒体との間の物理的、化学的及び/又は電気的接続を防止する絶縁シールド材料として機能する、パッシベーション結合層(800)を含み、
前記感知素子(300)及び前記能動素子(200)が、同一基板(400)上に、平面内に隣接して、又は垂直に積み重ねられて一体的に配置され、前記チャンバー(502)が、前記感知素子(300)の上に配置される、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記感知素子(300)によって規定される感知領域及び/又は励起領域を含み、前記チャンバー(502)は、前記領域内に位置する、請求項
1に記載
の装置。
【請求項3】
前記感知領域が、1μL未満である、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記パッシベーション結合層(800)が、1nm~100μmの間の厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記感知素子(300)が、0.1~0.5mmの内径を有するマイクロコイルからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記チャンバー(502)が、前記パッシベーション結合層(800)からなる床部を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記層(800)は、レジスト(複数の場合もある)、フォトレジスト、パリレンC、SiO2、SixNy、セラミックス、及びポリマー由来セラミックスからなる群から選択される
蒸着された薄膜材料を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載
の装置。
【請求項8】
前記培養チャンバー(502)内に生物学的サンプル(600)を閉じ込めるように構成された、ホスティング微細構造(500)の上に位置する上蓋(501)をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
静磁場を生成することができる永久磁石又は電磁石(5000)を更に含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載
の装置。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載
の装置(100)を製造する方法であって、
a
)
a1)感知領域及び/又は励起領域を構成する少なくとも1つの感知素子(300)と
b1)励起信号を前記少なくとも1つの感知素子(300)へ送信し、及び/又は前記少なくとも1つの感知素子(300)から入力信号を受信するように構成される、電子機器を含む能動素子(200)と、を備える、
小型磁気共鳴システム(101)を設けるステップと、
b)
0.1nL~1μLを含む容積を有する細胞培養チャンバー(502)を規定するホスティング微細構造(500)を設けるステップと、
c)前記
小型磁気共鳴システム(101)を前記微細構造(500)と接触させるステップと、
d)
電気構成部品と液体媒体との間の物理的、化学的及び/又は電気的接続を防止する絶縁シールド材料として機能する、前記システム(101)及び前記チャンバー(502)の少なくとも一部分を覆う前記パッシベーション結合層(800)を取得することができる条件下で、蒸着プロセスを介して、前記システム(101)を前記微細構造(500)に結合することにより、
前記層(800)から作製される床部を有する細胞培養チャンバー(502)を作成するステップと、
前記システム(101)を、筐体容積を規定する筐体(700)と接触させるステップを含み、
前記感知素子(300)及び前記能動素子(200)が、同一基板(400)上に、平面内に隣接して、又は垂直に積み重ねられて一体的に配置され、前記チャンバー(502)が、前記感知素子(300)の上に配置される、
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記蒸着
プロセスが、化学蒸着及び物理蒸着から選択される
、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記パッシベーション結合層(800)が、1nm~100μmの間の厚さを有する、請求項10又は11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微視的対象物の分析のための核磁気共鳴分光法の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)及び電子スピン共鳴(ESR)(しばしば一般的に磁気共鳴(MR)として示される)は、バルク物質を無傷で化学分析するために使用される広く知られている分光学的ツールである。これらの分光学的ツールを使用するには、外部静磁場B0を必要とする。このような環境では、サンプルの電子及び原子核は、いわゆるラーモア(Larmor)周波数v0=(γ/2π)B0で振動する磁場による励起に対し、集合的に応答することができる。ここで、γは、対象の原子核又は電子の磁気回転比である。磁気回転比の有効値γeffは、原子核種(同位体を含む)並びに原子核及び/又は電子が包埋されている化学的環境に依存する。実際、所与の化学的環境により、外部磁場の遮蔽効果は異なり、その結果、ラーモア周波数はわずかに異なる。対象の原子核及び/又は電子が包埋されている化学的配置の結果として、ラーモア周波数が分裂するこの現象は、化学シフトとして知られる。パルス的又は連続的励起スキームの両方で実行できるNMR及びESR実験では、サンプル内に現れる様々な化学シフトの定量的検査が可能になるため、潜在的に非常に高い分解能で化学情報を取得できる可能性がある。
【0003】
NMR(及び、或る程度は、ESR)の技法の1つの関連する特性は、生体適合性である。このような特有の特性は、共鳴現象を発生させるために、必要に応じて比較的低い周波数を使用することによるものである。動作中の比較的低い周波数のおかげで、例えば、生体分子及び生体プロセスに対する弱い干渉能力を以て、生体を無傷のまま、NMRの励起がなされることができるため、サンプルのいかなる生物学的変化も回避できる。今日、NMRは、研究及び医療診断の目的で、生きている動物及び人間を検査するために日常的に使用される。陽子の磁気回転比は、約42.5775MHz/Tの値を有する。生体内医療診断のためのNMRの使用は、現在、人間に対しては、7Tのフィールド値(1Hのラーモア周波数;約300MHzに対応している)まで承認されている。
【0004】
市場で入手可能な現在のMR機器は、1μLもの小容積に至るまでの固体サンプル、生体サンプル又は液体サンプルの検査のために最適化されている。このような機器は、励起素子及び感知素子として、金属導体を用いて得られるインダクタを使用する。このようなインダクタには様々な形状及び形態があり、それぞれが特定のサンプル及び/又は用途に適している(例えば、ソレノイド、ヘルムホルツ、サドルコイル等)。
【0005】
微視的サンプルの分析にMRの技法を適用するために、インダクタの微細加工が以前に提案され、実施された。そのような先行技法の例は、参考文献[1~3]に見出され、また、特許文献1に記載されている。この手法では、ラーモア周波数において共鳴する構造を実現するために、小型コイル(すなわち、マイクロコイル)が受動構成部品(通常はコンデンサー)に接続される。次いで、このような共鳴器は、ケーブルを介して標準の送受信(TX/RX)電子機器に連結される。この手法では、マイクロコイルを外部構成部品及び電子機器に接続するリード線が、小さなサンプルのMRへの適用をかなり複雑にする寄生インダクタを形成する。このような寄生構造は、有効な信号対雑音比を低下させる損失を招くことに加えて、実験者がサンプルを封入するための構成部品又は構造を導入する場合に、サンプルが占める領域以外の領域からの信号を検出し、不要な信号をもたらす。これらの制限を考えると、マイクロコイルは、1μL未満のスケールで、MRコミュニティに用途の広い解決策を未だ提供していなかった。
【0006】
最近提案された別の手法は、本明細書で「超小型」MR装置と呼称され、必要なTX(送信)及び/又はRX(受信)電子機器が、励起素子及び/又は感知素子(例えば、マイクロコイル)に極めて接近して配置される。超小型MR装置の一例は、TX/RX電子機器及びマイクロコイルが、同じ基板上に相互に統合されている相補型金属酸化膜半導体(CMOS)マイクロチップである。このような装置の例は、[4~7]に記述されている。超小型MR装置は、寄生に敏感な容積部分がほとんどないという利点を提供し、5pL~1μLの範囲の容積規模で現行技術水準のMRを簡単に実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2011/0091987号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、実現されていない課題は、サンプル、特に、非常に少量の液体培地容積(すなわち、約1μL未満)中で、感知素子に近接した(すなわち、1nmほどに近い)、例えば、胚(例えば、哺乳動物、水生種、植物)、真核細胞又は細菌、3D細胞培養、幹細胞オルガノイド、任意の種類の微小組織等の、典型的には5μm~1000μmの寸法を有する固体サンプルを、ユーザーが、容易に操作及び保持することを可能にする多用途のサンプル処理ストラテジーを作成し、同時に、分析対象の生物学的実体に、制御された生体適合性のある環境を提供することである。超小型MR装置の使用を想定すると、生体適合性及び制御可能な条件、多用途のサンプル処理ストラテジー、並びに集中的な使用及び選別された液体(例えば、細胞成長及び/又は発達のための培養培地)への曝露に対するロバスト性を提供することを目的とした包括的な構造が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、筐体に含まれ、微細構造と組み合わされて、生きている微生物及び細胞に適応できる磁気共鳴生物培養チャンバーを実現するための超小型タイプ(すなわち、センサーの能動素子の近くに局在化された高感度の容積部を有する)の磁気共鳴プローブを提供することによって、上記の欠点に対処し、且つ克服する。本発明の使用は、胚(例えば、哺乳動物、水生種、植物)、真核細胞又は細菌、3D細胞培養物、幹細胞オルガノイド、任意の種類の微小組織等の生体サンプルを含む生化学研究及び/又は臨床診断に関連し得る。また、本発明の使用は、磁気センサーにも関連し得る。
【0010】
本発明者らが直面し、且つ解決した主要な課題の1つは、サイズが約1000μm未満の生体サンプルの分析のために最適化され、生物培養マイクロチャンバーに作動可能に結合された小型磁気共鳴装置を含むシステムを作成することであった。すなわち、システムは、研究中のサンプルに対して優れたスピン感度(例えば、1nLの容積中で、2×1013スピン/Hz1/2のスピン感度)及び1μL未満の感知領域(複数の場合もある)を提供する。この目的のために、1)超小型感知装置を保護し(パッシベーション)、2)微細構造を基板に固定し(結合)、3)場合によっては生体適合性のある底面とその変形例(例えば、細胞固定及び/又は捕獲のための機能表面)を備える、コンフォーマル層を設けるために蒸着プロセスを利用する製造方法が導入された。
【0011】
したがって、第1の態様では、小型磁気共鳴システム及びサイズが約1000μm未満の生体サンプルを分析するための細胞培養チャンバーを含むMR装置が本明細書で提供され、当該装置は、少なくとも部分的に上記システムを覆うパッシベーション結合層を含む。また、本発明は、当該装置を製造する方法に関し、この方法は、上記システムに薄いパッシベーション結合層を蒸着させるステップを含む。好ましい実施形態では、上記蒸着は、化学蒸着及び/又は物理蒸着から選択される蒸着プロセスを介して実行される。
【0012】
細胞培養チャンバーは、好ましくは、0.1nL~1μLを含む容積を有し、上記システムに結合される。
【0013】
有利なことには、細胞培養マイクロチャンバーは、上記層から作製される床部を含む。
【0014】
本発明の上記の目的、特徴及び利点並びに他の目的、特徴及び利点は、上記主題のいくつかの好ましい態様を示す添付の図面を参照して、以下の説明を考察することからより明らかになるであろう。しかしながら、本発明は、以下に記載され、及び/又は図面に示されるような実施形態に限定されない。それに対して、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】NMRマイクロシステム(μMRBMと呼称される)がレセプタクルに差し込まれ、使用のために磁石に挿入される、完全な磁気共鳴セットアップの一実施形態の概略図である。
【
図2】
図2aは、パッド、能動素子、感知素子及び/又は励起素子を含む超小型センサーの形状の2つの実施形態の上面の概略図である。
図2bは、プリント回路基板に取り付けられた、そのような超小型センサーの3Dレンダリングを示す図である。
【
図3】
図3a及び
図3bは、プリント回路基板に取り付けた磁気共鳴生物培養マイクロチャンバーの実施形態の概略断面図(側面図)である。
図3aでは、μMRBMには、筐体及びホスティング微細構造のための上蓋がないが、一方では、
図3bにそのような蓋がある。
図3cは、プリント回路基板に取り付けたホスティング微細構造と組み合わせた超小型センサーの3Dレンダリングを示す図である。
【
図4】超小型センサーを補完する「外部補助コイル」の基本的な例の3Dレンダリングを示す図である。
図4aでは、勾配コイルを示し、
図4bでは、平面コイルを感知素子のすぐ近くに配置する。このようなコイルは、パルス勾配又は励起パルスの両方を実行するために使用することができる。
【
図5】内部補助コイルの2つの基本的な例を示す図である。
図5aでは、ワイヤボンディング及びオンチップ金属を使用してコイルの一部を作製する。
図5bは、感知素子と強く結合し、超小型センサーをホストするマイクロチップ上で利用可能な金属層で完全に実現する補助コイルの場合を示す。
【
図6】配列された超小型センサー(複数の場合もある)及び配列されたμMRBM(複数の場合もある)を作製するためのベースとして使用できるホスティング微細構造(複数の場合もある)の2つの例を示す図である。
図6aは、個々の超小型センサーが同じプリント回路基板に配置され、それぞれがホスティング微細構造に連結されている配列を示す。
図6bは、単一のマイクロチップ基板が複数の超小型センサーを含み、単一のホスティング微細構造が各励起領域及び/又は検出領域を個別に対象とする配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載されている主題は、図面に示されているこれらの態様の以下の説明によって、以下に明らかにされる。しかしながら、本明細書に記載されている主題は、以下に記載され、図面に示されている態様に限定されないことを理解されたい。それに対して、本明細書に記載されている主題の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。さらに、以下に記載され、及び/又は示される特定の条件又はパラメーターは、本明細書に記載されている主題を限定するものではなく、本明細書で使用される用語は、単なる例示として特定の態様を説明することを目的としており、制限することを意図していないことを理解されたい。
【0017】
別段の規定がない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、文脈上別段の必要がない限り、単数を示す用語は複数のものを含み、複数を示す用語は単数のものを含むものとする。本開示の方法及び技法は、一般に、当技術分野で既知の従来の方法に従って、特に明記しない限り、本明細書全体で引用及び論じられる様々な一般的且つより具体的な参考文献に記載されるように実施される。さらに、明確にするために、「約」という用語の使用は、本明細書では、所与の値の±10%の変動を包含することを意図している。
【0018】
以下の説明は、以下の定義によってよりよく理解されるであろう。
【0019】
以下の記載及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、数量が指定されていない用語は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、単数及び複数の指示対象を含む。また、「又は」の使用は、特に明記しない限り、「及び/又は」を意味する。同様に、「備える/含む(comprise、comprises、comprising、include、includes、including)」は交換可能であり、限定することを意図したものではない。様々な実施形態の説明のために「備える/含む(comprising)」という用語が使用される場合、当業者は、いくつかの特定の例において、実施形態を「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」という言語を用いて、二者択一的に記載することができることを理解するであろうことを更に理解されたい。
【0020】
「薄膜又は層」は、本明細書では、他の寸法よりもはるかに薄い、例えば、他の寸法と比較して少なくとも5分の1の厚さを有する固体素子を意味する。薄膜又は層は、上面及び下面を有し、任意の適切な形状を有し、必要性及び状況、例えば薄膜又は層を製造するために使用される製造工程に応じて、ナノメートル又はマイクロメートルのオーダーの厚さを有する固体層である。好ましい実施形態では、本発明によるフィルムは、約1nm~1000マイクロメートル、好ましくは約1nm~600マイクロメートル、約1nm~300マイクロメートル、約1nm~100マイクロメートル、約1nm~50マイクロメートル、約100nm~100マイクロメートル、約1マイクロメートル~500マイクロメートル、約1マイクロメートル~300マイクロメートル、約1マイクロメートル~100マイクロメートル、約10マイクロメートル~100マイクロメートル、又は約1マイクロメートル~50マイクロメートルを含む厚さを有する。
【0021】
「パッシベーション」という用語は、本発明による薄膜又は層の挙動を示し、上記薄膜又は層は、例えば、電気構成部品及び液体媒体等、装置の2つ以上の要素間の物理的、化学的及び/又は電気的接続を防止する絶縁シールド材料として機能する。したがって、例えば、短絡と、例えば、金属構成部品の酸化による腐食とを回避する。
【0022】
「蒸着」とは、本明細書では、表面に薄膜を堆積する行為を意味し、基板に又は以前に蒸着された層に、材料の薄膜を蒸着するための任意の技法が知られている。「薄い」は相対的な用語であるが、ほとんどの蒸着技法は、数十ナノメートル以内で層の厚さを制御する。蒸着方法は、化学蒸着、物理蒸着、スピンコーティング及び噴霧のうちの1つを含むことが可能である。本発明による一実施形態では、蒸着方法は、化学蒸着プロセスを含む。代替又は追加の実施形態では、蒸着方法は、物理蒸着プロセスを含む。
【0023】
「化学蒸着」プロセス、又は「CVD」は、典型的には真空下で、高品質、高性能の固体材料を製造するために使用される蒸着方法である。典型的なCVDでは、基板又はウェーハが、1つ以上の揮発性前駆体に晒され、これらの揮発性前駆体は、基板表面で反応し、及び/又は分解して、所望の蒸着物を生成する。CVDは、従来の表面改質技法では不可能な方法で、コンフォーマル膜を蒸着し、基板表面を増強するために一般的に使用される。CVDは、材料の極めて薄い層を蒸着する際のいわゆる原子層蒸着に極めて役立つ。本発明の枠内では、化学蒸着は、大気圧CVD(APCVD)、低圧CVD(LPCVD)、及び超高真空CVD(UHVCVD)を含むことを意味する。さらに、本発明の枠内では、化学蒸着には、マイクロ波プラズマ支援CVD(MPCVD)、プラズマ強化CVD(PECVD)、遠隔プラズマ強化CVD(RPECVD)、原子層CVD(ALCVD)、燃焼化学蒸着(CCVD)、ホットフィラメントCVD(HFCVD)、ハイブリッド物理化学蒸着(HPCVD)、高速熱CVD(RTCVD)、気相成長(VPE)、光開始CVD(PICVD)、及びレーザー化学蒸着(LCVD)等のプラズマ処理方法が含まれることを意味する。
【0024】
「物理蒸着」プロセス、又は「PVD」は、一般に、薄膜及びコーティングを形成するために使用することができる様々な真空蒸着方法を説明する。PVDは、材料が凝縮相から気相に移行し、次いで、薄膜凝縮相に戻って、固体基板に原子ごと又は分子ごとに材料の層を蒸着するプロセスを特徴としている。本発明の枠内では、物理蒸着には、陰極アーク蒸着、電子ビーム物理蒸着、蒸発蒸着又は蒸発、スパッタ蒸着、昇華サンドイッチ法、イオンビーム支援蒸着、及びハイブリッド物理化学蒸着(HPCVD)が含まれることを意味する。
【0025】
「能動素子」とは、本明細書では、共鳴を励起し、及び/又は検出するために使用される一式のツールを意味し、これは、電子機器及び/又は光学素子(レーザー、オンチップ光源、プラズモン構造又はマイクロレンズ等)からなることができる。
【0026】
「感知素子」については、本明細書では、増幅の必要な操作(及び最終的には、周波数ダウンコンバージョン)の前に、信号ピックアップとして使用する本発明のシステムの素子を意味する。この素子をインダクタによって作製する場合等、場合によっては、感知素子は、NMRの励起及び検出のため、励起のみの目的、又は検出のみの目的のために使用できる。このため、感知素子は、本明細書では「感知素子及び/又は励起素子」とも呼称される。超小型装置の「感知素子」は、感知を実行する領域、その幾何学的特性、感知パワーに関する性能の限界、感知を実行するために使用する方法を規定する。
【0027】
今日まで、そのような感知素子を実現するために利用することができる2つの物理的現象、すなわち、誘導性現象及び光磁気現象がある。誘導センシング手法では、センサーは金属巻線で実現されるインダクタ(複数の場合もある)からなる。この実現では、磁気共鳴に典型的なサンプル磁化のダイナミクスが、ファラデーの法則により電圧信号に変換される。動作中、サンプルは、インダクタにいくらかの電流を流したときに、インダクタが磁場を生成できる空間の領域内に配置する必要がある。コイルを流れる電流は磁束を誘導し、隣接する2番目のコイルによって遮断されると、磁束は電圧を誘導する可能性がある。このようなシナリオでは、2つのコイルが結合されていると言われる。「結合係数k」は、0~1の無次元数であり、これは、1つのコイルによって生成される磁束と、2番目のコイルによって遮断される磁束との割合を示す。この数は、2つのコイル間の相対的な距離及び方向に大きく依存する。L1を一方のコイルの自己インダクタンス、L2を他方のコイルの自己インダクタンス、Nを相互誘導と呼称し、結合係数はk=N/(L1L2)1/2として表される。
【0028】
また、誘導センシング手法は、信号のピックアップ及び処理を単純化するため、及び/又は感知素子の感知能力を強化するために、誘導的に結合される1つ以上のコイル及び/又は単純な金属構造の組み合わせを利用することができる。誘導結合のこのような使用の例は、マジック角スピニングNMRプローブ、又はダイヤモンドアンビルセル内の高圧で検出するためのマイクロプローブについて報告された。結合を有益に利用する感知素子の例には、より大きなコイルに誘導結合されたレンツレンズがある。また、本発明の実施形態では、超小型センサーの感知素子は、マイクロコイル(複数の場合もある)及び/又はレンツレンズ等の結合された金属構造が積み重ねられた組み合わせで作製することができる。この積み重ねられた組み合わせは、単一の基板(すなわち、マイクロチップ基板)内で、又はそれぞれが少なくとも1つの積み重ねられる素子を含む分離された層を組み合わせることによって行うことができる。
【0029】
「感知容積」又は「感知領域」は、本明細書では、磁気共鳴の励起及び/又は感知に関連する空間の領域を意味する。そのような領域を、スピン感度に関連して規定することができる。一般に、磁気共鳴センサーの感知能力をスピン量として表すことが可能であり、したがって、1Hzの検出帯域幅にわたって信号対雑音比を3にすることを可能にするサンプル内の核及び/又は電子を対象とすることができる。スピン感度(ξ)とも呼称されるこのような値は、空間によって異なり、感知素子の幾何学的特性及び基礎となる検出機構に起因する。したがって、感知素子及びデカルト座標系(x,y,z)が与えられると、関連するスピン感度マップξ(x,y,z)が存在する。感知領域の寸法及び形状は、このような場のスカラー値に関連して規定できる。全ての素子が1zL~10zLの範囲で同一の容積dVを有する空間のメッシュを使用することにより、メッシュの各部分と、合計信号ξ(xi,yi,zi)dVへの対応する寄与を関連付けることができる。ξmaxをこのスカラー値の集合体の最大値とすると、感知領域を、信号の寄与が個別にξmax/3よりも大きいdV容積の和集合として規定する。本発明の実施形態は、1μL未満の個々の感知領域を有する装置に関する。
【0030】
「マイクロコイル」は、マイクロメートル(μm)、又は10-3メートル(mm)未満のスケールの少なくとも1つの寸法を有するコイル、又は1つ以上の接続されたループである。マイクロコイルは通常、中心又は仮想中心の周りにスパイラルに、ヘリカルに、又は他の形状に巻かれた、又は集められた薄い材料を含む。マイクロコイルを、材料自体、巻線の形状、及び各巻線間の間隔によって規定する。ソレノイドタイプのマイクロコイルは、複数のスパイラルワイヤループであり、それは金属コアに巻き付けられている場合も、巻き付けられていない場合もある。ソレノイドタイプのマイクロコイルは、電流が流れると磁場を発生し、制御された磁場を生成することができる。ソレノイドタイプのマイクロコイルは、空間の所定の容積中に均一な磁場を発生させることができる。「平面」マイクロコイルは、巻線が実平面又は仮想平面に実質的に留まっているマイクロコイルである。このようなマイクロコイルは、通常、内径が0.1mm~0.5mmの範囲であり(サンプル容積の平均サイズに応じて異なる)、少量のサンプル容積(nL~μL)で高品質のNMRスペクトルを取得できる。
【0031】
マイクロコイルの配列は、シリコン、ガラス、又はポリマー基板等の基板上に構築されたマイクロコイルの集合体である。マイクロコイルのそれぞれは、マイクロコイルが、NMR又はESR分析の一部として振動磁場を生成することができるサンプル空間と関連付けられているか、又は対応していてもよい。サンプル空間は、サンプルを保持するための空間であり得る。
【0032】
「ホスティング微細構造」は、本明細書では、本発明の実施形態において、超小型磁気共鳴センサーの上部及び/又は周囲の空間に配置される構造を意味する。ホスティング微細構造は、サンプル、固体及び/又は液体をホストし、それを感知容積内で保持するように形成されている。本明細書では、「筐体」は、サンプル及びホスティング微細構造と接触している選別された液体を保持する容器を意味する。明らかなように、筐体及びホスティング微細構造は、2つの異なる長さスケールの寸法を有する物体であり、前者は「巨視的」と呼称され、後者は「微視的」と呼称されることがある。
【0033】
本発明の実施形態は、サンプルの「ホスティングのみ」のために設計されたホスティング微細構造を含む。このような実現は、サンプルが、単に感知領域内に含まれる任意の形状のマイクロウェルからなることができる。これらの実施形態では、ユーザーは、サンプルを培養マイクロチャンバー(手動で又は自動システムを介して)に配置し、実験(複数の場合もある)が終了するとサンプルを回収することができる。
【0034】
「マイクロチャネル」は、マイクロメートル(μm)、又は10-3メートル(mm)未満のスケールの少なくとも1つの寸法を有するチャネル、溝、又は導管である。マイクロチャネルは、通常、その長さに沿った直線であるが、長さに沿って種々の角部や湾曲部を含む場合がある。マイクロチャネルの断面形状は、通常、長方形であるが、円等の他の断面形状であってもよい。マイクロチャネルは、通常、生物学的液体を移送する等の流体連通(fluidic communications)に適している。マイクロチャネルは、多くの場合、マイクロ流体装置、又は集積回路等の集積装置の一部であり、制御されたパターンを以てマイクロチャネルを液体が流動し、当該液体に対して所望の分析がなされるようにできる。
【0035】
「マイクロ流体装置」は、1つ以上のマイクロチャネルを有する装置である。マイクロ流体装置は、集積された分離器機若しくは検出機器、又は集積回路等の集積装置の一部であり得る。マイクロ流体装置で使用される流体には、全血サンプル、細菌細胞懸濁液、タンパク質又は抗体溶液、並びに様々な緩衝液及び生理食塩水が含まれる。
【0036】
マイクロ流体装置は、流体の機械的特性、細胞及び分子の拡散係数、流体の粘度、pH値、化学的及び生物学的結合係数、並びに酵素反応速度を含む多くの興味深い測定値を取得するために使用できる。マイクロ流体装置の他の用途には、細胞及び分子の検出及び分離、キャピラリー電気泳動、等電点電気泳動、イムノアッセイ、フローサイトメトリー、質量分析による分析のためのタンパク質のサンプル注入、DNA分析、細胞操作、及び細胞分離が含まれる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「磁性」、「磁気効果」、及び「磁力」は、或る材料が別の材料に引力又は反発力を及ぼす現象を指す。理論的には、全ての材料が磁気効果により或る程度は影響を受けるが、当業者は、磁気効果又は磁力が、特定の環境下でのみ認識されることを理解している。
【0038】
本明細書で使用される場合、「永久磁石」は、外部の影響(例えば、電流)に依存することなく磁場を有する材料、又はこの材料から実質的に構成される任意の物体である。その不対電子スピンにより、一部の金属は、鉱石のように、その自然の状態で見つかったときに磁性を帯びている。これらには、鉄鉱石(磁鉄鉱又は天然磁石)、コバルト、及びニッケルが含まれる。「常磁性材料」とは、磁場に曝されたときに、通常の磁石のように引き付けたり反発したりする材料を指す。常磁性材料には、アルミニウム、バリウム、白金、及びマグネシウムが含まれる。「強磁性材料」とは、自発磁化を示すことができる材料のことである。強磁性は、磁力の最も強力な形態の1つであり、全ての永久磁石の基礎である。強磁性材料には、鉄、ニッケル、及びコバルトが含まれる。「超常磁性材料」は、キュリー温度又はネール温度よりも低い温度で、常磁性材料と同様の挙動を示す磁性材料である。
【0039】
「固体支持体」及び「支持体」は、剛性又は半剛性の表面(surface or surfaces)を有する材料又は材料のグループを指す。いくつかの態様では、固体支持体の少なくとも1つの表面は、実質的に平坦になるが、いくつかの態様では、例えば、ウェル、隆起領域、ピン、エッチングされた溝等により、異なる分子に対して合成領域を物理的に分割することが望ましい場合がある。或る特定の態様において、固体支持体(複数の場合もある)は、ビーズ、樹脂、ゲル、マイクロスフェア、又は他の幾何学的形状の形態をとるであろう。
【0040】
「チップ」、「マイクロチップ」又は「プリント回路基板」という用語は、或る特定の機能を実行するための構成部品を含む小さな装置又は基板を指す。チップは、シリコン、ガラス、金属、ポリマー、又はそれらの組み合わせから作製され、例えば、マイクロアレイ、マクロアレイ、及び/又は集積回路として機能することができる基板を含む。チップは、半導体材料から作製され、1つ以上の集積回路、又は1つ以上の装置を有する超小型電子装置であり得る。
【0041】
「チップ」又は「マイクロチップ」は、典型的には、ウェーハの一部分であり、ウェーハを薄く切ることによって作製される。「チップ」又は「マイクロチップ」は、シリコン、サファイア、ゲルマニウム、窒化ケイ素、シリコンゲルマニウム、又は他の任意の半導体材料の単一の薄い長方形の上に、多くのミニチュアトランジスタ及び他の電子構成部品を含み得る。本発明の実施形態では、本明細書で論じられるように、マイクロチャネル、マイクロ流体装置、及び磁気トンネル接合センサーもマイクロチップに統合することができる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「最大寸法」は、物体の形状及び/又はサイズ、例えば、高さ、幅、及び長さを規定するために必要なパラメーター又は測定値を指す。本明細書で使用される場合、長方形、多角形、又は円等の2次元物体の最大寸法は、物体の任意の2点間の最長の直線距離である。したがって、円の最大寸法はその直径であり、長方形はその対角線であり、多角形はその最長の対角線である。3次元物体の最大寸法は、物体の任意の2点間の最長直線距離である。
【0043】
「マイクロプロセッサ」は、集積回路(IC)チップ上のプロセッサである。プロセッサは、1つ以上のICチップ上の1つ以上のプロセッサであり得る。チップは通常、コンピューター又はコンピューティング装置の中央処理装置(CPU)として機能する数千の電子部品を含むシリコンチップである。
【0044】
本発明による第1の態様では、装置を製造する方法が提供され、この装置は、細胞培養マイクロチャンバーに動作可能に接続された小型磁気共鳴システムを含み、上記方法は、薄いパッシベーション膜又は層を上記小型磁気共鳴システムに蒸着させるステップを含む。本発明による好ましい実施形態では、上記蒸着は、化学蒸着及び物理蒸着から選択される蒸着プロセスを介して実行される。
【0045】
本発明の装置は、集積されたオンチップの小型NMR又はESR装置であり、空間の少なくとも一部にわたって、励起磁場を生成することができる感知素子及び/又は励起素子と動作可能に接続された、サンプルを保持するための細胞培養マイクロチャンバーを有する基板を含む。簡潔にするために、この装置は、以下、「磁気共鳴生物培養マイクロチャンバー(magnetic resonance bio-culture micro-chamber)」とも呼称され、頭字語からμMRBMと略される。基板として有用な特定の材料には、シリコン、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ガラス、化学官能化ガラス、ポリマー被覆ガラス、ニトロセルロース被覆ガラス、非被覆ガラス、石英、プラスチック、金属及びセラミックスが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
本発明の方法は、典型的には5μm~1000μmの寸法を有する固体サンプルを単独で、又は非常に少量の液体培地容積(すなわち、約1μL未満)中に含ませて、感知素子に近接させる(すなわち、1nmもの近さにあり)ことにより、研究中のサンプルに対して優れたスピン感度、及び1μL未満の感知領域(複数の場合もある)を提供することができる、μMRBMを取得するために開発された。
【0047】
装置の製造ステップとして蒸着層を実装することにより、取得された装置は、パッシベーション化され、その全ての部品に適合して結合され、ニーズ及び状況に応じて、機能化されるか、機能化される可能性がある。本発明の方法の好ましい実施形態では、薄いパッシベーション膜又は層は、少なくとも上記感知素子に蒸着される。
【0048】
本発明の方法の好ましい実施形態では、μMRBMは、励起信号を少なくとも1つの感知素子に送信するように、及び/又はこの少なくとも1つの感知素子から入力信号を受信するように構成される能動素子を更に含む。一実施形態では、パッシベーション薄膜又は層は、能動素子に蒸着される。
【0049】
一実施形態では、本発明の方法は、細胞培養マイクロチャンバーの容積を規定するホスティング微細構造を上記小型磁気共鳴システムに結合するステップを更に含み、それによって細胞培養マイクロチャンバーが作成される。好ましくは、細胞培養マイクロチャンバーは、感知領域及び/又は励起領域内に位置する。
【0050】
本発明の方法の特定の実施形態は、少なくとも以下のステップ、すなわち、
a)小型磁気共鳴システムを設けるステップと、
b)ホスティング微細構造を設けるステップと、
c)上記小型磁気共鳴システムを上記ホスティング微細構造と接触させ、上記ホスティング微細構造が、細胞培養マイクロチャンバーの容積部を規定する、ステップと、
d)薄いパッシベーション膜又は層を取得することができる条件下で、蒸着プロセスを介して、上記小型磁気共鳴システムを上記ホスティング微細構造に結合することにより、上記薄いパッシベーション膜又は層から作製される床部を有する細胞培養マイクロチャンバーを作成する、ステップと、
を予見する。
【0051】
追加の実施形態では、この方法は、上記小型磁気共鳴システムを、筐体容積を規定する筐体要素と接触させるステップを更に含む。
【0052】
当業者にとって明らかであるように、本発明の別の態様は、本発明の方法によって取得できる装置に関する。特に、この装置は、小型磁気共鳴システムに結合された0.1nL~1μLを含む容積を有する細胞培養マイクロチャンバーを含み、上記細胞培養マイクロチャンバーは、蒸着させた薄いパッシベーション膜又は層から作製される床部を含む。
【0053】
好ましい実施形態では、取得できる小型磁気共鳴システムは、
a)感知領域及び/又は励起領域が設けられた少なくとも1つの感知素子と、
b)励起信号を少なくとも1つの感知素子へ送信し、この少なくとも1つの感知素子から入力信号を受信するように構成される能動素子と、
を含み、細胞培養マイクロチャンバーは、感知領域及び/又は励起領域内に位置する。
【0054】
本発明の装置は、核磁気共鳴(NMR)及び電子スピン共鳴(ESR)の技法を介した非常に小さなサンプルの研究及び分析のために考案された、多用途で使いやすいセンサーである。1μL未満の容積のスケールで、そのような分光ツールを簡易に可能にすることに加えて、本発明は、生体適合性条件での生体材料の測定を可能にする包括的なマイクロセットアップに関する。そのような機器により、ユーザーは、サンプルの適切な生化学的パラメーターを体系的な方法で、選別された液体環境で、安定した温度条件で、外部から制御された灌流状態で測定できる。装置は、例えば、分析又は診断を実行する目的で生体サンプルの化学組成を検査するために使用することができる。
【0055】
好ましくは、少なくとも1つの感知素子及び能動素子を、超小型構成で配置する。「超小型」磁気共鳴装置は、平面内に隣接して配置された、又は垂直に積み重ねられた上記の2つの素子を含む。その実現において、超小型磁気共鳴センサーは、非常に小さな空間に2つの素子を含み、互いに十分に接近しているので、感知能力は、2つの素子間の相互接続によってではなく、感知素子のみによって規定される。そのような実現では、センサーは局部的に動作するため、超小型装置の周囲に、下側に、及び上側に配置する材料からの不要な信号を低減する。
【0056】
本発明による更なる実施形態では、装置は、空間の少なくとも一部にわたって静磁場を生成することができる永久磁石又は電磁石を含む。永久磁石又は電磁石は、サンプルを保持するための空間の少なくとも一部にわたって静磁場を生成する。永久磁石又は電磁石としての使用に適した材料には、永久磁性材料、強磁性材料、常磁性材料、及び非磁性金属が含まれる。磁石に強磁性材料を使用する場合は、外部磁場を利用して材料を磁化する。さらに、強磁性材料又は非磁性材料のいずれかを磁石に使用する場合、電流が材料に印加されて電磁石が作成される。本発明の一実施形態では、磁石は、鉄、ニッケル、コバルト、ネオジム等の希土類材料、銅、アルミニウム、及びそれらの混合物のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、磁石は、約0.01テスラ(T)~約30T、例えば、約0.01T~約10T、約0.01T~約7T、又は約0.01T~約5Tの静磁場強度を生成することができる。
【0057】
好ましくは、薄いパッシベーション膜又は層は、感知素子の最大直線寸法の3分の1よりも薄く、いくつかの実施形態では、レジスト(複数の場合もある)、フォトレジスト(複数の場合もある)、パリレンC、SiO2、SixNy、セラミックス及びポリマー由来のセラミックスからなる群から選択される材料を含む。薄いパッシベーション膜と感知素子の最大直線寸法との間の比率は、感度が、感知素子の表面から離れるにつれて急速に低下するので、設定する重要なパラメーターであり、それは感知素子の最大直線寸法のべき関数に比例する。
【0058】
一例として、最大直線寸法が約180μmの感知素子又は励起素子内にマイクロコイルが存在する場合に、装置の感知領域内で最適なスピン感度を有するために、パッシベーション薄膜は、胚(約100μmのサイズ)の分析のために15μm未満の厚さを有することが好ましい。500μmの最大直線寸法を有する感知素子又は励起素子(約300μm~600μmのサイズを有する幹細胞由来組織の場合)では、約40μmまでのパッシベーション膜厚が適切である。オルガノイド又はいわゆる癌液滴等のサイズが約1mmのサンプルの場合、約100μmまでのパッシベーション膜厚がよく適している。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態では、感知素子として光磁気センサーに基づく磁気共鳴生物培養マイクロチャンバーが想定されている。光磁気現象は、磁気共鳴実験に典型的なサンプル磁化のダイナミクスを直接検出できることが現在知られている。そのような感知方式の一例は、ダイヤモンド構造の窒素空孔欠陥の感知方式であり、感知素子からの光学的読み出しは、一部の実現では、欠陥に存在する電子のゼーマンレベルのマイクロ波励起と組み合わされた、光による励起及び検出に基づく。また、この種のダイヤモンド構造は、超小型磁気共鳴ツールの基礎であると考えることもでき、一般に「カラーセンター」と呼称される。
【0060】
図1を参照すると、本発明によるNMRマイクロシステム(「磁気共鳴生物培養マイクロチャンバー」、すなわち、「μMRBM」)100を含む完全な磁気共鳴セットアップの1つの概略的な実施形態が示されている。記述した実施形態では、装置100は、レセプタクル1000に差し込まれ、使用のために永久磁石又は電磁石5000に挿入される。磁石5000の特性は、静磁場Bを形成するために使用する方法論に応じて変更ができる。永久磁石5000は、1Tまでの強さを有する磁場Bを生成することができ、ハルバッハ構成を使用するとき、この値は数Tまで上回る。高い磁場に対しては、すなわち、5T以上に対しては、注入高電流密度を伴う超電導コイルを、通常は使用する。レセプタクル1000とμMRBM 100がホストされるプリント回路基板との間の接続は、オス-メス電気コネクタを介して実行する。マルチ信号ケーブル4000は、レセプタクルを既知の電子機器を含むコンソール3000に連結し、ユーザーがコンピュータシステム2000を介して実験パラメーターを制御し、データを収集することを可能にする。
【0061】
図2aを参照すると、超小型センサー101形状の2つの実施形態の上面概略図が示されている。左側に示す実施形態では、センサー101は、能動素子200及び複数のパッド301と平面内で近接して隣接する感知素子及び/又は励起素子300を含み、一方、右側の実施形態では、感知素子及び/又は励起素子300は能動素子200によって囲まれている。
図2bは、同一の2つの実施形態の3Dレンダリングを示し、更に、パッド301をプリント回路基板400と接続するボンディングワイヤ302を示す。
【0062】
μMRBM 100の概略図の1つの実施形態を
図3に示す。基本的なμMRBM 100は、4つの主要な構成部品、すなわち、超小型磁気共鳴センサー101、ホスティング微細構造500、筐体700、及びパッシベーション結合層800を含む。
図3a及び
図3cに示す実施形態では、例えば、胚としての生体サンプル等の固体サンプル600を、感知領域及び/又は励起領域の磁場を感知するように、感知素子及び/又は励起素子300に対応付けて培養マイクロチャンバー502のホスティング微細構造500の内部に配置する。サンプル600は、筐体構造700の内部に培養培地601を含むことにより適切な培養条件に保たれる。
図3bに示す実施形態では、筐体上蓋701は、筐体構造700を密封し、このようにして無菌状態を確保し、培地の漏れを回避する。
【0063】
本発明の実施形態は、例えば、制御される温度で計測を行う必要性、μMRBMを垂直に配置する必要性、μMRBMを灌流する必要性、感知領域で生体サンプルを捕獲する必要性、培養培地の他の特性を制御する必要性、超小型センサーの外部の補助コイルを用いてスピン操作を行う必要性等の更なる必要性に対処する追加の特徴を含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、ホスティング微細構造500を、マイクロ流体チャネルと動作可能に接続することができ、その結果、ホスティング微細構造500との間で、例えば、液体又は培地601をフラッシングのための流体接続を可能にする。いくつかの実施形態では、フラッシュされた液体は、サンプル600をキャプチャサイトへ、及びキャプチャサイトから、移送する媒体としても機能する。本発明のこれらの実施形態では、サンプル(複数の場合もある)600は、超小型装置の表面に垂直な方向に沿って、特に、感知素子300により規定される感知領域内に閉じ込められて、培養マイクロチャンバー502に保持される。このような特徴は、例えば、重力の作用及びμMRBM 100を磁場内に配置するのに必要な操作が、サンプル600を培養マイクロチャンバー502、したがって、感知領域から逸脱させる可能性がある、垂直磁場でのμMRBM 100の使用に有用である。本発明のこれらの実施形態は、複数のサンプルが同時に及び/又はパイプラインで大量に分析される配列を実現する必要性に対処するために、使用することもできる。その実施形態で、多数のサンプルの配置及びその回収は、自動的な方法及び/又は単一のフラッシング操作で対処することができる。
【0065】
本発明の実施形態は、上蓋(501、
図3b)を含むホスティング微細構造500を含む。「ホスティング微細構造のための上蓋」は、本明細書では、ホスティング微細構造500の上部にあり、超小型装置100の表面に垂直な方向にホストされるサンプル600を閉じ込めるのに使用することができる素子を意味する。このような特徴は、例えば、重力の作用及びμMRBM 100を磁場内に配置するために必要な操作、サンプルが培養マイクロチャンバー502、したがって、感知領域から逸脱させる可能性がある、垂直磁場でのμMRBM 100の使用に不可欠である。これらの実施形態では、ユーザーは、ホスティング微細構造500の上蓋501を手動及び/又は自動化された方法で操作し、手動及び/又は自動化されたサンプル600配置及び回収のために、培養マイクロチャンバー502にアクセスすることができる。
【0066】
本発明の実施形態は、筐体700の内部に含まれ、ホスティング微細構造500内でサンプル600を取り囲む液体培地601に対して、異なる機能を有することが可能な上蓋501を含む。上蓋501は、液体が培養マイクロチャンバー502と筐体との間で自由に流れることを可能にする。このような上蓋、例えば、上蓋として有孔構造を有することにより実現することができる。上蓋は、
図3bに例示するように、半透性部分を含むことができ、半透性部分は、培養マイクロチャンバー502から、筐体700内に含まれる液体リザーバーへの分子種の外向きの流れ、及び/又はサンプル600によって生成される(例えば、化学反応又は生体サンプルの代謝によって生成される)分子種の外向きの流れを選択的に防ぐこともできる。同様に、半透性部分は、培養マイクロチャンバー502において、サンプルによって消費される(例えば、化学反応又は生体サンプルの代謝によって消費される)分子種の内向きの流れを防ぐこともできる。上蓋は、培養マイクロチャンバー502と筐体700との間の任意の液体交換を防ぐことができる。
【0067】
本発明の実施形態は、「双安定機構(bi-stable mechanisms)」に基づく上蓋501を含む。「双安定機構」とは、システムの位置エネルギーが最大値で分離された2つの極小値を持つ機構である。極小値は、オープン/クローズ又はオン/オフと呼称され得るシステムの2つの可能な平衡位置である。最大値は、この2つの部分の間の障壁としての機能を果たす。2つの平衡位置の間のスイッチングは、制御された十分な外力を加えることが必要となる。この力は、μMRBM 100の再配向を介しての重力、上蓋501に局部的に適用される機械力、圧電性システム、電気泳動システム、上蓋501に作用するオプトメカニカルシステム、磁気システム、空気圧システム又はこれらの適切な組み合わせを含むいくつかの方法によって提供することができる。本発明の実施形態は、位置エネルギーの2つ以上の局部的な極小値がある「マルチステーブル機構(multi-stable mechanisms)」も含む。このようなマルチステーブル機構の例は、ラチェットシステムである。
【0068】
本発明の実施形態は、「ピボット機構(pivot mechanisms)」に基づく上蓋501を含む。「ピボット機構」は、上蓋がホスティング微細構造500に配置されたピボットポイントの周囲を自由に回転できる機構である。一例は、回転方向がホスティング微細構造500の上面と平行なものである。このような構成において、上蓋の回転の角度範囲は、無制限にすることもできるし、例えば、超小型装置100表面に適切に配置される突起によって制限することもできる。ピボット機構の別の例は、上蓋501がホスティング微細構造500の上面に平行な接合部の周囲を回転するものである。このような構成において、上蓋501は培養マイクロチャンバー502に対するハッチドアとしての機能を果たすだろう。
【0069】
本発明の実施形態は、「引き戸機構(sliding door mechanisms)」に基づく上蓋501を含む。このような機構は、上蓋501がホスティング微細構造500に組み込まれたガイドを摺動するものである。摺動方向及び範囲はガイドによって規定される。一例は、ガイドが上蓋501上の相補的な突起に適合するホスティング微細構造の溝であるものである。
【0070】
本発明の1つの実施形態によれば、ホスティング微細構造500及び上蓋501は、2光子光重合を介して、直接レーザー書き込みを用いて製造することができる。「双安定機構」の場合、ホスティング微細構造500及び上蓋501は、そのような使用中にそのまま残る単一ユニットとして製造される。他の実施形態(例えば、「ピボット機構」又は「引き戸機構」)において、ホスティング微細構造500及び上蓋501は、使用前に取り除かれる接続部によって2つが一緒に保持され、これにより2つの分離した物体となるモノリシック構造として製造することができる。或いは、その2つの物体を別々に製造し、次いで、使用前に組み合わせることができる。
【0071】
本発明の実施形態は、密封した培養マイクロチャンバー502を備えるホスティング微細構造500を含み、密封した培養マイクロチャンバー502内に、物質(例えば、水又はゴム)が製造中に封入される。このように封入された物質は、任意の密閉機構を介して、例えば、最初にマイクロ構造がオープンルーフで製造され、後にキャップ層を結合することによって閉じられる、結合技法により組み立てることができる。また、微細構造の間の結合は、液体及び生体サンプル(ポリマー、ガラス、半導体、セラミックス)の磁気共鳴実験との高い適合性を有する材料を用いて可能となる。これらは、全て液体の漏れを防ぐためにチャネルを適切に密閉する、特定の材料ケースごとに確立された方法である。
【0072】
本発明の1つの実施形態によれば、ホスティング微細構造500は、材料コーティング、フォトリソグラフィー、現像及びエッチングを伴うシーケンスに基づく微細加工技法によって製造することができる。覆われたホスティング微細構造は、特に、犠牲層が、エッチング液又は溶剤を用いた犠牲除去ステップによって取り除かれる、犠牲層手法を用いた表面マイクロマシニングによって作製することができる。例えば、高アスペクト比のポリマーフォトリソグラフィー(例えば、SU-8、Ormocers等)は、微細構造の要件と互換性がある透明な厚いレジストである。
【0073】
ホスティング微細構造を実現するために使用される材料の幾何学的特性及び性質は、それらが機器の性能に著しく影響を及ぼし得るので、設計において考慮に入れられる。磁化率特性と組み合わされた幾何学的特性の両方は、感知領域の磁場ひずみに、それゆえ、スペクトル線のブロード化に直接関係するので、それらの両方は極めて重要なパラメーターであることは、当業者によって実際に知られている。χvとして示される材料の磁化率は、関係式M=χvH0によって規定され、ここでMは、外部磁場強度H0にまとめられるときの材料の磁化である。この規定において、磁場に曝されるとき、χvは無次元の量であり、磁化を形成するための材料の性能に関連する。
【0074】
本発明によるμMRBMは、他の用途の中でも、培養培地に浸漬されるサンプルの分析のために考案されているので、感知領域において、水(H2O)と同様の感受性を有する液体培地が存在するとみなされる。このような液体は、ホスティング微細構造の端部と直接接触するため、磁化率の不一致がある表面が生成される。不一致の表面の磁化率をχ1及びχ2と呼称すると、(χ1-χ2)B0sin(θ)に直接比例する磁場のひずみが生じる。θは外部静磁場と不一致の表面との間の角度である。
【0075】
したがって、本発明の実施形態を実施するホスティング微細構造500は、液体及び生体サンプルの磁場共鳴実験との高い適合性を有する材料から作製される。このような材料は、水の磁化率χH2Oから10ppmを超えて異ならない磁化率により特徴付けられる。このような材料には、とりわけ、シリコン、フォトレジスト、大抵のポリマー(例えば、アクリル)、エポキシ、ゲル(例えば、アルギン酸系ゲル及びアガロース系ゲル)、ガラス、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、セラミックスが含まれる。
【0076】
本発明によるμMRBM 100において、
図3に示すように、1つの重要な素子は、パッシベーション結合層800である。このような層800は、結合素子として、パッシベーション層として、及び機能化層として、複数の役割を有する。結合は、ホスティング微細構造500と超小型センサーとの間でなされる。このような結合の役割は、日常で実行する上で、μMRBM 100を使いやすく、また直ちに受け入れさせるための必要なロバスト性を与えるのに不可欠である。パッシベーションの役割は、センサーと媒体との間の電気的接続を防止するために不可欠である。パッシベーションなしでは、μMRBMは電気的機能の問題に直面することになるであろう。
【0077】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、パッシベーション結合層を、物理蒸着(PVD)の技法を介して、真空槽内での熱又は電子ビーム蒸発、又は、プラズマ槽内でのスパッタリングのいずれかによって製造することができる。いずれの方法も、パリレン、SiO2、SiN等の薄い誘電体膜の蒸着として十分確立されたものである。いくつかの変形形態では、被膜された薄い膜はコンフォーマルであり、上面だけでなく、試験片の側壁及び材料源の陰になる部分も覆われる。セラミックス又はポリマー由来のセラミックスのスプレーコーテイングは、パッシベーション結合層を得るための可能な方法である。
【0078】
本発明の実施形態において、パッシベーション結合層800は、表面処理を介して、細胞増殖と特定媒体への曝露との両方に適応させる基材として活用される。機能化された層800により、ユーザーは、必要性及び状況、例えば、求められる用途及び分析されるサンプルに応じて、用途の範囲を広げられるように、表面特性をカスタマイズできる。一例として、しばしばパリレンCと呼称されるポリクロロpキシリレンは、カプセル化、電解質バリア特性、化学的不活性、生体適合性の品位を高めることができると知られているように、μMRBM 100のパッシベーション結合層800として適切な材料である。例えば、パリレンC、SiO2、又はパッシベーション結合層の他の候補となる材料の表面は、親水性を変化させ、この基材と接触して成長する細胞との相互作用を改善するために処理することができることは当業者により知られている。本発明の実施形態は、その生体適合性及び親水性を改善するために、表面処理がなされたパッシベーション結合層800を有するμMRBM 100を含む。本発明の好ましい実施形態で使用されるパリレンCのパッシベーション結合層800は、それらの表面が適切に処理されると、標準的な組織培養基質と十分に匹敵する特性を呈することが知られている。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態において、μMRBM 100は、酸素プラズマ処理、UV照射、シラン処理、追加の被膜処理、ドロップオンデマンド注入印刷、シャドウマスクを介した局部的PVD、ポリマーグラフト化を経ている。全てのこれらの処理は、個別に又は多段階プロトコルを介して組み合わせて使用することが考えられ得る。本発明のいくつかの実施形態において、1つの表面処理のみが、露出面全体に施される。本発明のいくつかの実施形態において、1つの表面処理のみが、露出したパッシベーション結合層800の対象領域に施される。本発明のいくつかの実施形態において、露出したパッシベーション結合層800の露出面全体、単一又は複数のサブ領域のいずれかを個別に対象とする表面処理手順の組み合わせがある。本発明のいくつかの実施形態において、パッシベーション結合層800又は露出面全体の異なる領域を対象とする同一の表面処理が、多段階で適用されるする。
【0080】
いくつかの実施形態において、本発明の装置は、周囲の液体/培養培地の温度を測定するために筐体700内部に周囲温度センサーを含む。さらに、本発明による他のいくつかの実施形態において、μMRBM 100は、周囲液体/培養培地の温度を制御することを目的として、加熱素子(複数の場合もある)及び/又は冷却素子(複数の場合もある)を含むことができる。
【0081】
NMR及びESRの両方において、サンプル磁化及び/又はサンプルが浸漬されている磁場の操作は、実験の間、情報を抽出するための有効な方法を提供する。1つの例は、NMR信号の緩和特性を測定する目的で、サンプル磁化が空間で反転される、いわゆるCPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)シーケンスである。別の方法は、パルス磁場勾配が静磁場に加えられ、選択的励起バルスに結合し、水信号の抑圧を可能とする、WATERGATEシーケンス(勾配適合励起による水抑制(Water suppression by Gradient Tailored Excitation))である。別の例は、パルス磁場勾配が画像再構成手順の根底にある、磁気共鳴映像法によって与えられる。
【0082】
いくつかの実施形態において、本発明のμMRBM 100は、サンプル磁化の操作(励起/検出素子で行われるものよりもさらに)及び/又は外部の静磁場の操作(例えば、磁場勾配及び/又はスピンフリップによる;
図4及び
図5)を導入するように構成される、本明細書では「補助コイル」303/305とも呼称される、1つ以上のインダクタを含む。また、このようなインダクタ303/305は、潜在的には、感知のために、又はμMRBM 100の感知力の改善のために使用することができる。このような補助コイル303/305は、μMRBM 100をホストする基板400に接続されるか、μMRBMのプリント回路基板(複数の場合もある)400から離れたワイヤに接続されるか、誘導結合を介する動作に対して短絡させるか、μMRBM 100を直接維持する、又は維持しない挿入部分の一部である構造に接続されるか、磁石の穴/開口部によってのみ維持され、及び/又は誘導される構造に接続されるか、マイクロチップパッドに接続されるか、
マイクロチップ電子機器に接続されるか、超小型センサーと統合されたマイクロ電子機器に接続されるか、のいずれかである。補助コイルは更に「外部」又は「内部」コイルとして分類することができる。
【0083】
図4に示すように、本発明の実施形態は、電流304の循環を介して、サンプル磁化の操作及び/又は外部の静磁場の操作を目的とする「外部補助コイル」303を含む。外部補助コイル303は、μMRBM 100の感知領域で磁気摂動を生成することができる任意の構成を有するインダクタであり、その金属巻線は、コイルを通過する電流が、超小型センサー101含む同じマイクロチップ基板に属する金属を貫流しないようなものである。外部補助コイル303は、超小型センサー101を統合するもの以外のマイクロチップ又は微細構造に含めることができる。外部補助コイルは、μMRBM 100を規定するホスティング微細構造500に実装することができる。
図4は、超小型センサー101を補完する外部補助コイル303の2つの基本例を示す。勾配及び/又は励起コイルを付加する1つの方法は、μMRBM 100の周囲にそれを物理的に配置することであり、このストラテジーは、標準NMRプローブ(
図4a)で使用される標準パルス勾配コイルを再利用するために使用することができる。
【0084】
また、
図4bは、μMRBM 100に極めて近接して配置される片側のコイルを使用する可能性を示す。このようなコイルは、パルス勾配又は励起パルスの両方を実施するために使用することができる。励起パルス生成のためのそれらの使用は、例えば、磁場の均質性が重要である場合、又は異核励起実験における場合に、有利である可能性がある。外部補助コイル303は、任意の形状及び寸法を有することが可能である。外部補助コイル303は、μMRBMの筐体700の周囲(したがって、液体培地601と接触しない)、筐体700の内部(したがって、液体培地601と接触する)、又は両方の組み合わせで配置することができる。
【0085】
本発明の実施形態は、サンプル磁化の操作及び/又は外部静磁場の操作を目的とする「内部補助コイル」305を含む。内部補助コイルは、μMRBM 100の感知領域で磁気摂動を生成することができる、任意の形状を有するインダクタであり、その金属巻線は、このようなインダクタを通過する電流が、少なくとも全経路の一部に対して、超小型センサー101(結合パッドをこの種類と考慮することができる)を含む同じマイクロチップ基板に属する金属を貫流するようなものである。
図5は、内部補助コイル305の2つの基本的な例を示す。
図5aでは、ワイヤボンディング及びオンチップ金属は、感知領域内のフィールド操作に使用できるインダクタを形成する。内部補助コイルは、任意の形状で作製し、任意のサイズとすることができる。
図5bに、感知素子300に強く結合し、超小型センサー101をホストするマイクロチップ上で利用可能な金属層で完全に実現する補助コイル305の場合を示す。同じ手法を用いると、感知領域で局部的に作用する勾配コイルを実現することができる。内部補助コイル305を、少なくとも部分的に、筐体700内に配置する(したがって、液体培地601と接触する)。内部補助コイル305は、外部のコイルに対してより効率的に、感知を改善又は補完するために、使用することもできる。本発明の実施形態は、同じ容積空間を対象とする複数の感知コイルを有するμMRBM 100を含む。
【0086】
本発明の実施形態は、複数のμMRBM 100が同じ静磁場で動作することができる、配列されたμMRBMを予見する(
図6)。配列されたμMRBMを同じプリント回路基板400に配置し、又はモジュール方式で相互接続する分離したプリント回路基板に配置して、分離されたμMRBM 100の集合体として実現することができる。配列されたμMRBMは、単一のマイクロチップ基板101上に実装された単一の包括的な電子システム、複数のマイクロチップ基板101上に実装された単一の包括的な電子システム、単一のマイクロチップ基板101上に実装された独立した電子システム、分離したマイクロチップ基板101上に実装された独立した電子システム、と連結できる複数の励起素子/検出素子300を含む。μMRBMを規定することにより、配列された超小型センサー101は、ホスティング微細構造500、パッシベーション結合層800、及び外部筐体700とともに実装される。ホスティング微細構造(複数の場合もある)500は、全ての励起素子及び/又は検出素子300と連結する単一の微細構造によって、単一の励起素子及び/又は検出素子300と連結する複数の分離したホスティング微細構造500によって、又は2つ以上の励起素子及び/又は検出素子300と連結する複数の分離したホスティング微細構造500によって作製することができる。配列されたμMRBM内の筐体700は、配列全体を含むものであるか、又は1つのμMRBM又は配列されたμMRBMのいずれかを含む複数の独立した筐体700に分離することができる。上記の全ての構成、及びこれらの組み合わせにより、配列されたμMRBMを規定する。
【0087】
図6aは、個々のμMRBM 100が同じプリント回路基板400に配置される配列されたμMRBMを示す。
図6bは、複数の超小型センサー101を含む配列されたμMRBMを示し、単一のホスティング微細構造500は、個別に各励起領域及び/又は検出領域を対象とする。複数のμMRBM 100を並行して使用し、同一の実験パラメーターを使用して、スループットを向上させ、ひいては統計を向上させることができる。或いは、配列内の個々のμMRBM 100を使用して、1D分光法、2D分光法(相関分光法、J-分光法、交換分光法等)、緩和時間T
1及びT
2の測定等の異なる実験を同時に実行することができる。さらに、μMRBMのサブセットはサンプルなしで残して、バックグラウンド測定に使用できる。また、配列されたμMRBMの実施形態については、サンプル磁化の操作及び/又は外部静磁場の操作を目的とした補助コイル303/305が想定され得る。
【0088】
参考文献
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