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  • 特許-皮革製品の製造方法 図1
  • 特許-皮革製品の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】皮革製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D05B 15/00 20060101AFI20240122BHJP
   D05C 17/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
D05B15/00
D05C17/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023185886
(22)【出願日】2023-10-30
【審査請求日】2023-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523409588
【氏名又は名称】株式会社K&I
(74)【代理人】
【識別番号】100129001
【弁理士】
【氏名又は名称】林 崇朗
(72)【発明者】
【氏名】黒木 隆夫
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018390(WO,A1)
【文献】特開2018-122795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 1/00-97/12
D05C 1/00-17/02
B60R13/02
B68F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本縫いによるミシンステッチを皮革生地に縫製した皮革製品の製造方法であって、
上糸および下糸をミシンに準備する糸準備工程と、
前記皮革生地の裏面を上に向けて、前記皮革生地を前記ミシンの針板上に載置する載置工程と、
前記上糸および前記下糸を準備した前記ミシンを用いて、前記針板上に載置した前記皮革生地を本縫いで縫製することによって、前記ミシンステッチを前記皮革生地に形成する縫製工程と
を備え、
前記皮革生地の厚さは、2~12ミリメートルであり、
前記上糸および前記下糸は、マルチフィラメント糸であり、
前記上糸の太さは、1000~1800デシテックスであり、
前記下糸の太さは、1600~4000デシテックスであって前記上糸より600デシテックス以上太く、
前記糸準備工程において、前記上糸の張力を15~21ニュートンに調整するとともに、前記下糸の張力を1~2ニュートンに調整する、皮革製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、皮革製品およびその製造方法に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
本縫いによるミシンステッチを皮革生地(天然皮革、合成皮革および人工皮革を含む。)に縫製した皮革製品は、自動車内装部品、家具および鞄など人間の目に触れる種々の物に用いられる。特許文献1には、本縫いによるミシンステッチを皮革生地に縫製した自動車内装部品について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-198943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1600~4000デシテックス程度(品種番手で5~0番手)の比較的に太いマルチフィラメント糸を用いて、本縫いによるミシンステッチを皮革生地にミシンで縫製する場合、上糸と下糸との緩みがステッチの所々に生じ、連続して見栄えの良い縫目を得ることが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する技術は、以下の形態として実現できる。
【0006】
本明細書に開示する一形態における皮革製品の製造方法は、本縫いによるミシンステッチを皮革生地に縫製した皮革製品の製造方法である。この製造方法は、上糸および下糸をミシンに準備する糸準備工程と、前記皮革生地の裏面を上に向けて、前記皮革生地を前記ミシンの針板上に載置する載置工程と、前記上糸および前記下糸を準備した前記ミシンを用いて、前記針板上に載置した前記皮革生地を本縫いで縫製することによって、前記ミシンステッチを前記皮革生地に形成する縫製工程とを備える。前記皮革生地の厚さは、2~12ミリメートルである。前記上糸および前記下糸は、マルチフィラメント糸である。前記上糸の太さは、1000~1800デシテックスである。前記下糸の太さは、1600~4000デシテックスであって前記上糸より600デシテックス以上太い。前記糸準備工程において、前記上糸の張力を15~21ニュートンに調整するとともに、前記下糸の張力を1~2ニュートンに調整する。この形態における皮革製品の製造方法によれば、1600~4000デシテックスの比較的に太いマルチフィラメント糸で本縫いによるミシンステッチを皮革生地の表面に連続して見栄え良く形成できる。
【0007】
本明細書に開示する一形態における皮革製品は、本縫いによるミシンステッチを皮革生地に縫製した皮革製品である。この皮革製品は、前記皮革生地における表側の第1の面において前記ミシンステッチを構成する第1の糸と、前記皮革生地における裏側の第2の面において前記ミシンステッチを構成する第2の糸とを備える。前記皮革生地の厚さは、2~12ミリメートルである。前記第1の糸および前記第2の糸は、マルチフィラメント糸である。前記第1の糸の太さは、1600~4000デシテックスであって前記第2の糸より600デシテックス以上太い。前記第2の糸の太さは、1000~1800デシテックスである。前記第1の糸と前記第2の糸との結び目は、前記皮革生地の厚さ方向において前記第2の面寄りに位置する。この形態の皮革製品によれば、1600~4000デシテックスの比較的に太いマルチフィラメント糸を用いた本縫いによるミシンステッチの品質を向上させることができる。
【0008】
本明細書に開示する技術は、皮革製品およびその製造方法とは異なる種々の形態で実現できる。本明細書に開示する技術は、例えば、皮革製品を用いた自動車内装部品、家具および鞄などの形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の皮革製品を示す平面図である。
図2】本実施形態の皮革製品を示す断面図である。
図3】皮革製品の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態の皮革製品10を示す平面図である。図2は、本実施形態の皮革製品10を示す断面図である。図2の断面図は、図1の断面F2-F2を示す。
【0011】
皮革製品10は、本縫いによるミシンステッチ200を皮革生地100に縫製した製品である。皮革製品10は、自動車内装部品、家具および鞄など人間の目に触れる種々の物に用いることが可能である。
【0012】
皮革製品10の皮革生地100は、シート状の皮革である。皮革生地100は、表面110と裏面120とを有するシート状を成す。表面110は、皮革製品10が最終製品として使用される際に人間の目に触れる表側となる第1の面である。裏面120は、表面110とは反対側の面である。裏面120は、皮革製品10が最終製品として使用される際に人間の目に触れない裏側となる第2の面である。
【0013】
本実施形態では、皮革生地100は、ウレタンフォームを貼り合わせた合成皮革である。この実施形態では、表面110は合成皮革によって形成され、裏面120はウレタンフォームによって形成される。他の実施形態では、皮革生地100は、人工皮革であってもよいし、天然皮革であってもよい。他の実施形態では、皮革生地100は、ウレタンフォームとは異なる素材(例えば、織布および不織布など)を貼り合わせた皮革であってもよいし、他の素材を貼り合わせていない皮革であってもよい。
【0014】
ミシンステッチ200を皮革生地100の表面110に連続して見栄え良く形成する観点から、皮革生地100の厚さTは、2mm(ミリメートル)以上、12mm以下であることが好ましい。
【0015】
皮革生地100は、表面110から裏面120へと貫通した複数の針穴130を有する。針穴130は、皮革生地100にミシンステッチ200を縫製する際にミシン針(図示しない)によって形成される。針穴130は、ミシンステッチ200を保持する。
【0016】
皮革製品10のミシンステッチ200は、ミシン(図示しない)によって皮革生地100に縫製された本縫いによるステッチである。ミシンステッチ200は、表面糸210と裏面糸220とを備える。表面糸210は、皮革生地100の表面110においてミシンステッチ200を構成する第1の糸である。裏面糸220は、皮革生地100の裏面120においてミシンステッチ200を構成する第2の糸である。
【0017】
ミシンステッチ200は、皮革生地100における複数の針穴130の各々に、表面糸210と裏面糸220との結び目230を有する。結び目230は、皮革生地100の厚さ方向において裏面120寄りに位置する。
【0018】
隣り合う2つの針穴130の間隔でもあるミシンステッチ200の縫いピッチPは、一定の間隔である。ミシンステッチ200を皮革生地100の表面110に連続して見栄え良く形成する観点から、縫いピッチPは、4.0mm以上、6.0mm以下であることが好ましい。
【0019】
ミシンステッチ200の表面糸210および裏面糸220は、マルチフィラメント糸である。本実施形態では、表面糸210および裏面糸220は、ポリエステル製のマルチフィラメント糸である。他の実施形態では、表面糸210および裏面糸220は、ナイロン製または絹製であってもよいし、混紡糸または混繊糸であってもよい。また、表面糸210の材質は、裏面糸220と異なる材質であってもよい。
【0020】
ミシンステッチ200を皮革生地100の表面110に連続して見栄え良く形成する観点から、表面糸210の太さは、1600dtex(デシテックス)以上、4000dtex以下(品種番手で5~0番手)であって、裏面糸220より600dtex以上太いことが好ましい。さらに、裏面糸220の太さは、1000dtex以上、1800dtex以下(品種番手で8~5番手)であることが好ましい。
【0021】
図3は、皮革製品10の製造方法を示す工程図である。皮革製品10を製造する際、まず、作業者は、糸準備工程(工程P110)を実施する。糸準備工程(工程P110)では、作業者は、上糸および下糸をミシンに準備する。作業者は、裏面糸220となるマルチフィラメント糸を上糸としてミシンに組み付ける。上糸の太さに応じて、ミシン針のサイズは、18番手~24番手であることが好ましい。作業者は、表面糸210となるマルチフィラメント糸を下糸としてミシンに組み付ける。
【0022】
糸準備工程(工程P110)において、作業者は、上糸の張力を15~21ニュートンに調整する。上糸の張力を測定する場合、作業者は、上限位置にあるミシンテンピンに通した上糸をテンションゲージに取り付ける。その後、作業者は、ミシンテンビンからミシンの左側方へ水平に上糸を100mm引き出す。その後、作業者は、テンションゲージで上糸を水平方向に50mm毎秒で引っ張り、その際のテンションゲージの値を上糸の張力として計測する。
【0023】
糸準備工程(工程P110)において、作業者は、下糸の張力を1~2ニュートンに調整する。下糸の張力を測定する場合、作業者は、ボビンから針板上に引き出した下糸をテンションゲージに取り付ける。その後、作業者は、針板上からミシンの奥側へ水平に下糸を100mm引き出す。その後、作業者は、テンションゲージで下糸を水平方向に50mm毎秒で引っ張り、その際のテンションゲージの値を下糸の張力として計測する。
【0024】
糸準備工程(工程P110)を実施した後、作業者は、載置工程(工程P120)を実施する。載置工程(工程P120)では、作業者は、皮革生地100の裏面120を上に向けて、皮革生地100をミシンの針板上に載置する。言い換えると、作業者は、皮革生地100の表面110を針板に向けて、皮革生地100をミシンの針板上に載置する。
【0025】
載置工程(工程P120)を実施した後、作業者は、縫製工程(工程P130)を実施する。縫製工程(工程P130)では、作業者は、上糸および下糸を準備したミシンを用いて、針板上に載置した皮革生地100を本縫いで縫製することによって、ミシンステッチ200を皮革生地100に形成する。これによって、皮革製品10が完成する。
【0026】
出願人は、皮革生地にミシンステッチを形成する評価試験を行った。評価試験の条件は次の通りである。
<皮革生地>
厚さ2mm~12mmの各種皮革生地(天然皮革、合成皮革および人工皮革を含む。)
<縫糸>
株式会社FTC製東洋紡エステルミシン糸Gの各種品番
<縫製ミシン>
JUKI株式会社製工業用ミシンLU2-4410-B1T-BF-CS
【0027】
本評価試験の結果、図2の製造方法の条件によって皮革製品10を製造した場合、ミシンステッチ200を皮革生地100の表面110に連続して見栄え良く形成できることが分かった。これによって得られる皮革製品10では、縫製時における上糸と下糸との張力の関係から、表面糸210と裏面糸220との結び目230が、皮革生地100の厚さ方向の中央よりも裏面120側に位置する。
【0028】
以上説明した実施形態における皮革製品10の製造方法によれば、1600~4000デシテックスの比較的に太いマルチフィラメント糸で本縫いによるミシンステッチ200を皮革生地100の表面110に連続して見栄え良く形成できる。また、本実施形態の皮革製品10によれば、1600~4000デシテックスの比較的に太いマルチフィラメント糸を用いた本縫いによるミシンステッチ200の品質を向上させることができる。
【0029】
本明細書に開示する技術は、上述した実施形態、実施例および変形例に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、上述した実施形態、実施例および変形例における技術的特徴のうち、発明の概要の欄に記載した各形態における技術的特徴に対応するものは、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えおよび組み合わせることができる。また、本明細書中に必須なものとして説明されていない技術的特徴については、適宜、削除できる。
【符号の説明】
【0030】
10…皮革製品
100…皮革生地
110…表面
120…裏面
130…針穴
200…ミシンステッチ
210…表面糸
220…裏面糸
230…結び目
【要約】
【課題】比較的に太いマルチフィラメント糸で本縫いによるミシンステッチを皮革生地の表面に連続して見栄え良く形成する。
【解決手段】皮革製品の製造方法は、上糸および下糸をミシンに準備する糸準備工程と、皮革生地の裏面を上に向けて皮革生地を針板上に載置する載置工程と、皮革生地を本縫いで縫製する縫製工程とを備える。皮革生地の厚さは、2~12ミリメートルである。上糸および下糸は、マルチフィラメント糸である。上糸の太さは、1000~1800デシテックスである。下糸の太さは、1600~4000デシテックスであって上糸より600デシテックス以上太い。糸準備工程において、上糸の張力を15~21ニュートンに調整するとともに、下糸の張力を1~2ニュートンに調整する。
【選択図】図3
図1
図2
図3