(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置
(51)【国際特許分類】
G01C 19/66 20060101AFI20240122BHJP
G01C 19/64 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G01C19/66
G01C19/64 A
(21)【出願番号】P 2023523095
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2022037744
【審査請求日】2023-04-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)」、「量子航法科学技術拠点」、「量子航法科学技術に関する国立大学法人東京工業大学による研究開発」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124257
【氏名又は名称】生井 和平
(72)【発明者】
【氏名】ミランダ マルティン サンティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】武井 宣幸
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】上妻 幹旺
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/124790(WO,A1)
【文献】特表2019-522218(JP,A)
【文献】Simultaneous Suppression of Thermal Phase Noise and Relative Intensity Noise in a Fiber Optic Gyroscope,arXiv,2022年08月,pp.1-7, 特に、II.-IV.,<URL:https://arxiv.org/abs/2208.11213>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00-19/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
干渉型光ファイバジャイロスコープの光ファイバコイルに入射される入射光を変調する位相変調器を有する多機能集積光回路への位相変調信号を生成する光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置であって、該光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置は、
光ファイバコイルの固有周波数(ν
e)の奇数次固有周波数(ν=(2n+1)ν
e 但し、n=0,1,2,・・・)の基本正弦波と、奇数次固有周波数(ν)の奇数次高調波周波数((2m+1)ν 但し、m=1,2,3,・・・)の高次正弦波とを生成する正弦波生成部と、
前記正弦波生成部により生成される基本正弦波と高次正弦波とを、最小化したい
相対強度雑音、ショット雑音、又はこれらの混ざった雑音に応じて短期雑音を最小化する変調指数を用いた比率で重畳したものを位相変調信号として
位相変調器へ出力する重畳部と、
を具備することを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置において、前記正弦波生成部が生成する高次正弦波の奇数次高調波周波数は、3νであることを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置において、前記正弦波生成部が生成する高次正弦波の奇数次高調波周波数は、3νと5νであることを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置において、前記正弦波生成部が生成する基本正弦波は、参照信号として復調に用いられることを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置。
【請求項5】
請求項1に記載の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置において、前記重畳部が出力する重畳した信号は、参照信号として復調に用いられることを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置において、前記重畳部における最小化したい雑音対象は、相対強度雑音であることを特徴とする光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置に関し、特に、光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープの多機能集積光回路への位相変調信号を生成する光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動制御、自律航法の急速な発展に伴い、移動体の現在位置の精度向上に関する要求が年々高まっている。自律航法技術としては、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)やINS(Inertial Navigation System:慣性航法)が知られている。
【0003】
ここで、INSに用いられるセンサとして、光ファイバジャイロスコープ(FOG:Fiber optic gyroscope)が知られている(例えば特許文献1)。FOGは、光のサニャック効果を利用した回転角速度センサである。光ファイバジャイロスコープは、光ファイバコイルを用いるものであり運動部分がなく、従来の機械式ジャイロに比べて小型でありメンテナンスフリーであるといった利点を有し注目されている。
【0004】
光ファイバジャイロスコープにおいては、その精度の指標となるアラン偏差を向上させるために、角速度と出力信号の比に相当するスケールファクタの安定度を高める必要がある。このようなスケールファクタの安定度を高めるものとして、特許文献1が知られている。特許文献1は、対称波長マルチプレクサに関するものであり、波長の直交軸間のスペクトルの非対称性を軽減することで、スケールファクタエラーを軽減させた安定化光源を用いるものである。しかしながら、特許文献1のような安定化光源を用いるものは、スケールファクタは良好なものの、光ファイバジャイロスコープの光源として用いた場合には、レーザ光の帯域が狭く、光ファイバコイル内の光後方散乱や偏波結合等による性能劣化は避けられなかった。
【0005】
このような光ファイバコイル内の光後方散乱や偏波結合等を避けるためには、広帯域のレーザ光を用いれば良い。レーザ光のスケールファクタの安定度を高めた上で広帯域化した光ファイバジャイロスコープ用光源装置として、本願出願人と同一出願人による特許文献2が知られている。
【0006】
ここで、光ファイバジャイロスコープ用光源装置からのレーザ光を広帯域化すると、異なる周波数の光が互いに干渉することで強度に時間的な揺らぎが生ずる。この強度の揺らぎを強度雑音というが、単位周波数あたりの強度雑音を平均光パワーで割ったものは、相対強度雑音(RIN:Relative Intensity Noise)と呼ばれている。特許文献2では、光ファイバジャイロスコープ用光源装置側ではなく、干渉型光ファイバジャイロスコープ側で用いられる多機能集積光回路に対して、光ファイバコイルの固有周波数の奇数倍で位相変調することで、RINを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-184599号公報
【文献】国際公開第2021/124790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、特許文献2では、光ファイバジャイロスコープ用光源装置においてスケールファクタの安定度を高めた上で広帯域化すると共に、干渉型光ファイバジャイロスコープで用いられる多機能集積光回路に対して光ファイバコイルの固有周波数の奇数倍で位相変調することで、RINを低減していた。しかしながら、RINをさらに抑圧する技術の開発が望まれていた。また、RINだけでなく、ショット雑音等、種々の雑音が抑圧できる光ファイバジャイロスコープが望まれていた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、相対強度雑音やショット雑音等を抑圧する最適な多機能集積光回路への位相変調信号を生成可能な光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置は、光ファイバコイルの固有周波数(νe)の奇数次固有周波数(ν=(2n+1)νe 但し、n=0,1,2,・・・)の基本正弦波と、奇数次固有周波数(ν)の奇数次高調波周波数((2m+1)ν 但し、m=1,2,3,・・・)の高次正弦波とを生成する正弦波生成部と、正弦波生成部により生成される基本正弦波と高次正弦波とを、最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数を用いた比率で重畳したものを位相変調信号として出力する重畳部と、を具備するものである。
【0011】
ここで、正弦波生成部が生成する高次正弦波の奇数次高調波周波数は、3νであれば良い。
【0012】
また、正弦波生成部が生成する高次正弦波の奇数次高調波周波数は、3νと5νであっても良い。
【0013】
また、正弦波生成部が生成する基本正弦波は、参照信号として復調に用いられれば良い。
【0014】
また、重畳部が出力する重畳した信号は、参照信号として復調に用いられても良い。
【0015】
また、重畳部における最小化したい雑音対象は、相対強度雑音であれば良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置には、相対強度雑音やショット雑音等を抑圧する最適な多機能集積光回路への位相変調信号を生成可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置が用いられる干渉型光ファイバジャイロスコープの一例の全体構成を説明するための概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置により生成される位相変調信号の波形である。
【
図3】
図3は、変調指数に対するARW(Angular Random Walk:短期雑音)の変化グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置は、光ファイバコイルを用いる干渉型光ファイバジャイロスコープの多機能集積光回路への位相変調信号を生成することが可能なものである。干渉型光ファイバジャイロスコープについては特に特定のものには限定されず、既存の又は今後開発されるべく如何なるものでも適用可能である。
【0019】
図1は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置が用いられる干渉型光ファイバジャイロスコープの一例の全体構成を説明するための概略ブロック図である。干渉型光ファイバジャイロスコープは、光源1と、光サーキュレータ2と、多機能集積光回路3と、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10と、光検出器4と、同期検波器5とから主に構成されている。そして、多機能集積光回路3に光ファイバコイル6が接続されている。光ファイバコイル6は、例えば長さ1kmといったファイバがコイル状に巻かれたものである。
【0020】
光源1は、所定の周波数のレーザ光を発するものである。光源1からのレーザ光は連続光(CW)であれば良い。光源1としては、例えば半導体レーザや固体レーザ、気体レーザ、色素レーザ等が利用可能である。具体的には、光源1としては、例えばSLD(Super Luminescent Diode)光源を用いることができる。光源1から発せられるレーザ光の波長は特定の波長に限定されるものではない。例えば、光ファイバコイル6の伝搬損失が低い波長である1.5ミクロン等が用いられる。ここで、光源1のレーザ光源は、連続光レーザ光源に限定されない。例えば、所定間隔で等間隔に並ぶパルス状のスペクトルの光を発するパルスレーザ光源であっても良い。具体的には、例えば光コム光源であっても良い。光源1は、既存の又は今後開発される如何なるものでも適用可能である。
【0021】
光サーキュレータ2は、光源1からの光と、光ファイバコイル6を通過した左回り光と右回り光とを再結合した干渉光と、を分離するものである。即ち、光サーキュレータ2は、光源1からの光を、後述の多機能集積光回路3側に出力すると共に、干渉光が光サーキュレータ2に戻ってくると、後述の光検出器4側に出力するものである。図面上、光サーキュレータ2の左側からは、光源1からの光が入射され、光サーキュレータ2の右側からこの光が出力される。そして、光ファイバコイル6を通過した左回り光と右回り光とを再結合した干渉光が戻ってくると、光サーキュレータ2の右側に入射され、下側の光検出器4に出力される。
【0022】
多機能集積光回路3は、偏光子3aと、Y分岐・再結合器3bと、第1位相変調器3cと、第2位相変調器3dとからなる。多機能集積光回路3は、例えばMIOC(multi-function integrated optics chip)を利用可能である。偏光子3aは、光源1からの光が、光サーキュレータ2を介して入射されるものである。そして、偏光子3aは、単一の偏光のみを通過させる。Y分岐・再結合器3bは、偏光子3aからの入射光、即ち、単一の偏光を分岐して、光ファイバコイル6の両端にそれぞれ入射する。光ファイバコイル6の両端に入射された光は、それぞれ左回り光と右回り光となる。そして、Y分岐・再結合器3bは、光ファイバコイル6を通過した左回り光と右回り光とを再結合し、これを干渉光として光サーキュレータ2へ出力する。第1位相変調器3cは、光ファイバコイル6の一端に入射される一方の入射光を変調するものである。例えば、右回り光となる入射光を変調すれば良い。また、第2位相変調器3dは、光ファイバコイル6の他端に入射される他方の入射光を変調するものである。例えば、左回り光となる入射光を変調すれば良い。
【0023】
そして、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10は、多機能集積光回路3への位相変調信号を生成するものである。具体的には、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10は、多機能集積光回路3の第1位相変調器3c及び第2位相変調器3dに対して、位相変調信号を出力する。本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10は、正弦波生成部11と、重畳部12とからなる。正弦波生成部11は、光ファイバコイル6の固有周波数(νe)の奇数次固有周波数(ν=(2n+1)νe 但し、n=0,1,2,・・・)の基本正弦波と、奇数次固有周波数(ν)の奇数次高調波周波数((2m+1)ν 但し、m=1,2,3,・・・)の高次正弦波とを生成する。重畳部12は、正弦波生成部11により生成される基本正弦波と高次正弦波とを、最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数を用いた比率で重畳したものを位相変調信号として出力する。本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10については、詳細は後述する。
【0024】
光検出器4は、光ファイバコイル6を通過した左回り光と右回り光との干渉光が光サーキュレータ2から入射され、この干渉光の光強度信号を検出するものである。
【0025】
同期検波器5は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10からの位相変調信号(奇数次固有周波数νの基本正弦波)を参照信号として用いて復調する。ここで、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10を用いる場合、正弦波生成部11が生成する奇数次固有周波数νの基本正弦波を、参照信号として復調に用いるために同期検波器5へ入力すれば良い。また、重畳部12が出力する重畳した信号を参照信号として復調に用いるようにしても良い。そして、位相検波器5は、光検出器4により検出される光強度信号を同期検波することで、光ファイバコイル6に与えられる回転角速度の検出信号を出力するものである。
【0026】
干渉型光ファイバジャイロスコープは、上述のような構成により、光ファイバコイル6に与えられる回転角速度を検出することができる装置である。
【0027】
さて、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10は、以下に説明するように、最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数を用いた比率で、周波数νの基本正弦波と、周波数(2m+1)νの高次正弦波とを重畳するように構成されている。なお、最適化される比率は、矩形波をフーリエ変換した際に得られる比率とは異なっている。
【0028】
上述の通り、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10は、正弦波生成部11と、重畳部12とからなる。
【0029】
正弦波生成部11は、光ファイバコイルの固有周波数(νe)の奇数次固有周波数(ν=(2n+1)νe 但し、n=0,1,2,・・・)の基本正弦波と、奇数次固有周波数(ν)の奇数次高調波周波数((2m+1)ν 但し、m=1,2,3,・・・)の高次正弦波とを生成するものである。即ち、例えば3νeの基本正弦波と5×(3νe)の高次正弦波の2つの正弦波を生成するものである。
【0030】
重畳部12は、正弦波生成部11により生成される基本正弦波と高次正弦波とを、最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数を用いた比率で重畳したものを位相変調信号として出力するものである。以下、最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数の算出方法について説明する。
【0031】
まず、基本正弦波の周波数(ν)を用いて位相変調・復調する場合、即ち、正弦波加算の次数が1の場合のARW(Angular Random Walk:短期雑音)について説明する。多機能集積光回路3に位相変調信号を加えないときに光検出器4によって得られる光強度信号である光電流をI
0とする。また、多機能集積光回路3がもたらす位相変調の角周波数をω、変調指数をφ、光ファイバコイル6に与えられる回転角速度によってもたらされるサニャック位相をθとする。このとき、多機能集積光回路3に変調が加えられているときの光電流I(t)は、以下のように表される。
【数1】
よって、角周波数ωで復調した際の信号強度S
ωは、以下のように表される。
【数2】
ここで、T=2π/ωであり、J
1は1次のベッセル関数である。
また、干渉型光ファイバジャイロスコープのスケールファクタをSF、光ファイバコイル6に与えられる回転角速度をΩとし、サニャック位相θが1に比べて十分小さいときを考えると、数2は以下のように表せる。
【数3】
以上より、雑音強度をS
noiseとし、検出のバンド幅をBとすると、ARWは、以下のように表される。
【数4】
各種雑音に対して雑音強度S
noiseを求めれば、数4を用いることでARWを算出することが可能となる。
【0032】
次に、最小化したい雑音対象である相対強度雑音(RIN:Relative Intensity Noise)やショット雑音について説明する。光源1のスペクトル幅をΔνとし、検出のバンド幅をBとし、偏差が1の白色雑音をδ
whiteとすると、サニャック位相が十分小さいとき、RINの光電流I
RIN(t)は、以下のように表される。
【数5】
よって、角周波数ωで復調した際のRINの信号強度S
RINは、以下のように表される。
【数6】
一方、素電荷をeとすると、サニャック位相が1に比べて十分小さいときを考えると、ショット雑音の光電流I
SHOT(t)は、以下のように表される。
【数7】
よって、角周波数ωで復調した際のショット雑音の信号強度S
SHOTは、以下のように表される。
【数8】
【0033】
以上のことを踏まえ、最小化したい雑音対象に応じて複数の高調波を重畳する比率を最適化することについて説明する。例として重畳される次数が2の場合、即ち、正弦波生成部11により基本正弦波の周波数(ν)と高次正弦波の周波数(例えば3ν)の2つの正弦波を生成し、重畳部12により最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数を用いた比率で重畳する場合について説明する。このときの光電流I(t)は以下のように表される。
【数9】
よって、角周波数ωで復調した際の信号強度S
ωは、以下のように表される。
【数10】
ここで、fはφ1、φ3の関数である。
以上より、雑音強度をS
noiseとし、検出のバンド幅をBとすると、ARWは、以下のように表される。
【数11】
【0034】
そして、重畳される次数が2の場合のRINの光電流I
RIN(t)は、以下のように表される。
【数12】
よって、角周波数ωで復調した際のRINの信号強度S
RINは、以下のように表される。
【数13】
一方、重畳される次数が2の場合のショット雑音の光電流I
SHOT(t)は、以下のように表される。
【数14】
よって、角周波数ωで復調した際のショット雑音の信号強度S
SHOTは、以下のように表される。
【数15】
【0035】
以上の結果から、最小化したい雑音対象の雑音強度であるSNOISEとして、RINやショット雑音の信号強度であるSRINやSSHOTを用いることで、重畳される次数が2の場合のARWを算出することが可能となる。即ち、ARWを最小化するφ1及びφ3を算出すれば良い。このように算出されたφ1及びφ3が、最適化される変調指数となる。即ち、この変調指数を用いた比率で重畳したものを位相変調信号として用いることで、ARWを最小化することが可能となる。
【0036】
現実の光ファイバジャイロスコープの系における雑音は、RINやショット雑音以外にも、熱的位相雑音や読み取り雑音等、様々な雑音が混ざって発生している。その中でRINが支配的な場合には、RINに対して最適化される変調指数、即ち、RINを最小化可能な変調指数を用いれば良い。また、ショット雑音が支配的な場合には、ショット雑音を最小化可能な変調指数を用いれば良い。そして、RINやショット雑音が混ざっている場合には、適宜ARWが最小化される変調指数を算出すれば良い。
【0037】
以下、より具体的な変調指数を示す。例えば周波数ν,3ν,5νでそれぞれ変調を行い、周波数νで復調する場合の、変調指数φ
1,φ
3,φ
5の値や、その変調指数を用いた比率で重畳したものを位相変調信号とした場合のARWの値を、以下の表に示す。表1は、RINに対して最適化される変調指数である。なお、次数が1の場合のARWを1.000とした。
【表1】
なお、具体的な変調指数φ
1,φ
3,φ
5の値はあくまでも一例であり、本発明はこの値に限定されるものではない。
【0038】
次に、位相変調信号の波形について
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置により生成される位相変調信号の波形であり、
図2(a)が次数2の場合の波形であり、
図2(b)が次数3の場合の波形である。図中、黒線が本発明により生成される波形であり、RINを抑圧することを目的とする波形である。また、グレー線が比較例としてフーリエ変換により生成される矩形波である。図示の通り、本発明により最適化された比率を用いて生成される波形は、フーリエ変換の比率を用いて生成される矩形波とは異なっていることが分かる。このような波形を位相変調信号として用いると、ARWが最小化されることになる。
【0039】
図3は、変調指数に対するARWの変化グラフである。図中、実線が本発明により最適化された比率を用いた場合であり、点線が比較例としてフーリエ変換の比率を用いた場合である。図示の通り、フーリエ変換による比率を用いた場合に比べて、本発明により最適化された比率を用いた場合のほうが、何れの次数でもARWが小さくなっていることが分かる。また、次数を増やすほど理想的な矩形波を用いた場合のARWに近づくことが分かる。但し、理想的な矩形波は現実的には作成できないため、本発明により最適化された比率を用いて波形を生成することが好ましいことが分かる。
【0040】
上述の表1や
図3から分かる通り、正弦波生成部11では、νと3νの周波数を有する正弦波を生成し、重畳部12では、これらの正弦波を最適化される変調指数を用いた比率で重畳すれば、十分な効果が得られることが分かる。また、νと3νと5νの周波数を有する正弦波を生成し、これらを最適化される変調指数を用いた比率で重畳すれば、さらに大きな効果が得られることも分かる。なお、さらに多くの次数を用いても良いし、例えばνと5νといった組み合わせであっても良い。
【0041】
このように、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置を用いれば、相対強度雑音やショット雑音等を抑圧する最適な多機能集積光回路への位相変調信号を生成可能である。
【0042】
ここで、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置10は、具体的には例えば任意波形発生器で実現可能である。即ち、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)により正弦波生成部11及び重畳部12を構成可能である。FPGAを用いれば、デジタル的にν,3ν,5ν等を、最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数を用いた比率で重畳した波形を位相変調信号として一挙に生成することができる。FPGAにより一挙に必要な波形を生成することで、ν,3ν,5ν間の位相が時間的にドリフトする問題も回避可能である。即ち、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置は、その正弦波生成部と重畳部が物理的に分離して存在するものには限定されず、正弦波生成部と重畳部が機能的に一体的に実現されるものであっても良い。
【0043】
なお、本発明の光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
1 光源
2 光サーキュレータ
3 多機能集積光回路
3a 偏光子
3b Y分岐・再結合器
3c 第1位相変調器
3d 第2位相変調器
4 光検出器
5 同期検波器
6 光ファイバコイル
10 光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置
11 正弦波生成部
12 重畳部
【要約】
相対強度雑音やショット雑音等に対して抑圧する最適な多機能集積光回路への位相変調信号を生成可能な光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置を提供する。
光ファイバジャイロスコープ用位相変調信号生成装置は、正弦波生成部11と、重畳部12とからなる。正弦波生成部11は、光ファイバコイルの固有周波数(νe)の奇数次固有周波数(ν=(2n+1)νe 但し、n=0,1,2,・・・)の基本正弦波と、奇数次固有周波数(ν)の奇数次高調波周波数((2m+1)ν 但し、m=1,2,3,・・・)の高次正弦波とを生成する。重畳部12は、正弦波生成部11により生成される基本正弦波と高次正弦波とを、最小化したい雑音対象に応じて最適化される変調指数を用いた比率で重畳したものを位相変調信号として出力する。