(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】ネジ締付異常判定装置、学習モデル生成装置、ネジ締付異常判定方法、学習モデル生成方法およびネジ締付異常判定用プログラム
(51)【国際特許分類】
B23P 19/06 20060101AFI20240122BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B23P19/06 K
G05B19/418 Z
(21)【出願番号】P 2020004905
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 毅
(72)【発明者】
【氏名】藤原 貴之
(72)【発明者】
【氏名】影山 廣彰
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 恵
(72)【発明者】
【氏名】小平 拓未
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐介
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0009696(US,A1)
【文献】特開2011-162222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00-21/00
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動ネジ締め装置によるネジの締付異常を判定するネジ締付異常判定装置であって、
上記自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表す時系列データを取得する時系列データ取得部と、
上記時系列データ取得部により取得される上記時系列データの時間軸を反転させることによって反転時系列データを生成するデータ加工部と、
上記自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる反転時系列データが入力データとして入力された際に、上記入力データとの差分が所定の閾値以下となる反転時系列データが出力データとして出力されるように機械学習処理が施されたニューラルネットワークによる演算部と、
上記データ加工部により生成された反転時系列データと、上記自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時における一連の締付トルクを表す時系列データについて時間軸を反転させることによって得られる反転時系列データとの一致性に基づいてネジの締付異常を判定する異常判定部とを備え
、
上記異常判定部は、上記データ加工部により生成された反転時系列データと、当該反転時系列データを上記演算部に上記入力データとして入力した際に上記演算部から上記出力データとして得られる反転時系列データとの差分が上記所定の閾値を超えている場合にネジ締付異常と判定する
ことを特徴とするネジ締付異常判定装置。
【請求項2】
上記データ加工部は、上記時系列データ取得部により取得される時系列データの時間軸を反転させるとともに、反転後の時系列データの末尾から遡って所定期間のデータを削除することにより上記反転時系列データを生成することを特徴とする請求項
1に記載のネジ締付異常判定装置。
【請求項3】
上記時系列データは、上記自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時まで所定のサンプリング時間ごとに測定された締付トルクの一連の測定値をもとにトルク波形画像として生成した波形データであることを特徴とする請求項1
または2に記載のネジ締付異常判定装置。
【請求項4】
上記反転時系列データは、締付トルクの測定値を縦軸にとり、反転した時間軸を横軸にとって生成した反転トルク波形画像であり、時間軸を反転させる前のトルク波形の終了位置が、上記時間軸を反転させた後の反転トルク波形における所定の開始位置となるように位置合わせを行ったものであることを特徴とする請求項
3に記載のネジ締付異常判定装置。
【請求項5】
上記時系列データは、上記自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時まで所定のサンプリング時間ごとに測定された締付トルクの一連の測定値を表す数値列データであることを特徴とする請求項1
または2に記載のネジ締付異常判定装置。
【請求項6】
自動ネジ締め装置によるネジの締付異常を判定するネジ締付異常判定方法であって、
ネジ締付異常判定装置の時系列データ取得部が、上記自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表す時系列データを取得する第1のステップと、
上記ネジ締付異常判定装置のデータ加工部が、上記時系列データ取得部により取得される上記時系列データの時間軸を反転させることによって反転時系列データを生成する第2のステップと、
上記ネジ締付異常判定装置の演算部が、上記自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる反転時系列データが入力データとしてニューラルネットワークに入力された際に、上記入力データとの差分が所定の閾値以下となる反転時系列データが出力データとして上記ニューラルネットワークから出力されるように機械学習処理が施された学習モデルに対し、上記データ加工部により生成された上記反転時系列データを上記入力データとして入力することによって上記出力データとして反転時系列データを取得する第3のステップと、
上記ネジ締付異常判定装置の異常判定部が、上記データ加工部により生成された反転時系列データと、上記演算部により上記出力データとして取得された反転時系列データとの差分が上記所定の閾値を超えている場合にネジ締付異常と判定する第4のステップとを有する
ことを特徴とするネジ締付異常判定方法。
【請求項7】
自動ネジ締め装置によるネジの締付異常を判定する処理をコンピュータに実行させるためのネジ締付異常判定用プログラムであって、
上記自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表す時系列データを取得する時系列データ取得手段、
上記時系列データ取得手段により取得される上記時系列データの時間軸を反転させることによって反転時系列データを生成するデータ加工手段、
上記自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる反転時系列データが入力データとしてニューラルネットワークに入力された際に、上記入力データとの差分が所定の閾値以下となる反転時系列データが出力データとして上記ニューラルネットワークから出力されるように機械学習処理が施された学習モデルに対し、上記データ加工手段により生成された反転時系列データを上記入力データとして入力することによって上記出力データとして反転時系列データを取得する演算手段、および
上記データ加工手段により生成された反転時系列データと、上記演算手段により上記出力データとして取得された反転時系列データとの差分が上記所定の閾値を超えている場合にネジ締付異常と判定する異常判定手段
として上記コンピュータを機能させるためのネジ締付異常判定用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ締付異常判定装置、学習モデル生成装置、ネジ締付異常判定方法、学習モデル生成方法およびネジ締付異常判定用プログラムに関し、特に、自動ネジ締め装置によるネジの締付異常を判定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々提供されている産業用ロボットの1つとして、自動ネジ締め装置が知られている。自動ネジ締め装置の中には、締付機構にトルク測定器を設け、締付機構の動作中に締付トルクを測定し、測定トルク値が設定値となるまでネジを回転させて対象物に対する締め付けを行うものが存在する。この種の自動ネジ締め装置では、測定トルク値が設定動作時間内に設定値に達したことをもって、締め付け動作を完了する。
【0003】
このような自動ネジ締め装置では、異物の噛み込み、ネジ不良、ネジ穴に対するネジの挿入不具合などが原因となって、適正な締付位置までネジが回転していない場合においても、測定トルク値が設定値に達して締め付け動作が停止し、その結果、ネジ浮きといった締付異常が発生しまうことがある。このような締付異常の発生した製品が市場に流通することがないように、締付異常の有無を判定する装置が必要不可欠である。
【0004】
これに対し、トルク波形パターンを解析することによって巻き締め不良を検出するように構成した巻き締め検査装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の巻き締め検査装置では、巻き締め動作中の回転部のトルクを測定し、測定された巻き締め動作中のトルク値からトルク波形パターンを算出する。そして、算出されたトルク波形パターンと、所定の良品のトルク波形パターンとを比較することにより、巻き締め不良を検出する。
【0005】
なお、ネジの締付異常を判定するものではないが、波形データを解析対象として、ニューラルネットワークで構成されるオートエンコーダを用いて異常の判定を行う装置が知られている(例えば、特許文献2,3参照)。特許文献2に記載の異常検知装置では、工作機械から検出される波形データを解析することにより、工作機械の異常動作を検知する。特許文献3に記載の異常検知装置では、ウェアラブル測定器により測定される装着者の心電波形、心拍、筋電、体温、脈拍、血圧等の波形データを解析することにより、装着者の体調の異常を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-151028号公報
【文献】特開2018-156151号公報
【文献】特開2019-49778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の巻き締め検査装置のように、巻き締め動作中に測定されたトルク値から得られるトルク波形パターンと、良品のトルク波形パターンとを比較することによって巻き締め不良を検出するのは、ネジ山を有する容器に対してスクリューキャップの巻き締めが良好に行われている状況であれば、そのスクリューキャップについて得られるトルク波形パターンと良品のトルク波形パターンとの誤差が所定の度合い以内に収まることを前提としている。
【0008】
しかしながら、最終的に締め付けが良好に行われる場合であっても、ネジの締め始め、すなわちトルクの測定開始からしばらくの期間は、トルク測定値のばらつきが大きくなる傾向にある。これは、締付機構を回転させ始めるときの雄ネジと雌ネジの位置関係のばらつきなどが原因となって生じる。そのため、この測定開始期間におけるトルク測定値のばらつきにより、トルク波形パターンの比較開始位置を正確に特定することが困難となり、それがトルク波形パターンを比較したときの誤差となって現れてしまう。その結果、締め付けが良好に行われているにもかかわらず異常と誤判定してしまうことがあるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、ネジの締付異常の判定精度を向上させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明のネジ締付異常判定装置では、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表す時系列データの時間軸を反転させることによって反転時系列データを生成し、当該生成した反転時系列データと、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時における一連の締付トルクを表す時系列データについて時間軸を反転させることによって得られる反転時系列データとの一致性に基づいて、ネジの締付異常を判定するようにしている。ここで、当該生成した反転時系列データと、ニューラルネットワークによる演算部に対して当該生成した反転時系列データを入力した際に出力データとして得られる反転時系列データとの差分が所定の閾値を超えている場合に、ネジ締付異常と判定する。ニューラルネットワークは、正常なネジ締付動作時に得られる反転時系列データが入力データとして入力された際に、入力データとの差分が所定の閾値以下となる反転時系列データが出力データとして出力されるように機械学習する。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した本発明によれば、時系列データの時間軸を反転させて反転時系列データを生成することで、自動ネジ締め装置によるネジの締め始め(トルクの測定開始)からしばらくの期間中に生じるトルク測定値のばらつきの影響を受けることなく、反転時系列データの開始位置を一意に特定し、その上で反転時系列データの一致性の判定を行うことが可能となる。これにより、反転時系列データの一致性をより正しく判定することが可能となり、その結果、締付異常の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態によるネジ締付異常判定装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態によるデータ加工部の処理内容を説明するための図である。
【
図3】本実施形態の演算部において用いる学習モデルを生成するための学習モデル生成装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】本実施形態による学習モデル生成装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態による異常判定部の処理内容を説明するための図である。
【
図6】本実施形態によるネジ締付異常判定装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】変形例に係るネジ締付異常判定装置の機能構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態によるネジ締付異常判定装置の機能構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態のネジ締付異常判定装置は、自動ネジ締め装置によるネジの締付異常を判定するものであり、機能構成として、時系列データ取得部11、データ加工部12、演算部13および異常判定部14を備えている。
【0014】
上記各機能ブロック11~14は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック11~14は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたネジ締付異常判定用プログラムが動作することによって実現される。CPUに代えてまたは加えてGPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いてもよい。
【0015】
時系列データ取得部11は、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表す時系列データを取得する。自動ネジ締め装置は、締付機構に備えたトルク測定器によって締付機構の動作中に締付トルクを測定し、測定トルク値が設定値となるまでネジを回転させて対象物に対する締め付けを行う。すなわち、この自動ネジ締め装置では、トルクを付与することによって締め付け動作を開始し、その後、測定トルク値が設定動作時間内に設定値に達したことをもって、締め付け動作を終了する。
【0016】
時系列データ取得部11が取得する時系列データは、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時まで所定のサンプリング時間ごとに測定された締付トルクの一連の測定値をもとにトルク波形画像として生成した波形データである。トルク波形画像は、締付トルクの測定値を縦軸にとり、時間軸を横軸にとって生成した波形画像であり、ネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までに測定された締付トルクの変動をグラフ形式で表したものである。
【0017】
このトルク波形画像による波形データの生成は、例えば、本実施形態のネジ締付異常判定装置とは異なる別の画像処理装置によって行われる。画像処理装置は、ネジ締付異常判定装置のネジ締付異常判定用プログラムがインストールされた端末と同じ端末または異なる端末にインストールされた画像処理用プログラムが動作することによって実現されるものである。
【0018】
ネジ締付異常判定用プログラムが画像処理用プログラムと同じ端末にインストールされている場合、時系列データ取得部11は、端末内の画像処理装置によって生成されて当該端末の記憶媒体に保存された波形データを、当該記憶媒体から読み出して取得する。一方、ネジ締付異常判定用プログラムが画像処理用プログラムと異なる端末にインストールされている場合、時系列データ取得部11は、画像処理装置によって生成されてネジ締付異常判定装置とは異なる端末に保存された波形データを、通信ネットワークまたはリムーバブル記憶媒体を介して取得する。
【0019】
なお、締付トルクの一連の測定値をもとに波形画像を生成する機能を時系列データ取得部11が備えるようにしてもよい。この場合、時系列データ取得部11は、締付トルクの一連の測定値を入力し、その測定値からトルク波形画像の波形データを生成することにより、当該波形データから成る時系列データを取得する。
【0020】
データ加工部12は、時系列データ取得部11により取得される時系列データ(トルク波形画像の波形データ)の時間軸を反転させることによって反転時系列データを生成する。反転時系列データは、締付トルクの測定値を縦軸にとり、反転した時間軸を横軸にとって生成した反転トルク波形画像の波形データであり、時間軸を反転させる前のトルク波形の終了位置が、時間軸を反転させた後の反転トルク波形における所定の開始位置となるように位置合わせを行ったものである。
【0021】
図2は、このデータ加工部12の処理内容を説明するための図である。
図2(a)は、時間軸を反転させる前の時系列データ(時系列データ取得部11により取得されたトルク波形画像の波形データ)を示している。
図2(b)は、時間軸を反転させた後の反転時系列データ(データ加工部12により生成された反転トルク波形画像の波形データ)を示している。
【0022】
図2(a)に示すように、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時(締付トルクの測定開始時)からしばらくの期間(以下、開始期間21という)は、トルク測定値のばらつきが大きくなる傾向にある。すなわち、同じ製品を大量生産する製造プロセスの中の一工程として自動ネジ締め装置により自動ネジ締めを行う場合において、複数のネジについてそれぞれ最終的に締め付けが良好に行われるか否かによらず、開始期間21では締付トルクの値にばらつきが生じる。
【0023】
一方、ネジ締付動作終了時における締付トルクは、最終的に締め付けが良好に行われるか否かによらず、どのネジであってもほぼ一定の値となる。データ加工部12は、このような性質を利用して、
図2(b)に示すように、時間軸を反転させる前におけるトルク波形の終了位置EPが、時間軸を反転させた後における反転トルク波形の所定の開始位置SPとなるように位置合わせを行う。ここでいう開始位置SPとは、後述する異常判定部14において反転トルク波形の比較を行う際の比較開始位置を意味する。
【0024】
図2(a)のように時間軸を反転させていない状態のトルク波形を比較に用いる場合、ネジごとにばらつきが大きくなる開始期間21のどの部分を比較開始位置として特定するかは困難である。これに対し、
図2(b)のように時間軸を反転させて生成した反転トルク波形であれば、比較開始位置を特定することは容易である。すなわち、どのネジについて測定された締付トルクに基づく反転トルク波形であっても、比較開始位置を一意に特定することが可能である。
【0025】
なお、詳細は後述するが、締め付けが良好に行われたネジと、締め付けが良好に行われなかったネジとの間では、ネジ締付動作終了時に至るまでの過程における締付トルクの変動の仕方、つまりトルク波形の形状に差が生じる。一方、締め付けが良好に行われたネジであれば、どのネジについても、ネジ締付動作終了時に至るまでの過程における締付トルクの変動の仕方はほぼ同じとなり、取得される反転トルク波形の形状に大きな差は生じない。
【0026】
演算部13は、データ加工部12により生成された反転トルク波形画像を入力し、ニューラルネットワークによる学習モデルを用いて所定の演算を行うことにより、演算によって生成された反転トルク波形画像を出力する。この演算部13は、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる反転トルク波形画像が入力データとしてニューラルネットワークに入力された際に、入力データとの差分が所定の閾値以下となる反転トルク波形画像が出力データとしてニューラルネットワークから出力されるように、ニューラルネットワークに対して機械学習処理が施されている。演算部13が用いる学習モデルは、例えばオートエンコーダである。
【0027】
図3は、演算部13において用いる学習モデル(自動ネジ締め装置によるネジの締付異常を判定するための学習モデル)を生成するための学習モデル生成装置の機能構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、本実施形態の学習モデル生成装置は、機能構成として、時系列データ取得部31、データ加工部32およびモデル生成部33を備えている。
【0028】
上記各機能ブロック31~33は、ハードウェア、DSP、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、上記各機能ブロック31~33は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶された学習モデル生成用プログラムが動作することによって実現される。CPUに代えてまたは加えてGPU、FPGAまたはASICなどを用いてもよい。
【0029】
時系列データ取得部31は、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時におけるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表す時系列データを学習用データとして取得する。時系列データ取得部31が取得する時系列データも、時系列データ取得部11が取得する時系列データと同様、トルク波形画像の波形データである。
【0030】
上述した時系列データ取得部11が取得する時系列データは、ネジ締付異常の判定対象とするネジ(異常の有無が未知のネジ)について取得されるデータであるのに対し、時系列データ取得部31が取得する時系列データは、ネジ締付動作が正常に行われたことが既知の複数のネジについて取得された複数の学習用データである点で異なる。例えば、時系列データ取得部31が取得する時系列データは、同じ製品の同じ箇所に同種のネジを締め付けたときに得られる複数の時系列データである。
【0031】
データ加工部32は、時系列データ取得部31により取得される時系列データの時間軸を反転させることによって反転時系列データ(反転トルク波形画像の波形データ)を生成する。このデータ加工部32の処理内容は、上述したデータ加工部12の処理内容と同じである。データ加工部12は、判定対象とするネジについて取得された時系列データに対して加工を行うのに対し、時系列データ取得部31は、ネジ締付動作が正常に行われたことが既知の複数のネジについて取得された複数の時系列データに対して加工を行う点で相違するのみである。
【0032】
モデル生成部33は、データ加工部32により複数の学習用データから生成された複数の反転時系列データを用いて、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる反転時系列データが入力データとしてニューラルネットワークに入力された際に、入力データとの差分が所定の閾値以下となる反転時系列データを出力データとしてニューラルネットワークから出力するための学習モデルを機械学習処理によって生成する。
【0033】
上述したように、モデル生成部33が生成する学習モデルは、オートエンコーダである。オートエンコーダは、入力層、複数の隠れ層および出力層を有するニューラルネットワークにおいて、入力層に入力されたデータを隠れ層で次元圧縮した後、隠れ層で更に次元復元したデータを出力層から出力するように構成された学習モデルである。オートエンコーダを用いる場合、モデル生成部33は、データ加工部32により生成された反転トルク波形画像を入力層に与えるとともに、同じ反転トルク波形画像を出力層に教師データとして与えて学習を行うことにより、隠れ層のパラメータを調整する。
【0034】
上述したように、締め付けが良好に行われたネジであれば、どのネジについても、取得される反転トルク波形の形状に大きな差は生じない。よって、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる複数の反転トルク波形画像を教師データとしてオートエンコーダの機械学習を行うことにより、正常なネジ締付動作時に得られる反転トルク波形画像が入力された際に、それとの差分が所定の閾値以下となる反転トルク波形画像が出力されるように、隠れ層のパラメータを適切に調整することが可能である。
【0035】
これにより、学習済みのオートエンコーダの入力層に対して、学習時に用いた反転トルク波形画像と同じ反転トルク波形画像またはそれに近い反転トルク波形画像を入力すると、その反転トルク波形画像との誤差が小さい反転トルク波形画像が出力層から出力されることとなる。一方、学習済みのオートエンコーダの入力層に対して、学習時に用いた反転トルク波形画像と近くない反転トルク波形画像を入力すると、その反転トルク波形画像との誤差が大きい反転トルク波形画像が出力層から出力されることとなる。
【0036】
図4は、上記のよう構成した学習モデル生成装置の動作例を示すフローチャートである。まず、時系列データ取得部31は、正常なネジ締付動作時におけるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表すトルク波形画像の波形データを学習用データとして1つ取得する(ステップS1)。次いで、データ加工部32は、時系列データ取得部31により取得されたトルク波形画像の時間軸を反転させることによって反転トルク波形画像の波形データを生成する(ステップS2)。
【0037】
そして、モデル生成部33は、データ加工部32により生成された反転トルク波形画像の波形データを用いて、当該反転トルク波形画像がオートエンコーダの入力層に入力された際にそれとの差分が所定の閾値以下となる反転トルク波形画像が出力層から出力されるように、オートエンコーダのパラメータを機械学習処理によって調整する(ステップS3)。その後、時系列データ取得部31は、あらかじめ用意しておいた複数の学習用データを全て処理したか否かを判定する(ステップS4)。未処理の学習用データが残っている場合はステップS1に戻る。一方、全ての学習用データを処理し終わった場合、
図4に示す機械学習の処理は終了する。
【0038】
図1に示す演算部13は、モデル生成部33により生成された学習済みの学習モデル(オートエンコーダ)をデプロイすることによって構成される。なお、ここではネジ締付異常判定装置と学習モデル生成装置とを別構成とする例について説明したが、ネジ締付異常判定装置が学習モデル生成装置を兼ね備える構成としてもよい。例えば、ネジ締付異常判定装置において、学習モードと判定モードとを切り替えられるように構成し、学習モードが設定されているときに、時系列データ取得部11、データ加工部12および演算部13がそれぞれ
図3に示した時系列データ取得部31、データ加工部32およびモデル生成部33として動作するように構成することが可能である。
【0039】
異常判定部14は、データ加工部12により生成された反転時系列データ(反転トルク波形画像)と、当該反転時系列データを演算部13の学習モデルに入力データとして入力した際に演算部13から出力データとして得られる反転時系列データ(反転トルク波形画像)との差分が所定の閾値を超えているか否かを判定し、差分が所定の閾値を超えている場合にネジの締付異常が生じていると判定する。
【0040】
これは、データ加工部12により生成された反転トルク波形画像の波形データと、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時における一連の締付トルクを表す時系列データについて時間軸を反転させることによって得られる反転トルク波形画像の波形データ(これが演算部13の学習モデルに学習されている)との一致性に基づいて、ネジの締付異常を判定することに相当する。
【0041】
ここで、2つの反転トルク波形画像の差分は、公知の任意の手法により算出することが可能である。例えば、時間軸上に所定間隔ごとに設定した複数のサンプリング点についてそれぞれ反転トルク波形画像の差分(波形上の画素間の距離または画素数)をとり、それらの平均二乗誤差を算出するといった方法を用いることが可能である。この場合における各サンプリング点の時間間隔は、自動ネジ締め装置のトルク測定器によってサンプリング時間ごとに測定される締付トルクの時間間隔と同じであってもよいし、異なってもよい。
【0042】
また、所定の閾値は、任意に定め得る。例えば、機械学習に用いた複数の反転トルク波形画像の全てまたは一部を学習済みの学習モデルに入力し、学習モデルに入力した反転トルク波形画像と、学習モデルから出力された反転トルク波形画像との差分をそれぞれ算出し、さらにそれらの差分の平均値を算出する。こうして算出される差分の平均値は、正常なネジ締付動作時に得られる反転トルク波形画像を学習モデルに入力した場合に入力データと出力データとの間に生じる差分の平均的な値を示していると言える。所定の閾値は、この差分の平均値を基準として、これよりもある程度大きな値を設定することが可能である。差分の平均値に代えて、差分の最大値を算出し、その最大値またはそれよりもある程度大きな値を所定の閾値とするようにしてもよい。
【0043】
図5は、異常判定部14の処理内容を説明するための図である。
図5(a)に示すように、締め付けが良好に行われたネジについて取得された反転トルク波形画像41が演算部13に供給された場合は、その反転トルク波形画像41との差分が所定の閾値以下となる反転トルク波形画像42が演算部13から出力されることとなる。よって、この場合に異常判定部14は、ネジの締付異常が生じていないと判定する。
【0044】
一方、
図5(b)に示すように、締め付けが良好に行われなかったネジについて取得された反転トルク波形画像43が演算部13に供給された場合は、その反転トルク波形画像43との差分が所定の閾値を超える反転トルク波形画像44が演算部13から出力されることとなる。よって、この場合に異常判定部14は、ネジ締付異常が生じていると判定する。
【0045】
図6は、上記のように構成したネジ締付異常判定装置の動作例を示すフローチャートである。まず、時系列データ取得部11は、判定対象とするネジについてのトルク波形画像、すなわち、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表すトルク波形画像の波形データを取得する(ステップS11)。次いで、データ加工部12は、時系列データ取得部11により取得されたトルク波形画像の時間軸を反転させることによって反転トルク波形画像の波形データを生成する(ステップS12)。
【0046】
そして、演算部13は、学習モデル生成装置により学習済みの学習モデルに対し、データ加工部12により生成された反転トルク波形画像の波形データを入力データとして入力することにより、学習モデルの出力データとして反転トルク波形画像の波形データを取得する(ステップS13)。
【0047】
次に、異常判定部14は、データ加工部12により生成された反転トルク波形画像と、演算部13により学習モデルの出力データとして取得された反転トルク波形画像との差分を算出する(ステップS14)。そして、算出した差分が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS15)。ここで、異常判定部14は、算出した差分が所定の閾値以下であればネジ締付は正常であると判定し(ステップS16)、算出した差分が所定の閾値を超えている場合はネジ締付に異常が生じていると判定する(ステップS17)。これにより、1つのネジに関する締付異常判定処理を終了する。
【0048】
以上詳しく説明したように、本実施形態では、入力されるデータと出力されるデータとの差分が所定の閾値以下となるように、正常なネジ締付動作時に得られる学習用データを用いてニューラルネットワークの機械学習処理が施された学習モデルを用いて、ネジの締付異常を判定する。特に、本実施形態では、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時までの締付トルクの一連の測定値を表す時系列データ(トルク波形画像)の時間軸を反転させることによって反転時系列データ(反転トルク波形画像)を生成し、当該反転トルク波形画像と、当該反転トルク波形画像を学習モデルに入力した際に出力される反転トルク波形画像との差分が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えている場合にネジの締付異常が生じていると判定するようにしている。
【0049】
このように構成した本実施形態によれば、トルク波形画像の時間軸を反転させて反転トルク波形画像を生成することで、自動ネジ締め装置によるネジの締め始め(トルクの測定開始)からしばらくの間の開始期間21中に生じるトルク測定値のばらつきの影響を受けることなく、反転トルク波形画像の開始位置SPを一意に特定し、その上で反転トルク波形画像の一致性の判定を行うことが可能となる。これにより、反転トルク波形画像の一致性をより正しく判定することが可能となり、その結果、締付異常の判定精度を向上させることができる。
【0050】
なお、
図2に示すように、トルク波形画像の開始期間21中に生じるトルク測定値のばらつきは、反転トルク波形画像の終了期間22(開始期間21に対応する期間)に存在する。この終了期間22におけるトルク測定値のばらつきにより、正常なネジ締付動作時に得られる反転トルク波形画像どうしの間にも多少の差分が生じる。しかし、本実施形態では、反転トルク波形画像の開始位置SPの位置合わせを行っているので、終了期間22以外の期間において大きな差分は生じない。よって、正常なネジ締付動作時に得られる反転トルク波形画像どうしの差分を一定の範囲内に抑えることが可能である。
【0051】
これに対し、データ加工部12,32は、時系列データ取得部11,31により取得される時系列データの時間軸を反転させることに加えて、反転後の時系列データの末尾から遡って所定期間(終了期間22)のデータを削除することによって反転時系列データを生成するようにしてもよい。このようにすれば、正常なネジ締付動作時に得られる反転トルク波形画像どうしの間にも多少の差分が生じる可能性のある終了期間22のデータを、モデル生成部33において演算部13の学習モデルを機械学習する際の対象外とし、異常判定部14において反転トルク波形を比較して差分を算出する際の対象外とすることができるので、ネジ締付異常の判定精度を上げることができる。この場合、異常判定部14において異常判定の際に用いる所定の閾値を小さくして、より厳密に異常判定を行うようにすることも可能である。
【0052】
なお、上記実施形態では、時系列データとして、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時まで所定のサンプリング時間ごとに測定された締付トルクの一連の測定値をもとに生成したトルク波形画像の波形データを用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、時系列データは、自動ネジ締め装置によるネジ締付動作開始時からネジ締付動作終了時まで所定のサンプリング時間ごとに測定された締付トルクの一連の測定値を表す数値列データとしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、学習モデルとしてオートエンコーダを用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる反転時系列データをあらかじめ正解データとして用意しておき、これを教師データとして機械学習を行うような学習モデルであってもよい。この場合の正解データは、例えば、複数のネジについてネジ締付動作が正常に行われたときに得られる複数の反転時系列データのそれぞれとの差分が極力小さくなるように生成した近似曲線を用いることが可能である。
【0054】
時系列データとしてトルク波形画像を用いる場合は、オートエンコーダ以外の学習モデルとして、例えばGAN(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)を用いることも可能である。すなわち、データ加工部12により生成された反転トルク波形画像をもとに所定のアルゴリズムによって同じトルク波形画像を生成する生成器(generator)と、生成器により生成された反転トルク波形画像が正解の反転トルク波形画像(例えば、データ加工部12により生成された反転トルク波形画像を用いる)であるか否かを識別する識別器(discriminator)とにより学習モデルを構成するようにしてもよい。この場合、識別器が異常判定部14の機能を兼ねることになる。
【0055】
また、上記実施形態では、学習モデルを用いてネジ締付の異常判定を行う例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、データ加工部12により生成された反転時系列データと、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時における一連の締付トルクを表す時系列データについて時間軸を反転させることによって得られる反転時系列データとの差分に基づいて、ネジの締付異常を判定するようにしてもよい。
図7は、その一例に係るネジ締付異常判定装置の機能構成例を示すブロック図である。
【0056】
図7において、
図1に示した符号と同一の符号を付したものは同一の機能を有するものであるので、ここでは重複する説明を省略する。
図7に示すネジ締付異常判定装置は、機能構成として、演算部13および異常判定部14に代えて異常判定部14’を備えている。また、
図7に示すネジ締付異常判定装置は、記憶媒体として、正解データ記憶部15を備えている。正解データ記憶部15は、自動ネジ締め装置による正常なネジ締付動作時に得られる反転時系列データをあらかじめ正解データとして記憶する。正解データは、上述したように、複数のネジについてネジ締付動作が正常に行われたときに得られる複数の反転時系列データのそれぞれとの差分が極力小さくなるように生成した近似曲線のデータを用いることが可能である。
【0057】
異常判定部14’は、データ加工部12により生成された反転時系列データ(測定トルク値に基づくデータ)と、正解データ記憶部15にあらかじめ記憶されている正解の反転時系列データとの差分(例えば、サンプリング点ごとに抽出した差分の平均二乗誤差)が所定の閾値を超えるか否かを判定し、差分が所定の閾値を超える場合にネジの締付異常が生じていると判定する。
【0058】
また、上記
図1の実施形態では、ネジ締付異常判定装置が時系列データ取得部11、データ加工部12、演算部13および異常判定部14を備える構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ネジ締付異常判定装置が演算部13および異常判定部14を備え、時系列データ取得部11およびデータ加工部12は別の装置が備える構成としてもよい。同様に、
図7において、ネジ締付異常判定装置が異常判定部14’および正解データ記憶部15を備え、時系列データ取得部11およびデータ加工部12は別の装置が備える構成としてもよい。また、正解データ記憶部15は、ネジ締付異常判定装置に接続された外部装置が備える構成としてもよい。
【0059】
その他、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
11 時系列データ取得部
12 データ加工部
13 演算部
14,14’ 異常判定部
15 正解データ記憶部
31 時系列データ取得部
32 データ加工部
33 モデル生成部