(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240122BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
F02D45/00 362
F02D43/00 301B
(21)【出願番号】P 2020009720
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】小野 辰也
(72)【発明者】
【氏名】守 利浩
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕隆
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-138565(JP,A)
【文献】特開2003-113728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 - 45/00
F02P 5/145 - 5/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転中に所定の燃料カット条件が成立したとき、気筒に充填された混合気に火花点火するタイミングを通常よりも遅角させる遅延期間を設け、その後気筒への燃料供給を中断する燃料カットを実行するものであって、
前記遅延期間中において点火タイミングを最も遅角させることのできる限界値を設定するにあたり、そのときの内燃機関の運転領域に応じた部材に熱害を生じない限界の点火タイミングをメモリから読み出し、並びに、そのときの内燃機関の運転領域に応じた混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングをメモリから読み出し、両者を比較してより進角側となる方を点火タイミングの遅角量の限界値とすることとし、
燃料カット終了条件が成立して気筒に対する燃料供給及び点火燃焼を再開した直後のエンジン回転数の立ち上がりの過渡期に、エンジン回転数の瞬時値の変動の大きさまたはその変動を小さくするために点火タイミングを補正する幅の大きさを求め、そのエンジン回転数の変動または点火タイミングの補正幅が大きいほど、前記メモリに記憶保持している前記
遅延期間中の混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングをより進角した値に修正する内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される火花点火式内燃機関の運転制御を司る制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関が搭載された車両にあって、その運転状況に応じて内燃機関の気筒に対する燃料供給を一時中断する燃料カットを行うことが広く知られている。一般的には、運転者によるアクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下となり、かつエンジン回転数が燃料カット許可回転数以上に高いときに、燃料カット条件が成立したものとしてインジェクタからの燃料噴射を停止する。そして、アクセルペダルの踏込量が閾値を上回った、エンジン回転数が燃料カット復帰回転数まで低下した等の何れかの燃料カット終了条件が成立したときに、燃料カットを終了、燃料噴射を再開する。
【0003】
但し、燃料カット条件が成立したとしても、即時に燃料カットを実行するわけではない。内燃機関が出力するエンジントルクが比較的大きい段階で、急に燃料供給を遮断すると、エンジン回転数及び車速がステップ的に急落して運転者を含む搭乗者に衝撃を感じさせる。そのようなトルクショックを抑止または軽減するべく、燃料カット条件が成立した後、遅延期間の経過を待ってから、はじめて燃料噴射を停止する。この遅延期間中には、気筒に充填された混合気への火花点火タイミングを遅角化し、エンジントルクを積極的に低減させる(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状、燃料カット条件成立から燃料カットの実行開始までの間の遅延期間中の点火タイミングは、そのときの内燃機関の運転領域において具現可能な最も遅いタイミングに設定している。点火タイミングを徒に遅角化すると、気筒の燃焼室内での混合気の着火燃焼が不安定となり、失火によるエンジントルクの低落や有害物質HCの排出増を招くおそれがある。そうでなくとも、気筒から排出される燃焼ガスの温度がより高まるので、マニホルドその他の排気通路の構成部品や排気浄化用の触媒に熱害が生じる可能性もある。そこで、混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングと、部材に熱害を生じない限界の点火タイミングとを比較し、より進角側となる方を点火タイミングの遅角量の限度としている。
【0006】
だが、従前のシステムでは、点火タイミングの遅角量の限界値を設定する上で、内燃機関の経年劣化(例えば、気筒の燃焼室やピストン、点火プラグ、吸排気バルブへのデポジットの付着、堆積)や個体差により混合気の燃焼の安定性が異なってくることを考慮に入れていなかった。つまり、点火タイミングの遅角量の限界値を一律に設定しており、経年劣化により混合気の燃焼環境が悪化した場合、その限界値まで点火タイミングを遅角したときに燃焼不安定ないし失火が発生し、エンジントルクが低落して車両のドライバビリティを損ねてしまう。
【0007】
以上の問題に初めて着目してなされた本発明は、点火タイミングの遅角量の限界値を適宜修正し、以て中長期に亘り内燃機関の性能及び車両のドライバビリティを維持することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、内燃機関の運転中に所定の燃料カット条件が成立したとき、気筒に充填された混合気に火花点火するタイミングを通常よりも遅角させる遅延期間を設け、その後気筒への燃料供給を中断する燃料カットを実行するものであって、前記遅延期間中において点火タイミングを最も遅角させることのできる限界値を設定するにあたり、そのときの内燃機関の運転領域に応じた部材に熱害を生じない限界の点火タイミングをメモリから読み出し、並びに、そのときの内燃機関の運転領域に応じた混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングをメモリから読み出し、両者を比較してより進角側となる方を点火タイミングの遅角量の限界値とすることとし、燃料カット終了条件が成立して気筒に対する燃料供給及び点火燃焼を再開した直後のエンジン回転数の立ち上がりの過渡期に、エンジン回転数の瞬時値の変動の大きさまたはその変動を小さくするために点火タイミングを補正する幅の大きさを求め、そのエンジン回転数の変動または点火タイミングの補正幅が大きいほど、前記メモリに記憶保持している前記遅延期間中の混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングをより進角した値に修正する内燃機関の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、点火タイミングの遅角量の限界値を適宜修正でき、中長期に亘って内燃機関の性能及び車両のドライバビリティを維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図3】燃料カットから復帰して燃料供給を再開する際のエンジン回転数の推移を例示するタイミング図。
【
図4】燃料カットから復帰して燃料供給を再開する際のエンジン回転数の瞬時値の変動、及びその変動を小さくするための点火タイミングの補正の模様を例示するタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子を有するイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0012】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0013】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0014】
排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置2は、排気通路4と吸気通路3とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を還流するEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における触媒41の下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、特にサージタンク33に接続している。
【0015】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECUまたはコントローラが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
【0016】
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、内燃機関に対して要求されるエンジン負荷率またはエンジントルク)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、気筒1に連なる吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、大気圧を検出する大気圧センサから出力される大気圧信号e、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフト及び/または排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、ブレーキペダルが踏まれていることを検出するスイッチまたはブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号h等が入力される。
【0017】
ECU0の出力インタフェースからは、イグナイタ13に対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
【0018】
ECU0のプロセッサは、メモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数や吸気圧等を知得するとともに、気筒1に充填される吸気量(または、新気量)に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射圧、混合気への点火タイミング、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0019】
図2に示すように、本実施形態のECU0は、所定の燃料カット条件が成立したときに(ステップS1)、気筒1への燃料供給を中断する燃料カットを実行する。ステップS1にて、ECU0は、少なくとも、アクセル開度が0または0に近い閾値以下となり、かつエンジン回転数が燃料カット許可回転数以上あることを以て、燃料カット条件が成立したものと判断する。
【0020】
尤も、燃料カット条件が成立したとしても、即時にインジェクタ11からの燃料噴射を停止するわけではない。燃料カットに起因するトルクショックを抑止または軽減するべく、ECU0は、燃料カット条件が成立した後、遅延期間の経過またはエンジントルクの低下を待ってから(ステップS3)、はじめて燃料噴射を停止する(ステップS4)。遅延期間中には、気筒1に充填された混合気に対する火花点火タイミングを、最も遅角させることのできる限界値まで遅角させる(ステップS2)。燃料カット条件が成立する直前の点火タイミングは、通常、MBT(Minimum advance for Best Torque)またはこれに近いタイミングである。点火タイミングをそのタイミングから遅角させることは、内燃機関の熱機械変換効率を意図的に低下させ、エンジントルクを積極的に低減させることを意味する。
【0021】
燃料カット条件の成立後、所定の燃料カット終了条件が成立したときには(ステップS5)、燃料カットを終了することとし、インジェクタ11からの燃料噴射を再開する(ステップS6)とともに、遅角していた混合気への火花点火タイミングを本来のタイミングまで進角させる(ステップS7)。ステップS5にて、ECU0は、アクセル開度が閾値を上回った、エンジン回転数が燃料カット復帰回転数を下回るまで低下した等のうちの何れかを以て、燃料カット終了条件が成立したものと判断する。燃料カット復帰回転数は、燃料カット許可回転数よりも低位の値である。なお、燃料カット条件成立後の遅延期間中に燃料カット終了条件が成立した場合には、燃料カットを開始しない。
【0022】
ステップS2における、燃料カット条件成立後の遅延期間中の点火タイミング、即ち点火タイミングを最も遅角させることのできる限界値は、そのときの内燃機関の運転領域に応じて定まる。点火タイミングの遅角化は、気筒1の燃焼室内での混合気の着火燃焼の不安定化に繋がる。そうでなくとも、点火タイミングの遅角化は、気筒1から排出される燃焼ガスの温度を上昇させ、排気通路4の構成部材や触媒41に熱害を生じさせるリスクを高める。そこで、混合気の燃焼が不安定とならない限界(燃焼限界)の点火タイミングと、部材に熱害を生じない限界の点火タイミングとを比較し、より進角側となる方を点火タイミングの遅角量の限度とする。
【0023】
ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域を示すパラメータ[エンジン回転数,エンジン負荷率(または、アクセル開度、サージタンク33内吸気圧、気筒1に充填される吸気量(または、新気量)若しくは燃料噴射量)]と、混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングとの関係を規定したマップデータが格納されている。並びに、ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域を示すパラメータと、部材に熱害を生じない限界の点火タイミングとの関係を規定したマップデータが格納されている。ステップS2にて、ECU0は、現在の内燃機関のパラメータをキーとしてこれらマップを検索し、混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミング、及び部材に熱害を生じない限界の点火タイミングをそれぞれ知得する。そして、遅延期間中の点火タイミングを、それら両者のうちより進角側にあるタイミングに制御する。
【0024】
ステップS7における、燃料カットからの復帰直後の点火タイミングもまた、そのときの内燃機関の運転領域に応じて定まる。ECU0のメモリには予め、内燃機関の運転領域を示すパラメータと、本来の基本点火タイミングとの関係を規定したマップデータが格納されている。ステップS7にて、ECU0は、現在の内燃機関のパラメータをキーとして当該マップを検索し、基本点火タイミングを知得する。そして、燃料カットからの復帰直後の点火タイミングを、その基本点火タイミングに制御する。
【0025】
ところで、混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングは、恒常的に一定ではなく、内燃機関の経年劣化や個体差により変化し得る。例えば、気筒1の燃焼室やピストン、点火プラグ、吸排気バルブにはデポジットが付着し堆積してゆくと、混合気の燃焼環境が悪化する。さすれば、混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングは、より進角してゆくことになる。
【0026】
そこで、本実施形態のECU0は、燃料カットからの復帰後のエンジン回転数の瞬時値の変動の大きさ、またはその変動を小さくするために点火タイミングを補正する幅の大きさに応じて、メモリに記憶保持している、混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングの値を修正する(ステップS8、S9)こととしている。
【0027】
図3に示すように、運転者がアクセルペダルを踏み直す等して燃料カット終了条件が成立し、気筒1に対する燃料供給及び点火燃焼を再開すると、燃料カットに伴い低下していたエンジン回転数が再び上昇してゆく。
図3及び
図4に示しているように、その過渡期(時点t
1から時点t
2まで)には、エンジン回転数の瞬時値が上下に振動するような変動が起こる。その変動の大きさは、内燃機関の経年劣化が進行するほど拡大してゆく。
図4中、破線は経年劣化していない内燃機関における変動の模様を表し、実線は経年劣化が進行した内燃機関における変動の模様を表している。
【0028】
ECU0は、クランク角信号bを参照し、内燃機関のクランクシャフトが所定角度(例えば、30°CA(クランク角度))回転する都度、その角度分回転するのに要した時間を計測して、これを基にしてエンジン回転数の瞬時値を把握している。さらに、過渡期にエンジン回転数の瞬時値が上下に振動するのに対応して、その振動を鎮圧するように、各気筒1における混合気への火花点火のタイミングを補正している。より具体的には、ECU0が、前回計測した所要時間と、今回計測した所要時間との差分ΔNeを反復的に求める。そして、ステップS8にて、差分ΔNeの時系列からエンジン回転数の瞬時値の落ち込みが見られるならば点火タイミングを基本タイミングから進角させる補正を加え、逆にエンジン回転数の瞬時値の跳ね上がりが見られるならば点火タイミングを基本タイミングから遅角させる補正を加える。前者の進角補正量は、エンジン回転数の瞬時値の落ち込みが大きいほど大きくなり、後者の遅角補正量は、エンジン回転数の瞬時値の跳ね上がりが大きいほど大きくなる。
【0029】
その上で、ステップS9にて、ECU0は、エンジン回転数の瞬時値の変動が大きいほど、またはその変動を小さくするために点火タイミングを補正する幅が大きいほど、メモリに記憶保持している、混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングをより進角した値に更新する。エンジン回転数の瞬時値の変動の大きさとしては、
図4に示すΔNeの極大値と極小値との差分A
1を用いてもよいし、ΔNeの平均値または中央値等と極小値との差分A
2を用いてもよい。点火タイミングの補正幅の大きさとしては、
図4に示す進角補正量の極値と遅角補正量の極値との差分B
1を用いてもよいし、進角補正量の極値と補正量0との差分B
2を用いてもよい。
【0030】
混合気の燃焼が不安定とならない限界の点火タイミングの値の修正ステップS9は、必ずしも高頻度で実施する必要はなく、車両が一定距離走行する度に実施してもよいし、内燃機関が所定回数回転する(または、気筒1において燃料を所定回数燃焼させる)度に実施してもよい。また、メモリに記憶している限界値の修正量(進角量)にガードを設け、差分A1、A2、B1またはB2が如何に大きくとも、一度の修正機会ではそのガード量を超えて限界値を修正しないようにしてもよい。
【0031】
本実施形態では、気筒1に充填された混合気に火花点火するタイミングを決定するにあたり、点火タイミングを最も遅角させることのできる限界値を設けるものであり、エンジン回転数の瞬時値の変動の大きさA1またはA2、あるいはその変動を小さくするために点火タイミングを補正する幅の大きさB1またはB2に応じて、前記限界値を修正する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0032】
本実施形態によれば、内燃機関の経年劣化や個体差により混合気の燃焼の安定性が変化することを考慮に入れて点火タイミングの遅角量の限界値を設定でき、燃料カット条件成立後の遅延期間中に点火タイミングを遅角することで燃焼不安定ないし失火が発生することを防止できる。そして、中長期に亘り内燃機関の性能及び車両のドライバビリティを高く保つことが可能となる。
【0033】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、燃料カット終了条件が成立し気筒1に対する燃料供給及び点火燃焼を再開した直後のエンジン回転数の立ち上がりの過渡期に、エンジン回転数の瞬時値の変動の大きさA1またはA2、あるいはその変動を小さくするために点火タイミングを補正する幅の大きさB1またはB2を求め、それに応じて点火タイミングの遅角量の限界値を修正していた。これに代えて、またはこれとともに、内燃機関のアイドル運転を契機として、点火タイミングの遅角量の限界値を修正することも考えられる。
【0034】
運転者によるアクセルペダルの踏込量が0または0に近い閾値以下となり、車速が低下しまたは0となって内燃機関をアイドル運転する際には、エンジン回転数を内燃機関の自律回転を維持できる最低限のアイドル回転数に収束させるフィードバック制御を実施する。アイドル回転のフィードバック制御では、実測のエンジン回転数と目標アイドル回転数との偏差を算出し、その偏差を縮小する方向に火花点火タイミングを調整する。即ち、実測のエンジン回転数が目標アイドル回転数よりも低い場合には点火タイミングを進角補正し、高い場合には点火タイミングを遅角補正する。このときにも、
図4に示したように、エンジン回転数の瞬時値が上下に振動するように変動し、呼応して点火タイミングの進角補正量または遅角補正量も変動する。これらの変動の大きさは、内燃機関の経年劣化が進行するほど拡大してゆく。
【0035】
従って、内燃機関の制御装置たるECU0が、アイドル回転のフィードバック制御中に、エンジン回転数の瞬時値の変動の大きさA1またはA2、あるいはその変動を小さくするために点火タイミングを補正する幅の大きさB1またはB2を求め、それに応じて点火タイミングの遅角量の限界値を修正することができる。
【0036】
また、上記実施形態では、メモリに記憶保持している点火タイミングの遅角量の限界値を、燃料カット条件成立後の遅延期間中の点火タイミングの制御に用いていたが、その限界値を他の用途、例えばアイドル回転のフィードバック制御中の点火タイミングの遅角補正量の限界値として用いることも考えられる。
【0037】
その他、各部の具体的な構成や処理の内容等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、車両に搭載される火花点火式内燃機関の制御に適用できる。
【符号の説明】
【0039】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
12…点火プラグ
b…クランク角信号
i…点火信号