(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】ハーネス用保護部材
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20240122BHJP
H02G 3/32 20060101ALI20240122BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240122BHJP
F16L 57/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
H02G3/04 087
H02G3/04 018
H02G3/32
B60R16/02 623T
F16L57/00 A
(21)【出願番号】P 2020057908
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 悟史
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-170263(JP,A)
【文献】特開2008-260322(JP,A)
【文献】特開2002-347537(JP,A)
【文献】特開2014-212619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
H02G 3/30
H02G 3/32
B60R 16/02
F16L 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスに対して、その延伸方向の周囲を囲むように装着される、樹脂材料で構成されたハーネス用保護部材であって、
前記延伸方向と略平行な第1の側面と、
前記延伸方向と略平行であり当該第1の側面と隣接する第2の側面と、
前記第1の側面と前記第2の側面とを連結し、変形可能なヒンジ部と、
を具備し、
前記ワイヤハーネスに装着される前の第1の状態と、前記ワイヤハーネスに装着された第2の状態と、の間で前記ヒンジ部の形状が変化することによって、前記第1の側面と前記第2の側面のなす角度が変化するように構成され、
前記ヒンジ部は、
前記第1の状態において、
前記ヒンジ部における前記第1の側面側と前記第2の側面側とを結ぶ方向と垂直な前記ヒンジ部の厚さ
の極小点が、前記第1の側面と前記第2の側面の中央と前記第1の側面との間において当該中央及び前記第1の側面から離間した箇所と、当該中央と前記第2の側面との間において当該中央と前記第2の側面から離間した箇所に設けられ、当該中央には設けられないような形状とされたことを特徴とするハーネス用保護部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに装着されて使用されるワイヤーハーネス用保護部材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両等において使用されるワイヤハーネス(以下、ハーネス)には、単体のハーネスや複数のハーネスを束ねた状態で周囲を保護したり、保護した状態で機器に固定するために、ハーネス用保護部材(以下、保護部材)が用いられている。このような保護部材としては、樹脂材料製のものが広く用いられており、ハーネスへの装着が容易であり、かつ単純な構造で安価なものが用いられている。
【0003】
両端が固定された状態のハーネスに対して装着することを容易にするために、このような保護部材は、変形可能な樹脂材料製で、かつ製造直後には開いた状態として製造され、その後、ハーネスを囲む閉じた状態となるように変形させることによって、所望の形態となるような構造とされる。
【0004】
特許文献1には、このような保護部材(コードプロテクター)が記載されている。この保護部材のハーネスに垂直な断面形状は、ハーネスを取り囲むような略矩形形状とされる。この保護部材は、この断面における一つの頂点が開いた状態(分離された状態)で製造される。一方、他の一つの頂点は特に変形しやすい構造とされる。製造直後には開いた状態とされた頂点の部分には、これが閉じた状態として係止する構造が形成されている。これにより、特に容易にこの保護部材をハーネスに装着することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案出願公開昭61-195712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような保護部材は、装着が容易となるものの、脱着時には変形させることが必須であるため、例えば脱着作業を繰り返し行う場合には、その耐久性に問題があった。
【0007】
このため、脱着が容易であり、耐久性が高く安価なワイヤハーネス用保護部材が求められた。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ワイヤハーネスに対して、その延伸方向の周囲を囲むように装着される、樹脂材料で構成されたハーネス用保護部材であって、前記延伸方向と略平行な第1の側面と、前記延伸方向と略平行であり当該第1の側面と隣接する第2の側面と、前記第1の側面と前記第2の側面とを連結し、変形可能なヒンジ部と、を具備し、前記ワイヤハーネスに装着される前の第1の状態と、前記ワイヤハーネスに装着された第2の状態と、の間で前記ヒンジ部の形状が変化することによって、前記第1の側面と前記第2の側面のなす角度が変化するように構成され、前記ヒンジ部は、前記第1の状態において、前記ヒンジ部における前記第1の側面側と前記第2の側面側とを結ぶ方向と垂直な前記ヒンジ部の厚さの極小点が、前記第1の側面と前記第2の側面の中央と前記第1の側面との間において当該中央及び前記第1の側面から離間した箇所と、当該中央と前記第2の側面との間において当該中央と前記第2の側面から離間した箇所に設けられ、当該中央には設けられないような形状とされている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のように構成されているので、脱着が容易であり、耐久性が高く安価なワイヤハーネス用保護部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一般的なハーネス用保護部材の外観の斜視図である。
【
図2】一般的なハーネス用保護部材の2種類の状態における構造を示す断面図である。
【
図3】従来のハーネス用保護部材におけるヒンジ部の2種類の状態における形状を示す断面図である。
【
図4】実施の形態に係るハーネス用保護部材におけるヒンジ部の2種類の状態における形状を示す断面図である。
【
図5】実施の形態に係るハーネス用保護部材におけるヒンジ部が変形する際の状況を順次示す断面図である。
【
図6】第1の変形例となるハーネス用保護部材におけるヒンジ部の2種類の状態における形状を示す断面図である。
【
図7】第2の変形例となるハーネス用保護部材におけるヒンジ部の2種類の状態における形状を示す断面図である。
【
図8】第3の変形例となるハーネス用保護部材におけるヒンジ部の2種類の状態における形状を示す断面図である。
【
図9】第4の変形例となるハーネス用保護部材におけるヒンジ部の2種類の状態における形状を示す断面図である。
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を図面を参照して具体的に説明する。
図1は、一般的なハーネス用保護部材(保護部材)1の外観を示す斜視図である。ここで、保護部材1は、破線で示されたワイヤハーネス(ハーネス)Hの周囲を囲むように装着され、
図1においては、装着された状態が模式的に示されている。特許文献1に記載の保護部材と同様に、この保護部材1も、ハーネスHの延伸方向と垂直な断面形状は略矩形形状であり、この矩形形状の中央をハーネスHが貫通するような形態でハーネスHに装着される。この状態で保護部材1を他の部材に固定することによって、ハーネスHを固定することができる。
【0013】
図1においては、保護部材1の全体形状は略矩形体形状とされ、上側において、ハーネスHと略平行な矩形体形状の側面(第1の側面)1Aが設けられ、側面1Aの端は、ハーネスHと平行となる2つの辺部(辺部A、B)となる。保護部材1の右側の側面(第2の側面)1Bと上側の側面1Aの交差する部分が辺部Bとなる。
【0014】
図2(a)は、この保護部材1の、装着前の状態(第1の状態)、
図2(b)は、装着後の状態(第2の状態)における、ハーネスHに垂直な断面構造を単純化して模式的に示す図である。装着前の状態(
図2(a))、装着後の状態(
図2(b))においては、側面1A、1Bは平行とされ、装着後の状態(
図2(b))においては、側面1Bは装着前の状態(
図2(a))から図中反時計回りに180°回動している。
図2(b)においては、辺部A、Bは、それぞれ紙面垂直方向に延伸し、保護部材1の右側の側面(第2の側面)1Bと上側の側面1Aの交差する領域XBが辺部Bに対応し、左側の側面1Cと上側の側面1Aの交差する領域XAが辺部Aに対応する。
【0015】
ここで、
図2(a)に示されるように、装着前の状態においては、辺部Aは開いた状態とされるため、側面1C側の端部の領域XA1と、側面1A側の端部の領域XA2に分断されている。また、
図2(b)においては、側面1Aは辺部Bを中心として
図2(a)の状態から180°回動した状態とされ、このように側面1Aが回動可能なように、辺部B(領域XB内)は変形が可能とされる。また、
図2(b)の状態において領域XA1と領域XA2とが結合されて領域XAが形成された状態で側面1Aを左側の側面1Cに対して係止させて固定するために、係止部1C1が、側面1Cの上端側に設けられている。このため、
図2(a)の状態から
図2(b)の状態とすることによって、
図1の形態を実現することができる。保護部材1全体を軟質の樹脂材料等で構成することによって、こうした構成を容易に実現することができる。ここで、領域XB内で上記のような変形を可能とするために、屈曲自在とされたヒンジ部1Dが設けられる。
【0016】
以上の点については、本発明の実施の形態に係る保護部材と、従来の保護部材において共通である。また、
図3(a)(b)は、従来の保護部材1における、領域XB内を拡大した断面構造を
図2(a)(b)に対応させて示す図である。ここでは、厚く形成されたために変形が容易ではない側面1A、側面1Bとが、これらよりも薄く形成されたために容易に変形するヒンジ部1Dで連結されている。
図3においては側面1A、側面1B、ヒンジ部1Dは独立した構成要素として示されているが、実際にはこれらは同一の樹脂材料で一体化されて成形されて形成される。
【0017】
図3(a)の状態から
図3(b)の状態とするためには、変形前の
図3(a)の状態から
図3(b)に示されるようにヒンジ部1Dが面内で変形をする。このため、
図3(b)の状態を容易に実現し、
図1の状態を容易に実現することができる。
【0018】
従来の保護部材1においては、
図3(b)の状態を容易に実現できる一方で、ヒンジ部1Dにおいて変形が最も大きくなる領域(変形させる際の負荷が最も大きくなる領域)は中央の領域X1となった。このため、この保護部材1の脱着を繰り返した場合に、ヒンジ部1Dがこの領域X1で破損しやすくなった。すなわち、ヒンジ部1Dによって保護部材1の耐久性が制限された。
【0019】
本発明の実施の形態に係る保護部材においては、ヒンジ部の形状が前記のヒンジ部1Dとは異なる。この点について以下に説明する。
【0020】
実施の形態に係る保護部材において、ヒンジ部以外の構成については前記の保護部材1と同様である。実施の形態に係る保護部材において用いられるヒンジ部11D、側面1A、側面1Bの断面構造を、
図3に対応させて、装着前(a)、装着後(b)の状態について
図4に示す。
【0021】
図4(a)に示されるように、このヒンジ部11Dにおいては、変形する際の移動方向(図中上下方向)に沿った厚さの極小点は、水平方向におけるP2、P3で示される領域として、矢印で示されるように、中央部の両側にそれぞれ形成されている。ヒンジ部11Dにおいては、このように局所的に薄くされた部分が変形しやすくなる。
【0022】
このヒンジ部11Dが
図4(a)の状態から
図4(b)の状態に変化するまでの形態を
図5(a)~(c)に順次示す。まず、屈曲が小さな
図5(a)の状態においては、変形が最も大きくなるのは、側面1Bに近い、
図4(a)における左側のP2に対応した領域X2となる。その後、更に屈曲が大きくなった
図5(b)の状態においては、領域X2における変形量が大きくなるために領域X2における変形は起こりにくくなるため、ヒンジ部11Dの中央の領域X1における変形が大きくなる。更に屈曲が大きくなった
図5(c)の状態においては、領域X2、X1における変形量が既に大きくなりこれらの領域における変形が起こりにくくなるため、まだ変形量が大きくなっていないP3に対応した領域X3における変形が大きくなる。
【0023】
このため、この場合においても、
図4(b)に示されるヒンジ部11Dの変形時において、中央の領域X1に負荷がかかることは
図3のヒンジ部1Dと同様である。しかしながら、この場合には、前記のP2に対応した領域X2、P3に対応したX3も変形しやすくなるため、変形時において負荷がかかるのは、領域X1に加えて、領域X2、X3となる。このため、負荷は領域X1、X2、X3に分散し、各々の領域における負荷は
図3(b)における領域X1よりも小さくなる。これによって、ヒンジ部11Dの耐久性を高めることができ、これを用いた保護部材の耐久性を高めることができる。
【0024】
このようなヒンジ部11Dあるいはこれを有する保護部材は、軟質の樹脂材料を成型することによって製造される。この際、成形される形状を
図4(a)に示された形状とすることができる。この場合には、負荷が全くかからない状態の形状が
図4(a)の形状となるため、このヒンジ部11Dを
図4(b)に示されるように変形させた場合には、領域X1における実質的な変形は非常に小さい。このため、領域X1における負荷を特に低減することができる。一方、残りの負荷は領域X2、X3に分散されるため、各領域の負荷の最大値は
図3の場合よりも低減される。このように、上記の3つの領域X1、X2、X3のうち特定の領域の成型直後の形状を、装着後の形状(
図4(b))に近づけることによって、この領域における負荷を特に低減することができる。
【0025】
また、上記のP2、P3の2箇所に加え、領域X1に対応する中央の部分にも厚さの極小点を設けることもできる。
図6は、このような第1の変形例となるヒンジ部21Dの構造を
図4と同様に示す。この場合には、P1に対応した領域X1、P2に対応した領域X2、P3に対応したX3が特に変形しやすくなるため、より確実に負荷を分散することができる。
【0026】
このような厚さの極小点に対応する部分は、例えば、
図3~6における、上記の変形の際に移動方向(上下方向)と垂直なヒンジ部における表面である上面(一方の側の表面)、下面(他方の側の表面)を掘り下げた形状とすることによって容易に形成することができる。この際、上記の変形の際に、この上面は圧縮される側となり、下面は膨張する側となるため、このように掘り下げた構造は、上面側に形成することが好ましい。
図7は、このような第2の変形例となるヒンジ部31Dの構造を
図4と同様に示す。
【0027】
また、このように両側の極小点に対した箇所と、中央の極小点に対応した箇所において、このように掘り下げる側の表面を異ならせることもできる。
図8は、このような第3の変形例となるヒンジ部41Dの構造を
図4と同様に示す。このヒンジ部41Dにおいては、両側の極小点に対応した箇所(P2、P3)は、上面を掘り下げることによって形成され、中央の極小点に対応した箇所(P1)は、下面を掘り下げることによって形成される。
【0028】
図9は、第4の変形例となるヒンジ部51Dの構造を
図4と同様に示す。このヒンジ部51Dにおいては、
図8の場合とは逆に、両側の極小点に対応した箇所(P2、P3)は、下面を掘り下げることによって形成され、中央の極小点に対応した箇所(P1)は、上面を掘り下げた形状として形成される。
【0029】
このように、少なくとも一つの極小点は、上面側を掘り下げた形状とすることによって形成することが好ましい。どの極小点をどちら側の表面を掘り下げた形状として設けるかは、装着前(第1の状態)、装着後(第2の状態)において特にどの部分の強度を高くするか、あるいは成型直後(装着前)の状態から装着後の状態した際の実質的な変形量を小さくして負荷を特に小さくする領域をどの極少点に対応させて設けるか、等に応じて設定される。いずれの場合においても、少なくとも、ヒンジ部の中央を挟んだ両側に極小点を設けることが好ましい。
【0030】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0031】
1 ハーネス用保護部材(保護部材)
1A 側面(第1の側面)
1B 側面(第2の側面)
1C 側面
1C1 係止部
1D、11D、21D、31D、41D、51D ヒンジ部
A、B 辺部
H ワイヤハーネス(ハーネス)