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特許7423202樹脂製品、樹脂製品の製造方法、交換レンズ、および光学機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】樹脂製品、樹脂製品の製造方法、交換レンズ、および光学機器
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/118 20150101AFI20240122BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20240122BHJP
   G03B 17/02 20210101ALI20240122BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20240122BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G02B1/118
G02B7/02 D
G03B17/02
G02B5/02 C
G02B3/00 Z
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019115710
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2020024381
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018142974
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】名古屋 利光
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】及川 圭
(72)【発明者】
【氏名】榎田 弓貴也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】森崎 修
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/147858(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/046114(WO,A1)
【文献】特開2011-048337(JP,A)
【文献】特開2016-224338(JP,A)
【文献】特開2018-052802(JP,A)
【文献】特開2012-128353(JP,A)
【文献】特開2014-102311(JP,A)
【文献】特表2011-509098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0033490(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、
開口幅が1μm以上かつ300μm以下である複数の第1の凹部と、
前記複数の第1の凹部の各々の凹面に配置され、開口幅が10nm以上かつ1μm以下である複数の第2の凹部と、
前記複数の第1の凹部の各々を囲む部品面と、を備え、
前記部品面は、開口幅が10nm以上かつ1μm以下の凹部が形成されていない曲面を含む、
ことを特徴とする樹脂製品。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂製品において、前記表面において前記第1の凹部が占める面積の割合が10%以上かつ95%以下である樹脂製品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂製品において、隣接する前記第1の凹部の間の最短距離が100μm以下である樹脂製品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂製品において、前記複数の第1の凹部は、凹部の開口幅に対する凹部の高低差の比が0.4以上である第1の凹部を含む樹脂製品。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂製品において、前記第1の凹部のうち少なくとも1つの輪郭は、第1の凹状曲線、第2の凹状曲線、第1の凸状曲線および第2の凸状曲線により形成される形状を有し、前記第1の凹状曲線の曲率は、前記第2の凹状曲線の曲率と異なり、前記第1の凸状曲線の曲率は、前記第2の凸状曲線の曲率と異なる樹脂製品。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂製品において、前記表面が形成された樹脂材料にはフィラーが含有されている樹脂製品。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂製品において、前記フィラーの含有量が、前記樹脂材料に対して5質量%以上かつ45質量%以下である樹脂製品。
【請求項8】
請求項6または7に記載の樹脂製品において、前記フィラーの短径が20μm以上かつ80μm以下であり、長径が70μm以上かつ100μm以下である樹脂製品。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂製品において、前記部品面の算術平均曲率Spcが1500[1/mm]以上かつ9000[1/mm]以下である樹脂製品。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の樹脂製品において、前記部品面は鞍型の前記曲面を含む樹脂製品。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の樹脂製品において、前記樹脂製品は熱可塑性の材料を含む樹脂製品。
【請求項12】
直径が1μm以上である複数の第1の凸部と、前記第1の凸部の表面に配置された直径が10nm以上かつ1μm以下である複数の第2の凸部と、を成形面に備える金型を準備する金型準備工程と、
前記金型に樹脂材料を接触させ、開口幅が1μm以上300μm以下である複数の第1の凹部と、前記第1の凹部の内側に開口幅が10nm以上1μm以下である複数の第2の凹部とを前記樹脂材料に成形して樹脂製品を作成する成形工程と、
を有し、
前記樹脂製品は、前記第1の凹部を囲む部品面を有し、
前記部品面は、開口幅が10nm以上かつ1μm以下の凹部が形成されていない曲面を含む、
ことを特徴とする表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項13】
前記成形工程において、前記表面に占める前記複数の第1の凹部の面積の割合が、10%以上かつ95%以下になるよう転写圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項12に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項14】
前記成形工程において、前記複数の第1の凹部のうち隣接する前記第1の凹部の間の最短距離が100μm以下になるよう転写圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項12または13に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項15】
前記成形工程において、前記複数の第1の凹部に、凹部の開口幅に対する凹部の高低差の比が0.4以上である凹部が形成されるように転写圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項16】
前記成形工程において、
前記複数の第1の凸部の間に、前記成形面と前記樹脂材料が接触しない空間が存在するように転写圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項17】
前記成形工程において、
前記樹脂材料としてフィラーが含有されている樹脂を用いる、
ことを特徴とする請求項12から16のいずれか1項に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項18】
前記成形工程において、
前記フィラーが前記樹脂材料の全体の質量に対して5質量%以上かつ45質量%以下の含有比率で含有されている前記樹脂を用いる、
ことを特徴とする請求項17に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項19】
前記フィラーの形状が、短径が20μm以上かつ80μm以下であり、長径が70μm以上かつ100μm以下である、
ことを特徴とする請求項17または18に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項20】
前記金型準備工程において、前記金型を射出成形装置に装着する、
ことを特徴とする請求項12から19のいずれか1項に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項21】
前記金型準備工程において、前記金型をロール金型成形装置に装着する、
ことを特徴とする請求項12から19のいずれか1項に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項22】
前記金型準備工程は、
前記成形面をレーザ加工により造形する造形工程を含む、
ことを特徴とする請求項12から21のいずれか1項に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項23】
パルス幅10-12秒以下のパルスレーザ照射によって、前記成形面の前記複数の第2の凸部を造形する、
ことを特徴とする請求項22に記載の表面を有する樹脂製品の製造方法。
【請求項24】
請求項1から11のいずれか1項に記載の樹脂製品を有する支持体と、
前記支持体により光軸上に支持される光学素子と、を備えた交換レンズ。
【請求項25】
請求項1から11のいずれか1項に記載の樹脂製品を有する収容体と、
前記収容体に収容された光学系と、を備えた光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止面を備えた樹脂製品、樹脂製品の製造方法、交換レンズ、および光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種光学機器の内部では、迷光を低減するための遮光部材が設けられる。迷光とは光学機器の光路周辺で発生し、機器の性能に影響する散乱光のことであり、この迷光を吸収ないし低減する目的で設置される部材のことを遮光部材ということがある。迷光はカメラなどの撮像装置の場合、コントラストの低下やゴースト、フレアといった画質を劣化させる現象の原因となり得る。また反射率測定器などの測定機においては測定誤差の原因となり、測定値の信頼性を損なうことも生じる。このため、光学機器において迷光は極力除去されることが望まれる。遮光部材はその表面で光を吸収し、散乱光がなるべくゼロに近い反射防止性能を備えたものが好ましい。
【0003】
例えば、旧くからプロジェクタやカメラのレンズ鏡筒の内面を黒色の材料で構成したり、黒色の塗装を施したりすることにより、遮光部材に反射防止面を形成し、迷光の反射を低減させる技術が知られている。また、単に黒色材料や黒色の塗装だけでは、入射角の大きな光に対しては散乱光の抑制が不十分なことがあるため、例えば散乱光を低減するよう、遮光部材の表面をサンドブラストなどの手法で荒らして粗面を形成する場合もある。
【0004】
また、表面反射を低減するために低屈折率と高屈折率の層を積層して光干渉を利用した技術が従来から知られている。近年では、光干渉利用よりも表面反射を顕著に低減する構造として、可視光波長よりも小さいサイズの微小凹凸から成る微細粗面により屈折率を緩やかに分布させる、例えばモスアイ構造などと呼ばれる反射防止面が注目されている。
【0005】
また、このモスアイ構造を用いた反射防止面では、好ましくは入射光の波長以下のピッチで微小な凹ないし凸部を規則的に配置した粗面を形成する。この粗面を構成する、例えば微小な凸部は基材に対して例えば垂直に立った構造で、さらにその先端に向かって徐々に断面積が小さくなるように作成される。このため凸部の界面において緩やかに屈折率が変化し、反射防止面における反射が低減され、反射防止面の低反射率を実現することができる。
【0006】
このようなモスアイ構造は表面反射を抑える手段として極めて有効である。表示装置、撮像装置、照明装置、プロジェクタ等の種々の光学機器の構成部材に適用されている。さらに、100μm~600μm程度の緩く大きなうねり形状の上に可視光線の波長以下のピッチで微小突起を付与することにより一層の反射防止性能と斜入射に対する反射防止効果を得る技術が知られている(例えば下記の特許文献1)。
【0007】
また、ドライエッチングの手法を用い、所定の波長よりも大きい表面粗さの粗面上に所定の波長以下の平均ピッチを有する複数の微小凹凸部を形成するという特殊な表面形状を付与する技術が知られている(例えば下記の特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-184428号公報
【文献】特開2009-128538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の構造では、清掃などの目的で反射防止面の表面を払拭した時、表面に配置した微小突起が壊れ、反射防止効果が薄くなってしまうことがあり、耐久性の問題があった。特に、高い反射防止性能を狙った設計では、微細粗面を構成する凹、凸部のエッジが鋭くなる、あるいは凹、凸部がより微細化する傾向がある。そのために、製品が繊細で壊れやすくゴミが発生しやすくなる可能性があった。このような事情から、従来では、カメラのレンズ鏡筒やボディなど、塵埃の発生が望ましくない光学製品の内部には、モスアイ構造のような微細粗面による反射防止面を採用しにくいといった課題があった。一方で、従来構成では、耐久性を向上させようとすると反射防止性能が不十分になる可能性があり、反射防止面の性能と耐久性の両立には困難があった。
【0010】
また、特許文献2の加工手法は、工程が比較的に煩雑であり、製造に係わる所要時間やコストの問題がある。また、特許文献2の方法に限らず、遮光部材を高性能にするためにその表面に特殊な形状を付与しようとする場合、その製作に要する時間や製作費が増加する傾向にある。一方、サンドブラスト手法の様に、比較的に短時間かつ低費用で行える手法で遮光部材の表面を処理した場合、得られる遮光性能が不十分なことがあった。
【0011】
そのため、簡単安価に製造でき、しかも耐久性に優れ、ゴミや塵埃の発生が少なく、優れた反射防止性能を備えた反射防止面を有する物品が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表面に、開口幅が1μm以上かつ300μm以下である複数の第1の凹部と、前記複数の第1の凹部の各々の凹面に配置され、開口幅が10nm以上かつ1μm以下である複数の第2の凹部と、前記複数の第1の凹部の各々を囲む部品面と、を備え、前記部品面は、開口幅が10nm以上かつ1μm以下の凹部が形成されていない曲面を含む、ことを特徴とする樹脂製品である。
【0013】
また、本発明は、直径が1μm以上である複数の第1の凸部と、前記第1の凸部の表面に配置された直径が10nm以上かつ1μm以下である複数の第2の凸部と、を成形面に備える金型を準備する金型準備工程と、前記金型に樹脂材料を接触させ、開口幅が1μm以上300μm以下である複数の第1の凹部と、前記第1の凹部の内側に開口幅が10nm以上1μm以下である複数の第2の凹部とを前記樹脂材料に成形して樹脂製品を作成する成形工程と、を有し、前記樹脂製品は、前記第1の凹部を囲む部品面を有し、前記部品面は、開口幅が10nm以上かつ1μm以下の凹部が形成されていない曲面を含む、ことを特徴とする表面を有する樹脂製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単安価に製造でき、しかも耐久性に優れ、ゴミや塵埃の発生が少なく、優れた反射防止性能を備えた反射防止面を有する物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)本発明の一実施形態に係る反射防止構造部の構造を示した模式的な斜視図である。(b)本発明の一実施形態に係る反射防止構造部の模式的な断面図である。
図2図1(b)の一部を拡大して示した断面図である。
図3図1(a)の一部を拡大して示した斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る樹脂部品の平面構成を示した説明図である。
図5図4の一部を拡大して示した説明図である。
図6】本発明の一実施形態に係る樹脂部品の全体構成の一例を示した斜視図である。
図7】本発明の一実施形態に係る樹脂部品の平面構成を示した説明図である。
図8】金型の粗面化加工を示した説明図である。
図9】(a)本発明の一実施形態に係る樹脂部品を作成する射出成形装置を示した説明図である。(b)射出成形装置においてキャビティを構成する工程を示した説明図である。(c)射出成形装置のキャビティに樹脂が射出される工程を示した説明図である。(d)樹脂をキャビティに射出した後、保圧しながら冷却する工程を示した説明図である。(e)型開きして樹脂部品を取り出す工程を示した説明図である。
図10】本発明の一実施形態に係る樹脂部品の反射防止面の評価手順を示したフローチャート図である。
図11】本発明の一実施形態に係る樹脂部品を電子顕微鏡で観察した写真である。
図12】本発明の一実施形態に係る樹脂部品の輝度値分布の一例を示したヒストグラム図である。
図13】(a)本発明の実施例に係る樹脂部品の平面構成を示した説明図である。(b)本発明の別の実施例に係る樹脂部品の平面構成を示した説明図である。
図14】本発明の一実施例に係る樹脂部品を電子顕微鏡で観察した写真である。
図15】鏡面反射率の測定方式を示した説明図である。
図16】本発明の実施例に係る樹脂部品の反射防止面の平均反射率を示した線図である。
図17】本発明の実施例に係るいくつかの樹脂部品の作成例の特性を示した表図である。
図18】本発明の一実施形態に係る金型の粗面化した表面を示した模式図である。
図19】(a)本発明の一実施形態に係る金型の金型面にパルスレーザを照射する前の状態を示した説明図である。(b)金型の金型面にパルスレーザを数パルス程度照射した状態を示した説明図である。(c)金型の金型面にパルスレーザを数十パルス程度照射した状態を示した説明図である。(d)金型の金型面にパルスレーザを数百パルス程度照射した状態を示した説明図である。
図20】(a)金型に溶融樹脂を射出した後、保圧が小さい状態の実施形態を示す説明図である。(b)保圧を高めた状態の実施形態を示す説明図である。(c)さらに保圧を高めた状態の実施形態を示す説明図である。(d)さらに保圧を高めた状態を示す説明図である。
図21】(a)自由表面が比較的大きな実施形態に係る樹脂部品の斜視図である。(b)自由表面の大きさが中程度の実施形態に係る樹脂部品の斜視図である。(c)自由表面が比較的小さな実施形態に係る樹脂部品の斜視図である。
図22】(a)自由表面が比較的大きな実施形態に係る樹脂部品の断面図である。(b)自由表面の大きさが中程度の実施形態に係る樹脂部品の断面図である。(c)自由表面が比較的小さな実施形態に係る樹脂部品の断面図である。
図23】本発明の一実施形態に係るロール成形金型の金型面を粗面化する過程を示した説明図である。
図24図23の過程を経て製造された金型により樹脂部品をロール成形する過程を示した説明図である。
図25】(a)自由表面が比較的大きな実施形態に係る樹脂部品の製造工程を示す断面図である。(b)自由表面の大きさが中程度の実施形態に係る樹脂部品の製造工程を示す断面図である。(c)自由表面が比較的小さな実施形態に係る樹脂部品の製造工程を示す断面図である。
図26】本発明の異なる実施例に係る樹脂部品の反射防止面の平均反射率を示した線図である。
図27】本発明を採用した樹脂部品を用いて構成した光学製品の構成を示した模式図である。
図28】本発明を採用した樹脂部品に添加されたフィラーを模式的に示した説明図である。
図29】本発明を採用した樹脂部品においてフィラー添加の効果を示した説明図である。
図30】本発明の実施例に係るいくつかの樹脂部品の作成例の特性を示した表図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施例を参照して本発明を実施するための形態につき説明する。なお、以下に示す実施例はあくまでも一例であり、例えば細部の構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当業者が適宜変更することができる。また、本実施形態で取り上げる数値は、参考数値であって、本発明を限定するものではない。
【0017】
本実施形態の樹脂製品は樹脂部品であり、図1(a)、図1(b)は本実施形態の樹脂部品の反射防止面の概略構成を示している。図1(a)は樹脂部品の斜視図の形式で模式的に示し、図1(b)は図1(a)のA-A’線に沿った断面構造を示している。図1(a)、図1(b)において、樹脂部品の反射防止面は、自由表面11と、第1の凹部12を備えている。
【0018】
なお、本明細書において、樹脂製品の反射防止面に配置された自由表面11の「自由表面」との呼称は便宜上のものである。即ち、金型による射出成形により樹脂製品を成形した場合に、自由表面とは、キャビティ内に射出された溶融樹脂材料が金型面に接触せず、キャビティ内で金型面形状に制約されずに自由な表面形状を保ったまま固化した部分の表面を指す。樹脂部品の外面のうち、金型面形状が転写されずに固化した領域を本明細書では「自由表面」と呼ぶ。
【0019】
本実施形態の樹脂部品の成形では、金型面から樹脂材料へ反射防止面の形状を転写する。この金型面形状の転写は、任意の手法、例えば射出成形によって行ってもよく、また、後述の実施例2に示すようなロール成形で行ってもよい。いずれの場合でも、金型面の形状を転写する際の成形条件、例えば樹脂材料に印加される圧力の設定により、樹脂材料の一部が金型面に接触せずに自由表面を形成するよう制御することができる。
【0020】
例えば、射出成形により反射防止面の形状を形成する際に、金型面から樹脂材料に転写する時に、樹脂材料が金型面に接触せずに自由表面を為すような条件で金型内に射出する。この射出成形過程は、樹脂材料の選定、樹脂材料の温度、樹脂材料の射出圧力の設定などを適宜調整することにより実現される。なお、自由表面11の形状は、平坦面のみに限定されず、凸面や凹面、また凹凸が混在している様なうねりがある面であってもよい。例えば、自由表面11の種々の部位の高さは、樹脂部品の反射防止面の平均的な高さや、近傍の第1の凹部12の底面から種々に逸脱していて構わない。ただし、自由表面11は、鞍型に隆起した凸面である方が、反射防止面の耐久性を向上できるとともに、その部位での光散乱を促進するため、反射防止性能も向上できる可能性があり好ましいと言える。
【0021】
なお、図1(a)では、複数の第1の凹部12の配置は、例えばハニカム構造に類似の、あるいは千鳥配列に類似の、規則性を有する配置として示されている。この図示の形態は簡略化、ないし理解を容易にするためのものに過ぎず、第1の凹部12は必ずしも規則的に配置しなくても構わない。例えば、複数の第1の凹部12は、後述する電子顕微鏡観察像に示されるような、無作為的、不規則な形状と配列を有していて構わない。複数の第1の凹部12は、反射防止面の光の散乱性をより高めて反射防止性能を向上させる観点からは、無作為的、不規則な形状と配列の方が好ましい。
【0022】
図2は、図1(b)の第1の凹部12の断面構造を拡大して示している。第1の凹部12の表面は、第2の凹部31で構成された微細粗面23であるが、第1の凹部12の断面の基本輪郭は図中では破線によって示されている。この破線は、断面画像にローパスフィルターをかける等の画像処理をして、微細粗面23の平均レベルをトレースすることにより描くことができる。第1の凹部12は、破線で示される基本輪郭を備え、開口幅21と、高低差22を有する凹形状である。本実施形態では、この開口幅21と、高低差22の比を、第1の凹部12のアスペクト比とする。
【0023】
なお、図1(b)や図2の図示では、第1の凹部12の断面形状は深くなるにつれて径が細くなる先細り形状で表現しているが、第1の凹部12の断面形状は任意であり、また複数の凹部12の1つ1つが不規則に異なる形状であってよい。例えば、第1の凹部12の断面形状は、先細り形状だけでなく、矩形や、深くなるにつれて途中で径が大きくなる涙滴型のような形状でもよい。また、複数の第1の凹部12が各々異なる形状を有している場合には、その開口幅21は、後に図4を参照して説明するような手法によって測定して評価することができる。第1の凹部12の高低差22についても同様である。
【0024】
樹脂部品の第1の凹部12の表面は、実際には、図2に破線で示した基本輪郭のように平滑ではなく、微細な凹部(第2の凹部31)を多数含む微細粗面23である。
【0025】
図3は、第1の凹部12を拡大した斜視図である。図3において、31は第2の凹部であり、第1の凹部12には、複数の開口幅1μm以下の第2の凹部31が第1の凹部12の基本輪郭面に沿って多数形成されている。なお、図1(a)や図3では、第2の凹部31が離散的に配置されているが、この多数の第2の凹部31は必ずしも離散的に配置される必要はなく、図2に示されるように密集し、あるいは各々の縁部同士が重畳している形態であってもよい。
【0026】
微細粗面23は、図2に示すように第1の凹部の基本輪郭面に凹部と凸部が形成されていればよい。あるいは、第1の凹部12の基本輪郭面に凹部のみが形成されたような形態でもよいし、逆に凹部12の基本輪郭面に凸部を多数突出させる形態にして基本輪郭面が相対的に凹部を形成している形態でもよい。第2の凹部31の開口幅は、図2図3から明らかなように、第1の凹部12の開口幅21よりも小さい。第2の凹部31の開口幅は、例えば電子顕微鏡で1万倍程度に拡大した観察画像から評価するものとする。
【0027】
図4は、樹脂部品の反射防止面の上面を拡大撮影し、画像を2値化した2値化拡大画像を模式的に示している。なお、このような2値化画像を取得する手法については後述する。図4において、ハッチングの無い41の部分は、図1の自由表面11に相当する自由表面である。図1(a)~図3に示した第1の凹部12は、図4ではハッチングで示した凹部42に相当する。自由表面41は、凹部42よりも高く形成されている。後述のように、自由表面41は、例えば金型を用いた転写(射出)成形において、キャビティに注入された樹脂に金型と接触していない未転写面を残すことで形成することができる。
【0028】
第1の凹部12に相当する第1の凹部42は、自由表面41に対して凹形に成形される。第1の凹部42(12)の開口幅43は、好ましくは、例えば開口幅1μm以上300μm以下の寸法とする。また、第1の凹部42(12)の凹面内部(ハッチングの領域)に多数形成する第2の凹部31(図3)の開口幅は、より小径であり、好ましくは、例えば10nm以上1.5μm以下の範囲の寸法とする。この範囲であれば、近赤外より短い波長領域の反射を効率的に防止できるためである。
【0029】
多数の第1の凹部12の各々は、典型的にはランダムな形状、サイズで不規則に形成される。そこで、個々の第1の凹部42(12)の開口幅43は、次のような手法によって個々に代表値を測定し、評価するとよい。例えば、図4において、電子顕微鏡画像などの画像処理を介して、凹部と円43’の面積差分が最少になるように近似した時の円43’の直径を求め、その寸法を特定の第1の凹部42(12)の開口幅43の代表値として測定する。
【0030】
なお、発明者の実験によると、第1の凹部42(12)の幅が300μmを超えると、一つの凹部で反射する面積が大きいため、マクロ的に観察した場合に反射光が目立ち、光のチラつきに繋がる傾向がある。そこで、第1の凹部42(12)の開口幅43は、300μm以下が好ましい。
【0031】
図5は、図4に示した反射防止面の2値化拡大画像の一部を、さらに拡大して示している。図5において、53は、隣接する第1の凹部51(12)同士の距離に相当し、また、52は第1の凹部51(12)同士の最短距離を示す。
【0032】
ある第1の凹部51(12)について、周囲に存する複数の凹部との間の最短距離52は、その第1の凹部51(12)一つに対して一つのみ存在する。最短距離52は次のような処理により、測定、評価できる。例えば、電子顕微鏡画像などの画像処理を介して、着目する凹部から、隣接する凹部それぞれとの間に最も短くなるように直線を配置する。そして、その中でもっとも短い距離を、隣接する凹部との間の最短距離52と定義することができる。
【0033】
そして、本実施形態では、この第1の凹部51(12)の最短距離52は、100μm以下であることが望ましい。100μmを超えてしまうと凹部間の距離が開きすぎて、反射防止性能が十分に発揮出来なくなる可能性がある。この第1の凹部51(12)の最短距離52は、例えば15μm以下であればより好ましい。
【0034】
以上のように、本実施形態の反射防止面は、多数、配置された第1の開口幅(43)を有する第1の凹部(12)と、その内側に複数、配置された、第1の開口幅より小さな第2の開口幅を有する第2の凹部31(図3)と、で構成される。このような構成では、第2の凹部31が存在するために、近赤外光線の波長以下のピッチにおいて成形品と空気の断面積比が緩やかに変化する。これにより、反射防止面の屈折率の変化が緩やかになり、反射防止性能が向上する。
【0035】
さらに、開口幅が少なくとも1μm以上の第1の凹部12が反射防止面に多数存在するため、斜め方向の入射角を有する光を第1の凹部12で複数回反射させて減衰でき、反射防止面の反射防止性能を向上することができる。また、凹部の内面での反射回数が多い程、光を減衰させることができるから、例えば、自由表面(41)から第1の凹部12の底までの深さ(高低差)は深い程、好ましい。
【0036】
また、第1の凹部12はアスペクト比(図2)が高いと入射角が鈍角から鋭角の光まで複数回の反射を得られるので、アスペクト比は高い程、斜入射による反射防止効果が高い。斜入射に対する反射防止効果を高めるという観点においては、アスペクト比は0.4以上であることが望ましい。また、第1の凹部12の形状は、底面に向かって径が広くなる方が、遮光性能が高くなるのでより好ましい。また、第1の凹部12のアスペクト比が大きい程、斜入射に対する遮光性能が向上する。
【0037】
また、反射防止面の多数の第1の凹部12の間は、第1の凹部12の内部より高くなった自由表面41で接続されている。このため、自由表面41によって、第1の凹部12の内部に配置された、微細粗面を構成する第2の凹部31(図3)を、接触等から保護することができる。
【0038】
例えば特許文献1などのように、うねりのある反射防止面に単に微細粗面を配置するような従来の構造では、第1の凹部12よりも高い自由表面41を備えていないため、微細粗面の破損が起きやすい。従来の構造では、例えば清掃を目的とする払拭作業などによって、微細粗面の凸部などが破損して塵埃が発生したり、また、それが微細粗面の凹部に詰まることにより反射防止面の性能が低下する可能性がある。
【0039】
これに対して、実施形態では、微細粗面を構成する第2の凹部31は、高い自由表面41により囲まれた第1の凹部12の内部に配置されているため、払拭作業などにより微細粗面の破損が生じにくく、上記のような反射防止面の性能低下を防ぐことができる。
【0040】
図6は、上記の実施形態の反射防止面62を有する樹脂部品61の斜視図である。図6の樹脂部品61、特に上記の反射防止面62は、例えば樹脂材料に金型面の形状を転写することにより形成することができる。金型面の転写による成形は、射出成形の他、ロール成形やプレス成形など任意の転写方法によって行うことができる。
【0041】
樹脂部品61は、シートやフィルムのような薄い平板形状から、湾曲した形状や曲面形状に至る様々な形状で形成することができる。例えば、図6では、理解を容易にするため、樹脂部品61は矩形、平板状の部材として示してある。しかしながら、例えば金型形状の構成によって、樹脂部品61は、光学機器において、後述のように遮光性能および反射防止特性を必要とする、光学素子を収容する鏡筒やミラーホルダのような支持体、ないし収容体として、任意の形状に造形することができる。
【0042】
樹脂部品61の樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネートなどの熱可塑性の材料を用いることができる。また、樹脂部品61の樹脂材料は、透明でも着色部材でも構わないし、ガラスフィラーやカーボンファイバー入り等の高強度樹脂でも適応できる。
【0043】
なお、射出成型する樹脂材料にフィラーを配合(添加)することによって、反射防止効果をより向上させることができる。図28は、フィラーが添加された樹脂部品61の反射防止面62の拡大した断面を示している。図28において、2800は樹脂を、2801はフィラーを示している。フィラー添加により樹脂部品の外面、特に自由表面の近傍の浅い位置にフィラーが入りこみ、自由表面に高周波のうねり形状を発生させ、光の散乱効果を向上できる。
【0044】
このフィラーの含有量は、例えば樹脂部品の樹脂材料に対して、5質量%以上で45質量%以下が望ましい。5質量%未満であると、自由表面のうねりの量が少なく、散乱効果の増大が十分得られない可能性がある。一方、フィラーの含有量が45質量%より多くなると、成形性が低下する可能性がある。例えば、射出成形では、樹脂の流動性が低下してショートやヒケ等の外観不良が発生しやすくなる可能性がある。
【0045】
フィラーの形状は、例えば円筒状のような長尺形状とする。その場合、フィラーは、例えば短径が20μm以上で80μm以下、長径が70μm以上で100μm以下であることが望ましい。短径が20μm未満であったり、長径が70μm未満であったりするとフィラー同士が押し出されたときに自由表面から突き出てしまい、外観不良が発生する可能性がある。一方、短径が80μmより大きい、長径が100μmより大きい、などの場合は、フィラーが自由表面近傍まで押し出されないので自由表面にうねりが十分に発生しない可能性がある。
【0046】
うねり形状は、二次元で評価した山頂点の算術平均曲率Spcが、1500[1/mm]以上かつ9000[1/mm]以下となる形状を有していることが好ましい。山頂点の算術平均曲率Spcが上記範囲であると、より良好な反射防止性能を有する樹脂部品61を得ることができる。
【0047】
ここで、自由表面のうねり形状における山頂点の算術平均曲率Spcについて説明する。山頂点の算術平均曲率Spcとは、表面に分布する山頂点の主曲率の平均を表す。図29は、自由表面のうねり形状2900の山頂点の算術平均曲率Spcを説明するための表面凹凸形状の断面図である。図29に図示した測定領域は、1000μm×1000μm程度の大きさに相当する。下式(1)に、山頂点の算術平均曲率Spcの算出式を示す。この式(1)において、zは位置座標(x、y)における高さ方向成分を意味し、nは山頂点の数を示している。従って、この山頂点の算術平均曲率Spcは、図29に示す表面うねり形状の山頂点の近似円2901の半径の逆数の平均値を表している。この数値が小さいと山の頂点に丸みがあり、幅の広い形状となっていることを示し、大きいと尖って幅が狭い形状をしていることを示している。
【0048】
【数1】
【0049】
ここで、山頂点の算術平均曲率Spcが、9000[1/mm]よりも大きくなると、自由表面のうねりの凸部が鋭角で、幅の狭い形状になる。これにより、成形品表面に当たった光が拡散反射を起こしやすくなり、反射防止性能の向上を期待できる。しかし自由表面の形状が鋭角であればあるほど、耐久性が劣化する傾向があり、払拭などの操作に関する耐久性が低下する可能性がある。
【0050】
一方、山頂点の算術平均曲率Spcが、1500[1/mm]よりも小さいと、自由表面のうねり形状における光の反射が大きくなり、フィラーを含有させた効果が低下する可能性がある。したがって、算術平均曲率Spc[1/mm]が、1500以上かつ9000以下となる形状を有していることが好ましい。
【0051】
樹脂部品61の成形に使用する金型は、例えばパルス幅10-12秒以下の短パルスレーザを照射して表面を粗面化する加工法によって製造することができる。加工用レーザのパルス幅を10-12秒以下にすることによって、金型表面での自己組織化を発生させ、金型を効率的に粗面化することができる。このようなレーザ加工によって、例えば図3に示した第1の凹部12の内側に配置される第2の凹部31で構成された微細粗面23を、金型から転写するための微細な突起を金型面に加工することができる。
【0052】
図7は、図6の樹脂部品61の反射防止面62を電子顕微鏡で撮影した画像を、2値化して示している。71は、上述の第1の凹部(12)を、72は、複数の第1の凹部71(12)を囲むように成形された自由表面を表している。反射防止面62の全体に占める第1の凹部71(12)の面積比が小さく自由表面部が多いと、反射率は高くなるが、上述の耐久性が向上する。一方、第1の凹部が占める面積比が大きいと反射率は下るが、耐久性が低下する傾向がある。反射防止面の全体に占める第1の凹部の面積比が10%未満であると著しく反射防止性能が低下するため、少なくとも10%以上で95%以下の範囲とする。さらに好ましくは、50%以上で80%以下であると耐久性と反射防止性能が高いレベルでバランスすると考えられる。以下、本実施形態の樹脂部品の構成ないし用途、あるいはその製造方法などにつき、具体的な実施例を示す。
【0053】
<実施例1>
ここでは、樹脂部品を成形する金型の製造工程と、それにより成形した樹脂部品の評価の手法などにつき説明する。まず、図8に示すように、樹脂部品に反射防止面形状を転写する金型面82に対して、上述した短パルスレーザの照射による粗面化処理を行う。図8の金型81には、例えばステンレス銅、アルミニウムなど、その後の成形工程に適した材質を用いることができる。
【0054】
ここで、短パルスレーザとは、連続照射を行うレーザとは異なり、短い時間での照射を繰り返すレーザのことを言う。短パルスレーザのうち、特に、数ピコ秒から数100ピコ秒の照射を行う場合はピコ秒レーザと呼ばれる。また、1ピコ秒未満の数フェムトから数100フェムト秒の照射を行う場合はフェムト秒レーザなどと呼ばれる。本実施例1では、このピコ秒レーザやフェムト秒レーザを好適に用いることができる。後述のようなレーザ加工では、好ましくはパルス幅10-12秒以下(サブピコ秒)のパルスレーザ照射によって、金型表面を粗面化する粗面加工を行う。また、本実施例1では、レーザ装置としてはレーザの照射強度、パルスの長さ、パルスの間隔などの条件を任意に選択することが出来るものを使用する。
【0055】
例えば、レーザ加工装置としては、AMPLITUDE SYSTEMS社製の超短パルスレーザ発信器を用いることができる。このような超短パルスレーザ発信器で発生させる加工用のレーザ83の波長は1030nmとし、そのパルス幅としては例えば500fs(フェムト秒)を選択した。また、加工用のレーザ83の1パルスあたりのパルスエネルギーを40μJ、レンズ84の焦点距離は約170mmのものを用い、レンズ84と金型表面との距離を調整することで、照射エリア85のスポット径を40μmに調整した。
【0056】
その結果、照射エリア85の面積は、およそ(1.3x10-3mm)、また、照射エリア85におけるレーザの1パルスあたりのエネルギー密度が、およそ30kJ/mとなった。また、不図示の走査ステージによって金型を移動させることにより、照射エリア85を、金型面82の粗面化する領域内で往復走査させた。
【0057】
図8中の矢印86は、加工用のレーザ83の走査軌跡の様子を示している。このレーザ83の照射エリア85を走査させる速度は30mm/s、走査間隔を20μm、照射する短パルスレーザの照射周波数を500kHzにして、同一場所へのパルスレーザの照射パルス数をおよそ1000回となるよう調整した。
【0058】
ここで、照射エリア85を走査させる速度をV(mm/s)、走査間隔をL(mm)、照射エリア85の面積をS(mm)、照射する短パルスレーザの照射周波数をf(回/s)とする。その場合、同一場所へのパルスレーザの照射パルス数N(回)は下式のように決定することができる。
【0059】
N=f・S/(V・L)
【0060】
ただし、上記の走査間隔Lは、照射エリア85のスポット径より小さく設定するものとし、通常は、スポット径の半分程度の距離に設定する。レーザの照射条件の制御手法としては、照射パルス数の他に、レーザのパルス幅、照射エリアのエネルギー密度などを制御することが考えられる。これらの照射条件を適切に選択することで、金型の表面に切削加工などの手法では実現が困難な特殊な粗面形状を造形することができる。
【0061】
上記のような条件でレーザ加工を施した金型81の金型面82を電子顕微鏡で観察したところ、山谷構造を持つ微細粗面の形状を実現した。また、図18は、同じ金型面82の山谷構造を模式的に示した斜視図である。ここでは、上記のようなレーザ加工条件によって、この山谷構造の山1007(図18)の部分のピッチPは20μm以上で40μm以下、山谷構造の山1007の部分の高さHは50μm以上で80μm以下とすることができた。なお、金型面82の山谷構造の山1007の部分の先端に近い部位によって、樹脂部品の第1の凹部12の形状の底部が成形される。なお、多数の山1007により構成される山谷構造において、山1007は、可視光の波長より長いピッチで配置されている。短パルスレーザの照射条件の調整によって、ピッチPは10μm以上で100μm以下程度、高さHは10μm以上で100μm以下程度の範囲を変化させることができ、用途によってはピッチPと高さHがほぼ等しい急峻な山谷構造を実現することもできる。
【0062】
また、図18の微細粗面では、金型面82の山谷構造、特に山1007の表面を覆う小さな凹凸構造として、ピッチ40nm以上で80nm以下、高さ40nm以上で80nm以下の微小凹凸を形成することができた。この、金型面82の山1007の表面を覆う小さな凹凸構造によって、樹脂部品の第1の凹部12の内部の第2の凹部31が成形される。上記のようなレーザ加工条件によって、金型面82に、多数の山1007と、その表面を覆う小さな凹凸構造とから成る山谷構造を造形することができた。即ち、金型面82に、上述の樹脂部品の第1の凹部12を転写するための比較的サイズが大きい山谷構造と、樹脂部品の第2の凹部31を転写するための比較的サイズが小さな凹凸構造と、が複合された特殊な形状を形成することができた。
このようにして、成形面に、径が1μm以上である複数の第1の凸部と、前記第1の凸部の表面に径が10nm以上1μm以下である複数の第2の凸部と、が設けられた金型を準備することができる。
【0063】
図18のような山谷構造と微細突起が複合した特殊な形状が形成されるメカニズムについての詳細は不明な点が多いが、以下にその成長過程を説明する。
【0064】
図19(a)の1901は、パルスレーザを照射前の金型1901の断面を表している。この段階では、金型表面は準備加工により平面ないし鏡面に加工されており、表面には目立った凹凸が存在しない。
【0065】
図19(b)は、パルスレーザを数パルス程度照射した後の金型1902の断面を示している。ここでは、金型表面において金属の一部が蒸発し、また一部で凝集を起こすことで凹凸1905が形成される。この段階での凹凸の深さは数10nm程度である。
続いて、図19(c)はパルスレーザを数10パルス程度照射した後の金型1903の断面を示している。この過程では、金型表面の相対的に窪んでいる場所ほど、金属の蒸発が促進される作用が働く。その結果、図示の山谷構造が形成(成長)していく。一方で、山谷構造の表面には微小な凝集塊により突起が形成される。この段階での山谷の深さは、数μm程度である。
【0066】
図19(d)はパルスレーザを数100パルス程度、照射した後の金型1904の断面を示している。この過程においても、相対的に窪んでいる場所ほど金属の蒸発が促進される作用が働く。そのため、相対的に低い山は消滅し、相対的に高い山のみが残されていく。この現象が進むことで山、谷の数は減少し、その一方で、図示のように山谷構造の高さは増大していくことになる。また、山谷構造の表面は、微小な凝集塊で覆われている。
【0067】
以上のようにして、図18に示したような山谷構造と小さな凹凸構造が複合した、特殊な形状が金型面に形成される。この段階での山、谷の構造は、数10μm程度のピッチないし高さのサイズを有する構造にまで成長させることができる。以上のように、金型表面の粗面化処理に短パルスレーザを用いることにより、金型の加工工程を比較的に短時間かつ低コストで実現することができる。仮に、同様な形状を切削加工やフォトリソグラフィーの手法で実現しようとすると、短パルスレーザによる方法に比べて何倍も時間が必要になる。
【0068】
以上のように、短パルスレーザによって得られた特殊な形状の金型面は、あらゆる角度の入射光に対しても極めて低い反射光しか生じない。そして、本発明者らの検討によると、この金型面の形状を樹脂に転写して得られた樹脂部品も、反射が少ない優れた遮光部材として利用することが可能であると判明した。よって金型表面に短パルスレーザによって特殊な形状を作っておき、それを使って樹脂部品(成形品)を作製すれば、反射が少ない高性能の遮光部材を短時間かつ低コストで量産することができる。
【0069】
図9(a)~図9(e)は、上記のようにして製造した金型91を用いて樹脂部品を射出成形するプロセスの各段階を示している。ここでは、射出成形機として、日本製鋼所(株)製の射出成形機J180EL III(商品名)を用いた。図9(a)~図9(e)に示す射出成形機は、シリンダ99に連通した加圧装置911、樹脂材料を投入するホッパー910を備える。
【0070】
シリンダ99の内部には不図示のスクリューが設けられ、不図示のモータなどの駆動源で回転駆動され、ホッパー910内部の樹脂材料がシリンダ99の先端へと送られる。また、シリンダ99には不図示のヒータが設けられ、ホッパー910より投入された樹脂材料は、シリンダ99の内部でその先端に向けて搬送される途中でガラス転移温度以上に加熱され、液体状に溶融される。そしてシリンダ99の先端部の空間に溜められる。
【0071】
図9(a)~図9(e)における金型91は、上述の図18に示した粗面化処理を施した金型面を有する金型に相当する。また、図9(a)~図9(e)において、98は、キャビティを構成する際に金型91と合わせて型閉めされる対向金型である。
【0072】
ホッパー910から投入する樹脂材料には、例えば帝人株式会社製のガラスフィラー入りポリカーボネートG3430Hで、着色剤により黒色に着色したものを用いた。
まず、金型準備工程として図9(a)に示すように金型を射出成形機に装着する。そして、不図示の駆動機構によって、図9(b)のように金型91と対向金型98を型閉めする。型閉めに先立ち、あるいは型閉めの時点で、金型91と対向金型98は不図示のヒータによって加熱される。この工程での型の加熱温度は、型温度と呼ばれる。
【0073】
続いて、図9(c)の射出工程、図9(d)の保圧工程および冷却工程を実行する。図9(c)の射出工程では、溶融樹脂912を、加圧装置911によってシリンダ99から金型91と対向金型98で形成されたキャビティに注型する。加圧装置911は、油圧シリンダなどを用いて構成される。さらに、図9(d)の保圧工程と、冷却(固化)工程では、例えば、上述の自由表面41を形成可能な設定圧力で、加圧装置911からキャビティ内の溶融樹脂912を加圧し、所定時間その圧力が保たれる(保圧)。これにより、金型91と対向金型98で形成されたキャビティ内の溶融樹脂912の圧力が、後述の保圧圧力に保たれる。
【0074】
ここで、本実施例における転写圧力すなわち保圧圧力の制御につき説明する。一般的な射出成形においては、転写圧力すなわち保圧圧力は、溶融樹脂912が金型91と対向金型98で形成されたキャビティ内の空間の隅々にまで行き渡る様な圧力が選択される。これに対して、本実施例では、保圧の圧力値には、あえて溶融樹脂912をすべての空間にまで行き渡らせない様な圧力を選択する。これは、第1の凹部(12)を取り囲むように自由表面(41)を形成するとともに、凹部(12)あるいは自由表面(41)が全体の中で占める割合(面積比)を制御するためである。以下、図20(a)~図20(d)を参照して、本実施形態の射出成形における保圧制御につき説明する。
【0075】
図20(a)~図20(d)は、例えば図9(d)に示すプロセスにおいて保圧圧力を変更したときに、金型91と溶融樹脂912が接する界面の形状が変化する様子を模式的に示している。図20(a)~図20(d)において、2014は図9の金型91の表面の断面であり、上述のような金型加工により、山谷構造と小さな凹凸構造が複合した形状となっている。2012は、図9の溶融樹脂912に相当する。
【0076】
ある保圧圧力における状態を示す図20(a)では、溶融樹脂2012は金型2014の山構造の頂上部位とは接しているが、金型2014の谷部とは接しておらず、溶融樹脂2012と金型2014の特に谷構造の部位では空間2015が存在する。また、図20(b)は、図20(a)よりも保圧を高めた状態を示したものである。図20(a)と同様に、注入された溶融樹脂2012は金型2014の山部とは接しているが、金型2014の谷部とは接しておらず、空間2015が空いている。しかし、図20(a)に比べると、空間2015が小さくなっている。
【0077】
図20(c)は、図20(b)よりもさらに保圧を高めた状態を示したものである。図20(a)、図20(b)と同様に、注入された溶融樹脂2012は金型2014の山部とは接しているが、金型2014の谷部とは接しておらず、空間2015が存在する。しかし図20(a)、図20(b)に比べると、さらに空間2015が小さくなっている。本実施例の保圧工程では、図20(a)~図20(c)のように、充填されていない空間2015が存在する保圧圧力をあえて選択する。図20(a)~図20(c)のように、溶融樹脂2012が金型2014の谷部とは接しておらず、空間2015が存在する場合、この部位において溶融樹脂2012は金型面形状には拘束されずいわゆる自由表面を形成する。このような状態で、溶融樹脂2012を冷却、固化させることにより、第1の凹部(12)を取り囲む部位に、高さが比較的不規則な鞍型の形状を有する自由表面(41)を成形することができる。即ち、本実施例では、金型2014の特に谷構造の部分において、金型2014と溶融樹脂2012の間に空間2015が存在し、溶融樹脂2012が自由な表面形状を取りえる自由空間を確保できるような保圧圧力を選択する。
【0078】
なお、保圧圧力をさらに高めると、図20(d)に示すような状態となる。図20(d)では、溶融樹脂2012は金型2014の山部のみならず、金型2014の谷部まで接しており、図20(a)~図20(c)に示すような空間2015が存在しない。通常の射出成形では、この状態になる様な保圧を選択するが、本実施例ではこのような保圧状態は形成しないようにする。
【0079】
図9(d)に戻り、所定期間の保圧状態を継続させた後、金型91と対向金型98を冷却し、溶融樹脂912をガラス転移温度以下の温度に冷却し、液体状から固体状へと転移させる。なお、金型91、対向金型98の冷却は、例えば金型周囲に冷却用の冷却液を循環させる機構(不図示)によって行う。その後、図9(e)の型開き工程および離型工程を行う。この離型は、例えば金型に貫通させたイジェクタピンをキャビティ内へ突出させることなどにより行う。以上の工程を繰り返すことにより、多数の樹脂部品913を製造することができる。
【0080】
本実施例1において、図9(c)の射出工程での型温度は125℃、樹脂温度は320℃に設定した。また、図9(d)の保圧工程では、加圧装置911を用いて、樹脂が金型面82の谷部に充填されないような圧力を、キャビティ内の溶融樹脂2012に印加する。この図9(d)の保圧工程における圧力設定には、上述の自由表面41を形成可能な圧力、例えば、溶融樹脂2012が金型面82の凹凸の谷部において、金型面82と触れることなく自由表面を形成するような圧力値を採用する。例えば、ここでは60MPa、90MPaの2条件の加圧条件で射出成形を行った。上記のような工程により、遮光部材として利用可能な反射防止面を備えた樹脂部品913を得ることができる。
【0081】
ここで、図21(a)~図21(c)および図22(a)~図22(c)に、本実施例によって好適に作成された樹脂部品の反射防止面の構造例を模式的に示す。ここで、図22(a)~図22(c)は、それぞれ、図21(a)~図21(c)におけるA-A´線、B-B´線、およびC-C´線に沿った反射防止面の断面構造を示している。
【0082】
図21(a)~図21(c)、図22(a)~図22(c)に示した樹脂部品の反射防止面の特徴は、比較的に滑らかな自由表面11と、それにより取り囲まれて分布する第1の凹部12と、が複合された表面形状を有する点にある。第1の凹部12の内側面には上述のように微小な第2の凹部31が多数存在し、第1の凹部12の内側面は自由表面11に比べると粗い粗面で構成されている。なお、図21(a)~図21(c)は、理解を容易にするため、第1の凹部12が規則的に配列されたような図示になっている。しかしながら、図11に示したように、実際に成形された反射防止面は、第1の凹部12の形状、位置、大きさは、より不規則な構造として成形される。
【0083】
自由表面11の部位は、前述のように、第1の凹部12を囲む部品面が、樹脂部品を成形する金型に触れずに樹脂材料が形成する自由表面の形状に造形されたものである。
一方、第1の凹部12の内側に分布する第2の凹部31の部位は、上記の保圧工程において金型面と接していた部分に相当し、金型面の微細粗面が転写されたために粗い粗面となっている。
【0084】
図21(a)、図22(a)に示す樹脂部品は、比較的低い保圧圧力を用いて成形しており、自由表面11の総面積が相対的に大きく、第2の凹部31を備えた第1の凹部12の総面積が相対的に小さい構造に相当する。図21(a)、図22(a)に示す形状は、例えば、金型内の溶融樹脂が図20(a)に示したような状態となる保圧圧力条件で射出成形を行った結果得られる形状に相当する。
【0085】
図21(b)、図22(b)に示す樹脂部品は、金型内の溶融樹脂が図20(b)に示したような状態となる保圧圧力条件で射出成形を行った結果得られる形状に相当する。図21(b)、図22(b)の樹脂部品では、自由表面11が全体に占める面積比率と、第2の凹部31を備えた第1の凹部12が全体に占める面積比率が、ほぼ等しい構造に相当する。
【0086】
また、図21(c)、図22(c)に示す樹脂部品は、自由表面11が占める総面積が相対的に小さく、第2の凹部31を備えた第1の凹部12が占める総面積が相対的に大きい構造に相当する。図21(c)、図22(c)の状態は、例えば、金型内の溶融樹脂が図20(c)に示したような状態となる保圧圧力条件で射出成形を行った結果得られる形状に相当する。
【0087】
後述する評価結果(例えば図17)などに示されるように、良好な反射防止特性と耐久性を備えた反射防止面は、図21(a)~図21(c)、図22(a)~図22(c)に示した構造であることが判明した。即ち、第2の凹部31を備えた第1の凹部12を取り囲むように自由表面11が存在するような構造である。このような自由表面11を持つ構造の形成は、金型面の転写時の圧力(保圧)条件によって制御できる。
【0088】
一方、図20(d)に示したような状態で、ほぼ全ての金型面を溶融樹脂に転写する保圧条件で成形すると、自由表面11を殆んど持たない構造(例えば後述の図17の作成例5)になる。その場合、後述するように、反射防止性能は比較的良好に得られても、第1の凹部12より高さがあり、第1の凹部12を保護する自由表面11がほぼ存在しないことによって、反射防止面の耐久性が低下する。また、離型工程(図9(e))において金型からの離型性が低下し、成形品の一部が割れてしまうなどにより歩留まりが低下する問題があり、安定して射出成形が行えない問題がある。上記のように図20(d)に示したような転写状態が好ましくないのは、例えば、短パルスレーザで粗面化した表面が、比較的に急峻な山谷形状を有しているという特徴を持っていることに由来すると考えられる。図20(d)に示したような転写状態において、このような急峻な山谷形状の奥にまで樹脂材料が入り込むと、離型時に大きな力が必要になり、発生した応力が降伏点を超えた箇所で樹脂に亀裂が生じる可能性がある。
【0089】
これに対して、本実施例の図20(a)~図20(c)のような転写状態では、急峻な山谷形状の奥にまで樹脂材料が入り込む必要がなく、比較的に小さい力での離型が可能である、というメリットがある。従って、上記のように第1の凹部12を保護可能な自由表面11を形成できるのに加えて、離型時に応力が降伏点を超えて成形された樹脂部品に亀裂が生じるような問題を生じにくい。
【0090】
なお、成形された樹脂部材の遮光性能ないし反射防止性能は、後述するような鏡面反射率の測定を介して評価することができる。その場合、自由表面11の平坦性が小さい程、反射光が小さくて遮光性能に優れる傾向があることが判った。
【0091】
ここで、上記のようにして製造した樹脂部品の反射防止面で第1の凹部が全体に占める割合(面積比)を算出し、評価する手法につき説明する。図10は、平面視において第1の凹部が全体に占める面積比を算出する手順の流れを示している。本実施例1においては、電子顕微鏡画像を用いてデータ分析を行った。電子顕微鏡による観察によると、図4に示した樹脂部品の自由表面41(11)と第1の凹部42(12)の部位の分布ないし面積比を、輝度値の差を介して識別することができる。
【0092】
図10のステップS1では、電子顕微鏡で観察した二次電子像を保存する。ステップS2では、ステップS1で保存した画像を例えば256諧調(8ビット)の輝度値で量子化し、ヒストグラム化する。自由表面は輝度値が高くなり、第1の凹部では輝度値が低くなるため、ヒストグラムの分布が二極化する。二極化した輝度値の間にある最少点となる輝度値を、自由表面と第1の凹部を分離するための閾値とする。
【0093】
図10のステップS3では、適当な閾値以上を白、閾値未満を黒として2値化する。2値化後の白の画素数と黒の画素数の比を自由表面と第1の凹部の各部位の面積比として定義する。ここでは電子顕微鏡の観察画像からの2値化を行ったが、他の方法で2値化を行ってもよい。例えば、レーザ顕微鏡の測定から高さ情報をヒストグラム化して、2値化を行ってもよい。
【0094】
図11は、図10のステップS1の電子顕微鏡の二次電子像の画像を示しており、輝度値が明るい場所が自由表面41の部位であり、輝度値が暗い場所が第1の凹部12の部位である。特に、第1の凹部12の内部のように表面が粗面になっている部位では、撮影される輝度値が低く(暗く)なる。
【0095】
図12は、図10のステップS2において、画像から輝度値を256諧調でヒストグラム化したグラフを示している。同図では、横軸に256諧調の輝度値を、縦軸に画素数を取っている。図12において、121は第1の凹部12に対応する諧調のピーク位置に相当し、122は自由表面41の諧調のピーク位置に相当する。また、図12において、123は自由表面の諧調のピークと第1の凹部の諧調のピークの間にある最小点であり、この階調点を2値化のための閾値に設定することができる。
【0096】
図13(a)、図13(b)は、上記のヒストグラムの2値化によって得た2値化結果を例示している。ここで、図13(a)は図9(d)の保圧工程における保圧圧力60MPaで成形した樹脂部品の2値化結果を、また図13(b)は図9(d)の保圧工程において保圧圧力90MPaで成形した樹脂部品の2値化結果を示している。図13(a)では第1の凹部が全体に占める面積比が34%、図13(b)では第1の凹部が全体に占める面積比が64%であった。
【0097】
また、図13(a)、図13(b)において、131は上述の第1の凹部12に相当し、132が自由表面11に相当する。133が第1の凹部131の開口幅、134は第1の凹部同士の最短距離に相当する。図13(a)の第1の凹部131の幅133は20μm以上で30μm以下、図13(b)の第1の凹部131の幅133は20μm以上で30μm以下であった。図13(a)の第1の凹部のアスペクト比は0.45~1.51の範囲であり、図13(b)の第1の凹部のアスペクト比は0.55~1.67の範囲であった。図13(a)の第1の凹部131同士の最短距離は10μm、図13(b)の第1の凹部同士の最短距離は8μmであった。このように、保圧圧力60MPa、90MPaの2つの条件を比較すると、溶融樹脂に対する保圧圧力が大きい90MPaでは、第1の凹部131の面積が大きく、自由表面132として形成される部位の面積が小さくなる。これは、溶融樹脂912に対する圧力が大きいと、溶融樹脂912が金型面82の凹部の深部まで入り込むためである。
【0098】
図14は、第1の凹部131の内表面に存在する第2の凹部31の電子顕微鏡観察写真である。図中の141は第2の凹部の最大幅である。142は第2の凹部の最小幅である。本実施例では第2の凹部の最大幅141は200nm、第2の凹部の最小幅142は50nmであった。
【0099】
また、上記の異なる保圧圧力60MPa、90MPaの2つの条件で成形した樹脂部品の性能を評価するため、日本分光株式会社製の反射率測定器を使用して鏡面反射率を測定した。この鏡面反射率とは、図15に示すように、ある入射角の入射光151に対し、試料153の界面で入射角と等しい反射角で反射する反射光152の強度を測定し、入射光の強度との比を求めるものである。
【0100】
この鏡面反射率は、試料153の表面が鏡面に近い状態だと比較的に大きい値を示す。一方、試料153の表面に粗面化処理を施すと、鏡面反射率は比較的に小さい値となる。本発明に係る樹脂部材を、例えば後述のミラーホルダのような遮光性能、反射防止性能が必要な遮光部材として用いる場合、この鏡面反射率が低い値を示すほどその性能は良好である、と考えてよい。
【0101】
上記の異なる保圧圧力60MPa、90MPaの2つの圧力条件で射出成形した樹脂部品の鏡面反射率の測定は、入射角が5°から85°の範囲で行った。また、反射率は入射光の波長依存があるため、500nm~600nmの波長での測定値を平均したものを平均反射率とした。この鏡面反射率の測定結果を、図16に示す。
【0102】
図16において161の曲線は、保圧圧力60MPaの圧力条件で樹脂部品を射出成形した場合の、自由表面(41)の面積比が比較的大きく、第1の凹部(12)の面積比が比較的小さい反射防止面で測定した鏡面反射率の測定値である。一般に入射角が大きくなると、平均反射率は大きくなる傾向にあり、従来構成による遮光部材の場合は入射角85°では10%近い値となることが多い。これに対して、図16の161の曲線は入射角85°で5%未満の値を示しており、優れた反射防止性能を有する樹脂部品を製造できていることが判る。
【0103】
また、図16において162の曲線は、保圧圧力90MPaの圧力条件で樹脂部品を射出成形した場合の、自由表面(41)の面積比が比較的小さく、第1の凹部(12)の面積比が比較的大きい反射防止面で測定した鏡面反射率の測定値である。この場合、鏡面反射率の測定結果はさらに向上しており、5~85°の全ての入射角度において、上記の保圧圧力60MPaの圧力条件で射出成形した樹脂部品よりもさらに低い平均反射率を示している。即ち、この保圧圧力90MPaの圧力条件で射出成形した樹脂部品は、さらに優れた反射防止性能を備えた遮光部材であることが判る。
【0104】
また、図26に、上記の保圧圧力60MPa、90MPaによってそれぞれ射出成形した樹脂部品の鏡面反射率の測定結果とともに、より低圧な40MPaの保圧圧力により射出成形した樹脂部品の鏡面反射率の測定結果を、図16と同様の形式によって示す。
【0105】
図26において、3029の曲線は、図16の曲線161と同様に、保圧圧力60MPaで成形した樹脂部品の反射防止面の鏡面反射率の測定値を示す。また、図26の3030の曲線は、図16の曲線162と同様に、保圧圧力90MPaの成形した樹脂部品の反射防止面の鏡面反射率の測定値を示す。
【0106】
そして、図26において3028の曲線は、保圧圧力40MPaの圧力条件で樹脂部品を射出成形した場合の、自由表面(41)の面積比が比較的大きく第1の凹部(12)の面積比が比較的小さい反射防止面で測定した鏡面反射率の測定値である。上記の60MPaよりもさらに低圧な40MPaの保圧圧力の場合でも、鏡面反射率の3028の曲線は入射角85°で5%未満の値を示しており、依然として優れた反射防止性能を有する樹脂部品を製造できていることが判る。
【0107】
さらに、射出成形時の保圧圧力条件や、溶融樹脂の温度などの射出成形条件を種々変化させて成形した樹脂部品をそれぞれ作成例1、2、3、4、5、6とし、反射防止性能、および耐久性を評価した結果を、図17に表図の形式で示す。
【0108】
図17の作成例1の樹脂部品は、第1の凹部の全体に占める面積比が34%、第1の凹部同士の最短距離が10μmとなるよう射出成形条件を調整して成形した。作成例2の樹脂部品は、第1の凹部の全体に占める面積比が64%、第1の凹部同士の最短距離が8μmとなるよう射出成形条件を調整して成形した。作成例3の樹脂部品は、第1の凹部の全体に占める面積比が10%、第1の凹部同士の最短距離が100μmとなるよう射出成形条件を調整して成形した。作成例4の樹脂部品は、第1の凹部の全体に占める面積比が95%、第1の凹部同士の最短距離が5μmとなるよう射出成形条件を調整して成形した。
【0109】
これらの作成例1~作成例4の樹脂部品は、いずれも反射防止面の第1の凹部(12)の間の領域に適宜、第1の凹部(12)を取り囲むように自由表面(41)が分布した構造を有する。なお、自由表面(41)の面積比は、概ね100%から第1の凹部の全体に占める面積比を減じた数値と考えてよい。
【0110】
また、作成例5の樹脂部品は、第1の凹部の全体に占める面積比が96%、第1の凹部同士の最短距離が2μmとなるよう射出成形条件を調整して成形した。作成例6の樹脂部品は、第1の凹部の全体に占める面積比が9%、第1の凹部の最短距離が110μmとなるよう射出成形条件を調整して成形した。これらの作成例5、6は、反射防止面に自由表面(41)の部位が殆んど存在しない(作成例5)か、反射防止面が殆ど自由表面(41)で構成され、小さな第1の凹部(12)の部位がまばらにしか存在しない構成(作成例6)である。このうち、作成例5は、従来の自由表面(41)の存在しない単純な微細粗面のみの構造に類似する。また、作成例6は、反射防止面が殆ど自由表面(41)で構成され、迷光の反射低減に寄与する第2の凹部(31)を備えた第1の凹部(12)が極めて少ない構成である。
【0111】
ここでは反射防止性能は、各例の樹脂部品の反射防止面について上述の鏡面反射率を測定して評価し、A(優良)、B(良好)、C(可)のようなアルファベットにより評価結果を示している。また、耐久性の評価結果もA(優良)、B(良好)、C(可)のようなシンボルで示されている。この耐久性の試験内容は、まずシルボン紙にエタノールを浸透させ、250g重の力で、各例の樹脂部品の反射防止面に50回、摩擦を加える払拭操作を行った。そして、その後、再度、鏡面反射率を測定して反射防止性能に変化が生じたか否かを評価した。
【0112】
まず、作成例5のように、自由表面(41)の存在しない単純な微細粗面のみの構造では、多数の第1の凹部(12)によって良好な反射防止性能が得られている。しかしながら、作成例5では、払拭操作によって第2の凹部(31)の破損、摩耗などが生じ、払拭後、反射防止性能が低下する可能性がある。また、作成例6では、反射防止面が殆ど自由表面(41)で構成されているため、充分な反射防止性能を得ることができなかった。ただし、自由表面(41)よりも高さが低い、第2の凹部(31)を備えた第1の凹部(12)が自由表面(41)によって良好に保護され、払拭操作後の反射防止性能にはほぼ変化が生じなかった。
【0113】
一方、作成例1~4の樹脂部品は、反射防止面の第1の凹部(12)の間の領域に適宜、第1の凹部(12)を取り囲むように自由表面(41)が分布した構造を有しており、いずれも良好な反射防止性能を発揮した。しかも、作成例1~4の樹脂部品は、いずれも反射防止面の払拭操作後の反射防止性能には変化が生じず、充分な耐久性を有していた。中でも、特に優良(A)な反射防止性能を有していたのは、作成例4の樹脂部品、特に優良(A)な耐久性を有していたのは、作成例3の樹脂部品であった。
【0114】
次に、フィラーの占める質量を変化させて成形した樹脂部品をそれぞれ作成例7、8、9、10、11、12とし、反射防止性能、および耐久性を評価した結果を、図30に表図の形式で示す。図30の表図におけるA(優良)、B(良好)、C(可)のような評価結果の記述様式は、前述の図17と同じである。なお、射出成形時の保圧圧力条件や、溶融樹脂の温度などの射出成形条件は前述の図17で説明したものと同様である。
【0115】
図30の作成例7の樹脂部品は、樹脂材料全体の質量に対するフィラーの含有比率が5質量%、自由表面の表面粗さがSpc値1500となるように樹脂材料を調整して成形した。作成例8の樹脂部品は、樹脂材料全体の質量に対するフィラーの含有比率が15質量%、自由表面の表面粗さがSpc値3000となるように樹脂材料を調整して成形した。作成例9の樹脂部品は、樹脂材料全体の質量に対するフィラーの含有比率が30質量%、自由表面の表面粗さがSpc値6500となるように樹脂材料を調整して成形した。作成例10の樹脂部品は、樹脂材料全体の質量に対するフィラーの含有比率が45質量%、自由表面の表面粗さがSpc値9000となるように樹脂材料を調整して成形した。
【0116】
また、作成例11の樹脂部品は、樹脂材料全体の質量に対するフィラーの含有比率が4質量%、自由表面の粗さをSpc値1450となるように樹脂材料を調整して成形した。作成例12の樹脂部品は、樹脂材料全体の質量に対するフィラーの含有比率が46質量%、自由表面の粗さをSpc値9100となるように樹脂材料を調整して成形した。こちらの作成例11、12は自由表面(41)の粗さが殆ど存在しない(作成例11)か、自由表面の粗さがSpc値9100を超えるような粗さである(作成例12)。このうち、作成例12は自由表面の粗さが大きいため、迷光の反射低減効果は大きいが、耐久性が低下する可能性がある。さらに、成形樹脂材全体の質量に対するフィラーの質量が46%を超えると、射出成型の際、金型内の樹脂の流れが良好ではなくなり、外観の品質が低下する可能性がある。
【0117】
以上、説明したように、本実施例の樹脂部品の反射防止面では、第2の凹部(31)で構成された微細粗面(23)を内部に有する第1の凹部(12)を多数配置する構造であり、良好な迷光の遮光性、ないし反射防止性能を実現できる。また、本実施例の樹脂部品の反射防止面では、第1の凹部(12)を取り囲むように自由表面(41)が分布するため、払拭操作などに対して第1の凹部(12)の内部に配置された微細粗面(23)を有効に保護できる。即ち、本実施例によれば、簡単安価に製造でき、しかも耐久性に優れ、ゴミや塵埃の発生が少なく、優れた反射防止性能を備えた反射防止面を有する樹脂部品を提供することができる。
【0118】
<実施例2>
以上では、樹脂部品の反射防止面に金型面の形状を転写する手法として、主に射出成形を考えた。しかしながら、樹脂部品の反射防止面に金型面の形状を転写する場合には、射出成形に限らず、下記のようなロール金型成形の手法を用いてもよい。
【0119】
図23において、3018は円筒状の金型(ロール成形金型)であり、加工用のレーザ3003は、レンズ3004によってスポット状に絞られ、金型3018の円筒面の照射エリア3005に照射される。金型3018は、不図示の駆動機構により矢印R1により回転駆動されるとともに、例えば3019の方向に往復走査できるよう構成される。あるいは、3019の方向の走査は、加工用のレーザ3003をガルバノミラーなどにより走査することにより行ってもよい。これにより、円筒状の金型3018の円筒面にある金型面に、上述同様の加工原理によって、粗面化処理を施すことが出来る。
【0120】
加工用のパルスレーザ(3003)の照射条件は、上述の図8などで説明した手法により決定でき、図19(a)~図19(d)に示したような過程で、微細粗面とそれよりもマクロな山谷構造を円筒面形状の金型面に形成することができる。
【0121】
図24は、上記のようにして金型面を造形した金型3018(ロール成形金型)から樹脂材料に反射防止面を転写する様子を示している。図24において、シート状に延ばされた樹脂材料3022は、一部しか図示していないが、一般に切れ目無く連続して製造されたものである。
【0122】
樹脂材料3022は、不図示の搬送機構によって矢印3023の方向に搬送される。そして2本の円筒状の上記のようにして金型円筒面を加工された金型3018と、金型3018に従動して回転する対向ロール成形金型である金型3024の間を通過させる。2本の円筒状の金型3018、3024は例えば不図示の付勢手段によって圧接方向に加圧され、これらの回転方向は互いに逆方向となる。その回転方向は、樹脂材料3022を金型の間に引き込み、反対側へ送り出す様な向きに回転させる。円筒状の金型3018の円筒面上の金型面3021には上述のようにして粗面化処理が施されている。なお、図24の例では、金型3024の円筒面には粗面化処理が施されていないが、こちらの金型3024にも、樹脂材料3022の裏面側に転写する金型形状、例えば他の粗面形状が形成されていてもよい。
【0123】
また、2本の円筒状の金型3018、金型3024の間隔は、金型の間を通過する前の樹脂材料3022の厚みよりも狭く設定される。この金型3018、金型3024の間隔の設定によって、金型面3021を転写する時の圧力(上述の射出成形の場合の保圧圧力に相当する)を設定することができる。金型3018、金型3024の間隔は、例えば狭くするほど強い圧力での形状転写が行われることになる。
【0124】
この2本の円筒状の金型3018、金型3024の間隔は不図示の調整機構によって調整できるようにしておくのが望ましい。これにより、金型面3021を転写する時の圧力を調整し、例えば上記の自由表面(41)と、第1の凹部(12)の分布形態を決定することができる。また、樹脂材料3022は温度が高い状態だと形状を転写し易くなる。このため、樹脂材料の組成などに応じて樹脂材料3022や円筒状の金型3018、金型3024は不図示の加熱機構によって加熱され、高温状態で金型面3021を転写するような構成であってもよい。
【0125】
図25(a)~図25(c)は、金型3018、金型3024の間隔調整などにより、金型面3021を転写する圧力を異なる値に変更した場合の転写の様子を模式的に示している。この図25(a)~図25(c)は、上述の射出成形の場合の図20(a)~図20(c)の転写状態にそれぞれ対応する。
【0126】
図25(a)において、2514は円筒状の金型表面の断面であり、短パルスレーザによる粗面化処理によって山谷構造と小さな凹凸構造が複合した形状となっている。樹脂材料2512は、図24の樹脂材料3022に相当する。図25(a)では、樹脂材料2512は金型2514の山部とは接しているが、金型2514の谷部とは接しておらず、その部位で空間2515が空いている。
【0127】
図25(b)は、図25(a)より2本の円筒状の図24の金型3018、金型3024の間隔を狭くとり、金型面3021を転写する圧力を高めた状態を示している。図25(a)と同様に樹脂材料2512は金型2514の山部とは接しているが、金型2514の谷部とは接しておらず、空間2515が空いている。しかし、図25(a)に比べて、金型3018、金型3024(図24)圧力が高いため、空間2515はより狭くなっている。
【0128】
図25(c)は、図25(b)よりもさらに金型3018、金型3024(図24)の間隔を狭くとり、金型面3021を転写する圧力を高めた状態を示している。図25(c)では、図25(a)、図25(b)と同様に樹脂材料2512は金型2514の山部とは接しているが、金型2514の谷部とは接しておらず、空間2515が空いている。しかし、図25(a)、図25(b)に比べると、金型3018と金型3024(図24)の間の圧力がさらに高いため、空間2515はさらに狭くなっている。
【0129】
以上に示したようにロール成形金型を用いて、反射防止面に金型面の形状を転写する場合は、例えば金型3018、金型3024(図24)の間隔を制御することにより、射出成形における保圧圧力の設定による制御と同様に金型面の転写態様を実現できる。例えば金型3018、金型3024(図24)の間隔を制御することにより、射出成形に関して説明したのと同様に、所望の分布、面積比で、内側に第1の凹部(12)と、それを取り囲む自由表面(41)を反射防止面に配置することができる。
【0130】
<実施例3>
本実施例では、本発明の物品の一例である、光学機器の鏡筒、光学系の収容体(ミラーホルダのような支持体を含む)などの構成を示す。
【0131】
図27は、本実施形態の反射防止面を有する樹脂部品を遮光部材などとして用いることができる光学機器として、一眼レフデジタルカメラの構成を示している。図27において、撮影レンズ601はカメラ本体602と結合されている。被写体からの光は、撮影レンズ601の撮影光学系の光軸上に配置されたレンズ603、605などの光学素子を介して撮影される。特に、レンズ605は内筒604によって支持されて、フォーカシングやズーミングのために撮影レンズ601の外筒に対して可動支持される。
【0132】
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、主ミラー607により反射され、プリズム611を透過後、ファインダレンズ612を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー607はハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー608によりAF(オートフォーカス)ユニット613の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー607とサブミラー608を光路外に移動させ、シャッタ609を開き、撮像素子610に撮影レンズ601から入射した撮影光像を結像させる。また、絞り606は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
【0133】
なお、銀塩カメラの場合には、図27の一眼レフカメラの撮像素子610の位置に銀塩フィルムが走行、位置決めされる領域が配置される。また、撮影レンズ601は、カメラ本体602に固定的に装着されていてもよいが、この種の光学機器では、撮影レンズ601はカメラ本体602のボディに対して着脱可能な交換レンズとして構成される場合もある。
【0134】
主ミラー607は、主ミラーホルダ640に接着などによって装着、支持されている。図27の主ミラー607および主ミラーホルダ640の揺動位置は、撮影時とは異なっており、ファインダレンズ612方向へ観察光を反射させる位置にある。撮影時には、シャッタ609の開放と同期的に、不図示の駆動機構を介して矢印で示すように、主ミラー607および主ミラーホルダ640を図の水平位置まで揺動させる。この際、同時にサブミラー608は、主ミラーホルダ640とほぼ面一になるよう同期して折り畳まれる。
【0135】
主ミラーホルダ640を揺動させるのは、主ミラー607を撮影光路外に移動させること、また、ファインダレンズ612の方向から入射する光によるゴーストを防止すべくファインダレンズ612との間の光路を遮蔽することにある。撮影時には、撮像素子610に必要な露光を行った後、シャッタ609を閉成させるが、これに同期してファインダに撮影画像を映すために図27に図示した位置に迅速に復帰させる。このため、主ミラーホルダ640を介して移動する主ミラー607はクイックリターンミラーなどと呼ばれることがある。
【0136】
図27のような光学機器で、本発明に係る反射防止面を備えた樹脂部品は、例えば固定式ないし交換式を問わず、撮影レンズ601を構成する光学鏡筒、特にその内筒604や内筒604を支持する撮影レンズ601の外筒として利用できる。このような構成では、例えば光学素子としてのレンズ605を収容する内筒604として設けられる樹脂部品の反射防止面は、光学素子の配置された光学系の光軸の側に向けて配置する。
【0137】
また、撮影のための光学系には、撮影レンズ601の他、上記のように撮影光を通過させるカメラ本体602の内部の遮光室も含まれる。この遮光室、即ちカメラ本体602の内部の遮光状態が必要な収容体にも、本発明に係る反射防止面を備えた樹脂部品を適用することができる。このようなカメラ本体602の内部の遮光室の場合、遮光室の内壁を構成する樹脂部品として、本発明に係る樹脂部品を適用することができる。その場合、当然ながら樹脂部品の反射防止面は、例えば、遮光室内の光学系の光路の側に向けて配置する。
【0138】
また、図27のような光学機器では、光学系の収容体としては、主ミラーホルダ640のような支持体も含めて考えてよい。主ミラーホルダ640の表裏面の縁部など、サブミラー608や主ミラー607の反射部を除く部位は、反射防止面として構成し、可能な限り不要光の反射が生じないように配慮する必要がある。このような光学系の収容体、特に主ミラーホルダ640のような支持体にも、本発明に係る樹脂部品を用いることができ、その反射防止面は、表裏面の縁部など、サブミラー608や主ミラー607の反射部を除く部位に配置することができる。
【符号の説明】
【0139】
11、41、132…自由表面、12、42、51、131…第1の凹部、23…微細粗面、31、141…第2の凹部の最大幅、61…樹脂部品、62…反射防止面、81、2514、3018、3024…金型、82、3021…金型面、84、3004…レンズ、601…撮影レンズ、602…カメラ本体、604…内筒、640…主ミラーホルダ。
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