(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】舶用舵取機
(51)【国際特許分類】
B63H 25/30 20060101AFI20240122BHJP
F15B 11/028 20060101ALI20240122BHJP
F15B 11/08 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B63H25/30 F
F15B11/028 Z
F15B11/08 C
(21)【出願番号】P 2019136746
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000205535
【氏名又は名称】株式会社 商船三井
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小見 慶樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 辰喜
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/052777(WO,A1)
【文献】特開2019-010964(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0290370(US,A1)
【文献】特開2002-339840(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02404823(EP,A2)
【文献】特開2001-114195(JP,A)
【文献】特開2001-010590(JP,A)
【文献】国際公開第01/019670(WO,A1)
【文献】特開2017-144917(JP,A)
【文献】特開2011-111127(JP,A)
【文献】特開2000-168691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/30
F15B 11/028
F15B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵板と連結された舵軸を回転させる油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータとの間に閉回路が形成されるように前記油圧アクチュエータと接続された、アキシャルピストン式の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する電動モータと、
前記電動モータへ供給される電力または電流を検出する第1検出器と、
船体の中心線に対する前記舵板の角度である舵角を検出する第2検出器と、
前記第1検出器で検出された電力または電流と前記第2検出器で検出された舵角とに基づいて前記舵軸に作用するトルクを算出するトルク算出器と、
を備える、舶用舵取機。
【請求項2】
前記トルク算出器は、前記舵軸が停止中のときは前記舵軸が回転中のときよりも小さい運転係数を用いて前記トルクを算出する、請求項1に記載の舶用舵取機。
【請求項3】
前記油圧アクチュエータは、前記舵軸に固定された舵柄を介して前記舵軸を回転させるものであり、前記舵柄と係合するピンが設けられたラムと、前記ラムの両端がそれぞれ挿入された一対のシリンダを含む、請求項2に記載の舶用舵取機。
【請求項4】
前記トルク算出器は、以下の式により前記舵軸に作用するトルクを算出する、請求項3に記載の舶用舵取機。
T=m・K・(W-W0)/(ω・cosθ)
T:舵軸に作用するトルク[N・m]
m:前記運転係数
K:電動モータの効率
W:第1検出器で検出された電力、または第1検出器で検出された電流に基づいて
算出された電力[W]
W0:油圧ポンプの吐出流量がゼロのときに電動モータへ供給される電力[W]
ω:舵軸の角速度[rad/s]、ただし舵軸が停止中はω=1
θ:第2検出器で検出された舵角[rad]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用舵取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、舵板と連結された舵軸を回転させる油圧アクチュエータを含む舶用舵取機が知られている。例えば、特許文献1には、舵柄を介して舵軸を回転させるラムシリンダ型の2つの油圧アクチュエータを含む舶用舵取機が開示されている。各油圧アクチュエータは、舵柄と係合するピンが設けられたラムと、このラムの両端がそれぞれ挿入された一対のシリンダを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、船体の中心線に対する舵板の角度である舵角が0度でない場合には、舵軸が回転中であるか停止中であるかに拘らず、船体を旋回させるトルクが舵軸に作用する。また、舵角が0度である場合でも、潮流や船体の揺動(ローリング、ピッチング、ヨーイング)などの影響で、舵軸にトルクが作用することがある。このため、舵軸に作用するトルクを把握したいという要望がある。
【0005】
そこで、本発明は、舵軸に作用するトルクを把握することが可能な舶用舵取機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明の舶用舵取機は、舵板と連結された舵軸を回転させる油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータとの間に閉回路が形成されるように前記油圧アクチュエータと接続された、アキシャルピストン式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する電動モータと、前記電動モータへ供給される電力または電流を検出する第1検出器と、船体の中心線に対する前記舵板の角度である舵角を検出する第2検出器と、前記第1検出器で検出された電力または電流と前記第2検出器で検出された舵角とに基づいて前記舵軸に作用するトルクを算出するトルク算出器と、を備える、ことを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、トルク算出器によって舵軸に作用するトルクが算出されるので、そのトルクを把握することができる。しかも、第1検出器および第2検出器としては電気的なセンサを用いることができるので、簡易な構成でトルクを算出することができる。
【0008】
前記トルク算出器は、前記舵軸が停止中のときは前記舵軸が回転中のときよりも小さい運転係数を用いて前記トルクを算出してもよい。本発明の発明者らは、電動モータへ供給される電力と舵軸に作用するトルクとの関係は、舵軸が回転中か停止中かで大きくことなることを見出した。従って、トルクの算出に際して舵軸が回転中か停止中かで異なる値の運転係数を用いれば、トルクを正確に算出することができる。
【0009】
例えば、前記油圧アクチュエータは、前記舵軸に固定された舵柄を介して前記舵軸を回転させるものであり、前記舵柄と係合するピンが設けられたラムと、前記ラムの両端がそれぞれ挿入された一対のシリンダを含んでもよい。
【0010】
例えば、前記トルク算出器は、以下の式により前記舵軸に作用するトルクを算出してもよい。
T=m・K・(W-W0)/(ω・cosθ)
T:舵軸に作用するトルク[N・m]
m:前記運転係数
K:電動モータの効率
W:第1検出器で検出された電力、または第1検出器で検出された電流に基づいて
算出された電力[W]
W0:油圧ポンプの吐出流量がゼロのときに電動モータへ供給される電力[W]
ω:舵軸の角速度[rad/s]、ただし舵軸が停止中はω=1
θ:第2検出器で検出された舵角[rad]
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、舵軸に作用するトルクを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る舶用舵取機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明の一実施形態に係る舶用舵取機1を示す。この舶用舵取機1は、舵板21と連結された舵軸22を回転させる油圧アクチュエータ3を含む。
【0014】
本実施形態では、油圧アクチュエータ3が、舵軸22に固定された舵柄23を介して舵軸22を回転させるラムシリンダ型である。また、本実施形態では、油圧アクチュエータ3の数が1つであるが、油圧アクチュエータ3の数は、油圧アクチュエータ3が舵軸22を挟んで互いに平行となるように2つであってもよい。
【0015】
具体的に、油圧アクチュエータ3は、舵軸22の軸方向と直交する方向に延びる棒状のラム31と、ラム31の両端がそれぞれ挿入された一対のシリンダ32を含む。ラム31の中央には、ラム31の中心線上にピン33が設けられており、このピン33が舵柄23と係合している。
【0016】
より詳しくは、舵柄23には、舵軸22から遠ざかる方向に開口する溝が設けられており、この溝にピン33が挿入されている。ピン33および舵柄23は、舵軸22とラム31の間のリンク機構を構成する。
【0017】
本実施形態では、油圧アクチュエータ3を作動させる圧力源として、2つの油圧ポンプ4が採用されている。ただし、油圧ポンプ4の数は1つであってもよい。2つの油圧ポンプ4は、油圧アクチュエータ3との間に閉回路が形成されるように油圧アクチュエータ3と接続されている。
【0018】
各油圧ポンプ4は、回転するシリンダブロックに複数のピストン(ピストンの軸方向はシリンダブロックの軸方向と平行)が往復自在に保持されたアキシャルピストン式の油圧ポンプである。各油圧ポンプ4は、一方のシリンダ32へ作動油を供給するとともに、他方のシリンダ32から作動油を回収する。
【0019】
本実施形態では、各油圧ポンプ4が、斜板がセンターから両方向に傾倒可能な可変容量型の斜板ポンプである。斜板の傾倒方向および角度は、操船者に操作される図略の操作装置からの出力に応じて図略のレギュレータにより変更される。各油圧ポンプ4は、電動モータ5により駆動される。本実施形態では、電動モータ5の回転数が一定である。
【0020】
ただし、各油圧ポンプ4は、可変容量型の斜軸ポンプであってもよい。あるいは、各油圧ポンプ4が固定容量型であるとともに、電動モータ5がサーボモータであり、図略の操作装置からの出力に応じて油圧ポンプ4の回転方向および回転数が変更されてもよい。
【0021】
各油圧ポンプ4は一対の給排ポートを有し、これらの給排ポートは一対の給排ライン41により一対のシリンダ32と接続されている。これにより油圧アクチュエータ3と2つの油圧ポンプ4との間で閉回路が形成されている。なお、その閉回路への作動油の補給のために、各給排ライン41には、逆止弁43が設けられたタンクライン42が接続されている。
【0022】
さらに、舶用舵取機1は、舵軸22に作用するトルクTを算出するトルク算出器7を含む。例えば、トルク算出器7は、ROMやRAMなどのメモリと、HDDなどのストレージと、CPUを有するコンピュータであり、ROMまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUにより実行される。なお、トルク算出器7は、アナログ演算器であってもよい。
【0023】
トルク算出器7は、一対の第1検出器61,62および第2検出器63と電気的に接続されている。第1検出器61,62は、本実施形態では電力センサであり、2つの電動モータ5へ供給される電力W1,W2をそれぞれ検出する。第2検出器63は、角度センサであり、船体の中心線10に対する舵板21の角度である舵角θを検出する。
【0024】
本実施形態では、第2検出器63が舵柄23に設けられているが、第2検出器63は舵軸22に設けられてもよい。あるいは、ラム31にストロークセンサが設けられて、このストロークセンサで検出されるストロークが舵角θに変換されることで、舵角θが検出されてもよい。換言すれば、第2検出器63は、ストロークセンサと変換器とで構成されてもよい。
【0025】
トルク算出器7は、第1検出器61,62で検出された電力W1,W2[W]と第2検出器63で検出された舵角θ[rad]とに基づいて、舵軸22に作用するトルクT[N・m]を算出する。本実施形態では、以下の式1により、トルク算出器7がトルクTを算出する。
T=m・K・(W-W0)/(ω・cosθ)・・・(式1)
m:運転係数
K:電動モータ5の効率
W:電力W1,W2の合計値[W]
W0:油圧ポンプ4の吐出流量がゼロのときに双方の電動モータ5へ供給される電
力の合計値[W]
ω:舵軸22の角速度[rad/s]、ただし舵軸22が停止中はω=1
【0026】
運転係数mは、舵軸22が回転中か停止中かで異なる値を持つ。より詳しくは、運転係数mは、舵軸22が停止中のときは舵軸22が回転中のときよりも小さい。例えば、運転係数mは、舵軸22が回転中は0.6~1.0の範囲内で予め決定され、舵軸22が停止中は0.1~0.5の範囲内で予め決定される。電動モータ5の効率Kは、例えば0.85~0.95である。舵軸22の角速度ωは、舵角θを微分することで得られる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の舶用舵取機1では、トルク算出器7によって舵軸22に作用するトルクTが算出されるので、そのトルクTを把握することができる。しかも、第1検出器61,62および第2検出器63としては電気的なセンサを用いることができるので、簡易な構成でトルクTを算出することができる。
【0028】
特に、トルクTの算出に際しては舵軸22が回転中か停止中かで異なる値の運転係数mが用いられるので、トルクTを正確に算出することができる。
【0029】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0030】
例えば、前記実施形態では、第1検出器61,62が電力センサであったが、第1検出器61,62が電流センサであって2つの電動モータ5へ供給される電流A1,A2をそれぞれ検出してもよい。この場合、トルク算出器7は、第1検出器61,62で検出された電流A1,A2に基づいて双方の電動モータ5へ供給される電力W1,W2を算出し、これらを足し合わせて総電力Wを算出する。
【0031】
また、油圧アクチュエータ3は、必ずしもラムシリンダ型である必要はなく、カップリングにより舵軸22と連結される回転軸を有するロータリベーン型であってもよい。あるいは、油圧アクチュエータ3は、シリンダ内に配置されたピストンから延びるロッドの先端が舵柄23とピン連結されるトランクピストン型であってもよい。
【0032】
ロータリベーン型であってもトランクピストン型であっても、舵軸22に作用するトルクTは以下の式により算出可能である。
T=m・K・(W-W0)/ω
【符号の説明】
【0033】
1 舶用舵取機
10 中心線
21 舵板
22 舵軸
23 舵柄
3 油圧アクチュエータ
31 ラム
32 シリンダ
33 ピン
4 油圧ポンプ
5 電動モータ
61,62 第1検出器
63 第2検出器
7 トルク算出器