(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置および記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240122BHJP
【FI】
B41J2/01 201
B41J2/01 451
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2019146547
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 卓巳
(72)【発明者】
【氏名】石井 洋典
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 純一
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-018386(JP,A)
【文献】特開2013-158985(JP,A)
【文献】特開2011-126173(JP,A)
【文献】特開2017-128066(JP,A)
【文献】特開2012-183708(JP,A)
【文献】特開2019-051728(JP,A)
【文献】特開2015-051643(JP,A)
【文献】特開2012-011727(JP,A)
【文献】特開2019-006095(JP,A)
【文献】特開2013-163343(JP,A)
【文献】特開2016-055463(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0062268(US,A1)
【文献】国際公開第2009/093749(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に設定された複数の単位領域のそれぞれに光輝性インクを付与することが可能な記録手段を有する記録装置であって、
前記複数の単位領域のうち、前記光輝性インクを付与すべき単位領域である記録単位領域の連結数に応じて、前記記録単位領域の各々に対する前記光輝性インクの付与量を変化させるように前記記録手段を制御する記録制御手段を備え、
前記記録制御手段は、前記記録単位領域の連結数が所定の連結数であるときの当該記録単位領域に対する前記光輝性インクの付与量が、前記所定の連結数より大きい連結数の記録単位領域に対する前記光輝性インクの付与量以上となるように前記記録手段を制御することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記記録制御手段は、前記記録単位領域に付与された光輝性インクにより形成される光輝性画像の光沢度が最大化されるように前記記録手段によるインクの付与量を制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記記録手段は、前記記録媒体上に設定された記録単位領域に光輝性インクを吐出可能な複数の吐出口を配列した記録ヘッドにより構成され、
前記記録制御手段は、前記記録単位領域の連結数が所定の連結数であるときに当該記録単位領域に対して前記光輝性インクを吐出する回数が、前記所定の連結数より大きい連結数の記録単位領域に対して前記光輝性インクを吐出する回数以上となるように前記記録ヘッドを制御することを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録制御手段は、前記記録手段を所定の主走査方向へと移動させつつ前記光輝性インクを吐出させる記録走査を前記記録媒体上の同一の領域に対して複数回行い、前記記録媒体上に存在する記録単位領域に対し当該記録単位領域の連結数に応じた記録走査の回数で前記光輝性インクを吐出させることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録制御手段は、前記記録媒体上に設定された複数の単位領域のそれぞれに対して前記吐出口から前記光輝性インクを吐出させるか否かを示す記録データと、前記複数の吐出口のうち光輝性インクの吐出を許容する吐出口を定めるマスクパターンとの論理積に基づき、複数の記録走査の各々において前記記録単位領域に対する光輝性インクの吐出を制御することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項6】
前記マスクパターンは、前記記録単位領域の連結数が所定の連結数であるときに当該記録単位領域に対して前記光輝性インクを吐出する回数が、前記所定の連結数より大きい連結数の記録単位領域に対して前記光輝性インクを吐出する回数以上となるように定められていることを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録制御手段は、
前記記録媒体に定められた複数の単位領域のそれぞれに対して前記光輝性インクを付与するか否か示す記録データをスキャンすることにより、個々の前記記録単位領域に対してそれぞれ隣接する記録単位領域との連結数を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された単位領域の連続数に基づいて個々の前記記録単位領域に対してインクを付与する回数を決定する決定手段と、を備え、
前記決定手段によって決定された前記回数に従って個々の前記記録単位領域に光輝性インクを付与することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記取得手段は、前記記録媒体の第1方向に沿って配置される前記複数の単位領域に対応する記録データをスキャンすることによって前記記録単位領域の第1の連続数を取得すると共に、前記記録媒体の第2方向に沿って配置される前記複数の単位領域に対応する記録データをスキャンすることによって前記単位領域の第2の連続数を取得し、前記第1の連続数と前記第2の連続数とに基づいて個々の単位領域に対する連結数を設定することを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記記録制御手段は、予め前記記録媒体上に定められた前記記録単位領域の位置および前記単位領域の連結数を示す情報に応じた回数の前記記録走査を、前記単位領域に対して行うことを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録媒体を搬送する搬送手段をさらに備え、
前記記録手段は、光輝性インクを吐出する複数の吐出口を前記記録媒体の搬送方向に沿って配列した吐出口列を有する記録ヘッドにより構成され、
前記記録制御手段は、前記吐出口列を複数に吐出領域に区分し、前記搬送手段を前記吐出領域に対応する長さ毎に搬送し、前記記録媒体の同一の領域に対して異なる前記吐出領域を前記搬送方向と交差する方向に沿って複数回の走査を行いつつ光輝性インクを吐出させることによって、同一の単位領域に対し光輝性画像を記録することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記記録媒体を搬送する搬送手段をさらに備え、
前記記録手段は、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に沿って配置された複数の吐出口からなる吐出口列が、前記搬送方向に沿って複数列配置された記録ヘッドにより構成され、
前記記録制御手段は、前記搬送手段によって前記記録媒体を前記搬送方向に連続的に搬送させつつ、前記複数の吐出口列から前記記録媒体に対して光輝性インクを吐出させることを特徴とする請求項
1、2、3、5、6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記記録媒体を搬送する搬送手段をさらに備え、
前記記録手段は、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向における長さ以上の長さに亘って光輝性インクを吐出する複数の吐出口を前記搬送方向と交差する方向に配列した吐出口列を少なくとも1つ備えた記録ヘッドにより構成され、
前記記録制御手段は、前記記録媒体を前記搬送方向に沿って往動および復動させつつ、前記吐出口列から前記光輝性インクを吐出させることにより、前記単位領域に複数の光輝性インクを重ねて付与させることを可能とすることを特徴とする請求項
1、2、3、5、6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項13】
前記記録手段は、前記記録媒体の全域を覆うように2次元的に配置された複数の吐出口を有し、前記記録媒体と前記吐出口との相対位置を固定した状態で、前記吐出口から前記光輝性インクを吐出させることにより、光輝性画像を前記記録媒体に記録することを特徴とする請求項
1、2、3、5、6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項14】
前記記録手段は、前記記録媒体上に設定された複数の単位領域のそれぞれに対してカラーインクを吐出することを可能とし、
前記記録制御手段は、前記光輝性インクを前記記録媒体上に付与した後、前記光輝性インクが付与された前記記録媒体上に前記カラーインクを付与することを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項15】
前記光輝性インクは、金属粒子を含むインクであることを特徴とする、請求項1ないし
14のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項16】
記録媒体上に対して光輝性インクを付与することによって光輝性画像を形成する記録方法であって、
前記光輝性インクを付与する記録単位領域の連結数が所定の連結数であるときの当該記録単位領域に前記光輝性インクを付与する量を、前記所定の連結数より大きい連結数の記録単位領域に付与する前記光輝性インクの量以上とすることを特徴とする記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して画像を形成する記録装置および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、メタリックカラーの画像を形成可能なインクジェット記録装置が知られている。この種のインクジェット記録装置では、記録媒体に付与すると金属光沢を呈する光輝性インクを付与した後、光輝性インクの上に通常のカラーインクを付与することでメタリックカラーの画像を形成する。
【0003】
しかし、光輝性インクを吐出してメタリックカラーの画像を形成した場合、形成される画像に、十分な光沢度が得られないことがある。これはインクジェット記録装置に用いられる光輝性インクには、金属粒子を分散させるための樹脂成分やインクを安定化させるための溶剤成分等のような、金属粒子以外の成分が含まれることに起因している。
【0004】
また、良好な光沢度の画像を得るためには、自由電子の移動距離が光の波長に近い距離となることが必要である。そのため、光輝性インクに含まれる金属粒子の形状は大きい方ことが望ましいと考えられていた。金属粒子が小さい場合、金属粒子同士に隙間が形成されたり、光の散乱を起こしたりすることがあり、これがメタリックカラーの画像の光沢度を低下する要因になるためである。
【0005】
これに対し、特許文献1には、メタリックインクによって記録されるドットを集中させることにより、メタリックインクとカラーインクとの重なりを抑制することによって、画像の光沢度を保つことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、光輝性インク自体によって光沢度が低下し得ることを考慮していない。例えば、光輝性インクにより、ベタ画像のようなドットの記録率が高い画像(高デューティの画像)を記録した場合には、光輝性インクに含まれる樹脂製分や溶剤成分が金属粒子の上面に残留し易く、画像の光沢度を上げることができない。また、光輝性インクによる記録密度が低い画像を記録した場合には、光輝性インクの金属粒子同士の融着が不十分になり、十分な光沢が得られないことがある。
【0008】
本発明は上記課題に着目してなされたものであり、光輝性インクによって良好な光沢度の画像を得ることが可能な記録装置及び記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、記録媒体上に設定された複数の単位領域のそれぞれに光輝性インクを付与することが可能な記録手段を有する記録装置であって、前記光輝性インクが付与される記録単位領域の連結数に応じて、前記記録単位領域の各々に対する前記光輝性インクの付与量を変化させるように前記記録手段を制御する記録制御手段を備え、前記記録制御手段は、前記記録単位領域の連結数が所定の連結数であるときの当該記録単位領域に対する前記光輝性インクの付与量が、前記所定の連結数より大きい連結数の記録単位領域に対する前記光輝性インクの付与量以上となるように前記記録手段を制御することを特徴とする。
【0010】
また本発明は、記録媒体上に対して光輝性インクを付与することによって光輝性画像を形成する記録方法であって、前記光輝性インクを付与する記録単位領域の連結数が所定の連結数であるときの当該記録単位領域に前記光輝性インクを付与する量を、前記所定の連結数より大きい連結数の記録単位領域に付与する前記光輝性インクの量以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光輝性インクによって良好な光沢度の画像を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1ないし第3実施形態におけるインクジェット記録装置の斜視図である。
【
図2】インクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【
図3】記録ヘッドに実装される吐出口形成基板の模式図である。
【
図4】記録ヘッドに設けられる吐出口列を示す模式図である。
【
図5】画像の光沢度を測定する光学系を示す図である。
【
図6】第1実施形態における光輝性インクのドットが記録される画素の連結数とドットの重ね量と光沢度との関係を示す図である。
【
図7】光輝性インクにより記録媒体上にベタ画像を形成した状態を示す断面図である。
【
図8】光輝性インクを記録媒体上の1画素に付与した状態を示す断面図である。
【
図9】第1実施形態における記録データの形成方法を示すフローチャートである。
【
図10】第1実施形態におけるインデックスパターンを示す図である。
【
図11】第1実施形態において複数パスにより画像を記録する方法を示す図である。
【
図12】第1実施形態における記録過程を示す図である。
【
図13】第1実施形態に用いるマスクを示す図である。
【
図14】第1実施形態におけるドットの重なりを示す図である。
【
図15】光沢度と打ち込み量との関係を示す図である。
【
図16】第2実施形態におけるドットの連結数をカウントする方法を示す図である。
【
図17】第2実施形態における複数パスにより画像を記録する方法を示す図である。
【
図18】第3実施形態における記録データの形成方法を説明するフローチャートである。
【
図19】第3実施形態において複数パスにより画像を記録する方法を示す図である。
【
図20】第4実施形態におけるインクジェット記録装置の全体構成を示す図である。
【
図21】第5実施形態に設けられた記録ヘッドの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
(インクジェット記録装置の構成)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置(以下、単に記録装置という)100の構成を示す斜視図である。なお、
図1では、記録装置100の内部機構を説明するために、上部カバーを取り除いた状態を示している。
図1に示すように、記録装置100では、画像を記録すべき記録媒体104を矢印Fに示す搬送方向(副走査方向)に搬送する。記録媒体104の搬送は、副走査モータ205(
図2参照)によって動作する搬送手段によって行われる。
【0015】
また、記録装置100には、ガイドシャフト103が、記録媒体104の副走査方向Fと交差する主走査方向(S方向)に延在するように配置されている。本実施形態では、主走査方向(S方向)は、副走査方向(F方向)と直交する方向に定められている。記録ヘッド40(
図3参照)を搭載したキャリッジ101は、ガイドシャフト103に支持されながら、主走査モータ204(
図2参照)の駆動によって矢印S方向(主走査方向)に沿って往動及び復動(往復走査)する。キャリッジ101に搭載された記録ヘッド40は、キャリッジ101と共に主走査方向に移動する間に記録データに応じて記録媒体へのインクの吐出を行い、記録媒体104への記録を行なう。
【0016】
外部に接続されたホストコンピュータから記録動作コマンドが入力されると、記録媒体104が記録ヘッド40によって記録可能な位置まで給送される。その後、記録信号に伴ってインクを吐出しながら記録ヘッド40が主走査を行う。1回の主走査が終了すると、記録媒体が所定量搬送される。この主走査と、記録媒体の搬送動作(副走査)とを繰り返すことにより記録媒体104に記録すべき画像が完成する。なお、本実施形態の記録装置100では、記録ヘッド40が往路に沿って移動する場合と、復路に沿って移動する場合のいずれにおいてもインクを吐出して記録媒体104への記録を行う、いわゆる双方向記録方式を採用している。
【0017】
図2は、記録装置100の制御系の構成を示すブロック図である。記録装置100には、ホストコンピュータ206が接続されている。ホストコンピュータ206は、記録装置100の記録動作に関する情報を送信する。ホストコンピュータ206から送信された情報は、記録装置100の受信バッファ207によって一時的に格納され、蓄積される。
【0018】
記録装置100には、装置全体を制御するシステムコントローラ201が設けられている。システムコントローラ201は、受信バッファ207で受信した画像データの処理、及び記録装置の各部の動作制御を行う。システムコントローラ201には、以下に説明する種々の演算、取得及び制御等の処理を行う手段として機能するCPU、制御プログラムや後述のマスクを記憶するROM、及びCPUの処理に際しワークエリアとして用いられるRAM等が設けられている。
【0019】
また、記録装置100には、キャリッジ101を駆動するための主走査モータ204や記録媒体の搬送機構を駆動するための副走査モータ205が設けられている。システムコントローラ201は、主走査モータドライバ202を介して主走査モータ204の駆動を制御すると共に、副走査モータドライバ203を介して副走査モータ205を制御する。
【0020】
記録装置100は、画像を形成するための記録データを展開するためのフレームメモリ208を備える。フレームメモリ208は、記録装置100で使用する複数種類のインクのそれぞれに対応して設けられている。本実施形態では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のカラーインクに加え、記録媒体に付与されることにより金属光沢(銀色)を呈する光輝性インク(LU)が用いられる。よってこれらのインクに応じて5つのフレームメモリ208K、208C、208M、208Yが設けられている。
【0021】
さらに、記録装置100には、記録データを一時的に記憶するためのバッファ209が設けられている。バッファ209は、インクの種類毎に設けられている。ここでは、バッファ209K、209C、209M、209Y、209LUが設けられている。
【0022】
記録装置100に設けられた記録制御部210は、システムコントローラ201からの指令に応じて、記録ヘッドドライバ211を介して記録ヘッド40の動作を制御する。例えば、記録ヘッド40による記録速度や吐出するインク滴の数や位置などを記録制御部210が制御する。このように、本実施形態の記録装置では、システムコントローラ201と記録制御部210とにより、記録媒体への画像の記録を制御する記録制御手段が構成されている。
【0023】
以上の構成において、ホストコンピュータ206から供給される画像データは、受信バッファ207に転送されて一時的に格納され、システムコントローラ201によって各色のフレームメモリ208に展開される。次に、当前記展開された画像データは、システムコントローラ201によって読み出され所定の画像処理が施された後に、色毎にバッファ209に展開される。記録制御部210は、各バッファ内の画像データに基づいて記録ヘッド40の動作を制御する。
【0024】
(ヘッド構成)
図3は記録ヘッド40を構成する吐出口形成基板30の構成を吐出口側から観た模式図である。吐出口形成基板30には、インクを吐出する吐出口301が、副走査方向(S方向)に沿って複数配置されている。本実施形態では、1536個の吐出口301(No.0~No.1535の吐出口)が、副走査方向に沿って1インチ当たり1200個の密度(1200dpi)で配置されている。これら1536個の吐出口によって1つの吐出口列が形成されている。なお、
図3では、副走査方向における吐出口301の配置を容易にするため、吐出口30を千鳥状に配置している。
【0025】
(ヘッド構成)
図4は、記録ヘッド40を上面から見た状態を示す平面図である。本実施形態における記録ヘッド40は、
図3に示した吐出口形成基板30を5つ並設した構成を有する。5つの吐出口形成基板30は、記録装置で使用する5色のインクにそれぞれ対応している。すなわち、吐出口列401Kはブラックインクに、吐出口列401Cはシアンインクに、吐出口列401Mはマゼンタインクに、吐出口列401Yはイエローインクに、吐出口列401LUは光輝性インクに、それぞれ対応している。
【0026】
本実施形態において、カラー画像を記録する場合には、カラーインクを吐出する吐出口列401K、401C、401M、401Yそれぞれの一部の吐出口を用いる。具体的には、各吐出口列に設けられた1536個の吐出口のうち、副走査方向Fにおける下流側に位置する768個の吐出口(No.0~No.767の吐出口)を用いる。
【0027】
また、光輝性インクを用いて光輝性画像を形成する場合には、光輝性インクを吐出する吐出口列401LUの中の、副走査方向Fにおける上流側の吐出口(No.767~No.1535の吐出口)を用いる。従って、記録媒体104に対し、光輝性インクが最も先に付与され、次に、カラーのインク(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)が付与される。各吐出口から吐出されるインク(インク滴)の液量は、4ngである。
【0028】
以上のように構成された記録ヘッド40を主走査方向(S方向)に走査させつつ吐出口からインク滴を吐出させることにより、主走査方向には2400dpi、副走査方向には1200dpiの記録密度でドットが記録される。従って、記録媒体104における1200dpi四方の領域に対して、1つのドットを記録する状態を100%デューティとすると、最大で200%デューティまでの記録が可能になる。本実施形態では、カラーのインクについては、最大で200%デューティまでの記録を行い、光輝性インクについては、最大で100%デューティまでの記録を行う。
【0029】
なお、以下の説明において、記録ヘッド40の吐出口から吐出される1滴の光輝性インクのみが付与される記録媒体上の領域を単位領域と称し、これを画素ともいう。また、記録媒体上に設定される全ての単位領域(画素)の中で、インク滴を付与することによってドットが記録される単位領域を記録単位領域と称し、これを記録画素ともいう。
【0030】
(インクの組成)
ここで、本実施形態に適用する各インクの組成および精製方法を説明する。以下、「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り、質量基準である。
【0031】
<イエローインク>
(1)分散液の作製
以下に示す顔料10部、アニオン系高分子30部、純水60部を混合する。
・顔料:[C.I.ピグメントイエロー74(製品名:Hansa Brilliant Yellow 5GX(クラリアント社製)
・アニオン系高分子P-1:[スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(共重合比(重量比)=30/40/30)、酸価202、重量平均分子量6500、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム]
次に、上記の材料をバッチ式縦式サンドミル(アイメックス株式会社製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷を行いつつ12時間分散処理を行う。さらに、この分散液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を除去する。そして、最終調製物として、固形分が約12.5%、重量平均粒径が120nmの顔料分散体Iを得る。得られた顔料分散体を用いて、以下のようにしてインクを調製する。
【0032】
(2)インクの作製
以下の成分を混合し、十分に攪拌して溶解・分散後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フイルム株式会社製)にて加圧濾過して、インク1を調製する。
・上記で得た顔料分散体1:40部
・グリセン:9部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物(商品名:アセチレノールEH):1部
・1,2-ヘキサンジオール:3部
・ポリエチレングリコール(分子量1000):4部
・水:残部
【0033】
<マゼンタインク>
(1)分散液の作製
ベンジルアクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価300、数平均分子量2500のAB型ブロックポリマーを作り、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成する。また、このポリマー水溶液を100g、C.I.ピグメントレッド122を100gおよびイオン交換水を300g混合し、機械的に0.5時間撹絆する。次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理する。さらに、上記で得た分散液の遠心分離処理(12,000rpmで20分間の処理)を行うことにより、粗大粒子を含む非分散物を除去してマゼンタ分散液とする。得られたマゼンタ分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が5質量%であった。
【0034】
(2)インクの作製
インクの作製には、上記のマゼンタ分散液を使用する。これに以下の成分を加えて所定の濃度にし、これらの成分を十分に混合撹絆した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム株式会社製)にて加圧濾過し、顔料濃度4質量%、分散剤濃度2質量%のインクを調製する。
・上記マゼンタ分散液:40部
・グリセリン:10部
・ジエチレングリコール:10部
・アセチレングリコールEO付加物:0.5部
・水:残部
【0035】
<シアンインク>
(1)分散液の作製
ベンジルアクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価250、数平均分子量3000のAB型ブロックポリマーを作り、これを水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50質量%ポリマー水溶液を作成する。また、上記のポリマー溶液を180g、C.I.ピグメントブルー15:3を100gおよびイオン交換水220gを混合し、機械的に0.5時間撹拌する。次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、上記混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理する。さらに、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してシアン分散液とする。得られたシアン分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が10質量%であった。
【0036】
(2)インクの作製
インクの作製には、上記のシアン分散液を使用する。これに以下の成分を加えて所定の濃度にし、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム株式会社製)にて加圧濾過し、顔料濃度2質量%、分散剤濃度2質量%のインクを調製する。
・上記シアン分散液:20部
・グリセリン:10部
・ジエチレングリコール:10部
・アセチレングリコールEO付加物:0.5部
・水:残部
【0037】
<ブラックインク>
(1)分散液の作製
イエローインク1で使用したポリマー溶液を100g、カーボンブラックを100gおよびイオン交換水300gを混合し、機械的に0.5時間撹拌する。次に、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約70MPa下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理する。さらに、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去してブラック分散液とする。得られたブラック分散液は、その顔料濃度が10質量%、分散剤濃度が6質量%であった。
【0038】
(2)インクの作製
インクの作製には、上記ブラック分散液を使用する。ブラック分散液に以下の成分を加えて所定の濃度にし、これらの成分を十分に混合撹拌した後、ポアサイズ2.5μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過し、顔料濃度5質量%、分散剤濃度3質量%のインクを調製する。
・上記ブラック分散液:50部
・グリセリン:10部
・トリエチレングリコール:10部
・アセチレングリコールEO付加物:0.5部
・水:残部
【0039】
<光輝性インク>
本実施形態では、市販の銀ナノ粒子インクNBSIJ-MU01(三菱製紙株式会社製)を光輝性インクとして用いた。
【0040】
(光沢度の測定方法)
本実施形態では、光輝性インクによってドットが形成される記録画素の連結数に応じて、各記録画素におけるドットの重ね量を最適化することにより、光輝性インクによって形成される画像の光沢度を高めることを特徴としている。以下、記録媒体104上に形成される画像の光沢度を測定する測定装置及び測定方法について説明する。
【0041】
図5は、記録媒体に記録された画像の光沢度を測定するための測定装置500を示す図である。照明部501は、記録媒体54の表面を照明する。照明部501は、ハロゲン電球、キセノンランプ、超高圧水銀ランプ、重水素ランプ、LED、あるいは、これらのいずれか複数を組み合わせたものでもよい。
【0042】
光検出部502は、記録媒体503の表面からの正反射光を検出する。光検出部502に備わる検出器としては、単受光面形のフォトダイオード、光電管、光電子増倍管、多素子受光面形のSiフォトダイオードアレイ及びCCD等を用いることができる。また、光検出部502には、回折格子やプリズム等の分光部も備えられている。さらに、光検出部502は、記録媒体503の法線方向に対して、照明部501と反対側に同一角度傾いた位置(本実施形態では、入射角45°であるため反射角45°となる位置)の正反射位置に備えられる。照明部501および光検出部502は、それぞれ光学(レンズなど)系を備える構成でもあってもよい。本実施形態では、光検出部502に入射する光を制限するためのスリットを設け、記録媒体503上の直径1mmの領域から反射された光束のみを光検出部502に入射させることによって測定を行う。また、測定に際して記録媒体503は平坦な状態に保たれていることが望ましい。このため、測定装置には、記録媒体503はエアポンプによる吸引や静電吸着などの固定手段が設けられている。
【0043】
光検出部504は、照明部501の光を検出する。光検出部502は、光検出部502と同様の構成を有し、光沢度を算出するために、特に、照明部501の分光強度を測定する。この照明部501の分光強度は、完全拡散反射体などの白色板、または黒板ガラスなどの鏡面を測定対象として、その正反射光の分光強度を光検出部52で測定してもよい。あるいは、照明光をビームスプリットなどで分離して、光検出部52とは別の光検出部によって測定してもよい。なお、本発明においては黒板ガラスを用いた分光反射強度を1として分光反射強度を算出している。
【0044】
次に、測定した記録媒体の反射光から光沢度を算出する方法について説明する。
光検出部502によって測定される記録媒体503からの反射光の分光強度をRx(λ)とし、その分光強度Rx(λ)から、以下の式(1)によって、正反射光の三刺激値Xx,Yx,Zxを算出する。
【0045】
【0046】
但し、上記式(1)において、
図5の光学系では正反射光を測定するため、測定値のレンジは光源の測定値のレンジに近くなる。つまり、光源からの光を直接測光する測定系に類似している。
【0047】
従って、通常の反射による物体色の三刺激値の算出とは異なり、正反射光の分光強度を光源の相対分光分布とみなし、光源色の三刺激値の算出方法に従う。なお、式(1)のx ̄(λ)、y ̄(λ)、z ̄(λ)は、JIS Z 8782の等色関数である。また、本実施形態では、比例定数の乗算による正規化を行わないが、下式(2)のKを乗算する等の正規化を行ってよい。
【0048】
【0049】
光検出部504によって測定される照明の分光強度S(λ)から、下記の式(3)によって、照明の三刺激値Xs,Ys,Zsを算出する。式(3)は、光源色の三刺激値の算出方法に基づいており、上記照明の分光データから三刺激値Xs,Ys,Zsを算出する変換式である。
【0050】
【0051】
式(3)における、x ̄(λ)、y ̄(λ)、z ̄(λ)は、JIS Z 8782の等色関数である。また、式(3)のkは比例定数であり、三刺激値のYsの値が測光量に一致するように定める。
【0052】
次に、光検出部502で検出された評価対象となる記録媒体503の反射の三刺激値Xx,Yx,Zxと、光検出部504で検出された照明の三刺激値Xs,Ys,Zsを取得する。そして、これらの三刺激値Xx,Yx,Zxと三刺激値Xs,Ys,Zsから、JIS Z 8729規格で規定される式(1)ないし式(4)に基づいて、記録媒体503の反射光のCIE-Lab色空間におけるL*a*b*値を算出する。
【0053】
JIS Z 8729規格で規定される式(1)ないし式(4)は、例えば、JISハンドブック色彩(2001年1月31日、日本規格協会発行)に示されている。但し、JIS Z 8729の式(1)ないし式(4)におけるX,Y,Zの値には、記録媒体503の正反射光の三刺激値(Xx,Yx,Zx)を使用する。また、Xn,Yn,Znの値には、光源の三刺激値(Xs,Ys,Zs)を使用する。すなわち、L*、a*、b*の値は、以下の式(4)によって算出される。
【0054】
【0055】
以上の計算によって導かれたL*を光沢度として定義する。
【0056】
(光輝性インクの重ね量と光沢性の関係について)
本実施形態は、記録画素に対して光輝性インクの複数のドットを重ねて記録する処理を含むものである。そして、本実施形態では、光輝性インクによって1つのドットを記録する記録単位領域(記録画素)の連結数に応じて、各記録画素における光輝性インクのドットの重ね量を変化させることを特徴とする。換言すれば、記録媒体上に吐出された光輝性インクによって形成されるドットが互いに連結された状態となる領域の面積に応じて光輝性インクを重ねる量を変化させる。より具体的には、記録画素の連結数が少なく、光輝性インクのドットが連結された状態となる面積が小さい領域ほど、多くのドットを重ねて記録する。一方、記録画素の連結数が多く、光輝性インクのドットが連結された状態となる面積が大きい領域には光輝性インクを重ねない、または重ねる数を少なくするようにドットを間引く処理を行う。
【0057】
図6は光輝性インクの記録画素の連結数と、光輝性インクの重ね量と、光沢度との関係を示す図である。
図6(a)における項目601は、記録媒体における記録画素の連結数を示している。例えば、項目601に示される「2×2」は、記録媒体における4つの記録画素が隣接していることを示し、「4×4」は16個の記録画素が隣接していることを示している。なお、「1×1」は光輝性インクが付与されてドットが形成されている単一の記録画素を示している。
【0058】
また、
図6(a)の項目602に示される黒塗りの領域は、項目601に示される連結数に対応する領域を表している。黒塗りの領域に対応する全ての画素は、ドットを記録すべき記録画素により構成されている。図示のように、記録画素の連結数が多くなるほど、黒塗りの領域の面積は大きくなる。従って、黒塗りの領域の面積は、ベタ画像において最大となる。
【0059】
光輝性インクは、ラメ、パール等のメタリックパターンの形成に使用する場合は、記録画素の連結数を変化させることによってメタリックの風合いを変化させることが可能である。そのため、必要とされる風合いに応じて、記録画素の連結数を変化させる必要が生じる。
図6(a)の項目603は、同一の記録画素でドットを重ねて記録する回数(重ね量)を示す数値である。
【0060】
図6(a)の項目604に示される数値は、記録画素の連結数毎に、各記録画素に対してドットを1~6回重ねて記録した際に得られる光沢度を示している。なお、ここでは、メタリックパターンのように、光輝性インクが一様に連結したパターンで形成されている状態で測定を行った。
【0061】
図6(b)は一例として、
図6(a)の項目604における605で示される領域、つまり連結数が3×3、重ね量が4となる領域のドットの配置を示している。
図6(b)に示すように、9つの記録画素から構成される領域606には、各記録画素に4個のドット607が重ねて形成されている。
図6(a)に示す1つの升目は縦横1/1200inchの長さを有する画素、つまり1200dpiの画素を示している。
【0062】
図6(a)の項目604に示される光沢度の数値のうち、光沢度が最大化される値が太字で記載されている。図示のように、連結数が少ない場合には重ね量を多くとり、連結数が多い場合には重ね数を少なくすることにより、高い光沢度が得られる。これは以下のような原理によると推測される。
【0063】
図7(a)及び(b)は光輝性インクによって、ベタ画像(100%デューティの画像)を記録媒体700に形成した状態を示す断面図である。同図(a)は各画素に1つのドットを形成した場合(重ね量1の場合)を、同図(b)は各画素に4つのドットを重ねて記録した場合(重ね量4の場合)を、それぞれ示している。また、
図7(c)は、同図(a)の拡大図、
図7(d)は同図(b)の拡大図である。
【0064】
約4ngのインク滴によって記録媒体上に形成されるドットのドット径は約35μmであり、1画素の縦の幅及び横の幅(1/1200inch)よりも十分に大きい。そのため、
図7(a)に示すように、重ね量1で記録した場合においても、100%のデューティであればドットはある程度重なっている。このため、
図7(a)に示す状態においては、十分に金属光沢が発現している。本実施形態で用いる光輝性インクは、銀ナノ粒子を含むインクであ。この光輝性インクが紙等の多孔質材により形成される記録媒体700の表面に付与された場合、光輝性インクに含まれる水分が記録媒体700の表面から無くなることにより、銀ナノ粒子702同士が密接して融着する。これにより金属光沢が発現する。この際、銀ナノ粒子702の分散に用いている分散ポリマーや残留溶剤703は、水分とともに記録媒体700の中に入り込むと推測される。
【0065】
一方、光輝性インクのドットを4個重ねた領域では、光輝性インクが十分に記録媒体の表面上に残るが、この場合も銀ナノ粒子は互いに密接して融着し、より厚い層を形成する。銀ナノ粒子702の層が厚くなることにより、銀ナノ粒子の密接状態は高まり、銀ナノ粒子はより強力に融着する。その結果、分散ポリマーや残留溶剤703は銀ナノ粒子層の上にも残留する。分散ポリマーや残留溶剤703は有機物であり、金属光沢ほどの光沢度を有さないため、表面に残った分散ポリマーや残留溶剤が、形成された画像の光沢度を低下させる。
【0066】
図8(a)および(b)は、光輝性インクによって記録媒体700における1つの画素にドットを形成した状態を示す断面図である。同図(a)は1つの記録画素のみに、1つのドットを形成した状態を示し、同図(b)は1つの画素のみに複数のドット(図では4ドット)を重ねて形成した状態を示している。また
図8(c)は同図(a)の拡大図、
図8(d)は同図(b)の拡大図である。
【0067】
図8(a)、(b)に示すように、記録媒体800の表面方向において他のドットとの連結がない独立したドットを形成した場合、光輝性インクドットは周囲のドットとの重なりを持たない。そのため、
図8(a)に示すように、重ね量が1のドットのみを形成した場合、銀ナノ粒子802の粒子密度が低く、
図8(c)に示すように、粒子同士が十分に融着しない。本実施形態で用いられる銀ナノ粒子は粒子径が数十ナノメートルであり、可視光の長さに対して十分に短い。そのため、自由電子の移動が十分に行なわれず、強い反射を実現することができない。
【0068】
一方、
図8(b)に示すように、独立したドットに4ドットを重ねた場合には、
図8(b)に示すように、十分な量の銀ナノ粒子802が1画素に集中するため、銀ナノ粒子同士が十分に結合し、自由電子が十分に移動することが可能になる。このため、強い反射、つまり高い金属光沢が発現する。なお、この場合、分散ポリマーや溶剤803はドットの周囲を経由して記録媒体800中に浸透していくことが推測される。
【0069】
以上のメカニズムにより、記録画素の連結数が多い場合には各記録画素におけるドットの重ね量を減らし、記録画素の連結数が少ない場合にはドットの重ね量を増すことにより、高い金属光沢を実現することが可能となる。また、記録画素の連結状態が縦2画素、横2画素であるような場合には、各画素に対するドットの重ね量が1ドットであったとしても、
図8に示すような独立したドットと比較して、隣接する画素のドット同士に重なりが生じる。そのため最適な金属光沢を有するドットを形成するための重ね量は、単独ドットを形成する場合よりも少なくなる。
【0070】
以上のような光輝性インクの特徴に基づき、本実施形態では以下のような方法で記録動作を行うことにより、優れた光沢度を有する画像を得る。本実施形態では、以下に説明するマスクを用いて記録データのマスク処理を行い、各画素におけるドットの重ね量を制御する。なお、以上の説明では、1画素のサイズを、縦、横ともに1200dpiとしたが、以下の説明において、カラーインクについては、縦1200dpi、横2400dpiの密度で記録を行うことを想定して説明を行う。これにより、カラーインクについては、最大200%デューティで記録することが可能になり、カラーインクの付与量を増やすことにより高濃度の画像記録を実現することが可能になる。また、光輝性インクに関しては、縦1200dpi、横1200dpiの密度で記録を行う。すなわち、本例では、1200dpiより高い出力解像度で光輝性インクを付与することはない。但し、以下に説明する重ね量の制御において、画像データの処理は、カラーインク、光輝性インクのいずれにおいても、縦1200dpi、横2400dpiを単位として処理を行う。
【0071】
(画像処理)
次に、第1実施形態において実行される画像処理を、
図9のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、
図9において、各処理工程の番号に付された“S”は、ステップを意味する。
【0072】
本実施形態では、4色(K、C、M、Y)のカラーインクを用いて形成する画像(C、M、Y、K画像)に対応する画像データとして、それぞれ8bit(0~255)のデータを用意する。また、光輝性インクを用いて形成する画像に対応する画像データとしては8bitの画像データを用意する。
【0073】
図9(a)は、K、C、M、Yの画像データを処理する手順を示すフローチャートである。
図9(a)において、K、C、M、Yの画像データ901が入力されると、ディザパターン等の多値量子化処理(S1)に従って、画素毎に9値を表す4bitのデータ902が生成される。この4bitのデータ902はインデックスデータと呼ばれ、このインデックスデータに基づきインデックス展開処理(S2)が行われる。インデックス展開処理では、
図10(a)のルールに従って、2値化された記録データが生成される。
【0074】
図10(a)において、左側の2進数はインデックスデータを示し、右側のパターンはインデックスデータに対応するドットの配置パターン(以下、インデックスパターンともいう)を示す。
図10(a)の右側のパターンを示す図において、実線で囲まれた領域は縦600dpi、横600dpiの領域を示している。また、縦600dpi、横600dpiの領域の中に定められた8個の領域(破線で囲まれた長方形の領域)は横2400dpi、縦1200dpiの領域を示しており、この領域を、記録データを扱う上での画素(以下、単位画素という)とする。
【0075】
カラーインクにより形成される画像を表す記録データは、
図10(a)に示すインデックスデータに基いて生成される。例えば、“0001”である場合には、縦600dpi、横600dpiの領域の中に定められた8つの単位画素のうち、左上の1つの単位画素にドットを形成する記録データが生成される。また、インデックスデータが“0010”である場合には、8つの単位画素のうち左上の1つの単位画素と右下の1つの単位画素にそれぞれドットを形成する記録データが生成される。このようなインデックデータを用いることにより、出力画像データを圧縮することが可能となる。例えば、横2400dpi、縦1200dpiの画素の全てに対して、ドットの有無を情報として持つと8bitのデータが必要となるが、インデックスデータは4bitのデータのみを扱うため、データの圧縮が可能になる。
【0076】
一方、
図9(b)は、光輝性インクにより形成される画像(光輝性画像)を表す画像データ(光輝性画像データ)を処理する手順を示すフローチャートである。
図9(b)に示すように、光輝性画像データについても、K、C、M、Yの画像と略同様の手順で処理が行われる。すなわち、8bitの光輝性画像データ906は、多値化処理(S11)によって量子化され、4値を表す2bitのインデックスデータ908となる。光輝性インクは、縦600dpi、横600dpiの領域に定められる4画素のそれぞれに対して付与される。つまりインデックスデータ908は、600dpiの領域に対応した2bitのデータとなる。このインデックスデータ908に基づき、S12でインデックス展開処理が行われる。インデックス展開処理S12は、
図10(b)のルールに従って2値化された記録データ908が生成される。
図10(b)においても、左側の2進数はインデックスデータを示し、右側はインデックスデータに対応するドットの配置を示している。
【0077】
図10(b)に示すように、インデックスデータが、例えば、“01”である場合には、縦600dpi、横600dpiの領域の中に定められた8つの単位画素のうち、左上の1つの単位画素にドットを形成する記録データが生成される。また、インデックスデータが“10”である場合には、8つの単位画素のうち、下側に位置する4つの単位画素の中の最も左側に位置する単位画素と、同じく下側の左から3番目に位置する単位画素とにドットを形成する記録データが生成される。
【0078】
(記録動作)
本実施形態では、記録媒体上の同一の領域に対して、記録ヘッド40の主走査を複数回行う、いわゆるマルチパス記録方式によって記録を行う。本実施形態では、記録媒体上の同一領域に対して記録ヘッド40が16回主走査を行う16パス記録を実行する。以下、マルチパス記録方式について簡単に説明する。
【0079】
マルチパス記録方式では、記録ヘッドが1回の主走査で記録可能な画像データを、予め用意されているマスクパターンに従って間引き、複数回の主走査によって段階的に画像を完成させていく。
【0080】
図11(a)は、マルチパス記録方式を説明するための模式図である。ここでは、説明を簡略化するため、32個の吐出口を有する吐出口列110を用い、8回の走査(8パス)によって画像を完成させるマルチパス記録方式を例に採り説明する。
【0081】
8パスのマルチパス記録方式の場合、吐出口列110は、8つの領域(領域1~領域8)に区分される。各領域は4つの吐出口によって構成される。また、1101a~1101hは、記録ヘッドの領域1~領域8のそれぞれに用いられるマスクパターンを示している。マスクパターン1101a~1101hのそれぞれは、ドットの記録を許容する記録許容画素(黒で示した画素)とドットの記録を許容しない非記録許容画素(白で示した画素)とを定めた縦4画素、横4画素(4×4画素(合計16画素))の領域を有している。これら1101a~1101hのマスクパターンを重ね合わせることにより、記録許容画素が補完される構成となっている。
【0082】
実際に記録を行う際には、個々の吐出口に対応する2値の画像データ、すなわちドットの記録または非記録を表す記録データと、マスクパターンとの間で論理積演算を行い、その結果に基づいて、各吐出口においてインクの吐出動作が行われる。なお、ここでは説明を簡略化するため、4×4画素の領域を有するマスクパターンを示しているが、実際のマスクパターンは縦(副走査方向)にも横(主走査方向)にも、さらに大きな領域を有するものが使用される。なお、以下の説明において、記録ヘッドによりインクを吐出させつつ行う主走査を記録走査という。
【0083】
1102a~1102hは、記録走査を重ねていくことによって記録媒体に画像が完成されていく様子を示している。各記録走査において、吐出口列110の領域1~8は、マスクパターン1101a~1101hによって記録が許容された画素に対してのみ記録を行い、各記録走査が終了する度に、各領域の幅に対応した長さだけ、記録媒体が副走査方向に搬送される。このような構成により、記録媒体の単位走査領域(吐出口列の各領域の幅に対応する記録媒体上の領域)に記録すべき画像は、記録ヘッドの8回の記録走査によって完成する。
【0084】
このようにマルチパス記録では、吐出口列の中の異なる複数の領域が、記録媒体の各単位走査領域を順次走査することにより画像を完成させる。このため、吐出口列における各吐出口の吐出特性のばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつきが分散され、濃度むらやスジを低減させることができる。
【0085】
図11(b)は、複数回の記録走査によって同一の画素に複数個のドットを重ねて記録する、いわゆる重ね打ち記録を実施する状態を示す図である。この場合にも、
図10(a)と同様に、記録データとマスクパターンとの論理積演算によって得られた記録データに基づいて記録動作が行われる。但し、重ね打ち記録の場合、複数回の走査の中で、同一の画素に対し異なる領域に属する吐出口からインク滴が吐出され、ドットの上にドットが重ねて記録される。例えば、画素1103には、全8回の記録走査の中の4回の記録走査においてインク滴が付与され、4つのドットが重ねて記録される。また、画素1104の位置には全8回の記録走査の中の3回の記録走査において同一の画素にインク滴が付与され、3つのドットが重ねて記録される。
図10(c)は、8回の記録走査によって、記録媒体上の4×4画素(合計16画素)の領域において、それぞれの画素に記録されたドットの数を示している。
【0086】
なお、実際の記録走査においては、
図9のフローチャートに示す処理によって得られたCMYKの画像データ905および光輝性画像の画像データ910とマスクとの論理和によって記録画像が決まる。つまり1103の位置に
図10(b)の記録データが存在する際に4回の重ね記録が実行される。
【0087】
図12は、
図3及び
図4で示した記録ヘッド40を用い、マルチパス記録方式によって画像を記録する様子を示す図である。
図12に示す例では、記録ヘッド40の吐出口列が記録媒体の同一箇所を16回走査する。但し、光輝性インクで記録すべき画像は、吐出口列の中の領域403のみを用いた8回の記録走査によって記録する。また、カラーインクで記録すべき画像は、吐出口領域402を用いた8回の記録走査によって記録する。このように、同一の走査領域に対して、記録ヘッドの吐出口列が、記録を伴う8回の記録走査と記録を伴わない8回の主走査とを行うため、ここでは、このマルチパス記録を16パス記録と称す。なお、本明細書において、記録ヘッドによる走査とは、記録ヘッドが記録媒体の搬送方向と交差する方向(本実施形態では直交する方向(主走査方向))へ移動することを意味し、移動中に記録ヘッドからインクが吐出されているか否かを問わない。これに対し、前述の記録走査は、記録ヘッドがインクを吐出しつつ主走査方向へと移動することを意味し、単なる走査と区別することとする。
【0088】
図12(a)は、96個の吐出口の配列幅に相当する領域1201aに対し、光輝性インクを吐出する上流側吐出口列403によって、1回目の記録走査が行われた状態を示している。1回目の記録走査が終了すると、96個の吐出口の配列幅に相当する距離だけ記録媒体104が副走査方向へと搬送され、その後再び記録ヘッド40の主走査が行われる。この記録媒体の搬送(副走査)と記録ヘッド40の主走査とを繰り返すことによって画像が段階的に記録されていく。
【0089】
図12(b)は、9回目の記録走査が行われた状態を示している。
図12(a)に示す1回目の記録走査から9回目の記録走査が行われるまでに、記録媒体104の記録領域1201aには、上流側吐出口列403によって8回の記録走査が行われる。この8回の記録走査により、記録領域1201aに記録すべき光輝性画像が完成する。そして、
図10(b)に示す9回目の記録走査からは、下流側吐出口列402によってカラー画像の記録が開始され、既に形成されている光輝性インク画像の層の上にカラー画像が形成される。9回目から16回目までの8回の記録走査によってカラー画像が完成する。以上により、光輝性インクとその上に重なるカラーインクとにより、メタリックカラー画像が形成される。
【0090】
図13(a)ないし(c)は、本実施形態において、16パス記録に適用する記録ヘッド40の吐出口列と、マスクのマスクパターンを示す図である。
図13において、吐出口列1910は光輝性インクを吐出する吐出口列である。また、吐出口列1920はカラーインクを吐出する吐出口列である。本実施形態では、4色のカラーインク(ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)のそれぞれに対応して4本の吐出口列1920が配置されている。
【0091】
記録ヘッド40に設けられた吐出口列1910,1920のそれぞれは、副走査方向(F方向)において、16個の領域R1~R16に区分されており、各領域内には96個の吐出口eが配置されている。光輝性インクによって記録を行う場合には、領域R1ないしR8からなる吐出領域1911内の吐出口eから光輝性インクを吐出して記録を行う。また、カラーインクを用いて記録を行う場合には、領域R9ないしR16からなる吐出領域1921内の吐出口eからカラーインクを吐出して記録を行う。
【0092】
また、光輝性画像を記録する際には、
図13(c)に示すマスク1903が用いられ、カラー画像を記録する際には、
図13(d)に示すマスク1904が用いられる。各マスク1903、1904は、それぞれ8回の記録走査によって全ての画素にドットを記録することが可能となるように、相補的に記録画素(
図13(b)、(c)に示す黒塗りの升目)を配置したマスクパターンを有している。ここで、マスク1904のマスクパターン1904a~1904hは、カラーインクを吐出する吐出口列1920の領域R9~R16に対応し、マスク1903のマスクパターン1903a~1903hは、光輝性インクを吐出する吐出口列1910の領域R1~R8にそれぞれ対応している。このマスク1903、1904によって記録媒体上の各画素に対するインクの付与順、及び重ね量が制御される。
【0093】
本実施形態では、カラーインクを用いた記録動作において、各画素に対して同一色のインクドットを重ねて記録することはない。これに対し、光輝性インクを用いて記録を行う場合には、
図11(b)、(c)の例で述べたように、同一の画素に対してドットを重ねて記録する場合がある。このため、光輝性インクに用いられるマスク1903は、記録画素(黒塗りの升目)が重複する位置に配されているものが含まれている。なお、
図13(b)、(c)に示すマスク1903、1904では、縦4画素、横4画素(4×4画素)のマスクパターンを示しているが、本実施形態では、簡易的に、4×4画素のマスクパターンを縦方向および横方向に繰り返すマスクを使用する。
【0094】
(インク付与量と重ね量との関係)
前述のように本実施形態では、インデックスデータに基づいてドットの配置を決定するインデックスパターンとして、
図10(b)に示したものを用いる。
図10(b)では、縦2画素、横4画素の領域に対応するインデックスパターンを示しているが、ここでは、簡易的に縦方向および横方向に、
図10(b)に示すインデックスパターンを繰り返すこととする。
【0095】
図14(a)ないし(c)は、
図10(b)に示すインデックスパターンによって生成された記録データと、
図13(b)、(c)に示すマスクパターンとを用いて記録動作を行った際に、各画素に形成される光輝性インクのドットの配置と重ね量を示す図である。
【0096】
25%デューティの記録を行なう場合、インデックスデータは“01”となる。また、インデックスパターンとしては、
図10(b)の実線で囲まれた領域(縦600dpi×横600dpi)の中に1つの画素にドットを形成するものが用いられる。つまり、
図10(b)に示す4つのインデックスパターンのうち、最も階調が低いインデックスパターンが用いられる。
【0097】
図10(b)に示すインデックスパターンと
図13(c)に示すマスクパターンとは同期しており、一番階調の低いインデックスパターンのドットの形成位置(
図10の1001の位置)は、
図13(c)に示すマスク1903における画素1905の位置に対応している。従って、8回の記録走査によって画素1905には、ドットが4回重ねて記録されることとなる。
【0098】
図14(a)は、25%デューティで記録を行った場合におけるドットの記録状態を示す図である。25%デューティで記録を行った場合、ドットは記録媒体の表面方向において孤立した位置に記録される。この場合、ドットが記録される記録画素の連結数は、
図6(a)における1×1の状態となり、ドットは同一の記録画素に対して4回重ねて記録される。これにより、
図6(a)に示すように、好ましい光沢度が得られる。
【0099】
また、50%デューティで記録を行う場合、インデックスデータは“10”となり(
図6(b)参照)、これに対応するインデックスパターンの記録データが生成される。この記録データとマスクパターン1905との組み合わせに従って、8回の記録走査を行うことにより、実際のドットの記録状態は、
図14(b)のようになる。この場合、各記録画素に対して3個のドットが重ねて記録される。なお、
図14(b)に示すドット配置の場合、記録媒体の表面方向において隣接するドット同士が重なる量は、
図6(a)に示す記録画素の連結数が2×2となる場合に比べてやや少なくなる。しかし、
図14(b)に示すドット配置にあっても、各記録画素に3ドットを重ねて記録することにより、好ましい光沢度が得られることが確認された。従って、50%デューティで記録する場合には、ドットを3回重ねて記録を行うようにマスクパターンを設定している。
【0100】
また、100%デューティで記録を行う場合、インデックスデータは“11”となり、これに対応したインデックスパターンとマスクパターンとの組み合わせに従ってドットが配置される。これにより、実際のドットの配置状態は、
図14(c)に示すようになる。図示のように、100%デューティでは、記録媒体の表面方向において隣接するドットが互いに連結された状態となるため、ドットの重ね記録は行わない。これによって良好な反射強度を得ることが可能になる。すなわち、
図14(c)に示すようにドットが互いに連結された状態では、金属粒子が互いに連結されるため、自由電子が十分に移動可能になる。さらに、ドットを重ねて記録しないため、金属粒子の上面に残留する分散ポリマーや溶剤の量を抑えることができる。そのため、良好な反射強度を得ることができる。
【0101】
(本実施形態と従来技術との比較)
図15は、記録媒体に光輝性画像を記録する際の光輝性インクの記録率(デューティ)と、光沢度との関係を示す図であり、横軸は光輝性インクの記録率を、縦軸は光沢度をそれぞれ示している。また、
図15において、実線は本実施形態による記録例を、破線は従来技術による記録例をそれぞれ示している。従来技術は、1つの記録画素に対して複数のドットを重ねて記録することはせず、各記録画素に対して1つずつドットを記録するものとなっている。これに対して、本実施形態では、前述のようにデューティに応じてドットの重ね量を変化させて記録を行う。
【0102】
本実施形態と従来技術のいずれにおいても、低いデューティで記録された領域の光沢度は、高いデューティ(例えば100%デューティ)で記録された領域の光沢度に比べて低い値になっている。これは、低デューティで記録された領域には、光輝性インクが付与されていない箇所が存在するためである。但し、本実施形態においては、低デューティで記録されている領域(記録画素)には、重ねてドットが形成されるため、1つの記録画素に1つのドットのみが形成される従来技術に比べ、ドットが重ねて記録された記録画素は強い反射強度を発現する。このため、本実施形態により形成された光輝性画像は、従来技術により形成された光輝性画像に比べて強い光沢度が得られる。
【0103】
なお、本実施形態においては、カラーインクは200%デューティまでの付与を行うのに対して、光輝性インクは100%のデューティまでしか付与しない。これは、100%デューティで記録を行った場合、記録媒体の表面は金属粒子によって覆われており、これ以上の付与を行うと分散ポリマーや溶剤が表面に残留し易く、却って光沢度が低下するためである。
【0104】
また、本実施形態においては、インデックスデータの値(“01”“10”“11”)に対応するようにドットの重ね量を4、3、1と変化させた。この重ね量は、実験的に一番光沢度が高くなるように設定した値である。従って、インクの組成や記録媒体等によっては、重ね量の値を変化させてもよい。
【0105】
[第2の実施形態]
次に本発明の第2実施形態を説明する。上記第1実施形態では、インデックスデータに対応するインデックスパターンに対し、
図13に示すマスクを用いてドットの重ね量を決定する例を示した。これに対し、第2実施形態では、実際の光輝性インクのドットを記録すべき記録画素の配置に基づき各記録画素に対するドットの重ね量を決定する。
【0106】
本実施形態においても第1実施形態と同様に、
図9に示す処理によって光輝性インクにより記録すべき画像の記録データが生成される。生成された記録データは、
図2におけるバッファ209LUに格納される。なお、ここでは光輝性インクによる記録解像度を縦、横のいずれにおいても1200dpiとしている。すなわち、記録単位領域(画素)のサイズを1200dpiとしている。本実施形態では、バッファ209LUに格納された、これから記録すべき画像の記録データに基づいて記録画素の縦方向の連続数および横方向の連続数に基いて各記録画素の連結数を求め、その連結数に基づいてドットの重なり量を決定する。以下、具体的な方法を説明する。
【0107】
図16は、光輝性インクによって記録すべき画像の一部を示す図である。
図16に示される1つの升目は縦、横1200dpiの画素を示しており、黒塗りの画素は、ドットが記録される画素(記録画素)を表し、白抜きの升目は、ドットが記録されない画素(非記録画素)を表している。
【0108】
図16(a)に示す例では、画素1601に対応する記録データからスキャンを開始し、スキャンした記録データがドットを記録するデータ(ドットデータ)であるか、ドットを形成しないデータ(非ドットデータ)であるかを判定する。そして、ドットデータであると判定された場合には、そのドットデータの連続数をカウントすることにより、記録画素の連続数が取得される。例えば、1602に示す領域には、記録画素が横方向において2個連続している。従って、領域1502の横方向の2画素に対応する記録データは、連続した2個のドットデータとなっている。この2個の連続するドットデータをカウントすることにより、領域1502の横方向の記録画素の連続数は2に定められる。続いて画像の縦方向についても記録データのスキャンを行い、縦方向における記録画素の連続数を取得する。例えば、前述の領域1502には、記録画素が縦方向において2個連続している。このため、記録画素に対応するドットデータは縦方向において2個連続しており、この連続するドットデータをカウントすることにより、領域1502の縦方向における記録画素の連続数は2に定められる。
【0109】
このようにして取得された、横方向における記録画素の連続数(横の連続数)と縦方向における記録画素の連続数(縦の連続数)とに基づき、各記録画素の連結数を以下のように算出する。
連結数=横の連続数×0.5+縦の連続数×0.5 (式5)
【0110】
0.5を乗算するのは、縦の連結数と横の連結数とで、最終的に得られる連結数の値が2倍になるのを相殺するためである。
図16(b)において、ドットを記録すべき領域に記載された数値は、横方向における記録画素の連続数のみに基づいて式5の演算により求めた連結数を示している。また、
図16(c)は、横の連続数と縦の連続数とに基づいて式5の演算により求めた連結数を示している。
【0111】
次に、上記のようにして取得した連結数に基づいて各画素におけるドットの重ね量を決定する。表1は、連結数と重ね量との関係を示す図である。表1に従って各連結数に応じて好ましい重ね量が設定される。
【0112】
【0113】
以上の処理によって、記録画素毎にドットの重ね量が決定される。
【0114】
(記録動作)
第2実施形態においては12パス記録を行う。カラーインクは8パス記録に対応した1024個の吐出口を使用し、各光輝性インクは4パス記録に対応した512個の吐出口を使用する。以下、
図17に基づき、本実施形態における記録動作を説明する。
【0115】
図17(a)は、光輝性インクを吐出する吐出口列によって1回目の記録走査が終了した状態を示す図である。本実施形態では、光輝性インクによって記録すべき画像の記録データに対し、
図13に示すマスクを使用せず、予め取得した重ね量に従って記録動作を行う。
【0116】
図17(a)は、1回目の記録走査が終了した状態を示している。この1回目の記録走査では、領域1701a内に存在する全ての記録画素に対してドットの記録を行う。
【0117】
図17(b)は、2回目の記録走査が終了した状態を示す図である。2回目の記録走査では、領域1701aに対して、光輝性インクのドットの重ね量が2以上となる画素のみを記録する。この領域1701aに対する記録は、吐出口列401LUの中の領域403を用いて行う。さらに3回目の記録走査では、3ドット以上重ねる記録画素に対してのみドットを記録し、4回目の記録走査では、4ドットを重ねて記録する記録画素に対してのみドットを記録する。以上のような記録動作を行うことによって、表1に記録されているドットの重ね量で光輝性画像を記録することが可能になる。この後、カラーインクを吐出する吐出口列401K,401C,401M,401Yの中の領域402を用いて8パス記録を行う。
【0118】
以上のように、第2実施形態においても、記録画素の連結数に応じた重ね量でドットを形成するため、第1実施形態と同様に、良好な光沢度を有する光輝性画像およびメタリックカラー画像を形成することができる。
【0119】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態では、形成すべき画像の色調毎に予め定められたパターンで光輝性インクのドットを記録する例を示す。光輝性インクを装飾用に用いる場合には、光輝性インクによって形成される領域の大きさ(記録画素の連結数)が予め定められていることが多い。例えば、細かい金属装飾を施すパール調の画像ではドットを記録すべき画素(記録画素)の連結数が小さな値に定められ、大きな金属装飾を施すラメやメタリック調の画像では、記録画素の連結数が大きな値に定められている。また、光輝性インクの上から付与するカラーインクの種類や付与量も固定化されている場合が多い。本実施形態では、光輝性インクによってドットを記録する記録画素の連結数が、形成すべき画像の色調(パターン)毎に予め固定化されている場合に、パターン毎に定めた重ね量でドットの記録を行う。
【0120】
表2は、予めユーザが選択する光輝性インクの記録パターンの一例を示している。
【0121】
【0122】
表2に示すように、本実施形態では、光輝性インクによって記録されるパターンとして、パールパターン1、パールパターン2、ラメパターン1、ラメパターン2、ラメパターン3が挙げられている。各パターンには、それぞれ光輝性インクによって形成するドットが記録される記録画素の好ましい連結数と、その連結数に応じた好ましいドットの重ね量が予め定められている。さらに、光輝性インクのドットの重ね量に応じて、光輝性インクの吐出に使用する吐出口の数(吐出口列の長さ)、及びカラーインクの吐出に使用する吐出口の数(吐出口列の長さ)が定められている。すなわち、光輝性インクのドットの重ね量が多い場合には、光輝性インクの吐出に使用する吐出口の数は多くなり、カラーインクの吐出に使用する吐出口の数は少なくするように設定されている。
【0123】
例えば、パールパターン1の画像を記録する場合、記録画素の連結数は1×1に、光輝性インクのドットの重ね量は4にそれぞれ定められている。さらに、光輝性インクによる4回の記録走査を512個の吐出口402を用いて行い、カラーインクによる8回の記録走査を1024個の吐出口を用いて行うことも定められている。
【0124】
また、パールパターン2の画像を記録する場合、光輝性インクのドットを記録する記録画素の連結数は2×2に、光輝性インクのドットの重ね量は4に、それぞれ定められている。この場合、光輝性インクによる3回の記録走査で417個の吐出口を用い、カラーインクによる記録を1112個の吐出口を用いて行うことが定められている。
図18は、上記のように予め定められた光輝性インクによる画像を記録するためのデータの作成方法を示すフローチャートである。
【0125】
ユーザが形成しようとするパターンを選択すると、選択されたパターンに応じて、メタリックカラー画像を記録するためのデータ1807および光輝性画像を記録するためのデータ1808を読み出す(S31)。ここで、データ1808には、選択されたパターンに応じて定められた光輝性画像を記録するための2値の光輝性画像データ(記録データ)1809と、予め定められた光輝性インクのドットの重ね量を表すデータとが含まれる。また、データ1807は、光輝性画像のドットの上にカラーインクのドットを記録するためのメタリックカラー画像用の2値のカラー画像データである。このカラー画像データは、光輝性インクの2値の画像データ1809によって規定されるデータである。
【0126】
一方、カラー画像を記録するための2値の記録データの生成は、次のように行う。まず、
図9(a)と同様に、多値量子化処理(S21)及びインデックス展開処理(S22)を実行してC,M,Y,Kの2値のカラー画像データを生成する。次に、S22で生成された2値の画像データと、前述の光輝性画像データ1808に規定される2値のカラー画像データ1807との論理和演算処理を行う(S23)。これによってカラー画像に対応する2値の画像データ(記録データ)1805が生成される。以上のようにして生成されたカラーインクによって記録されるカラー画像に対応する記録データ1805と、光輝性インクによって記録される光輝性画像に対応する記録データとに基づいてメタリックカラー画像の記録が行われる。
【0127】
(記録方法)
図19は、表2に示すパターンの一例としてパールパターン2を選択した際に行われる記録動作を示す図である。本実施形態においても前述の第2実施形態と同様に光輝性インクの画像データに対するマスク処理は行わずにドットの記録を行う。但し、本実施形態では光輝性インクを記録すべき全ての画素に対し、予め定めた重なり量に応じてドットの記録を繰り返し行う。
【0128】
図19(a)は、1回目の記録走査によって領域1901aに光輝性インクによる記録が終了し、次の2回目の記録走査が開始する直前の状態を示している。この状態では、領域1901a内の画素のうち、光輝性インクのドットを記録すべき全ての記録画素に対して1個ずつ光輝性インクのドットが記録されている。その後、領域1901aには、第2回目の記録走査と第3回目の記録走査のそれぞれにおいて、光輝性インクのドットを重ねて記録する。
図19(b)は、3回目の記録走査が終了した状態を示している。この段階で、領域1901a内の各記録画素には光輝性インクのドットが3個重ねて記録されている。そして、次の記録走査でカラーインクの付与が開始される。
【0129】
以上のように本実施形態では、3回の記録走査によって光輝性インクのドットを3個重ねて記録した後、カラーインクを付与する。これにより、表2に定められたパールパターン2の記録が行われる。このように表2に定められた内容に従って記録動作を行うことにより、第1実施形態および第2実施形態と同様に光沢性の高い画像を記録することができる。
【0130】
なお、本実施形態においては、光輝性インクのドットの重ね量と同数の記録走査を行なう例を示した。すなわち、3個のドットを重ねて記録する場合には、3回の記録走査を実行する例を示した。しかし、
図11に示すようなマスクを用いることにより、記録走査の回数とは異なる重ね量でドットを記録することも可能である。例えば、4回以上の記録走査によって3個のドットを重ねるような記録を行うことも可能である。
【0131】
[第4実施形態]
第1ないし第3実施形態においては、主走査と副走査とを繰り返して記録することにより、光輝性インクのドットを重ねて記録する例を示した。しかし、
図20に示すような構成を有する記録装置であれば、副走査のみでも光輝性インクのドットを重ねて記録することが可能であり、上記実施形態と同様に良好な光沢度の画像を形成することができる。
【0132】
図20は、記録媒体の幅方向の全域に対応した長さを有する記録ヘッド2002を用いて記録を行う、いわゆるフルラインタイプの記録装置2000を示す斜視図である。本実施形態では、この記録装置2000によって光輝性インク及びカラーインクを用いた記録動作を行う。
【0133】
記録装置2000には、記録媒体2001への記録を行う記録ヘッド2002として、5種類の記録ヘッド2002LU、2002C、2002M、2002Y、2002Kが、記録媒体の搬送方向である副走査方向(F方向)に沿って並設されている。これらの記録ヘッド2002LU、2002C、2002M、2002Y、2002Kはそれぞれ、光輝性インク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクを吐出可能とする。各記録ヘッドには、記録領域の全幅にわたって配置された複数の吐出口からなる吐出口列が、記録媒体の搬送方向である副走査方向に沿って複数列配置されている。以上の構成を有する記録ヘッド2002は、記録動作中、定位置に保持されている。
【0134】
また、本実施形態における記録装置2000には、記録媒体を副走査方向(F方向)に搬送する搬送手段として搬送ベルト2003が設けられている。搬送ベルト2003は巡回移動する無端ベルトによって構成されている。給紙ガイド2004から供給された記録媒体2001は、搬送ベルト2003の移動によって排紙ガイド2005へ向けて連続的に搬送される。搬送されてきた記録媒体に対して記録ヘッド2002は吐出口からインク滴を吐出して画像の記録を行う。
【0135】
本実施形態では、各記録ヘッドは8列の吐出口列を有している。このため、搬送ベルト2003によって記録媒体が各記録ヘッドを一回通過する間に、シリアル型の記録装置における8回分の記録走査に相当する記録を行うことが可能である。従って、記録媒体2001の1回の搬送動作の間に、記録ヘッド2002LUに設けられた8つの吐出口列によって同一の画素に対し最大8個のドットを重ねて記録することができる。このため、上記第1ないし第3実施形態と同様に、優れた光沢度を有する画像を、高速で記録することができる。
【0136】
また、各インクに対して1列ずつ吐出口列を備えた記録ヘッドを有するフルライン型の記録装置であっても、記録媒体2001を往動および復動させつつ記録を行うようにすれば、光輝性インクのドットを重ねて記録することが可能である。
【0137】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態を、
図21を参照しつ説明する。
図21は本実施形態の記録装置に用いる記録ヘッド2100における吐出口2103の配列を示す模式図である。記録ヘッド2100には、光輝性のインクの吐出口2103が2次元的に配置されている。図中、破線で示した領域が記録媒体2101を示している。図示のように、記録媒体2101の全域を覆う領域に吐出口2103が配置され、記録媒体2101と記録ヘッド2100との相対移動を行なうことなしに、光輝性インクによる記録を完成させる。この際、画像の中に連結度の低い箇所(画素)が存在する場合には、その箇所への記録を担当する吐出口2103から複数回インクを付与することにより、複数のドットを重ねて記録することができる。
【0138】
上記のように、本実施形態においては、吐出口2103を2次元に配置した記録ヘッド2102と、記録媒体2101とをそれぞれ定位置に保持した状態で画像の記録を行う。従って、記録ヘッド2102と記録媒体2101との相対位置にずれが生じにくく、高精細な記録を実現することが可能になる。このため、高精細な記録を要求される場合には、本実施形態の記録装置が有効になる。
【0139】
例えば、記録媒体上に回路を形成するような場合には、記録媒体2101と記録ヘッド2100との相対位置を水平方向及び垂直方向において高精度に保つことが必要になる。特に、記録媒体2101と記録ヘッド2100との距離はできるだけ近づける必要がある。本実施形態によれば、記録走査を行わずに記録を行うことが可能なため、記録ヘッド2100と記録媒体2101との距離間隔を近づけることが可能である。このため、要求される高精細な記録を実施することができる。また、回路の記録などにおいて、金属粒子同士を結合させることが必要となる場合にも、連結度の低い箇所(画素)にドットを重ねて記録することが可能なため、精度及び信頼性に優れた記録を実現することができる。
【0140】
[他の実施形態]
また、以上の実施形態では、光輝性インクのドットを重ねて記録する際に、同一の画素に対して光輝性インクを複数回付与する例を示した。しかし、光輝性インクのドットを重ねる際に、同じ画素ではなく、最も近接する複数の画素に光輝性インクを付与するようにしてもよい。例えば、水平解像度(横方向の解像度)を4800dpiまで高めると、隣接画素にインクを付与しても同一画素に複数回インクを付与した場合と略同様のドットの重なりを得ることが可能となり、上記実施形態と同様に良好な光沢度を得ることができる。
【符号の説明】
【0141】
104 記録媒体
40,2002,2100 記録ヘッド(記録手段)
100,200,2000 記録装置
201 システムコントローラ
210 記録制御部