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  • 特許-水硬性複合材料及び硬化体の製造方法 図1
  • 特許-水硬性複合材料及び硬化体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】水硬性複合材料及び硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20240122BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240122BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240122BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20240122BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20240122BHJP
   B28B 3/20 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/14 Z
C04B18/08 Z
C04B16/06 A
C04B14/28
B28B3/20 K
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019154660
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031343
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日 令和1年8月1日 公開の経緯/内容 令和元年度土木学会全国大会in四国 第74回年次学術講演会 講演概要集を収録したDVDを公益社団法人土木学会により発行、配布
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大季
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
B28B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性複合材料をノズルから押出す工程を有する硬化体の製造方法に用いられる水硬性複合材料であって、
水硬性マトリクス組成物と、直径100μm以下かつ長さ0.1~30mmの短繊維とからなり、
前記水硬性マトリクス組成物は、白色ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、シリカフューム含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、およびエコセメントからなる群から選ばれる1種以上、及び水を含み、
前記水硬性マトリクス組成物100体積部に対して、前記短繊維の含有量が0.5~1.5体積部であり、
JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定するフロー値が120~160mmである、水硬性複合材料(但し、セメント、骨材、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)との質量割合が、R:M=100:80~400である分散剤、増粘剤、凝結遅延剤、酸化物換算でSiO を10~25質量%含有する非晶質カルシウムアルミノシリケート、セッコウ、及び短繊維、を含有する建設向け立体造形用セメント質材料を除く)
【請求項2】
請求項1に記載の水硬性複合材料をノズルから押出す工程と、押出された前記水硬性複合材料を硬化させて硬化体を得る工程を有する、硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性複合材料、及びこれを用いた硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モルタルなどのセメント系材料を付加製造(3Dプリンティング)して構造物を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1、2)。この方法はセメント系材料をポンプ等で圧送してノズルから押出し、未硬化状態の材料を積層した後に硬化させて造形する方法である。設計通りに造形するためには、未硬化状態の材料を積層したときに下層の形状が保持される形状保持性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-185645号公報
【文献】特開2018-69661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記形状保持性は、セメント系材料のチキソトロピー性や急硬性を高めることによって向上できるが、高め過ぎると圧送時に流路が閉塞しやすい。
特許文献1では、形状保持性と圧送性を両立させるために、セメント材料に、非晶質アルミノケイ酸塩、水酸化カルシウム、増粘剤など化学反応に寄与する成分を用いてセメント系材料の物性をコントロールする方法が提案されている。
しかし、この方法は外気温や湿度などの外部環境の影響を受けやすいことが考えられ、現場で再現性が得られない可能性がある。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、形状保持性と圧送性を両立でき、外部環境の影響を受け難い水硬性複合材料、及びこれを用いた硬化体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 水硬性マトリクス組成物と、直径100μm以下かつ長さ0.1~30mmの短繊維とを含み、前記水硬性マトリクス組成物100体積部に対して、前記短繊維の含有量が0.5体積部以上であり、JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定するフロー値が120~160mmである、水硬性複合材料。
[2] 前記[1]の水硬性複合材料をノズルから押出す工程と、水硬性複合材料を硬化させて硬化体を得る工程を有する、硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水硬性複合材料は、形状保持性と圧送性を両立でき、外部環境の影響を受け難い。
本発明の硬化体の製造方法によれば、水硬性複合材料をノズルから押出す工程を有する製造方法で、所望の形状の硬化体を安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る硬化体の製造方法を説明するための概略斜視図である。
図2図1の一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<水硬性複合材料>
本実施形態の水硬性複合材料は、水硬性マトリクス組成物と短繊維を含む。
[水硬性マトリクス組成物]
水硬性マトリクス組成物(以下、単にマトリクス組成物ともいう。)としては、公知の水硬性材料を用いることができる。例えば、セメント含有組成物(例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート)、ジオポリマー組成物が挙げられる。
マトリクス組成物は水を含む。マトリクス組成物中の固形分(水分以外の成分)の組成は、硬化体の用途に応じて設計することが好ましい。
【0010】
セメント含有組成物に用いるセメントとしては、白色ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、シリカフューム含有セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、およびエコセメント等の公知のセメントを用いることができる。セメントは1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0011】
[短繊維]
短繊維の材質は、化学的に合成された高分子からなる合成繊維、又は無機物からなる繊維が好ましい。前者としては、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等が挙げられる。後者としては、ガラス繊維、鋼繊維、炭素繊維、岩石繊維(バサルトなど)、セラミック繊維、シリカ繊維等が挙げられる。
特に、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、鋼繊維は、セメント系材料との親和性に優れる点で好ましい。
【0012】
短繊維の直径は100μm以下であり、50μm以下が好ましい。短繊維の直径が前記上限値以下であると、水硬性複合材料の形状保持性を高める効果に優れる。
本明細書において、繊維の直径(単位:μm)は、番手(単位:dtex)及び密度(単位:g/cm)から下記式により算出した値である。
直径=11.3×(番手/密度)1/2
なお、繊維の番手は糸長10000mの糸重量を意味し、1dtexは糸長10000mの糸重量が1グラムであることを表す。
短繊維の直径の下限値は特に限定されない。入手しやすい点では1μm以上が好ましい。
短繊維の長さは0.1~30mmであり、5~20mmがより好ましい。前記範囲の下限値以上であると硬化後の水硬性複合材料の引張特性の向上が期待でき、上限値以下であると繊維混入後の水硬性複合材料を混練しやすい。
【0013】
水硬性複合材料における短繊維の含有量は、マトリクス組成物100体積部に対して短繊維が0.5体積部以上であり、1.0体積部以上が好ましい。前記下限値以上であると水硬性複合材料の形状保持性を高める効果に優れる。上限は、マトリクス組成物と混練しやすい点で、マトリクス組成物100体積部に対して短繊維が3.0体積部以下であることが好ましい。
水硬性複合材料に含まれる短繊維は1種でもよく、直径、長さ又は材質の1以上が互いに異なる2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、短繊維の合計が前記含有量の範囲内であればよい。
【0014】
[フロー値]
本実施形態の水硬性複合材料は、JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定するフロー値が120~160mmが好ましい。前記範囲の下限値以上であると圧送性に優れ、上限値以下であると形状保持性に優れる。
フロー値が前記範囲内となるように短繊維の含有量を設定することが好ましい。また短繊維の材質、直径、長さによってもフロー値を調整できる。例えば、短繊維の材質、直径及び長さが同じである場合、短繊維の含有量が多いほどフロー値は小さくなる傾向がある。
本発明におけるフロー値は、使用時におけるフロー値である。短繊維の含有量が前記範囲内であるときに、前記範囲のフロー値が得られるように、水硬性複合材料における水の含有量を調整することが好ましい。例えば構成材料の結合材の総質量に対して水の含有量は15~50質量%が好ましい。
例えば、水硬性複合材料の調製直後(練上がり直後)から30分後におけるフロー値が120~160mmの範囲内であることが好ましい。
【0015】
[作用・機序]
本実施形態では、水硬性複合材料中に適量の短繊維を混在させることにより、形状保持性と圧送性を両立できる。その理由としては、短繊維が未硬化のマトリクス組成物を物理的につなぐ役目を果たすことにより、圧送性の低下を抑えつつ形状保持性を向上できると考えられる。
本実施形態では、短繊維とマトリクス組成物との物理的な相互作用により水硬性複合材料の物性をコントロールできるため、外気温や湿度などの外部環境の影響を受け難い。したがって、物性の安定性に優れ、現場で扱いやすい。
【0016】
前述したように、従来のセメント系材料ではセメント、水及び骨材以外に、非晶質アルミノケイ酸塩、水酸化カルシウム、増粘剤などの化学反応に寄与する添加剤を用いて材料の物性をコントロールしたが、本実施形態では、これらの成分を用いなくても、形状保持性と圧送性の両立を達成できる。
外部環境の影響を受け難い点で、化学反応に寄与する添加剤の含有量は少ない方が好ましい。特に、セメント材料の硬化反応を促進させる成分を含む添加剤は、可使時間が短くなり、材料のフレッシュ性状をコントロールすることが難しくなるため、使用しないほうが好ましい。
【0017】
本実施形態の水硬性複合材料は、形状保持性と圧送性を両立できる。したがって、水硬性複合材料をノズルから押出す工程を有する、硬化体の製造方法に好適である。例えば、水硬性複合材料を押出成形してパネル等の硬化体を製造する方法、又は付加製造(3Dプリンティング)方法など、型枠を用いずに造形する方法に好適である。
なかでも、ノズルから押出された水硬性複合材料の形状保持性に優れ、未硬化の水硬性複合材料を積層しても下層がつぶれ難いため、特に付加製造方法に好適である。
【0018】
<硬化体の製造方法>
本実施形態の硬化体の製造方法は、上記実施形態の水硬性複合材料をノズルから押出す工程(押出工程)と、水硬性複合材料を硬化させて硬化体を得る工程を有する。
押出工程は公知の押出成形装置、又は付加製造装置(3Dプリンタ)を用いて実施できる。
【0019】
図1、2は本実施形態の製造方法の例として、付加製造装置を用いる方法を説明するための概略図である。
予め、マトリクス組成物と短繊維を混練した水硬性複合材料を調製し、ノズル10を備えた付加製造装置に供給する。押出工程では、図1、2に示すように、ノズル10を矢印方向に移動させながら、水硬性複合材料20を所定の位置に押出す。この操作を繰り返して、水硬性複合材料20からなる第一層21、第二層22、第三層23…を順に積層して所望の形状の積層体30を得る。
各層の厚さは特に限定されないが、良好な積層性が得られやすい点で1~30mmが好ましい。
この後、積層体30を公知の方法で養生し、水硬性複合材料20を硬化させる。硬化する過程で、隣接する水硬性複合材料20からなる層(第一層21、第二層22、第三層23…)どうしが接合されて一体化し、目的の形状の硬化体が得られる。
【0020】
本実施形態の製造方法によれば、水硬性複合材料の形状保持性が良好であるため、水硬性複合材料からなる未硬化層を積層した状態で、各層の形状が変形し難い。したがって、積層体を所望の形状に造形しやすく、硬化体の精度や美観を向上できる。
また水硬性複合材料は圧送性も良好であるため、押出工程を効率よく行うことができ、外部環境の影響を受け難いため、現場での再現性にも優れる。
【実施例
【0021】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
測定方法又は評価方法は以下の方法を用いた。
【0022】
[フロー値の測定方法]
JIS R 5201(2015)「セメントの物理試験方法」で規定されたフロー試験にしたがって、以下の方法でフロー値を測定した。
フローテーブル上の中央に正しく置いたフローコーンに、水硬性複合材料を詰め、直ちにフローコーンを上方に垂直に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、水硬性複合材料が広がった後の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで1mm単位まで測定し、その平均値をフロー値(単位:mm)とした。
【0023】
[圧送性の評価方法]
排出口の形状が略矩形(縦1.5cm、横3cm)であるノズルを備えた押出機を用い、ポンプで一定の押出速度で水硬性複合材料を帯状に連続押出した。図1、2に示すように、ノズルを一定速度(30mm/秒)で移動させながら連続押出した。このとき、押し出した材料の連続性が保たれなくなり、不連続になった時点、あるいは連続計測したポンプ圧力がその平均値より20%以上低下した時点の層数を算出し、連続押出ができる層数と定義した。この層数が多いほど圧送性に優れる。下記の基準で圧送性を評価した。
○:連続押出ができる層数が10層以上。
×:連続押出ができる層数が10層未満。
【0024】
[形状保持性の評価方法]
前記圧送性の評価方法と同じ方法で第14層まで積層した直後に、長さ方向(ノズルの移動方向)の中央における、第1層の下端から第7層の天端(上端)までの高さを測定した。この高さが大きいほど形状保持性に優れる。下記の基準で形状保持性を評価した。
○:高さが60mm以上。
×:高さが60mm未満。
【0025】
以下の材料を使用した。
[使用材料]
セメント:普通ポルトランドセメント(比重3.16)
シリカフューム:比重2.20
フライアッシュ:比重2.30
石灰石微粉末:比表面積3300cm/g(比重2.71)
珪砂:粒径0.05~0.85mm(比重2.60)
減水剤:高性能減水剤
繊維(B):直径12μm、長さ(カタログ値(標準長))6mmのポリエチレン繊維(比重0.97)
【0026】
[例1~5]
本例ではマトリクス組成物(A)として表1に示す配合のモルタルを用いた。
表1に示す材料(結合材、細骨材、水及び混和剤)と、繊維(B)を、ホバートミキサを用いて混練して水硬性複合材料を調製した。
マトリクス組成物(A)の100体積部に対する繊維(B)の添加量を表2に示す。例1では繊維(B)を添加せず、マトリクス組成物(A)を水硬性複合材料とした。例2~5では、上述したフロー試験における落下運動を与える前のフロー値が例1と同程度になるように、減水剤の添加量を調整した。
水硬性複合材料の調製直後(練上がり直後)から30分後のフロー値を上記の方法で測定した。上述の落下運動を与えた後のフロー値を表2に示す(以下、同様)。
得られた水硬性複合材料の圧送性及び形状保持性を上記の方法で評価した。結果を表2に示す(以下、同様)。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表2の結果に示されるように、短繊維を0.5体積部以上含み、かつフロー値が120~160mmである例2~4の水硬性複合材料は、圧送性と形状保持性を両立できた。
【符号の説明】
【0030】
10 ノズル
20 水硬性複合材料
21 第一層
22 第二層
23 第三層
30 積層体
図1
図2