(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】顔料分散体並びに該顔料分散体を用いたカラーフィルター用レジスト組成物、インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240122BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240122BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20240122BHJP
C09B 29/42 20060101ALI20240122BHJP
C09B 67/46 20060101ALI20240122BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240122BHJP
【FI】
C09D17/00
G02B5/20 101
G03F7/004 505
C09B29/42 A
C09B67/46 A
C09D11/322
(21)【出願番号】P 2019158083
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018163972
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】新藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】城田 衣
(72)【発明者】
【氏名】早川 愛
(72)【発明者】
【氏名】三東 剛
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209638(JP,A)
【文献】特開2012-194200(JP,A)
【文献】特開2016-224129(JP,A)
【文献】特開2017-134243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/、17/
C09B67/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒体、下記式(1)で表される化合物、並びにC.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、
及びC.I.ピグメントブルー15:
6からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の顔料が、前記分散媒体中に分散して
おり、前記式(1)で表される化合物の含有量が、前記顔料100質量部に対して、10~100質量部であることを特徴とする顔料分散体。
【化1】
[式(1)中、R
1、R
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖または分岐状のアルキル基を表し、R
3、R
4は、それぞれ独立して、炭素数2~8の直鎖または分岐状のアルキル基を表す。]
【請求項2】
該顔料がC.I.ピグメントブルー15:6である請求項1に記載の顔料分散体。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の顔料分散体の少なくとも1種を含有してなることを特徴とするインク組成物。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の顔料分散体の少なくとも1種を含有してなることを特徴とするカラーフィルター用レジスト組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、インキ、カラーフィルター、樹脂成型品等の製造工程において用いられる顔料分散体に関する。さらに、該顔料分散体を着色剤とするカラーフィルター用レジスト組成物、インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶を使用したカラーディスプレイには、カラーフィルターが用いられる。カラーフィルターは、液晶ディスプレイのカラー表示のためには必要不可欠なものであり、液晶ディスプレイの性能を左右する重要な部品である。従来のカラーフィルターの製造方法としては、染色法、印刷法、インクジェット法、及び、フォトレジスト法が知られている。これらの中でも、分光特性及び色再現性の制御が容易であること、また、解像度が高く、より高精細なパターニングが可能であることから、フォトレジスト法が主流となっている。
【0003】
フォトレジスト法によるカラーフィルターの製造においては、着色剤としてグリーン顔料とイエロー顔料が用いられてきた(特許文献1~2)。しかし、顔料を用いたカラーフィルターは、消偏作用(偏光が崩されること)や、液晶ディスプレイのカラー表示のコントラスト比の低下、カラーフィルターの明度の低下などの課題に加え、有機溶剤やポリマーに対する分散安定性の低下という課題があった。
【0004】
そこで、着色剤として染料を用いた製造方法が着目されている。例えば、シアン顔料とイエローアゾ染料を用いた例(特許文献2)やグリーン顔料とイエローアゾ染料を用いた例(特許文献3)が報告されている。しかし、染料は顔料と比較して保存安定性に課題がある。また、近年の4K、8K等の超高精細な次世代ディスプレイに対応するカラーフィルターを得るためには、色空間の再現性には顔料の分散性の改善だけでは不十分であり、光透過性や色調の再現性にも優れた顔料分散体が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-14825号公報
【文献】特許4481439号公報
【文献】特開2010-139560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の一態様は、分散性及び保存安定性に優れる顔料分散体の提供に向けたものである。また、本発明の他の態様は、該顔料分散体を用いたカラーフィルター用レジスト組成物、及びインク組成物の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、分散媒体、下記式(1)で表される化合物、並びにC.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、及びC.I.ピグメントグリーン58からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の顔料が、前記分散媒体中に分散している顔料分散体が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、該顔料分散体を用いた緑色色調のカラーフィルター用レジスト組成物、インク組成物が提供される。
【0008】
【化1】
[式(1)中、R
1、R
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖または分岐状のアルキル基、R
3、R
4は、それぞれ独立して、炭素数2~8の直鎖または分岐状のアルキル基を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、分散性及び保存安定性に優れる顔料分散体を提供することができる。
また、本発明の他の態様によれば、該顔料分散体を用いた緑色色調を有するカラーフィルター用レジスト組成物、インク組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】式(1)で表される化合物(1)を用いた顔料分散体(1)を100,000倍に拡大観察したSEM写真に基づく図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施するための形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、分散媒体中に、式(1)で表される化合物を存在させることで、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、及びC.I.ピグメントグリーン58からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の顔料の分散性に優れる顔料分散体が得られることを見出した。
【0012】
また、明度が高く緑色の色相に優れるため、分光特性および表示コントラストが高い画像表示を可能とする緑色カラーフィルター用レジスト組成物、インク組成物が得られることを見出し本発明に至った。
【0013】
本発明で用いるシアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6等の銅フタロシアニンが挙げられる。
また、グリーン顔料としては、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36等のハロゲン化銅フタロシアニン、C.I.ピグメントグリーン58等のハロゲン化亜鉛フタロシアニンが挙げられる。
【0014】
本発明では、式(1)で表される化合物と前述の顔料との相互作用によって自己凝集が抑制され、微分散が可能となったと推測される。これに対して、式(1)で表される化合物以外の化合物では、顔料との水素結合による相互作用で凝集が促進されてしまう。
【0015】
【化2】
[式(1)中、R
1、R
2は、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖または分岐状のアルキル基、R
3、R
4は、それぞれ独立して、炭素数2~8の直鎖または分岐状のアルキル基を表す。]
【0016】
式(1)中のR1、R2における炭素数1~4の直鎖または分岐状のアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基が挙げられる。
特に、本発明の顔料において分散性に優れる顔料分散体が得られるため、R1は、エチル基、プロピル基、R2は、メチル基がより好ましい。
式(1)中のR3、R4の炭素数2~8の直鎖または分岐状のアルキル基としては、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、特に、本発明の顔料において分散性に優れる顔料分散体が得られるため、2-エチルヘキシル基がより好ましい。
【0017】
本発明にかかる式(1)で表される化合物は、例えば、WO08/114886号公報等に記載されている公知の方法等を参考にして合成することが可能である。
本発明の式(1)で表される化合物の好ましい具体例として化合物(1)~(14)を示すが、下記の例に限定されるものではない。
また、式(1)で表される化合物には、アゾ-ヒドラゾ互換異性体があるが、それら互換異性体も本発明の範疇である。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
上記化合物中の化合物(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(9)、(11)、(12)を用いることが好ましく、化合物(2)、(3)を用いることがより好ましい。
式(1)で表される化合物は、着色力が優れている。また、使用する用途の目的に応じて、色調等を調整するために、これらの化合物を単独で、あるいは公知の染料を2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0022】
<顔料分散体について>
本発明の顔料分散体は、分散媒体中に、式(1)で表される化合物と下記の顔料とを分散処理することで得られる。
本発明で言う分散媒体とは、水、有機溶剤又はそれらの混合物のことを指す。
下記の顔料とは、
C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、及びC.I.ピグメントブルー15:6、並びに
C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、及びC.I.ピグメントグリーン58からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の顔料を意味する。
【0023】
本発明の顔料分散体は公知の方法で分散することができる。例えば、以下のようにして得られる。
分散媒体中に、前記顔料と、前記式(1)で表される化合物と、必要に応じて樹脂と、を溶かし込み、撹拌する。さらに分散機により機械的せん断力を加えることで、顔料を安定に均一な微粒子状に微分散することができる。
【0024】
また、まず分散媒体中に樹脂を溶かし込み、次に、前記顔料を懸濁させ、撹拌しながら前記式(1)で表される化合物を除々に加え十分に分散媒体になじませる。さらに分散機により機械的せん断力を加えることで、顔料を安定に均一な微粒子状に微分散することも可能である。
【0025】
本発明で用いる分散機としては、特に限定されるものではないが、例えば、回転せん断型ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、アトライター等のメディア式分散機、高圧対向衝突式の分散機等が好ましく用いられる。
顔料分散体中の顔料の含有量は、分散媒体100質量部に対して、1.0~30.0質量部が好ましく、2.0~20.0質量部がより好ましく、3.0~15.0質量部がさらに好ましい。顔料の含有量が少なすぎると着色力が低くなる。
【0026】
式(1)で表される化合物の含有量は、顔料100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましい。
式(1)で表される化合物の含有量が、顔料100質量部に対して、10質量部以上の場合は、顔料の分散性を改善することができる。また式(1)で表される化合物の着色力が不足することもない。
【0027】
式(1)で表される化合物の含有量が、顔料100質量部に対して、100質量部以下の場合は、顔料の分散性を改善することができる。
本発明の顔料分散体は良好な分散安定性を得るために乳化剤を用いて水に分散させることができる。乳化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
カチオン界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば以下のものが挙げられる。ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等。
【0029】
アニオン界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム等の脂肪酸石鹸、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば以下のものが挙げられる。ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノニルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、モノデカノイルショ糖等。
【0030】
本発明の顔料分散体の分散媒に使用し得る有機溶剤としては顔料の目的用途に応じて決められるものであり、特に限定されない。具体的には以下のものが挙げられる。メチルアルコール、エチルアルコール、変性エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-アミルアルコール、3-ペンタノール、オクチルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル類;ヘキサン、オクタン、石油エーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラブロモエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、ジメチルグリコール、トリオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;メチラール、ジエチルアセタール等のアセタール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸類;ニトロベンゼン、ジメチルアミン、モノエタノールアミン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の硫黄・窒素含有有機化合物類。
【0031】
また本発明で用いる有機溶剤としては、付加重合性単量体又は縮重合性単量体を用いることもできる。好ましくは、付加重合性単量体である。具体的には以下のものが挙げられる。スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベヘニル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリロニトリル、アクリル酸アミド等のアクリレート系単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ベヘニル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリロニトリル、メタクリル酸アミド等のメタクリレート系単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン、シクロヘキセン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、ヨウ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン化合物。
これらは使用用途に応じて、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の顔料分散体を重合トナー用途に用いる場合は、上記重合性単量体の中でも、スチレン、または、スチレン系単量体を単独もしくは、他の重合性単量体と混合して使用することが好ましい。特に扱い易さから、スチレンが好ましい。
【0032】
顔料分散体にはさらに樹脂を加えてもよい。使用し得る樹脂としては目的用途に応じて決められるものであり、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のものが挙げられる。ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸系共重合体、メタクリル酸系共重合体、ポリエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等。その他ポリウレタンやポリペプチドが挙げられる。これらの樹脂は単独、あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0033】
<インクについて>
本発明の顔料分散体をインクとして利用可能なインク組成物を作製できる。特に好ましくは、分散媒体が水系の場合である。また、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を使用しても良い。この際に使用する水溶性有機溶剤は、水溶性を示すものであれば制限はなく、例えば、アルコール、多価アルコール、ポリエチレングリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶剤、含硫黄極性溶剤などが挙げられる。
【0034】
本発明の顔料分散体を含有するインクを製造する場合に、インクのpHは特に限定されるものではないが、安全性の面を考慮すると、pH4.0~11.0の範囲内のものが好ましい。また、インクジェット用のインクを作製する場合には、インクの保持性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパンなどの保湿性固形分もインクの成分として用いても良い。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等、保湿性固形分のインク中の含有量は、一般的には、インクに対して0.1質量%以上20.0質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下の範囲である。
【0035】
さらに、インクを製造する場合には、前記成分以外にも、必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
以上説明したようにして、本発明の顔料分散体を含有するインクは、熱エネルギーの作用により液滴を吐出させて記録を行うインクジェット記録方式に特に好適に用いられる。本発明の顔料分散体を含有するインクは、他のインクジェット記録方法に適用するインクや、一般の筆記用具等の材料としても使用できることはいうまでもない。
【0036】
<カラーフィルター用緑色レジスト組成物について>
本発明の顔料分散体は、鮮やかな緑色の色調を有し、その分光特性により緑用色材、好ましくは、カラーフィルター用着色剤として用いることができる。
本発明のレジスト組成物は、少なくともバインダー樹脂、光重合性モノマー、光重合開始剤、溶剤、本発明の顔料分散体を1種以上含有してなる。
【0037】
また、基板上に異なる分光特性を持つ二種以上の画素が隣接して配列されてなるカラーフィルターにおいて、その複数の画素(例えば、赤、緑、青)のうち少なくとも1つに本発明の顔料分散体を用いることによって、高透明で高色純度な画素を得ることができる。
本発明の顔料分散体中、顔料の含有量としては、下記バインダー樹脂の質量に対して、0.1~400質量%が好ましく、1~200質量%がより好ましい。
【0038】
本発明のカラーフィルター用レジスト組成物に使用できるバインダー樹脂としては、光照射部、あるいは、遮光部が有機溶剤、アルカリ水溶液、水、または市販の現像液によって溶解可能なものであればよく、特に限定されるものではない。さらに、作業性、廃棄物処理などの観点からは水あるいはアルカリ現像可能な組成を有するものがより望ましい。
【0039】
このような樹脂としては、一般的にアクリル酸やメタクリル酸、2-ヒドロキシエチル、アクリルアミド、N-ビニルピロリドンやアンモニウム塩を有するモノマーなどに代表されるような親水性のモノマーとアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、N-ビニルカルバゾールなどに代表されるような親油性のモノマーとを適度な混合比で既知の手法で共重合したバインダー樹脂が知られている。これらのバインダー樹脂はエチレン性の不飽和基を有するラジカル重合性のモノマーやオキシラン環、あるいは、オキセタン環を有するカチオン重合性のモノマー、ラジカル発生剤或いは酸発生剤や塩基発生剤との組み合わせによって用いることができる。そして、ネガ型、すなわち遮光部分が現像によって除去されるタイプのレジストとして用いることができる。
【0040】
また、ポリヒドロキシスチレンのtert-ブチル炭酸エステル、tert-ブチルエステル、テトラヒドロキシピラニルエステル、あるいは、テトラヒドロキシピラニルエーテルなどに代表されるバインダー樹脂を使用することもできる。この種のバインダー樹脂は、酸発生剤との組み合わせによってポジ型、すなわち光照射部分が現像によって除去されるタイプのレジストとして用いることができる。
【0041】
本発明のカラーフィルター用レジスト組成物は、光の照射によって付加重合するエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとして、エチレン性不飽和二重結合を1個以上有する光重合性モノマーを含有してもよい。前記光重合性モノマーとしては、分子中に少なくとも1個の付加重合可能なエチレン性不飽和基を有し、沸点が常圧で100℃以上の化合物が挙げられる。例えば、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等の単官能アクリレートや、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)シアヌレート、グリセリントリアクリレート、グリセリントリメタクリレートなどの多官能アクリレートおよびメタクリレート、トリメチロールプロパンやグリセリンなどの多官能アルコールにエチレンオキシドにプロピレンオキシドを付加した後アクリレート化またはメタクリレート化したものなどの多官能アクリレートや多官能メタクリレートを挙げることができる。
【0042】
さらに、ウレタンアクリレート類、ポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂とアクリル酸またはメタクリル酸の反応生成物であるエポキシアクリレート類などの多官能アクリレートやメタクリレートも挙げられる。上記の中でも、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレートが好ましい。
【0043】
エチレン性不飽和二重結合を2個以上有する光重合性モノマーは、単独で用いても2種類以上を混合して用いても良い。前記重合性化合物の含有量としては、着色感光性組成物の質量(全固形分)の5~50質量%が一般的であり、特に10~40質量%が好ましい。前記含有量が、5質量%以上であると、必要な光感度や画素の強度を得ることができ、50質量%以下であると、感光性樹脂層の粘着性が過剰になることもない。
【0044】
本発明のカラーフィルター用レジスト組成物は、紫外線硬化性である場合には光重合開始剤を含有して構成される。該光重合開始剤としては、以下のものが挙げられる。ビシナールポリケトアルドニル化合物、α-カルボニル化合物、アシオインエーテル、多岐キノン化合物、トリアリルイミダゾールダイマー/p-アミノフェニルケトンの組み合わせ、トリオキサジアゾール化合物など。好ましくは、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン(イルガキュア369:商品名、チバスペシャルティケミカルズ(株)製)が挙げられる。なお、本発明の着色レジストによる画素の形成に際し、電子線を用いる場合には、上記光重合開始剤は必須ではない。
【0045】
本発明のカラーフィルター用レジスト組成物は上記バインダー樹脂、光重合性モノマー、光重合開始剤、着色剤などを溶解若しくは分散させるための溶剤を含有する。使用できる溶剤としては、以下のものが挙げられる。シクロヘキサノン、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、エチレングリコールジエチルエーテル、キシレン、エチルセロソルブ、メチル-n-アミルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルケトン、石油系溶剤など。これらは単独若しくは混合して用いることができる。
以上のように、本発明のカラーフィルター用レジスト組成物は、着色剤として本発明の顔料分散体を含有して構成されるので、形成される画素の色相が良好で透明性、透光性を向上させることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下における「部」は「質量部」を意味する。
以下に記載する方法で本発明の式(1)で表される表1A及び表1Bに示す化合物を製造した。化合物(2)を代表として製造例を示すがこれらに限定されるものではない。
【0047】
〈製造例1:化合物(2)の製造〉
窒素雰囲気下、o-ニトロ安息香酸10部のクロロホルム100部に、塩化チオニル29部を滴下し、さらに、60℃で1時間反応させた。反応終了後、10℃以下に冷却し、トリエチルアミン9部及びジ(2-エチルヘキシル)アミン15部を順次滴下した。さらに、80℃で2時間撹拌させ、反応終了後、クロロホルムで抽出した。減圧下、濃縮をすることにより中間体(A)18部を得た。
【0048】
上記中間体(A)10部にエタノール50部、20%の硫化ナトリウム水溶液18部を加え75℃で1時間反応させた。反応終了後、クロロホルムで抽出し、減圧下、溶液を濃縮することにより中間体(B)7.4部を得た。
上記中間体(B)5.9部に、濃塩酸3.4部、メタノール59部を加えて10℃以下に冷却した。この溶液に、亜硝酸ナトリウム1.4部の水(2.0部)溶液を10℃以上にならないようにゆっくりと滴下して、さらに1時間反応させた。次いでスルファミン酸0.5部を加え20分間撹拌し、ジアゾニウム塩溶液を得た。
【0049】
【0050】
次に、3-シアノ-4-メチル-6-オキソ-2-ピリドン2.7部のN,N-ジメチルホルムアミド25部、メタノール20部溶液を10℃以下に冷却し、10℃以下の温度を保持するように前記ジアゾニウム塩溶液を滴下した。飽和炭酸ソーダ水溶液を加えてpHを5~6に調整し、10℃以下で2時間反応させた。反応終了後、溶媒を減圧下留去して、カラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(2)5.2部を得た。
【0051】
得られた化合物の同定は、下記の分析装置及び分析計を用いて行った。
・1H核磁気共鳴分光分析(1H-NMR)装置(AVANCE-600 NMR spectrometer、BRUKER社製)
・高速液体クロマトグラフ質量分析計(LCMS-2010、(株)島津製作所製)
【0052】
[顔料分散体の製造]
以下に記載する方法で本発明の顔料分散体及び比較顔料分散体を製造した。
【0053】
<実施例1>
下記の材料を混合し、アトライター(三井鉱山(株)製)により1時間分散させて本発明の顔料分散体(1)を得た。なお、顔料分散体(1)のSEM写真を
図1に示した。
・C.I.Pigment Blue 15:3(山陽色素(株)製、商品名「CYANE BLUE 3023」) 5部
・化合物(1) 3.0部
・シクロヘキサノン 120部
【0054】
<緑色レジスト組成物の調製>
・n-ブチルメタクリレート40質量%、アクリル酸30質量%、ヒドロキシエチルメタクリレート30質量%の質量モノマー比率からなるアクリル共重合組成物(重量平均分子量10,000) 6.7部
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート 1.3部
・2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン(光重合開始剤) 0.4部
・シクロヘキサノン 96部
上記の溶液に、上記顔料分散体(1)22部をゆっくり加え室温で3時間撹拌した。これを1.5μmフィルターで濾過することで、カラーフィルター用緑色レジスト組成物(1)を得た。
【0055】
上記カラーフィルター用緑色レジスト組成物(1)をカラーフィルター用ガラス基板上にスピンコーターで塗布し、その後これを90℃で3分間乾燥させ、緑色塗膜を得た。さらに、各塗膜を、高圧水銀ランプを用い、フォトマスクを介して100mJ/cm2の紫外線で全面露光し、180℃でポストキュアすることでカラーフィルター(1)を作製した。
【0056】
<実施例2~33>
実施例1において、C.I.Pigment Blue 15:3及び化合物(1)を用いる代わりに、表1Aに示す顔料及び化合物(2)~(5)、(9)、(11)、(12)を使用した以外は、実施例1と同様な操作で顔料分散体(2)~(33)を得た。また、同様にして、カラーフィルター用緑色レジスト組成物(2)~(33)、及び対応するカラーフィルター(2)~(33)を得た。
【0057】
<比較例1~30>
実施例1において、C.I.Pigment Blue 15:3及び化合物(1)を用いる代わりに、表1Bに示す顔料及び比較化合物(1)~(4)を使用した以外は、実施例1と同様な操作で比較顔料分散体(1)~(35)を得た。また、同様にして、カラーフィルター用緑色レジスト組成物(1)~(35)、及び対応するカラーフィルター(1)~(35)を得た。
比較用化合物を以下に示す。
【0058】
【0059】
<評価>
[分散性]
顔料分散体の分散性の評価を以下のように行った。粒度測定器(グラインドメーター テスター産業(株))を用い、顔料の粒の大きさを測定することによって決定した。
A:2.5μm未満(分散性が非常に良い)
B:2.5μm以上4.5μm未満(分散性が良い)
C:4.5μm以上(分散性に劣る)
【0060】
[保存安定性]
50mLサンプル瓶に上記で得られた顔料分散体を20mL加え密閉し、室温(25℃)条件下で48時間静置し、顔料分散体の保存安定性を評価した。同様に、50mLサンプル瓶に上記で得られたカラーフィルター用緑色レジスト組成物を20mL加え密閉し、室温(25℃)条件下で48時間静置し、レジスト組成物の保存安定性を評価した。顔料分散体、レジスト組成物のそれぞれにおいて、凝集物の有無を位相差顕微鏡(BX53、オリンパス(株)製)にて目視で観測した。凝集物が少ないほど、保存安定性に優れていると判断した。
顔料分散体及びカラーフィルター用緑色レジスト組成物の保存安定性評価基準
A:凝集物がなく、良好なもの。
B:凝集物がわずかに発生したもの。
C:凝集物が発生したもの。
【0061】
【0062】
【0063】
表1A及び表1Bに示すように比較例と比べても、本発明の顔料分散体は分散性に優れ、保存安定性も優れる。また、それを用いたカラーフィルター用レジスト組成物も保存安定性に優れることが確認された。また、上記カラーフィルター用緑色レジスト組成物を用いて作製したカラーフィルターは、光透過性、色調ともに良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、及びC.I.ピグメントグリーン58からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の顔料を含有し、分散性及び保存性に優れる顔料分散体を提供することができる。さらに、該顔料分散体を用いることで、良好な緑色色調を有するカラーフィルター用レジスト組成物、インク組成物を提供することができる。