(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】正極樹脂組成物、正極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240122BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240122BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/131
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2019192255
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永井 達也
(72)【発明者】
【氏名】北江 佑守
(72)【発明者】
【氏名】與田 晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021073(WO,A1)
【文献】特開2016-046188(JP,A)
【文献】特開2017-054650(JP,A)
【文献】特開2005-268026(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037910(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材、結着材及び分散剤を含有する正極樹脂組成物であって、前記分散剤が少なくともポリビニルアルコールを含み、前記導電材が少なくともカーボンブラックを含み、前記ポリビニルアルコールの鹸化度が85.5~96.5モル%であり、
平均重合度が600~1500であり、前記カーボンブラックの平均一次粒子径が18nm~40nmであることを特徴とする正極樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの平均重合度が
600~1200であることを特徴とする請求項1に記載の正極樹脂組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックのDBP吸収量が250~310ml/100gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の正極樹脂組成物。
【請求項4】
前記分散剤と導電材の質量比{分散剤の質量/導電材の質量}が0.03~0.15であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の正極樹脂組成物。
【請求項5】
前記結着材がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極樹脂組成物を含む正極。
【請求項7】
請求項6に記載の正極を備えた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極樹脂組成物、正極及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
環境・エネルギー問題の高まりから、化石燃料への依存度を減らす低炭素社会の実現に向けた技術の開発が盛んに行われている。このような技術開発の例としては、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の低公害車の開発、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギー発電・蓄電システムの開発、電力を効率よく供給し、送電ロスを減らす次世代送電網の開発等があり、多岐に渡っている。
【0003】
これらの技術に共通して必要となるキーデバイスの一つが電池であり、このような電池に対しては、システムを小型化するための高いエネルギー密度が求められる。また、使用環境温度に左右されずに安定した電力の供給を可能にするための高いレート特性が求められる。さらに、長期間の使用に耐えうる良好なサイクル特性等も求められている。そのため、従来の鉛蓄電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池から、より高いエネルギー密度、レート特性およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池(以下、「リチウムイオン電池」ともいう。)への置き換えが急速に進んでいる。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の正極は、正極活物質、導電材及びバインダー(結着材)を含有する正極ペーストを、集電体に塗工することにより製造されている。正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物が用いられてきた。活物質自体は導電性に乏しいことから、導電性を付与する目的で、アグリゲート(一次粒子が複数融着した構造:一次凝集体)が発達したカーボンブラックや、異方性で結晶が発達した黒鉛等の導電材を添加することが行われてきた(特許文献1)。
【0005】
導電材の基本的な役割は、導電性の乏しい活物質に、充放電時に正極活物質が繰り返し膨張収縮しても、損なわれることの少ない安定した導電性を付与することである。そのため、正極作製において、導電材として使用されるカーボンブラックは、アグリゲートの大きさがある範囲内に制御されていることが重要である。制御が十分でない場合や活物質間での分散が悪い場合には、活物質とカーボンブラックの接触が十分得られず、導電パスが確保できなくなり、活物質であるリチウム含有複合酸化物の性能を十分に引き出せないという問題が生じる。結果として、正極内に導電性の劣る部分が局所的に現れ、活物質が有効に利用されずに放電容量が低下、電池の寿命が短くなる原因となっている。
【0006】
そこで、特許文献2には、スラリー中のカーボンブラックの分散性を改善するため、分散剤であるポリビニルピロリドンの存在下でカーボンブラックを高圧ジェットミルにより溶剤にサブミクロンオーダーで分散させる方法が行われている。特許文献2によれば、分散状態が安定したカーボンブラックを正極に使用することで、高容量で、かつサイクル特性が優れたリチウムイオン二次電池を得ることができることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、リチウムイオン二次電池用正極において、分散安定性と少量添加で優れた導電性を発揮する導電材について記載されている。具体的には、N-メチル-2-ピロリドンを分散媒とし、これに平均粒径0.1~1μmのカーボンブラックを3~30質量%の割合で懸濁させると共に、ビニルピロリドン系ポリマーを0.1~10質量%添加してなることを特徴とするカーボンブラックスラリーが提案されている。特許文献3の実施例には、レーザー回折・散乱分光法により求めた平均粒径が0.3μmであるカーボンブラックが記載されており、当該カーボンブラックを正極の導電材として用いて作製したリチウムイオン二次電池は放電容量が高かったことが示されている。
【0008】
導電材の分散不良を克服する手段として、ポリビニルピロリドン系高分子とノニオン系界面活性剤を分散剤として添加する方法もある(特許文献4)。
【0009】
特許文献5には、カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアルコールと、溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドンとを含んでなるカーボンブラック分散液を用い、電池正極合材層の表面抵抗および50サイクル後の放電容量維持率が良好になることが記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-227481号公報
【文献】特開2004-281096号公報
【文献】特開2003-157846号公報
【文献】国際公開2012/014616号公報
【文献】国際公開2014/132809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、分散剤として高分子を用いる方法が従来提案されてきたが、未だ十分な分散性を有しているとは言えない。例えば特許文献4に記載の分散剤により、導電材の分散不良を改善できるものの、この分散剤を含有した正極をリチウムイオン電池として使用した際に4.35Vのフロート充電後に放電容量が極端に低下するといった問題があった。しかしながら、現在のリチウムイオン二次電池市場では、同電池の耐電圧性が望まれており、分散性と耐電圧性を両立した正極用導電性樹脂組成物が必要不可欠である。
【0012】
本発明は、上記問題と実情に鑑み、分散性及び耐電圧性に優れた正極樹脂組成物を提供することを目的とする。加えて、この正極樹脂組成物を用いて製造される極板抵抗が低い正極、更にこの正極を用いて製造される耐電圧性、放電レート特性及びサイクル特性に優れた二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定の鹸化度を有するポリビニルアルコールを分散剤として含有し、且つ、特定の平均一次粒子径を有するカーボンブラックを含有する正極樹脂組成物を用いることにより、上記課題が解決できることを見出した。
具体的には、本発明者は、導電材としてカーボンブラック、結着材、及び分散剤として特定の鹸化度を有するポリビニルアルコールを含有する正極樹脂組成物を用いて製造した正極は、極板抵抗が低く、加えて、この正極を用いて製造した二次電池は、耐電圧性、放電レート特性及びサイクル特性に優れることを見出した。本発明者当該知見に基づき、完成されたものである。
【0014】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記に例示される。
[1]
導電材、結着材及び分散剤を含有する正極樹脂組成物であって、前記分散剤が少なくともポリビニルアルコールを含み、前記導電材が少なくともカーボンブラックを含み、前記ポリビニルアルコールの鹸化度が85.5~96.5モル%であり、前記カーボンブラックの平均一次粒子径が18nm~40nmであることを特徴とする正極樹脂組成物。
[2]
前記ポリビニルアルコールの平均重合度が500~1500であることを特徴とする[1]に記載の正極樹脂組成物。
[3]
前記カーボンブラックのDBP吸収量が250~310ml/100gであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の正極樹脂組成物。
[4]
前記分散剤と導電材の質量比{分散剤の質量/導電材の質量}が0.03~0.15であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1項に記載の正極樹脂組成物。
[5]
前記結着材がポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする[1]~[4]のいずれか1項に記載の正極樹脂組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の正極樹脂組成物を含む正極。
[7]
[6]に記載の正極を備えた二次電池。
なお、本明細書において、特にことわりがない限り、「~」という記号は両端の値「以上」および「以下」の範囲を意味する。例えば、「A~B」というのは、A以上、B以下であるという意味である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、分散性及び耐電圧性に優れた正極樹脂組成物を提供することができる。
本発明の一実施形態によれば、極板抵抗が低い正極を提供することができる。
本発明の一実施形態によれば、耐電圧性、レート特性及びサイクル特性に優れた二次電池を提供することができる。
また、本発明の好適な実施態様によれば、エネルギー密度が高く、耐電圧性、レート特性、サイクル特性に優れた二次電池を簡便に得ることができる正極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に用いられるリチウムイオン電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
以下、本発明の構成材料について詳細に説明する。
【0019】
<導電材>
本発明における導電材は、少なくともカーボンブラックを含有する。導電材中のカーボンブラックの含有濃度は例えば50質量%以上とすることができ、好ましくは70質量%以上とすることができ、より好ましくは90質量%以上とすることができる。導電材としてカーボンブラックのみを使用することもできる。カーボンブラックは、一般の電池用導電材としてのカーボンブラック同様、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどの中から選ばれるものである。中でも、結晶性及び純度に優れるアセチレンブラックが好ましい。
【0020】
本発明におけるカーボンブラックの平均一次粒子径は18~40nmである。平均一次粒子径を40nm以下とすることで、活物質及び集電体との電気的接点が多くなり、良好な導電性付与効果が得られる。平均一次粒子径を18nm以上とすることで、粒子間の相互作用が抑制されるため、正極活物質の間に均一に分散され、良好な導電経路が得られる。この観点から、カーボンブラックの平均一次粒子径は20~35nmであることがより好ましい。なお、本発明において、カーボンブラックの平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡などで撮影した写真をもとに測定した粒子径を平均した値である。具体的には、透過電子顕微鏡JEM-2000FX(日本電子社製)を用いて10万倍の画像5枚を撮影し、無作為に抽出した200個以上の1次粒子について画像解析により粒子径を求め、それらの個数平均を算出することによって測定した。なお、粒子径とは、一次粒子の円相当径のことである。
【0021】
本発明におけるカーボンブラックのDBP吸収量は250~310ml/100gであることが好ましい。DBP吸収量を250ml/100g以上とすることで、導電材として使用される際のアグリゲートが十分な長さと広がりを持ち、良好な導電経路と非水電解液の保液性が得られる。また、310ml/100g以下とすることで、アグリゲート同士の絡み合いによる凝集が抑えられるため、正極活物質の間に均一に分散され、良好な導電経路の形成と十分な非水電解液の保液性を両立することができる。なお、本発明において、DBP吸収量は、JIS K6217-4:2008に準拠して測定した値である。
【0022】
本発明におけるカーボンブラックの体積抵抗率はとくに限定されるものではないが、導電性の観点から低いほど好ましい。具体的には、7.5MPa圧縮下で測定した体積抵抗率は0.30Ω・cm以下が好ましく、0.25Ω・cm以下がより好ましい。
【0023】
本発明におけるカーボンブラックの灰分及び水分は特に限定されるものではないが、副反応の抑制の観点から、どちらも少ないほど好ましい。具体的には、灰分は0.04質量%以下が好ましく、水分は0.10質量%以下が好ましい。
【0024】
<結着材>
本発明で用いる結着材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。結着材としてのポリマーの構造には制約がなく、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。これらの中では、耐電圧性の点でポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0025】
<分散剤>
本発明で用いる分散剤は、少なくともポリビニルアルコール(以下、PVAと略すことがある。)を含有する。分散剤中のPVAの含有濃度は例えば50質量%以上とすることができ、好ましくは70質量%以上とすることができ、より好ましくは90質量%以上とすることができる。分散剤としてPVAのみを使用することもできる。PVAはそれ自体既知の重合方法、例えば、酢酸ビニルに代表される脂肪酸ビニルエステルを重合し、加水分解することにより得ることができる。
【0026】
上記脂肪酸ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルおよびその他の直鎖または分岐状の飽和脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。なかでも酢酸ビニルが好ましい。
【0027】
上記ポリビニルアルコールは、脂肪酸ビニルエステル以外の重合性不飽和モノマーと共重合して得ることもできる。脂肪酸ビニルエステルと共重合可能な重合性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;アルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等などの(メタ)アクリロイル基含有モノマー;アリルグリシジルエーテルなどのアリルエーテル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル系化合物;アルキルビニルエーテル、4-ヒドロキシビニルエーテルなどのビニルエーテルなどが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0028】
ポリビニルアルコールの重合方法は、それ自体既知の重合方法、例えば、酢酸ビニルをアルコール系有機溶媒中で溶液重合してポリ酢酸ビニルを製造し、これを鹸化する等の方法により製造することができるが、これに限られるものではなく、例えば、バルク重合や乳化重合や懸濁重合等でもよい。溶液重合を行う場合には、連続重合でもよいしバッチ重合でもよく、単量体は一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。
【0029】
溶液重合において使用する重合開始剤は、特に限定するものではないが、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0030】
重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30~150℃程度の範囲で設定することができる。
【0031】
ポリビニルアルコールを製造する際の鹸化条件は特に限定されず、公知の方法で鹸化することができる。一般的には、メタノール等のアルコール溶液中において、アルカリ触媒又は酸触媒の存在下で、分子中のエステル部を加水分解することで行うことができる。アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物や、アルコラート等を用いることができる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸水溶液、p-トルエンスルホン酸等の有機酸を用いることができるが、水酸化ナトリウムを用いることが望ましい。鹸化反応の温度は、特に限定されないが、好ましくは10~70℃、より好ましくは30~40℃の範囲であることが望ましい。反応時間は、特に限定されないが、30分~3時間の範囲で行なうことが望ましい。
【0032】
本発明におけるポリビニルアルコールの鹸化度は85.5~96.5モル%である。鹸化度を96.5モル%以下とすることで、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒への溶解性が高まるため、導電材の分散性が向上し、均一で低粘度の正極樹脂組成物を含むスラリーが得られ易くなる。鹸化度を85.5モル%以上とすることで、高い耐電圧性を得られ易くなる。尚、ここでいうポリビニルアルコールの鹸化度は、JIS K 6726:1994に準ずる方法で測定される値である。
【0033】
本発明におけるポリビニルアルコールの平均重合度は500~1500であることが好ましい。平均重合度を1500以下とすることで、N-メチル-2-ピロリドン等の溶媒への溶解性が高まるため、導電材の分散性が向上し、均一で低粘度の正極樹脂組成物を含むスラリーが得られ易くなる。平均重合度を500以上とすることで、活物質及び導電材の分散性が高まり、良好な導電経路が得られ易くなる。
【0034】
<活物質>
本発明で用いる活物質は、リチウム含有複合酸化物またはリチウム含有ポリアニオン化合物であり、カチオンを可逆的に吸蔵放出可能な正極活物質のことである。例えば、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiMPO4、Li2MSiO4、LiNiXMn(2-X)O4、Li(MnXNiYCoZ)O2、Li(AlXNiYCoZ)O2またはxLi2MnO3-(1-x)LiMO2などがあげられる。但し、LiNiXMn(2-X)O4中のXは0<X<2という関係を満たし、Li(MnXNiYCoZ)O2中又はLi(AlXNiYCoZ)O2中のX、Y及びZは、X+Y+Z=1という関係を満たし、かつ0<X<1、0<Y<1、0<Z<1という関係を満たし、xLi2MnO3-(1-x)LiMO2中のxは0<x<1という関係を満たし、さらにLiMPO4中、Li2MSiO4中又はxLi2MnO3-(1-x)LiMO2中のMはFe、Co、Ni、Mnから選ばれる元素の1種以上であることが好ましい。
【0035】
上記活物質の内、本発明で用いる活物質はレーザー光散乱法で測定した体積基準の粒度の累積分布から求められる平均粒子径(D50)が20μm以下、好ましくは5μm以下であることが好ましい。このような構成にすることで、正極樹脂組成物を含むスラリー粘度の低減効果が十分に発現され、導電材の分散性が向上した正極と高いサイクル特性を有する二次電池が得られ易くなる。
【0036】
<正極樹脂組成物>
本発明に用いる正極樹脂組成物の製造には公知の方法を用いることができる。例えば、活物質、導電材、結着材及び分散剤の溶媒分散溶液をボールミル、サンドミル、二軸混練機、自転公転式攪拌機、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー等により混合することで得られ、一般的には、スラリーにして用いられる。前記の活物質、導電材、結着材及び分散剤としては、既述したものを用いれば良い。正極樹脂組成物を含むスラリーの分散媒としては、水、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。高分子結着材としてポリフッ化ビニリデンを使用する際は、溶解性の点でN-メチル-2-ピロリドンが好ましく、スチレンブタジエン共重合体を使用する際は水が好ましい。
【0037】
本発明に用いる正極樹脂組成物中の分散剤と導電材の質量比{分散剤の質量/導電材の質量}は0.03~0.15であり、0.04~0.12がより好ましく、0.05~0.1が最も好ましい。正極樹脂組成物中の分散剤と導電材の質量比を0.03~0.15にすることで分散剤が導電材に吸着し、より高い分散効果が得られ易くなり、0.05~0.1にすることでより高い分散効果に加えて、過剰な分散剤が導電材表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化を抑制できる。
【0038】
<正極>
本発明に用いる正極は以下の手順で作製可能である。まず、上記の正極樹脂組成物を含むスラリーをアルミニウム箔等の集電体上に塗布した後、加熱によりスラリーに含まれる溶媒を除去し、活物質が結着材を介して集電体表面に結着された多孔質体である正極合材層を形成する。次いで、集電体と正極合材層をロールプレス等により加圧して密着させることにより、目的とする正極を得ることができる。
【0039】
<リチウムイオン電池>
本発明に用いられるリチウムイオン電池の作製方法には、特に制限は無く、従来公知の電池の作製方法を用いて行えば良いが、例えば、
図1に模式的に示した構成で、以下の方法により作製することもできる。すなわち、前記の正極を用いた正極1にアルミ製タブ5を溶接し、負極2にニッケル製タブ6を溶接した後、正極と負極の間に絶縁層となるポリオレフィン製微多孔膜3を配し、正極1、負極2およびポリオレフィン製微多孔膜3の空隙部分に非水電解液が十分に染込むまで注液し、外装4で封止することで作製することができる。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池の用途は、特に限定されないが、例えば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ポータブルオーディオプレイヤー、携帯液晶テレビ等の携帯AV機器、ノート型パソコン、スマートフォン、モバイルPC等の携帯情報端末、その他、携帯ゲーム機器、電動工具、電動式自転車、ハイブリッド自動車、電気自動車、電力貯蔵システム等の幅広い分野において使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その趣旨を損なわない限り、以下に示す実施例に限定されるものではない。また、実施例および比較例ともに使用した正極は、吸着した水分を揮発させるために170℃で3時間真空乾燥を行った。
【0042】
<実施例1>
(正極樹脂組成物を含むスラリーの調製)
溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(関東化学社製、以下、NMPと記載)、結着材としてポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、「HSV900」、以下、PVdFと記載)、導電材としてカーボンブラック(デンカ社製、「Li-435」、以下、Li-435と記載)、分散剤としてポリビニルアルコール(ポリビニルアルコールAと記載)、活物質としてLiNi0.5Mn0.3Co0.2O2(ユミコア社製、「TX10」平均粒子径(D50)10μm、以下、NMC532と記載)をそれぞれ用意した。PVdFが固形分で1.9質量%、Li-435が固形分で1質量%、ポリビニルアルコールAが固形分で0.1質量%(分散剤の質量/導電材の質量=0.1)、NMC532が固形分で97質量%となるように秤量して混合し、この混合物に固形分含有量が68質量%になるようにNMPを添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合し正極樹脂組成物を含むスラリーを得た。
【0043】
[分散性の評価(正極樹脂組成物を含むスラリーの粘度)]
正極樹脂組成物を含むスラリーの分散性をJIS K7244-10に記載される回転型レオメータを用いた方法で粘度を評価した。具体的には、回転型レオメータ(アントンパール社製、MCR300)を用いて、固形分含有量が68質量%の正極樹脂組成物を含むスラリー1gをディスク上に塗布し、測定温度を25℃に設定し、せん断速度を100s-1から0.01s-1まで変化させて測定を行い、せん断速度10s-1の粘度を評価した。粘度の数値が低い程、良好な分散性を意味する。本実施例の粘度は、1.24Pa・sであった。
【0044】
(正極の作製)
調製した正極樹脂組成物を含むスラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(UACJ社製)の片面上に、アプリケータにて成膜し、乾燥機内に静置して105℃、一時間で予備乾燥させ、NMP溶媒を完全に除去した。次に、ロールプレス機にて200kg/cmの線圧でプレスし、厚さ15μmのアルミニウム箔を含んだ塗膜の厚さが80μmになるように調製した。次いで、残留水分を完全に除去するため、170℃で3時間真空乾燥して正極を得た。
【0045】
[正極の極板抵抗評価]
作製した正極を直径14mmの円盤状に切り抜き、表裏をSUS304製平板電極によって挟んだ状態で、電気化学測定システム(ソーラトロン社製、ファンクションジェネレーター1260およびポテンショガルバノスタット1287)を用いて、振幅電圧10mV、周波数範囲1Hz~100kHzにて交流インピーダンスを測定した。得られた抵抗成分値に切り抜いた円盤状の面積を掛けた抵抗値を極板抵抗とした。本実施例の正極の極板抵抗は120Ω・cm2であった。
【0046】
(負極の作製)
溶媒として純水(関東化学社製)、負極活物質として人造黒鉛(日立化成社製、「MAG-D」)、結着材としてスチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製、「BM-400B」、以下、SBRと記載)、分散剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、「D2200」、以下、CMCと記載)をそれぞれ用意した。次いで、CMCが固形分で1質量%、人造黒鉛が固形分で97質量%となるように秤量して混合し、この混合物に純水を添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合した。さらに、SBRが固形分で2質量%となるように秤量し、上記混合物に添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合し、負極スラリーを得た。次いで、負極スラリーを、厚さ10μmの銅箔(UACJ社製)上にアプリケータにて成膜し、乾燥機内に静置して60℃、一時間で予備乾燥させた。次に、ロールプレス機にて100kg/cmの線圧でプレスし、銅箔を含んだ塗膜の厚さが50μmになるように調製した。残留水分を完全に除去するため、120℃で3時間真空乾燥して負極を得た。
【0047】
(リチウムイオン電池の作製)
露点-50℃以下に制御したドライルーム内で、上記正極を40×40mmに加工し、負極を44×44mmに加工した後、正極にアルミ製タブ、負極にニッケル製タブを溶接した。正極と負極それぞれの合材塗工面が中央で対向するようにし、さらに正極と負極間に45×45mmに加工したポリオレフィン微多孔質膜を配置した。次に70×140mm角に切断・加工したシート状の外装を長辺の中央部で二つ折りにした。次いで、正極用アルミ製タブと負極用ニッケル製タブが外装の外部に露出するように外装を配置しながら、二つ折りにした外装によって正極-ポリオレフィン微多孔質膜負極の積層体を挟んだ。次にヒートシーラーを用いて、外装の正極用アルミ製タブと負極用ニッケル製タブが露出した辺を含む2辺を加熱融着した後、加熱融着していない一辺から、2gの電解液(キシダ化学製、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(体積比)+1M LiPF6溶液、以下、電解液と記載)を注液し、正極、負極およびポリオレフィン微多孔膜に十分に染み込ませてから、真空ヒートシーラーにより、電池の内部を減圧しながら、外装の残り1辺を加熱融着してリチウムイオン電池を得た。
【0048】
作製したリチウムイオン電池について、以下の方法により電池性能を評価した。
【0049】
(リチウムイオン電池の評価)
[放電レート特性(3C放電時の放電容量維持率)]
作製したリチウムイオン電池を、25℃において、4.3V、0.2C制限の定電流定電圧充電をした後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。次いで、再度4.3V、0.2C制限の定電流定電圧で回復充電した後、放電電流を0.2Cとして3.0Vまで放電させ、このときの放電容量を測定した。引き続き、前記の回復充電の条件は毎回保って充電し、一方で放電電流は0.5C、1C、2C、3Cと段階的に変化させながら、回復充電と放電とを繰り返し、各放電電流に対する放電容量を測定した。電池の放電レート特性の指標として、0.2C放電時に対する3C放電時の放電容量維持率を算出した。本実施例のリチウムイオン電池の3C放電時の放電容量維持率は80.5%であった。
【0050】
[サイクル特性(サイクル後の放電容量維持率)]
作製したリチウムイオン電池を、25℃において、4.3V、1C制限の定電流定電圧充電をした後、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。上記充放電を500サイクル繰り返し、各サイクルにおける放電容量を測定した。電池のサイクル特性の指標として、特に1サイクル後に対する500サイクル後の放電容量維持率を算出した。本実施例のリチウムイオン電池のサイクル後の放電容量維持率は90%であった。
【0051】
[耐電圧性(フロート充電後の放電容量維持率)]
作製したリチウムイオン電池を、25℃において、4.35V、0.5C制限の定電流定電圧で2時間フロート充電した後、0.5Cの定電流で3.0Vまで放電させ、このときの放電容量を測定した。次いで、再度4.35V、0.5C制限の定電流定電圧で48時間フロート充電した後、同様に0.5Cの定電流で3.0Vまで放電させ、このときの放電容量を測定した。電池の耐電圧性の指標として、2時間充電時に対する48時間充電時のフロート充電後の容量維持率を算出した。本実施例のリチウムイオン電池のフロート充電後の容量維持率は94%であった。
【0052】
実施例1~8、比較例1~4で使用したポリビニルアルコールの鹸化度及び平均重合度を表1に示す。また、実施例1~8、比較例1~6で使用したカーボンブラックの平均一次粒子径及びDBP吸油量を表2に示す。
【0053】
<実施例2>
実施例1の分散剤を、ポリビニルアルコールBへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0054】
<実施例3>
実施例1の分散剤を、ポリビニルアルコールCへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0055】
<実施例4>
実施例1の分散剤を、ポリビニルアルコールDへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0056】
<実施例5>
実施例1の導電材を、SAB(デンカ社製)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0057】
<実施例6>
実施例1の導電材を、Li-250(デンカ社製)へ変更し、PVdFが固形分で1.95質量%、Li-250が固形分で1質量%、ポリビニルアルコールAが固形分で0.05質量%(分散剤の質量/導電材の質量=0.05)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0058】
<実施例7>
実施例1の導電材を、ECP(ライオン社製)へ変更し、PVdFが固形分で1.84質量%、ECPが固形分で1質量%、ポリビニルアルコールAが固形分で0.16質量%(分散剤の質量/導電材の質量=0.16)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0059】
<実施例8>
実施例1の導電材を、Li-250(デンカ社製)へ変更し、PVdFが固形分で1.98質量%、Li-250が固形分で1質量%、ポリビニルアルコールAが固形分で0.02質量%(分散剤の質量/導電材の質量=0.02)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0060】
<比較例1>
実施例1の分散剤を、ポリビニルアルコールEへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0061】
<比較例2>
実施例1の分散剤を、ポリビニルアルコールFへ変更した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0062】
<比較例3>
実施例1の導電材を、#3040B(三菱化学社製)へ変更し、PVdFが固形分で1.97質量%、#3040Bが固形分で1質量%、ポリビニルアルコールAが固形分で0.03質量%(分散剤の質量/導電材の質量=0.03)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0063】
<比較例4>
実施例1の導電材を、BlackPearls2000(キャボット社製)へ変更し、PVdFが固形分で1.85質量%、BlackPearls2000が固形分で1質量%、ポリビニルアルコールAが固形分で0.15質量%(分散剤の質量/導電材の質量=0.15)となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0064】
<比較例5>
実施例1の分散剤を、ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K-90)へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0065】
<比較例6>
実施例1の分散剤を添加せずに、PVdFが固形分で2質量%、Li-435が固形分で1質量%となるように秤量して混合した以外は、実施例1と同様な方法で正極樹脂組成物、正極及びリチウムイオン電池を作製し、各評価を実施した。結果を表3に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
実施例1~8の正極樹脂組成物は、比較例1~6の正極樹脂組成物に比べて分散性が高いことが明らかになった。これにより本発明の実施例の正極は極板抵抗が低くなり、放電時の電圧降下を抑えられることが分かった。
【0070】
さらに、実施例1~8のリチウムイオン電池は、比較例1~6のリチウムイオン電池に比べて放電レート特性が高く、サイクル特性も高く、耐電圧性が高いことが明らかになった。これにより本発明の正極樹脂組成物を用いたリチウムイオン電池は放電電流の増加に伴う放電レート特性の低下を抑えられ、高い寿命も兼ね備えていることが分かった。
【符号の説明】
【0071】
1 リチウムイオン電池正極
2 リチウムイオン電池負極
3 ポリオレフィン製微多孔膜
4 アルミ製タブ
5 ニッケル製タブ
6 外装