(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240122BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240122BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20240122BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240122BHJP
C09B 67/46 20060101ALI20240122BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20240122BHJP
C09B 67/22 20060101ALI20240122BHJP
C09B 48/00 20060101ALI20240122BHJP
C09B 1/16 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/21
B41J2/01 401
B41M5/00 120
C09D11/322
C09B67/46 A
C09B57/00 Z
C09B67/22 D
C09B67/22 B
C09B48/00 Z
C09B1/16
(21)【出願番号】P 2019197175
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018205403
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 将史
(72)【発明者】
【氏名】池上 正幸
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-121279(JP,A)
【文献】特開2012-206479(JP,A)
【文献】特開2015-193126(JP,A)
【文献】特開2007-119708(JP,A)
【文献】特開2017-217914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
B41J 2/21
C09D 11/322
C09B 67/46
C09B 57/00
C09B 67/22
C09B 48/00
C09B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に、インクジェット方式の記録ヘッドを用いて画像を記録するインクジェット記録方法であって、
第1インクを前記記録媒体に付与する工程、及び前記第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第2インクを前記記録媒体に付与する工程を有し、
前記第1インクが、銀粒子を含有するインクであり、
前記第2インクが、2又は3個の単環が縮合した縮合環を持つ分子で構成される
とともに、
その色相角hが0°以上50°以下及び320°以上360°未満である赤系の有機顔料を含有するインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記第1インク中の前記銀粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.0質量%以上15.0質量%以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記第2インク中の前記赤系の有機顔料の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上15.0質量%以下である請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記赤系の有機顔料の体積基準の累積50%粒子径(D50)が、50nm以上200nm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記赤系の有機顔料が、アントラキノン顔料、アゾ顔料、ジケトピロロピロール顔料、キサンテン顔料、及びインジゴイド顔料からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記赤系の有機顔料が、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド150、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド254、及びC.I.ピグメントレッド264からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1乃至
5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記赤系の有機顔料が、ジケトピロロピロール顔料又はアゾ顔料である請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記アゾ顔料が、モノアゾ顔料である請求項
7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記記録媒体の単位面積当たりの前記銀粒子の付与量(mg/inch
2)が、0.01mg/inch
2以上1.00mg/inch
2以下である請求項1乃至
8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記記録媒体の単位面積当たりの前記赤系の有機顔料の付与量(mg/inch
2)、0.01mg/inch
2以上1.00mg/inch
2以下である請求項1乃至
9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記記録媒体の単位面積当たりの前記赤系の有機顔料の付与量(mg/inch
2)が、前記銀粒子の付与量(mg/inch
2)に対する比率で、0.1倍以上2.0倍以下である請求項1乃至
10のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記第1インクを前記記録媒体に付与する工程、及び、前記第2インクを前記記録媒体に付与する工程を行う時間差が、1秒以上である請求項1乃至
11のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記第1インクを前記記録媒体に付与する工程、及び、前記第2インクを前記記録媒体に付与する工程を行う時間差が、600秒以下である請求項1乃至
12のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記第1インクを前記記録媒体に付与する工程、及び、前記第2インクを前記記録媒体に付与する工程を行う時間差が、1秒以上90秒以下である請求項1乃至12のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記記録媒体の単位領域への前記第1インクの付与を、4回以上に分割して行う請求項1乃至
14のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記記録媒体の単位領域への前記第2インクの付与を、4回以上16回以下に分割して行う請求項1乃至
15のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項17】
前記記録媒体が、インク受容層を有する記録媒体である請求項1乃至
16のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項18】
記録媒体に、インクジェット方式の記録ヘッドを用いて画像を記録する手段を備えたインクジェット記録装置であって、
前記インクジェット記録装置が、第1インクを前記記録媒体に付与する手段、及び前記第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第2インクを前記記録媒体に付与する手段を備え、
前記第1インクが、銀粒子を含有するインクであり、
前記第2インクが、2又は3個の単環が縮合した縮合環を持つ分子で構成されると
ともに、
その色相角hが0°以上50°以下及び320°以上360°未満である赤系の有機顔料を含有するインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を含有するインクは、用いる金属粒子の導電性を利用して、電気回路の形成に使用されてきたが、近年では、クリスマスカードなどのメタリック感を表現する用途においても使用されるようになってきている。特に、メタリック感のある画像にカラーの色調を持たせる、すなわち、「カラーメタリック画像」を記録するニーズがある。カラーメタリック画像を記録するために、記録媒体に、銀粒子を含有するインク、及び顔料を含有するインクを順に重ねて付与するインクジェット記録方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に記載されたインクジェット記録方法でカラーメタリック画像を記録し、得られた画像について検討した。特定の色相を持つ有機顔料を含有するインクを用いて記録されるカラーメタリック画像は、金属光沢感を有し、良好な光沢性を示すとともに、有機顔料の色調を呈し、発色性を示すものであった。但し、有機顔料の種類によっては、大気中のオゾンガスなどにより光沢性が低下して、耐オゾン性が不十分となる場合があることがわかった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、発色性、光沢性、及び耐オゾン性に優れるカラーメタリック画像を記録することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット記録方法は、記録媒体に、インクジェット方式の記録ヘッドを用いて画像を記録するインクジェット記録方法であって、第1インクを前記記録媒体に付与する工程、及び前記第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、第2インクを前記記録媒体に付与する工程を有し、前記第1インクが、銀粒子を含有するインクであり、前記第2インクが、2又は3個の単環が縮合した縮合環を持つ分子で構成されるとともに、その色相角hが0°以上50°以下及び320°以上360°未満である赤系の有機顔料を含有するインクであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発色性、光沢性、及び耐オゾン性に優れるカラーメタリック画像を記録することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0010】
特許文献1に記載されているように、カラーメタリック画像は、記録媒体に、銀粒子を含有するインク及び色材を含有するインクを順に重ねて付与して記録し得る。このようにして記録されるカラーメタリック画像は、記録媒体上に、彩度を有しない銀層、及び色材層がこの順に形成された層構成を有する。銀粒子により形成された銀層が金属光沢感を示すことで、光沢性を有するメタリック画像となる。また、カラーメタリック画像に入射した光は、色材層を透過して銀層で反射し、再び色材層を透過して、インクに含有させた色材の色調を発現する。つまり、銀層が光を反射することでメタリック感、すなわち光沢性が発現し、光が色材層を透過することで、発色性が発現する。このように、本発明における「発色性」を有する画像とは、画像からの正反射光が、無色の銀色ではなく第2インクの色材の色調を呈する画像を指す。正反射光は、画像への入射光が、画像の法線方向と光の入射方向とのなす角(入射角)と同じ角度(反射角)をもって反射する光である。
【0011】
発色性及び光沢性を発現させるためには、記録媒体において、銀層及び色材層の界面が混ざり合わずに、互いに分離して存在することが重要である。染料インクの場合、銀層と分離した色材層が形成されにくい。これは、染料が粒子を形成していないため、銀層の上に留まりにくく、銀層の内部や記録媒体に沈み込むからである。一方、顔料インクの場合、銀層と分離した色材層が形成されやすい。これは、粒子を形成している顔料は銀層の上に留まりやすいからである。
【0012】
但し、本発明者らが検討したところ、顔料インクの色材として無機顔料を用いた場合、発色性及び光沢性を有する画像を記録することはできなかった。透明性が高い有機顔料と比べて、無機顔料は透明性が低いので、隠蔽性が高いという特性を有する。無機顔料を含有するインクを用いると、銀層の上に形成される顔料層の隠蔽性も高くなる。画像に入射した光は顔料層を透過しにくく、銀層にまで届きにくいので、銀層から反射する光も少なくなる。このため、光沢性が発現しなかったと考えられる。また、銀層から反射したわずかな光も、隠蔽性の高い顔料層を透過しにくい。このため、無機顔料の色調の補色に対応する光が十分に吸収されず、無機顔料の彩度が低くなって発色性が発現しなかったと考えられる。
【0013】
インクの色材として有機顔料を用いれば、発色性及び光沢性は発現し得る。しかし、このようにして記録した画像を保存する間に画像がオゾンにさらされると、光沢性が損なわれていく、すなわち、耐オゾン性が不十分となることがわかった。本発明者らがオゾンによる光沢性の低下の原因について解析したところ、光沢性の低下した領域ではハロゲン化銀が形成されていた。その理由は、以下のように推測される。
【0014】
画像の記録に利用される記録媒体には、一般に、塩化物イオン(Cl-)などのハロゲン化物イオンが含まれる。例えば、普通紙などのインク受容層を有しない記録媒体には、パルプの漂白剤に由来する塩化物イオンが含まれる。また、インク受容層を有する記録媒体には、カウンターイオンが塩化物イオンである樹脂などのカチオン性化合物が含まれる。画像を保存する間に、記録媒体は空気中の水分を吸収する。この水にハロゲン化物イオンが溶解し、記録媒体の表面近傍にハロゲン化物イオンが滲み出てくる。一方で、オゾンは顔料層の微細な細孔を透過して銀層にまで到達し、銀層を構成する銀を酸化させることによって、銀イオンが生ずる。記録媒体の表面近傍において、ハロゲン化物イオンと銀イオンとが反応することで、ハロゲン化銀が生成し、光沢性が低下したと考えられる。
【0015】
さらに、赤系の有機顔料を用いる場合、オゾンによる光沢性の低下が顕著に生ずる場合があった。本発明者らは、インクジェット用のインクに汎用の赤系の有機顔料である、キナクリドン顔料について検討した。以下、「赤系の有機顔料」を単に「有機顔料」と記載することがある。
【0016】
キナクリドン顔料を構成する分子は5個の単環が縮合した縮合環を持つ。複数の単環で構成される化合物は単結合及び多重結合が連なった共役系を構成するため、その分子内には非局在化したπ電子が多数存在する。π電子を多く有する分子内では、量子力学的なゆらぎや光励起による誘導などによって、一時的な電気双極子(正電荷と負電荷)が生じやすい。上記したように、空気中の水分が画像に付着すると、極性分子である水分子が一時的な電荷の偏りによって顔料の結晶内に引き込まれる。但し、この電気双極子は永続的なものではないので、水分子は結晶内のある位置にとどまることはなく、顔料の結晶内を絶えず移動する。
【0017】
また、顔料がオゾンにさらされると、顔料を構成する分子の炭素-炭素間二重結合がオゾンにより酸化されて、カルボニル基やヒドロキシ基などの極性を持つ親水性基が生ずる。顔料の粒子表面に親水性基が生成し、この親水性基によって、水分子の顔料の結晶内への引き込みが促進される。
【0018】
このように、キナクリドン顔料のような、多数の単環が縮合した分子で構成される顔料は、その結晶内に水分子を引き込みやすい。カラーメタリック画像を構成する顔料層がキナクリドン顔料で形成されている場合、顔料層は空気中の水分子を多く取り込み、水分子は銀層を通過して記録媒体の表面近傍にまで到達する。この水にハロゲン化物イオンが溶解し、記録媒体の表面近傍にハロゲン化物イオンが滲み出てくる。そして、ハロゲン化物イオンと、オゾンによって生成した銀イオンとが反応して、ハロゲン化銀が生成し、光沢性が低下したと考えられる。
【0019】
上記を踏まえると、赤系の有機顔料としては、顔料の結晶内に水分子を引き込みにくい有機顔料を用いる必要がある。このため、本発明では、縮合環を構成する単環が2又は3個と少ない分子で構成される有機顔料を用いる。縮合環を構成する単環が2又は3個と少ない有機顔料であっても、キナクリドン顔料と同様にオゾンの作用によって酸化されて、顔料の粒子表面に親水性基が生成する。但し、縮合環を構成する単環が2又は3個と少ない有機顔料は、分子内の共役系が狭く、電気双極子が生じにくいので、キナクリドン顔料の場合とは異なり、空気中の水分が顔料の結晶内に引き込まれにくい。結果として、水に溶解するハロゲン化物イオンが少なく、ハロゲン化銀も生成しにくいので、光沢性の低下は抑えられ、耐オゾン性が損なわれることはない。
【0020】
顔料を構成する分子内の共役系は発色に関連し、共役系が広いほど発色性の向上には有利である。したがって、2又は3個の単環が縮合した縮合環を持ち、キナクリドン顔料と比べると共役系が狭い分子で構成される有機顔料を用いる場合、発色性が相対的に低くなることが予想された。しかし、色材が顔料である場合は、顔料の分子そのものの発色による寄与以外にも、顔料の結晶構造や分子間相互作用による発色の寄与も大きいため、予想したほど発色性が低いということはなかった。
【0021】
<インクジェット記録方法、インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、銀粒子を含有する第1インクを記録媒体に付与する工程、及び第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、所定の顔料を含有する第2インクを記録媒体に付与する工程を有する。また、本発明のインクジェット記録装置は、第1インクを記録媒体に付与した後に、第2インクを、第1インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように付与して記録媒体に画像を記録する手段を備える。
【0022】
インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させる方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが好ましい。本発明の記録方法では、各インクと反応するような反応液を付与する工程や、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射を行う工程を実施する必要はない。また、各インクは、記録媒体(好適には、浸透性を有する記録媒体)に直接付与することが好ましい。
【0023】
図1は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。
【0024】
第1インク記録媒体に付与する工程、及び第2インクを記録媒体に付与する工程を行う時間差は、1秒以上であることが好ましい。この時間差は、記録媒体に第1インクが付与されてから、その上に重ねて付与される第2インクが第1インクに接触するまでの時間であるということができる。前記時間差が1秒未満であると、第1インク及び第2インクを重ねて付与する時間差が短いため、銀粒子が融着していない状態で、有機顔料を含有するインクが付与されることになる。すると、有機顔料を含有するインクの液体成分に銀粒子が分散して、銀粒子が移動しやすくなり、銀層及び色材層を分離して存在させにくいので、高いレベルの発色性及び光沢性が十分に得られない場合がある。前記時間差が長すぎると画像を記録する際の生産性が低下する場合があるため、600秒以下であることが好ましい。前記時間差は、3秒以上300秒以下であることがさらに好ましく、3秒以上90秒以下であることが特に好ましい。
【0025】
第1インクを記録媒体に付与する工程、及び、第2インクを記録媒体に付与する工程を行う時間差を所定の範囲内とする、すなわち、第1インク及び第2インクを記録媒体に所定の時間差で付与する方法を説明する。例えば、記録ヘッドを主走査方向に移動させながら画像を記録するシリアル方式で、片方向記録を行う場合、以下の(1)~(3)などの方法を利用することができる。単位領域とは、1画素や1バンドなどの任意の領域として設定することができる。
【0026】
(1)主走査方向に直交する方向に配列された第1インク及び第2インクのそれぞれの吐出口列を有する記録ヘッドを用いる。記録媒体の単位領域に第1インクを付与した後、記録媒体を搬送することなく、前記単位領域に第2インクを付与する。
【0027】
(2)主走査方向に直交する方向に配列された第1インク及び第2インクのそれぞれの吐出口列を有する記録ヘッドを用いる。第1インクは副走査方向における上流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を、第2インクは副走査方向における下流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を使用する。そして、記録媒体を搬送しながら、記録媒体の単位領域に第1インク及び第2インクを付与する。
【0028】
(3)副走査方向における上流側に第1インクの吐出口列、下流側に第2インクの吐出口列を有する記録ヘッドを用いる。第1インクは上流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を、第2インクは下流側の吐出口列の一部分にあたる吐出口を使用する。そして、記録媒体を搬送しながら、記録媒体の搬送時間分の時間差を少なくとも空けて、第1インク及び第2インクを付与する。
【0029】
上記では、片方向記録を行う場合を例に挙げて説明した。勿論、本発明では、双方向記録を行う場合であっても、2種類のインクを記録媒体に所定の時間差で付与することができれば、どのような方法を利用してもよい。
【0030】
記録媒体の単位領域へのインクの付与は、1回で行ってもよいし、複数回に分割して行ってもよい。複数回に分割する際は、記録ヘッドの主走査の回数(記録パス数)で調整することができる。分割の回数が少ないと、インクが記録媒体に付与されてから液体成分が記録媒体に浸透する以前に複数のドットが接触しやすいため、表面が平滑な銀層や顔料層が形成されやすい。一方、分割の回数が多いと、先に記録媒体に付与されたインクの液体成分が記録媒体に浸透した後に、次のインクが付与される。そのため、複数のドットの重なり部分に段差が生じやすく、表面が平滑な銀層や顔料層が形成されにくい。このような現象を踏まえると、各インクを付与する際の記録パス数は以下のように設定することが好ましい。
【0031】
記録媒体の単位領域への第1インクの付与は、4回以上に分割して行うことが好ましい。金属は表面エネルギーが高い物質であり、銀層の表面は後に付与されるインクが濡れやすい。銀層をはじめとしたインクが濡れやすい物質は、その表面が平滑であるほどインクが濡れにくくなる傾向にある。分割の回数を4回未満として第1インクを付与する場合、より平滑な表面の銀層が形成されて、インクが濡れにくくなる。このような銀層の上には平滑な表面の顔料層が形成されにくい。これにより、オゾンと接触する顔料層の表面積が大きくなり、オゾンと接触した顔料の粒子表面に親水性基が多く生じ、この親水性基によって空気中の水分が顔料の結晶内に引き込まれやすくなる。そのため、光沢性の低下を効果的に抑制することができず、高いレベルの耐オゾン性が十分に得られない場合がある。記録媒体の単位領域への第1インクの付与は、10回以下に分割して行うことが好ましい。
【0032】
記録媒体の単位領域への第2インクの付与は、4回以上16回以下に分割して行うことが好ましい。分割の回数を4回未満として第2インクを付与する場合、記録媒体の単位領域に1度に付与されるインクの量を多くすることになる。この場合、第2インクの液体成分が蒸発しにくくなったり、記録媒体に浸透しにくくなったりする。これにより、第2インクの液体成分に銀粒子が分散して、銀層及び顔料層の界面が混ざり合いやすくなり、高いレベルの発色性及び光沢性が十分に得られない場合がある。さらに、銀層及び顔料層の界面が混ざり合いやすくなるため、銀粒子が顔料により覆われていない領域が生じ、この領域の銀粒子がオゾンにさらされやすくなる。すると、オゾンによる銀のイオン化が促進されるため、ハロゲン化銀の形成を抑制しにくく、高いレベルの耐オゾン性が十分に得られない場合がある。一方、16回を超える分割の回数で第2インクを付与する場合、平滑な表面の顔料層が形成されにくい。これにより、顔料層の表面積が大きくなるため、オゾンと接触することで顔料の粒子表面に親水性基が生じやすく、空気中の水分が顔料の結晶内に引き込まれやすい。そのため、光沢性の低下を効果的に抑制することができず、高いレベルの耐オゾン性が十分に得られない場合がある。
【0033】
<第1インク>
第1インクは、銀粒子を含有するインクであり、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクであることが好ましい。第1インクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。以下、第1インクを構成する成分について説明する。
【0034】
(銀粒子)
第1インクの色材は銀粒子である。銀粒子は、銀原子で構成されている。銀粒子は、銀原子以外にも、他の金属原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子などを含んで構成されていてもよい。但し、銀粒子中の銀原子の割合(%)は、50.0質量%以上100.0質量%以下であることが好ましい。第1インク中の銀粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましい。第1インクは、銀粒子以外の色材(「他の色材」と記載)をさらに含有してもよいし、含有しなくてもよい。他の色材の含有量(質量%)は、銀粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.0倍以上5.0倍以下であることが好ましく、0.0倍以上3.0倍以下であることがより好ましい。前記質量比率は、0.0倍以上0.1倍以下であることがさらに好ましい。
【0035】
銀粒子の製造方法としては、例えば、銀の塊をボールミルやジェットミルなどの粉砕機で粉砕する方法(粉砕法)、銀イオン又は銀錯体を還元剤により還元して凝集させる方法(還元法)などが挙げられる。本発明においては、銀粒子の粒子径制御のしやすさ、及び銀粒子の分散安定性の観点から、還元法により製造された銀粒子を用いることが好ましい。
【0036】
銀粒子は、界面活性剤や樹脂などの分散剤を用いて分散されたものを用いることが好ましく、分散剤としては樹脂がより好ましい。第1インク中の分散剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0037】
銀粒子の分散剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などの各種の界面活性剤を用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステルなどが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系化合物、シリコーン系化合物などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルアミンオキサイド、ホスファチジルコリンなどが挙げられる。なかでも、アニオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を分散剤として用いることが好ましい。アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を用いることが好ましい。また、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることが好ましい。分散剤として界面活性剤を用いる場合、第1インク中の分散剤の含有量(質量%)は、銀粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.02倍以上1.00倍以下であることが好ましい。
【0038】
また、銀粒子の分散剤としては、アニオン性基を有するユニットとアニオン性基を有しないユニットとを持つ樹脂を用いることができる。樹脂の骨格としては、ビニル系樹脂、エステル系樹脂、アミノ系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エーテル系樹脂、アミド系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。分散剤として樹脂を用いる場合、第1インク中の分散剤の含有量(質量%)は、銀粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上1.00倍以下であることが好ましい。
【0039】
銀粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。体積基準の累積50%粒子径は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として小粒子径側から積算して50%となった粒子の直径を指す。累積50%粒子径が小さい場合、単位質量当たりの銀原子数に占める、銀粒子の表面に存在する銀原子の割合が多いことになる。銀粒子中で動きやすい銀原子の割合が多くなることで、ある銀粒子の表面に存在する銀原子が、その周囲の銀粒子の表面に存在する銀原子と金属結合を形成しやすいので、銀粒子が融着しやすくなる。したがって、D50が50nm以下であると、光沢性が向上する傾向にある。累積50%粒子径は、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。
【0040】
銀粒子の体積基準の累積50%粒子径は、第1インクや銀粒子の分散液を水で希釈したものを試料として、以下のように測定することができる。シリコン基板に試料を塗布した後に、水を除去して試料を作製する。得られた試料を利用して、3,000個以上の銀粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などで観察し、画像処理を行って、上述の定義の粒子径を算出する。後述する実施例では、銀粒子を観察した後、画像解析・計測ソフトウェア(商品名「WinROOF2015」、三谷商事製)を利用して、粒子径を算出した。なお、銀粒子の粒子径は、インクや分散液について、動的光散乱法により測定することもできる。但し、測定値が凝集などの影響を受けて変動しやすいので、動的光散乱法で測定する場合は、水で十分に希釈して測定することが好ましい。
【0041】
記録媒体の単位面積当たりの、銀粒子の付与量(mg/inch2)は、0.01mg/inch2以上1.00mg/inch2以下であることが好ましい。
【0042】
(界面活性剤)
第1インクは、銀粒子の分散剤として用い得る界面活性剤とは別に、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。第1インク中の、銀粒子の分散剤として用いる界面活性剤以外の、界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。なかでも、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0044】
(水性媒体)
第1インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有することが好ましい。第1インクは、水性媒体として水を含有するインク(水性インク)であることが好ましい。水としては脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。第1インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素極性溶剤類、含硫黄極性溶剤類などをいずれも用いることができる。第1インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。インクジェット記録方法に適用する際に、水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲を外れると、耐固着性や吐出安定性などの信頼性がやや低下する場合がある。
【0045】
(その他の成分)
第1インクには、上記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、及びトリメチロールエタンなどの25℃で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、第1インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及びキレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0046】
(第1インクの物性)
第1インクの25℃における粘度は、1mPa・s以上6mPa・s以下であることが好ましく、1mPa・s以上4mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、第1インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上50mN/m以下であることがさらに好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であることが特に好ましい。
【0047】
<第2インク>
第2インクは、2又は3個の単環が縮合した縮合環を持つ分子で構成される、赤系の有機顔料を含有するインクであり、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクであることが好ましい。第2インクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。以下、第2インクを構成する成分について説明する。
【0048】
(赤系の有機顔料)
第2インクの色材は2又は3個の単環が縮合した縮合環を持つ分子で構成される、赤系の有機顔料である。第2インク中の赤系の有機顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
縮合環とは、2個以上の単環が2以上の原子を共有している環構造である。また、本発明における「赤系の有機顔料」とは、色相角hが、0°以上50°以下及び320°以上360°未満である顔料を指す。顔料の色相角は、当該顔料を含む液体の分光透過率から算出することができる。具体的には、無色透明の液媒体(好ましくは水)に顔料の含有量が0.001%程度となるように分散させた試料について、分光光度計を利用して測色を行い、色相角hを算出する。分光光度計による測色は、標準光源:D65、視野角:2°、測定光源:ハロゲンランプ、の条件で行うことができる。色相角hは、CIE(国際照明委員会)により規定されたL*a*b*表示系に基づく色度a*及びb*から算出する。上記の測色の際、顔料を液媒体中に分散させるための分散剤などは、色相角の測色値に実質的に影響を及ぼさないので、除去しなくてもよい。後述する実施例では、顔料分散液を利用して試料を調製し、色相角を測定したが、インクから適宜取り出した顔料を用いても同様に測定することができる。
【0050】
2又は3個の単環が縮合した縮合環を持つ分子で構成される赤系の有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド83、84、85、89、177などのアントラキノン顔料;C.I.ピグメントレッド2、4、9、12、14、23、31、32、48:1、49:1、49:2、57、63:1、112、146、147、150、170、175、176、184、185、187、188、208、210、245、268、269などのモノアゾ顔料;C.I.ピグメントレッド144、166、221、242などのジスアゾ顔料;C.I.ピグメントレッド254、255、264、270、272、283、291などのジケトピロロピロール顔料;C.I.ピグメントレッド81、82、90、169、172、173、174、191などのキサンテン顔料;C.I.ピグメントレッド86、87、88、181、198などのインジゴイド顔料などが挙げられる。なかでも、上記の縮合環を2又は3個持つ分子で構成される、赤系の有機顔料を用いることが好ましい。
【0051】
2又は3個の単環が縮合した縮合環を持つ分子で構成される、赤系の有機顔料としては、ジケトピロロピロール顔料又はアゾ顔料が好ましい。ジケトピロロピロール顔料及びアゾ顔料の分子構造は発色効率が高く、発色性に優れるため好適である。アゾ顔料としては、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料などが挙げられ、なかでもモノアゾ顔料が好ましい。複数のアゾ結合を有する分子で構成されるジスアゾ顔料は、モノアゾ顔料と比べると分子骨格が大きく、アゾ結合以外の、発色に寄与しない構造が大きい傾向にある。そのため、高いレベルの発色性が十分に得られない場合がある。
【0052】
有機顔料の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、50nm以上200nm以下であることが好ましい。体積基準の累積50%粒子径は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として小粒子径側から積算して50%となった粒子の直径を指す。粒子の質量が一定である場合、粒子径が小さいと総表面積は大きくなり、粒子径が大きいと総表面積は小さくなる。D50が50nm未満であると、粒子径が小さいため、有機顔料がオゾンにより酸化されやすく、銀層が露出してオゾンにさらされることがある。そのため、光沢性が低下しやすくなり、高いレベルの耐オゾン性が十分に得られない場合がある。一方、D50が200nm超であると、粒子径が大きいため、有機顔料の粒子表面で光が散乱しやすく、顔料層の光の透過性が低下し、高いレベルの発色性が十分に得られない場合がある。加えて、粒子径が大きいと顔料層の透明性が低下する傾向にあり、高いレベルの光沢性が十分に得られない場合がある。
【0053】
顔料の体積基準の累積50%粒子径は、第2インクや顔料分散液を水で希釈したものを試料として、動的光散乱方式の粒度分布測定装置で測定することができる。具体的には、第2インクや顔料分散液を、ローディングインデックス値が1~2の範囲になるように水で希釈する。この試料について、上記測定装置を用いて、SetZero:30s、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:非球形、屈折率:1.51の条件で累積50%粒子径を測定する。上記では第2インクや顔料分散液を用いて測定する手法を例に挙げて説明したが、インクや顔料分散液から適宜取り出した顔料を用いても同様に測定することができる。
【0054】
記録媒体の単位面積当たりの、赤系の有機顔料の付与量(mg/inch2)は、0.01mg/inch2以上1.00mg/inch2以下であることが好ましい。記録媒体の単位面積当たりの、赤系の有機顔料の付与量(mg/inch2)は、銀粒子の付与量(mg/inch2)に対する比率で、0.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。前記比率が0.1倍未満であると、顔料層に光が透過する際に、有機顔料の補色に対応する光が十分に吸収されず、高いレベルの発色性が十分に得られない場合がある。また、顔料が少ないため、水分子は銀層を通過して記録媒体の表面近傍にまで到達しやすいうえ、銀層が顔料層を透過したオゾンにさらされやすいため、高いレベルの耐オゾン性が十分に得られない場合がある。一方、前記比率が2.0倍超であると、顔料層が厚いため隠蔽性が高く、銀層で反射する光が少なくなるため、高いレベルの光沢性が十分に得られない場合がある。前記比率は、第1インク中の銀粒子の含有量、第2インク中の赤系の有機顔料の含有量、第1インクの付与量、第2インクの付与量の少なくともいずれかにより調整することができる。
【0055】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。なかでも、発色性及び光沢性の観点で、樹脂分散顔料が好ましい。
【0056】
第2インクは、赤系の有機顔料以外の有機顔料(「他の有機顔料」と記載する)をさらに含有してもよいし、含有しなくてもよい。他の有機顔料の含有量(質量%)は、赤系の有機顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.0倍以上5.0倍以下であることが好ましく、0.0倍以上3.0倍以下であることがより好ましい。前記質量比率は、0.0倍以上0.1倍以下であることがさらに好ましい。第2インクは、無機顔料をさらに含有してもよいが、無機顔料の含有量(質量%)は、赤系の有機顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.0倍以上0.1倍以下であることが好ましい。
【0057】
(樹脂)
第2インクは、銀粒子の分散剤として用い得るもの以外にも樹脂を含有させることが好ましい。このような樹脂としては、水性媒体に溶解した状態の樹脂(水溶性樹脂)であってもよく、水性媒体に分散した状態の樹脂(水分散性樹脂、すなわち樹脂粒子)であってもよい。樹脂としては、系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂などが挙げられ、なかでも系樹脂が好ましい。系樹脂は、上記で挙げたような樹脂のなかでも表面エネルギーが高いため、対象物へのインクの濡れ性を向上し得る。そのため、系樹脂を含有する第2インクを用いることで、より平滑な表面を有する顔料層を形成することができる。この場合、オゾンと接触する顔料層の表面積が小さくなるため、オゾンによる銀のイオン化が抑制され、光沢性の低下をさらに有効に抑制することができ、耐オゾン性がさらに向上する。
【0058】
ウレタン系樹脂としては、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得ることができる。また、架橋剤や鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。ウレタン系樹脂の重量平均分子量は、5,000以上30,000以下であることが好ましく、10,000以上25,000以下であることがさらに好ましい。第2インク中のウレタン系樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。ウレタン系樹脂の含有量(質量%)は、有機顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上1.0倍以下であることが好ましい。前記比率が0.1倍未満であると、有機顔料に対してウレタン系樹脂が少なく、平滑な表面の顔料層が形成されにくい。これにより、顔料層の表面積が大きくなるため、オゾンと接触することで顔料の粒子表面に親水性基が生じやすく、空気中の水分が顔料の結晶内に引き込まれやすい。そのため、光沢性の低下を効果的に抑制することができず、高いレベルの耐オゾン性が十分に得られない場合がある。一方、前記比率が1.0倍超であると、有機顔料に対してウレタン系樹脂が多いため、ウレタン系樹脂が有機顔料の発色を遮りやすく、高いレベルの発色性が十分に得られない場合がある。
【0059】
(水性媒体)
第2インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合媒体である水性媒体を含有することが好ましい。第2インクは、水性媒体として水を含有するインク(水性インク)であることが好ましい。水としては脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。第2インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素極性溶剤類、含硫黄極性溶剤類などをいずれも用いることができる。第2インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、第2インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。インクジェット記録方法に適用する際に、水溶性有機溶剤の含有量が上記した範囲を外れると、耐固着性や吐出安定性などの信頼性がやや低下する場合がある。
【0060】
(その他の成分)
第2インクには、前記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、及びトリメチロールエタンなどの25℃で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、第2インクには、上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及びキレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0061】
(第2インクの物性)
第2インクの25℃における粘度は、1mPa・s以上6mPa・s以下であることが好ましく、1mPa・s以上4mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、第2インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上50mN/m以下であることがさらに好ましく、25mN/m以上40mN/m以下であることが特に好ましい。
【0062】
<記録媒体>
記録媒体としては、どのようなものを用いてもよいが、普通紙や、インク受容層を有する記録媒体(光沢紙やアート紙)などの、浸透性を有する記録媒体を用いることが好ましい。なかでも、記録される画像のメタリック感に優れるため、光沢紙などのインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。インクジェット記録方法で用いられる光沢紙などの記録媒体は、通常、塩化物イオンなどのハロゲン化物イオンを含有するインク受容層を具備する。塩化物イオンは、例えば、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリ塩化アルミニウムなどのカチオン性化合物に含まれている。
【実施例】
【0063】
以下、実施例、及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、成分量に関して「部」、及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0064】
<銀粒子の分散液の調製>
特表2010-507727号公報の実施例2の記載を参考にして、銀粒子の含有量が10.0%であり、樹脂の含有量が2.0%である、銀粒子の分散液を調製した。銀粒子の体積基準の累積50%粒子径は32nmであった。銀粒子の体積基準の累積50%粒子径は以下の手順で測定した。先ず、イオン交換水で約2,000倍(質量基準)に希釈した分散液を、シリコン材料で形成された基板に塗布して、水を乾燥により除去して試料を準備した。次いで、得られた試料を利用して、3,000個以上の銀粒子について、走査型電子顕微鏡で観察し、画像解析・計測ソフトウェア(商品名「WinROOF2015」、三谷商事製)を利用して画像処理を行って算出した。
【0065】
<第1インクの調製>
以下に示す各成分を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、第1インクを得た。アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。インク中の銀粒子の含有量は5.0%であった。
【0066】
・銀粒子の分散液:50.0%
・エチレングリコール:15.0%
・アセチレノールE100:0.2%
・イオン交換水:34.8%
<顔料分散液の調製>
表1に示す種類の顔料12.0部、樹脂分散剤の水溶液24.0部、及びイオン交換水64.0部を混合して混合物を得た。樹脂分散剤の水溶液としては、スチレン-アクリル酸共重合体(商品名「ジョンクリル680」、BASF製)を、酸価の0.85倍(モル比)の水酸化カリウムで中和し、適量のイオン交換水を加えて得た、水溶性樹脂の含有量が20.0%である水溶液を用いた。得られた混合物、及び0.3mm径のジルコニアビーズ85部を、バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に入れて、水冷しながら3時間分散させた。その後、遠心分離して粗大粒子を除去した。ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過して、顔料の含有量が10.0%、樹脂の含有量が4.0%である各顔料分散液を調製した。表1中、「固溶体」は、キナクリドン構造を有する顔料であるC.I.ピグメントバイオレット19及びC.I.ピグメントレッド202の固溶体顔料を示す。表1には、顔料の特性を示す。
【0067】
上記で得られた各顔料分散液を、顔料の含有量が0.001%となるようにイオン交換水で希釈して、顔料の色相角を測定する試料を調製した。この試料について、分光光度計(商品名「U-3200」、日立製作所製)を用いて、吸光度から色相角を算出した。その結果、顔料分散液1~16中の顔料の色相角hは、0°以上50°以下又は320°以上360°未満の範囲内にあり、「赤系」の顔料と判定されたが、顔料分散液17中の顔料の色相角hは上記範囲外であり、赤系の顔料ではないと判定された。
【0068】
【0069】
<ウレタン系樹脂の合成>
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流管を備えた4つ口フラスコを準備した。ここに、イソホロンジイソシアネート35.3部、数平均分子量2,000のポリプロピレングリコール50.4部、ジメチロールプロピオン酸14.3部、及びメチルエチルケトン200.0部を入れ、窒素ガス雰囲気下、80℃で12時間反応させた。さらに、エチレンジアミン0.6部、及びメチルエチルケトン100.0部を添加し、60℃で1時間反応させた。その後、40℃まで冷却し、適量のイオン交換水を添加した後、ホモミキサーで撹拌しながら、酸価の1.0倍(モル比)の水酸化カリウムを添加した。加熱減圧下でメチルエチルケトンを留去して、ウレタン樹脂の含有量が25.0%であるウレタン樹脂を含む液体を得た。ウレタン樹脂の重量平均分子量は15,000であった。
【0070】
ウレタン樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値として求めた。ウレタン樹脂をテトラヒドロフランに添加し、25℃で24時間かけて溶解させ、メンブレンフィルターでろ過して、試料を調製した。試料は樹脂の含有量が約0.3%となるように調整した。この試料について、以下の条件で樹脂の重量平均分子量を測定した。
【0071】
・測定装置:商品名「Waters2695 Separations Module」、Waters製
・RI(屈折率)検出器:商品名「2414detector」、Waters製
・カラム:商品名「Shodex KF-806M」の4連カラム、昭和電工製
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40℃
・試料注入量:100μL。
【0072】
樹脂の重量平均分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン試料(商品名「TSKgel標準ポリスチレン」の、F-850、F-450、F-288、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500、東ソー製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用した。
【0073】
<第2インクの調製>
表2に示す各成分(単位:%)を混合して、十分撹拌した後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、第2インクを得た。アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤の商品名である。表2の下段には、顔料の含有量、体積基準の累積50%粒子径(D50)を示した。
【0074】
顔料の体積基準の累積50%粒子径は、インクを純水で100倍(体積基準)に希釈した液体を測定試料とし、動的光散乱法による粒度分布計(商品名「ナノトラックUPA-EX150」、日機装製)を使用して測定した。測定条件は、SetZero:30s、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:非球形、屈折率:1.51とした。
【0075】
【0076】
<評価>
上記で調製した各インクをインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(PIXUS PRO 10-S、キヤノン製)にセットした。この記録ヘッドは、主走査方向に直交する方向に沿って、第1インク及び第2インクのそれぞれの吐出口列が配列されたものである。本実施例では、1/600インチ×1/600インチの単位領域(1画素)に、約3.8ngのインク滴を8滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。
【0077】
第1インクは副走査方向における上流側の吐出口列のうち半分にあたる吐出口から吐出するように設定した。また、第2インクは副走査方向における下流側の吐出口列のうち半分にあたる吐出口から吐出するように設定した。そして、表3の左側に示す条件で、各評価に用いる2cm×2cmのベタ画像を記録した。この際、上流側の吐出口列から先に付与するインクを吐出して記録媒体に付与した。その後、記録ヘッドを搭載したキャリッジをホームポジションに戻す間に、先のインクを付与した領域に相当する幅として副走査方向に記録媒体を搬送した。次いで、下流側の吐出口列から後に付与するインクを吐出して記録媒体に付与した。表3の左側に、第2インクの種類、付与順序、記録デューティ、各インクの付与時間差、単位領域にインクを付与する際の分割の回数(記録パス数)、銀の付与量S、顔料の付与量P、P/Sの値を示す。記録媒体としては、光沢紙(商品名「キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド GL-101」、キヤノン製)を用いた。この記録媒体のインク受容層は、塩化物イオンを含有する。
【0078】
本発明においては、下記の各項目の評価基準で、AA、A、及びBを許容できるレベルとし、Cを許容できないレベルとした。評価結果を表3の右側に示す。
【0079】
(発色性)
上記で得られた画像について、積分球型の分光測色計(商品名「CM-2600d」、コニカミノルタ製)を用いて、SCIモード(正反射光を含む条件)、測定径:3mm、視野角:2°、光源:D50の条件で、彩度C*を測定した。C*は、CIE(国際照明委員会)により規定されたL*a*b*表示系における彩度である。測定したC*から、以下に示す評価基準にしたがって発色性を評価した。色の種類によって見た目で感じる好適な発色性が異なるため、色相が赤系ではない有機顔料を含有するインク19を用いた参考例1は、括弧内の評価基準を利用した。
AA:C*が40以上(25以上)であった
A :C*が35以上40未満(20以上25未満)であった
B :C*が30以上35未満(15以上20未満)であった
C :C*が30未満(15未満)であった。
【0080】
(光沢性)
上記で得られた画像について、光沢度計(商品名「VG7000」、日本電色工業製)に10mm×10mmのアタッチメントをセットしたものを用いて、60°鏡面光沢度を測定した。得られた光沢度(「光沢度1」とする)から、以下に示す評価基準にしたがって光沢性を評価した。
AA:光沢度1が120以上だった
A :光沢度1が110以上120未満だった
B :光沢度1が100以上110未満だった
C :光沢度1が100未満だった。
【0081】
(耐オゾン性)
上記で得られた画像を、オゾン試験機(商品名「オゾンフェードメーター」、スガ試験機製)内に載置し、オゾン濃度2.5ppm、槽内温度23℃、相対湿度50%、24時間の条件で、画像にオゾンガスを曝露させた。その後、上記の「光沢性」の評価と同様の条件で画像の20°鏡面光沢度を測定した。得られた光沢度(「光沢度2」とする)と、「光沢性」の評価の際に測定した「光沢度1」から、光沢度の残存率(%)={(光沢度2)/(光沢度1)}×100の値を算出した。得られた残存率から、以下に示す評価基準にしたがって、耐オゾン性を評価した。第1インクを用いていない比較例1で記録した画像は金属光沢感を呈さないため、耐オゾン性の評価を行わなかった。
AA:残存率が70%以上だった
A :残存率が60%以上70%未満だった
B :残存率が50%以上60%未満だった
C :残存率が50%未満だった。
【0082】