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特許7423259インクジェット記録装置、制御装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、制御装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240122BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20240122BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240122BHJP
   B41J 2/195 20060101ALI20240122BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B41J2/165 501
B41J2/18
B41J2/14 201
B41J2/14 605
B41J2/195
B41J2/165 207
B41J2/21
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019199387
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021070279
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 孝俊
(72)【発明者】
【氏名】深澤 拓也
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014146(JP,A)
【文献】特開2010-137379(JP,A)
【文献】特開2016-101726(JP,A)
【文献】特開2017-164949(JP,A)
【文献】特開2002-264357(JP,A)
【文献】特開2005-238641(JP,A)
【文献】特開2009-078539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録素子の発熱によってインクを吐出する複数のノズルを備えた記録手段と、
前記記録手段を含む循環経路においてインクの循環を実行可能な循環手段と、
を備えたインクジェット記録装置であって、
インクを吐出した際のノズルの検出温度に基づいて、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出手段と、
インクの濃度に起因するインクの吐出不良を解消する回復処理の際に、前記循環手段によりインクを循環することなく、前記記録素子を発熱させてノズルからインクを吐出し、
前記検出手段によりノズルにおけるインクの吐出状態を検出するよう制御する制御手段と、
前記検出手段によってインクが正常に吐出されていないことが検出された第1ノズルの数に基づいて、前記記録手段におけるインクの吐出状態の良否を判定する判定手段と、を有し、
前記記録手段は、インクを吐出するノズルが配列された複数のチップを備え、
前記判定手段は、前記チップのそれぞれにおけるインクの吐出状態を判定し、該判定に基づいて前記記録手段におけるインクの吐出状態を判定し、
前記判定手段は、前記チップにおけるインクの吐出状態を、前記チップの配列された位置に応じた閾値に基づいて判定し、該閾値は、前記チップの配列方向における中央部では低く設定され、前記配列方向における端部側では高く設定され、
前記制御手段は、前記判定手段により前記記録手段におけるインクの吐出状態が良好であると判定されるまで、前記検出手段による検出を繰り返す
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記検出手段は、検出温度の変化に応じた温度変化値に基づいて検出することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記第1ノズルの数の、ノズルの総数に対する割合に基づいて判定することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記記録手段は、複数種類のインクを吐出し、
前記判定手段は、インク種類毎のインクの吐出状態を判定し、該判定に基づいて前記記録手段におけるインクの吐出状態を判定する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記記録手段は、前記チップにおいて複数種類のインクを吐出し、
前記判定手段は、前記チップにおけるインクの種類毎の吐出状態を判定し、該判定に応じた前記チップにおけるインクの吐出状態の判定に基づいて、前記記録手段におけるインクの吐出状態を判定する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記判定手段は、インク種類に応じた閾値に基づいて判定し、該閾値は、ブラックインクでは低く設定され、イエローインクでは高く設定されることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記判定手段は、既にインクが正常に吐出されていないとされている第2ノズルの数を該インクを吐出するノズルの総数から減算したノズル数に対する、前記第1ノズルの数の割合に基づいて判定することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記回復処理では、所定条件を満たしたときに、前記制御手段は、前記循環手段によりインクを循環しながら前記検出手段による検出を行うよう制御することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記所定条件は、前記回復処理の開始後、所定時間が経過したタイミングであることを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記所定条件は、前記検出手段により検出した検出回数が、所定回数を超えたタイミングであることを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記所定条件は、設定されたインクに対して前記回復処理を実行するタイミングであることを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記設定されたインクは、液体成分の蒸発によって増粘しやすいインクであることを特徴とする請求項11に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記所定条件は、所定濃度を超えたインクに対して前記回復処理を実行するタイミングであることを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記回復処理は、前記判定手段によって前記記録手段におけるインクの吐出状態が良好ではないとの判定が継続すると、所定のタイミングで終了することを特徴とする請求項から13のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
前記記録手段に対してワイピング動作を行うワイピング手段をさらに有し、
前記回復処理は、前記ワイピング動作後に実行されることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項16】
記録素子の発熱によってインクを吐出する複数のノズルを備えた記録手段と、
前記記録手段を含む循環経路においてインクの循環を実行可能な循環手段と、
インクを吐出した際のノズルの検出温度に基づいて、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出手段と、
を備えたインクジェット記録装置を、インクの濃度に起因するインクの吐出不良を解消する回復処理を実行する際に、前記循環手段によりインクを循環することなく、前記記録素子を発熱させてノズルからインクを吐出し、前記検出手段によりノズルにおけるインクの吐出状態を検出するよう制御する制御装置であって、
前記検出手段によってインクが正常に吐出されていないことが検出された第1ノズルの数に基づいて、前記記録手段におけるインクの吐出状態の良否を判定する判定手段を有し、
前記記録手段は、インクを吐出するノズルが配列された複数のチップを備え、
前記判定手段は、前記チップのそれぞれにおけるインクの吐出状態を判定し、該判定に基づいて前記記録手段におけるインクの吐出状態を判定し、
前記判定手段は、前記チップにおけるインクの吐出状態を、前記チップの配列された位置に応じた閾値に基づいて判定し、該閾値は、前記チップの配列方向における中央部では低く設定され、前記配列方向における端部側では高く設定され、
前記判定手段により前記記録手段におけるインクの吐出状態が良好であると判定されるまで前記検出手段による検出を繰り返すことを特徴とする制御装置。
【請求項17】
所定条件を満たしたときに、前記循環手段によりインクを循環させながら前記検出手段による検出を行うように制御することを特徴とする請求項16に記載の制御装置。
【請求項18】
請求項16または17に記載の制御装置として、コンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからのインクの吐出状態を良好に維持および回復する回復処理を実行するインクジェット記録装置、インクジェット記録装置を制御する制御装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクを吐出するノズル内のインクが時間の経過とともに増粘し、これによりノズルの目詰まりや着弾ずれなどによる吐出不良が生じる。特許文献1には、こうした増粘したインクによる吐出不良を解消するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-62847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、ノズルからのインクの吐出状態を検出し、インクの吐出状態が良好であることが検出されなかった場合に、インクの吐出状態を回復させるための回復動作を行い、その後、再度インクの吐出状態を検出するようにしている。このため、インクの吐出状態を検出し、回復動作を行い、インクの吐出状態が良好であることを検出する一連の処理としての回復処理に時間を要してしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、回復処理に要する時間を短縮することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、記録素子の発熱によってインクを吐出する複数のノズルを備えた記録手段と、前記記録手段を含む循環経路においてインクの循環を実行可能な循環手段と、を備えたインクジェット記録装置であって、インクを吐出した際のノズルの検出温度に基づいて、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出手段と、インクの濃度に起因するインクの吐出不良を解消する回復処理の際に、前記循環手段によりインクを循環することなく、前記記録素子を発熱させてノズルからインクを吐出し、前記検出手段によりノズルにおけるインクの吐出状態を検出するよう制御する制御手段と、前記検出手段によってインクが正常に吐出されていないことが検出された第1ノズルの数に基づいて、前記記録手段におけるインクの吐出状態の良否を判定する判定手段と、を有し、前記記録手段は、インクを吐出するノズルが配列された複数のチップを備え、前記判定手段は、前記チップのそれぞれにおけるインクの吐出状態を判定し、該判定に基づいて前記記録手段におけるインクの吐出状態を判定し、前記判定手段は、前記チップにおけるインクの吐出状態を、前記チップの配列された位置に応じた閾値に基づいて判定し、該閾値は、前記チップの配列方向における中央部では低く設定され、前記配列方向における端部側では高く設定され、前記制御手段は、前記判定手段により前記記録手段におけるインクの吐出状態が良好であると判定されるまで、前記検出手段による検出を繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回復処理に要する時間を短縮することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】記録装置が待機状態にあるときの図である。
図2】記録装置の制御構成図である。
図3】記録装置が記録状態にあるときの図である。
図4】第1カセットから給送された記録媒体の搬送経路図である。
図5】記録装置がメンテナンス状態にあるときの図である。
図6】メンテナンスユニットの構成を示す斜視図である。
図7】インク供給系の概略構成図である。
図8】吐出口を含む流路におけるインクの流れを説明する図である。
図9】記録素子基板の吐出口近傍の構成図である。
図10】温度検出素子による検出温度を説明する図である。
図11】インクの循環および吐出による濃縮インクの除去を説明する図である。
図12】第1実施形態の記録装置による記録処理、回復処理のフローチャートである。
図13】第1判定方法で用いる閾値を示す表である。
図14】第2判定方法で用いる閾値を示す表である。
図15】第3判定方法を説明する図である。
図16】第2実施形態の記録装置による回復処理のフローチャートである。
図17】第3実施形態の記録装置による回復処理のフローチャートである。
図18】第4実施形態の記録装置による回復処理のフローチャートである。
図19】第5実施形態の記録装置による回復処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。なお、実施形態に記載されている構成要素の相対配置、形状などは、あくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。以下の実施形態では、液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置として、インクジェット記録装置を例として説明することとする。
【0010】
(第1実施形態)
まず、図1乃至図15を参照しながら、本発明の第1実施形態によるインクジェット記録装置について説明する。図1は、本実施形態で使用するインクジェット記録装置1(以下、記録装置1)の内部構成図である。図において、x方向は水平方向、y方向(紙面垂直方向)は後述する記録ヘッド8において吐出口が配列される方向、z方向は鉛直方向をそれぞれ示す。
【0011】
記録装置1は、プリント部2とスキャナ部3を備える複合機であり、記録動作と読取動作に関する様々な処理を、プリント部2とスキャナ部3で個別にあるいは連動して実行することができる。スキャナ部3は、ADF(オートドキュメントフィーダ)とFBS(フラットベッドスキャナ)を備えており、ADFによって自動給紙される原稿の読み取りと、ユーザによってFBSの原稿台に置かれた原稿の読み取り(スキャン)を行うことができる。なお、本実施形態はプリント部2とスキャナ部3を併せ持った複合機であるが、スキャナ部3を備えない形態であってもよい。図1は、記録装置1が記録動作も読取動作も行っていない待機状態にあるときを示す。
【0012】
プリント部2において、筐体4の鉛直方向下方の底部には、記録媒体(カットシート)Sを収容するための第1カセット5Aと第2カセット5Bが着脱可能に設置されている。第1カセット5AにはA4サイズまでの比較的小さな記録媒体が、第2カセット5BにはA3サイズまでの比較的大きな記録媒体が、平積みに収容されている。第1カセット5A近傍には、収容されている記録媒体を1枚ずつ分離して給送するための第1給送ユニット6Aが設けられている。同様に、第2カセット5B近傍には、第2給送ユニット6Bが設けられている。記録動作が行われる際にはいずれか一方のカセットから選択的に記録媒体Sが給送される。
【0013】
搬送ローラ7、排出ローラ12、ピンチローラ7a、拍車7b、ガイド18、インナーガイド19およびフラッパ11は、記録媒体Sを所定の方向に導くための搬送機構である。搬送ローラ7は、記録ヘッド8の上流側および下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。ピンチローラ7aは、搬送ローラ7と共に記録媒体Sをニップして回転する従動ローラである。排出ローラ12は、搬送ローラ7の下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。拍車7bは、記録ヘッド8の下流側に配される搬送ローラ7及び排出ローラ12と共に記録媒体Sを挟持して搬送する。
【0014】
ガイド18は、記録媒体Sの搬送経路に設けられ、記録媒体Sを所定の方向に案内する。インナーガイド19は、y方向に延在する部材で湾曲した側面を有し、当該側面に沿って記録媒体Sを案内する。フラッパ11は、両面記録動作の際に、記録媒体Sが搬送される方向を切り替えるための部材である。排出トレイ13は、記録動作が完了し排出ローラ12によって排出された記録媒体Sを積載保持するためのトレイである。
【0015】
本実施形態の記録ヘッド8は、フルラインタイプのカラーインクジェット記録ヘッドであり、記録データに従ってインクを吐出する吐出口が、図1におけるy方向に沿って記録媒体Sの幅に相当する分だけ複数配列されている。即ち、記録ヘッド8は、複数色のインクを吐出可能に構成されている。記録ヘッド8が待機位置にあるとき、記録ヘッド8の吐出口面8aは、図1のように鉛直下方を向きキャップユニット10によってキャップされている。記録動作を行う際は、後述するプリントコントローラ202によって、吐出口面8aがプラテン9と対向するように記録ヘッド8の向きが変更される。プラテン9は、y方向に延在する平板によって構成され、記録ヘッド8によって記録動作が行われる記録媒体Sを背面から支持する。記録ヘッド8の待機位置から記録位置への移動については、後に詳しく説明する。
【0016】
インクタンクユニット14は、記録ヘッド8へ供給される4色のインクをそれぞれ貯留する。インク供給ユニット15は、インクタンクユニット14と記録ヘッド8を接続する流路の途中に設けられ、記録ヘッド8内のインクの圧力及び流量を適切な範囲に調整する。本実施形態では循環型のインク供給系を採用しており、インク供給ユニット15は記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力と記録ヘッド8から回収されるインクの流量を適切な範囲に調整する。
【0017】
メンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17を備え、所定のタイミングにこれらを作動させて、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う。メンテナンス動作については後に詳しく説明する。
【0018】
図2は、記録装置1における制御構成を示すブロック図である。制御構成は、主にプリント部2を統括するプリントエンジンユニット200と、スキャナ部3を統括するスキャナエンジンユニット300と、記録装置1全体を統括するコントローラユニット100によって構成されている。プリントコントローラ202は、コントローラユニット100のメインコントローラ101の指示に従ってプリントエンジンユニット200の各種機構を制御する。スキャナエンジンユニット300の各種機構は、コントローラユニット100のメインコントローラ101によって制御される。以下に制御構成の詳細について説明する。
【0019】
コントローラユニット100において、CPUにより構成されるメインコントローラ101は、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら記録装置1全体を制御する。例えば、ホストI/F102またはワイヤレスI/F103を介してホスト装置400から印刷ジョブが入力されると、メインコントローラ101の指示に従って、画像処理部108が受信した画像データに対して所定の画像処理を施す。そして、メインコントローラ101はプリントエンジンI/F105を介して、画像処理を施した画像データをプリントエンジンユニット200へ送信する。
【0020】
なお、記録装置1は無線通信や有線通信を介してホスト装置400から画像データを取得しても良いし、記録装置1に接続された外部記憶装置(USBメモリ等)から画像データを取得しても良い。無線通信や有線通信に利用される通信方式は限定されない。例えば、無線通信に利用される通信方式として、Wi-Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)やBluetooth(登録商標)が適用可能である。また、有線通信に利用される通信方式としては、USB(Universal Serial Bus)等が適用可能である。また、例えばホスト装置400から読取コマンドが入力されると、メインコントローラ101は、スキャナエンジンI/F109を介してこのコマンドをスキャナ部3に送信する。
【0021】
操作パネル104は、ユーザが記録装置1に対して入出力を行うための機構である。ユーザは、操作パネル104を介してコピーやスキャン等の動作を指示したり、印刷モードを設定したり、記録装置1の情報を認識したりすることができる。
【0022】
プリントエンジンユニット200において、CPUにより構成されるプリントコントローラ202は、ROM203に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM204をワークエリアとしながら、プリント部2が備える各種機構を制御する。コントローラI/F201を介して各種コマンドや画像データが受信されると、プリントコントローラ202は、これを一旦RAM204に保存する。記録ヘッド8が記録動作に利用できるように、プリントコントローラ202は画像処理コントローラ205に、保存した画像データを記録データへ変換させる。記録データが生成されると、プリントコントローラ202は、ヘッドI/F206を介して記録ヘッド8に記録データに基づく記録動作を実行させる。この際、プリントコントローラ202は、搬送制御部207を介して図1に示す給送ユニット6A、6B、搬送ローラ7、排出ローラ12、フラッパ11を駆動して、記録媒体Sを搬送する。プリントコントローラ202の指示に従って、記録媒体Sの搬送動作に連動して記録ヘッド8による記録動作が実行され、印刷処理が行われる。
【0023】
ヘッドキャリッジ制御部208は、記録装置1のメンテナンス状態や記録状態といった動作状態に応じて記録ヘッド8の向きや位置を変更する。インク供給制御部209は、記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力が適切な範囲に収まるように、インク供給ユニット15を制御する。メンテナンス制御部210は、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う際に、メンテナンスユニット16におけるキャップユニット10やワイピングユニット17の動作を制御する。
【0024】
スキャナエンジンユニット300においては、メインコントローラ101が、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら、スキャナコントローラ302のハードウェアリソースを制御する。これにより、スキャナ部3が備える各種機構は制御される。例えばコントローラI/F301を介してメインコントローラ101がスキャナコントローラ302内のハードウェアリソースを制御することにより、ユーザによってADFに搭載された原稿を、搬送制御部304を介して搬送し、センサ305によって読み取る。そして、スキャナコントローラ302は読み取った画像データをRAM303に保存する。なお、プリントコントローラ202は、上述のように取得された画像データを記録データに変換することで、記録ヘッド8に、スキャナコントローラ302で読み取った画像データに基づく記録動作を実行させることが可能である。
【0025】
図3は、記録装置1が記録状態にあるときを示す。図1に示した待機状態と比較すると、キャップユニット10が記録ヘッド8の吐出口面8aから離間し、吐出口面8aがプラテン9と対向している。本実施形態において、プラテン9の平面は水平方向に対して約45度傾いており、記録位置における記録ヘッド8の吐出口面8aも、プラテン9との距離が一定に維持されるように水平方向に対して約45度傾いている。
【0026】
記録ヘッド8を図1に示す待機位置から図3に示す記録位置に移動する際、プリントコントローラ202は、メンテナンス制御部210を用いて、キャップユニット10を図3に示す退避位置まで降下させる。これにより、記録ヘッド8の吐出口面8aは、キャップ部材10aと離間する。その後、プリントコントローラ202は、ヘッドキャリッジ制御部208を用いて記録ヘッド8の鉛直方向の高さを調整しながら45度回転させ、吐出口面8aをプラテン9と対向させる。記録動作が完了し、記録ヘッド8が記録位置から待機位置に移動する際は、プリントコントローラ202によって上記と逆の工程が行われる。
【0027】
次に、プリント部2における記録媒体Sの搬送経路について説明する。記録コマンドが入力されると、プリントコントローラ202は、まず、メンテナンス制御部210およびヘッドキャリッジ制御部208を用いて、記録ヘッド8を図3に示す記録位置に移動する。その後、プリントコントローラ202は搬送制御部207を用い、記録コマンドに従って第1給送ユニット6Aおよび第2給送ユニット6Bのいずれかを駆動し、記録媒体Sを給送する。
【0028】
図4(a)~(c)は、第1カセット5Aに収容されているA4サイズの記録媒体Sが給送されるときの搬送経路を示す図である。第1カセット5A内の1番上に積載された記録媒体Sは、第1給送ユニット6Aによって2枚目以降の記録媒体から分離され、搬送ローラ7とピンチローラ7aにニップされながら、プラテン9と記録ヘッド8の間の記録領域Pに向けて搬送される。図4(a)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pに到達する直前の搬送状態を示す。記録媒体Sの進行方向は、第1給送ユニット6Aに給送されて記録領域Pに到達する間に、水平方向(x方向)から、水平方向に対して約45度傾いた方向に変更される。
【0029】
記録領域Pでは、記録ヘッド8に設けられた複数の吐出口から記録媒体Sに向けてインクが吐出される。インクが付与される領域の記録媒体Sは、プラテン9によってその背面が支持されており、吐出口面8aと記録媒体Sの距離が一定に保たれている。インクが付与された後の記録媒体Sは、搬送ローラ7と拍車7bに案内されながら、先端が右に傾いているフラッパ11の左側を通り、ガイド18に沿って記録装置1の鉛直方向上方へ搬送される。図4(b)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される状態を示す。記録媒体Sの進行方向は、水平方向に対し約45度傾いた記録領域Pの位置から、搬送ローラ7と拍車7bによって鉛直方向上方に変更されている。
【0030】
記録媒体Sは、鉛直方向上方に搬送された後、排出ローラ12と拍車7bによって排出トレイ13に排出される。図4(c)は、記録媒体Sの先端が排出ローラ12を通過して排出トレイ13に排出される状態を示す。排出された記録媒体Sは、記録ヘッド8によって画像が記録された面を下にした状態で、排出トレイ13上に保持される。
【0031】
同様に、第2カセット5Bに収容されているA3サイズの記録媒体Sは、プラテン9と記録ヘッド8の間の記録領域Pに向けて搬送される。すなわち、第2カセット5B内の1番上に積載された記録媒体Sは、第2給送ユニット6Bによって2枚目以降の記録媒体から分離され、搬送ローラ7とピンチローラ7aにニップされながら、プラテン9と記録ヘッド8の間の記録領域Pに向けて搬送される。
【0032】
また、A4サイズの記録媒体Sの両面記録を行う場合には、第1面(表面)を記録した後に第2面(裏面)に記録動作を行う。第1面を記録する際の搬送工程は図4(a)~(c)と同様であるので、ここでは説明を省略する。記録ヘッド8による第1面への記録動作が完了し、記録媒体Sの後端がフラッパ11を通過すると、プリントコントローラ202は、搬送ローラ7を逆回転させて記録媒体Sを記録装置1の内部へ搬送する。この際、フラッパ11は、不図示のアクチュエータによってその先端が左側に傾くように制御されるため、記録媒体Sの先端(第1面の記録動作における後端)はフラッパ11の右側を通過して鉛直方向下方へ搬送される。
【0033】
その後記録媒体Sは、インナーガイド19の湾曲した外周面に沿って搬送され、再び記録ヘッド8とプラテン9の間の記録領域Pに搬送される。この際、記録ヘッド8の吐出口面8aに、記録媒体Sの第2面が対向する。その後の搬送経路は、図4(b)および(c)で示した第1面記録の場合と同様である。記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される際、フラッパ11は、不図示のアクチュエータにより先端が右側に傾いた位置に移動するように制御される。
【0034】
次に、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作について説明する。図1でも説明したように、本実施形態のメンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17とを備え、所定のタイミングにこれらを作動させてメンテナンス動作を行う。
【0035】
図5は、記録装置1がメンテナンス状態のときの図である。記録ヘッド8を図1に示す待機位置から図5に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向において上方に移動させるとともにキャップユニット10を鉛直方向下方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から図5における右方向に移動させる。その後、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
【0036】
一方、記録ヘッド8を図3に示す記録位置から図5に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を45度回転させつつ鉛直方向上方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から右方向に移動させる。その後、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させて、メンテナンスユニット16によるメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
【0037】
図6(a)はメンテナンスユニット16が待機ポジションにある状態を示す斜視図であり、図6(b)はメンテナンスユニット16がメンテナンスポジションにある状態を示す斜視図である。図6(a)は図1に対応し、図6(b)は図5に対応している。記録ヘッド8が待機位置にあるとき、メンテナンスユニット16は図6(a)に示す待機ポジションにあり、キャップユニット10は鉛直方向上方に移動しており、ワイピングユニット17はメンテナンスユニット16の内部に収納されている。キャップユニット10はy方向に延在する箱形のキャップ部材10aを有し、これを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させることにより、吐出口からのインクの蒸発を抑制することができる。また、キャップユニット10は、キャップ部材10aに予備吐出等で吐出されたインクを回収し、回収したインクを不図示の吸引ポンプに吸引させる機能も備えている。
【0038】
一方、図6(b)に示すメンテナンスポジションにおいて、キャップユニット10は鉛直方向下方に移動しており、ワイピングユニット17がメンテナンスユニット16から引き出されている。ワイピングユニット17は、ブレードワイパユニット171とバキュームワイパユニット172の2つのワイパユニットを備えている。
【0039】
ブレードワイパユニット171には、吐出口面8aをx方向に沿ってワイピングするためのブレードワイパ171aが吐出口の配列領域に相当する長さだけy方向に配されている。ブレードワイパユニット171を用いてワイピング動作を行う際、ワイピングユニット17は、記録ヘッド8がブレードワイパ171aに当接可能な高さに位置決めされた状態で、ブレードワイパユニット171をx方向に移動する。この移動により、吐出口面8aに付着するインクなどはブレードワイパ171aに拭き取られる。
【0040】
ブレードワイパ171aが収納される際のメンテナンスユニット16の入り口には、ブレードワイパ171aに付着したインクを除去するとともにブレードワイパ171aにウェット液を付与するためのウェットワイパクリーナ16aが配されている。ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16に収納される度にウェットワイパクリーナ16aによって付着物が除去されウェット液が塗布される。そして、次に吐出口面8aをワイピングしたときにウェット液を吐出口面8aに転写し、吐出口面8aとブレードワイパ171a間の滑り性を向上させている。
【0041】
一方、バキュームワイパユニット172は、y方向に延在する開口部を有する平板172aと、開口部内をy方向に移動可能なキャリッジ172bと、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cとを有する。バキュームワイパ172cは、キャリッジ172bの移動に伴って吐出口面8aをy方向にワイピング可能に配されている。バキュームワイパ172cの先端には、不図示の吸引ポンプに接続された吸引口が形成されている。このため、吸引ポンプを作動させながらキャリッジ172bをy方向に移動すると、記録ヘッド8の吐出口面8aに付着したインク等は、バキュームワイパ172cによって拭き寄せられながら吸引口に吸い込まれる。この際、平板172aと開口部の両端に設けられた位置決めピン172dは、バキュームワイパ172cに対する吐出口面8aの位置合わせに利用される。
【0042】
本実施形態では、ブレードワイパユニット171によるワイピング動作を行いバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を行わない第1のワイピング処理と、両方のワイピング処理を順番に行う第2のワイピング処理を実施することができる。第1のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を図5のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16から引き出す。そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。この移動により、吐出口面8aに付着するインク等はブレードワイパ171aに拭き取られる。すなわち、ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16から引き出された位置からメンテナンスユニット16内へ移動する際に吐出口面8aをワイピングする。
【0043】
ブレードワイパユニット171が収納されると、プリントコントローラ202は、次にキャップユニット10を鉛直方向上方に移動させ、キャップ部材10aを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させる。そして、プリントコントローラ202は、その状態で記録ヘッド8を駆動して予備吐出を行わせ、キャップ部材10a内に回収されたインクを吸引ポンプによって吸引する。
【0044】
一方、第2のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を図5のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて引き出す。そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。これにより、ブレードワイパ171aによるワイピング動作が吐出口面8aに対して行われる。次に、プリントコントローラ202は、再び記録ヘッド8を図5のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて所定位置まで引き出す。続いて、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を図5に示すメンテナンス位置に下降させながら、平板172aと位置決めピン172dを用いて吐出口面8aとバキュームワイパユニット172の位置決めを行う。その後、プリントコントローラ202は、上述したバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を実行する。プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向上方に退避させ、ワイピングユニット17を収納した後、第1のワイピング処理と同様に、キャップユニット10によるキャップ部材内への予備吐出と回収したインクの吸引動作を行う。
【0045】
(インク供給ユニット)
次に、図7を用いて本実施形態のインク循環系の流路構成を説明する。図7は、本実施形態のインクジェット記録装置1で採用するインク供給ユニット15を含むインク循環系の流路構成を示す図である。インク供給ユニット15は、インクタンクユニット14から供給されたインクを記録ヘッド8へ供給する。図7では、1色のインクについての構成を示しているが、実際にはこのような構成が、インク色ごとに用意されている。インク供給ユニット15は、基本的に図2で示したインク供給制御部209によって制御される。以下、インク供給ユニット15の各構成について説明する。
【0046】
インクは、主にサブタンク151と記録ヘッド8との間を循環する。記録ヘッド8では、画像データに基づいてインクの吐出動作が行われ、吐出されなかったインクが再びサブタンク151に回収される。
【0047】
所定量のインクを収容するサブタンク151は、記録ヘッド8へインクを供給するための供給流路C2と、記録ヘッド8からインクを回収するための回収流路C4とに接続されている。すなわち、サブタンク151、供給流路C2、記録ヘッド8、および回収流路C4が、インクが循環する循環流路となる循環経路を構成する。また、サブタンク151は、空気が流れる流路C0に接続されている。
【0048】
サブタンク151には複数の電極ピンで構成される液面検知手段151aが設けられている。インク供給制御部209は、これら複数のピン間の導通電流の有無を検知することによって、インク液面の高さ、即ち、サブタンク151内のインク残量を把握することができる。減圧ポンプP0は、サブタンク151のタンク内部を減圧するための負圧発生源である。大気開放弁V0は、サブタンク151の内部を大気に連通させるか否かを切り替えるための弁である。
【0049】
メインタンク141は、サブタンク151へ供給されるインクを収容するタンクである。メインタンク141は、記録装置本体に対して着脱可能な構成である。サブタンク151とメインタンク141とを接続するタンク接続流路C1の途中には、サブタンク151とメインタンク141の接続を切り替えるためのタンク供給弁V1が配されている。
【0050】
インク供給制御部209は、液面検知手段151aによってサブタンク151内のインクが所定量より少なくなったことを検知すると、大気開放弁V0、供給弁V2、回収弁V4、およびヘッド交換弁V5を閉じる。また、インク供給制御部209は、タンク供給弁V1を開く。この状態において、インク供給制御部209は減圧ポンプP0を作動させる。すると、サブタンク151の内部が負圧となりメインタンク141からサブタンク151へインクが供給される。液面検知手段151aによってサブタンク151内のインクが所定量を超えたことを検知すると、インク供給制御部209は、タンク供給弁V1を閉じ減圧ポンプP0を停止する。
【0051】
供給流路C2は、サブタンク151から記録ヘッド8へインクを供給するための流路であり、その途中には供給ポンプP1と供給弁V2とが配されている。記録動作中は、供給弁V2を開いた状態で供給ポンプP1を駆動することにより、記録ヘッド8へインクを供給しつつ循環経路においてインクを循環することができる。記録ヘッド8によって単位時間あたりに吐出されるインクの量は画像データに応じて変動する。供給ポンプP1の流量は、記録ヘッド8が単位時間あたりのインク消費量が最大となる吐出動作を行った場合にも対応できるように決定されている。
【0052】
リリーフ流路C3は、供給弁V2の上流側であって、供給ポンプP1の上流側と下流側とを接続する流路である。リリーフ流路C3の途中には差圧弁であるリリーフ弁V3が配される。リリーフ弁V3は、駆動機構によって開閉されるのではなく、ばね付勢されており、所定の圧に達すると弁が開くように構成されている。例えば、供給ポンプP1からIN流路80bに供給される単位時間あたりのインク供給量が、記録ヘッド8の単位時間あたりの吐出量と回収ポンプP2から回収流路C4に流れる単位時間あたりのインク流量との合計値よりも多い場合を想定する。この場合には、リリーフ弁V3は、自身に作用する圧力に応じて開放される。これにより、供給流路C2の一部とリリーフ流路C3とで構成される巡回流路が形成される。リリーフ流路C3の構成を設けることにより、記録ヘッド8に対するインク供給量が、記録ヘッド8でのインク消費量に応じて調整され、循環経路内の圧力を画像データによらず安定させることができる。
【0053】
回収流路C4は、記録ヘッド8からサブタンク151へインクを回収するための流路であり、その途中には回収ポンプP2と回収弁V4とが配されている。回収ポンプP2は、循環経路内にインクを循環させる際、負圧発生源となって記録ヘッド8よりインクを吸引する。回収ポンプP2の駆動により、記録ヘッド8内のIN流路80bとOUT流路80cとの間に適切な圧力差が生じ、IN流路80bとOUT流路80cとの間でインクを循環させることができる。
【0054】
回収弁V4は、記録動作を行っていないとき、すなわち循環経路内にインクを循環させていないときの逆流を防止するための弁でもある。本実施形態の循環経路では、サブタンク151は記録ヘッド8よりも鉛直方向において上方に配置されている(図1参照)。このため、供給ポンプP1や回収ポンプP2を駆動していないとき、サブタンク151と記録ヘッド8との水頭差によって、サブタンク151から記録ヘッド8へインクが逆流してしまうおそれがある。このような逆流を防止するため、本実施形態では回収流路C4に回収弁V4を設けている。
【0055】
なお、供給弁V2も、記録動作を行っていないとき、すなわち循環経路内にインクを循環させていないときに、サブタンク151から記録ヘッド8へのインクの供給を防止するための弁としても機能する。
【0056】
ヘッド交換流路C5は、供給流路C2とサブタンク151の空気室(インクが収容されていない空間)とを接続する流路であり、その途中にはヘッド交換弁V5が配されている。ヘッド交換流路C5の一端は、供給流路C2における記録ヘッド8の上流側であり、かつ、供給弁V2より下流側に接続される。ヘッド交換流路C5の他端は、サブタンク151の上方に接続してサブタンク151内部の空気室と連通する。ヘッド交換流路C5は、記録ヘッド8を交換する際や記録装置1を輸送する際など、使用中の記録ヘッド8からインクを引き抜くときに利用される。ヘッド交換弁V5は、記録ヘッド8にインクを充填するとき、および、記録ヘッド8からインクを回収するとき以外は閉じるように、インク供給制御部209によって制御される。
【0057】
次に、記録ヘッド8内の流路構成について説明する。供給流路C2より記録ヘッド8に供給されたインクは、フィルタ83を通過した後、第1の負圧制御ユニット81と、第2の負圧制御ユニット82とに供給される。第1の負圧制御ユニット81は、例えば、-90mmAqのように、弱い負圧(大気圧との圧力差が小さい負圧)に制御圧力が設定されている。第2の負圧制御ユニット82は、例えば、-180mmAqのように、強い負圧(大気圧との圧力差が大きい負圧)に制御圧力が設定されている。これら第1の負圧制御ユニット81と第2の負圧制御ユニット82とにおける圧力は、回収ポンプP2の駆動により適正な範囲で生成される。
【0058】
インク吐出部80には、複数の吐出口が配列された記録素子基板80aが複数配置され、長尺の吐出口列が形成されている。第1の負圧制御ユニット81より供給されるインクを導くための共通供給流路80b(IN流路)および、第2の負圧制御ユニット82より供給されるインクを導くための共通回収流路80c(OUT流路)も、記録素子基板80aの配列方向に延在している。さらに個々の記録素子基板80aには、共通供給流路80bと接続する個別供給流路と、共通回収流路80cと接続する個別回収流路が形成されている。このため、個々の記録素子基板80aにおいては、相対的に負圧の弱い共通供給流路80bより流入し、相対的に負圧の強い共通回収流路80cへ流出するような、インクの流れが生成される。個別供給流路と個別回収流路との経路中に、各吐出口に連通し、インクが充填される圧力室が設けられており、記録を行っていない吐出口や圧力室においてもインクの流れが生じる。記録素子基板80aで吐出動作が行われると、共通供給流路80bから共通回収流路80cへ移動するインクの一部は吐出口から吐出されることによって消費されるが、吐出されなかったインクは共通回収流路80cを経て回収流路C4へ移動する。
【0059】
図8(a)は記録素子基板80aの一部を拡大した平面模式図であり、図8(b)は、図8(a)の断面線VIIIb-VIIIbにおける断面模式図である。記録素子基板80aには、インクが充填される圧力室85と、インクを吐出する吐出口86と、が設けられている。圧力室85において、吐出口86と対向する位置には記録素子84が設けられている。また、記録素子基板80aには、共通供給流路80bと接続する個別供給流路88と、共通回収流路80cと接続する個別回収流路89とが吐出口86毎に複数形成されている。
【0060】
上述した構成により、記録素子基板80aでは、インクが、相対的に負圧の弱い共通供給流路80bより流入し、相対的に負圧の強い共通回収流路80cへ流出する流れが生成される。より詳しくは、共通供給流路80b→個別供給流路88→圧力室85→個別回収流路89→共通回収流路80cの順にインクが流れる。記録素子84によってインクが吐出されると、共通供給流路80bから共通回収流路80cへ移動するインクの一部は吐出口86から吐出されることによって記録ヘッド8の外部へ排出される。一方、吐出口86から吐出されなかったインクは、共通回収流路80cを経て回収流路C4へ回収される。
【0061】
以上の構成のもと、記録動作を行うとき、インク供給制御部209は、タンク供給弁V1とヘッド交換弁V5とを閉じ、大気開放弁V0、供給弁V2、および回収弁V4を開き、供給ポンプP1および回収ポンプP2を駆動する。これにより、サブタンク151→供給流路C2→記録ヘッド8→回収流路C4→サブタンク151の循環経路が確立する。供給ポンプP1からの単位時間あたりのインク供給量が記録ヘッド8の単位時間あたりの吐出量と回収ポンプP2における単位時間あたりの流量の合計値よりも多い場合は、供給流路C2からリリーフ流路C3にインクが流れ込む。これにより、供給流路C2から記録ヘッド8に流入するインクの流量が調整される。
【0062】
記録動作を行っていないとき、インク供給制御部209は、供給ポンプP1および回収ポンプP2を停止し、大気開放弁V0、供給弁V2、および回収弁V4を閉じる。これにより、記録ヘッド8内のインクの流れは止まり、サブタンク151と記録ヘッド8の水頭差による逆流も抑制される。また、大気開放弁V0を閉じることで、サブタンク151からのインク漏れやインクの蒸発が抑制される。
【0063】
記録ヘッド8からインクを回収するとき、インク供給制御部209は、大気開放弁V0、タンク供給弁V1、供給弁V2、および回収弁V4を閉じ、ヘッド交換弁V5を開き、減圧ポンプP0を駆動する。これにより、サブタンク151内が負圧状態になり、記録ヘッド8内のインクは、ヘッド交換流路C5を経由してサブタンク151へ回収される。このように、ヘッド交換弁V5は、通常の記録動作や待機時には閉じられており、記録ヘッド8からインクを回収する際に開放される弁である。なお、記録ヘッド8への充填においてヘッド交換流路C5にインクを充填する際もヘッド交換弁V5は開放される。
【0064】
本実施形態の循環流路は、インクが圧力室85を通る流路構成としたが、圧力室85をインクが通らない流路構成としてもよい。具体的には、例えば、共通供給流路80bから直接、回収流路C4にインクが流れる構成としてもよい。なお、本実施形態では、上記のように、インク供給制御部209および各種ポンプなどが、記録ヘッド8を含む循環経路においてインクの循環を実行可能な循環部として機能している。
【0065】
(ノズルにおけるインクの吐出状態の検出)
次に、インクの吐出状態を検出するための構成および検出方法について説明する。本実施形態においては、記録ヘッド8の記録素子基板80aに備えられた温度検出素子91を用いて、個々のノズルにおけるインクの吐出状態を検出する。即ち、各ノズルについて、正常にインクが吐出されているか否かが検出される。検出した各ノズルにおけるインクの吐出状態は、後述する記録ヘッド8におけるインクの吐出状態を判定する際に用いられる。また、以下の説明において、ノズルとは、記録素子84、圧力室85、および吐出口86を含む記録素子基板80aに設けられたインクを吐出するための構成を表す。
【0066】
図9(a)は、記録素子基板80aに設けられた記録素子84および温度検出素子91を示す図である。図9(b)は、図9(a)のIXb-IXb線断面図であり、図9(c)は、図9(a)のIXc-IXc線断面図である。記録素子84は、インクを吐出するための吐出エネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子である。本実施形態では、記録素子84は、タンタル窒化珪素膜などからなる電気熱変換素子(発熱抵抗素子)であり、タングステンなどからなる導電プラグ92によって、記録素子基板80aの配線93に接続されている。この記録素子84は、駆動パルスが印加されて発熱することにより、圧力室85内のインクを発泡させる。その発泡エネルギーを利用して、圧力室85内のインクが吐出口86から吐出される。また、本実施形態では、温度検出素子91は、チタンおよび窒化チタン積層膜などからなる薄膜抵抗体、タングステンなどからなど導電プラグ98によって配線93に接続されている。記録素子基板80aには、層間絶縁膜94、保護膜95、耐キャビテーション膜96が形成されている。また、記録素子基板80aには、吐出口86を形成する吐出口形成部97が設けられている。記録素子基板80aでは、層間絶縁膜94上に形成された温度検出素子91上に、保護膜95を介して記録素子84が形成されている。
【0067】
記録素子基板80aに実装された記録素子84の温度は、温度検出素子91により検出される。そして、検出された温度は、プリントコントローラ202と、記録ヘッド8と接続するヘッドI/F206と、RAM204とを用いて取得される。ここで、ヘッドI/F206は、記録素子基板80aに送信するための種々の信号を生成する信号生成部211を備えている(図2参照)。また。ヘッドI/F206は、記録ヘッド8の判定結果出力部99(後述する)から出力される判定結果信号RSLTを抽出する抽出部212とを備えている(図2参照)。温度検出のため、プリントコントローラ202が信号生成部に指示を発行すると、信号生成部211は、記録素子基板80aに対して信号を生成して出力する。この信号には、クロック信号CLK、ラッチ信号LT、ブロック信号BLE、記録データ信号DATA、ヒートイネーブル信号HE、および吐出検査閾値信号Ddthが含まれる。吐出検査閾値信号Ddthは、記録ヘッド8の実装される複数の記録素子を、互いに近傍に位置する複数の記録素子からなる複数のグループに分割した記録素子群に対して閾値を設定可能であり、1カラム周期で設定値を変更可能な構成となっている。以下の説明では、グループ毎に吐出検査閾値電圧(Th)を設定可能な構成として説明する。
【0068】
図10は、ノズルにおけるインクの吐出状態の判定方法を説明する図である。図10(a)は、記録素子84に印加する駆動パルスPと、温度を検出する検出タイミング信号Sとを示す図である。図10(b)は、インクを吐出した際の温度検出素子91で検出された温度の変化を示すグラフである。図10(c)は、図10(b)の温度変化に基づく温度変化値の変化を示すグラフである。
【0069】
図10(a)の駆動パルスPが印加されることにより記録素子84が発熱し、インクの発泡エネルギーによって、吐出口86からインクが吐出される。このとき、温度検出素子91での検出温度は、インクが正常に吐出された場合には、図10(b)中の実線で示される曲線Laのように変化し、インクの不吐出などの吐出不良が生じた場合には、図10(b)中の点線で示される曲線Lbのように変化する。インクが正常に吐出された場合には、吐出口86から吐出されたインク滴の一部が記録素子84の上部に落下して、この記録素子84を冷却する。この結果、記録素子84の近傍の温度が急激に低下し、これにより、曲線Laのように、温度検出素子91の検出温度も急激に低下する。一方、インクの吐出不良が生じた場合には、このようなインク滴の一部の落下による冷却が生じないため、曲線Lbのように、温度検出素子91の検出温度は緩やかに低下する。
【0070】
図10(c)は、曲線La、Lbの温度変化を微分処理した温度変化値の説明図である。そして、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する際には、図10(a)の検出タイミング信号Sによって設定されるタイミングにおける温度変化値と、所定の閾値Thとを比較する。図10(c)において、実線の曲線LAで示される温度変化値は曲線Laの微分値であり、点線の曲線LBで示される温度変化値は曲線Lbの微分値である。検出タイミング信号Sによって設定されるタイミングにおいて、曲線LAの温度変化値は閾値Thを超えるが、曲線LBの温度変化値は閾値Thを超えない。
【0071】
ここで、記録ヘッド8に設けられた記録素子基板80aには、温度検出素子91の検出結果を受けて、判定結果信号RSLTを生成して出力する判定結果出力部99を備えている(図2参照)。判定結果出力部99は、温度検出素子91の検出結果から、温度変化値を取得し、取得した温度変化値が、閾値Thを超えたか否かが示される判定結果信号RSLTを生成し、出力する。
【0072】
従って、曲線LAのように閾値Thを超えた場合には判定結果信号RSLTに閾値を超えたことが現れる。この判定結果信号RSLTが、抽出部212によって抽出され、RAM204に記憶されて、後述する記録ヘッド8におけるインクの吐出状態の良否の判定に用いられる。このように、本実施形態では、温度検出素子91の検出温度の微分値が閾値Thを超えたか否かによって、個々のノズルにおけるインクの吐出状態を検出することとなる。
【0073】
なお、こうした温度検出素子91の検出結果に基づいて、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する処理については、例えば、プリントコントローラ202により実行される。即ち、本実施形態では、記録素子基板80a、プリントコントローラ202、ヘッドI/F206などが、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出部として機能している。
【0074】
ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する方法については、上記した方法に限定されるものではく、公知の種々の技術を用いることができる。具体的には、例えば、記録ヘッド8の全ての吐出口からインクを吐出させながら、吐出されたインクを光学的に検知する装置で、吐出直後の飛翔インクを光学的にスキャンする。この方法では、発光部と受光部とを有する光学スキャンユニットを用いる。発光部と受光部との間に形成される光軸が吐出されたインクの飛翔経路を通過するように光学スキャンユニットを走査させ、インクが吐出されている場合には、発光部からの光が遮られて受光部での受光量が減少する。この受光量の減少を検知することでノズルにおけるインクの吐出状態を検知する。
【0075】
(濃縮インクの除去)
図11は、吐出口近傍に生じた濃縮インクを除去する方法を示す模式図であり、インクの循環および予備吐出による濃縮インクの除去の違いが示されている。この図11では、黒色が濃くなるほど、インク濃度が高くなることを示している。また、濃縮インクとは、液体成分が蒸発して、増粘したインク、つまり、インク中の固形分濃度が上昇したインクである。図11(a)~(c)は、インクの循環によって濃縮インクを除去する場合を示す。図11(a)は、吐出口近傍に濃縮インクが生じた状態を示し、図11(b)は、循環により濃縮インクが除去され始めた状態を示し、図11(c)は、循環開始後に一定時間が経過した定常状態を示す。また、図11(d)~(f)は、予備吐出により濃縮インクを除去する場合を示す。図11(d)は、吐出口近傍に濃縮インクが生じた状態を示し、図11(e)は、予備吐出により濃縮インクが除去され始めた状態を示し、図11(f)は、複数回の予備吐出により濃縮インクが除去された状態を示す。
【0076】
キャップが開いているがインクが循環していない期間だけでなく、キャップが閉じている期間でも、吐出口86内に位置するインクの表面からのインク中の液体成分の蒸発によって、インクの濃縮は進行する。インク濃縮の進行は、基本的には拡散現象であるため、濃縮成分の大部分は吐出口86および発泡室(圧力室85)内部に位置し、濃縮成分が循環系全体に行き渡るようなインク濃縮は起こり難い。
【0077】
ところが、インク濃縮が進行した状態(図11(a)参照)でインクの循環を開始すると、吐出口86や圧力室85内に溜まっていた濃縮成分は、循環するインクにより、そのインク流の下流側に流れる(図11(b)参照)。しかしながら、インクの循環を継続しても吐出口86内の一部に濃縮成分が残存し続け(図11(c)参照)、濃縮インクを完全に除去することができない。また、濃縮成分は、循環系にあるインクと混ざりその濃度が低下するが、濃縮成分が循環系全体に行き渡ってしまい、循環系全体でのインクの濃縮が進行してしまう。
【0078】
これに対し、インクを循環していない状態で、予備吐出により吐出口86から濃縮成分を排出する場合、濃縮成分は吐出口86から排出されるため、吐出口86内における濃縮成分の残存および循環系全体でのインクの濃縮は生じ難くなる。
【0079】
(記録処理)
記録装置1では、印刷の開始を指示する印刷指示が入力されると、記録媒体への記録を行う記録処理が実行される。具体的には、メインコントローラ101に、ホスト装置400から印刷ジョブが入力されたり、操作パネル104から印刷指示が入力されたりすると、メインコントローラ101はプリントコントローラ202に対して記録処理を実行するように指示する。そして、プリントコントローラ202により記録処理が実行される。
【0080】
図12(a)は、記録処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。記録処理が開始されると、まず、インクの循環を開始する(S1202)。S1202では、プリントコントローラ202が、インク供給制御部209とヘッドI/F206とを介して、各インクについて、循環経路におけるインクの循環を実行する。次に、記録媒体への記録を開始する(S1204)。S1204では、プリントコントローラ202が、ヘッドI/F206、搬送制御部207、およびヘッドキャリッジ制御部208を制御して、搬送される記録媒体に対して記録を行う。その後、記録媒体への記録が終了したか否かを判定し(S1206)、記録が終了したと判定されると、インクの循環を停止して(S1208)、記録処理を終了する。
【0081】
(回復処理)
また、記録装置1では、電源がONになったとき、印刷指示が入力された後であって記録処理が実行される前などの所定のタイミングで、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態を良好に維持および回復するための回復処理が実行される。より詳細には、本実施形態では、インクの濃度に起因するインクの吐出不良を解消する回復処理を実行する。具体的には、所定のタイミングになると、メインコントローラ101は、プリントコントローラ202に対して回復処理を実行するように指示する。そして、プリントコントローラ202により回復処理が実行される。このように、本実施形態では、メインコントローラ101およびプリントコントローラ202が、回復処理を実行するよう制御する制御部または制御装置として機能している。
【0082】
図12(b)は、回復処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。この回復処理では、インクの循環は行われない。また、回復処理終了のタイミングを判定するために、上述したノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出処理の検出結果を用いる。なお、こうした回復処理については、インク色毎にそれぞれ実行される。回復処理が開始されると、まず、インクの吐出動作を伴う検出処理を実行する(S1210)。即ち、上記した検出処理により、各ノズルのインクの吐出状態を検出する。次に、この検出処理における検出結果に基づいて、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1212)。検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する具体的な判定方法については、後述する。なお、この判定方法の基本的な考え方としては、例えば、不吐出ノズルの数が所定の条件により定められる第1の数以下である場合には、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が良好と判定される。一方、不吐出ノズルの数が第1の数より多い場合には、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が良好でないと判定される。
【0083】
S1212において、良好でないと判定されると、S1210に戻り、再度検出処理が実行される。また、S1212において、良好であると判定されると、回復処理を終了する。このように、この回復処理では、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好と判定されるまで、検出処理と、検出処理による検出結果に基づく判定とが繰り返し実行される。
【0084】
ここで、濃縮インクが吐出口を塞いだ状態に対し、検出処理を継続したときの作用について説明する。濃縮インクが吐出口を塞ぎ、インクを吐出できないような状態にある場合、検出動作開始後しばらくは吐出口近傍のインクの増粘によって、吐出不良の状態が続く。このときの検出温度の変化は、図10(b)の曲線Lbのように、緩やかに検出温度が低下するようになる。
【0085】
検出処理による吐出動作を繰り返し実行すると、徐々にインクが吐出されるようになり、その後、吐出されるインク量は徐々に増加していく。これは、インクの吐出によって、吐出口近傍のインクの増粘が徐々に解消され、これに伴い吐出口からインクが吐出されやすくなることによる。吐出口近傍のインクの増粘が解消、つまり、吐出口近傍の濃縮インクの除去が完了すると、検出温度の変化は、図10(b)の曲線Laのように、急激に検出温度が低下するようになる。
【0086】
これにより、インクを循環させることなくインクの吐出を行うことで、吐出口近傍にあった濃縮成分(濃縮インク)が下流側に流れることはなくなる。また、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好になるまで検出動作を継続することで、濃縮インクを記録ヘッド内から確実に除去することが可能となる。
【0087】
上記回復処理では、各ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する処理としてインクの吐出を伴う検出処理を行いながら、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態を良好に維持および回復するための処理が行われている。このため、各ノズルでは、インクの吐出状態が検出されながら、吐出状態を良好に維持・回復するための処理がなされることとなる。このため、回復処理に要する時間が比較的短い時間となる。つまり、インクの吐出状態の検知する処理と、インクの吐出状態を良好に維持および回復する処理とを順番に実行する公知の技術と比較して、回復処理に要する時間が短くて済む。
【0088】
(記録ヘッド8におけるインクの吐出状態の判定方法)
上記回復処理において、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好であるか否かを判定する判定方法としては、例えば、下記の第1判定方法、第2判定方法、および第3判定方法の3つの判定方法を用いることができる。
【0089】
<第1判定方法>
第1判定方法においては、インクが正常に吐出できなくなった、つまり、不吐出となったノズルの数に基づいて、記録ヘッド8全体のインクの吐出状態の良否を判定する。例えば、記録ヘッド8として、記録素子基板80aに対応するチップ15個を直列的に配列し、個々のチップに5色のインクを吐出可能なノズルがインク色毎に1024個ずつ形成されている記録ヘッドを想定する。5色のインクは、ブラック(K1、K2)、シアン(C)、マゼンタ(M)、およびイエロー(Y)のインクとする。なお、ノズルはそれぞれ、記録素子84、圧力室85、および吐出口86を備えている。この記録ヘッド8におけるノズルの総数は、76800(5×1024×15)個となる。
【0090】
図13は、第1判定方法において用いられる閾値がインク色毎に設定された表であり、(a)は不吐出ノズル(第1ノズル)の数を閾値とした表であり、(b)は不吐出ノズルの割合を閾値とした表である。なお、図13(a)(b)で示す閾値については、あくまで一例であって、記録ヘッド8の構成などに応じて適宜に変更可能である。また、こうした閾値については、例えば、実験的に求められる。
【0091】
第1判定方法では、図13(a)のように、インク色毎に、インクの吐出不良が生じた不吐出ノズルの数を閾値として予め設定しておく。インク色毎に、検出処理で検出された不吐出ノズルの数と、それに対応する閾値とを比較する。全てのインク色について、検出された不吐出ノズルの数が、対応する閾値以下であるときには、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好であると判定する。一方、少なくとも1つのインク色について、検出された不吐出ノズルの数が、対応する閾値を超えているときには、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好でないと判定する。
【0092】
また、閾値は、各インク色とは別に全インク色の合計に対しても設定する。各インク色では閾値以下であっても、不吐出ノズルと判定されたノズルの全インク色の合計数が当該閾値を超えているときには、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好でないと判定する。一方、上記合計数が当該閾値以下のときには、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好であると判定する。
【0093】
なお、ブラックインクは、ノズルの吐出不良が生じたときに、当該吐出不良に起因する記録画像の変化が目立ちやすい。このため、ブラックインクについては、対応する閾値を比較的小さく設定することが好ましい。また、イエローインクは、ノズルの吐出不良が生じたときに、当該吐出不良に起因する記録画像の変化が目立ちにくい。このため、イエローインクについては、対応する閾値を比較的大きく設定することができる。
【0094】
また、第1判定方法では、図13(b)のように、インク色毎に、インク色毎の全ノズル数に対する不吐出ノズルの数の割合を閾値として予め設定するようにしてもよい。この場合、全てのインク色について、検出された不吐出ノズルの割合が、対応する閾値以下であるときには、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好であると判定する。一方、少なくとも1つのインク色について、検出された不吐出ノズルの割合が、対応する閾値を超えているときには、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好でないと判定する。
【0095】
なお、この場合も、全インク色において不吐出ノズルと判定されたノズルの合計数の、全ノズルの数に対する割合も閾値として設定する。各インク処理では閾値以下であっても、不吐出ノズルと判定されたノズルの全インク色の合計数の割合が、当該閾値を超えているときには、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好でないと判定する。一方、上記割合が当該閾値以下のときには、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好であると判定する。
【0096】
<第2判定方法>
第2判定方法においては、記録ヘッド8におけるチップ(記録素子基板80a)単位での不吐出ノズルの数に基づいて、記録ヘッド8全体のノズルの吐出状態の良否を判定する。上述した第1判定方法の場合と同様に、記録ヘッド8として、記録素子基板80aに対応するチップ15個を直列的に配列し、個々のチップに5色のインクを吐出可能なノズルがインク色毎に1024個ずつ形成されている記録ヘッドを想定する。
【0097】
図14は、第2判定方法において用いられる閾値が、チップ毎に設定された表であり、(a)はチップに生じた不吐出ノズルの総数を閾値とした表であり、(b)はチップにおけるインク色毎に設定された不吐出ノズルの数を閾値とした表である。なお、図14(a)(b)で示す閾値については、あくまで一例であって、記録ヘッド8の構成などに応じて適宜に変更可能である。また、こうした閾値については、例えば、実験的に求められる。
【0098】
第2判定方法では、図14(a)のように、0番目から14番目の計15個のチップ毎に、5色のインクのそれぞれに生じた不吐出ノズルの合計数を閾値として予め設定しておく。そして、チップ毎に、検出された5色のインクのそれぞれの不吐出ノズルの合計数と、それに対応する閾値とを比較する。全てのチップにおいて、検出された不吐出ノズルの合計数が、対応する閾値以下であるときには、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好であると判定する。一方、少なくとも1つのチップにおいて、検出された不吐出ノズルの合計数が、対応する閾値を超えているときには、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好でないと判定する。なお、配列方向の中央部に位置するチップでは、ノズルの吐出不良が生じたときに記録画像の変化が目立ちやすいため、対応する閾値を比較的小さく設定することが好ましい。また、配列方向の両端部側に位置するチップでは、ノズルの吐出不良が生じたときに記録画像の変化が目立ちにくいため、対応する閾値は比較的大きく設定することができる。
【0099】
また、第2判定方法では、図14(b)のように、各チップにおけるインク色毎に、不吐出ノズルの数を閾値として設定するようにしてもよい。この場合、全てのチップにおいて、インク色毎に検出された不吐出ノズルの数が、対応する閾値以下であるときには、記録ヘッド8においてノズルの吐出状態が良好であると判定する。少なくとも1つのチップにおいて、インク色毎に検出された不吐出ノズルの数の少なくとの1つが、対応する閾値を超えているときには、記録ヘッド8におけるノズルの吐出状態が良好でないと判定する。
【0100】
なお、第2判定方法では、不吐出ノズルの数に基づいて判定するようにしたが、第1判定方法のように、インク色毎のノズルの総数に対する不吐出ノズルの数の割合に基づいて判定するようにしてもよい。
【0101】
<第3判定方法>
第3判定方法においては、不吐出ノズルとして予め記憶されているノズルを除外し、新たに検出された不吐出ノズルの数に基づいて、記録ヘッド8全体のノズルの吐出状態の良否を判定する。
【0102】
インクの循環および予備吐出によって回復可能なインクの不吐出状態の発生要因としては、主に、吐出口などに対する濃縮インクの固着などが挙げられる。しかしながら、以前に実行された検出処理において不吐出ノズルと判定されたノズル(以下、「不吐出判定ノズル」と称する。)に関しては、その要因によっては、インクの循環や予備吐出などでは、インクの吐出状態を良好に回復することができない可能性がある。なお、上記要因としては、例えば、ノズルの故障、ゴミなどの異物による吐出口のつまりなどである。
【0103】
第3判定方法では、インクの循環や予備吐出だけではインクの吐出状態を回復できない不吐出判定ノズル(第2ノズル)を記憶しておき、こうした不吐出判定ノズルを、記録ヘッド8全体のインクの吐出状態の良否を判定する対象から外す。これにより、回復処理によって、記録を行うことができない時間を短縮することができる。コントローラユニット100またはプリントエンジンユニット200は、インクの循環および予備吐出によって回復不可能な不吐出ノズルをROM107に記憶するための機能を備えている。
【0104】
図15は、第3判定方法の具体例を説明するための図である。図15では、理解を容易にするために、インク色毎のノズルの数は10個(ノズル番号0から9)とする。また、インク色毎の閾値は、インク色毎の全ノズル数に対する不吐出ノズルの数の割合として15%が設定されている。
【0105】
検出処理によって、図15に示すような検出結果が得られたとする。この検出結果では、ブラックインクK1を吐出するノズルに関しては、ノズル番号「2」、「6」の2個のノズルが不吐出ノズルとして検出されている。なお、ノズル番号「2」については、不吐出判定ノズルとして予め記憶されている。このため、この検出結果に基づく判定では、判定対象となるノズル数は、全ノズル数10個から不吐出判定ノズル数1個を減算した9個となる。また、判定対象となる不吐出ノズルの数は、実際に検出された不吐出ノズルの数2個から不吐出判定ノズルの数1個を減算した1個となる。これにより、不吐出ノズルの割合は11%となって、対応する閾値15%以下となる。この結果、ブラックインクK1を吐出するノズルについては、インクの吐出状態は良好と判定される。なお、シアンインクC、マゼンタインクM、およびイエローインクYをそれぞれ吐出するノズルについても、インクの吐出状態は良好と判定される。
【0106】
また、ブラックインクK2を吐出するノズルに関しては、ノズル番号「4」が不吐出判定ノズルとして記憶されているが、今回の検出結果では、ノズル番号「8」、「9」の2個のノズルが不吐出ノズルとして検出されている。このため、判定対象のノズル数は9個となり、判定対象となる不吐出ノズルの数は2個となる。これにより、不吐出ノズルの割合は22%となって、対応する閾値15%を超える。この結果、ブラックインクK2を吐出するノズルについては、インクの吐出状態は良好でないと判定される。
【0107】
こうして、インク色毎に、インクの吐出状態の良否を判定し、図15のような検出結果、即ち、少なくとも1つのインク色のノズルにおいて、インクの吐出状態が良好でないと判定されると、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が良好でないと判定される。また、全てのインク色のノズルにおいて、インクの吐出状態が良好であると判定されると、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が良好であると判定される。
【0108】
以上において説明したように、第1実施形態による記録装置1では、ノズルからのインク吐出時の温度変化に基づいて、インクの吐出状態を検出するようにした。そして、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態を良好に維持・回復するための回復処理では、ノズルのインクの吐出状態を検出する検出処理によるインクの吐出動作によって、インクの不吐出の要因となり得る濃縮インクを除去するようにした。
【0109】
これにより、記録装置1では、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出処理と、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態を回復するための回復動作とが並行して実行されるようになる。このため、ノズルの吐出状態を検出し、回復動作を行い、ノズルの吐出状態が良好と判定されるまでの時間、つまり、上記回復処理に要する時間が短くて済む。
【0110】
(第2実施形態)
次に、図16(a)(b)を参照しながら、本発明の第2実施形態によるインクジェット記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一あるいは相当する構成については、第1実施形態に用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0111】
この第2実施形態では、回復処理において、所定のタイミングで検出処理の実行を停止して回復処理を終了するようにした点において、上記した第1実施形態と異なっている。
【0112】
図16は、第2実施形態による記録装置で実行される回復処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。図16(a)は、回復処理を開始後の経過時間に基づいて所定のタイミングが設定されている場合のフローチャートである。図16(b)は、検出処理の回数に基づいて所定のタイミングが設定されている場合のフローチャートである。
【0113】
回復処理が開始されると、まず、時間のカウントを開始する(S1602)。即ち、S1602では、プリントコントローラ202が、プリントエンジンユニット200に設けられたカウンタ(不図示)により時間のカウントを開始する。次に、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出処理を実行する(S1604)。その後、この検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1606)。S1604、S1606の具体的な処理内容については、上記したS1210、S1212と同じであるためのその説明は省略する。
【0114】
S1606において、良好であると判定されると、この回復処理を終了する。また、S1606において、良好でないと判定されると、回復処理を開始してから所定時間が経過したか否かを判定する(S1608)。S1608において、所定時間が経過していないと判定されると、S1604に戻り、再度検出処理が実行される。また、S1608において、所定時間が経過したと判定されると、この回復処理を終了する。
【0115】
また、回復処理を終了するための所定のタイミングについては、回復処理が開始してからの経過時間に限定されるものではない。即ち、所定のタイミングは、検出処理を実行した検出回数に基づいて決定されるようにしてもよい。具体的には、回復処理が開始されると、まず、プリントコントローラ202が、検出回数を表す変数nを「1」に設定する(S1610)。次に、ノズルにおけるインクの吐出状態を検出する検出処理を実行する(S1612)。その後、検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1614)。S1610、S1614の具体的な処理内容については、上記したS1210、S1212と同じであるためのその説明は省略する。
【0116】
S1614において、良好であると判定されると、この回復処理を終了する。また、S1614において、良好でないと判定されると、変数nが所定値に達したか否かを判定する(S1616)。S1616において、所定値に達していないと判定されると、変数nをインクリメントして(S1618)、S1612に戻り、再度検出処理を実行する。また、S1616において、所定値に達したと判定されると、この回復処理を終了する。
【0117】
なお、第2実施形態では、所定のタイミングとなって回復処理が終了した場合には、例えば、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が改善されなかった旨の通知を行うようにしてもよい。
【0118】
以上において説明したように、第2実施形態による記録装置1では、回復処理の開始後に所定のタイミングになると回復処理を終了するようにした。これにより、記録装置1では、第1実施形態での作用効果に加えて、例えば、記録素子84の故障など、予備吐出やインクの循環などによって記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が回復しない場合に、回復処理を終了することができるようになる。
【0119】
(第3実施形態)
次に、図17(a)(b)を参照しながら、本発明の第3実施形態によるインクジェット記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一あるいは相当する構成については、第1実施形態に用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0120】
第3実施形態では、下記の点において、上記した第1実施形態および第2実施形態と異なっている。即ち、回復処理において、検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8におけるインクの吐出状態が良好でないとの判定が継続されると、所定のタイミングでインクの循環を実行しながら検出処理を行うようにした。
【0121】
図17(a)は、第3実施形態による記録装置で実行される回復処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。回復処理が開始されると、まず、時間のカウントを開始する(S1702)。次に、ノズルのインクの吐出状態を検出する検出処理を実行する(S1704)。その後、この検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1706)。S1702、S1704、S1706の具体的な処理内容についてはそれぞれ、上記したS1602、S1210、S1212と同じであるためその説明は省略する。
【0122】
S1706において、良好であると判定されると、この回復処理を終了する。また、S1706において、良好でないと判定されると、回復処理を開始してから所定時間が経過したか否かを判定する(S1708)。S1708において、所定時間が経過していないと判定されると、S1704に戻り、再度検出処理が実行される。また、S1708において、所定時間が経過したと判定されると、インクの循環を開始する(S1710)。即ち、S1710では、プリントコントローラ202が、インク供給制御部209などを制御して、循環経路においてインクを循環させる。
【0123】
次に、ノズルのインクの吐出状態を検出する検出処理を実行し(S1712)、この検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1714)。S1712、S1714の具体的な処理内容についてはそれぞれ、上記したS1210、1212と同じであるため説明を省略する。S1714において、良好でないと判定されると、S1712に戻り、再度検出処理を実行する。また、S1714において、良好であると判定されると、インクの循環を停止し(S1716)、この回復処理を終了する。即ち、S1716では、プリントコントローラ202がインク供給制御部209などを制御して、循環経路におけるインクの循環を停止させる。
【0124】
なお、この回復処理では、S1714において良好でないと判定されると、上記第2実施形態のように、回復処理開始後の経過時間、あるいは、S1712において検出処理を実行した検出回数などに基づいて、回復処理を終了するようにしてもよい。
【0125】
また、この回復処理では、回復処理の開始後に所定時間が経過したタイミングで、インクの循環を開始するようにしたが、これに限定されるものではない。上記第2実施形態のように、S1704における検出処理を実行した検出回数が所定値(所定回数)に達したタイミングで、インクの循環を開始するようにしてもよい。以下、図17(b)を参照しながら説明する。図17(b)は、第3実施形態による記録装置で実行される回復処理の変形例の詳細な処理内容を示すフローチャートである。なお、図17(b)では、図17(a)を用いた説明と同一の処理については、同一のステップ番号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。図17(b)の回復処理では、回復処理が開始されると、検出処理による検出回数を表す変数nを「1」とする(S1722)。そして、S1706において、インクの吐出状態が良好でないと判定されると、nが所定値に達したか否かを判定し(S1724)、nが所定値に達したと判定されると、S1710に進む。また、変数nが所定値に達していないと判定されると、変数nをインクリメントして(S1726)、S1704に進む。
【0126】
以上において説明したように、第3実施形態による記録装置1では、回復処理において、所定のタイミングでインクの循環を開始して、インクを循環させながら検出処理を行うようにした。これにより、記録装置1では、検出処理だけでは濃縮インクを除去できなかった場合に、その後の検出処理時の濃縮インクを除去する効果を高めることができるようになる。
【0127】
(第4実施形態)
次に、図18を参照しながら、本発明の第4実施形態によるインクジェット記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一あるいは相当する構成については、第1実施形態に用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0128】
第4実施形態では、回復処理において、特定のインクに対してのみ、インクを循環させながら検出処理を実行するようにした点において、上記した第1実施形態、第2実施形態、および第3実施形態と異なっている。
【0129】
ここで、インクは、インク種類毎に液体成分蒸発時の粘度上昇に差がある。例えば、ブラックインクは、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクなどのカラーインクに比べて液体成分が蒸発する際に増粘しやすい。従って、こうしたブラックインクについては、カラーインクと比べて、濃縮インクが生じ易く、かつ、発生した濃縮インクは除去し難くなる。そこで、本実施形態では、こうした他のインクに比べて増粘しやすいインクを事前に設定しておき、設定されているインクに対しては、濃縮インクを除去する効果を高めて検出処理を実行するようにした。なお、設定されていないインクに対しては、上記第1実施形態による回復処理を実行するため、以下の説明では、設定されたインクに対して実行される回復処理についてのみ、詳細に説明する。即ち、本実施形態では、回復処理の開始が指示されると、下記に説明する、設定されたインクに対する回復処理と、設定されていないインクに対する上記第1実施形態による回復処理とが並行して実行されることとなる。
【0130】
図18は、第4実施形態による記録装置で実行される、設定されたインクに対する回復処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。この回復処理が開始されると、まず、設定されているインクの循環を開始する(S1802)。即ち、ステップS1802では、プリントコントローラ202が、ROM203において増粘しやすいインクとして記憶されているインクについて、インク供給制御部209などを制御して、循環させる。なお、本実施形態では、予め設定された増粘しやすいインクについては、ROM203に記憶されているようにしたが、回復処理を開始する際にプリントコントローラ202が増粘しやすいインクについての情報を取得可能であればよい。
【0131】
次に、ノズルのインクの吐出状態を検出する検出処理を実行し(S1804)、この検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1806)。S1804、S1806の具体的な処理内容についてはそれぞれ、上記した1210、S1212と同じであるため説明を省略する。
【0132】
S1806において、良好でないと判定されると、S1804に戻り、再度検出処理を実行する。また、S1806において、良好であると判定されると、インクの循環を停止し(S1808)、この回復処理を終了する。即ち、S1808では、プリントコントローラ202が、ROM203において増粘しやすいインクとして記憶されているインクについて、インク供給制御部209などを制御して循環を停止させる。
【0133】
以上において説明したように、第4実施形態による記録装置1では、液体成分が蒸発することにより増粘しやすいインクについて、インクを循環させながら検出処理を実行するようにした。これにより、記録装置1では、回復処理において、増粘しやすいインクに対して濃縮インクを除去する効果を高めることができるようになる。
【0134】
(第5実施形態)
次に、図19を参照しながら、本発明の第5実施形態によるインクジェット記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態と同一あるいは相当する構成については、第1実施形態に用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0135】
第5実施形態では、回復処理において、インクの濃度情報に応じて、検出処理時にインクの循環の有無を変更するようにした点において、上記した第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、および第4実施形態と異なっている。即ち、本実施形態による記録装置1は、回復処理によって、記録動作による循環経路内のインクの濃度の上昇に伴うインクの吐出不良を解消するようにしている。つまり、本実施形態では、回復処理は記録処理後に実行される。
【0136】
図19は、第5実施形態による記録装置で実行される回復処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。この回復処理が開始されると、まず、インクの濃度Ncを取得する(S1902)。即ち、S1902では、プリントコントローラ202が、インク色毎に濃度情報である濃度Ncを取得する。
【0137】
ここで、プリントコントローラ202は、記録動作毎に循環経路内にあるインクの濃度NX+1を取得する。そして、取得した値を、循環経路内のインクの濃度Ncとして、例えば、ROM203に上書き保存する。なお、濃度NX+1は、下記(1)式を用いて取得する。
X+1=(Nx×(Jn-In))/(Jn-In-V)・・・(1)
【0138】
X+1は、現時点のインクの濃度である。Nxは、記録動作前のインクの濃度である。NX+1、NXについては、濃度5重量%であればその値は0.05となる。Jnは、記録動作前の循環経路内のインク量であり、例えば、循環経路内に充填されるインク量となる。Inは、記録動作により吐出されたインク量であり、記録データに基づいて取得することができる。Vは、循環経路からのインクの蒸発量であって、予め設定されている。
【0139】
従って、S1902では、プリントコントローラ202が、ROM203に記憶されているインクの濃度Ncを取得することとなる。次に、取得した濃度Ncが所定濃度を超過したか否かを判定する(S1904)。S1904では、例えば、濃度Ncが0.089、つまり、8.9重量%を超過したか否かを判定する。所定濃度については、検出処理によるインクの吐出動作だけではインクの増粘を効率的に解消できなくなる、最も低い濃度を、インクの種類毎に、例えば、実験的に取得される。あるいは、所定濃度は、インクの吐出状態が良好でなくなる最も低い濃度としてもよい。
【0140】
S1904において、濃度Ncが所定濃度を超過したと判定されると、インクの循環を開始する(S1906)。即ち、濃度Ncが所定濃度を超過した場合には、循環経路内にあるインク中の液体成分の蒸発が進行し、吐出動作だけでは増粘を効率的に解消できない状態にあるため、インクの循環が行われる。その後、ノズルのインクの吐出状態を検出する検出処理を実行し(S1908)、この検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1910)。S1908、S1910の具体的な処理内容についてはそれぞれ、上記したS1210、1212と同じであるため説明を省略する。
【0141】
ここで、検出処理によるインクの吐出動作によって循環経路内のインクが減少する。これにより、循環経路を構成するサブタンク151内のインクが所定量より少なくなると、インク供給制御部209の制御によってメインタンク141からインクが補充される。このため、循環経路内のインクの粘度が低下し、インクの吐出状態が改善される。S1910において、良好でないと判定されると、S1908に戻り、再度検出処理を実行する。また、S1910において、良好であると判定されると、インクの循環を停止し(S1912)、この回復処理を終了する。
【0142】
一方、S1904において、濃度Ncが所定濃度以下であると判定されると、ノズルのインクの吐出状態を検出する検出処理を実行する(S1914)。その後、この検出処理の検出結果に基づいて、記録ヘッド8のインクの吐出状態が良好か否かを判定する(S1916)。S1914、S1916の具体的な処理内容についてはそれぞれ、上記したS1210、1212と同じであるため説明を省略する。S1916において、良好でないと判定されると、S1914に戻り、再度検出処理を実行する。また、S1916において、良好でないと判定されると、この回復処理を終了する。
【0143】
以上において説明したように、第5実施形態による記録装置1では、記録処理後の増粘したインクが所定濃度を超えた場合に、インクを循環させながら検出処理を行うようにした。これにより、記録装置1では、所定濃度を超過したインクに対して、効率的にインクの吐出状態を改善することができるようになる。
【0144】
(他の実施形態)
なお、上記した実施形態は、以下の(1)乃至(4)に示すように変形するようにしてもよい。
【0145】
(1)上記実施形態では、回復処理を開始するタイミングを、記録装置の電源がONになったとき、印刷指示が入力された後であって記録処理が実行される前としたが、例えば、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作後としてもよい。この場合、例えば、ブレードワイパユニット171によるワイピング動作後に実行することとなる。
【0146】
記録動作に伴って吐出口面8aに付着するインク中の液体成分は蒸発してゆき、増粘した状態へと変化してゆく。付着したインクが増粘した状態で、ブレードワイパユニット171でワイピング動作を行うと、吐出口86内部へ増粘したインクが押し込まれ、吐出口86近傍に濃縮インクが位置した状態となる。こうした状態に対して、本実施形態による回復処理を適用させることとなる。即ち、インクを循環させずに、インクの吐出を伴う検出処理を行うことで、吐出口86内部へ押し込まれた増粘インク(濃縮インク)が循環経路の下流側へ流れ込むことを抑制しつつ、増粘インクを除去することができるようになる。
【0147】
また、回復処理を行うタイミングとしては、例えば、記録装置1の電源がOFFとなっている時間が所定時間(例えば、64時間)を超えた場合としてもよい。また、回復処理を行うタイミングは、インクを循環させない非循環時間が所定時間を超えた場合であって、次の記録動作の前としてもよい。なお、この場合には、インクを循環するだけとしてもよい。
【0148】
(2)本発明は、上記実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。上記実施形態では特に記載しなかったが、記録装置1は、上記各実施形態における回復処理を選択可能な構成としてもよい。さらに、上記実施形態では特に記載しなかったが、コントローラユニット100およびプリントエンジンユニット200については、記録装置1に搭載されるようにしてもよいし、その機能を記録装置1と接続された外部装置に実行させるようにしてもよい。
【0149】
(3)上記実施形態では、記録装置1において、異なる色の5種類のインクを用いて記録するようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、1種類以上の複数種類のインクを用いて記録するようにしてもよい。また、インクの種類については、色の違いに限定されるものではなく、特性が異なるインクを用いるようにしてもよい。また、上記実施形態では、所定時間が経過したタイミング、設定されたインクあるいは所定濃度を超えたインクに対して回復処理を実行するタイミングなどの所定条件を満たしたときに、インクを循環するようにしたが、これに限定されるものではない。インクを循環するための所定条件については、設定可能な構成としてもよい。
【0150】
(4)上記実施形態および上記した(1)乃至(3)に示す各種の形態は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0151】
8 記録ヘッド
91 温度検出素子
202 プリントコントローラ
209 インク供給制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図18
図19