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特許7423261透明部材および撮像装置並びに透明部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】透明部材および撮像装置並びに透明部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20240122BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20240122BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20240122BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20240122BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240122BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240122BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240122BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240122BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G02B1/14
B05D5/00 Z
B05D5/06 C
B05D5/06 104C
B05D7/02
B05D7/24 301H
B05D7/24 301W
B05D7/24 303B
B32B5/18 101
B32B9/00 A
B32B27/30 A
B32B27/36 102
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019199987
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2020095254
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2018230318
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 陽
(72)【発明者】
【氏名】中山 寛晴
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 純二
(72)【発明者】
【氏名】高地 美和
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-66209(JP,A)
【文献】国際公開第2006/057119(WO,A1)
【文献】特開2018-116177(JP,A)
【文献】特開2005-181940(JP,A)
【文献】特開2007-25329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00 - 7/26
B32B 5/18
B32B 9/00
B32B 27/30
B32B 27/36
G02B 1/10 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる樹脂層と、
複数のシリカ粒子と、前記複数のシリカ粒子を接合するバインダーと、前記樹脂と、を有し、前記樹脂層の上に配置された混合層と、
前記複数のシリカ粒子と、前記複数のシリカ粒子を接合するバインダーと、を有し、空隙が設けられ、前記混合層の上に配置された多孔質層と、を有し、
前記混合層の膜厚が20nm以上160nm以下であり、
前記混合層の厚さ方向の断面の前記樹脂層の表面に沿った1μmの長さの範囲における膜厚ばらつきが15%以下であり、
前記多孔質層の膜厚が100nm以上800nm以下であることを特徴とする透明部材。
【請求項2】
前記多孔質層の前記混合層が設けられた側とは逆の表面の表面平均面粗さRaが2nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明部材。
【請求項3】
前記混合層の膜厚が、前記シリカ粒子の平均フェレ径よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の透明部材。
【請求項4】
前記シリカ粒子の平均フェレ径が10nm以上60nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項5】
前記バインダーが、シリカバインダーであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項6】
前記混合層の前記複数のシリカ粒子は、前記多孔質層の前記複数のシリカ粒子と、前記バインダーを介して接合されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項7】
前記樹脂の可視光に対する透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項8】
前記樹脂の材質は、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステルからなる群から選ばれるいずれか1つまたは複数であることを特徴とする請求項7に記載の透明部材。
【請求項9】
前記多孔質層の前記混合層が設けられた側とは逆の表面における水に対する接触角が30°以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の透明部材。
【請求項10】
筐体と請求項1から9のいずれか1項に記載の透明部材とで囲まれた空間内に、光学系と、前記光学系を介して映像を取得するイメージセンサと、を備える撮像装置。
【請求項11】
樹脂からなる樹脂層の上にシリカを含む層が形成された透明部材の製造方法であって、
前記樹脂からなる樹脂基材の上に複数のシリカ粒子とバインダーとなる成分とを含む分散液を塗布し、該分散液を硬化することにより、前記複数のシリカ粒子と前記複数のシリカ粒子を接合するバインダーと前記樹脂とを有する混合層と、前記複数のシリカ粒子と前記複数のシリカ粒子を接合するバインダーを有し、空隙が設けられた多孔質層と、を形成する工程を有し、
前記混合層の膜厚が20nm以上160nm以下であり、
前記混合層の厚さ方向の断面の前記樹脂層の表面に沿った1μmの長さの範囲における膜厚ばらつきが15%以下であり、
前記多孔質層の膜厚が100nm以上800nm以下であること、
を特徴とする透明部材の製造方法。
【請求項12】
前記シリカ粒子の平均フェレ径が、前記混合層の膜厚よりも小さいことを特徴とする請求項11に記載の透明部材の製造方法。
【請求項13】
前記シリカ粒子が鎖状シリカ粒子であり、
前記鎖状シリカ粒子を構成する個々の粒子の平均フェレ径が、前記混合層の膜厚よりも小さいことを特徴とする請求項11または12に記載の透明部材の製造方法。
【請求項14】
前記分散液は、前記樹脂の溶解性が相対的に高い溶媒と、前記樹脂の溶解性が相対的に低い溶媒とを含むことを特徴とする請求項11から13のいずれか1項に記載の透明部材の製造方法。
【請求項15】
前記樹脂の溶解性が相対的に高い溶媒の沸点が、前記樹脂の溶解性が相対的に低い溶媒の沸点より高いことを特徴とする請求項14に記載の透明部材の製造方法。
【請求項16】
前記樹脂がポリカーボネートであり、
前記樹脂の溶解性が相対的に高い溶媒が、ジグライム、ジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2-ヘプタノンから選ばれ、
前記樹脂の溶解性が相対的に低い溶媒が2-プロパノールであることを特徴とする請求項14または15に記載の透明部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性の透明部材およびその製造方法、並びに透明部材を保護カバーに用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、防犯を目的として、店舗、ホテル、銀行、駅などの様々な場所に監視カメラが設置されている。監視カメラは、天井、外壁、支柱などに設置部品を介して取付ける、埋め込む、などの方法で設置される。
【0003】
監視カメラ本体には、周囲の環境から保護する目的で、撮像を妨げない透明な保護カバーが取り付けられている。保護カバーには、透明性や耐衝撃性に優れるポリカーボネートやアクリル樹脂といった樹脂材料が用いられる。屋外に設置される監視カメラの場合は、雨や結露などによる水滴が保護カバーに付着して映像を歪めたり不鮮明にしたりしてしまうため、保護カバーに親水性の膜を設けて水滴の付着を防止する技術が広く用いられている。
【0004】
特許文献1には、シリカゾルを樹脂基材に侵入させることで親水性が高く密着力の高いシリカ粒子膜を得る親水膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-203774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、監視カメラ等の保護カバーに用いられるポリカーボネートやアクリル樹脂といった樹脂基材は、長期間屋外に設置されると、太陽光によって劣化し、ひび割れ等のクラックが発生する。そのため、保護カバーに親水膜を形成した際も、保護カバーである樹脂基材のクラックの発生に伴い、親水膜にもクラックが発生し、ヘイズの上昇により撮影される画像が乱れてしまうという課題がある。また、クラックが伸展すると親水膜が保護カバーから脱落して親水性が維持できないという課題もある。
【0007】
したがって、保護カバーに設ける親水膜は、長期間屋外に設置される際にクラックの発生を抑え、ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持できることが好ましい。しかし特許文献1で提案されている構成の親水膜は、長期間屋外に設置された際に太陽光による基材の劣化を抑制することができないため、親水膜のクラックの発生を抑制することができず、長期にわたってヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、長期間屋外に設置される際の親水膜のクラックの発生を抑制し、ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することのできる親水性被膜を有する透明部材を提供するものである。
【0009】
本発明にかかる透明部材は、樹脂基材上に多孔質層を有する透明部材であって、前記多孔質層はシリカ粒子がバインダーで互いに接合されたネットワーク構造を有し、前記樹脂基材は、前記多孔質層が設けられた側の表層に前記ネットワーク構造が侵入した混合層を有し、前記混合層の膜厚が20nm以上160nm以下であり、前記混合層の厚さ方向の断面の前記樹脂基材の表面に膜面に沿った1μmの長さの範囲における膜厚ばらつきが15%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる撮像装置は、筐体と上記透明部材とで囲まれた空間内に、光学系と、前記光学系を介して映像を取得するイメージセンサと、を備える。
【0011】
また、本発明にかかる透明部材の製造方法は、樹脂基材上にシリカを含む層が形成された透明部材の製造方法であって、前記樹脂基材の上にシリカ粒子とバインダーとなる成分とを含む分散液を塗布し、該分散液を硬化することにより多孔質層および前記樹脂基材に前記シリカ粒子がバインダーで互いに接合されたネットワーク構造が侵入した混合層を形成する工程を有し、前記混合層の膜厚が20nm以上160nm以下であり、前記混合層の膜面と交差する方向の断面の前記膜面に沿った1μmの長さの範囲における膜厚ばらつきが15%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、屋外環境暴露時においても長期間ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することのできる、信頼性の高い親水膜を形成した透明部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明にかかる透明部材の一実施形態の厚さ方向の断面を示す模式図である。
図2】本発明にかかる撮像装置の一実施形態を示す模式図である。
図3】本発明にかかる撮像装置の構成例を示す模式図である。
図4】実施例1で作成した透明部材の断面の走査型透過電子顕微鏡による観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更を加えることもできる。
【0015】
≪透明部材≫
図1は、本発明にかかる透明部材の一実施形態であって、厚さ方向(基材表面の法線と平行な方向)の断面を示す模式図である。同図において、本発明にかかる透明部材10は、樹脂基材16の上に、多孔質層14と多孔質層が樹脂基材16に侵入した混合層15からなる親水性被膜を有している。本発明において、「透明」とは、可視光に対する透過率が20%以上の特性を意味する。
【0016】
多孔質層14は、複数のシリカ粒子(酸化ケイ素粒子)12と、複数のシリカ粒子12の間に介在するバインダー11と、を含んでいる。複数のシリカ粒子12はバインダー11によって互いに固定され、シリカ粒子12の間やバインダー11の間に形成される空隙(ボイド)13によって多孔質となっている。
【0017】
従来の樹脂基材上に形成された親水膜は、屋外暴露環境に設置されると以下の2つの現象により樹脂基材上に形成する親水膜に応力がかかりクラックが発生する。
(1)太陽光と酸素によりに、樹脂基材表面が酸化劣化する。
(2)雨による吸水や太陽光による温度変化によって樹脂基材が膨張・収縮する。
【0018】
これに対して、上記のような構成にすることで、まず混合層15によって樹脂基材16が被覆されることで、表面に露出する樹脂基材16の表面積が減少するため樹脂基材16の酸化劣化を防止するとともに、樹脂基材16の膨張・収縮に伴う応力を緩和する。また混合層15と多孔質層14のシリカ粒子同士がネットワーク構造を有することで、樹脂基材16の酸化劣化に伴う応力を緩和し樹脂基材16のクラックの発生を抑制する。これらにより本発明にかかる透明部材は、屋外環境に設置された際も親水性被膜のクラックの発生を抑制し、長期間ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することが可能となる。
【0019】
以下、各層について詳細に説明する。
<多孔質層>
多孔質層14は、バインダー11によってシリカ粒子12が互いに接合され、シリカ粒子12間およびバインダー11内に空隙13を含むネットワーク構造を有している。つまり、ネットワーク構造とは、シリカ粒子同士がバインダーで互いに接合されて形成された構造である。多孔質層14の空隙率は、40%以上55%以下であることが好ましい。多孔質層14の空隙率が40%以上である場合は、膜の内部応力を適度に保つことで屋外暴露環境時に膜のクラックの発生を抑制することができ、ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持できる。また、多孔質層14の空隙率が55%以下である場合は、親水膜のヘイズを小さくすることができ、透明性を保つことができる。さらに、バインダー11とシリカ粒子12が親水性であるため、多孔質層14は親水性を有しており、多孔質層14の表面における水に対する接触角は30°以下となる。また、多孔質層14の膜厚は100nm以上800nm以下であることが好ましい。多孔質層14の膜厚が100nmより小さい場合は、混合層15と多孔質層14のネットワーク構造による樹脂基材16のクラックの発生の抑制が十分でなく、膜のクラックが発生してしまい、ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することができない場合がある。また、多孔質層14の膜厚が800nmより大きい場合は、親水性被膜の内部応力が増加することで、膜のクラックが発生してしまい、ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することができない場合がある。
【0020】
ここで、多孔質層14の空隙率は、多孔質層14に対する、多孔質層14に含まれる空隙の体積の割合を表す値である。空隙率は、分光エリプソメータを用い、多孔質層の屈折率とシリカの屈折率1.46と、空気の屈折率1.00から、式1を用いて算出することができる。
(式1) 空隙率=100×(多孔質層の屈折率-1.46)÷(1.00-1.46)
【0021】
さらに、多孔質層14の表面、すなわち本発明にかかる透明部材の多孔質層14が設けられた側の表面の表面平均面粗さRaが2nm以上10nm以下であることが好ましい。表面平均面粗さRaはJIS B 0601:2001で定義される算出方法で算出され、Raが小さい値であると多孔質層14は緻密かつ均一な構造を有する。そのため、Raが10nm以下である場合、本発明にかかる透明部材を長期間屋外に設置しても、基材の酸化劣化および親水性被膜のクラックの発生を抑制することができ好ましい。一方、空隙率との関係から、Raは2nm以上であることが好ましい。
【0022】
[シリカ粒子]
シリカ粒子12の平均粒子径は、10nm以上60nm以下であることが好ましい。シリカ粒子12の平均粒子径が10nm以上である場合は、粒子間にできる空隙13を適度に大きくすることができ、所望の空隙率を実現し、膜の内部応力を適度に保つことができる。そのため、屋外暴露環境時に膜のクラックの発生を抑制することができ、ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することができる。また、シリカ粒子12の平均粒子径が60nm以下であると、粒子間にできる空隙13のサイズを適度に小さくすることができ、空隙13やシリカ粒子12による光の散乱を発生させることなく、ヘイズの上昇を抑制することができ好ましい。
【0023】
ここで、シリカ粒子12の平均粒子径とは、平均フェレ径である。この平均フェレ径は透過型電子顕微鏡像によって観察した観察画像を画像処理によって測定することができる。画像処理方法としては、image Pro PLUS(メディアサイバネティクス社製)など市販の画像処理を用いることができる。所定の画像領域において、必要であれば適宜コントラスト調整を行い、市販の粒子測定ソフトによって各粒子の平均フェレ径を計測し、平均値を求めることができる。
【0024】
シリカ粒子12は、中実のシリカ粒子や中空のシリカ粒子を用いることができるが、これらが連なった鎖状のシリカ粒子が特に好ましい。鎖状のシリカ粒子を用いることで大きな空隙を発生させることなく空隙率を上げることができる。鎖状のシリカ粒子に中実のシリカ粒子や中空のシリカ粒子を混ぜて使用してもよい。鎖状のシリカ粒子の場合、互いに連なった個々の粒子の平均粒子径が10nm以上60nm以下であることが好ましい。
【0025】
シリカ粒子12は、SiOを主成分として含んでいるが、他に、Al、TiO、ZnO、ZrOなどの金属酸化物を粒子中に含んでいても良い。ただし、シリカ粒子12の表面のシラノール(Si-OH)基の30%以上が有機基などによって修飾されたり他の金属で複合化されたりすると、親水性が失われてしまう。そのようなシリカ粒子からなる多孔質層14は親水性が低く、セルフクリーニング性も低下してしまう。
【0026】
したがって、多孔質層14に良好な親水性を発現させるためには、粒子表面の70%以上にシラノール(Si-OH)基が残存したシリカ粒子を用いることが好ましく、粒子表面の90%以上のシラノール基が残存したシリカ粒子を用いることがより好ましい。
【0027】
[バインダー]
バインダー11は、親水性被膜の耐摩耗性および環境信頼性並びにシリカ粒子12との密着力によって適宜選択することが可能であるが、シリカ粒子12との親和性が高く多孔質層の耐摩耗性を向上させる、シリカバインダーを用いることが好ましい。シリカ(SiO)バインダーの中でも、シリケートの加水分解縮合物を用いることがより好ましく、4官能シリケートの加水分解縮合物を用いることがさらに好ましい。
【0028】
バインダー11の含有量は、多孔質層14の全体の質量に対して3質量%以上20質量%以下が好ましく、10質量%以上20質量%以下がより好ましい。多孔質層14の全体の質量に対するバインダー11の含有量が3質量%未満であると、シリカ粒子12を固定する力が弱く、シリカ粒子12が剥がれ落ちる可能性がある。また、多孔質層14に対するバインダー11の含有量が20質量%を超えると、シリカ粒子12間がバインダーで埋まって多孔質層14中の空隙率が低下し、親水性被膜の内部応力が増加する傾向にある。
【0029】
<混合層>
混合層15はシリカ粒子同士がバインダーで互いに接合されて形成されたネットワーク構造の空隙に樹脂基材16が侵入した層であり、樹脂基材16の多孔質層14が設けられた側に設けられている。バインダーとシリカ粒子とで形成されたネットワーク構造の空隙に侵入した樹脂基材16の最上部からネットワーク構造の最下部までの範囲が混合層15である。屋外環境に設置された際に、太陽光と酸素によって樹脂基材16は酸化劣化し得る。しかし、混合層によって酸素に接触する樹脂基材16の表面積を減少させることができるため、樹脂基材16の酸化劣化を抑制することができる。さらに混合層15と多孔質層14が連続したネットワーク構造を有することで、樹脂基材16の酸化劣化に伴う応力を緩和しクラックの発生を抑制する。
【0030】
混合層15の膜厚は20nm以上160nm以下であることが好ましい。混合層15の膜厚が20nmより小さい場合は、樹脂基材16がネットワーク構造に十分侵入せず、樹脂基材16の酸化劣化に伴う応力を緩和することができずに、樹脂基材16のクラックの発生を抑制することができない。また混合層15の膜厚が160nmより大きい場合は、樹脂基材16やシリカ粒子12による散乱が発生してしまい、ヘイズが上昇してしまうため好ましくない。また、混合層の膜厚は、シリカ粒子の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。混合層の膜厚がシリカ粒子の平均粒子径よりも大きいことで、混合層15が有するネットワーク構造の強度を強くすることができるため、クラックの発生をより確実に抑制することが可能となる。なお、鎖状のシリカ粒子を用いる場合、混合層の膜厚は、互いに連なった個々の粒子の平均粒子径よりも大きいことが好ましい。
【0031】
また、混合層15におけるネットワーク構造の体積割合としては、20%以上80%以下であることが好ましく、30%以上70%以下であることがより好ましい。混合層15におけるネットワーク構造の体積割合が20%以上であると、屋外暴露時の樹脂基材16の酸化劣化を十分抑制することができ、クラックの発生を抑制することができる。混合層15におけるネットワーク構造の体積割合が80%以下であると、屋外暴露時の応力を緩和することができ、クラックの発生を抑制することができる。
【0032】
また、混合層15は、雨による吸水や太陽光による温度変化によって樹脂基材16が膨張・収縮する応力を緩和する。混合層15の膜厚は、厚さ方向の断面において、樹脂基材16の表面に沿った任意の1μmの長さの範囲における膜厚ばらつきが15%以下である。膜面内の混合層の膜厚ばらつきが15%より大きい場合は、周囲に対して混合層の膜厚が小さい部分に樹脂基材の膨張・収縮に伴う応力が集中してしまうため、樹脂基材16にクラックが発生し、親水性被膜にクラックが発生する。そのため、ヘイズの上昇を抑制し、親水性を維持することができない。
【0033】
膜厚ばらつきとは、樹脂基材16と混合層15の界面に生じる凹凸の高さが混合層15の平均膜厚に占める割合である。本発明の透明部材を薄片化し、断面を走査型透過電子顕微鏡などで観察することにより、混合層15の平均膜厚および樹脂基材16と混合層15の界面に生じる凹凸の高さを求める。ここで、樹脂基材16と混合層15の界面に生じる凹凸の高さとは、界面における最も混合層側に存在する樹脂基材16のみからなる部分と最も樹脂基材16側にある混合層15部分との厚さ方向の高さの差の絶対値である。膜厚ばらつきを算出する際、得られた画像を画像処理ソフトで二値化することにより、基材と混合層(シリカ粒子またはバインダー)が区別しやすくなり好ましい。図4に示すように、厚さ方向の断面における樹脂基材16の表面に沿った任意の1μmの長さを、図中の実線の範囲で表したとき、樹脂基材16と混合層15の界面に生じる凹凸の高さ(膜厚ばらつき)は、2本の白い破線間の距離(白い矢印で示した距離)の平均膜厚に占める凹凸の高さの割合に該当する。
【0034】
<樹脂基材16>
樹脂基材16の材質としては、透明なアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル等の樹脂を用いることができる。樹脂基材16の形状は限定されることはなく、板状であってもフィルム状であってもよく、また、平板状であっても、曲面、凹面または凸面を有する形状、例えば半球状のドーム形状等であってもよい。なお、樹脂基材の可視光に対する透過率は、50%以上であることが好ましい。
【0035】
<製造方法>
次に、本発明にかかる透明部材の製造方法についてその一例を説明する。
本発明にかかる透明部材の製造方法は、樹脂基材16の上に多孔質層14と混合層15を形成する工程を有する。
【0036】
多孔質層14と混合層15を形成する工程としては、シリカ粒子12の分散液とバインダー溶液とを順に樹脂基材16上に塗布/乾燥する方法や、シリカ粒子12とバインダー11となる成分の両方を含む分散液を樹脂基材16上に塗布/乾燥する方法を用いることができる。多孔質層14内部の組成が均一になる点で、シリカ粒子12とバインダー11となる成分の両方を含む分散液を塗布する方法がより好ましい。
【0037】
シリカ粒子12の分散液は、溶媒にシリカ粒子12を分散した液であり、シリカ粒子12の含有量が2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。シリカ粒子12の分散液には、シリカ粒子12の分散性を上げるために、シランカップリング剤や界面活性剤を加えても良い。ただし、シリカ粒子12の表面のシラノール基の多くにこれらの化合物が反応すると、シリカ粒子12とバインダー11との結合が弱くなって多孔質層14の耐摩耗性が低下してしまったり、多孔質層14の親水性が低下してしまったりする。そのため、分散液中のシランカップリング剤や界面活性剤等の添加剤の含有量は、100質量部のシリカ粒子12に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0038】
バインダー溶液には、シリカ粒子12との結合力が強い、シリカバインダーの溶液を用いることが好ましい。シリカバインダー溶液は、溶媒中でケイ酸メチル、ケイ酸エチルなどのケイ酸エステルに、水や酸または塩基を加え、加水分解縮合することによって生成される、シリケート加水分解縮合物を主成分とする溶液が好ましい。
【0039】
どのような酸や塩基を用いるかは、溶媒への溶解性やケイ酸エステルとの反応性を考慮して、適宜選択するとよい。加水分解反応に用いる酸は、塩酸、硝酸が好ましく、塩基は、アンモニアや各種アミン類が好ましい。シリケート加水分解縮合物は、ケイ酸エステルだけではなく、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩を水中で中和して縮合させることによっても調製することができる。中和反応に用いることができる酸は、塩酸、硝酸などである。シリカバインダー溶液を調製する際には80℃以下の温度で加熱してもよい。
【0040】
バインダー11にシリカバインダーを用いる場合、溶解性や塗布性の改善を目的として、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、などの有機基が置換した3官能シランアルコキシドをシリカバインダー溶液に添加することができる。3官能シランアルコキシドの添加量は、シリカバインダー溶液に含まれるシランアルコキシド全体の10モル%以下であることが好ましい。添加量が10モル%を超えると、バインダー内部で、有機基がシラノール基同士の水素結合を阻害するため、耐摩耗性が低下する。
【0041】
シリカ粒子12とバインダー11となる成分の両方を含む分散液を用いる場合は、前述したシリカ粒子12の分散液とバインダー溶液のそれぞれを予め調製してから混合してもよい。あるいは、シリカ粒子12の分散液中にバインダー11となる成分を加えて反応させることによって分散液を調製してもよい。後者の方法を用いてシリカ粒子12とバインダー11となる成分としてのシリカバインダーとを含む分散液を得る場合、シリカ粒子12の分散液にケイ酸エステルと水と酸触媒を加えて反応させることで調製することが可能である。バインダー11となる成分の反応を制御したり、反応状態を確認しながら調製したりできる点で、予めバインダー溶液を調製してから混合する方法が好ましい。
【0042】
シリカ粒子12とバインダー11となる成分の両方を含む分散液中のバインダー11となる成分の量は、シリカ粒子およびバインダーとなる成分100質量部に対して、3質量部以上20質量部以下が好ましく、10質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0043】
シリカ粒子12の分散液やシリカバインダー溶液に用いることができる溶媒は、これらが均一に溶解または分散することができ、かつ混合層15の膜厚が均一な膜を形成できるようにする必要がある。そのため、樹脂基材16の溶解性が相対的に高い溶媒と溶解性が相対的に低い溶媒を組み合わせることが望ましい。また、樹脂基材16の溶解性が相対的に高い溶媒の沸点が、樹脂基材16の溶解性が相対的に低い溶媒の沸点よりも高いことが望ましい。そのように溶媒を選択することで、膜形成の過程の初期ではシリカ粒子の均一な配列を促し、均一な配列性の高い多孔質のネットワーク構造を形成させる。膜形成の過程の後期では、沸点の高い、溶解性が相対的に高い溶媒の割合が大きくなり、急激に樹脂基材16が溶解するため、膜形成過程の初期に形成された多孔質のネットワーク構造が樹脂基材16に侵入し、均一な混合層15が形成される。
【0044】
樹脂基材16の溶解性が相対的に高い溶媒としては、例えばジメトキシエタン、ジグライム、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルのようなエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類;n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンのような各種の脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの各種の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノンなどの各種のケトン類;クロロホルム、メチレンクロライド、四塩化炭素、テトラクロロエタンのような、各種の塩素化炭化水素類;N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルフォルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネートのような、非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。樹脂基材16の溶解性が相対的に高い溶媒としては、ジグライム、ジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2-ヘプタノンが好ましく用いられる。
【0045】
また、樹脂基材16の溶解性が相対的に低い溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチルプロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、シクロペンタノール、2-メチルブタノール、3-メチルブタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-エチルブタノール、2,4-ジメチル-3-ペンタノール、3-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノールなどの1価のアルコール類;エチレングリコール、トリエチレングリコールなどの2価以上のアルコール類;メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、イソプロポキシエタノール、ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール類が挙げられる。樹脂基材16の溶解性が相対的に低い溶媒としては、2-プロパノールが好ましく用いられる。
【0046】
本発明にかかる透明部材を得るためには、これら例示した溶媒等の中から、樹脂基材16の溶解性が相対的に高い溶媒と樹脂基材16の溶解性が相対的に低い溶媒との沸点に差がつくように選択して使用すればよい。また溶媒の沸点を考慮して溶解性が相対的に高い溶媒と、溶解性が相対的に低い溶媒それぞれの中から2種類以上の溶媒を混ぜて使用することもできる。
【0047】
溶解性が相対的に高い溶媒と溶解性が相対的に低い溶媒を混合して用いる上で、溶解性が相対的に高い溶媒の割合としては、2質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。2質量%以上であることで、十分な混合層を形成することができ、30質量%以下であることで、混合層の膜厚が厚くなりすぎることがなく、ヘイズを良好に保つことができる。
【0048】
シリカ粒子12の分散液およびバインダー溶液、あるいはそれらが混合した分散液を塗布する方法としては、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スリットコート法、印刷法やディップコート法などが挙げられる。凹面などの立体的に複雑な形状を有する透明部材を製造する場合、膜厚の均一性の観点からスピンコート法が好ましい。
【0049】
シリカ粒子12の分散液およびバインダー溶液、あるいはそれらを混合した分散液を塗布した後、多孔質層および混合層中に残留する溶媒の量を抑制して耐摩耗性を向上することができる。そのため、乾燥工程および硬化工程を設けて、多孔質層および混合層を形成するのが好ましい。乾燥工程および硬化工程は、溶媒の除去や、バインダー11となる成分の反応、あるいは、バインダー11となる成分とシリカ粒子12との反応を促進するための工程である。乾燥工程および硬化工程の温度は、20℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上150℃以下がより好ましい。乾燥工程および硬化工程の温度が20℃未満だと溶媒が残留して耐摩耗性が低下する。また、乾燥工程および硬化工程の温度が200℃を超えると、バインダー11の硬化が進み過ぎ、その結果、多孔質層14に割れが発生しやすくなる。
多孔質層14中に残留する溶媒は、3.0mg/cm以下であることが好ましい。
【0050】
シリカ粒子12の分散液とバインダー溶液とを順に塗布する場合には、シリカ粒子12の分散液を塗布して一旦焼成工程を行った後、バインダー溶液を塗布して乾燥工程および硬化工程を行い、多孔質層および混合層を形成することもできる。
【0051】
多孔質層14を所望の膜厚にするために、上記の塗布工程と乾燥工程および硬化工程とを、交互に複数回ずつ繰り返してもよい。
【0052】
≪撮像装置≫
図2は、本発明の撮像装置の一実施形態を示す模式図であり、図2(a)は定点観察型の監視カメラ、図2(b)はパン・チルト・ズーム駆動が可能な旋回型の監視カメラである。図2(a)および(b)に示す撮像装置は、装置本体1および2に、保護カバーとして機能する本発明にかかる透明部材(保護カバー)3を有し、装置本体1および2は、映像データを取得する光学系を備える。また、透明部材3は、少なくとも装置本体1および2の光学系を覆い、外部からの塵や衝撃から防御する。図2(a)の保護カバー3は平面形状の箱型、図2(b)の保護カバー3は半球形状のドーム型となっているが、保護カバー3の形状はこれらに限定されない。
【0053】
図3に、本発明にかかる撮像装置の構成例を示す。撮像装置30は、多孔質層14、混合層15および樹脂基材16を含む透明部材10と筐体36で囲まれた空間を有しており、空間内に、光学系31、イメージセンサ32、映像エンジン33、圧縮出力回路34、出力部35を備えている。
【0054】
透明部材10を介して取得される映像は、光学系(レンズ)31によってイメージセンサ32へと導かれ、イメージセンサ32によって映像アナログ信号(電気信号)に変換され、出力される。イメージセンサ32から出力された映像アナログ信号は、映像エンジン33にて映像デジタル信号に変換され、映像エンジン33から出力された映像デジタル信号は圧縮出力回路34にてデジタルファイルに圧縮される。映像エンジン33は、映像アナログ信号を映像デジタル信号に変換する過程で、輝度、コントラスト、色補正、ノイズ除去などの画質を調整する処理を行ってもよい。圧縮出力回路34から出力された信号は、出力部35から配線を介して外部機器へと出力される。
【0055】
透明部材10は、多孔質層14が設けられた面が外部側となるように設置されている。このような構成により、外部からの塵や衝撃から防御するとともに、外部環境の変化によって透明部材10の表面に付着する水滴を液膜化させ、イメージセンサ32で取得される映像の歪みを抑制することができる。
【0056】
さらに、撮像装置30は、画角調整するパンチルト、撮像条件等を制御するコントローラ、取得した映像データを保存しておく記憶装置、出力部35から出力されたデータを外部に転送する転送手段などとともに、撮像システムを構成することができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明にかかる透明部材の具体的な製造方法を説明する。
(塗工液の調製)
まず、本発明にかかる透明部材の製造に用いる塗工液について説明する。
【0058】
(1)シリカバインダー溶液の調製
ケイ酸エチル12.48gにエタノール13.82gと硝酸水溶液(濃度3%)を加え、室温で10時間攪拌し、シリカバインダー溶液(固形分濃度12.0質量%)を調製した。
【0059】
(2-1)シリカ粒子塗工液Aの調製
鎖状シリカ粒子の2-プロパノール(IPA)分散液(商品名:IPA-ST-UP、日産化学工業株式会社製、固形分濃度15.5質量%)20.00gを、溶媒としてIPA(沸点:82.5℃)85.00gとジグライム(沸点:162.0℃)15.00gを用いて希釈した後に(1)で調製したシリカバインダー溶液2.60gを加えて室温で10分間攪拌した。その後、50℃で1時間攪拌してシリカ粒子塗工液Aを調製した。動的光散乱法による粒度分布測定(商品名:ゼータサイザーナノZS、マルバーン社製)により、シリカ粒子塗工液A中に、平均粒径15nmのシリカ粒子が円相当径で平均95nmに連なった鎖状シリカ粒子が分散していることを確認した。
【0060】
(2-2)シリカ粒子塗工液Bの調製
溶媒としてIPA85.00gとジブチルエーテル(沸点:140.8℃)15.00gを用いること以外はシリカ粒子塗工液Aと同様にしてシリカ粒子塗工液Bを調製した。
【0061】
(2-3)シリカ粒子塗工液Cの調製
溶媒としてIPA85.00gとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:140.0℃)15.00gを用いること以外はシリカ粒子塗工液Aと同様にしてシリカ粒子塗工液Cを調製した。
【0062】
(2-4)シリカ粒子塗工液Dの調製
溶媒としてIPA70.00gと2-ヘプタノン(沸点:151.0℃)30.00gを用いること以外はシリカ粒子塗工液Aと同様にしてシリカ粒子塗工液Dを調製した。
【0063】
(2-5)シリカ粒子塗工液Eの調製
溶媒としてIPA70.00gとジグライム30.00gを用いること以外はシリカ粒子塗工液Aと同様にしてシリカ粒子塗工液Eを調製した。
【0064】
(2-6)シリカ粒子塗工液Fの調製
溶媒としてIPA100.00gを用いること以外はシリカ粒子塗工液Aと同様にしてシリカ粒子塗工液Fを調製した。
【0065】
(2-7)シリカ粒子塗工液Gの調製
溶媒としてIPA70.00gとテトラヒドロフラン(沸点:66.0℃)30.00gを用いること以外はシリカ粒子塗工液Aと同様にしてシリカ粒子塗工液Gを調製した。
【0066】
(2-8)シリカ粒子塗工液Hの調製
溶媒としてIPA105.00gとジグライム30.00gを用いること以外はシリカ粒子塗工液Aと同様にしてシリカ粒子塗工液Hを調製した。
【0067】
(実施例1)
直径(φ)50mm厚さ4mmの光透過率が約80%のポリカーボネート基材(nd=1.58、νd=30.2)に、シリカ粒子塗工液Aを適量滴下し、2000rpmで20秒スピンコートを行なった。その後熱風循環オーブン中で90℃15分間加熱し、多孔質層および混合層が形成された透明部材を作成した。シリカ粒子の平均フェレ径は15nmであった。
【0068】
図4は実施例1で作成した透明部材の断面観察画像である。観察画像の下から樹脂基材16、樹脂基材とシリカ粒子の混合層15、多孔質層14の3層が形成されていることがわかる。後述する混合層15の膜厚ばらつきの算出は、本断面観察画像を用いて行い、膜厚ばらつきは8%であった。
【0069】
(実施例2)
シリカ粒子塗工液Aの代わりにシリカ粒子塗工液Bを用いた以外は実施例1と同様にして、透明部材を作成した。
【0070】
(実施例3)
シリカ粒子塗工液Aの代わりにシリカ粒子塗工液Cを用いた以外は実施例1と同様にして、透明部材を作成した。
【0071】
(実施例4)
シリカ粒子塗工液Aの代わりにシリカ粒子塗工液Dを用いた以外は実施例1と同様にして、透明部材を作成した。
【0072】
(実施例5)
シリカ粒子塗工液Aの代わりにシリカ粒子塗工液Eを用いた以外は実施例1と同様にして、透明部材を作成した。
【0073】
(実施例6)
実施例1と同様にして作成した透明部材に対して、さらにシリカ粒子塗工液Fを用いてコート行った。コートは、シリカ粒子塗工液Fを適量滴下し、2000rpmで20秒スピンコートを行ない、熱風循環オーブン中で90℃15分間加熱する一連の工程を2度繰り返し、透明部材を作成した。
【0074】
(比較例1)
シリカ粒子塗工液Aの代わりにシリカ粒子塗工液Fを用いた以外は実施例1と同様にして、透明部材を作成した。
【0075】
(比較例2)
実施例1と同様にして作成した親水性被膜付き透明部材に対して、さらにシリカ粒子塗工液Fを用いてコート行った。コートは、シリカ粒子塗工液Fを適量滴下し、2000rpmで20秒スピンコートを行ない、熱風循環オーブン中で90℃15分間加熱する一連の工程を3度繰り返し、親水性被膜付き透明部材を作成した。
【0076】
(比較例3)
シリカ粒子塗工液Aの代わりにシリカ粒子塗工液Gを用いた以外は実施例1と同様にして、透明部材を作成した。
【0077】
(比較例4)
シリカ粒子塗工液Aの代わりにシリカ粒子塗工液Hを用いた以外は実施例1と同様にして、透明部材を作成した。
【0078】
(透明部材の評価方法)
次に、実施例および比較例で作成した透明部材の評価方法について説明する。
(1)多孔質層と混合層の膜厚の測定
分光エリプソメータ(商品名:VASE、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製)を用いて波長380nmから800nmの範囲で測定し多孔質層および混合層の膜厚を求めた。
【0079】
(2)多孔質層の空隙率の測定
分光エリプソメータ(商品名:VASE、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製)を用い、波長380nmから800nmまで測定し、解析から多孔質層の屈折率を求め、式1を用いて多孔質層の空隙率を算出した。
【0080】
(3)混合層の膜厚ばらつきの測定
集束イオンビーム装置(商品名:SMI3050、エスアイアイ・ナノテクノロジー製)により膜を切り出し、混合層の膜厚方向の断面が観察できるように薄片化した。混合層の膜厚方向の断面状態を走査型透過電子顕微鏡(商品名:S-5500日立ハイテクノロジー製)により、倍率100000倍の視野で明視野観察を行った。その後、観察した観察画像の画像処理を行った。画像処理方法としては、image Pro PLUS(メディアサイバネティクス社製)など市販の画像処理ソフトを用いた。所定の画像領域において、必要であれば適宜コントラスト調整を行い混合層の膜厚を算出し、1μmの長さの範囲における膜厚ばらつきを算出した。
【0081】
(4)接触角の測定
全自動接触角計(商品名:DM-701、共和界面科学株式会社製)を用い、23℃50%RHで純水2μlの液滴を接触した時の接触角を測定した。
【0082】
(5)ヘイズの測定
ヘイズメーター(商品名:NDH2000、日本電色工業株式会社製)を用いヘイズを測定した。
【0083】
(6)屋外暴露試験
透明部材をキセノンウェザーメーター(商品名:スーパーキセノンウェザーメーター SX75、スガ試験機株式会社製)に投入した。光照射強度を180W/mに設定し、光照射と放水を18分、光照射のみを1時間42分を1サイクルとして、合計300サイクルの計600時間試験し評価した。試験後の透明部材の接触角を(4)接触角の測定と同様にして測定した。この屋外暴露試験は、100時間が実際の屋外暴露1年に相当する。
【0084】
(7)評価
接触角が30°以下であれば、透明部材の表面に水滴ができるのを十分に抑制することができる。またヘイズが1以下であれば、撮影時に明瞭な画像が取得することができる。したがって、初期値および屋外暴露試験後の値が、いずれにおいても接触角が30°以下でヘイズが1以下であれば良と評価し、いずれかが接触角が30°より大きいあるいはヘイズが1より大きい場合は不良とした。
【0085】
(8)表面粗さの測定
SPM(商品名:L-trace&NanoNaviII、SIIナノテクノロジー社製)を用いて、2μm×2μmの範囲の表面形状を測定し、そこからRaを算出した。
実施例1~6および比較例1~4についての測定結果および評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示されるように、本実施例の構成により初期値および屋外暴露後のいずれにおいても、接触角が30°以下でヘイズが1以下であることが確認され、親水性とヘイズを維持できることを確認された。一方、混合層が設けられていないために本発明の範囲外である比較例1、多孔質層の厚さが本発明で規定する範囲よりも厚い比較例2および多孔質層の厚さが本発明で規定する範囲よりも薄い比較例4、並びに混合層の膜厚ばらつきが本発明で規定する範囲よりも大きい比較例3は、屋外暴露後の親水性を維持し、ヘイズの上昇を抑制することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明にかかる透明部材は、屋外カメラや監視カメラ用の平面カバーやドームカバーなどの撮像装置用途に限らず、窓ガラス、鏡、レンズ、透明フィルムなど一般的な用途から、撮像系や投影系の光学レンズ、光学ミラー、光学フィルター、アイピース、光学部品に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 透明部材
11 バインダー
12 シリカ粒子
13 空隙
14 多孔質層
15 混合層
16 樹脂基材
1 装置本体
2 装置本体
3 透明部材(保護カバー)
30 撮像装置
31 光学系(レンズ)
32 イメージセンサ
33 映像エンジン
34 圧縮出力回路
35 出力部
36 筐体
図1
図2
図3
図4