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特許7423303コンクリート構造物構築のための判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】コンクリート構造物構築のための判定方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240122BHJP
   E02D 29/045 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
E04G21/02 103B
E02D29/045 Z ESW
E04G21/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019234101
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102868
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】和田 健介
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-036123(JP,A)
【文献】特開2006-225906(JP,A)
【文献】特開昭61-270499(JP,A)
【文献】特開昭59-038458(JP,A)
【文献】特開平11-350722(JP,A)
【文献】米国特許第05851580(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/00 -21/10
E02D 29/00
E02D 29/045-37/00
E21D 11/00 -19/06
E21D 23/00 -23/26
B05B 1/00 - 3/18
B05B 7/00 - 9/08
B05B 12/00 -12/14
B05B 13/00 -13/06
B05D 1/00 - 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造装置を用いてコンクリート構造物を構築する際に、噴射部の各パラメータの条件を判定する判定方法であって、
前記噴射部から噴射するコンクリート材料の噴射条件を設定する制御部を有し、
前記制御部は、
前記コンクリート構造物のコンクリート材料を吹付け可能に構成された前記噴射部から噴射され前記コンクリート材料の進路と吹付け面との交点の位置を算出する演算部と
前記交点に関する情報に基づいて、前記コンクリート材料の吹付けに関する条件について判定する判定部とを備え、
前記演算部において前記交点の位置を算出する際に、
交点形成パラメータとして、前記噴射部の初期位置と、時刻と、所定の方向における前記噴射部の移動間隔と、前記噴射部から噴射される前記コンクリート材料の拡散方向における中心線の向きと、前記噴射部から噴射される前記コンクリート材料の拡散角度と、が設定され、
前記判定部において、
前記吹付け面に堆積する前記コンクリート材料の厚みが所定の範囲内であるか否かについて判定し、
前記吹付け面に堆積する前記コンクリート材料の厚みが所定の範囲外であると判定した場合は、前記吹付け面に堆積する前記コンクリート材料の厚みが所定の範囲内であると判定されるまで前記交点形成パラメータのうち少なくとも1つを変更する、
コンクリート構造物構築のための判定方法。
【請求項2】
前記コンクリート材料は前記噴射部の所定の中心位置から放射状に噴射され、
前記進路は前記所定の中心位置から互いに所定の角度をなす複数の直線進路を含む、
請求項1に記載のコンクリート構造物構築のための判定方法。
【請求項3】
前記コンクリート構造物は、
コンクリート本体と、
前記コンクリート本体に埋設され補強部材及び定着部材の少なくとも何れか一方と、
を備え、
前記吹付け面は、前記補強部材及び定着部材の少なくとも何れか一方の外表面を含む、
請求項1または2に記載のコンクリート構造物構築のための判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物構築のための判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トンネルの外壁やボックスカルバート等のように頂版を有するコンクリート構造物を構築する際には、頂版の概形に合わせて形成された補強材や型枠にコンクリート材料を吹き付ける場合がある。近年では、付加製造装置を用いてコンクリート材料を吹き付ける方法が提案されている。例えば、特許文献1には、所定の方向に間隔をあけて複数の補強材を配置し、複数の補強材に渡って格子状の繋ぎ材を結束し、繋ぎ材に対して少なくとも下方からコンクリート材料を吹き付けて躯体を構築する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-193794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吹付け方式でコンクリート構造物を形成する場合、コンクリート材料を噴射する噴射ノズル(噴射部)の位置、噴射方向及び移動経路等によって、補強材等の吹付け部材の外表面(吹付け面)に吹き付けられるコンクリート材料の量が変わる。特に、複数の吹付け部材が互いに離れて配置されている場合、噴射ノズルの位置、噴射方向及び移動経路等によっては吹付け面においてコンクリート材料が吹き付けられない部分(例えば、複数の吹付け部材同士で向き合う外表面)や、設計段階で予定されていた所定の厚みよりもコンクリート材料の厚みが不足する部分が生じる可能性がある。コンクリート材料が吹き付けられる厚みが不足すると、噴射ノズルの位置を変えて別の位置から何度もコンクリート材料を吹き付ける必要が生じ、施工作業が複雑になる。そのため、コンクリート材料が吹き付けられない部分の有無や、コンクリート材料の厚みの不足等の状況を設計段階で判定可能とする方法が求められていた。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされ、コンクリート構造物の設計段階で、コンクリート材料の吹付けに関する条件について判定可能とするコンクリート構造物構築のための判定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコンクリート構造物構築の判定方法は、付加製造装置を用いてコンクリート構造物を構築する際に、噴射部の各パラメータの条件を判定する判定方法であって、前記噴射部から噴射するコンクリート材料の噴射条件を設定する制御部を有し、前記制御部は、前記コンクリート構造物のコンクリート材料を吹付け可能に構成された前記噴射部から噴射され前記コンクリート材料の進路と吹付け面との交点の位置を算出する演算部と、前記交点に関する情報に基づいて、前記コンクリート材料の吹付けに関する条件について判定する判定部とを備え、前記演算部において前記交点の位置を算出する際に、交点形成パラメータとして、前記噴射部の初期位置と、時刻と、所定の方向における前記噴射部の移動間隔と、前記噴射部から噴射される前記コンクリート材料の拡散方向における中心線の向きと、前記噴射部から噴射される前記コンクリート材料の拡散角度と、が設定され、前記判定部において、前記吹付け面に堆積する前記コンクリート材料の厚みが所定の範囲内であるか否かについて判定し、前記吹付け面に堆積する前記コンクリート材料の厚みが所定の範囲外であると判定した場合は、前記吹付け面に堆積する前記コンクリート材料の厚みが所定の範囲内であると判定されるまで前記交点形成パラメータのうち少なくとも1つを変更する
【0007】
上述のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、実際にコンクリート材料の吹付けを行なくても、コンクリート材料の進路と吹付け面との交点が形成される位置を数値計算等によって算出し、交点に関する情報に基づいて、コンクリート材料の吹付けの可否等の種々の条件を判定できる。
また、噴射部が付加製造措置の噴射ノズルであり、付加製造装置に設けられている場合、床や天井、頂版等の水平な吹付け面のみならず、鉛直方向の壁面や水平面に交差する傾斜面をなす吹付け面についてコンクリート材料の進路との交点が形成される位置を算出できる。即ち、任意の方向及び形状の吹付け面を対象としてコンクリート材料の吹付けの可否等の種々の条件について判定できる。
さらに、始めに設定した交点形成パラメータに従って仮想的にコンクリート材料を噴射部から噴射した場合の吹付け面におけるコンクリート材料の厚みや吹付け具合が所定の範囲内又は条件を満たすかを判定できる。また、吹付け面におけるコンクリート材料の厚みや吹付け具合が所定の範囲内であるか否か、又は所定の条件を満たすか否かの初めの判定結果を受けて、コンクリート材料の厚みや吹付け具合が所定の範囲内となるように、或いは条件を満たすように、コンクリート構造物の設計段階で、交点形成パラメータを修正し、吹付け面に所望の条件でコンクリート材料を吹き付け可能な噴射部の向きや移動経路を割り出すことができる。
【0008】
本発明に係るコンクリート構造物構築の判定方法では、前記コンクリート材料は前記噴射部の所定の中心位置から放射状に噴射され、前記進路は前記所定の中心位置から互いに所定の角度をなす複数の直線進路を含んでもよい。
【0009】
上述のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、例えば複数の直線進路と吹付け面との交点の重なり度合い等の複合的な情報を取得できる。
【0012】
本発明に係るコンクリート構造物構築の判定方法では、前記コンクリート構造物は、コンクリート本体と、前記コンクリート本体に埋設され補強部材及び定着部材の少なくとも何れか一方と、を備え、前記吹付け面は、前記補強部材及び定着部材の少なくとも何れか一方の外表面を含んでもよい。
【0013】
上述のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、補強部材や定着部材の外表面を吹付け面としてコンクリート材料の進路との交点が形成される位置を算出し、補強部材や定着部材の外表面にコンクリート材料が吹き付けられない部分の有無等を含む種々の条件について判定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コンクリート構造物の設計段階で、コンクリート材料の吹付けに関する条件について判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態のコンクリート構造物の側面図である。
図2図1に示すコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図である。
図3図1に示すコンクリート構造物構築の判定方法を説明するための上面図である。
図4図1に示すコンクリート構造物構築の判定方法を説明するための別の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るコンクリート構造物構築の判定方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
[コンクリート構造物の構成の一例]
図1及び図2に示すように、コンクリート構造物15は、コンクリート本体21と、補強部材30と、定着部材40と、を備える。コンクリート構造物15は、不図示の土木構造物、建築物等に用いられる柱状体であり、例えば地面や基礎の表面等の施工面9に対して略垂直なD1方向に沿って延びている。コンクリート構造物15は、略角柱状に形成されている。
【0024】
コンクリート本体21は、付加製造装置の噴射ノズル(噴射部)602(図3及び図4参照)から噴射されたコンクリート材料700が吹付け面等に吹き付けられて堆積した後に硬化したものである。コンクリート材料700の材料には、例えば水硬性混合物が用いられる。コンクリート材料700は、例えばセメントペースト、モルタル、コンクリート等の種々のセメント系材料と、ジオポリマー組成物等を含んでいるが、噴射ノズル602から噴射可能であれば特に限定されない。
【0025】
補強部材30は、コンクリート本体21の内部に埋まっており、コンクリート本体21の芯材の役割を担っている。補強部材30は、例えば複数の鉄筋で形成され、複数の主筋33と、複数の帯筋34と、を備える。複数の主筋33の各々の下部は、施工面9を有する基礎8に埋まっている。複数の主筋33の各々の上部は、D1方向に沿って施工面9よりも上方に延びている。
【0026】
D1方向に沿って平面視すると、図2に示すように、複数の主筋33は、互いに所定の間隔をあけて、コンクリート構造物15の輪郭よりも内側に、且つコンクリート構造物15の輪郭に沿って配置されている。以下、D1方向に沿って見る場合を単に「平面視」と記載し、D1方向に直交する例えばD2方向やD3方向から見る場合等を単に「側面視」と記載する場合がある。
【0027】
複数の帯筋34の各々は、D1方向の互いに異なる位置で、複数の主筋33に接し、且平面視で複数の主筋33を囲んで束ねるように配置されている。複数の帯筋34は、D1方向において互いに所定の間隔をあけて配置されている。
【0028】
定着部材40は、少なくとも補強部材30とは異なる位置に配置され、例えば平面視で複数の主筋33及び帯筋34で囲まれた領域内に配置されている。定着部材40は、D2方向に沿って一直線上に延びており、さらにD1方向に沿って施工面9よりも上方に延びている。定着部材40が自立して施工面9に立つのが困難である場合は、不図示の拘束部材等で主筋33又は帯筋34に支持されていてもよい。定着部材40は、例えば板状に形成された木製型枠である。
【0029】
[コンクリート構造物構築の判定方法]
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、上述のコンクリート構造物15を実際に施工する前であっても、コンクリート材料700を吹付け可能に構成された噴射ノズル602から仮想的に噴射されたコンクリート材料700が吹付け面160(図4参照)に吹き付けられる様子をシミュレートできる。
【0030】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法において、噴射ノズル602は、コンクリート構造物15のコンクリート材料700を吹付け可能に構成され、不図示の付加製造装置に設けられている。噴射ノズル602は、軸部606と、軸部606の先端に設けられた噴射部607と、を有する。軸部606の軸線方向に沿うD4方向において、噴射部607に対して軸部606に接続されている側とは反対側に、噴射面604が設けられている。図示していないが、軸線方向D4に沿って正面視すると、噴射面604には、互いに略等間隔に離れた複数の噴射孔(図示略)が形成されている。
【0031】
コンクリート材料700は、噴射ノズル602の噴射源点(所定の中心位置)610を中心として、放射状に拡がり、噴射面604から噴射される。噴射源点610を中心とする周方向(以下、単に「周方向」という場合がある)において、コンクリート材料700が拡散される角度を拡散角度θ1とする。実際にコンクリート構造物15の施工時において噴射ノズル602からコンクリート材料700が噴射される場合は、コンクリート材料700が前述の噴射孔の各々から進行方向に対して所定の幅寸法を有する。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、コンクリート材料700の進路630を、噴射源点610から線で表す。進路630は、進行方向に対して所定の幅を有して噴射孔の各々から噴射されるコンクリート材料700の中心線(即ち、軸線)を意味する。
【0032】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、コンクリート材料700が拡散角度θ1で拡散されること、及び、噴射面604に複数の噴射孔が形成されていることをふまえ、D4方向に沿う進路630-Cと、その進路630-Cに対して周方向で個別の角度をなす複数の進路630-Dと、を扱う。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、噴射孔から噴射されたコンクリート材料700は、最初の吹付け面160や何らかの障害物等に当たるまで直進し、重力等の外力の影響は受けないものと想定する。即ち、進路630-C、630-Dは、直線経路である。以下では、複数の進路630-C、630-Dについて共通する内容について説明するとき、進路630-C、630-Dをまとめて、直線進路630と記載する。
【0033】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、複数の進路630-Dのうち、周方向において進路630-Cから最も離れている進路630-Dを、1番目の直線進路640-1とし、周方向で隣り合う進路630を周方向に沿って順番に直線進路640-2、・・・、640-Mとする。Mは、2以上の任意の自然数である。直線進路640-(m-1)と直線進路640-mとが周方向でなす角度は、一定で、θ2とする。mは、2からMまでの何れかの自然数である。
【0034】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、噴射ノズル602から噴射されたコンクリート材料700の直線進路630-1、・・・、630-Mの各々と吹付け面160との交点が形成される位置を算出し、交点に関する情報に基づいて、コンクリート材料700の吹付けに関する条件について判定する。この後、交点の位置を算出する手順、及びコンクリート材料Aの吹付けに関する種々の条件について説明する。以下では、複数の直線進路640-1、・・・、640-Mについて共通する内容について説明するとき、又は複数の直線進路640-1、・・・、640-Mについてまとめて説明するときには、これらの直線進路640-1、・・・、640-Mをまとめて、直線進路640と記載する。
【0035】
例えば、図4に示すように、定着部材40の外表面46及び補強部材30の外表面36を吹付け面160とする。吹付け作動前の噴射ノズル602の軸部606の軸線は、D3方向又はD4方向に平行な状態で、D2方向において初期位置P1にあるものとする。噴射源点610は、D2方向において初期位置P1にあると共に、定着部材40の外表面46からD3方向に距離L2離れた位置にある。初期位置P1において、角度θ2に基づき直線進路640-1~Mの位置を求める。
【0036】
噴射ノズル602が初期位置P1にあるときの直線進路640-mを1つの関数(*1)として表すと、y=-tanγ・xと表される。yは、D2方向において噴射ノズル602の噴射源点610と重なる位置を0としたときに、噴射源点610からD2方向に進んだ距離を表し、D2方向を正の方向とする。xは、D4方向において噴射源点610と重なる位置を0としたときに、噴射源点610からD4方向に進んだ距離を表す。γは、直線進路640-mが周方向において直線経路640-{(M-1)/2+1}、即ちD4方向に対してなす角度である。例えば、関数(*1)を用いると、直線進路640-1は、y=-tan{θ2×[(M-1)/2]}・xと表される。
【0037】
ここで、噴射ノズル602が初期位置P1にあるときの直線進路640-1、・・・、640-Mと定着部材40の外表面46又は補強部材30の外表面36との交点を交点660-1<P1>、・・・、660-M<P1>と表す。
【0038】
ここで、D4方向における噴射源点610と定着部材40の外表面46との距離を、L2とする。関数(*1)において、x=L2とすると、y1<P1>=±tan{θ2×[(M-1)/2]}・L2と表される。関数中の符号は、番号mに応じて適宜決められる。y1<P1>は、D2方向において交点660-1<P1>と交点660-{(M-1)/2+1}<P1>との距離である。関数(*1)を用いることによって、初期位置P1における直線経路640-1、・・・、640-Mを定量的に求める、或いはシミュレーションとグラフィックソフトとの組み合わせ等で直線経路640-1、・・・、640-Mを画像化することができる。また、関数(*1)を用いることによって、噴射源点610及び交点660-{(M-1)/2+1}<P1>を基準としたときの交点660-1<P1>、・・・、660-M<P1>が形成される位置を求めることができる。
【0039】
次に、噴射ノズル602は、初期位置P1からD2方向に距離G離れた位置P2に移動し、コンクリート材料700を仮想的にD4方向に噴射する。即ち、D2方向において、初期位置P1と位置P2との距離は、Gである。噴射ノズル602が位置P2にあるときの直線進路640-mを1つの関数(*2)として表すと、y=-tanγ・x+Gと表される。関数(*1)と同様に、関数(*2)を用いることによって、噴射源点610及び交点660-{(M-1)/2+1}<P1>を基準としたときの交点660-1<P2>、・・・、660-M<P2>が形成される位置を求めることができる。
【0040】
続いて、噴射ノズル602は、位置P2からD2方向に距離G離れた位置P3に移動し、コンクリート材料700をD4方向に向かって仮想的に噴射する。その後、位置P3からD2方向にさらに距離G離れた位置P4に移動し、コンクリート材料700をD4方向に向かって仮想的に噴射する。噴射ノズル602が位置P3にあるときの直線進路640-mを1つの関数(*3)として表すと、y=-tanγ・x+2Gと表される。噴射ノズル602が位置P4にあるときの直線進路640-mを1つの関数(*4)として表すと、y=-tanγ・x+3Gと表される。
【0041】
上述の関数(*1)~(*4)を用いると、初期位置P1及び移動した位置P2、P3、P4の各々の位置に噴射ノズル602があるときの交点660-1<P1>から交点660-M<P1>、交点660-1<P2>、・・・、交点660-M<P4>の相対位置を算出できる。以下、交点660-1<P1>、・・・、660-M<P4>についてまとめて説明するときには、これらの交点をまとめて、交点660と記載する。
【0042】
図4に例示した噴射ノズル602、補強部材30の主筋33、定着部材40の相対位置関係では、噴射ノズル602が位置P3にあるときの直線進路640-2~640-8は、定着部材40の外表面46に向かう前に補強部材30の外表面36と交差する。そのため、直線進路640-3~640-7は、定着部材40の外表面46とは交差しない。補強部材30の外表面36には、交点660-3<P3>、・・・、660-8<P3>が形成される。つまり、噴射ノズル602から噴射されたコンクリート材料700の直線進路(進路)640と吹付け面160との交点660の位置を算出できる。
【0043】
次いで、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、上述のように算出した交点660に関する情報に基づいて、コンクリート材料700が吹付け面160に吹き付けられるときの種々の条件等について判定する。
【0044】
例えば、交点660に関する情報として、吹付け面160で交点660が1つも形成されない領域が存在するか否かを確認する。図4に示すように、補強部材30の外表面36のうち、交点660-3<P3>、・・・、660-8<P3>が形成されている領域37以外の領域38には、交点660が1つも形成されない。つまり、外表面36の領域38には、コンクリート材料700が吹き付けられない。判定の条件を、吹付け面160上にコンクリート材料700が吹き付けられない部分の有無とすると、図4に例示した噴射ノズル602、補強部材30の主筋33、定着部材40の相対位置関係と、噴射ノズル602の噴射時及び移動時の各条件では、外表面36(即ち、吹付け面160)の領域38が生じることで、コンクリート材料700が吹き付けられない部分があると判定可能になる。
【0045】
別の例としては、交点660に関する情報を、吹付け面160における交点660の密度に基づくコンクリート材料700の堆積分布とし、コンクリート材料700の堆積分布を求める。図4に示すように、定着部材40の外表面46では、交点660-1<P1>~660-5<P1>は、単独で形成されている。また、定着部材40の外表面46では、交点660-6<P1>と交点660-1<P2>とが互いに略重なり、交点660-7<P1>と交点660-2<P2>とが互いに略重なっている。また、定着部材40の外表面46では、交点660-11<P1>、交点660-6<P2>及び交点660-1<P3>が互いに略重なっている。つまり、定着部材40の外表面46では、D2方向において交点660の重なり数(密度)が、角度θ2や距離Gに応じて、相対値にして最小1から最大3まで規則性なく変化する。交点660は、外表面36上や外表面46上で離散的に形成される。しかしながら、吹付けられたコンクリート材料700が外表面36や外表面46に当たって各外表面に沿った方向に拡がること等も考慮すると、各外表面で離散的に形成された交点の重なり数をマッピングし、交点660が形成される離散的位置同士を重なり数に応じて連続的につなぎ合わせるように近似曲線を形成することができる。この近似曲線によって、外表面36や外表面46を含む吹付け面160におけるコンクリート材料700の堆積分布を推測できると考えられる。
【0046】
判定の条件を、吹付け面160に吹き付けられるコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内であるか否かということに設定する。図4に例示したように、外表面46では、交点660-M<P1>、交点660-12<P2>及び交点660-2<P4>が互いに略重なっているので、所定の範囲が3回分のコンクリート材料700の噴射に相当する厚みを中心として誤差範囲を許容する範囲に設定されていれば、この位置ではコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内であると推測できる。しかしながら、交点660-M<P1>、交点660-12<P2>及び交点660-2<P4>が互いに略重なっている位置からD2方向に進んで隣り合う位置では、噴射ノズル602が位置P2、P3にあるときの直線進路640が補強部材30の主筋33に当たるため、交点660-3<P4>が単独で形成されている。交点660-3<P4>が単独で形成されている位置では、吹付けられるコンクリート材料700の厚みが1回分のコンクリート材料700の噴射に相当する厚みに近くなり、前述の所定の範囲内ではないと推測できる。つまり、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、吹付け面160において交点660の重なり数や重なりの度合いが算出される。そこで、所定の範囲のコンクリート材料700の厚みが何回分のコンクリート材料700の噴射に相当する厚みであるのかということと、交点660の重なり数や重なりの度合いとの関係から、吹付け面160に吹き付けられるコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内であるか否かを容易に判定できる。
【0047】
また、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、交点660が形成される位置は、噴射ノズル602の初期位置P1と、D2方向(所定の方向)における噴射ノズル602が移動する間隔(移動間隔)Gと、噴射ノズル602から噴射されるコンクリート材料700の拡散方向における中心線の向きがD4方向であって補強部材30の外表面36と交差すると共に定着部材40の外表面46に略直交することと、前記噴射部から噴射される前記コンクリートの拡散角度θ1及び角度θ2に基づいて算出できる。噴射ノズル602が初期位置P1にあって作動開始したタイミングを時刻t=tとして、1回分(即ち、一定時間中)のコンクリート材料700の噴射後、時刻t=tで噴射ノズル602が位置P2に移動する。同様に、噴射ノズル602は、1回分のコンクリート材料700の噴射を行う度に、時刻t=t、t=tのそれぞれでD2方向に沿って位置P3、P4に移動する。
【0048】
上述をふまえ、D2方向における初期位置P1、時刻t、間隔G、噴射ノズル602の軸部606の向き、即ち噴射ノズル602から噴射されるコンクリート材料700の拡散方向における中心線の向き、拡散角度θ1及び角度θ2を交点形成パラメータとすることができる。また、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法における判定の条件を、前述の例と同様に、吹付け面160に吹き付けられるコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内であるか否かということに設定する。その場合、前述のように例えば、交点660-3<P4>が単独で形成されている位置では、吹付けられるコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内ではなく、所定の範囲外であると判定される。その場合、噴射ノズル602が位置P4で1回分のコンクリート材料700の噴射を行った後に、時刻t=tにて、噴射源点610を中心として噴射部607がD2方向において位置P3に近づくように噴射ノズル602全体を回転させ、1回分もしくは2回分のコンクリート材料700の噴射を行い、交点660が形成される位置を算出し、算出した結果を位置P1~P4について得られている交点660に関する結果に追加してもよい。その後、吹付け面160に吹き付けられるコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内であるか否かということを再度判定する。吹付け面160に吹き付けられるコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内であると判定されるまで交点形成パラメータのうち少なくとも1つを変更できる。
【0049】
以上説明した本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、コンクリート構造物15のコンクリート材料700を吹付け可能に構成された噴射ノズル602から噴射されたコンクリート材料700の進路630と吹付け面160との交点660の位置を算出し、交点660に関する情報に基づいて、コンクリート材料700の吹付けに関する条件について判定する。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、実際にコンクリート材料700の吹付けを行なくても、交点660が形成される位置を数値計算等によって算出し、吹付け面160における交点660の形成数や重なり度合い等の交点660に関する情報に基づいて、コンクリート材料700の吹付けの可否等の種々の条件を判定できる。即ち、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、コンクリート構造物15の設計段階で、コンクリート材料700の吹付けに関する条件について判定できる。なお、コンクリート構造物15の設計段階での判定結果を受けてコンクリート材料700を実際に吹付け面160に吹き付けた後の評価結果を、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法における交点660の算出手順に反映させ、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定の精度を高めることもできる。
【0050】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、コンクリート材料700は噴射ノズル602の噴射源点610から放射状に噴射され、進路630は噴射源点610から互いに角度θ2をなす複数の直線進路640を含む。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、例えば噴射ノズル602がD2方向に沿って所定のタイミングで移動することを想定し、複数の直線進路640と吹付け面160との交点660の重なり度合い等の複合的な情報を取得できる。
【0051】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、噴射ノズル602は付加製造装置に設けられている。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、噴射ノズル602が付加製造装置に設けられている場合、水平な吹付け面のみならず、補強部材30や定着部材40のように略鉛直方向の壁面を構成する吹付け面160についてコンクリート材料700の進路630との交点660が形成される位置を算出できる。即ち、噴射ノズル602の軸部606の軸線方向を変えればコンクリート材料700の吹付けが可能な任意の方向及び形状の吹付け面を対象としてコンクリート材料700の吹付けの可否等の種々の条件について判定できる。
【0052】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、コンクリート構造物15は、コンクリート本体21と、コンクリート本体21に埋設された補強部材30及び定着部材40を備える。吹付け面160は、補強部材30の外表面36及び定着部材40の外表面46を含む。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、補強部材30の外表面36及び定着部材40の外表面46の各々とコンクリート材料700の進路630との交点660が形成される位置を算出し、補強部材30の外表面36及び定着部材40の外表面46にコンクリート材料700が吹き付けられない部分の有無等を含む種々の条件について判定できる。
【0053】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、例えば、交点660に関する情報として、吹付け面160で交点660が1つも形成されない領域が存在するか否かを確認し、判定の条件として、吹付け面160上にコンクリート材料700が吹き付けられない部分の有無について判定する。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、コンクリート構造物15の設計段階で吹付け面にコンクリート材料が吹き付けられない部分の有無を容易に確認できる。
【0054】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、例えば、交点660に関する情報として、吹付け面160における交点660の重なり数、重なり度合いに基づいてコンクリート材料700の堆積分布を求める。判定の条件として、吹付け面160に吹き付けられるコンクリート材料700の厚みが所定の範囲内であるか否かについて判定する。
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、コンクリート構造物15の設計段階で吹付け面160に吹き付けられるコンクリート材料の厚みが所定の範囲内であるか否かを容易に予測できる。
【0055】
本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、例えば、交点660の位置を算出する際に、交点形成パラメータとして、初期位置P1と、時刻tと、間隔Gと、噴射ノズル602から噴射されるコンクリート材料700の拡散方向における中心線の向きと、拡散角度θ1及び角度θ2と、を設定する。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法では、吹付け面160に堆積するコンクリート材料700の厚みが所定の範囲外であると判定した場合は、吹付け面160に堆積するコンクリート材料700の厚みが吹付け回数等によって決まる所定の範囲内であると判定されるまで交点形成パラメータのうち少なくとも1つを変更する。本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、始めに設定した交点形成パラメータに従って仮想的にコンクリート材料700を噴射ノズル602から噴射した場合の吹付け面160におけるコンクリート材料の厚みや堆積分布に関する判定結果を受けて、コンクリート材料700の厚みが所定の範囲内になり、コンクリート材料700の堆積分布が所定の条件を満たすように、コンクリート構造物15の設計段階で、交点形成パラメータを修正できる。また、本実施形態のコンクリート構造物構築の判定方法によれば、吹付け面160に所望の条件でコンクリート材料700を吹き付け可能な噴射ノズル602の向きや移動経路を求めることができる。
【0056】
以上、本発明に係る実施形態について詳述したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、本発明の種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、本発明に係るコンクリート構造物構築の判定方法では、判定の条件として上述の実施形態で説明した条件以外にも設定できる。
【0058】
上述のコンクリート構造物構築の判定方法では、噴射ノズル602から噴射されたコンクリート材料700の進路630は複数の直線進路640を含むが、進路630は任意の法則に沿って進行する非直線状であってもよく、曲線状であってもよい。非直線状の進路や曲線状の進路についても、前述の法則性に従ってシミュレーションし、これらの進路と吹付け面160との交点660を求めることができ、コンクリート構造物15の設計段階で、コンクリート材料700の吹付けに関する条件について判定できる。
【0059】
上述のコンクリート構造物構築の判定方法では、コンクリート構造物15は補強部材30及び定着部材40を備えるが、構築対象のコンクリート構造物は補強部材及び定着部材の少なくとも一方のみを備えてもよく、補強部材及び定着部材以外にコンクリート本体に埋まる部材を備えてもよい。本発明によれば、コンクリート材料の進路と任意の吹付け面との交点が形成される位置を算出できる。
【0060】
上述のコンクリート構造物構築の判定方法では、交点形成パラメータとして、初期位置P1、時刻t、間隔G、噴射ノズル602から噴射されるコンクリート材料700の拡散方向における中心線の向き、拡散角度θ1及び角度θ2を挙げたが、これら以外のパラメータを設定してもよい。言い換えると、本発明に係るコンクリート構造物構築の判定方法によれば、コンクリート材料700の吹付けに関するパラメータを交点形成パラメータとして自由に設定し、交点形成パラメータと交点が形成される位置及び判定する条件との関係を調べることができる。
【符号の説明】
【0061】
15 コンクリート構造物
30 補強部材
40 定着部材
160 吹付け面
602 噴射ノズル(噴射部)
630 進路
640 直線進路
700 コンクリート材料
G 間隔(移動間隔)
P1 初期位置(位置)
P2、P3、P4 位置
図1
図2
図3
図4