IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7423311電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
<>
  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置 図1
  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/14 20060101AFI20240122BHJP
   G03G 5/04 20060101ALI20240122BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G03G5/14 101E
G03G5/14 101F
G03G5/14 101D
G03G5/04
G03G5/06 314A
G03G5/06 319
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019239736
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107888
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽太
(72)【発明者】
【氏名】榊原 彰
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-230746(JP,A)
【文献】特開2007-286484(JP,A)
【文献】特開2011-158650(JP,A)
【文献】特開2016-186589(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199283(WO,A1)
【文献】特開2002-287396(JP,A)
【文献】特開2019-139225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/04-5/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、下引き層および感光層をこの順に有する電子写真感光体であって、
該下引き層が、ポリアミド樹脂と、有機珪素化合物で表面処理された球状の酸化チタン粒子とを含有し、
該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子は無機物で表面処理されておらず、
該有機珪素化合物が、ビニルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシランまたはイソブチルトリメトキシシランであり、
該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の平均一次粒径をb[μm]、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子におけるTiO2に対する該有機珪素化合物由来のSi元素の質量比をc[質量%]としたとき、bおよびcは下記式(B)で示される関係を満たし、
0.025≦b×c≦0.050 (B)
該感光層は、電荷発生物質、正孔輸送物質および電子輸送物質を含有する単層型の感光層であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記有機珪素化合物が、ビニルトリメトキシシランである請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記電子輸送物質が、下記式(S7)で示される化合物である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【化1】
(式(S7)中、R31~R38は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシカルボニル基を示す、あるいは、R31とR32、R33とR34、R35とR36、R37とR38は、それぞれ互いに結合し、アルキル基で置換されていてもよい芳香環を形成してもよい。)
【請求項4】
前記式(S7)中、R 31 ~R 38 は、それぞれ水素原子またはアルキル基、あるいは、R 31 とR 32 、R 33 とR 34 、R 35 とR 36 、R 37 とR 38 は、それぞれ互いに結合し、アルキル基で置換されていてもよい芳香環を形成してもよい、請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の疎水化度が、35%以上85%以下である請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記下引き層の膜厚が、1.0μm以上3.0μm以下である請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記酸化チタン粒子の結晶系がルチル型である請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
前記電子輸送物質が、下記式(S5)で示される化合物および下記式(S6)で示される化合物を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化2】
【化3】
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび該電子写真感光体を有する電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロセスカートリッジや電子写真装置に搭載される電子写真感光体として、有機光導電性物質(電荷発生物質)を含有する電子写真感光体が用いられている。電子写真感光体は、一般的に、支持体および該支持体上に形成された感光層を有しており、感光層は、単層からなる単層型感光層と、電荷発生層および該電荷発生層上に形成された電荷輸送層からなる積層型感光層に大別される。単層型感光層を有する電子写真感光体は、積層型感光層を有する電子写真感光体と比べて層構造が単純であることから製造コストが安く、また感光層の表面近傍で電荷が発生することから高解像度化に優れるといった特徴を持つ。
【0003】
さらに、支持体と感光層との間の接着力を高め、また、支持体から感光層側への電荷の注入を抑制し、局所的な帯電性能の低下によるカブリ、リークの発生を抑制することを目的として、支持体と感光層との間には下引き層が設けられることが多い。特に近年は、長寿命な電子写真感光体が望まれるようになっており、長期間の繰り返し使用においても、電荷の蓄積の抑制と、カブリ、リークの抑制の両立を高水準で達成した下引き層を有する電子写真感光体が求められている。
【0004】
支持体から感光層側への電荷の注入を抑制し、局所的な帯電性能の低下によるカブリ、リークの発生を抑制する下引き層としては、ポリアミド樹脂中に酸化チタン粒子を分散させた下引き層が用いられている。
【0005】
単層型感光層を有する電子写真感光体の場合、積層型感光層を有する電子写真感光体と比べて感光層中における電荷発生物質の含有量が多く、一つの層中に正孔輸送物質と電子輸送物質とが含まれている。そのため、局所的な帯電性能の低下によるカブリ、リークが発生しやすい。特に、局所的な帯電性能の低下によるカブリ、リークは、高温高湿環境下において発生しやすい。そこで、下引き層が含有する酸化チタン粒子に表面処理を行うことで酸化チタンの抵抗を制御し、これにより下引き層の抵抗を制御することで、局所的な帯電性能の低下によるカブリ、リークを抑制する技術が用いられている。
【0006】
しかし、高温高湿環境下で発生するカブリ、リークを抑制するために下引き層を設けた場合、単層型感光層を有する電子写真感光体では、低温低湿環境下において感度が低下するという問題があった。
【0007】
特許文献1には、単層型感光層を有する電子写真感光体において、下引き層が含有する酸化チタン粒子に対して、その表面に無機処理または有機処理を施すことが記載されている。特に、有機処理については、有機珪素化合物の割合を調整して用いる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-230746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが検討を行った結果、特許文献1に開示されている単層型感光層を有する電子写真感光体では、低温低湿環境下での使用において、長期間の繰り返し使用における電位変動の抑制が十分でない場合があることがわかった。
【0010】
したがって本発明の目的は、長期間の繰り返し使用において、高温高湿環境下でのカブリの抑制と、低温低湿環境下での電位変動の抑制とを両立した電子写真感光体を提供することにある。また本発明の別の目的は、上記の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび上記の電子写真感光体を有する電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る電子写真感光体は、支持体、下引き層および感光層をこの順に有する電子写真感光体であって、該下引き層が、ポリアミド樹脂と、有機珪素化合物で表面処理された球状の酸化チタン粒子とを含有し、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子は無機物で表面処理されておらず、該有機珪素化合物が、ビニルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシランまたはイソブチルトリメトキシシランであり、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の平均一次粒径をb[μm]、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子におけるTiOに対する該有機珪素化合物由来のSi元素の質量比をc[質量%]としたとき、bおよびcは下記式(B)で示される関係を満たし、
0.025≦b×c≦0.050 (B)
該感光層は、電荷発生物質、正孔輸送物質および電子輸送物質を含有する単層型の感光層であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の別の態様に係るプロセスカートリッジは、上記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のさらに別の態様に係る電子写真装置は、上記電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
長期間の繰り返し使用において、高温高湿環境下でのカブリの抑制と、低温低湿環境下での電位変動の抑制とを両立した電子写真感光体が提供される。また、上記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび上記電子写真感光体を有する電子写真装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
図2】電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る電子写真感光体は、支持体、下引き層および感光層をこの順に有する電子写真感光体であって、該下引き層が、ポリアミド樹脂と、有機珪素化合物で表面処理された球状の酸化チタン粒子とを含有し、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子は無機物で表面処理されておらず、該有機珪素化合物が、ビニルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシランまたはイソブチルトリメトキシシランであり、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の平均一次粒径をb[μm]、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子におけるTiOに対する該有機珪素化合物由来のSi元素の質量比をc[質量%]としたとき、bおよびcは下記式(B)で示される関係を満たし、
0.025≦b×c≦0.050 (B)
該感光層は、電荷発生物質、正孔輸送物質および電子輸送物質を含有する単層型の感光層であることを特徴とする。
【0017】
係る電子写真感光体が、長期間の繰り返し使用において、高温高湿環境下でのカブリの抑制と、低温低湿環境下での電位変動の抑制とを両立できる理由について、本発明者らは、以下のように推測している。
【0018】
従来、ポリアミド樹脂中に酸化チタン粒子を分散させた下引き層が用いられてきた。酸化チタン粒子は、その表面に無機処理や有機処理を行うことで、酸化チタン粒子表面に存在する水酸基を減らし、疎水性を付与することができる。これらの表面処理によって、ポリアミド樹脂中での酸化チタン粒子の分散性を高め、また酸化チタン粒子表面の状態を適宜調整することで、所望の下引き層を得る検討がなされている。
【0019】
先に述べたように、単層型感光層を有する電子写真感光体の場合、積層型感光層を有する電子写真感光体と比べて局所的な帯電性能の低下によるカブリ、リークが発生しやすい。そこで、従来、酸化チタン粒子に表面処理を行うことで局所的な帯電性能の低下によるカブリ、リークを抑制してきた。
【0020】
帯電後に露光プロセスを経ない箇所において、感光層に印加する電荷と同じ極性の電荷を輸送する物質(例えば、正帯電の場合は正孔輸送物質)が、感光層と下引き層との界面に存在することで、電荷が下引き層へ引き抜かれやすくなる。この下引き層への電荷の引き抜きは、カブリの一因となる。ここで、感光層に印加する電荷と同じ極性の電荷を輸送する物質は、感光層の電荷発生物質から生じる励起されたキャリアの担い手である。
【0021】
一方で、帯電後に露光プロセスを経る箇所においては、感光層に印加する電荷と同じ極性の電荷を輸送する物質が、感光層と下引き層との界面に存在することで引き起こされる下引き層への電荷の引き抜きにより、電位変動が抑制される。
【0022】
高温高湿環境下でのカブリの抑制を重視すると、下引き層の抵抗を上げることになる。そのため、低温低湿環境下での電位変動の抑制という観点では、酸化チタン粒子に施す表面処理が過多になる。高温高湿環境下でのカブリの抑制と、低温低湿環境下での電位変動の抑制とを両立するためには、下引き層の抵抗を上げ過ぎないようにする必要がある。本発明者らは、表面処理の程度として、有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子におけるTiOに対するSi元素の質量比に着目した。
【0023】
有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の平均一次粒径をb[μm]、該有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子のTiOに対する有機珪素化合物のSi元素の質量比をc[質量%]とする。このとき、bおよびcが下記式(B)で示される関係を満たすことで、高温高湿環境下でのカブリの抑制と低温低湿環境下での電位変動の抑制を両立することができる。
0.025≦b×c≦0.050 (B)
【0024】
式(B)の不等式は、上記の考察に基づいて導かれることから、電子写真感光体が有する感光層が、電荷発生物質、正孔輸送物質および電子輸送物質を含有する単層型感光層である場合においてのみ成り立つ。感光層が積層型感光層である場合、下引き層と接する電荷発生層との界面において、感光層に印加する電荷と同じ極性の電荷を輸送させる物質(例えば、正帯電の場合は正孔輸送物質)が存在しないため、本発明の効果が十分に得られない場合がある。
【0025】
図1は、本発明に係る電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。図1中、電子写真感光体は、支持体101、下引き層102および感光層103をこの順に有する。
【0026】
〔支持体〕
支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金などの金属またはこれら金属の合金の支持体を用いることができる。また、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ガラスなどの絶縁性支持体上にアルミニウム、クロム、銀、金などの金属の薄膜を形成した支持体または酸化インジウム、酸化スズなどの導電性材料の薄膜を形成した支持体が挙げられる。支持体の表面には、電気的特性の改善や干渉縞の抑制のため、陽極酸化などの電気化学的な処理や、湿式ホーニング処理、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。
【0027】
〔導電層〕
本発明において、支持体の上に導電層を設けてもよい。導電層を設けることで、支持体表面の傷や凹凸を隠蔽することや、支持体表面における光の反射を制御することができる。
導電層は、導電性粒子と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0028】
導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属、カーボンブラックなどが挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒子径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0029】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
【0030】
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などをさらに含有してもよい。
【0031】
導電層の平均膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0032】
導電層は、上述の各材料および溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0033】
〔下引き層〕
支持体または導電層と感光層との間に、下引き層が設けられる。
【0034】
下引き層は、ポリアミド樹脂と、有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子とを含有する。また、有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の平均一次粒径b[μm]と、有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子におけるTiOに対する該有機珪素化合物由来のSi元素の質量比c[質量%]とは、上記式(B)で示される関係を満たす。
【0035】
ポリアミド樹脂としては、アルコール系溶剤に可溶なポリアミド樹脂が好ましい。例えば、3元系(6-66-610)共重合ポリアミド、4元系(6-66-610-12)共重合ポリアミド、N-メトキシメチル化ナイロン、重合脂肪酸系ポリアミド、重合脂肪酸系ポリアミドブロック共重合体、ジアミン成分を有する共重合ポリアミドなどが好ましく用いられる。
【0036】
酸化チタン粒子としては、電位変動の抑制という観点から、結晶系がルチル型またはアナターゼ型であることが好ましく、光触媒活性の弱いルチル型であることがより好ましい。ルチル型である場合、ルチル化率90%以上であることが好ましい。
【0037】
酸化チタン粒子の形状は球形であることが好ましく、その平均一次粒径b[μm]は、高温高湿環境下でのカブリの抑制と低温低湿環境下での電位変動の抑制とを両立する観点から、0.01≦b≦0.05を満たすことが好ましい。酸化チタン粒子の表面処理に用いる有機珪素化合物としては、例えば、下記式(S1)で示される化合物および下記式(S2)で示される化合物が挙げられる。
【化1】
(式(S1)中、R11は、水素原子、ビニル基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を示す。R11が置換のアルキル基または置換のアリール基である場合に、アルキル基およびアリール基がそれぞれ有してもよい置換基は、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、グリシドキシ基、メタクリロイル基およびトリフルオロメチル基である。R12は、水素原子またはメチル基を示す。R13は、メチル基またはエチル基を示す。s+t+u=4であり、sは1以上の整数、tは0以上の整数、uは2以上の整数である。但し、s+u=4のとき、R12は存在しない。)
【化2】
(式(S2)中、R21~R25は、それぞれ水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を示す。但し、R21とR22が共に水素原子であることはなく、R23~R25がいずれも水素原子であることはない。R21、R22、R23、R24、R25がそれぞれ置換のアルキル基または置換のアリール基である場合に、アルキル基およびアリール基がそれぞれ有してもよい置換基は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、エポキシ基、グリシドキシ基およびトリフルオロメチル基である。nは0以上の整数である。)
【0038】
有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の疎水化度をα[%]とする。このとき、疎水化度α[%]が、35%以上85%以下であることで、高温高湿環境下でのカブリの抑制と低温低湿環境下での電位変動の抑制とを高水準で両立することができる。
【0039】
有機珪素化合物の酸化チタン粒子への表面処理方法としては、有機珪素化合物と酸化チタン粒子の他に有機溶媒を用いない乾式法や、有機溶媒を用いる湿式法があるが、bとcとが式(B)を満たす限りにおいては如何なる方法を用いてもよい。
【0040】
酸化チタン粒子に対して有機珪素化合物の表面処理量が相対的に多くなる場合において、仕込み量に対する、実際に表面処理された量(cの値)の割合は、表面処理方法によって変わる場合がある。上記の表面処理された酸化チタン粒子の疎水化度についての好ましい範囲と、式(B)で示される関係とを同時に満たすためは、適切な表面処理方法を選ぶ必要がある。
【0041】
また、酸化チタン粒子は、無機物で表面処理されない。
【0042】
表面処理に用いる有機珪素化合物は、具体的には、式(S1)で示される化合物である、ビニルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシランまたはイソブチルトリメトキシシランでる。中でも、表面処理に用いる有機珪素化合物は、ビニルトリメトキシシランであることが好ましい。
【0044】
下引き層の膜厚d[μm]は、1.0μm以上3.0μm以下であることが好ましい。膜厚dが上記範囲内であることにより、高温高湿環境下でのカブリの抑制効果、および低温低湿環境下での電位変動の抑制効果を共に高く得ることができる。
【0045】
下引き層は、上記ポリアミド樹脂および酸化チタン粒子以外にも、干渉縞の防止および、下引き層の成膜性を高める等の目的で、有機物粒子やレベリング剤等の添加剤を含有してもよい。但し、下引き層における添加剤の含有比率は、下引き層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0046】
〔感光層〕
下引き層の直上には、感光層が設けられる。
感光層は、電荷発生物質、正孔輸送物質および電子輸送物質を含有する単層型の感光層である。
【0047】
感光層に用いられる電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、アントラキノン誘導体、アントアントロン誘導体、ジベンズピレンキノン誘導体、ピラントロン誘導体、ビオラントロン誘導体、イソビオラントロン誘導体、インジゴ誘導体、チオインジゴ誘導体、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、ビスベンズイミダゾール誘導体などが挙げられる。これらの中でも、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが好ましい。
【0048】
感光層に用いられる正孔輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、エナミン化合物、スチルベン化合物、スチリル化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物、トリフェニルアミンなどが挙げられる。また、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマーも、感光層に用いられる正孔輸送物質として挙げることができる。
【0049】
感光層に用いられる電子輸送物質としては、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド化合物、ジフェノキノン化合物、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物、フェナントレンキノン化合物、フェナントロリン化合物、アセナフトキノン化合物、テトラシアノキノジメタン化合物、フルオレノン化合物、ベンゾフェノン化合物、キサントン化合物、などが挙げられる。また、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマーも、感光層に用いられる電子輸送物質として挙げることができる。
【0050】
特に、感光層に用いられる電子輸送物質は、下記式(S7)で示される化合物であることが好ましい。
【化3】
(式(S7)中、R31~R38は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基、またはハロゲン原子で置換されていてもよいアルコキシカルボニル基を示す、あるいは、R31とR32、R33とR34、R35とR36、R37とR38は、それぞれ互いに結合し、アルキル基で置換されていてもよい芳香環を形成してもよい。)
【0051】
感光層は、好ましくは結着樹脂を含有する。
感光層に用いられる結着樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂およびポリアリレート樹脂が好ましい。結着樹脂の重量平均分子量は、10,000以上300,000以下の範囲であることが好ましい。
【0052】
感光層において、電荷発生物質と結着樹脂との質量比率(電荷発生物質/結着樹脂)は、0.005以上0.250以下の範囲であることが好ましく、0.020以上0.100以下の範囲であることがより好ましい。
【0053】
正孔輸送物質と結着樹脂との質量比率(正孔輸送物質/結着樹脂)は、0.2以上1.2以下の範囲であることが好ましく、0.4以上0.9以下の範囲であることがより好ましい。
【0054】
電子輸送物質と結着樹脂との質量比率(電子輸送物質/結着樹脂)は、0.1以上1.0以下の範囲であることが好ましく、0.2以上0.7以下の範囲であることがより好ましい。
【0055】
また、感光層は、帯電時に発生するOやNOなどの気体から劣化を防止する目的でヒンダードフェノールなどの酸化防止剤を含有していてもよい。また、感光層は、感光層の成膜性を高める目的でシリコーンオイルなどのレベリング剤を含有していてもよい。
【0056】
感光層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
【0057】
感光層の膜厚は、10μm以上50μm以下であることが好ましく、20μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0058】
下引き層、感光層などの電子写真感光体を構成する各層を形成する方法としては、以下の方法が好ましい。すなわち、各層を構成する材料を溶剤に溶解および/または分散させて得られた塗布液を塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成する方法である。塗布液を塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法(浸漬コーティング法)、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法、スピンコーティング法、リング法などが挙げられる。これらの中でも、効率性および生産性の観点から、浸漬塗布法が好ましい。
【0059】
〔プロセスカートリッジおよび電子写真装置〕
図2に、本発明に係る電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0060】
図2に示す電子写真装置は、円筒状の電子写真感光体1を有し、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面(周面)は、帯電手段3(一次帯電手段:帯電ローラーなど)により、正または負の所定電位に均一に帯電される。次いで、均一に帯電された電子写真感光体1の表面は、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)からの露光光(画像露光光)4で露光される。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0061】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、次いで現像手段5の現像剤に含まれるトナーにより現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて給送される。
【0062】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ排出される。
【0063】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(転写残トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、清浄面化された電子写真感光体1の表面は、前露光手段(不図示)からの前露光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図2に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0064】
上記の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段7などの構成要素のうち、複数の構成要素を選択して容器に納めてプロセスカートリッジ9として一体に支持する。このプロセスカートリッジ9を複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成することができる。図2では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【実施例
【0065】
以下、実施例と比較例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例と比較例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0066】
(実施例1)
長さ260.5mm、直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS H 4000:2006 A3003P、アルミニウム合金)を用意した。このアルミニウムシリンダーに対して切削加工(JIS B 0601:2014、十点平均粗さRzjis:0.8μm)を行い、加工後のアルミニウムシリンダーを支持体(導電性支持体)として用いた。
【0067】
次に、未処理のルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:50nm、テイカ製)100部をメタノール400部、メチルエチルケトン100部と撹拌混合し、ビニルトリメトキシシラン5.0部を添加した。その後、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて8時間分散処理した。ガラスビーズを取り除いた後、メタノールとメチルエチルケトンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
【0068】
次に、以下の材料を用意した。
・上記で得た有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子16.2部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)4.5部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)1.5部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が1.8μmの下引き層を形成した。
【0069】
この下引き層において、各パラメータは以下の通りであった。
・ポリアミド樹脂の体積に対する酸化チタン粒子の体積の比a[‐]=0.70
・有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の平均一次粒径b[μm]=0.050
・有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子におけるTiOに対するSi元素の質量比c[質量%]=0.70
・膜厚d[μm]=1.8
・有機珪素化合物で表面処理された酸化チタン粒子の疎水化度α[%]=45
・a/b=14.0
・b×c=0.035
【0070】
αの値は、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子のメタノール濡れ性を測定して求めた。メタノール濡れ性の測定は、粉体濡れ性試験機(商品名:WET100P、レスカ製)を用いて以下のように行った。200mlのビーカーに、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子0.2gとイオン交換水50gを加え、ビュレットを用いてビーカーをゆっくり撹拌しながらメタノールを滴下した。ビーカーの内部の光透過率が10%となったときのメタノール滴下量をtとしたとき、α=100×t/(t+50)より疎水化度αの値を算出した。
【0071】
aの値は、電子写真感光体作製後、電子写真感光体の断面を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM、商品名:S-4800、日立ハイテクノロジーズ製)を用いた顕微鏡像から求めた。
【0072】
cの値は、次のようにして求めた。まず、表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を作製した後、粒子を波長分散型蛍光X線分析装置(XRF、商品名:Axios advanced、PANalytical製)を用いて分析した。得られた結果から、検出されたTi元素が酸化物であると仮定し、ソフトウェア(SpectraEvaluation、vertion5.0L)にてTiOに対するSi元素の含有量(質量%)を求めた。
【0073】
次に、以下の材料を用意した。
・下記式(S3)で示される無金属フタロシアニン結晶(電荷発生物質)1部
・下記式(S4)で示される正孔輸送物質15部
・下記式(S5)で示される電子輸送物質8部
・下記式(S6)で示される電子輸送物質2部
・Z型ポリカーボネート樹脂(商品名:ユピゼータPCZ-400、三菱瓦斯化学製)20部
これらをテトラヒドロフラン200部に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて8時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、感光層用塗布液を調製した。この感光層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を60分間120℃で乾燥させることによって、膜厚が30μmの感光層を形成した。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
以上のようにして、支持体上に下引き層および感光層を有する電子写真感光体を製造した。
【0074】
(高温高湿環境下におけるカブリの評価)
評価機としてレーザービームプリンター(商品名:HP LaserJet Enterprise600 M609dn、非接触現像方式、プリント速度:A4縦71枚/分、ヒューレットパッカード製)を改造して用いた。電子写真感光体への帯電をコロナ放電方式で行えるように、トナーカートリッジを改造した。
【0075】
上記で製造した電子写真感光体は、HP LaserJet Enterprise600 M609dn用のプロセスカートリッジに装着した。また、プロセスカートリッジは、帯電ローラーを外してコロナワイヤーとグリッド電極を設けてコロナ放電による帯電が行えるように改造し、現像位置には電位プローブ(商品名:model6000B-8、トレック・ジャパン製)を装着した。
【0076】
その後、電子写真感光体の中央部(約130mm位置)の電位を、表面電位計(商品名:model344、トレック・ジャパン製)を使用して測定した。電子写真感光体の表面電位は、温度35℃、湿度80%RHの環境下にて、初期暗部電位(Vd)が+500V、初期明部電位(Vl)が+150V、現像バイアスが+300Vとなるように、印加電圧と画像露光の光量を設定した。
【0077】
現像機の部分に電位プローブがある状態で設定した露光量において、温度35℃、湿度80%RHの環境下にて、A4サイズの普通紙で印字比率1%の画像について、50,000枚の画像形成を行った。画像形成は3枚画像形成するごとに停止する間欠モードにより行った。
【0078】
50,000枚の画像形成を行った後、新品のプロセスカートリッジに画像形成を行った電子写真感光体を装着した。プロセスカートリッジには上記と同様の改造を行った。
【0079】
電子写真感光体の表面電位は、温度35℃、湿度80%RHの環境下にて、初期暗部電位(Vd)が+500V、初期明部電位(Vl)が+150V、現像バイアスが+450Vとなるように、印加電圧と画像露光の光量を設定した。
【0080】
温度35℃、湿度80%RHの環境下にて全白画像を印刷し、全白画像の白地部の反射濃度の最も低い値Fと、画像形成前の普通紙の反射平均濃度Fとを測定した。反射濃度の測定には、反射濃度計(商品名:リフレクトメーター モデルTC-6DS、東京電色製)を用いた。|F-F|で求められる値をカブリ値とし、以下の基準により評価した。カブリ値が小さい程、カブリの抑制効果が高いことを示す。なお、本発明においては、評価基準のA~Cを好ましいレベルとし、D、Eを許容できないレベルとした。
A:カブリ値が1.0未満であった。
B:カブリ値が1.0以上2.0未満であった。
C:カブリ値が2.0以上3.0未満であった。
D:カブリ値が3.0以上5.0未満であった。
E:カブリ値が5.0以上であった。
【0081】
(低温低湿環境下における電位変動の評価)
評価機としてレーザービームプリンター(商品名:HP LaserJet Enterprise600 M609dn、非接触現像方式、プリント速度:A4縦71枚/分、ヒューレットパッカード製)を改造して用いた。電子写真感光体への帯電をコロナ放電方式で行えるよう、トナーカートリッジを改造した。
【0082】
上記で製造した電子写真感光体は、HP LaserJet Enterprise600 M609dn用のプロセスカートリッジに装着した。また、プロセスカートリッジは、帯電ローラーを外してコロナワイヤーとグリッド電極を設けてコロナ放電による帯電が行えるように改造し、現像位置には電位プローブ(商品名:model6000B-8、トレック・ジャパン製)を装着した。その後、電子写真感光体の中央部(約130mm位置)の電位を、表面電位計(商品名:model344、トレック・ジャパン製)を使用して測定した。
【0083】
電子写真感光体の表面電位は、温度15℃、湿度10%RHの環境下にて、初期暗部電位が+500V、初期明部電位が+150V、現像バイアスが+300Vとなるように、印加電圧と画像露光の光量を設定した。現像機の部分に電位プローブがある状態で設定した露光量において、温度15℃、湿度10%RHの環境下にて、A4サイズの普通紙で印字比率1%の画像について、50,000枚の画像形成を行った。画像形成は3枚画像形成するごとに停止する間欠モードによりおこなった。その後、繰り返し使用後の明部電位(Vl)を測定した。明部電位の電位変動分ΔVl=Vl-150(単位:V)を、表1に示す。なお、ΔVlの値が小さい程、電位変動を抑制する効果が高いことを示す。
【0084】
(実施例2)
実施例1において、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシランの使用量を、5.0部から3.0部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例3)
実施例1において、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシランの使用量を5.0部から4.0部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例4)
実施例1において、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシランの使用量を5.0部から6.0部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例5)
有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子を、以下に示すようにして作製した。
未処理のルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:50nm、テイカ製)100部をトルエン500部と撹拌混合し、ビニルトリメトキシシラン5.0部を添加してから撹拌機で8時間攪拌した。その後、トルエンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例6)
実施例1において、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシラン5.0部を、n-プロピルトリメトキシシラン6.0部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例7)
実施例1において、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシラン5.0部を、イソブチルトリメトキシシラン5.5部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例8)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
未処理のルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:15nm、テイカ製)100部をメタノール400部、メチルエチルケトン100部と撹拌混合し、ビニルトリメトキシシラン15.0部を添加した。その後、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて8時間分散処理した。ガラスビーズを取り除いた後、メタノールとメチルエチルケトンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
次に、以下の材料を用意した。
・上記で得た有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子12.0部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)9.0部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)3.0部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例9)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
未処理のルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:35nm、テイカ製)100部をメタノール400部、メチルエチルケトン100部と撹拌混合し、ビニルトリメトキシシラン6.5部を添加した。その後、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて8時間分散処理した。ガラスビーズを取り除いた後、メタノールとメチルエチルケトンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
次に、以下の材料を用意した。
・上記で得た有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子16.0部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)6.0部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)2.0部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例10)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
未処理のルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:80nm、テイカ製)100部をメタノール400部、メチルエチルケトン100部と撹拌混合し、ビニルトリメトキシシラン3.0部を添加した。その後、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて8時間分散処理した。ガラスビーズを取り除いた後、メタノールとメチルエチルケトンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
次に、以下の材料を用意した。
・上記で得た有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子19.2部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)3.6部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)1.2部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例11)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
まず、以下の材料を用意した。
・実施例1で作製した有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子16.0部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)6.0部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)2.0部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例12)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
まず、以下の材料を用意した。
・実施例1で作製した有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子17.3部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)5.4部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)1.8部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例13)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
まず、以下の材料を用意した。
・実施例1で作製した有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子18.0部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)4.5部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)1.5部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例14)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
まず、以下の材料を用意した。
・実施例8で作製した有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子10.2部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)9.6部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)3.2部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例8と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例15~18)
実施例1において、下引き層の膜厚d[μm]を、表1に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例19)
下引き層を、以下のように調製した。
未処理のルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:35nm、テイカ製)100部をメタノール400部、メチルエチルケトン100部と撹拌混合し、n-プロピルトリメトキシシラン7.0部を添加した。その後、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて8時間分散処理した。ガラスビーズを取り除いた後、メタノールとメチルエチルケトンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
次に、以下の材料を用意した。
・上記で得た有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子15.8部
・N-メトキシメチル化ナイロン(商品名:トレジンEF-30T、ナガセケムテックス製)6.6部
・共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ製)2.2部
これらを、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が1.5μmの下引き層を形成した。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
実施例5において、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシランの使用量を、5.0部から2.5部に変更した。それ以外は実施例5と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例2)
有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を、以下のように作製した。
未処理のルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:50nm、テイカ製)100部をヘンシェルミキサーで撹拌しながら10分100℃で乾燥させた。その後、80℃で加熱撹拌しているところにビニルトリメトキシシラン3.0部を窒素ガスで1時間かけて噴霧することによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
上記以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例3)
実施例5において、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシラン5.0部を、メチルトリメトキシシラン5.0部に変更した。それ以外は実施例5と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例4)
実施例5において、有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子の作製に用いたビニルトリメトキシシラン5.0部を、オクチルトリメトキシシラン5.0部に変更した。それ以外は実施例5と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例5)
下引き層用塗布液を、以下のように調製した。
シリカとアルミナで表面処理したルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:10nm、テイカ製)100部をトルエン500部と撹拌混合し、メチルハイドロジェンポリシロキサン1.0部を添加してから撹拌機で8時間攪拌した。その後、トルエンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
上記で得た有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子18.0部、共重合ナイロン樹脂(商品名:X1010、ダイセル・デグサ製)6.0部を、メタノール90部と1-ブタノール60部の混合溶剤に加えて分散液を調製した。
この分散液を、直径1.0mmのガラスビーズを用いて縦型サンドミルにて5時間分散処理し、ガラスビーズを取り除くことにより、下引き層用塗布液を調製した。
上記以外は実施例17と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例6)
有機珪素化合物で表面処理済みの酸化チタン粒子を、以下のように作製した。
シリカとアルミナで表面処理したルチル型酸化チタン粒子(平均一次粒径:35nm、テイカ製)100部をトルエン500部と撹拌混合し、メチルハイドロジェンポリシロキサン2.0部を添加してから撹拌機で8時間攪拌した。その後、トルエンを減圧蒸留にて留去し、3時間120℃で乾燥させることによって、有機珪素化合物で表面処理済みのルチル型酸化チタン粒子を得た。
上記以外は比較例5と同様にして電子写真感光体を製造し、実施例1と同様にカブリと電位変動の評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
図1
図2