(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】二酸化炭素を主成分とするガス中の硫黄酸化物の除去方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240122BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20240122BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20240122BHJP
【FI】
B01D53/14 100
B01J20/02 A
C01B32/50
(21)【出願番号】P 2020006949
(22)【出願日】2020-01-20
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019021658
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】平野 竹徳
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-509437(JP,A)
【文献】特表平11-507875(JP,A)
【文献】特表2013-538880(JP,A)
【文献】特公昭59-006688(JP,B2)
【文献】特開昭55-024600(JP,A)
【文献】米国特許第06916696(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0217944(US,A1)
【文献】特表2006-502957(JP,A)
【文献】特開平07-157305(JP,A)
【文献】特開平01-123628(JP,A)
【文献】特開2018-199126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14
B01D 53/40
B01J 20/02
C01B 32/50
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を
50体積%以上含み、硫黄酸化物を含む被処理ガス中の、前記硫黄酸化物を除去する方法であって、
前記被処理ガスに水素を添加して水素添加被処理ガスを得る水素添加工程と、
前記水素添加被処理ガスを、銅を含む脱硫剤と接触させ
て、前記硫黄酸化物を還元して硫黄を前記脱硫剤に固定する脱硫工程と、
からなる方法。
【請求項2】
前記水素添加被処理ガス中の水素濃度は0.5体積%以上2体積%以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脱硫工程において、前記脱硫剤の温度は250℃以上350℃以下である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
二酸化炭素を主成分とし硫黄酸化物を含む被処理ガス中の、前記硫黄酸化物を除去する方法であって、
前記被処理ガスに水素を添加して水素添加被処理ガスを得る水素添加工程と、
前記水素添加被処理ガスを、銅を含む脱硫剤と接触させる脱硫工程を含み、
前記脱硫工程において、前記脱硫剤の温度は、250℃以上350℃以下である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を主成分とするガス中の硫黄酸化物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の観点から二酸化炭素の排出を抑制することが求められている。
火力発電や工業プロセスで発生する燃焼排ガスから二酸化炭素を回収する技術は、アミン吸収法や物理吸収法など既に工業的に確立されているものが存在する。回収した二酸化炭素は、地中に圧入して貯留する検討が進められており、回収から貯留に至る一連のプロセスは二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術と呼ばれる。CCSは一定の前提条件下においては、低炭素技術としてのコスト競争力を有することが期待されるものの、二酸化炭素の長距離輸送や貯留の適地確保など、なお課題もあるとされる。
【0003】
回収した二酸化炭素を貯留するのではなく、有価物の製造に用いることも検討されており、二酸化炭素回収・利用(CCU)技術の開発も進められている。有価物の例として、メタンやメタノールが考えられる。これらは、燃料などとして大きな市場が形成されているため、回収した二酸化炭素の利用先として有望といえる。燃焼排ガスから二酸化炭素を回収し、再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電の電力を用いる電気分解により得られた水素と反応させれば、メタンやメタノールが得られる。この方法によって得られたメタンやメタノールは、燃焼利用しても追加的な二酸化炭素の発生がないことから、地球温暖化に影響しない燃料と考えることができる。
【0004】
二酸化炭素及び水素からメタンを得る反応(式1)は公知である。
CO2+4H2 → CH4+2H2O (式1)
【0005】
特許文献1には、CO及びH2を含むガスをメタン化するに際し、上流側にCu-Zn系低温シフト触媒を配し且つ下流側にメタン化触媒を配置したメタン化反応器を使用することを特徴とするCO及びH2を含むガスのメタン化方法が開示されている。上流側の低温シフト反応器ではCOシフト反応(式2)が進行するので、低温シフト触媒により一酸化炭素の大部分は水蒸気と反応して二酸化炭素に転換され、メタン化触媒上では二酸化炭素のメタン化反応が進行しているものと考えられる。
CO+H2O → CO2+H2 (式2)
【0006】
メタン化反応はアンモニア合成用の水素から一酸化炭素及び二酸化炭素を除去する目的で古くから使用されており、NiやRuを担持した触媒が高活性を示すことが知られている(非特許文献1、2)。
【0007】
また、燃焼排ガスから回収した二酸化炭素と水素との反応によりメタンを得るプロセスも公知である。
【0008】
特許文献2には、付属の水/蒸気回路を有する、炭素燃料を燃焼させる電力ステーションの、より詳細には炭素ガスを燃焼させる電力ステーションの、電力ステーション煙道ガスから生じる、より詳細には流用されるまたは得られる二酸化炭素、より詳細には二酸化炭素ガスの、メタネーションプラントでのメタンへの変換を含むメタネーションプロセスにおいて、前記メタネーションプラントでの二酸化炭素のメタンへの変換で廃熱として生じる熱エネルギーが少なくとも1つの材料流及び/または熱エネルギー流の中に少なくとも部分的に取り出され、この少なくとも1つの材料流及び/または熱エネルギー流が、バーナ側の前記電力ステーションの蒸気発生装置の燃焼チャンバに流れ込む少なくとも1つの媒体に、前記電力ステーションの前記水/蒸気回路に、プロセスエンジニアリングの観点で前記メタネーションプラントの上流に接続された二酸化炭素排ガス処理または二酸化炭素処理、より詳細には、電力ステーション煙道ガス処理プラントに、及び/または付属の工業プラントの1つ以上の運転ステージに、少なくとも部分的に供給されることを特徴とするメタネーションプロセスが開示されている。
【0009】
特許文献3には、CO2及びH2を含むガスからメタネーション触媒を用いてメタンを製造する第一メタネーション反応工程と、前記第一メタネーション反応工程で残留した物質からメタンを製造する第二メタネーション反応工程と、前記第一反応工程に流入する反応ガスの変動に応じて前記第一メタネーション反応工程が化学平衡状態に近づくように前記第一メタネーション反応工程に流入する反応ガスの一部をバイパスして前記第二メタネーション反応工程に流入させるバイパス工程と、を有するメタン製造方法が開示されている。
【0010】
これらは、燃焼排ガスから回収した二酸化炭素と水素との反応によりメタンを得るプロセスにおけるエネルギー効率の向上や制御性の改善を図る試みといえる。
【0011】
メタノールは、一般的には一酸化炭素と水素との反応(式3)によって製造されるが、CCUの観点から二酸化炭素と水素との反応で得る試みもなされており、いくつかの触媒がこの反応に高活性であることが示されている(特許文献4、5)。
CO+2H2 → CH3OH (式3)
CO2+3H2 → CH3OH+H2O (式4)
【0012】
以上のように、二酸化炭素と水素との反応によりメタンやメタノールを合成するための触媒や反応条件は公知である。一方で、燃焼排ガスから回収された二酸化炭素に含まれる微量成分の影響及びその回避方法については明らかにはされていない。
【0013】
石炭やバイオマスなど含炭素燃料は通常硫黄分を含んでいる。この硫黄分は燃焼に伴い硫黄酸化物(二酸化硫黄及び三酸化硫黄)に変化する。化学吸収法及び固体吸収法では、硫黄酸化物も吸収液ないし吸収剤に吸収されるが、二酸化炭素を吸収液ないし吸収剤から放出させる際にその一部が放出される。従って、分離された二酸化炭素には微量の硫黄酸化物が含まれることになる。非特許文献3では、石炭火力発電所排ガスからの二酸化炭素の分離において、排ガス脱硫を行って二酸化硫黄濃度を10ppmまで低減したあとの排ガスからアミンを用いた化学吸収法により二酸化炭素を分離した場合、分離された二酸化炭素に含まれる二酸化硫黄濃度は34~135ppmになると見積もられている。
【0014】
前述のようにメタン化触媒にはNiやRuを活性成分とする触媒が用いられるが、これらは非常に硫黄による被毒を受けやすいという問題がある。メタノール合成触媒には主に銅を主活性成分とする触媒が用いられるが、これも硫黄による被毒を強く受ける。
【0015】
NiやRuを活性成分とする触媒はメタン化だけでなく、メタン化の逆反応である水蒸気改質反応にも広く用いられている。水蒸気改質反応でも硫黄被毒は深刻な問題であり、そのため種々の炭化水素の脱硫方法が検討されている。
【0016】
例えば、特許文献6には、銅化合物、亜鉛化合物、及びアルミニウム化合物を原料として、共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物を水素還元して得た高次脱硫剤を使用することにより、炭化水素中の硫黄含有量を5ppb以下とすることができると示されている。
【0017】
炭化水素に含まれる硫黄成分は、硫化水素及びチオール、サルファイドなどの有機硫黄化合物であって、二酸化硫黄は通常含まれない。メタン発酵ガスや石炭やバイオマスのガス化ガスから二酸化炭素を分離する場合もあるが、このようなガスに含まれる硫黄化合物は、やはり硫化水素、COS、及び有機硫黄化合物であって、二酸化硫黄は通常含まれない。
【0018】
被処理ガスからの二酸化硫黄の除去方法としては、石炭火力発電所などで利用されている石灰石膏法による湿式脱硫方法があるが、一般的に二酸化硫黄の除去率が95%程度にとどまる(非特許文献3)ので、メタン化触媒あるいはメタノール合成触媒を保護するには十分ではない。
【0019】
一酸化炭素を還元剤として、鉄あるいは銅系の触媒を用いて二酸化硫黄を硫黄に還元する方法も知られている(非特許文献4,5)が、反応に500℃以上という高い温度が必要であること、加えて単体の硫黄もメタン化触媒あるいはメタノール合成触媒を被毒するので、硫黄の蒸気圧が無視しうる程度まで被処理ガスを深冷して、生成した硫黄を分離する必要があることから、メタン化あるいはメタノール合成触媒を硫黄被毒から保護するための前処理としては経済的に優れた方法とは言い難い。
【0020】
石油の水素化脱硫に用いられるコバルト-モリブデン/アルミナ触媒を用いて、二酸化硫黄を水素で還元して硫黄を得た結果も報告されている(非特許文献6)。300℃程度という比較的低い温度で硫黄酸化物を硫黄及び硫化水素に還元できることは示されているが、被処理ガスからの硫黄成分を除去するにはさらに硫黄及び硫化水素の除去手段を別途設ける必要がある。また、二酸化炭素を主成分とするガス中での硫黄酸化物の還元性能も明らかではない。
【0021】
コバルト及び鉄は、炭素酸化物(一酸化炭素及び二酸化炭素)の水素化に比較的高い活性を有するので、被処理ガスに水素を添加して二酸化硫黄の除去を行う際に、被処理ガスに二酸化炭素が多く含まれる場合、二酸化炭素の水素化が急激に進行する懸念もある。
【0022】
二酸化炭素の精製方法も知られている。特許文献7には、二酸化炭素ガス流を精製するための方法であって、処理すべき二酸化炭素ガス流を、乾燥剤、ゼオライト、またはイオン交換形であるゼオライト、及び活性炭からなる群より選択される少なくとも2つの吸着剤層が入っている少なくとも1つの吸着剤床に通すことを含む方法が開示されている。この方法によれば、水分、硫黄種及び他の不純物が二酸化炭素から除去されるとされる。
【0023】
特許文献8には、燃焼排ガスなどの二酸化炭素含有供給流れが処理され、SOxとNOxを活性炭で除去するステップ、大気温度以下での処理を行って生成物流れ及び排気流れを製造するステップ、圧力スイング吸着または物理的若しくは化学的吸収により排気流れを処理し供給流れに再循環される生成物流れを製造するステップを含む一連のステップによって、高純度二酸化炭素流れを製造する方法が開示されている。
【0024】
これらの方法では、高純度な二酸化炭素が得られるものの、精製コストが非常に高くなるという問題がある。アミン吸収剤から放出された二酸化炭素を主成分とするガスには、水蒸気が含まれるが、水蒸気はメタン化反応を強く阻害することはなく、むしろ炭素析出を抑制する効果もあるので、大きなコストをかけて除去する必要もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】特開昭60-235893号公報
【文献】特表2016-531973号公報
【文献】特開2018-135283号公報
【文献】特開平3-258738号公報
【文献】特開平7-39755号公報
【文献】特開平1-123628号公報
【文献】特表2009-504383号公報
【文献】特表2012-503543号公報
【非特許文献】
【0026】
【文献】社団法人化学工学協会編、化学プロセス集成、1970年、p.153
【文献】触媒学会編、触媒便覧、2008年、p.535
【文献】Lee、Keener及びYang、Journal of Air & Waste Management Association、 59巻、2009年、p.725-732
【文献】Khalafalla、Foerster及びHaas、Industrial and Engineering Chemistry Product Research and Development、10巻、1971年、p.133-137
【文献】Liu、Sarofim及びFlytzani-Stephanopoulos、Applied Catalysis B: Environmental、4巻、1994年、p.167-186
【文献】Paik及びChung、Applied Catalysis B: Environmental、5巻、1995年、p.233-243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明が解決しようとする課題は、以上の問題に鑑み、燃焼排ガス中に含まれる二酸化炭素を用い、水素と反応させることによりメタンやメタノールを得るに際して、燃焼排ガスから回収された二酸化炭素に含まれ、メタン化あるいはメタノール合成触媒の触媒毒となる硫黄酸化物を経済的に除去する技術を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するために、本発明は、二酸化炭素を50体積%以上含み、硫黄酸化物を含む被処理ガス中の、前記硫黄酸化物を除去する方法であって、前記被処理ガスに水素を添加して水素添加被処理ガスを得る水素添加工程と、前記水素添加被処理ガスを、銅を含む脱硫剤と接触させて、前記硫黄酸化物を還元して硫黄を前記脱硫剤に固定する脱硫工程と、からなる方法を提供する。
【0029】
この構成によれば、燃焼排ガスから分離された二酸化炭素を50体積%以上含み、硫黄酸化物を含むガス中の硫黄酸化物は脱硫剤で処理され、硫黄化合物を実質的に含まない二酸化炭素が得られるため、メタン化触媒の硫黄被毒が防止されやすい。脱硫反応へのエネルギーの投入は実質的に不要であるため、効率の点でも経済的にも優れたメタン化が可能となる。
【0030】
上記の発明において、前記水素添加被処理ガス中の水素濃度が0.5体積%以上2体積%以下であると、十分な脱硫性能が確保できるとともに、副反応であるメタン化が抑制できるので好ましい。
【0031】
また、上記の発明において、前記脱硫工程において、前記脱硫剤の温度が250℃以上350℃以下であると、十分な脱硫性能が確保できるとともに、副反応であるメタン化が抑制できるので好ましい。なお、前記の温度領域は、メタン化やメタノール合成反応の入口温度として好適な温度領域と一致しているから、処理後のガスを加熱あるいは冷却することなくそのままメタン化やメタノール合成反応に供することができる。
また、上記課題を解決するために、本発明は、二酸化炭素を主成分とし硫黄酸化物を含む被処理ガス中の、前記硫黄酸化物を除去する方法であって、前記被処理ガスに水素を添加して水素添加被処理ガスを得る水素添加工程と、前記水素添加被処理ガスを、銅を含む脱硫剤と接触させる脱硫工程を含み、前記脱硫工程において、前記脱硫剤の温度は、250℃以上350℃以下である方法を提供する。
この構成によれば、燃焼排ガスから分離された二酸化炭素を主成分とし硫黄酸化物を含むガス中の硫黄酸化物は脱硫剤で処理され、硫黄化合物を実質的に含まない二酸化炭素が得られるため、メタン化触媒の硫黄被毒が防止されやすい。脱硫反応へのエネルギーの投入は実質的に不要であるため、効率の点でも経済的にも優れたメタン化が可能である。
また、上記の発明において、前記脱硫工程において、前記脱硫剤の温度が250℃以上350℃以下であるので、十分な脱硫性能が確保できるとともに、副反応であるメタン化が抑制できる。なお、前記の温度領域は、メタン化やメタノール合成反応の入口温度として好適な温度領域と一致しているから、処理後のガスを加熱あるいは冷却することなくそのままメタン化やメタノール合成反応に供することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上の構成によれば、燃焼排ガス中に含まれる二酸化炭素を用い、水素と反応させることによりメタンやメタノールを得るに際して、燃焼排ガス中に含まれ、メタン化あるいはメタノール合成触媒の触媒毒となる硫黄酸化物を経済的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明にかかる、被処理ガス中の硫黄酸化物を除去する方法を用いて、燃焼排ガスから回収した二酸化炭素を用いてメタンを製造するフローの一例
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明にかかる、二酸化炭素を主成分とし硫黄酸化物を含む被処理ガス中の、硫黄酸化物を除去する方法(脱硫方法)の実施形態について説明する。なお、本願に係る明細書、特許請求の範囲、および要約書において「主成分」とは、混合ガス中において最も体積濃度が大きい成分のことをいい、特に、混合ガス中に50体積%以上含まれる成分のことをいう。
【0035】
本発明が対象とする、二酸化炭素を主成分とし硫黄酸化物を含む被処理ガスは、これに限定されるものではないが、公知の二酸化炭素分離方法であるアミンなどの溶剤を用いる化学吸収法、固体吸収法、あるいは物理吸収法を用いて燃焼排ガスから分離された二酸化炭素を主成分とするガスである。このほか、燃料を空気ではなく酸素で燃焼させる酸素燃焼法によって得られた燃焼排ガスを冷却して水蒸気の少なくとも一部を凝縮分離した後のガスであってもよい。これらの二酸化炭素主成分ガス中には、燃焼させた燃料や二酸化炭素分離方法により程度は異なるものの、0.1以上100ppm以下(体積基準、以下も同じ)の硫黄酸化物が含まれる。硫黄酸化物は大部分が二酸化硫黄であり、三酸化硫黄も含まれることがある。
【0036】
二酸化炭素主成分ガス中には、このほかに窒素、酸素、水蒸気及び窒素酸化物も含まれる可能性がある。このうち窒素については、本発明の脱硫方法には影響を及ぼすことはない。酸素及び窒素酸化物については、脱硫剤上で水素と反応して水蒸気及び窒素を生成するが、あまりに濃度が高いと脱硫剤を酸化して不活性化すること、脱硫剤上で反応に伴い大きな発熱を生じることから、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%以下になるように二酸化炭素分離設備を運転することが好ましい。水蒸気は、あまりに濃度が高いと脱硫剤を酸化して不活性化することから、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下になるように二酸化炭素分離設備を運転することが好ましい。一方、水蒸気濃度が低いと、逆シフト反応(式5)によって、水素が消費されて一酸化炭素を生成することから、脱硫性能が低下する可能性がある。
CO2+H2 → CO+H2O (式5)
【0037】
水蒸気濃度は、1%以上であれば好ましく、3%以上であればより好ましい。通常の二酸化炭素分離方法で得られた二酸化炭素主成分ガスは、深冷分離しない限り数%の水蒸気を含むが、本発明の脱硫方法は、そのようなガスを好適に処理することができる。
【0038】
本発明の脱硫方法では、前記の被処理ガスに水素を添加する。本発明の脱硫方法における硫黄の除去の機構は明らかではないが、次の機構によるものと推定される。
SO2+3H2 → H2S+2H2O (式6)
2Cu+H2S → Cu2S+H2 (式7)
【0039】
まず、触媒活性点となる金属Cu上で、二酸化硫黄が硫化水素に還元される(式6)。
ついで、生成した硫化水素は金属Cuと反応して硫化銅を形成して硫黄は硫化銅として脱硫剤に固定される(式7)。硫黄酸化物が三酸化硫黄の場合、より多くの水素が必要となるが、基本的に同様の機構が推定される。
【0040】
以上から、水素は硫黄酸化物に対するモル比で少なくとも2倍必要となるが、現実的には反応速度や、好ましい銅の還元状態を維持するために、化学量論量よりは大過剰が必要である。一方、脱硫剤に接触させる被処理ガス中の水素濃度が高い場合には、脱硫剤上でメタン化やメタノール合成反応が急速に進行する恐れがある。いずれの反応も大きな発熱を伴うことから、脱硫剤の温度が急激に上昇して、脱硫剤や容器を破損したり、脱硫剤から硫黄分が飛散したりする恐れがある。以上の観点から、脱硫剤に接触させる被処理ガス中の水素濃度は0.1体積%以上5体積%以下とするのが好ましく、0.5体積%以上2体積%以下とするのがより好ましい。脱硫剤に接触させる水素添加被処理ガス中の水素濃度が前記の範囲となるように、二酸化炭素を主成分とし、硫黄酸化物を含む被処理ガスに対して水素を添加する。なお、処理後のガス中には、過剰の水素が残存することになるが、メタン化及びメタノール合成反応を行う場合は、いずれも脱硫後のガスに水素をさらに添加してこれらの反応を行うため、後段で添加する水素量を調整すればよく、水素の残存は問題とはならない。
【0041】
本発明の脱硫方法では、前記のように水素を添加した被処理ガスを、銅を含む脱硫剤と接触させる。
【0042】
銅を含む脱硫剤としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの耐火性無機酸化物担体に銅を担持した触媒を用いることができる。これらの担体の中では、アルミナが特に好ましい。無機酸化物担体に銅を担持する方法としては、含浸法、共沈法などの公知の触媒調製法を採用することができる。
【0043】
脱硫剤は、さらに酸化亜鉛を含んでいてもよい。酸化亜鉛は硫黄酸化物の還元により生成した硫化水素を以下の反応(式8)によって硫化亜鉛として強固に固定するので、安価でより吸着容量の大きい高性能な脱硫剤となる。
ZnO+H2S → ZnS+H2O (式8)
【0044】
銅、アルミナ、及び酸化亜鉛を含む脱硫剤は、例えば特許文献6に記載されるような共沈法で調製することができる。
【0045】
上記の方法で調製した銅を含む脱硫剤において、調製された段階では銅は通常酸化銅(CuOまたはCu2O)として存在している。本発明の脱硫方法において、銅を含む脱硫剤がその性能を発揮するためには、銅は金属の状態にある必要がある。従って、脱硫剤は使用前に還元する必要がある。銅の還元は、脱硫剤を好ましくは200℃以上400℃以下、より好ましくは250℃以上350℃以下に保って水素を含むガスを流通することで行う。前記の水素を含むガス中の水素濃度は、高すぎると大きな発熱を伴って銅が還元されることにより、銅の凝集が進行する恐れがある一方で、低すぎると還元に時間を要するので、1体積%以上10体積%以下程度とするのが良い。還元時間は、銅を還元するのに最低限必要な水素量との見合いで決定すればよいが、好ましくは最低限必要な水素量の1.5倍以上、好ましくは3倍以上流通される条件で、1時間以上3時間以下程度かけて行うのが良い。
【0046】
(本発明の適用例)
本発明にかかる方法を適用したメタン製造フローの例(
図1)について説明する。
【0047】
図1に示したメタン製造フローでは、火力発電設備1から排出される、炭素燃料を含む燃焼排ガス101を原料としてメタンを製造する。火力発電設備1から排出された燃焼排ガス101は、二酸化炭素分離設備2に導入され、二酸化炭素が除去された燃焼排ガス201と、二酸化炭素を主成分とするガス202とに分離される。分離された二酸化炭素を主成分とするガス202は、脱硫設備3に導入される。
【0048】
脱硫設備3においては、まず、二酸化炭素を主成分とするガス202(被処理ガスの例)に対して水素301が添加され、水素を添加した二酸化炭素を主成分とするガス302(水素添加被処理ガスの例)が得られる(水素添加工程の例)。水素を添加した二酸化炭素を主成分とするガス302は、予熱器32で予熱された後、脱硫剤を充填した脱硫器33に導入される。脱硫器33において、水素を添加した二酸化炭素を主成分とするガス302は、銅を含む脱硫剤と接触し、前述の機構により硫黄は硫化銅として脱硫剤に固定される(脱硫工程の例)。従って、脱硫器33から、硫黄酸化物が除去された二酸化炭素を主成分とするガス303が排出される。当該ガス303はメタン化設備4に導入され、メタン化反応に供される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
活性アルミナ(住友化学製KHO-24、3mm球状)40.08gに、硝酸銅3水和物(Cu(NO3)3・3H2O、16.91g)を純水(32g)に溶解した溶液を滴下し、適宜かき混ぜながら3時間含浸させた。これを約80℃の水浴上で蒸発乾固し、さらに110℃の恒温乾燥器で乾燥させ、マッフル炉を用いて空気中300℃で1時間焼成することで、Cu/アルミナ脱硫剤(脱硫剤A)を得た。この脱硫剤は担持された銅を還元した状態において、質量基準で10%の銅を含むものであった。
【0051】
脱硫剤A(10g)を内径14mmのガラス管に充填し、250℃に保って、水素2%を含む水素-窒素混合ガスを毎時60Lの流量で1.5時間流通させて還元を行った。次いで、表1(入口)に示す組成のガスを毎時20Lの流量で流通して1時間後の脱硫剤出口ガスを分析した。分析はガスクロマトグラフを用いて行い、硫化水素、二酸化硫黄、硫化カルボニル(COS)、メタンチオール(CH3SH)についてはFPD検出器、メタンについてはFID検出器、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素についてはTCD検出器で検出した。その結果、二酸化硫黄、硫化水素、硫化カルボニル、メタンチオールのいずれも検出されなかった。水素は0.39%、一酸化炭素は0.11%となった。逆シフト反応により、水素の一部が二酸化炭素と反応して、水及び一酸化炭素を生成したと推測される。また、水素と一酸化炭素との合計濃度は、入口の水素濃度と比較して0.04%(400ppm)低下しており、二酸化硫黄の還元に水素が消費されたものと考えられる。次いで、脱硫剤温度を300℃として1時間後の脱硫剤出口ガスの分析を行ったが、同様に二酸化硫黄、硫化水素、硫化カルボニル、メタンチオールのいずれも検出されなかった。さらに、脱硫剤温度を350℃として、1時間後、21.5時間後、及び22時間後の脱硫剤出口ガスの分析を行ったが、同様に二酸化硫黄、硫化水素、硫化カルボニル、メタンチオールのいずれも検出されず、長時間にわたり安定した脱硫性能が確認された。脱硫剤温度の上昇とともに、脱硫剤出口ガスの一酸化炭素濃度が上昇したが、これは逆シフト反応が温度の上昇とともに平衡的に有利となるためと考えられる。また、いずれの条件でも、脱硫剤出口ガス中にメタンは検出されなかった。
なお、実施例1から実施例3および比較例1から3において、入口および脱硫後のガスの分析結果は、水分を除去した後のドライベースの分析値を、水分を除去する前のウェットベースに換算した値である。
【0052】
【表1】
注:水蒸気はいずれも4%
-:検出されず(検出下限:SO
2 0.3ppb、CH
4 2ppm)
【0053】
(実施例2)
脱硫剤A(10g)を内径14mmのガラス管に充填し、250℃に保って、水素2%を含む水素-窒素混合ガスを毎時60Lの流量で1.5時間流通させて還元を行った。次いで、二酸化硫黄143ppm、水素2.04%、二酸化炭素76.1%、水蒸気4.0%、残部窒素のガスを毎時20Lの流量で流通した。脱硫剤温度を250℃として1時間後、脱硫剤温度を300℃として1時間後、ならびに、脱硫剤温度を350℃として1時間後、21時間後、及び22時間後の脱硫剤出口ガスの分析を行った。脱硫剤温度250℃では、0.02ppmの二酸化硫黄が検出され、除去率は99.99%となったが、それ以外の条件では二酸化硫黄、硫化水素、硫化カルボニル、メタンチオールのいずれも検出されなかった。一酸化炭素濃度は、脱硫剤温度250℃、300℃、及び350℃のそれぞれの場合について、それぞれ0.34%、0.60%、及び0.97%となった。実施例1と比較すると、水素濃度の上昇に応じて生成する一酸化炭素濃度も上昇したものと推測される。
【0054】
(比較例1)
脱硫剤A(10g)を内径14mmのガラス管に充填し、250℃に保って、水素2%を含む水素-窒素混合ガスを毎時60Lの流量で1.5時間流通させて還元を行った。次いで、二酸化硫黄156ppm、二酸化炭素76.3%、水蒸気4.0%、残部窒素のガスを毎時20Lの流量で流通した。脱硫剤温度を250℃として1時間後、脱硫剤温度を300℃として1時間後、ならびに、脱硫剤温度を350℃として1時間後、20時間後、及び21時間後の脱硫剤出口ガスの分析を行った。脱硫剤温度250℃では、0.01ppmの二酸化硫黄が検出されたが、300℃及び350℃(1時間後)では、二酸化硫黄は検出されず、またいずれの条件でも硫化水素、硫化カルボニル、メタンチオールのいずれも検出されなかった。しかし、脱硫剤温度350℃で20時間後には66ppm、21時間後には74ppmの二酸化硫黄が検出された。この試験では、脱硫剤に接触させるガスに水素は含まれていないので、硫黄酸化物の還元は起こらず、金属銅上への硫黄化合物の吸着のみが進行したと推測される。その吸着が破過することにより、短時間で二酸化硫黄が検出されるに至ったと考えられる。
【0055】
(比較例2)
市販のNi-Mo/Al2O3水素化脱硫触媒(日揮触媒化成CDS-LX70N、NiO 4.3%、MoO3 18%、10g)を内径14mmのガラス管に充填し、実施例2と同様にして脱硫性能を評価した。脱硫剤温度が250℃、300℃及び350℃(1時間後)のいずれの場合においても、脱硫剤出口ガスに135~138ppmの二酸化硫黄が検出された。すなわち、二酸化硫黄の除去率は10~12%であった。
【0056】
(比較例3)
市販のCo-Mo/Al2O3水素化脱硫触媒(日揮触媒化成CDS-LX70、CoO 4.3%、MoO3 18%、10g)を内径14mmのガラス管に充填し、実施例2と同様にして脱硫性能を評価した。脱硫剤温度が250℃、300℃及び350℃(1時間後)のいずれの場合においても、有意の二酸化硫黄の除去率は観測されなかった。
【0057】
(実施例3)
市販の酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物成型体(ズードケミー触媒社製、MDC-7、3mmタブレット、CuO:45質量%、ZnO:45質量%、Al2O3:6質量%、10g)を内径14mmのガラス管に充填し、実施例2と同様にして脱硫性能を評価した。脱硫剤温度が250℃、300℃及び350℃(1,21,22時間後)のいずれの場合においても、脱硫剤出口ガスに二酸化硫黄、硫化水素、硫化カルボニル、メタンチオールのいずれも検出されず、長時間にわたり安定した脱硫性能が確認された。なお、いずれの条件でも20~30ppmのメタンが検出され、メタン化反応が進行することが確認されたが、ごくわずかで、安定した脱硫反応の進行に問題となるものではなかった。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同じ手順で調製した脱硫剤A(10g)を内径14mmのガラス管に充填し、250℃に保って、水素2%を含む水素-窒素混合ガスを毎時60Lの流量で1.5時間流通させて還元を行い、さらに当該水素-窒素混合ガスを流通させながら300℃に昇温した。次いで、脱硫剤を300℃に保って、二酸化硫黄151ppm、水素0.56%、二酸化炭素約76%、水蒸気4.0%、残部窒素のガス(ウェットベース)を毎時20Lの流量で流通させ、2時間おきに脱硫剤出口(脱硫後)ガスを分析した。分析は実施例1と同様にガスクロマトグラフを用いて行った。
入口および脱硫後のガスの分析結果(氷冷トラップで水分を除去した後のドライベースでの分析値)を表2に示す。
脱硫試験開始(二酸化硫黄含有ガスの流通開始)から22時間までは、出口ガスに硫黄化合物は検出されなかった。さらに脱硫試験を継続したところ、24時間後に0.04ppmの硫化水素が検出され、26時間後には0.47ppmの硫化水素が検出され、28時間後には1.58ppmの硫化水素に加えて0.03ppmの硫化カルボニルが検出された。
出口ガス中の一酸化炭素濃度は、脱硫試験開始から28時間後まで約0.2%で推移し明確な変化は観察されなかった。
【0059】
【表2】
-:検出されず(検出下限:硫黄化合物 0.3ppb、CH
4 2ppm)
【0060】
(実施例5)
実施例1と同じ手順で調製した脱硫剤A(10g)を内径14mmのガラス管に充填し、250℃に保って、水素2%を含む水素-窒素混合ガスを毎時60Lの流量で1.5時間流通させて還元を行い、さらに当該水素-窒素混合ガスを流通させながら300℃に昇温した。次いで、脱硫剤を300℃に保って、二酸化硫黄148ppm、水素0.55%、二酸化炭素約76%、残部窒素のガス(水蒸気は0%)を毎時20Lの流量で流通し、2時間おきに脱硫剤出口(脱硫後)ガスを分析した。分析は実施例1と同様にガスクロマトグラフを用いて行った。
入口および脱硫後のガスの分析結果(氷冷トラップで水分を除去した後のドライベースでの分析値)を表3に示す。
脱硫試験開始(二酸化硫黄含有ガスの流通開始)から20時間までは、出口ガスに硫黄化合物は検出されなかった。さらに脱硫試験を継続したところ、22時間後に0.60ppmの硫化水素と0.47ppmの硫化カルボニルが検出され、24時間後には1.16ppmの硫化水素と0.70ppmの硫化カルボニルが検出された。
出口ガス中の一酸化炭素濃度は、脱硫試験開始から28時間後まで約0.4%で推移し明確な変化は観察されなかった。
実施例4の結果と比較すると、実施例5では二酸化硫黄を含む被処理ガスに水蒸気が含まれていないため、逆シフト反応が促進され、水素が大きく減少するとともに、一酸化炭素が多く生成したものと推測される。また、硫黄化合物を検出するまでの時間(破過時間)は、実施例4と比較して短くなった。単純な吸着除去であれば、水蒸気は一般的に阻害となると考えられるが、本発明の方法では、水蒸気濃度が低下すると、逆シフト反応が促進され、二酸化硫黄の還元に必要な水素の濃度が低下したことで、破過時間が短くなったと推測される。
【0061】
【表3】
-:検出されず(検出下限:硫黄化合物 0.3ppb、CH
4 2ppm)
【0062】
(実施例6)
実施例3と同じ酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物成型体(10g)を内径14mmのガラス管に充填し、250℃に保って、水素2%を含む水素-窒素混合ガスを毎時60Lの流量で1.5時間流通させて還元を行い、さらに当該水素-窒素混合ガスを流通させながら300℃に昇温した。次いで、脱硫剤を300℃に保って、二酸化硫黄146ppm、水素0.56%、二酸化炭素約76%、水蒸気4.0%、残部窒素のガス(ウェットベース)を毎時20Lの流量で流通させ、2時間おきに脱硫剤出口(脱硫後)ガスを分析した。分析は実施例1と同様にガスクロマトグラフを用いて行った。
入口および脱硫後のガスの分析結果(氷冷トラップで水分を除去した後のドライベースでの分析値)を表4に示す。
脱硫試験開始(二酸化硫黄含有ガスの流通開始)から14時間までは、出口ガスに硫黄化合物は検出されなかった。さらに脱硫試験を継続したところ、16時間後に二酸化硫黄が0.04ppm検出され、18時間後には0.16ppm、20時間後には0.40ppmと二酸化硫黄濃度は増加した。硫化水素および硫化カルボニルのいずれについても、脱硫試験開始から20時間後まで検出されなかった。
実施例4の結果と比較すると、破過までの時間は実施例6のほうがやや短くなった。
【0063】
【表4】
-:検出されず(検出下限:硫黄化合物 0.3ppb、CH
4 2ppm)
【0064】
(実施例7)
実施例3と同じ酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物成型体(10g)を脱硫剤として用い、水蒸気濃度を4.0%から1.0%に変更し、二酸化硫黄濃度を152ppmに変更(ウェットベース)し、水素濃度を0.55%に変更(ウェットベース)したほかは、実施例6と同様にして脱硫性能を評価した。
入口および脱硫後のガスの分析結果(氷冷トラップで水分を除去した後のドライベースでの分析値)を表5に示す。
脱硫試験開始(二酸化硫黄含有ガスの流通開始)から12時間までは、出口ガスに硫黄化合物は検出されなかった。さらに脱硫試験を継続したところ、14時間後に二酸化硫黄が0.05ppm検出され、18時間後には0.32ppmに達した。硫化水素および硫化カルボニルのいずれについても、脱硫試験開始から18時間後まで検出されなかった。実施例6の結果と比較すると、破過までの時間は実施例7のほうがやや短くなった。
【0065】
【表5】
-:検出されず(検出下限:硫黄化合物 0.3ppb、CH
4 2ppm)
【0066】
実施例6の結果と比較すると、実施例7では二酸化硫黄を含む被処理ガスに含まれる水蒸気が相対的に少ないため、逆シフト反応が促進され、水素が大きく減少するとともに、一酸化炭素が多く生成したものと推測される。また、実施例7では、硫黄化合物を検出するまでの時間(破過時間)は、実施例6と比較して短くなった。水蒸気濃度が低下すると、逆シフト反応が促進され、二酸化硫黄の還元に必要な水素の濃度が低下したことで、破過時間が短くなったと推測される。
【0067】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1:火力発電設備
2:二酸化炭素分離設備
3:脱硫設備
4:メタン化設備
31:流量制御弁
32:予熱器
33:脱硫剤を充填した脱硫器
101:含炭素燃料の燃焼排ガス
201:二酸化炭素が除去された燃焼排ガス
202:燃焼排ガスから分離された二酸化炭素を主成分とするガス
301:水素
302:水素を添加した二酸化炭素を主成分とするガス
303:硫黄酸化物が除去された二酸化炭素を主成分とするガス