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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】折板屋根の補強方法および補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04D 3/36 20060101AFI20240122BHJP
   E04G 23/03 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
E04D3/36 P
E04G23/03
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020010511
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021116594
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 信之
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-107127(JP,U)
【文献】特開2013-237998(JP,A)
【文献】特開2016-023467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 3/36
E04G 23/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山部および谷部が交互に形成された折板屋根材と、前記折板屋根材を梁部材に固定する折板固定部材と、を有する折板屋根の補強方法であって、
前記折板屋根材の複数の前記谷部に貫通孔を形成する工程と、
棒状の本体部と、前記本体部の先端部に回転可能に取り付けられた棒状の回転部と、を備え、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略一致する第1の状態と、前記第1の状態から前記回転部が回転し、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略直交して、前記回転部のさらなる回転が阻止された第2の状態と、を取り得る補強材固定部材を準備する工程と、
前記折板屋根材の外表面側から、各前記貫通孔に、前記第1の状態の前記補強材固定部材を前記回転部を先頭にして挿入し、前記回転部が前記梁部材の所定の部分より下側に位置するまで前記補強材固定部材を下方に移動させる工程と、
各前記補強材固定部材の前記回転部を回転させることによって、前記補強材固定部材を前記第2の状態とする工程と、
各前記補強材固定部材を上方に移動させることによって、前記回転部を前記梁部材の前記所定の部分の下面に係合させる工程と、
前記折板屋根材の外表面側において、前記梁部材の延伸方向に並ぶ複数の前記補強材固定部材に、前記折板屋根材の各前記山部の上方に配置された補強用梁部材を固定する工程と、
を備える、折板屋根の補強方法。
【請求項2】
請求項1に記載の折板屋根の補強方法であって、
前記貫通孔を形成する工程は、前記折板屋根材の複数の前記谷部において、上面視で前記梁部材を挟んだ2つの位置に前記貫通孔を形成する工程であり、
前記補強用梁部材を固定する工程は、前記梁部材の延伸方向に並ぶ複数の前記補強材固定部材に一の前記補強用梁部材を固定すると共に、前記梁部材の延伸方向に並ぶ他の複数の前記補強材固定部材に他の前記補強用梁部材を固定する工程である、折板屋根の補強方法。
【請求項3】
請求項2に記載の折板屋根の補強方法であって、さらに、
前記折板屋根材の複数の前記谷部における外表面側において、前記梁部材を挟んだ2つの位置に形成された前記貫通孔に挿通された2つの前記補強材固定部材に、連結部材を固定する工程を備え、
前記補強用梁部材を固定する工程は、前記連結部材を固定する工程の後に実行される、折板屋根の補強方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の折板屋根の補強方法であって、
前記補強材固定部材は、無荷重状態では前記補強材固定部材を前記第2の状態となるように付勢するバネを備える、折板屋根の補強方法。
【請求項5】
山部および谷部が交互に形成された折板屋根材と、前記折板屋根材を梁部材に固定する折板固定部材と、を有する折板屋根の補強構造であって、
棒状の本体部と、前記本体部の先端部に回転可能に取り付けられた棒状の回転部と、を備え、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略一致する第1の状態と、前記第1の状態から前記回転部が回転し、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略直交して、前記回転部のさらなる回転が阻止された第2の状態と、を取り得る複数の補強材固定部材であって、前記第2の状態において前記折板屋根材の複数の前記谷部に形成された貫通孔に挿通されており、前記回転部が前記梁部材の所定の部分の下面に係合している、補強材固定部材と、
前記折板屋根材の外表面側において前記梁部材の延伸方向に並ぶ複数の前記補強材固定部材に固定され、前記折板屋根材の各前記山部の上方に配置された補強用梁部材と、
を備える、折板屋根の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、折板屋根の補強方法および補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の屋根として、山部および谷部が交互に形成された折板屋根材と、折板屋根材を梁部材に固定する折板固定部材(例えば、タイトフレーム)と、を有する折板屋根が広く用いられている。
【0003】
従来、風荷重等の外部荷重による折板屋根の損傷を防止するため、折板屋根の補強方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、特許文献1には、複数の山形のサポート部材を梁部材のフランジにビス留めし、この複数のサポート部材に、折板屋根材の各山部を押さえる補補強用梁部材を固定する補強方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-218529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の折板屋根の補強方法では、補補強用梁部材を固定するための部材(例えば、特許文献1のサポート部材)の引張許容耐力が十分ではなく、折板屋根の補強効果の点で向上の余地がある。
【0006】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される折板屋根の補強方法は、山部および谷部が交互に形成された折板屋根材と、前記折板屋根材を梁部材に固定する折板固定部材と、を有する折板屋根の補強方法であって、前記折板屋根材の複数の前記谷部に貫通孔を形成する工程と、棒状の本体部と、前記本体部の先端部に回転可能に取り付けられた棒状の回転部と、を備え、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略一致する第1の状態と、前記第1の状態から前記回転部が回転し、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略直交して、前記回転部のさらなる回転が阻止された第2の状態と、を取り得る補強材固定部材を準備する工程と、前記折板屋根材の外表面側から、各前記貫通孔に、前記第1の状態の前記補強材固定部材を前記回転部を先頭にして挿入し、前記回転部が前記梁部材の所定の部分より下側に位置するまで前記補強材固定部材を下方に移動させる工程と、各前記補強材固定部材の前記回転部を回転させることによって、前記補強材固定部材を前記第2の状態とする工程と、各前記補強材固定部材を上方に移動させることによって、前記回転部を前記梁部材の前記所定の部分の下面に係合させる工程と、前記折板屋根材の外表面側において、前記梁部材の延伸方向に並ぶ複数の前記補強材固定部材に、前記折板屋根材の各前記山部の上方に配置された補強用梁部材を固定する工程と、を備える。本折板屋根の補強方法では、補強材固定部材の回転部が梁部材の所定の部分の下面に係合した状態で、補強材固定部材に補強用梁部材が固定されることにより、補強用梁部材が梁部材に固定される。そのため、本折板屋根の補強方法によれば、補強用梁部材を固定するための部材を梁部材のフランジにビス留めする従来の構成と比較して、該固定するための部材(補強材固定部材)の引張許容耐力を向上させることができ、ひいては折板屋根の補強効果を向上させることができる。また、本折板屋根の補強方法では、折板屋根上の外部のみから施工できるため、足場の設置を省略することができると共に、建築物等の使用(例えば、工場等の稼働)を継続しながらの施工を実現することができる。
【0009】
(2)上記折板屋根の補強方法において、前記貫通孔を形成する工程は、前記折板屋根材の複数の前記谷部において、上面視で前記梁部材を挟んだ2つの位置に前記貫通孔を形成する工程であり、前記補強用梁部材を固定する工程は、前記梁部材の延伸方向に並ぶ複数の前記補強材固定部材に一の前記補強用梁部材を固定すると共に、前記梁部材の延伸方向に並ぶ他の複数の前記補強材固定部材に他の前記補強用梁部材を固定する工程である構成としてもよい。本折板屋根の補強方法によれば、1つの梁部材に2つの補強用梁部材を強固に固定することができ、折板屋根の補強効果をさらに効果的に向上させることができる。
【0010】
(3)上記折板屋根の補強方法において、さらに、前記折板屋根材の複数の前記谷部における外表面側において、前記梁部材を挟んだ2つの位置に形成された前記貫通孔に挿通された2つの前記補強材固定部材に、連結部材を固定する工程を備え、前記補強用梁部材を固定する工程は、前記連結部材を固定する工程の後に実行される構成としてもよい。本折板屋根の補強方法によれば、2つの補強材固定部材を連結部材に連結することによって、補強材固定部材の回転部と梁部材との係合が外れることを防止することができ、折板屋根の補強効果を極めて効果的に向上させることができる。
【0011】
(4)本明細書に開示される折板屋根の補強構造は、山部および谷部が交互に形成された折板屋根材と、前記折板屋根材を梁部材に固定する折板固定部材と、を有する折板屋根の補強構造であって、棒状の本体部と、前記本体部の先端部に回転可能に取り付けられた棒状の回転部と、を備え、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略一致する第1の状態と、前記第1の状態から前記回転部が回転し、前記回転部の延伸方向が前記本体部の延伸方向と略直交して、前記回転部のさらなる回転が阻止された第2の状態と、を取り得る複数の補強材固定部材であって、前記第2の状態において前記折板屋根材の複数の前記谷部に形成された貫通孔に挿通されており、前記回転部が前記梁部材の所定の部分の下面に係合している、補強材固定部材と、前記折板屋根材の外表面側において前記梁部材の延伸方向に並ぶ複数の前記補強材固定部材に固定され、前記折板屋根材の各前記山部の上方に配置された補強用梁部材と、を備える。本折板屋根の補強構造では、補強材固定部材の回転部が梁部材の所定の部分の下面に係合した状態で、補強材固定部材に補強用梁部材が固定されることにより、補強用梁部材が梁部材に固定されている。そのため、本折板屋根の補強構造によれば、補強用梁部材を固定するための部材を梁部材のフランジにビス留めする従来の構成と比較して、該固定するための部材(補強材固定部材)の引張許容耐力を向上させることができ、ひいては折板屋根の補強効果を向上させることができる。
【0012】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、折板屋根の補強方法、建築物の補強方法、折板屋根の補強構造、該補強構造を備える建築物等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態における折板屋根10の補強構造100の構成を示す説明図
図2】本実施形態における折板屋根10の補強構造100の構成を示す説明図
図3】本実施形態における折板屋根10の補強構造100の構成を示す説明図
図4】補強材固定部材20の外観構成を示す説明図
図5】本実施形態における折板屋根10の補強方法を示すフローチャート
図6】本実施形態における折板屋根10の補強方法を概念的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A-1.折板屋根10の補強構造100の構成:
図1から図3は、本実施形態における折板屋根10の補強構造100の構成を示す説明図である。図1には、折板屋根10の補強構造100の平面(上面)構成が示されており、図2には、図1および図3のII-IIの位置における折板屋根10の補強構造100の断面(XZ断面)構成が示されており、図3には、図1および図2のIII-IIIの位置における折板屋根10の補強構造100の断面(YZ断面)構成が示されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。Z軸正方向が上方向であり、Z軸負方向が下方向である。
【0015】
本実施形態の折板屋根10の補強構造100は、建築物等の既存の折板屋根10が風荷重等の外部荷重により損傷することを防止するべく折板屋根10を補強するための構造体である。なお、折板屋根10は、公知のように、山部13および谷部12が交互に形成された折板屋根材11と、折板屋根材11を建築物等の梁部材80に固定する折板固定部材16(例えば、タイトフレーム)と、を有している。本実施形態では、各山部13および各谷部12は、Y軸方向(ただし厳密には屋根勾配に沿って傾いた方向)に延伸しており、かつ、X軸方向に沿って交互に形成されている。また、本実施形態では、折板屋根材11は、2枚の折板の間に断熱材が配置された構成のいわゆるW折板である。また、本実施形態では、梁部材80は、H形鋼である。
【0016】
折板屋根10の補強構造100は、補強材固定部材20と、補強用梁部材30とを備える。
【0017】
補強用梁部材30は、折板屋根材11の各山部13の上方に配置され、折板屋根材11の各山部13を押さえることによって折板屋根材11の損傷(例えば、折板屋根材11の上方への変形)を防止するための部材である。補強用梁部材30としては、任意の形状および材料の部材を使用可能であるが、本実施形態では、山形鋼(アングル)が用いられている。図1に示すように、補強用梁部材30は、梁部材80の延伸方向(すなわち、X軸方向)に平行に配置される。また、本実施形態では、1つの梁部材80につき、2つの補強用梁部材30が設けられている。
【0018】
補強材固定部材20は、補強用梁部材30を梁部材80に固定するための部材であり、例えば金属製の部材である。図4は、補強材固定部材20の外観構成を示す説明図である。図2から図4に示すように、補強材固定部材20は、本体部21と、回転部(ロールプレート部)23と、ストッパー24とを有する。本体部21は、棒状(より詳細には、略円柱状)の部分である。本体部21における一方の端(図4における上端)から所定の範囲の外周面には、ねじが形成されている。回転部23は、本体部21の先端部(図4における下端部)に、軸25を中心に回転可能に取り付けられた棒状(より詳細には、略C字断面柱状)の部分である。
【0019】
補強材固定部材20は、回転部23の延伸方向が本体部21の延伸方向と略一致する状態(後述する図5のB欄に示す状態であり、以下、「閉状態」という。)と、閉状態から回転部23が回転し、回転部23の延伸方向が本体部21の延伸方向と略直交し、回転部23がストッパー24に当接することによって回転部23のさらなる回転が阻止された状態(図4および図5のC欄に示す状態であり、以下、「開状態」という。)と、を取り得る。なお、このような構成の補強材固定部材20は、例えば、あと施工アンカーとして用いられるITハンガー(登録商標)にストッパー24としての金物を溶接することにより作製することができる。開状態は、特許請求の範囲における第1の状態に相当し、閉状態は、特許請求の範囲における第2の状態に相当する。
【0020】
図2および図3に示すように、折板屋根材11の谷部12には貫通孔19が形成されており、補強材固定部材20は、回転部23が下端に位置するような姿勢で、貫通孔19に挿通されている。また、補強材固定部材20は、開状態にあり、回転部23の先端が、梁部材80のフランジ81の下面に係合(接触)している。フランジ81は、特許請求の範囲における所定の部分に相当する。
【0021】
なお、本実施形態では、梁部材80の延伸方向(X軸方向)に沿って、複数の貫通孔19が所定のピッチ(例えば、3m~5mピッチ)で形成されている。すなわち、梁部材80の延伸方向(X軸方向)に沿って、複数の補強材固定部材20が上記所定のピッチで配置されている。また、本実施形態では、図3に示すように、折板屋根材11の谷部12において、上面視で梁部材80を挟んでY軸方向に対向する2つの位置に、貫通孔19が形成されている。すなわち、上面視で梁部材80を挟んでY軸方向に対向する2つの位置に、補強材固定部材20が配置されている。この2つの補強材固定部材20(以下、「補強材固定部材20のペア」という。)の回転部23は、同一の梁部材80のフランジ81の下面に係合している。
【0022】
折板屋根材11の貫通孔19と補強材固定部材20の本体部21との間の隙間(本体部21のねじ山部を含む)には、防水材48が充填されており、さらに、防水材48の上側を覆うように防水シート(または防水材)49が配置されている。防水シート(または防水材)49の材料としては、例えばブチルゴムが用いられる。
【0023】
図2および図3に示すように、補強用梁部材30には、複数の貫通孔36が形成されており、各貫通孔36には、補強材固定部材20の本体部21が挿通されている。この状態で、補強材固定部材20の本体部21にワッシャ53が挿入され、さらにナット54が螺号されることにより、補強材固定部材20を介して補強用梁部材30が梁部材80に固定される。
【0024】
なお、本実施形態における折板屋根10の補強構造100は、さらに連結部材40を備える。連結部材40は、補強材固定部材20のペアを連結するための略平板状の部材であり、例えば金属製の部材である。連結部材40は、折板屋根材11の谷部12の外表面側であって、補強用梁部材30より下方に配置されている。連結部材40には2つの貫通孔46が形成されており、各貫通孔46には、補強材固定部材20のペアを構成する2つの補強材固定部材20の本体部21が挿通されている。この状態で、補強材固定部材20の本体部21にワッシャ51が挿入され、さらにナット52が螺号されることにより、補強材固定部材20を介して連結部材40が梁部材80に固定される。これにより、補強材固定部材20のペアを構成する2つの補強材固定部材20が、連結部材40を介して互いに連結される。
【0025】
A-2.折板屋根10の補強方法:
図5は、本実施形態における折板屋根10の補強方法(補強構造100の製造方法)を示すフローチャートである。また、図6は、本実施形態における折板屋根10の補強方法を概念的に示す説明図である。
【0026】
折板屋根10の補強の際には、はじめに、折板屋根材11の複数の谷部12に貫通孔19を形成する(S110、図6のA欄参照)。なお、本実施形態では、折板屋根材11の複数の谷部12において、上面視で梁部材80を挟んだ2つの位置に貫通孔19が形成される。
【0027】
次に、必要な本数の補強材固定部材20を準備し(S120)、折板屋根材11の外表面側から、各貫通孔19に、閉状態の補強材固定部材20を回転部23を先頭にして挿入し、回転部23が梁部材80のフランジ81より下側に位置するまで補強材固定部材20を下方に移動させる(S130、図6のB欄参照)。
【0028】
次に、各補強材固定部材20の回転部23を回転させることによって、各補強材固定部材20を開状態とする(S140、図6のC欄参照)。なお、補強材固定部材20の回転部23の回転(開状態への移行)は、例えば、補強材固定部材20の本体部21を振動させることにより実現できる。また、無荷重状態では補強材固定部材20が開状態となるようにバネ等で付勢しておき、閉状態の補強材固定部材20の回転部23が折板屋根材11の貫通孔19を通過すると自動的に回転部23が回転して開状態に移行するものとしてもよい。
【0029】
次に、各補強材固定部材20を上方に移動させることによって、回転部23を梁部材80のフランジ81の下面に係合させる(S150、図6のD欄参照)。これにより、補強材固定部材20のさらなる上方への移動が規制される。また、各補強材固定部材20と貫通孔19との間の隙間に、防水材48を充填し、その上に防水シート(または防水材)49を配置する。
【0030】
次に、折板屋根材11の複数の谷部12における外表面側において、梁部材80を挟んだ2つの位置に形成された貫通孔19に挿通された2つの補強材固定部材20(補強材固定部材20のペア)に、連結部材40を固定する(S160、図2および図3参照)。より詳細には、連結部材40に形成された2つの貫通孔46に、補強材固定部材20のペアを構成する2つの補強材固定部材20の本体部21を挿通するようにして連結部材40を設置し、各補強材固定部材20にワッシャ51を取り付け、ナット52を螺号することにより、連結部材40を固定する。
【0031】
次に、折板屋根材11の外表面側において、梁部材80の延伸方向に並ぶ複数の補強材固定部材20に、折板屋根材11の各山部13の上方に配置された補強用梁部材30を固定する(S170、図2および図3参照)。より詳細には、補強用梁部材30に形成された複数の貫通孔36に、補強材固定部材20の本体部21を挿通するようにして補強用梁部材30を設置し、各補強材固定部材20にワッシャ53を取り付け、ナット54を螺号することにより、補強用梁部材30を固定する。なお、本実施形態では、1つの梁部材80に2つの補強用梁部材30が固定される。すなわち、梁部材80の延伸方向に並ぶ複数の補強材固定部材20に一の補強用梁部材30が固定されると共に、該梁部材80の延伸方向に並ぶ他の複数の補強材固定部材20に他の補強用梁部材30が固定される。主として以上の工程により、折板屋根10の補強が実現される。
【0032】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の折板屋根10の補強方法は、山部13および谷部12が交互に形成された折板屋根材11と、折板屋根材11を梁部材80に固定する折板固定部材16と、を有する折板屋根10の補強方法である。折板屋根10の補強方法は、折板屋根材11の複数の谷部12に貫通孔19を形成する工程(S110)と、棒状の本体部21と、本体部21の先端部に回転可能に取り付けられた棒状の回転部23とを備える補強材固定部材20を準備する工程(S120)と、を備える。補強材固定部材20は、回転部23の延伸方向が本体部21の延伸方向と略一致する閉状態と、閉状態から回転部23が回転し、回転部23の延伸方向が本体部21の延伸方向と略直交して、回転部23のさらなる回転が阻止された開状態とを取り得る部材である。また、折板屋根10の補強方法は、折板屋根材11の外表面側から、各貫通孔19に、閉状態の補強材固定部材20を回転部23を先頭にして挿入し、回転部23が梁部材80のフランジ81より下側に位置するまで補強材固定部材20を下方に移動させる工程(S130)と、各補強材固定部材20の回転部23を回転させることによって、補強材固定部材20を開状態とする工程(S140)と、各補強材固定部材20を上方に移動させることによって、回転部23を梁部材80のフランジ81の下面に係合させる工程(S150)とを備える。また、折板屋根10の補強方法は、折板屋根材11の外表面側において、梁部材80の延伸方向に並ぶ複数の補強材固定部材20に、折板屋根材11の各山部13の上方に配置された補強用梁部材30を固定する工程(S170)を備える。
【0033】
このように、本実施形態の折板屋根10の補強方法では、補強材固定部材20の回転部23が梁部材80のフランジ81の下面に係合した状態で、補強材固定部材20に補強用梁部材30が固定されることにより、補強用梁部材30が梁部材80に固定される。そのため、補強用梁部材30を固定するための部材を梁部材80のフランジ81にビス留めする従来の構成と比較して、該固定するための部材(本実施形態では補強材固定部材20)の引張許容耐力を向上させることができ、ひいては補強構造100による折板屋根10の補強効果を向上させることができる。また、本実施形態の折板屋根10の補強方法では、折板屋根10上の外部のみから施工できるため、足場の設置を省略することができると共に、建築物等の使用(例えば、工場等の稼働)を継続しながらの施工を実現することができる。
【0034】
また、本実施形態の折板屋根10の補強方法では、折板屋根材11に貫通孔19を形成する工程(S110)は、折板屋根材11の複数の谷部12において、上面視で梁部材80を挟んだ2つの位置に貫通孔19を形成する工程であり、補強用梁部材30を固定する工程(S170)は、梁部材80の延伸方向に並ぶ複数の補強材固定部材20に一の補強用梁部材30を固定すると共に、梁部材80の延伸方向に並ぶ他の複数の補強材固定部材20に他の補強用梁部材30を固定する工程である。そのため、本実施形態の折板屋根10の補強方法では、1つの梁部材80に2つの補強用梁部材30を強固に固定することができ、補強構造100による折板屋根10の補強効果をさらに効果的に向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態の折板屋根10の補強方法は、さらに、折板屋根材11の複数の谷部12における外表面側において、梁部材80を挟んだ2つの位置に形成された貫通孔19に挿通された2つの補強材固定部材20に、連結部材40を固定する工程(S160)を備え、補強用梁部材30を固定する工程(S170)は、連結部材40を固定する工程(S160)の後に実行される。そのため、本実施形態の折板屋根10の補強方法では、2つの補強材固定部材20を連結部材40に連結することによって、補強材固定部材20の回転部23と梁部材80との係合が外れることを防止することができ、補強構造100による折板屋根10の補強効果を極めて効果的に向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態の折板屋根10の補強構造100は、山部13および谷部12が交互に形成された折板屋根材11と、折板屋根材11を梁部材80に固定する折板固定部材16と、を有する折板屋根10を補強するための構造体である。折板屋根10の補強構造100は、補強材固定部材20と補強用梁部材30とを備える。補強材固定部材20は、棒状の本体部21と、本体部21の先端部に回転可能に取り付けられた棒状の回転部23とを備える。補強材固定部材20は、回転部23の延伸方向が本体部21の延伸方向と略一致する閉状態と、閉状態から回転部23が回転し、回転部23の延伸方向が本体部21の延伸方向と略直交して、回転部23のさらなる回転が阻止された開状態とを取り得る部材である。補強材固定部材20は、開状態において折板屋根材11の複数の谷部12に形成された貫通孔19に挿通されており、回転部23が梁部材80のフランジ81の下面に係合している。補強用梁部材30は、折板屋根材11の外表面側において梁部材80の延伸方向に並ぶ複数の補強材固定部材20に固定され、折板屋根材11の各山部13の上方に配置されている。このように、本実施形態の折板屋根10の補強構造100では、補強材固定部材20の回転部23が梁部材80のフランジ81の下面に係合した状態で、補強材固定部材20に補強用梁部材30が固定されることにより、補強用梁部材30が梁部材80に固定されている。そのため、本実施形態の折板屋根10の補強構造100によれば、補強用梁部材30を固定するための部材を梁部材80のフランジ81にビス留めする従来の構成と比較して、該固定するための部材(本実施形態では補強材固定部材20)の引張許容耐力を向上させることができ、ひいては補強構造100による折板屋根10の補強効果を向上させることができる。
【0037】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0038】
上記実施形態における折板屋根10の補強構造100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態の補強構造100では、1つの梁部材80に2つの補強用梁部材30が固定されているが、1つの梁部材80に1つの補強用梁部材30が固定されるとしてもよい。また、上記実施形態の補強構造100は、連結部材40を備えているが、連結部材40を省略してもよい。また、上記実施形態の補強構造100を構成する各部の形状や材料は、種々変形可能である。
【0039】
また、上記実施形態における折板屋根10の補強方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、補強材固定部材20に連結部材40を固定する工程を備えるが、該工程を省略してもよい。
【符号の説明】
【0040】
10:折板屋根 11:折板屋根材 12:谷部 13:山部 16:折板固定部材 19:貫通孔 20:補強材固定部材 21:本体部 23:回転部 24:ストッパー 25:軸 30:補強用梁部材 36:貫通孔 40:連結部材 46:貫通孔 48:防水材 49:防水シート(または防水材) 51:ワッシャ 52:ナット 53:ワッシャ 54:ナット 80:梁部材 81:フランジ 100:補強構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6