(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】加温浄化の解析方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/10 20060101AFI20240122BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20240122BHJP
B09C 1/06 20060101ALI20240122BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B09C1/10
G01N33/24 Z
B09C1/06
B09C1/02
(21)【出願番号】P 2020016481
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 薫
(72)【発明者】
【氏名】奥田 信康
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐二
(72)【発明者】
【氏名】中島 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】古川 靖英
(72)【発明者】
【氏名】舟川 将史
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154073(JP,A)
【文献】特開2006-116509(JP,A)
【文献】特開2002-119951(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043508(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0232347(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/10
G01N 33/24
C02F 3/00
B09C 1/06
B09C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の内部に温水を注水して前記地盤を加温し、前記地盤の内部に存在する分解微生物によって浄化対象物質を分解することにより前記地盤の内部の地下水における前記浄化対象物質の濃度を低下させる土壌浄化の効果を評価する
にあたり、
加温された前記地盤の内部において土壌に吸着した前記浄化対象物質が前記地下水へ溶出する時間当たりの溶出量と、加温された前記分解微生物が前記浄化対象物質を分解する時間当たりの分解量と、を含めて前記地下水における前記浄化対象物質の濃度の時間変化を演算する加温浄化の解析方法
であって、
加温された地盤内の温度をT、土壌浄化を開始した際の地盤内の温度をT
0
、分配係数K
d
の温度補正係数をb、減衰係数λの温度補正係数をaとしたときに、前記溶出量は関数b(T-T
0
)により算出されると共に、前記分解量は関数a(T-T
0
)により算出され、前記溶出量の関数における分配係数K
d
の温度補正係数bおよび前記分解量の関数における減衰係数λの温度補正係数aは、室内試験によって求められる加温浄化の解析方法。
【請求項2】
地盤の内部に温水を注水して前記地盤を加温し、前記地盤の内部に存在する分解微生物によって浄化対象物質を分解することにより前記地盤の内部の地下水における前記浄化対象物質の濃度を低下させる土壌浄化の効果を評価するにあたり、
加温された前記地盤の内部において土壌に吸着した前記浄化対象物質が前記地下水へ溶出する時間当たりの溶出量と、加温された前記分解微生物が前記浄化対象物質を分解する時間当たりの分解量と、を含めて前記地下水における前記浄化対象物質の濃度の時間変化を演算する加温浄化の解析方法であって、
水に溶けた汚染物質の濃度をc、は土粒子の密度をρs、加温された地盤内の温度をT、土壌浄化を開始した際の地盤内の温度をT
0
、分配係数をK
d
、分配係数K
d
の温度補正係数をb、有効間隙率をn、分散と拡散の効果を表す分散拡散係数をD、土壌内の流速をv、減衰係数をλ、減衰係数λの温度補正係数をa、時間を表す変数をt、空間を表す変数をxとしたときに、前記分配係数K
d
の温度補正係数bおよび前記減衰係数λの温度補正係数aを室内試験によって求め、
【数1】
上記の移流分散方程式により前記地下水における前記浄化対象物質の濃度の時間変化を演算する加温浄化の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温浄化の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予備試験の結果に適合するようにパラメータ値を決定したシミュレーション解析により浄化対象物の濃度及び分解微生物の濃度の経時変化を予測し、これに基づいて土壌・地下水の浄化を行う土壌・地下水の浄化方法及び浄化効果予測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
土壌浄化は、一般的には所定の期間を要する。このため、例えば、地盤内を加温することにより分解微生物を活性化し、浄化対象物質の分解速度を向上することにより土壌浄化に要する期間を短縮できる土壌浄化方法が適用される場合がある。しかしながら、特許文献1に記載されたような浄化効果予測方法では、このような加温による効果を評価することができない。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、地盤内を加温して土壌浄化を行う加温浄化において加温の効果を定量的に評価できる加温浄化の解析方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様の加温浄化の解析方法は、地盤の内部に温水を注水して前記地盤を加温し、前記地盤の内部に存在する分解微生物によって浄化対象物質を分解することにより前記地盤の内部の地下水における前記浄化対象物質の濃度を低下させる土壌浄化の効果を評価するために用いられ、加温された前記地盤の内部において土壌に吸着した前記浄化対象物質が前記地下水へ溶出する時間当たりの溶出量と、加温された前記分解微生物が前記浄化対象物質を分解する時間当たりの分解量と、を含めて前記地下水における前記浄化対象物質の濃度の時間変化を演算する。
【0007】
第1態様の加温浄化の解析方法によれば、加温された地盤の内部において土壌に吸着した浄化対象物質が地下水へ溶出する時間当たりの溶出量と加温された分解微生物が浄化対象物質を分解する時間当たりの分解量を含めて地下水における浄化対象物質の濃度の時間変化を定量的に演算することができる。このため、加温による土壌浄化の完了時間を推定することができる。これにより、土壌浄化を行うための設備を効率的かつ無駄なく配置できると共に、設備の運用条件を適切に設定することができるため土壌浄化に係る工数と費用を削減することができる。
【0008】
第2態様の加温浄化の解析方法は、第1態様の加温浄化の解析方法において、前記溶出量は前記地盤の内部の温度に比例する項を含む関数により算出されると共に、前記分解量は前記地盤の内部の温度に比例する項を含む関数により算出され、前記溶出量の関数における前記地盤の内部の温度に比例する項の第1比例定数と前記分解量の関数における前記地盤の内部の温度に比例する項の第2比例定数は、室内試験によって求められる。
【0009】
第2態様の加温浄化の解析方法によれば、第1比例係数と第2比例係数を室内試験により求めることができる。このため、温水における浄化対象物質の濃度の時間変化を精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明に係る加温浄化の解析方法は、地盤内を加温して土壌浄化を行う加温浄化において加温の効果を定量的に評価できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る加温浄化の解析方法を実行するための解析システムのブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る加温浄化の効果を評価する対象となる汚染土壌浄化システムであり、(A)は平面図、(B)は縦断面図を表す。
【
図3】本実施形態に係る通気試験を行うための通気試験装置の構成図である。
【
図4】本実施形態に係る培養試験を行うためのボトルの正面図である。
【
図5】本実施形態に係る加温浄化の解析方法により算出された汚染土壌に温水を通過させた場合の汚染物質の濃度と分析データとの比較例である。
【
図6】本実施形態に係る加温浄化の解析方法により算出された汚染土壌を一定温度に加温した場合の汚染物質の濃度と分析データとの比較例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、
図1~
図6を用いて本発明に係る加温浄化の解析方法を適用した解析システム10の一実施形態について説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係る加温浄化の解析方法を実行するための解析システム10のハードウェア構成を示すブロック図が示されている。解析システム10は、CPU(Central Processing Unit : プロセッサ)12と、ROM(Read Only Memory)14と、RAM(Random Access Memory)16と、ストレージ18と、ユーザインタフェース20と、を含んで構成されている。各構成は、バス22を介して相互に通信可能に接続されている。
【0014】
CPU12は、中央演算処理ユニットであり、解析システム10に格納されているプログラムを実行し、解析システム10の各構成部分を制御する。具体的には、CPU12は、ROM14又はストレージ18からプログラムを読み出し、RAM16を作業領域としてプログラムを実行する。また、CPU12は、ROM14又はストレージ18に格納されているプログラムに従って、解析システム10の演算処理を行う。本実施形態では、ROM14又はストレージ18には、加温浄化の解析を行う解析プログラム(図示省略)が格納されている。
【0015】
ROM14は、解析プログラムおよび各種データを格納する。RAM16は、作業領域として一時的に解析プログラム又はデータを記憶する。ストレージ18は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含むプログラム及びデータを格納する。
【0016】
ユーザインタフェース20は、後述する汚染土壌浄化システム30(
図2参照)に係る地下土壌32の内部や地下水WGの観測データを入力データすると共に解析結果を出力データとする入出力手段である。ユーザインタフェース20は、CPU12に接続され、キーボードから汚染土壌浄化システム30についての入力データを取得し、出力データを保存するためのインターフェイス等を含んで構成されている。また、ユーザインタフェース20は、ディスプレイやプリンタ等を含んで構成されている。
【0017】
なお、本実施形態では、ストレージ18は、解析システム10に内蔵されているとしたが、これに限らず、解析システム10に外部接続されたものであってもよい。また、ストレージ18は一台に限らず複数台設けられてもよい。
【0018】
(汚染土壌浄化システム)
図2(A)及び(B)には、解析システム10による加温浄化の評価の対象とされる汚染土壌浄化システム30が示されている。汚染土壌浄化システム30とは、地盤としての地下土壌32内に含まれる浄化対象物質としての汚染物質を分解し、浄化するためのシステムである。汚染土壌浄化システム30は、地下土壌32に配設された揚水井戸34及び注水井戸36と、注水井戸36から注水する水を加温する図示しない加温装置を含んで構成されている。
【0019】
(汚染土壌)
地下土壌32は、地表面GSよりも下方側の土壌であり、砂を含んで形成されると共に地下水WGが流れる帯水層32Aと、帯水層32Aの下方側(地下側)を形成し、地下水WGが流れない粘土層(不透水層)32Bと、帯水層32Aの上方側(地上側)を形成する地層32Cと、を含んで構成されている。地下土壌32のうち、汚染物質が基準値(例えば、汚染物質の種類毎に規定された値)以上含まれている部分を、汚染土壌Eと称する。ここで、「汚染物質」とは、例えば、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレン、クロロエチレン、塩化ビニルモノマー、ベンゼン等の有機物、シアン等の無機化合物、及びガソリンや軽油等の鉱油類を含む概念である。
【0020】
図2には、地下水位Hが一点鎖線で示されると共に、地下土壌32内における地下水WGの流れWFの向きが破線の矢印で示されている。ここでの地下水WGの流れWFとは、注水井戸36から地下土壌32へ注水され、揚水井戸34から地下水WGを回収(揚水)することにより発生する流れを表す。
【0021】
(遮水壁)
汚染土壌Eの外側の地下土壌32には、汚染土壌Eを囲むように下端が粘土層32Bまで根入れされたソイルセメント製の遮水壁38が配置されている。このため、汚染土壌Eは遮水壁38と粘土層32Bに囲まれることとなり、汚染物質が遮水壁38の外側の地下土壌32へ流出することを抑制することができる。具体的には、遮水壁38の外側の地下土壌32における地下水WGの流れと汚染土壌Eの内部における地下水WGの流れWFとを遮断し、地下土壌32における地下水WGが汚染土壌Eの外側の地下土壌32に影響を及ぼさないように構成されている。
【0022】
(揚水井戸)
汚染土壌Eと遮水壁38との間に、地下土壌32から地下水WGを揚水する1本又は複数本の揚水井戸34が配置されている(
図2中には1本図示されている)。また、揚水井戸34は、例えば、塩化ビニール管や鋼管等により構成され、帯水層32Aに配置する部位に地下水WGを取水するための孔またはスリットによって形成されたスクリーン(図示省略)を備えており、スクリーンは、浄化対象の帯水層32Aに対して設置されている。このため、帯水層32Aの地下水WGを揚水井戸34内に流入させることができる。ここで、揚水井戸34による揚水の具体的な方法や揚水井戸34の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0023】
揚水井戸34は、地上GLまで延在され、内部にはポンプ40が配置されている。このため、揚水井戸34に貯水された地下水WGは、ポンプ40により地上GLの浄化装置(図示省略)へ送られる。
【0024】
(注水井戸)
汚染土壌Eと揚水井戸34から離れた側の遮水壁38との間に、揚水された地下水WG又は水道水、蒸留水、汚染物質の水溶液(以下、水等と称する)を地下土壌32にポンプ40を用いて注水する1本又は複数本の注水井戸36(
図2中には1本図示されている)が配置されている。注水井戸36は、浄化対象の帯水層32Aに到達するように地下土壌32に埋設されている。また、注水井戸36は、例えば、塩化ビニール管や鋼管等により構成され、帯水層32Aに配置する部位に地下水WG又は水等を流出させるための孔またはスリットによって形成されたスクリーン(図示省略)を備えている。また、揚水された地下水WG又は水等は、ヒーター等を備えた加温装置により加温された温水HWとして地下土壌32に注水される。このため、注水井戸36から帯水層32Aへ加温された地下水WG又は水等を流出させることができる。これにより、地下土壌32内を加温し、汚染物質を生物分解する分解微生物MCの増殖を促進すると共に分解微生物MCの活性を向上することができる。ここで、注水井戸36の形状、サイズ等については公知であるため、詳細な説明を省略する。なお、加温装置により加温された地下水WG又は水等には、加温された上で栄養剤や微生物活性剤が添加されてもよい。さらに、水等には、栄養剤や蛍光センサーが混合されてもよい。
【0025】
(移流分散方程式)
解析システム10は、例えば、汚染土壌浄化システム30に基づき設定された初期条件や境界条件(例えば、井戸の配置、注水量及び揚水量等)について移流分散方程式を演算することにより地下土壌32の内部における汚染物質の地下水WGに対する濃度の時間変化を求める(算出する)。これにより、地下土壌32の浄化の効果を評価することができる。地下水WG(溶媒)に溶解している汚染物質(溶質)の挙動は、主に(1)移流、(2)分散、(3)拡散、(4)吸着(遅延)、(5)分解(減衰反応)の組み合わせで表現することができる。
(1)移流:地下水WGの移動により、地下水WGに溶けた汚染物質(化学物質)も一緒に移動する現象である。
(2)分散:地下水WGに溶解した汚染物質が汚染土壌32の内部を移動する際に、汚染土壌32の内部の間隙のミクロな分岐によって地下水WGの流速が不均質になる。このため、例えば、地下水WGが地盤内の異なる地点に到達したり、同じ地点に早く又は遅く到達したりする。これにより、物質の移動速度が地盤内で一律(一様)ではなくなると共に水に溶けた化学物質の濃度も一律でなくなるため地盤内で分布を生じる現象である。
(3)拡散:化学物質の分子のブラウン運動により拡散していくことにより水に溶けている化学物質の濃度が地盤内で分布を生じる現象である。
(4)吸着(遅延):水に溶けた化学物質の分子が地盤内において土壌の表面あるいは土壌粒子内部間隙に取り込まれる(吸着する)現象をいう。一旦吸着された化学物質の分子が、再び地下水中に放出される現象は脱離という。化学物質が地下水の流れにのって地盤中を移動する場合、吸着作用があれば、吸着が無い場合よりも化学物質の下流への到達時間は遅くなる。このため、吸着は遅延の効果として現れる。
(5)分解:地盤中において地下水に溶解している化学物質が、例えば、分解微生物MCにより別の物質へ分解されることにより水に溶けた化学物質の濃度が変化する現象(減衰現象)である。
移流、分散、拡散、吸着(遅延)及び分解(減衰反応)の組み合わせにより表現される移流分散方程式は、一般的には次式のように表すことができる。
【0026】
【0027】
【0028】
ここで、cは水に溶けた汚染物質の濃度、Rは吸着の効果を表す吸着(遅延)係数、Dは分散と拡散の効果を表す分散拡散係数、vは土壌内の流速、λは減衰係数、ρsは土粒子の密度、Kdは分配係数、nは有効間隙率を表す。また、tは時間を表す変数、xは空間を表す変数である。
【0029】
本実施形態に係る汚染土壌浄化システム30では、土壌浄化において汚染土壌32の内部と地下水WGとを加温する。このため、土壌浄化の効果を評価するための解析を移流分散方程式に加温することによる吸着と分解への影響を表現する項を加えて定式化を行っている。これらの項は地盤内の温度の関数として各々表すことができ、移流分散方程式は次式のように表すことができる。
【0030】
【0031】
さらに、(3)式を(1)式と同様の表記に書き換えると次式のように表される。
【0032】
【0033】
(3)式の左辺において吸着の効果を表す吸着係数Rを構成する分配係数Kdには、地盤内の温度Tに比例する項を含む関数b(T-T0)が追加されている。これにより、加温された地下土壌32の内部において地下土壌32に吸着した汚染物質が地下水WGへ溶出する時間当たりの溶出量を表すことができる。また、(3)式の右辺において分解の効果を表す減衰係数λには、地盤内の温度Tに比例する項を含む関数a(T-T0)が追加されている。これにより、加温された分解微生物MCが汚染物質を分解する時間当たりの分解量を表すことができる。ここで、R1は温度影響を考慮した吸着(遅延)係数、bは第1比例定数としての分配係数Kdの温度補正係数、Tは加温された地盤内の温度、T0は土壌浄化を開始した際の地盤内の温度、λ1 は温度影響を考慮した減衰係数、aは第2比例定数としての減衰係数λの温度補正係数を表す。
【0034】
(分配係数の温度補正係数)
図3には、浄化対象区域における汚染されていない(汚染物質を含まない)の地下土壌32に汚染物質を含有するガスGGを通気させるための通気試験装置42が示されている。分配係数K
dを温度補正するための温度補正係数bは、一定温度に保たれた実験室内(恒温室内)において複数の温度条件下の通気試験に基づいて算出することができる。通気試験では浄化対象区域における汚染されていない(汚染物質を含まない)の地下土壌32が充填された複数のカラム44に汚染物質を気化したガスGGを数日以上通気する。これにより、汚染土壌Eを模擬し、当該汚染土壌Eの吸着係数R(分配係数K
d)を算出することができる。ここでは、複数の温度条件下で通気試験を行うことにより温度変化が分配係数K
dに及ぼす影響(温度依存性)を測定し、温度補正係数bを算出する。
【0035】
通気試験では、はじめに、空気精製用のカラム46を経由してガス発生装置48に流入した空気と気化した汚染物質をガス発生装置48において混合することによりガスGGを生成する。次に、生成したガスGGを純水PWが注入された容器CO1とガスGGの流れを整流するためのガラスビーズ(図示省略)が注入された容器CO2を経由させてカラム44に数日以上通気する。カラム44に通気されたガスGGは、排ガス処理用のカラム50を通過(通気)して処理される。
【0036】
分配係数Kdを温度補正するための温度補正係数bは、以下のようにして算出することができる。初めに、ガス採取口52からカラム44を通過したガスGGを採取して平衡気相濃度CGを測定する。平衡気相濃度CGから気液平衡関係を用いて地下土壌32の土壌間隙水中の平衡水相濃度CWを算出する。平衡気相濃度CGと平衡水相濃度CWの気液平衡関係は、CW=HGW/CGで表される。ここで、HGWは、いわゆるヘンリー定数であり、汚染物質毎に設定されている。
【0037】
次に、カラム44から取り出した地下土壌32をガスクロマトグラフ質量分析法によって分析し、地下土壌32中に定着している(残留している)汚染物質の総量Mhを測定する。また、地下土壌32の乾燥重量Wsdryと湿潤重量Wsを測定し、湿潤重量Wsと乾燥重量Wsdryの差から土壌間隙水体積Vwを算出する。さらに、いわゆる、土壌間隙水の水相と土壌相との物質収支式Mh=CW×Vw+CSW×Wsdryから、土壌吸着量CSWを算出する。
【0038】
最後に、平衡水相濃度CWと土壌吸着量CSWの間にはヘンリー型の吸着等温式に基づく比例関係が成り立つことを前提として吸着平衡定数HSW(=CS/CSW)を算出する。ここで、吸着平衡定数HSWは、(2)式の分配係数Kdと等価な値となる。このように、平衡水相濃度CWと土壌吸着量CSWを算出し、吸着平衡定数HSWを算出する工程を複数の温度状態(恒温室の温度を変えた状態)で行う。吸着平衡定数HSWは温度依存性を有しているため、温度状態により変化する。ここで、複数の温度状態において算出された吸着平衡定数HSWは、(3)式の温度影響を考慮した分配係数{b(T-T0)+Kd}と等価な値となる。このため、吸着平衡定数HSWと温度との関係(傾き)から分配係数Kdの温度補正係数bを算出することができる。
【0039】
(減衰係数の温度補正係数)
減衰係数を温度補正するための温度補正係数aは、実験室内において複数の温度条件下の培養試験に基づいて算出することができる。培養試験は、汚染物質が複数種類ある場合は、汚染物質毎に行われる。
図4には、分解微生物MCを培養するための試験用容器54が内部に配置された密閉式のボトル56が示されている。試験用容器54には、培地溶液と分解微生物が集積された培養液の混合溶液58が注入されると共に浄化対象とする汚染物質が培養液の混合溶液58に対する所定の濃度(例えば、1mg/L程度)で添加される。汚染物質を添加した混合溶液58が注入された試験用容器54は、図示しない培養ガス濃度調節剤と共にボトル56の内部に配置される。さらに、ボトル56は、例えば、図示しないインキュベータ内に配置されて混合溶液58が一定温度となるように管理される。
【0040】
インキュベータにより温度管理されている試験用容器54から定期的に混合溶液58を採取して汚染物質の濃度の時間変化を測定する。定期的に測定した濃度と経過時間の関係から分解微生物MCによる汚染物質の分解速度(傾き)を算出することができる。このように分解速度を算出するための培養試験を複数の温度条件で行うことにより、分解微生物MCの分解速度と温度の関係(温度依存性)を測定することができ、温度補正係数aを当該関係(温度依存性)に基づき算出することができる。
【0041】
(作用並びに効果)
次に、本実施形態に係る加温浄化の解析方法を適用した解析システム10の作用並びに効果について説明する。
【0042】
本実施形態に係る解析システム10によれば、
図5に示されるように、汚染土壌Eに温水HWを通過させることによる汚染物質の濃度DS(図中の実線)の時間変化を算出することができる。
図5は、縦軸が濃度DS、横軸が時間(期間)を表す時系列データである。また、
図5には、採水した地下水WGを分析した濃度DSの分析データ(図中の黒丸印)と加温の影響を含めない(温度補正係数bを含めない)分配係数K
dを用いた解析により算出された濃度DS(図中の点線)が同じく図示されている。分配係数K
dに温度補正係数bを含めた解析結果の方が加温の影響を含めない解析よりも分析データをよく説明できており、加温の効果を定量的に評価できることがわかる。
【0043】
また、本実施形態に係る解析システム10によれば、
図6に示されるように、汚染土壌Eを一定の温度を維持するように加温した状態での汚染物質の濃度DS(図中の実線)の時間変化を算出することができる。
図6は、縦軸が濃度DS、横軸が時間(期間)を表す時系列データである。また、
図6には、採水した地下水WGを分析した濃度DSの分析データ(図中の黒丸印)と加温の影響を含めない(温度補正係数aを含めない)分配係数K
dを用いた解析により算出された濃度DS(図中の点線)が同じく図示されている。分配係数K
dに温度補正係数aを含めた解析結果の方が加温の影響を含めない解析よりも分析データをよく説明できており、加温の効果を定量的に評価できることがわかる。
【0044】
本実施形態に係る解析システム10によれば、加温された地下土壌32の内部において地下土壌32に吸着した汚染物質が地下水WGへ溶出する時間当たりの溶出量と加温された分解微生物MCが汚染物質を分解する時間当たりの分解量を含めて地下水WGにおける汚染物質の濃度の時間変化を定量的に算出することができる。このため、加温による土壌浄化の完了時間を推定することができる。これにより、土壌浄化を行うための設備を効率的かつ無駄なく配置できると共に、土壌浄化を行うための設備の運用条件を適切に設定することができるため土壌浄化に係る工数と費用を削減することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る解析システム10によれば、分配係数を温度補正するための温度補正係数bと減衰係数を温度補正するための温度補正係数aを室内試験により求めることができる。このため、温水における汚染物質の濃度の時間変化を精度よく推定することができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る加温浄化の解析方法を適用した解析システム10は、地下土壌32内を加温して土壌浄化を行う加温浄化において加温の効果を定量的に評価することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において実施し得ることは勿論である。
【0048】
なお、本実施形態では、加温浄化の解析は、上記(3)式で表される移流分散方程式を解析するとして説明したが、これに限らず、例えば、(1)式や(3)式に注水に分解微生物を添加することによる影響等を表した項が付加された支配方程式が解析されてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 解析システム(加温浄化の解析方法)
32 地下土壌(地盤)
a 減衰係数の温度補正係数(第2比例定数)
b 分配係数の温度補正係数(第1比例定数)
HW 温水
MC 分解微生物
T 温度
WG 地下水